神経障害を治療するための組成物および方法
【課題】神経障害(有害なタンパク質の凝集、異常なタンパク質の折り畳みに関連する神経変性障害(脳アミロイド形成疾患など)および/またはアルツハイマー病などの神経変性自己免疫障害および多発性硬化症など)の有効な治療方法の提供。
【解決手段】プロテオソームベースの組成物と共に治療有効量の(サブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョンである)酢酸グラチラマー(GA)を投与する工程を含む、および該GA含有組成物の使用。
【解決手段】プロテオソームベースの組成物と共に治療有効量の(サブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョンである)酢酸グラチラマー(GA)を投与する工程を含む、および該GA含有組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府によって支援された研究および開発の下で行われた発明に対する権利に関する陳述)
本発明は、Department of Health and Human Servicesによって授与された助成金の下で、政府の支援を受けて行われた。
【0002】
(関連出願の引用)
本出願は、2004年6月25日出願の米国仮特許出願第60/582,999号(その全体が記載されているかのように、本明細書に参考として援用される)の優先権の利益を主張する。
【0003】
(発明の分野)
神経障害(有害なタンパク質の凝集、異常なタンパク質の折り畳みに関連する神経変性障害および/または神経変性自己免疫障害(脳アミロイド形成(amylogenic)疾患など)が含まれる)の治療に有用な組成物を記載する。前記組成物の使用方法も記載する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
神経疾患は、一般に、1つまたは複数の中枢神経系領域由来のニューロンの喪失によって特徴づけられる。神経疾患の例には、アルツハイマー病、神経線維腫症、ハンチントン病、うつ病、筋萎縮性側索硬化症、多発性軟化症、脳卒中、パーキンソン病、および多発脳硬塞性痴呆が含まれる。これらは、起源および進行の両方が複雑であり、最も治療が困難な疾患型のいくつかであることが判明している。実際、いくつかの神経疾患について、有意な治療上の利点が得られる利用可能な薬物は存在しない。治療が困難であることは、これらの疾患がその犠牲者に与える破滅的影響を考えると、一層悲劇的である。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、重度の精神衰退を引き起こし、最終的には死に至る、記憶、認知、推理、判断、情動安定性の進行性の喪失によって臨床的に特徴づけられる変性脳障害である。ADは、高齢者における精神不全(mental failure)(痴呆)の非常に一般的な原因であり、米国における4番目の最も一般的な医学的死亡原因に相当すると考えられている。ADは、世界中の全ての人種および民族で認められており、主な現在のおよび将来的なさらなる公衆衛生問題となっている。この疾患は、現在、米国のみで約400万人の個体に影響を与えていると見積もられている。ADは、現在、治癒不可能である。一定の治療薬の投与を使用して、ヒトのADの症状を処置している。しかし、ヒトのADを有効に防止するかその症状または経過を逆転させる治療は現在のところ知られていない。
【0006】
AD個体の脳は、老人斑と呼ばれる特徴的な病変および神経原線維変化を示す。ADに特徴的な老人斑は、細胞外に最も頻繁に局在する一方で、神経原線維変化は、細胞内に最も頻繁に局在する。多数のこれらの病変は、一般に、AD患者の記憶および認知機能に重要なヒト脳のいくつかの領域で見出される。より限局した解剖学的分布におけるより少数のこれらの病変は、ときおり、臨床的ADではない高齢者の脳で見出される。ADに特徴的な老人斑および血管アミロイド沈着(アミロイド血管症)の主な化学成分は、アミロイド−βペプチド(Aβ)と呼ばれるタンパク質であり、βAP、AβP、またはβ/A4ともいうことができる。Aβを含む細胞外斑は、密集(dense)または散在し得る。密集した斑は、しばしば、線維性斑という。Aβは最初に精製され、非特許文献1で報告された部分的アミノ酸配列である。最初の28アミノ酸についての単離手順および配列データは、特許文献1に記載されている。40個を超えるアミノ酸を有するAβ形態は、非特許文献2によって最初に報告された。
【0007】
神経病理学的に、ADは、様々な程度に、以下の4つの主な病変によって特徴づけられる:a)神経原線維変化(NFT)のニューロン内細胞質沈着物、b)老人斑(neuritic plaque)と呼ばれる実質性アミロイド沈着物、c)脳血管Aβアミロイドーシス(例えば、アミロイド血管症)、ならびにd)シナプスおよびニューロンの喪失。ADの重要事象の1つは、脳血管壁周囲に細胞外老人斑および沈着物が生じる不溶性線維塊(アミロイド形成)としてのアミロイド(例えば、Aβペプチド)の沈着である。老人斑および脳アミロイド血管症の主な構成要素はAβであるにも関わらず、これらの沈着物は、グリコサミノグリカンおよびアポリポタンパク質などの他のタンパク質を含み得る。
【0008】
非特許文献3は、AβのN末端に対するモノクローナル抗体がAβ−ペプチドの既存の集合体に結合して脱凝集し、そして/またはインビトロでの原線維凝集を防止してニューロン細胞培養物に対する毒性を防止することができることを示した。非特許文献4は、アミロイド−βでの免疫により、アミロイド−β沈着およびアルツハイマー病様神経病変の動物モデルとして使用したPDAPPトランスジェニックマウスにおけるアルツハイマー病様病変が軽減することを証明した。彼らは、アルツハイマー病型神経病変の発症前の幼若動物の免疫によってβ−アミロイド斑形成、神経突起ジストロフィ、およびアストログリオーシスの発症が本質的に防止されるのに対して、アルツハイマー病型神経病変の発症後の高齢の動物の処置によってこれらの神経病変の範囲および進行が減少すると報告している。末梢に投与したAβに対する抗体が脳実質性アミロイド負荷を軽減させることが示されているので、この効果は抗体によって媒介される(非特許文献5)。さらに、新たに可溶化したAβ1−40での鼻腔内免疫により、脳アミロイド負荷が軽減される(非特許文献6)。動物モデル系を使用して非特許文献7および非特許文献8によって行われた2つの研究は、ワクチン接種誘導性の脳アミロイド沈着の減少により認知が改善されることを示した。さらなる研究では、同一トピックの種々の態様(非特許文献9および非特許文献10が含まれる)に取り組んだ。Aβワクチン接種がADの動物モデルを使用した種々の研究でいくらか成功していることが示されているにもかかわらず、髄膜脳炎などの副作用が有害および/または受け入れられないほどの高い頻度で生じるので、アジュバント(QS21)中で処方されたAβ1−40/42ペプチドで免疫したヒト臨床研究を終了させた。したがって、ADおよびタンパク質凝集に関連する関連神経変性障害の治療および/または防止のための治療的に許容可能な方法が必要である。
【0009】
自己免疫疾患は、自己組織または自系組織に対する異常な免疫応答によって特徴づけられる。関与する免疫応答型(免疫反応型)に基づいて、哺乳動物の自己免疫疾患を、一般に、以下の2つの異なる型に分類することができる:細胞性(すなわち、T細胞媒介性)または抗体媒介性障害。多発性硬化症(MS)は、T細胞媒介性自己免疫疾患である(非特許文献11)。世界中で1,000,000人を超える30歳と40歳との間の年齢の若年成人がMSに罹っている。MSは、中枢神経系の最も一般的な疾患であり、若年成人の神経障害の最も一般的な原因である。病態生理学的に、自己反応性T細胞の循環が、MS患者で認められる多くの中枢神経系破壊を媒介する(非特許文献12)。
【0010】
MSでは、T細胞は、中枢神経系のミエリンの成分であるミエリン塩基性タンパク質(MBP)と反応する。MBPに特異的な活性化T細胞をMS患者から単離することができることが証明されたことは、MSが、T細胞が自己神経組織または自系神経組織を破壊する自己免疫疾患であるという主張を支持する(非特許文献13)。
【0011】
MSは、現在、一定の抗炎症薬および免疫調節薬で治療されており、このような薬剤には、(i)免疫調節効果および免疫抑制効果の両方を有する副腎皮質ステロイド、(ii)インターフェロン−β、(iii)酢酸グラチラマー(GA)、(iv)アザチオプリン(細胞性免疫および体液性免疫の両方を抑制するプリンアナログ)、(v)静脈内免疫グロブリン、(vi)ジヒドロ葉酸還元酵素を阻害して細胞性免疫および体液性免疫を抑制するメトトレキセート、(vii)シクロホスファミド(細胞傷害効果および免疫抑制効果を有するアルキル化剤)、および(viii)T細胞活性化による強い免疫抑制効果を有するシクロスポリンが含まれる。このような抗炎症薬または免疫抑制薬を使用した治療にもかかわらず、50%を超えるMS患者は、脊髄、小脳、および大脳皮質の局所性破壊の結果として確実に悪化する。
【0012】
MS治療のために現在使用されている多くの薬物は、部分的に長期的有効性が制限されており、これは、これらの薬物の細胞傷害効果が高いためである。例えば、シクロホスファミドでの長期治療により、脱毛症、悪寒、嘔吐、出血性膀胱炎、白血球減少症、心筋炎、不妊症、および肺間質線維症を生じ得る。免疫抑制薬での治療により、最終的に、処置患者で「完全な」免疫抑制が誘導される可能性があり、感染症のリスクが非常に高まる。長期の完全な免疫抑制に供された患者は、悪性疾患、腎不全、および糖尿病などの治療由来の重症合併症を発症するリスクが増加する。
【0013】
MS治療の別のアプローチは、MSに関連し得るT細胞免疫応答を調整するためのMBPの静脈内投与または経口投与の使用である。MBPまたはMBPの免疫優性エピトープを含むフラグメントの静脈内投与により、クローンアネルギーまたはMBPに特異的なT細胞を不活化するT細胞の非応答性によって免疫系が抑制される。最終結果として、MBP特異的T細胞がもはやMBPに応答して増殖しなくなる。T細胞が増殖できないことにより、神経組織のT細胞媒介性破壊が減少する。
【0014】
MS治療で使用されるMBPの免疫化学的アナログは、酢酸グラチラマー(GA)またはコポリマー−1(COP−1)である(特許文献2、特許文献3)。GAは、その市販されている形態では、6.0:1.9:4.7:1.0のモル比でL−アラニン、L−グルタミン酸、L−リジン、およびL−チロシンから構成されるランダムな合成ポリペプチドの混合物である。これは、MBPの免疫化学的模倣物として最初に合成された。例えば、GAに対する一定のモノクローナル抗体は、MBPと交差反応する(非特許文献14)。また、GAは、MBPに特異的なサプレッサーT細胞を誘導することが見出されている(非特許文献15)。マウス実験では、GAが実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の中枢神経系組織の破壊に関与するMBP特異的T細胞も特異的に阻害することが示されている(非特許文献16)。
【0015】
GA投与により、(i)NK細胞の比率を増加することができ、(ii)血清IL−2レセプターを減少させることができ、(iii)TNF−αを抑制することができ、(iv)TGF−βおよびIL−4を増加させることができる(非特許文献17)。
【0016】
GAの非経口投与によってMS患者が比較的首尾よく治療されているにも関わらず(非特許文献18)、現在の治療計画および全体的な効果を改善することができる。
【0017】
上記書類の引用は、上記書類のいずれかが適切な先行技術であることを認めることを意図しない。これらの書類の日付に関する全記載および内容に関する表現は、出願人が利用可能な情報に基づいており、これらの書類の日付または内容が正確であると認めているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4,666,829号明細書
【特許文献2】米国特許第3,849,550号明細書
【特許文献3】国際出願公開WO95/31990号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Glenner and Wong(1984)Biochem.Biophys.Res.Commun.120:885−890
【非特許文献2】Kang et al.(1987)Nature 325:733−736
【非特許文献3】Solomon,B.et al.(1997)PNAS 94(8):4109−12
【非特許文献4】Schenk,D.et al.,Nature 400(6740):173−177(1999)
【非特許文献5】Bard F.et al.,(2000)Nat.Med.6(8):916−9
【非特許文献6】Weiner,H.L.et al.,(2000)Ann.Neuro.48(4):567−79
【非特許文献7】Morgan,D.et al.,(2000)Nature 408(6815):982−5
【非特許文献8】Janus,C.et al.,(2000)Nature 408(6815):979−82
【非特許文献9】Dodart et al.,(2002)Nat.Neuroscience 5(5):452−7
【非特許文献10】Kotilinek,L.A.et al.,(2002)J.Neuroscience 22(15):6331−5
【非特許文献11】Trapp et al.New Eng.J.Med.338(5):278(1998)
【非特許文献12】Rudick et al.New Eng.J.Med.337:1604(1997)
【非特許文献13】Allegretta et al.Science:247:778(1990)
【非特許文献14】Teitelbaum et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9258(1991)
【非特許文献15】Lando et al.J.Immunol.123:2156(1979)
【非特許文献16】Teitelbaum et al.Proc.Natl.Acad.USA 85:9724(1995)
【非特許文献17】Ariel et al.Multiple Sclerosis 3(5),S053(1997)
【非特許文献18】Bornstein et al.Transactions American Neurological Association,348 (1987)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
(発明の要旨)
本発明は、治療を必要とする哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療するための方法および組成物を提供する。神経疾患または神経障害は、タンパク質もしくはタンパク質性物質の全身もしくは局所的沈着(例えば、アミロイドーシス)、有害なタンパク質の凝集(タンパク質の誤折り畳み)、および/または神経変性自己免疫に関連し得る。アルツハイマー病および/または他の脳アミロイド形成疾患(プリオン関連疾患、ハンチントン病、パーキンソン病、および脳アミロイド血管症(CAA)が含まれる)が特に興味深い(Revesz,T.et al.(2003)J.Neuropathol.Exp.Neurol.62(9):885−98)。前記アミロイド関連疾患の治療は、総アミロイド負荷(可溶性および不溶性Aβ)または線維性Aβ−アミロイド負荷の決定によって測定される新規のアミロイド斑(沈着)の防止、現在のアミロイド斑レベルの維持、および/または既存のアミロイド斑量もしくは総脳アミロイドタンパク質量(斑中に沈着し得るAβが含まれる)の減少を含み得る。前記神経疾患または神経障害は、多発性硬化症などの細胞媒介性自己免疫疾患に関連し得る。前記自己免疫障害の治療は、自己反応性t細胞の形成の防止、既存の自己反応性T細胞濃度の維持、および/または自己反応性T細胞濃度の減少を含み得る。
【0021】
本発明は、哺乳動物の神経疾患または神経障害(Aβ斑関連疾患またはAβ斑関連障害および細胞媒介性自己免疫疾患または自己免疫障害が含まれる)を治療するための治療薬としての、任意選択的に、サブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョン中でのプロテオソームベースの組成物および/またはGA組成物の種々の形成を主張し、使用する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】脳内の総Aβレベルに対する皮下免疫の効果。アミロイド負荷を定量するために、右半球を、5.0M塩化グアニジン(pH8)中にて室温で3時間抽出した。希釈物を使用して、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によってAβ40およびAβ42レベルを測定した。
【図2】脳内の総Aβレベルに対する鼻腔内免疫の効果。サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって、鼻腔内治療後の各マウス由来のAβ40およびAβ42の総Aβ濃度レベルを測定した。
【図3】CD11b+細胞の活性化により、非経口および鼻腔内で処置したマウスでAβ原線維がクリアランスされる。(A)皮下免疫後のチオフラビン−Sでの海馬領域中のAβ原線維の染色(10倍)または抗Aβ抗体(R1288)および抗CD11b(小膠細胞/マクロファージ)での総Aβの同時染色(40倍)。(B)鼻腔内免疫後の抗Aβ抗体(R1288)および抗CD11b(小膠細胞/マクロファージ)での同時染色(海馬領域中、40倍)。
【図4】MOG皮下免疫および鼻腔内酢酸グラチラマーワクチン接種後の脳切片の免疫組織学。未処置または免疫後50日目の免疫マウス由来の海馬領域の連続切片を、抗CD11b、CD3、IFN−γ、およびTGF−β抗体を使用して標識した(20倍、挿入図は60倍)。
【図5】GA+IVX−908の鼻腔内投与後の星状細胞増加症の軽減。十分に定義された海馬領域(ブレグマ−1.44mm)を、GFAP染色を使用した活性化星状細胞の定量のために選択した。星状細胞活性化レベルを、1mm2の海馬領域あたりの比率として示したp=0.039GA+IVX−908対コントロール;p=0.02対EAE(MOG)。
【図6】MOG皮下免疫および鼻腔内酢酸グラチラマーワクチン接種後の脳切片の神経病理学。未処置または免疫後50日目の処置マウス由来の皮質の連続切片を、以下の神経毒マーカーを使用して標識した:SMI32、TUNEL、およびiNOS(元の倍率は20倍)。矢印は、研究したマーカーの標識を示す。EAE動物で神経毒性マーカーの標識が認められたが、GA−IVX−908処置マウスでは認められなかった。
【図7】MOG皮下免疫および鼻腔内酢酸グラチラマーワクチン接種後の海馬切片の脳血液関門の完全性。未処置または免疫後50日目の処置マウス由来の皮質の連続切片を、血漿染色フィブリノゲンマーカーを使用して標識した。EAE動物でフィブリノゲンマーカーの標識が認められたが、GA−IVX−908処置マウスでは認められなかった(20倍、小さい図は40倍)。
【図8】MOG皮下免疫および鼻腔内酢酸グラチラマーワクチン接種後の嗅神経切片の神経病理学。未処置または免疫後50日目の処置マウス由来の皮質の連続切片を、以下の原線維アミロイドマーカーを使用して標識した:ThS、小膠細胞活性化CD11b、BBB完全性、フィブリノゲン(20倍)。
【図9】未処置マウス、MOG免疫マウス、およびGA+IVX−908処置マウスにおけるCNS中のCD68+細胞の染色。矢印は、GA+IVX−908処置マウスにおいてEAEにおいてCNSを浸潤するが、脈絡叢に局在したままであるCD68+細胞を示す。未処置マウスで染色は認められなかった。小脳から切片を採取する(20倍)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明実施の形態)
用語「神経疾患」は、神経系のニューロン細胞が関わる疾患または障害をいう。詳細には、以下が含まれる:プリオン病(例えば、クロイツフェルト−ヤコブ病);発達中の脳の病変(例えば、アミノ酸代謝の先天性欠損(アルギニノコハク酸尿症、シスタチオニン尿症、高ヒスチジン血症、ホモシスチン尿症、高アンモニア血症、フェニルケトン尿症、チロシン血症、および脆弱X症候群など);成熟脳の病変(例えば、神経線維腫症、ハンチントン病、うつ病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症);成人期に襲われる症状(例えば、アルツハイマー病、クロイツフェルト−ヤコブ病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病);および脳の他の病変(例えば、脳の事故(mishap)、脳損傷、昏睡、種々因子による感染症、食事性欠乏症、脳卒中、多発性梗塞性痴呆、および心血管の事故)。
【0024】
本発明の好ましい疾患または障害は、成熟脳に影響を及ぼす疾患(多発性硬化症など)および典型的には成人期に襲われる疾患(アルツハイマー病など)である。
【0025】
本明細書中で「AD」と略される、用語「アルツハイマー病」は、中枢神経系の神経変性疾患をいう。大まかに言って、この疾患は、以下の2つのカテゴリーに分類される:老齢期(典型的には、65歳より高齢)に発症する遅発性および老年期以前(例えば、35歳と60歳との間)に発症する早発性。両疾患型では、病変は類似しているが、より早期に発症する場合、より重篤且つ広範囲にわたる傾向がある。ADは、海馬および皮質などの脳の一定の脆弱領域に集中した細胞外に局在化した脳アミロイド(例えば、Aβペプチド)の蓄積、アミロイド斑(密集性または散在性にさらに区別することができる)、および細胞外に局在化した神経原線維変化によって特徴づけられる。ADは、老人性痴呆に至る進行性疾患である。アミロイド斑は、脳組織切片の顕微鏡分析によって視覚可能な中心に細胞外アミロイド−β(Aβ)沈着物を有する直径150mmまでの好中球に会合し得る非組織化神経原線維領域である。神経原線維変化は、2つ1組になって互いによじれた2つのフィラメントからなるτタンパク質(しばしば、高リン酸化されている)の細胞外沈着物である。ADは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解性プロセシングの変化に起因するAβペプチドの異常な蓄積に関連する。Aβペプチドの異常な蓄積は、その後にγ(ガンマ)またはβ(ベータ)セクレターゼのタンパク質分解活性に影響を与え、それにより、例えば、Aβ1−42のレベルが増加する種々の変異(常染色体優性APP変異およびプレセニリン1(PS1)およびプレセニリン2(PS2)と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の変異など)と相関している一方で、α(アルファ)セクレターゼのタンパク質分解活性がおそらくAPPの正常なプロセシングに関連する。ADで種々の斑型が見出されており、異常な異栄養性神経突起に関連する老人斑が含まれるが、これらに限定されない。CNSにおける炎症反応の存在(活性化小膠細胞および星状細胞が含まれる)もこの疾患の特徴である。神経障害に関連する機能不全性タンパク質(例えば、Aβおよびプリオンタンパク質)の凝集体の蓄積は、一定の神経障害の発症に起因または寄与し、そうでなければ影響を与えると考えられるIngelsson,M.and Hyman B.T.(2002)Annals of Med.34:259−271)。有害なタンパク質凝集に関連する神経変性障害には、アルツハイマー病、ピック病、パーキンソン病、プリオン病、ハンチントン病、および運動ニューロン障害が含まれる(Shastry,Neurochemistry International,2002,43:1−7)。
【0026】
用語「アミロイド」は、タンパク質凝集体の細胞外(例えば、Aβ、プリオン病、および多発性骨髄腫軽鎖疾患)または細胞内(例えば、ADにおけるτタンパク質の神経原線維変化およびパーキンソン病におけるα−シヌクレイン)沈着をいう(Trojanowski J.Q.and Mathson M.P.(2003)Neuromolecular Medicine 4:1−5)。アミロイド沈着は、AD患者およびダウン症候群患者の脳ならびに中枢神経系の動脈、細動脈、毛細管、および静脈中に見出すことができる。アミロイド沈着物を、コンゴレッドおよびチオフラビンSなどの色素に結合し、原線維(交差したβ−プリーツシート高次構造が含まれる)を形成する能力によって認識することができる。
【0027】
用語「アミロイドーシス」は、誤折り畳みタンパク質(タンパク質凝集体が含まれる)であり得る、通常は可溶性タンパク質の異常な不溶性沈着物によって特徴づけられる障害の広範な異質の(heterogenous)群をいう。
【0028】
アルツハイマー病(AD)、早発性アルツハイマー病、遅発性アルツハイマー病、および前駆症状性アルツハイマー病に加えて、アミロイド沈着物によって特徴づけられる他の疾患は、例えば、血清アミロイドA(SAA)アミロイドーシス、遺伝性アイスランド症候群、多発性骨髄腫、プリオン病など、または他の脳アミロイド形成疾患(Revesz,T.et al.(2003)J.Neuropathol.Exp.Neurol.62(9):885−98)を、本明細書中に記載の組成物および方法にしたがって治療することができる。動物における最も一般的なプリオン病は、ヒツジおよびヤギのスクレイピーならびにウシのウシ海綿状脳症(BSE)である(Wilesmith and Wells(1991)Curr.Top.Microbiol.Immunol.172:22−38)。以下の4つのプリオン病がヒトで同定されている:(i)クールー、(ii)クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、(iii)ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病(GSS)、および(iv)致死性家族性不眠症(FFI)(Gajdusek,D.C.(1977)Science 197(4307):943−60およびMedori,R.et al.,(1992)N.Engl.J.Med.326(7):444−9)。
【0029】
老人斑の主な構成要素は、Aβペプチドである。Aβペプチドは、前駆体タンパク質APPの39〜43アミノ酸の内部フラグメントである。APPタンパク質内のいくつかの変異は、アルツハイマー病の存在と相関している(例えば、Goate,A.et al.,(1991)Nature 349(6311):704−6,Murrell,M.et al.,(1991)Science 254(5028):97−9,Mullan,M.et al.,(1992)Nat.Genet.l(5):345−7を参照のこと)。
【0030】
本明細書中で使用される、用語「β−アミロイド前駆体タンパク質(APP)」を、第21染色体長腕上のヒトに局在した同名の遺伝子によってコードされ、且つ、そのカルボキシル側の1/3(third)内にAβを含むポリペプチドと定義する。APPは、多数の哺乳動物組織中の広範な種々の細胞で発現するグリコシル化された1回膜貫通タンパク質である。
【0031】
APP変異は、APPからAβへのタンパク質分解性プロセシング、特に、APPの増量したAβの長鎖形態(すなわち、Aβ1−42およびAβ1−43)へのプロセシングの増加または変化によってアルツハイマー病の発症に影響を与えると考えられる。プレセニリン遺伝子(PS1およびPS2)などの他の遺伝子の変異は、長鎖形態のAβ量を増加するためのAPPのタンパク質分解性プロセシングに間接的に影響を与えると考えられる(Hardy,J.(1997)Trends Neurosci.20(4):154−9を参照のこと)。これらの所見は、Aβ、特にその長鎖形態は、アルツハイマー病の原因成分であることを示す。
【0032】
本明細書中で使用される、用語「APPフラグメント」は、AβまたはAβフラグメントのみからなるもの以外のAPPのフラグメントをいう。すなわち、APPフラグメントには、インタクトなAβまたはAβのフラグメントを形成するアミノ酸配列に加えてAPPのアミノ酸配列が含まれる。
【0033】
用語「ベータ−アミロイドペプチド」は、「β−アミロイドペプチド」、「βAP」、「βA」、および「Aβ」と同義である。これらの全用語は、アミロイド前駆体タンパク質のフラグメント由来の斑形成ペプチドをいう。
【0034】
本明細書中で使用される、用語「線維性Aβ」および「総Aβ」の定義を以下に示す。「線維性」Aβは、細胞外アミロイド沈着物中に含まれるAβペプチドであり、Aβ斑ともいうことができ、いくつかの場合、Aβ斑を、散在性または密集性にさらに区別することができる。「総」アミロイド負荷または総Aβ負荷は、可溶性および不溶性(例えば、線維性)Aβの和であり、そのほとんどが細胞外であると推定される。細胞外非線維性Aβが線維性アミロイドになり得るAβの供給源を示すことができる場合、可溶性Aβと不溶性Aβとの間に動的関係が存在することが認識される。
【0035】
本明細書中で使用される、用語「実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)」は、MSの一次動物モデルである。適切なアジュバント中でのMBPによる免疫またはCD4+MBP反応性T細胞の受動伝達によって小哺乳動物でEAEを容易に誘導することができる(Alvord Jr,E.C,et al.eds.in Experimental Allergic Encephalomyelitis a Useful Model for Multiple Sclerosis,A.R.Liss,N.Y.,1984;Makhtarian et al.Nature 309:356(1984);Ben−Nun et al.J.Immunol.129:303(1982))。マウスおよびラットの両方でEAEを誘導するT細胞は、クラスII主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子上の抗原提示細胞によって提示されたMBPの免疫優性領域に対応するペプチドを認識する。
【0036】
本発明の1つの態様によれば、哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療する方法を提供する。本発明のこの態様の方法は、治療有効量のGAおよびプロテオソームベースの組成物を必要とする被験体へのその組成物の投与によって実施することができる。本発明のさらなる態様は、神経疾患または神経障害がアミロイド斑形成疾患またはアミロイド斑形成障害である場合である。本発明の1つの態様のGAおよびプロテオソームベースの組成物で処置した最も顕著な神経疾患または神経障害は、アルツハイマー病および多発性硬化症である。上記神経疾患または神経障害の治療のためのプロテオソームと組み合わせたGAの治療組成物に加えて、さらなる実施形態には、以下の治療組成物の使用が含まれるが、これらに限定されない:GA組成物を含まないプロテオソームベースの組成物、GAを含むサブミクロンのエマルジョン組成物、GAを含むナノエマルジョン組成物。前の実施形態はまた、任意の薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、安定剤、またはキャリアも含むであろう。
【0037】
本発明のさらなる態様は、哺乳動物における神経疾患または神経障害の治療が、哺乳動物中で抗体独立応答を誘発する治療有効量のGAおよびプロテオソームベースの組成物を投与する工程を含むことである。
【0038】
本発明のさらなる実施形態は、アルツハイマー病であり得るアミロイド疾患の治療方法からなる。例えば、脳内の線維性アミロイド負荷の増加の防止、総アミロイド負荷の増加の防止、既存の線維性アミロイド負荷および/または総アミロイド負荷の維持、または線維性アミロイド負荷および/または総アミロイド負荷の減少によってアミロイド疾患の治療を行うことができる。アミロイドタンパク質は全身に存在し得ることが公知であるので、本発明の実施形態は、脳アミロイドに制限されない。さらに、本発明は特にβ−アミロイドを考察しているが、血清アミロイドA(SAA)、プリオン病、遺伝性アイスランド症候群、ハンチントン病、パーキンソン症候群、ダウン症候群、および脳アミロイド血管症などの他のアミロイドクラスが本発明の範囲内と見なされる。上記アミロイド疾患によれば、以下の治療組成物のうちの1つの投与によって治療することができる:治療有効量のGAおよびプロテオソームベースの組成物、GA組成物を含まないプロテオソームベースの組成物、GAを含むサブミクロンのエマルジョン組成物、および/またはGAを含むナノエマルジョン。前の実施形態はまた、任意の薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、安定剤、またはキャリアを含むであろう。
【0039】
(酢酸グラチラマー)
多発性硬化症(MS)の治療に有効なMBPの免疫学的アナログは、酢酸グラチラマー(GA)(すなわち、コポリマー−1(Cop−1))である(米国特許第3,849,550号、PCT出願WO/95/31990)。GAは、その市販されている形態では、6.0:1.9:4.7:1.0のモル比でL−アラニン、L−グルタミン酸、L−リジン、およびL−チロシンから構成されるランダムな合成ポリペプチドの混合物である。これは、MBPの免疫化学的模倣物として最初に合成された。例えば、GAに対する一定のモノクローナル抗体は、MBPと交差反応する(Teitelbaum et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9258(1991))。また、GAは、MBPに特異的なT抑制細胞を誘導することが見出されている(Lando et al.J.Immunol.123:2156(1979))。マウス実験では、GAがEAEの中枢神経系組織の破壊に関与するMBP特異的T細胞も特異的に阻害することが示されており(Teitelbaum et al.Proc.Natl.Acad.USA 85:9724(1995));およびAngelov,D.N.et al.PNAS 100(8):4790−4795(2003))は、GAを使用して筋萎縮性側索硬化症を治療することができ、十分に調節された自己免疫応答の誘導が、GAの投与によって増強することができる抗自己T細胞応答の存在下での生存に影響を与えるようであることを示している。
【0040】
本発明によれば、GAを、当該分野で公知の方法によって調製することができる。例えば、GAを、チロシン、アラニン、γ−グルタミン酸ベンジル、およびε−N−トリフルオロ−アセチルリジンのN−カルボキシアンヒドリドを、周囲温度にてインヒビターとしてジエチルアミンを使用して無水ジオキサン中で重合させる、米国特許第3,849,550号に開示の過程によって調製することができる。臭化水素を含む氷酢酸を使用してグルタミン酸のγ−カルボキシル基の脱ブロッキングを行い、その後、1Mピペリジンによってリジン残基からトリフルオロアセチル基を除去する。得られたポリペプチド混合物は、本質的に、約6:2:5:1のモル比のアラニン、グルタミン酸、リジン、およびチロシンからなる。
【0041】
GAはまた、Teva Pharmaceuticals,Kfar−Saba,Israelから市販されている。
【0042】
GAを、その治療有用性を維持する任意の形態にて本発明で使用するために調製することができる。これらには、種々の分子量範囲のペプチドの混合物が含まれる。所望の分子量範囲を有するGAを、当該分野で公知の方法によって得ることができる。このような方法には、WO/95/31990に開示の高分子量種を除去するためのGAのゲル濾過高速液体クロマトグラフィが含まれる。1つの実施形態では、GAは、そのポリマー種の約75%が約2KDa〜約20KDaの分子量範囲内である。別の実施形態では、GAの平均分子量は、約4KDa〜9KDaである。公知の方法にしたがって、従来のGAと長さが異なるか修飾されているポリマー種を含めるためにGAを酵素または他の分解に供することができると理解される。
【0043】
(GAおよびプロテオソーム)
プロテオソーム(例えば、IVX−908またはプロトリン)を配合したGAを、例えば、注射によるか鼻腔内に投与することができる。注射によって送達した場合、このような送達は、1回の注射(組み合わせた同時投与)であり得る。あるいは、GA組成物およびプロテオソームベースの組成物を、個別に送達させることができるか、第1の部位にGA組成物(プロテオソームを含まない)のみを投与し、第2の部位にプロテオソームベースの組成物(すなわち、GAを含まない)のみを投与する、同時または一過性に異なる時間で起こり得る複数の部位への注射によって送達させることができる。GAを注射によって投与し、それと同時または別に、プロテオソームベースの組成物を、例えば、鼻腔内投与することができることも意図される。したがって、本発明の1つの実施形態では、GA組成物を注射によって送達させ、個別に、プロテオソームベースの組成物を鼻腔内に送達させる。
【0044】
本発明のGAペプチドを、プロテオソームとの非共有結合を増強すると予想される疎水性アンカー配列部分を含むように調製することもできる。全身および粘膜両方の抗体応答を誘導するための非経口投与または特に粘膜投与(消化管投与が含まれる)のいずれかのためにデザインしたプロテオソーム両親媒性決定基ワクチンの産生および製造は、米国特許第6,476,201号で考察されている。両親媒性決定基は、プロテオソームを適切に配合した場合にプロテオソームと組み合わされて被験体における免疫応答を誘発する複合体を形成する疎水性領域および親水性領域を有する分子である。典型的な両親媒性決定基には、糖脂質、リポサッカリド(解毒リポ多糖類が含まれる)、リポペプチド、膜貫通ドメイン、エンベロープもしくはトキソイド化(toxoided)タンパク質、または内因性疎水性アミノ酸アンカーのタンパク質もしくはペプチドが含まれる。
【0045】
(乳濁液組成物)
それぞれ米国特許第5,961,970号または同第5,716,637号に記載のように、GAを含むサブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョンを投与するか、GAをこれらに配合することができる。組成物は、水性連続相として約0.5〜約50%の油、約0.1〜約10%の乳化剤、約0.05〜約5%の非イオン性界面活性剤、および約0.00001〜約1.0%のGAを含む水中油滴型サブミクロンのエマルジョンを含む。サブミクロンのエマルジョンの平均液滴サイズは、約0.03μmと約0.5μm、好ましくは0.05μmと0.2μmとの間の範囲である。
【0046】
ナノエマルジョンアプローチにより、少なくとも1つのリン脂質二重層に囲まれた脂質コアを有する粒子のナノエマルジョンを含むワクチン組成物が得られる。粒子の平均直径は、重量に基づいて決定したところ、約10〜約250nmの範囲であり、均質化過程前に内因的にか均質化過程後に外因的にGAを粒子中に組み込む。粒子を、典型的に、水性連続相に懸濁し、各脂質粒子は、脂質が約25℃またはそれを超える温度で大量に固体または液晶である脂質コアを含む。通常、GAの捕捉量は、約0.001〜約5%である。あるいは、GAを、プロテオソームに配合し、そして/またはナノエマルジョンは、生体接着性高分子または粘液接着性高分子をさらに含み得る。
【0047】
(提案される機構)
本発明はまた、例えば、プロテオソームベースの組成物と共に処方したGAまたはGAを含まないプロテオソームベースの組成物で哺乳動物を免疫する工程と、前記ペプチド、そのフラグメント、または誘導体の減少または阻害が、抗体が生成されることなく起こることと、本明細書中でB細胞欠損(μMT)マウスを使用して証明したところ、抗体応答を誘発することができないこととを含む、アミロイド−βペプチド(可溶性および/または不溶性)、そのフラグメントまたは誘導体のレベルを阻害または減少させる方法を含む。理論に拘束されることを望まないが、好ましくは、アミロイド(例えば、Aβアミロイド)の阻害または減少は、脳または周辺部で見出すことができる脳局在化小膠細胞、好中球、および/またはマクロファージなどの免疫細胞の活性化を介し、これらの細胞の活性化は、任意の抗体または抗原に特異的な機構と無関係である。哺乳動物において実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)(髄膜脳炎が含まれる)を発症することなく減少または阻害されることが最も好ましい。
【0048】
アミロイド負荷(例えば、線維性斑を含むAβおよび斑に沈着しない非線維性Aβ)の減少は、アミロイド沈着および/またはAβ斑形成の減少に比例し、それにより、ADおよび関連する疾患またはアミロイド生成疾患もしくはアミロイド生成障害が治療される。本発明の種々の態様が任意の特定の理論または機構に制限されるべきではないが、活性化小膠細胞がアミロイド斑と同時局在化し、小膠細胞の活性化がアミロイド沈着の存在に依存し、沈着によって内因性小膠細胞の活性化が刺激されると考えられる。したがって、活性化小膠細胞は、アミロイド(例えば、Aβ斑)沈着に関与する。可能性のあるAD機構についてのさらなる情報は、Schenk,D.(2002)Nature 3:824−828で見出される。Aβの沈着およびアミロイド斑の形成は、複雑な炎症および神経毒カスケードを伴うようである。したがって、抗炎症機構の治療が有利であると考えられる。このような抗炎症機構過程は、しばしば、抗炎症性IL−4/IL−10(Th2)およびTGF−β(Th3)免疫応答の発現と一致する。その結果として、プロテオソームが炎症誘発性免疫応答に関連するTh1型免疫(サイトカイン)応答の刺激に非常に関連し、Th2免疫応答と同等および特有であることが以前に提唱されたので、プロテオソームベースの組成物およびGAを含む本発明の処方物が、非抗体媒介性免疫応答を刺激してAβ−アミロイド含有斑を減少させるという驚くべきかつ予測外の所見が得られる。それにもかかわらず、Th1型サイトカインINF−γ(75%超が未処置)による小膠細胞の食作用の増加も、CNSにおける炎症性浸潤のクリアランス加速のフィードバック機構が示唆され得る(Cha,A.et.al.(2001)GLIA 33(1):87− 1.0 95)。さらに、INF−γ自体によってもβ−アミロイド前駆体タンパク質の転写が阻害され得る(Ringheeim G.E.et al.Biochem Biophys Res Commun(1996)224(1):246−51)。
【0049】
(プロテオソームベースの組成物)
米国特許第6,476,201号および同第5,961,970号の主題は、多価サブユニットワクチン各成分に対する至適な免疫応答を刺激するために、どのようにして適切な成分を適切に関連させ、それぞれが免疫系の細胞によって有効に認識およびプロセシングされることができるような免疫系を利用することができるのかについて記載している。このような認識およびプロセシングには、例えば、鼻上皮内に存在する膜細胞(M細胞)による取り込みおよびその後の内在する宿主免疫系細胞への送達が含まれ得る。このような非共有結合によって複合体化したワクチンの主な例には、広範な種々の抗原(ペプチド、リポペプチド、膜貫通タンパク質、トキソイド化タンパク質、ポリサッカリド、またはリポポリサッカリド(LPS))と非共有結合的に複合体化ナイセリア外膜タンパク質からなり得るプロテオソームベースのワクチンが含まれる(さらなる概説については、以下の引例を参照のこと:米国特許第5,726,292号、Immunogenicity and Efficacy of Oral or Intranasal Shigella flexneri 2a and Shigella sonnei Proteosome−Lipopolysaccharide Vaccines in Animal Models;Infect.Immun.61:2390;Mallett,C.P.,T.L.Hale,R.Kaminski,T.Larsen,N.Orr,D.Cohen,and G.H.Lowell.(1995));Intranasal or intragastric immunization with proteosome−Shigella lipopolysaccharide vaccines protect against lethal pneumonia in a murine model of shigellosis(Infect.Immun.63:2382−2386;Lowell G H,Kaminski R W,Grate S et al.(1996));Intranasal and intramuscular proteosome−staphylococcal enterotoxin B(SEB)toxoid vaccines:immunogenicity and efficacy against lethal SEB intoxication in mice(Infec.Immun.64:1706−1713;Lowell,G.H.(1990));Proteosomes,Hydrophobic Anchors,Iscoms and Liposomes for Improved Presentation of Peptide and Protein Vaccines,(in New Generation Vaccines:G.C.Woodrow and M.M.Levine,eds.(Marcel Dekker,NY)Chapter 12(pp.141−160));およびProteosome−lipopeptide vaccines:enhancement of immunogenicity for malaria CS peptides;(Lowell,G.H.,W.R.Ballou,L.F.Smith,R.A.Wirtz,W.D.Zollinger and W.T.Hockmeyer(1988)Science 240:800))。
【0050】
本明細書中で使用される、「プロテオソームベースの組成物」は、細菌抗原またはウイルス抗原などの免疫原のためのキャリアまたはアジュバントとして有用なナイセリア属などのグラム陰性細菌由来の外膜タンパク質(OMP、ポリンとしても公知)の調製物をいう(例えば、Lowell et al.,J.Exp.Med.167:658,1988;Lowell et al.,Science 240:800,1988;Lynch et al.,Biophys.J.45:104,1984;Lowell,in 「New Generation Vaccines」 2nd ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,Basil,Hong Kong,pages 193,1997;米国特許第5,726,292号;同第4,707,543号を参照のこと)。上記のように調製したプロテオソームは、OMPポリンを産生するために使用された細菌(例えば、ナイセリア属)由来の内因性リポポリサッカリド(LPS)も含む。小胞または小胞様形態(1つまたは複数のOMPの多分子膜構造または融解球形様OMP組成物が含まれる)の外膜タンパク質成分が得られる任意の調製方法が、プロテオソームの定義の範囲内に含まれる。
【0051】
本明細書中で使用される、「リポサッカリド」は、グラム陰性細菌(Shigella flexneriもしくはPlesiomonas shigelloidesなど)または他のグラム陰性細菌(アルカリゲネス種(Alcaligenes)、バクテロイデス種(Bacteroides)、ボルデテラ種(Bordetella)、ブルセラ種(Brucella)、カンピロバクター種(Campylobacter)、クラミジア種(Chlamydia)、シトロバクター種(Citrobacter)、エドヴァルシエラ種(Edwardsiella)、エーリキア種(Ehrlicha)、エンテロバクター種(Enterobacter)、大腸菌種(Escherichia)、フランキセラ種(Francisella)、フゾバクテリウム種(Fusobacterium)、ガードネレラ種(Gardnerella)、ヘモフィルス種(Hemophillus)、ヘリコバクター種(Helicobacter)、クレブシエラ種(Klebsiella)、レジュネラ種(Legionella)、モラクセラ種(Moraxella)、モルガネラ種(Morganella)、ナイセリア種(Neiserria)、パスツレラ種(Pasteurella)、プロテウス種(Proteus)、プロビデンス種(Providencia)、他のプレシオモナス種(Plesiomonas)、ポルフィロモナス種(Porphyromonas)、プレボテラ種(Prevotella)、シュードモナス種(Pseudomonas)、リケッチア種(Rickettsia)、サルモネラ菌種(Salmonella)、霊菌種(Serratia)、他の赤痢菌種(Shigella)、スピリルム種(Spirillum)、ベーヨネラ種(Veillonella)、ビブリオ種(Vibrio)、またはエルシニア種(Yersinia)が含まれる)由来の天然または修飾されたリポポリサッカリドまたはリポオリゴサッカリド(集合的に、「LPS」ともいう)をいう。本明細書中で使用されるLPSは解毒されていなくても解毒されていてもよいことに留意すべきである。
【0052】
他の実施形態では、プロテオソームを調製した同一または異なる細菌から単離した外因性LPSを混合することができ、1つのこのようなプロテオソームベースの組成物を、本明細書中でIVX−908という(プロトリンともいうことができる)。言い換えれば、IVX−908型のプロテオソームは、OMP−LPS組成物を得るために少なくとも1種類のリポサッカリドと混合したOMPの調製物(免疫刺激組成物として機能することができる)である。したがって、OMP−LPS(IVX−908)アジュバントは、以下の基本成分から構成され得る:(1)髄膜炎菌などのグラム陰性細菌から調製したプロテオソームの外膜タンパク質調製物および(2)1つまたは複数のリポサッカリドの調製物。IVX−908の成分は、脂質、糖脂質、糖タンパク質、または小分子などであり得るかこれらを含み得ることも意図される。
【0053】
本明細書中に開示のプロテオソームベースの組成物は、少なくとも一部が宿主の免疫系を刺激する能力を有するアジュバントとして機能する1つまたは複数の成分を含み得る。このようなプロテオソーム成分には、グラム陰性細菌の外膜タンパク質(OMP)成分(その融合タンパク質またはフラグメント)および同一または異なるグラム陰性細菌のリポポリサッカリド(LPS)成分が含まれ得ると認識される。このような成分は、例えば、ワクチンレシピエントの1つまたは複数の宿主細胞によって産生された一定のレセプター(例えば、Toll様レセプター)との相互作用によって宿主免疫応答を刺激するリガンドとして機能することができる。
【0054】
理論に拘束されることを望まないが、本明細書中に開示のワクチン処方物の1つまたは複数の成分は、ワクチンレシピエントの先天性免疫応答および/または適応的免疫応答に関連するToll様レセプター(TLR)と相互作用することができる。少なくとも10種のTLRが存在する(Takeda et.al.,Annu Rev Immunology(2003)21:335−76を参照のこと)。TLR8およびTLR10以外の一定のTLRと相互作用し、その後に活性化する1つまたは複数のリガンドが同定されている。髄膜炎菌の外膜タンパク質(例えば、OMP2)(PorBともいわれる)はTLR2と相互作用する一方で、ほとんどであるが全てではないグラム陰性細菌のLPSはTLR4と相互作用する。したがって、本明細書中に記載のワクチン処方物が生物学的作用に寄与し得る1つの実施形態には、TLR2およびTLR4の一方または両方の活性化が含まれる。しかし、本発明の別の態様では、他のTLR(TLR2およびTLR4以外)の活性化が類似の機能を果たすか、発現したサイトカインの定性的および/または定量的プロフィールをさらに増強することができ、宿主Th1/Th2免疫応答に関連し得ることが同様に可能である。
【0055】
1つまたは複数のTLRの定性的および/または定量的活性化は、ヒト抗体応答が付随するか付随せずにTh1および/またはTh2免疫応答の相対的刺激(均衡または不均衡)を誘発するか影響を与えると予想される。
【0056】
TLR2およびTLR4以外のTLRと相互作用するリガンドを、本明細書中に記載のワクチン組成物で使用することもできる。本明細書中に記載のように、このようなワクチン成分を単独または組み合わせて使用して、アミロイド形成疾患の治療または防御に十分な宿主免疫応答の発生に影響を与えることができる。このようなTLRおよび関連リガンドには、リスト1に示すリガンドが含まれるが、これらに限定されない。
【表A−1】
【0057】
【表A−2】
【0058】
同定されたTLR(リスト1)のいずれか1つまたは組み合わせを、本明細書中で意図されるワクチンのTLRリガンド成分のいずれか1つまたは組み合わせによって活性化することができる。TLRのいずれか1つまたは複数を投与経路(例えば、鼻腔内、注射など)に適切な濃度のTLRリガンドのいずれか1つまたは複数を使用して刺激することがさらに認識される。
【0059】
したがって、本発明によれば、ワクチン処方物は、外因的にリポポリサッカリド成分を含むか含まない、抗原ワクチン成分と組み合わせた(任意選択的に、CD14レセプターを含む)TLRリガンドのいずれか1つまたは複数(組換えリガンド(その融合タンパク質またはフラグメント)が含まれる)を含み得ると理解される。
【0060】
本発明の1つの態様では、TLRリガンドのいずれか1つまたは複数のTLR結合部分のみを、例えば、組換えDNAテクノロジーによって単離することができ、アルツハイマー病または類似の疾患もしくは障害の治療上の処置および/または予防としてGAを配合するか配合しない。このようなポリペプチドを、当業者に周知の1つまたは別の合成手順によって調製することもできる。理論に拘束されることを望まないが、1つのこのような単離結合ドメインを、TLR2への結合が疑われるポリンBと呼ばれる髄膜炎菌外膜タンパク質の一部から単離することができる。TLRの他のこのようなポリペプチドリガンド結合ドメインを、単独または1つまたは別の組み合わせにて類似の様式で使用することもできる。プロテオソーム−GA処方物の投与を必要とするか必要とせずにこのような処方物を使用することができるか、プロテオソーム−GA処方物の投与後に使用することができる。変異形がTLRに結合(および活性化)する能力を維持する限り、このようなTLRリガンドのTLR結合部分の変異形(例えば、保存的アミノ酸置換)を使用してTLRを活性化することができると認識される。本発明のさらなる態様では、このようなTLRリガンドのTLR結合部分を組換えDNAテクノロジーを使用して1回または複数回繰り返して、このような結合部分の複数のコピーを含むポリペプチドまたは同一もしくは異なるTLRリガンドの多結合ドメインを含む多価(すなわち、ハイブリッド)ポリペプチドを調製することができる。
【0061】
一定のプロテオソームベースの組成物では、ワクチン処方物の1つまたは複数の構成部分はに共有結合的に複合体化される必要はないが、むしろ、プロテオソーム組成物(例えば、IVX−908、プロトリン)と混合することができる。プロジュバント(Projuvant)と呼ばれるプロテオソームベースの組成物は、少量の内因性LPS(またはリポオリゴサッカリド(LOS))のみを含む一方で、IVX−908/プロトリンプロテオソームベースの組成物は、OMP成分と同一であるか異なるグラム陰性細菌種に由来し得るさらなる外因性LPSを含むか、1つを超えるグラム陰性細菌由来のLPSの混合物であり得る。
【0062】
1つの実施形態では、総プロテオソームタンパク質の重量%としての最終リポサッカリド含有量は、約1%〜約500%の範囲、より好ましくは約20%〜約200%の範囲、約30%〜約150%の範囲、または約10%〜約100%の範囲であり得る。本発明の好ましい実施形態は、プロテオソームベースの組成物を髄膜炎菌から調製し、最終リポサッカリド含有量が総プロテオソームタンパク質の50重量%〜150重量%である免疫刺激組成物である。最終LPS含有量を、内因性LPS(例えば、LOS)と外因的に添加したLPS(またはLOS)との組み合わせと示すことができる。別の実施形態では、プロテオソームベースの組成物(例えば、プロジュバント)を、総OMPの約0.5%から約5%までの範囲の髄膜炎菌由来の内因性リポオリゴサッカリド(LOS)含有量を使用して調製する。本発明の別の実施形態により、総OMPの約12%〜約25%の範囲、好ましい実施形態では約15%と約20%の間の範囲の内因性リポサッカリドを含むプロテオソームが得られる。本発明はまた、プロテオソーム供給源である同一のグラム陰性細菌種または異なる細菌種に由来し得る任意のグラム陰性細菌種由来のリポサッカリドを含む組成物を提供する。
【0063】
米国特許第6,476,201号は、全身(血清)および粘膜(呼吸器および腸が含まれる)抗体応答の両方を誘導するための非経口投与または粘膜投与のいずれかのためのプロテオソーム両親媒性決定基ワクチンの産生および製造に関する。粘膜投与が好ましく、呼吸器(例えば、鼻腔内、咽頭内、および肺内が含まれる)、胃腸管(例えば、経口または直腸が含まれる)、または局所(例えば、結膜または耳)への投与が含まれるが、これらに限定されない。両親媒性決定基は、プロテオソームを適切に配合した場合にプロテオソームと組み合わされて被験体における免疫応答を誘発する複合体を形成する疎水性領域および親水性領域を有する分子である。典型的な両親媒性決定基には、糖脂質、リポサッカリド(解毒リポ多糖類が含まれる)、リポペプチド、膜貫通タンパク質、エンベロープタンパク質、もしくはトキソイド化(toxoided)タンパク質、または内因性疎水性アミノ酸アンカーのタンパク質もしくはペプチドが含まれる。これらの決定基材料を、グラム陰性細菌(Escherichia、Klebsiella、Pseudomonas、Hemophilus、Brucella、Shigella、およびNeisseriaが含まれる)から得ることができる。より詳細には、髄膜炎菌外膜タンパク質プロテオソーム調製物(髄膜炎菌、淋菌(N.gonorrhea)、または他のナイセリア属の任意の株から調製される)が天然または解毒した赤痢菌属またはナイセリアのリポポリサッカリドまたはリポオリゴサッカリドと非共有結合的に複合体化してワクチンを形成するプロテオソームワクチンを、複合体のいずれかの構成成分を含むグラム陰性細菌(髄膜炎菌または赤痢菌が含まれる)に起因する疾患から防御するためにデザインする。より詳細には、プロテオソームワクチンは、Shigellaリポポリサッカリドの型特異的体細胞ポリサッカリドO抗原を認識する抗体応答を誘導し、それにより、細菌性赤痢に対する相同的保護を付与するLPSを含む。プロテオソームと複合体化した場合、リポポリサッカリドは、抗shigella防御免疫応答を誘導する。Shigella flexneri2a(または3aなど)、S.boydii、S.sonneiなどに起因する細菌性赤痢に対する相同免疫を付与するための相同的または抗原的交差反応生物由来のLPSを使用して、プロテオソームワクチンを、Shigella sonnei疾患に対する免疫のためのShigellea sonneiまたはPlesiomonas shigelloides、Shigella flexneri2a疾患に対する免疫のためのShigella flexneri2aなどから調製および精製する。さらに、米国特許第6,476,201号は、Shigella flexneri2a(Shigella flexneri2a疾患用)およびPlesiomonas shigelloidesまたはShigella sonnei(Shigella sonnei疾患用)由来の赤痢菌LPS抗原を使用した独立して作製された2つのプロテオソームワクチンを共に投与し、それにより、2つの生物を認識する抗体が誘導され、それにより、2つの疾患型に対する防御が付与されるという点で多価であるプロテオソーム−赤痢菌ワクチンの投与を記載している。さらに、B群2b型髄膜炎菌由来のプロテオソームを、中空糸ダイアフィルトレーションテクノロジーを使用してPlesiomonas shigelloides LPSと複合体化して粘膜呼吸器および/または胃腸管経路によって投与されるワクチンを産生し、S.sonneiの体細胞O抗原LPSを認識する抗体を誘導するプロテオソーム−赤痢菌LPSワクチンを使用して細菌性赤痢から防御する。
【0064】
例示であるが制限されない本発明のプロテオソームベースの組成物は、髄膜炎菌外膜タンパク質(プロテオソーム)と外因的に添加したShigella flexneriから調製したLPSとの非共有結合処方物であるプロテオソームベースの粘膜アジュバントIVX−908(プロトリン)である。
【0065】
(処方物および投与)
以下に、交換可能に使用することができる、用語「生理学的に許容可能なキャリア」および「薬学的に許容可能なキャリア」は、生物が著しい炎症を引き起こすことがなく、且つ投与した化合物の生物活性および性質を排除しないキャリアまたは希釈剤をいう。
【0066】
本明細書中の用語、「賦形剤」は、有効成分の投与を容易にするために薬学的組成物に添加される不活性物質をいう。賦形剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖型およびデンプン型、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、およびポリエチレングリコールが含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
薬物の処方および投与技術を、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」, Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,latest editionに見出すことができる。
【0068】
適切な投与経路には、例えば、経口、直腸、経粘膜、経鼻、腸、または非経口の送達(筋肉内、皮下、および脊髄内への注射が含まれる)、髄腔内、直接脳室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、または癌内への注射が含まれ得るが、プロテオソームの好ましい投与経路は鼻腔内である。
【0069】
サブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョン中にプロテオソームベースの組成物を含むGA処方物を、非経口、経口、鼻腔内、または局所的に投与するか、本明細書中に示すように、任意のその組み合わせにおいて投与することができる。にもかかわらず、一定の実施形態では、非経口または粘膜に投与することが好ましい。
【0070】
二投与経路または多投与経路も本明細書中に含まれる。二投与経路には、例えば、プロテオソームベースの調製物を調製して鼻腔内に投与するが、GAとは別に投与し、GAはプロテオソームの鼻腔内投与と同時または異なる時間に注射によって投与することができることが含まれ得る。プロテオソーム(プロジュバント)またはプロテオソーム:LPS(すなわち、IVX−908)組成物(GAは存在しない)を、GAと同時または別の注射によって投与することができる。注射のために、本発明の有効成分を、生理学的に許容可能なキャリア、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水などの生理学的に適合する緩衝液中で処方することができる。経皮投与および場合によっては経粘膜投与のために、バリアを透過するのに適切な浸透剤を処方で使用することができる。このような浸透剤は、一般に、当該分野で公知である。
【0071】
経口投与のために、化合物を、当該分野で周知の薬学的に許容可能なキャリアとの活性化合物の組み合わせによって容易に処方することができる。このようなキャリアにより、本発明の化合物を、患者が経口摂取するための錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリーおよび、懸濁液などに処方することができる。経口用の薬学的調製物を、固体賦形剤を使用して任意選択的に得られた混合物の磨砕により作製し、所望ならば適切な助剤を添加後に粒子混合物を処理して錠剤または糖衣錠コアを得ることができる。適切な賦形剤は、特に、糖(ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールが含まれる)などの充填剤;セルロース調製物(例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなど);および/または生理学的に許容可能なポリマー(ポリビニルピロリドンなど)である。所望ならば、崩壊剤(架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)など)を添加することができる。
【0072】
鼻投与のために、本発明で使用される有効成分を、例えば、適切な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、または二酸化炭素)を使用した加圧パックまたは噴霧器からのエアゾールスプレーの形態で都合良く送達させることができる。加圧エアゾールの場合、投薬単位を、一定量を送達させるためのバルブを装着することによって決定することができる。例えば、調剤で使用するためのゼラチン製のカプセルおよび薬包を、化合物の粉末混合物およびラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤を含むように処方することができる。
【0073】
本明細書中に記載の調製物を、例えば、ボーラス注射または持続注入による非経口投与のために処方することができる。注射用処方物を、単位投薬形態(例えば、任意選択的に防腐剤を添加したアンプルまたは複数回投与用コンテナ)に入れることができる。組成物は、油性または水性賦形剤を含む懸濁液、溶液、または乳濁液であってよく、懸濁剤、安定剤、および/または分散剤などの処方剤(formulatory agent)を含み得る。
【0074】
本発明の薬学的組成物を、被験体の体内のいたるところ(特に、脳内)に存在するアミロイド(例えば、Aβ)の産生および/またはその沈着に関連する疾患の予防および/または治療上の処置のために投与することができる。治療への適用では、薬学的組成物を、既に罹患しており、且つ治療を必要とする哺乳動物に投与する。薬学的組成物を、Aβの斑へのさらなる沈着および/または既に形成していることが明らかな斑を阻害または減少させ、そして/または既存のAβ凝集体の除去を刺激し、そして/または斑内に含まれないかもしれないAβの減少を刺激するのに十分な量で投与する。これを達成するための適量を、「治療有効用量または治療有効量」と定義する。
【0075】
予防への適用のために、本発明の薬学的組成物を、アミロイド関連疾患(例えば、Aβ関連アルツハイマー病)に感受性を示すが、このような疾患に依然として罹患していない哺乳動物に投与する。このような哺乳動物被験体を、医学論文(例えば、Goate(1991)Nature 349:704−706)に記載の遺伝子検査および臨床分析によって同定することができる。薬学的組成物は、例えば、症状が初期段階、好ましくは、β−アミロイド関連疾患の初期段階でさえも、Aβの斑へのアミロイド沈着を阻害、防止、または減少させることができる。予防有効投薬量と呼ばれるこのような予防治療に必要な化合物の量は、一般に、治療上の処置のための上記量と同一であり得るが、必ずしもそうではない。
【0076】
本明細書および添付の特許請求の範囲のために、用語「患者」、「被験体」、および「レシピエント」を、交換可能に使用する。これらには、予防、実験、または治療上の処置の対象物であるヒトおよび他の哺乳動物(例えば、ウシおよび他のウシ)が含まれる。
【0077】
本明細書中で使用される、用語「治療」には、統計的に有意な様式での疾患の阻害、遅延、または進行の逆転、疾患の臨床症状の実質的な改善または疾患の臨床症状の出現の実質的な防止が含まれる。
【0078】
処置すべき容態の重症度および反応性に依存して、1つまたは複数の部位または送達手段で1回または複数回投与することができ、治療単位を数日から数週間または治癒するか病状の統計的に有意な縮小が達成されるまで継続する。投与すべき治療量は、勿論、治療を受ける被験体、苦痛の重症度、投与様式、主治医の判断などに依存する。統計的有意性の計算方法は、関連分野で公知である。
【0079】
MSの「治療」は、自己免疫攻撃の寛解および自己免疫組織の破壊の防止または遅延による、多発性硬化症の任意の発現、臨床的または準臨床的(例えば、組織学的)症状の防止または遅延のための治療、およびその発現後の症状の治療による抑制または緩和を含むことが意図される。自己免疫攻撃または自己免疫反応の「寛解」、「抑制」、または「減少」は、攻撃または反応の1つまたは複数の症状の部分的軽減または改善を含む。「免疫反応」の「実質的に」増加した抑制効果(または寛解もしくは軽減)は、MSの1つまたは複数のマーカーまたは組織学的もしくは臨床的指標の有意な減少を意味する。制限されない例は、四肢麻痺スコアの少なくとも1単位の減少である。
【0080】
MSの治療のために、GAを、一般に、0.01mg〜1000mg/日の用量で投与する。1つの実施形態では、0.5〜50mgの範囲の投薬量を使用する。しかし、本発明の1つの態様によれば、本明細書中に記載の1つまたは複数のアジュバント(またはその混合物)を、GAを含む組成物に配合して使用することができ、それにより、GAのより低いまたはより高い用量または投与頻度での使用が可能になり、必ずしもGAの用量のみが影響を与えるとは限らないと予想される。
【0081】
有効投薬量範囲および至適量の確立は、この項で与えられた情報を考慮すれば十分に当業者の範囲内である。例えば、哺乳動物の投薬量(特に、ヒトへの投薬量)を、比較的低用量のGA(例えば、1mg/日)から開始して、段階的に増加させ(例えば、対数的に)、治療に対する生体反応を測定すること(例えば、(i)調節細胞(CD4+および/またはCD8+)の誘導の測定(Chen,Y.et al.,Science,255:1237(1994))、(ii)循環T細胞上のクラスII表面マーカーの減少の測定、(iii)TGF−β発現細胞数または検出可能なTGF−βの相対量の測定、(iv)血中の免疫攻撃T細胞の数および活性化の評価(例えば、限界希釈分析および増殖能力による)、または(v)周知の採点法による疾患重症度の採点(例えば、攻撃、関節の腫れ、握力、硬直、視力、投薬を減少または中断する能力による))によって至適化する。有効投薬量は、3つのマーカーのうちの1つを少なくとも統計的または臨床的に有意に軽減させる任意の用量、好ましくは、投与研究時のMSに特徴的な少なくとも1つの症状を軽減させる任意の用量である。
【0082】
MSの疾患重症度を、疾患型に依存した周知の方法にしたがって評価することができる。このような方法には、以下が含まれるが、これらに限定されない:長期にわたる攻撃の重症度および数;身体障害の進行性の蓄積(例えば、拡大障害状態尺度によって測定することができる);脳内病変の数および範囲(例えば、核磁気共鳴映像法によって明らかとなる);および自己反応性T細胞の頻度。
【0083】
ここに本発明を一般的に記載したが、以下の実施例を参照して本発明がより容易に理解され、実施例は例示を目的として記載し、明記しない限り、本発明を制限することを位としない。
【実施例】
【0084】
アミロイド前駆体タンパク質(APP)トランスジェニックマウスを、ミエリン希突起神経膠細胞糖タンパク質(MOG)ペプチド(アミノ酸35〜55)を含むフロイント完全アジュバント(CFA)で免疫し、その後に百日咳毒素(PT)を投与(注射)して、その非トランスジェニック同腹子と比較した実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)に対する感受性を決定した。コントロールとして、動物を、ウシ血清アルブミン(BSA)またはヒトβ−アミロイドペプチド(Aβアミノ酸1〜40)で免疫した。APPトランスジェニック動物((Mucke et al.,Ann NY Acad Sci(777)82−88(1996))およびその非トランスジェニック同腹子で同一の程度にEAEが発症し、Aβ1−40またはBSAで免疫した動物ではEAEは認められなかった。しかし、神経病理学的に脳を試験した場合、EAEを発症した動物でのAβ染色は少なかった。チオフラビンSを使用した海馬に置けるAβ原線維の染色量の定量により、MOG免疫したマウスではコントロールと比較して92%減少し(p=0.001)、Aβ1−40で免疫したマウスと比較して73%減少した(p=0.03)(表1、図1を参照のこと)。ELISAによる総脳Aβ含有量の定量により、MOG免疫したマウスではコントロール群と比較して94%減少し(p<0.001)、Aβ1−40で免疫したマウスと比較して86%減少した(p=0.03)(表1、図1を参照のこと)。
【0085】
MOG誘導性EAEに対する効果が固有であるかどうかを決定するために、プロテオリピドタンパク質(PLP)ペプチド(アミノ酸139〜151)を含むCFAでEAEを誘導した。PLP誘導性EAE動物においてAβ原線維染色の76%減少およびAβレベルの70%減少が認められた(p<0.02)(表2、図3Aを参照のこと)。PLPでEAEを誘導するために、Hsiao,K.et al,Science 274(5284):99−102(1996)に記載のB6/SJLバックグラウンドを有するTg2576マウスを使用した。MOG−EAEを誘導するためのMucke et al.,Ann NY Acad Sci(777)82−88(1996)に記載のTg2576マウスおよびJ20免疫したマウスで類似の結果が見出された(表1を参照のこと)。これらの結果は、所見がEAE誘導に使用した抗原、研究したADの動物モデル、動物の遺伝的背景、性別(50%雄/雌)に関連しないことを証明している。BSAを含むCFAで免疫した動物に変化は認められなかった。16月齢を超えるTg2576マウスと比較した場合、13月齢を超えるJ20マウスにおける総Aβ(アミロイド)負荷が相違しないことに注目すべきである。
【0086】
動物をCFA中に配合したAβペプチドで免疫したマウスADモデルの治療についての以前の免疫アプローチ研究では、抗凝集βアミロイド抗体は、アミロイド負荷の減少におけるインビトロでのSolomon,B.et al,Proc Natl Acad Sci 94:4109−12(1997)に記載の役割およびインビボでのWeiner,H.L.et al.,Ann Neurol 48,567−79(2000)およびSchenk,D.et al.,Nature 400,173−7(1999)に記載の役割の両方を有することが認められ、その活性は、AβのN末端領域中の特定のエピトープに関連する(Frenkel,D.et al.,Neuroimmunol 88,85−90(1998)およびFrenkel,D.et al.,Proc Natl Acad Sci USA 97,11455−9(2000))。MOGまたはPLPで免疫した動物におけるAβに対する抗体レベルを測定して、Aβで免疫した動物と比較してAβとの交差反応性およびAβ抗体の力価が存在するかどうかを決定した。表1および2に示すように、MOGまたはPLPで免疫した動物中に抗Aβ抗体は検出されなかった。抗体が役割を果たさないことを決定的に確立するために、μMT B細胞欠損マウスと交配した16月齢のJ20マウスを、MOG35〜55を含むCFAで免疫し、その後に百日咳毒素を投与した。表1および図1に示すように、μMT B細胞欠損APP+マウスは、ThS染色(p<0.001)または総脳アミロイドについてのELISA(p<0.001)のいずれかによって測定したところ、コントロールと比較してアミロイドが90%減少した。これらの結果は、MOG免疫後のAβの減少が抗体と無関係の機構によって起こることを示す。
【0087】
以前の研究により、活性化小膠細胞はインビボでのAβのクリアランスで重要な役割を果たし得ることが示唆されている(Schenk,D.et al.,Nature 400,173−7(1999),Rogers,J.et al.,Glia 40,260−9(2002),Mitrasinovic,O.M.et al.,Neurobiol Aging 24,807−15(2003),Webster,S.D.et al.,Exp Neurol 161,127−38(2000),Bacskai,BJ.et al.,J Neurosci 22,7873−8(2002),Nicoll,J.A.et al.,Nat Med 9,448−52(2003),Akiyama,H.& McGeer,P.L.,Nat Med 10,117−8;author reply 118−9(2004))。活性化小膠細胞(または小膠細胞様細胞)を、脳の外側(すなわち、末梢)に由来するか起源とすることに基づいてさらに区別することができる(好中球およびマクロファージなど)。脳由来小膠細胞を末梢好中球およびマクロファージに区別する手段は、当該分野で公知である。Aβクリアランスにおける小膠細胞活性化の潜在的役割を調査するために、MOG/CFAで免疫したAPPtgマウスの脳を、CD11b(活性化小膠細胞のマーカー)で染色した。図3Aおよび4ならびに表4に示すように、APPtgMOG免疫したマウスの免疫染色により、アミロイド斑と同時局在化した活性化小膠細胞数の増加が明らかとなった(349±34.3細胞/海馬領域)(表4)。BSA/CFAで免疫したコントロール動物での染色は最小でしかなかった(76±17細胞/海馬領域)(表4)。Aβ/CFAで免疫した動物では、中程度のレベルの小膠細胞活性化が認められた(106±27細胞/海馬領域)。さらに、μMT B細胞欠損マウス(p<0.001)およびPLPで免疫された動物(p<0.001)での小膠細胞活性化レベルの増加が認められた(図3A、表4)。
【0088】
直前に記載した第1の実験によれば、MOG/PLP+CFAの投与(その後の百日咳毒素の投与)は、Aβの減少に関連するが、望ましくないEAEを同時に発症した。これらの実験では、百日咳毒素を使用して、脳へのCFA配合化合物の送達のために血液脳関門を開かせる。したがって、Aβの減少がEAEの誘導に直接関連するかどうかを評価するために、そしてMS関連EAEに関してMOG、PLP、およびGAを研究しているので、アラニン、リジン、グルタミン酸、およびチロシンのランダムなアミノ酸コポリマーであり、EAEの抑制に有効であり、且つMSの再発形態の治療のために承認されており、且つ広く使用されている治療薬である(Teitelbaum,D.et al.,J.Neural Transm Suppl 49,85−91(1997))酢酸グラチラマー(GA)を使用したAPPマウスの免疫効果を評価した。
【0089】
最初に実施されたように、本明細書中に提供した一定の抗原/アジュバント混合物の投与後に百日咳毒素を投与(注射)したにもかかわらず、百日咳毒素を投与することなく本明細書中に記載の一定の他の組成物を投与することができることが完全に認識される。実際、百日咳毒素を投与することなく、GAを含むか含まないIVX−908などのプロテオソームベースの組成物を投与する。実際、本明細書中に記載の任意のプロテオソームベースの組成物の鼻送達のために、常に百日咳毒素を使用しなかった。
【0090】
したがって、マウスを、100μgGAを含むCFAで免疫し(足蹠注射による)、その直後および48時間後に150ngの百日咳毒素をi.p.注射した。免疫後50日目に、マウスを屠殺した。酢酸グラチラマーでの免疫により、未処置コントロールに対して海馬領域中のアミロイド原線維は92%減少し(p<0.01)、総アミロイド負荷が70%減少した(p<0.01)(表1、図1を参照のこと)。GA/CFA+百日咳毒素で免疫した動物で臨床的EAEは認められなかった。
【0091】
CFAをヒト被験体に投与することができないので、CFA以外のアジュバントを使用したマウスADモデルにおける酢酸グラチラマーでの鼻ワクチン接種効果を調査した。動物に酢酸グラチラマーを単独か粘膜アジュバントと共に鼻に投与して処置した。ヒト(Fries,L.F.,et al.,Infect Immun 69:4545−53(2001))およびマウス(Plante,M.et al.,Vaccine 20,218−25(2001))の両方で使用されている、髄膜炎菌外膜タンパク質(プロテオソーム)およびShigella flexneri由来のLPSの非共有結合処方物から構成されるプロテオソームベースの粘膜アジュバントIVX−908(プロトリン)を調製した。第1週目にマウスをプロテオソームアジュバントで複数回処置し、その後の5週間毎週追加免疫し、その後に神経病理学的分析を行った。コントロールとして、動物の鼻をIVX−908+BSA、IVX−908のみ、またはGAのみで処置した。予想外に、IVX−908を配合したGAの鼻投与により、海馬中のチオフラビン陽性線維性アミロイドが84%減少し(コントロールに対してp<0.001)、IVX−908のみと比較して70%減少した(p<0.01)(表3)。脳Aβレベルに関しては、酢酸グラチラマーを含むIVX−908の鼻投与後に73%減少し(コントロールに対してp<0.001)、IVX−908のみを使用して45%減少した(p<0.002)(表3、図2)。さらに、処置動物中のアミロイド斑周辺に活性化小膠細胞が検出された。GAのみの鼻投与はAβ原線維に影響を与えなかったが、脳内の総Aβレベルがわずかに減少した(コントロールに対してp=0.044)。BSA+IVX−908またはIVX−908のみの鼻投与により、総アミロイド負荷が50%減少したが(コントロールに対してp=0.02)、線維性Aβ染色に効果はなかった。CFA注射と対照的に、IVX−908のみまたはGAもしくはBSAとの処方物の鼻投与は、これらの実験でのいかなる動物においてもEAEを誘導しなかった。
【0092】
以下のいずれの免疫プロトコールにおいても、APP非トランスジェニックマウスの小膠細胞活性化は見出されなかった:CFA/PT+GAの非経口投与、IVX−908+GAの鼻投与(図3Bを参照のこと)、またはIVX−908のみの鼻投与。これらの結果により、IVX−908を配合したGAまたはIVX−908のみの投与(免疫)後の小膠細胞の活性化が、活性化のために内因性小膠細胞を準備刺激するのに役立ち得るアミロイド沈着の存在に依存し得ることが示唆される。
【0093】
GAとAβとの間の交差反応性が知られておらず、且つ、GA処置動物またはEAE動物のいずれにも抗Aβ抗体が認められないにもかかわらず、GA+IVX−908での免疫によってAβ反応性T細胞を準備刺激することができることが可能である。Aβ(1〜40)での脾臓T細胞の刺激によってGA+IVX−908で毎週7週間処置した後に(その時点で実験を終了する)、T細胞増殖応答およびサイトカイン産生(IL−2、IFN−γ、IL−6)を測定した。増殖によって測定したところ、Aβ反応性T細胞の準備刺激は見出されなかった:以下についての1分間あたりのAβ数:未処置=3315±1682cpm;GA+IVX−908=4516±1412cpm(バックグラウンド数は、100〜300であった)。刺激指標(GA+IVX−908/未処置)=1.37;2.5を超える最小刺激指標は、陽性と見なす。さらに、これらの培養物においてバックグラウンドを超えるIL−2、IFN−γ、IL−6の分泌は見出されなかった。抗体産生にはT細胞の補助が必要であるので、Aβに対するこのT細胞応答の欠如は、抗Aβ抗体が検出されなかったことと一致する。同様に、EAE動物におけるAβに対する準備刺激は見出されなかった。
【0094】
海馬以外の他の脳部位に対するGA+IVX−908処置の効果を試験するために、嗅球および小脳を調査した。Aβ、CD11b、およびフィブリノゲンについて嗅球を染色し、海馬で認められた結果と類似の結果を得た(図8)。GA+IVX−908の鼻投与後、コントロールと比較して活性化小膠細胞数が増加していることが見出された。EAE動物でも活性化されたが、フィブリノゲン染色によって測定したところ、血液脳関門(BBB)の漏れに関連していた。
【0095】
小脳を試験した場合、GA+IVX−908処置動物において小膠細胞染色活性化の増加は見出されず、活性化の増加はAβ沈着領域に制限されることが示唆された。さらに、GA+IVX−908後の非トランスジェニック同腹子の脳内のどこにも小膠細胞の活性化は認められず、活性化の増加がAβ沈着領域に制限されることがさらに証明された(図3bを参照のこと)。
【0096】
認められたクリアランス機構をより深く理解するために、脳小膠細胞とは対照的に末梢由来の活性化マクロファージ上で高度に発現されるCD68発現を染色した。図9に示すように、GA+IVX−908で処置した動物と比較してEAE動物でCD68がより染色された。この染色パターンは、脈絡叢から脳実質(小脳および皮質が含まれる)へのマクロファージの移動を示す。GA+IVX−908処置では、主に脈絡叢腔でCD68発現が増加する。これにより、EAE動物におけるAβクリアランスの担うCD11b+細胞が末梢からCNSに移動して神経毒性に関連するのに対して、GA+IVX−908処置動物におけるCD11b+細胞は主に内因性小膠細胞であり、Aβクリアランスに関連するが、直接有毒である証拠はないことが示唆される。この解釈のさらなる裏付けとして、本発明者らは、EAE動物の小脳でCD68+細胞の発現が増加するが、GA+IVX−908処置動物または未処置動物では増加しないことを見出した(示さず)。さらに、GA+IVX−908処置後に、アミロイドが蓄積された領域のみで活性化CD11b+細胞が見出された。
【0097】
表4および図4に示すように、海馬中のAβ原線維の減少は、CD11b染色によって示されるように、両方の活性化小膠細胞数の増加と強く相関した(r=−0.7 CD11b対Aβ原線維およびIFN−γ対Aβ原線維)。CD11b+細胞とIFN−γ細胞との間の強い相関が存在し、コントロールと比較して処置動物でマクロファージコロニー刺激因子レセプター(M−CSFR)に免疫反応を示す小膠細胞数の増加が認められた(p<0.02)(表4)。海馬領域中のTGF−βおよびAβ原線維の減少が認められた(r=0.91)。コントロールとGA+IVX−908処置動物との間でIL−10免疫反応細胞の有意な変化は認められなかったが、EAE動物のIL−10はコントロールより少なかった。
【0098】
GA+IVX−908での処置によって神経細胞傷害性または他の潜在的な負の効果が誘導されるかどうかを評価するために、以下の実験を行った:i)GFAPレベル(神経細胞の損傷と一致する星状細胞増加症の基準)の決定、ii)SMI32レベル(神経フィラメントのリン酸化のマーカーであって、神経細胞の損傷と共に増加することが知られている)の測定、iii)アポトーシス性細胞死測定の基準としてのTUNELアッセイの実施、およびiv)iNOS(神経細胞ストレス条件下でアップレギュレーションされることが示されている酵素)レベルの決定。
【0099】
GFAPアッセイの結果は、未処置のコントロール動物で星状細胞増加症が起こることを示す(GFAP+細胞によって測定された海馬中の活性化星状細胞領域)(図5)。GA+IVX−908を鼻投与した場合に星状細胞増加症が軽減された(3.1%;p=0.039対コントロール)。対照的に、EAE動物では星状細胞増加症は軽減されなかった。これらの結果は、EAEがAβ沈着物の減少にも関連するにもかかわらず、GA+IVX−908での処置の結果としてのAβクリアランスが、EAE動物で見出されるAβクリアランスよりも毒性が低い(星状細胞増加症に関連する)ことを示す。
【0100】
SMI32を測定する実験の結果(図6)は、異常な卵形のSMI32陽性細胞が未処置コントロール動物の老人斑に関連することを示す。EAE動物は、(老人斑が認められないが)小脳が含まれる脳全体の異常な卵形のSMI32陽性細胞(炎症に関連する)の増加を示す。対照的に、GA+IVX−908で処置した動物は、老人斑に関連するSMI32陽性細胞数が減少する。これらの実験により、SMI32によって測定したところ、GA+IVX−908処置は毒性に関連しないことが示唆される。
【0101】
標準的なTUNELアッセイを使用したアポトーシス性細胞死を測定する実験の結果(図6)は、コントロール動物ではTUNEL染色は認められず、EAE動物の皮質ではTUNEL染色が増加することを示す。GA+IVX−908処置動物ではTUNEL染色は認められなかった。さらに、iNOSを測定するアッセイは、iNOSはEAEマウスでアップレギュレーションされるが、GA+IVX−908で処置した動物ではアップレギュレーションされないことを示す。GA+IVX−908処置動物またはEAE動物のいずれにおいても血管構造の損傷は認められなかった。
【0102】
まとめると、これらのデータは、EAE動物およびGA+IVX−908で処置した動物においてAβのクリアランスが認められたにもかかわらず、後者は神経細胞毒性に関連しないことを示す(表4および図6)。
【0103】
しかし、IVX−908のみでの免疫後の小膠細胞の活性化がAβ沈着物の存在に必要なようであるにもかかわらず、このような免疫によってこのようなAβ沈着物(活性化小膠細胞による)は除去されず、むしろ、総アミロイド負荷量が優先的に減少した。このような結果により、活性化することができる2つの小膠細胞集団が存在する可能性、または小膠細胞を異なる程度に活性化することができるという別の可能性(部分的または完全に、完全に活性化された小膠細胞が既存のAβ斑を除去することができ、部分的に活性化された小膠細胞が可溶性Aβペプチドの隔離(sequestration)に関与する)を示唆することができる。可溶性Aβが不溶性Aβ斑に凝集するという考えを考慮して、IVX−908のみでの処置により、Aβ斑の持続的形成を遅延または防止することができ、これは、罹患被験体に有利である。
【0104】
表4および図3Bは、海馬中のAβ原線維の減少が活性化小膠細胞数(CD11b+免疫組織学的染色によって示される)およびIFN−γ分泌細胞数の増加に相関することを証明する。さらに、マクロファージコロニー刺激因子レセプター(M−CSFR)陽性小膠細胞数が増加した。マウスおよびヒトの小膠細胞上のM−CSFR発現の増加により、マクロファージスカベンジャーレセプターおよびFcRγレセプターの小膠細胞発現の増加の両方によって凝集アミロイドの食作用が促進されると報告されている(Mitrasinovic,O.M.& Murphy,G.M.,Jr.,Neurobiol Aging 24,807−15(2003))。しかし、μMT B細胞欠損マウス中のアミロイドのクリアランスにより、M−CSFR染色も増加し、それにより、認められた効果は、非Fc媒介機構を介する(Bacskai,BJ.et al,J Neurosci 22,7873−8(2002))。IFN−γの増加と関連して、TGF−β発現が減少し、TGF−βが可溶性Aβを斑に凝集する能力を幾らか調整すると示唆され、さらに、TGF−βがアミロイド沈着の増加に関連すると考えられる(Wyss−Coray,T.et al.,Nature 389,603−6(1997))。TGF−βの減少はまた、アミロイドクリアランスを促進し得る。IL−10発現の有意な変化は認められなかった。小膠細胞の活性化はT細胞数の増加に関連する可能性があり、T細胞数とIFN−γ分泌細胞数とが相関したので、小膠細胞活性化の促進で役割を果たすかもしれない。
【0105】
これらの実験で検出されたCD11b+細胞は、活性化されたマクロファージまたは小膠細胞であるが、好中球ではないことを確認するために、サンプルを、F4/80(活性化マクロファージおよび小膠細胞の表面上で検出することができるが、好中球(多形核白血球)上で検出することができない細胞表面構造)を認識するモノクローナル抗体と共にインキュベートした。F4/80の発現は、マクロファージおよび小膠細胞の成熟とともに増加する。これらの実験の結果は、これらの実験で検出されたCD11b+細胞もF4/80に対して陽性染色されることを示し(示さず)、それにより、これらのCD11b+細胞は活性化されたマクロファージまたは小膠細胞であるが、好中球ではないことを示す。さらに、H&E染色(図4)によってAβ斑と同時局在化したCD11b+細胞は、単核形態を有し、好中球に特徴的な多形核形態ではない。
【0106】
さらに別の一連の実験では、CD3染色によって決定したところ、GA+IVX−908の鼻投与後の小膠細胞の活性化は、T細胞数の増加に相関することを示した。これらの結果により、検出されたT細胞数とIFN−γ分泌細胞数の間に相関関係が存在するので(r=0.88)(表4)、小膠細胞活性化の促進におけるT細胞の可能な役割が示唆される。さらに、TGF−βはAPPtg−マウスにおいてAβ原線維形成を増加または減少させることができると報告されている(Wyss−Coray,T.et al Nature 389,603−6(1997);Wyss−Coray et al.Nat.Med.7:612−8(2001))。ここに報告されている実験では、コントロールと比較してMOG(p<0.001)およびGA+IVX−908(p<0.001)処置マウスでTGF−β発現の減少が認められ(表4)、海馬領域中のTGF−βの減少とAβ原線維の比率との間に強い相関関係があった(r=0.95)。IL−10免疫反応性細胞では有意な変化は認められなかった(示さず)。
【0107】
IVX−908のみを鼻に投与した場合に総脳Aβレベルの減少が見出されたが(表3)(未処置に対してp=0.02)、GAを配合したIVX−908と異なり、IVX−908のみではチオフラビン陽性Aβ原線維のクリアランスに効果はなかった。IVX−908は、髄膜炎菌外膜タンパク質(OPM)および外因的に添加したリポポリサッカリド(LPS)から構成されるプロテオソームベースのアジュバントである。髄膜炎菌OMP2(ポリンB)およびLPS/LOSは、先天性免疫系および/または養子免疫系に関連する一定の細胞型の表面上に提示されたTLRと相互作用することが公知である。本明細書中に記載のように、このような相互作用は、少なくとも部分的に、IVX−908および/またはIVX−908を配合したGAの活性が認められることが可能である。IVX−908を使用して認められた効果は、LPSの海馬への直接注射によって非原線維Aβ負荷を減少させることができるが、原線維Aβ沈着を減少させることはできないという報告と関連し得る(DiCarlo,G.et al.,Neurobiol Aging 22,1007−12(2001))。しかし、これらの実験における投与経路(脳への直接注射)は、本明細書中に記載のプロテオソームベースの処方物の送達のための鼻投与経路と非常に異なることに留意しなければならない。対照的に、他の報告は、腹腔内に投与したLPS(炎症)は小膠細胞の活性化を刺激することができ、総アミロイドの増加が認められ、LPS誘導性神経炎症がアミロイド前駆体タンパク質およびAβペプチドの細胞内蓄積を増大させることを示している(Sheng et al.,Neurobiology of Disease 14:133−145(2003)およびその参考文献)。さらに、LPSの直接注射は有毒であると予想されることが認識されている。
【0108】
上記で考察した実験では、F4/80シグナルが存在しないことにより、CD11b+細胞は、活性化された小膠細胞またはマクロファージであるが、好中球ではないことが示された。しかし、これらのCD11b+細胞を活性化マクロファージと対立するものとして活性化小膠細胞としてさらに区別することができるかどうかを決定するために、サンプルを、CD68(末梢由来の活性化マクロファージ上に高度に発現されるが、脳由来の小膠細胞表面上にはあまり発現されない細胞マーカー)の存在について評価した。図8および9に示すように、GA+IVX−908で処置した動物由来のサンプルと比較してEAE動物中のCD68(マクロファージはCD11b+およびCD68+である)がより染色され、これらのCD11b+CD68+細胞が、末梢(くも膜下腔)から脳実質(小脳および皮質が含まれる)に移動したマクロファージであることを示す。対照的に、GA−IVX−908での処置後、CD68発現マクロファージが増加したが、これらの細胞は主にくも膜下腔に局在したままである。これらの実験結果により、EAE動物中のAβクリアランスに関与するCD11b+細胞が末梢からCNSに移動神経毒性に関連するのに対して、GA−IVX−908での処置後に検出されたCD11b+細胞は主に内因性の小膠細胞であり、Aβクリアランスに関連するが、直接有毒である証拠はないことが示唆される。この解釈のさらなる裏付けとして、本発明者らは、EAE動物の小脳でCD68+細胞の発現が増加するが、GA−IVX−908処置動物または未処置動物では増加しないことを見出した(データ示さず)。さらに、GA−IVX−908処置後に、アミロイドが蓄積された領域のみで活性化CD11b+細胞が見出された。
【0109】
本発明者らは、未処置動物と比較した場合、GA+IVX−908を投与した動物の血清中のAβレベルの増加も見出し、これにより、GA+IVX−908により脳領域からAβがクリアランスされ、このAβを末梢で見出すことができることが示唆された。しかし、EAEを有する動物でこのようなAβの再分布は認められず、上記のように、活性化CD11b+細胞の供給源に関連し得る。さらに、GA−IVX−908を投与した動物における脳毛細血管の内側を覆うCD11b+CD68+活性化マクロファージおよび脈絡叢の数は、未処置動物と比較して増加した(図9)。これらの所見は、GA−IVX−908処置動物から得られた血清サンプルで検出されたAβレベルの増加と一致し、CD11b+細胞に関してGA−IVX−908で処置した動物でアミロイド血管症の減少を伴う(図8)。
【0110】
予想外に、アミロイド(例えば、Aβ斑)クリアランスの最終の共通経路は活性化小膠細胞を介し得るようである。EAEでは、 IFN−γTh1型ミエリン反応性T細胞は、MOGまたはPLP+CFAでの免疫によって末梢で見かけ上活性化され、これらのT細胞が脳に移動してIFN−γ(Th1サイトカイン)を放出し、小膠細胞を活性化する。結果として、動物の脳脊髄炎および麻痺は、ミエリンおよびその下にある軸索への損傷によって引き起こされる。BSA特異的Th1型細胞は脳内に蓄積しないので、末梢におけるBSA/CFAでの免疫によってAβクリアランスは起こらない。酢酸グラチラマーを含むCFAでの末梢免疫によって、GA特異的T細胞が誘導させ、GAのMBPとの交差反応性によって脳内に蓄積される。この細胞は、IFN−γを分泌することができ、それにより、小膠細胞を活性化することができるが、MBPに対する親和性の変化およびそれに伴う抗炎症性サイトカインの分泌により、EAEを発症することができない。
【0111】
本発明者らは、小膠細胞活性化に関連するAβのクリアランスを証明した。小膠細胞の活性化は、正の効果および負の効果の両方を示すことができることを指摘すべきである(Monsonego,A.,and Weiner,H.L.,Immunotherapeutic approaches to Alzheimer’s disease,Science 302:834−838(2003))。小膠細胞は、タンパク質が凝集する天然の機構を示し、破片を脳から除去することができ、Aβ免疫または脳卒中後の小膠細胞の活性化によってAβをクリアランスすることができるという報告が存在する(Nicoll,J.A.,et al.,Neuropathology of human Alzheimer disease after immunization with amyloid−beta peptide:a case report,Nat Med.,9:448−452(2003);Akiyama,H.,and McGeer,P.L.,Specificity of mechanisms for plaque removal after A beta immunotherapy for Alzheimer Disease,Nat Med.,10:117−118;author reply 118−119(2004);およびWyss−Coray,T.,et al.,Prominent neurodegeneration and increased plaque formation in complement−inhibited Alzheimer’s mice.,Proc Natl Acad Sci,99:10837−10842(2002)を参照のこと)。動物研究では、Wyss−Corayおよびその同僚は、同年齢の野生型ADマウスよりも小膠細胞があまり活性化しない補体阻害ADマウスモデルで顕著な神経変性および斑形成の減少が認められることを証明した。これは、ADマウスモデルにおいて、活性化小膠細胞が高い神経毒性を示すことのないアミロイド負荷の減少で有利な役割を果たすという概念を支持する。
【0112】
IVX−908は小膠細胞を活性化することができるので、IVX−908のみの鼻投与によってアミロイドを減少させ、GAを配合したIVX−908組成物ほど有効ではないが、さらに、T細胞を活性化することができる。非トランスジェニック動物において、CFAと共に末梢に投与するか、IVX−908と共に鼻腔内に投与したGAを使用して小膠細胞の活性化は認められなかった。Aβ沈着によってAβ斑を取り囲む小膠細胞がわずかに活性化され、この活性化は小膠細胞がIVX−908+GAによってさらに活性化されるために必要なようであると報告されている。小膠細胞のわずかな活性化が、さらなる活性化のために小膠細胞を準備刺激するIFN−γまたはToll様レセプターの発現に関連する可能性がある(Sasaki,A.et al.,Virchows Arch.,441(4):358−67(2002))。
【0113】
これらの所見は、Aβ1−42を含むTh1型アジュバント(QS21)での免疫後にヒトで認められる斑除去の潜在的な機構に関連する。Nicoll,J.A.et al.,Nat Med 9,448−52(2003)は、広範な髄膜脳炎を引き起こし、マクロファージが脳に浸潤し、そして新皮質中のアミロイド沈着物が減少するというアジュバントQS21と共に非経口投与したAβ1−42でワクチン接種したAD患者由来の所見を報告している。AkiyamaおよびMcGeerは、ADの場合に不完全な虚血が影響を及ぼした皮質領域中の老人斑の類似の減少を報告しており、その所見およびNicoll et alによって報告された所見が抗体依存様式で高反応性小膠細胞によるアミロイドの食作用に関連し得ることを示唆する。さらに、TUNEL染色(アポトーシス細胞のマーカー)またはNeUN免疫染色(ニューロン生存のマーカー)の使用により、未処置マウスと比較して、GA+IVX−908またはIVX−908のみでの免疫が有毒である証拠はなかった。
【0114】
抗体と無関係であり、且つ活性化小膠細胞によって媒介されるアルツハイマー病治療のための新規の免疫治療アプローチを本明細書中に提供する。多発性硬化症の治療で使用される薬物と鼻アジュバント(IVX−908)との組み合わせにより、他の適用のために以前にヒトで使用されていた毒性のない2つの組成物(GAおよびプロテオソームベースのアジュバント)を使用して、小膠細胞は、透明なAβ−原線維斑に活性化され、総アミロイド負荷が減少されるようである。動物研究によってAβ斑の減少が認知の改善に関連することが証明されたと仮定すると、GAを配合したIVX−908での鼻ワクチン接種は、アルツハイマー病患者に有効な治療法である。
【0115】
(表1:J20 APPトランスジェニックマウスの脳内の総Aβおよび線維性Aβに対する皮下免疫の効果)
【0116】
【表1】
* 結果を、1:500 IgGの力価でのODレベルとして示す。
**コントロールは、未処置(n=5)およびBSA/CFA処置(n=3)動物を組み合わせており、これは、これらの群の間で差異が認められなかったためである。総脳Aβについて、未処置=126.7±19.5;BSA/CFA 123.7±33.2。チオフラビン陽性Aβ斑領域の%:未処置:2.8±0.5;BSA/CFA=2.2±0.9。
a コントロールに対してp<0.05。
b コントロールに対してp<0.001;Aβに対してp<0.05
c コントロールに対してp<0.01
d コントロールに対してp<0.01;Aβに対してp=0.05。
【0117】
(表2:Tg2576 APPトランスジェニックマウスの脳内の総Aβおよび線維性Aβに対するPLP免疫の効果)
【0118】
【表2】
* 結果を、1:500 IgGの力価でのOD450レベルとして示す
a コントロールに対してp<0.02(未処置マウス)
b コントロールに対してp<0.002。
【0119】
(表3:J20 APPトランスジェニックマウスの脳における総Aβおよび繊維状Aβに対する経鼻免疫の効果)
【0120】
【表3】
* 結果を、1:50 IgGの力価でのOD450レベルとして示す。
a コントロールに対してp<0.02、GAに対してp<0.02
b コントロールおよびGAに対してp<0.001、IVX−908に対してp<0.04
c コントロールに対してp<0.001、GAに対してp<0.002、IVX−908に対してp<0.002。
【0121】
(表4:免疫した動物における海馬の免疫組織化学)
【0122】
【表4】
(表4脚注)
* データは、各処置についての3つの切片およびコントロールについての6つの切片(3つの未処置+表1のように処置した3つのBSA/CFA)の定量を示す。
a r=−0.7 CD11b対Aβ原線維領域の%
b r=−0.65 CD3対Aβ原線維領域の%;r=0.74 CD3対CD11bc r=−0.7 M−CSFR対Aβ原線維領域の%;r=0.92 M−CSFR対CD11b
d r=−0.8 IFN−γ対Aβ原線維領域の%;r=0.9 IFN−γ対CD11b;r=0.85 IFN−γ対CD3
e r=0.91 TGF−β対Aβ原線維領域の%;r=−0.77 TGF−β対CD11b;r=−0.6TGF−β対CD3
f r=0.67 IL−10対Aβ原線維領域の%;r=−0.4 IL−10対CD11b
g p=0.0007 CD11b対GA;p<0.05 IFN−γ対GA;p=0.0011 TGF−β対GA
i コントロールに対してp<0.05
ii コントロールに対してp<0.02
iii コントロールに対してp<0.001
iv コントロールに対してp<0.001。
【0123】
(材料と方法)
マウス。(B6XD2)F1(平均年齢は14月齢)または(B6XSJL)F1 APP+(WTまたはμMT)(平均年齢は16月齢)APPトランスジェニックマウスを、全ての適用可能なガイダンスにしたがって、Brigham and Woman’s Hospitalの無発熱物質施設に収容し、使用した。
【0124】
材料。IVX−908(プロトリン)は、髄膜炎菌外膜タンパク質(プロテオソーム)およびヒトで安全に試験されたShigella flexneri由来のLPSの非共有結合処方物であり、ID Biomedical,Montreal,Canadaから入手した。酢酸グラチラマー(Copaxone(登録商標))は、MSの再発形態のための承認されており、且つ広く使用されているアラニン、リジン、グルタミン酸、およびチロシンの無作為なアミノ酸コポリマーであり、Brigham and Women’s Hospital pharmacyから入手した。MOG(35〜55)およびPLP(139〜151)を、Center for Neurologic Diseases,Brigham and Women’s Hospitalで合成した。
【0125】
APP+マウスにおけるEAEの誘導および臨床評価。(B6D2)F1または(B6XSJL)F1 APP+(WTまたはB細胞欠損μMT)および非tg同複子の後足蹠に、100μgのMOG(35〜55)、PLP 139〜151、または100μg β−アミロイドペプチド(1〜40)を含むCFAで免疫した。その直後および48時間後に150ngの百日咳毒素を含む0.2ml PBSを、i.p.注射した。動物をEAEの症状についてモニタリングし、これを免疫後から7日目から開始し、以下のように記録した:0、疾患なし;1、尾の麻痺;2、後肢の衰弱;3、後肢の麻痺;4、後肢および前肢の麻痺;および5、瀕死状態。
【0126】
鼻ワクチン接種。酢酸グラチラマー:25μgを、最初の1週間は1日目、2日目、4日目、および5日目に投与し、その後の6週間は週に1回投与した。IVX−908:1μg/マウスを、最初の1週間は1日目および5日目に投与し、その後の6週間は週に1回投与した。BSA+IVX−908:25μgのBSA+1μg IVX−908を、最初の1週間は1日目および5日目に投与し、25μgのBSAのみを2日目および4日目に投与し、その後の6週間はBSA+IVX−908の組み合わせで追加免疫した。GA+IVX−908:25μgのGA+1μg IVX−908を、最初の1週間は1日目および5日目に投与し、25μgのGAのみを2日目および4日目に投与し、その後の6週間はGA+IVX−908の組み合わせで追加免疫した。
【0127】
アミロイドの定量。アミロイド負荷を定量するために、右半球を、5.0M塩酸グアニジン(pH8)中にて室温で3時間抽出した。希釈物を使用して、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって不溶性(アミロイド関連)Aβ40およびAβ42レベルを測定した。Aβ原線維を測定するために、左半球を、4%Brainで一晩固定し、次いで4.5%スクロースに4時間浸漬し、その後、4℃で20%スクロースに一晩浸漬した。脳を、OCTパラホルムアルデヒドの存在下で凍結させ、14μmの縦断面に切断し、免疫組織染色およびアミロイド原線維の定量のために使用した。十分に定義した海馬領域(ブレグマ−1.34)を、チオフラビン−S染色を使用した斑中のアミロイド原線維の定量のために選択した。これらの切片由来の画像(20倍)を、3CCDカラービデオカメラから回収し、適切なソフトウェア(NIH;Imaging Research)を使用して分析した。アミロイド原線維量を、このソフトウェアによって測定した1mm2の海馬領域あたりの比率として示した。
【0128】
免疫組織学。以下のマーカーを使用して染色を行った:T細胞(CD3;BD Biosciences:553057)、小膠細胞/マクロファージ(CD11b;Serotec:MCA74G)、(C−MFR;Cymbus Biotech:21080096)、IFN−γ(Pharmingen:559065)、IL−10(Pharmingen:559063)、およびTGF−β(RD:AB−20−PB)。抗アミロイド抗体(R1282)は、Dennis Selokeから譲渡された。脳切片を、ヘマトキシリン染色にさらに供した。切片を、盲検様式で評価し、コントロールは、前記のアイソタイプ適合mAbを使用した。各処置のために、3つの異なる脳切片の海馬領域を定量した(同一領域、ブレグマ−1.34、ThS染色のために使用)。結果を、各マーカーについて標識された細胞の平均として示す。
【0129】
神経病理学。神経毒性を試験するために、左半球を、4℃で、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定し、その後に4.5%スクロースに4時間浸漬し、その後に20%スクロースに一晩浸漬した。脳を、OCTパラホルムアルデヒドの存在下で凍結させ、14μmの縦断面に切断し、免疫組織染色ために使用した。本発明者らは、神経ストレスおよび血液脳関門の完全性のために使用した以下の4つのマーカーを染色した:GFAP(Sigma;G9269)、SMI32(Serotec)、TUNEL(Roche 1 684 817)、iNOS(CHEMICON:AB5382)、およびFibrinogen(Dako:A0080)。星状細胞増加症を、星状細胞で被覆された1mm2の海馬細胞あたりの比率として示す。iNOS、SMI32、およびフィブリノゲンを、以前に記載のように染色した(29)。末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性dUTPニック末端標識(TUNEL)染色を、製造者(Roche 1 684 817)の説明書にしたがって行った。計数した細胞の形態を同定するために、H&E染色を行った。不偏立体解析学的アプローチにおけるNIHのImaging Research softwareを使用した盲検様式で動物あたり2つの連続切片および群あたり4匹の動物を染色した。一次運動皮質(ブレグマ側面の1.44mm)由来の群あたりの染色を、図6に示す。
【0130】
データ分析。全ての連続順序および順序データを、平均±semと示す。2群を比較する場合はスチューデントt検定を使用してデータを比較し、3群またはそれ以上を分析する場合は一元配置のANOVA分析を行った。0.05未満の値を、統計的に有意と見なした。Excel統計プログラムを使用してr値を計算した。
【0131】
本明細書中に引用した全ての引用文献(特許、特許出願、および刊行物が含まれる)は、以前に具体的に援用されているかにかかわらず、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0132】
ここに本発明を完全に記載しているが、当業者は、本発明を、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、且つ過度の実験を行うことなく広範な等価のパラメーター、濃度、および条件を使用して本発明を実施することができることを認識している。
【0133】
本発明を特定の実施形態と組み合わせて記載しているが、本発明をさらに修正することができると理解される。本出願は、一般に、本発明の原理に従って本発明の任意の変形形態、使用、または適用を対象とし、本発明が属する分野内での公知または慣習的な作業の範囲内であり、前記の基本的な特徴に適用することができる場合、このような本開示からの逸脱を含むことを意図する。
【技術分野】
【0001】
(政府によって支援された研究および開発の下で行われた発明に対する権利に関する陳述)
本発明は、Department of Health and Human Servicesによって授与された助成金の下で、政府の支援を受けて行われた。
【0002】
(関連出願の引用)
本出願は、2004年6月25日出願の米国仮特許出願第60/582,999号(その全体が記載されているかのように、本明細書に参考として援用される)の優先権の利益を主張する。
【0003】
(発明の分野)
神経障害(有害なタンパク質の凝集、異常なタンパク質の折り畳みに関連する神経変性障害および/または神経変性自己免疫障害(脳アミロイド形成(amylogenic)疾患など)が含まれる)の治療に有用な組成物を記載する。前記組成物の使用方法も記載する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
神経疾患は、一般に、1つまたは複数の中枢神経系領域由来のニューロンの喪失によって特徴づけられる。神経疾患の例には、アルツハイマー病、神経線維腫症、ハンチントン病、うつ病、筋萎縮性側索硬化症、多発性軟化症、脳卒中、パーキンソン病、および多発脳硬塞性痴呆が含まれる。これらは、起源および進行の両方が複雑であり、最も治療が困難な疾患型のいくつかであることが判明している。実際、いくつかの神経疾患について、有意な治療上の利点が得られる利用可能な薬物は存在しない。治療が困難であることは、これらの疾患がその犠牲者に与える破滅的影響を考えると、一層悲劇的である。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、重度の精神衰退を引き起こし、最終的には死に至る、記憶、認知、推理、判断、情動安定性の進行性の喪失によって臨床的に特徴づけられる変性脳障害である。ADは、高齢者における精神不全(mental failure)(痴呆)の非常に一般的な原因であり、米国における4番目の最も一般的な医学的死亡原因に相当すると考えられている。ADは、世界中の全ての人種および民族で認められており、主な現在のおよび将来的なさらなる公衆衛生問題となっている。この疾患は、現在、米国のみで約400万人の個体に影響を与えていると見積もられている。ADは、現在、治癒不可能である。一定の治療薬の投与を使用して、ヒトのADの症状を処置している。しかし、ヒトのADを有効に防止するかその症状または経過を逆転させる治療は現在のところ知られていない。
【0006】
AD個体の脳は、老人斑と呼ばれる特徴的な病変および神経原線維変化を示す。ADに特徴的な老人斑は、細胞外に最も頻繁に局在する一方で、神経原線維変化は、細胞内に最も頻繁に局在する。多数のこれらの病変は、一般に、AD患者の記憶および認知機能に重要なヒト脳のいくつかの領域で見出される。より限局した解剖学的分布におけるより少数のこれらの病変は、ときおり、臨床的ADではない高齢者の脳で見出される。ADに特徴的な老人斑および血管アミロイド沈着(アミロイド血管症)の主な化学成分は、アミロイド−βペプチド(Aβ)と呼ばれるタンパク質であり、βAP、AβP、またはβ/A4ともいうことができる。Aβを含む細胞外斑は、密集(dense)または散在し得る。密集した斑は、しばしば、線維性斑という。Aβは最初に精製され、非特許文献1で報告された部分的アミノ酸配列である。最初の28アミノ酸についての単離手順および配列データは、特許文献1に記載されている。40個を超えるアミノ酸を有するAβ形態は、非特許文献2によって最初に報告された。
【0007】
神経病理学的に、ADは、様々な程度に、以下の4つの主な病変によって特徴づけられる:a)神経原線維変化(NFT)のニューロン内細胞質沈着物、b)老人斑(neuritic plaque)と呼ばれる実質性アミロイド沈着物、c)脳血管Aβアミロイドーシス(例えば、アミロイド血管症)、ならびにd)シナプスおよびニューロンの喪失。ADの重要事象の1つは、脳血管壁周囲に細胞外老人斑および沈着物が生じる不溶性線維塊(アミロイド形成)としてのアミロイド(例えば、Aβペプチド)の沈着である。老人斑および脳アミロイド血管症の主な構成要素はAβであるにも関わらず、これらの沈着物は、グリコサミノグリカンおよびアポリポタンパク質などの他のタンパク質を含み得る。
【0008】
非特許文献3は、AβのN末端に対するモノクローナル抗体がAβ−ペプチドの既存の集合体に結合して脱凝集し、そして/またはインビトロでの原線維凝集を防止してニューロン細胞培養物に対する毒性を防止することができることを示した。非特許文献4は、アミロイド−βでの免疫により、アミロイド−β沈着およびアルツハイマー病様神経病変の動物モデルとして使用したPDAPPトランスジェニックマウスにおけるアルツハイマー病様病変が軽減することを証明した。彼らは、アルツハイマー病型神経病変の発症前の幼若動物の免疫によってβ−アミロイド斑形成、神経突起ジストロフィ、およびアストログリオーシスの発症が本質的に防止されるのに対して、アルツハイマー病型神経病変の発症後の高齢の動物の処置によってこれらの神経病変の範囲および進行が減少すると報告している。末梢に投与したAβに対する抗体が脳実質性アミロイド負荷を軽減させることが示されているので、この効果は抗体によって媒介される(非特許文献5)。さらに、新たに可溶化したAβ1−40での鼻腔内免疫により、脳アミロイド負荷が軽減される(非特許文献6)。動物モデル系を使用して非特許文献7および非特許文献8によって行われた2つの研究は、ワクチン接種誘導性の脳アミロイド沈着の減少により認知が改善されることを示した。さらなる研究では、同一トピックの種々の態様(非特許文献9および非特許文献10が含まれる)に取り組んだ。Aβワクチン接種がADの動物モデルを使用した種々の研究でいくらか成功していることが示されているにもかかわらず、髄膜脳炎などの副作用が有害および/または受け入れられないほどの高い頻度で生じるので、アジュバント(QS21)中で処方されたAβ1−40/42ペプチドで免疫したヒト臨床研究を終了させた。したがって、ADおよびタンパク質凝集に関連する関連神経変性障害の治療および/または防止のための治療的に許容可能な方法が必要である。
【0009】
自己免疫疾患は、自己組織または自系組織に対する異常な免疫応答によって特徴づけられる。関与する免疫応答型(免疫反応型)に基づいて、哺乳動物の自己免疫疾患を、一般に、以下の2つの異なる型に分類することができる:細胞性(すなわち、T細胞媒介性)または抗体媒介性障害。多発性硬化症(MS)は、T細胞媒介性自己免疫疾患である(非特許文献11)。世界中で1,000,000人を超える30歳と40歳との間の年齢の若年成人がMSに罹っている。MSは、中枢神経系の最も一般的な疾患であり、若年成人の神経障害の最も一般的な原因である。病態生理学的に、自己反応性T細胞の循環が、MS患者で認められる多くの中枢神経系破壊を媒介する(非特許文献12)。
【0010】
MSでは、T細胞は、中枢神経系のミエリンの成分であるミエリン塩基性タンパク質(MBP)と反応する。MBPに特異的な活性化T細胞をMS患者から単離することができることが証明されたことは、MSが、T細胞が自己神経組織または自系神経組織を破壊する自己免疫疾患であるという主張を支持する(非特許文献13)。
【0011】
MSは、現在、一定の抗炎症薬および免疫調節薬で治療されており、このような薬剤には、(i)免疫調節効果および免疫抑制効果の両方を有する副腎皮質ステロイド、(ii)インターフェロン−β、(iii)酢酸グラチラマー(GA)、(iv)アザチオプリン(細胞性免疫および体液性免疫の両方を抑制するプリンアナログ)、(v)静脈内免疫グロブリン、(vi)ジヒドロ葉酸還元酵素を阻害して細胞性免疫および体液性免疫を抑制するメトトレキセート、(vii)シクロホスファミド(細胞傷害効果および免疫抑制効果を有するアルキル化剤)、および(viii)T細胞活性化による強い免疫抑制効果を有するシクロスポリンが含まれる。このような抗炎症薬または免疫抑制薬を使用した治療にもかかわらず、50%を超えるMS患者は、脊髄、小脳、および大脳皮質の局所性破壊の結果として確実に悪化する。
【0012】
MS治療のために現在使用されている多くの薬物は、部分的に長期的有効性が制限されており、これは、これらの薬物の細胞傷害効果が高いためである。例えば、シクロホスファミドでの長期治療により、脱毛症、悪寒、嘔吐、出血性膀胱炎、白血球減少症、心筋炎、不妊症、および肺間質線維症を生じ得る。免疫抑制薬での治療により、最終的に、処置患者で「完全な」免疫抑制が誘導される可能性があり、感染症のリスクが非常に高まる。長期の完全な免疫抑制に供された患者は、悪性疾患、腎不全、および糖尿病などの治療由来の重症合併症を発症するリスクが増加する。
【0013】
MS治療の別のアプローチは、MSに関連し得るT細胞免疫応答を調整するためのMBPの静脈内投与または経口投与の使用である。MBPまたはMBPの免疫優性エピトープを含むフラグメントの静脈内投与により、クローンアネルギーまたはMBPに特異的なT細胞を不活化するT細胞の非応答性によって免疫系が抑制される。最終結果として、MBP特異的T細胞がもはやMBPに応答して増殖しなくなる。T細胞が増殖できないことにより、神経組織のT細胞媒介性破壊が減少する。
【0014】
MS治療で使用されるMBPの免疫化学的アナログは、酢酸グラチラマー(GA)またはコポリマー−1(COP−1)である(特許文献2、特許文献3)。GAは、その市販されている形態では、6.0:1.9:4.7:1.0のモル比でL−アラニン、L−グルタミン酸、L−リジン、およびL−チロシンから構成されるランダムな合成ポリペプチドの混合物である。これは、MBPの免疫化学的模倣物として最初に合成された。例えば、GAに対する一定のモノクローナル抗体は、MBPと交差反応する(非特許文献14)。また、GAは、MBPに特異的なサプレッサーT細胞を誘導することが見出されている(非特許文献15)。マウス実験では、GAが実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の中枢神経系組織の破壊に関与するMBP特異的T細胞も特異的に阻害することが示されている(非特許文献16)。
【0015】
GA投与により、(i)NK細胞の比率を増加することができ、(ii)血清IL−2レセプターを減少させることができ、(iii)TNF−αを抑制することができ、(iv)TGF−βおよびIL−4を増加させることができる(非特許文献17)。
【0016】
GAの非経口投与によってMS患者が比較的首尾よく治療されているにも関わらず(非特許文献18)、現在の治療計画および全体的な効果を改善することができる。
【0017】
上記書類の引用は、上記書類のいずれかが適切な先行技術であることを認めることを意図しない。これらの書類の日付に関する全記載および内容に関する表現は、出願人が利用可能な情報に基づいており、これらの書類の日付または内容が正確であると認めているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4,666,829号明細書
【特許文献2】米国特許第3,849,550号明細書
【特許文献3】国際出願公開WO95/31990号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Glenner and Wong(1984)Biochem.Biophys.Res.Commun.120:885−890
【非特許文献2】Kang et al.(1987)Nature 325:733−736
【非特許文献3】Solomon,B.et al.(1997)PNAS 94(8):4109−12
【非特許文献4】Schenk,D.et al.,Nature 400(6740):173−177(1999)
【非特許文献5】Bard F.et al.,(2000)Nat.Med.6(8):916−9
【非特許文献6】Weiner,H.L.et al.,(2000)Ann.Neuro.48(4):567−79
【非特許文献7】Morgan,D.et al.,(2000)Nature 408(6815):982−5
【非特許文献8】Janus,C.et al.,(2000)Nature 408(6815):979−82
【非特許文献9】Dodart et al.,(2002)Nat.Neuroscience 5(5):452−7
【非特許文献10】Kotilinek,L.A.et al.,(2002)J.Neuroscience 22(15):6331−5
【非特許文献11】Trapp et al.New Eng.J.Med.338(5):278(1998)
【非特許文献12】Rudick et al.New Eng.J.Med.337:1604(1997)
【非特許文献13】Allegretta et al.Science:247:778(1990)
【非特許文献14】Teitelbaum et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9258(1991)
【非特許文献15】Lando et al.J.Immunol.123:2156(1979)
【非特許文献16】Teitelbaum et al.Proc.Natl.Acad.USA 85:9724(1995)
【非特許文献17】Ariel et al.Multiple Sclerosis 3(5),S053(1997)
【非特許文献18】Bornstein et al.Transactions American Neurological Association,348 (1987)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
(発明の要旨)
本発明は、治療を必要とする哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療するための方法および組成物を提供する。神経疾患または神経障害は、タンパク質もしくはタンパク質性物質の全身もしくは局所的沈着(例えば、アミロイドーシス)、有害なタンパク質の凝集(タンパク質の誤折り畳み)、および/または神経変性自己免疫に関連し得る。アルツハイマー病および/または他の脳アミロイド形成疾患(プリオン関連疾患、ハンチントン病、パーキンソン病、および脳アミロイド血管症(CAA)が含まれる)が特に興味深い(Revesz,T.et al.(2003)J.Neuropathol.Exp.Neurol.62(9):885−98)。前記アミロイド関連疾患の治療は、総アミロイド負荷(可溶性および不溶性Aβ)または線維性Aβ−アミロイド負荷の決定によって測定される新規のアミロイド斑(沈着)の防止、現在のアミロイド斑レベルの維持、および/または既存のアミロイド斑量もしくは総脳アミロイドタンパク質量(斑中に沈着し得るAβが含まれる)の減少を含み得る。前記神経疾患または神経障害は、多発性硬化症などの細胞媒介性自己免疫疾患に関連し得る。前記自己免疫障害の治療は、自己反応性t細胞の形成の防止、既存の自己反応性T細胞濃度の維持、および/または自己反応性T細胞濃度の減少を含み得る。
【0021】
本発明は、哺乳動物の神経疾患または神経障害(Aβ斑関連疾患またはAβ斑関連障害および細胞媒介性自己免疫疾患または自己免疫障害が含まれる)を治療するための治療薬としての、任意選択的に、サブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョン中でのプロテオソームベースの組成物および/またはGA組成物の種々の形成を主張し、使用する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】脳内の総Aβレベルに対する皮下免疫の効果。アミロイド負荷を定量するために、右半球を、5.0M塩化グアニジン(pH8)中にて室温で3時間抽出した。希釈物を使用して、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によってAβ40およびAβ42レベルを測定した。
【図2】脳内の総Aβレベルに対する鼻腔内免疫の効果。サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって、鼻腔内治療後の各マウス由来のAβ40およびAβ42の総Aβ濃度レベルを測定した。
【図3】CD11b+細胞の活性化により、非経口および鼻腔内で処置したマウスでAβ原線維がクリアランスされる。(A)皮下免疫後のチオフラビン−Sでの海馬領域中のAβ原線維の染色(10倍)または抗Aβ抗体(R1288)および抗CD11b(小膠細胞/マクロファージ)での総Aβの同時染色(40倍)。(B)鼻腔内免疫後の抗Aβ抗体(R1288)および抗CD11b(小膠細胞/マクロファージ)での同時染色(海馬領域中、40倍)。
【図4】MOG皮下免疫および鼻腔内酢酸グラチラマーワクチン接種後の脳切片の免疫組織学。未処置または免疫後50日目の免疫マウス由来の海馬領域の連続切片を、抗CD11b、CD3、IFN−γ、およびTGF−β抗体を使用して標識した(20倍、挿入図は60倍)。
【図5】GA+IVX−908の鼻腔内投与後の星状細胞増加症の軽減。十分に定義された海馬領域(ブレグマ−1.44mm)を、GFAP染色を使用した活性化星状細胞の定量のために選択した。星状細胞活性化レベルを、1mm2の海馬領域あたりの比率として示したp=0.039GA+IVX−908対コントロール;p=0.02対EAE(MOG)。
【図6】MOG皮下免疫および鼻腔内酢酸グラチラマーワクチン接種後の脳切片の神経病理学。未処置または免疫後50日目の処置マウス由来の皮質の連続切片を、以下の神経毒マーカーを使用して標識した:SMI32、TUNEL、およびiNOS(元の倍率は20倍)。矢印は、研究したマーカーの標識を示す。EAE動物で神経毒性マーカーの標識が認められたが、GA−IVX−908処置マウスでは認められなかった。
【図7】MOG皮下免疫および鼻腔内酢酸グラチラマーワクチン接種後の海馬切片の脳血液関門の完全性。未処置または免疫後50日目の処置マウス由来の皮質の連続切片を、血漿染色フィブリノゲンマーカーを使用して標識した。EAE動物でフィブリノゲンマーカーの標識が認められたが、GA−IVX−908処置マウスでは認められなかった(20倍、小さい図は40倍)。
【図8】MOG皮下免疫および鼻腔内酢酸グラチラマーワクチン接種後の嗅神経切片の神経病理学。未処置または免疫後50日目の処置マウス由来の皮質の連続切片を、以下の原線維アミロイドマーカーを使用して標識した:ThS、小膠細胞活性化CD11b、BBB完全性、フィブリノゲン(20倍)。
【図9】未処置マウス、MOG免疫マウス、およびGA+IVX−908処置マウスにおけるCNS中のCD68+細胞の染色。矢印は、GA+IVX−908処置マウスにおいてEAEにおいてCNSを浸潤するが、脈絡叢に局在したままであるCD68+細胞を示す。未処置マウスで染色は認められなかった。小脳から切片を採取する(20倍)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明実施の形態)
用語「神経疾患」は、神経系のニューロン細胞が関わる疾患または障害をいう。詳細には、以下が含まれる:プリオン病(例えば、クロイツフェルト−ヤコブ病);発達中の脳の病変(例えば、アミノ酸代謝の先天性欠損(アルギニノコハク酸尿症、シスタチオニン尿症、高ヒスチジン血症、ホモシスチン尿症、高アンモニア血症、フェニルケトン尿症、チロシン血症、および脆弱X症候群など);成熟脳の病変(例えば、神経線維腫症、ハンチントン病、うつ病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症);成人期に襲われる症状(例えば、アルツハイマー病、クロイツフェルト−ヤコブ病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病);および脳の他の病変(例えば、脳の事故(mishap)、脳損傷、昏睡、種々因子による感染症、食事性欠乏症、脳卒中、多発性梗塞性痴呆、および心血管の事故)。
【0024】
本発明の好ましい疾患または障害は、成熟脳に影響を及ぼす疾患(多発性硬化症など)および典型的には成人期に襲われる疾患(アルツハイマー病など)である。
【0025】
本明細書中で「AD」と略される、用語「アルツハイマー病」は、中枢神経系の神経変性疾患をいう。大まかに言って、この疾患は、以下の2つのカテゴリーに分類される:老齢期(典型的には、65歳より高齢)に発症する遅発性および老年期以前(例えば、35歳と60歳との間)に発症する早発性。両疾患型では、病変は類似しているが、より早期に発症する場合、より重篤且つ広範囲にわたる傾向がある。ADは、海馬および皮質などの脳の一定の脆弱領域に集中した細胞外に局在化した脳アミロイド(例えば、Aβペプチド)の蓄積、アミロイド斑(密集性または散在性にさらに区別することができる)、および細胞外に局在化した神経原線維変化によって特徴づけられる。ADは、老人性痴呆に至る進行性疾患である。アミロイド斑は、脳組織切片の顕微鏡分析によって視覚可能な中心に細胞外アミロイド−β(Aβ)沈着物を有する直径150mmまでの好中球に会合し得る非組織化神経原線維領域である。神経原線維変化は、2つ1組になって互いによじれた2つのフィラメントからなるτタンパク質(しばしば、高リン酸化されている)の細胞外沈着物である。ADは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解性プロセシングの変化に起因するAβペプチドの異常な蓄積に関連する。Aβペプチドの異常な蓄積は、その後にγ(ガンマ)またはβ(ベータ)セクレターゼのタンパク質分解活性に影響を与え、それにより、例えば、Aβ1−42のレベルが増加する種々の変異(常染色体優性APP変異およびプレセニリン1(PS1)およびプレセニリン2(PS2)と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の変異など)と相関している一方で、α(アルファ)セクレターゼのタンパク質分解活性がおそらくAPPの正常なプロセシングに関連する。ADで種々の斑型が見出されており、異常な異栄養性神経突起に関連する老人斑が含まれるが、これらに限定されない。CNSにおける炎症反応の存在(活性化小膠細胞および星状細胞が含まれる)もこの疾患の特徴である。神経障害に関連する機能不全性タンパク質(例えば、Aβおよびプリオンタンパク質)の凝集体の蓄積は、一定の神経障害の発症に起因または寄与し、そうでなければ影響を与えると考えられるIngelsson,M.and Hyman B.T.(2002)Annals of Med.34:259−271)。有害なタンパク質凝集に関連する神経変性障害には、アルツハイマー病、ピック病、パーキンソン病、プリオン病、ハンチントン病、および運動ニューロン障害が含まれる(Shastry,Neurochemistry International,2002,43:1−7)。
【0026】
用語「アミロイド」は、タンパク質凝集体の細胞外(例えば、Aβ、プリオン病、および多発性骨髄腫軽鎖疾患)または細胞内(例えば、ADにおけるτタンパク質の神経原線維変化およびパーキンソン病におけるα−シヌクレイン)沈着をいう(Trojanowski J.Q.and Mathson M.P.(2003)Neuromolecular Medicine 4:1−5)。アミロイド沈着は、AD患者およびダウン症候群患者の脳ならびに中枢神経系の動脈、細動脈、毛細管、および静脈中に見出すことができる。アミロイド沈着物を、コンゴレッドおよびチオフラビンSなどの色素に結合し、原線維(交差したβ−プリーツシート高次構造が含まれる)を形成する能力によって認識することができる。
【0027】
用語「アミロイドーシス」は、誤折り畳みタンパク質(タンパク質凝集体が含まれる)であり得る、通常は可溶性タンパク質の異常な不溶性沈着物によって特徴づけられる障害の広範な異質の(heterogenous)群をいう。
【0028】
アルツハイマー病(AD)、早発性アルツハイマー病、遅発性アルツハイマー病、および前駆症状性アルツハイマー病に加えて、アミロイド沈着物によって特徴づけられる他の疾患は、例えば、血清アミロイドA(SAA)アミロイドーシス、遺伝性アイスランド症候群、多発性骨髄腫、プリオン病など、または他の脳アミロイド形成疾患(Revesz,T.et al.(2003)J.Neuropathol.Exp.Neurol.62(9):885−98)を、本明細書中に記載の組成物および方法にしたがって治療することができる。動物における最も一般的なプリオン病は、ヒツジおよびヤギのスクレイピーならびにウシのウシ海綿状脳症(BSE)である(Wilesmith and Wells(1991)Curr.Top.Microbiol.Immunol.172:22−38)。以下の4つのプリオン病がヒトで同定されている:(i)クールー、(ii)クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、(iii)ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病(GSS)、および(iv)致死性家族性不眠症(FFI)(Gajdusek,D.C.(1977)Science 197(4307):943−60およびMedori,R.et al.,(1992)N.Engl.J.Med.326(7):444−9)。
【0029】
老人斑の主な構成要素は、Aβペプチドである。Aβペプチドは、前駆体タンパク質APPの39〜43アミノ酸の内部フラグメントである。APPタンパク質内のいくつかの変異は、アルツハイマー病の存在と相関している(例えば、Goate,A.et al.,(1991)Nature 349(6311):704−6,Murrell,M.et al.,(1991)Science 254(5028):97−9,Mullan,M.et al.,(1992)Nat.Genet.l(5):345−7を参照のこと)。
【0030】
本明細書中で使用される、用語「β−アミロイド前駆体タンパク質(APP)」を、第21染色体長腕上のヒトに局在した同名の遺伝子によってコードされ、且つ、そのカルボキシル側の1/3(third)内にAβを含むポリペプチドと定義する。APPは、多数の哺乳動物組織中の広範な種々の細胞で発現するグリコシル化された1回膜貫通タンパク質である。
【0031】
APP変異は、APPからAβへのタンパク質分解性プロセシング、特に、APPの増量したAβの長鎖形態(すなわち、Aβ1−42およびAβ1−43)へのプロセシングの増加または変化によってアルツハイマー病の発症に影響を与えると考えられる。プレセニリン遺伝子(PS1およびPS2)などの他の遺伝子の変異は、長鎖形態のAβ量を増加するためのAPPのタンパク質分解性プロセシングに間接的に影響を与えると考えられる(Hardy,J.(1997)Trends Neurosci.20(4):154−9を参照のこと)。これらの所見は、Aβ、特にその長鎖形態は、アルツハイマー病の原因成分であることを示す。
【0032】
本明細書中で使用される、用語「APPフラグメント」は、AβまたはAβフラグメントのみからなるもの以外のAPPのフラグメントをいう。すなわち、APPフラグメントには、インタクトなAβまたはAβのフラグメントを形成するアミノ酸配列に加えてAPPのアミノ酸配列が含まれる。
【0033】
用語「ベータ−アミロイドペプチド」は、「β−アミロイドペプチド」、「βAP」、「βA」、および「Aβ」と同義である。これらの全用語は、アミロイド前駆体タンパク質のフラグメント由来の斑形成ペプチドをいう。
【0034】
本明細書中で使用される、用語「線維性Aβ」および「総Aβ」の定義を以下に示す。「線維性」Aβは、細胞外アミロイド沈着物中に含まれるAβペプチドであり、Aβ斑ともいうことができ、いくつかの場合、Aβ斑を、散在性または密集性にさらに区別することができる。「総」アミロイド負荷または総Aβ負荷は、可溶性および不溶性(例えば、線維性)Aβの和であり、そのほとんどが細胞外であると推定される。細胞外非線維性Aβが線維性アミロイドになり得るAβの供給源を示すことができる場合、可溶性Aβと不溶性Aβとの間に動的関係が存在することが認識される。
【0035】
本明細書中で使用される、用語「実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)」は、MSの一次動物モデルである。適切なアジュバント中でのMBPによる免疫またはCD4+MBP反応性T細胞の受動伝達によって小哺乳動物でEAEを容易に誘導することができる(Alvord Jr,E.C,et al.eds.in Experimental Allergic Encephalomyelitis a Useful Model for Multiple Sclerosis,A.R.Liss,N.Y.,1984;Makhtarian et al.Nature 309:356(1984);Ben−Nun et al.J.Immunol.129:303(1982))。マウスおよびラットの両方でEAEを誘導するT細胞は、クラスII主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子上の抗原提示細胞によって提示されたMBPの免疫優性領域に対応するペプチドを認識する。
【0036】
本発明の1つの態様によれば、哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療する方法を提供する。本発明のこの態様の方法は、治療有効量のGAおよびプロテオソームベースの組成物を必要とする被験体へのその組成物の投与によって実施することができる。本発明のさらなる態様は、神経疾患または神経障害がアミロイド斑形成疾患またはアミロイド斑形成障害である場合である。本発明の1つの態様のGAおよびプロテオソームベースの組成物で処置した最も顕著な神経疾患または神経障害は、アルツハイマー病および多発性硬化症である。上記神経疾患または神経障害の治療のためのプロテオソームと組み合わせたGAの治療組成物に加えて、さらなる実施形態には、以下の治療組成物の使用が含まれるが、これらに限定されない:GA組成物を含まないプロテオソームベースの組成物、GAを含むサブミクロンのエマルジョン組成物、GAを含むナノエマルジョン組成物。前の実施形態はまた、任意の薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、安定剤、またはキャリアも含むであろう。
【0037】
本発明のさらなる態様は、哺乳動物における神経疾患または神経障害の治療が、哺乳動物中で抗体独立応答を誘発する治療有効量のGAおよびプロテオソームベースの組成物を投与する工程を含むことである。
【0038】
本発明のさらなる実施形態は、アルツハイマー病であり得るアミロイド疾患の治療方法からなる。例えば、脳内の線維性アミロイド負荷の増加の防止、総アミロイド負荷の増加の防止、既存の線維性アミロイド負荷および/または総アミロイド負荷の維持、または線維性アミロイド負荷および/または総アミロイド負荷の減少によってアミロイド疾患の治療を行うことができる。アミロイドタンパク質は全身に存在し得ることが公知であるので、本発明の実施形態は、脳アミロイドに制限されない。さらに、本発明は特にβ−アミロイドを考察しているが、血清アミロイドA(SAA)、プリオン病、遺伝性アイスランド症候群、ハンチントン病、パーキンソン症候群、ダウン症候群、および脳アミロイド血管症などの他のアミロイドクラスが本発明の範囲内と見なされる。上記アミロイド疾患によれば、以下の治療組成物のうちの1つの投与によって治療することができる:治療有効量のGAおよびプロテオソームベースの組成物、GA組成物を含まないプロテオソームベースの組成物、GAを含むサブミクロンのエマルジョン組成物、および/またはGAを含むナノエマルジョン。前の実施形態はまた、任意の薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、安定剤、またはキャリアを含むであろう。
【0039】
(酢酸グラチラマー)
多発性硬化症(MS)の治療に有効なMBPの免疫学的アナログは、酢酸グラチラマー(GA)(すなわち、コポリマー−1(Cop−1))である(米国特許第3,849,550号、PCT出願WO/95/31990)。GAは、その市販されている形態では、6.0:1.9:4.7:1.0のモル比でL−アラニン、L−グルタミン酸、L−リジン、およびL−チロシンから構成されるランダムな合成ポリペプチドの混合物である。これは、MBPの免疫化学的模倣物として最初に合成された。例えば、GAに対する一定のモノクローナル抗体は、MBPと交差反応する(Teitelbaum et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9258(1991))。また、GAは、MBPに特異的なT抑制細胞を誘導することが見出されている(Lando et al.J.Immunol.123:2156(1979))。マウス実験では、GAがEAEの中枢神経系組織の破壊に関与するMBP特異的T細胞も特異的に阻害することが示されており(Teitelbaum et al.Proc.Natl.Acad.USA 85:9724(1995));およびAngelov,D.N.et al.PNAS 100(8):4790−4795(2003))は、GAを使用して筋萎縮性側索硬化症を治療することができ、十分に調節された自己免疫応答の誘導が、GAの投与によって増強することができる抗自己T細胞応答の存在下での生存に影響を与えるようであることを示している。
【0040】
本発明によれば、GAを、当該分野で公知の方法によって調製することができる。例えば、GAを、チロシン、アラニン、γ−グルタミン酸ベンジル、およびε−N−トリフルオロ−アセチルリジンのN−カルボキシアンヒドリドを、周囲温度にてインヒビターとしてジエチルアミンを使用して無水ジオキサン中で重合させる、米国特許第3,849,550号に開示の過程によって調製することができる。臭化水素を含む氷酢酸を使用してグルタミン酸のγ−カルボキシル基の脱ブロッキングを行い、その後、1Mピペリジンによってリジン残基からトリフルオロアセチル基を除去する。得られたポリペプチド混合物は、本質的に、約6:2:5:1のモル比のアラニン、グルタミン酸、リジン、およびチロシンからなる。
【0041】
GAはまた、Teva Pharmaceuticals,Kfar−Saba,Israelから市販されている。
【0042】
GAを、その治療有用性を維持する任意の形態にて本発明で使用するために調製することができる。これらには、種々の分子量範囲のペプチドの混合物が含まれる。所望の分子量範囲を有するGAを、当該分野で公知の方法によって得ることができる。このような方法には、WO/95/31990に開示の高分子量種を除去するためのGAのゲル濾過高速液体クロマトグラフィが含まれる。1つの実施形態では、GAは、そのポリマー種の約75%が約2KDa〜約20KDaの分子量範囲内である。別の実施形態では、GAの平均分子量は、約4KDa〜9KDaである。公知の方法にしたがって、従来のGAと長さが異なるか修飾されているポリマー種を含めるためにGAを酵素または他の分解に供することができると理解される。
【0043】
(GAおよびプロテオソーム)
プロテオソーム(例えば、IVX−908またはプロトリン)を配合したGAを、例えば、注射によるか鼻腔内に投与することができる。注射によって送達した場合、このような送達は、1回の注射(組み合わせた同時投与)であり得る。あるいは、GA組成物およびプロテオソームベースの組成物を、個別に送達させることができるか、第1の部位にGA組成物(プロテオソームを含まない)のみを投与し、第2の部位にプロテオソームベースの組成物(すなわち、GAを含まない)のみを投与する、同時または一過性に異なる時間で起こり得る複数の部位への注射によって送達させることができる。GAを注射によって投与し、それと同時または別に、プロテオソームベースの組成物を、例えば、鼻腔内投与することができることも意図される。したがって、本発明の1つの実施形態では、GA組成物を注射によって送達させ、個別に、プロテオソームベースの組成物を鼻腔内に送達させる。
【0044】
本発明のGAペプチドを、プロテオソームとの非共有結合を増強すると予想される疎水性アンカー配列部分を含むように調製することもできる。全身および粘膜両方の抗体応答を誘導するための非経口投与または特に粘膜投与(消化管投与が含まれる)のいずれかのためにデザインしたプロテオソーム両親媒性決定基ワクチンの産生および製造は、米国特許第6,476,201号で考察されている。両親媒性決定基は、プロテオソームを適切に配合した場合にプロテオソームと組み合わされて被験体における免疫応答を誘発する複合体を形成する疎水性領域および親水性領域を有する分子である。典型的な両親媒性決定基には、糖脂質、リポサッカリド(解毒リポ多糖類が含まれる)、リポペプチド、膜貫通ドメイン、エンベロープもしくはトキソイド化(toxoided)タンパク質、または内因性疎水性アミノ酸アンカーのタンパク質もしくはペプチドが含まれる。
【0045】
(乳濁液組成物)
それぞれ米国特許第5,961,970号または同第5,716,637号に記載のように、GAを含むサブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョンを投与するか、GAをこれらに配合することができる。組成物は、水性連続相として約0.5〜約50%の油、約0.1〜約10%の乳化剤、約0.05〜約5%の非イオン性界面活性剤、および約0.00001〜約1.0%のGAを含む水中油滴型サブミクロンのエマルジョンを含む。サブミクロンのエマルジョンの平均液滴サイズは、約0.03μmと約0.5μm、好ましくは0.05μmと0.2μmとの間の範囲である。
【0046】
ナノエマルジョンアプローチにより、少なくとも1つのリン脂質二重層に囲まれた脂質コアを有する粒子のナノエマルジョンを含むワクチン組成物が得られる。粒子の平均直径は、重量に基づいて決定したところ、約10〜約250nmの範囲であり、均質化過程前に内因的にか均質化過程後に外因的にGAを粒子中に組み込む。粒子を、典型的に、水性連続相に懸濁し、各脂質粒子は、脂質が約25℃またはそれを超える温度で大量に固体または液晶である脂質コアを含む。通常、GAの捕捉量は、約0.001〜約5%である。あるいは、GAを、プロテオソームに配合し、そして/またはナノエマルジョンは、生体接着性高分子または粘液接着性高分子をさらに含み得る。
【0047】
(提案される機構)
本発明はまた、例えば、プロテオソームベースの組成物と共に処方したGAまたはGAを含まないプロテオソームベースの組成物で哺乳動物を免疫する工程と、前記ペプチド、そのフラグメント、または誘導体の減少または阻害が、抗体が生成されることなく起こることと、本明細書中でB細胞欠損(μMT)マウスを使用して証明したところ、抗体応答を誘発することができないこととを含む、アミロイド−βペプチド(可溶性および/または不溶性)、そのフラグメントまたは誘導体のレベルを阻害または減少させる方法を含む。理論に拘束されることを望まないが、好ましくは、アミロイド(例えば、Aβアミロイド)の阻害または減少は、脳または周辺部で見出すことができる脳局在化小膠細胞、好中球、および/またはマクロファージなどの免疫細胞の活性化を介し、これらの細胞の活性化は、任意の抗体または抗原に特異的な機構と無関係である。哺乳動物において実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)(髄膜脳炎が含まれる)を発症することなく減少または阻害されることが最も好ましい。
【0048】
アミロイド負荷(例えば、線維性斑を含むAβおよび斑に沈着しない非線維性Aβ)の減少は、アミロイド沈着および/またはAβ斑形成の減少に比例し、それにより、ADおよび関連する疾患またはアミロイド生成疾患もしくはアミロイド生成障害が治療される。本発明の種々の態様が任意の特定の理論または機構に制限されるべきではないが、活性化小膠細胞がアミロイド斑と同時局在化し、小膠細胞の活性化がアミロイド沈着の存在に依存し、沈着によって内因性小膠細胞の活性化が刺激されると考えられる。したがって、活性化小膠細胞は、アミロイド(例えば、Aβ斑)沈着に関与する。可能性のあるAD機構についてのさらなる情報は、Schenk,D.(2002)Nature 3:824−828で見出される。Aβの沈着およびアミロイド斑の形成は、複雑な炎症および神経毒カスケードを伴うようである。したがって、抗炎症機構の治療が有利であると考えられる。このような抗炎症機構過程は、しばしば、抗炎症性IL−4/IL−10(Th2)およびTGF−β(Th3)免疫応答の発現と一致する。その結果として、プロテオソームが炎症誘発性免疫応答に関連するTh1型免疫(サイトカイン)応答の刺激に非常に関連し、Th2免疫応答と同等および特有であることが以前に提唱されたので、プロテオソームベースの組成物およびGAを含む本発明の処方物が、非抗体媒介性免疫応答を刺激してAβ−アミロイド含有斑を減少させるという驚くべきかつ予測外の所見が得られる。それにもかかわらず、Th1型サイトカインINF−γ(75%超が未処置)による小膠細胞の食作用の増加も、CNSにおける炎症性浸潤のクリアランス加速のフィードバック機構が示唆され得る(Cha,A.et.al.(2001)GLIA 33(1):87− 1.0 95)。さらに、INF−γ自体によってもβ−アミロイド前駆体タンパク質の転写が阻害され得る(Ringheeim G.E.et al.Biochem Biophys Res Commun(1996)224(1):246−51)。
【0049】
(プロテオソームベースの組成物)
米国特許第6,476,201号および同第5,961,970号の主題は、多価サブユニットワクチン各成分に対する至適な免疫応答を刺激するために、どのようにして適切な成分を適切に関連させ、それぞれが免疫系の細胞によって有効に認識およびプロセシングされることができるような免疫系を利用することができるのかについて記載している。このような認識およびプロセシングには、例えば、鼻上皮内に存在する膜細胞(M細胞)による取り込みおよびその後の内在する宿主免疫系細胞への送達が含まれ得る。このような非共有結合によって複合体化したワクチンの主な例には、広範な種々の抗原(ペプチド、リポペプチド、膜貫通タンパク質、トキソイド化タンパク質、ポリサッカリド、またはリポポリサッカリド(LPS))と非共有結合的に複合体化ナイセリア外膜タンパク質からなり得るプロテオソームベースのワクチンが含まれる(さらなる概説については、以下の引例を参照のこと:米国特許第5,726,292号、Immunogenicity and Efficacy of Oral or Intranasal Shigella flexneri 2a and Shigella sonnei Proteosome−Lipopolysaccharide Vaccines in Animal Models;Infect.Immun.61:2390;Mallett,C.P.,T.L.Hale,R.Kaminski,T.Larsen,N.Orr,D.Cohen,and G.H.Lowell.(1995));Intranasal or intragastric immunization with proteosome−Shigella lipopolysaccharide vaccines protect against lethal pneumonia in a murine model of shigellosis(Infect.Immun.63:2382−2386;Lowell G H,Kaminski R W,Grate S et al.(1996));Intranasal and intramuscular proteosome−staphylococcal enterotoxin B(SEB)toxoid vaccines:immunogenicity and efficacy against lethal SEB intoxication in mice(Infec.Immun.64:1706−1713;Lowell,G.H.(1990));Proteosomes,Hydrophobic Anchors,Iscoms and Liposomes for Improved Presentation of Peptide and Protein Vaccines,(in New Generation Vaccines:G.C.Woodrow and M.M.Levine,eds.(Marcel Dekker,NY)Chapter 12(pp.141−160));およびProteosome−lipopeptide vaccines:enhancement of immunogenicity for malaria CS peptides;(Lowell,G.H.,W.R.Ballou,L.F.Smith,R.A.Wirtz,W.D.Zollinger and W.T.Hockmeyer(1988)Science 240:800))。
【0050】
本明細書中で使用される、「プロテオソームベースの組成物」は、細菌抗原またはウイルス抗原などの免疫原のためのキャリアまたはアジュバントとして有用なナイセリア属などのグラム陰性細菌由来の外膜タンパク質(OMP、ポリンとしても公知)の調製物をいう(例えば、Lowell et al.,J.Exp.Med.167:658,1988;Lowell et al.,Science 240:800,1988;Lynch et al.,Biophys.J.45:104,1984;Lowell,in 「New Generation Vaccines」 2nd ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,Basil,Hong Kong,pages 193,1997;米国特許第5,726,292号;同第4,707,543号を参照のこと)。上記のように調製したプロテオソームは、OMPポリンを産生するために使用された細菌(例えば、ナイセリア属)由来の内因性リポポリサッカリド(LPS)も含む。小胞または小胞様形態(1つまたは複数のOMPの多分子膜構造または融解球形様OMP組成物が含まれる)の外膜タンパク質成分が得られる任意の調製方法が、プロテオソームの定義の範囲内に含まれる。
【0051】
本明細書中で使用される、「リポサッカリド」は、グラム陰性細菌(Shigella flexneriもしくはPlesiomonas shigelloidesなど)または他のグラム陰性細菌(アルカリゲネス種(Alcaligenes)、バクテロイデス種(Bacteroides)、ボルデテラ種(Bordetella)、ブルセラ種(Brucella)、カンピロバクター種(Campylobacter)、クラミジア種(Chlamydia)、シトロバクター種(Citrobacter)、エドヴァルシエラ種(Edwardsiella)、エーリキア種(Ehrlicha)、エンテロバクター種(Enterobacter)、大腸菌種(Escherichia)、フランキセラ種(Francisella)、フゾバクテリウム種(Fusobacterium)、ガードネレラ種(Gardnerella)、ヘモフィルス種(Hemophillus)、ヘリコバクター種(Helicobacter)、クレブシエラ種(Klebsiella)、レジュネラ種(Legionella)、モラクセラ種(Moraxella)、モルガネラ種(Morganella)、ナイセリア種(Neiserria)、パスツレラ種(Pasteurella)、プロテウス種(Proteus)、プロビデンス種(Providencia)、他のプレシオモナス種(Plesiomonas)、ポルフィロモナス種(Porphyromonas)、プレボテラ種(Prevotella)、シュードモナス種(Pseudomonas)、リケッチア種(Rickettsia)、サルモネラ菌種(Salmonella)、霊菌種(Serratia)、他の赤痢菌種(Shigella)、スピリルム種(Spirillum)、ベーヨネラ種(Veillonella)、ビブリオ種(Vibrio)、またはエルシニア種(Yersinia)が含まれる)由来の天然または修飾されたリポポリサッカリドまたはリポオリゴサッカリド(集合的に、「LPS」ともいう)をいう。本明細書中で使用されるLPSは解毒されていなくても解毒されていてもよいことに留意すべきである。
【0052】
他の実施形態では、プロテオソームを調製した同一または異なる細菌から単離した外因性LPSを混合することができ、1つのこのようなプロテオソームベースの組成物を、本明細書中でIVX−908という(プロトリンともいうことができる)。言い換えれば、IVX−908型のプロテオソームは、OMP−LPS組成物を得るために少なくとも1種類のリポサッカリドと混合したOMPの調製物(免疫刺激組成物として機能することができる)である。したがって、OMP−LPS(IVX−908)アジュバントは、以下の基本成分から構成され得る:(1)髄膜炎菌などのグラム陰性細菌から調製したプロテオソームの外膜タンパク質調製物および(2)1つまたは複数のリポサッカリドの調製物。IVX−908の成分は、脂質、糖脂質、糖タンパク質、または小分子などであり得るかこれらを含み得ることも意図される。
【0053】
本明細書中に開示のプロテオソームベースの組成物は、少なくとも一部が宿主の免疫系を刺激する能力を有するアジュバントとして機能する1つまたは複数の成分を含み得る。このようなプロテオソーム成分には、グラム陰性細菌の外膜タンパク質(OMP)成分(その融合タンパク質またはフラグメント)および同一または異なるグラム陰性細菌のリポポリサッカリド(LPS)成分が含まれ得ると認識される。このような成分は、例えば、ワクチンレシピエントの1つまたは複数の宿主細胞によって産生された一定のレセプター(例えば、Toll様レセプター)との相互作用によって宿主免疫応答を刺激するリガンドとして機能することができる。
【0054】
理論に拘束されることを望まないが、本明細書中に開示のワクチン処方物の1つまたは複数の成分は、ワクチンレシピエントの先天性免疫応答および/または適応的免疫応答に関連するToll様レセプター(TLR)と相互作用することができる。少なくとも10種のTLRが存在する(Takeda et.al.,Annu Rev Immunology(2003)21:335−76を参照のこと)。TLR8およびTLR10以外の一定のTLRと相互作用し、その後に活性化する1つまたは複数のリガンドが同定されている。髄膜炎菌の外膜タンパク質(例えば、OMP2)(PorBともいわれる)はTLR2と相互作用する一方で、ほとんどであるが全てではないグラム陰性細菌のLPSはTLR4と相互作用する。したがって、本明細書中に記載のワクチン処方物が生物学的作用に寄与し得る1つの実施形態には、TLR2およびTLR4の一方または両方の活性化が含まれる。しかし、本発明の別の態様では、他のTLR(TLR2およびTLR4以外)の活性化が類似の機能を果たすか、発現したサイトカインの定性的および/または定量的プロフィールをさらに増強することができ、宿主Th1/Th2免疫応答に関連し得ることが同様に可能である。
【0055】
1つまたは複数のTLRの定性的および/または定量的活性化は、ヒト抗体応答が付随するか付随せずにTh1および/またはTh2免疫応答の相対的刺激(均衡または不均衡)を誘発するか影響を与えると予想される。
【0056】
TLR2およびTLR4以外のTLRと相互作用するリガンドを、本明細書中に記載のワクチン組成物で使用することもできる。本明細書中に記載のように、このようなワクチン成分を単独または組み合わせて使用して、アミロイド形成疾患の治療または防御に十分な宿主免疫応答の発生に影響を与えることができる。このようなTLRおよび関連リガンドには、リスト1に示すリガンドが含まれるが、これらに限定されない。
【表A−1】
【0057】
【表A−2】
【0058】
同定されたTLR(リスト1)のいずれか1つまたは組み合わせを、本明細書中で意図されるワクチンのTLRリガンド成分のいずれか1つまたは組み合わせによって活性化することができる。TLRのいずれか1つまたは複数を投与経路(例えば、鼻腔内、注射など)に適切な濃度のTLRリガンドのいずれか1つまたは複数を使用して刺激することがさらに認識される。
【0059】
したがって、本発明によれば、ワクチン処方物は、外因的にリポポリサッカリド成分を含むか含まない、抗原ワクチン成分と組み合わせた(任意選択的に、CD14レセプターを含む)TLRリガンドのいずれか1つまたは複数(組換えリガンド(その融合タンパク質またはフラグメント)が含まれる)を含み得ると理解される。
【0060】
本発明の1つの態様では、TLRリガンドのいずれか1つまたは複数のTLR結合部分のみを、例えば、組換えDNAテクノロジーによって単離することができ、アルツハイマー病または類似の疾患もしくは障害の治療上の処置および/または予防としてGAを配合するか配合しない。このようなポリペプチドを、当業者に周知の1つまたは別の合成手順によって調製することもできる。理論に拘束されることを望まないが、1つのこのような単離結合ドメインを、TLR2への結合が疑われるポリンBと呼ばれる髄膜炎菌外膜タンパク質の一部から単離することができる。TLRの他のこのようなポリペプチドリガンド結合ドメインを、単独または1つまたは別の組み合わせにて類似の様式で使用することもできる。プロテオソーム−GA処方物の投与を必要とするか必要とせずにこのような処方物を使用することができるか、プロテオソーム−GA処方物の投与後に使用することができる。変異形がTLRに結合(および活性化)する能力を維持する限り、このようなTLRリガンドのTLR結合部分の変異形(例えば、保存的アミノ酸置換)を使用してTLRを活性化することができると認識される。本発明のさらなる態様では、このようなTLRリガンドのTLR結合部分を組換えDNAテクノロジーを使用して1回または複数回繰り返して、このような結合部分の複数のコピーを含むポリペプチドまたは同一もしくは異なるTLRリガンドの多結合ドメインを含む多価(すなわち、ハイブリッド)ポリペプチドを調製することができる。
【0061】
一定のプロテオソームベースの組成物では、ワクチン処方物の1つまたは複数の構成部分はに共有結合的に複合体化される必要はないが、むしろ、プロテオソーム組成物(例えば、IVX−908、プロトリン)と混合することができる。プロジュバント(Projuvant)と呼ばれるプロテオソームベースの組成物は、少量の内因性LPS(またはリポオリゴサッカリド(LOS))のみを含む一方で、IVX−908/プロトリンプロテオソームベースの組成物は、OMP成分と同一であるか異なるグラム陰性細菌種に由来し得るさらなる外因性LPSを含むか、1つを超えるグラム陰性細菌由来のLPSの混合物であり得る。
【0062】
1つの実施形態では、総プロテオソームタンパク質の重量%としての最終リポサッカリド含有量は、約1%〜約500%の範囲、より好ましくは約20%〜約200%の範囲、約30%〜約150%の範囲、または約10%〜約100%の範囲であり得る。本発明の好ましい実施形態は、プロテオソームベースの組成物を髄膜炎菌から調製し、最終リポサッカリド含有量が総プロテオソームタンパク質の50重量%〜150重量%である免疫刺激組成物である。最終LPS含有量を、内因性LPS(例えば、LOS)と外因的に添加したLPS(またはLOS)との組み合わせと示すことができる。別の実施形態では、プロテオソームベースの組成物(例えば、プロジュバント)を、総OMPの約0.5%から約5%までの範囲の髄膜炎菌由来の内因性リポオリゴサッカリド(LOS)含有量を使用して調製する。本発明の別の実施形態により、総OMPの約12%〜約25%の範囲、好ましい実施形態では約15%と約20%の間の範囲の内因性リポサッカリドを含むプロテオソームが得られる。本発明はまた、プロテオソーム供給源である同一のグラム陰性細菌種または異なる細菌種に由来し得る任意のグラム陰性細菌種由来のリポサッカリドを含む組成物を提供する。
【0063】
米国特許第6,476,201号は、全身(血清)および粘膜(呼吸器および腸が含まれる)抗体応答の両方を誘導するための非経口投与または粘膜投与のいずれかのためのプロテオソーム両親媒性決定基ワクチンの産生および製造に関する。粘膜投与が好ましく、呼吸器(例えば、鼻腔内、咽頭内、および肺内が含まれる)、胃腸管(例えば、経口または直腸が含まれる)、または局所(例えば、結膜または耳)への投与が含まれるが、これらに限定されない。両親媒性決定基は、プロテオソームを適切に配合した場合にプロテオソームと組み合わされて被験体における免疫応答を誘発する複合体を形成する疎水性領域および親水性領域を有する分子である。典型的な両親媒性決定基には、糖脂質、リポサッカリド(解毒リポ多糖類が含まれる)、リポペプチド、膜貫通タンパク質、エンベロープタンパク質、もしくはトキソイド化(toxoided)タンパク質、または内因性疎水性アミノ酸アンカーのタンパク質もしくはペプチドが含まれる。これらの決定基材料を、グラム陰性細菌(Escherichia、Klebsiella、Pseudomonas、Hemophilus、Brucella、Shigella、およびNeisseriaが含まれる)から得ることができる。より詳細には、髄膜炎菌外膜タンパク質プロテオソーム調製物(髄膜炎菌、淋菌(N.gonorrhea)、または他のナイセリア属の任意の株から調製される)が天然または解毒した赤痢菌属またはナイセリアのリポポリサッカリドまたはリポオリゴサッカリドと非共有結合的に複合体化してワクチンを形成するプロテオソームワクチンを、複合体のいずれかの構成成分を含むグラム陰性細菌(髄膜炎菌または赤痢菌が含まれる)に起因する疾患から防御するためにデザインする。より詳細には、プロテオソームワクチンは、Shigellaリポポリサッカリドの型特異的体細胞ポリサッカリドO抗原を認識する抗体応答を誘導し、それにより、細菌性赤痢に対する相同的保護を付与するLPSを含む。プロテオソームと複合体化した場合、リポポリサッカリドは、抗shigella防御免疫応答を誘導する。Shigella flexneri2a(または3aなど)、S.boydii、S.sonneiなどに起因する細菌性赤痢に対する相同免疫を付与するための相同的または抗原的交差反応生物由来のLPSを使用して、プロテオソームワクチンを、Shigella sonnei疾患に対する免疫のためのShigellea sonneiまたはPlesiomonas shigelloides、Shigella flexneri2a疾患に対する免疫のためのShigella flexneri2aなどから調製および精製する。さらに、米国特許第6,476,201号は、Shigella flexneri2a(Shigella flexneri2a疾患用)およびPlesiomonas shigelloidesまたはShigella sonnei(Shigella sonnei疾患用)由来の赤痢菌LPS抗原を使用した独立して作製された2つのプロテオソームワクチンを共に投与し、それにより、2つの生物を認識する抗体が誘導され、それにより、2つの疾患型に対する防御が付与されるという点で多価であるプロテオソーム−赤痢菌ワクチンの投与を記載している。さらに、B群2b型髄膜炎菌由来のプロテオソームを、中空糸ダイアフィルトレーションテクノロジーを使用してPlesiomonas shigelloides LPSと複合体化して粘膜呼吸器および/または胃腸管経路によって投与されるワクチンを産生し、S.sonneiの体細胞O抗原LPSを認識する抗体を誘導するプロテオソーム−赤痢菌LPSワクチンを使用して細菌性赤痢から防御する。
【0064】
例示であるが制限されない本発明のプロテオソームベースの組成物は、髄膜炎菌外膜タンパク質(プロテオソーム)と外因的に添加したShigella flexneriから調製したLPSとの非共有結合処方物であるプロテオソームベースの粘膜アジュバントIVX−908(プロトリン)である。
【0065】
(処方物および投与)
以下に、交換可能に使用することができる、用語「生理学的に許容可能なキャリア」および「薬学的に許容可能なキャリア」は、生物が著しい炎症を引き起こすことがなく、且つ投与した化合物の生物活性および性質を排除しないキャリアまたは希釈剤をいう。
【0066】
本明細書中の用語、「賦形剤」は、有効成分の投与を容易にするために薬学的組成物に添加される不活性物質をいう。賦形剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖型およびデンプン型、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、およびポリエチレングリコールが含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
薬物の処方および投与技術を、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」, Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,latest editionに見出すことができる。
【0068】
適切な投与経路には、例えば、経口、直腸、経粘膜、経鼻、腸、または非経口の送達(筋肉内、皮下、および脊髄内への注射が含まれる)、髄腔内、直接脳室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、または癌内への注射が含まれ得るが、プロテオソームの好ましい投与経路は鼻腔内である。
【0069】
サブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョン中にプロテオソームベースの組成物を含むGA処方物を、非経口、経口、鼻腔内、または局所的に投与するか、本明細書中に示すように、任意のその組み合わせにおいて投与することができる。にもかかわらず、一定の実施形態では、非経口または粘膜に投与することが好ましい。
【0070】
二投与経路または多投与経路も本明細書中に含まれる。二投与経路には、例えば、プロテオソームベースの調製物を調製して鼻腔内に投与するが、GAとは別に投与し、GAはプロテオソームの鼻腔内投与と同時または異なる時間に注射によって投与することができることが含まれ得る。プロテオソーム(プロジュバント)またはプロテオソーム:LPS(すなわち、IVX−908)組成物(GAは存在しない)を、GAと同時または別の注射によって投与することができる。注射のために、本発明の有効成分を、生理学的に許容可能なキャリア、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水などの生理学的に適合する緩衝液中で処方することができる。経皮投与および場合によっては経粘膜投与のために、バリアを透過するのに適切な浸透剤を処方で使用することができる。このような浸透剤は、一般に、当該分野で公知である。
【0071】
経口投与のために、化合物を、当該分野で周知の薬学的に許容可能なキャリアとの活性化合物の組み合わせによって容易に処方することができる。このようなキャリアにより、本発明の化合物を、患者が経口摂取するための錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリーおよび、懸濁液などに処方することができる。経口用の薬学的調製物を、固体賦形剤を使用して任意選択的に得られた混合物の磨砕により作製し、所望ならば適切な助剤を添加後に粒子混合物を処理して錠剤または糖衣錠コアを得ることができる。適切な賦形剤は、特に、糖(ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールが含まれる)などの充填剤;セルロース調製物(例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなど);および/または生理学的に許容可能なポリマー(ポリビニルピロリドンなど)である。所望ならば、崩壊剤(架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)など)を添加することができる。
【0072】
鼻投与のために、本発明で使用される有効成分を、例えば、適切な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、または二酸化炭素)を使用した加圧パックまたは噴霧器からのエアゾールスプレーの形態で都合良く送達させることができる。加圧エアゾールの場合、投薬単位を、一定量を送達させるためのバルブを装着することによって決定することができる。例えば、調剤で使用するためのゼラチン製のカプセルおよび薬包を、化合物の粉末混合物およびラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤を含むように処方することができる。
【0073】
本明細書中に記載の調製物を、例えば、ボーラス注射または持続注入による非経口投与のために処方することができる。注射用処方物を、単位投薬形態(例えば、任意選択的に防腐剤を添加したアンプルまたは複数回投与用コンテナ)に入れることができる。組成物は、油性または水性賦形剤を含む懸濁液、溶液、または乳濁液であってよく、懸濁剤、安定剤、および/または分散剤などの処方剤(formulatory agent)を含み得る。
【0074】
本発明の薬学的組成物を、被験体の体内のいたるところ(特に、脳内)に存在するアミロイド(例えば、Aβ)の産生および/またはその沈着に関連する疾患の予防および/または治療上の処置のために投与することができる。治療への適用では、薬学的組成物を、既に罹患しており、且つ治療を必要とする哺乳動物に投与する。薬学的組成物を、Aβの斑へのさらなる沈着および/または既に形成していることが明らかな斑を阻害または減少させ、そして/または既存のAβ凝集体の除去を刺激し、そして/または斑内に含まれないかもしれないAβの減少を刺激するのに十分な量で投与する。これを達成するための適量を、「治療有効用量または治療有効量」と定義する。
【0075】
予防への適用のために、本発明の薬学的組成物を、アミロイド関連疾患(例えば、Aβ関連アルツハイマー病)に感受性を示すが、このような疾患に依然として罹患していない哺乳動物に投与する。このような哺乳動物被験体を、医学論文(例えば、Goate(1991)Nature 349:704−706)に記載の遺伝子検査および臨床分析によって同定することができる。薬学的組成物は、例えば、症状が初期段階、好ましくは、β−アミロイド関連疾患の初期段階でさえも、Aβの斑へのアミロイド沈着を阻害、防止、または減少させることができる。予防有効投薬量と呼ばれるこのような予防治療に必要な化合物の量は、一般に、治療上の処置のための上記量と同一であり得るが、必ずしもそうではない。
【0076】
本明細書および添付の特許請求の範囲のために、用語「患者」、「被験体」、および「レシピエント」を、交換可能に使用する。これらには、予防、実験、または治療上の処置の対象物であるヒトおよび他の哺乳動物(例えば、ウシおよび他のウシ)が含まれる。
【0077】
本明細書中で使用される、用語「治療」には、統計的に有意な様式での疾患の阻害、遅延、または進行の逆転、疾患の臨床症状の実質的な改善または疾患の臨床症状の出現の実質的な防止が含まれる。
【0078】
処置すべき容態の重症度および反応性に依存して、1つまたは複数の部位または送達手段で1回または複数回投与することができ、治療単位を数日から数週間または治癒するか病状の統計的に有意な縮小が達成されるまで継続する。投与すべき治療量は、勿論、治療を受ける被験体、苦痛の重症度、投与様式、主治医の判断などに依存する。統計的有意性の計算方法は、関連分野で公知である。
【0079】
MSの「治療」は、自己免疫攻撃の寛解および自己免疫組織の破壊の防止または遅延による、多発性硬化症の任意の発現、臨床的または準臨床的(例えば、組織学的)症状の防止または遅延のための治療、およびその発現後の症状の治療による抑制または緩和を含むことが意図される。自己免疫攻撃または自己免疫反応の「寛解」、「抑制」、または「減少」は、攻撃または反応の1つまたは複数の症状の部分的軽減または改善を含む。「免疫反応」の「実質的に」増加した抑制効果(または寛解もしくは軽減)は、MSの1つまたは複数のマーカーまたは組織学的もしくは臨床的指標の有意な減少を意味する。制限されない例は、四肢麻痺スコアの少なくとも1単位の減少である。
【0080】
MSの治療のために、GAを、一般に、0.01mg〜1000mg/日の用量で投与する。1つの実施形態では、0.5〜50mgの範囲の投薬量を使用する。しかし、本発明の1つの態様によれば、本明細書中に記載の1つまたは複数のアジュバント(またはその混合物)を、GAを含む組成物に配合して使用することができ、それにより、GAのより低いまたはより高い用量または投与頻度での使用が可能になり、必ずしもGAの用量のみが影響を与えるとは限らないと予想される。
【0081】
有効投薬量範囲および至適量の確立は、この項で与えられた情報を考慮すれば十分に当業者の範囲内である。例えば、哺乳動物の投薬量(特に、ヒトへの投薬量)を、比較的低用量のGA(例えば、1mg/日)から開始して、段階的に増加させ(例えば、対数的に)、治療に対する生体反応を測定すること(例えば、(i)調節細胞(CD4+および/またはCD8+)の誘導の測定(Chen,Y.et al.,Science,255:1237(1994))、(ii)循環T細胞上のクラスII表面マーカーの減少の測定、(iii)TGF−β発現細胞数または検出可能なTGF−βの相対量の測定、(iv)血中の免疫攻撃T細胞の数および活性化の評価(例えば、限界希釈分析および増殖能力による)、または(v)周知の採点法による疾患重症度の採点(例えば、攻撃、関節の腫れ、握力、硬直、視力、投薬を減少または中断する能力による))によって至適化する。有効投薬量は、3つのマーカーのうちの1つを少なくとも統計的または臨床的に有意に軽減させる任意の用量、好ましくは、投与研究時のMSに特徴的な少なくとも1つの症状を軽減させる任意の用量である。
【0082】
MSの疾患重症度を、疾患型に依存した周知の方法にしたがって評価することができる。このような方法には、以下が含まれるが、これらに限定されない:長期にわたる攻撃の重症度および数;身体障害の進行性の蓄積(例えば、拡大障害状態尺度によって測定することができる);脳内病変の数および範囲(例えば、核磁気共鳴映像法によって明らかとなる);および自己反応性T細胞の頻度。
【0083】
ここに本発明を一般的に記載したが、以下の実施例を参照して本発明がより容易に理解され、実施例は例示を目的として記載し、明記しない限り、本発明を制限することを位としない。
【実施例】
【0084】
アミロイド前駆体タンパク質(APP)トランスジェニックマウスを、ミエリン希突起神経膠細胞糖タンパク質(MOG)ペプチド(アミノ酸35〜55)を含むフロイント完全アジュバント(CFA)で免疫し、その後に百日咳毒素(PT)を投与(注射)して、その非トランスジェニック同腹子と比較した実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)に対する感受性を決定した。コントロールとして、動物を、ウシ血清アルブミン(BSA)またはヒトβ−アミロイドペプチド(Aβアミノ酸1〜40)で免疫した。APPトランスジェニック動物((Mucke et al.,Ann NY Acad Sci(777)82−88(1996))およびその非トランスジェニック同腹子で同一の程度にEAEが発症し、Aβ1−40またはBSAで免疫した動物ではEAEは認められなかった。しかし、神経病理学的に脳を試験した場合、EAEを発症した動物でのAβ染色は少なかった。チオフラビンSを使用した海馬に置けるAβ原線維の染色量の定量により、MOG免疫したマウスではコントロールと比較して92%減少し(p=0.001)、Aβ1−40で免疫したマウスと比較して73%減少した(p=0.03)(表1、図1を参照のこと)。ELISAによる総脳Aβ含有量の定量により、MOG免疫したマウスではコントロール群と比較して94%減少し(p<0.001)、Aβ1−40で免疫したマウスと比較して86%減少した(p=0.03)(表1、図1を参照のこと)。
【0085】
MOG誘導性EAEに対する効果が固有であるかどうかを決定するために、プロテオリピドタンパク質(PLP)ペプチド(アミノ酸139〜151)を含むCFAでEAEを誘導した。PLP誘導性EAE動物においてAβ原線維染色の76%減少およびAβレベルの70%減少が認められた(p<0.02)(表2、図3Aを参照のこと)。PLPでEAEを誘導するために、Hsiao,K.et al,Science 274(5284):99−102(1996)に記載のB6/SJLバックグラウンドを有するTg2576マウスを使用した。MOG−EAEを誘導するためのMucke et al.,Ann NY Acad Sci(777)82−88(1996)に記載のTg2576マウスおよびJ20免疫したマウスで類似の結果が見出された(表1を参照のこと)。これらの結果は、所見がEAE誘導に使用した抗原、研究したADの動物モデル、動物の遺伝的背景、性別(50%雄/雌)に関連しないことを証明している。BSAを含むCFAで免疫した動物に変化は認められなかった。16月齢を超えるTg2576マウスと比較した場合、13月齢を超えるJ20マウスにおける総Aβ(アミロイド)負荷が相違しないことに注目すべきである。
【0086】
動物をCFA中に配合したAβペプチドで免疫したマウスADモデルの治療についての以前の免疫アプローチ研究では、抗凝集βアミロイド抗体は、アミロイド負荷の減少におけるインビトロでのSolomon,B.et al,Proc Natl Acad Sci 94:4109−12(1997)に記載の役割およびインビボでのWeiner,H.L.et al.,Ann Neurol 48,567−79(2000)およびSchenk,D.et al.,Nature 400,173−7(1999)に記載の役割の両方を有することが認められ、その活性は、AβのN末端領域中の特定のエピトープに関連する(Frenkel,D.et al.,Neuroimmunol 88,85−90(1998)およびFrenkel,D.et al.,Proc Natl Acad Sci USA 97,11455−9(2000))。MOGまたはPLPで免疫した動物におけるAβに対する抗体レベルを測定して、Aβで免疫した動物と比較してAβとの交差反応性およびAβ抗体の力価が存在するかどうかを決定した。表1および2に示すように、MOGまたはPLPで免疫した動物中に抗Aβ抗体は検出されなかった。抗体が役割を果たさないことを決定的に確立するために、μMT B細胞欠損マウスと交配した16月齢のJ20マウスを、MOG35〜55を含むCFAで免疫し、その後に百日咳毒素を投与した。表1および図1に示すように、μMT B細胞欠損APP+マウスは、ThS染色(p<0.001)または総脳アミロイドについてのELISA(p<0.001)のいずれかによって測定したところ、コントロールと比較してアミロイドが90%減少した。これらの結果は、MOG免疫後のAβの減少が抗体と無関係の機構によって起こることを示す。
【0087】
以前の研究により、活性化小膠細胞はインビボでのAβのクリアランスで重要な役割を果たし得ることが示唆されている(Schenk,D.et al.,Nature 400,173−7(1999),Rogers,J.et al.,Glia 40,260−9(2002),Mitrasinovic,O.M.et al.,Neurobiol Aging 24,807−15(2003),Webster,S.D.et al.,Exp Neurol 161,127−38(2000),Bacskai,BJ.et al.,J Neurosci 22,7873−8(2002),Nicoll,J.A.et al.,Nat Med 9,448−52(2003),Akiyama,H.& McGeer,P.L.,Nat Med 10,117−8;author reply 118−9(2004))。活性化小膠細胞(または小膠細胞様細胞)を、脳の外側(すなわち、末梢)に由来するか起源とすることに基づいてさらに区別することができる(好中球およびマクロファージなど)。脳由来小膠細胞を末梢好中球およびマクロファージに区別する手段は、当該分野で公知である。Aβクリアランスにおける小膠細胞活性化の潜在的役割を調査するために、MOG/CFAで免疫したAPPtgマウスの脳を、CD11b(活性化小膠細胞のマーカー)で染色した。図3Aおよび4ならびに表4に示すように、APPtgMOG免疫したマウスの免疫染色により、アミロイド斑と同時局在化した活性化小膠細胞数の増加が明らかとなった(349±34.3細胞/海馬領域)(表4)。BSA/CFAで免疫したコントロール動物での染色は最小でしかなかった(76±17細胞/海馬領域)(表4)。Aβ/CFAで免疫した動物では、中程度のレベルの小膠細胞活性化が認められた(106±27細胞/海馬領域)。さらに、μMT B細胞欠損マウス(p<0.001)およびPLPで免疫された動物(p<0.001)での小膠細胞活性化レベルの増加が認められた(図3A、表4)。
【0088】
直前に記載した第1の実験によれば、MOG/PLP+CFAの投与(その後の百日咳毒素の投与)は、Aβの減少に関連するが、望ましくないEAEを同時に発症した。これらの実験では、百日咳毒素を使用して、脳へのCFA配合化合物の送達のために血液脳関門を開かせる。したがって、Aβの減少がEAEの誘導に直接関連するかどうかを評価するために、そしてMS関連EAEに関してMOG、PLP、およびGAを研究しているので、アラニン、リジン、グルタミン酸、およびチロシンのランダムなアミノ酸コポリマーであり、EAEの抑制に有効であり、且つMSの再発形態の治療のために承認されており、且つ広く使用されている治療薬である(Teitelbaum,D.et al.,J.Neural Transm Suppl 49,85−91(1997))酢酸グラチラマー(GA)を使用したAPPマウスの免疫効果を評価した。
【0089】
最初に実施されたように、本明細書中に提供した一定の抗原/アジュバント混合物の投与後に百日咳毒素を投与(注射)したにもかかわらず、百日咳毒素を投与することなく本明細書中に記載の一定の他の組成物を投与することができることが完全に認識される。実際、百日咳毒素を投与することなく、GAを含むか含まないIVX−908などのプロテオソームベースの組成物を投与する。実際、本明細書中に記載の任意のプロテオソームベースの組成物の鼻送達のために、常に百日咳毒素を使用しなかった。
【0090】
したがって、マウスを、100μgGAを含むCFAで免疫し(足蹠注射による)、その直後および48時間後に150ngの百日咳毒素をi.p.注射した。免疫後50日目に、マウスを屠殺した。酢酸グラチラマーでの免疫により、未処置コントロールに対して海馬領域中のアミロイド原線維は92%減少し(p<0.01)、総アミロイド負荷が70%減少した(p<0.01)(表1、図1を参照のこと)。GA/CFA+百日咳毒素で免疫した動物で臨床的EAEは認められなかった。
【0091】
CFAをヒト被験体に投与することができないので、CFA以外のアジュバントを使用したマウスADモデルにおける酢酸グラチラマーでの鼻ワクチン接種効果を調査した。動物に酢酸グラチラマーを単独か粘膜アジュバントと共に鼻に投与して処置した。ヒト(Fries,L.F.,et al.,Infect Immun 69:4545−53(2001))およびマウス(Plante,M.et al.,Vaccine 20,218−25(2001))の両方で使用されている、髄膜炎菌外膜タンパク質(プロテオソーム)およびShigella flexneri由来のLPSの非共有結合処方物から構成されるプロテオソームベースの粘膜アジュバントIVX−908(プロトリン)を調製した。第1週目にマウスをプロテオソームアジュバントで複数回処置し、その後の5週間毎週追加免疫し、その後に神経病理学的分析を行った。コントロールとして、動物の鼻をIVX−908+BSA、IVX−908のみ、またはGAのみで処置した。予想外に、IVX−908を配合したGAの鼻投与により、海馬中のチオフラビン陽性線維性アミロイドが84%減少し(コントロールに対してp<0.001)、IVX−908のみと比較して70%減少した(p<0.01)(表3)。脳Aβレベルに関しては、酢酸グラチラマーを含むIVX−908の鼻投与後に73%減少し(コントロールに対してp<0.001)、IVX−908のみを使用して45%減少した(p<0.002)(表3、図2)。さらに、処置動物中のアミロイド斑周辺に活性化小膠細胞が検出された。GAのみの鼻投与はAβ原線維に影響を与えなかったが、脳内の総Aβレベルがわずかに減少した(コントロールに対してp=0.044)。BSA+IVX−908またはIVX−908のみの鼻投与により、総アミロイド負荷が50%減少したが(コントロールに対してp=0.02)、線維性Aβ染色に効果はなかった。CFA注射と対照的に、IVX−908のみまたはGAもしくはBSAとの処方物の鼻投与は、これらの実験でのいかなる動物においてもEAEを誘導しなかった。
【0092】
以下のいずれの免疫プロトコールにおいても、APP非トランスジェニックマウスの小膠細胞活性化は見出されなかった:CFA/PT+GAの非経口投与、IVX−908+GAの鼻投与(図3Bを参照のこと)、またはIVX−908のみの鼻投与。これらの結果により、IVX−908を配合したGAまたはIVX−908のみの投与(免疫)後の小膠細胞の活性化が、活性化のために内因性小膠細胞を準備刺激するのに役立ち得るアミロイド沈着の存在に依存し得ることが示唆される。
【0093】
GAとAβとの間の交差反応性が知られておらず、且つ、GA処置動物またはEAE動物のいずれにも抗Aβ抗体が認められないにもかかわらず、GA+IVX−908での免疫によってAβ反応性T細胞を準備刺激することができることが可能である。Aβ(1〜40)での脾臓T細胞の刺激によってGA+IVX−908で毎週7週間処置した後に(その時点で実験を終了する)、T細胞増殖応答およびサイトカイン産生(IL−2、IFN−γ、IL−6)を測定した。増殖によって測定したところ、Aβ反応性T細胞の準備刺激は見出されなかった:以下についての1分間あたりのAβ数:未処置=3315±1682cpm;GA+IVX−908=4516±1412cpm(バックグラウンド数は、100〜300であった)。刺激指標(GA+IVX−908/未処置)=1.37;2.5を超える最小刺激指標は、陽性と見なす。さらに、これらの培養物においてバックグラウンドを超えるIL−2、IFN−γ、IL−6の分泌は見出されなかった。抗体産生にはT細胞の補助が必要であるので、Aβに対するこのT細胞応答の欠如は、抗Aβ抗体が検出されなかったことと一致する。同様に、EAE動物におけるAβに対する準備刺激は見出されなかった。
【0094】
海馬以外の他の脳部位に対するGA+IVX−908処置の効果を試験するために、嗅球および小脳を調査した。Aβ、CD11b、およびフィブリノゲンについて嗅球を染色し、海馬で認められた結果と類似の結果を得た(図8)。GA+IVX−908の鼻投与後、コントロールと比較して活性化小膠細胞数が増加していることが見出された。EAE動物でも活性化されたが、フィブリノゲン染色によって測定したところ、血液脳関門(BBB)の漏れに関連していた。
【0095】
小脳を試験した場合、GA+IVX−908処置動物において小膠細胞染色活性化の増加は見出されず、活性化の増加はAβ沈着領域に制限されることが示唆された。さらに、GA+IVX−908後の非トランスジェニック同腹子の脳内のどこにも小膠細胞の活性化は認められず、活性化の増加がAβ沈着領域に制限されることがさらに証明された(図3bを参照のこと)。
【0096】
認められたクリアランス機構をより深く理解するために、脳小膠細胞とは対照的に末梢由来の活性化マクロファージ上で高度に発現されるCD68発現を染色した。図9に示すように、GA+IVX−908で処置した動物と比較してEAE動物でCD68がより染色された。この染色パターンは、脈絡叢から脳実質(小脳および皮質が含まれる)へのマクロファージの移動を示す。GA+IVX−908処置では、主に脈絡叢腔でCD68発現が増加する。これにより、EAE動物におけるAβクリアランスの担うCD11b+細胞が末梢からCNSに移動して神経毒性に関連するのに対して、GA+IVX−908処置動物におけるCD11b+細胞は主に内因性小膠細胞であり、Aβクリアランスに関連するが、直接有毒である証拠はないことが示唆される。この解釈のさらなる裏付けとして、本発明者らは、EAE動物の小脳でCD68+細胞の発現が増加するが、GA+IVX−908処置動物または未処置動物では増加しないことを見出した(示さず)。さらに、GA+IVX−908処置後に、アミロイドが蓄積された領域のみで活性化CD11b+細胞が見出された。
【0097】
表4および図4に示すように、海馬中のAβ原線維の減少は、CD11b染色によって示されるように、両方の活性化小膠細胞数の増加と強く相関した(r=−0.7 CD11b対Aβ原線維およびIFN−γ対Aβ原線維)。CD11b+細胞とIFN−γ細胞との間の強い相関が存在し、コントロールと比較して処置動物でマクロファージコロニー刺激因子レセプター(M−CSFR)に免疫反応を示す小膠細胞数の増加が認められた(p<0.02)(表4)。海馬領域中のTGF−βおよびAβ原線維の減少が認められた(r=0.91)。コントロールとGA+IVX−908処置動物との間でIL−10免疫反応細胞の有意な変化は認められなかったが、EAE動物のIL−10はコントロールより少なかった。
【0098】
GA+IVX−908での処置によって神経細胞傷害性または他の潜在的な負の効果が誘導されるかどうかを評価するために、以下の実験を行った:i)GFAPレベル(神経細胞の損傷と一致する星状細胞増加症の基準)の決定、ii)SMI32レベル(神経フィラメントのリン酸化のマーカーであって、神経細胞の損傷と共に増加することが知られている)の測定、iii)アポトーシス性細胞死測定の基準としてのTUNELアッセイの実施、およびiv)iNOS(神経細胞ストレス条件下でアップレギュレーションされることが示されている酵素)レベルの決定。
【0099】
GFAPアッセイの結果は、未処置のコントロール動物で星状細胞増加症が起こることを示す(GFAP+細胞によって測定された海馬中の活性化星状細胞領域)(図5)。GA+IVX−908を鼻投与した場合に星状細胞増加症が軽減された(3.1%;p=0.039対コントロール)。対照的に、EAE動物では星状細胞増加症は軽減されなかった。これらの結果は、EAEがAβ沈着物の減少にも関連するにもかかわらず、GA+IVX−908での処置の結果としてのAβクリアランスが、EAE動物で見出されるAβクリアランスよりも毒性が低い(星状細胞増加症に関連する)ことを示す。
【0100】
SMI32を測定する実験の結果(図6)は、異常な卵形のSMI32陽性細胞が未処置コントロール動物の老人斑に関連することを示す。EAE動物は、(老人斑が認められないが)小脳が含まれる脳全体の異常な卵形のSMI32陽性細胞(炎症に関連する)の増加を示す。対照的に、GA+IVX−908で処置した動物は、老人斑に関連するSMI32陽性細胞数が減少する。これらの実験により、SMI32によって測定したところ、GA+IVX−908処置は毒性に関連しないことが示唆される。
【0101】
標準的なTUNELアッセイを使用したアポトーシス性細胞死を測定する実験の結果(図6)は、コントロール動物ではTUNEL染色は認められず、EAE動物の皮質ではTUNEL染色が増加することを示す。GA+IVX−908処置動物ではTUNEL染色は認められなかった。さらに、iNOSを測定するアッセイは、iNOSはEAEマウスでアップレギュレーションされるが、GA+IVX−908で処置した動物ではアップレギュレーションされないことを示す。GA+IVX−908処置動物またはEAE動物のいずれにおいても血管構造の損傷は認められなかった。
【0102】
まとめると、これらのデータは、EAE動物およびGA+IVX−908で処置した動物においてAβのクリアランスが認められたにもかかわらず、後者は神経細胞毒性に関連しないことを示す(表4および図6)。
【0103】
しかし、IVX−908のみでの免疫後の小膠細胞の活性化がAβ沈着物の存在に必要なようであるにもかかわらず、このような免疫によってこのようなAβ沈着物(活性化小膠細胞による)は除去されず、むしろ、総アミロイド負荷量が優先的に減少した。このような結果により、活性化することができる2つの小膠細胞集団が存在する可能性、または小膠細胞を異なる程度に活性化することができるという別の可能性(部分的または完全に、完全に活性化された小膠細胞が既存のAβ斑を除去することができ、部分的に活性化された小膠細胞が可溶性Aβペプチドの隔離(sequestration)に関与する)を示唆することができる。可溶性Aβが不溶性Aβ斑に凝集するという考えを考慮して、IVX−908のみでの処置により、Aβ斑の持続的形成を遅延または防止することができ、これは、罹患被験体に有利である。
【0104】
表4および図3Bは、海馬中のAβ原線維の減少が活性化小膠細胞数(CD11b+免疫組織学的染色によって示される)およびIFN−γ分泌細胞数の増加に相関することを証明する。さらに、マクロファージコロニー刺激因子レセプター(M−CSFR)陽性小膠細胞数が増加した。マウスおよびヒトの小膠細胞上のM−CSFR発現の増加により、マクロファージスカベンジャーレセプターおよびFcRγレセプターの小膠細胞発現の増加の両方によって凝集アミロイドの食作用が促進されると報告されている(Mitrasinovic,O.M.& Murphy,G.M.,Jr.,Neurobiol Aging 24,807−15(2003))。しかし、μMT B細胞欠損マウス中のアミロイドのクリアランスにより、M−CSFR染色も増加し、それにより、認められた効果は、非Fc媒介機構を介する(Bacskai,BJ.et al,J Neurosci 22,7873−8(2002))。IFN−γの増加と関連して、TGF−β発現が減少し、TGF−βが可溶性Aβを斑に凝集する能力を幾らか調整すると示唆され、さらに、TGF−βがアミロイド沈着の増加に関連すると考えられる(Wyss−Coray,T.et al.,Nature 389,603−6(1997))。TGF−βの減少はまた、アミロイドクリアランスを促進し得る。IL−10発現の有意な変化は認められなかった。小膠細胞の活性化はT細胞数の増加に関連する可能性があり、T細胞数とIFN−γ分泌細胞数とが相関したので、小膠細胞活性化の促進で役割を果たすかもしれない。
【0105】
これらの実験で検出されたCD11b+細胞は、活性化されたマクロファージまたは小膠細胞であるが、好中球ではないことを確認するために、サンプルを、F4/80(活性化マクロファージおよび小膠細胞の表面上で検出することができるが、好中球(多形核白血球)上で検出することができない細胞表面構造)を認識するモノクローナル抗体と共にインキュベートした。F4/80の発現は、マクロファージおよび小膠細胞の成熟とともに増加する。これらの実験の結果は、これらの実験で検出されたCD11b+細胞もF4/80に対して陽性染色されることを示し(示さず)、それにより、これらのCD11b+細胞は活性化されたマクロファージまたは小膠細胞であるが、好中球ではないことを示す。さらに、H&E染色(図4)によってAβ斑と同時局在化したCD11b+細胞は、単核形態を有し、好中球に特徴的な多形核形態ではない。
【0106】
さらに別の一連の実験では、CD3染色によって決定したところ、GA+IVX−908の鼻投与後の小膠細胞の活性化は、T細胞数の増加に相関することを示した。これらの結果により、検出されたT細胞数とIFN−γ分泌細胞数の間に相関関係が存在するので(r=0.88)(表4)、小膠細胞活性化の促進におけるT細胞の可能な役割が示唆される。さらに、TGF−βはAPPtg−マウスにおいてAβ原線維形成を増加または減少させることができると報告されている(Wyss−Coray,T.et al Nature 389,603−6(1997);Wyss−Coray et al.Nat.Med.7:612−8(2001))。ここに報告されている実験では、コントロールと比較してMOG(p<0.001)およびGA+IVX−908(p<0.001)処置マウスでTGF−β発現の減少が認められ(表4)、海馬領域中のTGF−βの減少とAβ原線維の比率との間に強い相関関係があった(r=0.95)。IL−10免疫反応性細胞では有意な変化は認められなかった(示さず)。
【0107】
IVX−908のみを鼻に投与した場合に総脳Aβレベルの減少が見出されたが(表3)(未処置に対してp=0.02)、GAを配合したIVX−908と異なり、IVX−908のみではチオフラビン陽性Aβ原線維のクリアランスに効果はなかった。IVX−908は、髄膜炎菌外膜タンパク質(OPM)および外因的に添加したリポポリサッカリド(LPS)から構成されるプロテオソームベースのアジュバントである。髄膜炎菌OMP2(ポリンB)およびLPS/LOSは、先天性免疫系および/または養子免疫系に関連する一定の細胞型の表面上に提示されたTLRと相互作用することが公知である。本明細書中に記載のように、このような相互作用は、少なくとも部分的に、IVX−908および/またはIVX−908を配合したGAの活性が認められることが可能である。IVX−908を使用して認められた効果は、LPSの海馬への直接注射によって非原線維Aβ負荷を減少させることができるが、原線維Aβ沈着を減少させることはできないという報告と関連し得る(DiCarlo,G.et al.,Neurobiol Aging 22,1007−12(2001))。しかし、これらの実験における投与経路(脳への直接注射)は、本明細書中に記載のプロテオソームベースの処方物の送達のための鼻投与経路と非常に異なることに留意しなければならない。対照的に、他の報告は、腹腔内に投与したLPS(炎症)は小膠細胞の活性化を刺激することができ、総アミロイドの増加が認められ、LPS誘導性神経炎症がアミロイド前駆体タンパク質およびAβペプチドの細胞内蓄積を増大させることを示している(Sheng et al.,Neurobiology of Disease 14:133−145(2003)およびその参考文献)。さらに、LPSの直接注射は有毒であると予想されることが認識されている。
【0108】
上記で考察した実験では、F4/80シグナルが存在しないことにより、CD11b+細胞は、活性化された小膠細胞またはマクロファージであるが、好中球ではないことが示された。しかし、これらのCD11b+細胞を活性化マクロファージと対立するものとして活性化小膠細胞としてさらに区別することができるかどうかを決定するために、サンプルを、CD68(末梢由来の活性化マクロファージ上に高度に発現されるが、脳由来の小膠細胞表面上にはあまり発現されない細胞マーカー)の存在について評価した。図8および9に示すように、GA+IVX−908で処置した動物由来のサンプルと比較してEAE動物中のCD68(マクロファージはCD11b+およびCD68+である)がより染色され、これらのCD11b+CD68+細胞が、末梢(くも膜下腔)から脳実質(小脳および皮質が含まれる)に移動したマクロファージであることを示す。対照的に、GA−IVX−908での処置後、CD68発現マクロファージが増加したが、これらの細胞は主にくも膜下腔に局在したままである。これらの実験結果により、EAE動物中のAβクリアランスに関与するCD11b+細胞が末梢からCNSに移動神経毒性に関連するのに対して、GA−IVX−908での処置後に検出されたCD11b+細胞は主に内因性の小膠細胞であり、Aβクリアランスに関連するが、直接有毒である証拠はないことが示唆される。この解釈のさらなる裏付けとして、本発明者らは、EAE動物の小脳でCD68+細胞の発現が増加するが、GA−IVX−908処置動物または未処置動物では増加しないことを見出した(データ示さず)。さらに、GA−IVX−908処置後に、アミロイドが蓄積された領域のみで活性化CD11b+細胞が見出された。
【0109】
本発明者らは、未処置動物と比較した場合、GA+IVX−908を投与した動物の血清中のAβレベルの増加も見出し、これにより、GA+IVX−908により脳領域からAβがクリアランスされ、このAβを末梢で見出すことができることが示唆された。しかし、EAEを有する動物でこのようなAβの再分布は認められず、上記のように、活性化CD11b+細胞の供給源に関連し得る。さらに、GA−IVX−908を投与した動物における脳毛細血管の内側を覆うCD11b+CD68+活性化マクロファージおよび脈絡叢の数は、未処置動物と比較して増加した(図9)。これらの所見は、GA−IVX−908処置動物から得られた血清サンプルで検出されたAβレベルの増加と一致し、CD11b+細胞に関してGA−IVX−908で処置した動物でアミロイド血管症の減少を伴う(図8)。
【0110】
予想外に、アミロイド(例えば、Aβ斑)クリアランスの最終の共通経路は活性化小膠細胞を介し得るようである。EAEでは、 IFN−γTh1型ミエリン反応性T細胞は、MOGまたはPLP+CFAでの免疫によって末梢で見かけ上活性化され、これらのT細胞が脳に移動してIFN−γ(Th1サイトカイン)を放出し、小膠細胞を活性化する。結果として、動物の脳脊髄炎および麻痺は、ミエリンおよびその下にある軸索への損傷によって引き起こされる。BSA特異的Th1型細胞は脳内に蓄積しないので、末梢におけるBSA/CFAでの免疫によってAβクリアランスは起こらない。酢酸グラチラマーを含むCFAでの末梢免疫によって、GA特異的T細胞が誘導させ、GAのMBPとの交差反応性によって脳内に蓄積される。この細胞は、IFN−γを分泌することができ、それにより、小膠細胞を活性化することができるが、MBPに対する親和性の変化およびそれに伴う抗炎症性サイトカインの分泌により、EAEを発症することができない。
【0111】
本発明者らは、小膠細胞活性化に関連するAβのクリアランスを証明した。小膠細胞の活性化は、正の効果および負の効果の両方を示すことができることを指摘すべきである(Monsonego,A.,and Weiner,H.L.,Immunotherapeutic approaches to Alzheimer’s disease,Science 302:834−838(2003))。小膠細胞は、タンパク質が凝集する天然の機構を示し、破片を脳から除去することができ、Aβ免疫または脳卒中後の小膠細胞の活性化によってAβをクリアランスすることができるという報告が存在する(Nicoll,J.A.,et al.,Neuropathology of human Alzheimer disease after immunization with amyloid−beta peptide:a case report,Nat Med.,9:448−452(2003);Akiyama,H.,and McGeer,P.L.,Specificity of mechanisms for plaque removal after A beta immunotherapy for Alzheimer Disease,Nat Med.,10:117−118;author reply 118−119(2004);およびWyss−Coray,T.,et al.,Prominent neurodegeneration and increased plaque formation in complement−inhibited Alzheimer’s mice.,Proc Natl Acad Sci,99:10837−10842(2002)を参照のこと)。動物研究では、Wyss−Corayおよびその同僚は、同年齢の野生型ADマウスよりも小膠細胞があまり活性化しない補体阻害ADマウスモデルで顕著な神経変性および斑形成の減少が認められることを証明した。これは、ADマウスモデルにおいて、活性化小膠細胞が高い神経毒性を示すことのないアミロイド負荷の減少で有利な役割を果たすという概念を支持する。
【0112】
IVX−908は小膠細胞を活性化することができるので、IVX−908のみの鼻投与によってアミロイドを減少させ、GAを配合したIVX−908組成物ほど有効ではないが、さらに、T細胞を活性化することができる。非トランスジェニック動物において、CFAと共に末梢に投与するか、IVX−908と共に鼻腔内に投与したGAを使用して小膠細胞の活性化は認められなかった。Aβ沈着によってAβ斑を取り囲む小膠細胞がわずかに活性化され、この活性化は小膠細胞がIVX−908+GAによってさらに活性化されるために必要なようであると報告されている。小膠細胞のわずかな活性化が、さらなる活性化のために小膠細胞を準備刺激するIFN−γまたはToll様レセプターの発現に関連する可能性がある(Sasaki,A.et al.,Virchows Arch.,441(4):358−67(2002))。
【0113】
これらの所見は、Aβ1−42を含むTh1型アジュバント(QS21)での免疫後にヒトで認められる斑除去の潜在的な機構に関連する。Nicoll,J.A.et al.,Nat Med 9,448−52(2003)は、広範な髄膜脳炎を引き起こし、マクロファージが脳に浸潤し、そして新皮質中のアミロイド沈着物が減少するというアジュバントQS21と共に非経口投与したAβ1−42でワクチン接種したAD患者由来の所見を報告している。AkiyamaおよびMcGeerは、ADの場合に不完全な虚血が影響を及ぼした皮質領域中の老人斑の類似の減少を報告しており、その所見およびNicoll et alによって報告された所見が抗体依存様式で高反応性小膠細胞によるアミロイドの食作用に関連し得ることを示唆する。さらに、TUNEL染色(アポトーシス細胞のマーカー)またはNeUN免疫染色(ニューロン生存のマーカー)の使用により、未処置マウスと比較して、GA+IVX−908またはIVX−908のみでの免疫が有毒である証拠はなかった。
【0114】
抗体と無関係であり、且つ活性化小膠細胞によって媒介されるアルツハイマー病治療のための新規の免疫治療アプローチを本明細書中に提供する。多発性硬化症の治療で使用される薬物と鼻アジュバント(IVX−908)との組み合わせにより、他の適用のために以前にヒトで使用されていた毒性のない2つの組成物(GAおよびプロテオソームベースのアジュバント)を使用して、小膠細胞は、透明なAβ−原線維斑に活性化され、総アミロイド負荷が減少されるようである。動物研究によってAβ斑の減少が認知の改善に関連することが証明されたと仮定すると、GAを配合したIVX−908での鼻ワクチン接種は、アルツハイマー病患者に有効な治療法である。
【0115】
(表1:J20 APPトランスジェニックマウスの脳内の総Aβおよび線維性Aβに対する皮下免疫の効果)
【0116】
【表1】
* 結果を、1:500 IgGの力価でのODレベルとして示す。
**コントロールは、未処置(n=5)およびBSA/CFA処置(n=3)動物を組み合わせており、これは、これらの群の間で差異が認められなかったためである。総脳Aβについて、未処置=126.7±19.5;BSA/CFA 123.7±33.2。チオフラビン陽性Aβ斑領域の%:未処置:2.8±0.5;BSA/CFA=2.2±0.9。
a コントロールに対してp<0.05。
b コントロールに対してp<0.001;Aβに対してp<0.05
c コントロールに対してp<0.01
d コントロールに対してp<0.01;Aβに対してp=0.05。
【0117】
(表2:Tg2576 APPトランスジェニックマウスの脳内の総Aβおよび線維性Aβに対するPLP免疫の効果)
【0118】
【表2】
* 結果を、1:500 IgGの力価でのOD450レベルとして示す
a コントロールに対してp<0.02(未処置マウス)
b コントロールに対してp<0.002。
【0119】
(表3:J20 APPトランスジェニックマウスの脳における総Aβおよび繊維状Aβに対する経鼻免疫の効果)
【0120】
【表3】
* 結果を、1:50 IgGの力価でのOD450レベルとして示す。
a コントロールに対してp<0.02、GAに対してp<0.02
b コントロールおよびGAに対してp<0.001、IVX−908に対してp<0.04
c コントロールに対してp<0.001、GAに対してp<0.002、IVX−908に対してp<0.002。
【0121】
(表4:免疫した動物における海馬の免疫組織化学)
【0122】
【表4】
(表4脚注)
* データは、各処置についての3つの切片およびコントロールについての6つの切片(3つの未処置+表1のように処置した3つのBSA/CFA)の定量を示す。
a r=−0.7 CD11b対Aβ原線維領域の%
b r=−0.65 CD3対Aβ原線維領域の%;r=0.74 CD3対CD11bc r=−0.7 M−CSFR対Aβ原線維領域の%;r=0.92 M−CSFR対CD11b
d r=−0.8 IFN−γ対Aβ原線維領域の%;r=0.9 IFN−γ対CD11b;r=0.85 IFN−γ対CD3
e r=0.91 TGF−β対Aβ原線維領域の%;r=−0.77 TGF−β対CD11b;r=−0.6TGF−β対CD3
f r=0.67 IL−10対Aβ原線維領域の%;r=−0.4 IL−10対CD11b
g p=0.0007 CD11b対GA;p<0.05 IFN−γ対GA;p=0.0011 TGF−β対GA
i コントロールに対してp<0.05
ii コントロールに対してp<0.02
iii コントロールに対してp<0.001
iv コントロールに対してp<0.001。
【0123】
(材料と方法)
マウス。(B6XD2)F1(平均年齢は14月齢)または(B6XSJL)F1 APP+(WTまたはμMT)(平均年齢は16月齢)APPトランスジェニックマウスを、全ての適用可能なガイダンスにしたがって、Brigham and Woman’s Hospitalの無発熱物質施設に収容し、使用した。
【0124】
材料。IVX−908(プロトリン)は、髄膜炎菌外膜タンパク質(プロテオソーム)およびヒトで安全に試験されたShigella flexneri由来のLPSの非共有結合処方物であり、ID Biomedical,Montreal,Canadaから入手した。酢酸グラチラマー(Copaxone(登録商標))は、MSの再発形態のための承認されており、且つ広く使用されているアラニン、リジン、グルタミン酸、およびチロシンの無作為なアミノ酸コポリマーであり、Brigham and Women’s Hospital pharmacyから入手した。MOG(35〜55)およびPLP(139〜151)を、Center for Neurologic Diseases,Brigham and Women’s Hospitalで合成した。
【0125】
APP+マウスにおけるEAEの誘導および臨床評価。(B6D2)F1または(B6XSJL)F1 APP+(WTまたはB細胞欠損μMT)および非tg同複子の後足蹠に、100μgのMOG(35〜55)、PLP 139〜151、または100μg β−アミロイドペプチド(1〜40)を含むCFAで免疫した。その直後および48時間後に150ngの百日咳毒素を含む0.2ml PBSを、i.p.注射した。動物をEAEの症状についてモニタリングし、これを免疫後から7日目から開始し、以下のように記録した:0、疾患なし;1、尾の麻痺;2、後肢の衰弱;3、後肢の麻痺;4、後肢および前肢の麻痺;および5、瀕死状態。
【0126】
鼻ワクチン接種。酢酸グラチラマー:25μgを、最初の1週間は1日目、2日目、4日目、および5日目に投与し、その後の6週間は週に1回投与した。IVX−908:1μg/マウスを、最初の1週間は1日目および5日目に投与し、その後の6週間は週に1回投与した。BSA+IVX−908:25μgのBSA+1μg IVX−908を、最初の1週間は1日目および5日目に投与し、25μgのBSAのみを2日目および4日目に投与し、その後の6週間はBSA+IVX−908の組み合わせで追加免疫した。GA+IVX−908:25μgのGA+1μg IVX−908を、最初の1週間は1日目および5日目に投与し、25μgのGAのみを2日目および4日目に投与し、その後の6週間はGA+IVX−908の組み合わせで追加免疫した。
【0127】
アミロイドの定量。アミロイド負荷を定量するために、右半球を、5.0M塩酸グアニジン(pH8)中にて室温で3時間抽出した。希釈物を使用して、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって不溶性(アミロイド関連)Aβ40およびAβ42レベルを測定した。Aβ原線維を測定するために、左半球を、4%Brainで一晩固定し、次いで4.5%スクロースに4時間浸漬し、その後、4℃で20%スクロースに一晩浸漬した。脳を、OCTパラホルムアルデヒドの存在下で凍結させ、14μmの縦断面に切断し、免疫組織染色およびアミロイド原線維の定量のために使用した。十分に定義した海馬領域(ブレグマ−1.34)を、チオフラビン−S染色を使用した斑中のアミロイド原線維の定量のために選択した。これらの切片由来の画像(20倍)を、3CCDカラービデオカメラから回収し、適切なソフトウェア(NIH;Imaging Research)を使用して分析した。アミロイド原線維量を、このソフトウェアによって測定した1mm2の海馬領域あたりの比率として示した。
【0128】
免疫組織学。以下のマーカーを使用して染色を行った:T細胞(CD3;BD Biosciences:553057)、小膠細胞/マクロファージ(CD11b;Serotec:MCA74G)、(C−MFR;Cymbus Biotech:21080096)、IFN−γ(Pharmingen:559065)、IL−10(Pharmingen:559063)、およびTGF−β(RD:AB−20−PB)。抗アミロイド抗体(R1282)は、Dennis Selokeから譲渡された。脳切片を、ヘマトキシリン染色にさらに供した。切片を、盲検様式で評価し、コントロールは、前記のアイソタイプ適合mAbを使用した。各処置のために、3つの異なる脳切片の海馬領域を定量した(同一領域、ブレグマ−1.34、ThS染色のために使用)。結果を、各マーカーについて標識された細胞の平均として示す。
【0129】
神経病理学。神経毒性を試験するために、左半球を、4℃で、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定し、その後に4.5%スクロースに4時間浸漬し、その後に20%スクロースに一晩浸漬した。脳を、OCTパラホルムアルデヒドの存在下で凍結させ、14μmの縦断面に切断し、免疫組織染色ために使用した。本発明者らは、神経ストレスおよび血液脳関門の完全性のために使用した以下の4つのマーカーを染色した:GFAP(Sigma;G9269)、SMI32(Serotec)、TUNEL(Roche 1 684 817)、iNOS(CHEMICON:AB5382)、およびFibrinogen(Dako:A0080)。星状細胞増加症を、星状細胞で被覆された1mm2の海馬細胞あたりの比率として示す。iNOS、SMI32、およびフィブリノゲンを、以前に記載のように染色した(29)。末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性dUTPニック末端標識(TUNEL)染色を、製造者(Roche 1 684 817)の説明書にしたがって行った。計数した細胞の形態を同定するために、H&E染色を行った。不偏立体解析学的アプローチにおけるNIHのImaging Research softwareを使用した盲検様式で動物あたり2つの連続切片および群あたり4匹の動物を染色した。一次運動皮質(ブレグマ側面の1.44mm)由来の群あたりの染色を、図6に示す。
【0130】
データ分析。全ての連続順序および順序データを、平均±semと示す。2群を比較する場合はスチューデントt検定を使用してデータを比較し、3群またはそれ以上を分析する場合は一元配置のANOVA分析を行った。0.05未満の値を、統計的に有意と見なした。Excel統計プログラムを使用してr値を計算した。
【0131】
本明細書中に引用した全ての引用文献(特許、特許出願、および刊行物が含まれる)は、以前に具体的に援用されているかにかかわらず、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0132】
ここに本発明を完全に記載しているが、当業者は、本発明を、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、且つ過度の実験を行うことなく広範な等価のパラメーター、濃度、および条件を使用して本発明を実施することができることを認識している。
【0133】
本発明を特定の実施形態と組み合わせて記載しているが、本発明をさらに修正することができると理解される。本出願は、一般に、本発明の原理に従って本発明の任意の変形形態、使用、または適用を対象とし、本発明が属する分野内での公知または慣習的な作業の範囲内であり、前記の基本的な特徴に適用することができる場合、このような本開示からの逸脱を含むことを意図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療する方法であって、このような治療を必要とする該哺乳動物に治療有効量のプロテオソームベースの組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
同一の処方物または個別の処方物のいずれかで前記プロテオソームベースの組成物と共に治療有効量の酢酸グラチラマーを投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経疾患または神経障害が、有害なタンパク質の凝集を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記神経疾患または神経障害が多発性硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記神経疾患または神経障害が、早発性アルツハイマー病、遅発性アルツハイマー病、前駆症状性アルツハイマー病、血清アミロイドA(SAA)アミロイドーシス、プリオン病、遺伝性アイスランド症候群、老化、および多発性骨髄腫からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記神経疾患または神経障害の治療により、可溶性アミロイドβペプチドまたは不溶性アミロイドβペプチドが減少し、前記不溶性アミロイドβペプチドが線維性アミロイドβペプチドを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記アミロイドβペプチドが不溶性である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記神経疾患または神経障害がアミロイド疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アミロイド疾患がアルツハイマー病である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アミロイド疾患を治療する工程が、脳内のアミロイド負荷増加を防止する工程、現在の該アミロイド負荷を維持する工程、または該アミロイド負荷を減少する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アミロイドがβ−アミロイドである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アミロイド負荷には、総アミロイド負荷および線維性負荷が含まれる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記プロテオソームベースの組成物が、内因性リポポリサッカリドを含むプロテオソームベースのアジュバントおよび外因性リポポリサッカリドを含むプロテオソームベースのアジュバントからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記プロテオソームおよび前記リポポリサッカリドを同一の細菌属から得る、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プロテオソームおよび前記リポポリサッカリドを異なる細菌属から得る、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記プロテオソームがNeisseria meningitidesに由来し、前記リポポリサッカリドShigella flexneriに由来する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、安定剤、またはキャリアをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療する方法であって、このような治療を必要とする該哺乳動物に、治療有効量のサブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョンの酢酸グラチラマーを投与する工程を含む、方法。
【請求項19】
前記神経疾患または神経障害が、細胞媒介性自己免疫疾患または細胞媒介性自己免疫障害である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞媒介性自己免疫疾患または細胞媒介性自己免疫障害が、多発性硬化症である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
サブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョンの酢酸グラチラマーを含む組成物。
【請求項22】
酢酸グラチラマーおよびプロテオソームベースの組成物を含む組成物。
【請求項23】
哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療する方法であって、該哺乳動物における抗体独立性応答を誘発する、治療有効量の組成物を投与する工程を含み;
該組成物が以下;
プロテオソームベースの組成物;
酢酸グラチラマー組成物と組み合わされるかまたは処方されたプロテオソームベースの組成物;
サブミクロンのエマルジョンで処方された酢酸グラチラマー組成物;または
ナノエマルジョンで処方された酢酸グラチラマー組成物
のうちのいずれかを含む、
方法。
【請求項1】
哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療する方法であって、このような治療を必要とする該哺乳動物に治療有効量のプロテオソームベースの組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
同一の処方物または個別の処方物のいずれかで前記プロテオソームベースの組成物と共に治療有効量の酢酸グラチラマーを投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経疾患または神経障害が、有害なタンパク質の凝集を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記神経疾患または神経障害が多発性硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記神経疾患または神経障害が、早発性アルツハイマー病、遅発性アルツハイマー病、前駆症状性アルツハイマー病、血清アミロイドA(SAA)アミロイドーシス、プリオン病、遺伝性アイスランド症候群、老化、および多発性骨髄腫からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記神経疾患または神経障害の治療により、可溶性アミロイドβペプチドまたは不溶性アミロイドβペプチドが減少し、前記不溶性アミロイドβペプチドが線維性アミロイドβペプチドを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記アミロイドβペプチドが不溶性である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記神経疾患または神経障害がアミロイド疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アミロイド疾患がアルツハイマー病である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アミロイド疾患を治療する工程が、脳内のアミロイド負荷増加を防止する工程、現在の該アミロイド負荷を維持する工程、または該アミロイド負荷を減少する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アミロイドがβ−アミロイドである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アミロイド負荷には、総アミロイド負荷および線維性負荷が含まれる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記プロテオソームベースの組成物が、内因性リポポリサッカリドを含むプロテオソームベースのアジュバントおよび外因性リポポリサッカリドを含むプロテオソームベースのアジュバントからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記プロテオソームおよび前記リポポリサッカリドを同一の細菌属から得る、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プロテオソームおよび前記リポポリサッカリドを異なる細菌属から得る、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記プロテオソームがNeisseria meningitidesに由来し、前記リポポリサッカリドShigella flexneriに由来する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、安定剤、またはキャリアをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療する方法であって、このような治療を必要とする該哺乳動物に、治療有効量のサブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョンの酢酸グラチラマーを投与する工程を含む、方法。
【請求項19】
前記神経疾患または神経障害が、細胞媒介性自己免疫疾患または細胞媒介性自己免疫障害である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞媒介性自己免疫疾患または細胞媒介性自己免疫障害が、多発性硬化症である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
サブミクロンのエマルジョンまたはナノエマルジョンの酢酸グラチラマーを含む組成物。
【請求項22】
酢酸グラチラマーおよびプロテオソームベースの組成物を含む組成物。
【請求項23】
哺乳動物の神経疾患または神経障害を治療する方法であって、該哺乳動物における抗体独立性応答を誘発する、治療有効量の組成物を投与する工程を含み;
該組成物が以下;
プロテオソームベースの組成物;
酢酸グラチラマー組成物と組み合わされるかまたは処方されたプロテオソームベースの組成物;
サブミクロンのエマルジョンで処方された酢酸グラチラマー組成物;または
ナノエマルジョンで処方された酢酸グラチラマー組成物
のうちのいずれかを含む、
方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−41351(P2012−41351A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211735(P2011−211735)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【分割の表示】特願2007−518369(P2007−518369)の分割
【原出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(506013829)アイディー バイオメディカル コーポレイション オブ ケベック (7)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【分割の表示】特願2007−518369(P2007−518369)の分割
【原出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(506013829)アイディー バイオメディカル コーポレイション オブ ケベック (7)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【Fターム(参考)】
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