説明

神経障害性疼痛抑制薬

【課題】神経障害性疼痛の抑制作用を有する新規な成分を開示し、この成分を有効に利用できるようにした新規な神経障害性疼痛抑制薬とすることである。
【解決手段】化1の式で表わされ、リン酸エステル部が分岐したアルキル基を有するL−アスコルビン酸−2−リン酸エステルまたはその有機塩または無機塩からなるアスコルビン酸誘導体の1種以上を有効成分として含有する神経障害性疼痛抑制薬とする。
【化1】


(式中、R1、Rは、水素(H)または2位で分岐した炭素数4〜30のアルキル基を表わす。ただし、R=R=水素(H)である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、神経障害性疼痛の症状を改善し、または同症状の疾患治療に用いる神経障害性疼痛抑制薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に医学分野における疼痛状態の治療は、非常に重要なものであり、いわゆる疼痛療法は世界的に求められている。
【0003】
患者に適した疼痛状態の特定の治療または特定の疼痛状態の治療にも関する差し迫った要件は、応用鎮痛剤の分野においてまたは痛覚に関する基本的研究に基づいて、近年および何年もかけて著された多数の科学的著作に列挙されている。
【0004】
疼痛は、国際疼痛研究学会(IASP)によって、「実際のまたは潜在的な組織損傷に関連した不快な感覚的および情緒的な経験」と定義され、またはそのような損傷に関しては記述されている。また、疼痛は常に主観的なものであるが、その原因または症候群を分類することができる。サブタイプとしての「神経障害性疼痛(Neuropathic pain)」は、IASPによって、「神経系の一次病巣または機能不全により開始されまたは引き起こされる疼痛」と定義される(IASP,Classification of chronic pain, 2nd Edition,IASP Press(2002),210)。
【0005】
神経障害性疼痛(ニューロパチー)は、末梢および中枢神経の損傷や機能障害によって生じる難治性の痛みで、臨床においては糖尿病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛など病原性のものや、抗がん剤などの薬剤による副作用によって生じるものがよく知られている。
【0006】
この神経障害性疼痛に対しては、NSAIDsやオピオイドなど既存の鎮痛薬が効きにくいといわれており、臨床的に有効な治療薬の開発が急務となっている。現在、臨床的には、神経障害性疼痛に対して抗うつ薬や抗てんかん薬の利用が試みられている。
【0007】
以下の表1に示すように、日本ではテグレトールアール(カルバマゼピン)が三叉神経痛に対して適応が認められているのを除き、抗うつ薬、抗てんかん薬は、痛みに対して保険適応が認められていないため、鎮痛補助剤として処方されている。
【0008】
【表1】

【0009】
一方、米国や欧州では、抗てんかん薬であるガバペンチンの帯状疱疹後神経痛に対する適応が認められ、また類似薬のプレガバリンが神経障害性疼痛治療薬として認可されている。
【0010】
このように、神経障害性疼痛の治療薬の開発は、始まったばかりであるが、日本においてはその開発が遅れている現状である。また、現在神経障害性疼痛の治療への応用が試みられている上記の薬はすべて経口薬であり、塗布薬としては欧米においてカプサイシンクリーム(トウガラシ成分)の使用例があるものの日本では市販されておらず、その有効性も十分には確立されていない。
【0011】
近畿大学薬学部病態薬理学研究室では、生体内で酵素的に産生されるガス状情報伝達物質である硫化水素(HS)の痛覚への関与を検討し、HS供与体であるNaHSをラットやマウスの足底内や脊髄内へ投与することにより、痛覚過敏が誘発されることが見出され、この効果が知覚神経上に存在するT型Ca2+チャネルの活性化を介して生じることが明らかになった。
【0012】
一方、培養神経系細胞においては、NaHSがT型Ca2+チャネルを介する膜電流を増強することがパッチクランプ法により証明された。NaHSによる痛覚過敏は、3つあるT型Ca2+チャネルのサブタイプ、Cav3.1、3.2、3.3のうち、Cav3.2を介して起こることが、アンチセンス法を用いたCav3.2遺伝子ノックダウン法により明らかにされた(KawabataらPain 2007;132:74-81、MaedaらPain 2009;142:127.)。
【0013】
さらに、硫化水素/Cav3.2T型Ca2+チャネル系は、膵炎に伴う痛みや腸の痛みの他(MatsunamiらGut 2009;58:751.、NishimuraらGut 2009;58:762.)、神経障害性疼痛の発現にも関与することが明らかにされた(TakahashiらJ Pharmacol Sci 2009;109 (Suppl 1):190)。
【0014】
また、アスコルビン酸が、T型Ca2+チャネルのうちCav3.2を特異的に阻害することをNelsonら(NelsonらJ Neurosci 2007;27:12577-83)が報告している(非特許文献1)。
しかし、アスコルビン酸は、熱や酸化に対して非常に不安定であり、不活性化されたり分解されたりしやすいため、必ずしも十分な生理作用が得られない場合がある。
【0015】
このように酸化されやすく不安定性なL−アスコルビン酸を安定化するために、酸化されやすいジオール部をリン酸エステル化した誘導体が知られており(特許文献1)、またグルコシド化した誘導体も知られている(特許文献2)。
また、リン酸エステル部が分岐したアルキル基を有するL−アスコルビン酸−2−リン酸エステルまたはその塩からなるアスコルビン酸誘導体(後述する化1参照)は、美白化粧品として生体浸透性が好ましいことが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特公昭52−18191号公報
【特許文献2】特開平03−139288号公報
【特許文献3】WO2005/092905
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】ネルソン等、ジャーナル オブ ニューロサイエンス、2007年、第27巻、p.12577−12583
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、下記の化1の式で示されるアスコルビン酸誘導体は、アスコルビン酸と同等にT型Ca2+チャネルのうちCav3.2を特異的に阻害するかどうか、またはそれによる薬理作用が認知されておらず、神経障害性疼痛の抑制、すなわち鎮痛作用のある医薬品の成分としての利用が全くなされていなかった。
【0019】
そこで、この発明の課題は、神経障害性疼痛の抑制作用を有する新規な成分を提示し、この成分を有効に利用して新規な神経障害性疼痛抑制薬を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願の発明者等は、知覚神経上に存在するCa3.2T型Ca2+チャネルが、神経障害性疼痛の発現にも関与する知見に着目し、特定のアスコルビン酸誘導体が特異的かつ顕著にCa3.2T型Ca2+チャネル阻害活性を有するものであることを発見し、この発明を完成させたものである。
【0021】
すなわち、この発明においては、下記の化1の式で表わされ、リン酸エステル部が分岐したアルキル基を有するL−アスコルビン酸−2−リン酸エステルまたはその塩からなるアスコルビン酸誘導体の1種以上を有効成分として含有する神経障害性疼痛抑制薬としたことにより前記課題を解決した。
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、R1、Rは、水素(H)または分枝を有する炭素数3〜30のアルキル基を表わす。ただし、R=R=水素(H)である場合を除く。)
【0024】
上記したアスコルビン酸誘導体は、分子構造の所定位置(2位)にリン酸エステル部を有し、その部分に分岐したアルキル基を有するため、適度な脂溶性があって生体内に取り込まれやすいという特性を有する。特に、化1の式中のR1またはRが、2位で分岐した炭素数4〜30のアルキル基である場合に上記特性が顕著に奏される。
【0025】
上述のように好ましい作用のあるアスコルビン酸誘導体は、分枝したアルキル基が、2−ヘプチルウンデシル基、2−オクチルデシル基、2−オクチルドデシル基、2−ヘキシルデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−イソヘプチルイソウンデシル基、16−メチルヘプタデシル基または2−(1,3,3−トリメチル−n−ブチル)−5,7,7−トリメチル−n−オクチル基であるものが代表的なものである。
【0026】
同様に、上述のように好ましい作用のあるアスコルビン酸誘導体の塩とするためには、L−アスコルビン酸−2−リン酸エステルのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩またはカルシウム塩などの無機塩もしくはL−アルギニン、L−リジン、グアニン、塩基性有機アミン類などからなる有機塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
この発明は、リン酸エステル部が分岐したアルキル基を有するL−アスコルビン酸−2−リン酸エステルまたはその塩からなるアスコルビン酸誘導体の1種以上を有効成分として含有する神経障害性疼痛抑制薬としたので、生体中のT型Ca2+チャネルのうちCav3.2に対する特異的な阻害効果を充分に発現することができ、神経障害性疼痛の抑制作用を有する新規な神経障害性疼痛抑制薬となる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の疼痛抑制効果を示し、侵害受容閾値(%)と塗布後経過時間(分)との関係を示す図表(a)、同図表における時間閾値曲線下面積を示す図表(b)
【図2】比較例1の疼痛抑制効果を示し、侵害受容閾値(%)と塗布後経過時間(分)との関係を示す図表(a)、同図表における時間閾値曲線下面積を示す図表(b)
【図3】比較例2の疼痛抑制効果を示し、侵害受容閾値(%)と塗布後経過時間(分)との関係を示す図表(a)、同図表における時間閾値曲線下面積を示す図表(b)
【図4】比較例3の疼痛抑制効果を示し、侵害受容閾値(%)と塗布後経過時間(分)との関係を示す図表(a)、同図表における時間閾値曲線下面積を示す図表(b)
【図5】実施例2、3の疼痛抑制効果を示し、侵害受容閾値(%)と塗布後経過時間(分)との関係を示す図表(a)、同図表における時間閾値曲線下面積を示す図表(b)
【図6】比較例4、5の疼痛抑制効果を示し、侵害受容閾値(%)と塗布後経過時間(分)との関係を示す図表(a)、同図表における時間閾値曲線下面積を示す図表(b)
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明に用いる、前記化1の式で示されるL−アスコルビン酸−2−リン酸エステル、すなわち2−(分枝型アルキル)−L−アスコルビルホスフェートは、大略以下の方法で製造でき、その詳細は特許文献3にも記載されている通りである。
【0030】
先ず、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどから選ばれる非極性溶媒を用いて、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリンなどから選ばれる塩基の存在下で、分枝型アルカノールとオキシ塩化リンを−20〜20℃において反応させて、モノアルキルジクロロホスフェートもしくはジアルキルモノクロロホスフェートを製造する。取り出しについては蒸留により単離するか、または上記の非極性溶媒の溶液として次工程へ進んでも良い。
【0031】
そして、別途、L−アスコルビン酸とアセトンを反応させて得た5,6−O−イソプロピリデン−L−アスコルビン酸と、前記した工程で得たモノアルキルジクロロホスフェートもしくはジアルキルモノクロロホスフェートを反応させ、この反応物を酸で加水分解し、定法により精製することで前記の化1の式で示されるL−アスコルビン酸−2−リン酸エステルを製造できる。
【0032】
L−アスコルビン酸−2−リン酸エステルの具体的な化合物例としては、以下の通りであり、2−(2−メチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−エチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−プロピルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ブチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ペンチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ヘキシルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ヘプチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−オクチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ノニルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−メチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−エチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−プロピルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ブチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ペンチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ヘキシルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ヘプチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−オクチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ノニルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−デシルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−メチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−エチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−プロピルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ブチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ペンチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ヘキシルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ヘプチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−オクチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ノニルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−デシルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−ウンデシルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(2−イソヘプチルイソウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−(16−メチルヘプタデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−メチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−エチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−プロピルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ブチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ペンチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ヘキシルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ヘプチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−オクチルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ノニルデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−メチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−エチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−プロピルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ブチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ペンチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ヘキシルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ヘプチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−オクチルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ノニルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−デシルウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−メチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−エチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−プロピルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ブチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ペンチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ヘキシルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ヘプチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−オクチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ノニルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−デシルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−ウンデシルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(2−イソヘプチルイソウンデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス(16−メチルヘプタデシル)−L−アスコルビルホスフェート、2−ビス[2−(1,3,3−トリメチル−n−ブチル)−5,7,7−トリメチル−n−オクチル]−L−アスコルビルホスフェートなどが挙げられる。
【0033】
上記化合物は、2位で分枝したアルキル基を有するが、例えば2−[2−(1,3,3−トリメチル−n−ブチル)−5,7,7−トリメチル−n−オクチル]−L−アスコルビルホスフェートなどのように上記以外の位置で分枝したアルキル基も含むものであってもよい。
【0034】
この発明のアスコルビン酸誘導体は、いずれも後に説明するように神経障害性疼痛抑制作用を有するものであるが、アスコルビン酸誘導体の塩も使用可能であり、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルギニン等の塩基性アミノ酸、トリエタノールアミン等の有機アミンなどを用いることができる。
【0035】
この発明に用いるアスコルビン酸誘導体は、生体中のCav3.2T型Ca2+チャネルを特異的に阻害することに由来する神経障害性疼痛抑制薬に有効成分として含有される。そのような製剤例としては、皮膚外用剤やハップ剤が挙げられる。
【0036】
この発明に用いるアスコルビン酸誘導体の有効投与量は、選択される化合物の相対的効力、治療される障害の重症度および罹患者の体重に応じて異なるが、敢えて効果を発現する投与量例として、10nmol/paw以上であることが好ましい。また後述する実施例で採用した20〜60nmol/pawを有効投与量例として挙げられる他、10〜2000nmol/pawなども好ましい有効投与量例として採用できる。
また、上記数値から換算すれば、この発明に係るアスコルビン酸誘導体の有効投与(塗布)量は、成人(約60kg)に対し有効濃度として0.1〜20重量%程度を含有する外用剤とし、これを症状に応じて適宜な回数だけ塗布して用いることができ、例えば1日に1〜10回、通常5〜6回(数回)程度の投与回数は好ましい。
【0037】
また、この発明に係る神経障害性疼痛抑制薬は、一般的なアスコルビン酸を用いた医薬と同程度に安全性の高いものであり、以下に説明するような任意の製剤形態を採用可能であると共に、一般的な医薬品組成物と同様に有効成分と共に少なくとも1種以上の補助材料もしくは添加剤またはそれらを併用して添加することもできる。
【0038】
すなわち、この発明の外用剤組成物の剤型は、需要者の要望や目的に応じて変更すればよく、例えばクリーム状、乳液状、液状、ゲル状、軟膏状、パック状、スティック状、パウダー状等の外用剤の形態を選択的に採用することができる。
【0039】
この発明の外用剤組成物は前記の有効成分の他に、通常の医薬部外品、医薬品等に用いられる各種成分、例えば油性成分、乳化剤、保湿剤、増粘剤、薬効成分、防腐剤、顔料、粉体、pH調整剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、香料等を適宜配合することができる。
【0040】
補助材料または添加剤は、担体、賦形剤、支持材料、滑剤、充填剤、溶媒、希釈剤、着色剤、砂糖などの味覚調整剤、酸化防止剤、および結合剤から選択し、一種以上を用いることができる。
なお、この発明に係る神経障害性疼痛抑制薬は、皮膚外用に向けたものであり、特にクリーム製剤または液状の形をとることが好ましい。
【0041】
このような製剤形態で用いられる神経障害性疼痛抑制薬は、皮膚に浸透して生体内に広く分布するフォスファターゼによって速やかにL−アスコルビン酸及びアシルリン酸化合物などに分解され、L−アスコルビン酸本来の優れたCav3.2T型Ca2+チャネル阻害活性効果を有するものである。
【実施例】
【0042】
[実施例1〜3および比較例1〜5]
有効成分として用いる薬剤として、両親媒性アスコルビン酸(2−[2−(1,3,3−トリメチル−n−ブチル)−5,7,7−トリメチル−n−オクチル]−L−アスコルビルホスフェート)(HBCサイエンス社製:disodium isostearyl 2−0−1−ascorbyl phosphate)(以下、DI−VCPと略称する。)、硫化水素ナトリウム(キシダ化学社製:NaHS)またはアスコルビン酸(Sigma Ltd. St Louis, MO, USA)を使用して以下の製剤を行なった。
【0043】
すなわち、DI−VCP配合の軟膏またはアスコルビン酸配合の軟膏を以下の手順で作製した。
5%(w/w)セタノール(キシダ化学社製)含有ソルベース(明治薬品社製)1g当り、0.8または2.4mM DI−VCP水溶液100μLを加えて軟膏とした。同様に2.4mMアスコルビン酸水溶液を用いた軟膏剤も作製した。
【0044】
得られたDI−VCP配合の軟膏(以下、DI−VCP軟膏と称する。)250mg/paw(20または60nmol/paw)またはアスコルビン酸配合の軟膏(以下、アスコルビン酸軟膏と称する。)を250mg/paw(60nmol/paw)それぞれ実験動物として採用したラットの片側後肢に塗布し、以下の機械的侵害受容閾値の測定実験、およびパクリタキセル誘起神経障害性疼痛モデル実験を行ない、結果を図1〜6に示した。
【0045】
上記実験動物としてのラットは、雄性Wistar系ラット(日本 SLC, 浜松)を使用し、固形飼料(MFオリエンタル酵母工業社製)および水道水を自由に摂取させ、約24℃で12時間の明暗サイクルに保持された部屋で飼育したものを使用した。
【0046】
[機械的侵害受容閾値の測定実験]
機械的侵害受容閾値の測定は、Randall-Selitto法により行った。圧刺激鎮痛効果測定装置(MK-300, 室町機械, 東京)を使用し、ラットの右後肢に30g/sで機械的圧刺激を与え、もがき反応もしくは鳴き声を指標として機械的侵害受容閾値を測定した。また、後肢の損傷を防ぐため、加える圧刺激は500gを限度とした。得られた結果は薬物投与前またはパクリタキセル投与開始前の機械的侵害受容閾値を100%とし、以下の数式により算出した値で示した。
機械的侵害受容閾値AIC(% baseline)={得られた閾値/(NaHS投与前またはパクリタキセル投与開始前の閾値)}×100
【0047】
[パクリタキセル誘起神経障害性疼痛モデルの作成]
パクリタキセル(以下、PTXと略記する。)誘起神経障害性疼痛モデルの作製はPolomanoら(PolomanoらPain 2001;94:293-304)の方法に従って行った。パクリタキセル投与前にベースライン閾値を測定後、パクリタキセル注射液(ブリストル・マイヤーズ社製)6mg/mLを生理食塩水で3倍希釈し、2mg/kgの用量で投与初日を0日目とし、続いて2、4および6日目の、計4回ラットに腹腔内投与した(合計8mg/kg)。各投与前および10、14日目にも痛覚閾値を測定して経過観察を行い、14日目以降に痛覚閾値の低下を確認した後、以降の実験に使用した。コントロール群にはパクリタキセル注射液の溶媒 (Cremophor EL (polyethoxylated castor oil)/ethanol; 50/50%)を3倍希釈して同様のスケジュールで投与した。
【0048】
[投与方法]
NaHS誘起神経障害性疼痛実験では、DI−VCP軟膏またはアスコルビン酸軟膏を60nmol/pawの用量で塗布し、その90分後にNaHSを1nmol/paw (10μM溶液,100 μL/paw)の用量でラットの足底皮下へ投与した。
【0049】
パクリタキセル誘起神経障害性疼痛モデルラット実験では、DI−VCP軟膏またはアスコルビン酸軟膏を20または60nmol/pawの用量でラットの片側後肢に塗布した。
【0050】
図1〜6に示される結果を要約すると以下の通りである。
[実施例1および比較例1について]
図1、2は、NaHS足底皮下投与により誘起される痛覚過敏に対するアスコルビン酸軟膏およびDI−VCP軟膏塗布の効果を示している。NaHS1nmol/pawおよび生理食塩水は投与容量100μL/pawで足底皮下投与した。disodium isostearyl 2-O-l-ascorbyl phosphate(DI−VCP)含有軟膏またはアスコルビン酸含有軟膏は、60nmol/pawの用量でNaHS投与90分前にラット右後肢表面に塗布した(塗布量250mg/paw)。図中の各折れ線は6−8例の平均値±標準誤差を示し、*および**は生理食塩水含有軟膏塗布後に生理食塩水足底内投与群に対する有意差を示す(P<0.05,P<0.01,Tukey法)。##は生理食塩水含有軟膏塗布後にNaHS投与群に対する有意差を示す(P<0.01,Tukey法)。
【0051】
DI−VCP軟膏を60nmol/pawの用量でラット片側後肢に塗布したところ、NaHS足底皮下投与による痛覚過敏が阻止された(図1)。一方、アスコルビン酸軟膏を60nmol/pawの用量になるように、ラットの片側後肢に塗布したところ、NaHS足底皮下投与による痛覚過敏は影響を受けなかった(図2)。
【0052】
[比較例2および比較例3について]
図3、4は、パクリタキセル誘起神経障害性疼痛に対するアスコルビン酸軟膏塗布の影響を示している。パクリタキセルは、投与初日を0日目として、その後2、4および6日目に2mg/kgの用量で腹腔内投与した。パクリタキセル投与14日後以降のラットに対し、アスコルビン酸含有軟膏を60nmol/pawの用量でラット右後肢表面に塗布した(塗布量250mg/paw)。図中の各折れ線は5−7例の平均値±標準誤差を示し、*および**はコントロールにおける生理食塩水含有軟膏塗布群に対する有意差を示す(P<0.05, P<0.01,Tukey法)。
アスコルビン酸軟膏を60nmol/pawの用量になるように、パクリタキセル処置ラットの片側後肢に塗布したところ、処置側(図3)、反対側(図4)ともに痛覚閾値に影響は認められなかった。
【0053】
[実施例2、3および比較例4、5について]
図5、6は、パクリタキセル誘起神経障害性疼痛に対するDI−VCP軟膏塗布の効果を示している。パクリタキセルは、投与初日を0日目として、その後2、4および6日目に2mg/kgの用量で腹腔内投与した。パクリタキセル投与14日後以降のラットに対し、アスコルビン酸含有軟膏を60nmol/pawの用量でラット右後肢表面に塗布した(塗布量250mg/paw)。図中の各折れ線は5−7例の平均値±標準誤差を示し、*および**はコントロールにおける生理食塩水含有軟膏塗布群に対する有意差を示し、#および##はパクリタキセル投与群の生理食塩水塗布群に対する有意差を示す(P<0.05,P<0.01,Tukey法)。
【0054】
DI−VCP軟膏を20nmol/paw(実施例2)および60nmol/paw(実施例3)の用量になるよう、ラット片側後肢に塗布したところ、処置側では用量依存的に痛覚閾値の上昇が認められ、特に60nmol/pawでは塗布後80分から有意な鎮痛効果が認められた。この鎮痛効果は4時間以上の長時間にわたって持続し、24時間後には消失していた(図5)。一方、塗布反対側の痛覚閾値への影響は見られなかった(図6)。
【0055】
以上の結果から総合すれば、従来のCav3.2T型Ca2+チャネルを選択的に阻害するアスコルビン酸は軟膏として局所塗布しても無効であったのに対し、Cav3.2を活性化するNaHSの足底皮下投与により誘起される痛覚過敏を抑制し、さらに、抗癌剤(パクリタキセル)により誘起される神経障害性疼痛を長時間抑制した。
【0056】
T型Ca2+チャネルは、癌化学療法に伴う神経障害性疼痛に限らず、外科的手法により作成される神経障害性疼痛や糖尿病性ニューロパチーの病態にも関与することが報告されていることより、DI−VCPの局所塗布剤(軟膏等)は種々の原因によって発症する神経障害性疼痛の新たな治療薬として臨床的に応用できるものと考えられた。
【0057】
従って、この発明に係るアスコルビン酸誘導体含有の神経障害性疼痛抑制薬は、皮膚に浸透して生体内に広く分布するフォスファターゼによって速やかにL−アスコルビン酸及びアシルリン酸化合物などに分解され、L−アスコルビン酸本来の優れたCav3.2T型Ca2+チャネル阻害活性効果を有することが確認された。
【0058】
この発明に用いる所定のアスコルビン酸誘導体を有効成分とする実施例である神経障害性疼痛抑制薬の代表的な処方例を以下に示す。各行右端の数値は配合割合(重量%)である。
[処方例1](外用軟膏)
2−[2−(1,3,3−トリメチル−n−ブチル)−5,7,7−トリメチル−n−オクチル]−L−アスコルビルホスフェート(DI−VCP) 2.0
ワセリン 25.0
ステアルルアルコール 20.0
プロピレングリコール 12.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 4.0
モノステアリン酸グリセリン 1.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
パラオキシ安息香酸プロピル 適量
精製水 残余
【0059】
[処方例2](ゲル状薬剤)
2−ビス(2オクチルドデシル)−L−アスコルビルホスフェート 5.0
グリセリン 15.0
エタノール 5.0
カルボキシビニルポリマー 1.5
水酸化ナトリウム 0.2
防腐剤 適量
製水 残余
【0060】
[処方例3](液状薬剤)
2−(2−ヘキシルデシル)−L−アスコルビルホスフェート 5.0
グリセリン 10.0
プロピレングリコール 5.0
防腐剤 適量
精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化1の式で表わされ、リン酸エステル部が分岐したアルキル基を有するL−アスコルビン酸−2−リン酸エステルまたはその塩からなるアスコルビン酸誘導体の1種以上を有効成分として含有する神経障害性疼痛抑制薬。
【化1】

(式中、R1、Rは、水素(H)または分枝を有する炭素数3〜30のアルキル基を表わす。ただし、R=R=水素(H)である場合を除く。)
【請求項2】
化1の式中のR1またはRが、2位で分岐した炭素数4〜30のアルキル基である請求項1に記載の神経障害性疼痛抑制薬。
【請求項3】
分枝したアルキル基が、2−ヘプチルウンデシル基、2−オクチルデシル基、2−オクチルドデシル基、2−ヘキシルデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−イソヘプチルイソウンデシル基、16−メチルヘプタデシル基または2−(1,3,3−トリメチル−n−ブチル)−5,7,7−トリメチル−n−オクチル基である請求項1に記載の神経障害性疼痛抑制薬。
【請求項4】
塩が、L−アスコルビン酸−2−リン酸エステルのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩もしくはカルシウム塩からなる無機塩である請求項1〜3のいずれかに記載の神経障害性疼痛抑制薬。
【請求項5】
塩が、L−アルギニン、L−リジン、グアニンもしくは塩基性有機アミン類からなる有機塩である請求項1〜3のいずれかに記載の神経障害性疼痛抑制薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−168549(P2011−168549A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34766(P2010−34766)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(510046963)株式会社HBCサイエンス研究所 (1)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】