説明

磨耗に対する耐性を増強するコーティング

【課題】医療デバイス、およびこの医療デバイス上に使用するために適切なコーティングを提供すること。
【解決手段】本発明によって提供されるコーティングされた医療デバイスは、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに、該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリエーテルベースのポリウレタンを含有するコーティングを備え、該ポリエーテルベースのポリウレタンは、溶液中で約1重量%〜約10重量%の濃度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2009年10月5日に出願された米国仮出願番号61/248,614の利益および優先権を主張する。この米国仮出願の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(背景)
本開示は、医療デバイス(ある実施形態においては、フィラメントから形成された縫合糸またはデバイス)の、磨耗および切断(これらは、このデバイスの、損傷部位および/またはインサイチュへの適用中に形成され得る)に対する耐性を増強し得るコーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
縫合糸(コーティングされた縫合糸を含む)は、当業者の知識の範囲内である。使用において、縫合糸は、鋭利な縁部(例えば、砕けたかまたは骨折した骨の縁部、ねじ、板の縁部、アンカーの穴など)に曝露され得、そして鋭利または擦過性の縁部を有し得る結び目プッシャーで操作され得る。
【0004】
縫合糸を形成するために使用されるフィラメントは、同様に、他のデバイス(メッシュが挙げられる)を形成するために使用され得る。これらの医療デバイスもまた、鋭利な縁部との接触の際に擦過または切断され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、外科手術手順において使用するための、磨耗および切断に対する高い耐性を有する医療デバイスが、依然として望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに
該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリエーテルベースのポリウレタンを含有するコーティング、
を備える、コーティングされた医療デバイスであって、該ポリエーテルベースのポリウレタンは、溶液中で約1重量%〜約10重量%の濃度である、コーティングされた医療デバイス。
(項目2)
上記ポリエーテルベースのポリウレタンが、溶液中で約2重量%〜約6重量%の濃度である、上記項目に記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目3)
上記ポリエーテルベースのポリウレタンが、溶液中で約2.5重量%〜約5重量%の濃度である、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目4)
上記生体吸収性フィラメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびこれらの組み合わせをさらに含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目5)
上記フィラメントが、グリコリド−ラクチドコポリマーを含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目6)
上記ポリウレタンが、脂肪族ポリエーテルベースの熱可塑性ポリウレタンを含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目7)
上記溶液が、ヘキサン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される溶媒を含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目8)
上記医療デバイスが、破損まで約11サイクル〜約480サイクルの平均疲労を有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目9)
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに
該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、2部分シリコーンを含有するコーティング、
を備える、コーティングされた医療デバイスであって、該2部分シリコーンは、溶液中で約1重量%〜約30重量%の濃度である、コーティングされた医療デバイス。
(項目10)
上記生体吸収性フィラメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびこれらの組み合わせをさらに含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目11)
上記フィラメントが、グリコリド−ラクチドコポリマーを含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目12)
上記溶液が、ヘキサン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される溶媒を含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目13)
上記コーティングされた医療デバイスが、破損まで約173サイクル〜約415サイクルの平均疲労を有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目14)
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに
該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリエチレン蝋を含有するコーティング、
を備える、コーティングされた医療デバイスであって、該ポリエチレン蝋は、溶液中で約10重量%〜約30重量%の濃度である、コーティングされた医療デバイス。
(項目15)
上記医療デバイスが、破損まで約150サイクル〜約450サイクルの平均疲労を有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目16)
上記生体吸収性フィラメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびこれらの組み合わせをさらに含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目17)
上記フィラメントが、グリコリド−ラクチドコポリマーを含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目18)
上記溶液が、ヘキサン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される溶媒を含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目19)
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに
該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリブチレンアジペートを含有するコーティング、
を備える、コーティングされた医療デバイスであって、該ポリブチレンアジペートは、溶液中で約1重量%〜約10重量%の濃度である、コーティングされた医療デバイス。
(項目20)
上記医療デバイスが、破損まで約271サイクル〜約470サイクルの平均疲労を有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目21)
上記生体吸収性フィラメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびこれらの組み合わせをさらに含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目22)
上記生体吸収性フィラメントが、グリコリド−ラクチドコポリマーを含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
(項目23)
上記溶液が、ヘキサン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される溶媒を含有する、上記項目のいずれかに記載のコーティングされた医療デバイス。
【0007】
(摘要)
本開示は、フィラメントの切断および/または磨耗に対する耐性を増強する、フィラメントのためのコーティングを提供する。コーティングされるべきフィラメントを形成するために利用される材料に依存して、適切な量の適切なコーティングが、このフィラメントをコーティングするために選択され得、これによって、磨耗および切断に対する耐性をこのフィラメントに付与する。得られるフィラメントは、フィラメント性デバイス(縫合糸およびメッシュが挙げられる)を形成するために利用され得る。
【0008】
(要旨)
本開示は、医療デバイス(ある実施形態においては、縫合糸)、およびこの医療デバイス上に使用するために適切なコーティングを提供し、これらのコーティングは、このデバイスの磨耗耐性を増強する。ある実施形態において、本開示の医療デバイスは、モノマーを含むポリマー(例えば、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)およびこれらの組み合わせ)を含有する少なくとも1つの生体吸収性フィラメント、ならびにこの生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリエーテルベースのポリウレタンを含有するコーティングを備え得、このポリエーテルベースのポリウレタンは、溶液中で、約1重量%〜約10重量%の濃度である。
【0009】
ある実施形態において、本開示の医療デバイスは、モノマーを含むポリマー(例えば、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせ)を含有する少なくとも1つの生体吸収性フィラメント、ならびにこの生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、2部分シリコーンを含有するコーティングを備え得、この2部分シリコーンは、溶液中で約1重量%〜約30重量%の濃度である。
【0010】
他の実施形態において、本開示の医療デバイスは、モノマーを含むポリマー(例えば、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせ)を含有する少なくとも1つの生体吸収性フィラメント、ならびにこの生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリエチレン蝋を含有するコーティングを備え得、このポリエチレン蝋は、溶液中で約10重量%〜約30重量%の濃度である。
【0011】
なお他の実施形態において、本開示の医療デバイスは、モノマーを含むポリマー(例えば、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせ)を含有する少なくとも1つの生体吸収性フィラメント、ならびにこの生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリブチレンアジペートを含有するコーティングを備え得、このポリブチレンアジペートは、溶液中で約1重量%〜約10重量%の濃度である。
【0012】
本開示の上記目的および利点は、添付の図面に関連して以下の説明を読むことにより、より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本開示の4つの異なるコーティングでコーティングされた生分解性縫合糸についての破損までのサイクルのグラフである。
【図2】図2は、本開示の4つの異なるコーティングでコーティングされた非生体吸収性縫合糸についての破損までのサイクルのグラフである。
【図3】図3は、本開示の4つの異なるコーティングでコーティングされた生分解性縫合糸に対する、3つの取り扱い試験のついての結果のグラフである。
【図4】図4は、本開示の4つの異なるコーティングでコーティングされた非生体吸収性縫合糸に対する、3つの取り扱い試験のついての結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、コーティングされたフィラメントから形成された医療デバイスに関する。これらのデバイスは、単一のフィラメント(モノフィラメント)、または複数のフィラメント(マルチフィラメント)を含む縫合糸であり得る。本開示のフィラメントに塗布されるコーティングは、これらのフィラメントの磨耗および/または切断に対する耐性を増大させ、そして/またはこの縫合糸の取り扱い特徴を増加させる。縫合糸に加えて、ある実施形態において、得られるフィラメントは、他の医療デバイス(例えば、外科手術用メッシュ)を形成するために使用され得る。
【0015】
フィラメントは、このフィラメントの意図される用途のために適切な物理特性を有する、任意の生体適合性材料から形成され得る。フィラメントのために適切な組成物を調製する方法、およびこのような組成物からフィラメントを作製する技術は、当業者の知識の範囲内である。
【0016】
本開示のフィラメントは、生分解性材料または非生分解性材料から形成され得る。用語「生分解性」とは、本明細書中で使用される場合、生体吸収性材料と生体再吸収性材料との両方を包含するように定義される。生分解性とは、その材料が、身体条件下(例えば、酵素分解または加水分解)で分解するかまたは構造的一体性を失うか、あるいは身体内の生理学的条件下で(物理的または化学的に)分解し、その結果、その分解生成物が身体により排出可能または吸収可能であることを意味する。適切な生体吸収性材料(本明細書中で時々、生分解性材料と称される)としては、天然コラーゲン材料または合成樹脂(アルキレンカーボネート(例えば、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートなど)から誘導されたものが挙げられる);カプロラクトン;ジオキサノン;ポリ(グリコール酸);ポリ(乳酸);これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
ある実施形態において、生分解性フィラメントは、縫合糸を形成するために利用され得る。本開示の生分解性縫合糸は、短期間生分解性縫合糸であっても、長期間生分解性縫合糸であってもよい。短期間生分解性縫合糸との分類は、一般に、移植後約3週間で、その元の強度の約20%を保持する外科手術用縫合糸をいい、この縫合糸の塊は、移植後約60日〜約90日以内で、身体内で完全に分解する。市販の短期間分解性マルチフィラメント縫合糸の例としては、Ethicon,Inc.(Somerville,N.J.)製のVICRYL(登録商標)、およびCovidienとして事業経営中のTyco Healthcare Group LP(North Haven,CT)(本明細書中以下で、「Covidien」と称される)製のPOLYSORBTMが挙げられる。
【0018】
いくつかの実施形態において、長期間生分解性縫合糸が、本開示の縫合糸を形成するために使用され得る。長期間生分解性縫合糸としては、移植後約6週間以上でその元の強度の約20%を保持する縫合糸が挙げられ、この縫合糸の塊は、移植後約180日以内で身体内で完全に分解する。Covidienから市販されているMAXONTM縫合糸は、他の生分解性合成モノフィラメント縫合糸であり、これは、移植後少なくとも約90日目に質量損失を示し始め、この縫合糸の塊は、移植後約180日で、身体内で完全に分解する。MAXONTM縫合糸は、グリコール酸とトリメチレンカーボネートとのコポリマーから調製される。
【0019】
利用され得るなお他の縫合糸としては、Covidienから市販されているBIOSYNTM縫合糸が挙げられ、これは、グリコリドと、トリメチレンカーボネートと、ジオキサノンとのターポリマーから作製される、生分解性モノフィラメント縫合糸である。これらの縫合糸は、編組合成生分解性縫合糸よりも、移植後4週間にわたって強力であるが、移植後約90日〜約110日で完全に分解する。特定の長期間生分解性材料の例としては、米国特許第6,165,202号(その全開示は、本明細書中に参考として援用される)に開示されるものが挙げられる。
【0020】
なお別の実施形態において、本開示の縫合糸は、グリコリドと、トリメチレンカーボネートと、カプロラクトンと、L−ラクチドとの四元ポリマーから作製され得、このポリマーは、約62重量%〜約72重量%のグリコリド、ある実施形態においては、約67重量%〜約71重量%のグリコリド、約1重量%〜約10重量%のトリメチレンカーボネート、ある実施形態においては、約6重量%〜約8重量%のトリメチレンカーボネート、約12重量%〜約20重量%のカプロラクトン、ある実施形態においては、約15重量%〜約18重量%のカプロラクトン、および約1重量%〜約10重量%のL−ラクチド、ある実施形態においては、約6重量%〜約8重量%のL−ラクチドを含有する。
【0021】
別の実施形態において、本開示の縫合糸は、100%グリコリドまたは100%ポリジオキサノンから作製され得る。さらなる実施形態において、本開示の縫合糸は、グリコリド−L−ラクチドコポリマーから作製され得、このコポリマーは、約87重量%〜約99重量%のグリコリド、ある実施形態においては、約89重量%〜約93重量%のグリコリド、および約4重量%〜約13重量%のL−ラクチド、ある実施形態においては、約7重量%〜約11重量%のL−ラクチドを含有する。
【0022】
本開示のフィラメントを形成するために利用され得る適切な非生体吸収性材料のいくつかの具体的な非限定的な例としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマーまたはブレンド);ポリアミド;セグメント化ポリエーテル−エステルブロックコポリマー;ポリウレタン;ポリアクリロニトリル;およびこれらの組み合わせが挙げられる。ある実施形態において、絹、綿、麻、炭素繊維、鋼繊維、または他の生物学的に受容可能な非生体吸収性材料が使用され得る。もちろん、生体吸収性材料と非生体吸収性材料との組み合わせが、フィラメントを形成するために使用されてもよいことが理解されるべきである。
【0023】
ある実施形態において、フィラメントは、ポリエチレンテレフタレートから作製され得る。ポリエチレンテレフタレートは、エチレングリコールとテレフタル酸とのエステル化によって形成される、非生体吸収性熱可塑性ポリエステルである。その有利な特性としては、高い引張り強度、湿潤状態と乾式状態との両方での高い伸張耐性、ならびに化学漂白による分解および磨耗に対する良好な耐性が挙げられる。利用され得る適切なポリエチレンテレフタレート縫合糸の例としては、Covidienから市販されているTI・CRONTM縫合糸が挙げられる。
【0024】
フィラメントは、当業者の知識の範囲内である任意の技術(例えば、押出し、成型、および/またはゲル紡糸)を使用して作製され得る。ある実施形態において、ストランドは、従来の型の押出し機ユニット(例えば、米国特許第6,063,105号、同第6,203,564号、および同第6,235,869号(これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される)に開示されるもの)を通して押し出され得る。ある実施形態において、類似しない材料のフィラメントが別々に押し出され得、引き続いて1つの群に一緒にされて、糸を形成し得るか、または複数のストランドが、並列様式で押し出され得、そして一緒に集められて、即座に糸を形成し得る。1本の糸あたり使用されるフィラメントの数は、多数の要因(糸の所望の最終サイズおよび製造される最終的なマルチフィラメント物品が挙げられる)に依存し得る。例えば、縫合糸に関して、サイズは、米国薬局方(「USP」)の規格に従って確立される。
【0025】
一旦形成されると、複数のフィラメントは、他の何らかのマルチフィラメント構成に編組され得るか、撚られ得るか、絡められ得るか、相互撚糸され得るか、または配置され得る。編組は、当業者の知識の範囲内である任意の方法によってなされ得る。例えば、縫合糸および他の医療デバイスのための編組構築物は、米国特許第5,019,093号;同第5,059,213号;同第5,133,738号;同第5,181,923号;同第5,226,912号;同第5,261,886号;同第5,306,289号;同第5,318,575号;同第5,370,031号;同第5,383,387号;同第5,662,682号;および同第5,667,528号に記載されており、これらの各々の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0026】
フィラメント、編組、またはこれらから形成される糸は、全体または部分的に、種々の医療デバイス(例えば、縫合糸;テープ;ガーゼ;包帯;メッシュ;移植片(例えば、布および/または管);リング;プロテーゼ軟部組織(例えば、腱および/または靭帯);成長マトリックス;薬物送達デバイス;ならびに他の移植可能な医療デバイス)の製造において使用され得る。本明細書中で使用される場合、移植可能な医療デバイスは、医療目的で動物に移植され得る任意のデバイスを包含する。フィラメント、編組、または糸は、編組されるか、編まれるか、または織られて、本開示のデバイスを形成し得る。
【0027】
本開示によれば、フィラメントおよび/またはフィラメントから形成される医療デバイスは、コーティングされる。適切なコーティングとしては、ウレタン;蝋;エステル;ケイ素ベースのコーティング;およびこれらの組み合わせが挙げられる。本開示によれば、フィラメントを形成するために利用される材料に依存して、種々のコーティングがこれらのフィラメントに塗布されて、これらのフィラメントの、切断および/または磨耗に対する耐性を増強し得る。
【0028】
ある実施形態において、コーティング材料は、溶媒と組み合わせられ得る。使用される溶媒は、当業者によって、種々の要因(例えば、コーティング材料、コーティングの所望の厚さ、およびデバイスの構成)に基づいて選択され得る。ある実施形態において、溶媒は、例えば、塩化メチレン、ヘキサン、クロロホルム、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、イソプロパノール、塩化メチレン、キシレン、これらの組み合わせなどであり得る。任意の溶液中のコーティング材料の濃度は、約1重量%〜約30重量%、ある実施形態においては、約2重量%〜約20重量%であり得る。
【0029】
コーティングは、ある実施形態において、熱可塑性ポリウレタン(TPU)(例えば、ポリエーテルベースのTPUおよびポリカーボネートベースのTPU)を含有し得る。ある実施形態において、適切な脂肪族ポリエーテルベースTPUとしては、SG−93A、SG−85A、SG−80A、およびSG−60Dが挙げられ、Lubrizolから市販されており、商品名TECOFLEX(登録商標)のもとで販売されている。ある実施形態において、使用され得る適切な芳香族ポリエーテルベースTPUとしては、TT−74AおよびTT−85Aが挙げられ、Lubrizolから市販されており、商品名TECOTHANE(登録商標)のもとで販売されている。適切な脂肪族ポリカーボネートベースTPUとしては、PC−3575A、PC−3585A、PC−3595A、およびPC−3555Dが挙げられ、全て、Lubrizolから市販されており、商品名CARBOTHANE(登録商標)のもとで販売されている。ある実施形態において、適切なポリウレタンとしては、ジイソシアン酸フェニレンをハードセグメントとして有し、そしてプロピレングリコールアジペートまたはポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールアジペートのいずれかをソフトセグメントとして有する、セグメント化ポリマーが挙げられる。
【0030】
本開示に従って利用されるウレタンベースのコーティングは、デュロメータにより測定される場合に、種々のレベルの硬度を示し得る。ある実施形態において、コーティングは、約70A〜約60Dのデュロメータを有し得る。
【0031】
ある実施形態において、ポリウレタンコーティングの濃度は、約1重量%〜約10重量%であり得る。より具体的には、ある実施形態において、脂肪族ポリエーテルTPUのコーティング溶液中での濃度は、コーティング溶液の約1重量%〜約10重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約2重量%〜約6重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約2.5重量%〜約5重量%であり得る。ある実施形態において、芳香族ポリエーテルTPUのコーティング溶液中での濃度は、コーティング溶液の約1重量%〜約10重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約2重量%〜約6重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約2.5重量%〜約5重量%であり得る。ある実施形態において、脂肪族ポリカーボネートのコーティング溶液中での濃度は、コーティング溶液の約1重量%〜約10重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約2重量%〜約6重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約2.5重量%〜約5重量%であり得る。
【0032】
ある実施形態において、コーティングは、例えば、ポリオレフィン蝋(例えば、ポリアルキレン蝋、ポリプロピレン蝋、ポリエチレン蝋)、蜜蝋、およびこれらの組み合わせなどの蝋を含有し得る。ポリオレフィンは、脂肪族であっても芳香族であってもよい。ある実施形態において、コーティングとして使用される蝋の濃度は、コーティング溶液の約10重量%〜約30重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約15重量%〜約25重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約20重量%であり得る。
【0033】
ある実施形態において、コーティングは、ポリエステル(例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、環状脂肪族エステルベースのコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペート、これらの組み合わせなどをベースとするポリエステル)を含有し得る。
【0034】
ある実施形態において、ポリブチレンアジペート(PBA)などのポリエステルの濃度は、コーティング溶液の約1重量%〜約10重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約1重量%〜約5重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約2.5重量%であり得る。
【0035】
ある実施形態において、コーティングは、ケイ素ベースのコーティング(例えば、シロキサン、ポリオルガノシロキサン、ポリジオルガノシロキサン、シラン、アミノアルキルシロキサン、シクロシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ヒドロシクロシロキサン、白金硬化シリコーン、これらの組み合わせなど)を含有し得る。適切なシリコーンとしては、例えば、MED−4755、MED−4770、MED−4780、およびMED−6640が挙げられ、全て、Nusil Silicone Technologyから市販されている。ある実施形態において、白金硬化2部分シリコーン(Nusil Silicone Technologyから市販されている)が利用され得る。
【0036】
ある実施形態において、コーティングとして使用されるシリコーンの濃度は、コーティング溶液の約1重量%〜約30重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約5重量%〜約15重量%、ある実施形態においては、コーティング溶液の約10重量%であり得る。
【0037】
上記コーティングのうちの任意のものの組み合わせが、ある実施形態において、利用され得る。
【0038】
本開示のコーティングは、不連続な位置で塗布され得るか、またはある実施形態においては、フィラメントの表面全体に沿って塗布され得る。不連続な位置で塗布される場合、これらの位置は、断続的であり得るか、あるいはフィラメントに沿った1つ以上の連続的な部分的長さ、ならびに/またはフィラメントに沿って増加および/もしくは減少する1つ以上の部分的長さに沿い得る。
【0039】
本明細書中に記載されるコーティングは、任意の技術(浸漬、スプレー、ブラッシング、ワイピング、または移植可能なデバイスの表面に連続層を形成するための他の任意の適切な技術が挙げられるが、これらに限定されない)によって、フィラメントおよび/または医療デバイスに塗布され得る。使用される特定の技術は、当業者によって、種々の要因(例えば、フィラメントの特定の構成およびコーティングに含有される材料)に依存して選択され得る。
【0040】
コーティングされたフィラメントおよび/または医療デバイスは、必要であれば、任意の適切な技術(オーブンの使用が挙げられるが、これに限定されない)を使用して乾燥させられ得る。いくつかの実施形態において、コーティングされたフィラメントは、減圧下で、約40℃の温度で乾燥させられ得る。いくつかの実施形態において、対流オーブンが、コーティングにおいて利用されたあらゆる溶媒を除去するために使用され得る。
【0041】
本開示のコーティングされたフィラメントおよび/または医療デバイスは、生物活性薬剤を含有し得る。用語「生物活性薬剤」とは、本明細書中で使用される場合、その最も広い意味で使用され、そして臨床用途を有する任意の物質または物質混合物を包含する。その結果、生物活性薬剤は、それ自体が薬理活性を有しても有さなくてもよい(例えば、色素)。あるいは、生物活性薬剤は、治療効果または予防効果を提供する任意の薬剤、組織成長、細胞増殖、細胞分化に影響を与えるかまたは関与する化合物、抗接着化合物、生物学的作用(例えば、免疫応答)を惹起することが可能であり得る化合物、あるいは1つ以上の生物学的プロセスにおいて他の任意の役割を果たし得る化合物であり得る。生物活性薬剤は、任意の適切な形態(例えば、フィルム、粉末、液体、ゲルなど)で、本発明の移植物に適用され得ることが想定される。
【0042】
本開示により利用され得る生物活性薬剤のクラスの例としては、例えば、接着防止薬剤;抗菌薬;鎮痛薬;解熱薬;麻酔薬;鎮痙薬;抗ヒスタミン薬;抗炎症薬;心臓血管薬剤;診断剤;交感神経様作用薬;コリン様作用薬;抗ムスカリン薬;鎮痙薬;ホルモン;増殖因子;成長因子;筋弛緩薬;アドレナリン作用性ニューロン遮断薬;抗腫瘍薬;免疫原性薬剤;免疫抑制薬;胃腸薬;利尿薬;ステロイド;脂質;リポ多糖類;多糖類;血小板活性化薬物;凝固因子および酵素が挙げられる。生物活性薬剤の組み合わせが使用され得ることもまた意図される。
【0043】
接着防止薬剤は、コーティングされたフィラメントと、このフィラメントが適用される周囲組織との間で接着が形成されることを防止するために利用され得る。さらに、接着防止薬剤は、コーティングされたフィラメントと、包装材料との間で接着が形成されることを防止するために使用され得る。これらの薬剤のいくつかの例としては、親水性ポリマー(例えば、ポリ(ビニルピロリドン)、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコールおよびこれらの組み合わせ)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
生物活性薬剤として含有され得る適切な抗菌剤としては、トリクロサン(triclosan)(2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルとしてもまた公知)、クロルヘキシジンおよびその塩(酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、および硫酸クロルヘキシジンが挙げられる)、銀およびその塩(酢酸銀、安息香酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、乳酸銀、ラウリン酸銀、硝酸銀、酸化銀、パルミチン酸銀、銀タンパク、および銀スルファジアジンが挙げられる)、ポリミキシン、テトラサイクリン、アミノグリコシド(例えば、トブラマイシンおよびゲンタマイシン)、リファンピシン、バシトラシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール、およびミコナゾール、キノロン(例えば、オキソリン酸、ノルフロキサシン、ナリジクス酸、ペフロキサシン(pefloxacin)、エノキサシンおよびシプロフロキサシン)、ペニシリン(例えば、オキサシリンおよびピプラシル(pipracil))、ノンオキシノール9、フシジン酸、セファロスポリン、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。さらに、抗菌タンパク質およびペプチド(例えば、ウシラクトフェリンおよびラクトフェリシン(lactoferricin)B)が、生物活性薬剤として含有され得る。
【0045】
生物活性薬剤として含有され得る他の生物活性薬剤としては、局所麻酔薬;非ステロイド性避妊薬;副交感神経様作用剤;精神療法剤;トランキライザ;うっ血除去薬;鎮静催眠薬;ステロイド;スルホンアミド;交感神経様作用剤;ワクチン;ビタミン;抗マラリア薬;抗片頭痛薬;抗パーキンソン剤(例えば、L−ドパ);鎮痙薬;抗コリン作用性剤(例えば、オキシブチニン);鎮咳薬;気管支拡張薬;心臓血管薬剤(例えば、冠状血管拡張薬およびニトログリセリン);アルカロイド;鎮痛薬;麻酔薬(例えば、コデイン、ジヒドロコデイノン、メペリジン、モルヒネなど);非麻酔薬(例えば、サリチレート、アスピリン、アセトアミノフェン、d−プロポキシフェンなど);オピオイドレセプターアンタゴニスト(例えば、ナルトレキソンおよびナロキソン);抗癌剤;鎮痙薬;制吐薬;抗ヒスタミン薬;抗炎症剤(例えば、ホルモン剤、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、非ホルモン剤、アロプリノール、インドメタシン、フェニルブタゾンなど);プロスタグランジン;細胞傷害性薬剤;化学療法剤、エストロゲン;抗菌剤;抗生物質;抗真菌剤;抗ウイルス剤;抗凝固薬;鎮痙薬;抗うつ薬;抗ヒスタミン薬;ならびに免疫学的薬剤が挙げられる。
【0046】
コーティングに含有され得る適切な生物活性薬剤の他の例としては、例えば、ウイルスおよび細胞;ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質、ならびにそのアナログ、ムテイン、および活性フラグメント;免疫グロブリン;抗体;サイトカイン(例えば、リンホカイン、モノカイン、ケモカイン);血液凝固因子;造血因子;インターロイキン(IL−2、IL−3、IL−4、IL−6);インターフェロン(β−IFN、α−IFNおよびγ−IFN);エリスロポイエチン;ヌクレアーゼ;腫瘍壊死因子;コロニー刺激因子(例えば、GCSF、GM−CSF、MCSF);インスリン;抗腫瘍剤および癌抑制因子;血液タンパク質(例えば、フィブリン、トロンビン、フィブリノゲン、合成トロンビン、合成フィブリン、合成フィブリノゲン);性腺刺激ホルモン(例えば、FSH、LH、CGなど);ホルモンおよびホルモンアナログ(例えば、成長ホルモン);ワクチン(例えば、腫瘍抗原、細菌抗原およびウイルス抗原);ソマトスタチン;抗原;血液凝固因子;増殖因子または成長因子(例えば、神経発育因子、インスリン様成長因子);骨形成タンパク質;TGF−β;タンパク質インヒビター;タンパク質アンタゴニスト;タンパク質アゴニスト;核酸(例えば、アンチセンス分子、DNA、RNA、RNAi);オリゴヌクレオチド;ポリヌクレオチド;ならびにリボザイムが挙げられる。
【0047】
コーティングされたフィラメントおよび/または医療デバイスはまた、生物学的に受容可能な可塑剤、酸化防止剤、および/または着色剤を含有し得、これらは、医療デバイスに含浸され得る。
【0048】
コーティングされたフィラメントの構造的能力は、例えば、磨耗耐性および/または取り扱いについて試験され得る。磨耗耐性は、例えば、Taber Abrasion Testまたは疲労を試験するための他のデバイス(例えば、Instronから入手可能なELECTROPULSETM試験機)を使用して、製造業者の使用法を利用して、破損までのサイクル数を決定することにより試験され得る。取り扱いは、4つの試験(結び目安全性、結び目取り扱い、結び目再配置、および結び目滑り(knot rundown))を用いて評価され得る。結び目の安全性または強度は、Instronから入手可能なTensile Testing Machineを使用して、製造業者の使用法を利用して決定され得る。結び目取り扱いは、湿潤縫合糸および/または乾燥縫合糸を使用し、そしてタイボード(tie board)に外科結び(surgeon’s throw)を行って、縫合中に結び目の滑動が起こらないことを確認することにより決定され得る。結び目の再配置および滑りもまた、タイボードで試験される。磨耗耐性および取り扱いを試験するためのこのようなデバイスおよび方法は、通常使用されており、そして当業者の知識の範囲内である。
【0049】
本明細書中で使用される場合、PolysorbTMコート縫合糸とは、未コートだったPolysorbTMが、本開示に記載されるコーティングのうちの1つでコーティングされたものをいい、そして関連する場合にはTicronTMについても同様であることが留意されるべきである。PolysorbTM製品およびTicronTM製品は、本明細書中でそのように参照される。
【0050】
いくつかの実施形態において、コーティングされたPolysorbTM縫合糸は、破損まで約3サイクル〜破損まで約610サイクル、ある実施形態においては、破損まで約10サイクル〜破損まで約500サイクルの、磨耗耐性(本明細書中で時々、疲労を示すと称される)を有し得る。例えば、ポリエーテルベースのポリウレタンコーティングでコーティングされたPolysorbTMは、破損まで約11サイクル〜破損まで約480サイクルの平均疲労を有し得る。2部分シリコーンコーティングでコーティングされた生体吸収性縫合糸は、破損まで約173サイクル〜破損まで約415サイクルの平均疲労を有し得る。ポリエチレン蝋でコーティングされたPolysorbTMは、破損まで約150サイクル〜破損まで約450サイクル、ある実施形態においては、破損まで約300サイクルの平均疲労を有し得る。ポリブチレンアジペートコーティングでコーティングされたPolysorbTM縫合糸は、破損まで約271サイクル〜破損まで約470サイクル、ある実施形態においては、破損まで約375サイクルの平均疲労を有し得る。比較すると、コーティングされていないPolysorbTMは、破損までの約5の平均サイクルを有し、一方で、製品でコーティングされたPolysorbTMは、破損までの約225の平均サイクルを有する。
【0051】
ある実施形態において、コーティングされたTicronTM縫合糸は、破損まで約1サイクル〜約240サイクルの平均疲労を有し得る。例えば、2部分シリコーンコーティングを有するTicronTM縫合糸は、破損まで約20サイクル〜約230サイクルの平均疲労を有し得る。ポリブチレンアジペートコーティングを有するTicronTM縫合糸は、破損まで約74サイクル〜破損まで約236サイクル、ある実施形態においては、破損まで約165サイクルの平均疲労を有し得る。ポリエチレン蝋コーティングを有するTicronTM縫合糸は、破損まで約67サイクル〜破損まで約202サイクル、ある実施形態においては、破損まで約159サイクルの平均疲労を有し得る。比較すると、コーティングされていないTicronTMは、破損までの少なくとも1の平均サイクルを有し、一方で、製品でコーティングされたTicronTMは、破損までの約24の平均サイクルを有する。
【0052】
当業者が本明細書中に記載される組成物および方法をより良好に実施することが可能であり得るように、以下の実施例が、本開示のコーティングされた医療デバイスの例示として提供される。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
編組吸収性グリコリド−ラクチドコポリマー縫合糸(POLYSORBTM)を、種々のコーティングで浸漬コーティングした。磨耗耐性試験を、Instron E3000 ELECTROPULSETM試験機を使用して実施した。各縫合糸を、HERCULONTMアンカーピンのチタン穴に通し、次いで、2つのプーリに渡し、1kgの分銅を端部に取り付けた。この様式で、この縫合糸を、擦り切れるかまたは破断するまで、サイクル様式でこの穴の縁部に擦り付けた。新たなアンカーピンを各縫合糸に対して使用して、ピン表面の磨り減りまたは変形を防止した。各コーティング型について、10本の縫合糸を試験した。コーティングおよび溶媒の列挙を以下の表1に提供する。各ピンに対する各型のコート糸についての破損までの平均サイクル数もまた、各コーティングについて列挙する。コーティングされていないもの、製品でコーティングされたもの、SG−80コーティング、MED−6640コーティング、PE蝋およびPBAコーティングについての結果はまた、図1に表示される。
【0054】
コート縫合糸のうちのいくつかを、生理食塩水浴中37℃で試験した。これらの結果もまた、表1に列挙する。
【0055】
【表1】

予測不可能なことに、上記表1に示されるように、より柔らかい熱可塑性脂肪族ポリエーテルベースコーティングが、より大きい磨耗耐性を提供した。具体的には、脂肪族ポリエーテルベースTPUであるSG−80A(THERMEDICSTM製)が、優れた磨耗耐性を提供した。SG−80A(THERMEDICSTM製)の5%コーティングは、破損まで489の平均サイクル数を生じ、そして脂肪族ポリエーテルベースTPUであるSG−85A(THERMEDICSTM製)の2.5%のコーティングは、破損まで295の平均サイクル数を生じた。脂肪族ポリエーテルベースTPUであるSG−93A(THERMEDICSTM製)の5%のコーティング、脂肪族ポリエーテルベースTPUであるSG−60D(THERMEDICSTM製)の5%のコーティング、および脂肪族ポリエーテルベースTPUであるSG−93A(THERMEDICSTM製)の2.5%のコーティングは全て、破損まで20未満の平均サイクル数を有した。芳香族ポリエーテルベースTPU(TT−74AおよびTT−85A)(両方、THERMEDICSTM製)のうちで、より高いデュロメータのTT−74Aは、破損までの124の平均サイクル数を提供し、一方で、TT−85Aは、破損までの92のサイクル数を提供した。
【0056】
逆に、2部分シリコーンコーティングは、デュロメータ数とは無関係に、破損までの300を超える平均サイクル数を提供した。PBAおよびPE蝋もまた、破損までの300を超える平均サイクル数を提供した。試験した脂肪族ポリカーボネートベースTPU(PC−3585A、PC−3555D、PC−3595A、およびPC−3575A)(Nusil Silicone Technology製)のうちで、PC−3575Aのみが、破損までの32より大きい平均サイクル数を提供した。
【0057】
PBA、ポリエチレン蝋、およびMED−6640でコーティングされた生分解性縫合糸は、37℃の生理食塩水浴に供される場合、コーティングされていない縫合糸と製品でコーティングされた縫合糸との両方に対して、改善された磨耗耐性を示した。
【0058】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレートから形成された編組ポリエステル縫合糸(TI・CRONTM縫合糸)を、種々のコーティングでコーティングした。磨耗耐性試験を、Instron E3000 ELECTROPULSETM試験機を使用して実施した。各縫合糸を、HERCULONTMアンカーピンのチタン穴に通し、次いで、2つのプーリに渡し、1kgの分銅を端部に取り付けた。この様式で、この縫合糸を、擦り切れるかまたは破断するまで、サイクル様式でこの穴の縁部に擦り付けた。新たなアンカーピンを各縫合糸に対して使用して、ピン表面の磨り減りまたは変形を防止した。各コーティング型について、10本の縫合糸を試験した。コーティングおよび溶媒の列挙を以下の表2に提供する。各ピンに対する破断前の平均サイクル数もまた、各コーティングについて列挙する。コーティングおよび溶媒の列挙、ならびに同じコーティングを有する10本の縫合糸についての各ピンに対する破断前の平均サイクル数を、以下の表2に提供する。コーティングされていないもの、製品でコーティングされたもの、SG−80コーティング、MED−6640コーティング、PE蝋およびPBAコーティングについての結果はまた、図2に表示される。
【0059】
コート縫合糸のうちのいくつかを、生理食塩水浴中37℃で試験した。これらの結果もまた、表2に列挙する。
【0060】
【表2】

実施例1において生分解性縫合糸について得られた結果とは異なり、実施例2の非生分解性縫合糸の磨耗耐性は、ポリウレタンコーティングの塗布によって改善されなかった。磨耗耐性は、2部分シリコーンの塗布によって改善した。MED−4770(Nusil Silicone Technology製)を用いた破断までの平均サイクル数37.5;MED−4780(Nusil Silicone Technology)についての破断までの平均サイクル数54.6;MED−4755(Nusil Silicone Technology)についての破断までの平均サイクル数61;およびMED−6640(Nusil Silicone Technology)についての破断までの平均サイクル数135.5。ポリエチレン蝋およびPBAコーティングは、それぞれ、破断までのサイクル数を158.5および166.4まで増加させた。
【0061】
MED−6640(Nusil Silicone Technology)、脂肪族ポリエーテルベースTPUであるSG−80A(THERMEDICSTM製)、ポリエチレン蝋、およびPBAでコーティングされたTicronTM縫合糸を、37℃の生理食塩水浴に供したものは、コーティングされていないTicronTM縫合糸より改善された性能を示した。さらに、MED−6640でコーティングされた縫合糸はまた、製品でコーティングされた縫合糸に対する改善を示した。
【0062】
(実施例3)
縫合糸に対するコーティングの効果を決定する目的で、取り扱い試験を、生分解性縫合糸(PolysorbTM)および非生分解性縫合糸(TicronTM)の、コーティングされたものおよびコーティングされていないものに対して実施した。発泡体で覆われた1.5インチ(約3.8cm)のマンドレルを有するInstron Tensile Testing機を使用して、結び目安全性を決定した。縫合糸を個々に、一貫した結び目型を使用して、このマンドレルの周囲に結んだ。結び目を形成した後に、マンドレル上で結び目の反対側の縫合糸を切断して、サンプル端部を形成した。次いで、この結び目を、所定の負荷まで引いた。この結び目が3mmより大きくは滑動せずに結び目の破壊を起こした場合、この結び目が安全であるとみなした。
【0063】
結び目の取り扱い、再配置、および滑りを、標準的なタイボードで測定した。タイボードは、基部を備え、この基部上に、2つの板が垂直に固定されている。これらの板は、この基部上で互いに平行であり、そして少なくとも3インチ(約7.62cm)の距離だけ離れている。各板は、対向して位置する2つの開口部を有し、1つの板上でのこれらの開口部間の距離は、他方の板上でのこれらの開口部間の距離より長い。1本の弾性チューブが、両方の板の開口部を通過して、1つのループを完成させ、次いで、この弾性チューブが結ばれて、このループをこれらの板に固定する。このループは、二等辺三角形の一般構成である。
【0064】
各縫合糸をタイボードの弾性チューブの周りに巻き、そしてこれらの縫合糸を外科結び(自由端の余分なループでの一重結び)で結ぶことによって、外科結びを実施した。このタイボードの弾性チューブにより生じる外向きの力は、生存組織によって縫合糸の結び目に対して付与される力に近い。次いで、端部を手で両側に引き、タイボードの弾性チューブを引き寄せた。次いで、この縫合糸の端部を放した。滑動が起こらない場合、この結び目が滑動するまで、バンドにさらなる力を加えた。この縫合糸を放したときに結び目が滑動しない場合、その縫合糸は試験に合格した。
【0065】
結び目再配置もまた、タイボードで試験した。弾性バンドの周りに1回の縫合糸の外科結びを実施し、そしてこの縫合糸をこの弾性バンドに沿って、このタイボードバンド上で約3インチ(約7.62cm)滑らせた。2回目の1回の外科結び(1回目と同じ方向)を同じ縫合糸で実施し、そして1回目の結び目まで滑らせた。次いで、縫合糸の自由端を、手で両側に引いた。この結び目が滑動して縫合糸のループがタイボードの弾性チューブを一緒に引く場合、この結び目は再配置し、そして試験に合格した。結び目の滑り(すなわち、再配置中の縫合糸の引きずり)を試験するために、さらに2つの外科結びを実施し、そして1回目の外科結びまで滑らせた。結び目滑りを1〜5のスケールで等級付け、ここで1は「認容不可能」であり、そして5は「優良」であった。
【0066】
MED−6640 2部分シリコーン、PE蝋、PBA、およびSG−80Aでコーティングされた、生分解性縫合糸および非生分解性縫合糸を、結び目取り扱い、結び目再配置、および結び目滑りについて試験した。これらの縫合糸、ならびにコーティングされていない縫合糸および製品の生分解性縫合糸(POLYSORBTM)についての結果を、図3にグラフで示す。製品の非生体吸収性縫合糸(TICRONTM)についての結果を、図4にグラフで示す。各型の5つの縫合糸を試験した。MED−6640 2部分シリコーンは、生分解性縫合糸と非生分解性縫合糸との両方の取り扱いについて、最良の結果を生じ、結び目再配置スコアは3.9であり、そして結び目滑りスコアは4.7であった。SG−80Aでコーティングされた生分解性縫合糸は、結び目取り扱いについて3.5、結び目再配置について2.8、および結び目滑りについて2.9のスコアを有し、一方で、TicronTM上のSG−80Aは、同様には機能しなかった。
【0067】
(実施例4)
SG−80A(THERMEDICSTM製)(脂肪族ポリエーテルTPU)でコーティングされた生体吸収性糸のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を撮影した。これらのコーティングは、糸の外側表面、および縫合糸の間隙領域を覆った。このコーティングは生体吸収性糸の表面を濡らし、完全なコーティングを生じた。
【0068】
上記説明は、多数の詳細を含むが、これらの詳細は、本開示の範囲の限定であると解釈されるべきではなく、単に、本開示の実施形態の説明であると解釈されるべきである。当業者は、本開示の範囲および趣旨内で、他の多くの可能なバリエーションを予測する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに
該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリエーテルベースのポリウレタンを含有するコーティング、
を備える、コーティングされた医療デバイスであって、該ポリエーテルベースのポリウレタンは、溶液中で約1重量%〜約10重量%の濃度である、コーティングされた医療デバイス。
【請求項2】
前記ポリエーテルベースのポリウレタンが、溶液中で約2重量%〜約6重量%の濃度である、請求項1に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項3】
前記ポリエーテルベースのポリウレタンが、溶液中で約2.5重量%〜約5重量%の濃度である、請求項1に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項4】
前記生体吸収性フィラメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびこれらの組み合わせをさらに含有する、請求項1に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項5】
前記フィラメントが、グリコリド−ラクチドコポリマーを含有する、請求項1に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項6】
前記ポリウレタンが、脂肪族ポリエーテルベースの熱可塑性ポリウレタンを含有する、請求項1に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項7】
前記溶液が、ヘキサン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される溶媒を含有する、請求項1に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項8】
前記医療デバイスが、破損まで約11サイクル〜約480サイクルの平均疲労を有する、請求項1に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項9】
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに
該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、2部分シリコーンを含有するコーティング、
を備える、コーティングされた医療デバイスであって、該2部分シリコーンは、溶液中で約1重量%〜約30重量%の濃度である、コーティングされた医療デバイス。
【請求項10】
前記生体吸収性フィラメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびこれらの組み合わせをさらに含有する、請求項9に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項11】
前記フィラメントが、グリコリド−ラクチドコポリマーを含有する、請求項9に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項12】
前記溶液が、ヘキサン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される溶媒を含有する、請求項9に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項13】
前記コーティングされた医療デバイスが、破損まで約173サイクル〜約415サイクルの平均疲労を有する、請求項9に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項14】
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに
該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリエチレン蝋を含有するコーティング、
を備える、コーティングされた医療デバイスであって、該ポリエチレン蝋は、溶液中で約10重量%〜約30重量%の濃度である、コーティングされた医療デバイス。
【請求項15】
前記医療デバイスが、破損まで約150サイクル〜約450サイクルの平均疲労を有する、請求項14に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項16】
前記生体吸収性フィラメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびこれらの組み合わせをさらに含有する、請求項14に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項17】
前記フィラメントが、グリコリド−ラクチドコポリマーを含有する、請求項14に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項18】
前記溶液が、ヘキサン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される溶媒を含有する、請求項14に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項19】
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるモノマーを含むポリマーを含有する、少なくとも1つの生体吸収性フィラメント;ならびに
該生体吸収性フィラメントの表面の少なくとも一部分上の、ポリブチレンアジペートを含有するコーティング、
を備える、コーティングされた医療デバイスであって、該ポリブチレンアジペートは、溶液中で約1重量%〜約10重量%の濃度である、コーティングされた医療デバイス。
【請求項20】
前記医療デバイスが、破損まで約271サイクル〜約470サイクルの平均疲労を有する、請求項19に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項21】
前記生体吸収性フィラメントが、カプロラクトン、トリメチレンクロリド、およびこれらの組み合わせをさらに含有する、請求項19に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項22】
前記生体吸収性フィラメントが、グリコリド−ラクチドコポリマーを含有する、請求項19に記載のコーティングされた医療デバイス。
【請求項23】
前記溶液が、ヘキサン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される溶媒を含有する、請求項19に記載のコーティングされた医療デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−78765(P2011−78765A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225267(P2010−225267)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】