説明

神経代謝性疾患についての遺伝子治療

【課題】中枢神経系を冒すリソソーム蓄積症を含む神経代謝性疾患、例えば、ニーマン-ピックA病を処置するための方法の提供。
【解決手段】リソソーム加水分解酵素やメタロエンドペプチダーゼをコードする導入遺伝子を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む組成物で、かつAAVベクターが逆行性様式で軸索性に輸送されて、導入遺伝子産物が投与部位より遠位に発現されるように、ニューロンの軸索末端を、治療的導入遺伝子を有する高力価AAVを含む組成物と接触させる段階を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、中枢神経系(CNS)を冒す疾患を処置するための組成物および方法に関する。本発明はさらに、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのようなウイルスベクターを含む組成物およびそれらの投与の方法に関する。なお、本出願は、本明細書に参照として組み入れられている、2003年5月1日に出願された米国特許出願第60/467,195号、および2003年6月4日に出願された米国特許出願第60/475,726号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
リソソーム蓄積症として知られた代謝性疾患(LSD)の群は、40個を超える遺伝性疾患を含み、それらの多くは、様々なリソソーム加水分解酵素における遺伝的欠損を含む。代表的なリソソーム蓄積症およびその関連する欠損酵素は、表1に列挙されている。
【0003】
【表1】

*CNS関与
【0004】
LSDの顕著な特徴とは、周核体における多数の膨張したリソソームの形成につながる、リソソームにおける代謝産物の異常な蓄積である。(肝臓特異的酵素病を処置することとは対照的な)LSDを処置するための大きな課題とは、複数の別々の組織においてリソソーム蓄積病態の逆転が必要であることである。一部のLSDは、酵素補充療法(ERT)として知られている、欠損酵素の静脈内注射により、効果的に処置されうる。例えば、ゴーシェ病1型患者は、内臓疾患しか有さず、組換えグルコセレブロシダーゼ(Cerezyme(登録商標)、Genzyme Corp.)を用いたERTに対して順調に応答する。しかしながら、CNSを冒す代謝性疾患(例えば、ゴーシェ病2型または3型)を有する患者は、血液脳関門(BBB)により補充酵素が脳へ入るのを妨げられるため、静脈内ERTに対して応答しない。さらに、直接的注入により脳へ補充酵素を導入する試みは、脳における高い局所濃度での酵素細胞毒性(未発表の観察)および制限された実質性拡散速度(Pardridge, Peptide Drug Delivery to the Brain, Raven Press, 1991(非特許文献1))のせいで、一部不成功に終わった。
【0005】
遺伝子治療は、LSDを含むCNSを冒す疾患についての先端治療法である。このアプローチにおいて、正常な代謝経路の回復および病態の反転は、健康な型の遺伝子を有するベクターを罹患細胞に形質導入することにより生じる。CNS遺伝子治療は、分裂終了ニューロンを効果的に感染させる能力があるウイルスベクターの開発により促進された。CNSへの遺伝子送達のためのウイルスベクターの概説については、Davidson et al. (2003) Nature Rev., 4:353-364(非特許文献2)を参照されたい。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、実質的に非毒性、非免疫原性、向神経性であり、かつCNSにおいて長期発現を持続させることができるため、CNS遺伝子治療に最適であると考えられる(Kaplitt et al. (1994) Nat. Genet., 8:148-154(非特許文献3); Bartlett et al. (1998) Hum. Gene Ther., 9:1181-1186(非特許文献4);およびPassini et al. (2002) J. Neurosci., 22:6437-6446(非特許文献5))。
【0006】
治療的導入遺伝子産物、例えば酵素は、形質導入された細胞により分泌され、続いて、他の細胞により取り込まれることができ、これがその後病態を軽減する。この過程は交差補正として知られている(Neufeld et al. (1970) Science, 169:141-146(非特許文献6))。しかしながら、注入されるベクターおよび分泌される導入遺伝子産物の限定的な実質性拡散のために、LSDに関する蓄積病態のような病態の補正は、典型的には、注入部位のすぐ近傍に限定される(Taylor et al. (1997) Nat. Med., 3:771-774(非特許文献7); Skorupa et al. (1999) Exp. Neurol., 160:17-27(非特許文献8))。従って、特にヒトのような大脳において、複数の脳領域を冒している神経病態には、複数の空間的に分配される注入を用いた広範なベクター送達が必要である。これは、脳損傷のリスクを有意に増加させる。さらに、脳のいくつかの領域は、外科的にアクセスすることが困難である場合がある。従って、拡散以外の、CNS内へのベクター輸送の他の様式が有益であると考えられる。
【0007】
軸索末端に投与される場合、いくつかのウイルスが内部に取り入れられ、軸索に沿って核へと逆行して輸送される。1つの脳領域におけるニューロンは、軸索により遠位の脳領域へ相互接続され、それにより、ベクター送達のための輸送系を提供する。アデノウイルス、HSVおよび仮性狂犬病ウイルスに関する研究は、脳内の遠位構造へ遺伝子を送達しうるこれらのウイルスの輸送性質を利用した(Soudas et al. (2001) FASEB J., 15:2283-2285(非特許文献9); Breakefield et al. (1991) New Biol., 3:203-218(非特許文献10);およびdeFalco et al. (2001) Science, 291:2608-2613(非特許文献11))。しかしながら、例えば免疫原性および/または細胞毒性など、これらのウイルスベクターに付随した欠点は、それらの利用を制限する。
【0008】
いくつかのグループにより、AAV血清型2(AAV2)による脳の形質導入が心臓内の注入部位に限定されることが報告された(Kaplitt et al. (1994) Nat. Genet. 8:148-154(非特許文献3); Passini et al. (2002) J. Neurosci., 22:6437-6446(非特許文献5);およびChamberlin et al. (1998) Brain Res., 793:169-175(非特許文献12))。ある最近の報告では、AAV2の逆行性軸索輸送がまた、正常なラット脳の選ばれた回路において起こりうることが示唆されている(Kaspar et al. (2002) Mol. Ther., 5:50-56(非特許文献13))。しかしながら、観察された軸索輸送の原因がどの特定のパラメーターであるか、および、細胞機能不全状態にある罹患ニューロンにおいて、十分かつ効果的な軸索輸送が起こるかどうかは分かっていない。実際に、LSDニューロンにおいて観察される病変が軸索輸送に干渉すること、または遮断さえすることが報告され(Walkley (1998) Brain Pathol., 8:175-193(非特許文献14)に概説されている)、疾患易感染性(disease-compromised)ニューロンがそれらの軸索に沿ったAAV輸送を支持しないと考えられることを示唆している。
【0009】
それゆえに、当技術分野において、CNSを冒す代謝性疾患を処置するための新しい治療方法を開発することが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Pardridge, Peptide Drug Delivery to the Brain, Raven Press, 1991
【非特許文献2】Davidson et al. (2003) Nature Rev., 4:353-364
【非特許文献3】Kaplitt et al. (1994) Nat. Genet., 8:148-154
【非特許文献4】Bartlett et al. (1998) Hum. Gene Ther., 9:1181-1186
【非特許文献5】Passini et al. (2002) J. Neurosci., 22:6437-6446
【非特許文献6】Neufeld et al. (1970) Science, 169:141-146
【非特許文献7】Taylor et al. (1997) Nat. Med., 3:771-774
【非特許文献8】Skorupa et al. (1999) Exp. Neurol., 160:17-27
【非特許文献9】Soudas et al. (2001) FASEB J., 15:2283-2285
【非特許文献10】Breakefield et al. (1991) New Biol., 3:203-218
【非特許文献11】deFalco et al. (2001) Science, 291:2608-2613
【非特許文献12】Chamberlin et al. (1998) Brain Res., 793:169-175
【非特許文献13】Kaspar et al. (2002) Mol. Ther., 5:50-56
【非特許文献14】Walkley (1998) Brain Pathol., 8:175-193
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明は、リソソーム蓄積症(LSD)などの、CNS機能減衰のリスクを特徴とするまたは伴う代謝性疾患を処置するまたは予防するための方法および組成物を提供する。
【0012】
本発明はさらに、罹患対象の脳において領域を選択しうる導入遺伝子の最小限侵襲的標的化送達のための方法を提供する。
【0013】
本発明のさらなる利点は、部分的に以下の説明において示され、かつ部分的に、説明から理解されるまたは本発明の実施により学ばれうる。
【0014】
本発明へとつながる実験において、ニーマン-ピックA型病のモデルである酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)ノックアウトマウスに、脳の1つの半球への単回の頭蓋内注入により、ヒトASM遺伝子を有するAAV2ベクター(AAV-ASM)を投与した。本発明は、罹患脳への高力価AAV-ASMの注入が結果として、注入部位に神経を分布する投射ニューロンの組織分布的構成と一致したパターンで複数の遠位部位内にAAV-ASM発現を生じるという発見および実証に、部分的に、基づいている。本発明はさらに、注入部位における、および、AAV-ASMが輸送されてASMが発現されたすべての遠位部位における、リソソーム蓄積病態の広範な補正の発見ならびに実証に、部分的に、基づいている。
【0015】
従って、一つの局面において、本発明は、哺乳動物における神経代謝性疾患を処置するための方法を提供する。本発明の方法により処置される個体群は、表1に列挙された疾患などのLSDを有するまたは発症するリスクがある患者を、そのような疾患がCNSを冒す場合には特に、非限定的に含む。例証的態様において、疾患はニーマン-ピックA病である。
【0016】
一つの局面において、開示された方法は、治療的産物をコードする導入遺伝子を有するAAVウイルスベクターを罹患対象のCNSに投与すること、および、導入遺伝子を治療的レベルで投与部位から遠位にCNS内に発現させることを含む。例証的態様において、投与は、罹患脳への高力価AAVベクター溶液の直接的実質内注入により達成される。その後、導入遺伝子は、投与部位から少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45または50 mmにおいて治療的レベルで、投与部位に対して遠位に、対側性にまたは同側性に発現される。
【0017】
もう一つの局面において、本発明はまた、インビボで、疾患易感染性ニューロンの核へ組換えAAVゲノムを送達する方法を提供する。いくつかの態様において、ニューロンにより示される細胞性病態は、表1に列挙された疾患などのリソソーム蓄積症の病態である。例証的態様において、疾患は、ニーマン-ピックA病である。組換えAAVゲノムを疾患易感染性ニューロンの核へ送達する方法は、疾患易感染性ニューロンの軸索末端を、組換えAAVゲノムを含むAAVウイルス粒子を含む組成物に接触させること、および、ウイルス粒子を、エンドサイトーシスによって取り込ませて、軸索に沿ってニューロンの核へ逆行して細胞内輸送させることを含む。組成物におけるベクターの濃度は、少なくとも以下である:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1012 gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×109 tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1010 iu/ml)。特定の態様において、ニューロンは投射ニューロンであり、かつ/または軸索末端からニューロンの核までの距離が少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45または50 mmである。
【0018】
もう一つの局面において、本発明は、神経代謝性疾患、例えばCNSを冒すLSDに罹患した哺乳動物において、ニューロンまたはグリア細胞である、CNSの標的細胞へ治療的導入遺伝子産物を送達する方法を提供する。本方法は、ニューロンの軸索末端を、治療的導入遺伝子産物をコードする遺伝子の少なくとも一部を有するAAVベクターを含む組成物に接触させること、ウイルス粒子を、エンドサイトーシスによって取り込ませて、軸索に沿ってニューロンの核へ逆行して細胞内輸送させること;治療的導入遺伝子産物をニューロンにより発現させて分泌させること、および、標的細胞が治療的導入遺伝子産物を取り込むのを可能にし、それによって治療的導入遺伝子産物が標的細胞における病態を軽減することを含む。特定の態様において、組成物におけるベクターの濃度は、少なくとも以下である:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1012 gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×109 tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1010 iu/ml)。
【0019】
本発明の方法において、治療的導入遺伝子は、生物活性のある分子をコードし、CNSにおけるその発現は、結果として、少なくとも一部分、神経病態の補正を生じる。いくつかの態様において、治療的導入遺伝子産物は、リソソーム加水分解酵素である。例証的態様において、リソソーム加水分解酵素はASMである。他の態様において、治療的導入遺伝子は、メタロエンドペプチダーゼ、例えばネプリリシンである。
【0020】
前記の一般的説明および以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明のためのみであり、主張されている本発明を限定するものではないことは、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】高力価(9.3×1012 gp/ml)AAV-ASMの海馬への2 μl注入後5週間目または15週間目における、ASMKOマウス脳の横断面の表示を描く。注入の部位は、垂直線により示されている。インサイチューハイブリダイゼーションにより検出される場合のASM mRNA発現は、小さい方の円により表されている。免疫組織化学的染色により検出される場合のASMタンパク質発現は、大きい方の影付きの円により表されている。発現パターンは、結果として、脳の両半球における海馬および皮質領域での広範な領域の病態の反転(薄い影で表されている)を生じた。
【図1B】図1Aについて記載されているような海馬への高力価AAV注入後の、マウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を描く。海馬(10)への注入は、結果として、海馬内回路を通しての対側性海馬(20)への、および内嗅歯状回回路を通しての内嗅皮質(30)へのウイルスベクターの軸索輸送を生じた。注入の部位は垂直線により示されている。
【図1C】マウス脳の海馬内および内嗅歯状回の回路の接続を示す概略図である。海馬(10)への注入は、結果として、アンモン角領域3(CA3)および歯状回顆粒細胞層(G)に位置する細胞体の感染および形質導入を生じる。さらに、注入されたAAVベクターのサブセットは、注入部位に神経を分布する投射ニューロンの軸索末端を感染させ、逆行性軸索輸送を受けて、導入遺伝子を、海馬の対側性部分(20)におけるCA3野(CA3)および門(H)へ、ならびに同側性に内嗅皮質(30)において、送達する。
【図2A】図1Aに記載されているように高力価AAV-ASMの海馬内注入後5週間目または15週間目における、ASMKOマウス脳の横断面の表示を描く。インサイチューハイブリダイゼーションにより検出される場合のASM mRNA発現は、小さい方の円により表されており、免疫組織化学的染色により検出される場合のASMタンパク質発現は、大きい方の影付きの円により表されている。注入は結果として、中隔に検出されうるASM mRNAおよびタンパク質を生じた。この発現パターンは、結果として、広範な領域の病態の反転(薄い影で表されている)を生じた。
【図2B】図1Aについて記載されているように海馬への高力価注入後、マウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を描く。海馬(10)への注入は、結果として、注入部位(垂直線により表されている)から中隔(40)までの中隔海馬回路を通してのウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【図2C】中隔海馬回路の接続を示す概略図である。海馬への注入は、結果として、CA3野(11)に位置する細胞体への形質導入を生じた。さらに、AAVベクターのサブセットは、注入部位に神経を分布する投射ニューロンの軸索末端を感染させ、逆行性軸索輸送を受けて、導入遺伝子を内側中隔(40)へ送達する。
【図3】マウス脳の線条(50)へのAAVの高力価注入後の黒質線条回路におけるAAVの軸索輸送を描く。AAVの軸索輸送は、注入部位(垂直線により表されている)から黒質(60)まで起きる。
【図4】ASMKOマウス脳の小脳(70)へのAAV-ASMの高力価注入後の髄質小脳回路におけるAAVの軸索輸送を描く。AAV2の軸索輸送は、注入部位(垂直線により表されている)から延髄(80)まで起きる。
【図5】同側性海馬(10)におけるAAV7-ASMの高力価注入後の海馬内、黒質線条および内嗅歯状回の回路におけるAAVの軸索輸送を描く。形質導入された細胞は、インサイチューハイブリダイゼーションにより測定される場合、同側性海馬のAAV7-ASM注入(垂直線により表されている)後、対側性海馬(90)、内側中隔(40)および内嗅皮質(100)の吻側-尾側の軸全体に沿って、検出された。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明がより容易に理解されるために、特定の用語を、まず第一に定義する。追加の定義は詳細な説明を通して示される。
【0023】
「導入遺伝子」という用語は、細胞へ導入され、適切な条件下で発現される能力があり、かつそれが導入された細胞に所望の性質を与える、またはさもなくば、所望の治療的結果へ導く、ポリヌクレオチドを指す。
【0024】
ウイルス力価に関して用いられる場合、「ゲノム粒子(gp)」または「ゲノム等価物」という用語は、伝染性または機能性にかかわらず、組換えAAV DNAゲノムを含むビリオンの数を指す。特定のベクター調製物におけるゲノム粒子の数は、本明細書の実施例、または、例えば、Clark et al. (1999) Hum. Gene Ther., 10:1031-1039; Veldwijk et al. (2002) Mol. Ther., 6:272-278に記載されているような手順により測定されうる。
【0025】
ウイルス力価に関して用いられる場合、「感染単位(iu)」、「感染性粒子」または「複製単位」という用語は、例えば、McLaughlin et al. (1988) J. Virol., 62:1963-1973に記載されているような複製中心アッセイとしても知られている、感染中心アッセイにより測定される感染性で複製コンピテントな組換えAAVベクター粒子の数を指す。
【0026】
ウイルス力価に関して用いられる場合、「形質導入単位(tu)」という用語は、本明細書の実施例、または、例えば、Xiao et al. (1997) Exp. Neurobiol., 144:113-124;もしくはFisher et al. (1996) J. Virol., 70:520-532 (LFUアッセイ)に記載されているような機能アッセイにおいて測定される機能性導入遺伝子産物の産生をもたらす感染性組換えAAVベクター粒子の数を指す。
【0027】
「治療的な」、「治療的有効量の」という用語およびそれらの同族言語は、対象における神経代謝性疾患の発症の予防もしくは遅延または症状の改善、または、神経病態、例えば、本明細書またはWalkley (1998) Brain Pathol., 8:175-193に記載されたもののようなリソソーム蓄積症に関連した細胞性病態の補正のような、所望の生物学的結果の達成を生じる化合物の量を指す。「治療的補正」という用語は、対象において神経代謝性疾患の発症の予防もしくは遅延または症状の改善をもたらす補正のその程度を指す。有効量は、当技術分野において周知の方法により、次のセクションに記載されているように、決定されうる。
【0028】
方法および組成物
本発明へつながる実験において、酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)ノックアウトマウス(ASMKO)が用いられた。ASMKOマウスは以前に記載されており、A型およびB型ニーマン-ピック病の一般に認められたモデルである(Horinouchi et al. (1995) Nat. Genetics, 10:288-293; Jin et al. (2002) J. Clin. Invest., 109:1183-1191;およびOtterbach (1995) Cell, 81:1053-1061)。ニーマン-ピック病(NPD)は、リソソーム蓄積症として分類され、酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンホスホヒドロラーゼ;EC 3.1.3.12)の遺伝的欠損を特徴とする遺伝性神経代謝性疾患である。機能性ASMタンパク質の欠乏は、結果として、脳中のニューロンおよびグリアのリソソーム内にスフィンゴミエリン基質の蓄積を生じる。これは、A型NPDの顕著な特徴で一次細胞性表現型である、核周部における多数の膨張したリソソームの形成をもたらす。膨張したリソソームの存在は、正常な細胞機能の損失、および罹患した幼児個体の死をもたらす進行性神経変性経過と相関している(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, eds. Scriver et al., McGraw-Hill, New York, 2001, pp. 3589-3610)。二次細胞性表現型(例えば、追加の代謝異常)もまた、この疾患と関連しており、著しくは、リソソーム区画におけるコレステロールの高レベルの蓄積である。スフィンゴミエリンは、コレステロールへの強い親和性をもち、結果として、ASMKOマウスおよびヒト患者のリソソームにおいて多量のコレステロールの隔離を生じる(Leventhal et al. (2001) J. Biol. Chem., 276:44976-44983; Slotte (1997) Subcell. Biochem., 28:277-293;およびViana et al. (1990) J. Med. Genet., 27:499-504)。
【0029】
本発明は、ASMKOマウスの罹患脳への高力価AAV-ASMの海馬内注入が結果として、注入部位に神経を分布する投射ニューロンの組織分布的構成と一致したパターンで注入部位から遠位にASM mRNAおよびタンパク質の発現を生じるという発見および実証に、部分的に、基づいている。注入の部位における強い発現に加えて、ASM mRNAおよびタンパク質はまた、同側性の(注入された)海馬の外側のいくつかの遠位領域において、特に、対側性の海馬の歯状回およびCA3、ならびに内側中隔ならびに内嗅皮質において、検出される。本発明はさらに、遠位部位におけるリソソーム蓄積病態の広範な補正の発見および実証に、部分的に、基づいており、それにより、より少数の注入部位を通してより大量の補正を可能にする。
【0030】
従って、一つの局面において、本発明は、哺乳動物において神経代謝性疾患を処置するための方法を提供する。本発明の方法により処置される個体群は、限定されるわけではないが、神経代謝性疾患、例えば、表1に列挙された疾患のようなLSDを有するまたは発症するリスクがある患者を、そのような疾患がCNSを冒す場合には特に、含む。例証的態様において、疾患は、A型ニーマン-ピック病である。特定の態様において、神経代謝性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、テイ-サックス病、レッシュ-ナイハン病およびクロイツフェルト-ヤコブ病を除外しうる。しかしながら、治療的導入遺伝子としてメタロエンドペプチダーゼを利用する本発明の方法は、特に、アルツハイマー病およびアミロイド関連疾患の処置に向けられる。
【0031】
いくつかの態様において、神経代謝性疾患を処置する方法は、導入遺伝子産物が第一部位より遠位のCNS内の第二部位において治療的レベルで発現されるような、治療的導入遺伝子を有する高力価AAVベクターの投与を含む。いくつかの態様において、組成物のウイルス力価は、少なくとも以下である:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1012 gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×109 tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1010 iu/ml)。さらなる態様において、投与は、罹患脳への高力価AAVベクター溶液の直接的実質内注入により達成され、その後、導入遺伝子は、投与部位から少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45または50 mmにおいて治療的レベルで、投与部位に対して遠位に、対側性にまたは同側性に発現される。
【0032】
第一部位と第二部位の間の距離は、投与の部位(第一部位)と、当技術分野において公知のまたは実施例に記載されているような手順、例えばインサイチューハイブリダイゼーションを用いて測定される、遠位部位の検出可能な形質導入の境界(第二部位)の間の最小距離領域として定義される。より大きな哺乳動物のCNSにおけるいくつかのニューロンは、それらの軸索投射により大きい距離に広がりうる。例えば、ヒトにおいて、いくつかの軸索は、1000 mmまたはそれ以上の距離に広がりうる。このように、本発明の様々な方法において、AAVは、そのような距離で軸索の全長に沿って軸索性に輸送され、親細胞体に達してこれを形質導入することができる。
【0033】
CNS内のベクター投与の部位は、神経病態の所望の標的領域、ならびに投与部位および標的部位が軸索接続を有する限りにおいて含まれる脳巡回の位相幾何学に基づいて選択される。標的領域は、例えば、3次元定位座標を用いて定義されうる。いくつかの態様において、投与部位は、注入されるベクターの総量の少なくとも0.1、0.5、1、5または10%が、少なくとも1、200、500、または1000 mm3の標的領域において遠位に送達されるように選択される。投与部位は、脳の遠位領域を接続する投射ニューロンにより神経を分布される領域に局在しうる。例えば、黒質および腹側被蓋野は、尾状核および被殻(集合的に線条として知られる)へ密集した投射を送る。黒質および腹側被蓋野内のニューロンは、線条への注入後AAVの逆行性輸送により形質導入のための標的にされうる。もう一つの例として、海馬は、脳の他の領域から明確な予想できる軸索投射を受ける。他の投与部位は、例えば、脊髄、脳幹(髄質および橋)、中脳、小脳、間脳(視床、視床下部)、終脳(線条、大脳皮質、または皮質内の後頭葉、側頭葉もしくは前頭葉)、またはそれらの組み合わせに局在しうる。
【0034】
ヒト脳における構造の同定について、例えば、The Human Brain: Surface, Three-Dimensional Sectional Anatomy With MRI, and Blood Supply、第2版、eds. Deuteron et al., Springer Vela, 1999; Atlas of the Human Brain, eds. Mai et al., Academic Press, 1997;およびCo-Planar Stereotaxic Atlas of the Human Brain: 3-Dimensional Proportional System: An Approach to Cerebral Imaging, eds. Tamarack et al., Thyme Medical Pub., 1988を参照されたい。マウス脳における構造の同定については、例えば、The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates、第2版、Academic Press, 2000を参照されたい。必要なら、ヒト脳構造は、別の哺乳動物の脳における類似した構造と関連づけられうる。例えば、ヒトおよび齧歯類を含むたいていの哺乳動物は、内嗅-海馬投射の類似した組織分布的構成を示し、外側および内側内嗅皮質の両方の外側部におけるニューロンは、海馬の背部または中隔極に投射するが、腹側海馬への投射は、主として、内嗅皮質の内側部におけるニューロンから生じる(Principles of Neural Science、第4版、eds Kandel et al., Mcgraw-Hill, 1991; The Rat Nervous System、第2版、ed. Paxinos, Academic Press, 1995)。さらに、内嗅皮質のII層細胞は、歯状回に投射し、それらは、歯状回の分子層の外側3分の2で終止する。III層細胞からの軸索は、海馬のアンモン角領域CA1およびCA3へ両側性に投射し、網状層の分子層で終止する。
【0035】
第二(標的)部位は、CNSの任意の領域に位置しうり、第一(投与)部位に投射するニューロンを含む脳および脊髄を含む。いくつかの態様において、第二部位は、黒質、延髄、または脊髄から選択されるCNSの領域内にある。
【0036】
中枢神経系の特定の領域へ、特に脳の特定の領域へ、特異的にベクターを送達するために、それは、定位微量注入により投与されうる。例えば、手術の日に、患者は、定位フレームベースを所定の位置に固定される(頭蓋へねじで締められる)。定位フレームベース(基準マーキングによるMRI適合性)を有する脳は、高分解能MRIを用いて画像化される。MRI画像は、その後、定位ソフトウェアを実行するコンピューターへ移される。一連の冠、矢状縫合および軸の画像は、ベクター注入および軌道の標的部位を測定するために用いられる。ソフトウェアは、軌道を、定位フレームに適切な3次元座標へ直接的に変換する。侵入部位の上にバーホールが開けられ、定位固定装置が配置されて、針は所定の深さで埋め込まれる。薬学的に許容される担体中のベクターが、その後、注入される。AAVベクターは、その後、一次標的部位への直接的注入により投与され、軸索を通して遠位標的部位へ逆行して輸送される。追加の投与経路が用いられうり、例えば、直接的可視化下の表面的皮質適用、または他の非定位的適用である。
【0037】
投与される物質の総容量および投与されるベクター粒子の総数は、遺伝子治療の公知の局面に基づいて当業者により決定される。治療的有効性および安全性は、適切な動物モデルにおいて試験されうる。例えば、LSDについては様々な十分特徴付けられた動物モデル、例えば、本明細書に、またはWatson et al. (2001) Methods Mol. Med., 76:383-403;またはJeyakumar et al. (2002) Neuropath. Appl. Neurobiol., 28:343-357に記載されているものが存在する。
【0038】
実験マウスにおいて、注入されるAAV溶液の総容量は、例えば、1 μl〜5 μlの間である。ヒト脳を含む他の哺乳動物について、容量および送達速度は、適切に計測される。例えば、150 μlの容量が霊長類脳に安全に注入されうることが実証された(Janson et al. (2002) Hum. Gene Ther., 13:1391-1412)。処置は、標的部位あたり単回の注入からなりうるか、または必要な場合には、注入路に沿って繰り返されうる。複数の注入部位を用いてもよい。例えば、いくつかの態様において、第一投与部位に加えて、導入遺伝子を有するAAVを含む組成物は、第一投与部位に対して対側性または同側性でありうる別の部位へ投与される。
【0039】
もう一つの局面において、本発明は、インビボで、疾患易感染性ニューロンの核へ、逆行性軸索輸送によって、組換えAAVゲノムを送達する方法を提供する。いくつかの態様において、ニューロンにより示される細胞性病態は、表1に列挙されているようなLSDの病態である(例えば、Walkley (1998) Brain Pathol., 8:175-193参照)。例証的態様において、疾患はニーマン-ピックA病である。組換えAAVゲノムを疾患易感染性ニューロンの核へ送達する方法は、疾患易感染性ニューロンの軸索末端を、組換えAAVゲノムを含むAAVウイルス粒子を含む組成物に接触させること、および、ウイルス粒子を、エンドサイトーシスによって取り込ませて、軸索に沿ってニューロンの核へ逆行して細胞内輸送させることを含むが、ここで、組成物におけるAAVゲノムの濃度は、少なくとも以下である:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1012 gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×109 tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1010 iu/ml)。特定の態様において、ニューロンは投射ニューロンであり、かつ/または、軸索末端からニューロンの核までの距離が少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45または50 mmである。様々な態様において、AAVゲノムは、軸索の長さに依存して変化する距離で、軸索の全長に沿って輸送される。ヒトにおいて、これらの距離は、1000 mmまたはそれ以上程度でありうる。
【0040】
もう一つの局面において、本発明は、神経代謝性疾患、例えば表1に列挙されているようなLSDに罹患した哺乳動物において、ニューロンまたはグリア細胞である、CNSの標的細胞へ、導入遺伝子産物を送達する方法を提供する。本方法は、ニューロンの軸索末端を、治療的導入遺伝子産物をコードする遺伝子の少なくとも一部を有するAAVベクターを含む組成物に接触させること、ウイルス粒子を、エンドサイトーシスによって取り込ませて、軸索に沿ってニューロンの核へ逆行して細胞内輸送させること;導入遺伝子産物を、ニューロンにより発現かつ分泌させること、および、二次細胞が導入遺伝子産物を取り込むのを可能にすることを含み、それにより、導入遺伝子産物が二次細胞における病態を軽減する。特定の態様において、組成物におけるAAVベクターの濃度は、少なくとも以下である:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1012 gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×109 tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25もしくは50(×1010 iu/ml)。例えば、リソソーム加水分解酵素は、形質導入された細胞により分泌され、引き続いて、マンノース-6-リン酸受容体媒介型エンドサイトーシスにより別の細胞により取り込まれうるが、二次細胞は形質導入される場合もあるし、形質導入されない場合もある(Sando et al. (1977) Cell, 12:619-627; Talor et al. (1997) Nat. Med., 3:771-774; Miranda et al. (2000) Gene Ther., 7:1768-1776;およびJin et al. (2002) J. Clin. Invest., 109:1183-1191)。
【0041】
本発明の方法においては、ベクターが、疾患易感染性脳において逆行性軸索輸送を受けることができる限り、任意の血清型のAAVを用いることができる。本発明の特定の態様において用いられるウイルスベクターの血清型は、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7およびAAV8からなる群より選択される(例えば、Gao et al. (2002) PNAS, 99:11854-11859;およびViral Vectores for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003参照)。本明細書に列挙されたもの以外の他の血清型が用いられうる。しかしながら、AAV5は、治療的導入遺伝子としてメタロエンドペプチダーゼ、例えばネリリシンを利用する本発明の方法から、特に除外される場合がある。
【0042】
AAVベクターは、哺乳動物に対して非病原性である一本鎖(ss)DNAパルボウイルスに由来する(Muzyscka (1992) Curr. Top. Microb. Immunol., 158:97-129に概説されている)。概説すると、AAVに基づくベクターでは、ウイルスゲノムの96%を占めるrepおよびcapウイルス遺伝子が除去されており、かつ、2つの隣接する145塩基対(bp)の逆方向末端反復(ITR)を残しているが、これは、ウイルスDNA複製、パッケージングおよび組込みを開始するために用いられる。ヘルパーウイルスの非存在下において、野生型AAVは、染色体19q 13.3における優先的な部位特異性を以てヒト宿主細胞ゲノムへ統合されるか、またはエピソーム的に発現されつづける。単一のAAV粒子は、5 kbのssDNAまで収容でき、それゆえに、導入遺伝子および調節因子用の約4.5 kbが残るが、典型的には十分である。しかしながら、例えば、米国特許第6,544,785号に記載されているようなトランススプライシング系により、この限度がほぼ二倍になりうる。
【0043】
例証的態様において、AAVはAAV2である。多くの血清型のアデノ随伴ウイルス、特にAAV2は広く研究され、遺伝子治療ベクターとして特徴付けられた。当業者は、機能しうるAAVに基づく遺伝子治療ベクターの調製に精通しているものと考えられる。ヒト対象への投与のためのAAV作製、精製および調製の様々な方法に関する多数の参考文献は、刊行された文献の広範な本文に見出されうる(例えば、Viral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003参照)。追加として、CNSの細胞に標的化されたAAVに基づく遺伝子治療は、米国特許第6,180,613号および第6,503,888号に記載されている。
【0044】
本発明の特定の方法において、ベクターは、プロモーターに機能的に連結された導入遺伝子を含む。導入遺伝子は、生物活性のある分子をコードし、CNSにおけるその発現は、結果として、神経病態の少なくとも一部分の補正を生じる。いくつかの態様において、導入遺伝子はリソソーム加水分解酵素をコードする。例証的態様において、リソソーム加水分解酵素はASMである。ヒトASMのゲノムcDNAおよび機能性cDNAの配列は公知である(例えば、米国特許第5,773,278号および第6,541,218号参照)。他のリソソーム加水分解酵素は、例えば、表1に列挙されているような、適切な疾患について用いられうる。
【0045】
本発明はさらに、ヒトを含む哺乳動物においてアルツハイマー病を処置する方法を提供する。そのような方法において、導入遺伝子は、メタロエンドペプチダーゼをコードする。メタロエンドペプチダーゼは、例えば、アミロイド-β分解酵素ネプリリシン(EC 3.4.24.11;配列アクセッション番号、例えばP08473(SWISS-PROT))、インスリン分解酵素インスリシン(EC 3.4.24.56;配列アクセッション番号、例えばP14735(SWISS-PROT))、またはチメット(thimet)オリゴペプチダーゼ(EC 3.4.24.15;配列アクセッション番号、例えばP52888(SWISS-PROT))でありうる。
【0046】
真核細胞における導入遺伝子発現のレベルは、主として、導入遺伝子発現カセット内の転写プロモーターにより決定される。長期活性を示し、かつ組織および細胞までにも特異的であるプロモーターがいくつかの態様において用いられる。プロモーターの非限定的例は、限定されるわけではないが、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Kaplitt et al. (1994) Nat. Genet., 8:148-154)、CMV/ヒトβ3-グロビンプロモーター(Mandel et al. (1998) J. Neurosci., 18:4271-4284)、GFAPプロモーター(Xu et al. (2001) Gene Ther., 8:1323-1332)、1.8-kb ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Klein et al. (1998) Exp. Neurol., 150:183-194)、ニワトリβアクチン(CBA)プロモーター(Miyazaki (1989) Gene, 79:269-277)、およびβ-グルクロニダーゼ(GUSB)プロモーター(Shipley et al. (1991) Genetics, 10:1009-1018)を含む。発現を延長するために、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)(Donello et al. (1998) J. Virol., 72, 5085-5092)またはウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位のような、他の調節因子を追加的に、導入遺伝子に機能的に連結してよい。
【0047】
いくつかのCNS遺伝子治療適用について、転写活性を制御することが必要であると考えられる。このために、AAVベクターを用いた遺伝子発現の薬理学的制御は、例えば、Haberma et al. (1998) Gene Ther., 5:1604-16011;およびYe et al. (1995) Science, 283:88-91に記載されているような様々な調節因子および薬物応答性プロモーターを含むことにより得られうる。
【0048】
高力価AAV調製物は、例えば、米国特許第5,658,776号およびViral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003に記載されているような、当技術分野において公知の技術を用いて作製されうる。
【0049】
以下の実施例は、本発明の例証的態様を提供する。当業者は、本発明の真意または範囲を変えることなく行われうる多数の改変および変更を認識しているものと考えられる。そのような改変および変更は、本発明の範囲内に含まれる。本実施例は、決して本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0050】
組換えベクターの力価測定
AAVベクター力価は、ゲノムコピー数(ミリリットルあたりのゲノム粒子)により測定された。ゲノム粒子濃度は、以前に報告されているベクターDNAのTaqman(登録商標)PCRに基づいた(Clark et al. (1999) Hum. Gene Ther., 10:1031-1039; Veldwijk et al. (2002) Mol. Ther., 6:272-278)。概説すると、精製されたAAV-ASMを、ベクターDNAを放出するようにキャプシド消化緩衝液(50 mM トリス-HCl pH 8.0、10 mM EDTA、0.5% SDS、1.0 mg/ml プロテイナーゼK)で50℃で1時間、処理した。DNA試料を、プロモーター領域、導入遺伝子またはポリA配列のようなベクターDNAにおける特定の配列にアニールするプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)にかけた。PCR結果は、その後、Perkin Elmer-Applied Biosystems(Foster City, CA)Prism 7700 Sequence Detector Systemにより提供されるもののようなReal-time Taqman(登録商標)ソフトウェアにより定量された。
【0051】
β-ガラクトシダーゼまたは緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)のようなアッセイ可能なマーカー遺伝子を有するベクターを、感染性アッセイを用いて力価測定することができる。感受性のある細胞(例えば、HeLaまたはCOS細胞)がAAVで形質導入され、β-ガラクトシダーゼベクターで形質導入された細胞のX-gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)での染色、またはGFP形質導入された細胞についての蛍光顕微鏡観察法などのアッセイが、遺伝子発現を測定するために行われる。例えば、アッセイは以下のように行われる:4×104個のHeLa細胞を通常の増殖培地を用いる24穴培養プレートの各ウェルに蒔く。接着後、すなわち、約24時間後、細胞に、感染多重度(MOI)10でAd5型を感染させ、パッケージングされたベクターの段階希釈で形質導入し、37℃でインキュベートする。1〜3日後、広範な細胞変性効果が観察される前に、適切なアッセイを細胞上で行う(例えば、X-gal染色または蛍光顕微鏡観察法)。β-ガラクトシダーゼのようなレポーター遺伝子を用いる場合には、細胞を、2%パラホルムアルデヒド、0.5%グルタルアルデヒド中に固定し、X-galを用いてβ-ガラクトシダーゼ活性について染色する。十分分離された細胞を生じるベクター希釈物をカウントする。各陽性細胞は、ベクターの形質導入単位(tu)1を表す。
【0052】
マウス脳におけるLSD病態の補正
生後10週間のASMKOマウスは、中枢神経系に有意なNPD病態を含む。ホモ接合性劣性突然変異体の同定を、PCRにより検証した。生後10週間のASMKOマウス16匹をイソフルランで麻酔し、定位フレーム上に載せ、下にある頭蓋を露出するように切開を行い、各マウスの1つの半球の上に1個のドリル穴を開けた。2マイクロリットル(9.3×1012 gp/ml)の高力価AAV2-CMV-ASM(Targeted Genetics, Seattle, WA)を、ブレグマの2.0 mm吻側、中線の1.5 mm右、および腹側から軟膜表面まで2.0 mmの最終定位座標において海馬へ注入した。この海馬座標により、AAV2ベクターが、歯状回およびアンモン角領域3(CA3)のニューロンと、加えて、対側性海馬、内側中隔および内嗅皮質の投射ニューロンの軸索末端と接触させられたことを保証した。注入は、0.2 μl/分の速度で行われ、合計1.86×1010個のゲノム粒子が各脳へ投与された。マウスをその後、感染後(pi)5週間目(n=8)または15週間目(n=8)のいずれかにおいて屠殺した。8個の脳(5週間piおよび15週間piにおいてそれぞれn=4)をASM mRNAおよびタンパク質分布について、ならびにリソソームにおけるコレステロールの超生理学的レベルの低下について分析した。残りの8個の脳(5週間piおよび15週間piにおいてそれぞれn=4)を、蓄積されかつ膨張したリソソームの補正を分析する組織病理学のために処理したが、これは、LSDの蓄積病態の反転を測定するための最も直接的かつ正確な方法である。
【0053】
5週間piおよび15週間piにおける注入(同側性の)海馬において、強力な形質導入が検出された。歯状回の顆粒細胞層および門、ならびにCA3の錐体細胞層および多形細胞層が、AAV2ベクターにより広範に形質導入された。この印象的な形質導入のパターンは、鉤状回およびアンモン角領域1(CA1)および2(CA2)のような同側性海馬の他の領域へ広がった。抗ヒトASMモノクローナル抗体での免疫蛍光により、多くの細胞におけるASMタンパク質の存在が確認された。全体的なタンパク質パターンは、mRNAパターンと類似しており、タンパク質のいくつかの追加の局在的拡散があった。
【0054】
ヒトASMのmRNAおよびタンパク質はまた、両方の時点において同側性海馬の外側の領域に検出された。対側性の歯状回およびCA3ならびに内側中隔ならびに内嗅皮質は、インサイチューハイブリダイゼーションおよび免疫蛍光について陽性であった(図1Aおよび図2A)。これらの遠位部位における形質導入のパターンは、注入部位に神経を分布する投射ニューロンの組織分布的構成と一致した(図1Bおよび図2B)。これは、AAV2が、ASMKO脳の海馬内、中隔海馬および内嗅歯状回の回路において逆行性軸索輸送を受けたこと、ならびにウイルスベクターが、軸索をさかのぼっての輸送後、核に標的化されたことを実証した(図1Cおよび図2C)。形質導入のパターンは、これらの遠位部位へのAAV2輸送の理由としての実質性拡散を支持するものではない。そのような拡散が起こったならば、注入部位と遠位部位の間の構造は、移動性ウイルスに曝されたであろう。しかし、これらの中間構造は、インサイチューハイブリダイゼーションについて陰性であった。例えば、線条は、AAV2に対して強い天然の向性を有するが、海馬と内側中隔の間の直接路にあるにもかかわらず、遺伝子移入については陰性であった。このように、遠位部位への遺伝子移入は、逆行性軸索輸送により生じたにちがいなく、罹患投射ニューロンが、罹患脳中のAAV2移動のための効果的な道路輸送系として機能しうることを示している。
【0055】
ASMKO脳においてコレステロール異常を逆転させるASMの能力をさらに調べた。フィリピン(Filipin)は、コレステロール複合体に結合するストレプトマイセス フィリピネンシス(Streptomyces filipinensis)から単離された自己蛍光性分子である(Leventhal et al. (2001) J. Biol. Chem., 276:44976-44983;およびSarna et al. (2001) Eur. J. Neurosci., 13:1-9)。注入されていないASMKO脳は、これらの豊富なコレステロール複合体により高レベルのフィリピン染色が見られたが、正常なマウス脳はフィリピン染色を生じなかった。
【0056】
AAV2-CMV-ASMの注入は、結果として、5週間piおよび15週間piのASMKOマウスにおいて、全体の同側性および対側性の海馬、中隔ならびに内嗅皮質を通してフィリピン染色の完全な喪失を生じた(図1Aおよび図2A)。これは、高レベルのフィリピン染色がこれらの同じ構造に検出された、注入されていない年齢をマッチングしたASMKO対照と著しく対照的であった。AAV2注入された脳におけるフィリピン染色の喪失は、ASM疾患の二次細胞性表現型(例えば、代謝障害)が補正されたことを実証している。これは、ASMタンパク質がリソソームに標的化され、スフィンゴミエリン-コレステロール複合体と相互作用したことを強く示唆している。この相互作用により、結果として、スフィンゴミエリンからのコレステロールの遊離、およびその後の、その正常な生物学的経路への(分解または原形質膜への転位のような(Leventhal et al. (2001) J. Biol. Chem., 276:44976-44983))コレステロールの流入が起こった可能性が高い。
【0057】
フィリピン染色の喪失は、海馬内、中隔海馬および内嗅歯状回の回路のすべての細胞層および部分体に観察された。コレステロール補正の領域は、ASMタンパク質パターンよりはるかに大きくかつ広かった。これは、AAV2の逆行性軸索輸送後、投射ニューロンが「酵素ポンプ」として機能し、ASMタンパク質を周囲の組織へ分泌した可能性がある。重大なことに、ASMKO罹患細胞内のコレステロール蓄積へ治療効果を生じるためには、免疫蛍光プロトコールの検出限界を下回るごく少量のASMしか必要とされない。
【0058】
AAV2-ASMベクターの軸索輸送が結果としてNPDの一次細胞性表現型の補正を生じるかどうかが評価された。厚さ1ミクロンの組織病理学脳切片は、5週間piにおいて、AAV2-CMV-ASM注入脳において蓄積されかつ膨張したリソソーム病態の著しい低下を示した(表2)。(正常な細胞構造の部分的または完全な回復をもたらす)病態の反転は、海馬の同側性および対側性の半球のすべての領域に起こった。内側中隔および内嗅皮質もまた、蓄積病変の実質的減少を示した。フィリピンデータと同様に、補正された細胞の数は、ASMタンパク質パターンより大きくかつ広範囲に及んだ。病態の反転は、海馬内、中隔海馬および内嗅歯状回の回路を含む海馬に投射することが知られている領域内で顕著であった。全体として、補正の容量は、対側性海馬において30 mm3〜35 mm3またはそれ以上、同側性内嗅皮質において5 mm3〜8 mm3またはそれ以上、対側性内嗅皮質において1 mm3〜2 mm3またはそれ以上、および内側中隔において2 mm3〜3 mm3またはそれ以上であった。もしウイルス分配が単に拡散によってのみ仲介されたならば、近傍の構造(これらの回路に寄与していない)が補正されたであろうことから(表2における「同側性線条」および「対側性線条」を参照)、これはさらに、ウイルスベクターの軸索輸送がこの治療効果の原因であったことを支持している。
【0059】
病態の反転がASMに特異的であったことを実証するために、さらなるASMKOマウスの群に、レポーター遺伝子を有する対照ベクターであるAAV2-CMV-β-galを注入し(5週間piおよび15週間piにおいてそれぞれn=2)、組織病理学のために処理した。すべての4個の脳において、細胞は、膨張したリソソームで充満したままで、細胞質膨張および組織崩壊した細胞層のような他の異常を含んだ。
【0060】
【表2】

++++ 事実上すべての細胞における高レベルの病態
+++ 多くの細胞における病態;いくつかの細胞において補正が観察される
++ いくつかの細胞における病態;多くの細胞において補正が観察される
+ 大部分の細胞においてほとんど又は全く病態が無い;事実上全ての細胞が補正されている
【0061】
このように、本発明によれば、高力価AAV2ベクターの単回の注入は、ASMKOの罹患海馬に神経を分布する構造へASM遺伝子を移入するのに十分である。AAV2ベクターについて陽性である構造の数は、内嗅歯状回回路においてのみに軸索輸送を示した、正常なラット海馬における最近の研究により実証されたよりも大きかった(Kaspar et al. (2002) Mol. Ther., 5:50-56)。本明細書に記載された結果により、軸索輸送が、蓄積病態を有する投射ニューロンに起こりうること、および、この輸送様式が、注入部位に近位の構造および遠位の複数の領域における蓄積病態の除去をもたらすことが、実証された。本発明者らはまた、軸索輸送が、海馬に関連したそれらの回路のみに限定されないことを実証している。逆行性軸索輸送は、黒質線条回路(図3)および髄質小脳回路(図4)において起きた。これは、疾患易感染性ニューロンにおけるAAV2の軸索輸送が、ウイルスベクターの一般的性質であることを実証している。
【0062】
同様の研究は、1×1013 gp/ml〜4×1013 gp/mlの濃度におけるAAV1-ASM、および8.4×1012 gp/mlの濃度におけるAAV7-ASMで行われた。AAV1は検出可能な逆行性軸索輸送を示さなかったが、AAV7は、AAV2と同様に逆行性軸索輸送を受け、遠位領域においてLSD病態の補正を生じた(図5参照)。
【0063】
アルツハイマー病の処置
アルツハイマー病(AD)は、アミロイドβ-ペプチド(Aβ)異化の減少によるAβの蓄積を特徴とする神経変性疾患である。Aβが蓄積するにつれて、それは細胞外プラークへと凝集し、シナプス機能の障害およびニューロンの損失を引き起こす。病態は、痴呆、協調運動障害および死につながる。
【0064】
ネプリリシンは、Aβの正常な分解における律速酵素である97 kDの膜結合型亜鉛メタロエンドペプチダーゼである。ネプリリシンの導入は、凝集の前にAβプールを除去することにより疾患の進行を遅らせる可能性がある。実際に、ネプリリシンは、ADの動物モデルにおいて、オリゴマー型のAβを分解し、それにより存在するプラークを除去することが示された(Kanemitsu et al. (2003) Neurosci. Lett., 350:113-116)。ネプリリシンノックアウトマウスは、高レベルのAβを示す(Iwata et al. (2001) J. Neurosci., 24:991-998)。チオルファンおよびホスホラミドンのようなネプリリシン阻害剤は、マウス脳においてAβレベルを増加させる(Iwata et al. (2000) Nat. Med., 6:143-150)。さらに、ネプリリシンmRNAの減少が、ヒト脳における高アミロイドプラーク負荷量の領域において見出され、ネプリリシンとADとの関連をさらに実証している(Yasojima et al. (2001) Neurosci. Lett., 297:97-100)。
【0065】
ADに最も罹りやすい脳の領域は、海馬、皮質、小脳、線条および視床である(例えば、Iwata et al. (2001) 前記;Yasojima et al. (2001) 前記)。これらは、AAVに関して効率的な逆行性軸索輸送を示す脳の同じ領域である。
【0066】
従って、直接的注入およびその後の脳回路を通じたウイルスの標的部位への転位により、高プラーク負荷領域へ治療的導入遺伝子を送達するためにAAVが用いられうる。ネプリリシンのウイルスベクター媒介型遺伝子移入は、ADのマウスモデルを処置するにおいて効果的であった(Marr et al. (2003) J. Neurosci., 23:1992-1996; Marr et al. (2004) J. Mol. Neurosci., 22:5-11; Iwata et al. (2004) J. Neurosci., 24:991-998)。最近の報告は、AAV5-ネプリリシンが、ネプリリシン欠損マウスにおいて海馬のシナプス前部終末からAβを除去し、シナプスにおいてプラーク形成の進行を遅らせることを示した(Iwata et al. (2004) 前記)。この報告において、ネプリリシンは、対側性海馬に見出されたが、これがウイルスの逆行性輸送に起因するのかまたは発現されたタンパク質の順行性輸送に起因するのかは、まだわかっていない。
【0067】
本明細書は、本明細書内に引用された参考文献の教示に照らして最も完全に理解される。本明細書内の態様は、本発明の態様の例証を提供するものであって、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。当業者は、多くの他の態様が本発明により含まれることを容易に認識する。本開示に引用されたすべての刊行物、特許および生物学的配列は、完全に参照として組み入れられている。参考文献として組み入れられた材料が本明細書に矛盾するまたは相互に一致しない限りにおいては、本明細書がいずれのそのような材料にも優先するものとする。本明細書におけるいずれの参考文献の引用も、そのような参考文献が本発明の先行文献であるということを認めるものではない。
【0068】
他に規定がない限り、添付の特許請求の範囲を含む、本明細書に用いられた成分の量、細胞培養、処置条件などを表すすべての数は、すべての場合において、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。従って、他にそれと反対の規定がない限り、数に関するパラメーターは近似値であり、本発明により得られるように努めた所望の性質に非常に依存しうる。他に規定がない限り、一連の要素の前にある「少なくとも」という用語は、その一連におけるあらゆる要素に適用すると理解されるべきである。本明細書に記載された本発明の特定の態様に対する多くの等価物を、当業者は認識すると考えられ、または、日常的実験だけを用いて確かめることができるものと考えられる。そのような等価物は、添付の特許請求の範囲により含まれることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物のCNSにおける第一部位への組成物の投与を含む、哺乳動物において神経代謝性疾患を処置する方法であって、組成物が、導入遺伝子産物をコードする導入遺伝子を含むAAVベクターを含み、かつ
(a)組成物におけるベクターの濃度が、少なくとも5×1012 gp/mlであり;かつ
(b)導入遺伝子産物が、第一部位より遠位のCNS内の第二部位において治療的有効量で発現されて、第一部位と第二部位の間の距離が少なくとも2 mmである、方法。
【請求項2】
神経代謝性疾患がリソソーム蓄積症である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
リソソーム蓄積症がニーマン-ピックA病である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
組成物が脳への直接的注入により投与される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
第二部位が第一部位に対して対側性である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
第一部位が、脊髄、脳幹、海馬、線条、髄質、橋、中脳、小脳、視床、視床下部、大脳皮質、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、および前頭葉からなる群より選択されるCNSの領域内にある、請求項5記載の方法。
【請求項8】
第一部位が海馬内にあり、第二部位が対側性歯状回および対側性CA3、ならびに内側中隔ならびに内嗅皮質からなる群より選択される脳の領域内にある、請求項5記載の方法。
【請求項9】
第一部位が、線条および小脳からなる群より選択される脳の領域内にあり、第二部位が、黒質および延髄からなる群より選択される脳の領域内にある、請求項5記載の方法。
【請求項10】
第二部位が、第一部位に投射するニューロンを含む脳の任意の領域である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物のCNSにおける第三部位への組成物の投与をさらに含む、請求項11記載の方法であって、組成物が、導入遺伝子産物をコードする導入遺伝子を含むAAVベクターを含む、方法。
【請求項12】
第三部位が第一部位に対して対側性である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
導入遺伝子産物がリソソーム加水分解酵素である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
リソソーム加水分解酵素が、表1に列挙されたリソソーム加水分解酵素のいずれか一つである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
リソソーム加水分解酵素が酸性スフィンゴミエリナーゼである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
ニューロンの軸索末端を、組換えAAVゲノムを含むAAVウイルス粒子を含む組成物に接触させる段階を含む、組換えAAVゲノムを疾患易感染性(disease-compromised)ニューロンの核へ送達する方法であって、AAVウイルス粒子がエンドサイトーシスによって取り込まれて、軸索に沿ってニューロンの核へ逆行して細胞内輸送される、方法。
【請求項17】
組換えAAVゲノムの濃度が少なくとも5×1012 gp/mlである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ニューロンが投射ニューロンである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
軸索末端からニューロンの核までの距離が少なくとも2 mmである、請求項16記載の方法。
【請求項20】
ニューロンが哺乳動物内にある、請求項16記載の方法。
【請求項21】
疾患がリソソーム蓄積症である、請求項16記載の方法。
【請求項22】
リソソーム蓄積症がニーマン-ピックA病である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
AAVベクターが治療的導入遺伝子産物をコードする遺伝子を含む、請求項16記載の方法。
【請求項24】
治療的導入遺伝子産物がリソソーム加水分解酵素である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
リソソーム加水分解酵素が酸性スフィンゴミエリナーゼである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
ニューロンの軸索末端を、AAVベクターを含む組成物に接触させる段階を含む、治療的導入遺伝子産物をCNSの標的細胞へ送達する方法であって、ベクターが治療的導入遺伝子産物をコードする遺伝子を含み、かつ
(a)AAVベクターが、エンドサイトーシスによって取り込まれて、軸索に沿ってニューロンの核へ逆行して細胞内輸送され;
(b)治療的導入遺伝子産物が、ニューロンにより発現されて分泌され;かつ
(c)治療的導入遺伝子産物が、標的細胞により取り込まれて、それにより標的細胞における病態を軽減する、方法。
【請求項27】
ニューロンが疾患易感染性である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
ニューロンがリソソーム蓄積病態を示す、請求項26記載の方法。
【請求項29】
リソソーム蓄積病態が、ニーマン-ピックA病の病態である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
標的細胞が、第二のニューロンまたはグリア細胞である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
組成物中のベクターの濃度が、少なくとも5×1012 gp/mlである、請求項26記載の方法。
【請求項32】
治療的導入遺伝子産物がリソソーム加水分解酵素である、請求項26記載の方法。
【請求項33】
リソソーム加水分解酵素が酸性スフィンゴミエリナーゼである、請求項32記載の方法。
【請求項34】
AAVがAAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7およびAAV8からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項35】
AAVがAAV2である、請求項1記載の方法。
【請求項36】
AAVがAAV7である、請求項1記載の方法。
【請求項37】
哺乳動物のCNSにおける第一部位への組成物の投与を含む、哺乳動物においてアルツハイマー病を処置する方法であって、組成物が、メタロエンドペプチダーゼをコードする導入遺伝子を含むAAVベクターを含み、かつ
(a)組成物におけるベクターの濃度が、少なくとも5×1012 gp/mlであり;かつ
(b)導入遺伝子産物が、第一部位より遠位のCNS内の第二部位において治療的有効量で発現されて、第一部位と第二部位の間の距離が、少なくとも2 mmである、方法。
【請求項38】
メタロエンドペプチダーゼが、ネプリリシン、インスリシン、およびチメットオリゴペプチダーゼから選択される、請求項37記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−251992(P2011−251992A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168292(P2011−168292)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2006−514239(P2006−514239)の分割
【原出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【出願人】(500034653)ジェンザイム・コーポレーション (37)
【Fターム(参考)】