説明

磨耗確認ライン付ピンゲージ及び製造法

【課題】金属加工用各種金型製造時のスライドコアピン穴、位置決めピン穴、自動制御装置や専用機器、治工具類など位置決めや精度比較測定時にピンゲージ本体のラインが磨耗によって、ピンゲージの交換時期を高精度維持の見極め確認ができる磨耗確認ライン付ピンゲージ等を提供する。
【解決手段】断面が円形状にして、且所定長さの工具鋼等のピンゲージ本体aの端部1、2から外周部3の中央部4にかけて延設する所定長さの磨耗確認ライン5を設ける。また、前記磨耗確認ライン5は、前記ピンゲージ本体aの左右両端部1,2から外周部3の中央部4にかけて設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磨耗確認ライン付ピンゲージ及び製造法の分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械等によって穿孔した測定器具として、特開平8−304001公開特許公報(ピンゲージ)が開示されている。
【0003】
この公開特許公報の図1、2に図示されているピンゲージの外周部には、ピンゲージの測定頻度によって磨耗が発生し、ゲージとしての品質維持ができない。
【0004】
さらに、従来工作物の穴径測定や穴の芯間測定等の精密度測定に用いられるピンゲージとして、実公平6−37281実用新案公報が開示されており、このピンゲージは、ピン状体の外径精度を保証して製作されたものであって、上記ピン状体の表面に外径精度が保証されている特定領域を限定して表示する精度保証表示部を設けるのみである。
【0005】
そのため、前記ピンゲージは、ピン状体の挿入端部から磨耗が発生しゲージとしての品質維持とメンテナンスラインの見極め確認が直接できにくい弊害があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−30400号特許公報
【特許文献2】実公平6−37281号実用新案公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、前記した従来開示の特開平8−30400号特許公報のピンゲージは、工作機械などで穿孔した穴に挿入し、該穴の径などの測定を行うピンゲージにおいて、穴に挿入する側の先端から後端にかけて連通する空気抜き通路を設けると共に、前記空気抜き通路をピンゲージの軸芯上に沿って設けた構成のピンゲージである。
【0008】
この公開特許公報のピンゲージは、ピンゲージの端部は、穿孔した穴への挿入による測定によって発生する磨耗度が不鮮明であって、ゲージとしての品質維持ができにくい点が指摘される。
【0009】
さらに、従来開示の実公平6−37281号実用新案公報のピンゲージは、ピン状体の外径精度を保証して製作されたものであって、上記ピン状体の表面に上記外径精度が保証されている特定領域を限定して表示する精度保証表示部を設けて構成したものである。
【0010】
この実用新案公報のピンゲージは、ピンゲージを構成するピン状体の表面に外径制度が保証されている特定領域を限定して表示する表示部を設けたものであって、前記ピン状体の端部から外周部の中央部にかけてライン部を設けたものではない。
【0011】
しかるに、本発明が解決しようとする課題は以下のとおりである。
【0012】
第1に、本発明は、ピンゲージ本体の端部から外周部の中央部にかけて延設する所定長さの磨耗確認ラインを形成することによって、金属加工用各種金型製造時のスライドコアピン穴、位置決めピン穴、自動制御装置や専用機器、治工具類など位置決めや精度比較測定時にピンゲージ本体のラインが磨耗によって、ピンゲージの交換時期を高精度維持の見極め確認ができる。
【0013】
第2に、本発明は、前記ピンゲージ本体の端部から外周部の中央部にかけて磨耗確認ラインを高精度を維持しつつ確実且迅速に製造することができるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、断面が円形状にして、且所定長さの工具鋼等のピンゲージ本体aの端部1、2から外周部3の中央部4にかけて延設する所定長さの磨耗確認ライン5を設けることを特徴とする磨耗確認ライン付ピンゲージである。
【0015】
課題を解決するための手段として、請求項2に記載の発明は、前記磨耗確認ライン5は、前記ピンゲージ本体aの左右両端部1,2から外周部3の中央部4にかけて設けることを特徴とする請求項1に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージである。
【0016】
課題を解決するための手段として、請求項3に記載の発明は、前記磨耗確認ライン5は、直線状とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージである。
【0017】
課題を解決するための手段として、請求項4に記載の発明は、前記磨耗確認ライン5は、外径より平均約0.3μm深さにして、且約10mm長さで印字されることを特徴とする請求項1又は同2又は同3に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージ。
【0018】
課題を解決するための手段として、請求項5に記載の発明は、工具鋼を使用ゲージ長さで切断してピンゲージ本体aを形成する切断工程と、前記切断工程で形成されたピンゲージ本体aの切断端面長さ決め研磨仕上げを施す研磨仕上げ工程と、前記研磨仕上げ工程後熱処理加工、サブゼロ処理(経年変化補整)の加工処理工程と、前記加工処理工程後外径荒加工研削加工処理を施し、前記荒加工研削加工処理工程後外径中仕上げ加工研削加工処理を施し、前記加工研削加工処理工程後、コーナー面取り加工を施し、前記面取り加工処理工程後、外径本仕上げ加工研削加工外径精度出しを行い、前記外径精度出し後、外径鏡面ラッピング加工を施し、前記ラッピング加工後、合格品のラインと寸法サイズ印字処理を施すことを特徴とする磨耗確認ライン付ピンゲージの製造法である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明は、断面が円形状にして、且所定長さの工具鋼等のピンゲージ本体の端部から外周部の中央部にかけて延設する所定長さの磨耗確認ラインを設けることを特徴とする磨耗確認ライン付ピンゲージなので、前記磨耗確認ラインの磨耗が確認でき、高精度維持の見極め確認が直接可能となった。
【0020】
さらに、本発明は、前記のとおりなので、前記ラインでゲージの交換時期を測定ユーザーにお知らせできる利点がある。
【0021】
請求項2記載の発明は、前記磨耗確認ラインは、前記ピンゲージ本体の左右両端部から外周部の中央部にかけて設けることを特徴とする請求項1に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージなので、請求項1に記載の発明の効果と同じ効果を有する。
【0022】
請求項3記載の発明は、前記磨耗確認ラインは、直線状とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージなので、前記請求項1に記載の発明と同じ効果を有している。
【0023】
請求項4記載の発明は、前記磨耗確認ラインは、外径より平均約0.3μm深さにして、且約10mm長さで印字されることを特徴とする請求項1又は同2又は同3に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージなので、前記請求項1に記載の発明と同じ効果を有している。
【0024】
請求項5に記載の発明は、工具鋼を使用ゲージ長さで切断してピンゲージ本体を形成する切断工程と、前記切断工程で形成されたピンゲージ本体の切断端面長さ決め研磨仕上げを施す研磨仕上げ工程と、前記研磨仕上げ工程後熱処理加工、サブゼロ処理(経年変化補整)の加工処理工程と、前記加工処理工程後外径荒加工研削加工処理を施し、前記荒加工研削加工処理工程後外径中仕上げ加工研削加工処理を施し、前記加工研削加工処理工程後、コーナー面取り加工を施し、前記面取り加工処理工程後、外径本仕上げ加工研削加工外径精度出しを行い、前記外径精度出し後、外径鏡面ラッピング加工を施し、前記ラッピング加工後、合格品のラインと寸法サイズ印字処理を施すことを特徴とする磨耗確認ライン付ピンゲージの製造法なので、前記ラインが磨耗することによって直径精度の磨耗確認が簡単且確実に高精度の品質管理を直接行うことが可能なピンゲージを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明磨耗確認ライン付ピンゲージ及び製造法によって形成のピンゲージの正面図である。
【0026】
【図2】図1のピンゲージの斜視図である。
【0027】
【図3】図2におけるA−A線縦断面図である。
【0028】
【図4】図2におけるB−B線縦断面図である。
【0029】
【図5】同ピンゲージを工作物の穿孔に挿入した状態の縦断面図である。
【0030】
【図6】同ピンゲージの製造工程において使用される電解マーキング装置の斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の請求項1〜5に記載の発明の実施の形態は、共通しているので以下のとおり一括して説明する。
【0032】
aは断面が円形状にして、且所定長さの工具鋼等のピンゲージ本体である。
【0033】
前記ピンゲージ本体aの長さは、従来市販されていた各種寸法と同じである。さらに、直径についても従来市販のものと同種であり、本発明において特に限定した寸法ではない。
【0034】
1、2は前記ピンゲージ本体aの左端部と右端部を示すものである。
【0035】
3は前記ピンゲージ本体aの外周部、4は同じくゲージ本体aの外周部3の中央部である。
【0036】
5は前記ピンゲージ本体aの左端部1及び右端部2の角部から外周部3の中央部4にかけて、所定の長さ、例えば約10mm(限定しない)の直線状磨耗確認ライン5を後述するマーキング処理を施し設ける。
【0037】
前記磨耗確認ライン5は、外周部3の外径より平均約0.3μmで印字される。
【0038】
さらに本発明の磨耗確認ライン付ピンゲージは以下の工程によって製造される。
【0039】
本発明の第1工程は、工具鋼をピンゲージ本体aの長さで切断する。前記切断は、従来の手法と同じである。
【0040】
さらに、本発明の第2工程は、前記第1工程によって形成されたピンゲージ本体aの切断端面の長さ決め研磨仕上げ処理をする。
【0041】
第3工程は、前記第2工程処理後、熱処理加工、サブゼロ処理(経年変化補整)を施す。
【0042】
前記処理工程について説明すると以下のとおりである。
【0043】
サブゼロ処理概略説明について。
【0044】
概略説明について。
深冷処理とも言われており、一般的には焼入れ処理した鋼を、焼きもどし処理をする前に、マイナス73℃以下の低温下で保持し、鋼の組織を安定させるために行なう熱処理の一つである。
【0045】
詳細説明について。
【0046】
焼き入れ焼き戻し後にマイナス80℃以下に冷却することを、サブゼロ処理と言っている。
【0047】
この処理をすることにより、経年変化を防止することができ、高精度を要求されるゲージ類には広く採用されている。
【0048】
ピンゲージに採用されている特殊鋼は、一般に800℃以上に加熱し、オーステナイト組織とした後、(水または)油中に入れて急冷させ、マルテンサイト組織にする。
【0049】
これにより、硬度はHV800(ビッカース硬度 800)または、HRC64(ロックウェル硬度 Cスケール)以上に向上する。
【0050】
この急冷により、マルテンサイト化されるが、100%変態させることは不可能であり、10〜20%はオーステナイトのまま残り、これを残留オーステナイトと呼んでいる。
【0051】
この残留オーステナイトは、常温に放置しておくと、次第に分解してマルテンサイトに変態し、この時容積も膨張するため、ピンゲージの生命である直径が次第に大きくなり、この現象を経年変化と呼んでいる。
【0052】
この、経年変化を防止するため、寸法の安定処理を施す必要がある。
【0053】
この処理の方法の一つとして一般のゲージについては、150℃〜200℃の条件で24時間以上加熱する焼き戻し法が採用されている。
【0054】
しかし、ブロックゲージや高精度を要求されるゲージ類には、この焼き戻し法に加えて、マイナス80℃以下に冷却するサブゼロ法が併用され、この両処理法を交互に繰返すことにより、人工的に残留オーステナイトをマルテンサイト化させる効果的な寸法の安定処理法として採用されている。
【0055】
第4工程として、ゲージ本体aの外径荒加工研削加工を前記第3工程処理後処理する。
【0056】
第5工程として、前記4工程処理後外径中仕上げ加工研削加工処理を施す。
【0057】
第6工程として、前記第5工程の処理後、コーナー面取加工処理をする。
【0058】
第7工程として、第6工程処理後、外径本仕上げ加工研削加工外径精度出しを行う。
【0059】
第8工程として、第7工程処理後、外径鏡面ラッピング加工を施す。
【0060】
第9工程として、第8工程処理後、合格品のライン5と寸法サイズ印字6処理をする。
【0061】
次に第9工程のライン5と寸法サイズ印字6処理工程について説明する。
【0062】
本発明のピンゲージ本体aの外周部3に磨耗確認ライン5と寸法サイズの印字6処理は、図6に図示する電解(電気マーキング)マーキングにより行うものである。
【0063】
電源制御ボックスで通電電流をコントロールする装置を使用し、均等な電解エッチング(腐食)マーキングを行うものである。すなわち、電解液を含ませたカーボンフィルタの上部に、マーキングしたい模様の部分が抜けた(電解液がしみ出す)グリーン色のステンシルを、マイナス電極ベース上にセットし、ピンゲージ本体aをプラス電極ハンドルで挟み込み、通電出来る状態でピンゲージ本体aを回転し、ステンシルの上面を進むことで両側面のライン5と中央部のサイズ数値の位置で電流が通電し表面エッチングにより、平均03μm表面を(凹)腐食させ黒色に変色しマーキングが施される。
【0064】
以上が本発明のピンゲージ本体aのライン5と寸法サイズ印字6処理工程の説明である。
【0065】
上記のように形成されたピンゲージは、測定する工作物7の穴8に挿入し比較測定を行なう作業で常に擦り合う計測方法であり、頻度が高くなるにつれ、挿入端部から磨耗が発生し、ゲージとしての品質維持が出来ない。
【0066】
そこで前記ピンゲージ本体aの端部1、2から中央に向けて両端約10mm長さの磨耗確認用メンテナンスライン5をマーキングすることにより、ライン5の磨耗が確認でき、高精度維持の見極め確認が直接可能となる。
【0067】
前記のとおり、ピンゲージは、金属加工用各種金型製造時のスライドコアピン穴、位置決めピン穴、自動制御装置や専用機器、治工具類などの位置決めや精度比較測定に使用されているが、金型材料、各種装置部品には焼入れ処理が施されているため、測定頻度によっては挿入端面部より磨耗が発生する。
【0068】
そこで端面よりライン5を印字し、外径より平均約0.3μm深さで印字されることを活用し、このライン5が磨耗することで、直径精度の磨耗確認が簡単なおかつ即座に高精度の品質確認を自ら行うことが可能となった。
【0069】
前記ライン5の磨耗が確認できた時点で、直径で約0.6〜0.8μm以上の磨耗により径精度を保証できない目安を直接判断できるメンテナンスライン(ゲージ交換時期)で測定ユーザーにお知らせできるピンゲージである。
【符号の説明】
【0070】
a ピンゲージ本体
1 端部
2 端部
3 外周部
4 中央部
5 磨耗確認ライン
6 文字
7 工作物
8 穴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が円形状にして、且所定長さの工具鋼等のピンゲージ本体の端部から外周部の中央部にかけて延設する所定長さの磨耗確認ラインを設けることを特徴とする磨耗確認ライン付ピンゲージ。
【請求項2】
前記磨耗確認ラインは、前記ピンゲージ本体の左右両端部から外周部の中央部にかけて設けることを特徴とする請求項1に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージ。
【請求項3】
前記磨耗確認ラインは、直線状とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージ。
【請求項4】
前記磨耗確認ラインは、外径より平均約0.3μm深さにして、且約10mm長さで印字されることを特徴とする請求項1又は同2又は同3に記載の磨耗確認ライン付ピンゲージ。
【請求項5】
工具鋼を使用ゲージ長さで切断してピンゲージ本体を形成する切断工程と、前記切断工程で形成されたピンゲージ本体の切断端面長さ決め研磨仕上げを施す研磨仕上げ工程と、前記研磨仕上げ工程後熱処理加工、サブゼロ処理(経年変化補整)の加工処理工程と、前記加工処理工程後外径荒加工研削加工処理を施し、前記荒加工研削加工処理工程後外径中仕上げ加工研削加工処理を施し、前記加工研削加工処理工程後、コーナー面取り加工を施し、前記面取り加工処理工程後、外径本仕上げ加工研削加工外径精度出しを行い、前記外径精度出し後、外径鏡面ラッピング加工を施し、前記ラッピング加工後、合格品のラインと寸法サイズ印字処理を施すことを特徴とする磨耗確認ライン付ピンゲージの製造法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2827(P2013−2827A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130938(P2011−130938)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【特許番号】特許第5035735号(P5035735)
【特許公報発行日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(391011836)新潟精機株式会社 (4)
【Fターム(参考)】