説明

移動体用温度計

【課題】移動(走行)している被測温体、特に小径の導電線の表面温度を正確に測定することができる移動体用温度計を提供する。
【解決手段】回転部10の円盤11の外周面13に、熱電対を構成する第1金属線1および第2金属線2が軸心に対して傾けて配置され、これに接触した被測温体によって発生した熱起電力が電気信号に変換され発光ダイオード31から発せられ、これを固定部20に設置されたフォトダイオード32に非接触で受け渡す。また、固定部20に設置された固定側コイル42に高周波電流を印加することによって、これに対向して配置された回転側コイル41に電力が非接触で供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動体用温度計、特に、走行ないし回転する金属体(たとえば、金属線)の表面温度を測定する移動体用温度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、走行ないし回転する金属等の導電体の表面温度を測定する移動体用温度計として、それぞれすべり軸受によって回転自在に支持された一対の導電性回転ローラを絶縁体を挟んで一体化し、それぞれの外周面に熱電対用の異種金属をそれぞれ巻着し、回転ローラの外周面を、移動(回転)している被測温体に接触させることによって異種金属に発生した熱起電力を、すべり軸受を介して電子式自動平衡計測器に入力するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、熱電対を形成する一対の異種金属線を僅かに離してX字状に張設し、一対の異種金属線を跨ぐように半田こての先端を接触させ、こて先温度を測定する温度計が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、移動するシート状の被測温体に摺動する接触板と、接触板を被測温体に押し当てる環状弾性部材と、接触板と環状弾性部材とに挟まれた熱電対と、を有する接触式温度計が開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−72021号公報(第3−4頁、第2図)
【特許文献2】特開平10−144452号公報(第4−5頁、第2図)
【特許文献3】特開平10−318854号公報(第4−5頁、第5図)
【特許文献4】特開2003−83817号公報(第4−6頁、第7図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(あ)しかしながら、特許文献1に開示された発明は、特に、移動(走行)している小径の金属線の表面温度を測定することが困難であるという問題があった。すなわち、小径の金属線の表面温度を測定するには、一対の異種金属を隔てる絶縁体の厚さを金属線の直径よりも小さくして、一対の異種金属を近接させる必要がある。このため、移動する金属線を正確な位置に案内することが困難であったり、近接した異種金属(導電性回転ローラに同じ)同士の間に金属粉が付着して短絡故障が発生したりしていた。
(い)また、断続的に温度測定をする場合あるいは断続的な温度測定になる場合、温度測定していない時にノイズが乗り易く、測温精度が悪化していた。特に、頻繁にオープンになるような使用方法では温度が正しく測定できなかった。
【0005】
(う)また、導電性の回転ローラは金属等の導電材によって形成され、比較的重いため、異種金属と移動する被測温材との間の摺動によって、被測温物に無視できない摩擦熱が発生して、測定誤差が生じていた。
(え)また、導電性の回転ローラは熱容量が大きいため、被測温物(たとえば、小径の金属線)の温熱が奪われ、測温精度が悪化していた(測定誤差が生まれていた)。
(お)また、異種金属に生じた熱起電力が、回転ローラの回転軸の外周と、すべり軸受の内周との接触によって伝達されるため、不安定な接触によって熱起電力が正確に伝達されないおそれがあった。そこで、接触を確実にするため、刷子を回転軸に押し付けたのでは(スリップリング構造を採用したのでは)、回転ローラの回転抵抗(摩擦)が増し、結果として、異種金属と移動する被測温材との間の摺動が増し、被測温物に余計な力が作用したり、異種金属または被測温材から摩耗粉が生じる一因になっていた。
【0006】
(か)一方、特許文献2に開示された発明は、一対の異種金属線が固定されたものであるため、これを、走行する被測温物の測温に使用することが困難であった。すなわち、 一対の異種金属線と走行する被測温物との摺動によって異種金属線が摩耗し、やがて破断したり、摩擦熱によって測定精度が悪化したりする。
(き)また、特に、移動(走行)している小径の金属線の表面温度を測定するには、X字状に張設された一対の異種金属線を金属線によって短絡させる必要があるものの、このような位置に、金属線を正確に案内することが困難であった。
【0007】
(く)さらに、特許文献3または4に開示された発明は、何れも、被測温体に接触板が押し当てられて摺動するため、被測温体が摩耗(摩耗粉の発生)や破断したり、摩擦熱によって測定精度が悪化したりする。また、接触板の耐久性が劣っていた。
さらに、接触板の一方の面(摺動面)に被測温体が摺動し、これと反対の面(測定面)に熱電対が接触する構造であるため、シート状の被測温体を測温する場合には、摺動面の全面が被測温体から熱を受けるものの、細い線状(小径)の被測温体を測温する場合には、摺動面の極一部分が被測温体から熱を受けることになる。このため、細い線状の被測温体の摺動位置と熱電対との距離が変動すると、測定精度が悪化する。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、第1の目的は、移動(走行)している被測温体、特に小径の導電線の表面温度を測定可能にすることにある。また、第2の目的は、被測温体の表面温度を正確に測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る移動体用温度計は、回転部と、該回転部を回転自在に支持する固定部と、を有するものであって、
前記回転部が、絶縁体によって形成された円盤と、熱電対を構成する第1金属線および第2金属線と、を有し、
前記第1金属線および第2金属線のそれぞれの一部が、前記円盤の軸心に対して傾斜した方向で前記円盤の外周面に並んで配置されたことを特徴とする。
【0010】
(2)また、前記第1金属線の一部が、前記円盤の一方の端面側から他方の端面側に向かうと共に、他方の端面側から一方の端面側に向かって、前記円盤の外周面にジグザグに配置され、
前記第2金属線の一部が、前記第1金属線の一部と並んで前記円盤の外周面にジグザグに配置されていることを特徴とする。
【0011】
(3)また、前記円盤の外周面に沿って一方の端面と他方の端面とを繋ぐ複数の貫通孔が設けられ、
前記第1金属線の一部が、前記円盤の一方の端面側から他方の端面側に向かって前記円盤の外周面に配置され、かつ、他方の端面側から一方の端面側に向かって前記貫通孔を通過し配置され、
前記第2金属線の一部が、前記円盤の一方の端面側から他方の端面側に向かって前記第1金属線の一部と並んで前記円盤の外周面に配置され、かつ、他方の端面側から一方の端面側に向かって前記貫通孔を通過して配置されていることを特徴とする。
【0012】
(4)また、前記第1金属線の先端と、前記第2金属線の先端とが短絡していることを特徴とする。
【0013】
(5)さらに、前記回転部の円盤部に、前記第1金属線および第2金属線に接続された測温回路と、該測温回路に接続された発信回路と、が搭載され、且つ、前記円盤の軸心に該発信回路に接続された発信手段が設置され、
前記固定部に、前記発信手段に対向して所定の間隔を空けて受信手段が設置され、
前記第1金属線および前記第2金属線に被測温体が接触した際、前記第1金属線および前記第2金属線に発生した熱起電力が、前記測温回路において測定され、該測定された熱起電力が前記発信回路によって発信信号に変換され、該発信信号が前記発信手段から前記受信手段に受け渡されることを特徴とする。
【0014】
(6)また、前記(4)において、前記回転部の円盤に、前記第1金属線および第2金属線に接続され、前記第1金属線および前記第2金属線に発生した熱起電力に基づいて、温度を測定する測温回路が搭載され、
前記第1金属線および前記第2金属線に被測温体が接触したときに前記測温回路が測定した温度がT、前記第1金属線および前記第2金属線に被測温体が接触していないときに前記測温回路が測定した温度がT1のとき、被測温体の温度T2が、
T2=(T・(λ2+λ1)−T1・λ1)/λ2
λ1は前記第1金属線の熱伝導率および第2金属線の熱伝導率の平均値
λ2は被測温体の熱伝導率
なる式によって補正されることを特徴とする。
【0015】
(7)また、前記(6)において、前記回転部の円盤の軸心に、前記測温回路に接続された発信手段が設置され、
前記固定部に、前記発信手段に対向して所定の間隔を空けて受信手段が設置され、
前記発信手段が前記受信手段に、前記測定された温度Tおよび温度T1、または前記補正された温度T2の、一方を送信することを特徴とする。
【0016】
(8)さらに、前記(1)〜(7)の何れかにおいて、前記固定部に、高周波発信回路と、該高周波発信回路に接続された固定側コイルと、が設置され、
前記回転部に、前記固定側コイルに対向して所定の間隔を空けて回転側コイルが設置され、
前記固定側コイルに高周波電流を印加することによって、前記回転側コイルに電力が非接触で供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
(i)本発明に係る移動体用温度計は、第1金属線および第2金属線(以下、両者をまとめて「金属線」と称する場合がある)のそれぞれの一部が、円盤の軸心に対して傾斜した方向で円盤の外周面に並んで配置されている。このため、移動する通電体である被測温体(導電線等)が円盤に当接すると、円盤は回転し、且つ、第1金属線および第2金属線に同時に接触する被測温体によって、第1金属線と第2金属線とは短絡するから、被測温体の幅(導電線の直径)がどんなに狭い(細い)場合であっても、その表面温度を測定することができる。
このとき、第1金属線と第2金属線との距離を被測温体の幅(導電線の直径)よりも狭くする必要がないから、仮に、金属粉等が発生しても、短絡故障が発生することがない。
また、第1金属線および第2金属線を円盤の外周面に、一方の端面から他方の端面にかけて広い範囲に配置することができるから、かかる広い範囲で測定することができるため、移動する被測温体の案内が容易になる(円盤の両端面に沿ってフランジを設けるだけ、たとえば、円盤を谷底を平坦にしたV溝プーリー状にするだけでよくなる)。
さらに、円盤は絶縁体によって形成され、これを形成する材料が限定されるものではないから、軽量化や小熱容量化を図ることができるため、容易に回転し、金属線と被測温体との摺動が軽度になる。このため、金属線を細くすることができるから、熱容量の減少、摩擦熱の減少、摩耗や金属粉の発生の抑制によって、測定精度が向上すると共に、設備の耐久性が向上する。
【0018】
(ii)また、第1金属線の一部と第2金属線の一部とが並んで、円盤の外周面にジグザグに配置されるため、移動する通電体である被測温体(導電線等)が円盤(正確には、第1金属線の一部および第2金属線の一部)に当接すると、円盤は回転し、被測温体の表面温度が円盤の1回転中に複数回測定される。すなわち、被測温体(導電線等)の長手方向の温度分布をより頻繁に(狭い測定間隔で)測定することができる。
【0019】
(iii)また、第1金属線および第2金属線が、貫通孔を通過して円盤の外周面に「かがり縫い状」に配置されるため、容易かつ正確に配置することができる。また、第1金属線の一部とこれに隣接した第1金属線の一部との距離を近づけることが容易になるから、金属線の短絡(熱電対の形成)を確実にすると共に、円盤の1回転中の測定回数を増すことができる。
【0020】
(iv)また、第1金属線の先端と第2金属線の先端とが短絡しているから、被測温体による短絡が断続的に発生する場合であっても、ノイズが乗ることがなく、測定精度が悪化することがない。
【0021】
(v)さらに、金属線に発生した熱起電力の値が、発信信号となって回転部から固定部に非接触(たとえば、スリップリングを介さないで)に伝達されるから、伝達による回転抵抗(摩擦)が発生しない。したがって、金属線と被測温体との摺動がさらに軽度になるから、金属線を細くすることができる。このため、金属線の熱容量が小さくなると共に、摩擦熱の発生、摩耗や金属粉の発生が最少に抑えられ、測定精度がさらに向上すると共に、設備の耐久性がさらに向上する。
【0022】
(vi)また、被測温体の温度T2が、次式(以下、「式1」と称す)によって補正される。
T2=(T・(λ2+λ1)−T1・λ1)/λ2 ・・・・式1
T :金属線に被測温体が接触したときに測温回路が測定した温度
T1:金属線に被測温体が接触していないときに(両者の先端が短絡している)測温回路が測定した温度
λ1:前記第1金属線の熱伝導率および第2金属線の熱伝導率の平均値
λ2:被測温体の熱伝導率
したがって、金属線と被測温体との接触時間が短く、金属線の温度が、被測温体の表面温度に到達する前に両者が離れる場合であっても、被測温体の表面温度をより正確に知ることができる。
【0023】
(vii)また、回転部に発信手段が設置され、前記固定部に受信手段が設置され、測定された温度Tおよび温度T1、または補正された温度T2の、一方が、回転部から固定部に非接触(たとえば、スリップリングを介さないで)に伝達されるから、前記(v)と同様の効果が得られる。
なお、測定された温度Tおよび温度T1に替えて、金属線に被測温体が接触したときに発生した熱起電力、および金属線に被測温体が接触していないときに発生した熱起電力を、それぞれ発信信号として固定部に送信(被接触で伝達)し、固定部において、受信した発信信号から式1に基づいて、被測温体の温度T2を補正してもよい。
【0024】
(viii)さらに、固定側コイルに高周波電流を印加することによって、これに対向して配置された回転側コイルに電力が非接触で供給されるから、電力供給による回転抵抗(摩擦)が発生しない。したがって、金属線と被測温体との摺動がさらに軽度になるから、金属線を細くすることができるため、金属線線の熱容量が小さくなると共に、摩擦熱の発生、摩耗や金属粉の発生が最少に抑えられ、測定精度がさらに向上して、設備の耐久性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1に係る移動体用温度計を説明する外観を示す正面図。
【図2】図1に示す移動体用温度計の正面視の断面図。
【図3】図1に示す移動体用温度計の電気的な構成を示す回路図。
【図4】図1に示す移動体用温度計の部分(金属線の配置)を示す一部断面の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態1]
(移動体用温度計)
図1〜図4は本発明の実施の形態1に係る移動体用温度計を説明するものであって、図1は外観を示す正面図、図2は正面視の断面図、図3は電気的な構成を示す回路図、図4は部分(金属線の配置)を示す一部断面の正面図である。なお、各図は模式的に描いたものであって、本発明は図示された形態に限定するものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
図1および図2において、移動体用温度計100は、回転部(測定部に同じ)10と、回転部10を回転自在に支持する固定部20と、を有している。
【0027】
(回転部)
回転部10は、絶縁体(合成樹脂)によって形成された円盤11と、熱電対を構成する第1金属線1(クロメルの細線)および第2金属線2(アルメルの細線)と、を有し、第1金属線1および第2金属線2のそれぞれの一部が、円盤11の軸心12に対して傾斜した方向で円盤11の外周面13に並んで配置されている(配置形態については別途詳細に説明する)。このとき、第1金属線1の先端と第2金属線2の先端とは短絡している。
また、円盤11の外周面13には、端面14a、14bに沿って、断面略三角形の環状フランジ15a、15bが設置され、谷底が平坦なV字状プーリーの形態を呈している。
そして、軸心12には、中心孔17が形成された中空の回転軸16が設けられ、回転軸16の内部に、発光ダイオード(送信手段に相当する)31が設置されている。
また、円盤11の一方の端面14aには、回転側コイル41が設置されている。
【0028】
(固定部)
固定部20は、温度表示部22が形成された固定部本体21と、固定側コイル42と、固定側コイル42が設置されるコイル設置部23と、を有する。また、回転軸16を回転自在に支持する軸受26がコイル設置部23に設置されている。そして、軸受26によって支持された回転軸16の端面に対向して、フォトダイオード(受信手段に相当する)32が固定部本体21に設置されている。
このとき、回転部10に設置された回転側コイル41と、固定部20に設置された固定側コイル42とは、所定の間隔を空けて対向している。また、回転部10に設置された発光ダイオード31と、固定部20に設置されたフォトダイオード32とは、中心孔17の両端で互いに向き合っている。
【0029】
(回路構成)
図3において、回転部10の円盤11の内部には、第1金属線1および第2金属線2に接続された冷接点補償回路(測温回路に相当する)3と、冷接点補償回路3に接続された電圧周波数変換回路(発信回路に相当する)4が配置され、電圧周波数変換回路4に発光ダイオード31が接続されている。また、回転側コイル41に接続された整流回路6が設けられている。
一方、固定部20には、フォトダイオード32が設置され、フォトダイオード32に表示制御部(図示しない)が接続され、該表示制御部に温度表示部22が接続されている。
また、固定部20には、高周波発生部(高周波発信回路に相当する)5に接続された固定側コイル42が設置されている。そして、固定側コイル42に所定の間隔を空けて回転側コイル41が配置されている。
【0030】
(測定要領)
固定側コイル42に高周波(たとえば、2MHz)を印加すると、これによって形成される電磁場内に配置された回転側コイル41に誘導起電力が発生し、これを整流回路6において整流することによって、固定部20から回転部10に非接触で電力が供給される。
そして、移動している非測温体(図示しない)に回転部10の円盤11の外周面13を押し当てると、被測温体は、第1金属線1と第2金属線2とに同時に接触するから、第1金属線1と第2金属線2とは短絡して熱電対が形成される。
そうすると、該熱電対に発生した熱起電力は、測温回路3において測定される。このとき、被測温体の温度T2が、次式(以下、「式1」と称す)によって補正される。
T2=(T・(λ2+λ1)−T1・λ1)/λ2 ・・・・式1
T :金属線に被測温体が接触したときに測温回路が測定した温度
T1:金属線に被測温体が接触していないときに(両者の先端が短絡している)測温回路が測定した温度
λ1:前記第1金属線の熱伝導率および第2金属線の熱伝導率の平均値
λ2:被測温体の熱伝導率
【0031】
そして、補正された被測温体の温度T2が発信回路4によって発信信号(電気信号に同じ)に変換され、発信信号が発光ダイオード31から、固定部20のフォトダイオード32に非接触で受け渡され、被測温体の表面温度として温度表示部22に表示される。
したがって、金属線と被測温体との接触時間が短く、金属線の温度が、被測温体の表面温度に到達する前に両者が離れる場合であっても、被測温体の表面温度をより正確に知ることができる。
なお、以上は、測温回路3(回転部10)において、式1に基づく補正をしているが、本発明はこれに限定するものではなく、回転部10において測定された温度T、T1(あるいは熱起電力の値)を発信信号にして固定部20に送信し、固定部20において式1に基づく補正をしてもよい。
【0032】
移動体用温度計100は、以上であるから、被測温体の幅(導電線の直径)がどんなに狭い(細い)場合であっても、その表面温度を測定することができる。
このとき、第1金属線1と第2金属線2との距離を被測温体の幅(導電線の直径)よりも狭くする必要がないから、金属粉等が発生しても短絡故障が発生することがない。
また、円盤11の外周面13の広い範囲で測定することができるため、移動する被測温体を簡単な構成によって容易に案内することができる。さらに、円盤11の軽量化や小熱容量化を図ることができるから、容易に回転する。したがって、第1金属線1および第2金属線2と被測温体との摺動が軽度になり、摩擦熱の発生、摩耗や金属粉の発生が最少に抑えられ、測定精度が向上すると共に、設備の耐久性が向上する。
【0033】
また、第1金属線1の先端と第2金属線2の先端とが短絡しているから、被測温体による短絡が断続的に発生する場合であっても、ノイズが乗ることがなく、測定精度が悪化しない。なお、ノイズが低減あるいは相殺される場合には、先端における短絡を省略してもよい。
また、以上は、クロメル/アルメルによる熱電対を示しているが、本発明はこれに限定するものではなく、たとえば、白金/ロジウムによる熱電対であってもよい。
【0034】
さらに、回転部10において測定した温度を、そのまま固定部20に受け渡すのではなく、発信信号(電気信号)にした後、非接触で固定部20に受け渡し、また、電力も非接触で固定部20から回転部10に供給しているから、回転部10の回転抵抗を最少に抑えることができる。したがって、第1金属線1および第2金属線2と被測温体との摺動が軽度になる。このため、第1金属線1および第2金属線2を細くして熱容量を小さくしたり、摩擦熱の発生、摩耗や金属粉の発生が最少に抑えられ、測定精度がさらに向上したり、設備の耐久性がさらに向上したりする。
なお、本発明は発信信号を電気信号に限定するものではなく、光、電磁波、磁気、音、静電容量等、を利用した通知を用いることができる。このとき、発信手段31や受信手段32は、それぞれに応じたものになる。
また、本発明は電力の非接触供給手段を、前記電磁的な手段に限定するものではなく、例えば、固定部20から光や音波(超音波)を回転部20に照射し、これを回転部10において受け止め、電力に変換するようにしてもよい。
【0035】
(第1金属線および第2金属線の配置形態)
図4の(a)は、図1に示す第1金属線1および第2金属線2の配置形態を模式的に説明するものであって、両者は、軸心に対して傾斜し互いに並行に配置されている。このとき、円盤11には、外周面13に沿って、一方の端面14aと他方の端面14bとを連通する貫通孔(点線にて示す)が複数箇所に設けられている。
そして、第1金属線1の一部は、貫通孔(点線にて示す)を通過して一方の端面14a(図中、「イ」にて示す)に進出し、他方の端面14b(図中、「ロ」にて示す)に向かって外周面13に設置される。さらに、他方の端面14bから一方の端面14aに向かう貫通孔(点線にて示す)に侵入し、該貫通孔の一方の端面14a(図中、「ハ」にて示す)に進出する。以降同様に、他方の端面14b(図中、「ニ」にて示す)に向かって外周面13に設置され、第1金属線1の一部は、外周面13にジグザクに設置されている。
また、第2金属線2の一部も、同様に、外周面13にジグザクに設置されている。
したがって、貫通孔を所定の間隔で設けておけば、第1金属線1および第2金属線2は、正確な位置に、容易に配置することができる。
【0036】
なお、円盤11と環状フランジ15a、15bとを一体構造にし、外周面13に沿って外周面13よりも内側に形成された貫通孔に追加して、環状フランジ15a、15bに外周面13に接する貫通孔を形成してもよい。このとき、外周面13に設置された範囲(図4の(a)において、「イ−ロ」の範囲、「ハ−ニ」の範囲)の両端が貫通孔によって拘束されることになる。
【0037】
図4の(b)は、第1金属線1および第2金属線2のその他の配置形態を模式的に説明するものであって、第1金属線1および第2金属線2は互いに並行であって、何れも一方の端面14aおよび他方の端面14bに接した状態で略U字状に折り曲げられている(図4の(b)において、理解を容易にするため、第1金属線1および第2金属線2は折り曲げ部を端面14a、14bから離して描いている)。したがって、円盤11に貫通孔を形成する必要がない。
なお、円盤11と環状フランジ15a、15bとを一体構造にし、環状フランジ15a、15bに外周面13に接する貫通孔を形成して、外周面13に設置された範囲の両端が貫通孔によって拘束されるようにしてもよい。
【0038】
図4の(c)は、第1金属線1および第2金属線2のその他の配置形態を模式的に説明するものであって、第1金属線1および第2金属線2は互いに並行であって、何れも外周面13に接した状態で略V字状に折り曲げられている。このとき、折り曲げ部は環状フランジ15a、15bによって覆われるから、被測温体が折り曲げ部に接触することはない。
したがって、円盤11に貫通孔を形成する必要がなく、第1金属線1および第2金属線2の折り曲げが簡素になる。
【0039】
以上説明した第1金属線1および第2金属線2の配置形態は、それぞれ1本の第1金属線1および第2金属線2が、外周面13の全周にジグザクに配置されたものであるが、本発明はこれに限定するものではない。たとえば、ジグザグに配置しないで、外周面13を横切って1箇所に並行に配置してもよい。このとき、円盤11が1回転する毎に、1回だけ測定されることになる。
また、冷接点補償回路3を複数にして、それぞれに第1金属線1および第2金属線2を接続するようにしてもよい。たとえば、図3の(b)に示すように、冷接点補償回路3aおよび冷接点補償回路3bを設け、前者に第1金属線1aおよび第2金属線2aを、後者に第1金属線1bおよび第2金属線2bを、それぞれ接続する。
そして、外周面13を横切って円盤11の外周面13に第1金属線1aおよび第2金属線2aを並行に配置し、これの対角位置に、第1金属線1bおよび第2金属線2bを並行に配置してもよい。このとき、円盤11が1回転する毎に、2回だけ測定されることになる。また、仮に、一方の熱電対が断線しても、他方の熱電対によって測定を継続することができる。なお、冷接点補償回路3を3以上に増やしてもよい。
【0040】
さらに、第1金属線1aおよび第2金属線2aをジグザクに外周面13の一方の半円範囲に配置し、同様に、第1金属線1bおよび第2金属線2bをジグザクに外周面13の他方の半円範囲に配置してもよい。このとき、円盤11が1回転する毎に、複数回にわたって測定されることになる。また、仮に、一方の熱電対(例えば、第1金属線1aまたは第2金属線2a)が断線しても、他方の熱電対によって測定を継続することができる。なお、冷接点補償回路3を3以上に増やしてもよい。
【0041】
さらに、本発明は、細い導電線の表面温度を測定するものに限定されないから、環状フランジ15a、15bを撤去して、幅の広い面材の表面温度を測定するようにしてもよい。
あるいは、停止した(回転や走行しない)被測温体に、円盤11の外周面13を押し当てて、被測温体上を転動させることによって測定してもよい。このとき、複数箇所の表面温度や広い範囲の表面温度分布を、容易に測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は以上であるから、各種形態(様々な外径の線材や面材)からなる移動する被測温体の表面温度を正確に測定することができる移動体用温度計単体として、あるいは、移動する被測温体の表面温度を正確に測定する要請がある各種装置(たとえば、余熱された電線に樹脂を連続的に被覆する装置(射出成形機)等に搭載される移動体用温度計として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1;第1金属線、2;第2金属線、3;冷接点補償回路(測温回路)、4;電圧周波数変換回路(発信回路)、5;高周波発生部(高周波発信回路)、6;整流回路、10;回転部、11;円盤、12;軸心、13;外周面、14a;端面、14b;端面、15a;環状フランジ、15b;環状フランジ、16;回転軸、17;中心孔、20;固定部、21;固定部本体、22;温度表示部、23;コイル設置部、26;軸受、31;発光ダイオード(発信手段)、32;フォトダイオード(受信手段)、41;回転側コイル、42;固定側コイル、100;移動体用温度計。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部と、該回転部を回転自在に支持する固定部と、を有する移動体用温度計であって、
前記回転部が、絶縁体によって形成された円盤と、熱電対を構成する第1金属線および第2金属線と、を有し、
前記第1金属線および第2金属線のそれぞれの一部が、前記円盤の軸心に対して傾斜した方向で前記円盤の外周面に並んで配置されたことを特徴とする移動体用温度計。
【請求項2】
前記第1金属線の一部が、前記円盤の一方の端面側から他方の端面側に向かうと共に、他方の端面側から一方の端面側に向かって、前記円盤の外周面にジグザグに配置され、
前記第2金属線の一部が、前記第1金属線の一部と並んで前記円盤の外周面にジグザグに配置されていることを特徴とする請求項1記載の移動体用温度計。
【請求項3】
前記円盤の外周面に沿って一方の端面と他方の端面とを繋ぐ複数の貫通孔が設けられ、
前記第1金属線の一部が、前記円盤の一方の端面側から他方の端面側に向かって前記円盤の外周面に配置され、かつ、他方の端面側から一方の端面側に向かって前記貫通孔を通過し配置され、
前記第2金属線の一部が、前記円盤の一方の端面側から他方の端面側に向かって前記第1金属線の一部と並んで前記円盤の外周面に配置され、かつ、他方の端面側から一方の端面側に向かって前記貫通孔を通過して配置されていることを特徴とする請求項1記載の移動体用温度計。
【請求項4】
前記第1金属線の先端と、前記第2金属線の先端とが短絡していることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の移動体用温度計。
【請求項5】
前記回転部の円盤に、前記第1金属線および第2金属線に接続された測温回路と、該測温回路に接続された発信回路と、が搭載され、且つ、前記円盤の軸心に該発信回路に接続された発信手段が設置され、
前記固定部に、前記発信手段に対向して所定の間隔を空けて受信手段が設置され、
前記第1金属線および前記第2金属線に被測温体が接触した際、前記第1金属線および前記第2金属線に発生した熱起電力が、前記測温回路において測定され、該測定された熱起電力が前記発信回路によって発信信号に変換され、該発信信号が前記発信手段から前記受信手段に受け渡されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の移動体用温度計。
【請求項6】
前記回転部の円盤に、前記第1金属線および第2金属線に接続され、前記第1金属線および前記第2金属線に発生した熱起電力に基づいて、温度を測定する測温回路が搭載され、
前記第1金属線および前記第2金属線に被測温体が接触したときに前記測温回路が測定した温度がT、前記第1金属線および前記第2金属線に被測温体が接触していないときに前記測温回路が測定した温度がT1のとき、被測温体の温度T2が、
T2=(T・(λ2+λ1)−T1・λ1)/λ2
λ1は前記第1金属線の熱伝導率および第2金属線の熱伝導率の平均値
λ2は被測温体の熱伝導率
なる式によって補正されることを特徴とする請求項4記載の移動体用温度計。
【請求項7】
前記回転部の円盤の軸心に、前記測温回路に接続された発信手段が設置され、
前記固定部に、前記発信手段に対向して所定の間隔を空けて受信手段が設置され、
前記発信手段が前記受信手段に、前記測定された温度Tおよび温度T1、または前記補正された温度T2の、一方を送信することを特徴とする請求項6記載の移動体用温度計。
【請求項8】
前記固定部に、高周波発信回路と、該高周波発信回路に接続された固定側コイルと、が設置され、
前記回転部に、前記固定側コイルに対向して所定の間隔を空けて回転側コイルが設置され、
前記固定側コイルに高周波電流を印加することによって、前記回転側コイルに電力が非接触で供給されることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の移動体用温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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