説明

神経前駆細胞の移動を導く方法と組成物

細胞をVEGFR-2リガンド及びFGF-2に暴露することを含む哺乳動物の神経前駆細胞の移動を調節する方法。FGF-2の存在下で哺乳動物をVEGFR-2リガンドに暴露することにより神経学的障害を治療する方法もまた提供される。FGF-2に関連する生体適合性マトリックスを含む組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、神経前駆細胞の移動を調節するための方法と組成物、及び神経細胞の消失又は傷害に関与する症状の治療方法、及び神経細胞移動障害の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
発生中の未成熟ニューロンの移動は、神経系の正しい構成に必須である。哺乳動物の脳ではほとんどのニューロンが脳室の周辺の増殖領域内で生成され、そこから未成熟前駆体が大脳壁(cerebral wall)の特異的部位に移動する。種々の臨床的症状(種々の型の脳回欠損を含む)は、神経細胞の移動の欠陥に関連する。これらの形成異常の結果は、精神遅滞、てんかん、麻痺、及び失明がある。これらの障害の一部の遺伝的研究によりニューロン移動の制御がある程度理解され、これは過去10年間に急速に進展した。
【0003】
早期発生で重要な役割を果たす以外に、ニューロン移動はまた成体脳にとっても重要である。例えば鳴禽類の脳では、成人期の構造の可塑性と学習にニューロン発生とニューロン移動が必要である。最近の証拠により、未分化多能性前駆細胞が、成体哺乳動物の脳において、及び成体の神経発生の間、並びに吻側脳室下帯-嗅球系と歯状回の特異的部位で起きる連続的ニューロン交換の間にも存在することが示唆される。
【0004】
最後に、細胞の移動は創傷治癒で中心的な役割を果たす。消失又は傷害されたニューロンを交換する成体哺乳動物脳の固有の能力は非常に限定されているが、種々の因子の投与後に神経前駆細胞の移動と細胞交換が報告されている。
【0005】
その最終目的地への未成熟ニューロンの進路決定に関与する因子や機構を理解するために、最近多くの試みがなされている。ニューロンをその最終目的地に導くために、誘引性及び反発性分子の高度に保存されたファミリーが連係して制御されている。これらの分子には、ネトリン類(netrins)、セマホリン類(semaphorins)、エフリン類(ephrins)、スリット類(Slits)及び種々の神経栄養因子がある。分裂後の未成熟ニューロンの移動に比較して、神経幹細胞や未分化神経前駆細胞の移動を導く因子や機構についてはほとんど不明である。ある研究では、経膜移動測定法(transfilter migration assay)において、胎盤由来増殖因子(PDGF)が、FGF-2刺激された神経前駆細胞を誘引することが示された。
【0006】
神経前駆細胞移動においてある役割を果たす候補分子を同定することは、発生の間における正しい組織形成の理解のみならず、構造的脳修復を行うように未分化神経前駆細胞を指令する方法の開発において決定的に重要である。
【発明の開示】
【0007】
発明の要約
ある実施態様において本発明は、細胞をFGF-2及びVEGFR-2リガンドに暴露することを含む神経前駆細胞の移動を調節する方法を提供する。別の実施態様において本発明は、哺乳動物をFGF-2の存在下でVEGFR-2リガンドに暴露して神経消失又は傷害部位への神経前駆細胞の移動を刺激することを含む、神経細胞の消失又は傷害が関与する障害を有する哺乳動物の治療方法を提供する。
【0008】
別の実施態様において本発明は、神経組織部位を有する哺乳動物を欠陥神経集団を用いて治療する方法を提供する。この方法は、哺乳動物をFGF-2の存在下でVEGFR-2リガンドに暴露して、神経組織部位への神経前駆細胞の移動を刺激することを含む。
【0009】
別の実施態様において本発明は、細胞上のVEGFR-2の発現を上昇させるか又は維持することができる化合物に細胞を暴露し、そして細胞をVEGFR-2リガンドに暴露することを含む、神経前駆細胞の移動を調節する方法を提供する。
【0010】
別の実施態様において本発明は、VEGFR-2リガンド、FGF-2、及び担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0011】
別の実施態様において本発明は、FGF-2を含む生体適合性マトリックスを含む組成物を提供する。好ましくは生体適合性マトリックスはまた、VEGFR-2リガンドを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明において血管内皮増殖因子-2(VEGFR-2)リガンド(例えば、VEGF、VEGF-E、及びVEGF-C/DΔNΔC)は、VEGFR-2を発現する神経前駆細胞の化学誘引物質であり、ここでVEGFR-2リガンドに応答した神経前駆細胞の移動は繊維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)への細胞の暴露に依存する。本発明は、細胞をFGF-2とVEGFR-2リガンドとに暴露することにより神経前駆細胞の移動を調節する方法を提供する。理論に拘束はされないがFGF-2は、内因性又は外因性VEGFR-2リガンドが結合する神経前駆細胞上のVEGFR-2の発現を維持するか及び/又は上昇させると考えられる。細胞は外因性又は内因性VEGFR-2リガンドに暴露することができる。例えば内因性VEGFR-2リガンドがアップレギュレートされていない時、又は哺乳動物中で神経前駆細胞の移動を刺激するには不充分な量で存在する時、細胞を外因性VEGFR-2リガンドに暴露することができる。細胞は、FGF-2に暴露する前、後、又は同時にVEGFR-2リガンドに暴露することができる。
【0013】
VEGFR-2を発現する以外に、本発明の神経前駆細胞はネスチンを発現し、ニューロン-もしくはグリア-制限前駆細胞の抗原性マーカー(例えば、PSA-NCAM、ダブルコルチン、NEuN、NG2、又はA2B5)及び内皮細胞マーカー(例えば、フォンウィルブラント因子及びRECA-1)を示さない。神経前駆細胞はまたVEGFR-1を発現し、好ましくはVEGFR-3を発現しない。
【0014】
本発明はまた、神経前駆細胞上のVEGFR-2の発現を上昇させるか又は維持することができる化合物に細胞を暴露し、かつ細胞をVEGFR-2リガンドに暴露することを含む、神経前駆細胞の移動を調節する方法を提供する。VEGFR-2の発現を上昇させるか維持することができる化合物の非限定例はFGF-2を含む。他の化合物は、VEGFR-2の発現を上昇させるか又は維持することができる化合物についてスクリーニングすることにより決定することができる。かかるスクリーニングは、神経前駆細胞を試験化合物に暴露し、次にVEGFR-2発現のレベルについて測定することにより行われる。かかる発現はVEGFR-2抗体又は標識リガンドを使用して検出される。
【0015】
本発明はまた、有効量のFGF-2とVEGFR-2及び薬剤学的に許容される担体とを含む組成物を提供する。この実施態様では薬剤学的に許容されるとは、連邦政府又は州政府の監督官庁により認可されているか、又はアメリカ合衆国薬局方又は動物さらに好ましくはヒトでの使用について他の一般的に認識されている薬局方に記載されていることを意味する。担体という用語は、FGF-2やVEGFR-2と一緒に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤、又はビヒクルを示す。適当な担体の例は、E.W. Martinによる「レミントンの薬剤科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。
【0016】
本発明はまた、FGF-2及び好ましくはまたVEGFR-2リガンドを含む生体適合性マトリックスを含む組成物を提供する。生体適合性マトリックスは、哺乳動物に投与された時副作用やアレルギー反応を生成せず、神経系に投与することができる限り、天然材料から又は合成材料からも作成することができる。マトリックスは非生体分解性又は生体分解性ポリマーから作成してもよい。非生体分解性ポリマーの非限定例には、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド、これらのコポリマー及び混合物がある。生体分解性材料の非限定例には、ポリエステル、例えばポリグリコリド、ポリラクチド、及びポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(「PLGA」);ポリエーテル、例えばポリカプロラクトン(「PCL」);ポリ無水物;ポリアルキルシアノクリレート、例えばn-ブチルシアノアクリレート及びイソプロピルシアノアクリレート;ポリアクリルアミド;ポリ(オルトエステル);ポリホスファゼン;ポリペプチド;ポリウレタン;及びかかるポリマーの混合物がある。マトリックスは、スポンジ、インプラント、チューブ、凍結乾燥成分、ゲル、パッチ、粉末、もしくはナノ粒子、又は神経系に投与できる任意の他の形がある。VEGFR-2リガンドがマトリックスに加えられる時、好ましくはマトリックスはVEGFR-2リガンドの濃度勾配の生成を可能にする。マトリックスはさらに1つ以上の他の適当な化学走化性又は神経栄養因子、例えば増殖因子(例えば、PDGF、NFG)、ネトリン、セマホリン、エフリン、スリットがある。生体適合性マトリックスを含む組成物はまた、組成物を投与される哺乳動物への外因性神経前駆細胞の移植のための神経前駆細胞を含む。神経前駆細胞は、治療される哺乳動物又は他の供給源に由来してもよい。
【0017】
本発明はまた、ある神経障害又は症状を有する哺乳動物の治療法を提供する。例えばある実施態様において本発明は、神経細胞(ニューロンとグリア細胞の両方を含む)の消失又は傷害を含む症状を有する哺乳動物の治療法を提供する。この方法は、哺乳動物をVEGFR-2リガンド及びFGF-2に暴露して、神経細胞消失又は傷害の部位への神経前駆細胞の移動を刺激することを含む。神経細胞の消失又は傷害を含む症状の非限定例は、例えば脳卒中、虚血、酸素欠乏又は頭部外傷がある。
【0018】
別の実施態様において本発明は、哺乳動物をVEGFR-2リガンド及びFGF-2に暴露して欠陥神経組織部位への神経前駆細胞の移動を刺激することにより、欠陥神経集団を用いて神経組織部位を有する哺乳動物の障害を治療する方法を提供する。欠陥神経集団を有するある神経組織を特徴とするかかる障害には、発生している神経系中のニューロンの異常な移動により引き起こされる出産時欠損に至るものがある。ニューロンのかかる異常な移動はニューロンの正しくない配置を引き起こし、必要なニューロン集団が欠如したある神経組織部位ができる。これらの障害は、脳(例えば、大脳半球、小脳、脳幹、又は海馬)の構造異常又は欠失した領域を引き起こす。かかる異常な移動の結果としての構造異常は、例えば分裂脳症(schizocephaly)、孔脳症、無脳回、脳回欠損、大脳回、脳回肥厚、小脳回、小多脳回、神経異所的形成、脳梁非形成、及び脳神経非形成がある。本発明は、神経前駆細胞を発生中の神経系の正しい部位に向けることにより、かかる障害を治療する方法を提供する。例えば、もしニューロンが小脳へ移動せず、ニューロン集団が欠如した小脳になると、本発明の方法は小脳への神経前駆細胞の移動を刺激するための手段を提供する。
【0019】
本発明の神経障害又は症状を治療する方法は、内因性神経前駆細胞を刺激するために、及び/又は哺乳動物に移植される外因性神経前駆細胞を刺激するために使用される。本発明の方法に従って哺乳動物をVEGFR-2リガンド及びFGF-2に暴露することは、神経前駆細胞を内因性又は外因性VEGFR-2リガンドと内因性又は外因性FGF-2とに暴露することを含む。もし内因性VEGFR-2リガンドがアップレギュレートされていないか、又は哺乳動物中で神経前駆細胞の移動を刺激するには不充分な量で存在するなら、例えば外因性VEGFR-2を哺乳動物に積極的に投与することができる。VEGFR-2リガンドは、FGF-2に暴露する前、後、又は同時に投与することができる。病変の場合は、内因性VEGFは哺乳動物中ではアップレギュレートされているため、VEGFR-2リガンドの投与は不要なことがある。同様に内因性FGF-2が神経前駆細胞の移動を刺激するには不充分な量で存在するなら、外因性FGF-2を哺乳動物に積極的に投与することができる。
【0020】
哺乳動物は、当該分野で公知の任意の方法により、FGF-2、VEGFR-2リガンド及び/又は神経前駆細胞に暴露することができる。例えば哺乳動物は、神経前駆細胞が必要な神経部位への、又は内因性神経前駆細胞の移動を刺激する場合は、内因性神経前駆細胞が位置する神経部位への、カテーテルを介する直接投与により、これらの物質に暴露することができる。好適な実施形態において、FGF-2、VEGFR-2リガンド、及び/又は内因性神経前駆細胞は、上記したように生体適合性マトリックスを含む組成物の一部として投与される。さらにこの方法は、1つ以上の他の適当な化学走化性又は神経栄養性因子、例えば増殖因子(例えば、PDGF、NFG)、ネトリン、セマホリン、エフリン、スリットを哺乳動物に投与することをさらに含む。
【0021】
本発明の方法により治療可能な神経障害の同定は、当業者の能力と知識の範囲内である。例えば当該分野の臨床家は、例えば臨床試験、診断法、及び物理的観察により、個体が神経傷害もしくは喪失又は神経移動障害に罹っているかどうか、そうして本発明のVEGFR-2リガンド及びFGF-2への暴露の候補であるかどうかを容易に決定することができる。
【0022】
哺乳動物は神経前駆細胞の移動を指令するのに充分な量のVEGFR-2リガンド及びFGF-2に暴露することができる。細胞培養測定法と動物試験から得られるデータは、哺乳動物(例えばヒトを含む)で使用するための用量範囲を剤形する際に利用することができる。具体的な障害又は症状の治療に有効な量は、障害又は症状の性質に依存し、標準的な臨床的方法により決定することができる。さらに最適な用量範囲を画定するのを助けるために、インビトロ測定法を使用してもよい。この用途に有効な量は例えば障害の重症度に依存する。投与スケジュールはまた、疾患状態と患者の状態により変化し、典型的には単回の大量投与か又は連続的注入から1日当たり複数回の投与があり、又は担当医師及び患者の状態により示される。しかし本発明は決してこれらの特定の投与法に限定されないことを理解されたい。
【0023】
本発明はまた、FGF-2及び/又はVEGFR-2を充填した1つ以上の容器を含む医薬パック又はキットを提供する。
【0024】
神経前駆細胞が哺乳動物に移植される実施態様において、神経前駆細胞の集団は当該分野で公知の方法により哺乳動物ドナーから単離することができる。例えば神経前駆細胞は、インビボで分裂細胞(例えば、成体脳の脳室下帯(SVZ)又は海馬、及び発生中の脳の種々の構造体、例えば海馬、脳皮質、小脳、神経冠、及び基底前脳)を含有することが証明されている胎児又は成体の神経組織の領域を解剖することにより、インビトロで単離することができる。次に神経組織はばらばらにされ、分離した細胞は、結合のための基質としてのマトリックス上の規定培地又は補足培地中の高濃度のFGF-2又は表皮増殖因子-2(EGF)のような分裂促進因子に暴露される(かかる方法は、M. Alisonら、J. Hepatol. 26, 343 (1997) 及びJ.M.W. Slack, Development, 121, 1569 (1995)に記載されている、いずれも本明細書に援用される)。次に、分離した細胞は、本発明の神経前駆細胞に特徴的な抗原マーカー(例えばネスチン又はVEGFR-2)に特異的に結合する分子に暴露することができる。これらの抗原マーカーを発現する細胞は結合分子に結合して、神経前駆細胞の単離を可能にする。神経前駆細胞が当該分子を取り込まない場合、分子は当該分野で公知の方法により細胞から分離される。例えば抗体は、低pHを有する溶液又はキモトリプシンのようなプロテアーゼに短時間暴露することにより細胞から分離される。
【0025】
神経前駆細胞の集団を単離するのに使用される分子は、神経前駆細胞の同定と分離を促進する標識物と結合してもよい。かかる標識物の例には磁性ビーズとビオチンがあり、これはアビジン又はストレプトアビジンと蛍光物質に対する親和性を利用して同定又は分離される。
【0026】
陰性選択により好ましくない細胞を除去する方法もまた使用できる。例えば細胞は本発明の神経前駆細胞に特徴的ではない抗原マーカー(例えば、PSA-NCAM、ダブルコルチン、NeuN、NG2、A2B5)に暴露され、これらの分子に結合する細胞は除去することができる。
【0027】
神経前駆細胞がいったん単離されると、これらはFlaxら、「移植可能なヒト神経幹細胞は発生のてがかりに応答し、ニューロンを交換し、外来遺伝子を発現する」、Nature Biotech., 16:1033-1039 (1998);UchidaとBuck、「ヒト中枢神経系幹細胞の直接単離」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:14720-14725 (2000);Brustleら、「ラット胚への胎児ヒト脳細胞の脳室内移植により作成されたキメラ脳」、Nature Biotech., 16:1040-1044 (1998);及びFrickerら、「成体脳への移植後のヒト神経前駆細胞の部位特異的移動とニューロン分化」、J. Neurosci. 19:5990-6005 (1999)(これらのすべては、本明細書に援用される)に記載のような当該分野で公知の方法により哺乳動物の神経系の所望の部位に移植される。
【実施例】
【0028】
実施例1:神経前駆細胞の単離と培養
新生児ラットの脳の冠状切片からSVZを解剖し、機械的に分離し、当該分野で公知の方法に従ってトリプシン処理した(Limら、Noggin antagonizes BMP signaling to create a niche for adult neurogenesis、Neuron, 28:713-726 (2000)を参照のこと、当該文献は本明細書に援用される)。当該分野で公知の方法(Limら、2000参照)に従ってパーコール勾配遠心分離を使用してSVZ前駆体を精製し、マトリゲル(0.24mg/cm2)又はラミニン被覆カバーガラス上に蒔いた。単離した細胞は、20ng/ml・FGF-2、1×B27、2mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、2mM・N-アセチル-システイン、及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを加えた神経基礎培地(Neurobasal medium)で増殖させた。培養物に3日毎に20ng/ml・FGF-2を含有する新鮮な培地を与えた。
【0029】
培養物の免疫染色を当該分野で公知の方法に従って行った(Wangら、"Functional N-methyl-D-aspartate receptors in O-2A glial precursor cells: a critical role in regulating polysialic acid-neural cell adhesion molecule expression and cell migration,"J. cell Biol., 135:1565-1581 (1996);Vutskitsら"PSA-NCAMmodulates BDNF-dependent survival and differentiation of cortical neurons,Eur. J. Neurosci., 13:1391-1402 (2001)参照のこと。いずれの文献も本明細書に援用される)。以下の一次抗体と希釈率を使用した:ネスチンに対するマウスモノクローナル抗体(バイオジェネシス(Biogenesis)、英国、1:300希釈);A2B5に対するマウスモノクローナル抗体(Eisenbarthら"Monoclonal antibody to a plasma membrane antigen of neurons,"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76:4913-4917 (1979)に記載されている、これは本明細書に援用される;ハイブリドーマ上清(ATCC、ロックビル、メリーランド州、1:5希釈);12残基以上の鎖長を有するα2-8結合PSAを特異的に認識するMen B(髄膜炎菌B群(Meningococcus group B))マウスIgMモノクローナル抗体(1:500希釈)(Rougonら、"Amonoclonal antibody to a plasma membrane antigen of neurons"J. Cell. Biol., 103:2429-2437 (1986)に記載されている。当該文献は、本明細書に援用されている);抗GalC(Ranschtら"Development of oligodendrocytes and Schwaqnn cells studies with a monoclonal antibody againstgalactocerebroside"、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79:2709-2713 (1982)に記載される。当該文献は、本明細書に援用される)、マウスIgMモノクローナル抗体(培養上清、1:5希釈);β-チューブリンイソタイプIIIに対するTujマウスモノクローナル抗体(1:400希釈)(シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ州);GFAPに対するウサギポリクローナル抗体(ダコパッツ(Dakopatts)、コペンハーゲン、デンマーク、1:200希釈);NG2に対するウサギポリクローナル抗体(ケミコンインターナショナル(Chemicon International)、カリフォルニア州、1:400希釈);ダブルコルチン(Doublecortin)に対するヤギポリクローナル抗体(サンタクルズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)、1:300希釈);NeuNに対するマウスmAb(ケミコンインターナショナル(Chemicon International)、カリフォルニア州、1:100希釈)。NCAMタンパク質コアに対するウサギ抗血清は、NCAM(1:1000希釈)の7つのNH-2-末端残基を認識する部位特異的抗体であった(RougonとMarshak、「哺乳動物神経細胞接着分子のアミノ末端ドメインの構造的及び免疫学的特徴解析」、J. Biol. Chem., 261:3396-3401 (1986)参照、これは本明細書に援用される)。未分化乏突起神経膠細胞を同定するためにO4モノクローナル抗体(ハイブリドーマ上清、1:5希釈)(Eisenbarthら、1979に記載されている)を使用した。ある場合にはヘキスト33258を使用して細胞核を対比染色した。蛍光顕微鏡を用いて蛍光を観察した(アイシオフォト(Axiophot);ツァイス(Zeiss)、オベロチェン(Oberlochen)、ドイツ)。非特異的マウスIgM又はIgG免疫前血清又は二次抗体のみで処理した対照は、染色を示さなかった。2重免疫標識実験では、1つの一次抗体のみを使用して、次に抗マウスFITC結合二次抗体と抗ウサギTRITC結合二次抗体を加えると、1つのみが標識された。BrdUの20時間取り込み後にBrdUに対するモノクローナル抗体(ベーリンガー(Boehringer)、1:50希釈)を用いて、増殖している細胞を同定した。
【0030】
細胞を蒔いた4日後、図1Aに見られるように細胞は未成熟な丸い又は二極性の形態を有した。分裂し密ではないコロニーを形成する細胞を毎日観察し、6日目までには図1Bに示すように単層を形成した。単層により、細胞はより均一にFGF-2に暴露され、未分化前駆細胞の均一な集団の形成が促進される。この段階で大多数(98%)の細胞は、図1Cに見られるように抗ネスチン抗体で染色された。ネスチンは神経前駆細胞のマーカーと見なされる。神経マーカーTujを発現した細胞は3.2%未満であった。図1Dに見られるように、PSA-NCAMとBrdU取り込みはこれらの細胞が分裂しないことを示した。GFAP又はGalC(それぞれ星状細胞と乏突起神経膠細胞のマーカー)に対する免疫反応性を示した細胞はほとんどないか全くなかった。これらの存在はおそらく、前駆体の単離と精製後の初期細胞集団における汚染のためであろう。いくつかの分化細胞は例外として、FGF-2の存在下で維持された前駆細胞はPSA-NCAM、ダブルコルチン、NeuN、NG2、又はA2B5を含む神経-又はグリア-制限前駆細胞の抗原マーカーを示さなかった(データは示していない)。さらにネスチン陽性細胞は、フォンウィルブラント因子やRECA-1のような内皮細胞マーカーは陰性であった(データは示していない)。これらの結果により、培養物が、ニューロン又はグリア細胞に対する細胞系統特異的マーカーを未だ持たない未成熟細胞であることが示された。
【0031】
ニューロン及びグリア分化の両方を刺激することがすでに証明されている条件下で培養物を分化させると(Palmerら、"The adult hippocampus contains primordial neural stem cells"Mol. Cell. Neurosci., 8:389-404 (1997)に記載されている)、図1Eに見られるように集団の96%以上が神経及び星状細胞マーカーに対する免疫反応性を示した(Tuj+、21%、GFAP+、75%)。残りの集団は、図1Fに見られるように乏突起神経膠細胞マーカーA2B5又はGralCに対して免疫反応性であった。これらの観察結果はFGF-2で育てた細胞が、ニューロン、星状細胞、及び乏突起神経膠細胞(中枢神経系の3つの主要な細胞の種類)を発生させる多能性神経前駆細胞であることを示す。
【0032】
実施例2:FGF-2刺激神経前駆細胞の移動はVEGFR-2リガンドにより調節される
ダン(Dunn)化学走化性チャンバー(ウェーバーサイエンティフックインターナショナル社(Weber Scientific International Ltd.)、テディントン(teddington)、英国)(Zichaら、"A new direct viewing chemotaxis"J. Cell Sci., 99:769-775 (1991);Allenら、"A role for Cdc42 in macrophag chemotaxis," J. Cell. Biol. 141:1147-1157 (1998)に記載されている、いずれの文献も本明細書に援用される)を使用して、VEGF(ヒト組み換え体、165アミノ酸のホモダイマー型、ペプロテック社(Peprotec Inc.)、ロッキーヒル(Rochy Hill)、ニュージャージー州、から購入)の安定な濃度勾配中で、神経前駆細胞の化学走化性を直接観察し記録した。ある実験では組換えヒトVEGF-CΔNΔC(M. Skobe博士、癌センター(Cancer Center)、マウントサイナイメディカルセンター(Mount Sinai Medical Center)、ニューヨーク)を使用した。ダンチャンバーは、ヘルバー(Helber)細菌計数チャンバーから中央のプラットフォームに円形のウェルを削りだして、内側のウェルと外側のウェルの間に1mmの幅の環状ブリッジを残すことにより作成される。装置の外側のウェルに加えられた化学走化性物質はブリッジを介して分散して、チャンバーの内側のブラインドウェルに達し勾配を形成する。この装置は、勾配の方向に関して移動の方向を決定することを可能にする。
【0033】
細胞を有するカバーガラスをチャンバー上に逆さにして、同心円の内側のウェルと外側のウェルの間の環状ブリッジを通過する細胞移動を記録し、細胞の移動を評価するのに2時間を選択した。これらの試験で体系的サンプリングを適用し、チャンバーの移動領域内のすべての細胞を記録し分析した。データは、ハママツ(HAMAMATSU)CCDビデオカメラでツァイス(Zeiss)10×対物レンズを使用してオープンラボ(Openlab)ソフトウェアを使用して10分毎に記録した。
【0034】
これらの化学走化性実験では、ダンチャンバーの外側のウェルに200ng/ml VEGFと20ng/ml FGF-2とを含有する培地で満たし、同心円の内側のウェルに培地とFGF-2のみで満たした。化学運動性実験のために、VEGF(20ng/ml)又はFGF-2(20ng/ml)をダンチャンバーの外側のウェルと内側のウェルの両方に加えた。
【0035】
細胞移動の散布図を使用して細胞運動の方向性を分析した。当該散布図は、チャンバーの外側のウェルの位置が垂直に上を向く(y方向)ように配置させた。各点は記録時間の最後の細胞の最終的位置であり、移動の出発点は2つの軸の交点に固定される。
【0036】
2時間の記録時間中の前進移動の効率を測定するために、各細胞の前進移動指数(FMI)を総経路長(細胞がフィールド中を移動した総距離)に対する前進移動距離(細胞がVEGF源の方向に移動した正味の距離)の比として計算した(Foxmanら、1999)。細胞がVEGF源から離れて移動する時FMI値はマイナスである。2時間の間に記録された各経過時間間隔について細胞の速度を計算した。
【0037】
図2Aと2Bに示すように、ダンチャンバーの外側のウェルに加えられた化学誘引物質はブリッジを介して内側のウェルに拡散し、チャンバーの設置の30分以内に線形の呈上勾配を生成する。勾配は以後約30時間安定なままである。FGF-2の存在下で維持され、そして200ng/mlのVEGFを用いて樹立した濃度勾配に暴露された6日目の前駆細胞は、図2Cに示すように強い陽性の化学走化性を示した。図2Cの細胞移動の散布図は、VEGF源への強く偏った移動を示す。これに対してVEGFを内側のウェルと外側のウェルの両方に加えた時(化学運動性条件下)、集団全体として運動性を維持した細胞は図2Dに示されるように移動の明らかな嗜好性は示さなかった。これらの実験では、神経前駆体化学走化性又は化学運動性の記録中に20ng/mlのFGF-2を体系的に培地に含めた。しかしFGF-2はこれらの細胞に対して、図2EやFに示すようにVEGFの存在とは無関係に、化学走化性作用は無かった。FGF-2勾配に暴露された細胞(図2Eに示す)とFGF-2の均一な濃度に暴露された細胞(図2Fに示す)の間には移動挙動に差は検出されなかった。
【0038】
これらの観察結果は、個々の細胞の軌跡を調べることにより確認された。図3に示すようにVEGF勾配に暴露された神経前駆細胞は、図3Aと3Bに示すようにVEGF源に向かって効率的に移動し、一方図3CとDに示した化学運動性の条件下又はFGF-2勾配に暴露した細胞は、移動中にランダムに方向転換した。
【0039】
図4AとBについて細胞の定量的分析により、FGF-2の存在下でVEGFに暴露した細胞の移動速度(図4A)とFMI(図4B)の両方が、FGF-2勾配又はVEGFもしくはFGF0-2の均一な濃度勾配に暴露した細胞の移動速度とFMIより有意に大きいことを明らかになった(化学運動性)。VEGFの誘引作用はラミニン-、ポリ-L-リジン-、マトリゲル-被覆カバーガラスに対して同様であった。これらのデータは、VEGFがFGF-2で刺激された神経前駆細胞の誘因物質であり、この作用がマトリックスに非依存性であるということを示す。
VEGF-CΔNΔCについて同様の結果が得られた。
【0040】
実施例3:神経前駆細胞はVEGFを発現する
RNA精製とRNase保護アッセイ
FGF-2中で培養6日目の又はFGF-2を12時間枯渇後の神経前駆細胞をRNA調製に使用した。総細胞RNAをTrizol試薬(インビトロゲン(Invitrogen))を使用して精製した。Pepperら(2000)が記載したようにcRNAプローブを使用して、ラットVEGFR1とVEGFR2についてRNase保護アッセイを行った。
【0041】
免疫沈降とウェスタンブロッティング
FGF-2中の通常のカルチャーから得た神経前駆細胞、又はFGF-2を12時間枯渇後のカルチャーから得た神経前駆細胞を溶解させ、マウスVEGFR2カルボキシ末端中のアミノ酸1158〜1345を認識するポリクローナル抗体(sc-504;サンタクルツバイオケミカルズ(Santa Cruz Biochemicals)、サンタクルツ(Santa Cruz)、カリホルニア州)を用いて、細胞溶解物からVEGFR-2タンパク質を免疫沈降させた。マウスカルボキシ末端アミノ酸1348〜1367を認識するポリクローナル抗VEGFR-2抗体(sc-315;サンタクルツバイオケミカルズ(Santa Cruz Biochemicals))を用いてウェスタンブロットを行った。
【0042】
FGF-2刺激した神経前駆細胞はVEGFR-1とVEGFR-2とを発現した。図5Aに見られるようにこれらの培養物中でVEGFR-3のmRNAは検出されなかった。FGF-2を12時間枯渇後、図5AとBに示すように、VEGFR-1とVEGFR-2転写体レベルの顕著な5倍の低下があった。これらの結果は、FGF-2刺激した神経前駆細胞はVEGFR-1とVEGFR-2の両方のmRNAを発現するが、VEGFR-3は発現せず、この発現にはFGF-2が必要であることを証明する。
【0043】
VEGF受容体発現のダウンレギュレーション及び化学走化性応答の欠如が、FGF-2の非存在下における細胞の死滅又は傷害のため生じる可能性は低く、これは以下により証明される:1)FGF-2を12時間除去後も、B27を加えた神経基礎培地で維持した細胞は対照培養物と比較して形態の差を示さなかった;2)細胞核のヘキスト33258染色は、FGF-2の存在下又は非存在下で維持した培養物間で差を示さなかった;3)ビデオ分析は、FGF-2の非存在下の細胞がFGF-2存在下の対照細胞と同じ移動速度でランダムな移動を示すことを明らかにした;4)FGF-2枯渇は、酸性リボゾームホスホタンパク質(P0)の発現を変化させなかった。インビトロでFGF-2は、前駆細胞の有糸分裂活性を刺激し、これらの細胞を未分化状態で維持することが知られている(Palmerら、1997;Tropepeら、1999)。培養物からのFGF-2の除去は、FGF-2刺激前駆体の分化を誘導するのに使用される標準的方法(Palmerら、1997;Tropepeら、1999)であるため、より分化した前駆体はVEGFR発現とVEGFに応答する能力とを喪失するかも知れない。しかしFGF-2除去の作用は8時間後の培地へFGF-2を再適用することにより可逆的であった。VEGF受容体発現もまた、分化ニューロン中でFGF-2により誘導されうる。
【0044】
実施例4:VEGFR-2リガンド誘導性の化学走化性はVEGFR-2により仲介される
実施例2の工程後の神経前駆細胞にMF1(VEGFR-1阻止抗体)とDC101(VEGFR-2阻止抗体)(イムクローンシステムズ社(ImClone Systems Incorporated)、ニューヨーク)の両方を20μg/mlで加え、対応するVEGF受容体の機能を阻止するのに使用した。ポリシアル酸阻止抗体を対照として使用した。
【0045】
図6AとCに示すように、VEGFに対する細胞の化学走化性応答はDC101により完全に無くなった。これに対して、図6Aに示すようにMF1は化学走化性に影響を与えなかった。これらの観察結果は図6Bに記載のように速度とFMIの測定により確認された。VEGF勾配の非存在下では抗VEGFR-2の添加は神経前駆細胞移動に大きな影響を与えなかった。これらの実験は、VEGFがVEGFR-2を介した前駆細胞の化学走化性を刺激することを証明する。
【0046】
この結論は、化学走化性を誘導するのにVEGF-CΔNΔCの濃度を使用した実験によりさらに支持された。VEGF-CΔNΔCは前駆細胞の化学走化性を効率的に誘導し、この作用がVEGFR2阻止抗体により妨害される(データは示していない)ことが観察された。さらにVEGF-CΔNΔCはVEGFR-2及びVEGFR-3を介してその機能を果たすため、及びVEGFR3はFGF-2刺激神経前駆細胞により発現されないため、これらの結果は、VEGFR-2を介したシグナル伝達がVEGFによる前駆細胞の化学誘引を仲介するという結論を強化する。
【0047】
実施例5:VEGF-2リガンドが神経前駆細胞の化学走化性を刺激するのにFGF-2が必要である
FGF-2の非存在下でのVEGFに対する前駆体の移動応答を調べた。培養5日目の細胞は、12時間FGF2を枯渇させ、次にVEGF勾配に暴露した(実施例3を参照)。図7Bに示すように、FGF2が枯渇した細胞はVEGFに応答する化学走化性を受けなかった。細胞は均一な濃度のVEGFに暴露された時のようにランダムに移動した。これらの結果に一致して、及びRNase保護アッセイのデータ(図5と実施例3に示す)を追認して、ウェスタンブロット解析はFGF-2の非存在下でVEGFR-2タンパク質の発現をほとんど又は全く示さず、一方図7Eに示すようにFGF-2の存在下では大きな発現が検出された。
【0048】
FGF-2除去の作用が可逆的かどうか及び培養物へのFGF-2の再適用によりVEGFに対して細胞が化学走化性に応答するかどうかを調べるために、FGF-2を12時間枯渇後に培地に含め、細胞をさらに8時間培養した。図7Cに示す運動性細胞の移動の散布図及び図7Dに示す前進移動指数と速度の定量的分析は、化学走化性の喪失がFGF-2で8時間再インキュベートした後に回復されることを証明した。まとめるとこれらのデータは、VEGFR2の発現とVEGFの濃度勾配に対する前駆体の充分な移動応答にFGF-2が必要であることを証明する。
【0049】
実施例6:VEGF-2リガンドは脳室下帯からの神経前駆細胞の移動に影響を与える
1日齢のスプラーグ-ドーレイ(Sprague-Dawley)ラットの子(シズブ(Sizv)、チューリヒ、スイス)の脳の前頭葉を単離し、マキルワイン(McIllwain)組織チョッパーを用いて300μmの厚さの冠状切片に切断した。これらの切片から、脳室下帯(SVZ)の前部を顕微解剖した。SVZ外植片をコラーゲンマトリックスに包埋し、無血清の化学基礎培地(50%ダルベッコー改変イーグル培地[ギブコ(Gibco)、ベルリン、ドイツ]、50% F12、ヘペス、トリス塩酸、及びヒト・トランスフェリン20μg/ml、プトレスシン100μM、セレン酸ナトリウム30nM、トリヨードサイロニン 1nM、ドコサヘキサエン酸 0.5μg/ml、アラキドン酸 1μg/ml、インスリン 60U/lを加えた)中で5%CO2下で7日間培養した。培地を3日毎に交換した。同時培養実験のために、VEGFを分泌するように操作したマウスC212筋原細胞の存在下でSVZ外植片を培養した(Rinschら、2001)。C212細胞を、SVZ外植片から約1,000μmの距離に置いたコラーゲンマトリックスの液滴中に懸濁した。対照として同じ起源の擬似トランスフェクト細胞を、同様の方法で同じ距離で、しかし外植片の反対側でコラーゲンマトリックスに入れた。
【0050】
培養7日目の最後に細胞移動を評価した。3つの分類を作成した:1、移動無し:外植片から出ていった細胞が全く無いか又はほんの数個である;2、対称移動:多くの細胞が外植片から離れ、細胞の移動前線の距離は50μmを超え、移動の方向性は無かった:3、非対称又は指向性移動:移動前線の距離が反対側の少なくとも2倍であり、50μmを超えた。
【0051】
図8Bと8Dに示すように、外植片をFGF-2(20ng/ml)の存在下でモックトランスフェクト細胞の凝集物と同時培養すると、移動細胞は暴露の周りに対称に分布した(10/10外植片)。図8Aと8Eに示すように、VEGF発現細胞を片側に置き、モックトランスフェクト細胞を反対側に置いて、SVZ外植片をFGF-2の存在下で同時培養すると、細胞移動は非対称性が高かった(10/20外植片は細胞が主にVEGF分泌C212細胞に向かって移動し、10/20外植片は対称的移動パターンを有した)。これに対して図8Cに示すように、外植片をFGF-2の非存在下で対照又はVEGF発現細胞と同時培養すると、SYZ外植片からの大きな細胞移動は観察されなかった(10/10外植片)。FGF-2の非存在下でVEGFを適用した後も同様の結果が得られた(4/4外植片)。VEGFとFGF-2を一緒に又はFGF-2単独で適用すると対称的移動が得られた(12/12)。VEGFに応答して移動する細胞が未成熟前駆体であるかどうかを調べるために、抗ネスチン抗体を用いる免疫細胞化学染色を行った。図8Fに見られるように、移動する細胞はネスチンに対して陽性に染色され、PSA-NCAM(未成熟ニューロンのマーカー、示していない)については陰性であり、これらが確かに未成熟前駆細胞であることが確認された。まとめるとこれらの結果は、未成熟前駆細胞がVEGF勾配に応答して移動し、この作用にはFGF-2が必要であることを示す。
【0052】
前記説明と例は本発明を例示するためのみに提供されたものであり、決して本発明を限定するものではない。本発明の開示された態様及び実施態様のそれぞれは、個別に又は本発明の他の態様、実施態様、及び変更態様とともに考慮される。さらに特に明記しない場合は、本発明の工程のいずれも特定の実施順序に限定されない。本発明の精神と本質を取り込んだ開示された実施態様の修飾は当業者には明らかであるが、かかる修飾は本発明の範囲内である。さらに引用されたすべての文献はその全体が本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1A〜Fは、FGF-2の存在下で培養した神経前駆細胞の形態的及び免疫細胞化学的特徴を示す。図1Aは、4日目の細胞の位相差顕微鏡画像を示し、図1Bは6日目の位相差顕微鏡画像を示す。図1Cは、培養6日目以後に細胞の大半がネスチンに対して免疫陽性であり、これらが未分化神経前駆細胞であることを示す。図1Dは、BrdUの取り込みにより大半の細胞が増殖していることが示唆されることを示す。神経マーカー(TuJ、矢印)に陽性のまれな細胞は非増殖性である。図1Eと1Fは、FGF-2除去の5日後に細胞がGFAP含有星状細胞(図1E)、Tuj陽性ニューロン(図1E)、及びGalC陽性乏突起神経膠細胞(図1F)に分化していることを示す。細胞核を図1C、1E、及び1Fにおいてヘキスト(Hoechst)33342で対比染色した。スケールバーは、図1Aと1Bでは80μm、図1Cでは30μm;図1Dでは19μm;図1Eと1Fでは30μmである。
【図2】図2A〜Fは、VEGFにより刺激された神経前駆細胞の化学走化性を示す。図2Aは、カバーガラスが重なったダンチャンバー(Dunn chamber)の模式図(上面図)であり、内側のウェル、ブリッジ、及び外側のウェルの位置を示す。図2Bでは、チャンバーの内側のウェルと外側のウェルとの間の環状ブリッジ上の細胞を位相差光学顕微鏡下で観察することができる。経時的フレーム取得により細胞の移動を連続的に記録し、移動軌跡を図2C、2D、2E、及び2Fに示す分散図にプロットした。各細胞の出発点は、X軸とY軸の交点(0,0)であり、データ点は2時間の記録時間の最後における個々の細胞の最終位置を示す。VEGF(図2C)又はFGF-2(図2E)を外側のウェルに入れて化学走化性を試験した。勾配の方向は垂直上方向である。図2Cと図2Eに示すように、神経前駆細胞は化学走化性を受け、VEGFの存在下で移動の明確な指向性を示す(図2C)が、FGF-2(図2E)勾配では指向性を示さない。化学運動性について(図2Dと2F)について、等量のVEGF又はFGF-2をチャンバーの内側のウェルと外側のウェルの両方に加えた。図2Bの矢印は、ダンチャンバーの外側のウェルの方向を示す。スケール棒、50μm。
【図3】図3A〜Dは、神経前駆細胞の移動軌跡を示す。図3Aは、VEGF勾配を登る代表的細胞(*)を示す位相差顕微鏡写真を与える。矢印はVEGF源を示す。図3Bは、VEGF濃度勾配の存在下での4つの代表的細胞の移動軌跡を示す。各細胞の出発点はX軸とY軸の交点(0,0)であり、VEGF源は上である。図3Cは、VEGFの均一な濃度でランダムに移動する神経前駆細胞を示す位相差顕微鏡写真である。図3Dは、均一なVEGF分布の条件下でランダムに移動する4つの代表的細胞の移動軌跡を示す。各細胞の出発点はX軸とY軸の交点(0,0)である。
【図4】図4A〜Bは、異なる条件下での移動速度(μm/時間)(図4A)と前進移動指数(FMI)値(図4B)とを示す。細胞移動速度は各時間経過間隔について計算し、平均速度は2時間について得た。データは少なくとも3つの独立した実験からの平均±SEMとして示す。FMI値は、細胞が移動する方向によりプラスか又はマイナスである。対応の無い両側t検定でPは0.01未満であり、これは化学運動性又はFGF-2勾配とは大きく異なることを示す。
【図5】図5A〜Bは、神経前駆細胞におけるVEGF受容体発現を示す。図5Aでは総細胞RNAが単離され、VEGF受容体mRNAの発現がRNase保護分析により評価された。精製された32P標識ラットcRNAプローブは、FGF-2存在下又はFGF-2枯渇下で12時間増殖させた細胞からのハイブリダイゼーションミックス(プローブ+h.m.)、酵母tRNA、又は総RNAにハイブリダイズされた。内部対照としてラット酸性リボゾームタンパク質P0を使用し、陽性対照はラット肺であった。図5Bでは、FGF-2存在下又はFGF-2枯渇下で12時間培養した細胞中のVEGFR-1とVEGFR-2発現の定量分析を示す。対応の無い両側t検定でPは0.01未満であり、これはFGF-2中の細胞とは大きく異なる(n=3 実験)。
【図6】図6A〜Dは、神経前駆細胞〜VEGFR-2のVEGF刺激化学走化性を示す。図6Aは、対照条件下又はVEGF受容体ブロッカーの存在下での神経前駆細胞の移動パターンを示す。VEGFR-2阻止抗体(DC101)を用いて処理した細胞は、VEGFに対する化学走化性応答を喪失した。これに対してVEGFR-1阻止抗体(MF1)は、前駆体移動に影響を与えなかった。図6Bは、異なる移動条件下での速度とFMIを示す。図6Cと6Dは、VEGFR-2阻止抗体(図6C)又は対照(ポリシアル酸阻止)抗体(図6D)の存在下で、VEGF濃度勾配に暴露した代表的細胞(各条件4個)の移動軌跡を示す。各細胞の出発点はX軸とY軸の交点(0,0)であり、VEGF源は濃度勾配の上である。対応の無い両側t検定でPは0.01未満であり、これはDC101処理細胞とは大きく異なる。
【図7】図7A〜Eは、VEGF勾配に化学走化性的に応答する神経前駆細胞の能力であって、FGF-2により増強された能力を示す。図7Aでは第1の群について5日目に12時間FGF-2を除去し、次に細胞をVEGF勾配に暴露した。図7Bでは12時間枯渇後にFGF-2の存在下で第2の群を8時間さらに培養し、次にVEGF勾配で試験した。図7Cは2時間移動後の細胞の最終位置を示し、各細胞の出発点は(0,0)でありVEGF源は上である。図7Dは速度とFMIとを示す。データは4つの独立した実験からの平均±SEMとして示す。12時間のFGF-2枯渇後、細胞はVEGF勾配に対する化学走化性応答を喪失する。枯渇した神経前駆細胞は、培養物にFGF-2を8時間再添加後にVEGFに対する化学走化性応答を再開する(図7C)。図7Eは、FGF-2で培養したか又はFGF-2を12時間枯渇させて培養した神経前駆細胞中のVEGFR-2発現を示す。抗VEGFR-2抗体を用いて免疫沈殿物についてウェスタンブロット解析を行った。対応の無い両側t検定でPは0.01未満であった。
【図8】図8A〜Fは、脳室下帯(SVZ)外植片から移動する神経前駆細胞に対するVEGFの作用を示す。SVZ外植片は、コラーゲンゲルマトリックス中でFGF-2の存在下(図8A、8B、8D、8E、及び8F)又は非存在下(図8C)でVEGF分泌C212細胞及び/又は擬似トランスフェクトC212細胞と同時培養した。図8AではFGF-2の存在下で、神経前駆細胞は非対称的にSVZ外植片から出ていき、より多くの細胞が対照のC212細胞よりVEGF分泌C212細胞の側にあった。図8Bでは両側で対照C212細胞とともに培養した時、神経前駆細胞は非対称的にSVZ外植片から出ていく。図8Cでは、FGF-2の存在下でSVZ外植片から出ていく細胞はほとんどないか全く無い。図8Dは、対照C212細胞の側でSVZ外植片を示す高倍率顕微鏡写真である。図8Eは、SVZ外植片を出てVEGF分泌C212細胞へ向かう多くの神経前駆細胞を示す高倍率顕微鏡写真である。図8Fでは、SVZ外植片を出ていく細胞はネスチン(未分化神経前駆細胞のマーカー)陽性である。スケールバーは、図8A、8B及び8Cでは700μm;図8Dと8Eでは100μm;図8Fでは50μmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞をFGF-2及びVEGFR-2リガンドに暴露することを含む、神経前駆細胞の移動を調節する方法。
【請求項2】
前記細胞を、FGF-2に暴露させた後に、VEGFR-2リガンドに暴露させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記VEGFR-2リガンドが、VEGF、VEGF-E、及びVEGF-C/DΔNΔCよりなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
神経細胞の消失又は傷害に関与する障害を有する哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物をVEGFR-2リガンド及びFGF-2に暴露させて、神経細胞の消失又は傷害部位への神経前駆細胞の移動を刺激することを含む、前記方法。
【請求項5】
前記哺乳動物のVEGFR-2リガンドへの暴露が、当該哺乳動物にVEGFR-2リガンドを投与することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記VEGFR-2リガンドが、VEGF、VEGF-E、及びVEGF-C/DΔNΔCよりなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記FGF-2、VEGFR-2リガンド、又はその両方が、神経細胞の消失又は傷害部位に投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記神経前駆細胞が、前記哺乳動物に移植される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が、VEGFR-1及びVEGFR-2を発現する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、PSA-NCAM、ダブルコルチン、NeuN、NG2、A2B5、フォンウィルブラント因子、RECA-1、又はこれらの任意の組合せを発現しない、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
神経細胞の消失又は傷害に関与する前記障害が、脳傷害である、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記脳傷害が、頭部外傷、脳卒中、酸素欠乏、又は虚血により生じる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記FGF-2が、生体適合性マトリックスに関連する、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記VEGFR-2リガンドが、生体適合性マトリックスに関連する、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
欠陥神経集団を有する神経組織部位を有する哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物を、FGF-2の存在下でVEGFR-2リガンドに暴露して、神経組織部位への神経前駆細胞の移動を刺激することを含む、前記方法。
【請求項16】
前記哺乳動物のVEGFR-2リガンドへの暴露が、当該哺乳動物にVEGFR-2リガンドを投与することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記VEGFR-2リガンドが、VEGF、VEGF-E、及びVEGF-C/DΔNΔCよりなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
神経前駆細胞の移動を調節する方法であって、当該細胞を、VEGFR-2リガンド及び当該細胞上にVEGFR-2の発現を増加できる化合物に暴露することを含む、前記方法。
【請求項19】
前記化合物がFGF-2である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
FGF-2を含有する生体適合性マトリックスを含む組成物。
【請求項21】
前記生体適合性マトリックスが、VEGFR-2リガンドをさらに含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
神経前駆細胞をさらに含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記細胞が、VEGFR-1及びVEGFR-2を発現する、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記細胞が、PSA-NCAM、ダブルコルチン、NeuN、NG2、A2B5、フォン・ウィルブラント因子、RECA-1、又はこれらの任意の組合せを発現しない、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
VEGFR-2リガンド、FGF-2、及び担体を含む医薬組成物。
【請求項26】
神経前駆細胞をさらに含む、請求項25に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−515171(P2007−515171A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545613(P2006−545613)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/043482
【国際公開番号】WO2005/062962
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(500581021)イムクローン システムズ インコーポレイティド (7)
【出願人】(506210196)ユニバーシティー オブ ジェネバ (1)
【Fターム(参考)】