神経細胞機能の維持、その消失の防止又は回復のためのデプレニル化合部を利用した器具
【課題】動物の損傷した神経細胞を救助する。
【解決手段】本発明は、患者の損傷した神経細胞を救助するためのデプレニル化合物の利用と、患者の損傷した神経細胞を救助するために有用なデプレニル化合物を含んだ器具とに関するものである。
【解決手段】本発明は、患者の損傷した神経細胞を救助するためのデプレニル化合物の利用と、患者の損傷した神経細胞を救助するために有用なデプレニル化合物を含んだ器具とに関するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の損傷した神経細胞を救助するためのプレニル化合物を利用した器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デプレニル(ここではセレジリン又はR−(−)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミンとも呼ぶ)が最初に用いられたのは、これが選択的モノアミン酸化酵素−B(MAO−B)阻害物質として働くことで脳内ドーパミン量を高め、L−DOPAから形成されたドーパミンの薬理作用を強めながらも、非選択的MAO阻害物質で観察されるチラミン昇圧効果は防ぐであろうという根拠に基づき、10年前にヨーロッパにおいてパーキンソン病(PD)の従来の薬物療法の補助剤(L−ジヒドロキシフェニールアラニン(L−DOPA)及び末梢脱炭酸酵素阻害剤)として用いられたときである。報告では、この配合薬物療法によりL−DOPAの抗無動作用が長くなるため、パーキンソン病患者のオン−オフ効果が消滅し、機能性障害が低下し、余命が長くなるとしている(Bernheimer,H.et al.,J.Neurolog.Sci.,1973.20:415-455,Birkmayer,W.,et al.,J.Neural Transm.,1975.36:303,336,Birkmayer.W.,et.al.Mod Prob.Pharmacopsychiatr.,1983.19:170-177,Birkmayer W.and P.Riederer,Hassler,R.G.and J.F Christ(Ed.)Advances,In Neurology,1984 40(Y):p.0-89004,andBirkmayer,W.et.al.,J.Neural Transm.,1985.64(2):p.113-128)。
【0003】
通常のL−DOPA療法の補助剤としてのデプレニルを調べた研究は、通常、その利点は1年又はそれ未満で消失してしまう短期間のものだと報告している。
デプレニルと共に摂取すればレボドーパ用量を減少させることができると報告する研究も、すべてではないがいくつかはある。(Elizan,T.S.,et.al.,Arch Neurol.1989.46(12):p1280-1283,Fischer,P.A.and H.Baas,J.Neural Transm.(suppl.),1987.25:p.137-147,Golbe,L.I..,Neurology,1989.39:p.1109-1111,Lieberman,A.N.et.al.,N.Y.StateJ.Med.,1987.87:p.646-649,Poewe,W.,F Gerstenbrand,and G.Ransomayr,J.Neural Transm.(suppl.),1987.25:p.137-147,Cedarbaum,J.M.,M.Hoey,and F.H.McDowell,J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry,1989.52(2):p.207-212,and Golbe,L.I.,J,W.Langston,and I.Shoulson,Drugs,1990.39(5):p.646-651)。
デプレニルがパーキンソン病の進行を遅らせるという報告(Parklnson,S.G.Arch Neurol 46,1052-1060(1989)and U.S.A.,Parkinson,S.G.N.Engl.J.Med.321,1364.1371(1989))があってからは、デプレニルはますますパーキンソン患者に投与されるようになってきているが、その作用を説明するのに充分な仕組みはまだ解明されていない。
パーキンソン病(PD)に対してデプレニルを使用する裏付けは概ねDATATOPプロジェクト(Parkinson,S.G.Arch Neurol 46,1052.1060(1989)andU.S.A.,P.S.G.N.Engl.J.Med.321j 1364-1371(1989))による発見に基づいている。この多中心性の研究は、デプレニルが、薬物療法をさらに必要とする障害症状の発症をほぼ1年遅らせると報告したものであるが、これらの発見は独立の、しかしより小規模な研究でも再現されている(Tetrud,J.W.&Langston,J.W.Science 245,519-522(1989))。残念ながら、DATATOPの研究の構成及びその結論には強い批判が集まっている(Landau,W,M.Neurology 40,1337-1339(1990)。さらにこれらのプロジェクトの著者はこのような結果はデプレニルがパーキンソン病の進行を遅らせるという仮説(Parkinson,S.G.Arch Neurol 46,1052-1060(1989),U.S.A.,P.S.G.N.Engl.J.Med.321,1364-1371(1989)andTetrud,J.W.&Langston.J.W.Science 249,303-304(1990))と一致していると述べてはいるが、証明となるものでは決してない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デプレニル、つまりMAO−B阻害物質がパーキンソン病の進行を遅らせるのは、フリーラジカルにより誘発される、生存中のドーパミン作動性黒質線条体(DNS)ニューロンの死を抑えるためではないかということが主張されている(Parkinson's Desease and Movement Disorders(eds.Jankovic,J.&Tolosa,E.)75-85のLangston,J.W.)(Urban and Schwarzenberg,Baltimore-Munich1988))が、これは、デプレニルが霊長類のMPTP誘発性神経毒性を遮断できたという観察(Langston,J.N.,Forno,L.S.Robert,C.S.&IrWin,I.Brain Res 292,390-394(1984))と、その他の環境毒素でMPTPに類似の作用の仕組みを持つものがパーキンソン病の病因に関連があるかも知れないという仮説(Tanner,C.M.TINS 12:49-54(1989))に基づいている。しかしながら、MAO−Bはドーパミン作動性ニューロンには存在しないこと(Vincent,S.R.Neuroscience 28,189-199(1989),Pintari,J.E.et.al.Brain Res276:127-140(1983),Westlund,K.N.,Denney,R.M.,Rochersperger,L.M.,Rose,R.M.&Abell,C.W.Science(WashD.C.)230,181-183(1985)andWestlund,K.N.,Denney.,R.M.,Rose,R.M.&Abell,C.W Neuroscience 25,439-459(1988))から、それを阻害することでなぜDNSニューロンが保護されるかは、毒性の高い化合物がドーパミン作動性ニューロン以外のニューロンで別に形成されて、それがMPTPと同じような方法でDNSニューロンを傷つけるというのでない限り、不明である。驚くべきことに、中枢神経系からMPTPを除いた後では計測されているにもかかわらず、DNSニューロン数を計測してニューロン生存率に対してデプレニルが影響を与えるかどうかを調べることは、いずれの研究でも行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、デプレニル化合物の容器と、損傷した神経細胞を持つ患者に対し、その患者において損傷した神経細胞の救助が行われるよう、治療上効果的な量のデプレニル化合物を投与する旨の指示書とを含む器具であって、デプレニル化合物が、下記化1の構造で表され、
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は一重結合、アルキレン、又は−(CH2)n−X−(CH2)mであり、
ただしこのときXはO、S又はN−メチル、mは1又は2、及びnは0、1、又は2であり、
R4はアルキル、アルケニル、アルキニル、複素環、アリール、又はアラルキルであり、
R5はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン及びアルコキシレンであり、
R6は
−C≡CHであり、
あるいは、R2及びR4−R3は結合して、これらが結び付いたメチンと共に環
式又は多環式の基を形成しており、
及び薬学上容認可能なその塩であり、
但しその際、デプレニル化合物はデプレニル、パルジリン、AGN−1133、又はAGN1135のいずれかから選択されるものではないことを条件とする、器具である。
【0006】
【化1】
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、損傷した神経細胞を、デプレニル化合物を患者に投与することにより救助する方法を提供するものである。
ある態様では、本発明は、患者の損傷した神経細胞を救助する方法を提供するが、その方法は、損傷した神経細胞を持つ患者に対し、その患者において損傷した神経細胞の救助が行われるよう、ある量のデプレニル化合物を投与することを含み、但しその際、前記デプレニル化合物はデプレニル、パルジリン、AGN−1133、又はAGN−1135のいずれかから選択されるものではないことを条件とする。
ここで用いられる「患者」又は「被験者」という用語は、損傷した神経細胞を持つ温血動物を言う。好適な実施例では、患者は、ヒト、及び、例えばイヌ、ネコ、ブタ、カウ、ヒツジ、ヤギ、ラット及びマウス等を含むヒト以外のほ乳類を含むほ乳類である。特に好適な実施例では、患者はヒトである。
ここで用いられる「損傷した神経細胞を救助する」又は「損傷した神経細胞を救助すること」という用語は、損傷から死に至る順番を(反転させなければ)致命傷である損傷を受けた神経細胞において反転させること、及び/又は、筋肉由来の栄養補給の消失を部分的に補うことを言う。
【0008】
本発明の発明者は、神経毒1−メチル−4−フェニール−1,2,5,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)により誘発されるニューロンの死の時間経過を研究してきた。MPTPは、B型モノアミン酸化酵素の働きにより酸化してジヒドトピリジウム中間体(MPDP+)を経てその毒性の代謝産物1−メチル−4−フェニールーピリジウムイオン(MPP+)となる。MPTPは非ドーパミン作動性細胞中でMPP+に転換され、放出されてドーパミン作動性ニューロンに取り込まれ、そこで神経毒性作用を及ぼすと考えられている(VincentS.R.Neuroscience,1989,28 p.189-199,Pintari,J.E.et al.Brain Res,1983,276(1)p.127-140,Westlund,R.N,et al.Neuroscience,1988,25(2)p.439.456,Javitch,J.A.et al.P.N.A.S.USA 1985,82(7)p.2173.2177,Mayor,1986#1763,及びSonsalla,P.R.et al,17thAnnual Meeting Of The Society For Neuroscience,New Orleans,Louisiana,USA,November,1987,13(2)を参照されたい)。
【0009】
マウスではMPTPは急速に代謝されて消失する(Johannesen,J.N.et al.LifeSci.1985,36:p.219-224,Markey,S.Pet al.Nature,1984,311p.465467,Lau,Y.S.et al.Life Sci.1988,43(18):p.1459-1464)。MPTPの急速な代謝及び排出とは対照的に、本発明者たちはドーパミン作動性ニューロンの消失がMPTP投与停止後20日間に渡って進行することを立証している。MPTP(30mg/kg/d)をマウスに連続5日間(総用量150mg/kg)腹腔内投与して、緻密黒質(原語:substantia nigra compacta)(SNc)及び腹側被蓋域(VTA)のTH−免疫陽性(TH+)ニューロンの約50%を消失させた(MPTP用量とカテコールアミン作動性ニューロンの消失との間の関係に関してここに参考文献として編入するSeniuk,N.A.,W.G.Tatton,and C.E.Greenwood,BrainRes.,1990,527sp.7-20を参照されたい)。本発明者はまた、同様の時間経過後TH+SNcニューロンの死が起きることを発見している。TH+体細胞の20から30%がMPTP投与終了後5日間の間に消失し、TH+ニューロンの消失は更にその後10日から15日間続き、その後は検出可能な消失はなかった。このようなTH+ニューロンの継続的な消失は、上述の排出データに基づけば、MPP+の存在では説明できなかった。さらに、TH+及びニッスル染色したSNc体細胞の計数を同時に表した表から、TH+体細胞の消失はTH免疫反応性の消失というよりはSNcニューロンの死を意味するものであることが確認できた。
【0010】
TH+SNc体細胞の消失と関連して、本発明者はさらに、SNc及び腹側被蓋域(VTA)におけるTHたんぱく質の免疫密度に変化があることを発見した。MPTPを処置した動物において5日目で残存するTH+DNSニューロンの体細胞中の細胞形質のTH免疫密度は、食塩水を処置した対照群と比較して40%低かった。平均体細胞TH免疫密度は時間と共に増加し、MPTP後20日で対照レベルに達した。線条体DA濃度の変化、及び移動などのドーパミン依存性行動の変化は、TH免疫化学の変化に平行していることが判明した。更に、本発明者たちは、DOPAC/DA比で推測したときの線条体のDA含有量及びDA合成量の増加は、行動上の回復に平行していると考えられ、MPTPへの暴露を生き抜いたVTA及びSNcニューロン中のDA含有量及び合成量の増加を示していることを発見した。
【0011】
このように、注目すべきことに、MPTP誘発のニューロン性損傷後、TH+SNcニューロンが効果的な修復及び回復を行なうか、又は死に至るかにとって重要な20日間の期間があることを本発明者たちは発見した。
デプレニルを用いた大半の研究は、生体内でのMAO−B活性の阻害が、NPTPのMPP+への転換、ひいてはMPTPの神経毒性を遮断することを実証すべく構成されてきた。その結果、MPTPへの暴露の期間中にMAO−B活性が確実に阻害されるよう、デプレニルは多くの場合、MPTP投与の前、そして投与の間を通じて数時間又は数日間与えられている(例えばCohen,G.,et al.,Eur.J.Pharmacol.,1984.106sp.209-210,Heikkila,R.E.,et al.,Eur.J.Pharmacol,1985.116(3):p.313-318,Heikkila,R.E.,et al,Nature,1984.311:p.467-469及びLangston,J.W,,et al.,Science(Wash.D.C.),1984,225(4669)p.1480-1482を参照されたい)。例えばAGN1133、AGN−1135及びMD240928等、その他のMAO−B選択的阻害物質を用いて比較可能な結果が得られており(Heikkila,R.E.,et al.,Eur.J.Pharmacol,1985.116(3):p.313-318andFuller,R.W.andL.S.K.Hemrick,Life Sci,1985.37(12):p.1089-1096)、デプレニルの作用の仕組みはMAO−Bを遮断するその能力が媒介するものであり、それによりこの毒素が活性形態に転換するのを防ぐのだということを示唆している。
【0012】
上述の研究とは対照的に、本発明者たちは、MPTPのMPP+への転換を遮断するその能力には依存していなかったその作用をデプレニルがDSNニューロンに及ぼすことができるかを調べることに関心があった。MPTP処置したマウス(総用量は150mg/kg)に、MPTP投与後3日目から20日目まで、デプレニルを投与した(0.01、0.25、10mg/kg腹腔内注射;1週間に3回)。デプレニル投与を3日目まで控えたのは、すべてのマウスが相当量のMPP+に暴露し、すべてのMPTP及びその代謝産物が中枢神経系から消失するのを確実にするためである。MAO−B阻害物質であるクロルジリンもMPTP処置したこのマウスに投与した。
本発明者たちは、食塩水処置したマウスでは、ドーパミン作動性緻密黒質(DSN)ニューロンの約38%がこの20日間のうちに次第に死んでいったことを発見した。このDSNニューロンの数はMPTP−食塩水処置マウス及びMPTPクロルジリン処置マウスの場合と統計学的に同じであることが判明した。しかしながら、デプレニルにより、MPTP誘発性の損傷を生き延びるDSNニューロンの数は増加しており(16%消失−0.01mg/kg、16%消失−0.25mg/kg)及び14%消失10mg/kg)、その効力はすべての用量において同じであった。このように、本発明者は、デプレニルは死につつあるニューロンを救助し、それらが効果的な修復を行うと共にドーパミンの合成に必要なチロシン水酸化酵素等の酵素の合成を再構築する確率を高めることができることを実証した。これは、死に至るはずのニューロンの損傷から死までの順序を反転させる、末梢又は経口投与治療に関する最初の報告であると考えられる。
【0013】
発明者たちの研究は、デプレニルは、MPTPが毒性代謝産物NPP+へ転換するのを阻害することを通じてその再生作用を媒介しているという可能性を見逃してきた。その結果は、デプレニルにはこれまで未知の作用メカニズムがあることを示唆するものである。ドーパミン作動性ニューロン自体におけるデプレニルの直接的作用を説明するのは、これらの細胞にMAO−Bがないため、難しいことであり、(Vincent,S,R.,Neuroscience28,189-199(1989);Pintari,J.E.,et al.Brain Res.276,127.140(1983);Westlund,R.N.et al.Science,(Wash.D.C.)230,181.183(1988)andWestlund,K.N.et al.Neuroscience25,439-156(1988))、これらの結果を、ドーパミン作動性ニューロン自体の中でデプレニルがMAO−Bを阻害するという根拠に基づいて説明はできなくなっている。デプレニル(0.01mg/kg)による処置の初期及び最後におけるMPTP処置マウス中のMAO−A及びMAO−Bを測定した結果、この0.01mg/kgの用量では二つの時点でMAO−A又はMAO−Bの阻害を大きくは阻害していないことが判明しており、このことから、デプレニルの再生作用を媒介するのはMAO−Bの阻害作用であるとはまず考えられない。更に、MAO−A阻害物質であるクロルジリンは、MPTPで誘発されたニューロンの死後に生き延びるDSNニューロンの数を増加させなかった。
【0014】
他の研究結果からも、デプレニルによる損傷したニューロンの救助は、公知のMAO−B又はMAO−B阻害作用によるものではないことが裏付けられている。軸索切断した運動ニューロンのデプレニルによる救助は、デプレニル処置をその後止めた場合も、運動ニューロンが死なないため永久に続くことが実証されている(以下の議論を参照されたい)。更に、MAO−B阻害物質N−(2−アミノエチル)−4−塩酸クロロベンズアミドは損傷した運動ニューロンを救助するには効果的でないことが実証されている。
さらに、生後14日で軸索切断したラットの顔面運動ニューロンの生存率も調べられたが、その結果、デプレニルは軸索切断後21日目の生存運動ニューロンの数を2.2倍増加させていたことが分かった(ここで述べる例3を参照されたい)。さらに、MPTPモデルで用いた0.01mg/kg用量の場合と同様、運動ニューロンを救助するのに、用量0.01mg/kgのデプレニルの効果は10mg/kgのデプレニルとまったく同じであった。パルジリンも運動ニューロンを救助することが判明した。このように、注目すべきことに、デプレニル及びパルジリンは、軸索切断により発生した栄養補給の消失を部分的に補うことができることが実証され、筋萎縮性側索硬化症等の状態における運動ニューロンの死の治療におけるデプレニル化合物の役割が示唆された。
14日目で損傷を与え、続く21日間10mg/kgのデプレニル(d14−35)を与えた後、生後65日まで未処置のまま放置した動物では、その後何ら運動ニューロンの死は見られなかった。さらに、この救助は軸索切断した運動ニューロンについては永久に続くことが実証された。つまり、運動ニューロンは、デプレニル処置を21日目より後に中止した場合、死に始めることはなく、さらにその後30日間も死ぬことはないのである。
【0015】
デプレニルの再生作用は神経系の細胞のいずれかが媒介している可能性があり、その仕組みには、その細胞上のレセプタ(例えばニューロン栄養性因子のレセプタなど)の活性化が、ある構造を通じて関わっていると思われるが、この構造はMAO−Bを遮断する構造には関係がないものであろう。このことは、デプレニルは、ドーパミン作動性ニューロンのみに影響を与えるのではなく、グリア栄養性因子に反応する脳内のすべてのニューロンの死を防ぐのに役立つのではないかということを意味するものであろう。従って、パーキンソン病において治療上効果的であるだけでなく、その他の神経変性疾患及び神経筋疾患や、低酸素症、虚血、脳卒中又は外傷を原因とする脳の損傷にも効果的であると考えられ、さらに脳の老化に伴うニューロンの進行性の消失を遅延させられるかも知れない(Coleman,P.D.&FloodD.G.,Neurobiol.Aging8,521-845(1987);McGeer,P.L.et al.In Parkinsonlsm and Aging(eds.D.B.Calne,D,C,-G.Comi and R.Horowski)25.34(Plenum,New York,1989)。さらに、外傷性及び非外傷性の末梢神経の損傷において筋肉の神経再支配を刺激するのにも用途があるかも知れない。
【0016】
本研究はまた、プロパルジルの末端が損傷したニューロンの救助に必要な因子かも知れないということを示す。上述したように、MAO−A阻害物質であるクロルジリンは、二日毎に用量2mg/kgを与えた場合では、MPTP誘発した損傷後の生存dSNCニューロン数を増加させることはなかった。L−デプレニル及びクロルジリンの公知の分子構造(図1を参照されたい)を比較すると、これらの化合物が、プロパルジル基を含んだ末端部分で同じ構造を有していることが分かる(図1の四角で囲った部分を参照されたい)。対照的に、フェノール環には二つの大きな塩素が含まれ、また酸素に結び付いた3つの炭素鎖は、この塩素置換フェノールを、アメチル側鎖をL−デプレニルに持った状態で2つの炭素を持つ窒素に結合させている。クロルジリンがDSNニューロンを救助できないのは、プロパルジル基が結合部位に届かないようにしているこの塩素に関連があるかも知れないし、また、この重要な構造に、フェノール環を窒素に結合させている分子部分が含まれていることを示すものかも知れない。
MAO−B阻害物質N−(2−アミノエチル)−4塩酸クロロベンズアミドは未成熟の軸索切断された運動ニューロンを救助しないことが分かった。この化合物は、デプレニル及びパルジリンの末端アルキン成分を持っていないため、MAO−Bのフラビン部分の異なる箇所に結合又は相互反応するように思われる。
0.01mg/kg用量のデプレニルの(+)異性体は、未成熟の軸索切断された運動ニューロンを救助しないことが分かった。このように、この化合物の旋光度も救助に重要であるかも知れない。
【0017】
上述したように、本発明は、損傷した神経細胞を救助するためのデプレニル化合物の利用と、このような使用に適合したデプレニル化合物を含む薬学的組成物と、損傷した神経細胞を救助することで神経系の疾患を治療する方法とに関するものである。
デプレニル化合物の投与は動物の損傷した神経細胞を救助するものでよく、従って、神経変性及び神経筋疾患の治療、及び、低酸素症、低血糖症、虚血性発作又は外傷を原因とする神経組織に対する急性の損傷に用いられよう。さらに、脳の老化に伴うニューロンの進行性消失を遅らせるのに用いることもできようが、デプレニルは、年齢に関係したマウスDSNニューロンの死を防ぐことはできないことを本発明者たちは提示している。より具体的には、デプレニル化合物はパーキンソン病、ALS、頭部外傷又は脊髄損傷の治療や、換気不良、溺水、長時間の痙攣、心拍停止、一酸化炭素への暴露、毒素への暴露、又はウィルス感染を原因とする虚血性発作、低酸素症直後の患者の治療に用いることができよう。デプレニル化合物は更に、外傷性及び非外傷性の末梢神経の損傷において筋肉の神経再支配を剌激するのにも用いることができよう。
【0018】
デプレニル化合物
ここで用いられる「デプレニル化合物」という用語には、デプレニル(N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフエネチルアミン)、デプレニルに構造上類似の化合物、例えば構造類似体、又はその誘導体など、が含まれる。このように、ある実施例では、デプレニル化合物は以下の式(化I)で表すことができる。
【0019】
【化1】
【0020】
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は一重結合、アルキレン、又は−(CH2)n−X−(CH2)mであり、ただしこのXはO,S又はN−メチル、このmは1又は2、そしてこのnは0、1、又は2であり、 R4はアルキル、アルケニル、アルキニル、複素環、アリール、又はアラルキルであり、 R5はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン及びアルコキシレンであり、
R6はC3−C6シクロアルキル又は −C≡CHであり、
あるいは、R2及びR4−R3は結合して、これらが結び付いたメチンと共に環式又は多環式の基を形成しており、
及び薬学上容認可能なその塩である。
【0021】
ある好適な実施例においては、デプレニル化合物は、デプレニル、パルジリン、AGN−1133、AGN−1135、又はMD240928のいずれかから選択されるものではない。
【0022】
いくつかの好適な実施例では、R1は生体内で分離可能な基である。いくつかの実施例では、R1は水素である。別の好適な実施例では、R1はメチルである。いくつかの好適な実施例では、R2は水素である。いくつかの好適な実施例では、R2はメチルである。いくつかの好適な実施例では、R3はアルキレン、より好ましくはメチレンである。別の好適な実施例では、R3は−(CH2)n−X−(CH2)mである。好適な実施例では、R4はアリールである。いくつかの好適な実施例では、R4はフェニルである。別の好適な実施例では、R4はアラルキルである。さらに別の好適な実施例では、R4はアルキルである。さらに別の実施例では、R5はアルキレン、より好ましくはメチレンである。いくつかの好適な実施例では、R6は−C≡CHである。また別の好適な実施例では、R6はシクロペンチルである。
【0023】
さらに別の好適な実施例では、デプレニル化合物の構造は、以下の式(化2)である。
【0024】
【化2】
【0025】
このときのR1は上述した通りである。好適なデプレニル化合物には(−)−デスメチルデプレニルと、下記化3とが含まれる。
【0026】
【化3】
【0027】
別の実施例では、デプレニル化合物は以下の式(化4)で表すことができる。
【0028】
【化4】
【0029】
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は化学結合又はメチレンであり、
R4はアリール又はアラルキルであり、
あるいは、R2及びR4−R3が結合して、これらが結び付いたメチンと共に環式又は多環式の基を形成しており、及び薬学上容認可能なその塩である。
【0030】
別の実施例では、デプレニル化合物は以下の式(化5)で表すことができる。
【0031】
【化5】
【0032】
ただし同式において、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は化学結合又はメチレンであり、
R4はアリール又はアラルキルであり、
あるいは、R2及びR4−R3が結合して、これらが結び付いたメチンと共に環式又は多環式の基を形成しており、
そしてR5はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン及びアルコキシレンであり、 及び薬学上容認可能なその塩である。
【0033】
さらに別の実施例では、デプレニル化合物は以下の式(化6)で表すことができる。
【0034】
【化6】
【0035】
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
Aは、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシル、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシル、−CF3、又はアジドのいずれかよりそれぞれ個別に選択される置換基であり、
nは0又は1から5までの整数であり、 及び薬学上容認可能なその塩である。
【0036】
本発明のいくつかの実施例では、デプレニル化合物はデプレニル((−)−デプレニルを含む)ではない。
「アルキル」という用語は、直鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルキル基を含む、飽和脂肪族のラジカルを言う。好適な実施例では、直鎖又は分枝鎖アルキルは20以下、より好ましくは10以下の炭素原子をその主鎖(例えば直鎖ではC1−C20、分枝鎖ではC3−C20)の炭素原子に有する。同様に、好適なシクロアルキルは4−10の炭素原子をその環構造に、より好ましくは5、6又は7の炭素をその環構造に有する。炭素数を特に明示していない限り、ここで言う「低アルキル」とは、上述のようにアルキル基を意味するが1から6個の炭素原子をその主鎖構造に有するものを言う。同様に、「低アルケニル」及び「低アルキニル」は同様の鎖長を有するものである。好適なアルキル基は低アルキルである。好適な実施例では、アルキルとしてここで指定された置換基は低アルキルのことである。
【0037】
さらに、明細書及び請求の範囲を通じて用いられている「アルキル」(又は「低アルキル」)という用語は、「未置換アルキル」及び「置換アルキル」の両方を含むものとして意図されており、この後者は、炭化水素の主鎖の一つ又は複数の炭素に水素を置換する置換基を有するアルキル成分を言う。このような置換基には、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル、(例えばカルボキシル、ケトン(アルキルカルボニル及びアリールカルボニル基を含む)、及びエステル(アルキルオキシカルボニル及びアリールオキシカルボニル基を含む)、チオカルボニル、アシルオキシ、アルコキシル、ホスホリル、ホスホネート、ホスフィネート、アミノ、アシルアミノ、アミド、アミジン、イミノ、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキチオ、スルフェート、スルホナート、スルファモイル、スルホンアミド、複素環、アラルキル、あるいは芳香族又はヘテロ芳香族成分が含まれよう。当業者であれば、炭化水素の鎖で置換を行った成分は、該当する場合には、それ自体が置換されることも理解されよう。例えば置換アルキルの置換基には、置換又は未置換の形のアミノ、アジド、イミノ、アミド、ホスホリル(ホスホネート及びホスフィネートを含む)、スルホニル(スルフェート、スルホンアミド、スルファモイル及びスルホナートを含む)、及びシリル基、並びにエーテル、アルキチオ、カルボニル(ケトン、アルデヒド、カルボキシレート、及びエステルを含む)、−CF3、−CN等々があろう。代表的な置換アルキルは以下に述べる通りである。シクロアルキルはさらにアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルキチオ、アミノアルキル、カルボニル置換体のアルキル、−CF3、−CN等々で置換することができる。
【0038】
「アルケニル」及び「アルキニル」という用語は、上述のアルキルに長さ及び置換可能性という点で類似の不飽和脂肪族であるが、それぞれ少なくとも一つの二重又は三重結合を含んだものを言う。
ここで言う「アラルキル」とは、少なくとも一つのアリール基(例えば芳香族又はヘテロ芳香族)で置換したアルキル又はアルキレニル基を言う。代表的なアラルキルとしては、ベンジル(即ちフェニールメチル)、2−ナフチレチル、2−(2−ピリジル)プロピル、5−ジベンゾスベリル等々がある。
ここで言う「アルキルカルボニル」とは、−C(O)−アルキルを言う。同様に、「アリールカルボニル」とは−C(O)−アリールを言う。ここで言う「アルキルオキシカルボニル」とは−C(O)−O−アルキルの基を言い、「アリールオキシカルボニル」という用語は−C(O)−O−アリールを言う。「アシルオキシ」とは−O−C(O)−R7を言うが、ただしこのR7はアルキル、あるケニル、アルキニル、アリール、アラルキル又は複素環である。
【0039】
ここで言う「アミノ」とは−N(R8)(R9)を言い、このR8及びR9はそれぞれ、個別に水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アリールであるか、あるいは、R8及びR9は、これらが結び付いた窒素原子と共に4−8の原子を有する環を形成するものである。このように、ここで言う「アミノ」とは、未置換体、一置換体(例えばモノアルキルアミノ又はモノアリールアミノ)、及び二置換体(例えばジアルキルアミノ又はアルキルアリールアミノ)のアミノ基を含む。「アミド」とは、−C(O)−N(R8)(R9)を言い、このR8及びR9は上述の通りである。「アシルアミノ」とは、−N(R’8)C(O)−R7を言い、このR7は上述の通りであり、R’8はアルキルである。
ここで用いられる「ニトロ」とは−NO2を意味し、「ハロゲン」とは−F、−Cl、−Br又は−Iを指し、「スルフヒドリル」とは−SHを意味し、「ヒドロキシル」とは−OHを意味する。
【0040】
ここで言う「アリール」には5、6及び7員環の芳香族が含まれ、この芳香族は0個から4個のヘテロ原子を環内に含んでいてもよい。例えばフェニル、ピロリル、フリル、チオフェニル、イミダゾリル、オキサゾール、チアゾリル、トリアゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリダジニル及びピリミジニル、等々である。環構造にヘテロ原子を含むこのようなアリール基はまた、「アリール複素環」又は「ヘテロ芳香族」とも言及されているかも知れない。芳香族の環は一つ又は複数の環位置において、アルキルについて上述した置換基、例えばハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族又はヘテロ芳香族の成分、−CF3、−CN等々で置換することができる。アリール基はまた多環式の基の一部分となることができる。例えば、アリール基には、ナフチル、アントラセニル、キノリル、インドリル、等々といった融着した芳香族成分が含まれる。
【0041】
「複素環」又は「複素環基」とは、4乃至10員環の環構造、より好ましくは4乃至7員環であって、この環構造が1個乃至4個のヘテロ原子を含むものを言う。複素環基には、例えば、ピロリジン、オキソラン、チオラン、イミダゾール、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ラクトン、アゼチジノン及びピロリジノン等のラクタム、スルタム、スルトン、等々が含まれる。複素環は、一つ又はそれ以上の位置において、上述のような置換基、例えばハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族又はヘテロ芳香族の成分、−CF3、−CN、等々で置換することができる。
【0042】
「ポリシクリル」又は「多環式の基」とは、二つ以上の環(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、及び/又は複素環)であって、それらの環の二つ以上の炭素が隣り合う二つの環の間で共有されている、例えば環同士が「融合」している、ようなものを言う。隣り合っていない原子によって結合した環は「架橋された環」と呼ばれる。多環式の基の環は各々、上述のような置換基、例えばハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族又はヘテロ芳香族の成分、−CF3、−CN、等々で置換することができる。
ここで言う「ヘテロ原子」とは、炭素又は水素を除いたいかなる元素の原子をも意味する。好適なヘテロ原子は窒素、酸素、サルファ及びリンである。
【0043】
本発明のいくつかの化合物構造は非対称の炭素原子を含むことが理解されよう。従って、このような非対称性から生じる異性体が本発明の範囲に含まれることは理解されねばならない。このような異性体は、伝統的な分離枝術及び立体調整された合成によってほぼ純粋な形で得られる。
ここで言う「生体内において分離可能」とは、生体内で酵素的又は非酵素的のどちらかによって開裂することのできる基を言う。例えば、アミノはアミダーゼにより開裂させることができ、またN−メチルアミンは酵素的酸化により開裂させることができる。例えば、デプレニルを被験者に投与すると、後で述べるように、メチル基が生体内で分離して有効化合物を生じると考えられる。さらなる例としては、化学式Iに見るように、R1がアルキルカルボニルの場合、できあがるアミド基は、生体内で加水分解により酵素的又は非酵素的に開裂して、第二アミンを含むデプレニル化合物を生じることができる(例えば、R1が生体内で水素に転換される)。生体内で分離可能な他の基も公知であり(例えばR.B.Silverman(1992)"The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action",Academic Pres,San Diegoを参照のこと)、本発明で用いる化合物に利用することができる。
【0044】
製薬上の組成
ここで用いられる「薬学上容認可能な」という表現は、健全な医学的判断という見地から、過度の毒性、過敏症状、アレルギー反応、又はその他の問題あるいは合併症を引き起こすことなく、ヒト及び動物の組織に接触させることのできる適した化合物、材料組成物及び/又は剤形のものであって、妥当な利益/危険性の比に見合ったものを言う。
ここで言う「薬学上容認可能な基剤」とは、薬学上容認可能な材料、組成物又はビヒクル、例えば液体又は固形の充填剤、希釈液、付形剤、溶剤又は封入材料であって、一組織、又は身体の一部分から別の組織又は身体の一部分へと問題のデプレニル化合物を運ぶ又は移動させることに携わるものを意味する。各基剤は、調合物中の他の成分と適合性があり、かつ被験者に対して害がないという意味で「容認可能」でなければならない。薬学上容認可能な基剤として用いることのできる材料の例には、(1)ラクトース、グルコース及びシヨ糖等の糖類、(2)コーンスターチ及びイモの澱粉等の澱粉類、(3)セルロース及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及びアセチルセルロース等、(4)粉状トラガカント、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)ココアバターや座薬ろう等の付形剤、(9)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及び大豆油等の油類、(10)プロピレングリコール等のグリコール類、(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール等のポリオール、(12)オレイン酸エチル及びラウレートエチル等のエステル、(13)寒天、(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、(15)アルギン酸、(16)無発熱因子水、(17)等張食塩水、(18)リンゲル液、(19)エチルアルコール、(20)リン酸緩衝液、及び、(21)薬剤調合に用いられるその他の非毒性適合物質が含まれる。
【0045】
デプレニルの安定度はデプレニルを調合する媒質のペーハーによって左右され得る。例えば、デプレニルは、約7のペーハーより約3乃至5の範囲のペーハーにおいて、より安定している。従ってデプレニル化合物を薬剤調合する場合、そのデプレニル化合物を適したペーハーに維持しておくことが好ましい。好適な実施例では、本発明の薬剤調合は約3乃至5の範囲のペーハー、より好ましくは約3から約4の範囲のペーハーを有するものである。さらに、エチルアルコールはデプレニルの安定度を高めるには好適な溶剤である。このように、いくつかの実施例では、アルコール性又は水性アルコールの媒質が本発明の薬剤調合には好ましい。
【0046】
上述のように、本デプレニル化合物のあるいくつかの実施例には、アミノ又はアルキルアミノのような基本的な官能基を含めてもよく、そのため、薬学上容認可能な酸を用いて薬学上容認可能な塩を形成することができる。この意味で「薬学上容認可能な塩」とは、本発明の化合物のうち、比較的に非毒性の、無機及び有機酸添加塩を言う。このような塩は、本発明の化合物の最終的な分離及び精製の間に原位置で調製したり、あるいは、本発明の精製化合物を遊離した基質の形のまま適した有機又は無機酸と別個に反応させて、その結果形成された塩を分離することで調製することができる。代表的な塩には、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、アセテート、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシレート、グルコヘプトネート、ラクトビオネート及びラウリルスルホネート、等々が含まれる(例えば、Berge et al.(1977)“PharmaceuticalSalts",J.Pharm.Sci.66:1-19を参照のこと)。
【0047】
その他の場合として、本発明のデプレニル化合物には一つ又はそれ以上の酸性の官能基を含めてもよく、そのため、薬学上容認可能な塩を薬学上容認可能な塩基を用いて形成することができる。この場合の「薬学上容認可能な塩」とは、本発明の化合物のうち比較的に非毒性の、無機又は有機塩基添加塩を言う。このような塩も、同様に、化合物の最終的な分離及び精製の間に原位置で調製したり、あるいは、精製化合物を遊離酸の形のまま、例えば薬学上容認可能な金属カチオンの水酸化物、炭酸塩又は重炭酸塩のような適した塩基や、アンモニア、あるいは薬学上容認可能な有機質の第一、第二、又は第三アミンと個別に反応させることで調製することができる。代表的なアルカリ又はアルカリ土類塩には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びアルミニウム塩、等々がある。塩基添加塩の調合に用いることのできる、代表的な有機アミンには、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、等々がある(例えば、バージ他著による上述の文献を参照のこと)。
湿潤剤、乳化剤、潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、並びに着色剤、放出剤、被覆剤、スイートニング、調味料及び芳香剤、保存薬及び抗酸化剤もまた、組成中に存在していてもよい。
【0048】
薬学上容認可能な抗酸化剤の例には、(1)水溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸塩、二硫酸塩ナトリウム、異性重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、等々、(2)油溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビルパルミチン酸塩、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファートコフエロール、等々、及び、(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸、等々、が含まれる。
本発明の調合物には、口、鼻腔、局所(頬及び舌下を含む)、直胴、膣及び/又は腸管外投与に適したものが含まれる。調合物は便利なように用量単位で提供してもよく、また、調剤技術において公知のいかなる方法を用いて調剤してもよい。一回分の用量を調剤するときに基剤材料と組み合わせることのできる有効成分の量は、治療を受ける主体、投与のその特定の形態に応じて異なるであろう。一回分の用量を調剤するときに基剤材料と組み合わせることのできる有効成分の量は一般的には、治療効果を生じるデプレニル化合物量となるであろう。多くの場合、100%のうち、この量は約0.01%から約99%が有効成分、好ましくは約0.1%から約70%、最も好ましくは約1%から約30%の範囲となるであろう。
【0049】
これらの調合物又は組成物を調剤する方法は、本発明による少なくとも一つのデプレニル化合物を、基剤、そして選択に応じて一つ又はそれ以上の付属成分とに会合させるステップを含む。一般的には、この調合物を、本発明のデプレニル化合物を、液体基剤、又は細密に分割された固形基剤、あるいはその両方に、均一かつ密接に会合させ、さらに必要な場合には製品を付形することで調剤する。
経口投与に適した本発明の調合物は、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ(調味基礎材料、多くの場合ショ糖、アラビアゴム又はトラガカントを用いて)、粉末剤、顆粒剤、又は、水性又は非水性の溶液又は懸濁液の形を採っても、あるいは、水中油形又は油中水形の乳剤として、又はエリキシル剤又はシロップ剤として、あるいは香錠(例えばゼラチン及びグリセリンなどの不活性の基質や、ショ糖及びアラビアゴムなど)及び/又は含そう剤、等々の形を採用してもよく、このとき各々は本発明による化合物を所定量、有効成分として含有するものである。本発明のデプレニル化合物はまた、巨丸剤、舐剤又はペースト剤として投与してもよい。
【0050】
経口投与用の本発明品の固形剤形(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、粉末剤、顆粒剤、等々)においては、有効成分を一種又はそれ以上の薬学上容認可能な基剤と混合するが、この基剤は例えば、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、及び/又は(1)充填剤又は増量剤、例えば澱粉、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及び/又はケイ酸など、(2)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルキン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/又はアラビアゴムなど、(3)湿潤剤、例えばグリセロールなど、(4)分解剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、イモ又はタピオカ澱粉、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウムなど、(5)消散遅延剤、例えばパラフィン、(6)吸収加速剤、例えば第四アンモニウム化合物、(7)浸潤剤、例えばセチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロール、(8)吸収剤、例えばカオリン及びベントナイトクレイ、(9)潤滑剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物、そして(10)着色剤、のうちのいずれかである。カプセル、錠剤及び丸剤の場合、薬剤の組成にはさらに緩衝剤を含めてもよい。同様の種類の固形組成物はまた、高分子重量ポリエチレングリコール等々と同様、ラクトース又は乳糖等の付形剤を用いることで軟質又は硬質の充填ゼラチンカプセルの充填剤として利用してもよい。
【0051】
錠剤は圧縮法又は成形法により製造することができ、選択に応じて一種又はそれ以上の付属成分を加えてもよい。圧縮された錠剤は、結合剤(例えばゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性の希釈剤、保存料、分解剤(例えばデンプングリコレートナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は拡散剤を用いて調製してもよい。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿潤させた粉末デプレニル化合物の混合物を、適した機械を用いて成形することで製造してもよい。
糖衣錠、カプセル、丸剤及び顆粒剤等、本発明の薬剤組成物の錠剤及びその他の固形剤形は、選択に応じて、筋目を付けたり、あるいは、例えば腸溶剤のコーティングや、薬剤調製技術で公知のその他のコーティング等のコーティング及び殻を施してもよい。これらはまた、所望の放出形等のポリマーマトリックス、リポソーム、及び/又は微小球が得られるよう、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースを様々な割合で用いることで、有効成分が放出するのを遅延又は調整しながら調剤してもよい。これらは、例えばバクテリア保持フィルタを通じてフィルタ濾過したり、無菌水で溶解可能な滅菌固形組成物の形状をした滅菌剤を加えたり、あるいはその他の無菌の注入可能な媒体を使用直前に加えたりして滅菌してもよい。これらの組成物には、選択に応じてさらに乳白剤を含めてもよく、また、その有効成分が、胃腸管の特定部位でのみ、あるいは特定部位で特に放出するような組成物としたり、さらに選択に応じて、遅れて放出するような組成物としてもよい。使用可能な埋封組成物の例としては高分子物質及びろうが含まれる。適切な場合には、有効成分に、上述の付形剤を一種又はそれ以上用いてミクロ被包形としてもよい。
【0052】
本発明のデプレニル化合物の経口投与用の液体剤形には、薬学上容認可能なエマルジョン、ミクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシル剤が含まれる。有効成分に加えて、液体剤形では当分野で通常用いられる不活性の希釈剤を含めてもよく、この希釈剤には、例えば水等の溶媒や、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油脂(特に綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ひまし油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにこれらの混合物等の可溶化剤及び乳化剤がある。
不活性の希釈剤の他にも、経口用の本組成物には、例えば湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、スイートニング、調味料、着色剤、芳香剤及び保存剤等の補助剤を含めてもよい。
【0053】
懸濁液は、有効なデプレニル化合物に加えて、例えばエトキシル基イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンのエステル、微晶質セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天及びトラガカント、並びにこれらの混合物等の懸濁剤を含んでいてもよい。
直腸又は膣投与用の本発明の薬剤調合物を座薬として提供してもよく、この座薬は一種又はそれ以上の本発明のデプレニル化合物を、一種又はそれ以上の適した非炎症性の付形剤又は基剤と混合させることで調製することができるが、この付形剤又は基剤は、例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、座薬用ろう又はサリチレートを含み、また、室温では固形であるが、体温では液体となるため直腸又は膣腔で溶けてデプレニル化合物を放出するものであろう。
経膣投与に適した本発明の調合物はまた、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡又は噴霧状の調合物であって、当分野で適切であると公知の基剤を含んだ調合物を含む。
本発明のデプレニル化合物の局所用又は経皮用投与に向けた剤形は、粉末、噴霧、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤を含む。有効化合物は滅菌状態で薬学上容認可能な基剤、そして必要であればいかなる保存料、緩衝剤、又は推進剤と混合してもよい。
軟膏、ペースト、クリーム、及びゲルは、本発明のデプレニル化合物に加えて、例えば動物性及び植物性脂肪、油脂、ろう、パラフィン、でんぷん、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、タルク及び酸化亜鉛、又はこれらの混合物などの付形剤を含んでいてもよい。
【0054】
粉末及び噴霧は、本発明の化合物に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム及びポリアミドの粉末、又はこれらの物質の混合物等の付形剤を含んでいてもよい。さらに噴霧は、例えばクロロフルオロ炭化水素のような通常の推進剤や、例えばブタン及びプロパンのような揮発性の未置換炭化水素を含んでいてもよい。
経皮用パッチは、本発明の化合物の身体への供与量を調整できるという点で有利である。このような剤形は、本デプレニル化合物を適した媒質中で溶解又は拡散させることで製造することができる。吸収促進剤をさらに用いれば、デプレニル化合物の皮膚の通過量を増加させることができる。このような通過率は、率調整膜を提供するか、あるいはデプレニル化合物をポリマーマトリックス状又はゲルとして拡散させることで調整可能である。本発明においては、さらに、パッチを含む器具を用いることでイオン導入又はその他の電気的方法によりデプレニル化合物を経皮的に供与できるが、このような器具は例えば、米国特許第4,708,716号及び第5,372,579号に述べられている。
【0055】
眼用調合物、眼用軟膏、粉末、溶液、点眼薬、噴霧、等々もまた、本発明の範囲内にあるものとして考えられている。
腸管外投与に適した本発明の薬剤組成物は、一種又はそれ以上の本発明のデプレニル化合物を、一種又はそれ以上の薬学上容認可能な無菌等張性の水性又は非水性溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョンや、無菌粉末と組み合わせたものを含むが、この無菌粉末は使用直前に無菌の注入可能な溶液又は分散液に再構成してもよく、さらにこの無菌粉末に抗酸化剤、緩衝剤や静菌剤を含めても、あるいはこの調合物を被験者の血液と等張性にする溶質又は懸濁剤あるいは増粘剤を含めてもよい。
【0056】
本発明の薬剤組成物に用いることのできる、適した水性及び非水性の基剤の例には、水、エタノール、ポリオル(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、等々)、及びこれらの適した混合物、オリーブ油などの植物性油脂、並びにオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルが含まれる。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材を用いたり、分散液の場合には粒子の大きさを所定値に維持したり、サーファクタントを用いることで維持することができる。
これらの組成物にはまた、保存料、湿潤剤、乳化剤及び分散剤などの補助剤を含めてもよい。微生物の活動を防止するには、様々な抗菌物質及び抗カビ剤、例えばパラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノール、等々を含めるとより確実となろう。さらに、例えば糖類、塩化ナトリウム、等々の等張作用因子を組成物に含めることが望ましいであろう。さらに、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる物質を含めることで、注入薬物の吸収時間を長くすることが可能であろう。
場合によっては、薬品の作用を長引かせるために、皮下又は筋肉注射から薬品の吸収を遅らせることが好ましい。これは、水溶性の乏しい、結晶質又は非晶質の物質の液体懸濁液を用いることで達成することができる。これにより、薬品の吸収率はその溶解率に左右されることとなるが、この溶解率は結晶の大きさ及び結晶の形状で左右されるものとしてよい。あるいは、腸管外投与した薬品の吸収を遅らせるには、薬品を油性のビヒクル中で溶解又は懸濁させても達成できる。
【0057】
注入可能な蓄積成形品は、本デプレニル化合物のマイクロカプセルのマトリックスを、ポリラクチドーポリグリコリドのような生分解性ポリマーに形成することで製造される。また、薬品対ポリマーの比に応じて、そして使用したその特定のポリマーの性質に応じて、薬品の放出率を調整することができる。その他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)がある。蓄積注入調合物はまた、薬品を、生体組織に適合性のあるリポソーム又はミクロエマルジョン内に閉じ込めることで調製される。
【0058】
本発明の化合物をヒト及び動物に対して薬剤として投与する場合には、単体で与えたり、あるいは、例えば0.01%から99.5%(より好ましくは0.1から90%)の有効成分を薬学上容認可能な基剤と組み合わせて含有した薬剤組成物として与えることができる。
本発明の調剤は、経口、腸管外、局所的、又は直腸を通じて与えてよい。また各投与経路に適した形態で与えてもよいことはもちろんである。例えば錠剤又はカプセルの形態でも、注射、吸入、目薬、軟膏、座薬等々の形態で投与される。
注射、輸注又は吸入による投与や、目薬又は軟膏による局所的投与、座薬による直腸投与である。注射(皮下又は腹腔内)あるいは局所的な眼への投与が好ましい。
ここで用いる「腸管外投与」及び「脳管外で投与する」という表現は、腸内及び局所的投与以外の、多くの場合注射による投与方法を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、表皮下、関節、被膜下、クモ膜下、脊髄及び胸骨内注射及び輸注を意味するが、これらに限定されるものではない。
ここで用いる「全身投与」、「全身的に投与する」、「末梢投与」及び「末梢に投与する」という表現は、化合物、薬品又はその他の物質を、被験者の全身に進入するように静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、表皮下、関節、被膜下、クモ膜下、脊髄及び胸骨内注射及び輸注を意味するが、これらに限定されるものではない。
ここで用いる「全身投与」、「全身的に投与する」、「末梢投与」及び「末梢に投与する」という表現は、化合物、薬品又はその他の物質を、中枢神経に直接投与する以外の方法により、被験者の全身に進入するように投与することを意味し、代謝及びその他の同様なプロセス、例えば皮下投与に準ずるものである。
【0059】
これらの化合物は、治療目的のためにヒト及びその他の動物に投与してもよいが、それには、例えば噴霧による口腔、鼻腔投与、直脳、経膣、腸管外、槽内投与、及び、粉末、軟膏、点眼薬等による頬及び舌下を含む局所的投与を含むいかなる投与経路を経てもよい。
選択した投与経路に関係なく、適した水化物形態で用いてもよい本発明の化台物、及び/又は、本発明による薬剤組成物は、当業者に公知の通常の方法を用いて薬学上容認可能な剤形に調製されるものである。
【0060】
本発明による薬剤組成物中の有効成分の実際の適用レベルは、被験者に害を与えることなく、特定の被験者、組成、及び投与の形態から見て所望の治療上の反応をもたらすのに効果的な量の有効成分を得るよう、変更してもよい。
選択する適用レベルは様々な因子によって左右されるが、この因子には、使用した本発明による特定のデプレニル化合物の活性、又はエステルの活性、塩あるいはそのアミドの活性、投与の経路、投与時間、使用中の特定の化合物の排出率、治療期間、その特定のデプレニル化合物と組み合わせて用いた他の薬品、化合物及び/又は物質、被験者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態及び以前の治療歴、等々、医療分野で公知の因子が含まれる。
当分野における通常の技術を有する医師又は獣医であれば、必要な薬剤組成物の効果的な量を容易に決定し、処方することができる。例えば、このような医師又は獣医は、薬剤組成中に使用される本発明による化合物の用量を、所望の効果を上げるのに必要な量よりも抑えて開始し、この用量を、所望の効果が得られるまで次第に増やすことも可能であろう。
【0061】
多くの場合、本発明のデプレニル化合物の適した一日当りの用量は、治療効果を上げるのに最も低い用量の化合物量であろう。このような効果的な用量は、通常、上述の因子により異なるであろう。一般的には、一被験者に対する本発明の化合物の腹腔内及び皮下用量は、提示の神経細胞救助作用に向けて用いる場合、一日当り、体重1キログラムに対して約0.0001ミリグラム乃至約10ミリグラム、より好ましくは一日当り約0.001ミリグラム乃至約1ミリグラム/1キログラムの範囲内であろう。
所望の場合、デプレニル化合物の効果的な一日当りの用量を、2、3、4、5、6又はそれ以上に小分けした単位剤形として、適した間隔を置きながら終日かけて分けて投与することが好ましいこともあろう。
本発明の化合物を単体で投与することも可能であるが、薬剤調合物(組成物)として本化合物を投与することが好ましい。二種又はそれ以上のデプレニル化合物を単一の治療用組成物として投与可能であることは理解されよう。
【0062】
治療用の組成物は当分野で公知の医療用器具を用いて投与することができる。
例えば、ある好適な実施例では、本発明の治療用組成物を、例えば米国特許第5,399,163号、第5,383,851号、第5,312,335号、第5,064,413号、第4,941,880号、第4,790,824号又は第4,596,556号に開示された器具などのニードルレス皮下注射用器具を用いて投与することができる。本発明において使用可能な公知のインプラント及びモジュールの例の中には、速度を調節しながら小分け投薬するためのインプラントの可能なマイクロ輸注ポンプを開示した米国特許第4,487,603号、皮膚を通じて薬剤を投与するための治療用器具を開示した米国特許第4,486,194号、精確な輸注速度で投薬を行うための医療用輸注ポンプを開示した米国特許第4,447,233号、継続的な投薬を行うためのインプラントの可能な可変フロー輸注装置を開示した米国特許第4,447,224号、複数の分割チャンバを有する浸透的投薬システムを開示した米国特許第4,439,196号、そして浸透的投薬システムを開示した米国特許第4,475,196号がある。これらの特許を参考文献としてここに編入する。このようなインプラント、投薬システム、及びモジュールは他にも数多く、当業者には公知である。
【0063】
ある特定のデプレニル化合物は、被験者に対する投与後、少なくとも部分的に生体内で代謝されると考えられる。例えば、(−)−デプレニルは経口投与後、肝臓で代謝されて(−)−デスメチルデプレニル、並びに(−)−メタンフェタミン及び(−)−アンフェタミンに変化する。(−)−デプレニルの肝臓代謝は、プロアジフェン等のP450阻害薬の投与で阻害することができる。動物及び細胞培養研究では、プロアジフェンの投与により、細胞死を防ぐ(−)−デプレニルの能力が落ちることになるが、(−)−デスメチルデプレニルの細胞救護作用を遮断することはない。このように、少なくとも(−)−デプレニルの少なくとも一つの代謝産物、多くの場合(−)−デスメチルデプレニルのことであるが、これが有効な化合物であると考えられる。現在では、(−)−メタンフエタミン及び(−)−アンフェタミンが、デプレニル化合物の細胞救護作用の阻害物質であると考えられている。また、モノアミンオキシダーゼ(MAO−A及びMAO−Bの両方を含むMAO)阻害作用が神経細胞救助作用に必要ではないとも考えられる。MAO阻害作用がないことは、実際には、副作用の小さい薬品の提供につながるであろう。このように、いくつかの実施例では、デプレニル化合物の持つMAO阻害作用が低いか、あるいは、(例えば適したプロドラッグ又は調合物を用いて)MAO阻害作用を最小限にするよう投与することが好ましい。
【0064】
上述の事項を鑑み、(−)−メタンフェタミン及び(−)−アンフェタミン等の阻害因子化合物への代謝を最小限に抑えながらも、(−)−デスメチルデプレニル等の有効化合物への代謝は可能であるという経路でデプレニル化合物を投与することが好ましい。有効化合物への代謝を、例えば目的の器官又は領域、例えば脳など、所望の作用域で行わせることができる。このように、有効化合物へと代謝されるプロドラッグは、本発明による方法では有用である。
特定のデプレニル化合物は、「ファーストパス効果」を減じる又は防ぐよう投与するとより大きな治療上の効験がある(例えばより少量の用量で効果が出るなど)ことが判明している。従って、腹腔内又は特に皮下注射が好適な投与経路ということになる。好適な実施例ではデプレニル化合物は用量を分割して投与されている。例えばデプレニル化合物を頻回(例えば律動的に)注射したり、調整を加えながらの輸注として投与することができ、またこれらは上述のように一定でも計画的に変更してもよい。デプレニル化合物を経口投与する好適な実施例では、経口投与後の肝臓代謝量を減らすようデプレニル化合物を調製することができ、それにより治療効果を向上させている。
いくつかの実施例では、生体内で確実に適宜分散されるよう本発明のデプレニル化合物を調合することができる。例えば血液脳関門(BBB)は吸水性の高い化合物を数多く除外してしまう。本発明の治療用化合物がこの血液脳関門を確実に通過する(それが好ましい場合)よう、これらを例えばリポソームに調合することができる。リポソーム製造方法としては、例えば米国特許第4,522,811号、第5,374,548号、及び第5,399,331号を参照されたい。このリポソームに、特定の細胞又は器官に選択的に運ばれる一種又はそれ以上の成分(目標成分)を含めることで、目標の薬品配給を行ってもよい(例えばブイ.ブイ.ラネード著(1989)臨床ジャーナル、薬理学、29:685を参照のこと)。代表的な目標成分には、葉酸塩又はビオチン(例えばロウ他による米国特許第5,416,016号を参照のこと)、マンノシド(ウメザワ他著、(1988)生化学及び生物物理学研究諭文、153:1038)、抗体(ピー.ジー.ブロウマン他著、(1995)FEBS書、357:140:エム.オワイス他著、(1995)抗菌物質化学療法、39:180)、サーファクタントプロテインAレセプタ(ブリスコウ他著、(1995)米国生理学ジャーナル、1233:134)、gp120(シュライア他著、(1994)生物化学ジャーナル、269:9090)があるが、さらにケー.カイナネン及びエム.エル.ローカネン著、(1994)FEBS書、346:123、ジェー.ジェー.キリオン;アイ.ジェー.フィドラー著、(1994)免疫法、4:273も参照されたい。ある好適な実施例では、本発明の治療用化合物はリポソームに調合され、より好適な実施例ではそのリポソームは目標成分を含んでいる。
【0065】
以下の発明はさらに以下の例で説明されるが、これらの例からさらに限定的に捉えられてはならない。本出願で引用されているすべての参考文献、係属中の特許出願及び公開特許出願の内容は参考としてここに編入されたものである。例で用いられた神経細胞救助に関する動物モデルは容認されており、またこれらのモデルにおける効験の実証はヒトの場合の効験を予測するものであることは理解されたい。
【0066】
以下の非限定的例は本発明を描写するものである。
例1
この例は、NPTP投与後に緻密黒質(原語:substantia nigra compacta)(SNc)からチロシン水酸化酵素免疫陽性(TH+)ニューロンが消失し、それらがデプレニルにより救助されたことを実証するものである。
研究の一番目の部分として、MPTPで誘発されるニューロンの死の時間経過を以下のように作り出した。MPTP(30mg/kg/d)を生後8週の同質遺伝子型のC57BLマウス(米国、ジャクソン・ラボラトリーズのナショナル・インスティテューツ・オブ・エージング・コロニーから入手)(C57BL/NNia));(n=6/期間)に連続5日間腹腔内投与した(合計用量150mg/kg)。マウスは、過量の麻酔剤(ペントバルビタール)で死なせ、これらに最後のMPTP注射をしてから、5日、10日、15日、20日、37日及び60日目に、等張食塩水(5%のレオマクロデックス及び0.008%のキシロケーンを含む)及び4%のパラホルムアルデヒドで潅流した。解剖した脳を0.1mのリン酸緩衝液中4%のパラホルムアルデヒドに一晩浸して20%のショ糖液中に置いた。
この研究の二番目の部分として、TH+SNcニューロンがMPTPで誘発される消失からデプレニルにより救助されることを以下のように実証した。MPTP(30mg/kg/d)を生後8週のC57BLマウス(n=6−8/処置群)に連続5日間腹腔内投与した(−5日目から0日目まで;合計用量150mg/kg)。MPTP投与中止から3日後、マウスに食塩水、デプレニル(カナダ、デプレニル社製)(0.01、0.25又は10mg/kg腹腔内)又はクロルジリン(米国、シグマ・ケミカル・カンパニー社製)(2mg/kg)を1週間当り3回施した。デプレニルの投与は3日目まで控えたが、それはすべてのマウスが相当量のMPP+に暴露し、かつすべてのMPTP及びその代謝産物が中枢神経系から除かれてしまうことを確実にするためである。デプレニルの用量の選択に当たっては、デプレニルがラットの寿命を長くし、MAO−Bの活性を約75%阻害するがMAO−B活性に影響を与えない(0.25mg/kg)か、あるいはMAO−B及びMAO−Aの両方を阻害することができる(10mg/kg)ことを実証した研究で用いられた用量を考慮した(Knoll,J.Mt.Sinai J.Med.55,67-74(1988)and Knoll,J.Mech.AgeingDev.46,237-262(1988),Demarest,R.T.and Azzarg A.J.In:Monoamine Oxidase:Structure,function and AlteredFunction(T.PSinger,R.W.Von Korff,D.L.Murphy(Eds)),Academic Press,New York(1979)p.423-430)。0.01mg/kgデプレニル用量も選択された。
この用量では10−7M未満が脳組織に達するであろう。さらなる対照群として、マウスをデプレニルのみで処置し、MPTPは投与しなかった。マウスは過量の麻酔剤(ペントバルビタール)で殺し、最後のMPTP注射から20日目にパラホルムアルデヒドで潅流した。
【0067】
研究の両方の部分において、脳は正中線に沿って縦方向に二等分し、二分の一の脳を、表面の標識構造がロンギテューディナル・レジスター(原語:longitudinalregister)にくるよう、ティシューテックを用いて互いに接着した。接着した脳を−70℃のメチルブタン中で凍結させた後、10μmの連続断片を各SNcの全縦方向長に沿って切り取った。
断片は、一つ置きに、ここに文献として編入することとするSenluk,N.A.et al.Brain Res.527,7-20(1990)and Tatton,W.G.etal.Brain Res.527,21-32(1990)に概ね述べられているように、一次抗体として多クローンTH抗体、及び、視覚化のための色素原としてジアミノベンジジン(DAB)を使った標準的アビジン−ビオチン反応(ABCキット、ベクター・ラブズ社製)を用いてTH免疫細胞化学に向けて処理し、以下のように改質した。スライドに載せた断片を0.2%のトリトン/0.1Mのリン酸緩衝液中、標識を付けていない一次TH抗血清(ユージーン・テック社製)と共に4℃で一晩インキュベートした。組織をリン酸緩衝液で洗浄した後、ビオチニレーテッド(原語:biotinylated)ヒツジ抗ウサギIgG二次抗体と共に1時間インキュベートし、アビジン−HRPでインキュベートした。0.01%の過酸化水素中0.05%のDAB溶液を用いて免疫反応性体細胞を視覚化した。相対的光学密度測定には、検定手続きにおけるスライド間のばらつきの作用を減らすために対照群及びMPTP処置した脳から採った断片を同じスライドに載せ、免疫細胞化学のために処理した。
TH+SNcニューロンの数は、各全核を通じて番号を付された一つ置きの連続断片の数により得た。断片は、観察者の偏見を避けるために複数の盲検観察者により再度計数をしてもらった。その値は断片の厚さ分を補正した(Konigsmark,B.W.In:Nauta,W.H.,Ebesson S,O.E.ed.,Contemporary Research Methods inNeuroanatomy,New York,Springer Verlag,p.315-380,1970)。中間値プラスマイナス中数の標準偏差を、食塩水を注射された対照群マウスについて計算した。次のデータはこうしてこの中間数のパーセンテージとして図2に示すように表された。
【0068】
間にある断片はニッスル染色して核の輪郭を規定した(ここに参考文献として編入することとするSeniuk et al.Brain Res.527:7,1990:Tatton et al.Brain Res.527:21.1990を参照されたい)。接着された二分の一の脳について対になる二分の一断片は、実験群及び対照群中のニューロン数の差が、貫通路が異なっていたり、抗体又は試薬への暴露が異なったことが原因で生まれないようにするためである。
各動物のそれぞれの核の長さ方向に渡る20の無作為に選択された二分の一断片上で、TH+体細胞を含む領域を顕微鏡につけたカメラルシダを用いてたどり、その輪郭を、標識構造の局部的組織的特徴を利用してすぐ隣のニッスル断片に転位させた(それぞれの核は通常、約90対の断片を含んでいた)。核小体を輪郭内に含むニッスル体細胞の数を三つの大きさのグループに分けて計数した(小型−140から280μm2、中型−300から540μm2、及び大型−540から840μm2)が、グリアの輪郭(40から100μm2)は、ラットのSNcに用いた基準と同様な基準を用いて除外した(Poirier et al.1983 Brain Res.Bull.11:371)。TH+体細胞の数を、20個のすぐ隣り合う断片の対応する区域にあるニッスル体細胞の数に対して表にした。ニッスル数/TH+数を同じ表にすることで、TH+SNc対細胞の数の減少が、ニューロンの破壊によるものか、それとも生き延びたニューロンによるTH免疫反応性の消失によるものかを判定する手段が提供される(この手続きの根拠について詳しくは上述のSeniuk et al.1990を参照されたい)。
【0069】
図3は、MPTP後0日目から20日目までにかけてTH+体細胞がSNcから消失しており、その後は減少していないことを示すものである。TH+体細胞のうち20から30%が、注射計画の終了後5日間で消失しており、TH+ニューロンの消失はさらにその後10日から15日間に渡って続くがその後は消失していない。このようなTH+ニューロンの継続的な消失は、MPTPの存在又はその毒性代謝産物MPP+の存在によっても説明できないであろうが、なぜなら、これは体内からは迅速に排出されるためである(Johannessen,J.N.et al.,LifeScie,36,219.224(1985);Markey,S.P et al.,Nature,311,465-467(1984);andLau et al.,Life Sci,431459-1464(1988))。いくつかのニューロンは、MPTPでも見られるように、軸索の損傷後に修復を開始する能力を持ち合わせており、その修復は、成長しつつあるニューロンがその軸索又は神経突起を伸ばしていくときに利用されるのと同様なDNAの転写「プログラム」を再活性化させることで行われる(Barron,K.V.in Nerve,Organ and Tissue Regeneration:ResearchPerspectives(ed.Seil,J.),3-38(Academic Press,New York,1986)を参照されたい)TH+SNcニューロンの場合、これらのニューロンがMPTP誘発性の損傷後に効果的な修復及び回復を行えるか、あるいは死んでしまうかを決めるのに重要な20日間の期間があるように思われる。
【0070】
食塩水のみを処置したマウスのすぐ隣り合う断片の対応する区域で調べたTH+SNc体細胞及びニッスル染色したSNc体細胞の数を同時に表した表を見ると(図3A1乃至A3では数値を三匹の動物についてプールした)、TH+体細胞の数はニッスル体細胞の数に線形に関連しており、中型SNc体細胞(図3A2)及び大型SNc体細胞(図3A3)の等値の対角線の周りに近いところに散らばっている。図3の各表では、二分の一断片毎の体細胞のニッスル計数及びTH+計数の中間+/−1.0標準偏差は、それぞれ各Y軸の上端と各X軸の上端とに見られる。中型及び大型の体細胞については、ニッスル体細胞の中間数はTH+体細胞の対応する中間数を5から10%越えており、これは、TH+でない黒質線条体ニューロンのパーセンテージに対応するように思われる(Van der Kooyet al.Neuroscience28:189,1981)。
食塩水処置した動物の小型SNc体細胞の同時に表した表から、小型ニューロンのごく一部分のみがTH免疫反応性であり、従ってドーパミン作動性であることが分かる(図3A1)。これらの結果は、大型及び中型の体細胞はドーパミン作動性の黒質線条体ニューロンのものであり、小型の体細胞は多くの場合、局部的に分枝した介在ニューロンのものであることを提示した、げっ歯類における以前の発見と一致している(上述のVan der Kooy et al.,1981;Poirier et al.BrainRes.Bull.11:371,1983)。MPTPのみを処置した動物又はMPTPで処置した後に食塩水で処置した動物(図3B1、3B2及び3B3ではMPTP−食塩水処置した三匹の動物の数値をプールした)のニッスル体細胞数/TH+体細胞数を同時に表した表から、MPTP処置終了後20日間でTH+体細胞が消失したことは、生き延びたニューロンにおいてTH免疫反応性が消失している事ではなく、SNcニューロンの死を示すものであることが裏付けられた。図3B2及び3B3は、中型及び大型体細胞において、それぞれニッスル及びTH+体細胞の数が、断片当り21.6+/−15.5及び20.6+/−15.5から12.4+/−8.0及び11.4+/−7.2へと減少した(数値は中間+/−1.0標準偏差)にも関わらず、これらの計数の間にほとんど等しい数値関係が維持されていることを示している。もしSNcニューロンがTH免疫反応性を失っているにもかかわらず死んでいかないのであれば、この表の散らばりは等値対角線の上方の位置にずれていたであろうと予測される(Seniuk et al.Brain Res.527:7,1990)。さらに、図3B1から、小型のニッスル染色体細胞数は、小型のSNc体細胞のTH+成分の減少(断片当り4.1+/−2.8から2.3+/−1.6へ)に伴って僅かに減って(断片当り26.2+/−18.3から22.4+/−12.5へ)いることが分かる。もし中型及び大型のSNc体細胞の消失のうちいくらかは萎縮が原因であり、その結果これらの横断面領域が、MPTP処置に反応する中型及び大型領域にもはや該当しないということであれば、小型のニッスル染色する体細胞の数の増加が予測されるであろう。
【0071】
MPTP処置終了後0日、3日、5日10日15日及び20日目と食塩水による対照群のニッスル/TH+を同時に表したものを図4及び5に示す。
図4は、食塩水による対照群動物のげっ歯類における、SNc体細胞の三つの主要な大きさグループ(小型横断面体細胞面積、140−280μm2、中型横断面体細胞面積、300−540μm2、及び大型横断面体細胞面積、540−840μm2)のニッスル/TH表である。データはMPTPへの暴露終了後0日、3日、5日、10日、15日及び20日の時点で殺した食塩水対照群についてプールした。前述したように、小型SNc体細胞のニッスル/TH+を共に示した表は概ね等値対角線の上方に来ている(ニッスル計数の断片当りの中間値は31.9+/−19.2であり、TH+計数の中間値は3.5+/−2.6)が、これは、小型の体細胞のほとんどは非ドーパミン作動性ニューロンのものだからである。対照的に、概ねドーパミン作動性であることが知られている中型及び大型の体細胞は、等値対角線に近いところに集まっている(中型体細胞ではニッスル中間値/断片は15.8+/−12.8、TH+中間値/断片は14.7+/−12.3であり、大型体細胞ではニッスル中間値/断片は3.2+/−3.5、TH+中間値/断片は2.9+/−2.4)。従って食塩水対照群では、中型及び大型のニッスル染色可能な体細胞の大部分は、TH免疫反応性でもある。
【0072】
図5からは、0日目の時点(MPTP暴露の最終日)では、中型体細胞(中型体細胞はdSNcニューロンの90%を越える割合を占める)の表の大部分が当地対角線の上方に来ており、食塩水処置した動物で設定した点の領域の上方にあることが分かる。このことは、中型dSNcニューロンの大きな部分が、検出可能なTH免疫反応性を失ってはいるが、0日目の時点では死んではいないことを示すものである(プールされた食塩水対照群の中間ニッスル数/断片15.8+/−12.8をMPTPに暴露した0日目の14.8+/−9.7に比較されたい。中型体細胞の14.8/15.8が0日目の時点ではまだ存在することが分かる)。点の位置は5日目から20日目にかけて次第に食塩水対照群で設定された帯域内に戻るが、一方、等値対角線に沿った点の広がりは表の始点に向かって縮んでいる。ニッスル/TH+を共に示した表中の点位置が次第に変化していることは、ニューロンが20日という期間をかけて次第に死んでいくため、20日目までには、生存する中型ニューロンのすべてが検出可能なTH免疫反応性を有することとなることを示している。
【0073】
図6は、0日目から60日目の間の食塩水対照群の中間値に対する、ニッスル染色した体細胞のパーセンテージと、TH免疫反応性体細胞のパーセンテージとを重ね合わせて示した表である。TH免疫反応性のパーセンテージと、ニッスル染色したパーセンテージとの差は、毒素のためにTH合成ができなくなるまで損傷を受けながらも死には至っていないdSNcニューロンのパーセンテージを示すものである。従って、デプレニル処置を開始した3日目の時点では、dSNc体細胞の平均37%が検出可能なTH免疫反応性を失ってはいるが、死んだのは僅かに4%であった。この二つの表は、TH免疫反応性体細胞のパーセンテージがニッスル染色可能なSNc体細胞の数と変わらなくなっている15日から20日の間で収束している。二つの表の差から、MPTPへの暴露後の各時点で、重度の損傷を受けながらも救助可能と考えられるdSNcニューロンのパーセンテージを推測することができる。
図6の重ね合わせた表によれば、15日から20日目までに死んだdSNcニューロンの84%が3日目の時点であれば救助可能であったと考えられる。従って、この84%のうち66%をデプレニルが救助、実際にはデプレニル処置が、治療を開始する前に死んでいないニューロンの79%を救助したと判明した。
【0074】
図7は、それぞれの核の全頭−尾長に渡って10ミクロンずつ一つ置きに採取した連続断片の個々のSNc核のTH+SNc体細胞の生の計数を、累積度数分布図に示した図である。各処置について4回の代表的試験を図7に示してある。
食塩水のみで処置したマウス、MPTP(150mg/kg)及び食塩水で処置したマウス、並びにMPTP及びデプレニル(0.25mg/kg、1週間当り3回)で処置したマウスから採ったニューロン計数の数値は、図8の柱状図表で示されたものにも用いられている。図8に示すように、すべてのSNc核(n=4/処置群)に関する累積度数分布曲線が示す同じようなパターンから、MPTP後にTH+体細胞が消失し、それらがデプレニルにより救助されるという事象は核のすべての部分で起きているが、毒素に対して相対的により抵抗力のあるニューロンを含んだ核の頭部分(断片10−40)で最も大きいことが分かる。さらに図8からは、三つの動物群の間で個々の度数分布曲線に重複がないことも見ることができる。
【0075】
図9は、核の頭−尾長に沿ったdSNcニューロンのTH+体細胞計数を示す。6匹の動物の頭−尾計数は各表に重ね合わせてある。それぞれの下側の部分は免疫反応性dSNcニューロンの合計数を示し、またデプレニルによる救助を示す。
図8に示したデータは、全実験の平均計数(n=6−8マウス/処置群、つまり12−16SNc核)にTH+体細胞/SNc核のS.E.Mを±したものを示す。これらの数値を得るために、TH+体細胞の生の計数を、Contemporary Research Methods in Neuroanatomy(eds.Nauta,W.H.and Ebesson SOE)の315−380(Springer Verlag,New York,1970)でKonigsmark,B.W.氏が述べた通りに、補正係数2.15を用いてニューロン数に変換した。図8は、MPTPのみを投与された動物に比較して、デプレニル処置されたマウスのTH+SNc体細胞数が増加していることを示し、デプレニルがMPTPで誘発された毒性に伴うニューロンの死の一部分を防いだことを示唆している。低用量及び高用量のデプレニルは両方とも、TH+SNcニューロンの消失を防ぐ意味では等効果であった。
具体的には、図8は、食塩水のみで処置した動物で判明したTH+体細胞の中間補正計数3014+/−304(中間+/−SEM)が、MPTPのみを処置した動物(1756+/−161)及びMPTP−食塩水群(1872+/−187、1904+/−308及び1805+/−185)では著しく減少している(マン−ホイットニー・テスト、p<0.001)ことを示す。従って、MPTPは、これら三つのMPTP前処置群のTH+体細胞の平均的消失36%、38%及び42%を引き起こしたことになる(図8の黒い柱)。NPTP食塩水対照群はすべて、統計学的に同じである(p>0.05)。図8ではまたMAO−A阻害物質であるクロルジリンがニューロンを救助しないことを示しているが、それは、MPTP−食塩水(1706+/−155)及びMPTP−クロルジリン(1725+/−213.6)の数値は統計学的には同じだからである。
【0076】
デプレニルは、10、0.25及び0.01mg/kg用量与えたときにそれぞれ2586+/−161(14%の消失)、2535+/−169(16%の消失)及び2747+/−145と、MPTP後のTH+SNc体細胞数を著しく増加させていた(p<0.005)。従って、デプレニルはすべての用量で、MPTPによるTH+体細胞の消失を、MPTPの後に食塩水を与えたときに見られた消失の50%未満まで減少させており、この三つのデプレニルはすべて、食塩水で処置した動物に比較して、同様な、そして統計学的に大きな(p<0.001)増加をニューロン数にもたらすと言える。
【0077】
図10は、食塩水のみ、MPTPのみ、MPTP−食塩水、MPTP−クロルジリン、MPTP−デプレニルで処置した動物で判明したTH+体細胞の中間補正数を示し、表はこの種々の処置のタイミングを示すものである。さらにこの図は、デプレニルのみを処置した動物の体細胞数も示す。デプレニルだけでは、MPTPに予め暴露していない動物のTH+体細胞数には変化はない。
上述したMPTP誘発性のTH+SNcニューロンの消失の時間経過を考えると、図7及び8の示す結果はより驚くべきものがある。20日目までに死ぬTH+SNcニューロンの75%が、5日目までに既にそれらのTH免疫反応性を失っており、死ぬことになるTH+SNcニューロンの僅かに25%のみが、5日目から20日目の間にTH免疫反応性を失い続けていた。ニューロン消失の時間経過は本研究の一番目の部分及び二番目の部分の間で同一だと想定すると、TH+SNc体細胞の数は、中間値の3014体細胞/核から3日目の2169まで減少し、さらに減少を続けて20日目までに平均の1872体細胞/核になっていたはずである。デプレニル処置したマウス(0.25mg/kg)は平均2535体細胞/核を有していたため、投与の17日間で死んでしまったはずのTH+SNcニューロンをデプレニルがすべて救助したこと、さらにTH+免疫細胞化学ではもはや検出不能ないくつかのTH+SNcニューロンまで救助していた可能性があることを示している。
ニッスル/TH+計数を一緒に表した図3C1−C3の表は、0.25mg/kg用量のデプレニルに続きMPTPを処置した3匹の動物からプールしたデータを表にしたものである。図3C2は、ニッスル及びTH+中型SNc体細胞の消失の減少を、MPTP−食塩水動物(図3B2)での消失に比較しつつ、共に示す。MPTP−食塩水動物(図3B3)の場合と比較すると、MPTP−デプレニル動物(図3C3)の大型体細胞の消失の減少の方が小さい。ニッスル/TH+を同時に示した表により、MPTP−デプレニル処置したマウスにおけるTH+SNc体細胞の消失が減少したことは、TH免疫反応性でないニューロンの数が減少したのではなく、ニューロンの死が減少したことが原因であることが裏付けられる。
【0078】
例2
例1で示した手続き後、MPTPマウスにデプレニル(0.01mg/kg又は0.25mg/kg)を投与した。初回の0.25mg/kg又は0.01mg/kgのデプレニル投与から24時間後、そして18日後(21日目に該当するが、これは20日目に免疫化学法に先立って動物を殺した直後に当たる)に、以下に述べる方法に基づき、MAO−A及びMAO−B測定を行った。
MAO活性は、Wurtman,R.J.氏及びAxelrod,J.氏の方法(Biochem Pharmacol1963;12:1439-1444)により新鮮な組織ホモジネートで検定したが、MAO−AとMAO−Bとを区別するために基質は変更した。この方法は、トルエン/酢酸エチル中の(14−C)−セロトニン(MAO−Aに向けて)又は(14−C)フェニールエチルアミン(MAO−Bに向けて)の酸性代謝産物の抽出に依拠するものである。組織ホモジネートを、放射性の標識を付けたセロトニン(100マイクロモル)又はフェニールエチルアミン(12.5マイクロモル)のいずれかを含んだリン酸カリウム緩衝液中で37℃で30分間インキュベートした。HC1を加えてこの反応を停止させ、酸性の代謝産物をトルエン/酢酸エチル中に抽出した。トルエン/酢酸エチル層中の放射活性を液体シンチレーション・スペクトロメトリで判定する。沸騰させた組織ホモジネート又は5つの酵素を含んだ反応混合液のいずれかからブランクを得る(Crane,S.B.and Greenwood,C.E.DietaryFat Source Influences Mitochondrial Monoamine Oxidase Activity andMacronutrlent Selection in Rats.Pharmacol Biochem Behav 1987:27:1-6)。
【0079】
図11は、初回の0.25mg/kg又は0.01mg/kgから24時間後、及び18日後(21日目に該当するが、これは20日目に免疫細胞化学法に先立って動物を殺した直後に当たる)に行ったMAO−A及びMAO−B測定を示す。従って、MAO−B阻害作用(100%−MAO−B活性)がこの17日間の処置期間の間に次第に増加すると考えられるため、二つの測定値(図2に対応させてd4及びd22のラベルをした)は処置期間の開始時及び終了時のMAO−A及びMAO−B活性を描き出す。
各対(食塩水及びデプレニル処置)の上方の括弧内に示したKS確率は、デプレニル−食塩水の対が同じ集団から抽出されたかを調べるためのコルモゴロフースミルノフの二試料非媒介変数的統計学的検定を表す(Siegel,S.Non ParametrIcStatistics for the BehavIoral ScIences,McGrawhill Book Company,New York,1956,pp.127-136)。この確率の数値は、データが同じ集団を由来とするものかの確率を示すものである。大きな差を検出するにはp<0.5の数値が必要であり、p<0.01であることが好ましい。従って、0.25mg/kgのデプレニル用量のd4において弱くはあるが検出可能なMAO−A阻害作用があるが、MAO−B阻害物質はより高い用量のときに弱いMAO−A阻害作用を起こすと考えられるため、これは現実的である。0.25mg用量は、d4(72%活性、28%阻害)及びd22(31%活性、69%阻害)の両方で強いMAO−B阻害作用を起こす。抗抑制作用のためには90パーセント以上のMAO−阻害作用が必要であるが、おそらくは、28から69%のMAO−B阻害作用があれば、0.25mg/kgのデプレニル用量で救助を媒介するであろう。
最も重要なことは、0.01mg/kg用量はd4及びd22で大きなMAO−A又はMAO−B阻害作用を生じなかったことである。従って、0.01mg/kgで見受けられた著しい救助は0.25mg/kgの救助と効果は等しかったが、MAO−B阻害作用によるものではないはずである。従って、デプレニルは、MAO−Bを遮断する構造とは関係のない3D構造を通じてレセプタを活性化すると考えられる。
【0080】
例3
ジャクソン・ラブズ(メーン州、バー・ハーバー)から入手した生後5週のオスのC57BL/6Jマウスを別々の籠に入れて、適宜エサ及び水を与えた。マウスには最初の2週間、21℃に保たれた隔離した部屋で12:12時間の明:暗(LD)サイクルに馴れる順化期間を与えた。実験上の「昼間」は8時に開始し、実験上の「夜間」は20時に開始した。実験上の昼間の間、光量は200ルクスに保った。移動運動をストーリング・エレクトロニック・アクティビテイ・モニタを用いて選択的に数量化したが、この際個々のセンサ・ボックスは各籠の下に配置した。食餌や毛づくろいなど、高周波信号障害は記録しなかった。個々のマウスの移動運動を、連続的暗状態(DD)又はLD状態で90から120日間継続して観察した。約20日後にマウスに一日二回、(総用量37.5、75、150及び300mg/kgとなるように)食塩水又はMPTPの注射を5日間(注射前の日は−5から0日)行った。注射は必ず実験上の昼間に行い、最初の注射は「点灯」から4時間後に行い、二回目の注射は「消灯」より4時間前の時点で行った。
【0081】
移動運動のスペクトル分析(Bloomfield,P.Fourier Analysis of Time Seriess AnIntroduction;John Wylie and Sons:New York,1976,Brigham,E.O.The FastFourier Transform;Prentice-Hall,New, York, 1974, Marmarelis, P.Z.;Marmarelis,V.Z.Analysis of Physiological SystemsThe White-Noise Approach;Plenum Press:New York and London,1978)を高速フーリエ変換を用いたSYSTAT統計ソフトウェア・プログラムで行った。240時間(約10日間)又は120時間(約5日間)をちょうど経過した期間の活動計数を用いた。試料の数は、2のべき乗の法則を満たすように128、又は256をちょうど越えるように選択した。フーリエ分解の前に、活動値にスプリット・コサイン・ベル(原語:split-cosine-bell )漸減を行って強い成分からその他の成分への漏れを減らした。次に、これらの数値にゼロを付けて512試料にふくらませた。次に、時間/周期値が5.12から512までの間の100点についてフーリエ変換を行った。大きさを二乗して各成分の強さを求め、各時間/周期値のパワーをは、全パワーの合計値に対する割合で表した。
【0082】
最後のMPTP注射から5日、10日、15日及び20日目の時点で神経化学検定を行った。マウスを頸部脱臼で殺し、脳を取り出した。側坐核及び尾状核をを含むよう、線条体組織を切り取った。この組織を、そのカテコールアミン濃度を逆相イオン対高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)により電気化学検出するまで、2−メチルブタン(コダック社製)中で−70℃に凍結させた。組織試料の重量を計測した後、内部基準としてジヒドロキシルベンジルアミンを含んだ0.2Nの過塩素酸中で均質化し、アルミナ上に抽出した(Mefford,I.N.J.Neuroscl.Neth.1981,3,207-224)。カテコールアミンは0.1Nのリン酸中に脱着させ、濾過し、ウルトラスフィアODS5ミクロンカラムに注入した。その移動相は7.1g/1のNa2HPO4、50mg/lのEDTA、100mg/lの硫酸オクチルナトリウム及び10%のメタノールを含んでいた。検出器の電位は+0.72対Ag−AgCl基準電極であった。運転間の変動性は約5%だった。図12は、92日間の典型的な記録であり、黒い棒はMPTP注射の間隔を示す(合計150mg/kg、毎日30mg/kgを5日間)。活動の追跡の上にある各々の縦の棒は1時間中の活動の合計を表す。100から200時間の期間に、早い(約24時間)概日リズムに、より遅いリズムが重なっており、これにより活動のピークの振幅に周期的なばらつきが出ていることに注目されたい。これらのパターンの規則性は活動の振幅と共に、MPTP注射期間(675時間目から842時間目)の間に大きく影響を受けているが、1200時間までに、つまり注射後15から20日目で「回復」しているように見える。
【0083】
時間領域中の移動運動の分析は、複数の内因性活動サイクルが重なり合っているために複雑になっているため、フーリエ分析を用いてデータを定量化した。食塩水を注射したマウスのLD及びDD注射前対照期間に関する高分解能パワースペクトルを図13に示す。このスペクトルは256の活動計数について計算し、4096数値まで0でふくらませてからフーリエ変換を行った。図13Aでは、両LD及びDDスペクトルは、約24時間/周期の時点に大きなピークがあり、全パワーの75%を越えるパワーを含んでいる。DDピークの重心が僅かにずれて、LDピークよりも約9分短い周期長になっていることに注目されたい。図13Bでは、二次ピークが100から250時間/周期の間にあり、このことは図12の未処理データから得た考察とも一致している。このピークは、LDスペクトルに比較すると、DDスペクトル側に約50時間/周期ずれている。それより長い時間/周期値ではその他のピークはなかった。LDエンターテインメント(原語:entertainment)の間でのみ起きる三番目のより小さなピークは60から90時間/周期に渡ってあることに注目されたい。遅い方のピークから概日ピークがはっきりと分かれていることで、MPTP処置後に優位な24時間成分のパワーの変化を個別に評価することが可能であった。従って移動活動は、22−26時間/周期ピークのところでパワーのパーセンテージとして測定された。
【0084】
図14では、パネルAから、食塩水を注射するという、動物の内因性活動にとっての妨げが、注射前及び注射後の日に対するP22−26のパワーのパーセンテージを減少させるのに充分であったことが分かる。従って、パネルBで示すような活動の変化はMPTP注射期間によるものとして説明できない可能性がある。食塩水の注射では、注射後期間のP22−26の変化は生じていない(一例はパネルC)。対照的に、150及び300mg/kg用量の結果(図15を参照されたい)、P22−26の抑制が著しく見られたが、これも12日目から20日目の間に回復している(パネルB及びD)。
図15から、食塩水及び37.5又は75mg/kgのMPTP注射では、対照となる注射前期間のそれからはP22−26の移動活動は大きくは変化しなかったことが分かる(誤差棒はプールした対照活動の+/−1標準偏差を示す)。
対照的に、P22−26のピーク時パワーは、150又は300mg/kgのMPTP処置後5日間で中間対照値の20から60%に減少しており、中間日20日目までには正常に戻っていた。
150mg/kgのMPTP又は食塩水を処置した第二群の動物をTH免疫細胞化学に向けて殺し、MPTP注射後5日、10日、15日、20日及び60日目の時点でアビジン共役カラシペルオキシダーゼ及びジアミノベンジジンで断片を視覚化した。パラホルムアルデヒドで潅流した脳を正中線に沿って二分割し、食塩水を注射した動物及びMPTPを注射した動物から採った二分の一部分を、表面標識構造がロンギテューディナル・レジスター(原語:longitudinal register)にくるよう、ティシュ・テックを用いて互いに接着した。両方の動物のSNcを調べられるよう、連続する10μmの断片を脳幹を通って採取し、食塩水動物及びMPTP動物のSNcニューロンがすぐ隣に来て同じような濃度の抗体及び試薬に暴露するようにした。パネルA及びパネルB(図16)は5日目及び20日目における接着された脳のSNc断片を表す。
【0085】
図17のパネルAは、全核にわたって採取された、NPTP処置後のTH+SNc及びVTAニューロン体細胞の計数を、対応する食塩水注射動物の中間計数のパーセンテージで表したものである(誤差棒は標準偏差)。5日目から20日目にかけて検出可能なTH免疫反応性を持つSNc体細胞数が次第に減少しているが、20日目後は、TH+体細胞数は明らかに維持されていることに注目されたい。パネルB、C及びDは食塩水注射した動物及びMPTP注射した動物の線条体DA及びDOPACの濃度を表す。線条体DA濃度が正常レベルに回復する時間経過と、図15の移動活動の回復の時間経過との類似性を注目されたい。DOPAC/DA比は、MPTP注射した動物では5から10日目に渡って著しく増加し急速に減少した後、食塩水注射した動物の約2倍の一定レベルで維持されることを示している。
コンピュータ光学密度(OD)システムを用いて、接着した脳断片から無作為に選び出したSNc及びVTA体細胞のすぐ隣り合う組織における、体細胞の細胞質TH免疫反応性及びバックグラウンド免疫反応性を測定した(Tatton,W.G.et al.Brain Res.1990,527,21.32)。各細胞ごとに、単位面積当りのバックグラウンドODを単位面積当りの体細胞ODから減算して、単位面積当りの細胞質のTH免疫密度を試算した。各接着断片の食塩水を注射した二分の一部分の中間バックグラウンドODを用いて、MPTPバックグラウンドOD、食塩水OD及びMPTP細胞質ODの数値を正規化した。図17は、この正規化したバックグラウンドと、食塩水又は150mg/kgのMPTPを注射後5日目から20日目のTH+SNc体細胞の細胞質測定値との分布を表す。接着した脳を用いたこの研究及びその他の研究において、食塩水注射した二分の一片とMPTP注射した二分の一片とでバックグラウンド値に大きな違いはなかった(p<0.05)ため、細胞質値について有効な比較を行うことができた。食塩水注射した動物の対照分布は、しばしば、SNc体細胞について二峰性分布するTH免疫密度を呈しており、バックグラウンドレベルは0.5から6倍、最頻値はバックグラウンドレベルが約2及び4倍のところにある。
【0086】
5日間の間に、MPTP処置したSNc及びVTA体細胞の細胞質TH免疫密度が著しく減少しており、その後、注射後20日で食塩水対照群の分布にほぼ近い分布にまで次第に回復している(図17及び18)。MPTP処置後のSNc及びVTAニューロンのTH免疫密度の回復は、線条体DA濃度及び移動活動の回復に平行している。
本発明者たちは、高速フーリエ変換を用いたスペクトル分析技術を、MPTP処置したマウスの長期間移動活動の分析に適合させた。これにより、最近の取り扱い又は観察者がいることで生じてきた動物の主観的評価に頼らない、感受性が高く、しかも再現可能なデータを提供することができる。そもそも、ラット及びマウスのSNcニューロンは毒素に対して抵抗性があるという見解を理由に、MPTPはげっ歯類において運動欠陥を生じないと言われていた。これは、MPTP語の線条体ドーパミンの過渡的変化のみを報告した神経化学データに概ね基づいていた(Ricuarte,G.A.et al.Brain Res.1986,376,117-124,and Walters,A.et al.,Biogenic Amines 1984,1,297-302)。他の研究者は、高用量の毒素を処置されたマウスにおいて四肢の運動の遅滞、異常歩行及び移動活動の慢性的減少を報告しているが、これは、線条体DA濃度の変化が維持されたことと相関関係にあるように思われる(Duvoisin,R.C.et al.In Recent Development in Parkinson'sDiseases;S.Fahn et al.Raven Press:New York,1986:p.147-154,Heikkila,R.E.,et al.Science 1984,224,1451-1453,Heikkila,R.E.et al.Life Sci.1985,36,231-236)。MPTP後のげっ歯類移動活動の変化を測定した以前のものは、残念ながら、短期間(Saghal A.,et al.Neuroscl.Lett.1985,48,179-184)であるか、又は短期隔離されただけの測定(Willis,G.L.,et al.Brain Res Bull 1987,19,57-62)である。今日までのところ、ネコ(Schneider,J.S.,et al.Exp Neurol 1986,91,293-307)、マーモセット(Waters,C.M.,et al.Neuroscience 1987,23,1025-1039)又はげっ歯類(Chiueh,C.C.,etal.Psychopharmacol.Bull.1984,20,548-553,andJohannessen,J.M..et al.Life Sci.1985,36,219-224)を含め、様々なMPTPモデルで観察されてきた行動の回復に対して満足な説明はなされていない。
【0087】
P22−26ピーク下でのパワーで測定される移動活動、SNc及びVTA体細胞中の線条体DA濃度及びTH免疫密度は、MPTP処置後にこれらが正常へ回復するという点で相関関係にある。検出可能なTH免疫反応性を持つSNc及びVTA体細胞数はMPTP処置後、最初の20日間かけて安定状態レベルまで減少する。従って、線条中のドーパミン含有量は、検出可能なTH含有量を持つSNcニューロン及びVTAニューロンが減少している間に増加している。DOPAC/DA比の急速な上下は、おそらくは線条中のDA末端が死んでDAが細胞外空間へと消失していくことに関係があるであろう。しかしながら、この比は15日目以降は増加レベルで維持されるため、DA合成は、MPTPへの暴露から生き延びたSNcニューロン中で増加すると示唆した先の発見が裏付けられている。
SNc及びVTAニューロンの体細胞中のTH免疫密度の測定値は、おそらく、TH濃度の線形推定値とはならない。ペルオキシダーゼ反応の利用により、細胞質中の二次抗体−アビジン錯体の数を線形に推定することはできよう(Reis,D.J.et al.In Cytochemical Methods in Neuroanatomy Alan R.Liss,Inc.:New York,198;p.205-228)が、本発明者の多クローン性抗体の、そして一次及び二次抗体間の免疫反応の親和定数からは、エピトープの濃度とアビジン分子の濃度との間に線形関係があるとはならないであろう。それでも尚、この結果はおそらくは、MPTPへの暴露を生き抜いたVTA及びSNcの体細胞中のTH濃度に回復があることを示すであろう。TH免疫密度の回復は線条体DA含有量の増加に平行するが、これは、TH合成の回復が、DA含有量の回復の、そしておそらくは個々の生存ニューロンにより増加したDA合成のファクタであることを示唆している。
【0088】
げっ歯類における新線条体ドーパミン作動性及びその他のカテコールアミン作動性系が、移動活動の生成に関係づけられてきた(Tabar J.,et al.Pharmacol Biochem Behav 1989,33,139-146,Oberlander,C.,et al.Neurosci.Lett.1986,67,113-118,Melnick,M.E.et al.17thAnnual Meeting Of The Society For Neuroscience,New Orleans,Lousiana,USA,November 1987,13,Marek,G.J.,et al.Brain Res 1990,517,1-7,Rostowski,W.,et al.Acta Physiol.Pol.1982,33,385-388,Fink,J.S.Smith,G.P.J.Comp.Physiol.Psych.1979,93,24-65)。しかし今尚、SNc又はVTAニューロンの特定の役割は不明である。従って、移動活動に対して、SNcの回復及び線条体パラメータの回復が相関付けられたとしても、必ずしも因果関係を意味するものではない。しかしながら、MPTPは多種のカテコールアミン作動系において同じようなTH+ニューロンの消失を引き起こす(Seniuk,N.A.et al.Brain Res.1990,527sp.7-20)ことから見て、これらの系の伝達物質関連機能が、SNc及びVTAドーパミン作動性ニューロンについて我々が示してきたのと同じような回復を行うことが、行動上の回復の根底になっているのではないかと本発明者たちは示唆してきた。DA合成の回復は、MPTPへの暴露を生き抜いたSNcニューロンが彼らの仲間の埋め合わせをしようとすることを意味するものかも知れないが、それはなぜなら、この埋め合わせの成分は回復に関係し、さらにMPTPへの暴露から生き延びたニューロン中のチロシン水酸化酵素の合成の増加に関係しているからである。
【0089】
例4
デプレニルが、例えばラットの運動ニューロン等、その他の軸索損傷ニューロン表現型の死を減少させることができるかを調べるべく、実験を行った。軸索切断後に死ぬラットの運動ニューロンの比率は生後4日間の間が最高であり(89から90%が消失)、その後3から4週間で成体レベル(20から30%の消失)に減少する(Sendtner et al.Nature,345,440-441,1990,Snider W.D.and Thanedar,S.J.Compl.Neuro 1,270,489,1989)。生後14日のラツトの二つの群(n=6)にその片側顔面神経にトランスジェクション(損傷)を与え、一方、二つの群には損傷を与えなかった(損傷なし)。対になった損傷あり及び損傷なし群に食塩水、デプレニル(0.01及び10mg/kg)、パルジリン(10mg/kg)を一日おきに処置した。このラットを軸索切断から21日目に殺し、顔面核の高さにある脳幹の冠状組織断片を、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)免疫細胞化学(ここに参考文献として編入することとするTatton et al,Brain Res.527:21,1990)及びニッスル染色(ここに参考文献として編入することとするSeniuk et al.,Brain Res.527;7,1990:Tatton et al.Brain Res.527:21,1990)に向けて処理した。
【0090】
具体的には、二つの群の生後14日のスプラーグ・ドーリーラットにハロタン−笑気麻酔をかけて右側顔而神経を茎乳突孔への出口で離断し、別の二つのグループは未施術のままとした(各群はn=6)。施術の日より、損傷あり及び損傷なし群に10mg/kgのデプレニル腹腔内投与を死亡させるまで一日おきに行った。他方の損傷有り及び損傷なし群には食塩水で同一の注射を行った。離断から21日後にラットを過量の麻酔剤で殺した後、等張食塩水及びリン酸緩衝液中4%のパラホルムアルデヒドで潅流した。損傷なし群から採った脳を正中線に沿って縦方向に二分割し、食塩水処置した動物及びデプレニル処置した動物から採った二分の一の脳を、表面標識構造が合致するようにティシュ−テックを用いて互いに接着した。損傷なしの動物の接着した脳、及び、損傷有りの動物のそのままの脳を−70℃のメチルブタン中で凍結させ、10μmの連続断片を、顔面神経核を含む髄質部分を通って切断した。三つ目毎の断片をChATに対する多クローン性抗体に反応させた後、ビオチニレーテッド(原語:biotinylated)二次抗体と共にインキュベートし、その後HRP共役アビジンと共にインキュベートして最終的にはジアミノベンジジン及び過酸化水素と反応させた(Tatton et al,BrainRes.527:21,1990)。接着した二分の一片の脳の対になる断片は、デプレニルと食塩水処置した損傷なし対照群の間で、抗体又は試薬の浸透又は暴露が異なることを原因とする免疫反応性の差が生じないようにするためであった。
【0091】
さらに、上述の手続きを用いて以下の実験も行った。
生後14日のラットの一群にその片側顔面神経に離断(損傷)を与え、一方、いくつかの群には損傷を与えなかった(損傷なし)。対になった損傷あり及び損傷なし群に食塩水又はデプレニル(10mg/kg)を一日おきに処置した。このラットを殺し、ここで説明する方法でChAT免疫化学法を行った。
生後14日のラットの一群にその片側顔面神経に離断を与え、10mg/kgのデプレニルを一日おきに21日間処置した。動物を生後35日及び65日で殺し、ここで述べる方法でChAT免疫化学法を行った。
生後1日のラットの一群にその片側顔面神経に離断を与え、食塩水又はデプレニル(10mg/kg)で一日おきにデプレニルを処置した。動物を生後8日で殺し、ここで述べる方法でChAT免疫化学法を行った。
図19は、顔面神経の離断と同側にある顔面神経核を通って切断した、隣接するChAT免疫反応性(A1及びB1)断片及びニッスル染色(A2及びB2)
断片の顕微鏡写真を示す。A1及びA2は食塩水処置した動物のもの、そしてB1及びB2はデプレニル処置した動物のものである。
【0092】
図20は、異なる損傷及び処置群の顔面神経のChAT+体細胞の計数を示す棒グラフである(棒−中間値、誤差棒−標準偏差)。核の輪郭を含んだChAT免疫反応性体細胞を、全顔面神経核から連続して採取した断片の三つ目毎に計数した。各棒の一番上に記載した数値は中間値である。同側損傷及び反対側損傷とは、それぞれ顔面神経の離断があった側に同じ側及び反対側に核があったことを示すものである。計数は顔面神経核中のChAT+体細胞数の合計を推定すべく調節してはいないため、損傷なし群の数はニッスル染色した体細胞数について報告された数値の約3分の1である。これら数値は、マン・ホイットニーUテストを用いて対を考える方法で統計学的に比較した。
図20に示すように、顔面神経核の全長に渡って三番目毎にある連続断片のChAT免疫陽性(ChAT+)体細胞の数は、損傷なし−食塩水群及び損傷なし−デプレニル群と統計学的に同じ(p=0.520)であった。対照的に、このChAT+体細胞数は、顔面神経離断があった側に同じ側(23.8%損傷なし−食塩水、p=0.003)及び反対側(82.2%、損傷なし−食塩水、p=0.024)にある顔面神経核の損傷あり−食塩水群では著しく減少していた。デプレニル処置により、同側損傷顔面神経核(52.7%損傷なし−食塩水p=0.004)のChAT+体細胞数は二倍以上に増加しており、反対側神経核のChAT+数の減少を防止しており、これらは損傷なし群と統計学的には同じであった(p=0.873)。
【0093】
図21は、隣接断片のニッスル/ChAT+計数を同時に示した表である。ChATに対して免疫反応性である断片の間にある断片の各対の一方はニッスル染色していた。カメラ・ルシダを用い、ChAT+体細胞数、及びニッスル染色した核小体を含む(基準はOppenheim,R.W.J.Comp.Neurol.246:281,1986に基づく)体細胞数を、各動物のそれぞれの核の長さを通じて無作為に選択された20の断片の隣接する断片の適合する区域で計数した。次に、プールされた各損傷あり−処置群のうち三匹の動物から採った隣接断片の数値について、ニッスル計数をChAT+計数に対して作表した。ニッスル及びChAT体細胞数の比較を行って、免疫反応性体細胞の数の減少が、運動ニュ−ロンの死又は免疫反応性の消失のいずれを反映しているかを調べた。
損傷なし群のニッスル体細胞/ChAT体細胞数を同時に示した表(図21)では、食塩水(ニッスル27.6+/−12.04、ChAT+27.3+/−13.80、p=0.526、同じ群のニッスル及びChAT計数は対tテストを用いて比較した)及びデプレニル群(ニッスル28.9+/−13.2、ChAT28.5+/−13.8、p=0.641)で、同じような中間値及び標準偏差があり、等値対角線の周りに線対称に分布していることが分かる。同側損傷有り−食塩水動物(図21)では、両方の計数はより低く、等値対角線に対して非線対称に分布しており(ニッスル値がより高い数値にずれていることを矢印で示した)、ChAT+数(9.7+/−4.0、p=0.001)に比較してニッスル数(12.6+/−4.18)の中間値がより高いことにも反映されている。損傷有り−デプレニル点(図21B)は食塩水の点よりも減少が小さく、等値対角線の周りに線対称に分布していた(ニッスル17.6+/−6.5、ChAT+17.5+/−6.1、p=0.616)。最後に、反対側損傷動物(図21C)の表では、食塩水群(ニッスル24.6+/−10.1、ChAT+24.8+/−10.7、p=0.159)及びデプレニル群(ニッスル28.9+/12.1、28.5+/−12.0、p=0.741)の両方の点とも、等値対角線に対して線対称に分布している。
【0094】
このように、等値対角線の上方にニッスル/ChAT+合同表が分布しており、同側損傷あり−食塩水動物(図21)のニッスル及びChAT+計数を同時に表した表の間に大きな違いがあることは、図20に示したChAT+体細胞数の減少のうち約84%が運動ニューロンの死を原因とするものであり、一方ChAT免疫反応性の消失のみで引き起こされたのは、ChAT+運動ニューロンの減少のうち約16%であったことを示していた。この同時に表された計数から、さらに、反対側の核から失われたChAT+体細胞の消失はすべて、運動ニューロンの死を原因とするものであることが分かる。最も重要なことは、この合同計数により、デプレニル処置が、運動ニューロンの死を大きく減少させると共に同側の核の生存運動ニューロンのChAT免疫反応性の消失を反転又は防止したことが実証されることである。さらにそれは反対側の核の運動ニューロンの死も防止したのである。
【0095】
図22は、生後14日で片側軸索切断を行ったラットの生後35日の時点の顔面運動ニューロンのChAT+計数を示す。この図から、軸索が離断された運動ニューロン(IPSI離断)の救助があったこと、そして脳幹の反対側で死ぬ顔面運動ニューロン(反対側離断)のうち少数が同時に救助されたことが分かる。
図23は、図20に示したデータを表にしており(棒グラフの一番左の二つのグループ)、いくつか別の動物(群の大きさは6から8以上に増加した)から採取したデータも含む。さらにこの図は、パルジリンが運動ニューロンを救助することも示す(斜線を施した棒、群がp<0.05では異なるためにおそらくはデプレニルより弱い)。さらに、MPTPモデルで用いられた0.01mg/kg用量と同様、0.01mg/kg用量のデプレニルは運動ニューロンを救助する際に10mg/kgのデプレニルと効果が等しいことが判明した。
14日目で損傷を与え、その後21日間10mg/kgのデプレニルを処置し(d14−35)た後、生後65日まで未処置のままにした動物ではさらなる運動ニューロンの死は見られない(左から三番目の群の棒グラフを、デプレニル処置を続行中のまま生後35日で殺した第二群の対応する棒グラフに比較されたい)。これにより、軸索切断した運動ニューロンでは救助は永久であること、つまり、デプレニル処置を21日目以降取りやめても運動ニューロンの死が開始せず、その30日間の間にもさらなる死がないことが分かる。
【0096】
図23はさらに、生後1日の時点で軸索を離断したラットの運動ニューロンは14日の運動ニューロンよりも死ぬ量が多く、デプレニルで救助できないことを示す。従って、デプレニルが効果を持つにはその前に何らかのファクターが神経系で成熟せねばならず、そのファクターは生後1日から14日の間に現れると考えられる。
これは、デプレニルが運動ニューロンの死を防ぐことができるという最初の証拠であり、デプレニルが軸索切断により損傷したニューロンの死を減少させられることを示した研究と一致するものである。未成熟のラットにおいて軸索切断した運動ニューロンの死は、運動ニューロンが自らの剌激する筋肉からの栄養補給に依存している状態を反映していると考えられる(Crews,L.and Wigston,D.J.;J.Neurosci 10,1643,1990;上述のSnider,W.D.and Thanedar,S.)。この考えを裏付けるように、最近の研究では、いくつかのニューロン栄養ファクターにより運動ニューロンの消失を防ぐことができることを示している(Sendtner,M.et al.,Nature 345:440,1990)。この研究は、デプレニルには、目標由来の栄養物質の消失を補う何らかのメカニズムを活性化する能力があることを示している。神経変性疾患におけるデプレニルの働きの一部には、栄養補給の減少のための同様の補償作用を反映したものかも知れない。
【0097】
顔面神経離断の反対側にある顔面神経核における運動ニューロンの死が少量であるという発見は、運動神経の離断とは反対側にある無損傷の神経中の軸索の数が減少するという以前の報告(Tamaki,K..Anat.Rec.56,219,1933)や、反対側の核におけるその他様々な変化に関する報告(Pearson,C.A.et al.Brain Res.463,1988)と一致する。デプレニルは反対側の運動ニューロンの死を完全に防止するのである。
軸索切断により、顔面運動ニューロン中のたんぱく質合成に過渡的な変化が起きる(Tetzlaf,W.et al.Neuro Sci.8,3191(1988))が、その変化の中にはコリンアセチルトランスフェラーゼの減少がある(Hoever,D.R.&Hancock,J.C.Neuroscience 15,481,1985)。ChAT免疫反応性を失った同側の核(16%)中の食塩水処置した運動ニューロンの比率が小さいことは、おそらく、免疫化学的に検出可能になるまで充分にChAT濃度を回復できなかった生存運動ニューロンを反映するものであろう。デプレニルは、生存運動ニューロン中のChAT免疫反応性の消失を防止又は反転させていた。
【0098】
デプレニル用量(10mg/kg)はMAO−B活性の大半、そしてMAO−A活性のいくらかを遮断するには充分であった(Demarest,R.T.,Aazzaro,A.J.in Monoamine Oxidase:Structure,Function and Altered Functions(eds.Singer,T.P.,Korff,R.W.and Murphy,D.L.)423-340,Academic Press,New York,1979)ため、運動ニューロンの死の減少は、MAO−B又はMAO−Aの阻害作用が原因かも知れないし、両酵素からは独立のものかも知れない。しかしながら、0.01mg/kgのデプレニル用量は、10mg/kg用量で得られるのと同様な運動ニューロンの死の減少をもたらすと期待される。0.01mg/kg用量では著しいMAO−A又はMAO−B阻害作用は生じないことから、0.01mg/dgのデプレニルによる救助はMAO−A又はMAO−B阻害作用が原因ではないことが分かる。(例2を参照されたい)。このように、運動ニューロンの死の減少はMAO−B又はMAO−Aからは独立したものである公算が大きい。
【0099】
最近の研究では、MAO−阻害物質は後線条体ニューロンへの動脈による血液供給が一時的に遮断された後にこのニューロンに起きる壊死を減少させるにはデプレニルよりも効果的であろうと示されている(Matsui,Y and Kamagae,Y.,Neurosci.Lett.126,175-178,1991)。しかしながら、マウスにおいて、MAO−A阻害作用を生じるには低すぎるがMAO−Bの20−75%の阻害作用を生じるには充分であるデプレニル用量(0.25mg/kg)は、SNcニューロンの死を防ぐには10mg/kg用量と同じ効果がある。MAO−Bは、いくつかのセロトニン作動性ニューロン及びヒスタミン作動性ニューロンに存在するのはたしかだが、グリア細胞中に概ね集中している(Vincent,S.R.Neurosci 28,189-199(1989):Pintnri,J.E.et al.Brain Res.276,127-140,1983)。近くの運動ニューロンに関わる軸索切断に対し、小神経膠細胞は増殖反応を示し、大グリア細胞はたんぱく質合成の増加により反応するため、デプレニルで誘発するニューロン死の防止にはグリア細胞が関係しているのかも知れない。
【0100】
例5
マウスSNCニューロンの年齢に関係した死
Tatton W.G.et al Neurobiol.Aging 1991;12:5,543に記載の手続きを用いて、マウスのdSNcニューロンの年齢に関係した死をデプレニルが防ぐかどうかを調べるべく、研究を行った。結果を図24に示す。
図24に示すように、デプレニルはマウスdSNcニューロンの年齢に関係した死を防止しない。
【0101】
例6
以下の式(化7)を有するN−(2−アミノエチル)−4−塩酸クロロベンズアミドを、米国マサチューセッツ州ナティック、のリサーチ・バイオケミカルズ・インコーポレイテッド(Cat番号R−106、番号R016−6491)から入手し、これが末成熟の軸索切断した運動ニューロンを救助するかを調べた。生後14日のラットの一群に片側顔面神経離断を行い、10.5mg/KgCのN−(2−アミノエチル)−4−クロロベンズアミドを一日おきに21日間処置した。このラットを生後35日の時点で殺し、例4で説明したようにCHAT+免疫化学法を行った。
【0102】
【化7】
【0103】
図25は、図23に示したデータを含むと共に、N−(2−アミノエチル)−4−クロロベンズアミドを処置した動物から得たデータも含む。
図25に示すように、この化合物は未成熟の軸索切断した運動ニューロンを救助しなかった(図25)。この化合物はデプレニル及びパルジリンのアルキニル末端を持たないため、MAO−Bのフラビン部分の異なる部分に結合又は結び付くのではないかと考えられることに留意されたい。プロパルジル基の結合は永久である(MAO−B阻害作用は反転不能)が、一方、N−(2−アミノエチル)−4−クロロベンズアミドの結合は反転可能であり、短命である。
【0104】
例7
デプレニルの(+)異性体及び(−)異性体を調べて、未成熟な軸索切断した運動ニューロンの救助が立体特異的かどうかを判定した。生後14日のラットの一群に片側顔面神経離断を行い、デプレニルの(−)異性体又は(+)異性体を0.1mg/kg、一日おきに21日間処置した。このラットを生後35日の時点で殺し、例4で説明したようにCHAT+免疫化学法を行った。図25に示すように0.1mg/kg用量の(+)デプレニルは運動ニューロンを救助しない。救助は(−)異性体に対して立体特異的であると見られる。このように、(+)デプレニルはプロパルジル成分を持つにも関わらず、分子のキラル中心の形状が、救助を開始する分子部位への結合に影響があるのかも知れない。
【0105】
例8
動物の拍動モデルにおけるデプレニルの影響を調べるべく研究を行った。ラットに一酸化炭素を処置し、グルコースを静脈投与した。次に頸動脈をクランプしてデプレニルをこの動物に投与した。次にクランプを解除して動物の拍動を起こさせた。クランプの解除から30分後に、未処置の動物の一群にもデプレニルを投与した。上述したように脳の連続断面で陽性ニューロンを調べた。デプレニルは、特に海馬において、ニューロンの死を減少させ、損傷区域を小さくすることが判明した。
【0106】
均等物
当業者であれば、ごく通常の実験を行うことにより、ここに説明した本発明の特定の実施例の均等物を数多く認識又は確認できるであろう。このような均等物は以下の請求の範囲の包含するところとして意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】L−デプレニル、クロルジリン及びパルジリンの公知の分子構造の比較図である。
【図2】MPTP投与後の緻密黒質(原語:substantia nigra compacta)(SNc)中のチロシン水酸化酵素免疫陽性(TH+)ニューロンの数を示すグラフである。
【図3】食塩水のみを処置した動物(A1,A2,A3)、MPTP−食塩水を処置した動物(B1,B2,B3)及びMPTP−デプレニルを処置した動物(C1,C2,C3)のすぐ隣り合う断片の対応する区域にあるTH+及びニッスル染色した体細胞の数を、MPTP処置後20日の時点で各群のうち3匹の動物からデータをプールして同じ表に示したものである。
【図4】プールしておいた食塩水対照群の0日、3日、5日、10日、15日及び20日の時点のニッスル/TH+を同じ表に示したものである。
【図5】MPTP処置完了後0日、5日、10日、15日及び20日の時点で食塩水対照群について累計をとったニッスル/TH+を同じ表に示したものである。
【図6】1日目から60日目に渡る間の、食塩水による中間値に対するニッスル染色した体細胞のパーセンテージとTH+免疫反応性体細胞のパーセンテージとのグラフを重ね合わせて表したものである。
【図7】核全体を通じて連続して一つ置きに10ミクロンずつ採った断片から得た個々の代表的SNc核についてTH+SNCニューロンの累計対断片数を示すグラフである。
【図8】MPTP処置マウス、MPTP−食塩水処置マウス及びMPTP−デプレニル処置マウスについて、中間値及びSEM値を示すグラフである。
【図9】核の頭から尾までの長さに沿ったSNCニューロンのTH+体細胞数を示すグラフである。
【図10】食塩水処置動物、MPTP処置動物、MPTP−食塩水処置動物、MPTP−クロルジリン処置動物及びMPTP−デプレニル処置動物のTH+体細胞の中間補正値を、これら多種の処置を施した時点を表す表と共に示したグラフである。
【図11】デプレニル(0.25mg/kg又は0.01mg/kg)の一回目の投与後24時間(d4)と18日後(d22)との時点におけるMAO−A測定値及びMAO−B測定値を示す棒グラフである。
【図12】MPTPを注射したマウスの移動活動のスペクトル分析を示す。
【図13】食塩水を注射したマウスから得たLD及びDD注射前対照期間からの高解像度スペクトルを示す。
【図14】対照マウス及びMPTPマウスの高解像度パワー・スペクトルを示す。
【図15】正規化した合計%ピーク・パワー対中間日を示すグラフである。
【図16】MPTP又は食塩水を処置した動物から採った脳を接合したもののSNc断片を示す。
【図17】A、B、C及びDは、食塩水を注射したマウス及びMPTPを注射したマウスについて、すべての核から得たMPTP処置後のTH+、SNc及びVTAニューロン体細胞の数を、(A)対応する食塩水注射動物に対するその中間値のパーセンテージ、(B)線条体DAの濃度、(D)線条体DOPACの濃度及びDOPAC/DA比で表したグラフである。
【図18】食塩水のバックグラウンドに対する中間OD/中間O.D.対MPTP注射後日数を示すグラフである。
【図19】同側顔面神経核を通って顔面神経の横断面に至る隣り合うChAT免疫反応(A1及びB1)断片及びニッスル染色(A2及びB2)断片の顕微鏡写真を示す。
【図20】異なる損傷及び処置群の顔而神経核のChAT+体細胞の計数を示す棒グラフである(棒−中間値、誤差棒−標準偏差)。
【図21】損傷なし群(図14A)、同側損傷−食塩水動物(図14B)、損傷あリ−デプレニル動物(図14B)、及び反対側損傷あり動物(図14C)のニッスル/ChAT+計数を同じ表に示したグラフである。
【図22】生後14日で片側軸索切断を行なった生後35日のラットの顔面運動ニューロンのChAT+計数を示す。
【図23】図20に示したデータを示すと共に、更に別の動物に関するデータを含む。
【図24】デプレニル処置後のTH+SNc体細胞の計数を示す。
【図25】図23に示したデータを示すと共に、N−(2−アミノエチル)−4−クロロベンズアミドを処置した動物から得たデータを含む。
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の損傷した神経細胞を救助するためのプレニル化合物を利用した器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デプレニル(ここではセレジリン又はR−(−)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミンとも呼ぶ)が最初に用いられたのは、これが選択的モノアミン酸化酵素−B(MAO−B)阻害物質として働くことで脳内ドーパミン量を高め、L−DOPAから形成されたドーパミンの薬理作用を強めながらも、非選択的MAO阻害物質で観察されるチラミン昇圧効果は防ぐであろうという根拠に基づき、10年前にヨーロッパにおいてパーキンソン病(PD)の従来の薬物療法の補助剤(L−ジヒドロキシフェニールアラニン(L−DOPA)及び末梢脱炭酸酵素阻害剤)として用いられたときである。報告では、この配合薬物療法によりL−DOPAの抗無動作用が長くなるため、パーキンソン病患者のオン−オフ効果が消滅し、機能性障害が低下し、余命が長くなるとしている(Bernheimer,H.et al.,J.Neurolog.Sci.,1973.20:415-455,Birkmayer,W.,et al.,J.Neural Transm.,1975.36:303,336,Birkmayer.W.,et.al.Mod Prob.Pharmacopsychiatr.,1983.19:170-177,Birkmayer W.and P.Riederer,Hassler,R.G.and J.F Christ(Ed.)Advances,In Neurology,1984 40(Y):p.0-89004,andBirkmayer,W.et.al.,J.Neural Transm.,1985.64(2):p.113-128)。
【0003】
通常のL−DOPA療法の補助剤としてのデプレニルを調べた研究は、通常、その利点は1年又はそれ未満で消失してしまう短期間のものだと報告している。
デプレニルと共に摂取すればレボドーパ用量を減少させることができると報告する研究も、すべてではないがいくつかはある。(Elizan,T.S.,et.al.,Arch Neurol.1989.46(12):p1280-1283,Fischer,P.A.and H.Baas,J.Neural Transm.(suppl.),1987.25:p.137-147,Golbe,L.I..,Neurology,1989.39:p.1109-1111,Lieberman,A.N.et.al.,N.Y.StateJ.Med.,1987.87:p.646-649,Poewe,W.,F Gerstenbrand,and G.Ransomayr,J.Neural Transm.(suppl.),1987.25:p.137-147,Cedarbaum,J.M.,M.Hoey,and F.H.McDowell,J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry,1989.52(2):p.207-212,and Golbe,L.I.,J,W.Langston,and I.Shoulson,Drugs,1990.39(5):p.646-651)。
デプレニルがパーキンソン病の進行を遅らせるという報告(Parklnson,S.G.Arch Neurol 46,1052-1060(1989)and U.S.A.,Parkinson,S.G.N.Engl.J.Med.321,1364.1371(1989))があってからは、デプレニルはますますパーキンソン患者に投与されるようになってきているが、その作用を説明するのに充分な仕組みはまだ解明されていない。
パーキンソン病(PD)に対してデプレニルを使用する裏付けは概ねDATATOPプロジェクト(Parkinson,S.G.Arch Neurol 46,1052.1060(1989)andU.S.A.,P.S.G.N.Engl.J.Med.321j 1364-1371(1989))による発見に基づいている。この多中心性の研究は、デプレニルが、薬物療法をさらに必要とする障害症状の発症をほぼ1年遅らせると報告したものであるが、これらの発見は独立の、しかしより小規模な研究でも再現されている(Tetrud,J.W.&Langston,J.W.Science 245,519-522(1989))。残念ながら、DATATOPの研究の構成及びその結論には強い批判が集まっている(Landau,W,M.Neurology 40,1337-1339(1990)。さらにこれらのプロジェクトの著者はこのような結果はデプレニルがパーキンソン病の進行を遅らせるという仮説(Parkinson,S.G.Arch Neurol 46,1052-1060(1989),U.S.A.,P.S.G.N.Engl.J.Med.321,1364-1371(1989)andTetrud,J.W.&Langston.J.W.Science 249,303-304(1990))と一致していると述べてはいるが、証明となるものでは決してない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デプレニル、つまりMAO−B阻害物質がパーキンソン病の進行を遅らせるのは、フリーラジカルにより誘発される、生存中のドーパミン作動性黒質線条体(DNS)ニューロンの死を抑えるためではないかということが主張されている(Parkinson's Desease and Movement Disorders(eds.Jankovic,J.&Tolosa,E.)75-85のLangston,J.W.)(Urban and Schwarzenberg,Baltimore-Munich1988))が、これは、デプレニルが霊長類のMPTP誘発性神経毒性を遮断できたという観察(Langston,J.N.,Forno,L.S.Robert,C.S.&IrWin,I.Brain Res 292,390-394(1984))と、その他の環境毒素でMPTPに類似の作用の仕組みを持つものがパーキンソン病の病因に関連があるかも知れないという仮説(Tanner,C.M.TINS 12:49-54(1989))に基づいている。しかしながら、MAO−Bはドーパミン作動性ニューロンには存在しないこと(Vincent,S.R.Neuroscience 28,189-199(1989),Pintari,J.E.et.al.Brain Res276:127-140(1983),Westlund,K.N.,Denney,R.M.,Rochersperger,L.M.,Rose,R.M.&Abell,C.W.Science(WashD.C.)230,181-183(1985)andWestlund,K.N.,Denney.,R.M.,Rose,R.M.&Abell,C.W Neuroscience 25,439-459(1988))から、それを阻害することでなぜDNSニューロンが保護されるかは、毒性の高い化合物がドーパミン作動性ニューロン以外のニューロンで別に形成されて、それがMPTPと同じような方法でDNSニューロンを傷つけるというのでない限り、不明である。驚くべきことに、中枢神経系からMPTPを除いた後では計測されているにもかかわらず、DNSニューロン数を計測してニューロン生存率に対してデプレニルが影響を与えるかどうかを調べることは、いずれの研究でも行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、デプレニル化合物の容器と、損傷した神経細胞を持つ患者に対し、その患者において損傷した神経細胞の救助が行われるよう、治療上効果的な量のデプレニル化合物を投与する旨の指示書とを含む器具であって、デプレニル化合物が、下記化1の構造で表され、
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は一重結合、アルキレン、又は−(CH2)n−X−(CH2)mであり、
ただしこのときXはO、S又はN−メチル、mは1又は2、及びnは0、1、又は2であり、
R4はアルキル、アルケニル、アルキニル、複素環、アリール、又はアラルキルであり、
R5はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン及びアルコキシレンであり、
R6は
−C≡CHであり、
あるいは、R2及びR4−R3は結合して、これらが結び付いたメチンと共に環
式又は多環式の基を形成しており、
及び薬学上容認可能なその塩であり、
但しその際、デプレニル化合物はデプレニル、パルジリン、AGN−1133、又はAGN1135のいずれかから選択されるものではないことを条件とする、器具である。
【0006】
【化1】
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、損傷した神経細胞を、デプレニル化合物を患者に投与することにより救助する方法を提供するものである。
ある態様では、本発明は、患者の損傷した神経細胞を救助する方法を提供するが、その方法は、損傷した神経細胞を持つ患者に対し、その患者において損傷した神経細胞の救助が行われるよう、ある量のデプレニル化合物を投与することを含み、但しその際、前記デプレニル化合物はデプレニル、パルジリン、AGN−1133、又はAGN−1135のいずれかから選択されるものではないことを条件とする。
ここで用いられる「患者」又は「被験者」という用語は、損傷した神経細胞を持つ温血動物を言う。好適な実施例では、患者は、ヒト、及び、例えばイヌ、ネコ、ブタ、カウ、ヒツジ、ヤギ、ラット及びマウス等を含むヒト以外のほ乳類を含むほ乳類である。特に好適な実施例では、患者はヒトである。
ここで用いられる「損傷した神経細胞を救助する」又は「損傷した神経細胞を救助すること」という用語は、損傷から死に至る順番を(反転させなければ)致命傷である損傷を受けた神経細胞において反転させること、及び/又は、筋肉由来の栄養補給の消失を部分的に補うことを言う。
【0008】
本発明の発明者は、神経毒1−メチル−4−フェニール−1,2,5,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)により誘発されるニューロンの死の時間経過を研究してきた。MPTPは、B型モノアミン酸化酵素の働きにより酸化してジヒドトピリジウム中間体(MPDP+)を経てその毒性の代謝産物1−メチル−4−フェニールーピリジウムイオン(MPP+)となる。MPTPは非ドーパミン作動性細胞中でMPP+に転換され、放出されてドーパミン作動性ニューロンに取り込まれ、そこで神経毒性作用を及ぼすと考えられている(VincentS.R.Neuroscience,1989,28 p.189-199,Pintari,J.E.et al.Brain Res,1983,276(1)p.127-140,Westlund,R.N,et al.Neuroscience,1988,25(2)p.439.456,Javitch,J.A.et al.P.N.A.S.USA 1985,82(7)p.2173.2177,Mayor,1986#1763,及びSonsalla,P.R.et al,17thAnnual Meeting Of The Society For Neuroscience,New Orleans,Louisiana,USA,November,1987,13(2)を参照されたい)。
【0009】
マウスではMPTPは急速に代謝されて消失する(Johannesen,J.N.et al.LifeSci.1985,36:p.219-224,Markey,S.Pet al.Nature,1984,311p.465467,Lau,Y.S.et al.Life Sci.1988,43(18):p.1459-1464)。MPTPの急速な代謝及び排出とは対照的に、本発明者たちはドーパミン作動性ニューロンの消失がMPTP投与停止後20日間に渡って進行することを立証している。MPTP(30mg/kg/d)をマウスに連続5日間(総用量150mg/kg)腹腔内投与して、緻密黒質(原語:substantia nigra compacta)(SNc)及び腹側被蓋域(VTA)のTH−免疫陽性(TH+)ニューロンの約50%を消失させた(MPTP用量とカテコールアミン作動性ニューロンの消失との間の関係に関してここに参考文献として編入するSeniuk,N.A.,W.G.Tatton,and C.E.Greenwood,BrainRes.,1990,527sp.7-20を参照されたい)。本発明者はまた、同様の時間経過後TH+SNcニューロンの死が起きることを発見している。TH+体細胞の20から30%がMPTP投与終了後5日間の間に消失し、TH+ニューロンの消失は更にその後10日から15日間続き、その後は検出可能な消失はなかった。このようなTH+ニューロンの継続的な消失は、上述の排出データに基づけば、MPP+の存在では説明できなかった。さらに、TH+及びニッスル染色したSNc体細胞の計数を同時に表した表から、TH+体細胞の消失はTH免疫反応性の消失というよりはSNcニューロンの死を意味するものであることが確認できた。
【0010】
TH+SNc体細胞の消失と関連して、本発明者はさらに、SNc及び腹側被蓋域(VTA)におけるTHたんぱく質の免疫密度に変化があることを発見した。MPTPを処置した動物において5日目で残存するTH+DNSニューロンの体細胞中の細胞形質のTH免疫密度は、食塩水を処置した対照群と比較して40%低かった。平均体細胞TH免疫密度は時間と共に増加し、MPTP後20日で対照レベルに達した。線条体DA濃度の変化、及び移動などのドーパミン依存性行動の変化は、TH免疫化学の変化に平行していることが判明した。更に、本発明者たちは、DOPAC/DA比で推測したときの線条体のDA含有量及びDA合成量の増加は、行動上の回復に平行していると考えられ、MPTPへの暴露を生き抜いたVTA及びSNcニューロン中のDA含有量及び合成量の増加を示していることを発見した。
【0011】
このように、注目すべきことに、MPTP誘発のニューロン性損傷後、TH+SNcニューロンが効果的な修復及び回復を行なうか、又は死に至るかにとって重要な20日間の期間があることを本発明者たちは発見した。
デプレニルを用いた大半の研究は、生体内でのMAO−B活性の阻害が、NPTPのMPP+への転換、ひいてはMPTPの神経毒性を遮断することを実証すべく構成されてきた。その結果、MPTPへの暴露の期間中にMAO−B活性が確実に阻害されるよう、デプレニルは多くの場合、MPTP投与の前、そして投与の間を通じて数時間又は数日間与えられている(例えばCohen,G.,et al.,Eur.J.Pharmacol.,1984.106sp.209-210,Heikkila,R.E.,et al.,Eur.J.Pharmacol,1985.116(3):p.313-318,Heikkila,R.E.,et al,Nature,1984.311:p.467-469及びLangston,J.W,,et al.,Science(Wash.D.C.),1984,225(4669)p.1480-1482を参照されたい)。例えばAGN1133、AGN−1135及びMD240928等、その他のMAO−B選択的阻害物質を用いて比較可能な結果が得られており(Heikkila,R.E.,et al.,Eur.J.Pharmacol,1985.116(3):p.313-318andFuller,R.W.andL.S.K.Hemrick,Life Sci,1985.37(12):p.1089-1096)、デプレニルの作用の仕組みはMAO−Bを遮断するその能力が媒介するものであり、それによりこの毒素が活性形態に転換するのを防ぐのだということを示唆している。
【0012】
上述の研究とは対照的に、本発明者たちは、MPTPのMPP+への転換を遮断するその能力には依存していなかったその作用をデプレニルがDSNニューロンに及ぼすことができるかを調べることに関心があった。MPTP処置したマウス(総用量は150mg/kg)に、MPTP投与後3日目から20日目まで、デプレニルを投与した(0.01、0.25、10mg/kg腹腔内注射;1週間に3回)。デプレニル投与を3日目まで控えたのは、すべてのマウスが相当量のMPP+に暴露し、すべてのMPTP及びその代謝産物が中枢神経系から消失するのを確実にするためである。MAO−B阻害物質であるクロルジリンもMPTP処置したこのマウスに投与した。
本発明者たちは、食塩水処置したマウスでは、ドーパミン作動性緻密黒質(DSN)ニューロンの約38%がこの20日間のうちに次第に死んでいったことを発見した。このDSNニューロンの数はMPTP−食塩水処置マウス及びMPTPクロルジリン処置マウスの場合と統計学的に同じであることが判明した。しかしながら、デプレニルにより、MPTP誘発性の損傷を生き延びるDSNニューロンの数は増加しており(16%消失−0.01mg/kg、16%消失−0.25mg/kg)及び14%消失10mg/kg)、その効力はすべての用量において同じであった。このように、本発明者は、デプレニルは死につつあるニューロンを救助し、それらが効果的な修復を行うと共にドーパミンの合成に必要なチロシン水酸化酵素等の酵素の合成を再構築する確率を高めることができることを実証した。これは、死に至るはずのニューロンの損傷から死までの順序を反転させる、末梢又は経口投与治療に関する最初の報告であると考えられる。
【0013】
発明者たちの研究は、デプレニルは、MPTPが毒性代謝産物NPP+へ転換するのを阻害することを通じてその再生作用を媒介しているという可能性を見逃してきた。その結果は、デプレニルにはこれまで未知の作用メカニズムがあることを示唆するものである。ドーパミン作動性ニューロン自体におけるデプレニルの直接的作用を説明するのは、これらの細胞にMAO−Bがないため、難しいことであり、(Vincent,S,R.,Neuroscience28,189-199(1989);Pintari,J.E.,et al.Brain Res.276,127.140(1983);Westlund,R.N.et al.Science,(Wash.D.C.)230,181.183(1988)andWestlund,K.N.et al.Neuroscience25,439-156(1988))、これらの結果を、ドーパミン作動性ニューロン自体の中でデプレニルがMAO−Bを阻害するという根拠に基づいて説明はできなくなっている。デプレニル(0.01mg/kg)による処置の初期及び最後におけるMPTP処置マウス中のMAO−A及びMAO−Bを測定した結果、この0.01mg/kgの用量では二つの時点でMAO−A又はMAO−Bの阻害を大きくは阻害していないことが判明しており、このことから、デプレニルの再生作用を媒介するのはMAO−Bの阻害作用であるとはまず考えられない。更に、MAO−A阻害物質であるクロルジリンは、MPTPで誘発されたニューロンの死後に生き延びるDSNニューロンの数を増加させなかった。
【0014】
他の研究結果からも、デプレニルによる損傷したニューロンの救助は、公知のMAO−B又はMAO−B阻害作用によるものではないことが裏付けられている。軸索切断した運動ニューロンのデプレニルによる救助は、デプレニル処置をその後止めた場合も、運動ニューロンが死なないため永久に続くことが実証されている(以下の議論を参照されたい)。更に、MAO−B阻害物質N−(2−アミノエチル)−4−塩酸クロロベンズアミドは損傷した運動ニューロンを救助するには効果的でないことが実証されている。
さらに、生後14日で軸索切断したラットの顔面運動ニューロンの生存率も調べられたが、その結果、デプレニルは軸索切断後21日目の生存運動ニューロンの数を2.2倍増加させていたことが分かった(ここで述べる例3を参照されたい)。さらに、MPTPモデルで用いた0.01mg/kg用量の場合と同様、運動ニューロンを救助するのに、用量0.01mg/kgのデプレニルの効果は10mg/kgのデプレニルとまったく同じであった。パルジリンも運動ニューロンを救助することが判明した。このように、注目すべきことに、デプレニル及びパルジリンは、軸索切断により発生した栄養補給の消失を部分的に補うことができることが実証され、筋萎縮性側索硬化症等の状態における運動ニューロンの死の治療におけるデプレニル化合物の役割が示唆された。
14日目で損傷を与え、続く21日間10mg/kgのデプレニル(d14−35)を与えた後、生後65日まで未処置のまま放置した動物では、その後何ら運動ニューロンの死は見られなかった。さらに、この救助は軸索切断した運動ニューロンについては永久に続くことが実証された。つまり、運動ニューロンは、デプレニル処置を21日目より後に中止した場合、死に始めることはなく、さらにその後30日間も死ぬことはないのである。
【0015】
デプレニルの再生作用は神経系の細胞のいずれかが媒介している可能性があり、その仕組みには、その細胞上のレセプタ(例えばニューロン栄養性因子のレセプタなど)の活性化が、ある構造を通じて関わっていると思われるが、この構造はMAO−Bを遮断する構造には関係がないものであろう。このことは、デプレニルは、ドーパミン作動性ニューロンのみに影響を与えるのではなく、グリア栄養性因子に反応する脳内のすべてのニューロンの死を防ぐのに役立つのではないかということを意味するものであろう。従って、パーキンソン病において治療上効果的であるだけでなく、その他の神経変性疾患及び神経筋疾患や、低酸素症、虚血、脳卒中又は外傷を原因とする脳の損傷にも効果的であると考えられ、さらに脳の老化に伴うニューロンの進行性の消失を遅延させられるかも知れない(Coleman,P.D.&FloodD.G.,Neurobiol.Aging8,521-845(1987);McGeer,P.L.et al.In Parkinsonlsm and Aging(eds.D.B.Calne,D,C,-G.Comi and R.Horowski)25.34(Plenum,New York,1989)。さらに、外傷性及び非外傷性の末梢神経の損傷において筋肉の神経再支配を刺激するのにも用途があるかも知れない。
【0016】
本研究はまた、プロパルジルの末端が損傷したニューロンの救助に必要な因子かも知れないということを示す。上述したように、MAO−A阻害物質であるクロルジリンは、二日毎に用量2mg/kgを与えた場合では、MPTP誘発した損傷後の生存dSNCニューロン数を増加させることはなかった。L−デプレニル及びクロルジリンの公知の分子構造(図1を参照されたい)を比較すると、これらの化合物が、プロパルジル基を含んだ末端部分で同じ構造を有していることが分かる(図1の四角で囲った部分を参照されたい)。対照的に、フェノール環には二つの大きな塩素が含まれ、また酸素に結び付いた3つの炭素鎖は、この塩素置換フェノールを、アメチル側鎖をL−デプレニルに持った状態で2つの炭素を持つ窒素に結合させている。クロルジリンがDSNニューロンを救助できないのは、プロパルジル基が結合部位に届かないようにしているこの塩素に関連があるかも知れないし、また、この重要な構造に、フェノール環を窒素に結合させている分子部分が含まれていることを示すものかも知れない。
MAO−B阻害物質N−(2−アミノエチル)−4塩酸クロロベンズアミドは未成熟の軸索切断された運動ニューロンを救助しないことが分かった。この化合物は、デプレニル及びパルジリンの末端アルキン成分を持っていないため、MAO−Bのフラビン部分の異なる箇所に結合又は相互反応するように思われる。
0.01mg/kg用量のデプレニルの(+)異性体は、未成熟の軸索切断された運動ニューロンを救助しないことが分かった。このように、この化合物の旋光度も救助に重要であるかも知れない。
【0017】
上述したように、本発明は、損傷した神経細胞を救助するためのデプレニル化合物の利用と、このような使用に適合したデプレニル化合物を含む薬学的組成物と、損傷した神経細胞を救助することで神経系の疾患を治療する方法とに関するものである。
デプレニル化合物の投与は動物の損傷した神経細胞を救助するものでよく、従って、神経変性及び神経筋疾患の治療、及び、低酸素症、低血糖症、虚血性発作又は外傷を原因とする神経組織に対する急性の損傷に用いられよう。さらに、脳の老化に伴うニューロンの進行性消失を遅らせるのに用いることもできようが、デプレニルは、年齢に関係したマウスDSNニューロンの死を防ぐことはできないことを本発明者たちは提示している。より具体的には、デプレニル化合物はパーキンソン病、ALS、頭部外傷又は脊髄損傷の治療や、換気不良、溺水、長時間の痙攣、心拍停止、一酸化炭素への暴露、毒素への暴露、又はウィルス感染を原因とする虚血性発作、低酸素症直後の患者の治療に用いることができよう。デプレニル化合物は更に、外傷性及び非外傷性の末梢神経の損傷において筋肉の神経再支配を剌激するのにも用いることができよう。
【0018】
デプレニル化合物
ここで用いられる「デプレニル化合物」という用語には、デプレニル(N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフエネチルアミン)、デプレニルに構造上類似の化合物、例えば構造類似体、又はその誘導体など、が含まれる。このように、ある実施例では、デプレニル化合物は以下の式(化I)で表すことができる。
【0019】
【化1】
【0020】
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は一重結合、アルキレン、又は−(CH2)n−X−(CH2)mであり、ただしこのXはO,S又はN−メチル、このmは1又は2、そしてこのnは0、1、又は2であり、 R4はアルキル、アルケニル、アルキニル、複素環、アリール、又はアラルキルであり、 R5はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン及びアルコキシレンであり、
R6はC3−C6シクロアルキル又は −C≡CHであり、
あるいは、R2及びR4−R3は結合して、これらが結び付いたメチンと共に環式又は多環式の基を形成しており、
及び薬学上容認可能なその塩である。
【0021】
ある好適な実施例においては、デプレニル化合物は、デプレニル、パルジリン、AGN−1133、AGN−1135、又はMD240928のいずれかから選択されるものではない。
【0022】
いくつかの好適な実施例では、R1は生体内で分離可能な基である。いくつかの実施例では、R1は水素である。別の好適な実施例では、R1はメチルである。いくつかの好適な実施例では、R2は水素である。いくつかの好適な実施例では、R2はメチルである。いくつかの好適な実施例では、R3はアルキレン、より好ましくはメチレンである。別の好適な実施例では、R3は−(CH2)n−X−(CH2)mである。好適な実施例では、R4はアリールである。いくつかの好適な実施例では、R4はフェニルである。別の好適な実施例では、R4はアラルキルである。さらに別の好適な実施例では、R4はアルキルである。さらに別の実施例では、R5はアルキレン、より好ましくはメチレンである。いくつかの好適な実施例では、R6は−C≡CHである。また別の好適な実施例では、R6はシクロペンチルである。
【0023】
さらに別の好適な実施例では、デプレニル化合物の構造は、以下の式(化2)である。
【0024】
【化2】
【0025】
このときのR1は上述した通りである。好適なデプレニル化合物には(−)−デスメチルデプレニルと、下記化3とが含まれる。
【0026】
【化3】
【0027】
別の実施例では、デプレニル化合物は以下の式(化4)で表すことができる。
【0028】
【化4】
【0029】
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は化学結合又はメチレンであり、
R4はアリール又はアラルキルであり、
あるいは、R2及びR4−R3が結合して、これらが結び付いたメチンと共に環式又は多環式の基を形成しており、及び薬学上容認可能なその塩である。
【0030】
別の実施例では、デプレニル化合物は以下の式(化5)で表すことができる。
【0031】
【化5】
【0032】
ただし同式において、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は化学結合又はメチレンであり、
R4はアリール又はアラルキルであり、
あるいは、R2及びR4−R3が結合して、これらが結び付いたメチンと共に環式又は多環式の基を形成しており、
そしてR5はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン及びアルコキシレンであり、 及び薬学上容認可能なその塩である。
【0033】
さらに別の実施例では、デプレニル化合物は以下の式(化6)で表すことができる。
【0034】
【化6】
【0035】
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
Aは、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシル、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシル、−CF3、又はアジドのいずれかよりそれぞれ個別に選択される置換基であり、
nは0又は1から5までの整数であり、 及び薬学上容認可能なその塩である。
【0036】
本発明のいくつかの実施例では、デプレニル化合物はデプレニル((−)−デプレニルを含む)ではない。
「アルキル」という用語は、直鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルキル基を含む、飽和脂肪族のラジカルを言う。好適な実施例では、直鎖又は分枝鎖アルキルは20以下、より好ましくは10以下の炭素原子をその主鎖(例えば直鎖ではC1−C20、分枝鎖ではC3−C20)の炭素原子に有する。同様に、好適なシクロアルキルは4−10の炭素原子をその環構造に、より好ましくは5、6又は7の炭素をその環構造に有する。炭素数を特に明示していない限り、ここで言う「低アルキル」とは、上述のようにアルキル基を意味するが1から6個の炭素原子をその主鎖構造に有するものを言う。同様に、「低アルケニル」及び「低アルキニル」は同様の鎖長を有するものである。好適なアルキル基は低アルキルである。好適な実施例では、アルキルとしてここで指定された置換基は低アルキルのことである。
【0037】
さらに、明細書及び請求の範囲を通じて用いられている「アルキル」(又は「低アルキル」)という用語は、「未置換アルキル」及び「置換アルキル」の両方を含むものとして意図されており、この後者は、炭化水素の主鎖の一つ又は複数の炭素に水素を置換する置換基を有するアルキル成分を言う。このような置換基には、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル、(例えばカルボキシル、ケトン(アルキルカルボニル及びアリールカルボニル基を含む)、及びエステル(アルキルオキシカルボニル及びアリールオキシカルボニル基を含む)、チオカルボニル、アシルオキシ、アルコキシル、ホスホリル、ホスホネート、ホスフィネート、アミノ、アシルアミノ、アミド、アミジン、イミノ、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキチオ、スルフェート、スルホナート、スルファモイル、スルホンアミド、複素環、アラルキル、あるいは芳香族又はヘテロ芳香族成分が含まれよう。当業者であれば、炭化水素の鎖で置換を行った成分は、該当する場合には、それ自体が置換されることも理解されよう。例えば置換アルキルの置換基には、置換又は未置換の形のアミノ、アジド、イミノ、アミド、ホスホリル(ホスホネート及びホスフィネートを含む)、スルホニル(スルフェート、スルホンアミド、スルファモイル及びスルホナートを含む)、及びシリル基、並びにエーテル、アルキチオ、カルボニル(ケトン、アルデヒド、カルボキシレート、及びエステルを含む)、−CF3、−CN等々があろう。代表的な置換アルキルは以下に述べる通りである。シクロアルキルはさらにアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルキチオ、アミノアルキル、カルボニル置換体のアルキル、−CF3、−CN等々で置換することができる。
【0038】
「アルケニル」及び「アルキニル」という用語は、上述のアルキルに長さ及び置換可能性という点で類似の不飽和脂肪族であるが、それぞれ少なくとも一つの二重又は三重結合を含んだものを言う。
ここで言う「アラルキル」とは、少なくとも一つのアリール基(例えば芳香族又はヘテロ芳香族)で置換したアルキル又はアルキレニル基を言う。代表的なアラルキルとしては、ベンジル(即ちフェニールメチル)、2−ナフチレチル、2−(2−ピリジル)プロピル、5−ジベンゾスベリル等々がある。
ここで言う「アルキルカルボニル」とは、−C(O)−アルキルを言う。同様に、「アリールカルボニル」とは−C(O)−アリールを言う。ここで言う「アルキルオキシカルボニル」とは−C(O)−O−アルキルの基を言い、「アリールオキシカルボニル」という用語は−C(O)−O−アリールを言う。「アシルオキシ」とは−O−C(O)−R7を言うが、ただしこのR7はアルキル、あるケニル、アルキニル、アリール、アラルキル又は複素環である。
【0039】
ここで言う「アミノ」とは−N(R8)(R9)を言い、このR8及びR9はそれぞれ、個別に水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アリールであるか、あるいは、R8及びR9は、これらが結び付いた窒素原子と共に4−8の原子を有する環を形成するものである。このように、ここで言う「アミノ」とは、未置換体、一置換体(例えばモノアルキルアミノ又はモノアリールアミノ)、及び二置換体(例えばジアルキルアミノ又はアルキルアリールアミノ)のアミノ基を含む。「アミド」とは、−C(O)−N(R8)(R9)を言い、このR8及びR9は上述の通りである。「アシルアミノ」とは、−N(R’8)C(O)−R7を言い、このR7は上述の通りであり、R’8はアルキルである。
ここで用いられる「ニトロ」とは−NO2を意味し、「ハロゲン」とは−F、−Cl、−Br又は−Iを指し、「スルフヒドリル」とは−SHを意味し、「ヒドロキシル」とは−OHを意味する。
【0040】
ここで言う「アリール」には5、6及び7員環の芳香族が含まれ、この芳香族は0個から4個のヘテロ原子を環内に含んでいてもよい。例えばフェニル、ピロリル、フリル、チオフェニル、イミダゾリル、オキサゾール、チアゾリル、トリアゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリダジニル及びピリミジニル、等々である。環構造にヘテロ原子を含むこのようなアリール基はまた、「アリール複素環」又は「ヘテロ芳香族」とも言及されているかも知れない。芳香族の環は一つ又は複数の環位置において、アルキルについて上述した置換基、例えばハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族又はヘテロ芳香族の成分、−CF3、−CN等々で置換することができる。アリール基はまた多環式の基の一部分となることができる。例えば、アリール基には、ナフチル、アントラセニル、キノリル、インドリル、等々といった融着した芳香族成分が含まれる。
【0041】
「複素環」又は「複素環基」とは、4乃至10員環の環構造、より好ましくは4乃至7員環であって、この環構造が1個乃至4個のヘテロ原子を含むものを言う。複素環基には、例えば、ピロリジン、オキソラン、チオラン、イミダゾール、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ラクトン、アゼチジノン及びピロリジノン等のラクタム、スルタム、スルトン、等々が含まれる。複素環は、一つ又はそれ以上の位置において、上述のような置換基、例えばハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族又はヘテロ芳香族の成分、−CF3、−CN、等々で置換することができる。
【0042】
「ポリシクリル」又は「多環式の基」とは、二つ以上の環(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、及び/又は複素環)であって、それらの環の二つ以上の炭素が隣り合う二つの環の間で共有されている、例えば環同士が「融合」している、ようなものを言う。隣り合っていない原子によって結合した環は「架橋された環」と呼ばれる。多環式の基の環は各々、上述のような置換基、例えばハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族又はヘテロ芳香族の成分、−CF3、−CN、等々で置換することができる。
ここで言う「ヘテロ原子」とは、炭素又は水素を除いたいかなる元素の原子をも意味する。好適なヘテロ原子は窒素、酸素、サルファ及びリンである。
【0043】
本発明のいくつかの化合物構造は非対称の炭素原子を含むことが理解されよう。従って、このような非対称性から生じる異性体が本発明の範囲に含まれることは理解されねばならない。このような異性体は、伝統的な分離枝術及び立体調整された合成によってほぼ純粋な形で得られる。
ここで言う「生体内において分離可能」とは、生体内で酵素的又は非酵素的のどちらかによって開裂することのできる基を言う。例えば、アミノはアミダーゼにより開裂させることができ、またN−メチルアミンは酵素的酸化により開裂させることができる。例えば、デプレニルを被験者に投与すると、後で述べるように、メチル基が生体内で分離して有効化合物を生じると考えられる。さらなる例としては、化学式Iに見るように、R1がアルキルカルボニルの場合、できあがるアミド基は、生体内で加水分解により酵素的又は非酵素的に開裂して、第二アミンを含むデプレニル化合物を生じることができる(例えば、R1が生体内で水素に転換される)。生体内で分離可能な他の基も公知であり(例えばR.B.Silverman(1992)"The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action",Academic Pres,San Diegoを参照のこと)、本発明で用いる化合物に利用することができる。
【0044】
製薬上の組成
ここで用いられる「薬学上容認可能な」という表現は、健全な医学的判断という見地から、過度の毒性、過敏症状、アレルギー反応、又はその他の問題あるいは合併症を引き起こすことなく、ヒト及び動物の組織に接触させることのできる適した化合物、材料組成物及び/又は剤形のものであって、妥当な利益/危険性の比に見合ったものを言う。
ここで言う「薬学上容認可能な基剤」とは、薬学上容認可能な材料、組成物又はビヒクル、例えば液体又は固形の充填剤、希釈液、付形剤、溶剤又は封入材料であって、一組織、又は身体の一部分から別の組織又は身体の一部分へと問題のデプレニル化合物を運ぶ又は移動させることに携わるものを意味する。各基剤は、調合物中の他の成分と適合性があり、かつ被験者に対して害がないという意味で「容認可能」でなければならない。薬学上容認可能な基剤として用いることのできる材料の例には、(1)ラクトース、グルコース及びシヨ糖等の糖類、(2)コーンスターチ及びイモの澱粉等の澱粉類、(3)セルロース及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及びアセチルセルロース等、(4)粉状トラガカント、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)ココアバターや座薬ろう等の付形剤、(9)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及び大豆油等の油類、(10)プロピレングリコール等のグリコール類、(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール等のポリオール、(12)オレイン酸エチル及びラウレートエチル等のエステル、(13)寒天、(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、(15)アルギン酸、(16)無発熱因子水、(17)等張食塩水、(18)リンゲル液、(19)エチルアルコール、(20)リン酸緩衝液、及び、(21)薬剤調合に用いられるその他の非毒性適合物質が含まれる。
【0045】
デプレニルの安定度はデプレニルを調合する媒質のペーハーによって左右され得る。例えば、デプレニルは、約7のペーハーより約3乃至5の範囲のペーハーにおいて、より安定している。従ってデプレニル化合物を薬剤調合する場合、そのデプレニル化合物を適したペーハーに維持しておくことが好ましい。好適な実施例では、本発明の薬剤調合は約3乃至5の範囲のペーハー、より好ましくは約3から約4の範囲のペーハーを有するものである。さらに、エチルアルコールはデプレニルの安定度を高めるには好適な溶剤である。このように、いくつかの実施例では、アルコール性又は水性アルコールの媒質が本発明の薬剤調合には好ましい。
【0046】
上述のように、本デプレニル化合物のあるいくつかの実施例には、アミノ又はアルキルアミノのような基本的な官能基を含めてもよく、そのため、薬学上容認可能な酸を用いて薬学上容認可能な塩を形成することができる。この意味で「薬学上容認可能な塩」とは、本発明の化合物のうち、比較的に非毒性の、無機及び有機酸添加塩を言う。このような塩は、本発明の化合物の最終的な分離及び精製の間に原位置で調製したり、あるいは、本発明の精製化合物を遊離した基質の形のまま適した有機又は無機酸と別個に反応させて、その結果形成された塩を分離することで調製することができる。代表的な塩には、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、アセテート、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシレート、グルコヘプトネート、ラクトビオネート及びラウリルスルホネート、等々が含まれる(例えば、Berge et al.(1977)“PharmaceuticalSalts",J.Pharm.Sci.66:1-19を参照のこと)。
【0047】
その他の場合として、本発明のデプレニル化合物には一つ又はそれ以上の酸性の官能基を含めてもよく、そのため、薬学上容認可能な塩を薬学上容認可能な塩基を用いて形成することができる。この場合の「薬学上容認可能な塩」とは、本発明の化合物のうち比較的に非毒性の、無機又は有機塩基添加塩を言う。このような塩も、同様に、化合物の最終的な分離及び精製の間に原位置で調製したり、あるいは、精製化合物を遊離酸の形のまま、例えば薬学上容認可能な金属カチオンの水酸化物、炭酸塩又は重炭酸塩のような適した塩基や、アンモニア、あるいは薬学上容認可能な有機質の第一、第二、又は第三アミンと個別に反応させることで調製することができる。代表的なアルカリ又はアルカリ土類塩には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びアルミニウム塩、等々がある。塩基添加塩の調合に用いることのできる、代表的な有機アミンには、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、等々がある(例えば、バージ他著による上述の文献を参照のこと)。
湿潤剤、乳化剤、潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、並びに着色剤、放出剤、被覆剤、スイートニング、調味料及び芳香剤、保存薬及び抗酸化剤もまた、組成中に存在していてもよい。
【0048】
薬学上容認可能な抗酸化剤の例には、(1)水溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸塩、二硫酸塩ナトリウム、異性重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、等々、(2)油溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビルパルミチン酸塩、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファートコフエロール、等々、及び、(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸、等々、が含まれる。
本発明の調合物には、口、鼻腔、局所(頬及び舌下を含む)、直胴、膣及び/又は腸管外投与に適したものが含まれる。調合物は便利なように用量単位で提供してもよく、また、調剤技術において公知のいかなる方法を用いて調剤してもよい。一回分の用量を調剤するときに基剤材料と組み合わせることのできる有効成分の量は、治療を受ける主体、投与のその特定の形態に応じて異なるであろう。一回分の用量を調剤するときに基剤材料と組み合わせることのできる有効成分の量は一般的には、治療効果を生じるデプレニル化合物量となるであろう。多くの場合、100%のうち、この量は約0.01%から約99%が有効成分、好ましくは約0.1%から約70%、最も好ましくは約1%から約30%の範囲となるであろう。
【0049】
これらの調合物又は組成物を調剤する方法は、本発明による少なくとも一つのデプレニル化合物を、基剤、そして選択に応じて一つ又はそれ以上の付属成分とに会合させるステップを含む。一般的には、この調合物を、本発明のデプレニル化合物を、液体基剤、又は細密に分割された固形基剤、あるいはその両方に、均一かつ密接に会合させ、さらに必要な場合には製品を付形することで調剤する。
経口投与に適した本発明の調合物は、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ(調味基礎材料、多くの場合ショ糖、アラビアゴム又はトラガカントを用いて)、粉末剤、顆粒剤、又は、水性又は非水性の溶液又は懸濁液の形を採っても、あるいは、水中油形又は油中水形の乳剤として、又はエリキシル剤又はシロップ剤として、あるいは香錠(例えばゼラチン及びグリセリンなどの不活性の基質や、ショ糖及びアラビアゴムなど)及び/又は含そう剤、等々の形を採用してもよく、このとき各々は本発明による化合物を所定量、有効成分として含有するものである。本発明のデプレニル化合物はまた、巨丸剤、舐剤又はペースト剤として投与してもよい。
【0050】
経口投与用の本発明品の固形剤形(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、粉末剤、顆粒剤、等々)においては、有効成分を一種又はそれ以上の薬学上容認可能な基剤と混合するが、この基剤は例えば、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、及び/又は(1)充填剤又は増量剤、例えば澱粉、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及び/又はケイ酸など、(2)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルキン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/又はアラビアゴムなど、(3)湿潤剤、例えばグリセロールなど、(4)分解剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、イモ又はタピオカ澱粉、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウムなど、(5)消散遅延剤、例えばパラフィン、(6)吸収加速剤、例えば第四アンモニウム化合物、(7)浸潤剤、例えばセチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロール、(8)吸収剤、例えばカオリン及びベントナイトクレイ、(9)潤滑剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物、そして(10)着色剤、のうちのいずれかである。カプセル、錠剤及び丸剤の場合、薬剤の組成にはさらに緩衝剤を含めてもよい。同様の種類の固形組成物はまた、高分子重量ポリエチレングリコール等々と同様、ラクトース又は乳糖等の付形剤を用いることで軟質又は硬質の充填ゼラチンカプセルの充填剤として利用してもよい。
【0051】
錠剤は圧縮法又は成形法により製造することができ、選択に応じて一種又はそれ以上の付属成分を加えてもよい。圧縮された錠剤は、結合剤(例えばゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性の希釈剤、保存料、分解剤(例えばデンプングリコレートナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は拡散剤を用いて調製してもよい。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿潤させた粉末デプレニル化合物の混合物を、適した機械を用いて成形することで製造してもよい。
糖衣錠、カプセル、丸剤及び顆粒剤等、本発明の薬剤組成物の錠剤及びその他の固形剤形は、選択に応じて、筋目を付けたり、あるいは、例えば腸溶剤のコーティングや、薬剤調製技術で公知のその他のコーティング等のコーティング及び殻を施してもよい。これらはまた、所望の放出形等のポリマーマトリックス、リポソーム、及び/又は微小球が得られるよう、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースを様々な割合で用いることで、有効成分が放出するのを遅延又は調整しながら調剤してもよい。これらは、例えばバクテリア保持フィルタを通じてフィルタ濾過したり、無菌水で溶解可能な滅菌固形組成物の形状をした滅菌剤を加えたり、あるいはその他の無菌の注入可能な媒体を使用直前に加えたりして滅菌してもよい。これらの組成物には、選択に応じてさらに乳白剤を含めてもよく、また、その有効成分が、胃腸管の特定部位でのみ、あるいは特定部位で特に放出するような組成物としたり、さらに選択に応じて、遅れて放出するような組成物としてもよい。使用可能な埋封組成物の例としては高分子物質及びろうが含まれる。適切な場合には、有効成分に、上述の付形剤を一種又はそれ以上用いてミクロ被包形としてもよい。
【0052】
本発明のデプレニル化合物の経口投与用の液体剤形には、薬学上容認可能なエマルジョン、ミクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシル剤が含まれる。有効成分に加えて、液体剤形では当分野で通常用いられる不活性の希釈剤を含めてもよく、この希釈剤には、例えば水等の溶媒や、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油脂(特に綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ひまし油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにこれらの混合物等の可溶化剤及び乳化剤がある。
不活性の希釈剤の他にも、経口用の本組成物には、例えば湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、スイートニング、調味料、着色剤、芳香剤及び保存剤等の補助剤を含めてもよい。
【0053】
懸濁液は、有効なデプレニル化合物に加えて、例えばエトキシル基イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンのエステル、微晶質セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天及びトラガカント、並びにこれらの混合物等の懸濁剤を含んでいてもよい。
直腸又は膣投与用の本発明の薬剤調合物を座薬として提供してもよく、この座薬は一種又はそれ以上の本発明のデプレニル化合物を、一種又はそれ以上の適した非炎症性の付形剤又は基剤と混合させることで調製することができるが、この付形剤又は基剤は、例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、座薬用ろう又はサリチレートを含み、また、室温では固形であるが、体温では液体となるため直腸又は膣腔で溶けてデプレニル化合物を放出するものであろう。
経膣投与に適した本発明の調合物はまた、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡又は噴霧状の調合物であって、当分野で適切であると公知の基剤を含んだ調合物を含む。
本発明のデプレニル化合物の局所用又は経皮用投与に向けた剤形は、粉末、噴霧、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤を含む。有効化合物は滅菌状態で薬学上容認可能な基剤、そして必要であればいかなる保存料、緩衝剤、又は推進剤と混合してもよい。
軟膏、ペースト、クリーム、及びゲルは、本発明のデプレニル化合物に加えて、例えば動物性及び植物性脂肪、油脂、ろう、パラフィン、でんぷん、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、タルク及び酸化亜鉛、又はこれらの混合物などの付形剤を含んでいてもよい。
【0054】
粉末及び噴霧は、本発明の化合物に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム及びポリアミドの粉末、又はこれらの物質の混合物等の付形剤を含んでいてもよい。さらに噴霧は、例えばクロロフルオロ炭化水素のような通常の推進剤や、例えばブタン及びプロパンのような揮発性の未置換炭化水素を含んでいてもよい。
経皮用パッチは、本発明の化合物の身体への供与量を調整できるという点で有利である。このような剤形は、本デプレニル化合物を適した媒質中で溶解又は拡散させることで製造することができる。吸収促進剤をさらに用いれば、デプレニル化合物の皮膚の通過量を増加させることができる。このような通過率は、率調整膜を提供するか、あるいはデプレニル化合物をポリマーマトリックス状又はゲルとして拡散させることで調整可能である。本発明においては、さらに、パッチを含む器具を用いることでイオン導入又はその他の電気的方法によりデプレニル化合物を経皮的に供与できるが、このような器具は例えば、米国特許第4,708,716号及び第5,372,579号に述べられている。
【0055】
眼用調合物、眼用軟膏、粉末、溶液、点眼薬、噴霧、等々もまた、本発明の範囲内にあるものとして考えられている。
腸管外投与に適した本発明の薬剤組成物は、一種又はそれ以上の本発明のデプレニル化合物を、一種又はそれ以上の薬学上容認可能な無菌等張性の水性又は非水性溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョンや、無菌粉末と組み合わせたものを含むが、この無菌粉末は使用直前に無菌の注入可能な溶液又は分散液に再構成してもよく、さらにこの無菌粉末に抗酸化剤、緩衝剤や静菌剤を含めても、あるいはこの調合物を被験者の血液と等張性にする溶質又は懸濁剤あるいは増粘剤を含めてもよい。
【0056】
本発明の薬剤組成物に用いることのできる、適した水性及び非水性の基剤の例には、水、エタノール、ポリオル(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、等々)、及びこれらの適した混合物、オリーブ油などの植物性油脂、並びにオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルが含まれる。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材を用いたり、分散液の場合には粒子の大きさを所定値に維持したり、サーファクタントを用いることで維持することができる。
これらの組成物にはまた、保存料、湿潤剤、乳化剤及び分散剤などの補助剤を含めてもよい。微生物の活動を防止するには、様々な抗菌物質及び抗カビ剤、例えばパラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノール、等々を含めるとより確実となろう。さらに、例えば糖類、塩化ナトリウム、等々の等張作用因子を組成物に含めることが望ましいであろう。さらに、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる物質を含めることで、注入薬物の吸収時間を長くすることが可能であろう。
場合によっては、薬品の作用を長引かせるために、皮下又は筋肉注射から薬品の吸収を遅らせることが好ましい。これは、水溶性の乏しい、結晶質又は非晶質の物質の液体懸濁液を用いることで達成することができる。これにより、薬品の吸収率はその溶解率に左右されることとなるが、この溶解率は結晶の大きさ及び結晶の形状で左右されるものとしてよい。あるいは、腸管外投与した薬品の吸収を遅らせるには、薬品を油性のビヒクル中で溶解又は懸濁させても達成できる。
【0057】
注入可能な蓄積成形品は、本デプレニル化合物のマイクロカプセルのマトリックスを、ポリラクチドーポリグリコリドのような生分解性ポリマーに形成することで製造される。また、薬品対ポリマーの比に応じて、そして使用したその特定のポリマーの性質に応じて、薬品の放出率を調整することができる。その他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)がある。蓄積注入調合物はまた、薬品を、生体組織に適合性のあるリポソーム又はミクロエマルジョン内に閉じ込めることで調製される。
【0058】
本発明の化合物をヒト及び動物に対して薬剤として投与する場合には、単体で与えたり、あるいは、例えば0.01%から99.5%(より好ましくは0.1から90%)の有効成分を薬学上容認可能な基剤と組み合わせて含有した薬剤組成物として与えることができる。
本発明の調剤は、経口、腸管外、局所的、又は直腸を通じて与えてよい。また各投与経路に適した形態で与えてもよいことはもちろんである。例えば錠剤又はカプセルの形態でも、注射、吸入、目薬、軟膏、座薬等々の形態で投与される。
注射、輸注又は吸入による投与や、目薬又は軟膏による局所的投与、座薬による直腸投与である。注射(皮下又は腹腔内)あるいは局所的な眼への投与が好ましい。
ここで用いる「腸管外投与」及び「脳管外で投与する」という表現は、腸内及び局所的投与以外の、多くの場合注射による投与方法を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、表皮下、関節、被膜下、クモ膜下、脊髄及び胸骨内注射及び輸注を意味するが、これらに限定されるものではない。
ここで用いる「全身投与」、「全身的に投与する」、「末梢投与」及び「末梢に投与する」という表現は、化合物、薬品又はその他の物質を、被験者の全身に進入するように静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、表皮下、関節、被膜下、クモ膜下、脊髄及び胸骨内注射及び輸注を意味するが、これらに限定されるものではない。
ここで用いる「全身投与」、「全身的に投与する」、「末梢投与」及び「末梢に投与する」という表現は、化合物、薬品又はその他の物質を、中枢神経に直接投与する以外の方法により、被験者の全身に進入するように投与することを意味し、代謝及びその他の同様なプロセス、例えば皮下投与に準ずるものである。
【0059】
これらの化合物は、治療目的のためにヒト及びその他の動物に投与してもよいが、それには、例えば噴霧による口腔、鼻腔投与、直脳、経膣、腸管外、槽内投与、及び、粉末、軟膏、点眼薬等による頬及び舌下を含む局所的投与を含むいかなる投与経路を経てもよい。
選択した投与経路に関係なく、適した水化物形態で用いてもよい本発明の化台物、及び/又は、本発明による薬剤組成物は、当業者に公知の通常の方法を用いて薬学上容認可能な剤形に調製されるものである。
【0060】
本発明による薬剤組成物中の有効成分の実際の適用レベルは、被験者に害を与えることなく、特定の被験者、組成、及び投与の形態から見て所望の治療上の反応をもたらすのに効果的な量の有効成分を得るよう、変更してもよい。
選択する適用レベルは様々な因子によって左右されるが、この因子には、使用した本発明による特定のデプレニル化合物の活性、又はエステルの活性、塩あるいはそのアミドの活性、投与の経路、投与時間、使用中の特定の化合物の排出率、治療期間、その特定のデプレニル化合物と組み合わせて用いた他の薬品、化合物及び/又は物質、被験者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態及び以前の治療歴、等々、医療分野で公知の因子が含まれる。
当分野における通常の技術を有する医師又は獣医であれば、必要な薬剤組成物の効果的な量を容易に決定し、処方することができる。例えば、このような医師又は獣医は、薬剤組成中に使用される本発明による化合物の用量を、所望の効果を上げるのに必要な量よりも抑えて開始し、この用量を、所望の効果が得られるまで次第に増やすことも可能であろう。
【0061】
多くの場合、本発明のデプレニル化合物の適した一日当りの用量は、治療効果を上げるのに最も低い用量の化合物量であろう。このような効果的な用量は、通常、上述の因子により異なるであろう。一般的には、一被験者に対する本発明の化合物の腹腔内及び皮下用量は、提示の神経細胞救助作用に向けて用いる場合、一日当り、体重1キログラムに対して約0.0001ミリグラム乃至約10ミリグラム、より好ましくは一日当り約0.001ミリグラム乃至約1ミリグラム/1キログラムの範囲内であろう。
所望の場合、デプレニル化合物の効果的な一日当りの用量を、2、3、4、5、6又はそれ以上に小分けした単位剤形として、適した間隔を置きながら終日かけて分けて投与することが好ましいこともあろう。
本発明の化合物を単体で投与することも可能であるが、薬剤調合物(組成物)として本化合物を投与することが好ましい。二種又はそれ以上のデプレニル化合物を単一の治療用組成物として投与可能であることは理解されよう。
【0062】
治療用の組成物は当分野で公知の医療用器具を用いて投与することができる。
例えば、ある好適な実施例では、本発明の治療用組成物を、例えば米国特許第5,399,163号、第5,383,851号、第5,312,335号、第5,064,413号、第4,941,880号、第4,790,824号又は第4,596,556号に開示された器具などのニードルレス皮下注射用器具を用いて投与することができる。本発明において使用可能な公知のインプラント及びモジュールの例の中には、速度を調節しながら小分け投薬するためのインプラントの可能なマイクロ輸注ポンプを開示した米国特許第4,487,603号、皮膚を通じて薬剤を投与するための治療用器具を開示した米国特許第4,486,194号、精確な輸注速度で投薬を行うための医療用輸注ポンプを開示した米国特許第4,447,233号、継続的な投薬を行うためのインプラントの可能な可変フロー輸注装置を開示した米国特許第4,447,224号、複数の分割チャンバを有する浸透的投薬システムを開示した米国特許第4,439,196号、そして浸透的投薬システムを開示した米国特許第4,475,196号がある。これらの特許を参考文献としてここに編入する。このようなインプラント、投薬システム、及びモジュールは他にも数多く、当業者には公知である。
【0063】
ある特定のデプレニル化合物は、被験者に対する投与後、少なくとも部分的に生体内で代謝されると考えられる。例えば、(−)−デプレニルは経口投与後、肝臓で代謝されて(−)−デスメチルデプレニル、並びに(−)−メタンフェタミン及び(−)−アンフェタミンに変化する。(−)−デプレニルの肝臓代謝は、プロアジフェン等のP450阻害薬の投与で阻害することができる。動物及び細胞培養研究では、プロアジフェンの投与により、細胞死を防ぐ(−)−デプレニルの能力が落ちることになるが、(−)−デスメチルデプレニルの細胞救護作用を遮断することはない。このように、少なくとも(−)−デプレニルの少なくとも一つの代謝産物、多くの場合(−)−デスメチルデプレニルのことであるが、これが有効な化合物であると考えられる。現在では、(−)−メタンフエタミン及び(−)−アンフェタミンが、デプレニル化合物の細胞救護作用の阻害物質であると考えられている。また、モノアミンオキシダーゼ(MAO−A及びMAO−Bの両方を含むMAO)阻害作用が神経細胞救助作用に必要ではないとも考えられる。MAO阻害作用がないことは、実際には、副作用の小さい薬品の提供につながるであろう。このように、いくつかの実施例では、デプレニル化合物の持つMAO阻害作用が低いか、あるいは、(例えば適したプロドラッグ又は調合物を用いて)MAO阻害作用を最小限にするよう投与することが好ましい。
【0064】
上述の事項を鑑み、(−)−メタンフェタミン及び(−)−アンフェタミン等の阻害因子化合物への代謝を最小限に抑えながらも、(−)−デスメチルデプレニル等の有効化合物への代謝は可能であるという経路でデプレニル化合物を投与することが好ましい。有効化合物への代謝を、例えば目的の器官又は領域、例えば脳など、所望の作用域で行わせることができる。このように、有効化合物へと代謝されるプロドラッグは、本発明による方法では有用である。
特定のデプレニル化合物は、「ファーストパス効果」を減じる又は防ぐよう投与するとより大きな治療上の効験がある(例えばより少量の用量で効果が出るなど)ことが判明している。従って、腹腔内又は特に皮下注射が好適な投与経路ということになる。好適な実施例ではデプレニル化合物は用量を分割して投与されている。例えばデプレニル化合物を頻回(例えば律動的に)注射したり、調整を加えながらの輸注として投与することができ、またこれらは上述のように一定でも計画的に変更してもよい。デプレニル化合物を経口投与する好適な実施例では、経口投与後の肝臓代謝量を減らすようデプレニル化合物を調製することができ、それにより治療効果を向上させている。
いくつかの実施例では、生体内で確実に適宜分散されるよう本発明のデプレニル化合物を調合することができる。例えば血液脳関門(BBB)は吸水性の高い化合物を数多く除外してしまう。本発明の治療用化合物がこの血液脳関門を確実に通過する(それが好ましい場合)よう、これらを例えばリポソームに調合することができる。リポソーム製造方法としては、例えば米国特許第4,522,811号、第5,374,548号、及び第5,399,331号を参照されたい。このリポソームに、特定の細胞又は器官に選択的に運ばれる一種又はそれ以上の成分(目標成分)を含めることで、目標の薬品配給を行ってもよい(例えばブイ.ブイ.ラネード著(1989)臨床ジャーナル、薬理学、29:685を参照のこと)。代表的な目標成分には、葉酸塩又はビオチン(例えばロウ他による米国特許第5,416,016号を参照のこと)、マンノシド(ウメザワ他著、(1988)生化学及び生物物理学研究諭文、153:1038)、抗体(ピー.ジー.ブロウマン他著、(1995)FEBS書、357:140:エム.オワイス他著、(1995)抗菌物質化学療法、39:180)、サーファクタントプロテインAレセプタ(ブリスコウ他著、(1995)米国生理学ジャーナル、1233:134)、gp120(シュライア他著、(1994)生物化学ジャーナル、269:9090)があるが、さらにケー.カイナネン及びエム.エル.ローカネン著、(1994)FEBS書、346:123、ジェー.ジェー.キリオン;アイ.ジェー.フィドラー著、(1994)免疫法、4:273も参照されたい。ある好適な実施例では、本発明の治療用化合物はリポソームに調合され、より好適な実施例ではそのリポソームは目標成分を含んでいる。
【0065】
以下の発明はさらに以下の例で説明されるが、これらの例からさらに限定的に捉えられてはならない。本出願で引用されているすべての参考文献、係属中の特許出願及び公開特許出願の内容は参考としてここに編入されたものである。例で用いられた神経細胞救助に関する動物モデルは容認されており、またこれらのモデルにおける効験の実証はヒトの場合の効験を予測するものであることは理解されたい。
【0066】
以下の非限定的例は本発明を描写するものである。
例1
この例は、NPTP投与後に緻密黒質(原語:substantia nigra compacta)(SNc)からチロシン水酸化酵素免疫陽性(TH+)ニューロンが消失し、それらがデプレニルにより救助されたことを実証するものである。
研究の一番目の部分として、MPTPで誘発されるニューロンの死の時間経過を以下のように作り出した。MPTP(30mg/kg/d)を生後8週の同質遺伝子型のC57BLマウス(米国、ジャクソン・ラボラトリーズのナショナル・インスティテューツ・オブ・エージング・コロニーから入手)(C57BL/NNia));(n=6/期間)に連続5日間腹腔内投与した(合計用量150mg/kg)。マウスは、過量の麻酔剤(ペントバルビタール)で死なせ、これらに最後のMPTP注射をしてから、5日、10日、15日、20日、37日及び60日目に、等張食塩水(5%のレオマクロデックス及び0.008%のキシロケーンを含む)及び4%のパラホルムアルデヒドで潅流した。解剖した脳を0.1mのリン酸緩衝液中4%のパラホルムアルデヒドに一晩浸して20%のショ糖液中に置いた。
この研究の二番目の部分として、TH+SNcニューロンがMPTPで誘発される消失からデプレニルにより救助されることを以下のように実証した。MPTP(30mg/kg/d)を生後8週のC57BLマウス(n=6−8/処置群)に連続5日間腹腔内投与した(−5日目から0日目まで;合計用量150mg/kg)。MPTP投与中止から3日後、マウスに食塩水、デプレニル(カナダ、デプレニル社製)(0.01、0.25又は10mg/kg腹腔内)又はクロルジリン(米国、シグマ・ケミカル・カンパニー社製)(2mg/kg)を1週間当り3回施した。デプレニルの投与は3日目まで控えたが、それはすべてのマウスが相当量のMPP+に暴露し、かつすべてのMPTP及びその代謝産物が中枢神経系から除かれてしまうことを確実にするためである。デプレニルの用量の選択に当たっては、デプレニルがラットの寿命を長くし、MAO−Bの活性を約75%阻害するがMAO−B活性に影響を与えない(0.25mg/kg)か、あるいはMAO−B及びMAO−Aの両方を阻害することができる(10mg/kg)ことを実証した研究で用いられた用量を考慮した(Knoll,J.Mt.Sinai J.Med.55,67-74(1988)and Knoll,J.Mech.AgeingDev.46,237-262(1988),Demarest,R.T.and Azzarg A.J.In:Monoamine Oxidase:Structure,function and AlteredFunction(T.PSinger,R.W.Von Korff,D.L.Murphy(Eds)),Academic Press,New York(1979)p.423-430)。0.01mg/kgデプレニル用量も選択された。
この用量では10−7M未満が脳組織に達するであろう。さらなる対照群として、マウスをデプレニルのみで処置し、MPTPは投与しなかった。マウスは過量の麻酔剤(ペントバルビタール)で殺し、最後のMPTP注射から20日目にパラホルムアルデヒドで潅流した。
【0067】
研究の両方の部分において、脳は正中線に沿って縦方向に二等分し、二分の一の脳を、表面の標識構造がロンギテューディナル・レジスター(原語:longitudinalregister)にくるよう、ティシューテックを用いて互いに接着した。接着した脳を−70℃のメチルブタン中で凍結させた後、10μmの連続断片を各SNcの全縦方向長に沿って切り取った。
断片は、一つ置きに、ここに文献として編入することとするSenluk,N.A.et al.Brain Res.527,7-20(1990)and Tatton,W.G.etal.Brain Res.527,21-32(1990)に概ね述べられているように、一次抗体として多クローンTH抗体、及び、視覚化のための色素原としてジアミノベンジジン(DAB)を使った標準的アビジン−ビオチン反応(ABCキット、ベクター・ラブズ社製)を用いてTH免疫細胞化学に向けて処理し、以下のように改質した。スライドに載せた断片を0.2%のトリトン/0.1Mのリン酸緩衝液中、標識を付けていない一次TH抗血清(ユージーン・テック社製)と共に4℃で一晩インキュベートした。組織をリン酸緩衝液で洗浄した後、ビオチニレーテッド(原語:biotinylated)ヒツジ抗ウサギIgG二次抗体と共に1時間インキュベートし、アビジン−HRPでインキュベートした。0.01%の過酸化水素中0.05%のDAB溶液を用いて免疫反応性体細胞を視覚化した。相対的光学密度測定には、検定手続きにおけるスライド間のばらつきの作用を減らすために対照群及びMPTP処置した脳から採った断片を同じスライドに載せ、免疫細胞化学のために処理した。
TH+SNcニューロンの数は、各全核を通じて番号を付された一つ置きの連続断片の数により得た。断片は、観察者の偏見を避けるために複数の盲検観察者により再度計数をしてもらった。その値は断片の厚さ分を補正した(Konigsmark,B.W.In:Nauta,W.H.,Ebesson S,O.E.ed.,Contemporary Research Methods inNeuroanatomy,New York,Springer Verlag,p.315-380,1970)。中間値プラスマイナス中数の標準偏差を、食塩水を注射された対照群マウスについて計算した。次のデータはこうしてこの中間数のパーセンテージとして図2に示すように表された。
【0068】
間にある断片はニッスル染色して核の輪郭を規定した(ここに参考文献として編入することとするSeniuk et al.Brain Res.527:7,1990:Tatton et al.Brain Res.527:21.1990を参照されたい)。接着された二分の一の脳について対になる二分の一断片は、実験群及び対照群中のニューロン数の差が、貫通路が異なっていたり、抗体又は試薬への暴露が異なったことが原因で生まれないようにするためである。
各動物のそれぞれの核の長さ方向に渡る20の無作為に選択された二分の一断片上で、TH+体細胞を含む領域を顕微鏡につけたカメラルシダを用いてたどり、その輪郭を、標識構造の局部的組織的特徴を利用してすぐ隣のニッスル断片に転位させた(それぞれの核は通常、約90対の断片を含んでいた)。核小体を輪郭内に含むニッスル体細胞の数を三つの大きさのグループに分けて計数した(小型−140から280μm2、中型−300から540μm2、及び大型−540から840μm2)が、グリアの輪郭(40から100μm2)は、ラットのSNcに用いた基準と同様な基準を用いて除外した(Poirier et al.1983 Brain Res.Bull.11:371)。TH+体細胞の数を、20個のすぐ隣り合う断片の対応する区域にあるニッスル体細胞の数に対して表にした。ニッスル数/TH+数を同じ表にすることで、TH+SNc対細胞の数の減少が、ニューロンの破壊によるものか、それとも生き延びたニューロンによるTH免疫反応性の消失によるものかを判定する手段が提供される(この手続きの根拠について詳しくは上述のSeniuk et al.1990を参照されたい)。
【0069】
図3は、MPTP後0日目から20日目までにかけてTH+体細胞がSNcから消失しており、その後は減少していないことを示すものである。TH+体細胞のうち20から30%が、注射計画の終了後5日間で消失しており、TH+ニューロンの消失はさらにその後10日から15日間に渡って続くがその後は消失していない。このようなTH+ニューロンの継続的な消失は、MPTPの存在又はその毒性代謝産物MPP+の存在によっても説明できないであろうが、なぜなら、これは体内からは迅速に排出されるためである(Johannessen,J.N.et al.,LifeScie,36,219.224(1985);Markey,S.P et al.,Nature,311,465-467(1984);andLau et al.,Life Sci,431459-1464(1988))。いくつかのニューロンは、MPTPでも見られるように、軸索の損傷後に修復を開始する能力を持ち合わせており、その修復は、成長しつつあるニューロンがその軸索又は神経突起を伸ばしていくときに利用されるのと同様なDNAの転写「プログラム」を再活性化させることで行われる(Barron,K.V.in Nerve,Organ and Tissue Regeneration:ResearchPerspectives(ed.Seil,J.),3-38(Academic Press,New York,1986)を参照されたい)TH+SNcニューロンの場合、これらのニューロンがMPTP誘発性の損傷後に効果的な修復及び回復を行えるか、あるいは死んでしまうかを決めるのに重要な20日間の期間があるように思われる。
【0070】
食塩水のみを処置したマウスのすぐ隣り合う断片の対応する区域で調べたTH+SNc体細胞及びニッスル染色したSNc体細胞の数を同時に表した表を見ると(図3A1乃至A3では数値を三匹の動物についてプールした)、TH+体細胞の数はニッスル体細胞の数に線形に関連しており、中型SNc体細胞(図3A2)及び大型SNc体細胞(図3A3)の等値の対角線の周りに近いところに散らばっている。図3の各表では、二分の一断片毎の体細胞のニッスル計数及びTH+計数の中間+/−1.0標準偏差は、それぞれ各Y軸の上端と各X軸の上端とに見られる。中型及び大型の体細胞については、ニッスル体細胞の中間数はTH+体細胞の対応する中間数を5から10%越えており、これは、TH+でない黒質線条体ニューロンのパーセンテージに対応するように思われる(Van der Kooyet al.Neuroscience28:189,1981)。
食塩水処置した動物の小型SNc体細胞の同時に表した表から、小型ニューロンのごく一部分のみがTH免疫反応性であり、従ってドーパミン作動性であることが分かる(図3A1)。これらの結果は、大型及び中型の体細胞はドーパミン作動性の黒質線条体ニューロンのものであり、小型の体細胞は多くの場合、局部的に分枝した介在ニューロンのものであることを提示した、げっ歯類における以前の発見と一致している(上述のVan der Kooy et al.,1981;Poirier et al.BrainRes.Bull.11:371,1983)。MPTPのみを処置した動物又はMPTPで処置した後に食塩水で処置した動物(図3B1、3B2及び3B3ではMPTP−食塩水処置した三匹の動物の数値をプールした)のニッスル体細胞数/TH+体細胞数を同時に表した表から、MPTP処置終了後20日間でTH+体細胞が消失したことは、生き延びたニューロンにおいてTH免疫反応性が消失している事ではなく、SNcニューロンの死を示すものであることが裏付けられた。図3B2及び3B3は、中型及び大型体細胞において、それぞれニッスル及びTH+体細胞の数が、断片当り21.6+/−15.5及び20.6+/−15.5から12.4+/−8.0及び11.4+/−7.2へと減少した(数値は中間+/−1.0標準偏差)にも関わらず、これらの計数の間にほとんど等しい数値関係が維持されていることを示している。もしSNcニューロンがTH免疫反応性を失っているにもかかわらず死んでいかないのであれば、この表の散らばりは等値対角線の上方の位置にずれていたであろうと予測される(Seniuk et al.Brain Res.527:7,1990)。さらに、図3B1から、小型のニッスル染色体細胞数は、小型のSNc体細胞のTH+成分の減少(断片当り4.1+/−2.8から2.3+/−1.6へ)に伴って僅かに減って(断片当り26.2+/−18.3から22.4+/−12.5へ)いることが分かる。もし中型及び大型のSNc体細胞の消失のうちいくらかは萎縮が原因であり、その結果これらの横断面領域が、MPTP処置に反応する中型及び大型領域にもはや該当しないということであれば、小型のニッスル染色する体細胞の数の増加が予測されるであろう。
【0071】
MPTP処置終了後0日、3日、5日10日15日及び20日目と食塩水による対照群のニッスル/TH+を同時に表したものを図4及び5に示す。
図4は、食塩水による対照群動物のげっ歯類における、SNc体細胞の三つの主要な大きさグループ(小型横断面体細胞面積、140−280μm2、中型横断面体細胞面積、300−540μm2、及び大型横断面体細胞面積、540−840μm2)のニッスル/TH表である。データはMPTPへの暴露終了後0日、3日、5日、10日、15日及び20日の時点で殺した食塩水対照群についてプールした。前述したように、小型SNc体細胞のニッスル/TH+を共に示した表は概ね等値対角線の上方に来ている(ニッスル計数の断片当りの中間値は31.9+/−19.2であり、TH+計数の中間値は3.5+/−2.6)が、これは、小型の体細胞のほとんどは非ドーパミン作動性ニューロンのものだからである。対照的に、概ねドーパミン作動性であることが知られている中型及び大型の体細胞は、等値対角線に近いところに集まっている(中型体細胞ではニッスル中間値/断片は15.8+/−12.8、TH+中間値/断片は14.7+/−12.3であり、大型体細胞ではニッスル中間値/断片は3.2+/−3.5、TH+中間値/断片は2.9+/−2.4)。従って食塩水対照群では、中型及び大型のニッスル染色可能な体細胞の大部分は、TH免疫反応性でもある。
【0072】
図5からは、0日目の時点(MPTP暴露の最終日)では、中型体細胞(中型体細胞はdSNcニューロンの90%を越える割合を占める)の表の大部分が当地対角線の上方に来ており、食塩水処置した動物で設定した点の領域の上方にあることが分かる。このことは、中型dSNcニューロンの大きな部分が、検出可能なTH免疫反応性を失ってはいるが、0日目の時点では死んではいないことを示すものである(プールされた食塩水対照群の中間ニッスル数/断片15.8+/−12.8をMPTPに暴露した0日目の14.8+/−9.7に比較されたい。中型体細胞の14.8/15.8が0日目の時点ではまだ存在することが分かる)。点の位置は5日目から20日目にかけて次第に食塩水対照群で設定された帯域内に戻るが、一方、等値対角線に沿った点の広がりは表の始点に向かって縮んでいる。ニッスル/TH+を共に示した表中の点位置が次第に変化していることは、ニューロンが20日という期間をかけて次第に死んでいくため、20日目までには、生存する中型ニューロンのすべてが検出可能なTH免疫反応性を有することとなることを示している。
【0073】
図6は、0日目から60日目の間の食塩水対照群の中間値に対する、ニッスル染色した体細胞のパーセンテージと、TH免疫反応性体細胞のパーセンテージとを重ね合わせて示した表である。TH免疫反応性のパーセンテージと、ニッスル染色したパーセンテージとの差は、毒素のためにTH合成ができなくなるまで損傷を受けながらも死には至っていないdSNcニューロンのパーセンテージを示すものである。従って、デプレニル処置を開始した3日目の時点では、dSNc体細胞の平均37%が検出可能なTH免疫反応性を失ってはいるが、死んだのは僅かに4%であった。この二つの表は、TH免疫反応性体細胞のパーセンテージがニッスル染色可能なSNc体細胞の数と変わらなくなっている15日から20日の間で収束している。二つの表の差から、MPTPへの暴露後の各時点で、重度の損傷を受けながらも救助可能と考えられるdSNcニューロンのパーセンテージを推測することができる。
図6の重ね合わせた表によれば、15日から20日目までに死んだdSNcニューロンの84%が3日目の時点であれば救助可能であったと考えられる。従って、この84%のうち66%をデプレニルが救助、実際にはデプレニル処置が、治療を開始する前に死んでいないニューロンの79%を救助したと判明した。
【0074】
図7は、それぞれの核の全頭−尾長に渡って10ミクロンずつ一つ置きに採取した連続断片の個々のSNc核のTH+SNc体細胞の生の計数を、累積度数分布図に示した図である。各処置について4回の代表的試験を図7に示してある。
食塩水のみで処置したマウス、MPTP(150mg/kg)及び食塩水で処置したマウス、並びにMPTP及びデプレニル(0.25mg/kg、1週間当り3回)で処置したマウスから採ったニューロン計数の数値は、図8の柱状図表で示されたものにも用いられている。図8に示すように、すべてのSNc核(n=4/処置群)に関する累積度数分布曲線が示す同じようなパターンから、MPTP後にTH+体細胞が消失し、それらがデプレニルにより救助されるという事象は核のすべての部分で起きているが、毒素に対して相対的により抵抗力のあるニューロンを含んだ核の頭部分(断片10−40)で最も大きいことが分かる。さらに図8からは、三つの動物群の間で個々の度数分布曲線に重複がないことも見ることができる。
【0075】
図9は、核の頭−尾長に沿ったdSNcニューロンのTH+体細胞計数を示す。6匹の動物の頭−尾計数は各表に重ね合わせてある。それぞれの下側の部分は免疫反応性dSNcニューロンの合計数を示し、またデプレニルによる救助を示す。
図8に示したデータは、全実験の平均計数(n=6−8マウス/処置群、つまり12−16SNc核)にTH+体細胞/SNc核のS.E.Mを±したものを示す。これらの数値を得るために、TH+体細胞の生の計数を、Contemporary Research Methods in Neuroanatomy(eds.Nauta,W.H.and Ebesson SOE)の315−380(Springer Verlag,New York,1970)でKonigsmark,B.W.氏が述べた通りに、補正係数2.15を用いてニューロン数に変換した。図8は、MPTPのみを投与された動物に比較して、デプレニル処置されたマウスのTH+SNc体細胞数が増加していることを示し、デプレニルがMPTPで誘発された毒性に伴うニューロンの死の一部分を防いだことを示唆している。低用量及び高用量のデプレニルは両方とも、TH+SNcニューロンの消失を防ぐ意味では等効果であった。
具体的には、図8は、食塩水のみで処置した動物で判明したTH+体細胞の中間補正計数3014+/−304(中間+/−SEM)が、MPTPのみを処置した動物(1756+/−161)及びMPTP−食塩水群(1872+/−187、1904+/−308及び1805+/−185)では著しく減少している(マン−ホイットニー・テスト、p<0.001)ことを示す。従って、MPTPは、これら三つのMPTP前処置群のTH+体細胞の平均的消失36%、38%及び42%を引き起こしたことになる(図8の黒い柱)。NPTP食塩水対照群はすべて、統計学的に同じである(p>0.05)。図8ではまたMAO−A阻害物質であるクロルジリンがニューロンを救助しないことを示しているが、それは、MPTP−食塩水(1706+/−155)及びMPTP−クロルジリン(1725+/−213.6)の数値は統計学的には同じだからである。
【0076】
デプレニルは、10、0.25及び0.01mg/kg用量与えたときにそれぞれ2586+/−161(14%の消失)、2535+/−169(16%の消失)及び2747+/−145と、MPTP後のTH+SNc体細胞数を著しく増加させていた(p<0.005)。従って、デプレニルはすべての用量で、MPTPによるTH+体細胞の消失を、MPTPの後に食塩水を与えたときに見られた消失の50%未満まで減少させており、この三つのデプレニルはすべて、食塩水で処置した動物に比較して、同様な、そして統計学的に大きな(p<0.001)増加をニューロン数にもたらすと言える。
【0077】
図10は、食塩水のみ、MPTPのみ、MPTP−食塩水、MPTP−クロルジリン、MPTP−デプレニルで処置した動物で判明したTH+体細胞の中間補正数を示し、表はこの種々の処置のタイミングを示すものである。さらにこの図は、デプレニルのみを処置した動物の体細胞数も示す。デプレニルだけでは、MPTPに予め暴露していない動物のTH+体細胞数には変化はない。
上述したMPTP誘発性のTH+SNcニューロンの消失の時間経過を考えると、図7及び8の示す結果はより驚くべきものがある。20日目までに死ぬTH+SNcニューロンの75%が、5日目までに既にそれらのTH免疫反応性を失っており、死ぬことになるTH+SNcニューロンの僅かに25%のみが、5日目から20日目の間にTH免疫反応性を失い続けていた。ニューロン消失の時間経過は本研究の一番目の部分及び二番目の部分の間で同一だと想定すると、TH+SNc体細胞の数は、中間値の3014体細胞/核から3日目の2169まで減少し、さらに減少を続けて20日目までに平均の1872体細胞/核になっていたはずである。デプレニル処置したマウス(0.25mg/kg)は平均2535体細胞/核を有していたため、投与の17日間で死んでしまったはずのTH+SNcニューロンをデプレニルがすべて救助したこと、さらにTH+免疫細胞化学ではもはや検出不能ないくつかのTH+SNcニューロンまで救助していた可能性があることを示している。
ニッスル/TH+計数を一緒に表した図3C1−C3の表は、0.25mg/kg用量のデプレニルに続きMPTPを処置した3匹の動物からプールしたデータを表にしたものである。図3C2は、ニッスル及びTH+中型SNc体細胞の消失の減少を、MPTP−食塩水動物(図3B2)での消失に比較しつつ、共に示す。MPTP−食塩水動物(図3B3)の場合と比較すると、MPTP−デプレニル動物(図3C3)の大型体細胞の消失の減少の方が小さい。ニッスル/TH+を同時に示した表により、MPTP−デプレニル処置したマウスにおけるTH+SNc体細胞の消失が減少したことは、TH免疫反応性でないニューロンの数が減少したのではなく、ニューロンの死が減少したことが原因であることが裏付けられる。
【0078】
例2
例1で示した手続き後、MPTPマウスにデプレニル(0.01mg/kg又は0.25mg/kg)を投与した。初回の0.25mg/kg又は0.01mg/kgのデプレニル投与から24時間後、そして18日後(21日目に該当するが、これは20日目に免疫化学法に先立って動物を殺した直後に当たる)に、以下に述べる方法に基づき、MAO−A及びMAO−B測定を行った。
MAO活性は、Wurtman,R.J.氏及びAxelrod,J.氏の方法(Biochem Pharmacol1963;12:1439-1444)により新鮮な組織ホモジネートで検定したが、MAO−AとMAO−Bとを区別するために基質は変更した。この方法は、トルエン/酢酸エチル中の(14−C)−セロトニン(MAO−Aに向けて)又は(14−C)フェニールエチルアミン(MAO−Bに向けて)の酸性代謝産物の抽出に依拠するものである。組織ホモジネートを、放射性の標識を付けたセロトニン(100マイクロモル)又はフェニールエチルアミン(12.5マイクロモル)のいずれかを含んだリン酸カリウム緩衝液中で37℃で30分間インキュベートした。HC1を加えてこの反応を停止させ、酸性の代謝産物をトルエン/酢酸エチル中に抽出した。トルエン/酢酸エチル層中の放射活性を液体シンチレーション・スペクトロメトリで判定する。沸騰させた組織ホモジネート又は5つの酵素を含んだ反応混合液のいずれかからブランクを得る(Crane,S.B.and Greenwood,C.E.DietaryFat Source Influences Mitochondrial Monoamine Oxidase Activity andMacronutrlent Selection in Rats.Pharmacol Biochem Behav 1987:27:1-6)。
【0079】
図11は、初回の0.25mg/kg又は0.01mg/kgから24時間後、及び18日後(21日目に該当するが、これは20日目に免疫細胞化学法に先立って動物を殺した直後に当たる)に行ったMAO−A及びMAO−B測定を示す。従って、MAO−B阻害作用(100%−MAO−B活性)がこの17日間の処置期間の間に次第に増加すると考えられるため、二つの測定値(図2に対応させてd4及びd22のラベルをした)は処置期間の開始時及び終了時のMAO−A及びMAO−B活性を描き出す。
各対(食塩水及びデプレニル処置)の上方の括弧内に示したKS確率は、デプレニル−食塩水の対が同じ集団から抽出されたかを調べるためのコルモゴロフースミルノフの二試料非媒介変数的統計学的検定を表す(Siegel,S.Non ParametrIcStatistics for the BehavIoral ScIences,McGrawhill Book Company,New York,1956,pp.127-136)。この確率の数値は、データが同じ集団を由来とするものかの確率を示すものである。大きな差を検出するにはp<0.5の数値が必要であり、p<0.01であることが好ましい。従って、0.25mg/kgのデプレニル用量のd4において弱くはあるが検出可能なMAO−A阻害作用があるが、MAO−B阻害物質はより高い用量のときに弱いMAO−A阻害作用を起こすと考えられるため、これは現実的である。0.25mg用量は、d4(72%活性、28%阻害)及びd22(31%活性、69%阻害)の両方で強いMAO−B阻害作用を起こす。抗抑制作用のためには90パーセント以上のMAO−阻害作用が必要であるが、おそらくは、28から69%のMAO−B阻害作用があれば、0.25mg/kgのデプレニル用量で救助を媒介するであろう。
最も重要なことは、0.01mg/kg用量はd4及びd22で大きなMAO−A又はMAO−B阻害作用を生じなかったことである。従って、0.01mg/kgで見受けられた著しい救助は0.25mg/kgの救助と効果は等しかったが、MAO−B阻害作用によるものではないはずである。従って、デプレニルは、MAO−Bを遮断する構造とは関係のない3D構造を通じてレセプタを活性化すると考えられる。
【0080】
例3
ジャクソン・ラブズ(メーン州、バー・ハーバー)から入手した生後5週のオスのC57BL/6Jマウスを別々の籠に入れて、適宜エサ及び水を与えた。マウスには最初の2週間、21℃に保たれた隔離した部屋で12:12時間の明:暗(LD)サイクルに馴れる順化期間を与えた。実験上の「昼間」は8時に開始し、実験上の「夜間」は20時に開始した。実験上の昼間の間、光量は200ルクスに保った。移動運動をストーリング・エレクトロニック・アクティビテイ・モニタを用いて選択的に数量化したが、この際個々のセンサ・ボックスは各籠の下に配置した。食餌や毛づくろいなど、高周波信号障害は記録しなかった。個々のマウスの移動運動を、連続的暗状態(DD)又はLD状態で90から120日間継続して観察した。約20日後にマウスに一日二回、(総用量37.5、75、150及び300mg/kgとなるように)食塩水又はMPTPの注射を5日間(注射前の日は−5から0日)行った。注射は必ず実験上の昼間に行い、最初の注射は「点灯」から4時間後に行い、二回目の注射は「消灯」より4時間前の時点で行った。
【0081】
移動運動のスペクトル分析(Bloomfield,P.Fourier Analysis of Time Seriess AnIntroduction;John Wylie and Sons:New York,1976,Brigham,E.O.The FastFourier Transform;Prentice-Hall,New, York, 1974, Marmarelis, P.Z.;Marmarelis,V.Z.Analysis of Physiological SystemsThe White-Noise Approach;Plenum Press:New York and London,1978)を高速フーリエ変換を用いたSYSTAT統計ソフトウェア・プログラムで行った。240時間(約10日間)又は120時間(約5日間)をちょうど経過した期間の活動計数を用いた。試料の数は、2のべき乗の法則を満たすように128、又は256をちょうど越えるように選択した。フーリエ分解の前に、活動値にスプリット・コサイン・ベル(原語:split-cosine-bell )漸減を行って強い成分からその他の成分への漏れを減らした。次に、これらの数値にゼロを付けて512試料にふくらませた。次に、時間/周期値が5.12から512までの間の100点についてフーリエ変換を行った。大きさを二乗して各成分の強さを求め、各時間/周期値のパワーをは、全パワーの合計値に対する割合で表した。
【0082】
最後のMPTP注射から5日、10日、15日及び20日目の時点で神経化学検定を行った。マウスを頸部脱臼で殺し、脳を取り出した。側坐核及び尾状核をを含むよう、線条体組織を切り取った。この組織を、そのカテコールアミン濃度を逆相イオン対高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)により電気化学検出するまで、2−メチルブタン(コダック社製)中で−70℃に凍結させた。組織試料の重量を計測した後、内部基準としてジヒドロキシルベンジルアミンを含んだ0.2Nの過塩素酸中で均質化し、アルミナ上に抽出した(Mefford,I.N.J.Neuroscl.Neth.1981,3,207-224)。カテコールアミンは0.1Nのリン酸中に脱着させ、濾過し、ウルトラスフィアODS5ミクロンカラムに注入した。その移動相は7.1g/1のNa2HPO4、50mg/lのEDTA、100mg/lの硫酸オクチルナトリウム及び10%のメタノールを含んでいた。検出器の電位は+0.72対Ag−AgCl基準電極であった。運転間の変動性は約5%だった。図12は、92日間の典型的な記録であり、黒い棒はMPTP注射の間隔を示す(合計150mg/kg、毎日30mg/kgを5日間)。活動の追跡の上にある各々の縦の棒は1時間中の活動の合計を表す。100から200時間の期間に、早い(約24時間)概日リズムに、より遅いリズムが重なっており、これにより活動のピークの振幅に周期的なばらつきが出ていることに注目されたい。これらのパターンの規則性は活動の振幅と共に、MPTP注射期間(675時間目から842時間目)の間に大きく影響を受けているが、1200時間までに、つまり注射後15から20日目で「回復」しているように見える。
【0083】
時間領域中の移動運動の分析は、複数の内因性活動サイクルが重なり合っているために複雑になっているため、フーリエ分析を用いてデータを定量化した。食塩水を注射したマウスのLD及びDD注射前対照期間に関する高分解能パワースペクトルを図13に示す。このスペクトルは256の活動計数について計算し、4096数値まで0でふくらませてからフーリエ変換を行った。図13Aでは、両LD及びDDスペクトルは、約24時間/周期の時点に大きなピークがあり、全パワーの75%を越えるパワーを含んでいる。DDピークの重心が僅かにずれて、LDピークよりも約9分短い周期長になっていることに注目されたい。図13Bでは、二次ピークが100から250時間/周期の間にあり、このことは図12の未処理データから得た考察とも一致している。このピークは、LDスペクトルに比較すると、DDスペクトル側に約50時間/周期ずれている。それより長い時間/周期値ではその他のピークはなかった。LDエンターテインメント(原語:entertainment)の間でのみ起きる三番目のより小さなピークは60から90時間/周期に渡ってあることに注目されたい。遅い方のピークから概日ピークがはっきりと分かれていることで、MPTP処置後に優位な24時間成分のパワーの変化を個別に評価することが可能であった。従って移動活動は、22−26時間/周期ピークのところでパワーのパーセンテージとして測定された。
【0084】
図14では、パネルAから、食塩水を注射するという、動物の内因性活動にとっての妨げが、注射前及び注射後の日に対するP22−26のパワーのパーセンテージを減少させるのに充分であったことが分かる。従って、パネルBで示すような活動の変化はMPTP注射期間によるものとして説明できない可能性がある。食塩水の注射では、注射後期間のP22−26の変化は生じていない(一例はパネルC)。対照的に、150及び300mg/kg用量の結果(図15を参照されたい)、P22−26の抑制が著しく見られたが、これも12日目から20日目の間に回復している(パネルB及びD)。
図15から、食塩水及び37.5又は75mg/kgのMPTP注射では、対照となる注射前期間のそれからはP22−26の移動活動は大きくは変化しなかったことが分かる(誤差棒はプールした対照活動の+/−1標準偏差を示す)。
対照的に、P22−26のピーク時パワーは、150又は300mg/kgのMPTP処置後5日間で中間対照値の20から60%に減少しており、中間日20日目までには正常に戻っていた。
150mg/kgのMPTP又は食塩水を処置した第二群の動物をTH免疫細胞化学に向けて殺し、MPTP注射後5日、10日、15日、20日及び60日目の時点でアビジン共役カラシペルオキシダーゼ及びジアミノベンジジンで断片を視覚化した。パラホルムアルデヒドで潅流した脳を正中線に沿って二分割し、食塩水を注射した動物及びMPTPを注射した動物から採った二分の一部分を、表面標識構造がロンギテューディナル・レジスター(原語:longitudinal register)にくるよう、ティシュ・テックを用いて互いに接着した。両方の動物のSNcを調べられるよう、連続する10μmの断片を脳幹を通って採取し、食塩水動物及びMPTP動物のSNcニューロンがすぐ隣に来て同じような濃度の抗体及び試薬に暴露するようにした。パネルA及びパネルB(図16)は5日目及び20日目における接着された脳のSNc断片を表す。
【0085】
図17のパネルAは、全核にわたって採取された、NPTP処置後のTH+SNc及びVTAニューロン体細胞の計数を、対応する食塩水注射動物の中間計数のパーセンテージで表したものである(誤差棒は標準偏差)。5日目から20日目にかけて検出可能なTH免疫反応性を持つSNc体細胞数が次第に減少しているが、20日目後は、TH+体細胞数は明らかに維持されていることに注目されたい。パネルB、C及びDは食塩水注射した動物及びMPTP注射した動物の線条体DA及びDOPACの濃度を表す。線条体DA濃度が正常レベルに回復する時間経過と、図15の移動活動の回復の時間経過との類似性を注目されたい。DOPAC/DA比は、MPTP注射した動物では5から10日目に渡って著しく増加し急速に減少した後、食塩水注射した動物の約2倍の一定レベルで維持されることを示している。
コンピュータ光学密度(OD)システムを用いて、接着した脳断片から無作為に選び出したSNc及びVTA体細胞のすぐ隣り合う組織における、体細胞の細胞質TH免疫反応性及びバックグラウンド免疫反応性を測定した(Tatton,W.G.et al.Brain Res.1990,527,21.32)。各細胞ごとに、単位面積当りのバックグラウンドODを単位面積当りの体細胞ODから減算して、単位面積当りの細胞質のTH免疫密度を試算した。各接着断片の食塩水を注射した二分の一部分の中間バックグラウンドODを用いて、MPTPバックグラウンドOD、食塩水OD及びMPTP細胞質ODの数値を正規化した。図17は、この正規化したバックグラウンドと、食塩水又は150mg/kgのMPTPを注射後5日目から20日目のTH+SNc体細胞の細胞質測定値との分布を表す。接着した脳を用いたこの研究及びその他の研究において、食塩水注射した二分の一片とMPTP注射した二分の一片とでバックグラウンド値に大きな違いはなかった(p<0.05)ため、細胞質値について有効な比較を行うことができた。食塩水注射した動物の対照分布は、しばしば、SNc体細胞について二峰性分布するTH免疫密度を呈しており、バックグラウンドレベルは0.5から6倍、最頻値はバックグラウンドレベルが約2及び4倍のところにある。
【0086】
5日間の間に、MPTP処置したSNc及びVTA体細胞の細胞質TH免疫密度が著しく減少しており、その後、注射後20日で食塩水対照群の分布にほぼ近い分布にまで次第に回復している(図17及び18)。MPTP処置後のSNc及びVTAニューロンのTH免疫密度の回復は、線条体DA濃度及び移動活動の回復に平行している。
本発明者たちは、高速フーリエ変換を用いたスペクトル分析技術を、MPTP処置したマウスの長期間移動活動の分析に適合させた。これにより、最近の取り扱い又は観察者がいることで生じてきた動物の主観的評価に頼らない、感受性が高く、しかも再現可能なデータを提供することができる。そもそも、ラット及びマウスのSNcニューロンは毒素に対して抵抗性があるという見解を理由に、MPTPはげっ歯類において運動欠陥を生じないと言われていた。これは、MPTP語の線条体ドーパミンの過渡的変化のみを報告した神経化学データに概ね基づいていた(Ricuarte,G.A.et al.Brain Res.1986,376,117-124,and Walters,A.et al.,Biogenic Amines 1984,1,297-302)。他の研究者は、高用量の毒素を処置されたマウスにおいて四肢の運動の遅滞、異常歩行及び移動活動の慢性的減少を報告しているが、これは、線条体DA濃度の変化が維持されたことと相関関係にあるように思われる(Duvoisin,R.C.et al.In Recent Development in Parkinson'sDiseases;S.Fahn et al.Raven Press:New York,1986:p.147-154,Heikkila,R.E.,et al.Science 1984,224,1451-1453,Heikkila,R.E.et al.Life Sci.1985,36,231-236)。MPTP後のげっ歯類移動活動の変化を測定した以前のものは、残念ながら、短期間(Saghal A.,et al.Neuroscl.Lett.1985,48,179-184)であるか、又は短期隔離されただけの測定(Willis,G.L.,et al.Brain Res Bull 1987,19,57-62)である。今日までのところ、ネコ(Schneider,J.S.,et al.Exp Neurol 1986,91,293-307)、マーモセット(Waters,C.M.,et al.Neuroscience 1987,23,1025-1039)又はげっ歯類(Chiueh,C.C.,etal.Psychopharmacol.Bull.1984,20,548-553,andJohannessen,J.M..et al.Life Sci.1985,36,219-224)を含め、様々なMPTPモデルで観察されてきた行動の回復に対して満足な説明はなされていない。
【0087】
P22−26ピーク下でのパワーで測定される移動活動、SNc及びVTA体細胞中の線条体DA濃度及びTH免疫密度は、MPTP処置後にこれらが正常へ回復するという点で相関関係にある。検出可能なTH免疫反応性を持つSNc及びVTA体細胞数はMPTP処置後、最初の20日間かけて安定状態レベルまで減少する。従って、線条中のドーパミン含有量は、検出可能なTH含有量を持つSNcニューロン及びVTAニューロンが減少している間に増加している。DOPAC/DA比の急速な上下は、おそらくは線条中のDA末端が死んでDAが細胞外空間へと消失していくことに関係があるであろう。しかしながら、この比は15日目以降は増加レベルで維持されるため、DA合成は、MPTPへの暴露から生き延びたSNcニューロン中で増加すると示唆した先の発見が裏付けられている。
SNc及びVTAニューロンの体細胞中のTH免疫密度の測定値は、おそらく、TH濃度の線形推定値とはならない。ペルオキシダーゼ反応の利用により、細胞質中の二次抗体−アビジン錯体の数を線形に推定することはできよう(Reis,D.J.et al.In Cytochemical Methods in Neuroanatomy Alan R.Liss,Inc.:New York,198;p.205-228)が、本発明者の多クローン性抗体の、そして一次及び二次抗体間の免疫反応の親和定数からは、エピトープの濃度とアビジン分子の濃度との間に線形関係があるとはならないであろう。それでも尚、この結果はおそらくは、MPTPへの暴露を生き抜いたVTA及びSNcの体細胞中のTH濃度に回復があることを示すであろう。TH免疫密度の回復は線条体DA含有量の増加に平行するが、これは、TH合成の回復が、DA含有量の回復の、そしておそらくは個々の生存ニューロンにより増加したDA合成のファクタであることを示唆している。
【0088】
げっ歯類における新線条体ドーパミン作動性及びその他のカテコールアミン作動性系が、移動活動の生成に関係づけられてきた(Tabar J.,et al.Pharmacol Biochem Behav 1989,33,139-146,Oberlander,C.,et al.Neurosci.Lett.1986,67,113-118,Melnick,M.E.et al.17thAnnual Meeting Of The Society For Neuroscience,New Orleans,Lousiana,USA,November 1987,13,Marek,G.J.,et al.Brain Res 1990,517,1-7,Rostowski,W.,et al.Acta Physiol.Pol.1982,33,385-388,Fink,J.S.Smith,G.P.J.Comp.Physiol.Psych.1979,93,24-65)。しかし今尚、SNc又はVTAニューロンの特定の役割は不明である。従って、移動活動に対して、SNcの回復及び線条体パラメータの回復が相関付けられたとしても、必ずしも因果関係を意味するものではない。しかしながら、MPTPは多種のカテコールアミン作動系において同じようなTH+ニューロンの消失を引き起こす(Seniuk,N.A.et al.Brain Res.1990,527sp.7-20)ことから見て、これらの系の伝達物質関連機能が、SNc及びVTAドーパミン作動性ニューロンについて我々が示してきたのと同じような回復を行うことが、行動上の回復の根底になっているのではないかと本発明者たちは示唆してきた。DA合成の回復は、MPTPへの暴露を生き抜いたSNcニューロンが彼らの仲間の埋め合わせをしようとすることを意味するものかも知れないが、それはなぜなら、この埋め合わせの成分は回復に関係し、さらにMPTPへの暴露から生き延びたニューロン中のチロシン水酸化酵素の合成の増加に関係しているからである。
【0089】
例4
デプレニルが、例えばラットの運動ニューロン等、その他の軸索損傷ニューロン表現型の死を減少させることができるかを調べるべく、実験を行った。軸索切断後に死ぬラットの運動ニューロンの比率は生後4日間の間が最高であり(89から90%が消失)、その後3から4週間で成体レベル(20から30%の消失)に減少する(Sendtner et al.Nature,345,440-441,1990,Snider W.D.and Thanedar,S.J.Compl.Neuro 1,270,489,1989)。生後14日のラツトの二つの群(n=6)にその片側顔面神経にトランスジェクション(損傷)を与え、一方、二つの群には損傷を与えなかった(損傷なし)。対になった損傷あり及び損傷なし群に食塩水、デプレニル(0.01及び10mg/kg)、パルジリン(10mg/kg)を一日おきに処置した。このラットを軸索切断から21日目に殺し、顔面核の高さにある脳幹の冠状組織断片を、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)免疫細胞化学(ここに参考文献として編入することとするTatton et al,Brain Res.527:21,1990)及びニッスル染色(ここに参考文献として編入することとするSeniuk et al.,Brain Res.527;7,1990:Tatton et al.Brain Res.527:21,1990)に向けて処理した。
【0090】
具体的には、二つの群の生後14日のスプラーグ・ドーリーラットにハロタン−笑気麻酔をかけて右側顔而神経を茎乳突孔への出口で離断し、別の二つのグループは未施術のままとした(各群はn=6)。施術の日より、損傷あり及び損傷なし群に10mg/kgのデプレニル腹腔内投与を死亡させるまで一日おきに行った。他方の損傷有り及び損傷なし群には食塩水で同一の注射を行った。離断から21日後にラットを過量の麻酔剤で殺した後、等張食塩水及びリン酸緩衝液中4%のパラホルムアルデヒドで潅流した。損傷なし群から採った脳を正中線に沿って縦方向に二分割し、食塩水処置した動物及びデプレニル処置した動物から採った二分の一の脳を、表面標識構造が合致するようにティシュ−テックを用いて互いに接着した。損傷なしの動物の接着した脳、及び、損傷有りの動物のそのままの脳を−70℃のメチルブタン中で凍結させ、10μmの連続断片を、顔面神経核を含む髄質部分を通って切断した。三つ目毎の断片をChATに対する多クローン性抗体に反応させた後、ビオチニレーテッド(原語:biotinylated)二次抗体と共にインキュベートし、その後HRP共役アビジンと共にインキュベートして最終的にはジアミノベンジジン及び過酸化水素と反応させた(Tatton et al,BrainRes.527:21,1990)。接着した二分の一片の脳の対になる断片は、デプレニルと食塩水処置した損傷なし対照群の間で、抗体又は試薬の浸透又は暴露が異なることを原因とする免疫反応性の差が生じないようにするためであった。
【0091】
さらに、上述の手続きを用いて以下の実験も行った。
生後14日のラットの一群にその片側顔面神経に離断(損傷)を与え、一方、いくつかの群には損傷を与えなかった(損傷なし)。対になった損傷あり及び損傷なし群に食塩水又はデプレニル(10mg/kg)を一日おきに処置した。このラットを殺し、ここで説明する方法でChAT免疫化学法を行った。
生後14日のラットの一群にその片側顔面神経に離断を与え、10mg/kgのデプレニルを一日おきに21日間処置した。動物を生後35日及び65日で殺し、ここで述べる方法でChAT免疫化学法を行った。
生後1日のラットの一群にその片側顔面神経に離断を与え、食塩水又はデプレニル(10mg/kg)で一日おきにデプレニルを処置した。動物を生後8日で殺し、ここで述べる方法でChAT免疫化学法を行った。
図19は、顔面神経の離断と同側にある顔面神経核を通って切断した、隣接するChAT免疫反応性(A1及びB1)断片及びニッスル染色(A2及びB2)
断片の顕微鏡写真を示す。A1及びA2は食塩水処置した動物のもの、そしてB1及びB2はデプレニル処置した動物のものである。
【0092】
図20は、異なる損傷及び処置群の顔面神経のChAT+体細胞の計数を示す棒グラフである(棒−中間値、誤差棒−標準偏差)。核の輪郭を含んだChAT免疫反応性体細胞を、全顔面神経核から連続して採取した断片の三つ目毎に計数した。各棒の一番上に記載した数値は中間値である。同側損傷及び反対側損傷とは、それぞれ顔面神経の離断があった側に同じ側及び反対側に核があったことを示すものである。計数は顔面神経核中のChAT+体細胞数の合計を推定すべく調節してはいないため、損傷なし群の数はニッスル染色した体細胞数について報告された数値の約3分の1である。これら数値は、マン・ホイットニーUテストを用いて対を考える方法で統計学的に比較した。
図20に示すように、顔面神経核の全長に渡って三番目毎にある連続断片のChAT免疫陽性(ChAT+)体細胞の数は、損傷なし−食塩水群及び損傷なし−デプレニル群と統計学的に同じ(p=0.520)であった。対照的に、このChAT+体細胞数は、顔面神経離断があった側に同じ側(23.8%損傷なし−食塩水、p=0.003)及び反対側(82.2%、損傷なし−食塩水、p=0.024)にある顔面神経核の損傷あり−食塩水群では著しく減少していた。デプレニル処置により、同側損傷顔面神経核(52.7%損傷なし−食塩水p=0.004)のChAT+体細胞数は二倍以上に増加しており、反対側神経核のChAT+数の減少を防止しており、これらは損傷なし群と統計学的には同じであった(p=0.873)。
【0093】
図21は、隣接断片のニッスル/ChAT+計数を同時に示した表である。ChATに対して免疫反応性である断片の間にある断片の各対の一方はニッスル染色していた。カメラ・ルシダを用い、ChAT+体細胞数、及びニッスル染色した核小体を含む(基準はOppenheim,R.W.J.Comp.Neurol.246:281,1986に基づく)体細胞数を、各動物のそれぞれの核の長さを通じて無作為に選択された20の断片の隣接する断片の適合する区域で計数した。次に、プールされた各損傷あり−処置群のうち三匹の動物から採った隣接断片の数値について、ニッスル計数をChAT+計数に対して作表した。ニッスル及びChAT体細胞数の比較を行って、免疫反応性体細胞の数の減少が、運動ニュ−ロンの死又は免疫反応性の消失のいずれを反映しているかを調べた。
損傷なし群のニッスル体細胞/ChAT体細胞数を同時に示した表(図21)では、食塩水(ニッスル27.6+/−12.04、ChAT+27.3+/−13.80、p=0.526、同じ群のニッスル及びChAT計数は対tテストを用いて比較した)及びデプレニル群(ニッスル28.9+/−13.2、ChAT28.5+/−13.8、p=0.641)で、同じような中間値及び標準偏差があり、等値対角線の周りに線対称に分布していることが分かる。同側損傷有り−食塩水動物(図21)では、両方の計数はより低く、等値対角線に対して非線対称に分布しており(ニッスル値がより高い数値にずれていることを矢印で示した)、ChAT+数(9.7+/−4.0、p=0.001)に比較してニッスル数(12.6+/−4.18)の中間値がより高いことにも反映されている。損傷有り−デプレニル点(図21B)は食塩水の点よりも減少が小さく、等値対角線の周りに線対称に分布していた(ニッスル17.6+/−6.5、ChAT+17.5+/−6.1、p=0.616)。最後に、反対側損傷動物(図21C)の表では、食塩水群(ニッスル24.6+/−10.1、ChAT+24.8+/−10.7、p=0.159)及びデプレニル群(ニッスル28.9+/12.1、28.5+/−12.0、p=0.741)の両方の点とも、等値対角線に対して線対称に分布している。
【0094】
このように、等値対角線の上方にニッスル/ChAT+合同表が分布しており、同側損傷あり−食塩水動物(図21)のニッスル及びChAT+計数を同時に表した表の間に大きな違いがあることは、図20に示したChAT+体細胞数の減少のうち約84%が運動ニューロンの死を原因とするものであり、一方ChAT免疫反応性の消失のみで引き起こされたのは、ChAT+運動ニューロンの減少のうち約16%であったことを示していた。この同時に表された計数から、さらに、反対側の核から失われたChAT+体細胞の消失はすべて、運動ニューロンの死を原因とするものであることが分かる。最も重要なことは、この合同計数により、デプレニル処置が、運動ニューロンの死を大きく減少させると共に同側の核の生存運動ニューロンのChAT免疫反応性の消失を反転又は防止したことが実証されることである。さらにそれは反対側の核の運動ニューロンの死も防止したのである。
【0095】
図22は、生後14日で片側軸索切断を行ったラットの生後35日の時点の顔面運動ニューロンのChAT+計数を示す。この図から、軸索が離断された運動ニューロン(IPSI離断)の救助があったこと、そして脳幹の反対側で死ぬ顔面運動ニューロン(反対側離断)のうち少数が同時に救助されたことが分かる。
図23は、図20に示したデータを表にしており(棒グラフの一番左の二つのグループ)、いくつか別の動物(群の大きさは6から8以上に増加した)から採取したデータも含む。さらにこの図は、パルジリンが運動ニューロンを救助することも示す(斜線を施した棒、群がp<0.05では異なるためにおそらくはデプレニルより弱い)。さらに、MPTPモデルで用いられた0.01mg/kg用量と同様、0.01mg/kg用量のデプレニルは運動ニューロンを救助する際に10mg/kgのデプレニルと効果が等しいことが判明した。
14日目で損傷を与え、その後21日間10mg/kgのデプレニルを処置し(d14−35)た後、生後65日まで未処置のままにした動物ではさらなる運動ニューロンの死は見られない(左から三番目の群の棒グラフを、デプレニル処置を続行中のまま生後35日で殺した第二群の対応する棒グラフに比較されたい)。これにより、軸索切断した運動ニューロンでは救助は永久であること、つまり、デプレニル処置を21日目以降取りやめても運動ニューロンの死が開始せず、その30日間の間にもさらなる死がないことが分かる。
【0096】
図23はさらに、生後1日の時点で軸索を離断したラットの運動ニューロンは14日の運動ニューロンよりも死ぬ量が多く、デプレニルで救助できないことを示す。従って、デプレニルが効果を持つにはその前に何らかのファクターが神経系で成熟せねばならず、そのファクターは生後1日から14日の間に現れると考えられる。
これは、デプレニルが運動ニューロンの死を防ぐことができるという最初の証拠であり、デプレニルが軸索切断により損傷したニューロンの死を減少させられることを示した研究と一致するものである。未成熟のラットにおいて軸索切断した運動ニューロンの死は、運動ニューロンが自らの剌激する筋肉からの栄養補給に依存している状態を反映していると考えられる(Crews,L.and Wigston,D.J.;J.Neurosci 10,1643,1990;上述のSnider,W.D.and Thanedar,S.)。この考えを裏付けるように、最近の研究では、いくつかのニューロン栄養ファクターにより運動ニューロンの消失を防ぐことができることを示している(Sendtner,M.et al.,Nature 345:440,1990)。この研究は、デプレニルには、目標由来の栄養物質の消失を補う何らかのメカニズムを活性化する能力があることを示している。神経変性疾患におけるデプレニルの働きの一部には、栄養補給の減少のための同様の補償作用を反映したものかも知れない。
【0097】
顔面神経離断の反対側にある顔面神経核における運動ニューロンの死が少量であるという発見は、運動神経の離断とは反対側にある無損傷の神経中の軸索の数が減少するという以前の報告(Tamaki,K..Anat.Rec.56,219,1933)や、反対側の核におけるその他様々な変化に関する報告(Pearson,C.A.et al.Brain Res.463,1988)と一致する。デプレニルは反対側の運動ニューロンの死を完全に防止するのである。
軸索切断により、顔面運動ニューロン中のたんぱく質合成に過渡的な変化が起きる(Tetzlaf,W.et al.Neuro Sci.8,3191(1988))が、その変化の中にはコリンアセチルトランスフェラーゼの減少がある(Hoever,D.R.&Hancock,J.C.Neuroscience 15,481,1985)。ChAT免疫反応性を失った同側の核(16%)中の食塩水処置した運動ニューロンの比率が小さいことは、おそらく、免疫化学的に検出可能になるまで充分にChAT濃度を回復できなかった生存運動ニューロンを反映するものであろう。デプレニルは、生存運動ニューロン中のChAT免疫反応性の消失を防止又は反転させていた。
【0098】
デプレニル用量(10mg/kg)はMAO−B活性の大半、そしてMAO−A活性のいくらかを遮断するには充分であった(Demarest,R.T.,Aazzaro,A.J.in Monoamine Oxidase:Structure,Function and Altered Functions(eds.Singer,T.P.,Korff,R.W.and Murphy,D.L.)423-340,Academic Press,New York,1979)ため、運動ニューロンの死の減少は、MAO−B又はMAO−Aの阻害作用が原因かも知れないし、両酵素からは独立のものかも知れない。しかしながら、0.01mg/kgのデプレニル用量は、10mg/kg用量で得られるのと同様な運動ニューロンの死の減少をもたらすと期待される。0.01mg/kg用量では著しいMAO−A又はMAO−B阻害作用は生じないことから、0.01mg/dgのデプレニルによる救助はMAO−A又はMAO−B阻害作用が原因ではないことが分かる。(例2を参照されたい)。このように、運動ニューロンの死の減少はMAO−B又はMAO−Aからは独立したものである公算が大きい。
【0099】
最近の研究では、MAO−阻害物質は後線条体ニューロンへの動脈による血液供給が一時的に遮断された後にこのニューロンに起きる壊死を減少させるにはデプレニルよりも効果的であろうと示されている(Matsui,Y and Kamagae,Y.,Neurosci.Lett.126,175-178,1991)。しかしながら、マウスにおいて、MAO−A阻害作用を生じるには低すぎるがMAO−Bの20−75%の阻害作用を生じるには充分であるデプレニル用量(0.25mg/kg)は、SNcニューロンの死を防ぐには10mg/kg用量と同じ効果がある。MAO−Bは、いくつかのセロトニン作動性ニューロン及びヒスタミン作動性ニューロンに存在するのはたしかだが、グリア細胞中に概ね集中している(Vincent,S.R.Neurosci 28,189-199(1989):Pintnri,J.E.et al.Brain Res.276,127-140,1983)。近くの運動ニューロンに関わる軸索切断に対し、小神経膠細胞は増殖反応を示し、大グリア細胞はたんぱく質合成の増加により反応するため、デプレニルで誘発するニューロン死の防止にはグリア細胞が関係しているのかも知れない。
【0100】
例5
マウスSNCニューロンの年齢に関係した死
Tatton W.G.et al Neurobiol.Aging 1991;12:5,543に記載の手続きを用いて、マウスのdSNcニューロンの年齢に関係した死をデプレニルが防ぐかどうかを調べるべく、研究を行った。結果を図24に示す。
図24に示すように、デプレニルはマウスdSNcニューロンの年齢に関係した死を防止しない。
【0101】
例6
以下の式(化7)を有するN−(2−アミノエチル)−4−塩酸クロロベンズアミドを、米国マサチューセッツ州ナティック、のリサーチ・バイオケミカルズ・インコーポレイテッド(Cat番号R−106、番号R016−6491)から入手し、これが末成熟の軸索切断した運動ニューロンを救助するかを調べた。生後14日のラットの一群に片側顔面神経離断を行い、10.5mg/KgCのN−(2−アミノエチル)−4−クロロベンズアミドを一日おきに21日間処置した。このラットを生後35日の時点で殺し、例4で説明したようにCHAT+免疫化学法を行った。
【0102】
【化7】
【0103】
図25は、図23に示したデータを含むと共に、N−(2−アミノエチル)−4−クロロベンズアミドを処置した動物から得たデータも含む。
図25に示すように、この化合物は未成熟の軸索切断した運動ニューロンを救助しなかった(図25)。この化合物はデプレニル及びパルジリンのアルキニル末端を持たないため、MAO−Bのフラビン部分の異なる部分に結合又は結び付くのではないかと考えられることに留意されたい。プロパルジル基の結合は永久である(MAO−B阻害作用は反転不能)が、一方、N−(2−アミノエチル)−4−クロロベンズアミドの結合は反転可能であり、短命である。
【0104】
例7
デプレニルの(+)異性体及び(−)異性体を調べて、未成熟な軸索切断した運動ニューロンの救助が立体特異的かどうかを判定した。生後14日のラットの一群に片側顔面神経離断を行い、デプレニルの(−)異性体又は(+)異性体を0.1mg/kg、一日おきに21日間処置した。このラットを生後35日の時点で殺し、例4で説明したようにCHAT+免疫化学法を行った。図25に示すように0.1mg/kg用量の(+)デプレニルは運動ニューロンを救助しない。救助は(−)異性体に対して立体特異的であると見られる。このように、(+)デプレニルはプロパルジル成分を持つにも関わらず、分子のキラル中心の形状が、救助を開始する分子部位への結合に影響があるのかも知れない。
【0105】
例8
動物の拍動モデルにおけるデプレニルの影響を調べるべく研究を行った。ラットに一酸化炭素を処置し、グルコースを静脈投与した。次に頸動脈をクランプしてデプレニルをこの動物に投与した。次にクランプを解除して動物の拍動を起こさせた。クランプの解除から30分後に、未処置の動物の一群にもデプレニルを投与した。上述したように脳の連続断面で陽性ニューロンを調べた。デプレニルは、特に海馬において、ニューロンの死を減少させ、損傷区域を小さくすることが判明した。
【0106】
均等物
当業者であれば、ごく通常の実験を行うことにより、ここに説明した本発明の特定の実施例の均等物を数多く認識又は確認できるであろう。このような均等物は以下の請求の範囲の包含するところとして意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】L−デプレニル、クロルジリン及びパルジリンの公知の分子構造の比較図である。
【図2】MPTP投与後の緻密黒質(原語:substantia nigra compacta)(SNc)中のチロシン水酸化酵素免疫陽性(TH+)ニューロンの数を示すグラフである。
【図3】食塩水のみを処置した動物(A1,A2,A3)、MPTP−食塩水を処置した動物(B1,B2,B3)及びMPTP−デプレニルを処置した動物(C1,C2,C3)のすぐ隣り合う断片の対応する区域にあるTH+及びニッスル染色した体細胞の数を、MPTP処置後20日の時点で各群のうち3匹の動物からデータをプールして同じ表に示したものである。
【図4】プールしておいた食塩水対照群の0日、3日、5日、10日、15日及び20日の時点のニッスル/TH+を同じ表に示したものである。
【図5】MPTP処置完了後0日、5日、10日、15日及び20日の時点で食塩水対照群について累計をとったニッスル/TH+を同じ表に示したものである。
【図6】1日目から60日目に渡る間の、食塩水による中間値に対するニッスル染色した体細胞のパーセンテージとTH+免疫反応性体細胞のパーセンテージとのグラフを重ね合わせて表したものである。
【図7】核全体を通じて連続して一つ置きに10ミクロンずつ採った断片から得た個々の代表的SNc核についてTH+SNCニューロンの累計対断片数を示すグラフである。
【図8】MPTP処置マウス、MPTP−食塩水処置マウス及びMPTP−デプレニル処置マウスについて、中間値及びSEM値を示すグラフである。
【図9】核の頭から尾までの長さに沿ったSNCニューロンのTH+体細胞数を示すグラフである。
【図10】食塩水処置動物、MPTP処置動物、MPTP−食塩水処置動物、MPTP−クロルジリン処置動物及びMPTP−デプレニル処置動物のTH+体細胞の中間補正値を、これら多種の処置を施した時点を表す表と共に示したグラフである。
【図11】デプレニル(0.25mg/kg又は0.01mg/kg)の一回目の投与後24時間(d4)と18日後(d22)との時点におけるMAO−A測定値及びMAO−B測定値を示す棒グラフである。
【図12】MPTPを注射したマウスの移動活動のスペクトル分析を示す。
【図13】食塩水を注射したマウスから得たLD及びDD注射前対照期間からの高解像度スペクトルを示す。
【図14】対照マウス及びMPTPマウスの高解像度パワー・スペクトルを示す。
【図15】正規化した合計%ピーク・パワー対中間日を示すグラフである。
【図16】MPTP又は食塩水を処置した動物から採った脳を接合したもののSNc断片を示す。
【図17】A、B、C及びDは、食塩水を注射したマウス及びMPTPを注射したマウスについて、すべての核から得たMPTP処置後のTH+、SNc及びVTAニューロン体細胞の数を、(A)対応する食塩水注射動物に対するその中間値のパーセンテージ、(B)線条体DAの濃度、(D)線条体DOPACの濃度及びDOPAC/DA比で表したグラフである。
【図18】食塩水のバックグラウンドに対する中間OD/中間O.D.対MPTP注射後日数を示すグラフである。
【図19】同側顔面神経核を通って顔面神経の横断面に至る隣り合うChAT免疫反応(A1及びB1)断片及びニッスル染色(A2及びB2)断片の顕微鏡写真を示す。
【図20】異なる損傷及び処置群の顔而神経核のChAT+体細胞の計数を示す棒グラフである(棒−中間値、誤差棒−標準偏差)。
【図21】損傷なし群(図14A)、同側損傷−食塩水動物(図14B)、損傷あリ−デプレニル動物(図14B)、及び反対側損傷あり動物(図14C)のニッスル/ChAT+計数を同じ表に示したグラフである。
【図22】生後14日で片側軸索切断を行なった生後35日のラットの顔面運動ニューロンのChAT+計数を示す。
【図23】図20に示したデータを示すと共に、更に別の動物に関するデータを含む。
【図24】デプレニル処置後のTH+SNc体細胞の計数を示す。
【図25】図23に示したデータを示すと共に、N−(2−アミノエチル)−4−クロロベンズアミドを処置した動物から得たデータを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デプレニル化合物の容器と、損傷した神経細胞を持つ患者に対し、その患者において損傷した神経細胞の救助が行われるよう、治療上効果的な量のデプレニル化合物を投与する旨の指示書とを含む器具であって、デプレニル化合物が、下記化1の構造、
【化1】
で表され、
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は一重結合、アルキレン、又は−(CH2)n−X−(CH2)mであり、
ただしこのときXはO、S又はN−メチル、mは1又は2、及びnは0、1、又は2であり、
R4はアルキル、アルケニル、アルキニル、複素環、アリール、又はアラルキルであり、
R5はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン及びアルコキシレンであり、
R6は
−C≡CHであり、
あるいは、R2及びR4−R3は結合して、これらが結び付いたメチンと共に環
式又は多環式の基を形成しており、
及び薬学上容認可能なその塩であり、
但しその際、デプレニル化合物はデプレニル、パルジリン、AGN−1133、又はAGN1135のいずれかから選択されるものではないことを条件とする、
器具。
【請求項2】
デプレニル化合物の容器と、損傷した神経細胞を持つ患者に対し、その患者において損傷した神経細胞の救助が行われるよう、治療上効果的な量のデプレニル化合物を投与する旨の指示書とを含む、
請求項1に記載の器具。
【請求項1】
デプレニル化合物の容器と、損傷した神経細胞を持つ患者に対し、その患者において損傷した神経細胞の救助が行われるよう、治療上効果的な量のデプレニル化合物を投与する旨の指示書とを含む器具であって、デプレニル化合物が、下記化1の構造、
【化1】
で表され、
ただし同式において、
R1は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、又はアリールオキシカルボニルであり、
R2は水素又はアルキルであり、
R3は一重結合、アルキレン、又は−(CH2)n−X−(CH2)mであり、
ただしこのときXはO、S又はN−メチル、mは1又は2、及びnは0、1、又は2であり、
R4はアルキル、アルケニル、アルキニル、複素環、アリール、又はアラルキルであり、
R5はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン及びアルコキシレンであり、
R6は
−C≡CHであり、
あるいは、R2及びR4−R3は結合して、これらが結び付いたメチンと共に環
式又は多環式の基を形成しており、
及び薬学上容認可能なその塩であり、
但しその際、デプレニル化合物はデプレニル、パルジリン、AGN−1133、又はAGN1135のいずれかから選択されるものではないことを条件とする、
器具。
【請求項2】
デプレニル化合物の容器と、損傷した神経細胞を持つ患者に対し、その患者において損傷した神経細胞の救助が行われるよう、治療上効果的な量のデプレニル化合物を投与する旨の指示書とを含む、
請求項1に記載の器具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2008−260782(P2008−260782A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166510(P2008−166510)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【分割の表示】特願平9−528015の分割
【原出願日】平成9年2月7日(1997.2.7)
【出願人】(508192234)ザ ユニバーシティ オブ トロント イノベーション ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【分割の表示】特願平9−528015の分割
【原出願日】平成9年2月7日(1997.2.7)
【出願人】(508192234)ザ ユニバーシティ オブ トロント イノベーション ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】
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