神経疾患の治療及び/又は予防のためのオステオポンチンの使用
【課題】神経疾患の治療及び/又は予防の新規手段の提供。
【解決手段】本発明は、神経疾患の治療又は予防のための、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニスト、の使用に関する。
【解決手段】本発明は、神経疾患の治療又は予防のための、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニスト、の使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は概して、神経疾患及び障害の分野である。これは、神経保護、神経の髄鞘形成及びミエリン産生細胞の形成又は再生に関する。特に、これは、脱髄疾患及び神経変性疾患、ニューロパシー、外傷性神経損傷、脳卒中及び先天性代謝障害に起因した神経疾患に関する。より詳細に述べると、本発明は、神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造のための、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
神経の髄鞘形成は、中枢神経系(CNS)及び末梢神経系(PNS)の区画の形成及び機能において本質的過程である。軸索の周りのミエリン鞘は、神経に沿った電気インパルスの適切な伝導に必要である。ミエリン喪失は、多くの疾患を引き起こし、とりわけCNSに影響する多発性硬化症(MS)、ギラン・バレー症候群、CIDPなどがある(Abramsky及びOvadia、1997;Trojaborg、1998;Hartungら、1998参照)。様々な病因論の一方で、例えば感染性病原体又は自己免疫攻撃などの、脱髄疾患が全て、神経機能の喪失を引き起こし、かつ麻痺及び死亡につながることがある。本治療的物質は、MSにおける炎症攻撃を軽減しかつ疾患進行を遅らせるが、髄鞘再形成及び神経機能の回復につながる療法を開発する必要がある(Abramsky及びOvadia、1997;Pohlauら、1998)。
【0003】
外傷、低酸素及び虚血を含む急性の傷害により誘導されたCNSに対する損傷は、ニューロン及び白質の両方に影響を及ぼし得る。神経死につながる過程にほとんどの注意が集中しているが、増大しつつある証拠は、軸索を髄鞘形成する希突起膠細胞に対する損傷も、CNS損傷の特異的構成要素であることを示唆している。従って、希突起膠細胞の病理は、ラットにおいて脳卒中後非常に早期相(3時間)で明らかになり、このことはこれらの細胞が神経細胞よりも興奮毒性事象に対しより脆弱でさえあることを示唆している(Pantoniら、1996)。ひとつの可能性のある細胞死を媒介する候補は、多くの急性CNS損傷に随伴するグルタミン酸濃度の著しい上昇である(Liptonら、1994)。実際、ニューロンに加え、希突起膠細胞も、機能的グルタミン酸受容体を発現することがわかっており、これはAMPA/カイニン酸サブタイプに属する。更に希突起膠細胞は、グルタミン酸適用に対し高度の脆弱性を示す(McDonaldら、1998)。
【0004】
外傷は、神経の損傷又は障害である。これは、筋肉制御及び感覚を含む、損傷のレベルで及びそれ以下で制御される全ての神経機能に影響を及ぼす脊髄に対する障害である脊髄外傷、又は例えば閉鎖性頭部損傷により引き起こされた外傷などの脳外傷であることができる。
【0005】
大脳低酸素症は、特に大脳半球に対する酸素の欠乏であり、より典型的にはこの用語は、全脳に対する酸素の欠乏を意味するように使用される。低酸素症の重症度に応じて、症状は、錯乱から不可逆的脳障害、昏睡及び死亡に至る範囲に及ぶことがある。
【0006】
脳卒中は、通常脳虚血により引き起こされる。これは脳血管疾患又は偶発症候とも称される。これは、脳のいずれかの部位への血液供給が断続された場合に生じる脳機能の喪失が関連している脳障害の一群である。脳は、体内循環血の約20%を必要としている。脳への主な血液供給は、頸部の2本の動脈(頸動脈)を介しており、これは次に脳内で、脳の特定部位へ各々供給する複数の動脈に枝分かれしている。例え短時間の血流断絶であっても、脳機能の減退(神経学的欠損)を引き起こすことができる。これらの症状は、影響を受けた脳の領域により変動し、一般的に視野の変化、発語の変化、体の一部の運動又は感覚の低下、もしくは意識レベルの変化ような問題点を含む。血流が数秒間よりも長い期間低下した場合は、その領域の脳細胞は破壊され(梗塞)、脳のその領域の永久障害を引き起こすか、もしくは死に至ることさえある。
【0007】
脳卒中は、ほぼ1,000人中4人が罹患する。これは、米国を含む先進国における死因の第3位である。脳卒中の有病率は、年齢と共に劇的に上昇し、そのリスクは35歳以降10年毎に倍増する。年齢65歳以上の人の約5%が、少なくとも1回の脳卒中を経験している。この障害は、女性よりも男性においてより多く発生する。
【0008】
前述のように、脳卒中は、脳の領域への血液循環の喪失により引き起こされた脳機能の喪失(神経学的欠損)に関連している。特異的神経学的欠損は、位置、障害の程度、及び障害の原因によって変動することがある。脳卒中は、低下した血流により(虚血)引き起こされ、不充分な血液供給及びその領域における組織の死滅(梗塞)を生じることがある。虚血性脳卒中の原因は、脳内に形成された血餅(血栓)及び他の部位から脳へ移動する血餅又は粥状斑の小片又は他の物質(塞栓)である。脳内の出血(bleeding)(出血(hemorrhage))は、脳卒中に似た症状を引き起こすことがある。
【0009】
脳卒中の最も一般的な原因は、アテローム性動脈硬化症(脳血栓症)に続発する脳卒中である。アテローム性動脈硬化症(「動脈の硬化」)は、動脈の内層への脂肪沈着が生じる状態であり、かつ粥状斑(脂肪付着物及び血小板からなる塊)が発生する。動脈閉塞は緩徐に発生する。粥状斑は、必ずしも脳卒中を引き起こさない。様々な脳動脈間には多くの小さい連結がある。血流が徐々に減少すると、これらの小さい連結が、サイズが増大し、かつ妨害された領域への「バイパス」となる(側副循環)。十分な側副循環が存在する場合、例え全体的に動脈が遮断されたとしても、神経学的欠損は生じないことがある。第二の脳内の安全機構は、動脈は、血管の75%が閉塞されたとしても十分な大きさであり、そこには依然脳のその領域への適切な血流が存在することである。
【0010】
血栓性脳卒中(血栓により引き起こされた脳卒中)は、高齢者においては最も一般的であり、かつアテローム性心疾患又は真性糖尿病が原因となることが多い。この型の脳卒中は、安静時を含むいつでも起こり得る。患者は意識を失うことも、失わないこともある。
【0011】
塞栓(血餅の移動)により引き起こされた脳卒中は、心障害が原因で発生しその後脳に移動する血塊である心原性塞栓に続発する最も一般的な脳卒中である。塞栓は、特に粥状斑の存在する他の領域を起源とすることもある。塞栓は血流により移動し、かつ脳の小動脈において詰まり始める。この脳卒中は、突然発生し、直ちに最大の神経欠損を伴う。これは、活動レベルには関係が無く、いつでも起こり得る。通常この障害においては心不整脈が認められ、かつ塞栓の原因であることが多い。脳への障害は、脳血栓により引き起こされた脳卒中よりもより深刻であることが多い。意識は、失われることも、失われないこともある。可能性のある転帰は、脳卒中性破裂及び出血により血管が損傷された場合に最悪である(出血性脳卒中)。
【0012】
末梢ニューロパシーは、感覚喪失、筋肉虚弱及び萎縮、深部腱反射の低下、並びに血管運動症状の、単独又はいずれかの組合せの症候群である。
【0013】
この疾患は、単一の神経(単ニューロパシー)、個別の領域における2個又はそれよりも多い神経(多発性単ニューロパシー)、又は同時に多くの神経(多発ニューロパシー)に影響を及ぼすことがある。軸索(例えば、真性糖尿病、ライム病、又は尿毒症もしくは毒物)又はミエリン鞘もしくはシュワン細胞(例えば、急性又は慢性炎症性多発ニューロパシー、白質萎縮症、又はギラン・バレー症候群)が、主に影響を受ける。小さい髄鞘形成されない線維及び有髄線維は、主に温度感覚及び痛覚の喪失を生じ;大きい有髄線維の障害は、運動又は固有受容欠損を生じる。一部のニューロパシー(例えば、リード毒物、ダプソン使用、マダニの咬傷、ポルフィリン症、又はギラン・バレー症候群に起因するもの)は、主に運動神経線維に影響を及ぼし;他のもの(例えば、癌の脊髄後根神経節炎、ライ、AIDS、真性糖尿病、又は慢性ピリドキシン中毒に起因するもの)は、主に脊髄後根神経節又は感覚神経線維に影響を及ぼし、感覚症状を生じる。場合によっては、脳神経も関与している(例えば、ギラン・バレー症候群、ライム病、真性糖尿病、及びジフテリア)。関連したモダリティの確定は、原因の決定を助ける。
【0014】
外傷は、単独の神経への局所的損傷の最も一般的な原因である。暴力的筋肉活動又は関節の強制的な過伸展が、病巣性ニューロパシーを生じることがあり、小さい外傷(例えば、小さい道具の窮屈な握り、エア・ハンマーによる過剰な震え)が繰り返されることもある。圧迫麻痺又は捕捉麻痺は、通常骨隆起部(例えば、痩せた又は悪液質の患者及び時にはアルコール依存者において熟睡もしくは麻酔の間)で、又は狭い管(例えば、手根管症候群)では、表在性神経(尺骨神経、橈骨神経、腓骨神経)に影響を及ぼす。圧迫麻痺は、腫瘍、骨化過剰症、ギブス、松葉杖、又は長期の拘束された体位からも生じることがある。神経への出血及び寒冷又は放射線への曝露は、ニューロパシーを引き起こすことがある。単ニューロパシーは、直接腫瘍侵襲から生じることがある。
【0015】
多発性単ニューロパシーは通常、コラーゲン血管障害(例えば、結節性多発性動脈炎、SLE、シェーングレン症候群、RA)、サルコイドーシス、代謝性疾患(例えば、糖尿病、アミロイドーシス)、又は感染性疾患(例えば、ライム病、HIV感染症)に続発する。微生物は、神経の直接侵襲により(例えばライにおいて)、多発性単ニューロパシーを引き起こすことがある。
【0016】
急性有熱性疾患に起因した多発ニューロパシーは、毒素(例えばジフテリアにおいて)又は自己免疫反応(例えば、ギラン・バレー症候群において)から生じることがあり;時々免疫感作後に続く多発ニューロパシーは、恐らく自己免疫であろう。
【0017】
毒性物質は、一般に多発ニューロパシーを引き起こすが、時には単ニューロパシーを引き起こす。これらは、エメチン、ヘキソバルビタール、バルビタール、クロロブタノール、スルホンアミド、フェニトイン、ニトロフラントイン、ビンカアルカロイド、重金属、一酸化炭素、トリオルトクレシルリン酸、オルトジニトロフェノール、多くの溶媒、他の産業毒素、及びある種のAIDS治療薬(例えば、ザルシタビン、ジダノシン)を含む。
【0018】
栄養欠乏症及び代謝障害は、多発ニューロパシーから生じることがある。ビタミンB欠乏症は、原因であることが多い(例えば、アルコール中毒、脚気、悪性貧血、イソニアジドで誘導されたピリドキシン欠乏症、吸収不良症候群、及び妊娠悪阻)。多発ニューロパシーは、甲状腺機能低下、ポルフィリン症、サルコイドーシス、アミロイドーシス、及び尿毒症においても生じる。真性糖尿病は、感覚運動の遠位多発ニューロパシー(最も一般的)、多発性単ニューロパシー、及び病巣性単ニューロパシー(例えば、眼球運動又は外転の脳神経)を引き起こすことができる。
【0019】
悪性のものは、モノクローナル高ガンマグロブリン血症による多発ニューロパシー(多発性骨髄腫、リンパ腫)、アミロイド侵襲、又は栄養欠乏症又は腫瘍外性の症候群を引き起こすことがある。
【0020】
特異的単ニューロパシー:単独又は複数の単ニューロパシーは、罹患した神経の分布における疼痛、虚弱及び感覚異常により特徴付けられる。多発性単ニューロパシーは、非対称性であり;神経は、全て一度に又は徐々に関与される。多くの神経の過度の広範囲の関与は、多発ニューロパシーに似ている。
【0021】
尺骨神経麻痺は、しばしば繰り返し肘にもたれること又は幼児時代の骨折後の非対称骨形成(遅々とした尺骨神経麻痺)により、肘の尺骨溝中の神経に対する外傷により生じることが多い。尺骨神経は、肘トンネルで圧迫されることがある。第五指及び第四指の内側半分の感覚異常及び感覚喪失が生じ;親指内転筋、第五指内転筋、及び骨間筋肉は、弱くかつ萎縮される。重度の慢性尺骨神経麻痺は、鷲手変形を生じる。神経伝導試験は、その病変部位を確定することができる。保存療法は、手術による修復を試みる前に試みるべきである。
【0022】
手根管症候群は、横走表在性の手根靱帯と手を屈曲する前腕筋の縦腱の間の手首の手掌面における正中神経の圧迫から生じる。これは、片側性又は両側性であることができる。この圧迫は、手の橈骨-手掌面の感覚異常並びに手首及び手掌の疼痛を生じ;時には、疼痛は、前腕及び肩の圧迫部位の近位に生じる。疼痛は夜間に一層強くなることがある。最初の3本の指の手掌面の感覚喪失が続き;親指外転及び対位(opposition)を制御している筋肉は、弱くなり萎縮し始める。この症候群は、脳神経根障害に起因したC-6根圧迫とは区別されなければならない。
【0023】
腓骨神経麻痺は、通常、腓側頸部の側面に対する神経の圧迫により引き起こされる。これは、衰弱した寝たきりの患者及び脚を組む習慣のある痩身のヒトにおいて最も一般的である。脚背屈の衰弱及び外転(下垂足)が生じる。場合によっては、下肢及び脚の背側の前外側面上又は第1及び第2中足骨の間の膜隙(web space)内に、感覚欠損が生じる。圧迫性ニューロパシーについて、治療は、通常保存的である(例えば、脚を組むことを避ける)。不完全なニューロパシーは、通常自然発生的に臨床の改善及び一般的改善が続く。回復が生じない場合は、外科的診断が適応となる。
【0024】
橈骨神経麻痺(サタデーナイト麻痺)は、例えば中毒又は深い睡眠時に椅子の背にもたれた腕のような、上腕骨に対する神経の圧迫により引き起こされる。症状は、手首伸筋及び指伸筋の衰弱(下垂手)、並びに場合によっては第1指背側骨間の筋の背面全体の感覚喪失を含む。治療は、圧迫性腓骨ニューロパシーに類似している。
【0025】
多発ニューロパシーは、比較的対称性であり、感覚、運動及び血管運動線維に同時に影響を及ぼすことが多い。これらは、軸索又はミエリン鞘に影響を及ぼすことがあり、かついずれの形においても、急性(例えば、ギラン・バレー症候群)又は慢性(例えば、腎不全)であることがある。
【0026】
代謝障害(例えば、真性糖尿病)又は腎不全に起因した多発ニューロパシーは、多くは数ヶ月から数年にわたり、ゆっくりと発症する。これは、近位よりも遠位により重症であることが多い、下肢の感覚異常を伴い始まることが多い。末梢のうずき、しびれ、灼熱痛、又は関節の固有感覚喪失及び震え性の知覚が顕著であることが多い。疼痛は、夜間に増悪することが多く、かつ罹患部位への接触又は温度変化により悪化することがある。重症の場合、典型的にはstocking/-and-glove分布を伴う、感覚喪失の客観的徴候がある。アキレス腱及び他の深部腱の反射は、減少するか又は存在しなくなる。指又はシャルコー関節上の無痛性潰瘍が、感覚喪失が深刻な場合に発症することがある。感覚又は固有受容の欠損は、歩行異常につながることがある。運動に関係する場合は、遠位筋の衰弱及び萎縮を生じる。自律神経系が、追加的又は選択的に関与することがあり、夜間の下痢、尿及び便の失禁、インポテンス、又は体位性低血圧につながる。皮膚は、正常な状態よりも青ざめかつ乾燥し、時には暗褐色に変色し;過剰に発汗することがある。栄養変化(滑らかで艶のある皮膚、窪みや稜線のある爪、骨粗鬆症)は、一般に重症で長期の症例である。
【0027】
栄養性多発ニューロパシーは、アルコール中毒者及び栄養失調者において共通している。原発性軸索障害は、最長及び最大の神経において、続発性の脱髄及び軸索破壊につながることがある。原因がチアミン又は他のビタミン(例えば、ピリドキシン、パントテン酸、葉酸)の欠乏であるかどうかは、不明である。ピリドキシン欠乏に起因したニューロパシーは、通常結核のためにイソニアジドを服用する患者においてのみ発生する;ピリドキシン欠乏又は依存の乳児は、痙攣を起こすことがある。遠位肢のるいそう及び対称性衰弱は、通常潜伏性であるが、迅速に進行することがあり、時には感覚喪失、感覚異常、及び疼痛を伴う。腓腹及び脚のうずき、痙攣、寒気、火傷及びしびれは、接触により増悪することがある。病因が曖昧である場合、複数のビタミンが投与されるが、それらの恩恵は証明されていない。
【0028】
稀に、専ら感覚性の多発ニューロパシーが、末梢疼痛及び感覚異常を伴い始まり、並びに主に全ての感覚の喪失へと進行する。これは、過剰なピリドキシン摂取(>0.5g/日)後の癌腫(特に気管支原性)、並びにアミロイドーシス、甲状腺機能低下、骨髄腫及び尿毒症における、遠位作用として生じる。ピリドキシンが誘導したニューロパシーは、ピリドキシンが中断された場合には消散する。
【0029】
遺伝性ニューロパシーは、感覚運動ニューロパシー又は感覚ニューロパシーに分類される。シャルコー・マリー・トウース病は、最も一般的な遺伝性感覚運動ニューロパシーである。余り一般的でない感覚運動ニューロパシーは、誕生と共に始まり、かつより大きい不能を生じる。感覚ニューロパシーは稀であるが、遠位部疼痛及びの体温感覚の喪失が、震え及び位置感覚の喪失よりもより顕著である。大きい問題点は、頻繁な感染症及び骨髄炎を伴う、疼痛の無感覚による足の断節である。
【0030】
遺伝性運動及び感覚ニューロパシーI及びII型(シャルコー・マリー・トウース病、腓骨筋肉萎縮)は、主に腓骨及び遠位脚筋における衰弱及び萎縮により特徴付けられる、かなり一般的で、通常の常染色体優性疾患である。患者は更に、他の変性疾患(例えば、Fnedreich運動失調)又はそれらの家族歴も有する。下垂足を伴うI型の患者は、小児期半ばに存在し、ゆっくり遠位筋萎縮へ進行し、「コウノトリ脚(stork leg)」を生じる。手の内因性筋肉るいそうは、更に後に始まる。震え、疼痛、及び温度感覚は、stocking-gloveパターンで低下する。深部腱反射は存在しない。高い土踏まず又はハンマー足指は、本疾患を有するが影響の少ない家族員の唯一の徴候である。神経伝導速度は遅く、遠位潜伏期は延長される。分節化された脱髄及び髄鞘再形成が生じる。肥大した末梢神経は、触診することができる。本疾患は、緩徐に進行し、寿命には影響を及ぼさない。II型疾患は、よりゆっくりと発症し、通常衰弱はより晩年に生じる。患者は、比較的正常な神経伝導速度を有するが、低い振幅が誘起した電位を有する。生検標本は、ウォーラー変性を示す。
【0031】
遺伝性運動及び感覚ニューロパシーIII型(肥厚性間質性ニューロパシー、デジェリン・ソックス病)は、稀な常染色体劣性疾患であり、進行性の衰弱及び感覚喪失を伴い小児期に始まり、かつ深部腱反射は存在しない。最初に、これはシャルコー・マリー・トウース病に類似しているが、運動衰弱は、より迅速な速度で進行する。脱髄及び髄鞘再形成が生じ、神経生検標本において認められた肥大した末梢神経肥厚及びタマネギ茎を生じる。
【0032】
運動衰弱、足の変形、家族歴及び電気生理学的異常の特徴的分布は、本診断を確定する。遺伝子解析は、利用可能であるが、特異的治療ではない。疾患進行について若い患者が準備するための職業カウンセリングは、有用であり得る。装具(bracing)は、下垂足の矯正を補助し;足を安定化するための整形外科的手術は、助けとなり得る。
【0033】
神経変性疾患は、とりわけ、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む。
【0034】
アルツハイマー病は、脳組織の変化から生じる精神機能の変質に関連する障害である。これは、血管の障害に起因しない、脳組織の萎縮、原発性変性性痴呆及びびまん性脳萎縮を含む。アルツハイマー病は、アルツハイマー型老人性痴呆(SDAT)とも称される。これは、加齢に伴う知力減退の最も一般的原因である。発生率は、10,000人におよそ9人である。この障害は、男性よりも女性が罹患することが多く、主に高齢者において発症する。
【0035】
その原因は不明である。本疾患の発生に関与し得る神経化学的要因は、アセチルコリン、ソマトスタチン、サブスタンスP、及びノルエピネフリンを含む、神経インパルスを伝達するために神経細胞により使用される物質(神経伝導物質)の欠乏である。環境要因は、アルミニウム、マグネシウム及び他の物質への曝露を含む。感染性要因は、脳及び脊髄(中枢神経系)に影響を及ぼすプリオン(ウイルス-様生物)感染症を含む。一部の家系においては(症例の5〜10%を占める)、本障害を発症する遺伝的疾病素因が存在するが、これは厳密な(メンデルの)遺伝則には従わない。この診断は通常、痴呆の他の原因を除外するものではない。
【0036】
研究者らは、複数のアルツハイマー患者のいる家系において、本疾患の患者全てに共通である特定の遺伝子変動が存在することを発見した。アポリポタンパク質E4と称される物質を産生する遺伝子は、本疾患を生じるとは言われておらず、その存在は、本疾患が実際に生じる機会を単純に増大する。E4遺伝子を有する、神経がアルツハイマーに罹患しない多くの人々が存在する。
【0037】
その開始は、知的機能の進行性の喪失を伴う、損なわれた記憶により特徴付けられる。そこには、気分の変化、言語能力の変化、歩行の変化、及び本障害進行時の他の変化が生じることがある。脳組織のサイズの縮小(萎縮)、脳室(脳内空間)の肥大、及び脳組織内の沈着が存在する。
【0038】
パーキンソン病は、振戦並びに歩行、運動及び共調の困難を特徴とする、脳の障害である。本疾患は、筋肉運動を制御する脳の一部の障害に関連している。これは、振戦麻痺(paralysis agitans又はshaking palsy)とも称される。
【0039】
この疾患は、1,000人中およそ2人が罹患し、かつ最も頻発するのは年齢50歳以降である。これは男女両方が罹患し、かつ高齢者の最も一般的な神経障害のひとつである。用語「パーキンソニズム」は、この症候群を引き起こす最も一般的状態で生じる、パーキンソン病で認められる運動変化の型の組合せが関連したいずれかの状態を意味する。パーキンソニズムは、他の障害又は外部要因(続発性パーキンソニズム)により引き起こされることがある。
【0040】
パーキンソン病は、筋肉運動を制御する脳の一部の神経細胞(基底核及び錐体外路領域)の進行性の変質により引き起こされる。ドパミンは、インパルス伝達のために細胞により使用される物質(伝達物質)のひとつであるが、これは、通常この領域で産生される。脳のこの領域の変質は、体が利用可能なドパミンの量を減少する。不充分なドパミンは、ドパミンとアセチルコリンのような他の伝達物質の間の釣り合いを乱す。ドパミンなしでは、神経細胞は、適切にメッセージを伝達することができず、これは筋肉機能の喪失を生じる。脳組織が変質する正確な理由は不明である。本疾患は、体の一側又は両側に影響を及ぼし、機能喪失の程度は変動する。
【0041】
パーキンソン病患者の一部は、筋肉制御の喪失に加え、重度に抑鬱される。精神能の初期の喪失は一般的ではないが、重度のパーキンソン病の者は、全般的精神機能変質を示すことがある(痴呆、幻覚などを含む)。痴呆はまた、本疾患を治療するために使用されるいくつかの医薬品の副作用でもある。
【0042】
ハンチントン病は、遺伝性の常染色体優性神経疾患である。これは一般的ではなく、ほぼ10000人にひとりが罹患する(Breighton及びHayden、1981)。本疾患は、通常50代くらいまでは臨床的に顕在化されず、かつ精神医学障害、不随運動障害、及び認知減退を生じ、典型的には発症17年後の死の転帰への冷酷な進行を伴っている。
【0043】
ハンチントン病に寄与する遺伝子は、ハンチンチンと称される。これは、染色体4p番上に位置し、前臨床及び出生前診断の有効な手段を提示している。この遺伝的異常は、過剰な数の縦列反復されたCAGヌクレオチド配列にある。
【0044】
ハンチントン病患者におけるCAG反復配列のサイズの増大は、臨床特徴の発症年齢と高度に有意な相関関係を示している。この関係は、特に非常に有意な広がりの、通常50個を超える反復配列を有する若年発症のハンチントン病患者にとって衝撃的である。ハンチントン病家系のCAG反復配列の長さは若干の不安定性を示し、これは子供が罹患した父親からハンチンチン遺伝子を受け継いだ場合に顕著である。
【0045】
HDにおいて、どのようにしてこの広範に発現された遺伝子が、選択的神経死を生じるかはわかっていない。更に配列解析は、他の公知の遺伝子との明白な相同性を明らかにして居らず、及びその機能に関する洞察を明らかに提供する構造モチーフ又は機能ドメインは、同定されていない。特に、いかにしてこれらの広範に発現された遺伝子が選択的神経死を引き起こすかの疑問は回答が得られぬままである。
【0046】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳及び脊髄における神経細胞の破壊のために、進行性の随意筋の神経制御の喪失を引き起こす障害である。筋萎縮性側索硬化症はLou Gehrig's病とも呼ばれ、これは、筋肉の使用及び制御の喪失に関連する障害である。これらの筋肉を制御する神経は、縮小しかつ消失し、このことは神経刺激の欠如による筋肉組織の喪失を生じる。筋肉の強度及び共調の減少が、随意筋(腕及び足の筋肉のように、意識制御下にあるもの)で始まる。筋肉制御喪失の程度は進行し続け、次第に多くの筋肉群が関与し始める。呼吸及び嚥下を制御する筋肉のような半随意筋への神経刺激の喪失も存在することがある。思考及び判断の能力に対する影響はない。その理由は不明である。
【0047】
ALSは、100,000人におよそひとり罹患する。一部の症例においては、家系で遺伝しているように見える。本疾患は女性よりも男性がより頻繁に罹患する。症状は通常、成人するまで発症せず、50歳以降まで発症しないことも多い。
【0048】
外傷性神経損傷は、CNS又はPNSに関することがある。簡単に頭部損傷又は閉鎖性頭部外傷(CHI)とも称される外傷性脳損傷(TBI)は、頭部への外からの強打のために脳に対する障害が存在する損傷を意味する。これは、大部分は自動車又は自転車の事故時に生じるが、溺水、心臓発作、脳卒中及び感染症の結果として生じることもある。この種の外傷性脳損傷は、通常脳への酸素又は血液供給の途絶の結果であり、従って「無酸素損傷」と称することができる。
【0049】
脳損傷又は閉鎖性頭部外傷は、自動車事故又は転倒時に頭部を強打した場合に生じる。この場合、頭蓋は、静止した物体にぶつかり、頭蓋の内側の脳は、その軸(脳幹)で回転し及び捻れ、局所的又は広範な障害を生じる。同じく「浮遊」することができるように液体により取り囲まれている軟質塊である脳は、頭蓋に対してはね返り、更なる障害を生じる。
【0050】
この外傷直後に意識不明の期間が存在することもあり、これは数分間、数週間、又は数ヶ月間続くことがある。捻れ及びはね返りのために、この外傷により脳損傷した患者は、通常脳の多くの部分に障害又は挫傷を受ける。これは、脳の拡散性障害、又は「非-ミサイル(non-missile)損傷」と称される。非-ミサイル損傷を生じる型の脳障害は、原発性又は続発性のいずれかに分類される。
【0051】
原発性脳障害は、損傷時に、主に衝撃部位に生じ、特に頭蓋骨骨折(skull fraction)が存在する場合に生じる。大きい打撲傷は、脳内出血に関連するか、又は皮質裂傷を随伴することがある。びまん性軸索損傷は、頭蓋内の脳の回転運動により生じた神経突起の剪断及び張力緊張の結果として生じる。そこには軸索への小さい出血性病変又はびまん性損傷が存在することがあり、これは顕微鏡によってのみ検出することができる。
【0052】
続発性脳障害は、損傷時点の以後に生じる合併症の結果として生じる。これらは、頭蓋内出血、脳外動脈の外傷性障害、頭蓋内ヘルニア、低酸素性脳損傷又は髄膜炎を含む。
【0053】
開頭的損傷は、頭部への可視できる攻撃であり、かつ銃弾による創傷、事故又は頭蓋から脳へと貫通する物体(「脳のミサイル損傷」)により生じることがある。この種の頭部損傷は、おそらく脳の特定領域を損傷するであろう。
【0054】
いわゆる軽度の脳損傷は、意識喪失を伴わずに生じることがあり、恐らく短時間朦朧とした状態又は混乱した状態が続くのみであろう。投与される医学的看護は、最小限であり、昏睡を伴わない脳損傷の患者は、昏睡損傷の生存者が罹患したものに類似した症状及び機能障害を経験することがある。
【0055】
外傷に対する反応において、更なる障害を防ぐためのモニタリングを必要とする脳において変化が生じる。脳のサイズは、重度の頭部損傷後に頻繁に増加する。これは、脳腫脹と称され、かつ脳への血液量の増加が存在する場合に生じる。本疾患後期に、水が脳に集まることがあり、これは脳浮腫と称される。脳腫脹及び脳浮腫の両方が、頭蓋内圧(ICP)と称される脳内圧力の過剰を生じる。
【0056】
脊髄損傷は、対麻痺及び四肢麻痺による入院の大半を占めている。80%以上が、交通事故の結果として生じる。開放性外傷及び閉鎖性外傷のふたつの主要な損傷群が、臨床的に認識される。
【0057】
開放性外傷は、脊髄及び神経根の直接外傷を生じる。穿孔性の損傷は、過剰な破壊及び出血を引き起こすことがある。閉鎖性損傷は、ほとんどの脊髄損傷を説明し、かつ通常脊柱の骨折/脱臼に関連しており、これは通常放射線医学的に説明可能である。脊髄に対する障害は、骨の損傷の程度に応じて変動し、かつふたつの主要な段階があると考えることができる:挫傷、神経線維離断及び出血性壊死である、一次障害、並びに、硬膜外の出血、梗塞、感染及び浮腫である、続発性障害。
【0058】
脊髄障害の後期作用は以下を含む:損傷された神経線維の上行性及び下行性の順行性変性、外傷後脊髄空洞症、及び対麻痺の全身作用、例えば尿路及び胸部の感染症、褥瘡及び筋肉るいそう。
【0059】
神経学的障害は更に、先天性代謝障害に起因するものであることができる。多くの神経線維を被覆しているミエリン鞘は、生命早期に形成されたリポタンパク質層で構成される。CNS中の希突起グリア細胞により形成されたミエリンは、シュワン細胞により末梢で形成されたものとは化学的及び免疫学的に異なるが、両型共同じ機能を有する:神経インパルスの軸索に沿った伝達を促進する。
【0060】
多くの先天性代謝障害(例えば、フェニルケトン尿症及び他のアミノ酸尿症;ティーサックス症、ニーマン・ピック症及びゴーシェ症;ハーラー症候群;クラッベ病及び他の白質萎縮症)は、主にCNSにおいて、ミエリン鞘の発達に影響を及ぼす。生化学的欠損が永久的に、しばしば広範に補正又は補償されない限りは、神経学的欠損が生じる。
【0061】
例えば、クラッベ病又はグロボイド細胞型白質萎縮は、末梢及び中枢の神経系の白質が関連する疾患である。リソソーム酵素ガラクトセレブロシダーゼ(GALC)遺伝子の突然変異は、低い酵素活性を生じ、かつほぼ独占的にミエリンにおいて認められるガラクトリピドを分解する能力を低下する。患者における連続した髄鞘形成及び/又は髄鞘再形成は、十分なGALC発現を提供するために、機能性の内因性希突起膠細胞又は正常な希突起膠細胞もしくは希突起膠細胞へと分化することができる幹細胞の移植を必要とする(Wengerら、2000)。
【0062】
神経線維腫症1(NF1)は、広範な神経学的徴候発現を伴う、一般的な常染色体障害である。
【0063】
多系統萎縮症は、散発性であり、病因が不明である成人で発症する神経変性疾患である。この状態は、原発性でない場合には、病像成因的過程において希突起グリア細胞により果たされる突出した役割により、神経変性疾患の中で独特である。パーキンソン病との大きい違いは、MSA患者は、L-ドーパ治療に反応しないことである。
【0064】
生命後期の脱髄は、多くの神経学的障害の特徴であり;これは、局所的損傷、虚血、毒物又は代謝障害に起因した、神経又はミエリンに対する障害から起こり得る。脱髄は、精神分裂病の一因となり得ることの証拠もある。過度のミエリン喪失は、通常軸索変性へと、時には細胞体変性へとつながり、これらは両方とも不可逆的である。しかし髄鞘再形成が多くの場合生じ、かつ神経機能の修復、再生及び完全な回復は、迅速であることができる。中枢(すなわち、脊髄、脳又は視神経)の脱髄は、原発性脱髄性疾患に顕著な知見であり、その病因は不明である。最も知られているものは、MSである。
【0065】
急性播種性脳脊髄炎、感染後脳脊髄炎は、血管周囲のCNS脱髄により特徴付けられ、これは自然発生的に生じるが、通常ウイルス感染症又はウイルス予防接種(又は非常に稀には細菌の予防接種)後に生じ、このことは、免疫学的原因を示唆している。ウイルス予防接種に続発する急性炎症性末梢ニューロパシー又はギラン・バレー症候群は、同じ推定される免疫学的病理を伴う類似した脱髄化障害であるが、これらは末梢構造にのみ影響を及ぼす。
【0066】
異染性白質萎縮症は、別の脱髄疾患である。副腎脳白質ジストロフィー及び副腎脊髄神経障害は、副腎不全及び神経系の広範な脱髄を特徴とする、稀なX-連鎖した劣性の代謝障害である。副腎脳白質ジストロフィーは、幼年期の男児に生じ;副腎脊髄神経障害は、青年期に生じる。精神変質、痙縮、及び失明が生じることがある。副腎脳白質ジストロフィーは常に致死的である。食事療法及び免疫変調療法が現在研究中である。
【0067】
Leberの遺伝性視神経萎縮及び関連したミトコンドリア障害は、第一に中心視力の二側性喪失を特徴としており、通常10代後半又は20代前半の若い男性が罹患する。Leberの遺伝性視神経萎縮は、MSにおける視神経炎に似ている。母系遺伝したミトコンドリアDNAの突然変異が、同定されている。
HTLV-随伴ミエロパシーは、ヒトT細胞白血病ウイルスによる感染に随伴した進行が遅い脊髄疾患であり、これは、両足の痙性の衰弱を特徴としている。
【0068】
更なる神経学的障害は、異常な髄鞘形成を伴うニューロパシーを含み、その概要は以下に示される。
【0069】
免疫:急性、ギラン・バレー症候群、慢性、慢性免疫脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、多病巣性CIDP、多病巣性運動ニューロパシー(MMN)、抗-MAG症候群、GALOP症候群、抗-スルファチド抗体症候群(血清M-タンパク質を伴う)、抗-GM2抗体症候群、POEMS症候群、多発ニューロパシー臓器巨大症、内分泌障害又は浮腫、M-タンパク質、皮膚変化、神経周膜炎、IgM抗-GD1b抗体症候群(時には)。
【0070】
毒素:ジフテリア、クロウメモドキ、ヘキサクロロフェン、シアン化ナトリウム、テルル。
【0071】
薬物:主に脱髄:クロロキン、FK506(タクロリマス)、ペルヘキシリン、プロカインアミド、ジメリジン;脱髄と軸索の混合:アミオダロン、好酸球増加症-筋痛症候群、金、スラミン、タキソール。
【0072】
遺伝性:炭水化物-欠乏糖タンパク質、白内障及び顔面異形症、コケイン症候群、先天性ミエリン形成減少症、先天性筋ジストロフィー:メロシン欠損症、ファーバー病(脂肪肉芽腫症)、HMSN & CMT、優性:IA、IB、III、HNPP、EGR2、感熱性(Thermosensitive)、劣性:III(デジエリン・ソタッス病);4A;4B;4B2;4C;4D(LOM);4E;4F;HMSN-R;CNS、X-連鎖:IX、クラッベ、Marinesco-Sjogren病、異染性白質萎縮症、ニーマン・ピック病、ぺリツェウス・メルツバッハー病(PLP)、レフサム病、プリオンタンパク質(PrP27-30):Glu200Lys突然変異、クロイツフェルト・ヤコブ病、マウスモデル:プリオン過剰発現、サラ病、SOX10、テネイシン-XA、末梢ミエリン鞘の平坦でないパッケージング、Ehiers-Danlos表現型。
【0073】
代謝(通常でない):糖尿病(併発するCIDPに起因)、甲状腺機能低下症、肝障害。
ミトコンドリア:MNGIE症候群、ミオパシー及び外眼筋麻痺、ニューロパシー、胃腸の脳障害、NARP症候群、ニューロパシー、運動失調、網膜炎、色素変性症。
感染症:クロイツフェルト・ヤコブ病、ジフテリア、HIV:随伴したCIDP、ライ:らい腫;軸索-脱髄混合;コロニー化したシュワン細胞、変種クロイツフェルト・ヤコブ病。
更なる詳細は、下記のインターネット上のサイトにおいて観ることができる:http://www.neuro.wustl.edu/neuromuscular/nother/myelin.html。
【0074】
多発性硬化症(MS)は、再発-寛解又は進行の経過をとる、中枢神経系(CNS)の炎症性脱髄疾患である。MSは、単なる脱髄疾患ではない。その末梢神経系(PNS)の対応物は、慢性炎症性脱髄性多発神経根ニューロパシー(CIDP)である。加えて、例えばPNSにおいてギラン・バレー症候群(GBS)と称される炎症脱髄多発神経根ニューロパシー、及びCNSにおける急性播種性脳脊髄炎(ADEM)のような急性の単相の障害が存在する。MS及びGBSの両方共、不均質の症候群である。MSにおいて、異なる外因性の攻撃は、遺伝因子と共に、最終的には診断基準を満たす疾患経過を生じる。両疾患において、軸索障害は、原発性脱髄病変に加えることができ、かつ永久の神経学的欠損を引き起こす。
【0075】
MSは、前記脱髄疾患で最も一般的である。これは、自己免疫障害として特徴付けられ、ここで免疫系の白血球は、中枢神経系(CNS)の白質の攻撃に着手する。灰白質も関与することがある。MSの正確な病因は不明であるが、寄与因子は、遺伝、細菌及びウイルス感染症を含むであろう。その古典的徴候発現(全症例の85%)において、これは交互の再発/寛解相により特徴付けられ、これは数種間続く神経学的機能不全、それに続く実質的又は完全な回復のエピソードに相当している(Noseworthy、1999)。寛解の期間は、次第に短くなっていく。その後多くの患者が、部分的回復を伴う又は回復を伴わない神経学的機能の段階的喪失を特徴とする最終病相に入る。これは、続発性進行性MSと称される。小さい割合(全MS患者の〜15%)は、本疾患の発症に続く神経学的機能の段階的及び非断続的減退に罹患している(原発性進行性MS)。現在、通常致死的であるMSの最も重症な型についての明確な治癒的治療法はない。
【0076】
MSの基本となる顕著な特徴は、脳及び脊髄の白質路に認められる、反応性グリア瘢痕形成を伴う、脱髄斑である。脱髄は、機能低下又は神経インパルス伝導の遮断に連鎖されている。軸索離断及び死も、MS患者において認められる(Bjartmarら、1999)。病理学的研究は、視神経、室周囲の白質、脳幹及び脊髄に限定された大きな関与を示している(Storchら、1998)。これらのCNS欠損の作用は、複視、無感覚及び不安定な歩行の急性症状に加え、痙性の不全対麻痺及び失禁のような慢性症状を含む。
【0077】
MS病理進行の基礎をなす分子機序は、ウイルス及び細菌感染を含む、遺伝因子及び環境因子から始まるように見える。これらの機序は、Tリンパ球及びマクロファージの血液-脳関門を超えかつCNS組織への移動増大を促進する。
脱髄は、活性化されたマクロファージ及び小グリア細胞によるミエリンへの攻撃に加え、Fas-リガンドシグナル伝達及び補体-又は抗体-媒介した細胞傷害性から始まる髄鞘形成している細胞への障害により引き起こされる。従って脱髄は、ミエリン鞘への直接攻撃に加え、ミエリンを産生しかつ維持する細胞の除去の両方を通じて生じる。
【0078】
遺伝的要素及び環境的要素は、炎症細胞の血液-脳関門を超えた流入増大につながる。これは、自己反応性Tリンパ球及びマクロファージのCNS組織への移動増大を生じる。T細胞によるサイトカイン分泌は、抗原-提示細胞(APC)を活性化する。APC上のMHCクラスII分子の状況における自己反応性T細胞が、ミエリン鞘のタンパク質構成要素であることが多い推定「MS抗原」に遭遇する場合、これらは活性化され始めるであろう。いくつかのそれに続く機序は、次に、希突起膠細胞及びミエリンを障害するように作用する。補体-及び抗体-媒介した細胞傷害性は、一部の患者において大きな障害を引き起こすことがある一方で、Fas-リガンドシグナル伝達、及びCD4+ T細胞によるTNF-αのような前-炎症性サイトカインの放出は、とりわけ白質を攻撃することがある。活性化されたマクロファージも、増強された食作用及び因子分泌を通じ役割を果たすことがある。これは、広範な脱髄を引き起こし、かつ次にCNSの軸索の中の伝導効率の損失を引き起こす。しかし引き続きの修復機序が生じ髄鞘再形成され、一旦炎症過程が消散する。MS患者の髄鞘再形成された軸索は、再軸索形成された軸索の周囲の鞘の薄い外観により病理学的に認められる。追加のナトリウムチャネルは、頻繁に脱髄された軸索膜に挿入されることが認められ、これは伝導効率の喪失を補償する。希突起グリア細胞前駆体は、MS病変中の髄鞘再形成を増強することがある。
【0079】
希突起膠細胞は、そのミエリン鞘の作成及び維持に関連した多くの機能を発揮する。これは、複数のニューロンの軸索の絶縁、支持及び伝導増強を提供する。1個の希突起膠細胞は、最大50個の異なる軸索を髄鞘形成することができる。髄鞘形成は、ある巨大な直径の軸索のみに限定され;樹状突起及び他の細胞突起、例えば星状細胞のものなどは、髄鞘形成されないままである。軸索は、髄鞘形成する希突起膠細胞の数の制御を発揮するように見え、その理由は、ラット視神経のパラダイムにおける軸索離断は、ミエリンの再生及び希突起膠細胞前駆体の産生を阻害するからである(Barres及びRaff、1999において検証)。希突起膠細胞の増殖及び移動は、発生時に軸索から放出された因子により刺激することができる。この様式において、希突起膠細胞及び軸索の数は、CNS内で慎重に合致させられる。
【0080】
希突起膠細胞は、CNSのニューロン周囲支持細胞であり、軸索路を髄鞘形成し、かつインパルス伝導を増強するために役立つ。これらは、軸索の生存及び機能において役割を果たす。この図式において示されたように、希突起膠細胞は、髄鞘形成する各軸索にただ1個の突起を伸ばすことに注意。
【0081】
多層性のミエリン鞘は、グリア細胞形質膜の特定化されたドメインであり、脂質が豊富でありかつタンパク質が少ない。これは、軸索を支持し、かつ周囲組織への流出(bleeding off)による帯電を妨害することにより、CNSにおける電気シグナル伝導効率を改善するために役立つ。ランビエ節は、跳躍性伝導が生じる軸索に沿った鞘内の部位である。
【0082】
成体脳において、希突起膠細胞は、脳及び脊髄の脳室下帯内のまだ余り定義されていない前駆細胞から発生する(NaitOumesmarら、1999)。これらの前駆体は、増殖し、かつミエリン転写産物及びタンパク質を発現し、最初に髄鞘形成の数週間前に胚脊髄の腹側領域において出現する(Hajihosseiniら、1996)。この髄鞘形成の過程は、出生後の脳において生じる。生後発育時に、これらの前駆体は、髄鞘形成されるニューロン路へと移動する。
【0083】
希突起膠細胞は、定義されかつ特異的な方法でそれらの前駆細胞から成熟する(例えば、Rogisterら、1999において検証)。希突起膠細胞発生は、各段階が、いくつかの細胞-特異的マーカーにより区別されている定義された経路に従い:これは、内皮神経細胞接着分子(E-NCAM)、ビメンチン、A2B5、POU転写因子Tst-1/Oct6/SCIP、プレ-希突起膠芽細胞抗原(POA)、ガラクトセレブロシド(GalC)、O1、O4、及びミエリン-特異的タンパク質PLP、MBP、及びMOGである。神経幹細胞は、二極性プレ-GD3+細胞を生じ、これはO2A前駆体になる。これらの細胞は、希突起膠細胞又は2型星状細胞のいずれかを生じる。進行は、実際に希突起膠細胞段階へ分化する前に、プレ-希突起グリア細胞及びプレ-GalC+段階を通じて継続する。希突起グリア細胞系統の最終段階は、これらの細胞の増殖不能により定義される。成熟希突起膠細胞は、細胞-特異的マーカーであるGalC及びスルファチド(SUL)を発現することに加え、ミエリン-特異的タンパク質を発現する。
【0084】
従って希突起膠細胞は、有糸分裂活性のある遊走性の前駆細胞から分化する。いったんこれらの細胞が有糸分裂を終了すると、これらはミエリン-特異的タンパク質をコードしている遺伝子を転写及び翻訳する。軸索を包み囲んでいるミエリン鞘の精密さは、成熟希突起膠細胞の突起と軸索それ自身の間の直接接触によりもたらされる。CNS軸索の鞘形成(ensheathment)は、ミエリン鞘の圧密(compaction)により完了し、これはその最後が複合体形成において巨大分子を含む液晶に似ている(Scherer、1997)。髄鞘形成の促進は、ミエリン鞘の個々の構造タンパク質間の正確な化学量論的関係の考察を必要とし、その理由は、ひとつの成分量の増加又は減少は、全体の鞘構造の動揺を生じるからである。
【0085】
希突起膠細胞は、脱髄された軸索の修復の維持が不可能であることは、MSを特徴付ける累積的神経学的機能不全の一因である。MS患者における髄鞘再形成の促進は、軸索喪失を防ぎ、その結果CNSにおける軸索の死に関連した不能の進行を制限する。
【0086】
MSの脱髄化表現型は、活動性MS病変の性質の集中的研究につながる。裸の軸索及び髄鞘形成している希突起膠細胞の不在は、正常なミエリンの破壊及びMSに関連した髄鞘再形成過程の異常を示している。MS病変の40%が、特に本疾患の初期相において、失敗に終わった髄鞘再形成の証拠を示すことが報告されている(Prineasら、1993)。これは、ミエリン修復を促進するために展開されている戦略が、永久的に神経系障害を防ぐことの現実的予想を示している。成功の確率は、若いCNS病変において特に高く、ここでは初期の髄鞘再形成は既に生じていることが示されている。しかし、髄鞘形成又は髄鞘再形成している希突起膠細胞は、極端な代謝ストレス下にある細胞であり、これは例え小さい圧力下であっても追加的梗塞では不可逆的に損傷される(Scolding及びLassmann、1996)。これは、活動性MS病変における自然発生的修復の確率を減少し、ここで炎症及び他の損傷は、髄鞘再形成に対する障害を有する。従ってミエリン修復を促進する戦略は、活動性MS病変における髄鞘再形成及び軸索保護にとって有利な可能性が増すであろう。
【0087】
成人CNSは、増殖が可能でありかつ髄鞘形成している希突起膠細胞へ成熟することができる希突起膠細胞前駆細胞を含むことが示されている。加えて、MS病変に隣接する外因性希突起膠細胞前駆体集団は、本疾患の慢性相の間に、前駆体の増殖能及び分化能の阻害のために、枯渇するように見える(Wotswijk、1998)。このような前駆細胞は一般に、慢性MS病変の環境において静止期にあり、これらが髄鞘再形成に積極的に寄与することを防いでいる。従って慢性MS病変の状況は、希突起膠細胞前駆細胞集団の刺激に必要な希突起グリア細胞の再生又は喪失の因子を阻害する因子に関連している(Wolswijk、1998)。この概念は、MSの効率的療法は、炎症抑制に限らず、髄鞘再形成も好ましいという仮説につながる。髄鞘再形成している細胞は、様々な給源を起源とすることができ、これは病変に対して無傷の生存している希突起膠細胞、これらの生存者由来の細胞、又は隣接前駆細胞である。成熟希突起膠細胞は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)のような因子により脱分化及び増殖するように誘導することができることが示されており、このことは、脱髄疾患以後の希突起グリア細胞株の再生の機序を示唆している(Grinspanら、1996;Grinspanら、1993)。
【0088】
MSのような脱髄障害における髄鞘再形成の有益な作用の証拠の追加は、本疾患の動物モデルにおける治療のような、グリア増殖因子で行われた研究により提供されている。MSのEAEマウスモデルにおいて、グリア増殖因子2(ニューレグリン/GGF-2)は、希突起膠細胞増殖及び生存を促進することがわかっているCNS増殖因子であり、これは疾患発症を遅延し、臨床的重症度を低下し、かつ再発の頻度を低下することが示された(Marchionniら、1999)。ニューレグリンは、成熟希突起膠細胞の生存に対し有益な作用を有し、かつ軸索により産生されることが示された(Fernandezら、2000)。
【0089】
血小板-由来増殖因子(PDGF)及びIGF-1を含む他の増殖因子は、EAEモデルにおいて、髄鞘再形成を促進し、かつ治療作用を有することが示された(Dubois-Dalcq及びMurray、2000において検証)。増殖及び/又は分化へ希突起膠細胞系の細胞を誘導することにより、髄鞘再形成の刺激が成功したことは、MSの治療的戦略としての髄鞘再形成の予測が好ましいことを示している。ミエリン合成を阻害する分子は、MSにおける希突起グリア細胞移植のような修復戦略の効率を低下するので、これらをを同定するために重要でもある。
【0090】
髄鞘再形成の過程は、障害を修復しかつ軸索を離断及び死から保護するための抗-炎症過程と共調して作用するであろう。
【0091】
希突起膠細胞は、CNSにおける軸索路の髄鞘再形成のために誘導することができ、これにより病態の緩和に寄与する。髄鞘再形成の増強は、CNS組織への免疫系細胞の侵襲及びそれらのミエリン鞘への攻撃によりもたらされた前述の破壊とは逆に作用するであろう。
【0092】
希突起グリア分化及び多発性硬化病変のいくつかの分析は、ディファレンシャルな遺伝子発現のマイクロアレイによる可視化を用いて行われる(DGE, Scarlatoら、2000;Whitneyら、1999)。これらは、遺伝子の変動するセットをアッセイするために著しく異なるアレイ技術を利用している。分化している希突起膠細胞及び多発性硬化症病変の両方における遺伝子発現の分析は、ミエリン-特異的遺伝子発現の有意な変化を示している。加えて他の遺伝子は、ディファレンシャルに調節されるように特定され、その多くは、細胞周期の制御、細胞骨格の再組織化及び膜通過(trafficking)のようなプロセスに関連することが分かっている(Scarlatoら、2000)。
【0093】
オステオポンチンは、骨及び歯の無機化された細胞外マトリックスの主な成分である、高度にリン酸化されたシアロタンパク質である。OPNは、ポリアスパラギン酸配列及びヒドロキシアパタイトの結合を媒介するSer/Thrリン酸化部位の存在、並びに細胞接着/シグナル伝達を媒介する高度に保存されたRGDモチーフにより特徴付けられる。様々な組織におけるオステオポンチンの発現は、1種又は複数のこれらの保存されたモチーフが関連している機能の多様性を示している。OPN「ノックアウト」マウスにおける明確な表現の欠如は、いずれの組織においてもオステオポンチンの決定的役割を確立していないが、最近の研究は、発生過程、創傷治癒、免疫応答、腫瘍形成、骨吸収、及び石灰化を含む、多様な生物学的事象におけるこのタンパク質の汎用性へのいくつかの新規かつ興味深い洞察を提供した。双方向シグナル伝達経路に連結した複数の受容体を通じて細胞活性を刺激するオステオポンチンの能力は、機能的多様性の多くを説明することができる(Sodekら)。
【0094】
オステオポンチンは、ラットの脊髄及び三叉神経系の一次感覚ニューロンにおいて、ニューロン細胞体及び軸索内の両方において発現されることも示されている(Ichikawaら、2000)。
【0095】
オステオポンチンmRNAは、in situハイブリダイゼーションにより成体脳において発現される。発現は、嗅球及び脳幹のニューロンにおいて認められ、後者においては、運動関連領域、感覚系及び網膜形成を含む機能的に多様な領域において認められた(Shinら、1999)。
【0096】
別の研究は、ラットにおける一過性の前脳虚血後のオステオポンチンmRNAの空間的及び時間的発現を調べた。全体の虚血後のOPN mRNAの一過性の誘導は、海馬よりも線条体において早く生じた。これは、小グリア細胞がより反応性となる前に、側方脳室に近い背中線条体において並びに海馬のCA1野及び鉤状回において明かであった。これは同じく、歯状丘において、かつCA3において辺縁範囲に検出された(Lee MY、Shin SL、Choi YS、Kim EJ、Cha JH、Chun MH、Lee SB、Kim SY、Neurosci Lett、1999年8月20日、271:281-4)。
【0097】
オステオポンチンはEta-1とも称される。国際公開公報第00/63241号は、モジュレーターEta-1(初期Tリンパ球活性化-1)/オステオポンチンを用い、免疫応答を変調する方法、特に1型免疫応答を変調する方法を開示している。オステオポンチンモジュレーターは、感染症、免疫障害及び疾患、MSを含む自己免疫障害、様々な免疫欠損症、及び癌の治療に有用であると言われている。MSを含む自己免疫疾患において有用であると考えられている、国際公開公報第00/63241号に開示された、オステオポンチンの全てのモジュレーターは、オステオポンチン/Eta-1のインヒビターであり、その詳細は国際公開公報第00/63241号の51〜53頁の「Clinical Applications of the Modulatory Methods of the Invention」第V項、「Autoimmune Diseases」のDに記されている。
【0098】
インターフェロンは、抗-炎症、抗ウイルス及び抗増殖活性を発揮するサイトカインのサブクラスである。生化学的及び免疫学的特性を基に、天然のヒトインターフェロンは、3種のクラスにグループ分けされる:インターフェロンα(白血球)、インターフェロンβ(線維芽細胞)及びインターフェロンγ(免疫)。α-インターフェロンは現在、毛様細胞性白血病、性病疣、カポシ肉腫(後天性免疫不全症候群(AIDS)患者が通常罹患する癌)、並びに慢性非-A非-B型肝炎の治療のために、米国及び他の国々において承認されている。
【0099】
更にインターフェロン(IFN)は、ウイルス感染に反応した体により産生される糖タンパク質である。これらは、保護された細胞におけるウイルス複製を阻害する。比較的小さい分子量のタンパク質から構成されるIFNは、驚くべきことにそれらの作用は非特異的であり、すなわち、ひとつのウイルスにより誘導されたIFNは、広範な他のウイルスにも効果的である。しかしこれらは、種-特異性があり、すなわちひとつの種により産生されたIFNは、同じ種又は密に関連した種の細胞において抗ウイルス活性を刺激するのみである。IFNは、それらの抗腫瘍及び抗ウイルス活性を発揮するサイトカインの第一群であった。
【0100】
これら3種の主要なIFNは、IFN-α、IFN-β及びIFN-γと称されている。このようなIFNの主な種類は、最初にそれらの細胞起源(白血球、線維芽細胞又はT細胞)に従い分類された。しかし、数種類がひとつの細胞により作成され得ることが明らかになりつつある。従って現在、白血球IFNはIFN-α、線維芽細胞IFNはIFN-β及びT細胞IFNはIFN-γと称されている。更に第四の型のIFN、「Namalwa」細胞株(バーキットリンパ腫に由来)において産生されたリンパ芽球IFNも存在し、これは白血球及び線維芽細胞の両IFN混合物を生成しているように見える。
【0101】
インターフェロン単位は、ウイルス損傷に対して細胞の50%を保護するのに必要な量として定義(若干恣意的)されたIFN活性の測定値として報告されている。
各クラスのIFNは、いくつかの異なる種類を含む。IFN-β及びIFN-γは各々、単独の遺伝子産物である。個々の種類の間の差異は、主にグリコシル化の変動に起因するように見える。
【0102】
IFN-αは、約15型を含む最も多様な群である。9番染色体上に、少なくとも23員を含む、IFN-α遺伝子のクラスターが存在し、その中の15員は、活性がありかつ転写されている。成熟型IFN-αはグリコシル化されない。
【0103】
IFN-α及びIFN-βは、全て同じ長さ(アミノ酸165又は166個)であり、同様の生物学的活性を伴う。IFN-γは、長さが146個のアミノ酸であり、かつα及びβクラスほど密には似ていない。IFN-γのみが、マクロファージを活性化するか、もしくはキラーT細胞の成熟を誘導することができる。作用において、これらの治療薬の新規種類は、生物応答修飾物質(BRM)と称されており、その理由はこれらは、免疫変調を介して認識を損ない、腫瘍に対する生物の反応に対し作用を有するからである。
【0104】
特に、ヒト線維芽細胞インターフェロン(IFN-β)は、抗ウイルス活性を有し、かつ更に天然のキラー細胞を新生物細胞に対して刺激することができる。これは、ウイルスにより誘導された約20,000Da及び二本鎖RNAのポリペプチドである。Derynkら(Derynk R.ら、1980)は、組換えDNA技術によりクローニングされた、線維芽細胞インターフェロン遺伝子のヌクレオチド配列から、このタンパク質の完全なアミノ酸配列を推定した。これは、アミノ酸長が166個である。
【0105】
Shepardら(Shepard H. M.ら、1981)は、その抗-ウイルス活性を破棄する塩基842(141位でCys->Tyr)の突然変異、並びにヌクレオチド1119-1121の欠失を伴う変異体クローンを説明した。
【0106】
Markら(Mark D.F.ら、1984)は、17位にCys->Serのアミノ酸スイッチを生じるよう、塩基469(T)を(A)で置換することにより、人工的突然変異を挿入した。得られたIFN-βは、「天然の」IFN-βと同様の活性があり、かつ長期保存(-70℃)の期間安定していることが報告されている。
【0107】
Rebif(登録商標)(組換えヒトインターフェロン-β)は、多発性硬化症(MS)のインターフェロン療法において最も新しく開発され、かつ治療において著しい進歩を示している。Rebif(登録商標)は、哺乳類細胞株において産生されたインターフェロン(IFN)-βIaであり、かつ事実上天然のヒト分子と同じである。
【0108】
IFNがそれらの作用を発揮する機序は、完全には理解されていない。しかし、ほとんどの場合において、これらは、ある種の遺伝子の誘導又は転写を損なうことにより作用し、従って免疫系を損なう。In vitro試験は、IFNが、約20種の遺伝子産物を誘導又は抑制することが可能であることを示している。
【0109】
IFN-βは、MSにおいて3種の主な経路により作用することができる:
・活性化、増殖及び抑制の細胞機能のような、T-細胞機能の調節;
・サイトカイン産生の変調:前炎症サイトカインのダウンレギュレーション及び阻害性の抗-炎症サイトカインのアップレギュレーション;
・BBB(血液-脳関門)を介したCNSへのT-細胞の移動及び浸潤の調節。
【0110】
PRISMS試験は、再発-寛解型多発性硬化症(RR-MS)の治療において、1週間に3回皮下投与されたインターフェロン-β-1aの有効性を確立した。この試験は、インターフェロン-β-1aが、MSの長期経過に対し、再発の回数及び重症度を低下しかつMRIにより測定された疾患負荷及び疾患活動度を低下することにより、陽性作用を有することを示した(再発-寛解型多発性硬化症におけるインターフェロンβ-1aの、無作為化した二重盲検プラセボ対照試験、The Lancet、1998;352(1998年11月7日):1498-1504)。
【0111】
本明細書のあらゆる文献引用は、このような文献が、直接関係のあるいずれの先行技術、又は本明細書の「特許請求」の特許性に関しても考慮される材料であることの是認を意図するものではない。いずれの文献の内容又は日付に関する陳述も、出願時点で出願人が入手できる情報を基にしており、このような陳述の正当性の是認を構成するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0112】
本発明の目的は、神経疾患の治療及び/又は予防の新規手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0113】
本発明は、タンパク質オステオポンチンが、グリア細胞の増殖及び分化を促進し、従って髄鞘形成及び神経再生を促進するという知見を基にしている。本発明に従い、更に、オステオポンチンは、多発性硬化症及び末梢ニューロパシーの動物モデルにおいて有益な作用を有することがわかった。
【0114】
従って本発明は、外傷性神経損傷、脳卒中、CNS又はPNSの脱髄疾患、ニューロパシー及び神経変性疾患のような神経疾患における、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの使用に関する。
【0115】
本発明に従い、オステオポンチンは、神経疾患の治療及び/又は予防のために、インターフェロンと併用して使用してもよい。神経疾患を治療及び/又は予防するための、核酸分子、及びオステオポンチンを含む発現ベクター、並びにオステオポンチンを発現している細胞の使用も、本発明の範囲内である。本発明は更に、オステオポンチン及びインターフェロンを、任意に1種又は複数の医薬として許容できる賦形剤と共に含有する医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1A】図1Aは、TaqMan(登録商標)分析により測定した、キュプリゾン治療後異なる時点でのオステオポンチン発現のレベルを示すヒストグラムである。3/5w. Cup=3又は5週間のキュプリゾン治療。5w. cup + 1/3/6w.=5週間のキュプリゾン治療及びキュプリゾン投与中止後の1/3又は6週間の回復。
【図1B】図1Bは、小脳発生の異なる段階でのTaqMan(登録商標)により測定した、オステオポンチン、MBP及びPLP mRNAの調節倍率の、対照C1レベルとの比較を示している。C1から20=出生後1日目から20日目の小脳。CA=成体小脳。
【図2】図2は、オステオポンチン及びその公知のアイソフォームの構造、更にはC及びN末端構築体を概略的に示している。
【図3】図3は、オステオポンチンのコード配列を含むプラスミドPacを概略的に示している。
【図4】図4は、cAMPで6時間(1)、2日(2)、6日(3)又は10日間(4)処理した希突起膠細胞株oli-neuにおけるオステオポンチンmRNAのアップレギュレーション倍率を、対照と比較して例示しているヒストグラムを示している。カラム5及び6は、キュプリゾン実験からのオステオポンチンmRNAレベルを示している。(5):3週間のキュプリゾン処理、(6):5週間のキュプリゾン処理。
【図5】図5は、オステオポンチンコード配列を含むプラスミドpDEST 12.2を概略的に示している。
【図6】図6は、オステオポンチンコード配列とEGFPコード配列、蛍光マーカーを含むプラスミドpDEST 12.2を概略的に示している。
【図7】図7は、HIS-タグを伴うオステオポンチンコード配列を含むプラスミドpDEST 12.2 を概略的に示している。
【図8】図8は、インスリン飢餓後及びバキュロウイルスにおいて発現されたオステオポンチン(Baculo-OPN)又はHEK細胞で発現されたオステオポンチン(HEK-OPN)で24時間処置後の、oli-neu細胞の増殖を示している。測定値は、生細胞を染色する色素であるAlamarブルーの蛍光である。
【図9】図9は、バキュロウイルスが発現したオステオポンチン(BAC-OPN)又はHEK細胞が発現したオステオポンチン(HEK-OPN)による処理の24時間後の、インスリン飢餓状態のoli-neu細胞の増殖における用量‐反応曲線を示している。
【図10】図10は、インスリン飢餓状態下及び完全長のバキュロウイルスで発現したオステオポンチン(BacOPN)又はオステオポンチンN-末端断片(N-末端BacOPN)のいずれかによる処理後の、oli-neu細胞の増殖を示している。
【図11】図11は、100nMバキュロウイルスで発現した組換えオステオポンチンで処理した混合皮質培養物におけるMBP免疫組織化学を示している。A=対照;B=OPN処理;C=Bの拡大;D=OPN処理した混合皮質細胞の別の視野、ここで軸索は見えない。
【図12】図12は、ELISAにより測定した、LIF及びバキュロウイルス発現したオステオポンチン処理後の、髄鞘形成している混合皮質培養物におけるMBPタンパク質の増加を示している。
【図13】図13は、in vitroリン酸化したE. coliで発現したオステオポンチン(OPN-E.コリ)又はバキュロウイルスで発現したオステオポンチン(OPN Bac)の異なる用量(10pM、10nM、100nM)で処理した、CG4細胞の増殖を示している。
【図14】図14は、媒体(PBS)、媒体+0.1%BSA、1、10もしくは100μg/kgのAS900011(オステオポンチン)、又は100μg/kgのAS900011及び20000U/マウスのマウスインターフェロンβ(mIFNβ)の組合せ、又は20000U/マウスのmIFNβ単独で皮下処理したEAEマウスの脊髄に存在している血管周囲炎症性浸潤を示している。
【図15】図15は、媒体(PBS)、媒体+0.1%BSA、1、10もしくは100μg/kgのAS900011(オステオポンチン)、又は100μg/kgのAS900011及び20000U/マウスのマウスインターフェロンβ(mIFNβ)の組合せ、又は20000U/マウスのmIFNβ単独で皮下処理したEAEマウスの脊髄に存在する脱髄領域の割合(%)を示している。
【図16】図16は、媒体(PBS)、媒体+0.1%BSA、1、10もしくは100μg/kgのAS900011(オステオポンチン)、又は100μg/kgのAS900011及び20000U/マウスのマウスインターフェロンβ(mIFNβ)の組合せ、又は20000U/マウスのmIFNβ単独で皮下処理したEAEマウスにおける、治療終了時の臨床スコア、炎症浸潤及び脱髄を示している。
【図17】図17は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理した坐骨神経圧挫により誘導したニューロパシーマウスの体重を示している。
【図18】図18は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける複合筋肉活動電位の振幅を示している。
【図19】図19は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける複合筋肉活動電位の潜伏時間を示している。
【図20】図20は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける複合筋肉活動電位の持続期間を示している。
【図21】図21は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける再生した線維の割合(%)を示している。
【図22】図22は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける1視野当りの線維総数を示している。
【0117】
発明の詳細な説明
本発明は、オステオポンチンが、希突起膠細胞分化時及び小脳発生時に、ディファレンシャルに発現されるという知見を基にしている。更に、in vitroにおける希突起膠細胞におけるオステオポンチンcDNAの発現は、これらの細胞の分化型の表現型につながることがわかっている。オステオポンチンの発現時に、希突起膠細胞は、分化し髄鞘形成している細胞の表現型に似た表現型を示す。これらのin vitro知見に加え、オステオポンチン、及び特にオステオポンチン及びインターフェロンの組合せは、多発性硬化症の確立されたモデルにおいて有益な作用を有することが示されている。末梢ニューロパシーの実験モデルにおいて、オステオポンチンは、神経活性に対する突出した有益な作用を有し、かつ再生の割合を有意に低下し、かつ脱髄の程度を増大した。
【0118】
従って本明細書において提示された実験的証拠は、神経疾患、特に神経及びグリア細胞機能に関連したものの治療の新規可能性を提供する。これらの知見は、国際公開公報第00/63241号は、多発性硬化症を治療するためにオステオポンチンを阻害することを開示しているので、特に驚きに値する。
【0119】
従って本発明は、神経疾患を治療及び/又は予防するための、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの使用、医薬品の製造に関する。
【0120】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、1980年代後半から公知であるアミノ酸配列を有する、完全長ヒトオステオポンチンに関連している(Oldbergら、1986;Kieferら、1989)。ヒトオステオポンチンの配列は、本明細書において、添付された配列表において配列番号:1として報告されている。本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、更に、オステオポンチン活性を維持するために十分な同一性がある限り、並びに得られる分子がヒトにおいて免疫原性でない限りは、マウス、ウシ又はラットのオステオポンチンのような、動物由来のいずれかのオステオポンチンに関連している。
【0121】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、更に、オステオポンチンの天然アイソフォームのような、生物学的活性のあるムテイン及び断片に関する。オステオポンチンは、転写(あるいはスプライシング)及び翻訳後修飾(リン酸化、グリコシル化)のレベルが異なる機能的に別個の形で発現される。OPNの3種のスプライシング変種が、これまでに知られており、OPN-a(本明細書において「完全長」オステオポンチンとも称する)、OPN-b及びOPN-c(添付された配列表の配列番号:1、2及び3、更に図2に示す)とも称される。これらのアイソフォームは、例えばKonら(2000)が説明しており、例えばSaitohら(1995)及びKonら(2002)により特徴付けられている。
【0122】
トロンビン開裂は、このタンパク質のN-及びC-末端部分を含むふたつのin vivoタンパク質分解性切断断片につながる。オステオポンチン、特にこのタンパク質のC-末端部分のリン酸化は、オステオポンチン機能にとって重要であり得る。従って本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、同じくこれらのタンパク質分解性断片及びディファレンシャルにリン酸化されたオステオポンチン形も包含することを意味する。
【0123】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、更に、アイソフォーム、ムテイン、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分もしくは断片、又は循環式に順番を入れ替えた誘導体、又はそれらの塩も包含している。これらのアイソフォーム、ムテイン、融合タンパク質又は機能性誘導体、活性画分もしくは断片、又は循環式に順番を入れ替えた誘導体は、オステオポンチンの生物学的活性を維持している。好ましくは、これらは、野生型オステオポンチンと比べ改善された生物学的活性を有する。
【0124】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン活性のアゴニスト」は、オステオポンチン受容体のアゴニスト性抗体、又はオステオポンチン受容体を介してシグナル伝達を活性化する小分子量のアゴニストのような、オステオポンチン活性を刺激又は模倣する分子に関する。オステオポンチンは、少なくともふたつの受容体群を介してその機能を媒介する。第一に、これは、αv-インテグリンと相互作用する(マンガンの正の作用下でRGD(Arg-Gly-Asp)細胞結合モチーフを介した、αvβ3及びαvβ5インテグリン受容体)(Kunickiら、1997)。第二に、これは、CD44変異体アイソフォームv6-v10と相互作用する。オステオポンチンのC-末端部分は、CD44との相互作用に関連すると考えられている一方で、オステオポンチンのN-末端部分は、インテグリン受容体との相互作用、マクロファージの増殖、生存及び分化に関連していると考えられている。オステオポンチンのN-末端部分はまた、IL-12及びIL-10の放出も誘導する。これらの受容体のアゴニスト、スティミュレーター又はエンハンサーは、本明細書において使用される用語「OPN活性のアゴニスト」に包含される。
【0125】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン活性のアゴニスト」は、更に、希突起膠細胞系統の細胞(始原細胞又は前駆細胞など)の動員、増殖、分化又は成熟を促進するため、希突起膠細胞系統の細胞をアポトーシス及び細胞損傷から保護することを促進するための、細胞外マトリックス成分への細胞結合の促進、希突起膠細胞系統の細胞のミエリン産生細胞への形態形成のような、オステオポンチン媒介した活性を増強する物質を意味する。
【0126】
本明細書において使用される用語「治療」及び「予防」は、神経疾患の1種又は複数の症状又は原因(複数)に加え、神経疾患に随伴する症状、疾患又は合併症の予防、阻害、減弱、改善又は逆行することとして理解されることである。神経疾患が「治療」される場合、本発明の物質は該疾患の発症後に投与され、「予防」は、該物質を患者において疾患徴候が認められる前に投与することに関連している。
【0127】
本明細書において使用される用語「神経疾患」は、全ての公知の神経疾患もしくは障害、又はCNSもしくはPNSの損傷を含んでおり、これは「発明の背景」に詳細に説明されたものを含んでいる。
【0128】
神経疾患は、神経伝導、頭痛、頭部外傷、CNS感染症、神経-眼及び脳の神経障害、大脳葉の機能及び機能不全、運動障害、混迷及び昏睡、脱髄性疾患、せん妄及び痴呆、頭蓋脳接合部の異常、発作障害、脊髄障害、睡眠障害、末梢神経系の障害、脳血管障害、又は筋肉障害に関連した疾患のような、CNS又はPNSの機能不全に連結した障害を含む。これらの障害の定義については、例えば、http:/www.merck.com/pubs/mmanual/section14/sec14.htmを参照のこと。
【0129】
好ましくは、本発明の神経疾患は、外傷性神経損傷、脳卒中、CNS又はPNSの脱髄性疾患及び神経変性疾患からなる群より選択される。
外傷性神経損傷は、PNS又はCNSに関連することができ、先の「発明の背景」に説明されたような対麻痺を含む、脳又は脊髄の外傷であることができる。
【0130】
発作は、脳の低酸素症又は虚血により引き起こされることがある。これは、脳血管の疾患又は事故と称されることもある。発作は、脳の領域への血液循環の喪失により引き起こされる脳機能の喪失(神経学的欠損)に関連している。血液循環の喪失は、脳内に形成される血餅(血栓)、又はアテローム硬化症斑の小片もしくは別の場所から移動する他の材料(塞栓)に起因することができる。脳内のブリージング(出血)は、脳卒中に類似した症状を引き起こすことがある。脳卒中の最も一般的原因は、アテローム硬化症(大脳の血栓症)に続発する脳卒中であり、その結果、本発明はアテローム硬化症の治療にも関連する。
【0131】
末梢ニューロパシーは、感覚喪失、筋肉衰弱及び萎縮、減少した深部腱反射、並びに血管運動症状の症候群に関連している。ニューロパシーは、単独の神経(単ニューロパシー)、個別の領域のふたつ又はそれよりも多い神経(多発性単ニューロパシー)、又は同時に多くの神経(多発ニューロパシー)に影響を及ぼすことがある。軸索(例えば、真性糖尿病、ライム病、又は尿毒症、もしくは毒物)か、又はミエリン鞘もしくはシュワン細胞(例えば、急性又は慢性の炎症性多発ニューロパシー、白質萎縮症、又はギラン・バレー症候群)が主に損なわれる。本発明に従い治療することができる更なるニューロパシーは、例えば、リード毒物、ダプソン使用、マダニの咬傷、ポルフィリン症、又はギラン・バレー症候群に起因し、かつこれらは主に運動神経を損なう。癌、ライ、AIDS、真性糖尿病、又は慢性ピリドキシン中毒の脊髄後根神経節炎に起因するもののような、その他のニューロパシーは、主に脊髄後根神経節又は感覚神経に影響を及ぼし、感覚症状を生じる。脳神経も、例えば、ギラン・バレー症候群、ライム病、真性糖尿病、及びジフテリアなどに関連していることがある。
【0132】
アルツハイマー病は、脳組織の変化から生じる精神機能の変質に関連する障害である。これは、脳組織の萎縮、原発性変性性痴呆及びびまん性脳萎縮を含む。アルツハイマー病は、アルツハイマー型老人性痴呆(SDAT)とも称される。
パーキンソン病は、振戦並びに歩行、運動及び共調の困難を含む、脳の障害である。本疾患は、筋肉運動を制御する脳の一部に対する障害に関連しており、これは振戦麻痺(paralysis agitans又はshaking palsy)とも称される。
ハンチントン病は、遺伝性の常染色体優性の神経疾患である。
【0133】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳及び脊髄の神経細胞の破壊を含む、随意筋の神経制御の進行性の喪失を引き起こす障害である。筋萎縮性側索硬化症は、Lou Gehrig's病とも称され、筋肉の使用及び制御の喪失に関連する障害である。
【0134】
多発性硬化症(MS)は、再発-寛解又は進行の経過を辿る、中枢神経系(CNS)の炎症性脱髄疾患である。MSは、単なる脱髄疾患ではない。その末梢神経系(PNS)の対応物は、慢性炎症性脱髄性の多発性神経根ニューロパシー(CIDP)である。加えて、PNSにおいてギラン・バレー症候群(GBS)と称される炎症性脱髄多発性神経根ニューロパシー、及びCNSにおいて急性播種性脳脊髄炎(ADEM)のような、急性の単相の障害が存在する。
【0135】
更に神経学的障害は、先の「発明の背景」に列記したもののひとつのような、異常な髄鞘形成を伴うニューロパシーに加え、手根管症候群を含む。外傷性神経損傷は、脊柱の整形外科的合併症に随伴することができ、かつこれらは更に本発明の疾患の範囲内である。
【0136】
神経学的態様は、先天性代謝障害に起因するものであることがある。好ましい本発明の態様において、神経疾患は、先天性代謝欠損に起因している。
【0137】
本発明に包含される先天性代謝障害は、例えば、フェニルケトン尿症及び他のアミノ酸尿症、ティーサック病、ニーマン・ピック病及びゴーシェ病、ハーラー症候群;クラッベ病及び他の白質萎縮症である。これらは、主にCNSにおいて、ミエリン鞘発生に影響を及ぼすことができる。
【0138】
先天性代謝障害により引き起こされた神経疾患は、「発明の背景」において詳細に考察されている。
【0139】
神経線維腫症又は多系統萎縮症(MSA)のような、あまり知られていない神経疾患も、本発明の範囲内である。本発明により治療することができる更なる障害は、先の「発明の背景」において詳細に考察されている。
【0140】
更に好ましい態様において、神経疾患は、末梢ニューロパシーであり、最も好ましくは糖尿病性ニューロパシーである。ニューロパシーに関連した化学療法も、本発明に従い好ましい。
【0141】
本明細書において使用される用語「糖尿病性ニューロパシー」は、先の「発明の背景」において詳細に説明されているように、糖尿病性ニューロパシーのいずれかの形、又は糖尿病性ニューロパシーに随伴する又はこれによって引き起こされる1種又は複数の症状(複数)又は障害(複数)、又は神経に影響する糖尿病合併症に関する。糖尿病性ニューロパシーは、多発ニューロパシーである。糖尿病性多発ニューロパシーにおいて、多くの神経が同時に罹患される。糖尿病性ニューロパシーは、単ニューロパシーであることもできる。病巣性単ニューロパシーにおいて、例えば本疾患は、眼球運動又は外転脳神経のような、単独の神経を損なう。これは、2種又はそれよりも多い神経が個別の領域で損なわれる場合には、多発性単ニューロパシーであることもできる。
【0142】
更により好ましい態様において、神経学的障害は、脱髄疾患である。脱髄疾患は、好ましくは急性播種性脳脊髄炎(ADEM)及び多発性硬化症(MS)のような、CNSの脱髄状態に加え、末梢神経系(PNS)の脱髄疾患を含む。後者は、慢性炎症性脱髄性多発性神経根ニューロパシー(CIDP)、及び急性単相障害、例えばギラン・バレー症候群(GBS)と称される炎症性脱髄性多発性神経根ニューロパシーを含む。
【0143】
更に好ましい本発明の態様は、神経変性疾患の治療及び/又は予防に関係している。この神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及びALSからなる群より選択される。
【0144】
好ましくは、オステオポンチンは、下記からなる群より選択されるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質から選択される:
(a)配列番号:1を含んで成るポリペプチド;
(b)配列番号:1のアミノ酸1から168又は170を含んで成るポリペプチド;
(c)配列番号:1のアミノ酸1から16及び170から314を含んで成るポリペプチド;
(d)配列番号:1のアミノ酸170から314を含んで成るポリペプチド;
(e)配列番号:2のポリペプチド;
(f)配列番号:3のポリペプチド;
(g)アミノ酸配列が、(a)から(f)の配列の少なくともひとつと、少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する、(a)から(f)のムテイン;
(h)(a)から(f)のいずれかをコードしている天然のDNA配列の相補体に、中等度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされた、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(i)アミノ酸配列の何らかの変化が、(a)から(f)のアミノ酸配列に対する保存的アミノ酸置換である、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(j)(a)から(f)のいずれかの塩又はアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体。
【0145】
活性画分又は断片は、オステオポンチンアイソフォームのいずれかの部分又はドメイン、例えばN-末端部分もしくはC-末端部分、又は図2に示されたような、OPN-a、-b、又は-Cのいずれかを含むことができる。GRGDSモチーフは、存在、又は非存在、又は突然変異されることができる。オステオポンチンがヘパリン結合を欠くように、ヘパリン結合部位は突然変異されてもよい。完全長オステオポンチン、又はそれらの活性断片は、下記の位置のセリン残基のような、1個又は複数の下記のセリン残基においてリン酸化され得る:8、10、11、33、46、47、60、62、65、83、86、89、92、101、104、107、110、113、153、155、175、179、199、203、208、212、218、223、227、238、242、247、251、254、259、264、275、287、292、294、295。加えて、セリンリン酸化部位は、リン酸化を模倣するために、セリンからグルタミン酸残基へと突然変異することができる。
【0146】
当業者は、オステオポンチンの比較的小さい部分であっても、オステオポンチン機能に必要な本質的アミノ酸残基を含む活性ペプチドのように、その機能を発揮するのに十分であることを理解するであろう。
【0147】
当業者は、更にオステオポンチンのムテイン、塩、アイソフォーム、融合タンパク質、オステオポンチンの機能性誘導体、オステオポンチンの活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体は、同様の、もしくは更により良いオステオポンチンの生物学的活性を維持することを理解するであろう。オステオポンチン及びムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質又は機能性誘導体、活性画分又は断片、循環式に順番を入れ替えた誘導体、又はそれらの塩の生物学的活性は、下記実施例8に説明されたもののような、同時培養アッセイにおいて測定することができる。混合型皮質培養物(mixed cortical culture)は、希突起膠細胞に加え、他のCNS由来の細胞(例えば、ニューロン、星状細胞、小グリア細胞)を含み、かつOPN又はムテイン、アイソフォーム、断片、活性画分、機能性誘導体又は塩と共にインキュベーションした際に、PO、MBP又はMAGのような髄鞘形成に関連した代表的遺伝子を誘導又はアップレギュレーションする。これらの遺伝子の発現は、定量的リアルタイムRT-PCR(TaqMan(登録商標)RT-PCR)分析により測定することができ、これは下記実施例において詳細に説明されている。OPN活性を測定する更に簡単なアッセイは、例えば下記実施例7に説明されたような、oli-neu又はCG4細胞などの適当な希突起膠細胞の細胞株を、OPN又はムテイン、アイソフォーム、断片、活性画分、機能性誘導体又は塩と共にインキュベーションする工程を含む、希突起膠細胞増殖アッセイである。
【0148】
好ましい活性画分は、完全長オステオポンチンの活性と同等もしくはより良い活性、又は更により良い安定性又はより低い毒性もしくは免疫原性などであるか、もしくはこれらは、大量に生成することが容易であるか、もしくは精製がより容易であるかのような利点を有する活性を有する。当業者は、ムテイン、活性断片及び機能性誘導体は、適当なプラスミドにおいて対応するcDNAのクローニング、及びそれらの前述のような同時培養アッセイによる試験により作出することができることを理解するであろう。
【0149】
本発明のタンパク質は、グリコシル化されても、されなくとも良く、これらは体液のような天然の給源に由来することができ、もしくはこれらは好ましくは組換えにより作出することができる。組換え発現は、E.コリ(E. coli)のような原核生物、又は昆虫細胞のような真核生物の発現システムにおいて行うことができ、かつ好ましくはCHO細胞又はHEK細胞のような哺乳類発現システムである。
【0150】
本明細書において使用される用語「ムテイン」は、得られる産物の活性を野生型オステオポンチンと比べてかなり変更することなく、天然のオステオポンチンの1個又は複数のアミノ酸残基が、異なるアミノ酸残基で置換されているか、又は欠失されているか、又はオステオポンチンの天然の配列に1個又は複数のアミノ酸残基が付加されている、オステオポンチンのアナログを意味する。これらのムテインは、公知の合成により及び/又は位置指定突然変異誘発技術により、もしくはこれに適した他の公知の技術により調製される。
【0151】
本発明において使用することができるオステオポンチンのムテイン、又はそれらをコードしている核酸は、当業者は、本明細書に記された内容及び指針を基に、過度の実験を行うことなく、慣習的に得ることができる、置換ペプチド又はポリヌクレオチドのような、実質的に対応している配列の有限集合を含む。
【0152】
本発明のムテインは、中等度又は高度にストリンジェントな条件下で、本発明に従いOPNをコードしているDNA又はRNAにハイブリダイズするDNA又はRNAのような核酸によりコードされたタンパク質を含む。用語「ストリンジェントな条件」とは、当業者が通常「ストリンジェント」と称しているような、ハイブリダイゼーション条件及びその後の洗浄条件を意味する。Ausubelらの論文(Current Protocols in Molecular Biology、前掲、Interscience社、N.Y.、第6.3章及び6.4章(1987、1992))、並びにSambrookらの論文(Sambrook, J. C.、Fritsch, E. F.、及びManiatis, T.(1989)、Molecular Cloning: A Laboratory Manual.、Cold Spring Harbor Laboratory Press社、Cold Spring Harbor、NY)を参照のこと。
【0153】
限定するものではないが、ストリンジェント条件の例は、試験中のハイブリッドの培養されたTmよりも12〜20℃下回る洗浄条件、例えば、2xSSC及び0.5%SDSで5分間、2xSSC及び0.1%SDSで15分間;0.1xSSC及び0.5%SDSで、37℃、30〜60分間、その後0.1xSSC及び0.5%SDSで、68℃、30〜60分間を含む。当業者は、ストリンジェントな条件は、DNA配列の長さ、オリゴヌクレオチドプローブ(例えば10〜40塩基)又は混合オリゴヌクレオチドプローブによっても決まることを理解している。混合プローブが使用される場合、SSCの代わりに、テトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)が使用されることが好ましい。前掲のAusubelの論文を参照のこと。
【0154】
好ましい態様において、このようなムテインは、添付された配列表の配列番号:1、2又は3の配列と少なくとも40%同一性又は相同性を有する。より好ましくは、これは、それらに少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%の、又は最も好ましくは少なくとも90%の同一性又は相同性を有する。
【0155】
同一性は、配列の比較により決定された、2種又はそれよりも多いポリペプチド配列もしくは2種又はそれよりも多いポリヌクレオチド配列の間の関係を反映している。一般に、同一性は、比較される配列の長さにわたっての、2種のポリヌクレオチド配列又は2種のポリペプチド配列に各々対応する、正確なヌクレオチド対ヌクレオチド又はアミノ酸対アミノ酸について意味する。
【0156】
正確な対応が存在しない配列については、「%同一性」が決定される。一般に比較される2種の配列は、これらの配列間で最大相関を示すように並置される。これは、並置の程度を増大するために、一方又は両方の配列に「ギャップ」を挿入することを含むことができる。%同一性は、比較される各配列の全長にわたって決定することができ(いわゆるグローバルアラインメント)、これは特に同じ又は非常に類似した長さの配列に適しており、もしくはより短い定義された長さについて決定することもでき(いわゆるローカルアラインメント)、これは等しくない長さの配列により適している。
【0157】
2種又はそれよりも多い配列の同一性及び相同性を比較する方法は、当該技術分野において周知である。従って例えば、Wisconsin Sequence Analysis Package、v.9.1(Devereux Jら、1984)において利用可能なプログラム、例えばプログラムBESTFIT及びGAPを用い、ふたつのポリヌクレオチド間の%同一性並びにふたつのポリペプチド配列間の%同一性及び%相同性を決定することができる。BESTFITは、Smith及びWaterman(1981)の「ローカル相同性」アルゴリズムを使用し、かつふたつの配列間で最良の類似性を持つ単独領域を見いだす。配列間の同一性及び/又は類似性を決定する他のプログラムも、当該技術分野において公知であり、例えばプログラムのBLASTファミリー(Altschul S Fら、1990、Altschul S Fら、1997、これはNCBIのホームページを介してアクセス可能である、www.ncbi.ntm.nih.gov)及びFASTA(Pearson W R.、1990;Pearson、1988)がある。
【0158】
本発明のムテインに関する好ましい変化は、「保存的」置換として知られているものである。オステオポンチンポリペプチドの保存的アミノ酸置換は、群の一員の間の置換がその分子の生物学的機能を保存するような、十分に類似した物理化学特性を有する群内の同義アミノ酸を含むことができる(Grantham、1974)。先に定義された配列において、特に挿入又は欠失はわずかに数個のアミノ酸、例えば30個以下、及び好ましくは10個以下に関連し、かつシステイン残基のような、機能的コンホメーションに重要なアミノ酸を動かしも置換えもしないならば、それらの機能を変更することなく、アミノ酸の挿入及び欠失を行うことができることは明かである。このような欠失及び/又は挿入により作成されたタンパク質及びムテインは、本発明の範囲内である。
【0159】
好ましくは、同義アミノ酸群は、表Iに定義したものである。より好ましくは、同義アミノ酸群は、表IIに定義したものであり;並びに最も好ましくは、同義アミノ酸群は、表IIIに定義したものである。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】
【0163】
本発明において使用するためのオステオポンチン、ポリペプチド又はタンパク質のムテインを得るために使用することができるタンパク質におけるアミノ酸置換の作出の例は、例えばMarkらの米国特許第4,959,314号、第4,588,585号及び第4,737,462号;Kothsらの第5,116,943号;Namenらの第4,965,195号;Chongらの第4,879,111号;及び、Leeらの第5,017,691号に開示されたような、公知の方法の工程;並びに、米国特許第4,904,684号(Shawら)に開示されたようなリシン置換されたタンパク質を含む。
【0164】
用語「融合タンパク質」は、例えば体液中への延長された滞在時間を有するような他のタンパク質に融合した、オステオポンチン、又はそれらのムテインもしくは断片を含むポリペプチドを意味する。従ってオステオポンチンは、別のタンパク質、ポリペプチドなど、例えば、免疫グロブリン又はそれらの断片に融合することができる。
【0165】
本明細書において使用される「機能性誘導体」は、当該技術分野において公知の手段により、残基上に側鎖として生じる官能基又はN-もしくはC-末端基から調製され、かつこれらが医薬として許容でき続ける限り、すなわち、それらが実質的にオステオポンチンの活性に類似したタンパク質の活性を破壊せず、並びにそれを含有する組成物に毒性を付与しない限りは本発明に含まれるような、オステオポンチンの誘導体、並びにそれらのムテイン及び融合タンパク質を対象としている。
【0166】
これらの誘導体は、例えば、抗原性部位を遮蔽し、オステオポンチンの体液中の滞在を延長することができるようなポリエチレングリコール側鎖を含むことができる。その他の誘導体は、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニア又は一級もしくは二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分により形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN-アシル誘導体(例えば、アルカノイル又は炭素環式アロイル基)、又はアシル部分により形成された遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体(例えば、セリル又はトレオニル残基)を含む。
【0167】
オステオポンチン、ムテイン及び融合タンパク質の「活性画分」として、本発明は、該画分が実質的にオステオポンチンと同様の活性を有するならば、タンパク質分子単独のポリペプチド鎖のいずれかの断片もしくは前駆体、又は例えば糖又はリン酸残基のようなそれに連結された会合した分子もしくは残基、又はタンパク質分子又は糖残基自身の凝集物と一緒のものを対象としている。
【0168】
本明細書において用語「塩」は、OPN分子のカルボキシル基の塩及びアミノ基の酸付加塩の両方又はそれらのアナログを意味する。カルボキシル基の塩は、当該技術分野において公知の手段により形成することができ、かつ無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄又は亜鉛の塩など、並びに有機塩基との塩、例えばトリエタノールアミン、アルギニン又はリシン、ピペリジン、プロカインなどのアミンで形成されたものを含む。酸付加塩は、例えば塩酸又は硫酸などのような鉱酸との塩、及び例えば酢酸又はシュウ酸などのような有機酸との塩を含む。当然このような塩のいずれも、本発明に関してOPNの生物学的活性を維持、すなわち希突起膠細胞に対する増殖作用を発揮しなければならない。
【0169】
本発明の好ましい態様において、オステオポンチンは、血液-脳関門(「BBB」)通過を促進する担体分子、ペプチド又はタンパク質に融合される。このことは、該分子の、CNSが該疾患に関与しているような、それらの症例における作用部位への標的化に役立つ。BBBを通る薬物送達モダリティは、浸透圧的手段によるか又は生化学的にブラジキニンのような血管作用性の物質の使用のいずれかによる、BBB破壊を必然的に伴う。BBBを通過する別の戦略は、グルコース及びアミノ酸担体のような担体が媒介した輸送体;インスリン又はトランスフェリンのための受容体が媒介したトランスサイトーシス;及び、p-糖タンパク質のような能動流出輸送体を含む、内因性輸送システムの使用を必然的に伴い得る。更にBBBの裏側への薬物送達戦略は、大脳内移植を含む。
【0170】
オステオポンチンの機能性誘導体は、安定性、半減期、バイオアベイラビリティ、ヒト体による忍容性、又は免疫原性のようなタンパク質特性を改善するために、ポリマーと複合してもよい。この目的を達成するために、オステオポンチンは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)と連結することができる。PEG化は、例えば国際公開公報第92/13095号に開示されたような、公知の方法により行うことができる。
【0171】
従って好ましい本発明の態様において、オステオポンチンはPEG化されている。
【0172】
更に好ましい本発明の態様において、融合タンパク質は、免疫グロブリン(Ig)融合体を含む。この融合体は、直接、又は長さ1〜3個と短いアミノ酸残基又はそれよりも長い、例えば長さ13個のアミノ酸残基であることができる短いリンカーペプチドを介することができる。該リンカーは、例えばオステオポンチン配列と免疫グロブリン配列の間に導入された、例えば配列E-F-M(Glu-Phe-Met)の3ペプチド、又はGlu-Phe-Gly-Ala-Gly-Leu-Val-Leu-Gly-Gly-Gln-Phe-Metを含む13-アミノ酸リンカー配列であることができる。得られた融合タンパク質は、例えば延長された体液中滞在時間(半減期)、又は増大した特異的活性、増大した発現レベルのような、改善された特性を有する。Ig融合体は、この融合タンパク質の精製を促進することもできる。
【0173】
更に別の好ましい態様において、オステオポンチンは、Ig分子の定常領域に融合される。好ましくはこれは、例えばヒトIgG1のCH2及びCH3ドメインのような、重鎖領域に融合される。アイソフォームIgG2もしくはIgG4のような別のIg分子アイソフォーム、又は例えばIgMのような他のIgクラスも、本発明の融合タンパク質の作成に適している。融合タンパク質は、単量体又は多量体、ヘテロ-又はホモ-多量体であることができる。融合タンパク質の免疫グロブリン部分は、更に、補体結合又は補体カスケードを活性化せず、もしくはFc-受容体に結合しないように修飾してもよい。
【0174】
本発明は更に、神経学的障害の治療及び/又は予防のための医薬品製造に関する、同時、逐次又は個別使用のための、オステオポンチン免疫抑制剤の併用に関する。免疫抑制剤は、ステロイド、メトトレキセート、シクロホスファミド、抗-白血球抗体(例えばCAMPATH-1)などであることができる。
【0175】
本発明は更に、神経学的障害の治療及び/又は予防のための医薬品製造に関する、同時、逐次又は個別使用のための、オステオポンチン及びインターフェロンの併用に関する。
【0176】
本明細書において使用される用語「インターフェロン」は、例えば前項「発明の背景」で言及したIFNのいずれかの種類を含む、文献などに定義されたあらゆる分子を含むことが意図されている。このインターフェロンは、好ましくはヒトであるが、生物学的活性がヒトインターフェロンに類似し、かつその分子がヒトにおいて免疫原性でない限りは、他の種に由来することができる。
【0177】
特に、IFN-α、IFN-β及びIFN-γが、前記定義に含まれる。IFN-βは、本発明にとって好ましいIFNである。
【0178】
本明細書において使用される用語「インターフェロン-β(IFN-β)」は、生物学的液体から単離することにより得られるような、又は原核もしくは真核宿主細胞からDNA組換え技術により得られるような、ヒト線維芽細胞インターフェロン、更にはそれらの塩、機能性誘導体、変異体、アナログ及び断片を含むことが意図されている。
【0179】
本明細書において使用される「機能性誘導体」は、当該技術分野において公知の手段により、残基上に側鎖として生じる官能基又はN-もしくはC-末端基から調製され、かつ本発明においてこれらが医薬として許容でき続ける限り、すなわち、それらが前述のタンパク質生物学的活性、例えば対応する受容体に結合する能力及び受容体シグナル伝達を開始する能力などを破壊せず、かつそれを含有する組成物に毒性を付与しない限りは含まれるような、誘導体を対象としている。誘導体は、誘導体がタンパク質の生物学的活性を維持しかつ医薬として許容でき続けるならば、糖残基又はリン酸残基のような化学的部分を有することができる。
【0180】
例えば、誘導体は、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニア又は一級もしくは二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分により形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN-アシル誘導体(例えば、アルカノイル又は炭素環式アロイル基)、又はアシル部分により形成された遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体(例えば、セリル又はトレオニル残基)を含む。このような誘導体は、抗原性部位を遮蔽しかつ該分子の体液中の滞在を延長することができる、例えばポリエチレングリコール側鎖を含むこともできる。
【0181】
長期持続するように誘導された又は錯化剤と組合わされたタンパク質が、特に重要である。例えば前述のような、PEG化されたもの、又は体内において長期持続性活性を発揮するように遺伝子操作されたタンパク質を、本発明において使用することができる。
用語「誘導体」は、ひとつのアミノ酸を、20種の通常生じる天然のアミノ酸の別のものと交換しないそれらの誘導体のみを含むことが意図されている。
【0182】
本明細書において用語「塩」は、先に説明されたタンパク質のカルボキシル基の塩及びアミノ基の酸付加塩の両方又はそれらのアナログを意味する。カルボキシル基の塩は、当該技術分野において公知の手段により形成することができ、かつ無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄又は亜鉛の塩など、並びに有機塩基との塩、例えばトリエタノールアミン、アルギニン又はリシン、ピペリジン、プロカインなどのアミンで形成されたものを含む。酸付加塩は、例えば塩酸又は硫酸などのような鉱酸との塩、及び例えば酢酸又はシュウ酸などのような有機酸との塩を含む。当然このような塩のいずれも、本発明に関連したタンパク質(各々、オステオポンチン及びIFN-β)の生物学的活性を維持、すなわち対応する受容体に結合する能力及び受容体のシグナル伝達を開始する能力を維持しなければならない。
【0183】
インターフェロンは、該タンパク質の安定性を改善するために、ポリマーと複合することができる。インターフェロンβ及びポリオールポリエチレングリコール(PEG)の間の複合は、例えば国際公開公報第99/55377号に開示されている。
【0184】
別の本発明の好ましい態様において、インターフェロンは、インターフェロン-β(IFN-β)であり、より好ましくはIFN-β1aである。
【0185】
オステオポンチンは、好ましくは、インターフェロンと同時、逐次又は個別に使用される。
【0186】
本発明の好ましい態様において、オステオポンチンは、約0.0001〜100mg/kg体重、又は約0.01〜10mg/kg体重、又は約1〜5mg/kg体重、又は約2mg/kg体重の量で使用される。
【0187】
更に本発明は、神経疾患の治療及び/又は予防のための医薬品製造のための核酸分子の使用に関連し、ここでこの核酸分子は、下記からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードしている核酸配列を含む:
(a)配列番号:1を含んで成るポリペプチド;
(b)配列番号:1のアミノ酸1から168又は170を含んで成るポリペプチド;
(c)配列番号:1のアミノ酸1から16及び170から314を含んで成るポリペプチド;
(d)配列番号:1のアミノ酸170から314を含んで成るポリペプチド;
(e)配列番号:2を含んで成るポリペプチド;
(f)配列番号:3を含んで成るポリペプチド;
(g)アミノ酸配列が、(a)から(f)の配列の少なくともひとつと、少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(h)(a)から(f)のいずれかをコードしている天然のDNA配列の相補体に、中等度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされた、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(i)アミノ酸配列の何らかの変化が、(a)から(f)のアミノ酸配列に対する保存的アミノ酸置換である、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(j)(a)から(f)のいずれかのアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体。
【0188】
この核酸は、例えば、裸の核酸分子として、例えば筋肉内注射により投与することができる。
【0189】
更にこれは、ヒト体内、好ましくは適当な細胞又は組織における該核酸分子によりコードされた遺伝子の発現に有用である、ウイルス配列のような、ベクター配列を含んでもよい。
【0190】
従って好ましい態様において、核酸分子は更に、発現ベクター配列を含む。発現ベクター配列は、当該技術分野において周知であり、これらは更に関心のある遺伝子発現に役立つ要素を含む。これらは、例えばプロモーター及びエンハンサー配列のような調節配列、選択マーカー配列、複製起点なども含むことができる。従って遺伝子治療的方法が、本疾患の治療及び/又は予防に使用される。都合の良いことに、オステオポンチンの発現はin situであろう。
【0191】
好ましい態様において、発現ベクターは、レンチウイルス由来のベクターである。レンチウイルスベクターは、特にCNS内で、遺伝子導入に非常に効率的であることが示されている。その他の良く確立されたウイルスベクター、例えばアデノウイルス由来のベクターも、本発明で使用することができる。
【0192】
標的化されたベクターは、オステオポンチンが血液-脳関門を通過することを増強するために使用することができる。このようなベクターは、例えばトランスフェリン受容体又は他の内皮輸送機序を標的とすることができる。
【0193】
本発明の好ましい態様において、発現ベクターは、筋肉内注射により投与することができる。
【0194】
オステオポンチンの発現に対して通常サイレントである細胞、又は十分でない量のオステオポンチンを発現する細胞におけるオステオポンチンの内因性産生を誘導及び/又は増強するためのベクターの使用も、本発明により企図される。このベクターは、オステオポンチンを発現することが望ましい細胞において機能的な調節配列を含んでもよい。このような調節配列は、例えばプロモーター又はエンハンサーであることができる。次に調節配列は、相同的組換えにより、ゲノムの適当な遺伝子座に導入され、その結果調節配列は、その発現が誘導又は増強されることが必要とされている遺伝子と機能的に連結することができる。この技術は通常、「内因性遺伝子活性化」(EGA)と称され、例えば国際公開公報第91/09955号に開示されている。
【0195】
本発明は更に、神経疾患の治療及び/又は予防のための医薬品製造における、オステオポンチンを産生するように遺伝子操作された細胞の使用に関する。
【0196】
本発明は更に、神経疾患の治療及び/又は予防のための医薬品製造における、オステオポンチンを産生するように遺伝子操作された細胞に関する。従って細胞治療的方法は、ヒトの体の適当な部位に薬物を送達するために使用することができる。
【0197】
本発明は更に、治療有効量のオステオポンチン及び治療有効量のインターフェロン、更に任意に治療有効量の免疫抑制剤を含有する、特に神経疾患の予防及び/又は治療に有用な、医薬組成物に関する。
【0198】
「医薬として許容できる」の定義は、活性成分の生物学的活性の有効性を妨害せず、かつそれが投与される宿主に対し毒性がないようないずれかの担体を包含することを意味する。例えば非経口投与について、活性タンパク質(複数)は、生理食塩水、デキストロース液、血清アルブミン及びリンゲル液などの媒体中に、注射用の単位剤形中で処方することができる。
【0199】
本発明の医薬組成物の活性成分は、様々な方法で個体に投与することができる。投与経路は、皮内、経皮(例えば、徐放性処方)、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、外用、髄腔内、直腸内及び鼻腔内経路を含む。例えば上皮もしくは内皮組織を通した吸収、又はin vivoにおいて発現されかつ分泌される活性物質を生じる活性物質をコードしているDNA分子を患者へ投与する(例えば、ベクターにより)遺伝子療法のような、いずれか他の治療的に有効な投与経路を使用することができる。加えて本発明のタンパク質(複数)は、医薬として許容できる界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤及び媒体などの生物学的活性物質の他の成分と共に投与することができる。
【0200】
非経口(例えば、静脈内、皮下、筋肉内)投与について、活性タンパク質(複数)は、医薬として許容できる非経口媒体(例えば、水、生理食塩水、デキストロース液)及び等張性(例えばマンニトール)又は化学的安定性(例えば保存剤及び緩衝剤)を維持する添加剤と会合して、液剤、懸濁剤、乳剤又は凍結乾燥された散剤として処方することができる。この処方は、常用の技術により滅菌される。
【0201】
本発明の活性タンパク質(複数)のバイオアベイラビリティは、PCT特許出願国際公開公報第92/13095号に開示されたような、例えば該分子のポリエチレングリコールとの連結のような、ヒト体内での該分子の半減期を延長する複合手法を用い、改善することもできる。
【0202】
この活性タンパク質(複数)の治療的有効量は、タンパク質の種類、タンパク質の親和性、アンタゴニストにより発揮された残留細胞傷害活性、投与経路、患者の臨床状態(内因性オステオポンチン活性の無毒レベルを維持することの望ましさを含む)を含む、多くの変数の関数であろう。
「治療的有効量」は、投与される場合に、オステオポンチンが、神経疾患に対し有益な作用を発揮するようなものである。個体へ単回又は反復用量として投与される用量は、オステオポンチンの薬物動態特性、投与経路、患者の状態及び特徴(性別、年齢、体重、健康状態、大きさ)、症状の程度、併用療法、治療頻度及び望ましい作用を含む、様々な要因に応じて変動するであろう。
【0203】
前述のように、オステオポンチンは、好ましくは、約 0.0001〜10mg/kg又は約0.01〜5mg/kg体重、又は約0.01〜5mg/kg体重又は約0.1〜3mg/kg体重又は約1〜2mg/kg体重の量で使用される。更に好ましいオステオポンチン量は、約0.1〜1000μg/kg体重又は約1〜100μg/kg体重又は約10〜50μg/kg体重の量である。
本発明に従い好ましい投与経路は、皮下経路による投与である。筋肉内投与は、更に本発明にとって好ましい。
【0204】
更に好ましい態様において、オステオポンチンは、毎日又は1日おきに投与される。
毎日の用量は、通常望ましい結果を得るのに有効な分割量又は徐放型で与えられる。2回目又は引き続きの投与は、個体に投与された初回又は前回用量と同じ、より少ない又はより多い用量で行うことができる。2回目又は引き続きの投与は、疾患の途中又は発症前に投与することができる。
【0205】
本発明に従い、オステオポンチンは、治療有効量の他の治療的投薬計画又は物質(例えば多剤投薬計画)、特にインターフェロンと共に、その前、同時又は引き続き、個体へ予防的又は治療的に投与することができる。他の治療的物質と共に投与される活性物質は、同じ又は異なる組成物中で投与することができる。
【0206】
本発明は更に、有効量のオステオポンチン、又はオステオポンチン活性のアゴニストを、それが必要な患者に、任意に医薬として許容できる担体と共に投与することを含む、神経疾患の治療法に関する。
【0207】
インターフェロン及び、有効量のオステオポンチン、又はオステオポンチン活性のアゴニストを、それが必要な患者に、任意に医薬として許容できる担体と共に投与することを含む、神経疾患治療法も、本発明の範囲内である。
【0208】
雑誌記事又は要約、公開又は未公開の米国又は米国以外の国の特許出願、発行された米国又は米国以外の国の特許、又はいずれか他の参考文献を含む本明細書に引用された全ての参考文献は、引用された参考文献に示された全てのデータ、表、図及び本文を含むその全体が本明細書に参照として組入れられている。加えて、本明細書に引用された参考文献に引用された参考文献の全ての内容も、全体が本明細書に参照として組入れられている。
公知の方法の工程、従来の方法の工程、公知の方法又は従来の方法に関する参考文献は、本発明の局面、説明又は態様は、関連する技術分野において明らかにされ、示されるか又は示唆されていることをいかなる方法においても承認するものではない。
【0209】
先の具体的態様の説明は、当業者の知識(本明細書に引用された参考文献の内容を含む)を適用することにより、その他のものを、過度の実験を行うことなく、本発明の全般的概念から逸脱することなく、そのような具体的態様の様々な適用のために容易に修飾及び/又は適合することができるような、本発明の一般的性質を完全に明らかにするであろう。従って、このような適合及び修飾は、本明細書に示された内容及び指針を基に、開示された態様と同等の範囲の意味内であることが意図されている。本明細書の専門語又は技術用語は、説明を目的とし限定ではないことも理解されるべきであり、その結果本明細書の技術用語又は専門語は、当業者により本明細書に記された内容及び指針を鑑み当業者の知識と組合せて解釈されるべきである。
【0210】
本発明を説明するに当り、例証のために提示されかつ本発明の限定を意図しないような下記実施例を参照することにより、より容易に理解されるであろう。
【実施例】
【0211】
実施例1:脱髄疾患のin vivo及びin vitroモデルにおいてオステオポンチンはディファレンシャルに発現する
方法
In vitroモデルシステム
Oli-neu細胞株は、t-neu癌遺伝子、構成的活性チロシンキナーゼをコードしている複製-欠損レトロウイルスによる、希突起グリア細胞前駆体の不死化により確立されており;この細胞株は、培養培地において1mMジブチリル-cAMPの存在下で分化が誘導されることが示された(Jungら、1995)。これは、単離された細胞型としての希突起膠細胞の研究の可能性を提供した。
【0212】
A2B5マウス希突起膠細胞前駆体由来の、未処理の条件下及び1〜5mMジブチリルcAMPによる6日間の予備-分化処理後の、マウス希突起膠細胞の細胞株Oli-neuの細胞の形態及び抗原特性は、実質的に異なっている。未処理のOli-neu細胞は、円形であり、かつ希突起膠細胞前駆細胞のようにほとんど二極性であるのに対し、cAMP処理した細胞は、複数の突起を生じ、平坦な表現型を有し、かつ平坦で延長された「鞘-様」構造さえも生じた。
【0213】
加えて、混合皮質培養物を用いるin vitro髄鞘形成アッセイを用い、機能性ミエリンをin vitroにおいて可視化することができる。このシステムは、他のCNS細胞型の存在下でどのように希突起膠細胞が軸索に接触しかつ髄鞘形成するかを試験する可能性を提供する(Lubetzkiら、1993)。このシステムにおいて、希突起膠細胞前駆体の増殖に影響を及ぼすか又は実際のミエリンセグメントの形成に影響を及ぼすように、希突起膠細胞の分化及び生存に作用することができる生物学的要因を、試験することができる。In vitroにおける髄鞘形成の過程を試験する必要性は、脳細胞培養物の凝集(Matthieuら、1992)、脳切片培養(Notterpekら、1993)、及び同時培養システム(Shawら、1996;Barresら、1993)を含む、様々なアッセイ型の開発につながる。これらのモデルは、他の細胞型と複合して希突起膠細胞の挙動を試験し、かついかにしてこれらの細胞がミエリンを産生するように刺激されたかを試験することを可能にする利点がある。脱髄を、特異的発作によりこのようなシステムにおいて引き起こすこともでき、かつ髄鞘再形成の反応過程も研究することができる。
【0214】
In vivoモデルシステム
多発性硬化症のin vivo及びin vitroモデルの広範な実験が存在する。In vivoモデルのほとんどは、MS、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の古典的動物モデルに関連している。このモデルには多くの変種が存在し、これは、マウス、ラット及び霊長類システムを含む、広範な哺乳類生物において使用するために適合されている(Petryらにより検証、2000)。加えて、MSの脳炎誘発性Theilerマウスウイルスモデルのような、動物モデルにおけるMSの提唱されたウイルス成分を「模倣する」ための方法が作成されている(Dal Cantoら、1995)。
【0215】
CNS又はPNSにおける髄鞘形成を専ら研究するための動物モデルは余り一般的には使用されていない。「反復説」(Franklin及びHinks、1999)に従い、希突起膠細胞又はシュワン細胞の分化、移動、及び増殖の基礎となる機序に関する洞察を得るためには、発育的髄鞘形成の過程を観察することが有用であることが証明されている。しかし、CNS又はPNSが依然形成されつつある間に生じる発育的髄鞘形成と、成体パラダイムにおいて生じる髄鞘再形成を比較するために、髄鞘再形成の過程を具体的に説明するモデルを作成することが必要である。
【0216】
キュプリゾンモデル
最も周知でありかつ広範に使用されている髄鞘再形成モデルのひとつは、マウスにおける髄鞘再形成のためのキュプリゾンモデルである。これは、希突起膠細胞に対し選択的に毒性があることが示されている銅キレート剤である有機化合物キュプリゾンの経口投与に関連している(Morellら、1998)。
脱髄及び髄鞘再形成は、キュプリゾン処理したマウスの脳梁において生じる。これらの病態は、抗-CNPase抗体又はMBP抗体による染色により可視化することができる。ミエリンは、ルクソールファストブルー-過ヨウ素酸シッフ(LFB-PAS)により染色される。髄鞘再形成している希突起膠細胞前駆体は、PDGFα受容体又はNG2に対する抗体を使用し、可視化することができる。
【0217】
マウスへの、3〜5週間にわたるキュプリゾン投与は、脳梁の広範囲の脱髄を生じる。脱髄と同時に起こる、ミエリン-特異的遺伝子転写産物の合成は、キュプリゾン投与の3週間後までアップレギュレーションされる(Morellら、1998)。
その後のキュプリゾン投与計画の中止は、回復を誘導する環境を生じ、その結果キュプリゾン摂餌中止後6週間で、このマウスは脳梁に広範囲の髄鞘再形成を示す。従って、キュプリゾンモデルは、脱髄及び髄鞘再形成の局面を研究するための完全なin vivoパラダイムを提供する。その利点は、CNS組織へのT-細胞浸潤が存在しないこと、髄鞘形成過程のより専門的研究が可能であること、更には結果の再現性があることを含む(Hiremathら、1998)。
【0218】
キュプリゾン処理に関して、CS7BL/6雌マウス(8週齢、20±3g)を本試験において使用し、これらは6群に分け、各群は6匹の動物を含んでいた:
第1群:通常の粉末固形餌を摂取させた対照群;
第2群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を3週間摂取(Cup3w);
第3群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を5週間摂取(Cup5w);
第4群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を5週間摂取後、通常の粉末餌で1週間の回復期間(1wR);
第5群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を5週間摂取後、通常の粉末餌で3週間の回復期間(3wR);
第6群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を5週間摂取後、通常の粉末餌で6週間の回復期間(6wR)。
【0219】
各処理の終了時に、定時で、脳を、各群の動物から収集した。マウスを最初に麻酔し、左心室を介して灌流した。脳を収集し、かつ連続冠状切片を、脳梁-尾状皮殻(線条体)及び海馬のレベルで作成した。脳組織切片は、免疫組織化学及びin situハイブリダイゼーションのために、パラフィンに包埋した。
【0220】
組織学的組織調製
ホルマリンを、ホルムアルデヒド1容量(Fluka社、36% p.a.)、及び滅菌PBSの1容量を滅菌水8容量で希釈することにより調製した。蠕動ポンプに装填し、及び20G、1-1/5針を装着したシリコンチューブを、PBS 10mlで満たした。次にこのチューブを、気泡形成を防ぐように注意しながら、ホルマリン40mlを連続充填した。
【0221】
動物を、濃度3mg/100mlに滅菌PBSで1:1希釈した、ペントバルビタールナトリウム(Sanofi(登録商標))で麻酔し、その後、臓器及び組織のその後の組織学的分析を可能にするように固定しながら、心臓灌流した。各マウスは、0.05ml(0.75mg/kg)の腹腔内注射を受け取った。一旦動物が眠気を催すと、それらの四肢をStyrofoam板上に皮膚を通してピン(25G 5/8針)で固定した。各動物の腹部を、エタノールで清拭し、かつ外面(externo)レベルで滅菌鋏で皮膚を切開した。その後腹部を更に、左右に切開した。この外面を鉗子対で持ち上げ、横隔膜を対角線切開により開放し、かつ裂け目(rip)に対し垂直の両側切開を行い、拍動する心臓が中央に位置する胸郭を露出した。心臓を、鉗子で持ち、右心房を即座に切断し、静脈から出血させた。各マウス症例において、PBS 10ml、その後ホルマリン40mlを循環させた。各動物の脳及び脊髄を慎重に剥離し、50ml Falcon(登録商標)チューブに入ったホルマリン溶液10ml中に2時間放置した。その後ホルマリン溶液を、10mlの滅菌PBSと交換し、材料を+4℃で一晩放置した。その後PBS溶液を再度交換し、材料を+4℃で数時間放置した。脳半球及び脊髄を、ほぼ0.5cm切片に切断し、封入装置(inclusion machine)に互換性のあるプラスチック製のバスケット中に配置した。パラフィン中の脳及び脊髄の包埋は、以下に説明したプログラムに従い、自動Tissue Tek Vacuum Infiltration Processor E150/E300 (Miles社、Diagnostics)を用いて行った:
50%エタノール中30分
70%エタノール中60分
70%エタノール中60分
80%エタノール中60分
80%エタノール中90分
96%エタノール中30分
96%エタノール中90分
96%エタノール中120分
100%キシレン中30分
100%キシレン中60分
パラフィン(Histosec、Merck 11609)中60分間のインキュベーションを4回;最終工程で包埋。
【0222】
全ての溶液は、65℃のパラフィンで40℃に維持した。一旦組織切片が準備できると、脳及び脊髄切片を、パラフィンブロックに封入するために、望ましい方向でプラスチックチャンバーに配置した。パラフィン液を注ぎ、冷却プレート上で迅速に0℃に冷却した。パラフィンブロックをミクロトームで、切片(5〜10μm)になるよう処理した。その後切片を、シラン処理したガラススライド(SuperFrost-Plus(商標)、Menzel社カタログ番号041300)上に搭載した。搭載後、スライドを粉塵の存在しない環境で貯蔵した。
【0223】
細胞培養
Oli-neu:マウスの希突起膠細胞の細胞株(Oii-neu)細胞を、遠心により濃縮し、かつSato培地中に再浮遊した(Trotterら、1989)。細胞を、75mLフラスコ中で37℃及び5%CO2の管理条件下で培養した。細胞培養培地に直接添加した1mM dbcAMPにより、分化を行なわせた。Trizol法を用いてRNAを抽出した(下記参照)。
【0224】
RNA単離
総RNAを、Tri-ZOL(登録商標)抽出プロトコール(Life Technologies AG社、Basel、スイス)を用い、Oli-neu細胞、キュプリゾン-処理したマウス脳切片及び異なる発育段階の出生後マウスの全脳から単離した。ポリ(A)+ RNAを、Qiagen OLIGOTEX(商標)カラム(QIAGEN社、28159 Stanford Avenue, Valencia, CA 91355、米国)を用い、総RNA試料から調製した。
【0225】
cDNAマイクロアレイを用いるDGE分析
マイクロアレイ実験は、Incyte Genomics (Incyte Genomics社、3160 Porter Drive, Palo Alto, CA 94304, 米国)において行った。DGE分析は、Incyte社のMouse GEM(商標)1遺伝子発現マイクロアレイを用いて行った(http:/www.incyte.com/reagents/gem/products.shtml)。
【0226】
これらのアッセイにおいて使用したIncyteチップは、既知及び未知(EST配列)の両方の8734個の遺伝子に対応するcDNA分子を負荷した。Incyteの技術は、これらの遺伝子の各々のマイクロ量の試料を、単独のアレイ上にスポットすることを可能にしていた。既知の遺伝子又はESTに対応する各cDNA分子は、長さ500〜5000bpであった。このIncyte特異性は、試料中の個々のmRNAについて2〜2,000pgという劇的な検出範囲をもたらした。各アレイ実験に必要とされるRNAの量は、600ngのポリ(A)+ RNAである。検出可能な、ディファレンシャルな発現の表示レベルは、1.75よりも大きい比として与えられた。
【0227】
シグナル標準化及び発現レベルの決定
2種の蛍光強度からコンピュータ処理した比は、分析した2個の細胞試料中の相対遺伝子発現レベルの定量的測定値を提供した。各遺伝子に割当てられた比は、標準化された発現レベルを基にコンピュータ処理した。標準化因子は、第二の試料の総発現(P2)を、第一の試料の総発現(P1)で除算することにより、コンピュータ処理した。次にこの因子を、P2の各遺伝子の発現レベルに当てはめた。一旦この標準化工程が適用されたならば、これらの遺伝子比は、下記規則に従いコンピュータ処理した:
【0228】
E1は、試料1中の所定の遺伝子の発現レベルとし、かつE2は、試料2中の同じ遺伝子の標準化した発現レベルとする;E2>E1である場合は、比=E2/E1とし、そうでない場合は、比=-E1/E2とする。
【0229】
試料のハイブリダイゼーションは、同時に競合的に行ったので、Incyteチップ技術は、相対発現の変化の決定がより正確であり、及び絶対発現レベルの測定値に関する信頼性は低下し始めた。それでもなお、チップ上で実際には物理的に比較されなかった試料RNA集団の対を比較するために、これらの発現レベル値を使用することが可能であった。このようなin silico比較は、信頼性は低いが、これらは、アッセイされるシステムに当てはめることができる機序に関する追加情報を提供することができる。
【0230】
結果
ディファレンシャルなオステオポンチン発現の分析に使用したモデル
表IVは、前述の、mRNAの抽出、及びチップハイブリダイゼーション(DGE分析)に使用したモデルを示す。
【0231】
【表4】
【0232】
DGEの陽性対照:ミエリン-特異的遺伝子の調節。
陽性対照として、最初に、ミエリン-特異的遺伝子のディファレンシャルな調節をDGEを用いて示すことができるかどうかを試験した。
【0233】
表Vは、Incyteマイクロアレイ上に存在するミエリン-特異的遺伝子の観察された調節を示している。各遺伝子に関するディファレンシャルな発現値は、キュプリゾン処理の3-週及び5-週の両時点で報告した。このデータは、チップの信頼性を証明するための陽性対照であった。本発明者らの実験条件下でミエリン構造遺伝子の調節は良く特徴付けられているので、チップ上で測定されたこれらの遺伝子について観察された発現を用い、a)この技術の精度、及びb)本発明者らのモデルの再現性を示すことができた。
【0234】
【表5】
【0235】
前記表は、脱髄、髄鞘再形成及び発育的髄鞘形成の試験に使用された様々なin vivoモデルからのRNAについて行われたマイクロアレイアッセイにおいて、いかにしていくつかのミエリン-特異的遺伝子が調節されたかを示している。これらのミエリン-特異的遺伝子の発現の変化は、いかにして髄鞘形成の過程が、マイクロアレイを用い転写調節のレベルで試験されたかを示している。
【0236】
キュプリゾン投与の3週間後、この処理の脱髄作用を、マウス脳の特定領域において可視化することができた。従って3週間目に、ミエリン合成及び/又はミエリン維持に関連した様々な遺伝子のダウンモジュレーションが観察されると予想された。マイクロアレイにより観察されたミエリン特異的遺伝子のダウンモジュレーションは、この実験系の精度及び信頼性の確認に利用した。表Vに示したデータは、13.6-倍ダウンレギュレーションされたMBPのmRNAレベル及び2.9-倍ダウンレギュレーションされた環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ1(CNPase)は、キュプリゾン処理の3週目に対照と比較して減少したことを示した。しかし、これらの両遺伝子のRNAレベルは、キュプリゾン処理の5週目には、各々、1.3-及び1.1-倍に回復し、このことはこの生物学的システムが構造的ミエリンタンパク質の追加的合成により髄鞘再形成の確立を試みることを示している。
【0237】
オステオポンチンのディファレンシャルな調節:
チップ上において、オステオポンチンは、3w (+2.2)及び5w (+2.8)キュプリゾンでアップレギュレーションされた。
【0238】
実施例2:リアルタイム定量逆転写酵素(RT)-PCRアッセイ(TaqMan(登録商標))によるオステオポンチンのディファレンシャルな遺伝子発現の確認
方法
cDNA鋳型作成
TaqMan(登録商標)分析のためのcDNA鋳型は、総RNA試料から、TaqMan(登録商標)逆転写試薬(P/N N808-0234)を使用する逆-転写(RT)により作成した。全てのRT反応は、以下を含有する100-μl容量で行った:RNase-非含有H2O中に、TaqMan RT緩衝液10μl、25mM MgCl2溶液(5.5mM)22μl、デオキシNTP混合物(500μMの各dNTP)20μl、ランダムヘキサマー(2.5μM)5μl、RNaseインヒビター(0.4U/μl)2μl、MultiScribe転写酵素(1.25U/μl)2.5μl、及びRNA試料(合計1μg)38.5μl。反応は、Eppendorf MasterCycler中で、25℃で10分間(インキュベーション工程)、48℃で30分間(逆転写)、及び95℃で5分間(失活工程)行った。全ての合成されたcDNAは、20μl容量において-20℃で貯蔵した。
【0239】
プライマーデザイン及び検証
全ての確認された遺伝子及びGAPDH(ハウスキーピング対照)のためのSYBR GreenリアルタイムPCR用フォワード及びリバースプライマーは、公開された配列に従い、PE BiosystemのPrimer Express(商標)ソフトウェアを用いてデザインし、かつInteractivaから0.02μM濃度で並べた(Interactiva:The Virtual Laboratory、Sedanstrasse 10, D-89077 Ulm)。この特異性及び最適なプライマー濃度は、各プライマーセットについて試験した。可能性のあるゲノムDNA夾雑は、RT酵素非存在下で逆転写反応が施された陰性対照cDNA試料についてPCR反応を行うことによりモニタリングした。非-特異的増幅が存在しない場合は、3.5%MetaPhorゲル又はプレキャストNuSieve(登録商標)4%ゲル上の、アガロースゲル電気泳動により、PCR産物を分析することにより確認した。
【0240】
下記表は、マイクロアレイ上でディファレンシャルに調節されることが示された遺伝子のディファレンシャルな発現を検証するために、TaqMan(登録商標)分析を行うようにデザインされた遺伝子-特異的プライマーの配列を示している。各プライマー対に相当する遺伝子の名称及びPrimerExpress(商標)ソフトウェアによる各プライマーのデザインに使用した配列のGenBank寄託番号も含んでいる。
【0241】
【表6】
【0242】
TaqMan反応
SYBR GreenリアルタイムPCRは、5μl/ウェルのRT-産物(0.5ng総RNA)、25μl/ウェルのSYBR Green PCRマスターミックス(Applied Biosystems社、CA、米国)で、AmpEraseウラシルN-グリコシラーゼ(UNG)(0.5U/ウェル)及び20μlのプライマー(300nM)で行った。PCRは、50℃で2分間(先のTaqMan試行で作成されたPCR産物へ組込まれたウラシルを除去することにより、可能性のあるキャリーオーバーを除去するために、AmpErase UNGインキュベーション)、95℃で10分間(AmpliTaq Gold活性化)で行った。次に試料を、95℃で15秒、60℃で1分間、ABI PRISM(登録商標)7700配列決定システム上で40サイクル試行した。その結果逆転写されたcDNA試料が増幅され、かつそれらのCT(閾値サイクル)値を決定した。全てのCT値を、ハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して標準化した。可能である場合は、試料を2つ組又は3つ組で試行し、結果の再現性を判断した。全ての確認された遺伝子及びGAPDHについての単独の特異的DNAバンドが、電気泳動分析により観察された。
【0243】
サイクル閾値(CT)による遺伝子調節の計算
SYBR Green PCRマスターミックスを使用するリアルタイム検出の原理は、SYBR Green色素が二本鎖DNAに結合することにより発生した蛍光の増強を測定することによる、PCR産物の直接的検出を基礎としている。これは、PCR増殖曲線を基にした遺伝子-特異的増幅産物の相対的に増加した定量をもたらす。
【0244】
対照試料に対する特異的cDNA種の測定は、生理的参照として利用する検量線試料に対する特異的遺伝子に相当するmRNAから転換されたcDNAの定量により行った。この検量線は、対照又は未処理条件の試料により得た。cDNA種の相対定量は、最初の濃度の変動性及び鋳型cDNAを作成するために使用した総RNAの品質並びに逆転写反応の転換効率を説明するために、内在性対照(この場合GAPDH)に対する標準化により完了した。相対定量値の計算は、各試料について複製反応試行について平均CT値を得、標的試料と内在性対照の間の平均CTの差(ΔCT)を算出し、標的についての検量線の平均CTをその標的のΔCTから減算し(ΔΔCT)、かつ最後に標的についての相対定量値を2-ΔΔCTとして表わして行い、遺伝子発現におけるアップレギュレーション及びダウンレギュレーションの程度を判定した。
【0245】
TaqMan(登録商標)反応における蛍光シグナルの標準化
SYBR Green-dsDNA複合体蛍光シグナルは、鋳型DNAを含まない受動的参照又は陰性対照反応に対して標準化する。標準化は、受動的参照の放出強度による、実験的反応におけるSYBR Green-dsDNA複合体の放出強度の除算により行った。これは、この反応に対するRn(標準化したレポーター)比を生じる:
・Rn+=鋳型DNAを含む全ての成分を含む反応のRn値
・Rn-=未反応の試料(鋳型DNAなし)のRn値
・ΔRn=(Rn+)-(Rn-)
ここで、Rn+=(SYBR Green-dsDNA複合体の放出強度)/鋳型を伴うPCR(受動的参照の放出強度)
Rn-=(SYBR Green-dsDNA複合体の放出強度)/鋳型なし(受動的参照の放出強度)
【0246】
サイクル閾値(CT)からの調節倍率の計算
ΔRnは、特異的反応のためのPCR条件の所定のセットにより発生したシグナルの大きさを表わしている。サイクル閾値パラメータは、遺伝子-特異的産物の増幅の相対増加の測定値を構成しており、これは実験的cDNA集団における特異的転写産物の相対的豊富さを示している。これは、ΔRnの統計学的有意性の増加が最初に検出されるサイクル点として固定される。この閾値は、調節可能な因子により積算された、初期サイクルのためのRnの平均標準偏差として定義した。このサイクル閾値パラメータは、ディファレンシャルな遺伝子発現の定量のために使用した。特異値は、バックグラウンド蛍光強度を上回る増加が検出された点又はサイクルを基にした各遺伝子-特異的増殖曲線について計算した。
【0247】
相対定量値の全ての計算は、各試料について試行した複製反応についての平均CT値を得、標的試料と内在性対照の間の平均CTの差(ΔCT)を計算し、かつその標的のΔCTから標的についての検量線の平均CTを減算する(ΔΔCT)ことにより行った。最後に、標的に関する相対定量値を、2-ΔΔCTとして表わし、遺伝子発現のアップ-又はダウン-レギュレーションの程度を判断した。
【0248】
結果
リアルタイム定量逆転写酵素(RT)-PCR(TaqMan)は、遺伝子発現の変化を確認しかつ推定するための感度のよいかつ信頼できる方法を提供する。TaqMan配列検出装置(ABI PRISM(登録商標)7700配列決定システム(Applied Biosystems社、Foster City、CA))は、核酸配列のハイスループット定量のシステムを提供するために、PCR-ベースのアッセイを、ハードウェア/ソフトウェア計測器と統合していた。これは、特異的PCR産物の増加量のサイクル毎の検出を可能にするために、サーマルサイクリング、蛍光検出、及びアプリケーションに特有のソフトウェアを組合せている。
【0249】
マイクロアレイ分析により正確に指摘されたいくつかの高度に調節された遺伝子の発現を、TaqMan(登録商標)プラットフォームを用いて証明した。各場合において、可能な限り、使用される各モデルシステムについての時間経過を含んだ。これは、いかに完全なプロセスの間に特異的遺伝子が挙動したかに関するより多くのデータの収集を可能にした:
【0250】
遺伝子発現の変化は、二本鎖DNAのSYBR Green色素への結合により発生した蛍光の測定による、PCR産物の増加の直接検出によるTaqMan(登録商標)により定量し、アッセイされる遺伝子に対し特異的である増幅産物により示した。対照試料に対して特異的cDNA種の測定は、生理的参照として役立つ検量線試料に対し特異的遺伝子に対応するmRNAから転換されたcDNAの定量により行った。較正は、対照又は未処理条件の試料により提供された。cDNA種の相対定量は、鋳型cDNAを作成するために使用した総RNAの最初の濃度及び性質並びに逆転写反応の転換効率におけるあらゆる可変性を説明するために、GAPDHに対して標準化し、算出した。
【0251】
分泌されたホスホプロテイン1(オステオポンチン)遺伝子の発現は、キュプリゾンモデルに関連した脱髄/髄鞘再形成パラダイムにわたる経時的試験において分析した。
【0252】
キュプリゾン髄鞘再形成モデルにおけるオステオポンチン発現のTaqMan実験の結果は、図1(A)に示した。オステオポンチンのmRNAレベルは、マウス前脳においてキュプリゾン投与の3週間後(3w.Cup.)には18倍に、及び処理の5週間後(5w.Cup.)には25倍にアップレギュレーションされることがわかった。
【0253】
オステオポンチン発現は、キュプリゾン処理5週間に加え、再生の1、3及び6週間再生後(5 w.cup. + 1w、3w及び6w)に、ダウンレギュレーションされた。これらの知見は、髄鞘再形成は、脱髄が依然進行中の時点で始まるので、オステオポンチンは、このモデルの脱髄及び髄鞘再形成相において重要な役割を持つことを示している。
【0254】
図1(B)は、小脳の発育におけるオステオポンチン発現レベルの結果を示している。オステオポンチンmRNAは、出生後発育早期の小脳の髄鞘形成が始まる期間であるC4からC8日に、一過性にアップレギュレーションされた。
【0255】
マイクロアレイ結果は、キュプリゾン処理中の、マウス前脳におけるオステオポンチンのアップレギュレーションを示した。この分析は、キュプリゾン処理の脱髄及び髄鞘再形成の両相を含む、オステオポンチン発現のプロファイルに及び、かつオステオポンチン発現プロファイルは、キュプリゾン処理の脱髄相においてピークに達し、かつ回復期間に、ほぼベースラインレベルに戻ることを示している。
【0256】
これらの結果は、下記表VIIに示した。
【0257】
オステオポンチン発現のTaqMan(登録商標)分析の結果は、キュプリゾンを3及び5週間摂餌したマウスの脳におけるアップレギュレーションを確認した。
【0258】
【表7】
【0259】
実施例3:ノーザンブロットによるディファレンシャルなオステオポンチン発現の確認
方法
ブロット調製
特異的遺伝子のために、発現の組織特異性を、マウスの多組織ノーザンブロットを用いてアッセイした(Clontech Labs.、1020 East Meadow Circle. Palo Alto, CA)。これらは、成体マウスの異なる組織に由来した、1レーン当り2μgのポリ(A)+ RNAを含んだ。個別のブロットは、in vitro及びin vivoの両状況におけるディファレンシャルな遺伝子発現の分析のために調製した。3週間、5週間のキュプリゾン処理並びに回復過程の1、3及び6-週間の時点(最大6週間)のマウス脳から単離したRNAを、ブロットの1セットで用いた。異なる出生後日数段階からの全脳RNAを、第二のセットに用いた。最後に、一連のRNAの時間経過を、培養物中で増殖しかつ異なる時間ジブチリル-cAMP処理したOli-neu細胞から調製した。このRNAを用い、第三のブロットセットを調製した。最大検出効率を確認しかつハイブリダイゼーション後の均等でないストリッピングに起因した結果の変動を最小化するために、新規ブロットを、各遺伝子-特異的プローブで使用した。全てのブロットは2回ハイブリダイズし、最初には関心のある遺伝子に対するプローブにより、その後RNA負荷の変動を制御するために、ストリッピング後に、マウスのグリセルアルデヒド-3-リン酸(mGAPDH)に対するプローブでハイブリダイズした。
【0260】
RNA(10μg/ウェル)を、ホルムアルデヒド及び5xMOPS(5Lの滅菌水中、3-(N-モルホリノ)-プロパンスルホン酸209,27g、酢酸ナトリウム20.5g、0.5M EDTA(pH8.0)50mLを溶解し、12M NaOHでpH7.0に調整)を含有する1.2%変性アガロースゲル上に負荷した。各RNA試料は、臭化エチジウム(0.01mg/ml)2μl、5x 3-(N-モルホリノ)-プロパンスルホン酸(MOPS)2μl、37%ホルムアルデヒド3.5μl及びホルムアミド10μlと混合した。次に試料を、65℃で10分間加熱し、氷で急冷した。2μlのRNA負荷用緩衝液(50%グリセロール、1mM EDTA、0.4%ブロモフェノールブルー及び0.4%キシレンシアノール色素)を、ゲルへの負荷直前に各試料に添加した。
【0261】
各ゲルは、1xMOPSランニングバッファー(1L=37%ホルムアルデヒド330mL、5x MOPS 400mL、DEPC-処理したH2O 270mL)中、5V/cm(ゲル長)で〜3時間流した。この後、前記SSC液を用い、正帯電したナイロン膜(Hybond(商標)-N、Amersham Life Sciences社、Amersham Place, Little Chalfont, Buckinghamshire, 英国 HP7 9NA)へ、一晩RNA転写した(Terry Brown、UNIT 4.9.、Current Protocols、1993年、編集F.M. Ausubel、R. Brent、R.E. Kingston、D.D. Moore、J.G. Seidman、J.A. Smith、及びK. Struhl)。このRNA転写効率は、膜を肉眼によりチェックし、かつUV光下でゲルを平板とした。RNAは、Stratalinker(Stratagene社、米国)により膜に架橋結合した。ブロットは、ハイブリダイゼーションまで、Whatman 3MMろ紙間で、室温で貯蔵した。
【0262】
プローブ調製
放射性32P-標識したプローブを、関心のある遺伝子に対応するcDNAクローン(長さ〜500>800bp)のゲル-精製した制限断片を用いて調製した。DNA断片は、HighPrime(商標)標識システム(Roche Diagnostics AG社、Industriestrase7, 6343 Rotkreuz, スイス)を用い、32P-dCTPで、比放射能>109cpm/mlに無作為に標識した。取込まれなかった32P-dCTPは、プローブ混合物の、Sephadex(登録商標)G-25媒体(DNA等級の0.15%Kathon(登録商標)CG/ICP Biocide(登録商標)を含有する蒸留水)を含有するPharmacia NAP(商標)-5カラムを通る重力ベースの溶離により除去した。
【0263】
ハイブリダイゼーション及びシグナル検出
プローブハイブリダイゼーションを、ExpressHyb(商標)(Clontech Labs社、1020 East Meadow Circle, Palo Alto, CA)を製造業者の規格に従い用いて行った。ブロットは、ハイブリダイゼーション後、オートラジオグラフィーカセット内、-80℃で、Hyperfilm(商標)MP(Amersham Pharmacia Biotech, 英国)に曝した。曝露後のプローブのストリッピングは、ブロットを、滅菌H2O/O.5%SDS溶液中、90〜100℃で10分間インキュベーションし、その後ブロットを10分間冷却することにより行った。ストリップした膜を、プラスチック中に密封し、かつ再プロービングに必要となるまで-20℃で貯蔵した。
【0264】
結果
ノーザンブロット分析は、大規模でディファレンシャルな遺伝子発現試験において、二次的確認技術としてこれまで使用されてきた(Changら、2000)。その感度及び精度は、関心のある所定の遺伝子の発現の組織特異性のみではなく、実験条件と対照条件の間のディファレンシャルな調節の大きさの分析も可能にしている。このことは、それを、マイクロアレイ分析により得られたDGE結果を確認する信頼できる方法にしている。同じくノーザンブロットは、転写産物のサイズ及び関心のある遺伝子に相当する交互スプライシングアイソフォームの可能性に関する情報を提供する。
【0265】
カスタムノーザンブロットは、キュプリゾン-処理したマウス及び対照マウスの脳から単離したRNAを用いて調製した。これらは、Incyte Genomics社から本発明者らに送付されたクローンから放射標識したDNA断片によりプロービングした。ノーザンブロットの遺伝子発現のTaqMan(登録商標)分析により観察された結果を再現する能力は、キュプリゾン処理したマウスの脳から単離したRNAのブロットに対してハイブリダイズしたマウスオステオポンチンに対する放射標識したプローブを用いて証明した。この様式において、キュプリゾンモデルにおけるオステオポンチン発現のTaqMan(登録商標)分析に対しノーザンブロット分析を比較することが可能であった。
【0266】
図3は、Incyte Genomics社から注文された、pT7T3D-Pacベクターに挿入されたマウスオステオポンチンのオープンリーディングフレームを示している。灰色領域はコード配列であり、かつ矢印はオステオポンチンの完全なcDNAを示している。このクローン挿入断片には、EcoRI及びNotI切断部位が隣接していた。この遺伝子の組織発現を分析するためのノーザンブロッティングにおいて使用するためのプローブを作成するために、893-bp断片を、HincII及びStyI制限酵素を用い、このクローンから切り出した。この断片は、プローブとして使用するために、ゲル精製し、かつ標識した。
【0267】
マウスオステオポンチンの発現は、回復及び未処理対照を含む、キュプリゾンモデルの各段階でのマウスの脳からのRNAで調製したカスタムブロットを用い、ノーザンブロット分析により確認した。このブロットは、最初にマウスオステオポンチンcDNAの放射標識した断片でプローブし、次にマウスGAPDHの放射標識した断片で再プローブした。これを陽性対照として用い、ブロットに対する各レーンのRNAの全体量の変動を基に観察された発現レベルの差異を説明した。
【0268】
キュプリゾン-処理したマウス脳のオステオポンチン発現は、キュプリゾン給餌の3及び5週でピークに達し、5週目がわずかに高い発現を示した。回復相において、オステオポンチンmRNAレベルは、かなり急激に減少し、キュプリゾン給餌を中止後1週間の発現は認知可能に低下した。オステオポンチンmRNAのレベルは、6週間の回復後、ほぼ正常レベルに回復した。これは、キュプリゾンモデルにおけるオステオポンチン発現のTaqMan(登録商標)分析で得られた結果(図1A参照)と定性的に同等である。
【0269】
実施例4:オステオポンチンのoli-neu細胞における調節
cAMP処理した希突起膠細胞(oli-neu)におけるオステオポンチン発現を、TaqMan分析により測定した。結果は、図4に示している。カラム1から4は、希突起膠細胞において得られた結果を示した。対照(値=1)と比べ、cAMP処理の6時間(1列)は、オステオポンチンmRNAのアップレギュレーションをもたらした。2日間のcAMP処理後(2列)、12倍のアップレギュレーションが測定された。6から10日間の延長された処理(3列、4列)は、より低レベルのオステオポンチンmRNAにつながった。キュプリゾンモデル(5列、6列)におけるオステオポンチンmRNAの調節の比較は、前脳のキュプリゾン処理3及び5週間のオステオポンチンアップレギュレーションは、cAMP処理の2日後の希突起膠細胞のアップレギュレーションと同等であることを示している。
【0270】
実施例5:希突起膠細胞におけるオステオポンチンの発現
方法
Oli-neu細胞を、リン酸カルシウム沈降法に従い、一過性にトランスフェクションした。簡単に述べると、トランスフェクションを行う前日に、指数増殖相のoli-neu細胞を、6-ウェルプレートへ播種(105/ml)した。250mM CaCl2溶液100μlを、5μgのプラスミドDNAと混合した。300mM Na2HPO4及びNaH2PO4(pH7.05)ストック溶液からリン酸を補充した、等量(100μl)の2x HEPES溶液(140mM NaCl、50mM HEPES、pH7.05)を、Ca/DNA溶液に添加した。正確に1分後、この混合物を、培養プレートにゆっくりと添加し、CO2培養器中、37℃で4時間インキュベーションした。この時点以後、培地を、新鮮な培地と交換し、かつ次に細胞を24〜72時間インキュベーションし、その後収集し、及びウェスタンブロット分析した。
【0271】
結果
pDEST12.2ベクター中の異なるマウスのオステオポンチン構築体(pDEST12.2オステオポンチン-EGFP、pDEST12.2-オステオポンチン-His6、pDEST1 2.2-オステオポンチン、図4から7参照、及び対照プラスミドとしてpCIE-EGFP)を、oli-neu細胞においてトランスフェクションした。このタンパク質を生成し、特異的な市販の抗体(R&D Systems社、AFBO8)により検出されるように、これらの細胞により分泌した。EGFPタグ付けした構築体は、より容易なトランスフェクションのモニタリングをもたらし、及びトランスフェクションの24時間後、細胞形態の特異的変化(希突起膠細胞の突起の増加)を、pCIEGFP対照と比較し検出し(示さず)、これはオステオポンチンは、マウス希突起膠細胞の細胞株oli-neuをより成熟した形態表現型へと駆動することを示している。オステオポンチンでトランスフェクションしたoli-neu細胞により示された形態は、髄鞘形成している希突起膠細胞の形態に非常に類似していた。
【0272】
これらの結果は、希突起膠細胞におけるオステオポンチンの発現は、これらの細胞を髄鞘形成へ駆動するのに有益であり、その結果希突起膠細胞の機能不全に関連した疾患におけるオステオポンチンの有益な作用を示している。
【0273】
実施例6:キュプリゾンモデルにおける脳の特異的領域におけるオステオポンチンタンパク質の発現
オステオポンチン免疫組織化学的試験を、キュプリゾンモデルにおいて脱髄及び髄鞘再形成期間の異なる時点で行った。強力なシグナルが、キュプリゾン処理の5週目に、脱髄された脳梁及び線条束において認められ、この時点は、脱髄部位への著しい小グリア細胞の動員に関連していた。活性化された小グリア細胞を可視化するために、連続切片のCD68染色を実行し、かつその同様の発現パターンは、オステオポンチンの小グリア細胞における発現を示唆している。
【0274】
興味深いことに、オステオポンチンは、心室前方に積層する細胞においても認められた。この領域は、ニューロン、星状細胞及び希突起膠細胞の作成のために多能性幹細胞を生じている成体の心室下帯においても説明された。オステオポンチンを発現している希突起膠細胞前駆細胞を決定するために、NG2、PSA-NCAM、PDGFα受容体による二重染色を行った。
【0275】
実施例7:希突起膠細胞増殖に対するオステオポンチンタンパク質の作用
この実験では、t-neu癌遺伝子により不死化されたマウス初代希突起膠細胞(希突起グリア細胞)細胞株(「oli-neu」細胞株)を用いた。oli-neu細胞株の確立及び特性に加え培養条件は、Jungらの論文(1995)に記されている。
【0276】
この試験の目的は、oli-neu増殖アッセイにおいて、OPNの希突起膠細胞増殖に対する作用を測定することであった。細胞は、亜集密に播種した。これらは、24時間インスリン非含有培地において飢餓状態とし、その後対照又は組換えタンパク質のいずれかで処理した。細胞数は、Alamarブルーで定量し、蛍光測定値を得た。増強作用に関する計算は、IGF1(対照)の標準曲線との比較を基にした。増殖阻害の計算は、dbcAMP標準曲線に対する比較を基にした。
【0277】
材料
装置及びソフトウェア
Wallac Victor 2マルチラベルカウンター(励起530-560nm、放出590nm)
Graph Pad Prismソフトウェア
【0278】
試薬
oli-neu細胞株(Eur J Neuro、7:125-1265 (1995))
Alamarブルー(BioSourceinti社、Camarillo, CA, 93012)
Sato培地の成分を下記に示す:
【0279】
【表8】
【0280】
Becton Dickinson社のポリDリシン(356461)で被覆したBioCoat平底プレート;R3-IGF1(Sigma社の11146);DbcAMP (Sigma社のD-0627)。
【0281】
方法
In vitroバイオアッセイにおける細胞培養法
Oli-neu細胞は、ポリ-L-リシン基質上で増殖している接着細胞である。細胞を、BioCoat(商標)ポリ-リシンでプレコートした96ウェルプレート上に播種した。これらの細胞を、2〜3x/週でスプリットした。スプリットするために、これらを最初にPBSで洗浄し、その後PBS+1mM EDTAで剥がした。細胞を、加湿した10%CO2培養器中で増殖した。
【0282】
使用した凍結培地は、20%FCS及び10%DMSOを添加したSato培地であった。この実験においては、16回を超えずに継代したoli-neu細胞を用いた。細胞を、インスリンを除いたSato培地の中で24時間飢餓状態とした後、96ウェルプレート中において最終濃度4000個細胞/ウェルで使用した。
【0283】
Alamarブルー染色
CO2培養器中で48時間経過後、Alamarブルーストック液10μlをウェルに添加し、更に2.5時間インキュベーションした。蛍光を、530〜560nmの励起波長及び590nmの放出波長でモニタリングした。プレートは、最大4時間及び相対蛍光単位1,000,000まで読みとった。
【0284】
実験デザイン
対照として、100ng/ml R3-IGF-1(陽性対照)、又は1mM dbcAMP(陰性対照)、又はインスリンを伴わない培地、又は100nM煮沸したOPNを用いた。実験試料は、組換えオステオポンチン1nM、10pM、0.1pM、0.01pM又は100nMであった。対照及び被験試料を、インスリンを除いたSato培地中最終容量50μlとなるよう、望ましい濃度に希釈し、かつウェルに添加した。Oli-neu細胞は、インスリン-非含有培地において24時間増殖し、その後対照又は被験試料で48時間処理した。インスリンを除いた培地において新たに24時間飢餓状態とし、剥離したoli-neu細胞は、PBS+1mM EDTAで増殖フラスコから収集した。これらの細胞を、300,000細胞/mlで調製し、かつ50μl/ウェルとなるよう添加した。その後、これらの細胞を、加湿したCO2培養器において37℃で48時間インキュベーションした。Alamarブルー10μlを添加し、かつこれらの細胞を培養器に2.5時間戻した。その後、各ウェルから70μlを、黒色の96ウェルプレートに移し、かつ直ぐに蛍光を測定した。
【0285】
未分化のoli-neu細胞の増殖は、昆虫細胞(BacOPN)、又は哺乳類発現システム(HEK-OPN)を用いて作出した、異なる量のオステオポンチンに反応して24時間後に測定した。増殖率は、蛍光光度法/比色法の増殖インジケーターであるAlamarブルーにより細胞代謝活性を測定することにより定量した。この試薬は、細胞増殖から生じた増殖培地の化学的還元に反応して、蛍光及びその色の変化の両方を示している酸化-還元インジケーターを含む。使用した試薬及びアッセイは、Ahmedら(1994)及び米国特許第5,501,959号に開示されている。
【0286】
結果
結果は図8から10に示した。
用量反応を、バキュロウイルス及びHEK細胞の両方で発現した、組換えオステオポンチンにより観察した。予想通り、煮沸によるこのタンパク質の変性は、生物学的活性を破壊した。バキュロウイルスで発現したオステオポンチン(BacOPN)及びHEK細胞で発現したOPN(HEK OPN)の添加は、細胞増殖の用量-依存型の増加(図8)を示し、そのIC50は、BacOPnについて3.7nM及びHekOPNについて0.05nMであった(図9)。加えて、OPNアイソフォームaのアミノ酸1から168に対応するN-末端OPN構築体(図2、N-term. OPN-a参照)は、昆虫細胞において発現した。精製したタンパク質は、完全長タンパク質との比較において、増殖アッセイで試験した。短縮型タンパク質は、活性があった(10nM, 100nM)。図10参照のこと。
【0287】
実施例8:混合皮質培養物における髄鞘形成マーカーの発現に対するオステオポンチンの作用
カバースリップ上で増殖した混合皮質培養物を、DIV(in vitroの日数)5日目〜17日目の間の12日間、BacOPN(100nM)で処理した。In vitroの17日目に、培養物を固定し、かつ抗-MBP抗体で染色した。結果は、BacOPNカバースリップは、対照よりも、より高度に分枝したMBP陽性希突起膠細胞を有したことを示している(図11)。加えて、対照培養物(図11A)において、髄鞘形成している希突起膠細胞は認められなかったにもかかわらず、OPN処理した培養物(図B、C及びD)は、希突起膠細胞が豊富であり、これは軸索の周りを覆い、かつミエリンセグメント及び結節間部を形成していた(図11BからD)。セグメントクラスターの計数は、セグメントは対照においては認められないが、3種の異なるOPN処理した試料は、16、22及び18のセグメントクラスターを示したことを明らかにした。これらの結果は、オステオポンチンによる皮質混合細胞の処理は、希突起膠細胞の分化された表現型につながり、これは髄鞘形成している希突起膠細胞の特徴であることを示している。
【0288】
実施例9:MBP ELISAにより測定した混合皮質培養物中のMBP発現に対するオステオポンチンの作用
MBPタンパク質増加、従ってOPN及びLIFで処理した混合皮質培養物における髄鞘形成をモニタリングするために、MBP ELISAを用いた。
【0289】
初代培養物
材料の給源は、妊娠したNMR1雌マウスから、交尾後16日目に摘出した胚由来の胚性マウス脳組織であった。胚を、Lubetzkiらのプロトコールに従い切断し、皮質をトリプシン消化により溶解し、かつ切断した細胞(ニューロン、星状細胞、希突起膠細胞、小グリア細胞、及びニューロン前駆体を含む)を、各ウェルについて、ポリ-L-リシンでプレコートした96-ウェル培養プレートに、1x105細胞/ウェルで播種した(最初の容量50μl)。
【0290】
組換えタンパク質処理
処理は、組換えタンパク質(陽性対照、AMRAD Laboratories社から購入した組換えマウス白血病阻害因子(LIF)、濃度1μg/ml、100ng/ml、及び10ng/ml;マウスバキュロウイルス-作出した完全長オステオポンチン、濃度100nM、10nM、及び10pM)を用いて行った。全てのタンパク質を、in vitroにおいて細胞に添加する前に、ストック材料から、適当な濃度へと、培養培地に希釈した。培養物を、in vitroにおいて5日間増殖させ、その後引き続き17日間処理した。培地は3日毎に交換した。
【0291】
試料収集のためのマイクロウェルプレートプロトコール
In vitroにおいて17日目(DIV17)に、細胞を溶解し、かつ試料を収集した。細胞溶解は、3種界面活性剤緩衝液を用いて行った。
【0292】
3種類の界面活性剤緩衝液 最終濃度
50mM Tris pH8.0 1M 50ml
150mM NaCl 8.77g
0.02%NaN3 (10%) 2ml
0.1%SDS 2O% 5ml
1%NP40 10ml
0.5%デオキシコレートナトリウム 5g
【0293】
単独のプロテアーゼインヒビター錠剤(Roche番号1636170)を、3種界面活性剤緩衝液10ml中に使用前に添加した。
【0294】
培地は、96-ウェルプレコーティングしたプレート中に播種した混合皮質培養物試料から取り除いた。細胞は、1X PBSの50μlで穏やかに2回洗浄し、その後3種界面活性剤緩衝液50μlを各ウェルに添加した。溶解した試料を含有する全てのマイクロウェルプレートを、分析まで-20℃で貯蔵した。
【0295】
BCAタンパク質アッセイ
Pierce社のBCAタンパク質アッセイは、比色検出のためのビシコニン酸(BCA)及び総タンパク質定量をベースにした界面活性剤-適合処方である。この方法は、アルカリ培地におけるタンパク質によるCu2+からCu1+への周知の還元と組合せた、ビシコニン酸(BCA)を含有する独自の試薬を用いる、第一銅カチオン(Cu1+)の高感度及び選択的な比色検出である。
【0296】
このアッセイの紫色に着色した反応生成物は、BCAの2分子と第一銅イオン1個のキレート形成により生成される。この水溶性錯体は、20μg/mlから2000μg/mlという広範な作業範囲にわたって、タンパク質濃度の増加と直線関係にある、562nmでの強力な吸光度を示す。このBCA法は、真のエンドポイント法ではなく;最終色は発色し続けるが、しかしインキュベーション後の発色速度は、多数の試料を1回の試行で測定することを可能にするのに十分な程度には遅い。タンパク質の巨大分子構造、ペプチド結合の数及び4種のアミノ酸の存在(システイン、システイン、トリプトファン、及びチロシン)は、BCAによる色形成に寄与することが報告されている。
【0297】
総タンパク質含量を決定するためのマイクロウェルプレートプロトコール
各標準25μl(BSA濃度:2000μg/ml、1500μg/ml、1000μg/ml、750μg/ml、500μg/ml、250μg/ml、125μg/ml、25μg/ml)及び試料を、適当なマイクロウェルプレートのウェルに添加した。希釈剤(3種界面活性剤緩衝液)25μlを、ブランクウェルに用いた(作業範囲20〜2000μg/ml)。
【0298】
作業試薬(BCA試薬A 50部の、BCA試薬B 1部との混合物)200μlを、各ウェルに添加した。プレートウェルを、30秒間振盪し、37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、吸光度を570nmで測定した。
【0299】
MBPサンドイッチELISA
96-ウェル平底滅菌マイクロプレート(Costar社)を、1X PBS中に1:5000に希釈した抗-MBP抗体(Chemicon社、MAB5274)と共に、+4℃で一晩インキュベーションした。この希釈した抗体溶液50μlを、各ウェルに添加した。
【0300】
翌日、この抗体溶液を、プレート中の全てのウェルから除去し、かつ各ウェルについて、1X PBS中の1%BSA溶液50μlを用い、ブロック工程を行った。ブロックは、周囲温度で1時間行った。プレートを、PBS/Tweenを用い、ブロック工程後、3回ロボット的に洗浄した。
【0301】
1%BSA/PBS中に連続希釈したMBPペプチド標準又は試料のマイクロウェルプレートへの添加後、インキュベーションを行った。MBPペプチド100ng/mlストック溶液を、2 in 2で希釈した。ここで使用した希釈物は、BCAタンパク質アッセイの結果を使用し、総タンパク質含量の計算後、決定した。これらは下記のようであった:
100μg;50μg;25μg;12.5μg;6.2μg;3.1μg。
MBP標準及びタンパク質試料とのインキュベーション後、プレートを1% BSA/PBSで更に3回洗浄した。
【0302】
第二のインキュベーションは、1%BA/PBS中に希釈したポリクローナル抗-MBP抗体(Zymed社、10-0038、1:300)を用いて行った。プレートを周囲温度で2時間インキュベーションした。このインキュベーション後、プレートを更に前述のように3回洗浄した。
【0303】
1%BSA/PBSで希釈後、全てのウェルに添加した50μl容量のヤギ抗-ウサギビオチン(Vector社、BA-1000、1:10,000)と一緒のインキュベーションを、周囲温度で1時間行った。インキュベーション後、先に記したように、再度プレートを洗浄した。
【0304】
最終のインキュベーションは、各ウェルに添加した、1x PBSで希釈した50μlのストレプトアビジン-複合したホースラディッシュペルオキシダーゼ(strep-HRP)(Amersham社、RPN1051、1:8000)と共に行った。プレートは、周囲温度で1時間インキュベーションした。
【0305】
洗浄工程後、この反応を、オルトフェニレンジアミン二塩酸塩(OPD) (Sigma社、1錠を20ml容量の水に添加し調製した溶液)を用いて明らかにした。この反応は、3M HCl又は30%H2SO4の添加によりブロックした。光学濃度を、マルチスキャン蛍光プレートリーダー(Labsystems社、Multiskan EX)を492nmで用いて測定した。
【0306】
結果
図12に示したように、MBPタンパク質レベルは、DIV17で、bacOPN(10nM)処理した培養物において、対照培養物と比べ3倍増加した。この観察は、バキュロウイルスで発現されたOPNの希突起膠細胞前駆体の増殖及び髄鞘形成に対する正の作用を示す先の結果を裏付けている。
【0307】
実施例10:オステオポンチンのCG4増殖に対する作用
CG4細胞株は、初代A2B5希突起膠細胞前駆体から自然発生的に得たラットの不死化した希突起膠細胞の細胞株である。CG4細胞は、希突起膠細胞の分化又は生存の試験のために通常使用される細胞株である。CG4細胞株は、下記の利点を有する:
・希突起膠細胞始原細胞と同様(02A-様)の高い増殖率(GD3, A2B5-陽性細胞);
・ATCCから入手したB104ラット神経芽細胞腫の細胞株から得た馴化培地(有効な増殖因子濃度を伴う)における低い維持経費(Louis J.C.ら、1992);
・短期間、増殖のためのB104馴化培地の代わりに、限定培地(FBS含まず)を用いることができる(FGP2+PDGFを補充);
・希突起膠細胞への分化(O4、GalC-陽性)は、限定培地において誘発することができる;
・星状細胞への分化(GFAP-陽性)は、FBSの存在下で誘発することができる。
【0308】
CG4細胞の継代数35を用い、ふたつのOPNタンパク質(E.コリ又は昆虫細胞における発現)の増殖に対する作用を試験した。R&DシステムE.コリが生成したオステオポンチン(カタログ番号441-OP)をこのアッセイに使用し、これは次にプロテインキナーゼ2(GST融合)により、下記液60μl容量で、in vitroリン酸化した:
キナーゼ緩衝液6x: 試料緩衝液2xpH6
Hepes 50mM Tris-Cl 0.125
MgCl2 10mM グリセロール20%
DTT 1mM DTT 0.2M
バナジン酸ナトリウム0.2mM ブロモフェノールブルー0.02%
β-グリセロリン酸25mM
ATP混合物(60μM)
60OμM ATP、30μl
32PATPを5μl
H2O2を265μl
【0309】
反応を開始するために、ATP混合物を添加し、かつインキュベーションを30℃で1時間行った。30℃で90分間インキュベーションした後(攪拌しながら)グルタチオンセファロースビーズ100μl(Pharmacia社)を、プロテインキナーゼを除去するために先にPBSで洗浄した反応混合液に添加した。その後この混合物を、ゆるやかに攪拌しながら室温で1時間インキュベーションした。この懸濁液を、5000gで5分間遠心し、ビーズを沈降させた。次に、上清を、PBSに対して4℃で一晩透析した。タンパク質をBCA(Pierce社)で定量した。
【0310】
キナーゼ反応液:
0.05μg/μlカゼインキナーゼ10μl、
0.5μg/μl E.coli OPN、10μl
50mM Tris-HCl pH8を20μl
キナーゼ緩衝液 6xを10μl
ATP混合物10μl
【0311】
増殖アッセイ
Bac OPN及びin vitroリン酸化されたOPNタンパク質は、濃度10pM、10nM及び100nMでCG4細胞の増殖に対し試験した。測定値として、Avellanaらの論文(1996)に記されたようなBrdU(Amersham社)を使用した。これらの細胞は、70%N1限定培地(4.5g'lグルコース、2mMグルタミン、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン及び1mMピルビン酸ナトリウムを含有し、かつ5μg/mlトランスフェリン、100mMプトレスシン、30nMセレン酸ナトリウム及び10ng/mlビオチンを補充したDMEM )及び30%B104馴化培地(ビオチンを除いたN1)において培養した(Louis J. C.ら、1992)。このアッセイは、3x104細胞/ウェルで播種した、ポリ-オルニチン(100μg/ml)処理した24ウェルプレートにおいて行った。10nM BrdUを同時に添加し、かつ細胞を18時間インキュベーションした。固定後、免疫細胞化学試験を、抗-BrdU抗体により行い、細胞分裂を検出した。全細胞数を計数するために、細胞は更にHoechst 44432染色液(Sigma社)で染色した。画像を得、かつLeica QWin画像分析システムを用いて解析した。
【0312】
結果
結果は、図13に示した。
【0313】
バキュロウイルスで発現したオステオポンチンは、CG4細胞の増殖増大につながった。最も顕著な作用は濃度10nM OPNで認められるが、OPN 100nMは、同様の増殖につながった。In vitroリン酸化されたE. coliで発現したOPNは、CG4細胞の小さい増殖につながった。
【0314】
OPN処理対非処理のCG4細胞の形態の分析は、対照においては分化が認められないが、OPN処理したCG4細胞は分化し、ほとんどの細胞が突起を発生していた点で分化したことを明らかにした。分化はバキュロウイルスで発現したOPNを用い、より顕著であったが、E. coli発現したin vitroリン酸化したOPNは、同様のCG4細胞分化につながった(示さず)。
【0315】
実施例11:オステオポンチンのマウスにおけるMOGが誘発した実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)に対する作用
試験の目的
オステオポンチン(OPN;AS900011)は、様々な細胞種の接着、移動、分化、生存及びサイトカイン分泌を含む、多形質発現性機能を有するサイトカインである。OPNは、髄鞘再形成及び希突起膠細胞機能を調節することができる遺伝子を検出すること(実施例1参照)を目的とした、ディファレンシャルな遺伝子発現(DGE)法において同定した。組換えバキュロウイルスが発現したOPN(AS900011)による希突起膠細胞前駆体の処理は、用量依存型に増殖を増加した(IC50:3.7pM、実施例7参照)。加えて、AS900011は、CG4細胞株及び原発性神経半球(primary neurosphere)の分化に対する作用を示した(実施例8参照)。OPNは、キュプリゾン処理されたマウス脳領域の脱髄された脳梁に発現し、ここで発現は、小グリア細胞において最強であった(実施例1参照)。加えてOPN発現は、脳室下帯(SVZ)において認められ、このことは髄鞘再形成に参画する希突起膠細胞前駆体の生成を示唆している(実施例4参照)。様々な免疫-調節特性を伴うサイトカインであるOPNは、ニューロン機能及びグリア機能のモジュレーターとしての役割も果たし得ると仮定されている。
【0316】
この試験の目的は、マウスにおけるMOG-誘導したEAEモデルにおけるOPNの治療的作用を試験することである。
【0317】
試験法
本試験に使用したEAE誘発法は、Sahrbacherら(1998)により発表されたプロトコールを改変した。実験に使用した動物の保護は、1992年1月27日のItalian DL. No. 116で強化された指令(Directive)86/609/EECに従った。動物の飼育及び世話のための生理的施設及び装置は、EEC委員会指令86/609の規定に従った。この機関は、Competent Veterinary Health Authoritiesにより完全に認可されている。動物に関するこのプロトコールの全ての部分は、公的獣医により承認されている。このプロトコールは、イタリア厚生省(Italian Ministry of Health)により認可されている(法令No. 51/99-B)。
【0318】
試験システム
種、系統、亜系統、及び性別:IFFA CREDO (Saint Gemiain sur I'Arbresle、仏国)から入手した、C57 BL/6JICO雌マウスのコロニーは、Charles River Italia (Calco. Lecco、イタリア)により供給された。
【0319】
試験システム選択の正当性:C57 BL/6JICOマウスは、実験モデルとして選択し;この選択された系統は、EAE易罹患性と記されている。
【0320】
供給業者:Charles River Italia S.p.A., Via lndipendenza, 11, 23885 - Calco (Lecco)
【0321】
環境馴化:試験の少なくとも5日前に開始した。この期間、動物は、本試験への適合性を確認するために毎日観察した。
【0322】
年齢及び体重(無作為化):約8-週齢;18〜22g
【0323】
飼育状況:空調の効いた部屋で、1檻に10匹の動物。
【0324】
温度:22℃±2
【0325】
相対湿度:55%±10
【0326】
換気:HEPA 99.99%上のフィルターを通して約15〜20回/時
【0327】
照明:12時間サイクル(午前7時〜午後7時)
【0328】
檻:Makrolon(登録商標)檻、42.5x26.6x15h、各々にステンレス製カバー−餌箱が備え付けられている。檻の底には鉄板が挿入されている。落下した汚物は、檻の底に鉄板を通して定期的に廃棄される。
【0329】
動物識別:耳タグ。檻のカードには、実験番号、投与群及び化合物投与日を記した。
【0330】
餌:Mucedola S.r.l., Settimo Milaneseにライセンス供与されたCharles River Italia's社により製造されたGLP 4RF25最高品質のペレット状餌。弱った動物の飼育を促進するために、7日目から、毎日湿ったペレットを檻の底に置く。製造業者は、栄養分及び夾雑物に関する分析証明書を提供し、そのレベルは、EPA-TSCAの提唱した範囲内(44FR:44053- 44093、1979年7月26日)である。RBMは、細菌夾雑に関して少なくとも年2回再分析された動物の食餌を扱う。この餌を、動物は「自在」に摂取可能であった。
【0331】
水:市営の主給水システムから得る。水は、ろ過し、かつ自動バルブシステムにより動物に「自在」に配布した。自動給水システムに加え、プラスチックボトルを用いた。定期的に飲料水は、微生物数、重金属、他の夾雑物(例えば、溶媒、殺虫剤)、並びに他の化学的及び物理的特性について分析した。飲料水の品質の許容限度は、EEC指令80/778により定義されたものである。
【0332】
本試験の目的を妨害し得るような夾雑物は、餌又は飲料水中に存在するとは予想されない。
【0333】
被験物質:マウスの6his-タグ付けたオステオポンチン(AS900011)及びmIFNβ
免疫処置法:マウスを、Mycobacterium tuberctdosisを0.5mg含有する完全フロインドアジュバント(CFA, Difco社、Detroit、米国)中の200μg MOG35-55ペプチド(Neosystem社、Strasbourg、仏国)で構成された乳剤0.2mlを、左側腹部に皮下注射することにより、免疫処置した(0日目)。その直後、これらに、緩衝液(0.5M NaCl、0.017% Triton X-100、0.015M Tris、pH7.5)400μlに溶解した500ngの百日咳毒(List Biological Lab.社、Campbell, CA, 米国)を腹腔内注射した。2日目に、これらの動物に、2回目の百日咳毒500ngを腹腔内注射した。7日目に、これらのマウスに、CFA中の200μg MOG35-55ペプチドを、皮下注射により右側腹部に2回用量を投与した。この手法は、8〜10日目位から始まる、尾部から生じかつ前肢へと上行していく、徐々に進行性の麻痺を生じた。
【0334】
試験デザイン:本試験は、各動物15匹の7群が関与していた。全ての群は、免疫処置プロトコールに従い、CFA中のMOG35-55ペプチド及び百日咳毒で免疫処置し、かつ下記のように処置した:
第1群:OPN媒体単独(PBS + 0.1%BSA)をs.c.経路で投与した陽性対照群
第2群:mIFNβ媒体単独(PBS)をs.c.経路で投与した陽性対照群
第3群:オステオポンチン(AS900011)1μg/kgのs.c.投与
第4群:オステオポンチン(AS900011)10μg/kgのs.c.投与
第5群:オステオポンチン(AS900011)100μg/kgのs.c.投与
第6群:オステオポンチン(AS900011)100μg/kgのs.c.投与+mIFNβの20,000U/マウスのs.c投与
第7群:mIFNβの20,000U/マウスのs.c投与
【0335】
1群当りの動物数は、観察された薬学的作用の正確な評価を可能にする最低数であった。
【0336】
媒体:PBS+0.1%BSAは、オステオポンチンを適当な濃度に希釈するために使用した。PBSは、mIFNβを適当な濃度に希釈するために使用した。
【0337】
投与経路:オステオポンチン(AS900011)の投与量1、10及び100μg/kgは、10ml/kgの容量で皮下投与した。mIFNβの投与量20000U/マウスは、200μ1/マウスの容量で皮下投与した。第1群は、PBS+0.1%BSAを容量10ml/kgで皮下投与し、及び第2群は、200μl/PBS/マウスを皮下投与した。
【0338】
処理期間:これらの試験群の処理は、各動物について、臨床スコア≧1の出現時に開始し、連続して35日間継続した。
【0339】
投与形:本化合物及びmIFNβは、適当な媒体中の液剤として投与した。各処方は、治験依頼者(Sponsor)の指示に従い調製した。
【0340】
臨床観察:免疫処置後7日目に開始し、動物は個別に、下記の臨床スコアにより麻痺の存在について試験した:
0=疾患徴候なし
0.5=部分的尾麻痺
1=尾麻痺
1.5=尾麻痺 + 部分的一側性後肢麻痺
2=尾麻痺 + 後肢衰弱又は部分的後肢麻痺
2.5=尾麻痺 + 部分的後肢麻痺(骨盤下方)
3=尾麻痺 + 完全な後肢麻痺
3.5=尾麻痺 + 完全な後肢麻痺 + 失禁
4=尾麻痺 + 後肢麻痺 +前肢の衰弱又は部分麻痺
5=瀕死又は死亡
動物の観察は、静かな部屋で行った、臨床徴候は、各処置群について、処置を知らされていない技術者により盲検化様式で、毎日モニタリングした。
動物の体重は毎日測定した。
疼痛による苦痛及び瀕死の状態にあるとみなされた動物は、スタッフの獣医又は権限のある者が試験し、かつ必要ならば疼痛又は罹患を最小とするために人道的に屠殺した。
【0341】
血液採取:最後の処置の24時間後、各動物から、血液試料を採取した(ペントバルビタール麻酔下)。血清を、慣習的手法により分離し、かつ血清試料を-20℃で貯蔵した。その後凍結血清を、化合物血清濃度を相対的に決定するために、SPRIへ送付した。
組織病理学的試験:処置の最後に、ペントバルビタール麻酔下の動物を、左心室を通し4%ホルムアルデヒドで灌流固定した。次にそれらの脊髄を、慎重に剥離し、かつホルマリン中に固定した。脊髄切片を、パラフィンブロック中に包埋した。切片化、並びに炎症に関するヘマトキシリン・エオシンによる染色、及び脱髄検出のためのKiuver-PAS (Luxolファストブルー+過ヨウ素酸Schiff染色)を行った。
【0342】
データの評価:臨床実験の結果は、各群内で平均(±SEM)スコアで表わした。被験物質の作用は、媒体-処理した陽性対照群のそれと比較した。群間の臨床スコア値の差異は、各測定時点でKruskal-Wallis検定で解析し、引き続き有意である場合は、対のあるWilcoxon検定により解析した。体重データは、一元配置ANOVAで、引き続き有意である場合は、Tukey検定により評価した。S-Plus(登録商標)ソフトウェアを使用した。
【0343】
結果
本試験の結果は、図14から16に示している。
浸潤された血管周囲炎症の組織学的分析から、OPN処理した動物において、特に1μg/kgの最低投与量で、より少ない量の血管周囲浸潤に向かう傾向があることが明らかになった。OPN、及び多発性硬化症の治療において有効であることが分かっている化合物であるIFNβとの組合せは、各々、OPN又はIFN単独の投与よりもより効果的であった(図14)。
【0344】
次に脱髄領域の割合を測定した(図15)。同じくOPN処理した動物では、脱髄された領域がより少なくなる傾向が認められた。IFN及びOPNの組合せは、脱髄の高度に有意な低下につながり、これはIFN単独で認められた脱髄の程度よりもはるかに少なくさえあった(図15)。
【0345】
図16は、処置の最後に観察された臨床スコア、本試験で測定された炎症浸潤及び脱髄をまとめている。OPN処理したマウスにおいて観察された臨床スコアは、対照よりも有意に低くはなかったが、OPN及びIFNの組合せは、臨床スコアに対する顕著な作用につながり、これは陽性対照インターフェロン-βと同じ位低い。この知見は、炎症浸潤及び脱髄の程度の測定に合致している。両パラメータは、く、OPN及びIFNβの投与後有意に低下した(図16)。
【0346】
まとめると、下記の結果が本試験から得られた:
単独で試験したオステオポンチン(AS900011)は、投与量1、10及び100 mg/kgのs.c.で、血管周囲の浸潤及び脱髄の統計学的に有意な低下を示さなかった。mIFNβ(20,000U/マウス、s.c.)による処理は、血管周囲浸潤(55%)及び脱髄(53%)の低下を誘導した。AS900011の投与量100mg/kgのs.c.と同じ投与量のmIFNβを組合せた場合、浸潤(71%)及び脱髄(81%)の有意かつ顕著な低下が認められた。
【0347】
臨床スコアと相関した組織学的データは、35日目(処理終了時)、組織学的分析のために動物を屠殺し脊髄を収集した時に観察し収集した。単独で試験したオステオポンチン(AS900011)の投与量1、10及び100mg/kgのs.c.は、疾患重症度を有意に低下しなかった。mIFNβによる処理(20,000U/マウス、s.c.)は、疾患重症度を有意に低下した。AS900011の投与量100mg/kgのs.c.と同じ投与量のmIFNβを組合せた場合、臨床徴候の統計学的に有意な低下が認められた。
【0348】
これらのデータは、オステオポンチン及びmIFNβ処理の組合せが、マウスEAEモデルにおいて、臨床的作用及組織学的作用の両方において有効であり、その結果多発性硬化症の効率的治療となり得ることを示唆している。
【0349】
実施例12:マウスにおける坐骨神経圧挫により誘導されたニューロパシーに対するオステオポンチンの保護作用
略号
CMAP:複合筋肉活動電位
EMG:筋電図
IGF-1:インスリン-様増殖因子
SC:皮下注射
s.e.m.:平均の標準誤差
vs:対
【0350】
導入
ニューロパシーは、罹患したPNSニューロンの種類(例えば、感覚神経、対、自律神経)として、及び実際ニューロン亜型(小、対、大)として、通常選択される。末梢神経の軸索切断術は、神経栄養性因子の神経保護作用を評価するために、最も一般的に使用される動物モデルである。外傷性神経損傷、叢病変及び根病変は、事故の深刻な合併症である。加えて、ミエリン障害を引き起こすことができる末梢神経への圧迫は、手根管症候群のような障害において頻繁に認められるか、もしくは脊柱の整形外科的合併症に随伴する。軸索切断術は、細胞死のような現象を生じ、軸索伝導速度を低下し、かつ障害を受けたニューロンにおける神経伝導物質レベルを変更する。圧挫病変は、ニューロパシー状態に関連した関心のある追加的過程である、再生を可能にする(McMahon S.及びPriestley J.V.、1995)。
【0351】
細胞神経生物学における基本的疑問点は、損傷又は疾患後の神経再生の調節である。機能的神経再生は、単に軸索の出芽及び伸長のみではなく、新たなミエリン合成を必要とする。髄鞘再形成は、正常な神経伝導の回復及び新たな神経変性性の免疫学的攻撃からの軸索の保護について必要である。神経変性障害の研究の主要な目標は、究極的に神経死を妨害し、神経表現型を維持しかつ神経及びミエリンの障害を修復するような介入を開発することである。多くの研究が、軸索切断した脊髄運動ニューロンの完全な再生に寄与する分子及び細胞の機序の解明に向けられている(Fawcettら、1990;Funakoshiら、1993)。損傷が誘導した神経栄養性因子及びそれに対応する受容体の発現は、神経再生能において重要な役割を果たしているであろう。先行する研究は、インスリン様増殖因子(IGF-1)、ACTH(Lewisら、1993;Strandら、1980)、テストステロン(Jones、1993)、SR57746A(Fournierら、1993)及び4-メチルカテコール(Kaechi Kら、1993、1995;Hanaoka Yら、1992)のような、様々なペプチド及び非ペプチド化合物による、神経再生の有意な改善を示した。
【0352】
本試験は、異なる投与量のオステオポンチンで処理したマウスにおける神経再生を評価するために行った。このモデルにおいて、ニューロン及び軸索(感覚及び運動ニューロン)の生存及び再生に対する、髄鞘形成又はマクロファージ炎症に対するOPNの正の作用は、運動機能の回復につながる。この再生は、感覚運動機能の回復及び形態学的試験に従い測定することができる。従って本研究において、電気生理学的記録及び組織形態学的分析を、同時に行った。
【0353】
材料及び方法
動物
84匹の8週齢の雌C57bl/6 RJマウス(Elevage Janvier、Le Genest-St-lsle.、仏国)を用いた。これらは7群に分けた(n=12):(a)媒体で偽手術した群;(b)媒体で神経圧挫手術した群;(c)神経圧挫/オステオポンチン(1μg/kg);(d)神経圧挫/オステオポンチン(10μg/kg);(e)神経圧挫/オステオポンチン(100μg/kg);(f)神経圧挫/4-メチルカテコール(10μg/kg);(g)神経圧挫/変性したオステオポンチン(100μg/kg)。
これらは、群飼いし(5匹の動物/檻)、管理された温度(21〜22℃)及び逆転した昼夜サイクル(12時間/12時間)で、餌及び水は自在摂取するようにして維持した。全ての実験は、施設の指針に従い行った。
【0354】
坐骨神経の病変
これらの動物を、60mg/kgのケタミン塩酸塩(Imalgene 500、Rhone Merieux. Lyon、仏国)のIP注射により麻酔した。右側坐骨神経を、中大腿レベルで手術により露出し、かつ坐骨神経の三分枝へ5mmと近接した部位で圧挫した。神経は、止血用鉗子(幅1.5mm;Koenig; Strasbourg;仏国)で、30秒間2回圧挫し、各圧挫の間に90度回転させた。
【0355】
実験及び薬物療法の計画
筋電図(EMG)試験を、手術日の前に1回(ベースライン)、及び術後3週間の間は毎週行った。
【0356】
神経圧挫手術の日は、0日目(D0)とみなした。圧挫後4日間は試験を行わなかった。
体重及び生存率は、毎日記録した。
【0357】
神経損傷の日から試験終了時まで、オステオポンチン及び変性したオステオポンチンは、毎日SC経路で投与したのに対し、4-メチルカテコールの毎日の注射はIPで行った。
第4週目に、各群4匹の動物を屠殺し、坐骨神経を切断し、形態学的分析を行った。
【0358】
電気生理学的記録
電気生理学的記録を、Neuromatic 2000M筋電図測定装置(EMG)(Dantec, Les Ulis、仏国)を用いて行った。マウスは、ケタミン塩酸塩(Imalgene 500(登録商標)、Rhone Merieux. Lyon、仏国)100mg/kgの腹腔内注射により麻酔した。加温ランプにより、30℃で、正常体温を維持し、かつ尾の上に配置した接触式体温計(Quick, Bioblock Scientific, Illkirch. 仏国)により管理した。
【0359】
複合筋肉活動電位(CMAP)を、中より上の強度(12.8mA)で、坐骨神経の単回の0.2ms刺激により、腓腹筋において測定した。活動電位の振幅(mV)、潜伏時間(ms)及び持続期間(脱分極及び再分極活動(session)に必要な時間)を測定した。振幅は、活動運動単位(active motor unit)の数を示しているが、遠位潜伏時間は、運動神経伝導及び神経筋伝達速度を間接的に反映している。
【0360】
形態計測解析
形態計測解析は、神経圧挫後3週間で行った。1群につき4匹の無作為に選択した動物を、この解析に使用した。これらは、Imalgene 500の100 mg/kg、IP注射により麻酔した。坐骨神経の5mmセグメントを、組織学的検査のために切り出した。組織を、リン酸緩衝液(pH7.4)中のグルタルアルデヒドの4%水溶液(Sigma社, L'lsle dAbeau-Chesnes, 仏国)で一晩固定し、かつ使用時まで、30%ショ糖中で+4℃で維持した。この神経は、リン酸緩衝液中の2%四酸化オスミウム(Sigma社, L'lsle d'Abeau-Chesnes, 仏国)で、2時間固定し、かつ連続アルコール溶液で脱水し、かつEpon中に包埋した。その後包埋した組織を、+70℃で、3日間重合させた。1.5μmの横断切片を、ミクロトームで作成し、1%トルイジンブルー(Sigma社、LIsle d'Abeau-Chesnes, 仏国)で2分間染色し、脱水し、かつEukittに搭載した。1試料につき20切片を、光学顕微鏡(Nikon社、東京、日本)を用いて観察し、かつ1個の神経試料につき6個の無作為化した切片について形態計測解析を、半自動式デジタル画像解析ソフトウェア(Biocom社、仏国)を用い行った。1切片につき2視野を試験した。以下のパラメータを試験した:変性線維の割合(1視野につき)及び線維の総数。
【0361】
データ解析
このデータの全般的解析は、ひとつの因子又は繰返しのあるANOVA及び一元配置ANOVA、並びにノンパラメトリックな検定(Mann Whitney検定)を用いて行った。更に適当な場合は、Dunnett検定を用いた。有意性レベルは、p<0.05と設定した。これらの結果は、平均±平均の標準誤差(s.e.m.)で表わした。
【0362】
結果
全ての動物が、神経圧挫手技後に生存していた。EMG評価時の麻酔のために、1匹のマウス(神経圧挫/媒体n°2)が7日目に、並びに2匹(媒体偽手術したn°3及びn°6)が14日目に死亡した。
【0363】
動物体重
図17に示したように、本試験を通じて体重評価における群間の有意性が認められた[F(6, 132)=1.93及びp<0.001;繰返しのあるANOVA]。
全ての異なる群が本試験を通じての体重の増加を示した。
【0364】
電気生理学的測定
複合筋活動電位の振幅(図18):
本試験を通じCMAPの振幅には、群間の有意差があった[F(6, 18)=49.185及びp<0.001;繰返しのあるANOVA](図19)。
【0365】
神経損傷後、神経圧挫を受けた全ての動物が、偽手術した群と比べ、CMAP振幅の有意な減少を示した(p<0.001;Dunnett検定)。
【0366】
更に、D7及びD14に、オステオポンチン100μg/kg又は4-メチルカテコール10μg/kgで処理したマウスのCMAP振幅は、神経圧挫/媒体群よりも有意に高かった(p<0.05;Dunnett検定)。
【0367】
神経圧挫/媒体群と神経圧挫/D-オステオポンチン100μg/kg群の間に有意差は認められなかった。
【0368】
複合筋活動電位の潜伏時間(図19):
【0369】
図20に示したように、CMAP潜伏時間において群間有意差が認められた[F(6, 18)=2.521及びp<0.001;反復測定ANOVA]。D21に、神経圧挫群は、偽手術した群と比べ、増大したCMAP潜伏時間を示した(p<0.001;Dunnett検定)。更に、オステオポンチン10及び100μg/kg処理は、有意な作用を示し、実際これらの群の潜伏時間は、神経圧挫/媒体群よりも有意に小さかった(p=0.017;Dunnett検定)。
【0370】
神経圧挫/媒体群と神経圧挫/D-オステオポンチン100μg/kg群の間に有意差は存在しなかった。
【0371】
複合筋活動電位の持続期間(図20):
本試験を通じCMAP持続期間において群間有意差が存在した[F(6, 18)=25.15及びp<0.001;繰返しのあるANOVA](図20)。
【0372】
D7から、CMAP持続期間の有意な増加が、神経圧挫群において認められた(偽手術群 vs 神経圧挫群、p<0.001;Dunnett検定)。更にD7に、神経圧挫/オステオポンチン100μg/kg群は、神経圧挫/媒体群よりも持続期間の有意な減少を示した(p<0.001;Dunnett検定)。
【0373】
D14及びD21に、下記3群は、神経圧挫/媒体群と比べ、持続期間の有意な減少を示した:(a)神経圧挫/オステオポンチン10μg/kg;(b)神経圧挫/オステオポンチン100μg/kg;(C)神経圧挫/4-メチルカテコール10μg/kg。
更に、神経圧挫/媒体群及び神経圧挫/D-オステオポンチン100μg/kg群においては、有意差は認められなかった。
【0374】
形態計測解析
変性繊維の割合(図21):
統計解析は、1視野当りの変性線維の割合の群間有意差を明らかにした(p<0.001;一元配置ANOVA)(図22)。全ての神経圧挫群が、変性線維の有意に増加した割合を示した(p<0.001、Dunnett検定)。更に、神経圧挫/処理マウスは、神経圧挫/媒体群よりも、有意に低い割合を示した(p<0.001;Dunnett検定)。更に、D-オステオポンチン(100μg/kg)処理群は、オステオポンチン-処理群よりもより高い変性線維の割合を示した(p<0.001;Dunnett検定)。
【0375】
線維総数(図22):
切片は、光学顕微鏡を用いて観察し、かつ形態計測解析は、Visiolab 2000ソフトウェア(Biocom社、Paris、仏国)の助けを借りて行った。1匹の動物につき5切片、1切片につき2視野を解析した。機能的に有髄線維のみを、コンピュータにより記録した(全ての変性線維は、変性を伴うことを意味し、ミエリン鞘は記録しなかった)。
【0376】
結論
神経圧挫モデルは、末梢ニューロパシーの非常に劇的なモデルである。神経圧挫直後に、機械的損傷のために、大きい直径の線維の大半が失われ、このことは、CMAP振幅の強力な減少につながる。CMAP潜伏時間は、すぐには影響を受けないが、続発する免疫が媒介した変性(マクロファージ、顆粒球)による、小さい直径の線維の更なる変性のために、21日目に増加を示す。CMAP持続期間は、7日目に増大し、14日目にピークに達し、かつ21日目に、7日目の時点と同等のレベルに戻った。これは、21日目に、圧挫病変は、再生のために、ニューロパシー状態に関連した関心のある追加の突起が可能になるという事実によるものである。この軸索の出芽/再生は、3週目の時点で、対照群においても明かであった。
【0377】
オステオポンチンは、マウスの神経圧挫モデルにおいて、保護作用を示した。感覚運動機能は、損傷後7、14及び21日目に、用量依存的に有意に回復し、並びに圧挫後21日目に行った形態学的試験は、変性線維の割合の有意な減少及び線維総数の増加を示しているOPNは、本試験において使用した対照分子4-メチルカテコールと同程度有効であり、並びに熱で失活し、変性したOPNタンパク質は、機能的又は組織学的パラメータに対し有意な作用を示さない。この機能的又は組織学的回復に対する正の作用は、以下に関するOPN作用によるものであろう:
−続発する免疫が媒介した変性からの線維の直接の保護;
−促進された髄鞘再形成及び軸索保護;
−障害を受けた軸索の促進された再生/出芽;
−マクロファージにより清掃された増大したミエリン破片。
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は概して、神経疾患及び障害の分野である。これは、神経保護、神経の髄鞘形成及びミエリン産生細胞の形成又は再生に関する。特に、これは、脱髄疾患及び神経変性疾患、ニューロパシー、外傷性神経損傷、脳卒中及び先天性代謝障害に起因した神経疾患に関する。より詳細に述べると、本発明は、神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造のための、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
神経の髄鞘形成は、中枢神経系(CNS)及び末梢神経系(PNS)の区画の形成及び機能において本質的過程である。軸索の周りのミエリン鞘は、神経に沿った電気インパルスの適切な伝導に必要である。ミエリン喪失は、多くの疾患を引き起こし、とりわけCNSに影響する多発性硬化症(MS)、ギラン・バレー症候群、CIDPなどがある(Abramsky及びOvadia、1997;Trojaborg、1998;Hartungら、1998参照)。様々な病因論の一方で、例えば感染性病原体又は自己免疫攻撃などの、脱髄疾患が全て、神経機能の喪失を引き起こし、かつ麻痺及び死亡につながることがある。本治療的物質は、MSにおける炎症攻撃を軽減しかつ疾患進行を遅らせるが、髄鞘再形成及び神経機能の回復につながる療法を開発する必要がある(Abramsky及びOvadia、1997;Pohlauら、1998)。
【0003】
外傷、低酸素及び虚血を含む急性の傷害により誘導されたCNSに対する損傷は、ニューロン及び白質の両方に影響を及ぼし得る。神経死につながる過程にほとんどの注意が集中しているが、増大しつつある証拠は、軸索を髄鞘形成する希突起膠細胞に対する損傷も、CNS損傷の特異的構成要素であることを示唆している。従って、希突起膠細胞の病理は、ラットにおいて脳卒中後非常に早期相(3時間)で明らかになり、このことはこれらの細胞が神経細胞よりも興奮毒性事象に対しより脆弱でさえあることを示唆している(Pantoniら、1996)。ひとつの可能性のある細胞死を媒介する候補は、多くの急性CNS損傷に随伴するグルタミン酸濃度の著しい上昇である(Liptonら、1994)。実際、ニューロンに加え、希突起膠細胞も、機能的グルタミン酸受容体を発現することがわかっており、これはAMPA/カイニン酸サブタイプに属する。更に希突起膠細胞は、グルタミン酸適用に対し高度の脆弱性を示す(McDonaldら、1998)。
【0004】
外傷は、神経の損傷又は障害である。これは、筋肉制御及び感覚を含む、損傷のレベルで及びそれ以下で制御される全ての神経機能に影響を及ぼす脊髄に対する障害である脊髄外傷、又は例えば閉鎖性頭部損傷により引き起こされた外傷などの脳外傷であることができる。
【0005】
大脳低酸素症は、特に大脳半球に対する酸素の欠乏であり、より典型的にはこの用語は、全脳に対する酸素の欠乏を意味するように使用される。低酸素症の重症度に応じて、症状は、錯乱から不可逆的脳障害、昏睡及び死亡に至る範囲に及ぶことがある。
【0006】
脳卒中は、通常脳虚血により引き起こされる。これは脳血管疾患又は偶発症候とも称される。これは、脳のいずれかの部位への血液供給が断続された場合に生じる脳機能の喪失が関連している脳障害の一群である。脳は、体内循環血の約20%を必要としている。脳への主な血液供給は、頸部の2本の動脈(頸動脈)を介しており、これは次に脳内で、脳の特定部位へ各々供給する複数の動脈に枝分かれしている。例え短時間の血流断絶であっても、脳機能の減退(神経学的欠損)を引き起こすことができる。これらの症状は、影響を受けた脳の領域により変動し、一般的に視野の変化、発語の変化、体の一部の運動又は感覚の低下、もしくは意識レベルの変化ような問題点を含む。血流が数秒間よりも長い期間低下した場合は、その領域の脳細胞は破壊され(梗塞)、脳のその領域の永久障害を引き起こすか、もしくは死に至ることさえある。
【0007】
脳卒中は、ほぼ1,000人中4人が罹患する。これは、米国を含む先進国における死因の第3位である。脳卒中の有病率は、年齢と共に劇的に上昇し、そのリスクは35歳以降10年毎に倍増する。年齢65歳以上の人の約5%が、少なくとも1回の脳卒中を経験している。この障害は、女性よりも男性においてより多く発生する。
【0008】
前述のように、脳卒中は、脳の領域への血液循環の喪失により引き起こされた脳機能の喪失(神経学的欠損)に関連している。特異的神経学的欠損は、位置、障害の程度、及び障害の原因によって変動することがある。脳卒中は、低下した血流により(虚血)引き起こされ、不充分な血液供給及びその領域における組織の死滅(梗塞)を生じることがある。虚血性脳卒中の原因は、脳内に形成された血餅(血栓)及び他の部位から脳へ移動する血餅又は粥状斑の小片又は他の物質(塞栓)である。脳内の出血(bleeding)(出血(hemorrhage))は、脳卒中に似た症状を引き起こすことがある。
【0009】
脳卒中の最も一般的な原因は、アテローム性動脈硬化症(脳血栓症)に続発する脳卒中である。アテローム性動脈硬化症(「動脈の硬化」)は、動脈の内層への脂肪沈着が生じる状態であり、かつ粥状斑(脂肪付着物及び血小板からなる塊)が発生する。動脈閉塞は緩徐に発生する。粥状斑は、必ずしも脳卒中を引き起こさない。様々な脳動脈間には多くの小さい連結がある。血流が徐々に減少すると、これらの小さい連結が、サイズが増大し、かつ妨害された領域への「バイパス」となる(側副循環)。十分な側副循環が存在する場合、例え全体的に動脈が遮断されたとしても、神経学的欠損は生じないことがある。第二の脳内の安全機構は、動脈は、血管の75%が閉塞されたとしても十分な大きさであり、そこには依然脳のその領域への適切な血流が存在することである。
【0010】
血栓性脳卒中(血栓により引き起こされた脳卒中)は、高齢者においては最も一般的であり、かつアテローム性心疾患又は真性糖尿病が原因となることが多い。この型の脳卒中は、安静時を含むいつでも起こり得る。患者は意識を失うことも、失わないこともある。
【0011】
塞栓(血餅の移動)により引き起こされた脳卒中は、心障害が原因で発生しその後脳に移動する血塊である心原性塞栓に続発する最も一般的な脳卒中である。塞栓は、特に粥状斑の存在する他の領域を起源とすることもある。塞栓は血流により移動し、かつ脳の小動脈において詰まり始める。この脳卒中は、突然発生し、直ちに最大の神経欠損を伴う。これは、活動レベルには関係が無く、いつでも起こり得る。通常この障害においては心不整脈が認められ、かつ塞栓の原因であることが多い。脳への障害は、脳血栓により引き起こされた脳卒中よりもより深刻であることが多い。意識は、失われることも、失われないこともある。可能性のある転帰は、脳卒中性破裂及び出血により血管が損傷された場合に最悪である(出血性脳卒中)。
【0012】
末梢ニューロパシーは、感覚喪失、筋肉虚弱及び萎縮、深部腱反射の低下、並びに血管運動症状の、単独又はいずれかの組合せの症候群である。
【0013】
この疾患は、単一の神経(単ニューロパシー)、個別の領域における2個又はそれよりも多い神経(多発性単ニューロパシー)、又は同時に多くの神経(多発ニューロパシー)に影響を及ぼすことがある。軸索(例えば、真性糖尿病、ライム病、又は尿毒症もしくは毒物)又はミエリン鞘もしくはシュワン細胞(例えば、急性又は慢性炎症性多発ニューロパシー、白質萎縮症、又はギラン・バレー症候群)が、主に影響を受ける。小さい髄鞘形成されない線維及び有髄線維は、主に温度感覚及び痛覚の喪失を生じ;大きい有髄線維の障害は、運動又は固有受容欠損を生じる。一部のニューロパシー(例えば、リード毒物、ダプソン使用、マダニの咬傷、ポルフィリン症、又はギラン・バレー症候群に起因するもの)は、主に運動神経線維に影響を及ぼし;他のもの(例えば、癌の脊髄後根神経節炎、ライ、AIDS、真性糖尿病、又は慢性ピリドキシン中毒に起因するもの)は、主に脊髄後根神経節又は感覚神経線維に影響を及ぼし、感覚症状を生じる。場合によっては、脳神経も関与している(例えば、ギラン・バレー症候群、ライム病、真性糖尿病、及びジフテリア)。関連したモダリティの確定は、原因の決定を助ける。
【0014】
外傷は、単独の神経への局所的損傷の最も一般的な原因である。暴力的筋肉活動又は関節の強制的な過伸展が、病巣性ニューロパシーを生じることがあり、小さい外傷(例えば、小さい道具の窮屈な握り、エア・ハンマーによる過剰な震え)が繰り返されることもある。圧迫麻痺又は捕捉麻痺は、通常骨隆起部(例えば、痩せた又は悪液質の患者及び時にはアルコール依存者において熟睡もしくは麻酔の間)で、又は狭い管(例えば、手根管症候群)では、表在性神経(尺骨神経、橈骨神経、腓骨神経)に影響を及ぼす。圧迫麻痺は、腫瘍、骨化過剰症、ギブス、松葉杖、又は長期の拘束された体位からも生じることがある。神経への出血及び寒冷又は放射線への曝露は、ニューロパシーを引き起こすことがある。単ニューロパシーは、直接腫瘍侵襲から生じることがある。
【0015】
多発性単ニューロパシーは通常、コラーゲン血管障害(例えば、結節性多発性動脈炎、SLE、シェーングレン症候群、RA)、サルコイドーシス、代謝性疾患(例えば、糖尿病、アミロイドーシス)、又は感染性疾患(例えば、ライム病、HIV感染症)に続発する。微生物は、神経の直接侵襲により(例えばライにおいて)、多発性単ニューロパシーを引き起こすことがある。
【0016】
急性有熱性疾患に起因した多発ニューロパシーは、毒素(例えばジフテリアにおいて)又は自己免疫反応(例えば、ギラン・バレー症候群において)から生じることがあり;時々免疫感作後に続く多発ニューロパシーは、恐らく自己免疫であろう。
【0017】
毒性物質は、一般に多発ニューロパシーを引き起こすが、時には単ニューロパシーを引き起こす。これらは、エメチン、ヘキソバルビタール、バルビタール、クロロブタノール、スルホンアミド、フェニトイン、ニトロフラントイン、ビンカアルカロイド、重金属、一酸化炭素、トリオルトクレシルリン酸、オルトジニトロフェノール、多くの溶媒、他の産業毒素、及びある種のAIDS治療薬(例えば、ザルシタビン、ジダノシン)を含む。
【0018】
栄養欠乏症及び代謝障害は、多発ニューロパシーから生じることがある。ビタミンB欠乏症は、原因であることが多い(例えば、アルコール中毒、脚気、悪性貧血、イソニアジドで誘導されたピリドキシン欠乏症、吸収不良症候群、及び妊娠悪阻)。多発ニューロパシーは、甲状腺機能低下、ポルフィリン症、サルコイドーシス、アミロイドーシス、及び尿毒症においても生じる。真性糖尿病は、感覚運動の遠位多発ニューロパシー(最も一般的)、多発性単ニューロパシー、及び病巣性単ニューロパシー(例えば、眼球運動又は外転の脳神経)を引き起こすことができる。
【0019】
悪性のものは、モノクローナル高ガンマグロブリン血症による多発ニューロパシー(多発性骨髄腫、リンパ腫)、アミロイド侵襲、又は栄養欠乏症又は腫瘍外性の症候群を引き起こすことがある。
【0020】
特異的単ニューロパシー:単独又は複数の単ニューロパシーは、罹患した神経の分布における疼痛、虚弱及び感覚異常により特徴付けられる。多発性単ニューロパシーは、非対称性であり;神経は、全て一度に又は徐々に関与される。多くの神経の過度の広範囲の関与は、多発ニューロパシーに似ている。
【0021】
尺骨神経麻痺は、しばしば繰り返し肘にもたれること又は幼児時代の骨折後の非対称骨形成(遅々とした尺骨神経麻痺)により、肘の尺骨溝中の神経に対する外傷により生じることが多い。尺骨神経は、肘トンネルで圧迫されることがある。第五指及び第四指の内側半分の感覚異常及び感覚喪失が生じ;親指内転筋、第五指内転筋、及び骨間筋肉は、弱くかつ萎縮される。重度の慢性尺骨神経麻痺は、鷲手変形を生じる。神経伝導試験は、その病変部位を確定することができる。保存療法は、手術による修復を試みる前に試みるべきである。
【0022】
手根管症候群は、横走表在性の手根靱帯と手を屈曲する前腕筋の縦腱の間の手首の手掌面における正中神経の圧迫から生じる。これは、片側性又は両側性であることができる。この圧迫は、手の橈骨-手掌面の感覚異常並びに手首及び手掌の疼痛を生じ;時には、疼痛は、前腕及び肩の圧迫部位の近位に生じる。疼痛は夜間に一層強くなることがある。最初の3本の指の手掌面の感覚喪失が続き;親指外転及び対位(opposition)を制御している筋肉は、弱くなり萎縮し始める。この症候群は、脳神経根障害に起因したC-6根圧迫とは区別されなければならない。
【0023】
腓骨神経麻痺は、通常、腓側頸部の側面に対する神経の圧迫により引き起こされる。これは、衰弱した寝たきりの患者及び脚を組む習慣のある痩身のヒトにおいて最も一般的である。脚背屈の衰弱及び外転(下垂足)が生じる。場合によっては、下肢及び脚の背側の前外側面上又は第1及び第2中足骨の間の膜隙(web space)内に、感覚欠損が生じる。圧迫性ニューロパシーについて、治療は、通常保存的である(例えば、脚を組むことを避ける)。不完全なニューロパシーは、通常自然発生的に臨床の改善及び一般的改善が続く。回復が生じない場合は、外科的診断が適応となる。
【0024】
橈骨神経麻痺(サタデーナイト麻痺)は、例えば中毒又は深い睡眠時に椅子の背にもたれた腕のような、上腕骨に対する神経の圧迫により引き起こされる。症状は、手首伸筋及び指伸筋の衰弱(下垂手)、並びに場合によっては第1指背側骨間の筋の背面全体の感覚喪失を含む。治療は、圧迫性腓骨ニューロパシーに類似している。
【0025】
多発ニューロパシーは、比較的対称性であり、感覚、運動及び血管運動線維に同時に影響を及ぼすことが多い。これらは、軸索又はミエリン鞘に影響を及ぼすことがあり、かついずれの形においても、急性(例えば、ギラン・バレー症候群)又は慢性(例えば、腎不全)であることがある。
【0026】
代謝障害(例えば、真性糖尿病)又は腎不全に起因した多発ニューロパシーは、多くは数ヶ月から数年にわたり、ゆっくりと発症する。これは、近位よりも遠位により重症であることが多い、下肢の感覚異常を伴い始まることが多い。末梢のうずき、しびれ、灼熱痛、又は関節の固有感覚喪失及び震え性の知覚が顕著であることが多い。疼痛は、夜間に増悪することが多く、かつ罹患部位への接触又は温度変化により悪化することがある。重症の場合、典型的にはstocking/-and-glove分布を伴う、感覚喪失の客観的徴候がある。アキレス腱及び他の深部腱の反射は、減少するか又は存在しなくなる。指又はシャルコー関節上の無痛性潰瘍が、感覚喪失が深刻な場合に発症することがある。感覚又は固有受容の欠損は、歩行異常につながることがある。運動に関係する場合は、遠位筋の衰弱及び萎縮を生じる。自律神経系が、追加的又は選択的に関与することがあり、夜間の下痢、尿及び便の失禁、インポテンス、又は体位性低血圧につながる。皮膚は、正常な状態よりも青ざめかつ乾燥し、時には暗褐色に変色し;過剰に発汗することがある。栄養変化(滑らかで艶のある皮膚、窪みや稜線のある爪、骨粗鬆症)は、一般に重症で長期の症例である。
【0027】
栄養性多発ニューロパシーは、アルコール中毒者及び栄養失調者において共通している。原発性軸索障害は、最長及び最大の神経において、続発性の脱髄及び軸索破壊につながることがある。原因がチアミン又は他のビタミン(例えば、ピリドキシン、パントテン酸、葉酸)の欠乏であるかどうかは、不明である。ピリドキシン欠乏に起因したニューロパシーは、通常結核のためにイソニアジドを服用する患者においてのみ発生する;ピリドキシン欠乏又は依存の乳児は、痙攣を起こすことがある。遠位肢のるいそう及び対称性衰弱は、通常潜伏性であるが、迅速に進行することがあり、時には感覚喪失、感覚異常、及び疼痛を伴う。腓腹及び脚のうずき、痙攣、寒気、火傷及びしびれは、接触により増悪することがある。病因が曖昧である場合、複数のビタミンが投与されるが、それらの恩恵は証明されていない。
【0028】
稀に、専ら感覚性の多発ニューロパシーが、末梢疼痛及び感覚異常を伴い始まり、並びに主に全ての感覚の喪失へと進行する。これは、過剰なピリドキシン摂取(>0.5g/日)後の癌腫(特に気管支原性)、並びにアミロイドーシス、甲状腺機能低下、骨髄腫及び尿毒症における、遠位作用として生じる。ピリドキシンが誘導したニューロパシーは、ピリドキシンが中断された場合には消散する。
【0029】
遺伝性ニューロパシーは、感覚運動ニューロパシー又は感覚ニューロパシーに分類される。シャルコー・マリー・トウース病は、最も一般的な遺伝性感覚運動ニューロパシーである。余り一般的でない感覚運動ニューロパシーは、誕生と共に始まり、かつより大きい不能を生じる。感覚ニューロパシーは稀であるが、遠位部疼痛及びの体温感覚の喪失が、震え及び位置感覚の喪失よりもより顕著である。大きい問題点は、頻繁な感染症及び骨髄炎を伴う、疼痛の無感覚による足の断節である。
【0030】
遺伝性運動及び感覚ニューロパシーI及びII型(シャルコー・マリー・トウース病、腓骨筋肉萎縮)は、主に腓骨及び遠位脚筋における衰弱及び萎縮により特徴付けられる、かなり一般的で、通常の常染色体優性疾患である。患者は更に、他の変性疾患(例えば、Fnedreich運動失調)又はそれらの家族歴も有する。下垂足を伴うI型の患者は、小児期半ばに存在し、ゆっくり遠位筋萎縮へ進行し、「コウノトリ脚(stork leg)」を生じる。手の内因性筋肉るいそうは、更に後に始まる。震え、疼痛、及び温度感覚は、stocking-gloveパターンで低下する。深部腱反射は存在しない。高い土踏まず又はハンマー足指は、本疾患を有するが影響の少ない家族員の唯一の徴候である。神経伝導速度は遅く、遠位潜伏期は延長される。分節化された脱髄及び髄鞘再形成が生じる。肥大した末梢神経は、触診することができる。本疾患は、緩徐に進行し、寿命には影響を及ぼさない。II型疾患は、よりゆっくりと発症し、通常衰弱はより晩年に生じる。患者は、比較的正常な神経伝導速度を有するが、低い振幅が誘起した電位を有する。生検標本は、ウォーラー変性を示す。
【0031】
遺伝性運動及び感覚ニューロパシーIII型(肥厚性間質性ニューロパシー、デジェリン・ソックス病)は、稀な常染色体劣性疾患であり、進行性の衰弱及び感覚喪失を伴い小児期に始まり、かつ深部腱反射は存在しない。最初に、これはシャルコー・マリー・トウース病に類似しているが、運動衰弱は、より迅速な速度で進行する。脱髄及び髄鞘再形成が生じ、神経生検標本において認められた肥大した末梢神経肥厚及びタマネギ茎を生じる。
【0032】
運動衰弱、足の変形、家族歴及び電気生理学的異常の特徴的分布は、本診断を確定する。遺伝子解析は、利用可能であるが、特異的治療ではない。疾患進行について若い患者が準備するための職業カウンセリングは、有用であり得る。装具(bracing)は、下垂足の矯正を補助し;足を安定化するための整形外科的手術は、助けとなり得る。
【0033】
神経変性疾患は、とりわけ、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む。
【0034】
アルツハイマー病は、脳組織の変化から生じる精神機能の変質に関連する障害である。これは、血管の障害に起因しない、脳組織の萎縮、原発性変性性痴呆及びびまん性脳萎縮を含む。アルツハイマー病は、アルツハイマー型老人性痴呆(SDAT)とも称される。これは、加齢に伴う知力減退の最も一般的原因である。発生率は、10,000人におよそ9人である。この障害は、男性よりも女性が罹患することが多く、主に高齢者において発症する。
【0035】
その原因は不明である。本疾患の発生に関与し得る神経化学的要因は、アセチルコリン、ソマトスタチン、サブスタンスP、及びノルエピネフリンを含む、神経インパルスを伝達するために神経細胞により使用される物質(神経伝導物質)の欠乏である。環境要因は、アルミニウム、マグネシウム及び他の物質への曝露を含む。感染性要因は、脳及び脊髄(中枢神経系)に影響を及ぼすプリオン(ウイルス-様生物)感染症を含む。一部の家系においては(症例の5〜10%を占める)、本障害を発症する遺伝的疾病素因が存在するが、これは厳密な(メンデルの)遺伝則には従わない。この診断は通常、痴呆の他の原因を除外するものではない。
【0036】
研究者らは、複数のアルツハイマー患者のいる家系において、本疾患の患者全てに共通である特定の遺伝子変動が存在することを発見した。アポリポタンパク質E4と称される物質を産生する遺伝子は、本疾患を生じるとは言われておらず、その存在は、本疾患が実際に生じる機会を単純に増大する。E4遺伝子を有する、神経がアルツハイマーに罹患しない多くの人々が存在する。
【0037】
その開始は、知的機能の進行性の喪失を伴う、損なわれた記憶により特徴付けられる。そこには、気分の変化、言語能力の変化、歩行の変化、及び本障害進行時の他の変化が生じることがある。脳組織のサイズの縮小(萎縮)、脳室(脳内空間)の肥大、及び脳組織内の沈着が存在する。
【0038】
パーキンソン病は、振戦並びに歩行、運動及び共調の困難を特徴とする、脳の障害である。本疾患は、筋肉運動を制御する脳の一部の障害に関連している。これは、振戦麻痺(paralysis agitans又はshaking palsy)とも称される。
【0039】
この疾患は、1,000人中およそ2人が罹患し、かつ最も頻発するのは年齢50歳以降である。これは男女両方が罹患し、かつ高齢者の最も一般的な神経障害のひとつである。用語「パーキンソニズム」は、この症候群を引き起こす最も一般的状態で生じる、パーキンソン病で認められる運動変化の型の組合せが関連したいずれかの状態を意味する。パーキンソニズムは、他の障害又は外部要因(続発性パーキンソニズム)により引き起こされることがある。
【0040】
パーキンソン病は、筋肉運動を制御する脳の一部の神経細胞(基底核及び錐体外路領域)の進行性の変質により引き起こされる。ドパミンは、インパルス伝達のために細胞により使用される物質(伝達物質)のひとつであるが、これは、通常この領域で産生される。脳のこの領域の変質は、体が利用可能なドパミンの量を減少する。不充分なドパミンは、ドパミンとアセチルコリンのような他の伝達物質の間の釣り合いを乱す。ドパミンなしでは、神経細胞は、適切にメッセージを伝達することができず、これは筋肉機能の喪失を生じる。脳組織が変質する正確な理由は不明である。本疾患は、体の一側又は両側に影響を及ぼし、機能喪失の程度は変動する。
【0041】
パーキンソン病患者の一部は、筋肉制御の喪失に加え、重度に抑鬱される。精神能の初期の喪失は一般的ではないが、重度のパーキンソン病の者は、全般的精神機能変質を示すことがある(痴呆、幻覚などを含む)。痴呆はまた、本疾患を治療するために使用されるいくつかの医薬品の副作用でもある。
【0042】
ハンチントン病は、遺伝性の常染色体優性神経疾患である。これは一般的ではなく、ほぼ10000人にひとりが罹患する(Breighton及びHayden、1981)。本疾患は、通常50代くらいまでは臨床的に顕在化されず、かつ精神医学障害、不随運動障害、及び認知減退を生じ、典型的には発症17年後の死の転帰への冷酷な進行を伴っている。
【0043】
ハンチントン病に寄与する遺伝子は、ハンチンチンと称される。これは、染色体4p番上に位置し、前臨床及び出生前診断の有効な手段を提示している。この遺伝的異常は、過剰な数の縦列反復されたCAGヌクレオチド配列にある。
【0044】
ハンチントン病患者におけるCAG反復配列のサイズの増大は、臨床特徴の発症年齢と高度に有意な相関関係を示している。この関係は、特に非常に有意な広がりの、通常50個を超える反復配列を有する若年発症のハンチントン病患者にとって衝撃的である。ハンチントン病家系のCAG反復配列の長さは若干の不安定性を示し、これは子供が罹患した父親からハンチンチン遺伝子を受け継いだ場合に顕著である。
【0045】
HDにおいて、どのようにしてこの広範に発現された遺伝子が、選択的神経死を生じるかはわかっていない。更に配列解析は、他の公知の遺伝子との明白な相同性を明らかにして居らず、及びその機能に関する洞察を明らかに提供する構造モチーフ又は機能ドメインは、同定されていない。特に、いかにしてこれらの広範に発現された遺伝子が選択的神経死を引き起こすかの疑問は回答が得られぬままである。
【0046】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳及び脊髄における神経細胞の破壊のために、進行性の随意筋の神経制御の喪失を引き起こす障害である。筋萎縮性側索硬化症はLou Gehrig's病とも呼ばれ、これは、筋肉の使用及び制御の喪失に関連する障害である。これらの筋肉を制御する神経は、縮小しかつ消失し、このことは神経刺激の欠如による筋肉組織の喪失を生じる。筋肉の強度及び共調の減少が、随意筋(腕及び足の筋肉のように、意識制御下にあるもの)で始まる。筋肉制御喪失の程度は進行し続け、次第に多くの筋肉群が関与し始める。呼吸及び嚥下を制御する筋肉のような半随意筋への神経刺激の喪失も存在することがある。思考及び判断の能力に対する影響はない。その理由は不明である。
【0047】
ALSは、100,000人におよそひとり罹患する。一部の症例においては、家系で遺伝しているように見える。本疾患は女性よりも男性がより頻繁に罹患する。症状は通常、成人するまで発症せず、50歳以降まで発症しないことも多い。
【0048】
外傷性神経損傷は、CNS又はPNSに関することがある。簡単に頭部損傷又は閉鎖性頭部外傷(CHI)とも称される外傷性脳損傷(TBI)は、頭部への外からの強打のために脳に対する障害が存在する損傷を意味する。これは、大部分は自動車又は自転車の事故時に生じるが、溺水、心臓発作、脳卒中及び感染症の結果として生じることもある。この種の外傷性脳損傷は、通常脳への酸素又は血液供給の途絶の結果であり、従って「無酸素損傷」と称することができる。
【0049】
脳損傷又は閉鎖性頭部外傷は、自動車事故又は転倒時に頭部を強打した場合に生じる。この場合、頭蓋は、静止した物体にぶつかり、頭蓋の内側の脳は、その軸(脳幹)で回転し及び捻れ、局所的又は広範な障害を生じる。同じく「浮遊」することができるように液体により取り囲まれている軟質塊である脳は、頭蓋に対してはね返り、更なる障害を生じる。
【0050】
この外傷直後に意識不明の期間が存在することもあり、これは数分間、数週間、又は数ヶ月間続くことがある。捻れ及びはね返りのために、この外傷により脳損傷した患者は、通常脳の多くの部分に障害又は挫傷を受ける。これは、脳の拡散性障害、又は「非-ミサイル(non-missile)損傷」と称される。非-ミサイル損傷を生じる型の脳障害は、原発性又は続発性のいずれかに分類される。
【0051】
原発性脳障害は、損傷時に、主に衝撃部位に生じ、特に頭蓋骨骨折(skull fraction)が存在する場合に生じる。大きい打撲傷は、脳内出血に関連するか、又は皮質裂傷を随伴することがある。びまん性軸索損傷は、頭蓋内の脳の回転運動により生じた神経突起の剪断及び張力緊張の結果として生じる。そこには軸索への小さい出血性病変又はびまん性損傷が存在することがあり、これは顕微鏡によってのみ検出することができる。
【0052】
続発性脳障害は、損傷時点の以後に生じる合併症の結果として生じる。これらは、頭蓋内出血、脳外動脈の外傷性障害、頭蓋内ヘルニア、低酸素性脳損傷又は髄膜炎を含む。
【0053】
開頭的損傷は、頭部への可視できる攻撃であり、かつ銃弾による創傷、事故又は頭蓋から脳へと貫通する物体(「脳のミサイル損傷」)により生じることがある。この種の頭部損傷は、おそらく脳の特定領域を損傷するであろう。
【0054】
いわゆる軽度の脳損傷は、意識喪失を伴わずに生じることがあり、恐らく短時間朦朧とした状態又は混乱した状態が続くのみであろう。投与される医学的看護は、最小限であり、昏睡を伴わない脳損傷の患者は、昏睡損傷の生存者が罹患したものに類似した症状及び機能障害を経験することがある。
【0055】
外傷に対する反応において、更なる障害を防ぐためのモニタリングを必要とする脳において変化が生じる。脳のサイズは、重度の頭部損傷後に頻繁に増加する。これは、脳腫脹と称され、かつ脳への血液量の増加が存在する場合に生じる。本疾患後期に、水が脳に集まることがあり、これは脳浮腫と称される。脳腫脹及び脳浮腫の両方が、頭蓋内圧(ICP)と称される脳内圧力の過剰を生じる。
【0056】
脊髄損傷は、対麻痺及び四肢麻痺による入院の大半を占めている。80%以上が、交通事故の結果として生じる。開放性外傷及び閉鎖性外傷のふたつの主要な損傷群が、臨床的に認識される。
【0057】
開放性外傷は、脊髄及び神経根の直接外傷を生じる。穿孔性の損傷は、過剰な破壊及び出血を引き起こすことがある。閉鎖性損傷は、ほとんどの脊髄損傷を説明し、かつ通常脊柱の骨折/脱臼に関連しており、これは通常放射線医学的に説明可能である。脊髄に対する障害は、骨の損傷の程度に応じて変動し、かつふたつの主要な段階があると考えることができる:挫傷、神経線維離断及び出血性壊死である、一次障害、並びに、硬膜外の出血、梗塞、感染及び浮腫である、続発性障害。
【0058】
脊髄障害の後期作用は以下を含む:損傷された神経線維の上行性及び下行性の順行性変性、外傷後脊髄空洞症、及び対麻痺の全身作用、例えば尿路及び胸部の感染症、褥瘡及び筋肉るいそう。
【0059】
神経学的障害は更に、先天性代謝障害に起因するものであることができる。多くの神経線維を被覆しているミエリン鞘は、生命早期に形成されたリポタンパク質層で構成される。CNS中の希突起グリア細胞により形成されたミエリンは、シュワン細胞により末梢で形成されたものとは化学的及び免疫学的に異なるが、両型共同じ機能を有する:神経インパルスの軸索に沿った伝達を促進する。
【0060】
多くの先天性代謝障害(例えば、フェニルケトン尿症及び他のアミノ酸尿症;ティーサックス症、ニーマン・ピック症及びゴーシェ症;ハーラー症候群;クラッベ病及び他の白質萎縮症)は、主にCNSにおいて、ミエリン鞘の発達に影響を及ぼす。生化学的欠損が永久的に、しばしば広範に補正又は補償されない限りは、神経学的欠損が生じる。
【0061】
例えば、クラッベ病又はグロボイド細胞型白質萎縮は、末梢及び中枢の神経系の白質が関連する疾患である。リソソーム酵素ガラクトセレブロシダーゼ(GALC)遺伝子の突然変異は、低い酵素活性を生じ、かつほぼ独占的にミエリンにおいて認められるガラクトリピドを分解する能力を低下する。患者における連続した髄鞘形成及び/又は髄鞘再形成は、十分なGALC発現を提供するために、機能性の内因性希突起膠細胞又は正常な希突起膠細胞もしくは希突起膠細胞へと分化することができる幹細胞の移植を必要とする(Wengerら、2000)。
【0062】
神経線維腫症1(NF1)は、広範な神経学的徴候発現を伴う、一般的な常染色体障害である。
【0063】
多系統萎縮症は、散発性であり、病因が不明である成人で発症する神経変性疾患である。この状態は、原発性でない場合には、病像成因的過程において希突起グリア細胞により果たされる突出した役割により、神経変性疾患の中で独特である。パーキンソン病との大きい違いは、MSA患者は、L-ドーパ治療に反応しないことである。
【0064】
生命後期の脱髄は、多くの神経学的障害の特徴であり;これは、局所的損傷、虚血、毒物又は代謝障害に起因した、神経又はミエリンに対する障害から起こり得る。脱髄は、精神分裂病の一因となり得ることの証拠もある。過度のミエリン喪失は、通常軸索変性へと、時には細胞体変性へとつながり、これらは両方とも不可逆的である。しかし髄鞘再形成が多くの場合生じ、かつ神経機能の修復、再生及び完全な回復は、迅速であることができる。中枢(すなわち、脊髄、脳又は視神経)の脱髄は、原発性脱髄性疾患に顕著な知見であり、その病因は不明である。最も知られているものは、MSである。
【0065】
急性播種性脳脊髄炎、感染後脳脊髄炎は、血管周囲のCNS脱髄により特徴付けられ、これは自然発生的に生じるが、通常ウイルス感染症又はウイルス予防接種(又は非常に稀には細菌の予防接種)後に生じ、このことは、免疫学的原因を示唆している。ウイルス予防接種に続発する急性炎症性末梢ニューロパシー又はギラン・バレー症候群は、同じ推定される免疫学的病理を伴う類似した脱髄化障害であるが、これらは末梢構造にのみ影響を及ぼす。
【0066】
異染性白質萎縮症は、別の脱髄疾患である。副腎脳白質ジストロフィー及び副腎脊髄神経障害は、副腎不全及び神経系の広範な脱髄を特徴とする、稀なX-連鎖した劣性の代謝障害である。副腎脳白質ジストロフィーは、幼年期の男児に生じ;副腎脊髄神経障害は、青年期に生じる。精神変質、痙縮、及び失明が生じることがある。副腎脳白質ジストロフィーは常に致死的である。食事療法及び免疫変調療法が現在研究中である。
【0067】
Leberの遺伝性視神経萎縮及び関連したミトコンドリア障害は、第一に中心視力の二側性喪失を特徴としており、通常10代後半又は20代前半の若い男性が罹患する。Leberの遺伝性視神経萎縮は、MSにおける視神経炎に似ている。母系遺伝したミトコンドリアDNAの突然変異が、同定されている。
HTLV-随伴ミエロパシーは、ヒトT細胞白血病ウイルスによる感染に随伴した進行が遅い脊髄疾患であり、これは、両足の痙性の衰弱を特徴としている。
【0068】
更なる神経学的障害は、異常な髄鞘形成を伴うニューロパシーを含み、その概要は以下に示される。
【0069】
免疫:急性、ギラン・バレー症候群、慢性、慢性免疫脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、多病巣性CIDP、多病巣性運動ニューロパシー(MMN)、抗-MAG症候群、GALOP症候群、抗-スルファチド抗体症候群(血清M-タンパク質を伴う)、抗-GM2抗体症候群、POEMS症候群、多発ニューロパシー臓器巨大症、内分泌障害又は浮腫、M-タンパク質、皮膚変化、神経周膜炎、IgM抗-GD1b抗体症候群(時には)。
【0070】
毒素:ジフテリア、クロウメモドキ、ヘキサクロロフェン、シアン化ナトリウム、テルル。
【0071】
薬物:主に脱髄:クロロキン、FK506(タクロリマス)、ペルヘキシリン、プロカインアミド、ジメリジン;脱髄と軸索の混合:アミオダロン、好酸球増加症-筋痛症候群、金、スラミン、タキソール。
【0072】
遺伝性:炭水化物-欠乏糖タンパク質、白内障及び顔面異形症、コケイン症候群、先天性ミエリン形成減少症、先天性筋ジストロフィー:メロシン欠損症、ファーバー病(脂肪肉芽腫症)、HMSN & CMT、優性:IA、IB、III、HNPP、EGR2、感熱性(Thermosensitive)、劣性:III(デジエリン・ソタッス病);4A;4B;4B2;4C;4D(LOM);4E;4F;HMSN-R;CNS、X-連鎖:IX、クラッベ、Marinesco-Sjogren病、異染性白質萎縮症、ニーマン・ピック病、ぺリツェウス・メルツバッハー病(PLP)、レフサム病、プリオンタンパク質(PrP27-30):Glu200Lys突然変異、クロイツフェルト・ヤコブ病、マウスモデル:プリオン過剰発現、サラ病、SOX10、テネイシン-XA、末梢ミエリン鞘の平坦でないパッケージング、Ehiers-Danlos表現型。
【0073】
代謝(通常でない):糖尿病(併発するCIDPに起因)、甲状腺機能低下症、肝障害。
ミトコンドリア:MNGIE症候群、ミオパシー及び外眼筋麻痺、ニューロパシー、胃腸の脳障害、NARP症候群、ニューロパシー、運動失調、網膜炎、色素変性症。
感染症:クロイツフェルト・ヤコブ病、ジフテリア、HIV:随伴したCIDP、ライ:らい腫;軸索-脱髄混合;コロニー化したシュワン細胞、変種クロイツフェルト・ヤコブ病。
更なる詳細は、下記のインターネット上のサイトにおいて観ることができる:http://www.neuro.wustl.edu/neuromuscular/nother/myelin.html。
【0074】
多発性硬化症(MS)は、再発-寛解又は進行の経過をとる、中枢神経系(CNS)の炎症性脱髄疾患である。MSは、単なる脱髄疾患ではない。その末梢神経系(PNS)の対応物は、慢性炎症性脱髄性多発神経根ニューロパシー(CIDP)である。加えて、例えばPNSにおいてギラン・バレー症候群(GBS)と称される炎症脱髄多発神経根ニューロパシー、及びCNSにおける急性播種性脳脊髄炎(ADEM)のような急性の単相の障害が存在する。MS及びGBSの両方共、不均質の症候群である。MSにおいて、異なる外因性の攻撃は、遺伝因子と共に、最終的には診断基準を満たす疾患経過を生じる。両疾患において、軸索障害は、原発性脱髄病変に加えることができ、かつ永久の神経学的欠損を引き起こす。
【0075】
MSは、前記脱髄疾患で最も一般的である。これは、自己免疫障害として特徴付けられ、ここで免疫系の白血球は、中枢神経系(CNS)の白質の攻撃に着手する。灰白質も関与することがある。MSの正確な病因は不明であるが、寄与因子は、遺伝、細菌及びウイルス感染症を含むであろう。その古典的徴候発現(全症例の85%)において、これは交互の再発/寛解相により特徴付けられ、これは数種間続く神経学的機能不全、それに続く実質的又は完全な回復のエピソードに相当している(Noseworthy、1999)。寛解の期間は、次第に短くなっていく。その後多くの患者が、部分的回復を伴う又は回復を伴わない神経学的機能の段階的喪失を特徴とする最終病相に入る。これは、続発性進行性MSと称される。小さい割合(全MS患者の〜15%)は、本疾患の発症に続く神経学的機能の段階的及び非断続的減退に罹患している(原発性進行性MS)。現在、通常致死的であるMSの最も重症な型についての明確な治癒的治療法はない。
【0076】
MSの基本となる顕著な特徴は、脳及び脊髄の白質路に認められる、反応性グリア瘢痕形成を伴う、脱髄斑である。脱髄は、機能低下又は神経インパルス伝導の遮断に連鎖されている。軸索離断及び死も、MS患者において認められる(Bjartmarら、1999)。病理学的研究は、視神経、室周囲の白質、脳幹及び脊髄に限定された大きな関与を示している(Storchら、1998)。これらのCNS欠損の作用は、複視、無感覚及び不安定な歩行の急性症状に加え、痙性の不全対麻痺及び失禁のような慢性症状を含む。
【0077】
MS病理進行の基礎をなす分子機序は、ウイルス及び細菌感染を含む、遺伝因子及び環境因子から始まるように見える。これらの機序は、Tリンパ球及びマクロファージの血液-脳関門を超えかつCNS組織への移動増大を促進する。
脱髄は、活性化されたマクロファージ及び小グリア細胞によるミエリンへの攻撃に加え、Fas-リガンドシグナル伝達及び補体-又は抗体-媒介した細胞傷害性から始まる髄鞘形成している細胞への障害により引き起こされる。従って脱髄は、ミエリン鞘への直接攻撃に加え、ミエリンを産生しかつ維持する細胞の除去の両方を通じて生じる。
【0078】
遺伝的要素及び環境的要素は、炎症細胞の血液-脳関門を超えた流入増大につながる。これは、自己反応性Tリンパ球及びマクロファージのCNS組織への移動増大を生じる。T細胞によるサイトカイン分泌は、抗原-提示細胞(APC)を活性化する。APC上のMHCクラスII分子の状況における自己反応性T細胞が、ミエリン鞘のタンパク質構成要素であることが多い推定「MS抗原」に遭遇する場合、これらは活性化され始めるであろう。いくつかのそれに続く機序は、次に、希突起膠細胞及びミエリンを障害するように作用する。補体-及び抗体-媒介した細胞傷害性は、一部の患者において大きな障害を引き起こすことがある一方で、Fas-リガンドシグナル伝達、及びCD4+ T細胞によるTNF-αのような前-炎症性サイトカインの放出は、とりわけ白質を攻撃することがある。活性化されたマクロファージも、増強された食作用及び因子分泌を通じ役割を果たすことがある。これは、広範な脱髄を引き起こし、かつ次にCNSの軸索の中の伝導効率の損失を引き起こす。しかし引き続きの修復機序が生じ髄鞘再形成され、一旦炎症過程が消散する。MS患者の髄鞘再形成された軸索は、再軸索形成された軸索の周囲の鞘の薄い外観により病理学的に認められる。追加のナトリウムチャネルは、頻繁に脱髄された軸索膜に挿入されることが認められ、これは伝導効率の喪失を補償する。希突起グリア細胞前駆体は、MS病変中の髄鞘再形成を増強することがある。
【0079】
希突起膠細胞は、そのミエリン鞘の作成及び維持に関連した多くの機能を発揮する。これは、複数のニューロンの軸索の絶縁、支持及び伝導増強を提供する。1個の希突起膠細胞は、最大50個の異なる軸索を髄鞘形成することができる。髄鞘形成は、ある巨大な直径の軸索のみに限定され;樹状突起及び他の細胞突起、例えば星状細胞のものなどは、髄鞘形成されないままである。軸索は、髄鞘形成する希突起膠細胞の数の制御を発揮するように見え、その理由は、ラット視神経のパラダイムにおける軸索離断は、ミエリンの再生及び希突起膠細胞前駆体の産生を阻害するからである(Barres及びRaff、1999において検証)。希突起膠細胞の増殖及び移動は、発生時に軸索から放出された因子により刺激することができる。この様式において、希突起膠細胞及び軸索の数は、CNS内で慎重に合致させられる。
【0080】
希突起膠細胞は、CNSのニューロン周囲支持細胞であり、軸索路を髄鞘形成し、かつインパルス伝導を増強するために役立つ。これらは、軸索の生存及び機能において役割を果たす。この図式において示されたように、希突起膠細胞は、髄鞘形成する各軸索にただ1個の突起を伸ばすことに注意。
【0081】
多層性のミエリン鞘は、グリア細胞形質膜の特定化されたドメインであり、脂質が豊富でありかつタンパク質が少ない。これは、軸索を支持し、かつ周囲組織への流出(bleeding off)による帯電を妨害することにより、CNSにおける電気シグナル伝導効率を改善するために役立つ。ランビエ節は、跳躍性伝導が生じる軸索に沿った鞘内の部位である。
【0082】
成体脳において、希突起膠細胞は、脳及び脊髄の脳室下帯内のまだ余り定義されていない前駆細胞から発生する(NaitOumesmarら、1999)。これらの前駆体は、増殖し、かつミエリン転写産物及びタンパク質を発現し、最初に髄鞘形成の数週間前に胚脊髄の腹側領域において出現する(Hajihosseiniら、1996)。この髄鞘形成の過程は、出生後の脳において生じる。生後発育時に、これらの前駆体は、髄鞘形成されるニューロン路へと移動する。
【0083】
希突起膠細胞は、定義されかつ特異的な方法でそれらの前駆細胞から成熟する(例えば、Rogisterら、1999において検証)。希突起膠細胞発生は、各段階が、いくつかの細胞-特異的マーカーにより区別されている定義された経路に従い:これは、内皮神経細胞接着分子(E-NCAM)、ビメンチン、A2B5、POU転写因子Tst-1/Oct6/SCIP、プレ-希突起膠芽細胞抗原(POA)、ガラクトセレブロシド(GalC)、O1、O4、及びミエリン-特異的タンパク質PLP、MBP、及びMOGである。神経幹細胞は、二極性プレ-GD3+細胞を生じ、これはO2A前駆体になる。これらの細胞は、希突起膠細胞又は2型星状細胞のいずれかを生じる。進行は、実際に希突起膠細胞段階へ分化する前に、プレ-希突起グリア細胞及びプレ-GalC+段階を通じて継続する。希突起グリア細胞系統の最終段階は、これらの細胞の増殖不能により定義される。成熟希突起膠細胞は、細胞-特異的マーカーであるGalC及びスルファチド(SUL)を発現することに加え、ミエリン-特異的タンパク質を発現する。
【0084】
従って希突起膠細胞は、有糸分裂活性のある遊走性の前駆細胞から分化する。いったんこれらの細胞が有糸分裂を終了すると、これらはミエリン-特異的タンパク質をコードしている遺伝子を転写及び翻訳する。軸索を包み囲んでいるミエリン鞘の精密さは、成熟希突起膠細胞の突起と軸索それ自身の間の直接接触によりもたらされる。CNS軸索の鞘形成(ensheathment)は、ミエリン鞘の圧密(compaction)により完了し、これはその最後が複合体形成において巨大分子を含む液晶に似ている(Scherer、1997)。髄鞘形成の促進は、ミエリン鞘の個々の構造タンパク質間の正確な化学量論的関係の考察を必要とし、その理由は、ひとつの成分量の増加又は減少は、全体の鞘構造の動揺を生じるからである。
【0085】
希突起膠細胞は、脱髄された軸索の修復の維持が不可能であることは、MSを特徴付ける累積的神経学的機能不全の一因である。MS患者における髄鞘再形成の促進は、軸索喪失を防ぎ、その結果CNSにおける軸索の死に関連した不能の進行を制限する。
【0086】
MSの脱髄化表現型は、活動性MS病変の性質の集中的研究につながる。裸の軸索及び髄鞘形成している希突起膠細胞の不在は、正常なミエリンの破壊及びMSに関連した髄鞘再形成過程の異常を示している。MS病変の40%が、特に本疾患の初期相において、失敗に終わった髄鞘再形成の証拠を示すことが報告されている(Prineasら、1993)。これは、ミエリン修復を促進するために展開されている戦略が、永久的に神経系障害を防ぐことの現実的予想を示している。成功の確率は、若いCNS病変において特に高く、ここでは初期の髄鞘再形成は既に生じていることが示されている。しかし、髄鞘形成又は髄鞘再形成している希突起膠細胞は、極端な代謝ストレス下にある細胞であり、これは例え小さい圧力下であっても追加的梗塞では不可逆的に損傷される(Scolding及びLassmann、1996)。これは、活動性MS病変における自然発生的修復の確率を減少し、ここで炎症及び他の損傷は、髄鞘再形成に対する障害を有する。従ってミエリン修復を促進する戦略は、活動性MS病変における髄鞘再形成及び軸索保護にとって有利な可能性が増すであろう。
【0087】
成人CNSは、増殖が可能でありかつ髄鞘形成している希突起膠細胞へ成熟することができる希突起膠細胞前駆細胞を含むことが示されている。加えて、MS病変に隣接する外因性希突起膠細胞前駆体集団は、本疾患の慢性相の間に、前駆体の増殖能及び分化能の阻害のために、枯渇するように見える(Wotswijk、1998)。このような前駆細胞は一般に、慢性MS病変の環境において静止期にあり、これらが髄鞘再形成に積極的に寄与することを防いでいる。従って慢性MS病変の状況は、希突起膠細胞前駆細胞集団の刺激に必要な希突起グリア細胞の再生又は喪失の因子を阻害する因子に関連している(Wolswijk、1998)。この概念は、MSの効率的療法は、炎症抑制に限らず、髄鞘再形成も好ましいという仮説につながる。髄鞘再形成している細胞は、様々な給源を起源とすることができ、これは病変に対して無傷の生存している希突起膠細胞、これらの生存者由来の細胞、又は隣接前駆細胞である。成熟希突起膠細胞は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)のような因子により脱分化及び増殖するように誘導することができることが示されており、このことは、脱髄疾患以後の希突起グリア細胞株の再生の機序を示唆している(Grinspanら、1996;Grinspanら、1993)。
【0088】
MSのような脱髄障害における髄鞘再形成の有益な作用の証拠の追加は、本疾患の動物モデルにおける治療のような、グリア増殖因子で行われた研究により提供されている。MSのEAEマウスモデルにおいて、グリア増殖因子2(ニューレグリン/GGF-2)は、希突起膠細胞増殖及び生存を促進することがわかっているCNS増殖因子であり、これは疾患発症を遅延し、臨床的重症度を低下し、かつ再発の頻度を低下することが示された(Marchionniら、1999)。ニューレグリンは、成熟希突起膠細胞の生存に対し有益な作用を有し、かつ軸索により産生されることが示された(Fernandezら、2000)。
【0089】
血小板-由来増殖因子(PDGF)及びIGF-1を含む他の増殖因子は、EAEモデルにおいて、髄鞘再形成を促進し、かつ治療作用を有することが示された(Dubois-Dalcq及びMurray、2000において検証)。増殖及び/又は分化へ希突起膠細胞系の細胞を誘導することにより、髄鞘再形成の刺激が成功したことは、MSの治療的戦略としての髄鞘再形成の予測が好ましいことを示している。ミエリン合成を阻害する分子は、MSにおける希突起グリア細胞移植のような修復戦略の効率を低下するので、これらをを同定するために重要でもある。
【0090】
髄鞘再形成の過程は、障害を修復しかつ軸索を離断及び死から保護するための抗-炎症過程と共調して作用するであろう。
【0091】
希突起膠細胞は、CNSにおける軸索路の髄鞘再形成のために誘導することができ、これにより病態の緩和に寄与する。髄鞘再形成の増強は、CNS組織への免疫系細胞の侵襲及びそれらのミエリン鞘への攻撃によりもたらされた前述の破壊とは逆に作用するであろう。
【0092】
希突起グリア分化及び多発性硬化病変のいくつかの分析は、ディファレンシャルな遺伝子発現のマイクロアレイによる可視化を用いて行われる(DGE, Scarlatoら、2000;Whitneyら、1999)。これらは、遺伝子の変動するセットをアッセイするために著しく異なるアレイ技術を利用している。分化している希突起膠細胞及び多発性硬化症病変の両方における遺伝子発現の分析は、ミエリン-特異的遺伝子発現の有意な変化を示している。加えて他の遺伝子は、ディファレンシャルに調節されるように特定され、その多くは、細胞周期の制御、細胞骨格の再組織化及び膜通過(trafficking)のようなプロセスに関連することが分かっている(Scarlatoら、2000)。
【0093】
オステオポンチンは、骨及び歯の無機化された細胞外マトリックスの主な成分である、高度にリン酸化されたシアロタンパク質である。OPNは、ポリアスパラギン酸配列及びヒドロキシアパタイトの結合を媒介するSer/Thrリン酸化部位の存在、並びに細胞接着/シグナル伝達を媒介する高度に保存されたRGDモチーフにより特徴付けられる。様々な組織におけるオステオポンチンの発現は、1種又は複数のこれらの保存されたモチーフが関連している機能の多様性を示している。OPN「ノックアウト」マウスにおける明確な表現の欠如は、いずれの組織においてもオステオポンチンの決定的役割を確立していないが、最近の研究は、発生過程、創傷治癒、免疫応答、腫瘍形成、骨吸収、及び石灰化を含む、多様な生物学的事象におけるこのタンパク質の汎用性へのいくつかの新規かつ興味深い洞察を提供した。双方向シグナル伝達経路に連結した複数の受容体を通じて細胞活性を刺激するオステオポンチンの能力は、機能的多様性の多くを説明することができる(Sodekら)。
【0094】
オステオポンチンは、ラットの脊髄及び三叉神経系の一次感覚ニューロンにおいて、ニューロン細胞体及び軸索内の両方において発現されることも示されている(Ichikawaら、2000)。
【0095】
オステオポンチンmRNAは、in situハイブリダイゼーションにより成体脳において発現される。発現は、嗅球及び脳幹のニューロンにおいて認められ、後者においては、運動関連領域、感覚系及び網膜形成を含む機能的に多様な領域において認められた(Shinら、1999)。
【0096】
別の研究は、ラットにおける一過性の前脳虚血後のオステオポンチンmRNAの空間的及び時間的発現を調べた。全体の虚血後のOPN mRNAの一過性の誘導は、海馬よりも線条体において早く生じた。これは、小グリア細胞がより反応性となる前に、側方脳室に近い背中線条体において並びに海馬のCA1野及び鉤状回において明かであった。これは同じく、歯状丘において、かつCA3において辺縁範囲に検出された(Lee MY、Shin SL、Choi YS、Kim EJ、Cha JH、Chun MH、Lee SB、Kim SY、Neurosci Lett、1999年8月20日、271:281-4)。
【0097】
オステオポンチンはEta-1とも称される。国際公開公報第00/63241号は、モジュレーターEta-1(初期Tリンパ球活性化-1)/オステオポンチンを用い、免疫応答を変調する方法、特に1型免疫応答を変調する方法を開示している。オステオポンチンモジュレーターは、感染症、免疫障害及び疾患、MSを含む自己免疫障害、様々な免疫欠損症、及び癌の治療に有用であると言われている。MSを含む自己免疫疾患において有用であると考えられている、国際公開公報第00/63241号に開示された、オステオポンチンの全てのモジュレーターは、オステオポンチン/Eta-1のインヒビターであり、その詳細は国際公開公報第00/63241号の51〜53頁の「Clinical Applications of the Modulatory Methods of the Invention」第V項、「Autoimmune Diseases」のDに記されている。
【0098】
インターフェロンは、抗-炎症、抗ウイルス及び抗増殖活性を発揮するサイトカインのサブクラスである。生化学的及び免疫学的特性を基に、天然のヒトインターフェロンは、3種のクラスにグループ分けされる:インターフェロンα(白血球)、インターフェロンβ(線維芽細胞)及びインターフェロンγ(免疫)。α-インターフェロンは現在、毛様細胞性白血病、性病疣、カポシ肉腫(後天性免疫不全症候群(AIDS)患者が通常罹患する癌)、並びに慢性非-A非-B型肝炎の治療のために、米国及び他の国々において承認されている。
【0099】
更にインターフェロン(IFN)は、ウイルス感染に反応した体により産生される糖タンパク質である。これらは、保護された細胞におけるウイルス複製を阻害する。比較的小さい分子量のタンパク質から構成されるIFNは、驚くべきことにそれらの作用は非特異的であり、すなわち、ひとつのウイルスにより誘導されたIFNは、広範な他のウイルスにも効果的である。しかしこれらは、種-特異性があり、すなわちひとつの種により産生されたIFNは、同じ種又は密に関連した種の細胞において抗ウイルス活性を刺激するのみである。IFNは、それらの抗腫瘍及び抗ウイルス活性を発揮するサイトカインの第一群であった。
【0100】
これら3種の主要なIFNは、IFN-α、IFN-β及びIFN-γと称されている。このようなIFNの主な種類は、最初にそれらの細胞起源(白血球、線維芽細胞又はT細胞)に従い分類された。しかし、数種類がひとつの細胞により作成され得ることが明らかになりつつある。従って現在、白血球IFNはIFN-α、線維芽細胞IFNはIFN-β及びT細胞IFNはIFN-γと称されている。更に第四の型のIFN、「Namalwa」細胞株(バーキットリンパ腫に由来)において産生されたリンパ芽球IFNも存在し、これは白血球及び線維芽細胞の両IFN混合物を生成しているように見える。
【0101】
インターフェロン単位は、ウイルス損傷に対して細胞の50%を保護するのに必要な量として定義(若干恣意的)されたIFN活性の測定値として報告されている。
各クラスのIFNは、いくつかの異なる種類を含む。IFN-β及びIFN-γは各々、単独の遺伝子産物である。個々の種類の間の差異は、主にグリコシル化の変動に起因するように見える。
【0102】
IFN-αは、約15型を含む最も多様な群である。9番染色体上に、少なくとも23員を含む、IFN-α遺伝子のクラスターが存在し、その中の15員は、活性がありかつ転写されている。成熟型IFN-αはグリコシル化されない。
【0103】
IFN-α及びIFN-βは、全て同じ長さ(アミノ酸165又は166個)であり、同様の生物学的活性を伴う。IFN-γは、長さが146個のアミノ酸であり、かつα及びβクラスほど密には似ていない。IFN-γのみが、マクロファージを活性化するか、もしくはキラーT細胞の成熟を誘導することができる。作用において、これらの治療薬の新規種類は、生物応答修飾物質(BRM)と称されており、その理由はこれらは、免疫変調を介して認識を損ない、腫瘍に対する生物の反応に対し作用を有するからである。
【0104】
特に、ヒト線維芽細胞インターフェロン(IFN-β)は、抗ウイルス活性を有し、かつ更に天然のキラー細胞を新生物細胞に対して刺激することができる。これは、ウイルスにより誘導された約20,000Da及び二本鎖RNAのポリペプチドである。Derynkら(Derynk R.ら、1980)は、組換えDNA技術によりクローニングされた、線維芽細胞インターフェロン遺伝子のヌクレオチド配列から、このタンパク質の完全なアミノ酸配列を推定した。これは、アミノ酸長が166個である。
【0105】
Shepardら(Shepard H. M.ら、1981)は、その抗-ウイルス活性を破棄する塩基842(141位でCys->Tyr)の突然変異、並びにヌクレオチド1119-1121の欠失を伴う変異体クローンを説明した。
【0106】
Markら(Mark D.F.ら、1984)は、17位にCys->Serのアミノ酸スイッチを生じるよう、塩基469(T)を(A)で置換することにより、人工的突然変異を挿入した。得られたIFN-βは、「天然の」IFN-βと同様の活性があり、かつ長期保存(-70℃)の期間安定していることが報告されている。
【0107】
Rebif(登録商標)(組換えヒトインターフェロン-β)は、多発性硬化症(MS)のインターフェロン療法において最も新しく開発され、かつ治療において著しい進歩を示している。Rebif(登録商標)は、哺乳類細胞株において産生されたインターフェロン(IFN)-βIaであり、かつ事実上天然のヒト分子と同じである。
【0108】
IFNがそれらの作用を発揮する機序は、完全には理解されていない。しかし、ほとんどの場合において、これらは、ある種の遺伝子の誘導又は転写を損なうことにより作用し、従って免疫系を損なう。In vitro試験は、IFNが、約20種の遺伝子産物を誘導又は抑制することが可能であることを示している。
【0109】
IFN-βは、MSにおいて3種の主な経路により作用することができる:
・活性化、増殖及び抑制の細胞機能のような、T-細胞機能の調節;
・サイトカイン産生の変調:前炎症サイトカインのダウンレギュレーション及び阻害性の抗-炎症サイトカインのアップレギュレーション;
・BBB(血液-脳関門)を介したCNSへのT-細胞の移動及び浸潤の調節。
【0110】
PRISMS試験は、再発-寛解型多発性硬化症(RR-MS)の治療において、1週間に3回皮下投与されたインターフェロン-β-1aの有効性を確立した。この試験は、インターフェロン-β-1aが、MSの長期経過に対し、再発の回数及び重症度を低下しかつMRIにより測定された疾患負荷及び疾患活動度を低下することにより、陽性作用を有することを示した(再発-寛解型多発性硬化症におけるインターフェロンβ-1aの、無作為化した二重盲検プラセボ対照試験、The Lancet、1998;352(1998年11月7日):1498-1504)。
【0111】
本明細書のあらゆる文献引用は、このような文献が、直接関係のあるいずれの先行技術、又は本明細書の「特許請求」の特許性に関しても考慮される材料であることの是認を意図するものではない。いずれの文献の内容又は日付に関する陳述も、出願時点で出願人が入手できる情報を基にしており、このような陳述の正当性の是認を構成するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0112】
本発明の目的は、神経疾患の治療及び/又は予防の新規手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0113】
本発明は、タンパク質オステオポンチンが、グリア細胞の増殖及び分化を促進し、従って髄鞘形成及び神経再生を促進するという知見を基にしている。本発明に従い、更に、オステオポンチンは、多発性硬化症及び末梢ニューロパシーの動物モデルにおいて有益な作用を有することがわかった。
【0114】
従って本発明は、外傷性神経損傷、脳卒中、CNS又はPNSの脱髄疾患、ニューロパシー及び神経変性疾患のような神経疾患における、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの使用に関する。
【0115】
本発明に従い、オステオポンチンは、神経疾患の治療及び/又は予防のために、インターフェロンと併用して使用してもよい。神経疾患を治療及び/又は予防するための、核酸分子、及びオステオポンチンを含む発現ベクター、並びにオステオポンチンを発現している細胞の使用も、本発明の範囲内である。本発明は更に、オステオポンチン及びインターフェロンを、任意に1種又は複数の医薬として許容できる賦形剤と共に含有する医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1A】図1Aは、TaqMan(登録商標)分析により測定した、キュプリゾン治療後異なる時点でのオステオポンチン発現のレベルを示すヒストグラムである。3/5w. Cup=3又は5週間のキュプリゾン治療。5w. cup + 1/3/6w.=5週間のキュプリゾン治療及びキュプリゾン投与中止後の1/3又は6週間の回復。
【図1B】図1Bは、小脳発生の異なる段階でのTaqMan(登録商標)により測定した、オステオポンチン、MBP及びPLP mRNAの調節倍率の、対照C1レベルとの比較を示している。C1から20=出生後1日目から20日目の小脳。CA=成体小脳。
【図2】図2は、オステオポンチン及びその公知のアイソフォームの構造、更にはC及びN末端構築体を概略的に示している。
【図3】図3は、オステオポンチンのコード配列を含むプラスミドPacを概略的に示している。
【図4】図4は、cAMPで6時間(1)、2日(2)、6日(3)又は10日間(4)処理した希突起膠細胞株oli-neuにおけるオステオポンチンmRNAのアップレギュレーション倍率を、対照と比較して例示しているヒストグラムを示している。カラム5及び6は、キュプリゾン実験からのオステオポンチンmRNAレベルを示している。(5):3週間のキュプリゾン処理、(6):5週間のキュプリゾン処理。
【図5】図5は、オステオポンチンコード配列を含むプラスミドpDEST 12.2を概略的に示している。
【図6】図6は、オステオポンチンコード配列とEGFPコード配列、蛍光マーカーを含むプラスミドpDEST 12.2を概略的に示している。
【図7】図7は、HIS-タグを伴うオステオポンチンコード配列を含むプラスミドpDEST 12.2 を概略的に示している。
【図8】図8は、インスリン飢餓後及びバキュロウイルスにおいて発現されたオステオポンチン(Baculo-OPN)又はHEK細胞で発現されたオステオポンチン(HEK-OPN)で24時間処置後の、oli-neu細胞の増殖を示している。測定値は、生細胞を染色する色素であるAlamarブルーの蛍光である。
【図9】図9は、バキュロウイルスが発現したオステオポンチン(BAC-OPN)又はHEK細胞が発現したオステオポンチン(HEK-OPN)による処理の24時間後の、インスリン飢餓状態のoli-neu細胞の増殖における用量‐反応曲線を示している。
【図10】図10は、インスリン飢餓状態下及び完全長のバキュロウイルスで発現したオステオポンチン(BacOPN)又はオステオポンチンN-末端断片(N-末端BacOPN)のいずれかによる処理後の、oli-neu細胞の増殖を示している。
【図11】図11は、100nMバキュロウイルスで発現した組換えオステオポンチンで処理した混合皮質培養物におけるMBP免疫組織化学を示している。A=対照;B=OPN処理;C=Bの拡大;D=OPN処理した混合皮質細胞の別の視野、ここで軸索は見えない。
【図12】図12は、ELISAにより測定した、LIF及びバキュロウイルス発現したオステオポンチン処理後の、髄鞘形成している混合皮質培養物におけるMBPタンパク質の増加を示している。
【図13】図13は、in vitroリン酸化したE. coliで発現したオステオポンチン(OPN-E.コリ)又はバキュロウイルスで発現したオステオポンチン(OPN Bac)の異なる用量(10pM、10nM、100nM)で処理した、CG4細胞の増殖を示している。
【図14】図14は、媒体(PBS)、媒体+0.1%BSA、1、10もしくは100μg/kgのAS900011(オステオポンチン)、又は100μg/kgのAS900011及び20000U/マウスのマウスインターフェロンβ(mIFNβ)の組合せ、又は20000U/マウスのmIFNβ単独で皮下処理したEAEマウスの脊髄に存在している血管周囲炎症性浸潤を示している。
【図15】図15は、媒体(PBS)、媒体+0.1%BSA、1、10もしくは100μg/kgのAS900011(オステオポンチン)、又は100μg/kgのAS900011及び20000U/マウスのマウスインターフェロンβ(mIFNβ)の組合せ、又は20000U/マウスのmIFNβ単独で皮下処理したEAEマウスの脊髄に存在する脱髄領域の割合(%)を示している。
【図16】図16は、媒体(PBS)、媒体+0.1%BSA、1、10もしくは100μg/kgのAS900011(オステオポンチン)、又は100μg/kgのAS900011及び20000U/マウスのマウスインターフェロンβ(mIFNβ)の組合せ、又は20000U/マウスのmIFNβ単独で皮下処理したEAEマウスにおける、治療終了時の臨床スコア、炎症浸潤及び脱髄を示している。
【図17】図17は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理した坐骨神経圧挫により誘導したニューロパシーマウスの体重を示している。
【図18】図18は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける複合筋肉活動電位の振幅を示している。
【図19】図19は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける複合筋肉活動電位の潜伏時間を示している。
【図20】図20は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける複合筋肉活動電位の持続期間を示している。
【図21】図21は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける再生した線維の割合(%)を示している。
【図22】図22は、媒体、1、10もしくは100μg/kgのオステオポンチン(Ost)、10μg/kgの陽性対照化合物(4-MC)、又は100μg/kgの変性オステオポンチン(Ost-D)で処理したニューロパシーマウスにおける1視野当りの線維総数を示している。
【0117】
発明の詳細な説明
本発明は、オステオポンチンが、希突起膠細胞分化時及び小脳発生時に、ディファレンシャルに発現されるという知見を基にしている。更に、in vitroにおける希突起膠細胞におけるオステオポンチンcDNAの発現は、これらの細胞の分化型の表現型につながることがわかっている。オステオポンチンの発現時に、希突起膠細胞は、分化し髄鞘形成している細胞の表現型に似た表現型を示す。これらのin vitro知見に加え、オステオポンチン、及び特にオステオポンチン及びインターフェロンの組合せは、多発性硬化症の確立されたモデルにおいて有益な作用を有することが示されている。末梢ニューロパシーの実験モデルにおいて、オステオポンチンは、神経活性に対する突出した有益な作用を有し、かつ再生の割合を有意に低下し、かつ脱髄の程度を増大した。
【0118】
従って本明細書において提示された実験的証拠は、神経疾患、特に神経及びグリア細胞機能に関連したものの治療の新規可能性を提供する。これらの知見は、国際公開公報第00/63241号は、多発性硬化症を治療するためにオステオポンチンを阻害することを開示しているので、特に驚きに値する。
【0119】
従って本発明は、神経疾患を治療及び/又は予防するための、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの使用、医薬品の製造に関する。
【0120】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、1980年代後半から公知であるアミノ酸配列を有する、完全長ヒトオステオポンチンに関連している(Oldbergら、1986;Kieferら、1989)。ヒトオステオポンチンの配列は、本明細書において、添付された配列表において配列番号:1として報告されている。本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、更に、オステオポンチン活性を維持するために十分な同一性がある限り、並びに得られる分子がヒトにおいて免疫原性でない限りは、マウス、ウシ又はラットのオステオポンチンのような、動物由来のいずれかのオステオポンチンに関連している。
【0121】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、更に、オステオポンチンの天然アイソフォームのような、生物学的活性のあるムテイン及び断片に関する。オステオポンチンは、転写(あるいはスプライシング)及び翻訳後修飾(リン酸化、グリコシル化)のレベルが異なる機能的に別個の形で発現される。OPNの3種のスプライシング変種が、これまでに知られており、OPN-a(本明細書において「完全長」オステオポンチンとも称する)、OPN-b及びOPN-c(添付された配列表の配列番号:1、2及び3、更に図2に示す)とも称される。これらのアイソフォームは、例えばKonら(2000)が説明しており、例えばSaitohら(1995)及びKonら(2002)により特徴付けられている。
【0122】
トロンビン開裂は、このタンパク質のN-及びC-末端部分を含むふたつのin vivoタンパク質分解性切断断片につながる。オステオポンチン、特にこのタンパク質のC-末端部分のリン酸化は、オステオポンチン機能にとって重要であり得る。従って本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、同じくこれらのタンパク質分解性断片及びディファレンシャルにリン酸化されたオステオポンチン形も包含することを意味する。
【0123】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン」は、更に、アイソフォーム、ムテイン、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分もしくは断片、又は循環式に順番を入れ替えた誘導体、又はそれらの塩も包含している。これらのアイソフォーム、ムテイン、融合タンパク質又は機能性誘導体、活性画分もしくは断片、又は循環式に順番を入れ替えた誘導体は、オステオポンチンの生物学的活性を維持している。好ましくは、これらは、野生型オステオポンチンと比べ改善された生物学的活性を有する。
【0124】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン活性のアゴニスト」は、オステオポンチン受容体のアゴニスト性抗体、又はオステオポンチン受容体を介してシグナル伝達を活性化する小分子量のアゴニストのような、オステオポンチン活性を刺激又は模倣する分子に関する。オステオポンチンは、少なくともふたつの受容体群を介してその機能を媒介する。第一に、これは、αv-インテグリンと相互作用する(マンガンの正の作用下でRGD(Arg-Gly-Asp)細胞結合モチーフを介した、αvβ3及びαvβ5インテグリン受容体)(Kunickiら、1997)。第二に、これは、CD44変異体アイソフォームv6-v10と相互作用する。オステオポンチンのC-末端部分は、CD44との相互作用に関連すると考えられている一方で、オステオポンチンのN-末端部分は、インテグリン受容体との相互作用、マクロファージの増殖、生存及び分化に関連していると考えられている。オステオポンチンのN-末端部分はまた、IL-12及びIL-10の放出も誘導する。これらの受容体のアゴニスト、スティミュレーター又はエンハンサーは、本明細書において使用される用語「OPN活性のアゴニスト」に包含される。
【0125】
本明細書において使用される用語「オステオポンチン活性のアゴニスト」は、更に、希突起膠細胞系統の細胞(始原細胞又は前駆細胞など)の動員、増殖、分化又は成熟を促進するため、希突起膠細胞系統の細胞をアポトーシス及び細胞損傷から保護することを促進するための、細胞外マトリックス成分への細胞結合の促進、希突起膠細胞系統の細胞のミエリン産生細胞への形態形成のような、オステオポンチン媒介した活性を増強する物質を意味する。
【0126】
本明細書において使用される用語「治療」及び「予防」は、神経疾患の1種又は複数の症状又は原因(複数)に加え、神経疾患に随伴する症状、疾患又は合併症の予防、阻害、減弱、改善又は逆行することとして理解されることである。神経疾患が「治療」される場合、本発明の物質は該疾患の発症後に投与され、「予防」は、該物質を患者において疾患徴候が認められる前に投与することに関連している。
【0127】
本明細書において使用される用語「神経疾患」は、全ての公知の神経疾患もしくは障害、又はCNSもしくはPNSの損傷を含んでおり、これは「発明の背景」に詳細に説明されたものを含んでいる。
【0128】
神経疾患は、神経伝導、頭痛、頭部外傷、CNS感染症、神経-眼及び脳の神経障害、大脳葉の機能及び機能不全、運動障害、混迷及び昏睡、脱髄性疾患、せん妄及び痴呆、頭蓋脳接合部の異常、発作障害、脊髄障害、睡眠障害、末梢神経系の障害、脳血管障害、又は筋肉障害に関連した疾患のような、CNS又はPNSの機能不全に連結した障害を含む。これらの障害の定義については、例えば、http:/www.merck.com/pubs/mmanual/section14/sec14.htmを参照のこと。
【0129】
好ましくは、本発明の神経疾患は、外傷性神経損傷、脳卒中、CNS又はPNSの脱髄性疾患及び神経変性疾患からなる群より選択される。
外傷性神経損傷は、PNS又はCNSに関連することができ、先の「発明の背景」に説明されたような対麻痺を含む、脳又は脊髄の外傷であることができる。
【0130】
発作は、脳の低酸素症又は虚血により引き起こされることがある。これは、脳血管の疾患又は事故と称されることもある。発作は、脳の領域への血液循環の喪失により引き起こされる脳機能の喪失(神経学的欠損)に関連している。血液循環の喪失は、脳内に形成される血餅(血栓)、又はアテローム硬化症斑の小片もしくは別の場所から移動する他の材料(塞栓)に起因することができる。脳内のブリージング(出血)は、脳卒中に類似した症状を引き起こすことがある。脳卒中の最も一般的原因は、アテローム硬化症(大脳の血栓症)に続発する脳卒中であり、その結果、本発明はアテローム硬化症の治療にも関連する。
【0131】
末梢ニューロパシーは、感覚喪失、筋肉衰弱及び萎縮、減少した深部腱反射、並びに血管運動症状の症候群に関連している。ニューロパシーは、単独の神経(単ニューロパシー)、個別の領域のふたつ又はそれよりも多い神経(多発性単ニューロパシー)、又は同時に多くの神経(多発ニューロパシー)に影響を及ぼすことがある。軸索(例えば、真性糖尿病、ライム病、又は尿毒症、もしくは毒物)か、又はミエリン鞘もしくはシュワン細胞(例えば、急性又は慢性の炎症性多発ニューロパシー、白質萎縮症、又はギラン・バレー症候群)が主に損なわれる。本発明に従い治療することができる更なるニューロパシーは、例えば、リード毒物、ダプソン使用、マダニの咬傷、ポルフィリン症、又はギラン・バレー症候群に起因し、かつこれらは主に運動神経を損なう。癌、ライ、AIDS、真性糖尿病、又は慢性ピリドキシン中毒の脊髄後根神経節炎に起因するもののような、その他のニューロパシーは、主に脊髄後根神経節又は感覚神経に影響を及ぼし、感覚症状を生じる。脳神経も、例えば、ギラン・バレー症候群、ライム病、真性糖尿病、及びジフテリアなどに関連していることがある。
【0132】
アルツハイマー病は、脳組織の変化から生じる精神機能の変質に関連する障害である。これは、脳組織の萎縮、原発性変性性痴呆及びびまん性脳萎縮を含む。アルツハイマー病は、アルツハイマー型老人性痴呆(SDAT)とも称される。
パーキンソン病は、振戦並びに歩行、運動及び共調の困難を含む、脳の障害である。本疾患は、筋肉運動を制御する脳の一部に対する障害に関連しており、これは振戦麻痺(paralysis agitans又はshaking palsy)とも称される。
ハンチントン病は、遺伝性の常染色体優性の神経疾患である。
【0133】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳及び脊髄の神経細胞の破壊を含む、随意筋の神経制御の進行性の喪失を引き起こす障害である。筋萎縮性側索硬化症は、Lou Gehrig's病とも称され、筋肉の使用及び制御の喪失に関連する障害である。
【0134】
多発性硬化症(MS)は、再発-寛解又は進行の経過を辿る、中枢神経系(CNS)の炎症性脱髄疾患である。MSは、単なる脱髄疾患ではない。その末梢神経系(PNS)の対応物は、慢性炎症性脱髄性の多発性神経根ニューロパシー(CIDP)である。加えて、PNSにおいてギラン・バレー症候群(GBS)と称される炎症性脱髄多発性神経根ニューロパシー、及びCNSにおいて急性播種性脳脊髄炎(ADEM)のような、急性の単相の障害が存在する。
【0135】
更に神経学的障害は、先の「発明の背景」に列記したもののひとつのような、異常な髄鞘形成を伴うニューロパシーに加え、手根管症候群を含む。外傷性神経損傷は、脊柱の整形外科的合併症に随伴することができ、かつこれらは更に本発明の疾患の範囲内である。
【0136】
神経学的態様は、先天性代謝障害に起因するものであることがある。好ましい本発明の態様において、神経疾患は、先天性代謝欠損に起因している。
【0137】
本発明に包含される先天性代謝障害は、例えば、フェニルケトン尿症及び他のアミノ酸尿症、ティーサック病、ニーマン・ピック病及びゴーシェ病、ハーラー症候群;クラッベ病及び他の白質萎縮症である。これらは、主にCNSにおいて、ミエリン鞘発生に影響を及ぼすことができる。
【0138】
先天性代謝障害により引き起こされた神経疾患は、「発明の背景」において詳細に考察されている。
【0139】
神経線維腫症又は多系統萎縮症(MSA)のような、あまり知られていない神経疾患も、本発明の範囲内である。本発明により治療することができる更なる障害は、先の「発明の背景」において詳細に考察されている。
【0140】
更に好ましい態様において、神経疾患は、末梢ニューロパシーであり、最も好ましくは糖尿病性ニューロパシーである。ニューロパシーに関連した化学療法も、本発明に従い好ましい。
【0141】
本明細書において使用される用語「糖尿病性ニューロパシー」は、先の「発明の背景」において詳細に説明されているように、糖尿病性ニューロパシーのいずれかの形、又は糖尿病性ニューロパシーに随伴する又はこれによって引き起こされる1種又は複数の症状(複数)又は障害(複数)、又は神経に影響する糖尿病合併症に関する。糖尿病性ニューロパシーは、多発ニューロパシーである。糖尿病性多発ニューロパシーにおいて、多くの神経が同時に罹患される。糖尿病性ニューロパシーは、単ニューロパシーであることもできる。病巣性単ニューロパシーにおいて、例えば本疾患は、眼球運動又は外転脳神経のような、単独の神経を損なう。これは、2種又はそれよりも多い神経が個別の領域で損なわれる場合には、多発性単ニューロパシーであることもできる。
【0142】
更により好ましい態様において、神経学的障害は、脱髄疾患である。脱髄疾患は、好ましくは急性播種性脳脊髄炎(ADEM)及び多発性硬化症(MS)のような、CNSの脱髄状態に加え、末梢神経系(PNS)の脱髄疾患を含む。後者は、慢性炎症性脱髄性多発性神経根ニューロパシー(CIDP)、及び急性単相障害、例えばギラン・バレー症候群(GBS)と称される炎症性脱髄性多発性神経根ニューロパシーを含む。
【0143】
更に好ましい本発明の態様は、神経変性疾患の治療及び/又は予防に関係している。この神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及びALSからなる群より選択される。
【0144】
好ましくは、オステオポンチンは、下記からなる群より選択されるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質から選択される:
(a)配列番号:1を含んで成るポリペプチド;
(b)配列番号:1のアミノ酸1から168又は170を含んで成るポリペプチド;
(c)配列番号:1のアミノ酸1から16及び170から314を含んで成るポリペプチド;
(d)配列番号:1のアミノ酸170から314を含んで成るポリペプチド;
(e)配列番号:2のポリペプチド;
(f)配列番号:3のポリペプチド;
(g)アミノ酸配列が、(a)から(f)の配列の少なくともひとつと、少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する、(a)から(f)のムテイン;
(h)(a)から(f)のいずれかをコードしている天然のDNA配列の相補体に、中等度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされた、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(i)アミノ酸配列の何らかの変化が、(a)から(f)のアミノ酸配列に対する保存的アミノ酸置換である、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(j)(a)から(f)のいずれかの塩又はアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体。
【0145】
活性画分又は断片は、オステオポンチンアイソフォームのいずれかの部分又はドメイン、例えばN-末端部分もしくはC-末端部分、又は図2に示されたような、OPN-a、-b、又は-Cのいずれかを含むことができる。GRGDSモチーフは、存在、又は非存在、又は突然変異されることができる。オステオポンチンがヘパリン結合を欠くように、ヘパリン結合部位は突然変異されてもよい。完全長オステオポンチン、又はそれらの活性断片は、下記の位置のセリン残基のような、1個又は複数の下記のセリン残基においてリン酸化され得る:8、10、11、33、46、47、60、62、65、83、86、89、92、101、104、107、110、113、153、155、175、179、199、203、208、212、218、223、227、238、242、247、251、254、259、264、275、287、292、294、295。加えて、セリンリン酸化部位は、リン酸化を模倣するために、セリンからグルタミン酸残基へと突然変異することができる。
【0146】
当業者は、オステオポンチンの比較的小さい部分であっても、オステオポンチン機能に必要な本質的アミノ酸残基を含む活性ペプチドのように、その機能を発揮するのに十分であることを理解するであろう。
【0147】
当業者は、更にオステオポンチンのムテイン、塩、アイソフォーム、融合タンパク質、オステオポンチンの機能性誘導体、オステオポンチンの活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体は、同様の、もしくは更により良いオステオポンチンの生物学的活性を維持することを理解するであろう。オステオポンチン及びムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質又は機能性誘導体、活性画分又は断片、循環式に順番を入れ替えた誘導体、又はそれらの塩の生物学的活性は、下記実施例8に説明されたもののような、同時培養アッセイにおいて測定することができる。混合型皮質培養物(mixed cortical culture)は、希突起膠細胞に加え、他のCNS由来の細胞(例えば、ニューロン、星状細胞、小グリア細胞)を含み、かつOPN又はムテイン、アイソフォーム、断片、活性画分、機能性誘導体又は塩と共にインキュベーションした際に、PO、MBP又はMAGのような髄鞘形成に関連した代表的遺伝子を誘導又はアップレギュレーションする。これらの遺伝子の発現は、定量的リアルタイムRT-PCR(TaqMan(登録商標)RT-PCR)分析により測定することができ、これは下記実施例において詳細に説明されている。OPN活性を測定する更に簡単なアッセイは、例えば下記実施例7に説明されたような、oli-neu又はCG4細胞などの適当な希突起膠細胞の細胞株を、OPN又はムテイン、アイソフォーム、断片、活性画分、機能性誘導体又は塩と共にインキュベーションする工程を含む、希突起膠細胞増殖アッセイである。
【0148】
好ましい活性画分は、完全長オステオポンチンの活性と同等もしくはより良い活性、又は更により良い安定性又はより低い毒性もしくは免疫原性などであるか、もしくはこれらは、大量に生成することが容易であるか、もしくは精製がより容易であるかのような利点を有する活性を有する。当業者は、ムテイン、活性断片及び機能性誘導体は、適当なプラスミドにおいて対応するcDNAのクローニング、及びそれらの前述のような同時培養アッセイによる試験により作出することができることを理解するであろう。
【0149】
本発明のタンパク質は、グリコシル化されても、されなくとも良く、これらは体液のような天然の給源に由来することができ、もしくはこれらは好ましくは組換えにより作出することができる。組換え発現は、E.コリ(E. coli)のような原核生物、又は昆虫細胞のような真核生物の発現システムにおいて行うことができ、かつ好ましくはCHO細胞又はHEK細胞のような哺乳類発現システムである。
【0150】
本明細書において使用される用語「ムテイン」は、得られる産物の活性を野生型オステオポンチンと比べてかなり変更することなく、天然のオステオポンチンの1個又は複数のアミノ酸残基が、異なるアミノ酸残基で置換されているか、又は欠失されているか、又はオステオポンチンの天然の配列に1個又は複数のアミノ酸残基が付加されている、オステオポンチンのアナログを意味する。これらのムテインは、公知の合成により及び/又は位置指定突然変異誘発技術により、もしくはこれに適した他の公知の技術により調製される。
【0151】
本発明において使用することができるオステオポンチンのムテイン、又はそれらをコードしている核酸は、当業者は、本明細書に記された内容及び指針を基に、過度の実験を行うことなく、慣習的に得ることができる、置換ペプチド又はポリヌクレオチドのような、実質的に対応している配列の有限集合を含む。
【0152】
本発明のムテインは、中等度又は高度にストリンジェントな条件下で、本発明に従いOPNをコードしているDNA又はRNAにハイブリダイズするDNA又はRNAのような核酸によりコードされたタンパク質を含む。用語「ストリンジェントな条件」とは、当業者が通常「ストリンジェント」と称しているような、ハイブリダイゼーション条件及びその後の洗浄条件を意味する。Ausubelらの論文(Current Protocols in Molecular Biology、前掲、Interscience社、N.Y.、第6.3章及び6.4章(1987、1992))、並びにSambrookらの論文(Sambrook, J. C.、Fritsch, E. F.、及びManiatis, T.(1989)、Molecular Cloning: A Laboratory Manual.、Cold Spring Harbor Laboratory Press社、Cold Spring Harbor、NY)を参照のこと。
【0153】
限定するものではないが、ストリンジェント条件の例は、試験中のハイブリッドの培養されたTmよりも12〜20℃下回る洗浄条件、例えば、2xSSC及び0.5%SDSで5分間、2xSSC及び0.1%SDSで15分間;0.1xSSC及び0.5%SDSで、37℃、30〜60分間、その後0.1xSSC及び0.5%SDSで、68℃、30〜60分間を含む。当業者は、ストリンジェントな条件は、DNA配列の長さ、オリゴヌクレオチドプローブ(例えば10〜40塩基)又は混合オリゴヌクレオチドプローブによっても決まることを理解している。混合プローブが使用される場合、SSCの代わりに、テトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)が使用されることが好ましい。前掲のAusubelの論文を参照のこと。
【0154】
好ましい態様において、このようなムテインは、添付された配列表の配列番号:1、2又は3の配列と少なくとも40%同一性又は相同性を有する。より好ましくは、これは、それらに少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%の、又は最も好ましくは少なくとも90%の同一性又は相同性を有する。
【0155】
同一性は、配列の比較により決定された、2種又はそれよりも多いポリペプチド配列もしくは2種又はそれよりも多いポリヌクレオチド配列の間の関係を反映している。一般に、同一性は、比較される配列の長さにわたっての、2種のポリヌクレオチド配列又は2種のポリペプチド配列に各々対応する、正確なヌクレオチド対ヌクレオチド又はアミノ酸対アミノ酸について意味する。
【0156】
正確な対応が存在しない配列については、「%同一性」が決定される。一般に比較される2種の配列は、これらの配列間で最大相関を示すように並置される。これは、並置の程度を増大するために、一方又は両方の配列に「ギャップ」を挿入することを含むことができる。%同一性は、比較される各配列の全長にわたって決定することができ(いわゆるグローバルアラインメント)、これは特に同じ又は非常に類似した長さの配列に適しており、もしくはより短い定義された長さについて決定することもでき(いわゆるローカルアラインメント)、これは等しくない長さの配列により適している。
【0157】
2種又はそれよりも多い配列の同一性及び相同性を比較する方法は、当該技術分野において周知である。従って例えば、Wisconsin Sequence Analysis Package、v.9.1(Devereux Jら、1984)において利用可能なプログラム、例えばプログラムBESTFIT及びGAPを用い、ふたつのポリヌクレオチド間の%同一性並びにふたつのポリペプチド配列間の%同一性及び%相同性を決定することができる。BESTFITは、Smith及びWaterman(1981)の「ローカル相同性」アルゴリズムを使用し、かつふたつの配列間で最良の類似性を持つ単独領域を見いだす。配列間の同一性及び/又は類似性を決定する他のプログラムも、当該技術分野において公知であり、例えばプログラムのBLASTファミリー(Altschul S Fら、1990、Altschul S Fら、1997、これはNCBIのホームページを介してアクセス可能である、www.ncbi.ntm.nih.gov)及びFASTA(Pearson W R.、1990;Pearson、1988)がある。
【0158】
本発明のムテインに関する好ましい変化は、「保存的」置換として知られているものである。オステオポンチンポリペプチドの保存的アミノ酸置換は、群の一員の間の置換がその分子の生物学的機能を保存するような、十分に類似した物理化学特性を有する群内の同義アミノ酸を含むことができる(Grantham、1974)。先に定義された配列において、特に挿入又は欠失はわずかに数個のアミノ酸、例えば30個以下、及び好ましくは10個以下に関連し、かつシステイン残基のような、機能的コンホメーションに重要なアミノ酸を動かしも置換えもしないならば、それらの機能を変更することなく、アミノ酸の挿入及び欠失を行うことができることは明かである。このような欠失及び/又は挿入により作成されたタンパク質及びムテインは、本発明の範囲内である。
【0159】
好ましくは、同義アミノ酸群は、表Iに定義したものである。より好ましくは、同義アミノ酸群は、表IIに定義したものであり;並びに最も好ましくは、同義アミノ酸群は、表IIIに定義したものである。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】
【0163】
本発明において使用するためのオステオポンチン、ポリペプチド又はタンパク質のムテインを得るために使用することができるタンパク質におけるアミノ酸置換の作出の例は、例えばMarkらの米国特許第4,959,314号、第4,588,585号及び第4,737,462号;Kothsらの第5,116,943号;Namenらの第4,965,195号;Chongらの第4,879,111号;及び、Leeらの第5,017,691号に開示されたような、公知の方法の工程;並びに、米国特許第4,904,684号(Shawら)に開示されたようなリシン置換されたタンパク質を含む。
【0164】
用語「融合タンパク質」は、例えば体液中への延長された滞在時間を有するような他のタンパク質に融合した、オステオポンチン、又はそれらのムテインもしくは断片を含むポリペプチドを意味する。従ってオステオポンチンは、別のタンパク質、ポリペプチドなど、例えば、免疫グロブリン又はそれらの断片に融合することができる。
【0165】
本明細書において使用される「機能性誘導体」は、当該技術分野において公知の手段により、残基上に側鎖として生じる官能基又はN-もしくはC-末端基から調製され、かつこれらが医薬として許容でき続ける限り、すなわち、それらが実質的にオステオポンチンの活性に類似したタンパク質の活性を破壊せず、並びにそれを含有する組成物に毒性を付与しない限りは本発明に含まれるような、オステオポンチンの誘導体、並びにそれらのムテイン及び融合タンパク質を対象としている。
【0166】
これらの誘導体は、例えば、抗原性部位を遮蔽し、オステオポンチンの体液中の滞在を延長することができるようなポリエチレングリコール側鎖を含むことができる。その他の誘導体は、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニア又は一級もしくは二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分により形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN-アシル誘導体(例えば、アルカノイル又は炭素環式アロイル基)、又はアシル部分により形成された遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体(例えば、セリル又はトレオニル残基)を含む。
【0167】
オステオポンチン、ムテイン及び融合タンパク質の「活性画分」として、本発明は、該画分が実質的にオステオポンチンと同様の活性を有するならば、タンパク質分子単独のポリペプチド鎖のいずれかの断片もしくは前駆体、又は例えば糖又はリン酸残基のようなそれに連結された会合した分子もしくは残基、又はタンパク質分子又は糖残基自身の凝集物と一緒のものを対象としている。
【0168】
本明細書において用語「塩」は、OPN分子のカルボキシル基の塩及びアミノ基の酸付加塩の両方又はそれらのアナログを意味する。カルボキシル基の塩は、当該技術分野において公知の手段により形成することができ、かつ無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄又は亜鉛の塩など、並びに有機塩基との塩、例えばトリエタノールアミン、アルギニン又はリシン、ピペリジン、プロカインなどのアミンで形成されたものを含む。酸付加塩は、例えば塩酸又は硫酸などのような鉱酸との塩、及び例えば酢酸又はシュウ酸などのような有機酸との塩を含む。当然このような塩のいずれも、本発明に関してOPNの生物学的活性を維持、すなわち希突起膠細胞に対する増殖作用を発揮しなければならない。
【0169】
本発明の好ましい態様において、オステオポンチンは、血液-脳関門(「BBB」)通過を促進する担体分子、ペプチド又はタンパク質に融合される。このことは、該分子の、CNSが該疾患に関与しているような、それらの症例における作用部位への標的化に役立つ。BBBを通る薬物送達モダリティは、浸透圧的手段によるか又は生化学的にブラジキニンのような血管作用性の物質の使用のいずれかによる、BBB破壊を必然的に伴う。BBBを通過する別の戦略は、グルコース及びアミノ酸担体のような担体が媒介した輸送体;インスリン又はトランスフェリンのための受容体が媒介したトランスサイトーシス;及び、p-糖タンパク質のような能動流出輸送体を含む、内因性輸送システムの使用を必然的に伴い得る。更にBBBの裏側への薬物送達戦略は、大脳内移植を含む。
【0170】
オステオポンチンの機能性誘導体は、安定性、半減期、バイオアベイラビリティ、ヒト体による忍容性、又は免疫原性のようなタンパク質特性を改善するために、ポリマーと複合してもよい。この目的を達成するために、オステオポンチンは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)と連結することができる。PEG化は、例えば国際公開公報第92/13095号に開示されたような、公知の方法により行うことができる。
【0171】
従って好ましい本発明の態様において、オステオポンチンはPEG化されている。
【0172】
更に好ましい本発明の態様において、融合タンパク質は、免疫グロブリン(Ig)融合体を含む。この融合体は、直接、又は長さ1〜3個と短いアミノ酸残基又はそれよりも長い、例えば長さ13個のアミノ酸残基であることができる短いリンカーペプチドを介することができる。該リンカーは、例えばオステオポンチン配列と免疫グロブリン配列の間に導入された、例えば配列E-F-M(Glu-Phe-Met)の3ペプチド、又はGlu-Phe-Gly-Ala-Gly-Leu-Val-Leu-Gly-Gly-Gln-Phe-Metを含む13-アミノ酸リンカー配列であることができる。得られた融合タンパク質は、例えば延長された体液中滞在時間(半減期)、又は増大した特異的活性、増大した発現レベルのような、改善された特性を有する。Ig融合体は、この融合タンパク質の精製を促進することもできる。
【0173】
更に別の好ましい態様において、オステオポンチンは、Ig分子の定常領域に融合される。好ましくはこれは、例えばヒトIgG1のCH2及びCH3ドメインのような、重鎖領域に融合される。アイソフォームIgG2もしくはIgG4のような別のIg分子アイソフォーム、又は例えばIgMのような他のIgクラスも、本発明の融合タンパク質の作成に適している。融合タンパク質は、単量体又は多量体、ヘテロ-又はホモ-多量体であることができる。融合タンパク質の免疫グロブリン部分は、更に、補体結合又は補体カスケードを活性化せず、もしくはFc-受容体に結合しないように修飾してもよい。
【0174】
本発明は更に、神経学的障害の治療及び/又は予防のための医薬品製造に関する、同時、逐次又は個別使用のための、オステオポンチン免疫抑制剤の併用に関する。免疫抑制剤は、ステロイド、メトトレキセート、シクロホスファミド、抗-白血球抗体(例えばCAMPATH-1)などであることができる。
【0175】
本発明は更に、神経学的障害の治療及び/又は予防のための医薬品製造に関する、同時、逐次又は個別使用のための、オステオポンチン及びインターフェロンの併用に関する。
【0176】
本明細書において使用される用語「インターフェロン」は、例えば前項「発明の背景」で言及したIFNのいずれかの種類を含む、文献などに定義されたあらゆる分子を含むことが意図されている。このインターフェロンは、好ましくはヒトであるが、生物学的活性がヒトインターフェロンに類似し、かつその分子がヒトにおいて免疫原性でない限りは、他の種に由来することができる。
【0177】
特に、IFN-α、IFN-β及びIFN-γが、前記定義に含まれる。IFN-βは、本発明にとって好ましいIFNである。
【0178】
本明細書において使用される用語「インターフェロン-β(IFN-β)」は、生物学的液体から単離することにより得られるような、又は原核もしくは真核宿主細胞からDNA組換え技術により得られるような、ヒト線維芽細胞インターフェロン、更にはそれらの塩、機能性誘導体、変異体、アナログ及び断片を含むことが意図されている。
【0179】
本明細書において使用される「機能性誘導体」は、当該技術分野において公知の手段により、残基上に側鎖として生じる官能基又はN-もしくはC-末端基から調製され、かつ本発明においてこれらが医薬として許容でき続ける限り、すなわち、それらが前述のタンパク質生物学的活性、例えば対応する受容体に結合する能力及び受容体シグナル伝達を開始する能力などを破壊せず、かつそれを含有する組成物に毒性を付与しない限りは含まれるような、誘導体を対象としている。誘導体は、誘導体がタンパク質の生物学的活性を維持しかつ医薬として許容でき続けるならば、糖残基又はリン酸残基のような化学的部分を有することができる。
【0180】
例えば、誘導体は、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニア又は一級もしくは二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分により形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN-アシル誘導体(例えば、アルカノイル又は炭素環式アロイル基)、又はアシル部分により形成された遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体(例えば、セリル又はトレオニル残基)を含む。このような誘導体は、抗原性部位を遮蔽しかつ該分子の体液中の滞在を延長することができる、例えばポリエチレングリコール側鎖を含むこともできる。
【0181】
長期持続するように誘導された又は錯化剤と組合わされたタンパク質が、特に重要である。例えば前述のような、PEG化されたもの、又は体内において長期持続性活性を発揮するように遺伝子操作されたタンパク質を、本発明において使用することができる。
用語「誘導体」は、ひとつのアミノ酸を、20種の通常生じる天然のアミノ酸の別のものと交換しないそれらの誘導体のみを含むことが意図されている。
【0182】
本明細書において用語「塩」は、先に説明されたタンパク質のカルボキシル基の塩及びアミノ基の酸付加塩の両方又はそれらのアナログを意味する。カルボキシル基の塩は、当該技術分野において公知の手段により形成することができ、かつ無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄又は亜鉛の塩など、並びに有機塩基との塩、例えばトリエタノールアミン、アルギニン又はリシン、ピペリジン、プロカインなどのアミンで形成されたものを含む。酸付加塩は、例えば塩酸又は硫酸などのような鉱酸との塩、及び例えば酢酸又はシュウ酸などのような有機酸との塩を含む。当然このような塩のいずれも、本発明に関連したタンパク質(各々、オステオポンチン及びIFN-β)の生物学的活性を維持、すなわち対応する受容体に結合する能力及び受容体のシグナル伝達を開始する能力を維持しなければならない。
【0183】
インターフェロンは、該タンパク質の安定性を改善するために、ポリマーと複合することができる。インターフェロンβ及びポリオールポリエチレングリコール(PEG)の間の複合は、例えば国際公開公報第99/55377号に開示されている。
【0184】
別の本発明の好ましい態様において、インターフェロンは、インターフェロン-β(IFN-β)であり、より好ましくはIFN-β1aである。
【0185】
オステオポンチンは、好ましくは、インターフェロンと同時、逐次又は個別に使用される。
【0186】
本発明の好ましい態様において、オステオポンチンは、約0.0001〜100mg/kg体重、又は約0.01〜10mg/kg体重、又は約1〜5mg/kg体重、又は約2mg/kg体重の量で使用される。
【0187】
更に本発明は、神経疾患の治療及び/又は予防のための医薬品製造のための核酸分子の使用に関連し、ここでこの核酸分子は、下記からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードしている核酸配列を含む:
(a)配列番号:1を含んで成るポリペプチド;
(b)配列番号:1のアミノ酸1から168又は170を含んで成るポリペプチド;
(c)配列番号:1のアミノ酸1から16及び170から314を含んで成るポリペプチド;
(d)配列番号:1のアミノ酸170から314を含んで成るポリペプチド;
(e)配列番号:2を含んで成るポリペプチド;
(f)配列番号:3を含んで成るポリペプチド;
(g)アミノ酸配列が、(a)から(f)の配列の少なくともひとつと、少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(h)(a)から(f)のいずれかをコードしている天然のDNA配列の相補体に、中等度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされた、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(i)アミノ酸配列の何らかの変化が、(a)から(f)のアミノ酸配列に対する保存的アミノ酸置換である、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(j)(a)から(f)のいずれかのアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体。
【0188】
この核酸は、例えば、裸の核酸分子として、例えば筋肉内注射により投与することができる。
【0189】
更にこれは、ヒト体内、好ましくは適当な細胞又は組織における該核酸分子によりコードされた遺伝子の発現に有用である、ウイルス配列のような、ベクター配列を含んでもよい。
【0190】
従って好ましい態様において、核酸分子は更に、発現ベクター配列を含む。発現ベクター配列は、当該技術分野において周知であり、これらは更に関心のある遺伝子発現に役立つ要素を含む。これらは、例えばプロモーター及びエンハンサー配列のような調節配列、選択マーカー配列、複製起点なども含むことができる。従って遺伝子治療的方法が、本疾患の治療及び/又は予防に使用される。都合の良いことに、オステオポンチンの発現はin situであろう。
【0191】
好ましい態様において、発現ベクターは、レンチウイルス由来のベクターである。レンチウイルスベクターは、特にCNS内で、遺伝子導入に非常に効率的であることが示されている。その他の良く確立されたウイルスベクター、例えばアデノウイルス由来のベクターも、本発明で使用することができる。
【0192】
標的化されたベクターは、オステオポンチンが血液-脳関門を通過することを増強するために使用することができる。このようなベクターは、例えばトランスフェリン受容体又は他の内皮輸送機序を標的とすることができる。
【0193】
本発明の好ましい態様において、発現ベクターは、筋肉内注射により投与することができる。
【0194】
オステオポンチンの発現に対して通常サイレントである細胞、又は十分でない量のオステオポンチンを発現する細胞におけるオステオポンチンの内因性産生を誘導及び/又は増強するためのベクターの使用も、本発明により企図される。このベクターは、オステオポンチンを発現することが望ましい細胞において機能的な調節配列を含んでもよい。このような調節配列は、例えばプロモーター又はエンハンサーであることができる。次に調節配列は、相同的組換えにより、ゲノムの適当な遺伝子座に導入され、その結果調節配列は、その発現が誘導又は増強されることが必要とされている遺伝子と機能的に連結することができる。この技術は通常、「内因性遺伝子活性化」(EGA)と称され、例えば国際公開公報第91/09955号に開示されている。
【0195】
本発明は更に、神経疾患の治療及び/又は予防のための医薬品製造における、オステオポンチンを産生するように遺伝子操作された細胞の使用に関する。
【0196】
本発明は更に、神経疾患の治療及び/又は予防のための医薬品製造における、オステオポンチンを産生するように遺伝子操作された細胞に関する。従って細胞治療的方法は、ヒトの体の適当な部位に薬物を送達するために使用することができる。
【0197】
本発明は更に、治療有効量のオステオポンチン及び治療有効量のインターフェロン、更に任意に治療有効量の免疫抑制剤を含有する、特に神経疾患の予防及び/又は治療に有用な、医薬組成物に関する。
【0198】
「医薬として許容できる」の定義は、活性成分の生物学的活性の有効性を妨害せず、かつそれが投与される宿主に対し毒性がないようないずれかの担体を包含することを意味する。例えば非経口投与について、活性タンパク質(複数)は、生理食塩水、デキストロース液、血清アルブミン及びリンゲル液などの媒体中に、注射用の単位剤形中で処方することができる。
【0199】
本発明の医薬組成物の活性成分は、様々な方法で個体に投与することができる。投与経路は、皮内、経皮(例えば、徐放性処方)、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、外用、髄腔内、直腸内及び鼻腔内経路を含む。例えば上皮もしくは内皮組織を通した吸収、又はin vivoにおいて発現されかつ分泌される活性物質を生じる活性物質をコードしているDNA分子を患者へ投与する(例えば、ベクターにより)遺伝子療法のような、いずれか他の治療的に有効な投与経路を使用することができる。加えて本発明のタンパク質(複数)は、医薬として許容できる界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤及び媒体などの生物学的活性物質の他の成分と共に投与することができる。
【0200】
非経口(例えば、静脈内、皮下、筋肉内)投与について、活性タンパク質(複数)は、医薬として許容できる非経口媒体(例えば、水、生理食塩水、デキストロース液)及び等張性(例えばマンニトール)又は化学的安定性(例えば保存剤及び緩衝剤)を維持する添加剤と会合して、液剤、懸濁剤、乳剤又は凍結乾燥された散剤として処方することができる。この処方は、常用の技術により滅菌される。
【0201】
本発明の活性タンパク質(複数)のバイオアベイラビリティは、PCT特許出願国際公開公報第92/13095号に開示されたような、例えば該分子のポリエチレングリコールとの連結のような、ヒト体内での該分子の半減期を延長する複合手法を用い、改善することもできる。
【0202】
この活性タンパク質(複数)の治療的有効量は、タンパク質の種類、タンパク質の親和性、アンタゴニストにより発揮された残留細胞傷害活性、投与経路、患者の臨床状態(内因性オステオポンチン活性の無毒レベルを維持することの望ましさを含む)を含む、多くの変数の関数であろう。
「治療的有効量」は、投与される場合に、オステオポンチンが、神経疾患に対し有益な作用を発揮するようなものである。個体へ単回又は反復用量として投与される用量は、オステオポンチンの薬物動態特性、投与経路、患者の状態及び特徴(性別、年齢、体重、健康状態、大きさ)、症状の程度、併用療法、治療頻度及び望ましい作用を含む、様々な要因に応じて変動するであろう。
【0203】
前述のように、オステオポンチンは、好ましくは、約 0.0001〜10mg/kg又は約0.01〜5mg/kg体重、又は約0.01〜5mg/kg体重又は約0.1〜3mg/kg体重又は約1〜2mg/kg体重の量で使用される。更に好ましいオステオポンチン量は、約0.1〜1000μg/kg体重又は約1〜100μg/kg体重又は約10〜50μg/kg体重の量である。
本発明に従い好ましい投与経路は、皮下経路による投与である。筋肉内投与は、更に本発明にとって好ましい。
【0204】
更に好ましい態様において、オステオポンチンは、毎日又は1日おきに投与される。
毎日の用量は、通常望ましい結果を得るのに有効な分割量又は徐放型で与えられる。2回目又は引き続きの投与は、個体に投与された初回又は前回用量と同じ、より少ない又はより多い用量で行うことができる。2回目又は引き続きの投与は、疾患の途中又は発症前に投与することができる。
【0205】
本発明に従い、オステオポンチンは、治療有効量の他の治療的投薬計画又は物質(例えば多剤投薬計画)、特にインターフェロンと共に、その前、同時又は引き続き、個体へ予防的又は治療的に投与することができる。他の治療的物質と共に投与される活性物質は、同じ又は異なる組成物中で投与することができる。
【0206】
本発明は更に、有効量のオステオポンチン、又はオステオポンチン活性のアゴニストを、それが必要な患者に、任意に医薬として許容できる担体と共に投与することを含む、神経疾患の治療法に関する。
【0207】
インターフェロン及び、有効量のオステオポンチン、又はオステオポンチン活性のアゴニストを、それが必要な患者に、任意に医薬として許容できる担体と共に投与することを含む、神経疾患治療法も、本発明の範囲内である。
【0208】
雑誌記事又は要約、公開又は未公開の米国又は米国以外の国の特許出願、発行された米国又は米国以外の国の特許、又はいずれか他の参考文献を含む本明細書に引用された全ての参考文献は、引用された参考文献に示された全てのデータ、表、図及び本文を含むその全体が本明細書に参照として組入れられている。加えて、本明細書に引用された参考文献に引用された参考文献の全ての内容も、全体が本明細書に参照として組入れられている。
公知の方法の工程、従来の方法の工程、公知の方法又は従来の方法に関する参考文献は、本発明の局面、説明又は態様は、関連する技術分野において明らかにされ、示されるか又は示唆されていることをいかなる方法においても承認するものではない。
【0209】
先の具体的態様の説明は、当業者の知識(本明細書に引用された参考文献の内容を含む)を適用することにより、その他のものを、過度の実験を行うことなく、本発明の全般的概念から逸脱することなく、そのような具体的態様の様々な適用のために容易に修飾及び/又は適合することができるような、本発明の一般的性質を完全に明らかにするであろう。従って、このような適合及び修飾は、本明細書に示された内容及び指針を基に、開示された態様と同等の範囲の意味内であることが意図されている。本明細書の専門語又は技術用語は、説明を目的とし限定ではないことも理解されるべきであり、その結果本明細書の技術用語又は専門語は、当業者により本明細書に記された内容及び指針を鑑み当業者の知識と組合せて解釈されるべきである。
【0210】
本発明を説明するに当り、例証のために提示されかつ本発明の限定を意図しないような下記実施例を参照することにより、より容易に理解されるであろう。
【実施例】
【0211】
実施例1:脱髄疾患のin vivo及びin vitroモデルにおいてオステオポンチンはディファレンシャルに発現する
方法
In vitroモデルシステム
Oli-neu細胞株は、t-neu癌遺伝子、構成的活性チロシンキナーゼをコードしている複製-欠損レトロウイルスによる、希突起グリア細胞前駆体の不死化により確立されており;この細胞株は、培養培地において1mMジブチリル-cAMPの存在下で分化が誘導されることが示された(Jungら、1995)。これは、単離された細胞型としての希突起膠細胞の研究の可能性を提供した。
【0212】
A2B5マウス希突起膠細胞前駆体由来の、未処理の条件下及び1〜5mMジブチリルcAMPによる6日間の予備-分化処理後の、マウス希突起膠細胞の細胞株Oli-neuの細胞の形態及び抗原特性は、実質的に異なっている。未処理のOli-neu細胞は、円形であり、かつ希突起膠細胞前駆細胞のようにほとんど二極性であるのに対し、cAMP処理した細胞は、複数の突起を生じ、平坦な表現型を有し、かつ平坦で延長された「鞘-様」構造さえも生じた。
【0213】
加えて、混合皮質培養物を用いるin vitro髄鞘形成アッセイを用い、機能性ミエリンをin vitroにおいて可視化することができる。このシステムは、他のCNS細胞型の存在下でどのように希突起膠細胞が軸索に接触しかつ髄鞘形成するかを試験する可能性を提供する(Lubetzkiら、1993)。このシステムにおいて、希突起膠細胞前駆体の増殖に影響を及ぼすか又は実際のミエリンセグメントの形成に影響を及ぼすように、希突起膠細胞の分化及び生存に作用することができる生物学的要因を、試験することができる。In vitroにおける髄鞘形成の過程を試験する必要性は、脳細胞培養物の凝集(Matthieuら、1992)、脳切片培養(Notterpekら、1993)、及び同時培養システム(Shawら、1996;Barresら、1993)を含む、様々なアッセイ型の開発につながる。これらのモデルは、他の細胞型と複合して希突起膠細胞の挙動を試験し、かついかにしてこれらの細胞がミエリンを産生するように刺激されたかを試験することを可能にする利点がある。脱髄を、特異的発作によりこのようなシステムにおいて引き起こすこともでき、かつ髄鞘再形成の反応過程も研究することができる。
【0214】
In vivoモデルシステム
多発性硬化症のin vivo及びin vitroモデルの広範な実験が存在する。In vivoモデルのほとんどは、MS、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の古典的動物モデルに関連している。このモデルには多くの変種が存在し、これは、マウス、ラット及び霊長類システムを含む、広範な哺乳類生物において使用するために適合されている(Petryらにより検証、2000)。加えて、MSの脳炎誘発性Theilerマウスウイルスモデルのような、動物モデルにおけるMSの提唱されたウイルス成分を「模倣する」ための方法が作成されている(Dal Cantoら、1995)。
【0215】
CNS又はPNSにおける髄鞘形成を専ら研究するための動物モデルは余り一般的には使用されていない。「反復説」(Franklin及びHinks、1999)に従い、希突起膠細胞又はシュワン細胞の分化、移動、及び増殖の基礎となる機序に関する洞察を得るためには、発育的髄鞘形成の過程を観察することが有用であることが証明されている。しかし、CNS又はPNSが依然形成されつつある間に生じる発育的髄鞘形成と、成体パラダイムにおいて生じる髄鞘再形成を比較するために、髄鞘再形成の過程を具体的に説明するモデルを作成することが必要である。
【0216】
キュプリゾンモデル
最も周知でありかつ広範に使用されている髄鞘再形成モデルのひとつは、マウスにおける髄鞘再形成のためのキュプリゾンモデルである。これは、希突起膠細胞に対し選択的に毒性があることが示されている銅キレート剤である有機化合物キュプリゾンの経口投与に関連している(Morellら、1998)。
脱髄及び髄鞘再形成は、キュプリゾン処理したマウスの脳梁において生じる。これらの病態は、抗-CNPase抗体又はMBP抗体による染色により可視化することができる。ミエリンは、ルクソールファストブルー-過ヨウ素酸シッフ(LFB-PAS)により染色される。髄鞘再形成している希突起膠細胞前駆体は、PDGFα受容体又はNG2に対する抗体を使用し、可視化することができる。
【0217】
マウスへの、3〜5週間にわたるキュプリゾン投与は、脳梁の広範囲の脱髄を生じる。脱髄と同時に起こる、ミエリン-特異的遺伝子転写産物の合成は、キュプリゾン投与の3週間後までアップレギュレーションされる(Morellら、1998)。
その後のキュプリゾン投与計画の中止は、回復を誘導する環境を生じ、その結果キュプリゾン摂餌中止後6週間で、このマウスは脳梁に広範囲の髄鞘再形成を示す。従って、キュプリゾンモデルは、脱髄及び髄鞘再形成の局面を研究するための完全なin vivoパラダイムを提供する。その利点は、CNS組織へのT-細胞浸潤が存在しないこと、髄鞘形成過程のより専門的研究が可能であること、更には結果の再現性があることを含む(Hiremathら、1998)。
【0218】
キュプリゾン処理に関して、CS7BL/6雌マウス(8週齢、20±3g)を本試験において使用し、これらは6群に分け、各群は6匹の動物を含んでいた:
第1群:通常の粉末固形餌を摂取させた対照群;
第2群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を3週間摂取(Cup3w);
第3群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を5週間摂取(Cup5w);
第4群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を5週間摂取後、通常の粉末餌で1週間の回復期間(1wR);
第5群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を5週間摂取後、通常の粉末餌で3週間の回復期間(3wR);
第6群:0.2%キュプリゾンを含有する粉末餌を5週間摂取後、通常の粉末餌で6週間の回復期間(6wR)。
【0219】
各処理の終了時に、定時で、脳を、各群の動物から収集した。マウスを最初に麻酔し、左心室を介して灌流した。脳を収集し、かつ連続冠状切片を、脳梁-尾状皮殻(線条体)及び海馬のレベルで作成した。脳組織切片は、免疫組織化学及びin situハイブリダイゼーションのために、パラフィンに包埋した。
【0220】
組織学的組織調製
ホルマリンを、ホルムアルデヒド1容量(Fluka社、36% p.a.)、及び滅菌PBSの1容量を滅菌水8容量で希釈することにより調製した。蠕動ポンプに装填し、及び20G、1-1/5針を装着したシリコンチューブを、PBS 10mlで満たした。次にこのチューブを、気泡形成を防ぐように注意しながら、ホルマリン40mlを連続充填した。
【0221】
動物を、濃度3mg/100mlに滅菌PBSで1:1希釈した、ペントバルビタールナトリウム(Sanofi(登録商標))で麻酔し、その後、臓器及び組織のその後の組織学的分析を可能にするように固定しながら、心臓灌流した。各マウスは、0.05ml(0.75mg/kg)の腹腔内注射を受け取った。一旦動物が眠気を催すと、それらの四肢をStyrofoam板上に皮膚を通してピン(25G 5/8針)で固定した。各動物の腹部を、エタノールで清拭し、かつ外面(externo)レベルで滅菌鋏で皮膚を切開した。その後腹部を更に、左右に切開した。この外面を鉗子対で持ち上げ、横隔膜を対角線切開により開放し、かつ裂け目(rip)に対し垂直の両側切開を行い、拍動する心臓が中央に位置する胸郭を露出した。心臓を、鉗子で持ち、右心房を即座に切断し、静脈から出血させた。各マウス症例において、PBS 10ml、その後ホルマリン40mlを循環させた。各動物の脳及び脊髄を慎重に剥離し、50ml Falcon(登録商標)チューブに入ったホルマリン溶液10ml中に2時間放置した。その後ホルマリン溶液を、10mlの滅菌PBSと交換し、材料を+4℃で一晩放置した。その後PBS溶液を再度交換し、材料を+4℃で数時間放置した。脳半球及び脊髄を、ほぼ0.5cm切片に切断し、封入装置(inclusion machine)に互換性のあるプラスチック製のバスケット中に配置した。パラフィン中の脳及び脊髄の包埋は、以下に説明したプログラムに従い、自動Tissue Tek Vacuum Infiltration Processor E150/E300 (Miles社、Diagnostics)を用いて行った:
50%エタノール中30分
70%エタノール中60分
70%エタノール中60分
80%エタノール中60分
80%エタノール中90分
96%エタノール中30分
96%エタノール中90分
96%エタノール中120分
100%キシレン中30分
100%キシレン中60分
パラフィン(Histosec、Merck 11609)中60分間のインキュベーションを4回;最終工程で包埋。
【0222】
全ての溶液は、65℃のパラフィンで40℃に維持した。一旦組織切片が準備できると、脳及び脊髄切片を、パラフィンブロックに封入するために、望ましい方向でプラスチックチャンバーに配置した。パラフィン液を注ぎ、冷却プレート上で迅速に0℃に冷却した。パラフィンブロックをミクロトームで、切片(5〜10μm)になるよう処理した。その後切片を、シラン処理したガラススライド(SuperFrost-Plus(商標)、Menzel社カタログ番号041300)上に搭載した。搭載後、スライドを粉塵の存在しない環境で貯蔵した。
【0223】
細胞培養
Oli-neu:マウスの希突起膠細胞の細胞株(Oii-neu)細胞を、遠心により濃縮し、かつSato培地中に再浮遊した(Trotterら、1989)。細胞を、75mLフラスコ中で37℃及び5%CO2の管理条件下で培養した。細胞培養培地に直接添加した1mM dbcAMPにより、分化を行なわせた。Trizol法を用いてRNAを抽出した(下記参照)。
【0224】
RNA単離
総RNAを、Tri-ZOL(登録商標)抽出プロトコール(Life Technologies AG社、Basel、スイス)を用い、Oli-neu細胞、キュプリゾン-処理したマウス脳切片及び異なる発育段階の出生後マウスの全脳から単離した。ポリ(A)+ RNAを、Qiagen OLIGOTEX(商標)カラム(QIAGEN社、28159 Stanford Avenue, Valencia, CA 91355、米国)を用い、総RNA試料から調製した。
【0225】
cDNAマイクロアレイを用いるDGE分析
マイクロアレイ実験は、Incyte Genomics (Incyte Genomics社、3160 Porter Drive, Palo Alto, CA 94304, 米国)において行った。DGE分析は、Incyte社のMouse GEM(商標)1遺伝子発現マイクロアレイを用いて行った(http:/www.incyte.com/reagents/gem/products.shtml)。
【0226】
これらのアッセイにおいて使用したIncyteチップは、既知及び未知(EST配列)の両方の8734個の遺伝子に対応するcDNA分子を負荷した。Incyteの技術は、これらの遺伝子の各々のマイクロ量の試料を、単独のアレイ上にスポットすることを可能にしていた。既知の遺伝子又はESTに対応する各cDNA分子は、長さ500〜5000bpであった。このIncyte特異性は、試料中の個々のmRNAについて2〜2,000pgという劇的な検出範囲をもたらした。各アレイ実験に必要とされるRNAの量は、600ngのポリ(A)+ RNAである。検出可能な、ディファレンシャルな発現の表示レベルは、1.75よりも大きい比として与えられた。
【0227】
シグナル標準化及び発現レベルの決定
2種の蛍光強度からコンピュータ処理した比は、分析した2個の細胞試料中の相対遺伝子発現レベルの定量的測定値を提供した。各遺伝子に割当てられた比は、標準化された発現レベルを基にコンピュータ処理した。標準化因子は、第二の試料の総発現(P2)を、第一の試料の総発現(P1)で除算することにより、コンピュータ処理した。次にこの因子を、P2の各遺伝子の発現レベルに当てはめた。一旦この標準化工程が適用されたならば、これらの遺伝子比は、下記規則に従いコンピュータ処理した:
【0228】
E1は、試料1中の所定の遺伝子の発現レベルとし、かつE2は、試料2中の同じ遺伝子の標準化した発現レベルとする;E2>E1である場合は、比=E2/E1とし、そうでない場合は、比=-E1/E2とする。
【0229】
試料のハイブリダイゼーションは、同時に競合的に行ったので、Incyteチップ技術は、相対発現の変化の決定がより正確であり、及び絶対発現レベルの測定値に関する信頼性は低下し始めた。それでもなお、チップ上で実際には物理的に比較されなかった試料RNA集団の対を比較するために、これらの発現レベル値を使用することが可能であった。このようなin silico比較は、信頼性は低いが、これらは、アッセイされるシステムに当てはめることができる機序に関する追加情報を提供することができる。
【0230】
結果
ディファレンシャルなオステオポンチン発現の分析に使用したモデル
表IVは、前述の、mRNAの抽出、及びチップハイブリダイゼーション(DGE分析)に使用したモデルを示す。
【0231】
【表4】
【0232】
DGEの陽性対照:ミエリン-特異的遺伝子の調節。
陽性対照として、最初に、ミエリン-特異的遺伝子のディファレンシャルな調節をDGEを用いて示すことができるかどうかを試験した。
【0233】
表Vは、Incyteマイクロアレイ上に存在するミエリン-特異的遺伝子の観察された調節を示している。各遺伝子に関するディファレンシャルな発現値は、キュプリゾン処理の3-週及び5-週の両時点で報告した。このデータは、チップの信頼性を証明するための陽性対照であった。本発明者らの実験条件下でミエリン構造遺伝子の調節は良く特徴付けられているので、チップ上で測定されたこれらの遺伝子について観察された発現を用い、a)この技術の精度、及びb)本発明者らのモデルの再現性を示すことができた。
【0234】
【表5】
【0235】
前記表は、脱髄、髄鞘再形成及び発育的髄鞘形成の試験に使用された様々なin vivoモデルからのRNAについて行われたマイクロアレイアッセイにおいて、いかにしていくつかのミエリン-特異的遺伝子が調節されたかを示している。これらのミエリン-特異的遺伝子の発現の変化は、いかにして髄鞘形成の過程が、マイクロアレイを用い転写調節のレベルで試験されたかを示している。
【0236】
キュプリゾン投与の3週間後、この処理の脱髄作用を、マウス脳の特定領域において可視化することができた。従って3週間目に、ミエリン合成及び/又はミエリン維持に関連した様々な遺伝子のダウンモジュレーションが観察されると予想された。マイクロアレイにより観察されたミエリン特異的遺伝子のダウンモジュレーションは、この実験系の精度及び信頼性の確認に利用した。表Vに示したデータは、13.6-倍ダウンレギュレーションされたMBPのmRNAレベル及び2.9-倍ダウンレギュレーションされた環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ1(CNPase)は、キュプリゾン処理の3週目に対照と比較して減少したことを示した。しかし、これらの両遺伝子のRNAレベルは、キュプリゾン処理の5週目には、各々、1.3-及び1.1-倍に回復し、このことはこの生物学的システムが構造的ミエリンタンパク質の追加的合成により髄鞘再形成の確立を試みることを示している。
【0237】
オステオポンチンのディファレンシャルな調節:
チップ上において、オステオポンチンは、3w (+2.2)及び5w (+2.8)キュプリゾンでアップレギュレーションされた。
【0238】
実施例2:リアルタイム定量逆転写酵素(RT)-PCRアッセイ(TaqMan(登録商標))によるオステオポンチンのディファレンシャルな遺伝子発現の確認
方法
cDNA鋳型作成
TaqMan(登録商標)分析のためのcDNA鋳型は、総RNA試料から、TaqMan(登録商標)逆転写試薬(P/N N808-0234)を使用する逆-転写(RT)により作成した。全てのRT反応は、以下を含有する100-μl容量で行った:RNase-非含有H2O中に、TaqMan RT緩衝液10μl、25mM MgCl2溶液(5.5mM)22μl、デオキシNTP混合物(500μMの各dNTP)20μl、ランダムヘキサマー(2.5μM)5μl、RNaseインヒビター(0.4U/μl)2μl、MultiScribe転写酵素(1.25U/μl)2.5μl、及びRNA試料(合計1μg)38.5μl。反応は、Eppendorf MasterCycler中で、25℃で10分間(インキュベーション工程)、48℃で30分間(逆転写)、及び95℃で5分間(失活工程)行った。全ての合成されたcDNAは、20μl容量において-20℃で貯蔵した。
【0239】
プライマーデザイン及び検証
全ての確認された遺伝子及びGAPDH(ハウスキーピング対照)のためのSYBR GreenリアルタイムPCR用フォワード及びリバースプライマーは、公開された配列に従い、PE BiosystemのPrimer Express(商標)ソフトウェアを用いてデザインし、かつInteractivaから0.02μM濃度で並べた(Interactiva:The Virtual Laboratory、Sedanstrasse 10, D-89077 Ulm)。この特異性及び最適なプライマー濃度は、各プライマーセットについて試験した。可能性のあるゲノムDNA夾雑は、RT酵素非存在下で逆転写反応が施された陰性対照cDNA試料についてPCR反応を行うことによりモニタリングした。非-特異的増幅が存在しない場合は、3.5%MetaPhorゲル又はプレキャストNuSieve(登録商標)4%ゲル上の、アガロースゲル電気泳動により、PCR産物を分析することにより確認した。
【0240】
下記表は、マイクロアレイ上でディファレンシャルに調節されることが示された遺伝子のディファレンシャルな発現を検証するために、TaqMan(登録商標)分析を行うようにデザインされた遺伝子-特異的プライマーの配列を示している。各プライマー対に相当する遺伝子の名称及びPrimerExpress(商標)ソフトウェアによる各プライマーのデザインに使用した配列のGenBank寄託番号も含んでいる。
【0241】
【表6】
【0242】
TaqMan反応
SYBR GreenリアルタイムPCRは、5μl/ウェルのRT-産物(0.5ng総RNA)、25μl/ウェルのSYBR Green PCRマスターミックス(Applied Biosystems社、CA、米国)で、AmpEraseウラシルN-グリコシラーゼ(UNG)(0.5U/ウェル)及び20μlのプライマー(300nM)で行った。PCRは、50℃で2分間(先のTaqMan試行で作成されたPCR産物へ組込まれたウラシルを除去することにより、可能性のあるキャリーオーバーを除去するために、AmpErase UNGインキュベーション)、95℃で10分間(AmpliTaq Gold活性化)で行った。次に試料を、95℃で15秒、60℃で1分間、ABI PRISM(登録商標)7700配列決定システム上で40サイクル試行した。その結果逆転写されたcDNA試料が増幅され、かつそれらのCT(閾値サイクル)値を決定した。全てのCT値を、ハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して標準化した。可能である場合は、試料を2つ組又は3つ組で試行し、結果の再現性を判断した。全ての確認された遺伝子及びGAPDHについての単独の特異的DNAバンドが、電気泳動分析により観察された。
【0243】
サイクル閾値(CT)による遺伝子調節の計算
SYBR Green PCRマスターミックスを使用するリアルタイム検出の原理は、SYBR Green色素が二本鎖DNAに結合することにより発生した蛍光の増強を測定することによる、PCR産物の直接的検出を基礎としている。これは、PCR増殖曲線を基にした遺伝子-特異的増幅産物の相対的に増加した定量をもたらす。
【0244】
対照試料に対する特異的cDNA種の測定は、生理的参照として利用する検量線試料に対する特異的遺伝子に相当するmRNAから転換されたcDNAの定量により行った。この検量線は、対照又は未処理条件の試料により得た。cDNA種の相対定量は、最初の濃度の変動性及び鋳型cDNAを作成するために使用した総RNAの品質並びに逆転写反応の転換効率を説明するために、内在性対照(この場合GAPDH)に対する標準化により完了した。相対定量値の計算は、各試料について複製反応試行について平均CT値を得、標的試料と内在性対照の間の平均CTの差(ΔCT)を算出し、標的についての検量線の平均CTをその標的のΔCTから減算し(ΔΔCT)、かつ最後に標的についての相対定量値を2-ΔΔCTとして表わして行い、遺伝子発現におけるアップレギュレーション及びダウンレギュレーションの程度を判定した。
【0245】
TaqMan(登録商標)反応における蛍光シグナルの標準化
SYBR Green-dsDNA複合体蛍光シグナルは、鋳型DNAを含まない受動的参照又は陰性対照反応に対して標準化する。標準化は、受動的参照の放出強度による、実験的反応におけるSYBR Green-dsDNA複合体の放出強度の除算により行った。これは、この反応に対するRn(標準化したレポーター)比を生じる:
・Rn+=鋳型DNAを含む全ての成分を含む反応のRn値
・Rn-=未反応の試料(鋳型DNAなし)のRn値
・ΔRn=(Rn+)-(Rn-)
ここで、Rn+=(SYBR Green-dsDNA複合体の放出強度)/鋳型を伴うPCR(受動的参照の放出強度)
Rn-=(SYBR Green-dsDNA複合体の放出強度)/鋳型なし(受動的参照の放出強度)
【0246】
サイクル閾値(CT)からの調節倍率の計算
ΔRnは、特異的反応のためのPCR条件の所定のセットにより発生したシグナルの大きさを表わしている。サイクル閾値パラメータは、遺伝子-特異的産物の増幅の相対増加の測定値を構成しており、これは実験的cDNA集団における特異的転写産物の相対的豊富さを示している。これは、ΔRnの統計学的有意性の増加が最初に検出されるサイクル点として固定される。この閾値は、調節可能な因子により積算された、初期サイクルのためのRnの平均標準偏差として定義した。このサイクル閾値パラメータは、ディファレンシャルな遺伝子発現の定量のために使用した。特異値は、バックグラウンド蛍光強度を上回る増加が検出された点又はサイクルを基にした各遺伝子-特異的増殖曲線について計算した。
【0247】
相対定量値の全ての計算は、各試料について試行した複製反応についての平均CT値を得、標的試料と内在性対照の間の平均CTの差(ΔCT)を計算し、かつその標的のΔCTから標的についての検量線の平均CTを減算する(ΔΔCT)ことにより行った。最後に、標的に関する相対定量値を、2-ΔΔCTとして表わし、遺伝子発現のアップ-又はダウン-レギュレーションの程度を判断した。
【0248】
結果
リアルタイム定量逆転写酵素(RT)-PCR(TaqMan)は、遺伝子発現の変化を確認しかつ推定するための感度のよいかつ信頼できる方法を提供する。TaqMan配列検出装置(ABI PRISM(登録商標)7700配列決定システム(Applied Biosystems社、Foster City、CA))は、核酸配列のハイスループット定量のシステムを提供するために、PCR-ベースのアッセイを、ハードウェア/ソフトウェア計測器と統合していた。これは、特異的PCR産物の増加量のサイクル毎の検出を可能にするために、サーマルサイクリング、蛍光検出、及びアプリケーションに特有のソフトウェアを組合せている。
【0249】
マイクロアレイ分析により正確に指摘されたいくつかの高度に調節された遺伝子の発現を、TaqMan(登録商標)プラットフォームを用いて証明した。各場合において、可能な限り、使用される各モデルシステムについての時間経過を含んだ。これは、いかに完全なプロセスの間に特異的遺伝子が挙動したかに関するより多くのデータの収集を可能にした:
【0250】
遺伝子発現の変化は、二本鎖DNAのSYBR Green色素への結合により発生した蛍光の測定による、PCR産物の増加の直接検出によるTaqMan(登録商標)により定量し、アッセイされる遺伝子に対し特異的である増幅産物により示した。対照試料に対して特異的cDNA種の測定は、生理的参照として役立つ検量線試料に対し特異的遺伝子に対応するmRNAから転換されたcDNAの定量により行った。較正は、対照又は未処理条件の試料により提供された。cDNA種の相対定量は、鋳型cDNAを作成するために使用した総RNAの最初の濃度及び性質並びに逆転写反応の転換効率におけるあらゆる可変性を説明するために、GAPDHに対して標準化し、算出した。
【0251】
分泌されたホスホプロテイン1(オステオポンチン)遺伝子の発現は、キュプリゾンモデルに関連した脱髄/髄鞘再形成パラダイムにわたる経時的試験において分析した。
【0252】
キュプリゾン髄鞘再形成モデルにおけるオステオポンチン発現のTaqMan実験の結果は、図1(A)に示した。オステオポンチンのmRNAレベルは、マウス前脳においてキュプリゾン投与の3週間後(3w.Cup.)には18倍に、及び処理の5週間後(5w.Cup.)には25倍にアップレギュレーションされることがわかった。
【0253】
オステオポンチン発現は、キュプリゾン処理5週間に加え、再生の1、3及び6週間再生後(5 w.cup. + 1w、3w及び6w)に、ダウンレギュレーションされた。これらの知見は、髄鞘再形成は、脱髄が依然進行中の時点で始まるので、オステオポンチンは、このモデルの脱髄及び髄鞘再形成相において重要な役割を持つことを示している。
【0254】
図1(B)は、小脳の発育におけるオステオポンチン発現レベルの結果を示している。オステオポンチンmRNAは、出生後発育早期の小脳の髄鞘形成が始まる期間であるC4からC8日に、一過性にアップレギュレーションされた。
【0255】
マイクロアレイ結果は、キュプリゾン処理中の、マウス前脳におけるオステオポンチンのアップレギュレーションを示した。この分析は、キュプリゾン処理の脱髄及び髄鞘再形成の両相を含む、オステオポンチン発現のプロファイルに及び、かつオステオポンチン発現プロファイルは、キュプリゾン処理の脱髄相においてピークに達し、かつ回復期間に、ほぼベースラインレベルに戻ることを示している。
【0256】
これらの結果は、下記表VIIに示した。
【0257】
オステオポンチン発現のTaqMan(登録商標)分析の結果は、キュプリゾンを3及び5週間摂餌したマウスの脳におけるアップレギュレーションを確認した。
【0258】
【表7】
【0259】
実施例3:ノーザンブロットによるディファレンシャルなオステオポンチン発現の確認
方法
ブロット調製
特異的遺伝子のために、発現の組織特異性を、マウスの多組織ノーザンブロットを用いてアッセイした(Clontech Labs.、1020 East Meadow Circle. Palo Alto, CA)。これらは、成体マウスの異なる組織に由来した、1レーン当り2μgのポリ(A)+ RNAを含んだ。個別のブロットは、in vitro及びin vivoの両状況におけるディファレンシャルな遺伝子発現の分析のために調製した。3週間、5週間のキュプリゾン処理並びに回復過程の1、3及び6-週間の時点(最大6週間)のマウス脳から単離したRNAを、ブロットの1セットで用いた。異なる出生後日数段階からの全脳RNAを、第二のセットに用いた。最後に、一連のRNAの時間経過を、培養物中で増殖しかつ異なる時間ジブチリル-cAMP処理したOli-neu細胞から調製した。このRNAを用い、第三のブロットセットを調製した。最大検出効率を確認しかつハイブリダイゼーション後の均等でないストリッピングに起因した結果の変動を最小化するために、新規ブロットを、各遺伝子-特異的プローブで使用した。全てのブロットは2回ハイブリダイズし、最初には関心のある遺伝子に対するプローブにより、その後RNA負荷の変動を制御するために、ストリッピング後に、マウスのグリセルアルデヒド-3-リン酸(mGAPDH)に対するプローブでハイブリダイズした。
【0260】
RNA(10μg/ウェル)を、ホルムアルデヒド及び5xMOPS(5Lの滅菌水中、3-(N-モルホリノ)-プロパンスルホン酸209,27g、酢酸ナトリウム20.5g、0.5M EDTA(pH8.0)50mLを溶解し、12M NaOHでpH7.0に調整)を含有する1.2%変性アガロースゲル上に負荷した。各RNA試料は、臭化エチジウム(0.01mg/ml)2μl、5x 3-(N-モルホリノ)-プロパンスルホン酸(MOPS)2μl、37%ホルムアルデヒド3.5μl及びホルムアミド10μlと混合した。次に試料を、65℃で10分間加熱し、氷で急冷した。2μlのRNA負荷用緩衝液(50%グリセロール、1mM EDTA、0.4%ブロモフェノールブルー及び0.4%キシレンシアノール色素)を、ゲルへの負荷直前に各試料に添加した。
【0261】
各ゲルは、1xMOPSランニングバッファー(1L=37%ホルムアルデヒド330mL、5x MOPS 400mL、DEPC-処理したH2O 270mL)中、5V/cm(ゲル長)で〜3時間流した。この後、前記SSC液を用い、正帯電したナイロン膜(Hybond(商標)-N、Amersham Life Sciences社、Amersham Place, Little Chalfont, Buckinghamshire, 英国 HP7 9NA)へ、一晩RNA転写した(Terry Brown、UNIT 4.9.、Current Protocols、1993年、編集F.M. Ausubel、R. Brent、R.E. Kingston、D.D. Moore、J.G. Seidman、J.A. Smith、及びK. Struhl)。このRNA転写効率は、膜を肉眼によりチェックし、かつUV光下でゲルを平板とした。RNAは、Stratalinker(Stratagene社、米国)により膜に架橋結合した。ブロットは、ハイブリダイゼーションまで、Whatman 3MMろ紙間で、室温で貯蔵した。
【0262】
プローブ調製
放射性32P-標識したプローブを、関心のある遺伝子に対応するcDNAクローン(長さ〜500>800bp)のゲル-精製した制限断片を用いて調製した。DNA断片は、HighPrime(商標)標識システム(Roche Diagnostics AG社、Industriestrase7, 6343 Rotkreuz, スイス)を用い、32P-dCTPで、比放射能>109cpm/mlに無作為に標識した。取込まれなかった32P-dCTPは、プローブ混合物の、Sephadex(登録商標)G-25媒体(DNA等級の0.15%Kathon(登録商標)CG/ICP Biocide(登録商標)を含有する蒸留水)を含有するPharmacia NAP(商標)-5カラムを通る重力ベースの溶離により除去した。
【0263】
ハイブリダイゼーション及びシグナル検出
プローブハイブリダイゼーションを、ExpressHyb(商標)(Clontech Labs社、1020 East Meadow Circle, Palo Alto, CA)を製造業者の規格に従い用いて行った。ブロットは、ハイブリダイゼーション後、オートラジオグラフィーカセット内、-80℃で、Hyperfilm(商標)MP(Amersham Pharmacia Biotech, 英国)に曝した。曝露後のプローブのストリッピングは、ブロットを、滅菌H2O/O.5%SDS溶液中、90〜100℃で10分間インキュベーションし、その後ブロットを10分間冷却することにより行った。ストリップした膜を、プラスチック中に密封し、かつ再プロービングに必要となるまで-20℃で貯蔵した。
【0264】
結果
ノーザンブロット分析は、大規模でディファレンシャルな遺伝子発現試験において、二次的確認技術としてこれまで使用されてきた(Changら、2000)。その感度及び精度は、関心のある所定の遺伝子の発現の組織特異性のみではなく、実験条件と対照条件の間のディファレンシャルな調節の大きさの分析も可能にしている。このことは、それを、マイクロアレイ分析により得られたDGE結果を確認する信頼できる方法にしている。同じくノーザンブロットは、転写産物のサイズ及び関心のある遺伝子に相当する交互スプライシングアイソフォームの可能性に関する情報を提供する。
【0265】
カスタムノーザンブロットは、キュプリゾン-処理したマウス及び対照マウスの脳から単離したRNAを用いて調製した。これらは、Incyte Genomics社から本発明者らに送付されたクローンから放射標識したDNA断片によりプロービングした。ノーザンブロットの遺伝子発現のTaqMan(登録商標)分析により観察された結果を再現する能力は、キュプリゾン処理したマウスの脳から単離したRNAのブロットに対してハイブリダイズしたマウスオステオポンチンに対する放射標識したプローブを用いて証明した。この様式において、キュプリゾンモデルにおけるオステオポンチン発現のTaqMan(登録商標)分析に対しノーザンブロット分析を比較することが可能であった。
【0266】
図3は、Incyte Genomics社から注文された、pT7T3D-Pacベクターに挿入されたマウスオステオポンチンのオープンリーディングフレームを示している。灰色領域はコード配列であり、かつ矢印はオステオポンチンの完全なcDNAを示している。このクローン挿入断片には、EcoRI及びNotI切断部位が隣接していた。この遺伝子の組織発現を分析するためのノーザンブロッティングにおいて使用するためのプローブを作成するために、893-bp断片を、HincII及びStyI制限酵素を用い、このクローンから切り出した。この断片は、プローブとして使用するために、ゲル精製し、かつ標識した。
【0267】
マウスオステオポンチンの発現は、回復及び未処理対照を含む、キュプリゾンモデルの各段階でのマウスの脳からのRNAで調製したカスタムブロットを用い、ノーザンブロット分析により確認した。このブロットは、最初にマウスオステオポンチンcDNAの放射標識した断片でプローブし、次にマウスGAPDHの放射標識した断片で再プローブした。これを陽性対照として用い、ブロットに対する各レーンのRNAの全体量の変動を基に観察された発現レベルの差異を説明した。
【0268】
キュプリゾン-処理したマウス脳のオステオポンチン発現は、キュプリゾン給餌の3及び5週でピークに達し、5週目がわずかに高い発現を示した。回復相において、オステオポンチンmRNAレベルは、かなり急激に減少し、キュプリゾン給餌を中止後1週間の発現は認知可能に低下した。オステオポンチンmRNAのレベルは、6週間の回復後、ほぼ正常レベルに回復した。これは、キュプリゾンモデルにおけるオステオポンチン発現のTaqMan(登録商標)分析で得られた結果(図1A参照)と定性的に同等である。
【0269】
実施例4:オステオポンチンのoli-neu細胞における調節
cAMP処理した希突起膠細胞(oli-neu)におけるオステオポンチン発現を、TaqMan分析により測定した。結果は、図4に示している。カラム1から4は、希突起膠細胞において得られた結果を示した。対照(値=1)と比べ、cAMP処理の6時間(1列)は、オステオポンチンmRNAのアップレギュレーションをもたらした。2日間のcAMP処理後(2列)、12倍のアップレギュレーションが測定された。6から10日間の延長された処理(3列、4列)は、より低レベルのオステオポンチンmRNAにつながった。キュプリゾンモデル(5列、6列)におけるオステオポンチンmRNAの調節の比較は、前脳のキュプリゾン処理3及び5週間のオステオポンチンアップレギュレーションは、cAMP処理の2日後の希突起膠細胞のアップレギュレーションと同等であることを示している。
【0270】
実施例5:希突起膠細胞におけるオステオポンチンの発現
方法
Oli-neu細胞を、リン酸カルシウム沈降法に従い、一過性にトランスフェクションした。簡単に述べると、トランスフェクションを行う前日に、指数増殖相のoli-neu細胞を、6-ウェルプレートへ播種(105/ml)した。250mM CaCl2溶液100μlを、5μgのプラスミドDNAと混合した。300mM Na2HPO4及びNaH2PO4(pH7.05)ストック溶液からリン酸を補充した、等量(100μl)の2x HEPES溶液(140mM NaCl、50mM HEPES、pH7.05)を、Ca/DNA溶液に添加した。正確に1分後、この混合物を、培養プレートにゆっくりと添加し、CO2培養器中、37℃で4時間インキュベーションした。この時点以後、培地を、新鮮な培地と交換し、かつ次に細胞を24〜72時間インキュベーションし、その後収集し、及びウェスタンブロット分析した。
【0271】
結果
pDEST12.2ベクター中の異なるマウスのオステオポンチン構築体(pDEST12.2オステオポンチン-EGFP、pDEST12.2-オステオポンチン-His6、pDEST1 2.2-オステオポンチン、図4から7参照、及び対照プラスミドとしてpCIE-EGFP)を、oli-neu細胞においてトランスフェクションした。このタンパク質を生成し、特異的な市販の抗体(R&D Systems社、AFBO8)により検出されるように、これらの細胞により分泌した。EGFPタグ付けした構築体は、より容易なトランスフェクションのモニタリングをもたらし、及びトランスフェクションの24時間後、細胞形態の特異的変化(希突起膠細胞の突起の増加)を、pCIEGFP対照と比較し検出し(示さず)、これはオステオポンチンは、マウス希突起膠細胞の細胞株oli-neuをより成熟した形態表現型へと駆動することを示している。オステオポンチンでトランスフェクションしたoli-neu細胞により示された形態は、髄鞘形成している希突起膠細胞の形態に非常に類似していた。
【0272】
これらの結果は、希突起膠細胞におけるオステオポンチンの発現は、これらの細胞を髄鞘形成へ駆動するのに有益であり、その結果希突起膠細胞の機能不全に関連した疾患におけるオステオポンチンの有益な作用を示している。
【0273】
実施例6:キュプリゾンモデルにおける脳の特異的領域におけるオステオポンチンタンパク質の発現
オステオポンチン免疫組織化学的試験を、キュプリゾンモデルにおいて脱髄及び髄鞘再形成期間の異なる時点で行った。強力なシグナルが、キュプリゾン処理の5週目に、脱髄された脳梁及び線条束において認められ、この時点は、脱髄部位への著しい小グリア細胞の動員に関連していた。活性化された小グリア細胞を可視化するために、連続切片のCD68染色を実行し、かつその同様の発現パターンは、オステオポンチンの小グリア細胞における発現を示唆している。
【0274】
興味深いことに、オステオポンチンは、心室前方に積層する細胞においても認められた。この領域は、ニューロン、星状細胞及び希突起膠細胞の作成のために多能性幹細胞を生じている成体の心室下帯においても説明された。オステオポンチンを発現している希突起膠細胞前駆細胞を決定するために、NG2、PSA-NCAM、PDGFα受容体による二重染色を行った。
【0275】
実施例7:希突起膠細胞増殖に対するオステオポンチンタンパク質の作用
この実験では、t-neu癌遺伝子により不死化されたマウス初代希突起膠細胞(希突起グリア細胞)細胞株(「oli-neu」細胞株)を用いた。oli-neu細胞株の確立及び特性に加え培養条件は、Jungらの論文(1995)に記されている。
【0276】
この試験の目的は、oli-neu増殖アッセイにおいて、OPNの希突起膠細胞増殖に対する作用を測定することであった。細胞は、亜集密に播種した。これらは、24時間インスリン非含有培地において飢餓状態とし、その後対照又は組換えタンパク質のいずれかで処理した。細胞数は、Alamarブルーで定量し、蛍光測定値を得た。増強作用に関する計算は、IGF1(対照)の標準曲線との比較を基にした。増殖阻害の計算は、dbcAMP標準曲線に対する比較を基にした。
【0277】
材料
装置及びソフトウェア
Wallac Victor 2マルチラベルカウンター(励起530-560nm、放出590nm)
Graph Pad Prismソフトウェア
【0278】
試薬
oli-neu細胞株(Eur J Neuro、7:125-1265 (1995))
Alamarブルー(BioSourceinti社、Camarillo, CA, 93012)
Sato培地の成分を下記に示す:
【0279】
【表8】
【0280】
Becton Dickinson社のポリDリシン(356461)で被覆したBioCoat平底プレート;R3-IGF1(Sigma社の11146);DbcAMP (Sigma社のD-0627)。
【0281】
方法
In vitroバイオアッセイにおける細胞培養法
Oli-neu細胞は、ポリ-L-リシン基質上で増殖している接着細胞である。細胞を、BioCoat(商標)ポリ-リシンでプレコートした96ウェルプレート上に播種した。これらの細胞を、2〜3x/週でスプリットした。スプリットするために、これらを最初にPBSで洗浄し、その後PBS+1mM EDTAで剥がした。細胞を、加湿した10%CO2培養器中で増殖した。
【0282】
使用した凍結培地は、20%FCS及び10%DMSOを添加したSato培地であった。この実験においては、16回を超えずに継代したoli-neu細胞を用いた。細胞を、インスリンを除いたSato培地の中で24時間飢餓状態とした後、96ウェルプレート中において最終濃度4000個細胞/ウェルで使用した。
【0283】
Alamarブルー染色
CO2培養器中で48時間経過後、Alamarブルーストック液10μlをウェルに添加し、更に2.5時間インキュベーションした。蛍光を、530〜560nmの励起波長及び590nmの放出波長でモニタリングした。プレートは、最大4時間及び相対蛍光単位1,000,000まで読みとった。
【0284】
実験デザイン
対照として、100ng/ml R3-IGF-1(陽性対照)、又は1mM dbcAMP(陰性対照)、又はインスリンを伴わない培地、又は100nM煮沸したOPNを用いた。実験試料は、組換えオステオポンチン1nM、10pM、0.1pM、0.01pM又は100nMであった。対照及び被験試料を、インスリンを除いたSato培地中最終容量50μlとなるよう、望ましい濃度に希釈し、かつウェルに添加した。Oli-neu細胞は、インスリン-非含有培地において24時間増殖し、その後対照又は被験試料で48時間処理した。インスリンを除いた培地において新たに24時間飢餓状態とし、剥離したoli-neu細胞は、PBS+1mM EDTAで増殖フラスコから収集した。これらの細胞を、300,000細胞/mlで調製し、かつ50μl/ウェルとなるよう添加した。その後、これらの細胞を、加湿したCO2培養器において37℃で48時間インキュベーションした。Alamarブルー10μlを添加し、かつこれらの細胞を培養器に2.5時間戻した。その後、各ウェルから70μlを、黒色の96ウェルプレートに移し、かつ直ぐに蛍光を測定した。
【0285】
未分化のoli-neu細胞の増殖は、昆虫細胞(BacOPN)、又は哺乳類発現システム(HEK-OPN)を用いて作出した、異なる量のオステオポンチンに反応して24時間後に測定した。増殖率は、蛍光光度法/比色法の増殖インジケーターであるAlamarブルーにより細胞代謝活性を測定することにより定量した。この試薬は、細胞増殖から生じた増殖培地の化学的還元に反応して、蛍光及びその色の変化の両方を示している酸化-還元インジケーターを含む。使用した試薬及びアッセイは、Ahmedら(1994)及び米国特許第5,501,959号に開示されている。
【0286】
結果
結果は図8から10に示した。
用量反応を、バキュロウイルス及びHEK細胞の両方で発現した、組換えオステオポンチンにより観察した。予想通り、煮沸によるこのタンパク質の変性は、生物学的活性を破壊した。バキュロウイルスで発現したオステオポンチン(BacOPN)及びHEK細胞で発現したOPN(HEK OPN)の添加は、細胞増殖の用量-依存型の増加(図8)を示し、そのIC50は、BacOPnについて3.7nM及びHekOPNについて0.05nMであった(図9)。加えて、OPNアイソフォームaのアミノ酸1から168に対応するN-末端OPN構築体(図2、N-term. OPN-a参照)は、昆虫細胞において発現した。精製したタンパク質は、完全長タンパク質との比較において、増殖アッセイで試験した。短縮型タンパク質は、活性があった(10nM, 100nM)。図10参照のこと。
【0287】
実施例8:混合皮質培養物における髄鞘形成マーカーの発現に対するオステオポンチンの作用
カバースリップ上で増殖した混合皮質培養物を、DIV(in vitroの日数)5日目〜17日目の間の12日間、BacOPN(100nM)で処理した。In vitroの17日目に、培養物を固定し、かつ抗-MBP抗体で染色した。結果は、BacOPNカバースリップは、対照よりも、より高度に分枝したMBP陽性希突起膠細胞を有したことを示している(図11)。加えて、対照培養物(図11A)において、髄鞘形成している希突起膠細胞は認められなかったにもかかわらず、OPN処理した培養物(図B、C及びD)は、希突起膠細胞が豊富であり、これは軸索の周りを覆い、かつミエリンセグメント及び結節間部を形成していた(図11BからD)。セグメントクラスターの計数は、セグメントは対照においては認められないが、3種の異なるOPN処理した試料は、16、22及び18のセグメントクラスターを示したことを明らかにした。これらの結果は、オステオポンチンによる皮質混合細胞の処理は、希突起膠細胞の分化された表現型につながり、これは髄鞘形成している希突起膠細胞の特徴であることを示している。
【0288】
実施例9:MBP ELISAにより測定した混合皮質培養物中のMBP発現に対するオステオポンチンの作用
MBPタンパク質増加、従ってOPN及びLIFで処理した混合皮質培養物における髄鞘形成をモニタリングするために、MBP ELISAを用いた。
【0289】
初代培養物
材料の給源は、妊娠したNMR1雌マウスから、交尾後16日目に摘出した胚由来の胚性マウス脳組織であった。胚を、Lubetzkiらのプロトコールに従い切断し、皮質をトリプシン消化により溶解し、かつ切断した細胞(ニューロン、星状細胞、希突起膠細胞、小グリア細胞、及びニューロン前駆体を含む)を、各ウェルについて、ポリ-L-リシンでプレコートした96-ウェル培養プレートに、1x105細胞/ウェルで播種した(最初の容量50μl)。
【0290】
組換えタンパク質処理
処理は、組換えタンパク質(陽性対照、AMRAD Laboratories社から購入した組換えマウス白血病阻害因子(LIF)、濃度1μg/ml、100ng/ml、及び10ng/ml;マウスバキュロウイルス-作出した完全長オステオポンチン、濃度100nM、10nM、及び10pM)を用いて行った。全てのタンパク質を、in vitroにおいて細胞に添加する前に、ストック材料から、適当な濃度へと、培養培地に希釈した。培養物を、in vitroにおいて5日間増殖させ、その後引き続き17日間処理した。培地は3日毎に交換した。
【0291】
試料収集のためのマイクロウェルプレートプロトコール
In vitroにおいて17日目(DIV17)に、細胞を溶解し、かつ試料を収集した。細胞溶解は、3種界面活性剤緩衝液を用いて行った。
【0292】
3種類の界面活性剤緩衝液 最終濃度
50mM Tris pH8.0 1M 50ml
150mM NaCl 8.77g
0.02%NaN3 (10%) 2ml
0.1%SDS 2O% 5ml
1%NP40 10ml
0.5%デオキシコレートナトリウム 5g
【0293】
単独のプロテアーゼインヒビター錠剤(Roche番号1636170)を、3種界面活性剤緩衝液10ml中に使用前に添加した。
【0294】
培地は、96-ウェルプレコーティングしたプレート中に播種した混合皮質培養物試料から取り除いた。細胞は、1X PBSの50μlで穏やかに2回洗浄し、その後3種界面活性剤緩衝液50μlを各ウェルに添加した。溶解した試料を含有する全てのマイクロウェルプレートを、分析まで-20℃で貯蔵した。
【0295】
BCAタンパク質アッセイ
Pierce社のBCAタンパク質アッセイは、比色検出のためのビシコニン酸(BCA)及び総タンパク質定量をベースにした界面活性剤-適合処方である。この方法は、アルカリ培地におけるタンパク質によるCu2+からCu1+への周知の還元と組合せた、ビシコニン酸(BCA)を含有する独自の試薬を用いる、第一銅カチオン(Cu1+)の高感度及び選択的な比色検出である。
【0296】
このアッセイの紫色に着色した反応生成物は、BCAの2分子と第一銅イオン1個のキレート形成により生成される。この水溶性錯体は、20μg/mlから2000μg/mlという広範な作業範囲にわたって、タンパク質濃度の増加と直線関係にある、562nmでの強力な吸光度を示す。このBCA法は、真のエンドポイント法ではなく;最終色は発色し続けるが、しかしインキュベーション後の発色速度は、多数の試料を1回の試行で測定することを可能にするのに十分な程度には遅い。タンパク質の巨大分子構造、ペプチド結合の数及び4種のアミノ酸の存在(システイン、システイン、トリプトファン、及びチロシン)は、BCAによる色形成に寄与することが報告されている。
【0297】
総タンパク質含量を決定するためのマイクロウェルプレートプロトコール
各標準25μl(BSA濃度:2000μg/ml、1500μg/ml、1000μg/ml、750μg/ml、500μg/ml、250μg/ml、125μg/ml、25μg/ml)及び試料を、適当なマイクロウェルプレートのウェルに添加した。希釈剤(3種界面活性剤緩衝液)25μlを、ブランクウェルに用いた(作業範囲20〜2000μg/ml)。
【0298】
作業試薬(BCA試薬A 50部の、BCA試薬B 1部との混合物)200μlを、各ウェルに添加した。プレートウェルを、30秒間振盪し、37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、吸光度を570nmで測定した。
【0299】
MBPサンドイッチELISA
96-ウェル平底滅菌マイクロプレート(Costar社)を、1X PBS中に1:5000に希釈した抗-MBP抗体(Chemicon社、MAB5274)と共に、+4℃で一晩インキュベーションした。この希釈した抗体溶液50μlを、各ウェルに添加した。
【0300】
翌日、この抗体溶液を、プレート中の全てのウェルから除去し、かつ各ウェルについて、1X PBS中の1%BSA溶液50μlを用い、ブロック工程を行った。ブロックは、周囲温度で1時間行った。プレートを、PBS/Tweenを用い、ブロック工程後、3回ロボット的に洗浄した。
【0301】
1%BSA/PBS中に連続希釈したMBPペプチド標準又は試料のマイクロウェルプレートへの添加後、インキュベーションを行った。MBPペプチド100ng/mlストック溶液を、2 in 2で希釈した。ここで使用した希釈物は、BCAタンパク質アッセイの結果を使用し、総タンパク質含量の計算後、決定した。これらは下記のようであった:
100μg;50μg;25μg;12.5μg;6.2μg;3.1μg。
MBP標準及びタンパク質試料とのインキュベーション後、プレートを1% BSA/PBSで更に3回洗浄した。
【0302】
第二のインキュベーションは、1%BA/PBS中に希釈したポリクローナル抗-MBP抗体(Zymed社、10-0038、1:300)を用いて行った。プレートを周囲温度で2時間インキュベーションした。このインキュベーション後、プレートを更に前述のように3回洗浄した。
【0303】
1%BSA/PBSで希釈後、全てのウェルに添加した50μl容量のヤギ抗-ウサギビオチン(Vector社、BA-1000、1:10,000)と一緒のインキュベーションを、周囲温度で1時間行った。インキュベーション後、先に記したように、再度プレートを洗浄した。
【0304】
最終のインキュベーションは、各ウェルに添加した、1x PBSで希釈した50μlのストレプトアビジン-複合したホースラディッシュペルオキシダーゼ(strep-HRP)(Amersham社、RPN1051、1:8000)と共に行った。プレートは、周囲温度で1時間インキュベーションした。
【0305】
洗浄工程後、この反応を、オルトフェニレンジアミン二塩酸塩(OPD) (Sigma社、1錠を20ml容量の水に添加し調製した溶液)を用いて明らかにした。この反応は、3M HCl又は30%H2SO4の添加によりブロックした。光学濃度を、マルチスキャン蛍光プレートリーダー(Labsystems社、Multiskan EX)を492nmで用いて測定した。
【0306】
結果
図12に示したように、MBPタンパク質レベルは、DIV17で、bacOPN(10nM)処理した培養物において、対照培養物と比べ3倍増加した。この観察は、バキュロウイルスで発現されたOPNの希突起膠細胞前駆体の増殖及び髄鞘形成に対する正の作用を示す先の結果を裏付けている。
【0307】
実施例10:オステオポンチンのCG4増殖に対する作用
CG4細胞株は、初代A2B5希突起膠細胞前駆体から自然発生的に得たラットの不死化した希突起膠細胞の細胞株である。CG4細胞は、希突起膠細胞の分化又は生存の試験のために通常使用される細胞株である。CG4細胞株は、下記の利点を有する:
・希突起膠細胞始原細胞と同様(02A-様)の高い増殖率(GD3, A2B5-陽性細胞);
・ATCCから入手したB104ラット神経芽細胞腫の細胞株から得た馴化培地(有効な増殖因子濃度を伴う)における低い維持経費(Louis J.C.ら、1992);
・短期間、増殖のためのB104馴化培地の代わりに、限定培地(FBS含まず)を用いることができる(FGP2+PDGFを補充);
・希突起膠細胞への分化(O4、GalC-陽性)は、限定培地において誘発することができる;
・星状細胞への分化(GFAP-陽性)は、FBSの存在下で誘発することができる。
【0308】
CG4細胞の継代数35を用い、ふたつのOPNタンパク質(E.コリ又は昆虫細胞における発現)の増殖に対する作用を試験した。R&DシステムE.コリが生成したオステオポンチン(カタログ番号441-OP)をこのアッセイに使用し、これは次にプロテインキナーゼ2(GST融合)により、下記液60μl容量で、in vitroリン酸化した:
キナーゼ緩衝液6x: 試料緩衝液2xpH6
Hepes 50mM Tris-Cl 0.125
MgCl2 10mM グリセロール20%
DTT 1mM DTT 0.2M
バナジン酸ナトリウム0.2mM ブロモフェノールブルー0.02%
β-グリセロリン酸25mM
ATP混合物(60μM)
60OμM ATP、30μl
32PATPを5μl
H2O2を265μl
【0309】
反応を開始するために、ATP混合物を添加し、かつインキュベーションを30℃で1時間行った。30℃で90分間インキュベーションした後(攪拌しながら)グルタチオンセファロースビーズ100μl(Pharmacia社)を、プロテインキナーゼを除去するために先にPBSで洗浄した反応混合液に添加した。その後この混合物を、ゆるやかに攪拌しながら室温で1時間インキュベーションした。この懸濁液を、5000gで5分間遠心し、ビーズを沈降させた。次に、上清を、PBSに対して4℃で一晩透析した。タンパク質をBCA(Pierce社)で定量した。
【0310】
キナーゼ反応液:
0.05μg/μlカゼインキナーゼ10μl、
0.5μg/μl E.coli OPN、10μl
50mM Tris-HCl pH8を20μl
キナーゼ緩衝液 6xを10μl
ATP混合物10μl
【0311】
増殖アッセイ
Bac OPN及びin vitroリン酸化されたOPNタンパク質は、濃度10pM、10nM及び100nMでCG4細胞の増殖に対し試験した。測定値として、Avellanaらの論文(1996)に記されたようなBrdU(Amersham社)を使用した。これらの細胞は、70%N1限定培地(4.5g'lグルコース、2mMグルタミン、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン及び1mMピルビン酸ナトリウムを含有し、かつ5μg/mlトランスフェリン、100mMプトレスシン、30nMセレン酸ナトリウム及び10ng/mlビオチンを補充したDMEM )及び30%B104馴化培地(ビオチンを除いたN1)において培養した(Louis J. C.ら、1992)。このアッセイは、3x104細胞/ウェルで播種した、ポリ-オルニチン(100μg/ml)処理した24ウェルプレートにおいて行った。10nM BrdUを同時に添加し、かつ細胞を18時間インキュベーションした。固定後、免疫細胞化学試験を、抗-BrdU抗体により行い、細胞分裂を検出した。全細胞数を計数するために、細胞は更にHoechst 44432染色液(Sigma社)で染色した。画像を得、かつLeica QWin画像分析システムを用いて解析した。
【0312】
結果
結果は、図13に示した。
【0313】
バキュロウイルスで発現したオステオポンチンは、CG4細胞の増殖増大につながった。最も顕著な作用は濃度10nM OPNで認められるが、OPN 100nMは、同様の増殖につながった。In vitroリン酸化されたE. coliで発現したOPNは、CG4細胞の小さい増殖につながった。
【0314】
OPN処理対非処理のCG4細胞の形態の分析は、対照においては分化が認められないが、OPN処理したCG4細胞は分化し、ほとんどの細胞が突起を発生していた点で分化したことを明らかにした。分化はバキュロウイルスで発現したOPNを用い、より顕著であったが、E. coli発現したin vitroリン酸化したOPNは、同様のCG4細胞分化につながった(示さず)。
【0315】
実施例11:オステオポンチンのマウスにおけるMOGが誘発した実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)に対する作用
試験の目的
オステオポンチン(OPN;AS900011)は、様々な細胞種の接着、移動、分化、生存及びサイトカイン分泌を含む、多形質発現性機能を有するサイトカインである。OPNは、髄鞘再形成及び希突起膠細胞機能を調節することができる遺伝子を検出すること(実施例1参照)を目的とした、ディファレンシャルな遺伝子発現(DGE)法において同定した。組換えバキュロウイルスが発現したOPN(AS900011)による希突起膠細胞前駆体の処理は、用量依存型に増殖を増加した(IC50:3.7pM、実施例7参照)。加えて、AS900011は、CG4細胞株及び原発性神経半球(primary neurosphere)の分化に対する作用を示した(実施例8参照)。OPNは、キュプリゾン処理されたマウス脳領域の脱髄された脳梁に発現し、ここで発現は、小グリア細胞において最強であった(実施例1参照)。加えてOPN発現は、脳室下帯(SVZ)において認められ、このことは髄鞘再形成に参画する希突起膠細胞前駆体の生成を示唆している(実施例4参照)。様々な免疫-調節特性を伴うサイトカインであるOPNは、ニューロン機能及びグリア機能のモジュレーターとしての役割も果たし得ると仮定されている。
【0316】
この試験の目的は、マウスにおけるMOG-誘導したEAEモデルにおけるOPNの治療的作用を試験することである。
【0317】
試験法
本試験に使用したEAE誘発法は、Sahrbacherら(1998)により発表されたプロトコールを改変した。実験に使用した動物の保護は、1992年1月27日のItalian DL. No. 116で強化された指令(Directive)86/609/EECに従った。動物の飼育及び世話のための生理的施設及び装置は、EEC委員会指令86/609の規定に従った。この機関は、Competent Veterinary Health Authoritiesにより完全に認可されている。動物に関するこのプロトコールの全ての部分は、公的獣医により承認されている。このプロトコールは、イタリア厚生省(Italian Ministry of Health)により認可されている(法令No. 51/99-B)。
【0318】
試験システム
種、系統、亜系統、及び性別:IFFA CREDO (Saint Gemiain sur I'Arbresle、仏国)から入手した、C57 BL/6JICO雌マウスのコロニーは、Charles River Italia (Calco. Lecco、イタリア)により供給された。
【0319】
試験システム選択の正当性:C57 BL/6JICOマウスは、実験モデルとして選択し;この選択された系統は、EAE易罹患性と記されている。
【0320】
供給業者:Charles River Italia S.p.A., Via lndipendenza, 11, 23885 - Calco (Lecco)
【0321】
環境馴化:試験の少なくとも5日前に開始した。この期間、動物は、本試験への適合性を確認するために毎日観察した。
【0322】
年齢及び体重(無作為化):約8-週齢;18〜22g
【0323】
飼育状況:空調の効いた部屋で、1檻に10匹の動物。
【0324】
温度:22℃±2
【0325】
相対湿度:55%±10
【0326】
換気:HEPA 99.99%上のフィルターを通して約15〜20回/時
【0327】
照明:12時間サイクル(午前7時〜午後7時)
【0328】
檻:Makrolon(登録商標)檻、42.5x26.6x15h、各々にステンレス製カバー−餌箱が備え付けられている。檻の底には鉄板が挿入されている。落下した汚物は、檻の底に鉄板を通して定期的に廃棄される。
【0329】
動物識別:耳タグ。檻のカードには、実験番号、投与群及び化合物投与日を記した。
【0330】
餌:Mucedola S.r.l., Settimo Milaneseにライセンス供与されたCharles River Italia's社により製造されたGLP 4RF25最高品質のペレット状餌。弱った動物の飼育を促進するために、7日目から、毎日湿ったペレットを檻の底に置く。製造業者は、栄養分及び夾雑物に関する分析証明書を提供し、そのレベルは、EPA-TSCAの提唱した範囲内(44FR:44053- 44093、1979年7月26日)である。RBMは、細菌夾雑に関して少なくとも年2回再分析された動物の食餌を扱う。この餌を、動物は「自在」に摂取可能であった。
【0331】
水:市営の主給水システムから得る。水は、ろ過し、かつ自動バルブシステムにより動物に「自在」に配布した。自動給水システムに加え、プラスチックボトルを用いた。定期的に飲料水は、微生物数、重金属、他の夾雑物(例えば、溶媒、殺虫剤)、並びに他の化学的及び物理的特性について分析した。飲料水の品質の許容限度は、EEC指令80/778により定義されたものである。
【0332】
本試験の目的を妨害し得るような夾雑物は、餌又は飲料水中に存在するとは予想されない。
【0333】
被験物質:マウスの6his-タグ付けたオステオポンチン(AS900011)及びmIFNβ
免疫処置法:マウスを、Mycobacterium tuberctdosisを0.5mg含有する完全フロインドアジュバント(CFA, Difco社、Detroit、米国)中の200μg MOG35-55ペプチド(Neosystem社、Strasbourg、仏国)で構成された乳剤0.2mlを、左側腹部に皮下注射することにより、免疫処置した(0日目)。その直後、これらに、緩衝液(0.5M NaCl、0.017% Triton X-100、0.015M Tris、pH7.5)400μlに溶解した500ngの百日咳毒(List Biological Lab.社、Campbell, CA, 米国)を腹腔内注射した。2日目に、これらの動物に、2回目の百日咳毒500ngを腹腔内注射した。7日目に、これらのマウスに、CFA中の200μg MOG35-55ペプチドを、皮下注射により右側腹部に2回用量を投与した。この手法は、8〜10日目位から始まる、尾部から生じかつ前肢へと上行していく、徐々に進行性の麻痺を生じた。
【0334】
試験デザイン:本試験は、各動物15匹の7群が関与していた。全ての群は、免疫処置プロトコールに従い、CFA中のMOG35-55ペプチド及び百日咳毒で免疫処置し、かつ下記のように処置した:
第1群:OPN媒体単独(PBS + 0.1%BSA)をs.c.経路で投与した陽性対照群
第2群:mIFNβ媒体単独(PBS)をs.c.経路で投与した陽性対照群
第3群:オステオポンチン(AS900011)1μg/kgのs.c.投与
第4群:オステオポンチン(AS900011)10μg/kgのs.c.投与
第5群:オステオポンチン(AS900011)100μg/kgのs.c.投与
第6群:オステオポンチン(AS900011)100μg/kgのs.c.投与+mIFNβの20,000U/マウスのs.c投与
第7群:mIFNβの20,000U/マウスのs.c投与
【0335】
1群当りの動物数は、観察された薬学的作用の正確な評価を可能にする最低数であった。
【0336】
媒体:PBS+0.1%BSAは、オステオポンチンを適当な濃度に希釈するために使用した。PBSは、mIFNβを適当な濃度に希釈するために使用した。
【0337】
投与経路:オステオポンチン(AS900011)の投与量1、10及び100μg/kgは、10ml/kgの容量で皮下投与した。mIFNβの投与量20000U/マウスは、200μ1/マウスの容量で皮下投与した。第1群は、PBS+0.1%BSAを容量10ml/kgで皮下投与し、及び第2群は、200μl/PBS/マウスを皮下投与した。
【0338】
処理期間:これらの試験群の処理は、各動物について、臨床スコア≧1の出現時に開始し、連続して35日間継続した。
【0339】
投与形:本化合物及びmIFNβは、適当な媒体中の液剤として投与した。各処方は、治験依頼者(Sponsor)の指示に従い調製した。
【0340】
臨床観察:免疫処置後7日目に開始し、動物は個別に、下記の臨床スコアにより麻痺の存在について試験した:
0=疾患徴候なし
0.5=部分的尾麻痺
1=尾麻痺
1.5=尾麻痺 + 部分的一側性後肢麻痺
2=尾麻痺 + 後肢衰弱又は部分的後肢麻痺
2.5=尾麻痺 + 部分的後肢麻痺(骨盤下方)
3=尾麻痺 + 完全な後肢麻痺
3.5=尾麻痺 + 完全な後肢麻痺 + 失禁
4=尾麻痺 + 後肢麻痺 +前肢の衰弱又は部分麻痺
5=瀕死又は死亡
動物の観察は、静かな部屋で行った、臨床徴候は、各処置群について、処置を知らされていない技術者により盲検化様式で、毎日モニタリングした。
動物の体重は毎日測定した。
疼痛による苦痛及び瀕死の状態にあるとみなされた動物は、スタッフの獣医又は権限のある者が試験し、かつ必要ならば疼痛又は罹患を最小とするために人道的に屠殺した。
【0341】
血液採取:最後の処置の24時間後、各動物から、血液試料を採取した(ペントバルビタール麻酔下)。血清を、慣習的手法により分離し、かつ血清試料を-20℃で貯蔵した。その後凍結血清を、化合物血清濃度を相対的に決定するために、SPRIへ送付した。
組織病理学的試験:処置の最後に、ペントバルビタール麻酔下の動物を、左心室を通し4%ホルムアルデヒドで灌流固定した。次にそれらの脊髄を、慎重に剥離し、かつホルマリン中に固定した。脊髄切片を、パラフィンブロック中に包埋した。切片化、並びに炎症に関するヘマトキシリン・エオシンによる染色、及び脱髄検出のためのKiuver-PAS (Luxolファストブルー+過ヨウ素酸Schiff染色)を行った。
【0342】
データの評価:臨床実験の結果は、各群内で平均(±SEM)スコアで表わした。被験物質の作用は、媒体-処理した陽性対照群のそれと比較した。群間の臨床スコア値の差異は、各測定時点でKruskal-Wallis検定で解析し、引き続き有意である場合は、対のあるWilcoxon検定により解析した。体重データは、一元配置ANOVAで、引き続き有意である場合は、Tukey検定により評価した。S-Plus(登録商標)ソフトウェアを使用した。
【0343】
結果
本試験の結果は、図14から16に示している。
浸潤された血管周囲炎症の組織学的分析から、OPN処理した動物において、特に1μg/kgの最低投与量で、より少ない量の血管周囲浸潤に向かう傾向があることが明らかになった。OPN、及び多発性硬化症の治療において有効であることが分かっている化合物であるIFNβとの組合せは、各々、OPN又はIFN単独の投与よりもより効果的であった(図14)。
【0344】
次に脱髄領域の割合を測定した(図15)。同じくOPN処理した動物では、脱髄された領域がより少なくなる傾向が認められた。IFN及びOPNの組合せは、脱髄の高度に有意な低下につながり、これはIFN単独で認められた脱髄の程度よりもはるかに少なくさえあった(図15)。
【0345】
図16は、処置の最後に観察された臨床スコア、本試験で測定された炎症浸潤及び脱髄をまとめている。OPN処理したマウスにおいて観察された臨床スコアは、対照よりも有意に低くはなかったが、OPN及びIFNの組合せは、臨床スコアに対する顕著な作用につながり、これは陽性対照インターフェロン-βと同じ位低い。この知見は、炎症浸潤及び脱髄の程度の測定に合致している。両パラメータは、く、OPN及びIFNβの投与後有意に低下した(図16)。
【0346】
まとめると、下記の結果が本試験から得られた:
単独で試験したオステオポンチン(AS900011)は、投与量1、10及び100 mg/kgのs.c.で、血管周囲の浸潤及び脱髄の統計学的に有意な低下を示さなかった。mIFNβ(20,000U/マウス、s.c.)による処理は、血管周囲浸潤(55%)及び脱髄(53%)の低下を誘導した。AS900011の投与量100mg/kgのs.c.と同じ投与量のmIFNβを組合せた場合、浸潤(71%)及び脱髄(81%)の有意かつ顕著な低下が認められた。
【0347】
臨床スコアと相関した組織学的データは、35日目(処理終了時)、組織学的分析のために動物を屠殺し脊髄を収集した時に観察し収集した。単独で試験したオステオポンチン(AS900011)の投与量1、10及び100mg/kgのs.c.は、疾患重症度を有意に低下しなかった。mIFNβによる処理(20,000U/マウス、s.c.)は、疾患重症度を有意に低下した。AS900011の投与量100mg/kgのs.c.と同じ投与量のmIFNβを組合せた場合、臨床徴候の統計学的に有意な低下が認められた。
【0348】
これらのデータは、オステオポンチン及びmIFNβ処理の組合せが、マウスEAEモデルにおいて、臨床的作用及組織学的作用の両方において有効であり、その結果多発性硬化症の効率的治療となり得ることを示唆している。
【0349】
実施例12:マウスにおける坐骨神経圧挫により誘導されたニューロパシーに対するオステオポンチンの保護作用
略号
CMAP:複合筋肉活動電位
EMG:筋電図
IGF-1:インスリン-様増殖因子
SC:皮下注射
s.e.m.:平均の標準誤差
vs:対
【0350】
導入
ニューロパシーは、罹患したPNSニューロンの種類(例えば、感覚神経、対、自律神経)として、及び実際ニューロン亜型(小、対、大)として、通常選択される。末梢神経の軸索切断術は、神経栄養性因子の神経保護作用を評価するために、最も一般的に使用される動物モデルである。外傷性神経損傷、叢病変及び根病変は、事故の深刻な合併症である。加えて、ミエリン障害を引き起こすことができる末梢神経への圧迫は、手根管症候群のような障害において頻繁に認められるか、もしくは脊柱の整形外科的合併症に随伴する。軸索切断術は、細胞死のような現象を生じ、軸索伝導速度を低下し、かつ障害を受けたニューロンにおける神経伝導物質レベルを変更する。圧挫病変は、ニューロパシー状態に関連した関心のある追加的過程である、再生を可能にする(McMahon S.及びPriestley J.V.、1995)。
【0351】
細胞神経生物学における基本的疑問点は、損傷又は疾患後の神経再生の調節である。機能的神経再生は、単に軸索の出芽及び伸長のみではなく、新たなミエリン合成を必要とする。髄鞘再形成は、正常な神経伝導の回復及び新たな神経変性性の免疫学的攻撃からの軸索の保護について必要である。神経変性障害の研究の主要な目標は、究極的に神経死を妨害し、神経表現型を維持しかつ神経及びミエリンの障害を修復するような介入を開発することである。多くの研究が、軸索切断した脊髄運動ニューロンの完全な再生に寄与する分子及び細胞の機序の解明に向けられている(Fawcettら、1990;Funakoshiら、1993)。損傷が誘導した神経栄養性因子及びそれに対応する受容体の発現は、神経再生能において重要な役割を果たしているであろう。先行する研究は、インスリン様増殖因子(IGF-1)、ACTH(Lewisら、1993;Strandら、1980)、テストステロン(Jones、1993)、SR57746A(Fournierら、1993)及び4-メチルカテコール(Kaechi Kら、1993、1995;Hanaoka Yら、1992)のような、様々なペプチド及び非ペプチド化合物による、神経再生の有意な改善を示した。
【0352】
本試験は、異なる投与量のオステオポンチンで処理したマウスにおける神経再生を評価するために行った。このモデルにおいて、ニューロン及び軸索(感覚及び運動ニューロン)の生存及び再生に対する、髄鞘形成又はマクロファージ炎症に対するOPNの正の作用は、運動機能の回復につながる。この再生は、感覚運動機能の回復及び形態学的試験に従い測定することができる。従って本研究において、電気生理学的記録及び組織形態学的分析を、同時に行った。
【0353】
材料及び方法
動物
84匹の8週齢の雌C57bl/6 RJマウス(Elevage Janvier、Le Genest-St-lsle.、仏国)を用いた。これらは7群に分けた(n=12):(a)媒体で偽手術した群;(b)媒体で神経圧挫手術した群;(c)神経圧挫/オステオポンチン(1μg/kg);(d)神経圧挫/オステオポンチン(10μg/kg);(e)神経圧挫/オステオポンチン(100μg/kg);(f)神経圧挫/4-メチルカテコール(10μg/kg);(g)神経圧挫/変性したオステオポンチン(100μg/kg)。
これらは、群飼いし(5匹の動物/檻)、管理された温度(21〜22℃)及び逆転した昼夜サイクル(12時間/12時間)で、餌及び水は自在摂取するようにして維持した。全ての実験は、施設の指針に従い行った。
【0354】
坐骨神経の病変
これらの動物を、60mg/kgのケタミン塩酸塩(Imalgene 500、Rhone Merieux. Lyon、仏国)のIP注射により麻酔した。右側坐骨神経を、中大腿レベルで手術により露出し、かつ坐骨神経の三分枝へ5mmと近接した部位で圧挫した。神経は、止血用鉗子(幅1.5mm;Koenig; Strasbourg;仏国)で、30秒間2回圧挫し、各圧挫の間に90度回転させた。
【0355】
実験及び薬物療法の計画
筋電図(EMG)試験を、手術日の前に1回(ベースライン)、及び術後3週間の間は毎週行った。
【0356】
神経圧挫手術の日は、0日目(D0)とみなした。圧挫後4日間は試験を行わなかった。
体重及び生存率は、毎日記録した。
【0357】
神経損傷の日から試験終了時まで、オステオポンチン及び変性したオステオポンチンは、毎日SC経路で投与したのに対し、4-メチルカテコールの毎日の注射はIPで行った。
第4週目に、各群4匹の動物を屠殺し、坐骨神経を切断し、形態学的分析を行った。
【0358】
電気生理学的記録
電気生理学的記録を、Neuromatic 2000M筋電図測定装置(EMG)(Dantec, Les Ulis、仏国)を用いて行った。マウスは、ケタミン塩酸塩(Imalgene 500(登録商標)、Rhone Merieux. Lyon、仏国)100mg/kgの腹腔内注射により麻酔した。加温ランプにより、30℃で、正常体温を維持し、かつ尾の上に配置した接触式体温計(Quick, Bioblock Scientific, Illkirch. 仏国)により管理した。
【0359】
複合筋肉活動電位(CMAP)を、中より上の強度(12.8mA)で、坐骨神経の単回の0.2ms刺激により、腓腹筋において測定した。活動電位の振幅(mV)、潜伏時間(ms)及び持続期間(脱分極及び再分極活動(session)に必要な時間)を測定した。振幅は、活動運動単位(active motor unit)の数を示しているが、遠位潜伏時間は、運動神経伝導及び神経筋伝達速度を間接的に反映している。
【0360】
形態計測解析
形態計測解析は、神経圧挫後3週間で行った。1群につき4匹の無作為に選択した動物を、この解析に使用した。これらは、Imalgene 500の100 mg/kg、IP注射により麻酔した。坐骨神経の5mmセグメントを、組織学的検査のために切り出した。組織を、リン酸緩衝液(pH7.4)中のグルタルアルデヒドの4%水溶液(Sigma社, L'lsle dAbeau-Chesnes, 仏国)で一晩固定し、かつ使用時まで、30%ショ糖中で+4℃で維持した。この神経は、リン酸緩衝液中の2%四酸化オスミウム(Sigma社, L'lsle d'Abeau-Chesnes, 仏国)で、2時間固定し、かつ連続アルコール溶液で脱水し、かつEpon中に包埋した。その後包埋した組織を、+70℃で、3日間重合させた。1.5μmの横断切片を、ミクロトームで作成し、1%トルイジンブルー(Sigma社、LIsle d'Abeau-Chesnes, 仏国)で2分間染色し、脱水し、かつEukittに搭載した。1試料につき20切片を、光学顕微鏡(Nikon社、東京、日本)を用いて観察し、かつ1個の神経試料につき6個の無作為化した切片について形態計測解析を、半自動式デジタル画像解析ソフトウェア(Biocom社、仏国)を用い行った。1切片につき2視野を試験した。以下のパラメータを試験した:変性線維の割合(1視野につき)及び線維の総数。
【0361】
データ解析
このデータの全般的解析は、ひとつの因子又は繰返しのあるANOVA及び一元配置ANOVA、並びにノンパラメトリックな検定(Mann Whitney検定)を用いて行った。更に適当な場合は、Dunnett検定を用いた。有意性レベルは、p<0.05と設定した。これらの結果は、平均±平均の標準誤差(s.e.m.)で表わした。
【0362】
結果
全ての動物が、神経圧挫手技後に生存していた。EMG評価時の麻酔のために、1匹のマウス(神経圧挫/媒体n°2)が7日目に、並びに2匹(媒体偽手術したn°3及びn°6)が14日目に死亡した。
【0363】
動物体重
図17に示したように、本試験を通じて体重評価における群間の有意性が認められた[F(6, 132)=1.93及びp<0.001;繰返しのあるANOVA]。
全ての異なる群が本試験を通じての体重の増加を示した。
【0364】
電気生理学的測定
複合筋活動電位の振幅(図18):
本試験を通じCMAPの振幅には、群間の有意差があった[F(6, 18)=49.185及びp<0.001;繰返しのあるANOVA](図19)。
【0365】
神経損傷後、神経圧挫を受けた全ての動物が、偽手術した群と比べ、CMAP振幅の有意な減少を示した(p<0.001;Dunnett検定)。
【0366】
更に、D7及びD14に、オステオポンチン100μg/kg又は4-メチルカテコール10μg/kgで処理したマウスのCMAP振幅は、神経圧挫/媒体群よりも有意に高かった(p<0.05;Dunnett検定)。
【0367】
神経圧挫/媒体群と神経圧挫/D-オステオポンチン100μg/kg群の間に有意差は認められなかった。
【0368】
複合筋活動電位の潜伏時間(図19):
【0369】
図20に示したように、CMAP潜伏時間において群間有意差が認められた[F(6, 18)=2.521及びp<0.001;反復測定ANOVA]。D21に、神経圧挫群は、偽手術した群と比べ、増大したCMAP潜伏時間を示した(p<0.001;Dunnett検定)。更に、オステオポンチン10及び100μg/kg処理は、有意な作用を示し、実際これらの群の潜伏時間は、神経圧挫/媒体群よりも有意に小さかった(p=0.017;Dunnett検定)。
【0370】
神経圧挫/媒体群と神経圧挫/D-オステオポンチン100μg/kg群の間に有意差は存在しなかった。
【0371】
複合筋活動電位の持続期間(図20):
本試験を通じCMAP持続期間において群間有意差が存在した[F(6, 18)=25.15及びp<0.001;繰返しのあるANOVA](図20)。
【0372】
D7から、CMAP持続期間の有意な増加が、神経圧挫群において認められた(偽手術群 vs 神経圧挫群、p<0.001;Dunnett検定)。更にD7に、神経圧挫/オステオポンチン100μg/kg群は、神経圧挫/媒体群よりも持続期間の有意な減少を示した(p<0.001;Dunnett検定)。
【0373】
D14及びD21に、下記3群は、神経圧挫/媒体群と比べ、持続期間の有意な減少を示した:(a)神経圧挫/オステオポンチン10μg/kg;(b)神経圧挫/オステオポンチン100μg/kg;(C)神経圧挫/4-メチルカテコール10μg/kg。
更に、神経圧挫/媒体群及び神経圧挫/D-オステオポンチン100μg/kg群においては、有意差は認められなかった。
【0374】
形態計測解析
変性繊維の割合(図21):
統計解析は、1視野当りの変性線維の割合の群間有意差を明らかにした(p<0.001;一元配置ANOVA)(図22)。全ての神経圧挫群が、変性線維の有意に増加した割合を示した(p<0.001、Dunnett検定)。更に、神経圧挫/処理マウスは、神経圧挫/媒体群よりも、有意に低い割合を示した(p<0.001;Dunnett検定)。更に、D-オステオポンチン(100μg/kg)処理群は、オステオポンチン-処理群よりもより高い変性線維の割合を示した(p<0.001;Dunnett検定)。
【0375】
線維総数(図22):
切片は、光学顕微鏡を用いて観察し、かつ形態計測解析は、Visiolab 2000ソフトウェア(Biocom社、Paris、仏国)の助けを借りて行った。1匹の動物につき5切片、1切片につき2視野を解析した。機能的に有髄線維のみを、コンピュータにより記録した(全ての変性線維は、変性を伴うことを意味し、ミエリン鞘は記録しなかった)。
【0376】
結論
神経圧挫モデルは、末梢ニューロパシーの非常に劇的なモデルである。神経圧挫直後に、機械的損傷のために、大きい直径の線維の大半が失われ、このことは、CMAP振幅の強力な減少につながる。CMAP潜伏時間は、すぐには影響を受けないが、続発する免疫が媒介した変性(マクロファージ、顆粒球)による、小さい直径の線維の更なる変性のために、21日目に増加を示す。CMAP持続期間は、7日目に増大し、14日目にピークに達し、かつ21日目に、7日目の時点と同等のレベルに戻った。これは、21日目に、圧挫病変は、再生のために、ニューロパシー状態に関連した関心のある追加の突起が可能になるという事実によるものである。この軸索の出芽/再生は、3週目の時点で、対照群においても明かであった。
【0377】
オステオポンチンは、マウスの神経圧挫モデルにおいて、保護作用を示した。感覚運動機能は、損傷後7、14及び21日目に、用量依存的に有意に回復し、並びに圧挫後21日目に行った形態学的試験は、変性線維の割合の有意な減少及び線維総数の増加を示しているOPNは、本試験において使用した対照分子4-メチルカテコールと同程度有効であり、並びに熱で失活し、変性したOPNタンパク質は、機能的又は組織学的パラメータに対し有意な作用を示さない。この機能的又は組織学的回復に対する正の作用は、以下に関するOPN作用によるものであろう:
−続発する免疫が媒介した変性からの線維の直接の保護;
−促進された髄鞘再形成及び軸索保護;
−障害を受けた軸索の促進された再生/出芽;
−マクロファージにより清掃された増大したミエリン破片。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造のための、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの使用。
【請求項2】
神経疾患が、外傷性神経損傷、脳卒中、CNS又はPNSの脱髄疾患、ニューロパシー及び神経変性疾患から成る群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
神経疾患が先天性代謝障害によって生じる、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
神経疾患が末梢ニューロパシーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
神経疾患が糖尿病性ニューロパシーである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
脱髄疾患が多発性硬化症(MS)である、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)から成る群から選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項8】
オステオポンチンが:
(a)配列番号:1を含んで成るポリペプチド;
(b)配列番号:1のアミノ酸1から168又は170を含んで成るポリペプチド;
(c)配列番号:1のアミノ酸1から16及び170から314を含んで成るポリペプチド;
(d)配列番号:1のアミノ酸170から314を含んで成るポリペプチド;
(e)配列番号:2のポリペプチド;
(f)配列番号:3のポリペプチド;
(g)アミノ酸配列が、(a)から(f)の配列の少なくともひとつと、少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(h)(a)から(f)のいずれかをコードしている天然のDNA配列の相補体に、中等度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされた、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(i)アミノ酸配列の何らかの変化が、(a)から(f)のアミノ酸配列に対する保存的アミノ酸置換である、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(j)(a)から(f)のいずれかの塩又はアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体、から成る群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
オステオポンチンが、血液-脳関門の通過を促進する担体分子、ペプチド又はタンパク質と融合される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
オステオポンチンがPEG化されている、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
融合タンパク質が免疫グロブリン(Ig)融合体を含んで成る、請求項8〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
医薬品が、同時、逐次又は個別使用のために、更にインターフェロンを含んで成る、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
インターフェロンがインターフェロン−βである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
オステオポンチンが、約0.001〜100mg/kg体重、又は約1〜10mg/kg体重、又は約5mg/kg体重の量で使用される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
(k)配列番号:1を含んで成るポリペプチド;
(l)配列番号:1のアミノ酸1から168又は170を含んで成るポリペプチド;
(m)配列番号:1のアミノ酸1から16及び170から314を含んで成るポリペプチド;
(n)配列番号:1のアミノ酸170から314を含んで成るポリペプチド;
(o)配列番号:2を含んで成るポリペプチド;
(p)配列番号:3を含んで成るポリペプチド;
(q)アミノ酸配列が、(a)から(f)の配列の少なくともひとつと、少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(r)(a)から(f)のいずれかをコードしている天然のDNA配列の相補体に、中等度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされた、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(s)アミノ酸配列の何らかの変化が、(a)から(f)のアミノ酸配列に対する保存的アミノ酸置換である、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(t)(a)から(f)のいずれかのアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体、
から成る群から選択されるアミノ酸配列を含んで成るポリペプチドをコードする核酸配列を含んで成る、神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造のための核酸分子の使用。
【請求項16】
核酸分子が更に発現ベクターの配列を含んで成る、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造における、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの内因性産生を誘導し、そして/あるいは増強するためのベクターの使用。
【請求項18】
遺伝子治療のための、請求項15〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造における、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストを産生するために遺伝子操作された細胞の使用。
【請求項20】
オステオポンチン、オステオポンチン活性アゴニスト、及びインターフェロンを、1又は複数の医薬として許容される賦形剤と一緒に含んで成る、神経疾患の予防及び/又は治療のための医薬組成物。
【請求項21】
必要とする患者に対し、有効量のオステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストを、医薬として許容できる担体と任意に一緒に投与すること、を含んで成る、神経疾患の治療のための方法。
【請求項22】
必要とする患者に対し、有効量のオステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニスト、及びインターフェロンを、医薬として許容できる担体と任意に一緒に投与すること、を含んで成る、神経疾患の治療のための方法。
【請求項1】
神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造のための、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの使用。
【請求項2】
神経疾患が、外傷性神経損傷、脳卒中、CNS又はPNSの脱髄疾患、ニューロパシー及び神経変性疾患から成る群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
神経疾患が先天性代謝障害によって生じる、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
神経疾患が末梢ニューロパシーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
神経疾患が糖尿病性ニューロパシーである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
脱髄疾患が多発性硬化症(MS)である、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)から成る群から選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項8】
オステオポンチンが:
(a)配列番号:1を含んで成るポリペプチド;
(b)配列番号:1のアミノ酸1から168又は170を含んで成るポリペプチド;
(c)配列番号:1のアミノ酸1から16及び170から314を含んで成るポリペプチド;
(d)配列番号:1のアミノ酸170から314を含んで成るポリペプチド;
(e)配列番号:2のポリペプチド;
(f)配列番号:3のポリペプチド;
(g)アミノ酸配列が、(a)から(f)の配列の少なくともひとつと、少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(h)(a)から(f)のいずれかをコードしている天然のDNA配列の相補体に、中等度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされた、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(i)アミノ酸配列の何らかの変化が、(a)から(f)のアミノ酸配列に対する保存的アミノ酸置換である、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(j)(a)から(f)のいずれかの塩又はアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体、から成る群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
オステオポンチンが、血液-脳関門の通過を促進する担体分子、ペプチド又はタンパク質と融合される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
オステオポンチンがPEG化されている、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
融合タンパク質が免疫グロブリン(Ig)融合体を含んで成る、請求項8〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
医薬品が、同時、逐次又は個別使用のために、更にインターフェロンを含んで成る、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
インターフェロンがインターフェロン−βである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
オステオポンチンが、約0.001〜100mg/kg体重、又は約1〜10mg/kg体重、又は約5mg/kg体重の量で使用される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
(k)配列番号:1を含んで成るポリペプチド;
(l)配列番号:1のアミノ酸1から168又は170を含んで成るポリペプチド;
(m)配列番号:1のアミノ酸1から16及び170から314を含んで成るポリペプチド;
(n)配列番号:1のアミノ酸170から314を含んで成るポリペプチド;
(o)配列番号:2を含んで成るポリペプチド;
(p)配列番号:3を含んで成るポリペプチド;
(q)アミノ酸配列が、(a)から(f)の配列の少なくともひとつと、少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(r)(a)から(f)のいずれかをコードしている天然のDNA配列の相補体に、中等度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされた、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(s)アミノ酸配列の何らかの変化が、(a)から(f)のアミノ酸配列に対する保存的アミノ酸置換である、(a)から(f)のいずれかのムテイン;
(t)(a)から(f)のいずれかのアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分又は循環式に順番を入れ替えた誘導体、
から成る群から選択されるアミノ酸配列を含んで成るポリペプチドをコードする核酸配列を含んで成る、神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造のための核酸分子の使用。
【請求項16】
核酸分子が更に発現ベクターの配列を含んで成る、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造における、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストの内因性産生を誘導し、そして/あるいは増強するためのベクターの使用。
【請求項18】
遺伝子治療のための、請求項15〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
神経疾患の治療及び/又は予防用の医薬品製造における、オステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストを産生するために遺伝子操作された細胞の使用。
【請求項20】
オステオポンチン、オステオポンチン活性アゴニスト、及びインターフェロンを、1又は複数の医薬として許容される賦形剤と一緒に含んで成る、神経疾患の予防及び/又は治療のための医薬組成物。
【請求項21】
必要とする患者に対し、有効量のオステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニストを、医薬として許容できる担体と任意に一緒に投与すること、を含んで成る、神経疾患の治療のための方法。
【請求項22】
必要とする患者に対し、有効量のオステオポンチン、又はオステオポンチン活性アゴニスト、及びインターフェロンを、医薬として許容できる担体と任意に一緒に投与すること、を含んで成る、神経疾患の治療のための方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−191082(P2009−191082A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136621(P2009−136621)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【分割の表示】特願2002−589038(P2002−589038)の分割
【原出願日】平成14年5月8日(2002.5.8)
【出願人】(507348713)ラボラトワール セローノ ソシエテ アノニム (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【分割の表示】特願2002−589038(P2002−589038)の分割
【原出願日】平成14年5月8日(2002.5.8)
【出願人】(507348713)ラボラトワール セローノ ソシエテ アノニム (29)
【Fターム(参考)】
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