説明

示温材及びそれを用いた温度管理インジケータ

【課題】有害金属の水銀を含んでおらず安全であり、温度に応じた色相を示すことができ、簡易な構成で、特定の温度域を可逆的な色の変化によって明瞭かつ正確に表示できる示温材、及びそれを用いた温度管理インジケータを提供する。
【解決手段】示温材は、メソポーラス材料と、温度変化に応じ錯体構造が変化して変色する金属錯化合物とを含み、該金属錯化合物の少なくとも一部が該メソポーラス材料のメソ孔内に包接されている。温度管理インジケータは、この示温材が、ガラス管、ガラス瓶、樹脂ケース又は樹脂カプセルに封入され、又は樹脂フィルムシートに挟み込まれて封入されているものである。別な温度管理インジケータは、この示温材を含んでいるインジケータインキ組成物が、基材の少なくとも一部に、吸着、吸収及び/又は塗布されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度が上昇したり下降したりする際に、特定の温度域を可逆的な色相の変化によって表示する示温材及びそれを用いた温度管理インジケータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度測定機械機器や水銀温度計などを使用せずに、特定の温度域を表示するものとして、示温材により温度に応じた色相を示す可逆性温度インジケータが知られている。このようなインジケータは、可逆的な色相の変化を観察することによって簡便に現在の温度を知ることができるというもので、温度管理すべき機械設備や流通している商品、火傷を防止すべき器具に付されて、使用される。
【0003】
この可逆性温度インジケータとして、かつては、示温材である水銀含有ハロゲン錯化合物を含むものが汎用されていた。しかし有害な水銀が含まれている示温材は、人体に対する安全性の観点や、環境保護の観点から、使用が忌避されるようになっている。
【0004】
水銀非含有の可逆性温度インジケータとして、例えば特許文献1に、電子供与性呈色性有機化合物とフェノール性水酸基含有化合物とアルコール性水酸基含有化合物とを成分とする示温材料が開示され、特許文献2に、溶融性物質とロイコ染料と4−ヒドロキシクマリン誘導体とを含有する可逆性示温剤が開示され、また特許文献3に電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性有機化合物とをマイクロカプセルに内包させたインジケータが開示されている。さらに、銅のような遷移金属の錯塩化合物であるサーモクロミズム性物質を含有するインジケータも知られている。
【0005】
一般に、温度に応じた色相を示す示温材として有機系染料や有機系顔料等の有機化合物を用いたインジケータは、有機化合物の耐久性が悪いことに起因して、長期安定性に欠け、汎用性がないものである。一方、示温材として金属錯塩化合物を用いたインジケータは、金属錯塩化合物の耐久性が良く固有な特定の温度でのみ変色させることができる反面、その温度以外で変色させることができず、汎用性がないものである。
【0006】
耐久性や長期安定性がないインジケータは寿命が短い。また、商品の製造過程や流通過程で広範な温度の管理が求められているため、別々な有機化合物や金属錯塩化合物を適宜選択して特定の温度域で変色するインジケータを、広範な温度域に合わせて何種類も開発したり製造したりしなければならないのは、煩雑でコスト高を招いてしまう。
【0007】
【特許文献1】特公昭51−44706号公報
【特許文献2】特公平2−19155号公報
【特許文献3】特開平5−32045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、有害金属の水銀を含んでおらず安全であり、温度に応じた色相を示すことができ、簡易な構成で、特定の温度域を可逆的な色の変化によって明瞭かつ正確に表示できる示温材、及びそれを用いた温度管理インジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の示温材は、メソポーラス材料と、温度変化に応じ錯体構造が変化して変色する金属錯化合物とを含み、該金属錯化合物の少なくとも一部が該メソポーラス材料のメソ孔内に包接されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の示温材は、請求項1に記載されたものであって、前記金属錯化合物中の配位子が別な配位子に置換することによって、前記錯体構造が変化することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の示温材は、請求項1に記載されたものであって、前記金属錯化合物が、コバルト錯化合物であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の示温材は、請求項1に記載されたものであって、前記メソポーラス材料を1重量部、前記金属錯化合物を0.01〜500重量部とすることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の示温材は、請求項1〜4の何れかに記載されたものであって、アルコール類及び/又は水を、含んでいることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の示温材は、請求項5に記載されたものであって、前記アルコール類が、モノアルコール化合物及び/又はジアルコール化合物であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の示温材は、請求項5に記載されたものであって、前記メソポーラス材料、前記アルコール類、及び前記水を夫々、最大で100重量部とすることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の示温材は、請求項1に記載されたものであって、前記金属錯化合物が、アクア、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン、及び/又はアジ化物イオンを有していることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の温度管理インジケータは、請求項1〜8の何れかに記載の示温材が、ガラス管、ガラス瓶、樹脂ケース又は樹脂カプセルに封入され、又は樹脂フィルムシートに挟み込まれて封入されていることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の温度管理インジケータは、請求項1〜8の何れかに記載の示温材を含んでいるインジケータインキ組成物が、基材の少なくとも一部に、吸着、吸収及び/又は塗布されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の示温材は、水銀を含有しないため、人体や環境に対して安全である。しかも、簡易な構成で簡便に効率よく製造できるうえ、耐久性・長期保存安定性に優れている。
【0020】
コバルト錯化合物、例えば臭化コバルトの溶液のサーモクロミズムは有名である。しかしながら、液体状態では、温度管理材および温度管理用インジケータとしては取扱が難しい。本発明の示温材は、メソポーラス材料を用いているため、示温材形態が、粉体であり製造加工、インク化が容易であり、製造コストも安価である効果を奏する。
【0021】
この示温材を用いた温度管理インジケータは、安価で入手性の良い材料を用いるため生産性に優れ安価であり、汎用性が高い。しかも変色が明瞭であるから、誤認の恐れがない。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0022】
以下、本発明の示温材を実施するための好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0023】
示温材は、メソポーラス材料のメソ孔に、金属錯化合物が包接されたものである。示温材は、図1を参照しながら説明すると、以下のようにして調製される。
【0024】
先ず、メソポーラス材料を以下にようにして調製する。
【0025】
オルトけい酸テトラエチル(Si(OC))の1重量部と、界面活性剤であるヘキサデシルトリメチルアンモニウム ブロミド(CTMABr)のようなアルキルアンモニウム塩化合物の0.01〜100重量部と、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの0.01〜100重量部とを、水の1〜1000重量部に混合させ、撹拌機または超音波振動機で、均一に分散させた後、加熱還流する。すると、界面活性剤ミセル(a)と、オルトけい酸テトラエチルやシリカ前駆体やそのオリゴマーとがシリンダ状ミセル(不図示)となり更に凝集し蜂の巣状のメソ孔に界面活性剤ミセルが包接されたシリカメソ構造体(b)である多孔質材料となる。その後、250〜300℃で5時間焼結すると、界面活性剤ミセルが離散しメソ孔から追い出され、メソポーラス材料(c)として多孔質セラミックスであるメソポーラスシリカが得られる。このメソポーラス材料(c)は、約1000m−1の比表面積を有し、直径2〜10nmの範囲で適宜制御可能な均一な細孔を持つシリカナノ空間物質である。
このメソポーラス材料(c)の1重量部と、金属錯化合物としてコバルト(II)塩6水和物のようなコバルト錯化合物の0.01〜100重量部と、水の0.1〜100重量部とを混合させ、さらにエチレングリコールなどのジアルコール化合物の0.1〜100重量部を混合させて、80〜120℃で3時間加熱すると、コバルト塩由来のコバルト錯化合物がメソポーラス材料のメソ孔内に包接された粉末状の示温材(d)が得られる。
【0026】
この示温材をガラス瓶に入れ、示温材に対して不活性な蓋で覆って封入すると、温度管理インジケータが得られる。
【0027】
金属錯化合物は、中心金属に配位子が配位したもので、コバルト錯化合物であることが好ましく、対イオンを有するコバルト錯塩化合物であると一層好ましい。その配位子や対イオンは、水分子の配位子であるアクア;配位子又は対陰イオンであるハロゲンイオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン、アジ化物イオンの何れかの1種類であってもよく、複数種であってもよい。
【0028】
金属錯化合物は、具体例には、ヘキサアクア−コバルト(II)錯イオン、それの配位子が対陰イオンと平衡移動して置換したテトラクロロ−コバルト(II)錯イオン、テトラブロモ−コバルト(II)錯イオン、テトラヨード−コバルト(II)錯イオン、テトラチオシアン酸イオン−コバルト(II)錯イオン、テトラシアン酸イオン−コバルト(II)錯イオン、テトラアジ化物イオン−コバルト(II)錯イオンなどを、錯塩イオンとして含有するものが挙げられる。
【0029】
示温材を調製する際に、エチレングリコールを用いた例を示したが、低級脂肪族モノアルコール化合物やそれ以外のジアルコール化合物のようなアルコール類や、水を含んでいてもよい。低級脂肪族モノアルコール化合物は、具体例には、メタノール、エタノール、1−ブタノール、1−プロパノールのような炭素数1〜5のものが挙げられる。ジアルコール化合物は、具体例には、エチレングリコールのような炭素数2〜5のものが挙げられる。中でも水、又はエチレングリコールが好ましい
【0030】
メソポーラス材料のメソ孔である細孔空隙を形成するためのアルキルアンモニウム塩化合物は、具体的には、下記化学式(1)
CH-(CR)m1-Nm2(CH)(3−m2) ・・・(1)
(式(1)中、m1=10〜30、m2=0〜3、R=H,CH又はCであり好ましくはHである。)
で示される陽イオンを含む化合物が挙げられる。中でもアルキル基が炭素数10〜20、特に炭素数12〜22であるn−アルキルアンモニウム塩化合物が好ましい。
【0031】
示温材は、安定性を向上させるため、その粉体の表面に樹脂コーティングする前処理が施されていてもよい。
【0032】
温度管理インジケータは、ガラス瓶に封入した例を示したが、ガラス管に封入されたり、透明な樹脂ケースや樹脂カプセルに詰められて封入されたり、高分子フィルムシートの間に挟み込まれて封入されたりしていてもよい。
【0033】
温度管理インジケータは、示温材が含まれたインジケータインキ組成物を調製し、それを基材へ印刷して吸着、吸収、又は塗布させることによって、示温材層が付されたものであってもよい。このようなインジケータインキ組成物は、示温材に、インキ用樹脂とインキ用溶媒とからなるビヒクルや、添加剤を添加して調製したものである。ビヒクルや添加剤の構成成分やその量は、印刷方法や、インキ組成物の物性を考慮して、適宜調整される。
【0034】
印刷方法は、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷、平版印刷、凸版印刷等が挙げられる。
【0035】
ビヒクルを構成するインキ用樹脂として、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸樹脂、クマリン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、MMA−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチルセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、プロピルセルロース樹脂、酢酸・酪酸セルロース樹脂、硝酸セルロース樹脂、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン6樹脂、ナイロン66樹脂、ナイロン610樹脂、ナイロン11樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンテレフタレート樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エチルセルロース、天然ゴムや合成ゴム、石油樹脂、油脂が挙げられる。またこれらは1種類であってもよいし、複数混合して用いてもよい。
【0036】
ビヒクルを構成するインキ用溶剤として、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、インキオイル、ソルベントナフサ、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、第二ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール、トリデシルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、ジペンテン、ヘプタン、メチルイソブチルカルビノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジエチルケトン、エチルアミルケトン、メチルシクロヘキサン、イソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、水などが挙げられる。またこれらは1種類であってもよいし、複数混合して用いてもよい。
【0037】
市販の印刷用ビヒクルであってもよい。そのようなビヒクルとして、F−Glossメジウム(大日本インキ化学工業株式会社の商品名)、Hy Unity Soyメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、Nouvel Maxiメジウム(大日精化工業株式会社の商品名)、Nouvel Senior Soyメジウム(大日精化工業株式会社の商品名)、Qセット200メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、No.900メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、ハイセットマットメジウム(ミノグループの商品名)、JRPメジウム(セイコーアドバンスの商品名)、PAS No.800メジウム(十条ケミカル株式会社の商品名)、FBHDメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、スチレンBメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)、NEW LPスーパーRメジウム(東洋インキ製造株式会社の商品名)が挙げられる。
【0038】
添加物として、例えばワックス、より具体的にはカルナウバろう、木ろう、みつろう、無水ラノリン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンろう、オゾケライト、ペトロラタム、ワセリン、ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレン、塩化パラフィン、脂肪酸アミドが挙げられる。
【0039】
別な添加物として、液状ドライヤ、ペーストドライヤが、挙げられる。
【0040】
別な添加剤として、分散剤、より具体的には、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリアクリル酸の部分脂肪酸エステル、アルキルアミン脂肪酸塩、アルキルジアミン、アルキルトリアミン、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルアリールスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、スチレンマレイン酸樹脂、ポリアクリル酸誘導体、水素添加ヒマシ油、アルミニウムせっけん、アルミニウムキレート、アルミニウムアルコレート、有機ベントナイト、酸化ポリエチレン、直鎖ポリアミノアミド、ポリカルボン酸アルキルアミン、アルギン酸ナトリウム、カゼイン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド、シリコーン、非イオン活性剤、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、オイゲノール、フェルノール系防かび剤、コロイダルシリカ、低分子ポリエチレン、バニリン、クマリン、はっか油、ラベンダー油、アセトフェノン、バリウム、カルシウムの金属セッケン、ポリアミド、イソシアネート、硝化綿、アンモニア水、アルコールアミン類、モルホリンが、挙げられる。
【0041】
別な添加剤として、重合性モノマー、重合開始剤、より具体的にはベンゾインエーテル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤などが、挙げられる。
【0042】
さらに別な添加物として、温度に応じた示温材の色調の変化を際立たせたり目視し易い色調に整えたりする調整顔料、より具体的には、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、アルミナホワイト(Al23・xH2O)、クレー、沈降性硫酸バリウム、グロスホワイト、ファストイエローG、ファストイエロー10G、ジスアゾイエローAAA、ジスアゾイエローAAMX、ジスアゾイエローAAOT、黄色酸化鉄、ジスアゾイエローHR、ジニトロアニリンオレンジ、ジスアゾオレンジPMP、ジスニシジンオレンジ、トルイジンレッド、塩素化パラレッド、ビリリアントファストスカーレット、ピラゾロンレッドB、バリウムレッド2B、カルシウムレッド2B、バリウムリソールレッド、レーキレッドC、ブリリアンカーミン6B、ピグメントスカーレット3Bレーキ、ローダミン6G PTMA トーナー、べんがら、ナフトールレッドFGR、キナクリドンマゼンダ、ローダミンB PTMA トーナー、メチルバイオレット PTMA トーナー、キナクリドンレッド、ジオキサジンバイオレット、ビクトリアピュアブルー PTMA トーナー、フタロシアニンブルー、アルカリブルートーナー、紺青、群青、ブリリアントグリーン PTMA トーナー、ダイヤモンドグリーン PTMA トーナー、フタロシアニングリーン、カーボンブラック、亜鉛華、アルミニウム粉、ブロンズ粉、昼光蛍光顔料、パール顔料などが、挙げられる。
【0043】
これらの添加剤は、印刷適性やインキ適性に応じ必要に応じて適宜用いられるもので、1種類を用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0044】
温度管理インジケータは、示温材又はそれが含まれたインジケータインキ組成物を、紙、布、フィルム、皮革のような平面構造の基材、樹脂塊、ガラス塊、金属塊、鉱物、セメントのような立体構造の基材上の、一部又は全部に吸着、吸収、塗布されたものであってもよい。
【0045】
温度管理インジケータは、以下のようにして使用される。
【0046】
温度管理すべき被験物に、温度管理インジケータを貼付する。温度管理インジケータごと被験物を加熱すると、所期の温度に達したときに、インジケータの色調が変化し、更に加熱してもその色調のまま維持される。その後、温度管理インジケータごと被験物を放冷すると、所期の温度に達したときに、インジケータの色調が変化して復色し、更に放冷しても復色した色調のまま維持される。
【0047】
温度変化に応じて、このインジケータ中の示温材が変色するメカニズムの詳細は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。金属錯化合物としてコバルト錯化合物である臭化コバルト(II)・6水和物を用いた例により、模式的に示した図2を参照しながら説明する。
【0048】
この示温剤のメソポーラス材料は、その二酸化ケイ素(SiO)が規則正しく配列して、メソ孔を有する蜂の巣状に形成された構造を有している。そこに臭化コバルトに由来する金属錯化合物が包接されている。
【0049】
示温材が比較的低温に曝されていると、その金属錯化合物は、中心金属のコバルト原子に中性配位子であるアクア配位子(HO)が配位結合したアクアコバルト錯化合物([Co(OH)]2+・2Br)を形成している。このアクアコバルト錯化合物は、桃色を示す正八面体構造である。このとき示温材は、全体として桃色を呈している。
【0050】
示温材が徐々に加熱されると、アクアコバルト錯化合物の分子内水素結合が弱まって配位結合が弱まりアクア配位子が解離し、メソポーラス材料のメソ孔内に存在する臭化物イオン(Br)のような別な配位子と置換され易くなる。アクアコバルト錯化合物は、その配位子であるアクアが臭化物イオンに置換する活性状態となる境界温度を超えると、ハロゲン化コバルト錯体イオン([CoBr]2−)を有し青色を呈するハロゲン化コバルト錯化合物となる。ハロゲン化コバルト錯体イオンは、正四面体構造で安定化し、このとき示温材は、全体として青色を呈している。
【0051】
逆に、加熱後、冷却する場合も、同様に境界温度を超えると、示温材が変色して桃色に復色する。その結果、示温材は、温度変化に応じて、何度でも可逆的に色調が変化する。
【実施例】
【0052】
以下に、示温材と、それを用いた温度管理インジケータとを、試作した実施例を示す。
【0053】
(実施例1)
オルトけい酸テトラエチル100gと、n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム ブロミド12gと、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド36g、水1300gとを、撹拌機で混合し、均一に分散させる。
【0054】
この分散混合液を、100℃で48時間還流し、その沈殿物をろ過して取り出し270℃のオーブンで5時間焼結すると、メソポーラス材料が得られた。
【0055】
得られたメソポーラス材料のX線回折測定を行った。X線回折測定の結果から、このメソポーラス材料は、蜂の巣状に正六角形のメソ孔が直線方向に結晶化した2D−ヘキサゴナルの構造を有していることがわかった。また、得られたメソポーラス材料について、BJH法による比表面積測定を行った。比表面積測定の結果から、このメソポーラス材料は、930m/gの比表面積を有していることがわかった。
【0056】
このメソポーラス材料10gと、臭化コバルト(II)・6水和物1gと、水10gとを十分に混合した。それに、エチレングリコール25gを加え十分に混合し、100℃のオーブンで3時間加熱した。冷却後、それに、エチレングリコール15gを加え十分に混合し、100℃のオーブンで3時間加熱した。冷却後、それをアセトンで洗浄すると、粉末状の桃色の示温材が得られた。その示温材1gをガラス瓶に入れ、蓋で密封すると、温度管理インジケータが得られた。
【0057】
この温度管理インジケータを温度ヒータによって加熱すると、約40℃で桃色を呈していたが、更に加熱を続けると、約100℃で青色に変色した。青色に変色した温度管理用インジケータを冷却すると、再び桃色に戻り、可逆変色性を示した。この結果から明らかなように、温度管理インジケータは、特定の温度で特異的に変色するものである。
【0058】
(実施例2)
実施例1で調製したメソポーラス材料0.5gと、臭化コバルト(II)・6水和物0.6gと、水4mLと、エチレングリコール10mLとを加え十分に混合し、130℃のオーブンで3時間加熱した。冷却後、桃色の粉末状示温材が得られる。この示温材は、粉末固体のままでも、温度によって可逆的に青色に変色するため、目的とする示温材が得られた。
【0059】
(実施例3)
実施例1で得られた示温材3gを、基材である30mm四方の白色不透明の両面粘着材付きポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(住友スリーエム株式会社製)の上に、縁を除いて均一に載せた。それに、上から同形の透明のPETフィルムを挟み込み、ラベル状の温度管理インジケータを得た。
【0060】
この温度管理インジケータを、被験物に貼付した。この温度管理インジケータは、常温で桃色を呈していたが、100℃で青色に変色し、被験物の温度検知をする事ができた。青色に変色した温度管理用インジケータを常温まで冷却すると、再び桃色に戻り、可逆変色性を示した。この温度管理インジケータに、上記の加熱と冷却とを10回繰り返したが、初回と同様に、可逆変色性を示した。
【0061】
(実施例4)
実施例1で得られた示温材を10g、メジウムとしてPAS No.800メジウム(十条ケミカル株式会社製;商品名)10g、溶剤としてブチルセロソルブ5gをライカイ機で5分間撹拌および混練を行った。出来上がった示温インクを、スクリーン印刷板(メッシュ150)で、粘着材付き上質紙(上質紙55)にスクリーン印刷した。1昼夜、自然乾燥後、表面に示温材が印刷された薄桃色の温度管理用インジケータを得た。
【0062】
この温度管理用インジケータを、ヒータで加熱すると100℃で水色に変色した。冷却後、元の薄桃色に復色した。また、この上記の加熱と冷却とを10回繰り返したが、初回と同様に、可逆変色性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の示温材を用いた温度管理インジケータは、特定の温度域により色変化を起こすため、機械・器具の過熱を検知することによる破損の防止、加熱した日用品の温度を表示することによる火傷の防止、風呂の湯温の調整など、工業製品の製造過程や日常生活での様々な温度管理を行う際に、用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明を適用する示温材の調製手順を示す概要図である。
【図2】本発明を適用する示温材の色調の変化のメカニズムを示す概要図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソポーラス材料と、温度変化に応じ錯体構造が変化して変色する金属錯化合物とを含み、該金属錯化合物の少なくとも一部が該メソポーラス材料のメソ孔内に包接されていることを特徴とする示温材。
【請求項2】
前記金属錯化合物中の配位子が別な配位子に置換することによって、前記錯体構造が変化することを特徴とする請求項1に記載の示温材。
【請求項3】
前記金属錯化合物が、コバルト錯化合物であることを特徴とする請求項1に記載の示温材。
【請求項4】
前記メソポーラス材料を1重量部、前記金属錯化合物を0.01〜500重量部とすることを特徴とする請求項1に記載の示温材。
【請求項5】
アルコール類及び/又は水を、含んでいることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の示温材。
【請求項6】
前記アルコール類が、モノアルコール化合物及び/又はジアルコール化合物であることを特徴とする請求項5に記載の示温材。
【請求項7】
前記メソポーラス材料、前記アルコール類、及び前記水を夫々、最大で100重量部とすることを特徴とする請求項5に記載の示温材。
【請求項8】
前記金属錯化合物が、アクア、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン、及び/又はアジ化物イオンを有していることを特徴とする請求項1に記載の示温材。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の示温材が、ガラス管、ガラス瓶、樹脂ケース又は樹脂カプセルに封入され、又は樹脂フィルムシートに挟み込まれて封入されていることを特徴とする温度管理インジケータ。
【請求項10】
請求項1〜8の何れかに記載の示温材を含んでいるインジケータインキ組成物が、基材の少なくとも一部に、吸着、吸収及び/又は塗布されていることを特徴とする温度管理インジケータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−185086(P2009−185086A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22999(P2008−22999)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(305013910)国立大学法人お茶の水女子大学 (32)
【Fターム(参考)】