説明

移動用ケーブル

【課題】ケーブルが屈曲、伸張を繰返す過酷な条件で長期使用されても、ケーブルの形状が軸線方向に沿って直線状から波形状のように蛇行することがない移動用ケーブルを提供することを目的とする。
【解決手段】導体12を絶縁体13により被覆した複数本の線心14を、補強糸15を中心とする外周囲に環状配置して撚り合わせた子撚り合わせ体16を設け、前記子撚り合わせ体16の複数本を、補強線材17を中心とする外周囲に環状配置して撚り合わせた親撚り合わせ体18を設け、前記親撚り合わせ体18の外周囲を熱可塑性樹脂のシース19により直接被覆固定した移動用ケーブル11を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば消防車の昇降装置に備えられるような移動用ケーブルに関し、さらに詳しくは屈曲、伸張を繰返す過酷な条件で使用されるケーブルの形状劣化を防止する移動用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、はしご付消防車、クレーン車等の給電及び通信方式には、リール巻方式やカーテン方式の配線方式があり、用途に応じたキャブタイヤケーブル(以下ケーブルと称す)が使用されている。かかるケーブルとしては、図6に示すように、導体61と、この導体61の外周を絶縁して被覆する絶縁体62とで構成される線心63と、補強用の介在物64を介在させて複数の線心63を断面中心とする同心円上の2重の環状に配置し、その外周囲を外装するシース65とを備えたものがある。このようなケーブル66を、はしご付消防車の昇降装置に用いた場合、昇降動作に応じて屈曲、伸張を繰返すので長期使用によっては変形や断線が生じるおそれがある。よって、高耐久性のケーブル特性が求められている。
【0003】
しかしながら、ケーブルは長期使用に伴い次第に歪んで変形癖が付きやすい傾向がある。例えば、図7に示すように、ケーブル66が軸線方向に沿って直線状から波形状に変形した波形状態、いわゆる蛇行67が生じると、ケーブル66内部で撚りピッチが崩れてケーブル本来の屈曲性が損なわれ、この結果、ケーブル66を支持するプーリ68などから外れやすくなり、ケーブル66の円滑な進退移動を確保できなくなり、ひいては蛇行67が原因してケーブル66が破損し、断線等を誘起するおそれがあった。
【0004】
特に、はしご付消防車のケーブルにあっては使用環境が厳しく、ケーブルが酷使されているのが現状である。このはしご付消防車のケーブルは、ケーブルが昇降装置の非常に長い昇降距離に追従する電源線や信号線であり、張力、捩れ、しごき等による悪影響に耐える必要がある。さらに、はしご付消防車に適用されるケーブルは、人命に係わる作業でも解るように、断線は絶対に許されず、高信頼性のケーブル特性を備えたものが求められる。近年、はしごの高さが例えば30m級から50m級などの高いものが求められ、これに伴いケーブルも同様に高信頼性のケーブル特性を有することの必要性が生じ、悪影響に対処できる高性能のケーブルが求められている。
【0005】
ここで、ケーブルが蛇行する発生原因について考察してみると、次のことが考えられる。
(1)ケーブルを構成するシースと線心(絶縁体)との密着性が悪いためケーブル内部においてズレが生じ、このズレが原因して蛇行に至ってしまう。
(2)ケーブルに加わる張力の影響により、ケーブル内部において絶縁体とシースがズレて蛇行に至ってしまう。
(3)ケーブルの内部で拠られている線心の撚りピッチの詰り、若しくは撚りピッチの緩みによりシースと線心とがズレて蛇行に至ってしまう。
(4)ムリ撚りで撚り線した場合、撚り線が撚り方向と逆の方向に反発して戻ろうとするため、撚り方向と逆方向に捩れの力が加わり、これが原因して蛇行に至ってしまう。
ことが主な蛇行発生原因である。
【0006】
さらに、撚り線してシースで被覆固定すると、各線心が補強されてケーブルの耐久性が増大するが、蛇行を防止するには至らず、未だ十分なケーブル特性が得られていないのが現状である。
【0007】
このため、ケーブルの捩れ、及び曲げ剛性を、該ケーブルに寄与させようとする役目を有する巻きぐせ用線体を、ケーブルの径方向中心から偏心した位置に埋設させた昇降装置用キャブタイヤケーブルが知られている(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−220532号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この種のケーブルは巻きぐせ用線体により、ケーブルに巻きぐせが付くため、引き延ばした際に直線状にはなり難く、昇降装置の限られた空間でケーブルをプーリ間に掛け渡して張設支持するには不適であった。さらに、線心とは別に巻きぐせ用線体をケーブルに埋設する必要があるため、部品点数及び製作工数等の増大に伴い大径化やコスト高を誘引してしまう。
【0009】
そこでこの発明は、ケーブルが屈曲、伸張を繰返す過酷な条件で長期使用されても形状が劣化することがない移動用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、導体を絶縁体により被覆した複数本の線心を、補強糸を中心とする外周囲に環状配置して撚り合わせた子撚り合わせ体を設け、前記子撚り合わせ体の複数本を、補強線材を中心とする外周囲に環状配置して撚り合わせた親撚り合わせ体を設け、前記親撚り合わせ体の外周囲を熱可塑性樹脂のシースにより直接被覆固定した移動用ケーブルであることを特徴とする。
【0011】
この構成によると、撚り合わせ体の各線心を一層のシースで直接被覆固定できるため、被覆時にシースが撚り合わせられた線心部分の隅々まで行き渡り、各々の線心とシースとの間での接触面積が多くなり、線心に対するシースとの密着性が高まる。この結果、移動用ケーブルの内部では一体感の高い結合となり、ケーブル内部でのズレが生じ難くなる。よって、移動用ケーブルが捩れても、その動きにケーブル内部の線心が追従するのでズレが生じず、長期使用されても蛇行が生じなくなる。
【0012】
この発明の態様として、前記絶縁体は、線心別に色分けされた地色と、該地色と異なる異色を付加して構成することができる。
【0013】
さらに、この移動用ケーブルに備えられた複数本の線心を機器と配線接続する際に、各線心毎に色分けされているため、一目で配線対応先の接続線を特定して配線接続することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、線心とシースとの間での接触面積が多くなり、双方の密着性が高まる。この結果、線心とシースとの一体感が高められる。よって、移動用ケーブルが捩れても、その動きにケーブル内部の線心が追従するのでズレが生じ難くなり、移動用ケーブルは長期使用されても蛇行が生じなくなる。さらに、移動用ケーブルは内シースを省略できるため、小径化及び軽量化することができ、コンパクトに構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0016】
図面は移動用ケーブルの一例として、はしご付き消防車の昇降装置に使用される場合を示し、図1は移動用ケーブルの線心の撚り合わせ状態を示した要部拡大側面図、図2(A)は子撚り合わせ体の要部拡大断面図、図2(B)は親撚り合わせ体の要部拡大断面図、図2(C)は移動用ケーブルの拡大断面図である。移動用ケーブル11は、図2(A)に示すように、導体12の外周囲を絶縁体13により被覆した線心14の複数本を、ポリエステル糸等の補強糸15を中心とする外周囲に環状配置して撚り合わせた小径の子撚り合わせ体16を作成しておき、該子撚り合わせ体16の複数本を、図2(B)に示すように、補強線材17を中心とする外周囲に環状配置して撚り合わせてなる大径の親撚り合わせ体18を作成し、この親撚り合わせ体18の外周囲を、図2(C)に示すように、シース19により断面円形に直接被覆固定して作成することにより構成される。
【0017】
前記導体12の素線構成は、ピッチの細かい軟銅集合撚り線を使用し、撚り方としては撚り合わせ時に撚りが加わらないチューブラー撚りが適している。また、絶縁体13は、小径の導体12の外周囲を薄く絶縁被覆することができ、しかも外力を受けてもあまり伸びず、割れ難い特性を有している熱可塑性の樹脂材質を使用する。例えば、0.25mm程度の薄い被覆を容易にする高密度ポリエチレンを使用するとよい。
【0018】
撚り合わせに際して、まず、線心14を例えば4本撚り合わせて一括りとした子撚り合わせ体(4本の線心)16を構成し、該子撚り合わせ体16の例えば5ユニットを、さらに撚り合わせて一括りとした親撚り合わせ体(20本の線心)18を構成する。この場合も、撚り合わせ時に撚りが加わらないチューブラー撚りを実行し、ムリ撚りを回避して作成する。なお、撚りピッチ及び撚り外径は、線心数やユニット数に適した撚り合わせの条件に設定する。
【0019】
シース19は移動用ケーブル11の被覆保護材として備えられ、その材質には親撚り合わせ体18を絶縁被覆して、捩れによる移動用ケーブル11の蛇行を抑制するのに適している高硬度の熱可塑性樹脂材質、例えば高硬度塩化ビニルを使用する。また、シース19は、子撚り合わせ体16及び親撚り合わせ体18のそれぞれを該シース19で直接被覆固定することで、シース19が、撚り合わせられた合計20本の線心14の外周囲の隅々まで行き渡り、各々の線心14とシース19との間での接触面積が多くなり、線心14に対するシース19との密着性が高まる。このため、移動用ケーブル11の内部では一体感が高められてケーブル内部でのズレが生じ難くなる。よって、移動用ケーブル11が捩れても、その動きに内部の撚り合わせ体16,18の線心14が追従するのでズレが生じず、この結果、長期使用されても蛇行が生じなくなる。
【0020】
さらに、各撚り合わせ体16,18の外周囲は1シースで被覆するだけでよいので内シースが不要になる。この内シースの省略により、移動用ケーブル11の大きさも小径化及び軽量化してコンパクトになる。さらに、ケーブル内部に内シースが存在しないことで、外シース19と線心14との間での隔たりがなくなり、外シース19と線心14との直接的な接触を可能にして、ズレを発生させなくなり、蛇行の発生を防止するのに有効である。
【0021】
図3(A)は子撚り合わせ体を示す要部拡大側面図、図3(B)は線心の一部拡大側面図、図3(C)は線心の拡大断面図である。前記線心14については、絶縁体13を着色し、各色別に分けて識別できるようにしている。さらに、絶縁体13に対しては、線心14別に色分けされていることに加えて、地色31と異なる別の色を付加して構成している。この別の色の付加構成例として、例えば、図3(A)及び図3(B)に示すように、絶縁体13の周方向に対し、180度異なる両側の位置に地色31と異なる例えば黒色などの異色32を、軸線方向に沿ってストライプ状に細長く着色している。
【0022】
この着色する割合は、一目で識別できる着色割合であればよく、図3(C)に示すように、周方向の面積比率が、例えば地色6:異色4、程度に設定すれば、線心14が小径であっても正確に識別できる。この異色32の着色の仕方は周方向に2ヶ所のストライプ状に限らず、1ヶ所あるいは複数のストライプ状であってもよく、また別の識別可能な任意の着色形態を採用してもよい。これにより、移動用ケーブル11に備えられた20本の線心14を図示しない機器と配線接続する際に、該移動用ケーブル11の端部において、各線心14が個々に色分けされているため、一目で配線対応先の線を特定して配線接続することができる。そして、移動用ケーブル11の製作後は、シース19の外表面に移動用ケーブルを特定する情報としてのマーキング印刷を施して完成する。
【0023】
次に、このように構成された移動用ケーブル11のケーブル特性について説明する。図4(A)はケーブル移動屈曲試験機の正面図、図4(B)はケーブル移動屈曲試験機の要部平面図である。このケーブル移動屈曲試験機41は、移動用ケーブル11が実際に受ける外力と同様な外力を繰り返し与え続け、一定時間経過後の移動用ケーブル11の性能劣化度合いを調べるものである。
【0024】
具体的には、図4(A)に示すように、該ケーブル移動屈曲試験機41の中央部に開口された横長の開口窓42に沿って横方向に往復する移動台車43を備え、この移動台車43の正面側に、上プーリ44と下プーリ45とを斜めの上下位置に突出させて配置している。そして、これらの上下プーリ44,45に移動用ケーブル11を掛け渡し、掛け渡した一端を正面視左側に配置された定位置プーリ46を介して本体固定部47に固定し、他端を正面視右側に配置された定位置プーリ48を介して錘49に接続させ、移動用ケーブル11に一定の負荷を与えている。このケーブル負荷状態で移動台車43を往復動作させることで、ケーブル移動屈曲試験機41は移動用ケーブル11をしごいて実際の使用状態と近似する条件に設定している。
【0025】
さらに、移動用ケーブル11は、図4(B)に示すように、上下プーリ44,45の前後方向の取付位置を共に試験機本体の前面41aから同じ突出長さに設定すると、移動用ケーブル11はしごきと荷重をかけている張力だけしか加わらない。実際は、はしご付き消防車での移動用ケーブル11の使用状態は、捩れ・しごき・張力の3つの力が加わるので、評価試験でも捩れを加えないと正確な評価は得られない。よって、捩れを加えながら移動屈曲を実行するため、上プーリ44と下プーリ45とが前後方向に段違いになるように突出量を異ならせている。このような段違い構造の上下プーリ44,45に移動用ケーブル11を掛け渡し、また捩れが逃げないように一方のケーブル端部を固定している。
【0026】
表1は移動用ケーブル11の構造の一例を示したものである。
【0027】
【表1】

次に、この表1の移動用ケーブル11の完成品から約5mの試料を採り、これを直径120mmの上下プーリ44,45に掛け渡し、該ケーブル11の一方端を固定した状態で他方端に5kgの錘49を吊るし、移動台車43を毎秒0.33mの速さで1m以上の距離を左右同一場所において、10回/分の割合で往復させた試験条件で移動用ケーブル11に対する評価を行った。
【0028】
この結果、移動用ケーブル11は移動台車43を、ケーブルの長期使用に相当する移動量である8万回往復(10回/分)させても蛇行は発生せず、最終的に移動台車43を20万回往復させても蛇行の発生は見られなかった。これにより、移動用ケーブル11は安定したケーブル性能を維持することが認められた。この際、連続して長時間の試験を継続したことにより、移動用ケーブル11の外表面に印刷されていたマーキングは、若干捩れた状態に表示変形していることが認められた。しかし、移動用ケーブル11の外形状は本来の直線状を維持し、外形状に変形癖が全く生じていない。このことは、移動用ケーブル11の外径が小さく、屈曲性に優れ、ケーブル内部での撚りピッチが崩れ難いことを表わしている。ことに、ケーブル内部において、撚り線された各線心14に対するシース19が隅々まで行き渡り、線心14とシース19とが十分に密着し、ズレの発生原因を的確に解消して蛇行が防止できたものと推測できる。
【0029】
そして、この移動用ケーブル11と、比較される試験対象ケーブルの一例として、撚り線が同心円上の内側と外側に環状配置された2層構造の異方向拠りであるケーブル、例えば図6で示したケーブル66を用いて、同様に図4に示したケーブル移動屈曲試験機41で試験した結果、試験開始から早いもので移動台車43を約1万回、遅いもので2万回程度往復させた時点で、蛇行が発生し始めたことが認められた。このことは、ケーブル内部で線心63とシース65間にズレが発生したと考えられる。
【0030】
具体的には、撚り線が2層構造の異方向拠りであることから捩れが加わった場合、一方は拠りが緩み、他方は拠りが締まるためである。また、最外層の拠りは、拠り外径が大きいため、拠りピッチが崩れやすい。これにより、拠りが緩む方向に捩れ、拠りピッチの崩れによりシースと線心(絶縁体)がズレてしまい蛇行に至ったと考えられる。
【0031】
さらに、導体の構成を軟銅集合撚り線から軟銅複合撚り線(C&C複合撚り線)に変えてケーブル移動屈曲試験した場合にも、ケーブルを4万回往復させた時点で、ケーブルがややうねり、蛇行が発生したことを確認した。つまり、導体の改善は断線には強くなるが、蛇行防止効果は得られないことが判明した。
【0032】
さらに、シースの硬度を硬くしてケーブル移動屈曲試験を行った場合にも、試験開始から早いもので移動台車43を約4万回、遅いもので5万回程度往復させた時点で、ケーブルがややうねり、蛇行が発生したことを確認した。つまり、シースは硬いもので捩れはないが、撚り線の構造上、シース被覆での径方向中心への行き渡り深さ(落ち込み)が余りなく、シースが動かない割には、絶縁体に遊びがあるのでズレてしまい蛇行に至ったものと推測される。
【0033】
よって、この発明の移動用ケーブル11と従来例のケーブル(図6参照)とを比較すると、ケーブルの蛇行防止対策に関しては明らかに、その効果が異なることが認められた。
【0034】
さらに、線心14とシース19との密着性の適否について考察した場合を、図5を参照して説明する。図5(A)はこの発明の試験結果後のシースの断面形状を示すシースの拡大断面図、図5(B)は図6のケーブルの試験結果後のシースの断面形状を示すシースの拡大断面図である。
【0035】
この結果、図5(A)から分かるように、この発明のシース19はケーブル外周面から中心に向けて十分に食い込むように入り込み、撚り込まれた線心14の外周面14aをシース19が包み込むように被覆していることが認められる。このため、線心14の外表面に位置する絶縁体13とシース19との接触面積が増え、このことが両者間のズレの発生を制限して、ケーブルの蛇行を防止していると考えられる。
【0036】
これに対し、図5(B)の従来例のシース65では、ケーブルの外周面から中心に向けて落ち込む割合が一定であり、線心63の外周面63aをシース65で十分に密着することができていないと認められる。
【0037】
このような試験結果から次のようなことが判明した。
(1)張力の影響だけで蛇行することは考え難く、張力としごきが加わった場合に捩れを誘起して、蛇行を発生させる。よって、シースの介在状態による張力対策が必要である。
(2)捩れによる撚り線のピッチ崩れは、蛇行や断線の発生を誘起させる一因である。よって、捩れ防止手段の一例として、シース19の硬度を高くすると、捩れ防止に有効であることが認められた。
(3)捩れによる撚り線のピッチ崩れを防止する手段として、被覆材の硬度を硬くするよりも、シース19の落ち込みを深くすることが効果的である。
(4)シースの落ち込み深さを十分深くできるようにすることで、線心14とシース19とのズレを発生し難くし、これにより蛇行を防止させることができると判明した。
(5)線心が同心円上の内側と外側とに環状配置される2層構造となる撚り線は、図6に示すように、外層の拠り外径が大きいためピッチが崩れやすい。よって、撚り外径が小さくなるように設計に変更する必要がある(図2(B)参照)。この結果、子撚り合わせ体16を集合撚りさせた親撚り合わせ体18を用いる。
【0038】
次に、移動用ケーブル11の耐温度性能について試験した結果を示す。まず、低温試験として、移動用ケーブル11の完成品から500mmの試料を採取し、この採取した移動用ケーブル11を低温環境下で1時間放置させた後、90度折曲げてシースの折曲げ性能及び亀裂の有無状態を調べた。この結果、移動用ケーブル11は−10℃の低温環境下でも折曲げ可能であり、−30℃の低温環境下でも亀裂は発生せず、良好なケーブル特性を維持できることが認められた。
【0039】
一方、燃焼試験の一例として、60度傾斜燃焼試験(JIS、C、3005参照)を行った。この60度傾斜燃焼試験は、移動用ケーブル11の完成品から採取した長さ約300mmの試料を、水平に対して約60度傾斜させて支持し、還元炎の先端を試料の下端から約20mmの位置に30秒以内で燃焼するまで当て、炎を取り去った後、試料が60秒以内に自然に消えるか、否かを調査するものである。この結果、発火後、2秒程度で直ぐに消え、燃焼試験は問題ないことが認められた。
【0040】
なお、難燃性などの耐温度特性を考慮してシースの材質を、耐燃性ポリエチレン等を使用すると、耐低温性と耐燃性を大幅に改善できるが、その反面、難燃剤として使用される水酸化物が被覆材中に多く含まれてしまい、この水酸化物が機械的強度の低下を引き起こし、シースに亀裂の発生を誘起させ、耐久性及を劣化させるので好ましくない。よって、ある程度の耐低温性と耐燃性を有しながら耐久性を劣化させない材質を選択したうえで、子撚り合わせ体と親撚り合わせ体との複数段階に撚り合わせて構成した耐蛇行形状の線心集合体を作り、その外周囲をシースで被覆することで、蛇行の発生を防止した移動用ケーブルを作成することができる。
【0041】
上述のように、撚り合わせられた線心のそれぞれをシースで直接被覆固定できるため、被覆時にシースが撚り合わせられた部分の隅々まで行き渡り、各々の線心とシースとの間での接触面積を増大させて密着性を高めることができる。これにより、移動用ケーブルの内部では一体感が高められてケーブル内部でのズレが生じ難くなる。この結果、移動用ケーブルが過酷な使用条件で捩れても、その動きにケーブル内部の線心が追従するのでケーブル内部でのズレは生じず、長期使用されても蛇行が生じない信頼性の高いケーブル特性を発揮する。
【0042】
この発明の移動用ケーブル11は上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく、請求項に記載される技術思想に基づいて応用することができる。例えば、実施例では移動用ケーブル11を、はしご付き消防車に適用したものを示したが、これに限らず、産業機器、放送機器などの移動用ケーブルとして他の用途に広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】移動用ケーブルの撚り合わせ状態を示した要部拡大側面図。
【図2】(A)は子撚り合わせ体の要部拡大断面図、(B)は親撚り合わせ体の要部拡大断面図、(C)は移動用ケーブルの拡大断面図。
【図3】(A)は子撚り合わせ体を示す要部拡大側面図、(B)は線心の一部拡大側面図、(C)は線心の拡大断面図。
【図4】(A)はケーブル移動屈曲試験機の正面図、(B)はケーブル移動屈曲試験機の要部平面図。
【図5】(A)はこの発明の試験結果後のシースの断面形状を示すシースの拡大断面図、(B)は従来の試験結果後のシースの断面形状を示すシースの拡大断面図。
【図6】従来のキャブタイヤケーブルの縦断面図。
【図7】蛇行が発生したケーブルを示す要部拡大斜視図。
【符号の説明】
【0044】
11…移動用ケーブル
12…導体
13…絶縁体
14…線心
15…補強糸
16…子撚り合わせ体
17…補強線材
18…親撚り合わせ体
19…シース
32…異色

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁体により被覆した複数本の線心を、補強糸を中心とする外周囲に環状配置して撚り合わせた子撚り合わせ体を設け、
前記子撚り合わせ体の複数本を、補強線材を中心とする外周囲に環状配置して撚り合わせた親撚り合わせ体を設け、
前記親撚り合わせ体の外周囲を熱可塑性樹脂のシースにより直接被覆固定した
移動用ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体は、線心別に色分けされた地色と、該地色と異なる異色を付加して構成した
請求項1に記載の移動用ケーブル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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