説明

神経細胞分化誘導剤

【課題】安全性が高く、長期間投与可能な神経細胞分化誘導剤の提供。
【解決手段】一般式(1)


(式中、R1は水素原子、ヒドロキシ基又はメトキシ基を示し;R2は水素原子又はヒドロキシ基を示し;R3は水素原子又はメトキシ基を示し;破線はその部分が二重結合になっていてもよいことを示す)で表される化合物を有効成分とする神経細胞分化誘導剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞分化誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳神経細胞は外傷、代謝性の要因、脳虚血、パーキンソン病、ダウン症等により障害を生じ、中枢神経ではアルツハイマー病や脳血管障害による痴呆、脳挫傷等による意識障害、パーキンソン病による振戦や筋硬直等が、また末梢神経では筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症や事故等に伴う神経損傷による運動機能障害、糖尿病、尿毒症、ビタミンB1欠乏、ビタミンB12欠乏、慢性肝障害、サルコイド−シス、アミロイド−シス、甲状腺低下症、癌、血管炎、シェーグレン症候群、感染症に伴う免疫異常、遺伝性疾患、物理的圧迫、薬剤、または中毒(砒素、タリウム、二硫化炭素等)によるニューロパチーが生じる。
【0003】
これらの疾患に対し神経栄養因子、例えばNGFによる神経細胞の分化誘導による治療が可能と考えられている(非特許文献1)。しかし、NGFは分子量約50,000のタンパクであり、生体内で分解されやすく実際に投与して有効か否かは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/152758号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Science、26巻、772−774頁(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、安全性が高く、長期間投与可能な神経細胞分化誘導剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、神経系の細胞を用いて分化誘導能を有する成分を植物由来物質から探索してきたところ、先に本発明者らが抗悪性腫瘍治療効果があると報告した特許文献1記載のジアリルヘプタノイドに、抗腫瘍作用を示した濃度よりもさらに低濃度で神経細胞分化誘導作用があることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は水素原子、ヒドロキシ基又はメトキシ基を示し;R2は水素原子又はヒドロキシ基を示し;R3は水素原子又はメトキシ基を示し;破線はその部分が二重結合になっていてもよいことを示す)
で表させる化合物を有効成分とする神経細胞分化誘導剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の神経細胞分化誘導剤は、極めて低濃度から神経細胞分化誘導作用を示し、植物由来成分であることから安全性も高く、長期投与可能である。従って、アルツハイマー病、脳血管性痴呆、パーキンソン病、多発性硬化症等の中枢神経系疾患や脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症等の変性疾患の治療薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】化合物(1a)(図中では81)及び化合物(1b)(図中では82)の神経細胞のDifferentiation、Elongation、Multiple、Blanch及びSchwannの各指標に対する作用を示す。Norm:何も作用させていない神経芽腫細胞、Veh:溶媒のみを作用させたコントロール神経芽腫細胞、13cisRA:13cisレチノイン酸。
【図2】化合物(1a)(図中では81)及び化合物(1b)(図中では82)による神経突起生成作用を示す電子顕微鏡写真である。Veh:溶媒のみを作用させたコントロール神経芽腫細胞、13cisRA:13cisレチノイン酸群。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の神経細胞分化誘導剤の有効成分は、前記一般式(1)で表される。式(1)中、R1としては、メトキシ基又は水素原子が好ましい。また、R2としてはヒドロキシ基が好ましく、R3としては、メトキシ基が好ましい。
【0014】
一般式(1)で表される化合物のうち、特に式(1a)又は(1b)で表される化合物が好ましい。
【0015】
【化2】

【0016】
一般式(1)で表される化合物は、例えばリョウキョウから抽出することにより得ることができる。例えば、抽出溶媒としては、低級アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及びこれらの水性媒体やエーテルを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、混合しても良い。好ましくは、メタノール、エタノール又はエーテルである。また、酢酸エチルやアセトンなども好ましい抽出溶媒である。本発明に係る化合物は、上記抽出溶媒から分離精製することで得られる。
【0017】
後記実施例から明らかなように、一般式(1)の化合物は、神経細胞に対して優れた分化誘導能を有する。また、その作用は10-8Mという低濃度で得られ、従来知られていた抗腫瘍作用を示す濃度に比べて極めて強力である。従って、一般式(1)の化合物、あるいはこれらの化合物を含有するリョウキョウ抽出物は、ヒトを含む哺乳動物の神経細胞分化誘導剤として有用である。
【0018】
本発明の神経細胞分化誘導剤を用いれば、各種神経細胞の疾患、例えば中枢神経系の障害として、アルツハイマー病や脳血管障害による痴呆、脳挫傷等による意識障害、パーキンソン病による振戦や筋硬直等が挙げられる。また、末梢神経系の障害として、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症や事故等に伴う神経損傷による運動機能障害、糖尿病、尿毒症、ビタミンB1欠乏、ビタミンB12欠乏、慢性肝障害、サルコイド−シス、アミロイド−シス、甲状腺低下症、癌、血管炎、シェーグレン症候群、感染症に伴う免疫異常、遺伝性疾患、物理的圧迫、薬剤、または中毒(砒素、タリウム、二硫化炭素等)等によるニューロパチーが挙げられる。
【0019】
本発明の医薬は、式(1)の化合物、あるいは前記抽出物に賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、被覆剤、乳化剤、懸濁化剤、溶剤、安定化剤、吸収助剤、軟膏基剤等の1以上の薬学的に許容される担体を適宜添加し、常法により経口投与用、注射投与用、直腸内投与用、外用などの剤形に製剤化することによって得られる。
【0020】
経口投与用の製剤としては、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤等が;注射投与用の製剤としては、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、点滴注射用の製剤などが;直腸内投与用の製剤としては、坐薬軟カプセル等が好ましい。
【0021】
本発明の医薬は上記の如き製剤として、ヒトを含む哺乳動物に投与することができる。
【0022】
本発明の医薬は、式(1)の化合物として、1日当り約1〜500mg/kgを1〜4回投与するのが好ましい。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
実施例1
以下、リョウキョウからジアリルヘプタノイド類化合物を分離精製する方法の一例を説明する。
【0025】
(1)リョウキョウのメタノール抽出エキスは、先ず酢酸エチル−水(1:1)で溶媒分画を行い、酢酸エチル画分(回収量:25.7g)と水層を得た。
次に酢酸エチル画分について、Sephadex LH−20−カラムクロマトグラフィー(以下、カラムクロマトグラフィーを「CC」と略す。)[Sephadex LH−20使用量:120g、溶出液:クロロホルム−メタノール(1:1)]により7の画分(フラクション1〜7)に分画した。
上記画分のうちフラクション(以下、「Fr.」と略す。)4(回収量:1.5g)はシリカゲル−CC(シリカゲル使用量:300g、溶出溶媒:クロロホルム−メタノール)により、10の画分(フラクション4−1〜4−10)に分画した。
【0026】
(2)Fr.4−2(回収量:5.6mg)は、分取[オクタデシルシリカ(以下、「ODS」と略す。)]−高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と略す。)を繰返すことにより、アルピノイドA(回収量:0.8mg)を得た。
1d:[α]25D:−6.08o(CHCl3
FAB MS m/z:[M+Na]+705
HR FABMS m/z:[M+Na]+705.34035(calcd.for 705.34096)
【0027】
(3)Fr.4−5(回収量:62mg)はシリカゲル−CC[シリカゲル使用量:100g、溶出溶媒:n−ヘキサン−酢酸エチル(4:1)]により、5の画分(フラクション4−5−1〜4−5−5)に分画した。Fr.4−5−2(回収量:3.2mg)は、分取ODS−HPLCを繰返すことにより、アルピノイドC(回収量:1.5mg)を得た。
1e:[α]25D:−3.92o(CHCl3
EI MS m/z:[M]+280
HR EIMS m/z:[M]+280.14673(calcd.for 280.14632)
【0028】
(4)一方、Fr.4−5−4(回収量:41mg)は、分取ODS−HPLCを繰返すことにより、7−(4”−hydroxy−3”−methoxyphenyl)−1−phenylhept−4−en−3−one(化合物1a;回収量:36mg)を得た。
【0029】
(5)Fr.4−7(回収量:313mg)はシリカゲル−CC[シリカゲル使用量:200g、溶出溶媒:n−ヘキサン−酢酸エチル(4:1)]により、3の画分(フラクション4−7−1〜4−7−3)に分画した。Fr.4−7−2(回収量:275mg)は、分取ODS−HPLCを繰返すことにより、5−methoxy−7−(4”−hydroxy−3”−methoxyphenyl)−1−phenyl−3−heptanone(化合物1b;回収量:270mg)を得た。
【0030】
実施例2
ヒト神経芽腫培養細胞株(IMR−32)に対して各化合物(化合物(1a)、化合物(1b))を24時間および48時間作用させ、ヨウ化プロピジウムで染色した後にDNA含量をフローサイトメトリーにより求め、細胞周期の状態を観察した。分化誘導試験はヒト神経芽腫培養細胞株(NB−39)に対し各化合物を低血清条件下で96時間作用させた後に位相差像を撮影し、形態学的な評価を行った。
【0031】
ジアリルヘプタノイドを24時間作用させた時、両化合物とも低濃度(10-6M)においてS期での細胞周期の停止が認められた。作用48時間後では濃度依存的なS期停止とアポトーシスの特徴であるsub−G1の増加が認められた。また、化合物(1a)を作用させた細胞では神経突起の伸長が観察され、分化誘導効果が認められた。
より具体的には、図1のように何らかの分化が生じたもの(Differentiation)、神経突起の伸長(Elongation)、神経突起の複数出現(Multiple)、神経突起の分枝(Blanch)、グリア細胞の生成(Schwann)のうち、Elongation、Multiple、Blanch、Schwannにおいて化合物(1a)及び化合物(1b)により、増加傾向が認められ、特に化合物(1a)は優位にElongation、Blanchを上昇させた。また10-8Mで神経突起が生じた状態が光学顕微鏡下でも確認された(図2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子、ヒドロキシ基又はメトキシ基を示し;R2は水素原子又はヒドロキシ基を示し;R3は水素原子又はメトキシ基を示し;破線はその部分が二重結合になっていてもよいことを示す)で表される化合物を有効成分とする神経細胞分化誘導剤。
【請求項2】
有効成分が、次式(1a)又は(1b)
【化2】

で表される化合物である請求項1記載の神経細胞分化誘導剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215547(P2010−215547A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62495(P2009−62495)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年2月2日「日本薬学会第129年会(京都)(http://nenkai.pharm.or.jp/129/web/)、日本薬学会第129年会(京都)予稿集(http://nenkai.pharm.or.jp/129/pc/imulti_result.asp)」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】