説明

神経刺激療法の制御された滴定

本発明は、電気刺激療法による心疾患の処置のための方法および装置に関し、電気神経性刺激を利用して、交感神経作用を阻害し、および/または副交感神経作用を増強する様式で、患者の自律神経平衡を調節することにより、心不全を処置する方法およびデバイスが記載される。心不全を処置するための他の療法もまた患者の自律神経平衡に影響し得るため、神経性刺激を送達するためのデバイスは、開ループまたは閉ループ形式でそのような治療を適切に滴定するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
米国特許出願第11/468,143号(2006年8月29日出願)に基づく優先権の利益を主張し、該出願は、本明細書において参照により援用される。
【0002】
(関連出願)
本出願は、米国特許出願第11/087,935号(2005年3月23日出願)および米国特許出願第11/468,135号(2006年4月29日出願)に関係し、これらの開示は、その全体が本明細書において参照により援用される。
【0003】
(技術分野)
本特許出願は、電気刺激療法による心疾患の処置のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0004】
心不全(HF)は、心臓機能の異常により、末梢組織の代謝要求を満たすために適正なレベルを下回る可能性のある正常値未満の心拍出量がもたらされる、臨床的な症候群である。それは広範な病因によるものであり、最も一般的なのは虚血性心疾患である。心不全は、体液貯蔵および前負荷を減少させるための利尿剤、後負荷を減少させるための血管拡張剤、および心筋収縮能を増加させるための強心薬により医学的に処置することができる。また、心不全患者の中には、心室内および/または心室間伝導障害(例えば、脚ブロック)を患う者もあり、心拍出量は、電気刺激との心室収縮の同期化を改善することにより増加することができることが示されている。これらの問題に対応するために、心臓再同期療法(CRT)と称される、心房および/または心室収縮の連携を改善するための試みにおいて、適正なタイミングの電気刺激を、1つ以上の心腔に提供する埋込型心臓用デバイスが開発されてきた。直接的に変力性ではないものの、再同期は、吐出効率が改善し心拍出量が増加した、より連携した心室収縮をもたらすことができるため、心室再同期は心不全の処置に有用である。現在、CRTの最も一般的な形態は、同時に、または規定の両心室オフセット間隔をおいて、また固有の心房収縮もしくは心房ペースの送達の検出に関して、規定の心房−心室遅延間隔の後に、両方の心室に刺激パルスを与える。
【0005】
心不全または心筋梗塞(MI)または心拍出量減少の他の原因を有する患者において、構造的、生化学的、神経ホルモン的、および電気生理学的な要因が関与する心室の複雑なリモデリングプロセスが生じる。心室のリモデリングは、心室の拡張期充満圧力を増加させ、それにより所謂前負荷(すなわち心臓拡張期の終わりに心室内の血液容積により心室が伸長する程度)を増加させる、所謂後方不全に起因して、心拍出量を増加させるように機能する生理学的代償機構により誘発される。前負荷の増加は、収縮期における1回拍出量の増加をもたらし、これはFrank−Starlingの法則として知られる現象である。しかしながら、その期間にわたり増加した前負荷により心室が伸長すると、心室は拡張する。心室容積の拡大は、所与の収縮期圧において心室壁応力の増加をもたらす。心室により行われる圧力増加−容積増加の工程とともに、これは、心室筋肥大の刺激として作用する。拡張の欠点は、正常な残存心筋にかかる余分な作業負荷、および肥大の刺激を表す壁の張力の増加(ラプラスの法則)である。増加した張力と釣り合うほど肥大が適正でない場合、さらなる、そして進行性の拡張をもたらす悪循環が続く。
【0006】
心臓が拡張を開始すると、求心性の圧受容器および心肺受容器の信号が、ホルモン分泌および交感神経放電で応答する血管運動中枢神経系制御センターに送られる。これは血行力学的な交感神経系と、最終的に心室のリモデリングに関与する細胞構造の有害な変調の原因となるホルモン変調(アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性が存在するか否か等)との組み合わせである。肥大をもたらす持続的な応力は、心筋細胞のアポトーシス(すなわち、プログラム細胞死)、および、心臓機能のさらなる悪化をもたらす結果的な壁の薄層化を誘引する。したがって、心室の拡張および肥大は、初めは補償的であり心拍出量を増加させるが、最終的にはプロセスは収縮機能障害および拡張機能障害の両方をもたらす。心室リモデリングの程度は、MIおよび心不全後の患者の死亡率の増加に確実に関連している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書には、電気神経性刺激を利用して、交感神経作用を阻害し、および/または副交感神経作用を増強する様式で、患者の自律神経平衡を調節することにより、心不全を処置する方法およびデバイスが記載される。心不全を処置するための他の療法もまた患者の自律神経平衡に影響し得るため、神経性刺激を送達するためのデバイスは、開ループまたは閉ループ形式でそのような治療を適切に滴定するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、神経性刺激を送達するためのシステムを示す図である。
【図2】図2は、神経性刺激を送達するための埋込型デバイスのブロック図である。
【図3】図3は、神経性刺激を送達する能力を有する埋込型心臓用デバイスのブロック図である。
【図4】図4は、神経性刺激パルス列を送達するための回路の異なる実施形態を示す図である。
【図5】図5は、神経性刺激パルス列を送達するための回路の異なる実施形態を示す図である。
【図6】図6は、神経性刺激送達の開ループ制御の例示的なアルゴリズムを示す図である。
【図7】図7は、神経刺激送達の閉ループ制御の例示的なアルゴリズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述のように、自律神経系の活動は、MIまたは他の原因による心不全の結果として生じる心室リモデリングに、少なくとも部分的に関与する。リモデリングは、例えば、ACE阻害薬およびベータ遮断薬を使用した薬理学的介入により影響され得ることが立証されている。しかしながら、薬理学的処置は副作用のリスクを有しており、また正確な様式で薬剤の効果を調節することが困難でもある。本明細書において、自律活動を調節するための電気的神経刺激を使用し、また、自律活動にも影響する薬物の用量に従う、および/または自律活動を反映する生理学的測定値に従う神経刺激治療の滴定を可能にする方法およびデバイスが記載される。
【0010】
以下に説明するように、埋込型医療デバイスは、適切に位置付けられた電極を介して1つ以上の選択された神経部位に電気刺激を送達するためのパルス発生器を備えることができる。心臓リモデリングの程度を反転させる、阻止する、または弱めるために、副交感神経刺激および/または交感神経阻害となるような様式で、神経性刺激が加えられる。心臓リモデリングに対するその有益な効果に加え、そのような神経性刺激は、主に収縮機能障害よりも拡張機能障害に起因する心不全、拡張期心不全(DHF)を患う患者の処置にも有益となり得る。DHFを患う患者において、片方または両方の心室の拡張期充満の間に蓄積し、収縮の間に吐出される駆出分画と称される血液の分画は、正常であるか、正常に近い。これらの患者において、心筋弛緩(拡張機能)が不全となって心室充満障害および低心拍出量となるが、これは前負荷の増加により補償される。
【0011】
心不全の処置のための神経性刺激は、反射弓を介して副交感神経刺激および/または交感神経阻害をもたらす、迷走神経等の輸出副交感神経または圧受容器等の輸入神経に直接送達され得る。迷走神経は、増加した交感神経活動の効果に対抗する副交感神経刺激を心臓に提供し、節前部位または節後部位での迷走神経の刺激は、冠状動脈の拡張および心臓への作業負荷の低下をもたらす。迷走神経刺激は、例えば、迷走神経の近く(例えば、内頸静脈内)に配置された血管内電極を使用して、または神経カフ電極(例えば頸部迷走神経束の周りに設置される)を使用して、送達することができる。圧受容器は、増加した液圧により刺激される心臓および脈管構造に位置する感覚神経終末である。圧受容器の刺激は、求心路を介して脳幹の核へとインパルスを中継させ、副交感神経の活性化および交感神経阻害をもたらす。圧反射刺激は、大動脈洞神経または頸動脈洞神経の周りに設置された神経カフ電極を使用して、または、心臓または肺動脈内の圧受容器の近くに配置された血管内電極を使用して生じさせることができる。
【0012】
(例示的デバイスの説明)
図1は、神経性刺激を送達するための例示的システムのコンポーネントを示す。埋込型神経性刺激デバイス105は、心臓ペースメーカに類似して、患者の胸部または他の好都合な場所の皮下または筋肉下に設置される密閉筐体130を含む。筐体130は、チタン等の導電性金属から形成することができ、単極リードにより電気的刺激を送達するための電極として機能することができる。ヘッダ140は、絶縁材料から形成することができるが、筐体内の回路に電気接続される1つ以上のリード110を受けるために筐体130に装着されている。筐体130内の電気パルス発生回路は、神経組織の刺激のために遠位端に双極電極または単極電極を組み込んだリード110に接続される。一実施形態において、リード110は、迷走神経または輸入圧受容器神経の近くの特定の節前または節後刺激部位に皮下挿入される。他の実施形態において、リード110は、刺激電極を標的神経近くに配置するために血管内に通される。筐体130内には、電源、感知回路、パルス発生回路、デバイスの動作を制御するためのプログラム可能な電子制御器、および、外部プログラマまたは遠隔監視デバイス190と通信可能なテレメトリ送受信器を含むデバイスに、本明細書に記載されるような機能性を提供するための電子回路132が含まれている。外部プログラマは、デバイス105と無線通信し、臨床医学者がデータを受け取り、制御器のプログラミングを変更することができるようにする。神経性刺激デバイスは、テレメトリにより開ループ様式で、または、デバイスにより行われる自律神経平衡の評価に基づき閉ループ様式で神経性刺激の送達を制御するように構成することができる。また、患者が神経性刺激パルスの送達を開始または停止することができるようにする、磁気的または触知的に作動するスイッチが提供されてもよい。遠隔監視デバイスは、テレメトリによりデバイス105と通信し、さらに、遠隔地の臨床医学者が遠隔監視デバイスからデータを受け取り、コマンドを発行することができるようにする患者管理サーバ196と通信するためにネットワーク195(例えば、インターネット接続)と結合されてもよい。制御器は、監視回路により特定の条件が検出された場合(例えば測定されたパラメータが規定の限界値を超過するかまたは下回る場合)には、デバイスは、臨床医学者に警告するために遠隔監視デバイスおよび患者管理サーバにアラームメッセージを送信するようプログラムされてもよい。
【0013】
図2は、神経刺激器の筐体130内に含まれる例示的な電子コンポーネントのシステム図である。プログラム可能な電子制御器200は、パルス発生回路205に結合され、神経性刺激パルスの出力を制御する。制御器はまた、心臓活動または他の生理学的変数を感知するための感知回路にも結合される。制御器200は、メモリと通信するマイクロプロセッサで構成されてもよく、メモリは、プログラム保存用のROM(リードオンリメモリ)およびデータ保存用のRAM(ランダムアクセスメモリ)を含むことができる。制御器は、ステートマシン型の設計を使用して、他の種類の論理回路(例えば、離散型コンポーネントまたはプログラム可能なロジックアレイ)により実装することができる。制御器は、経過時間間隔を追跡し、所定のスケジュールに従い神経性刺激を送達するために使用されるクロック信号を生成するための回路を含む。パルス発生回路205は、心臓ペースメーカに使用されるものと類似してもよく、リード210を介して神経性刺激電極215(または双極リードの場合には複数の電極)に電気的刺激パルスを送達する。同じく筐体に含まれる電池220は、デバイスに電力を提供する。制御器200に結合される磁気的または触知的に作動するスイッチ240は、患者が神経性刺激パルスの送達を開始または停止することができるようにする。開始されると、神経性刺激パルスは、既定の長さの時間、または既定のスケジュールに従い、送達され続けることが可能である。この実施形態におけるパルス周波数、パルス幅、パルス振幅、パルス極性、および双極/単極刺激構成は、プログラム可能なパラメータであり、その最適な設定は、刺激部位および刺激電極の種類に依存する。また、デバイスは、神経性刺激に影響される生理学的変数を感知するための異なる感知様式を備えてもよい。その場合、デバイスは、神経性刺激の送達の制御にこれらの変数を使用するようプログラムされ得る。図2のデバイスは、心臓電気活動を検出するために経静脈的に心臓内に配置することができるリード310を介して電極315(または双極リードの場合には複数の電極)に接続された感知回路305を含む。感知回路305は、デバイスが心拍数を測定し、神経性刺激の送達の制御に使用するために、それから導出される心拍変動または心拍数不整等のパラメータを演算することができるようにする。心房拍動および心室拍動の両方を検出するために、別個の感知チャネルが提供されてもよい。例えば、迷走神経刺激は心拍数を低下させ、デバイスは、検出された心拍数の変化に応答して、送達される神経性刺激のレベルを滴定するようにプログラムされてもよい。また、デバイスは、神経性刺激に影響される、1つ以上の感知または導出された変数の検出された変化に応答して、送達される神経性刺激のレベルを滴定するようにプログラムされてもよい。例えば、神経性刺激は呼吸数に影響する可能性があるため、デバイスは、微小呼吸センサ250も含み、検出された呼吸数の変化に応答して、送達される神経性刺激のレベルを滴定するようにプログラムされてもよい。デバイスが患者の活動レベルおよび心音を検出することができるようにする加速度計260もまた制御器に結合され、心音の強度は心筋収縮能を反映し得る。この目的のために、収縮期における動脈のdP/dtを測定することにより、圧力センサも使用可能である。加速度計260は、迷走神経刺激によりもたらされる咳を検出するために使用することもできる。この場合、デバイスは、患者による持続性の咳が検出された場合は神経性刺激を減少または停止するようにプログラムすることができる。
【0014】
神経性刺激器は、従来の徐脈ペーシング、抗頻脈性不整脈療法、および/またはCRTを送達するように構成される埋込型心臓用デバイスに組み込むこともできる。上述のように、CRTは、伝導障害および結果的な心臓同期障害に罹患した一部の心不全患者を有益に処置することができる。また、CRTは、心室の特定の領域を早期興奮させるためにCRTが施される場合、心拍出サイクルの間に経験する壁の応力分布の変化の結果として、MI後および心不全であった患者に生じ得る有害な心室リモデリングの低減に有益となり得る。心室における1つ以上の部位をペーシングすることにより、CRTは、そうでなければ後に収縮の間に活性化され壁の応力の増加を経験する心筋領域の早期興奮を提供する。リモデリング領域の他の領域と比べて早期の興奮は、その領域から機械的応力による負荷を除去し、リモデリングの反転または阻止を生じさせる。図3は、心臓ペーシングおよび/または心臓細動/徐細動機能を有する埋込型心調律管理デバイスに組み込まれる神経性刺激器の実施形態を示す。デバイスは電池式であり、従来の徐脈ペーシングおよび心臓再同期ペーシングを含む、様々なペーシングモードで心房または心室を感知および/またはペーシングするように物理的に構成することができる、複数の感知およびペーシングチャネルを備える。デバイスの制御器は、双方向データバスを介してメモリ12と通信するマイクロプロセッサ10を含む。図3には、リング電極を有する双極リード34a〜cと、チップ電極33a〜c、感知増幅器31a〜cと、パルス発生器32a〜cと、チャネルインタフェース30a〜cとを備える、「a」から「c」で指定された3つの例示的な感知およびペーシングチャネルが示されている。したがって各チャネルは、電極に接続されたパルス発生器からなるペーシングチャネルと、電極に接続された感知増幅器からなる感知チャネルとを含む。チャネルインタフェース30a〜cは、マイクロプロセッサ10と双方向通信し、各インタフェースは、ペーシングパルスを出力し、ペーシングパルス振幅を変化させ、感知増幅器のゲインおよび閾値を調整するために、感知増幅器からの感知信号入力をデジタル化するためのアナログ−デジタル変換器と、マイクロプロセッサにより書き込みが行われるレジスタとを含んでもよい。ペースメーカの感知回路は、特定のチャネルにより生成された電気記録信号(すなわち、心臓電気活動を表す、電極により感知される電圧)が規定の検出閾値を超える場合に、心房の感知または心室の感知のいずれかの心腔の感知を検出する。特定のペーシングモードで使用されるペーシングアルゴリズムは、そのような感知を使用してペーシングを誘発または阻害し、固有の心房および/または心室の拍数は、心房の感知の間と心室の感知の間のそれぞれの時間間隔を測定することにより検出され得る。各双極リードの電極は、リード内の導電体を介して、マイクロプロセッサにより制御されるMOS切替ネットワーク70に接続される。切替ネットワークは、固有心臓活動を検出するために感知増幅器の入力に、またペーシングパルスを送達するためにパルス発生器の出力に、電極を切り替えるために使用される。切替ネットワークはまた、デバイスが、リードのリング電極およびチップ電極の両方を使用して双極モードで、または、リードの電極の1つのみを使用して単極モードで感知またはペーシングを行うことをできるようにし、デバイス筐体または缶80は接地電極として機能する。また、ショック可能な頻脈性不整脈の検出時に、除細動ショックをショック電極61の対を介して心房または心室に送達するために、ショックパルス発生器60も制御器に結合される。微小呼吸センサ330、または代謝要求に関連したパラメータを測定する他のセンサは、患者の身体的活動の変化に従い制御器がペーシングレートを適合させることができるようにする。また、制御器が外部プログラマまたは遠隔モニタと通信できるようにする、テレメトリ送受信器81が提供される。
【0015】
神経性刺激チャネルは、リング電極44およびチップ電極43を有する双極リードと、パルス発生器42と、チャネルインタフェース40とを含む、神経性刺激を送達するためのデバイスに組み込まれる。他の実施形態は、単極リードを使用することができ、その場合神経性刺激パルスは、缶または他の電極を基準とする。また、ある実施形態において、神経性刺激チャネルとして、電極が適切に配置された心臓ペーシングチャネルが使用されてもよい。神経性刺激チャネルに対するパルス発生器は、振幅、周波数、パルス幅、および負荷サイクルに関して制御器により変動され得る神経性刺激パルス列を出力する。神経性刺激の送達を開始(または停止)するための磁気的または触知的に作動するスイッチ50が、図3に示されるような埋込型心臓用デバイスに組み込まれてもよい。スイッチ50は、図2に示される実施形態の操作と同様に、患者により操作され得る。磁気的または触知的に作動するスイッチの代替として、またはそれに追加して、神経性刺激は、所定のスケジュールに従い、または、利用可能な感知様式を利用した埋込型デバイスによる特定の開始条件の感知時に、自動的に誘引されてもよい。神経性刺激の自動送達が開始すると、デバイスは、患者がスイッチ50を作動することにより刺激を停止することができるように構成されてもよい。デバイスはまた、利用可能な感知様式を利用した特定の終了条件の感知時に、神経性刺激が停止されるように構成されてもよい。
【0016】
図4および5は、図3におけるパルス発生器42および図2におけるパルス発生器205等の、上述の刺激パルス列を送達するための回路の異なる実施形態を示す。図4において、電流源パルス出力回路2003は、制御器1351からのコマンド入力に従い、刺激電極1258Aと1258Bの間に電流パルスを出力する。ユーザによりプログラム可能な制御器からのコマンド入力は、パルスの周波数、パルス幅、電流振幅、パルス極性、および、単極刺激または双極刺激のいずれが送達されるかを指定する。図5は、制御器1351からのコマンド入力に従い、刺激電極1258Aと1258Bの間に電圧パルスを出力するために、容量放電パルス出力回路2001が使用される他の実施形態を示す。この実施形態において、ユーザによりプログラム可能な制御器からのコマンド入力は、パルスの周波数、パルス幅、電圧振幅、パルス極性、および、単極刺激または双極刺激のいずれが送達されるかを指定する。パルスにとって望ましい電流振幅をもたらす電圧振幅を制御器が指定するために、リードインピーダンスをリードインピーダンス測定回路2002により測定することができる。次いで、パルス出力回路の出力コンデンサは、各パルスに対し適切な電圧まで充電され得る。リードインピーダンスを監視するために、制御器は定期的に、またはテレメトリを介したユーザからのコマンド時に、出力コンデンサを既知の電圧レベルまで充電し、刺激パルスを送達するために出力コンデンサを刺激リードに接続し、コンデンサ電圧がある量(例えば、初期値の半分まで)だけ減衰するのにかかる時間を測定するようにプログラムされる。患者の不快感を最小限にするために、リードインピーダンスの手順は、可能な限り低い電圧を使用して行う必要がある。一実施形態において、制御器は、第1の電圧振幅(例えば1ボルト)を使用し、次いで測定カウント(すなわちコンデンサ減衰時間)を規定の最小値CntZMinと比較するようにプログラムされる。測定カウントがCntZMinを下回る場合、試験中に送達された電流は、測定が正確となるには小さすぎるとみなされる。次いで第2の測定パルスを、より高い第2の電圧(例えば2ボルト)で送達する。そのカウントもまたCntZMinを下回る場合、第3の測定パルスを、さらに高い第3の電圧(例えば4ボルト)で送達する。典型的な刺激リードでは、この手順は、測定電流を約1mAと0.6mAの間に制限する。
【0017】
(神経性刺激の制御送達)
特定レベルの神経性刺激に対する患者の応答は、様々な要因により経時的に変動し得る。例えば、患者の自律神経平衡は、日周期リズムに従い変動し得る。神経性刺激器は、最大限有益な効果を得るために、患者の日周期リズムに従い神経性刺激の送達をスケジュールするようにプログラムすることができる。HFを患う患者はまた、典型的には、交感神経刺激を減退させるベータ遮断薬や、レニン−アンジオテンシン系の刺激によりもたらされるノルエピネフリンの放出により交感神経刺激を増強することができる利尿薬等の自律神経平衡に影響する薬物を服用する。デバイスは、そのような送達のスケジューリングおよび/またはそのような薬物の効果を考慮した開ループ様式での送達される神経性刺激のレベル調整により、神経性刺激の送達を滴定するようにプログラムすることができる。図6は、デバイス制御器により実行され得る例示的なアルゴリズムを示す。ブロック600は、デバイスによる神経刺激送達のスケジューリングと、パルス振幅および周波数等の刺激パラメータの適切な調整のルーチンを表す。ブロック610は、刺激スケジュールおよびパラメータのユーザ指定を表し、ブロック630は、神経刺激を送達するためにデバイスにより実行されるルーチンを表す。ブロック620は、スケジューリングおよびパラメータ調整ルーチンにより使用されるデバイスに入力される薬物用量情報を表す。例えば、デバイスは、ベータ遮断薬が患者に服用される(またはその最大の効果を有すると予測される)日の時点(複数を含む)で、迷走神経または圧受容器神経性刺激のレベルを中止するかまたは低減するようにプログラムされ得る。同様に、デバイスは、利尿薬が患者に服用される(またはその最大の交感神経効果を有すると予測される)日の時点(複数を含む)で、迷走神経または圧受容器神経性刺激のレベルを増加するようにプログラムされ得る。患者が特定の薬物を服用する時に関する情報は、臨床医学者または患者によりテレメトリを介して入力することができる。あるいは、電子錠剤カウンタがテレメトリを介してデバイスに情報を送信することができる。
【0018】
他の実施形態において、神経刺激器は、患者の自律神経平衡を反映する感知または導出された生理学的変数に従い、閉ループ様式で神経性刺激の送達を制御するようにプログラムされる。上述の開ループ様式の代わりに閉ループ形式で神経性刺激の送達を制御することにより、デバイスは、患者の自律神経平衡に影響する様々な要因を考慮することができる。そのような要因には、薬物に対する患者それぞれの応答、薬物服用におけるノンコンプライアンス、異なる薬物間相互作用、および、患者の自律神経平衡を1日の間に変動させる可能性のある、薬物とは無関係の他の要因が含まれる。患者の検出された自律神経平衡に従い神経性刺激を送達することは、患者が最適量の神経性刺激を受けるようにするだけでなく、必要ないときには刺激を送達するエネルギーを無駄にしないことにより電池電力を節約することになる。上述したように、デバイスは、そのような送達をスケジューリングすることにより、および/または、心拍数、心室性期外収縮(PVC)数、心拍数不整、心拍変動、固有P−R間隔、呼吸数、活動レベル、または、感知された心音もしくは測定されたパルス圧変化(dP/dt)から決定される心筋収縮能等の測定された生理学的変数に従い、送達される神経性刺激のレベルを調整することにより、神経性刺激の量を滴定するようにプログラムすることができる。例えば、デバイスにより送達される迷走神経または圧受容器神経性刺激の量は、交感神経系の緊張の増加を反映する検出された心拍数の増加、心拍数不整、呼吸数、心筋収縮能、またはP−R間隔に応答して増加することができる。デバイスは、同様に、それらの変数の検出された低下に応答して刺激の量を減少させることができる。また、デバイスは、神経性刺激の送達を制御するために、感知された生理学的変数と併せて上述の薬物用量情報も使用するようにプログラムすることができる。例えば、1つ以上の感知された生理学的変数に基づく自律神経平衡の決定は、薬物に対する予測される応答に従い送達される神経性刺激の量を調整する前に、薬物に対する患者の応答を確認するために使用することができる。図7は、神経刺激送達の閉ループ制御を達成するためにデバイス制御器により実行され得る、例示的なアルゴリズムを示す。ブロック700は、デバイスによる神経刺激送達のスケジューリングと、パルス振幅および周波数等の刺激パラメータの適切な調整のルーチンを表す。ブロック710は、刺激スケジュールおよびパラメータのユーザ指定を表し、ブロック730は、神経刺激を送達するためにデバイスにより実行されるルーチンを表す。ブロック720は、スケジューリングおよびパラメータ調整ルーチンにより使用されるデバイスに入力される薬物用量情報を表す。ブロック740は、患者の自律神経平衡を反映し、神経刺激により影響される1つ以上の生理学的変数の測定または導出を表す。次いで、スケジューリングおよびパラメータ調整ルーチンは、神経刺激送達において自律神経平衡の評価を考慮する。ある実施形態において、自律神経平衡の評価の実行においてデバイスにより収集されたデータは、RFテレメトリリンクを介して遠隔モニタに送信される。遠隔モニタは、臨床医学者またはコンピュータアルゴリズムによる後の分析(例えば動向分析)のためにデータを記録し、および/または、インターネット等のネットワークを介して他の場所に送信することができる。
【0019】
患者の自律神経平衡を評価するための他の手段は、心拍変動のスペクトル分析である。心拍変動とは、洞律動中の連続した心拍間の時間間隔の変動を指し、自律神経系の交感神経および副交感神経の神経肢の間の相互作用に主に起因する。心拍変動のスペクトル分析は、連続した心拍間の間隔を表す信号を、異なる発振周波数での信号の振幅を表す個別の成分に分解することを伴う。0.04Hzから0.15Hzの範囲の低周波数(LF)帯域における信号パワーの量は、交感神経系と副交感神経系の両方の活動のレベルにより影響され、0.15Hzから0.40Hzの範囲の高周波数(HF)帯域における信号パワーの量は、主に副交感神経活動の関数である。従って、LF/HF比として指定される信号パワーの比率は、自律神経平衡の状態の良い指標であり、高いLF/HF比は、特に身体的活動が低い場合には、増加した交感神経活動を示す。規定の閾値を超えるLF/HFは、心臓機能が適正ではないことの指標とみなされる。心臓感知能力を有するデバイスは、その心房または心室感知チャネルから受け取ったデータを分析することにより、LF/HF比を決定するようにプログラムすることができる。連続した心房または心室の感知の間の間隔は、心拍間またはBB間隔と称されるが、一定の期間または規定数の心拍の間に測定および収集し得る。得られる一連のBB間隔値は、次いで離散的信号として保存され、上述の高周波数帯域および低周波数帯域におけるエネルギーを決定するために分析される。間隔データに基づきLF/HF比を推定するための技術は、同一出願人による米国特許第7,069,070号および2003年9月23日出願の特許出願番号第10/669,170号に記載されており、その開示は参照することにより本明細書に組み入れられる。神経刺激デバイスは、そのような送達をスケジューリングすることにより、および/または、推定LF/HF比に従い送達される神経性刺激のレベルを調整することにより、送達される神経性刺激の量を滴定するようにプログラムすることができる。したがって、デバイスは、LF/HF比が規定の閾値を超えて増加する場合は迷走神経または圧受容器刺激を増加させ、および/または、LF/HF比が別の規定の閾値よりも低く低下する場合は迷走神経または圧受容器刺激を低下させることができる。LF/HF比に対する規定の閾値は、既定値であってもよく、または、経時的に患者のLF/HF比を監視し、ベースライン値と相対的に閾値を指定することからデバイスによって導出されてもよい。代替の実施形態において、デバイスは、交感神経および副交感神経における電気的活動を測定することにより自律神経平衡を直接的に測定するための、感知チャネルを備えることができる。
【0020】
上述の特定の実施形態と併せて本発明を説明してきたが、多くの代替、変型、および修正が当業者には明らかである。そのような代替、変型、および修正は、以下の添付の請求項の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経刺激を送達するための埋込型デバイスであって、
神経性刺激パルスを出力するためのパルス発生器と、
選択された神経部位に電気刺激を送達するための、該パルス発生器に接続された1つ以上の刺激電極と、
所定のスケジュールおよび規定の刺激パラメータに従い神経刺激パルスの該出力を制御するための、該パルス発生器に接続された制御器と、
神経刺激を送達するための所定のスケジュールおよび規定の刺激パラメータのユーザ入力を可能とするための、該制御器に結合されたテレメトリユニットと
を備え、
該制御器は、テレメトリを介して薬物用量情報を受け取り、それに従って神経刺激を送達するためのスケジュールを変更するようにプログラムされる、デバイス。
【請求項2】
前記制御器は、前記薬物用量情報に従い前記刺激パラメータを変更するようにさらにプログラムされる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記刺激電極は、患者の迷走神経または圧受容器に刺激を送達するために構成可能であり、前記制御器は、ベータ遮断薬の用量を該患者が摂取するときに、該送達される神経刺激の量を減少させるようにプログラムされる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記刺激電極は、患者の迷走神経または圧受容器に刺激を送達するために構成可能であり、前記制御器は、利尿薬の用量を該患者が摂取するときに、該送達される神経刺激の量を増加させるようにプログラムされる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記制御器は、電子錠剤カウンタから薬物用量情報を受け取るようにプログラムされる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
神経刺激を送達するための埋込型デバイスであって、
神経性刺激パルスを出力するためのパルス発生器と、
選択された神経部位に電気刺激を送達するための、該パルス発生器に接続された1つ以上の刺激電極と、
所定のスケジュールおよび規定の刺激パラメータに従い神経刺激パルスの出力を制御するための、該パルス発生器に接続された制御器と、
神経刺激を送達するための所定のスケジュールおよび刺激パラメータのユーザ入力を可能とするための、該制御器に結合されたテレメトリユニットと、
患者の自律神経平衡を反映する生理学的変数を検知するための1つ以上の検知様式と、
を備え、
該刺激電極は、該患者の迷走神経または圧受容器に刺激を送達するために構成可能であり、該制御器は、該患者の自律神経平衡の決定に従い、該送達される神経刺激の量を調整するようにプログラムされる、デバイス。
【請求項7】
前記1つ以上の検知様式は、心臓電気活動を検知するための心臓検知チャネルを含み、前記制御器は、前記患者の測定された心拍数に従い、前記送達される神経刺激の量を調整するようにプログラムされる、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
BB間隔と称される、連続的な固有拍動の間の時間間隔を測定および収集し、該収集された間隔を、離散的BB間隔信号として格納し、該BB間隔信号を所定の高周波帯域および低周波帯域にフィルタリングし、それぞれLFおよびHFと称される、該低周波帯域および高周波帯域のそれぞれにおける該BB間隔信号の信号パワーを決定するための回路と、
LF/HF比を演算し、前記LF/HF比を規定の閾値と比較することにより自律神経平衡を評価するための回路と
をさらに備え、
前記制御器は、前記患者の自律神経平衡に従い、前記送達される神経刺激の量を調整するようにプログラムされる、請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
前記1つ以上の検知様式は、測定される患者の活動レベルのための加速度計を含み、前記デバイスは、LF/HF比を演算し、該LF/HF比を規定の閾値と比較し、かつ該測定された活動レベルを規定の活動閾値と比較することにより自律神経平衡を評価するための回路をさらに備える、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記1つ以上の検知様式は、呼吸数を検知するための微小呼吸センサを含み、前記制御器は、前記患者の測定された呼吸数に従い、前記送達される神経刺激の量を調整するようにプログラムされる、請求項6に記載のデバイス。
【請求項11】
前記1つ以上の検知様式は、心音を検知するための加速度計を含み、前記制御器は、心筋収縮能を反映する前記患者の測定された心音の強度に従い、前記送達される神経刺激の量を調整するようにプログラムされる、請求項6に記載のデバイス。
【請求項12】
前記1つ以上の検知様式は、脈圧を検知するための圧力センサを含み、前記制御器は、心筋収縮能を反映する前記圧力の変化率dP/dtの測定に従い、送達される神経刺激の量を調整するようにプログラムされる、請求項6に記載のデバイス。
【請求項13】
前記1つ以上の検知様式は、前記患者の咳を検知するため加速度計を含み、前記制御器は、持続性の咳の検出に従い、前記送達される神経刺激の量を調整するようにプログラムされる、請求項6に記載のデバイス。
【請求項14】
前記1つ以上の検知様式は、心房および心室の電気的活動を検知するための心臓検知チャネルを含み、前記制御器は、前記患者の測定された固有PR間隔に従い、前記送達される神経刺激の量を調整するようにプログラムされる、請求項6に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−502272(P2010−502272A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526633(P2009−526633)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/018411
【国際公開番号】WO2008/027242
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】