説明

移動式クレーンの後方転倒防止装置

【課題】後方転倒の防止を十分に図りつつ、ブーム先端の移動可能な範囲を可及的に広めてクレーン作業の円滑化を図る。
【解決手段】後方転倒防止装置は、ブーム長さ検出手段と、ブーム起伏角度検出手段と、後方に転倒する可能性がある場合にブーム長さの縮小動作又はブーム起伏の上げ動作を規制するように制御する制御手段とを備える。制御手段の制御領域は、ブームの最小起伏角度からブーム長さが最縮小長さのとき所定の後方安定度を確保するためにブーム起伏の上げ動作を規制する制限起伏角度θaまでの第1の領域と、制限起伏角度からブームの最大起伏角度までの第2の領域とからなる。第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの重心位置G11,G1n,G1mが制限起伏角度のときのブームの重心位置G2と鉛直線V上に並ぶようにブームの制限長さLaを設定し、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮可能なブームを有するホイールクレーンやクローラクレーンなどの移動式クレーンの後方転倒防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の移動式クレーンにおいては、吊り上げ能力を高めるために、カウンタウエイトの質量を増加したり、ウインチなどの重たい部品を上部旋回体の後部に配置したりすることで転倒支点回りの安定モーメントを増加させることが行われている(特許文献1参照)が、この安定モーメントを増加し過ぎた場合には、例えば吊り荷を吊らない状態でブームを最大起伏角度まで上げると逆に後方に転倒することがある。また、転倒しない場合でも、移動式クレーンに法規上要求される後方安定度を満たさなくなることがあり、この点から安定モーメントの増加にも一定の制限がかかる。
【0003】
一方、後方安定度の低下による後方転倒を防止するための後方転倒防止装置を移動式クレーンに装備することがある。この後方転倒防止装置は、ブームの長さや起伏角度などをそれぞれ検出器で検出し、それらの検出値に基づいて、後方安定度が低くなる操作ないし動作を規制するものである。この規制の具体的な方法としては、従来、ブームの長さが最縮小長さの状態でオペレータがブーム起伏の上げ操作をする場合に所定の後方安定度が確保できなくなる起伏角度(制限起伏角度)以上のときブームの上げ動作を自動停止などにより規制する第1の規制方法と、ブームの起伏角度が上記制限起伏角度から最大起伏角度までの範囲でオペレータがブーム長さの縮小操作をする場合にブーム長さが一定の長さ(制限長さ)よりも小さくなるとブーム長さの縮小動作を規制する第2の規制方法とを併用することが行われている。この場合、ブームの先端が移動可能な範囲は、図7に示すように、第1の規制方法の下で移動可能な第1の領域(ブーム起伏角度θが最小起伏角度の0°から制限起伏角度θaまでの領域)の部分Xと、第2の規制方法の下で移動可能な第2の領域(ブーム起伏角度θが制限起伏角度θaから最大起伏角度までの領域)の部分Yとからなる。また、第2の領域では、ブームの最大起伏角度のときのブームの重心位置G1が制限起伏角度θaのときのブームの重心位置G2と鉛直線V上に並ぶようにブームの制限長さLaが一定長さに設定されており、ブーム長さLの縮小動作がこの制限長さLaよりも小さくなるとき規制が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−155511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来の後方転倒防止装置では、第2の領域が比較的広い場合ブームの制限起伏角度θa付近にブーム長さLを短くすれば法規上必要な後方安定度を確保できるにも拘わらずブーム先端が移動できない範囲が生じるため、クレーン作業に支障が生じるという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、特に、上記第2の領域での制御を適切に行うことにより、必要な後方安定性を確保して後方転倒の防止を十分に図りつつ、ブーム先端の移動可能な範囲を可及的に広めてクレーン作業を円滑に行い得る移動式クレーンの後方転倒防止装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、伸縮可能でかつ起伏可能なブームを有する移動式クレーンの後方転倒防止装置として、上記ブームの長さを検出するブーム長さ検出手段と、上記ブームの起伏角度を検出するブーム起伏角度検出手段と、上記両検出手段からの信号を受け、ブームの長さを縮小操作するとき又はブームの起伏を上げ操作するとき後方安定度が低く後方に転倒する可能性がある場合にブーム長さの縮小動作又はブーム起伏の上げ動作を規制するように制御する制御手段とを備える。そして、上記制御手段の制御領域は、ブームの最小起伏角度からブーム長さが最縮小長さのとき所定の後方安定度を確保するためにブーム起伏の上げ動作を規制する制限起伏角度までの第1の領域と、上記制限起伏角度からブームの最大起伏角度までの第2の領域とからなり、第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの重心位置が上記制限起伏角度のときのブームの重心位置と鉛直線上に並ぶようにブームの制限長さを設定し、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設ける構成にする。
【0008】
この構成では、ブームの起伏角度が制限起伏角度から最大起伏角度までの第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの重心位置が制限起伏角度のときのブームの重心位置と鉛直線上に並ぶようにブームの制限長さが設定されており、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設けられているため、従来の如くブームの制限起伏角度付近にブーム先端が移動できない範囲が生じることはなく、クレーン作業に支障が生じることもない。しかも、ブームの制限長さは、第2の領域の全ての起伏角度でブームの重心位置が制限起伏角度のときのブームの重心位置と鉛直線上に並ぶように設定されているため、この制限長さのときでも制限起伏角度のときと同じ後方安定度を確保することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、伸縮可能でかつ起伏可能なブームを有する移動式クレーンの後方転倒防止装置として、請求項1に係る発明と同じく、上記ブームの長さを検出するブーム長さ検出手段と、上記ブームの起伏角度を検出するブーム起伏角度検出手段と、上記両検出手段からの信号を受け、ブームの長さを縮小操作するとき又はブームの起伏を上げ操作するとき後方安定度が低く後方に転倒する可能性がある場合にブーム長さの縮小動作又はブーム起伏の上げ動作を規制するように制御する制御手段とを備える。そして、上記制御手段の制御領域は、ブームの最小起伏角度からブーム長さが最縮小長さのとき所定の後方安定度を確保するためにブーム起伏の上げ動作を規制する制限起伏角度までの第1の領域と、上記制限起伏角度からブームの最大起伏角度までの第2の領域とからなり、第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの最小の作業半径が上記制限起伏角度のときのブームの最小の作業半径と同じになるようにブームの制限長さを設定し、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設ける構成にする。
【0010】
この構成では、ブームの起伏角度が制限起伏角度から最大起伏角度までの第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの最小の作業半径が制限起伏角度のときのブームの最小の作業半径と同じになるようにブームの制限長さが設定されており、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設けられているため、従来の如くブームの制限起伏角度付近にブーム先端が移動できない範囲が生じることはなく、クレーン作業に支障が生じることもない。しかも、ブームの制限長さは、第2の領域の全ての起伏角度でブームの最小の作業半径が制限起伏角度のときのブームの最小の作業半径と同じになるように設定されており、またブームの重心位置は、ブームの最小の作業半径を一定に維持しつつブームの起伏角度を大きくするとブームの先端側に次第に変化することから、制限長さのときでも制限起伏角度のときよりも大きい後方安定度を確保することができる。
【0011】
ここで、ブームの最小の作業半径が車体の全幅の半分の値よりも小さい場合でもクレーン作業は車体の側縁より内側で行うことはない。そこで、請求項3に係る発明は、請求項2記載の移動式クレーンの後方転倒防止装置において、上記制限起伏角度のときのブームの最小の作業半径が車体の全幅の半分の値よりも小さい場合、上記第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの最小の作業半径が、制限起伏角度のときのブームの最小の作業半径の代わりに、車体の全幅の半分の値と一致するようにブームの制限長さを設定する構成にする。この構成では、クレーン作業の実情に合わせて、ブームの制限長さが適切に設定されているため、クレーン作業に支障を来すことなく、後方安定度をより高めて後方転倒の防止化を一層効果的に図ることができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、伸縮可能でかつ起伏可能なブームを有する移動式クレーンの後方転倒防止装置として、請求項1又は2に係る発明と同じく、上記ブームの長さを検出するブーム長さ検出手段と、上記ブームの起伏角度を検出するブーム起伏角度検出手段と、上記両検出手段からの信号を受け、ブームの長さを縮小操作するとき又はブームの起伏を上げ操作するとき後方安定度が低く後方に転倒する可能性がある場合にブーム長さの縮小動作又はブーム起伏の上げ動作を規制するように制御する制御手段とを備える。そして、上記制御手段の制御領域は、ブームの最小起伏角度からブーム長さが最縮小長さのとき所定の後方安定度を確保するためにブーム起伏の上げ動作を規制する制限起伏角度までの第1の領域と、上記制限起伏角度からブームの最大起伏角度までの第2の領域とからなり、第2の領域は、更に所定の角度毎に複数の区分に分けられており、各区分では、その区分の起伏角度大側の境界におけるブームの重心位置がいずれも上記制限起伏角度のときのブームの重心位置と鉛直線上に並ぶようにブームの制限長さを一定長さに設定し、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設ける構成にする。
【0013】
この構成では、ブームの起伏角度が制限起伏角度から最大起伏角度までの第2の領域は、更に所定の角度毎に複数の区分に分けられており、各区分では、その区分の起伏角度大側の境界におけるブームの重心位置がいずれも上記制限起伏角度のときのブームの重心位置と鉛直線上に並ぶようにブームの制限長さが一定長さに設定されており、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設けられているため、ブームの制限起伏角度付近などに生じるブーム先端が移動できない範囲を可及的に少なくすることができる。しかも、ブームの制限長さは、第2の領域の複数の区分毎にその起伏角度大側の境界におけるブームの重心位置が制限起伏角度のときのブームの重心位置と鉛直線上に並ぶように一定長さに設定されているため、この制限長さのときでも制限起伏角度のときと同じ又はそれ以上の後方安定度を確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明における移動式クレーンの後方転倒防止装置によれば、ブームの起伏角度が制限起伏角度から最大起伏角度までの第2の領域でのブームの制限長さが適切に設定されているため、必要な後方安定度を確保して後方転倒の防止化を十分に図りながら、従来の如くブームの制限起伏角度付近に生じたブーム先端が移動できない範囲を消滅あるいは可及的に少なくすることができ、クレーン作業の円滑化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態に係る後方転倒防止装置を装備するホイールクレーンのクレーン作業時の状態を示す正面図である。
【図2】図2は上記後方転倒防止装置のブロック構成図である。
【図3】図3はコントローラの制御内容を示すフローチャート図である。
【図4】図4はブーム先端の移動可能な範囲を説明するための説明図である。
【図5】図5は第2の実施形態を示す図4相当図である。
【図6】図6は第3の実施形態を示す図4相当図である。
【図7】図7は従来例を示す図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態である実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は本発明の第1の実施形態に係る後方転倒防止装置を装備する移動式クレーンとしてのホイールクレーンAのクレーン作業時の状態を示す。ホイールクレーンAは、複数の車輪1を有する下部走行体2と、この下部走行体2上に旋回中心線3回り旋回可能に搭載された上部旋回体4とを備えている。
【0018】
上記上部旋回体4の前部には運転室を構成するキャブ6が設けられているとともに、上部旋回体4の後部には伸縮可能なブーム7の基端が支軸8回りに回動可能(起伏可能)に支持されている。ブーム7と上部旋回体4との間には起伏用シリンダ9が設けられ、このシリンダ9の伸縮作動によりブーム7が支軸8回りに起伏動作をするようになっている。また、ブーム7の先端にはシーブ11が設けられており、このシーブ11からワイヤ12を介して吊りフック13が吊り下げられている。
【0019】
上記ホイールクレーンAに装備される後方転倒防止装置20は、図2に示すように、入力部として、各種データを入力するためのキーボードなどのデータ入力装置21と、上記ブーム7の長さLを検出するブーム長さ検出手段としてのブーム長さ検出器22と、上記ブーム7の起伏角度θを検出するブーム起伏角度検出手段としてのブーム起伏角度検出器23とを備えている。
【0020】
また、上記後方転倒防止装置20は、各入力部21〜23からのデータ信号及び検出信号を受ける制御手段としてのコントローラ25を備えている。このコントローラ25は、種々のデータを記憶しているデータ記憶部26と、所定の演算及び制御を実行する演算部27とを有し、ブーム7の長さLを縮小操作するとき又はブーム7の起伏を上げ操作するとき後方安定度が低く後方に転倒する可能性がある場合、キャブ6内に設けた表示装置31及び警報器32による警報を行うとともに、ブーム起伏上げ動作停止用ソレノイド33の切替によるブーム起伏の上げ動作又はブーム長さ縮小動作停止用ソレノイド34の切替によるブーム長さLの縮小動作を停止するようになっている。
【0021】
次に、上記コントローラ25の制御内容について、図3及び図4を参照しながら説明する。
【0022】
図3において、スタートした後、先ず、ステップS1で各種信号を読み取り、ステップS3でブーム7の起伏角度θが制限起伏角度θa以上であるか否かを判定する。ここで、制限起伏角度θaは、ブーム7の長さが最縮小長さの状態でオペレータがブーム起伏の上げ操作をする場合に所定の後方安定度を確保するためにブーム起伏の上げ動作を規制する必要となる境界の起伏角度である。また、所定の後方安定度とは、法規上要求される後方安定度又はそれ以上のものをいい、法規(移動式クレーン構造規格第13条)上は、ブームが向けられている側の全ての転倒支点にかかる荷重の値の合計値が、クレーンの質量に重力加速度を乗じて得た値の15%に相当する値以上の後方安定度を有しなければならないと規定されている。
【0023】
上記ステップS3の判定がNOのときには、リターンする一方、判定がYESの制限起伏角度θa以上のときには、更にステップS4で今回初めて制限起伏角度θa以上になったか否かを判定するとともに、ステップS5でブーム起伏角度θの変化からブーム起伏の上げ動作中であるか否かを判定する。この両判定が共にYESのときには、ステップS6でブーム起伏上げ動作停止用ソレノイド33を用いてブーム起伏の上げ動作を停止するとともに、そのことをオペレータに知らせるための警告を表示装置31及び警報器32により行う。
【0024】
上記ステップS4の判定がNOのときには、ステップS7でブーム長さLの変化からブーム長さLの縮小動作中であるか否かを判定するとともに、ステップS8でブーム長さLが制限長さLa以下であるか否かを判定する。この両判定が共にYESのときには、ステップS9でブーム長さ縮小動作停止用ソレノイド34を用いてブーム長さLの縮小動作を停止するとともに、そのことをオペレータに知らせるための警告を表示装置31及び警報器32により行う。
【0025】
図4は以上の制御によってブーム7の先端が移動可能な範囲を示すものであり、その範囲は、ブーム起伏角度θが最小起伏角度の0°から制限起伏角度θaまでの第1の領域の部分Xと、ブーム起伏角度θが制限起伏角度θaから最大起伏角度までの第2の領域の部分Yとからなる。
【0026】
そして、本発明の特徴点として、上記第2の領域では、その領域内の全ての起伏角度θで、ブーム7の重心位置G11,G1n,G1m(n,mは変数)が上記制限起伏角度θaのときのブーム7の重心位置G2と鉛直線V上に並ぶようにブーム7の制限長さLaが設定されており、ブーム長さLの縮小動作がこの制限長さLaより小さくなるとき縮小動作を停止するように設けられている(図3中のS9)。
【0027】
従って、上記第1の実施形態においては、ブーム7の起伏角度θが制限起伏角度θaから最大起伏角度までの第2の領域では、全ての起伏角度で、ブーム7の重心位置G11,G1n,G1mが制限起伏角度θaのときのブーム7の重心位置G2と鉛直線V上に並ぶようにブーム7の制限長さLaが設定されており、ブーム長さLの縮小動作がこの制限長さLaよりも小さくなるとき縮小動作を停止するように設けられているため、従来の如くブーム7の制限起伏角度θa付近にブーム7の先端が移動できない範囲が生じることはない。この結果、クレーン作業に支障が生じることはなく、作業を円滑にかつ効率的に行うことができる。
【0028】
しかも、上記ブーム7の制限長さLaは、第2の領域の全ての起伏角度θでブーム7の重心位置G11,G1n,G1mが制限起伏角度θaのときのブーム7の重心位置G2と鉛直線V上に並ぶように設定されているため、この制限長さLaのときでも制限起伏角度θaのときと同じ後方安定度を確保することができ、後方転倒の防止化を十分に図ることができる。
【0029】
図5は本発明の第2の実施形態を示す。この第2の実施形態の場合、ホイールクレーンの後方転倒防止装置の構成及びコントローラの制御フローは、第1の実施形態の場合と同じであり、ブーム起伏角度が制限起伏角度から最大起伏角度までの第2の領域におけるブームの規制長さが第1の実施形態の場合と異なるだけである。尚、以下の説明では、部材・部品の符号に、第1の実施形態の場合と同じ符号を用いる。
【0030】
すなわち、上記第2の領域では、その領域内の全ての起伏角度θで、ブーム7の最小の作業半径Rが上記制限起伏角度θaのときのブーム7の最小の作業半径と同じになるようにブーム7の制限長さLaが設定されており、ブーム長さLの縮小動作がこの制限長さLaよりも小さくなるとき規制するように設けられている。この場合、ブーム7の重心位置G11,G1n,G1m(n,mは変数)は、制限起伏角度のときのブーム7の重心位置G2よりブーム7先端側に変位しかつその変位量が起伏角度θの増加に伴って比例的に増加するようになっている。
【0031】
従って、上記第2の実施形態においては、ブーム7の起伏角度θが制限起伏角度θaから最大起伏角度までの第2の領域では、全ての起伏角度θで、ブーム7の最小の作業半径(旋回中心線3から吊りフック13の中心線までの距離)Rが制限起伏角度θaのときのブーム7の最小の作業半径と同じになるようにブーム7の制限長さLaが設定されており、ブーム長さLの縮小動作がこの制限長さLaよりも小さくなるとき規制するように設けられているため、従来の如くブーム7の制限起伏角度θa付近にブーム先端が移動できない範囲が生じることはない。この結果、クレーン作業に支障が生じることはなく、作業を円滑にかつ効率的に行うことができる。
【0032】
しかも、上記ブーム7の制限長さLaは、第2の領域の全ての起伏角度θでブーム7の最小の作業半径Rが制限起伏角度θaのときのブーム7の最小の作業半径と同じになるように設定されており、またブーム7の重心位置は、ブーム7の最小の作業半径Rを一定に維持しつつブーム7の起伏角度θを大きくするとブーム7の先端側に次第に変化することから、制限長さLaのときでも制限起伏角度θaのときよりも大きい後方安定度を確保することができ、後方転倒の防止化を十分に図ることができる。
【0033】
ここで、上記ブーム7の最小の作業半径Rが車体の全幅B(図1参照)の半分の値よりも小さい場合でもクレーン作業は車体の側縁より内側で行うことはないので、上記制限起伏角度θaのときのブーム7の最小の作業半径Rが車体の全幅Bの半分の値よりも小さい場合、上記第2の領域では、全ての起伏角度θで、ブーム7の最小の作業半径Rが、制限起伏角度θaのときのブーム7の最小の作業半径の代わりに、車体の全幅Bの半分の値と一致するようにブーム7の制限長さLaを設定することが好ましく、後方安定度をより高めて後方転倒の防止化を一層効果的に図ることができる。
【0034】
図6は本発明の第3の実施形態を示す。この第3の実施形態の場合、ホイールクレーンの後方転倒防止装置の構成及びコントローラの制御フローは、第1の実施形態の場合と同じであり、ブーム起伏角度θが制限起伏角度θaから最大起伏角度までの第2の領域におけるブームの規制長さLaが第1の実施形態の場合と異なるだけである。
【0035】
すなわち、上記第2の領域は、更に所定の角度毎に複数(図では3つ)の区分に分けられており、各区分では、その区分の起伏角度大側の境界におけるブーム7の重心位置G11,G12,G13がいずれも上記制限起伏角度θaのときのブーム7の重心位置G2と鉛直線V上に並ぶようにブーム7の制限長さLaが一定長さに設定されており、ブーム長さLの縮小動作がこの制限長さLaよりも小さくなるとき規制するように設けられている。
【0036】
従って、上記第3の実施形態においては、ブーム7の起伏角度θが制限起伏角度θaから最大起伏角度までの第2の領域は、更に所定の角度毎に複数の区分に分けられており、各区分では、その区分の起伏角度大側の境界におけるブーム7の重心位置G11,G12,G13がいずれも上記制限起伏角度θaのときのブーム7の重心位置G2と鉛直線V上に並ぶようにブーム7の制限長さLaが一定長さに設定されており、ブーム長さLの縮小動作がこの制限長さLaよりも小さくなるとき規制するように設けられているため、ブーム7の制限起伏角度θa付近などに生じるブーム先端が移動できない範囲を可及的に少なくすることができ、クレーン作業を円滑にかつ効率的に行うことができる。
【0037】
しかも、上記ブーム7の制限長さLaは、第2の領域の複数の区分毎にその起伏角度大側の境界におけるブーム7の重心位置G11,G12,G13が制限起伏角度θaのときのブーム7の重心位置G2と鉛直線V上に並ぶように一定長さに設定されているため、この制限長さLaのときでも制限起伏角度θaのときと同じ又はそれ以上の後方安定度を確保することができ、後方転倒の防止化を十分に図ることができる。
【0038】
尚、本発明は上記第1〜第3の実施形態に限定されるものではなく,その種々の形態を包含するものである。例えば上記各実施形態では、ホイールクレーンに適用した場合について述べたが、本発明は、このホイールクレーンに限らず、伸縮可能でかつ起伏可能なブームを有するクローラクレーンなどの移動式クレーンの後方転倒防止装置として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
A ホイールクレーン(移動式クレーン)
2 下部走行体(車体)
4 上部旋回体(車体)
7 ブーム
20 後方転倒防止装置
22 ブーム長さ検出器(ブーム長さ検出手段)
23 ブーム起伏角度検出器(ブーム起伏角度検出手段)
25 コントローラ(制御手段)
31 表示装置
32 警報器
33 ブーム起伏上げ動作停止用ソレノイド
34 ブーム長さ縮小動作停止用ソレノイド
L ブーム長さ
La 制限長さ
θ ブーム起伏角度
θa 制限起伏角度
B 車体の全幅
G11〜G13,G1n,G1m,G2 ブームの重心位置
R ブームの最小の作業半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮可能でかつ起伏可能なブームを有する移動式クレーンにおいて、
上記ブームの長さを検出するブーム長さ検出手段と、
上記ブームの起伏角度を検出するブーム起伏角度検出手段と、
上記両検出手段からの信号を受け、ブームの長さを縮小操作するとき又はブームの起伏を上げ操作するとき後方安定度が低く後方に転倒する可能性がある場合にブーム長さの縮小動作又はブーム起伏の上げ動作を規制するように制御する制御手段とを備えており、
上記制御手段の制御領域は、ブームの最小起伏角度からブーム長さが最縮小長さのとき所定の後方安定度を確保するためにブーム起伏の上げ動作を規制する制限起伏角度までの第1の領域と、上記制限起伏角度からブームの最大起伏角度までの第2の領域とからなり、第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの重心位置が上記制限起伏角度のときのブームの重心位置と鉛直線上に並ぶようにブームの制限長さが設定されており、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設けられていることを特徴とする移動式クレーンの後方転倒防止装置。
【請求項2】
伸縮可能でかつ起伏可能なブームを有する移動式クレーンにおいて、
上記ブームの長さを検出するブーム長さ検出手段と、
上記ブームの起伏角度を検出するブーム起伏角度検出手段と、
上記両検出手段からの信号を受け、ブームの長さを縮小操作するとき又はブームの起伏を上げ操作するとき後方安定度が低く後方に転倒する可能性がある場合にブーム長さの縮小動作又はブーム起伏の上げ動作を規制するように制御する制御手段とを備えており、
上記制御手段の制御領域は、ブームの最小起伏角度からブーム長さが最縮小長さのとき所定の後方安定度を確保するためにブーム起伏の上げ動作を規制する制限起伏角度までの第1の領域と、上記制限起伏角度からブームの最大起伏角度までの第2の領域とからなり、第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの最小の作業半径が上記制限起伏角度のときのブームの最小の作業半径と同じになるようにブームの制限長さが設定されており、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設けられていることを特徴とする移動式クレーンの後方転倒防止装置。
【請求項3】
上記制限起伏角度のときのブームの最小の作業半径が車体の全幅の半分の値よりも小さい場合、上記第2の領域では、全ての起伏角度で、ブームの最小の作業半径が、制限起伏角度のときのブームの最小の作業半径の代わりに、車体の全幅の半分の値と一致するようにブームの制限長さが設定されている請求項2記載の移動式クレーンの後方転倒防止装置。
【請求項4】
伸縮可能でかつ起伏可能なブームを有する移動式クレーンにおいて、
上記ブームの長さを検出するブーム長さ検出手段と、
上記ブームの起伏角度を検出するブーム起伏角度検出手段と、
上記両検出手段からの信号を受け、ブームの長さを縮小操作するとき又はブームの起伏を上げ操作するとき後方安定度が低く後方に転倒する可能性がある場合にブーム長さの縮小動作又はブーム起伏の上げ動作を規制するように制御する制御手段とを備えており、
上記制御手段の制御領域は、ブームの最小起伏角度からブーム長さが最縮小長さのとき所定の後方安定度を確保するためにブーム起伏の上げ動作を規制する制限起伏角度までの第1の領域と、上記制限起伏角度からブームの最大起伏角度までの第2の領域とからなり、第2の領域は、更に所定の角度毎に複数の区分に分けられており、各区分では、その区分の起伏角度大側の境界におけるブームの重心位置がいずれも上記制限起伏角度のときのブームの重心位置と鉛直線上に並ぶようにブームの制限長さが一定長さに設定されており、ブーム長さの縮小動作がこの制限長さよりも小さくなるとき規制するように設けられていることを特徴とする移動式クレーンの後方転倒防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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