説明

移動経路検出システム及び方法

【課題】携帯端末を所持する一般利用者の個人情報を保護すると共に利便性を高く保持し、かつ端末の消費電力を節約して端末本来の使用に支障が生じないようにする。
【解決手段】一般利用者が所持する携帯端末MSが、無線LANからの無線信号を受信した場合にそのSSIDをサーバ装置SVへ転送し、サーバ装置SVがこの受信したSSIDをIDデータベース231に予め記憶されている調査対象区間のSSID集合と照合する。そして、受信されたSSIDが記憶されたSSID集合のいずれかと一致すると、サーバ装置SVから携帯端末MSへ位置計測開始信号を送信して、携帯端末MSが位置計測動作を開始する。また、上記位置計測動作中に携帯端末MSが無線LANからの無線信号を受信できなくなると、その旨をサーバ装置SVに通知し、これに対しサーバ装置SVから位置計測終了信号が送られると、携帯端末MSは位置計測動作を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば公共交通機関の交通状況やイベント会場における人の動きを調査するために、利用者個人の移動経路を検出する移動経路検出システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バスや鉄道等の公共交通機関の交通量又は道路の交通量を調査する手法の一つとして、プローブ調査がある。プローブ調査は、プローブという計測端末を測定対象物に設置し、測定対象物の時刻、座標(緯度、経度)、速度等の各種計測データを一定の周期(例えば1秒間隔)で取得して、走行区間における平均速度や、バス停、駅等の特定箇所の通過時刻等を計測するものである。しかし、従来のプローブ調査は、測定対象となる交通手段ごとに専用の測定端末(プローブ)を開発し設置するようにしているため開発コストや導入コストがかかり、さらにはプローブの設置数が不足すると測定領域のカバー率が低くなってしまうという課題を有している。
【0003】
一方、最近パーソンプローブという新たなプローブ調査手法が提案されている。パーソンプローブは、測定に必要な計測機能を搭載した携帯端末を用意し、この携帯端末を調査担当者に常時携行させてその位置情報等を収集することにより、交通量測定に必要な情報を得るものである。しかしながら、調査担当者を多数用意することは一般に困難なため、十分なサンプル数が得られず高精度の調査を行うことができない。
【0004】
そこで、一般利用者が所持する携帯端末をプローブとして利用してパーソンプローブ調査を実現する試みがなされている。しかしながら、一般利用者に調査協力を求めるには個人情報の取り扱いに十分注意する必要がある。例えば、一般利用者の携帯端末により得られた位置情報を地図情報と照合すれば、当該一般利用者の自宅や勤務先等の個人情報を知ることが可能となるため、位置情報の取り扱いは慎重に行う必要がある。
【0005】
その対策として、一般利用者に事前に調査区間を指定し、その開始地点と終了地点においてそれぞれ位置計測動作の開始装置と終了操作を行ってもらうことが考えられる。このようにすれば、一般利用者の携帯端末により、例えば交通機関の乗車地点から降車地点までの区間の位置情報のみを取得することが可能となり、これにより利用者の自宅や勤務先等の位置情報やプライベートな行動経路等が漏えいする心配はなくなる。
【0006】
しかしながら、一般利用者は交通機関の乗車及び降車ごとに計測開始操作と終了操作を行わなければならなくなり、操作が面倒となって利便性の低下を招く。また、利用者が操作タイミングを間違えたり操作し忘れると、調査区間に対する位置計測を正確に行えなくなって調査精度の低下を招くおそれもある。さらに、終了操作を忘れると携帯端末は位置情報の計測動作を引き続き行うことになるため、消費電力が増大して携帯端末の連続使用時間が短くなり、一般利用者による携帯端末の本来の使用に支障を来すおそれがある。
【0007】
このうち、消費電力を節約する技術として、例えば車載ナビゲーションシステムにおいて、可搬ナビゲーション表示装置をナビゲーション基地局に対し有線ケーブルで接続したときには、可搬ナビゲーション表示装置内の位置計測ユニットを非動作状態とするものが提案されている(例えば特許文献1を参照。)。
【0008】
しかしながら、この技術では、可搬ナビゲーション表示装置をナビゲーション基地局に接続しない限り可搬ナビゲーション表示装置の位置計測ユニットは非動作状態にならない。このため、利用者が携帯端末を所持して移動中に位置計測を行う必要がある環境下では、上記した消費電力の節約技術を適用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−91268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べたように、交通量調査等の人の移動を把握することを目的とした、実用的なパーソンプローブシステムを実現するには、プローブとなる携帯端末を所持する一般利用者にとって利便性が高いものでなくてはならない。また、利用者の個人情報を保護することができるものでなければならない。さらに、位置計測動作による携帯端末の無駄な電力消費を低減して、一般利用者による携帯端末の本来の使用に支障が生じないようにする必要がある。
【0011】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、プローブとなる携帯端末を所持する一般利用者の個人情報を保護すると共に利便性を高く保持し、かつ端末の消費電力を節約して端末本来の使用に支障が生じないようにした移動経路検出システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためにこの発明の一観点は、自端末の位置を計測する位置計測手段を備えた携帯端末と、この携帯端末からその位置計測手段により計測された位置情報を通信ネットワークを介して収集するサーバ装置とを利用して、前記携帯端末を所持する利用者の移動経路を検出する際に、小電力データ通信システムの無線基地局のうち、検出対象となる移動経路区間を無線エリア内に含むように配置された無線基地局を表す第2の識別情報を、前記携帯端末及びサーバ装置のいずれか一方に予め記憶しておく。この状態で、携帯端末により、前記小電力データ通信システムの無線基地局から送信される無線信号を受信してこの無線信号から当該送信元の無線基地局を表す第1の識別情報を抽出し、この抽出された第1の識別情報を前記記憶された第2の識別情報と照合して両識別情報が一致するか否かを判定する。そして、この判定結果に基づいて、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信されている期間にのみ、前記携帯端末の位置計測手段に位置計測動作を行わせるように制御するようにしたものである。
【0013】
具体的には、第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信された時点で前記位置計測手段に位置計測動作を開始させ、以後当該無線信号を受信できなくなった時点で前記位置計測手段による位置計測動作を終了させる。
したがってこの発明の一観点によれば、携帯端末では、小電力データ通信システムの無線基地局から受信した第1の識別情報が予め登録しておいた第2の識別情報と一致している期間にのみ、言い換えれば携帯端末が検出対象となる移動経路区間を通過している期間にのみ、位置計測手段により位置計測動作が行われる。このため、利用者が検出対象となる移動経路区間以外のエリアを移動しているときには位置計測動作は行われず、この結果自宅や勤務先等が推測される心配はなくなって、個人情報の漏えいを防止することができる。
【0014】
また、携帯端末が検出対象となる移動経路区間に入って無線基地局の第1の識別情報が受信されると自動的に位置計測動作が開始され、当該第1の識別情報が受信できなくなった時点で自動的に位置計測動作は終了する。すなわち、位置計測動作の開始と終了は自動的に行われることになり、利用者が位置情報の計測開始操作と終了操作を行う必要がなくなって、利用者の利便性は高く保たれる。
【0015】
さらに、携帯端末が検出対象となる移動経路区間以外のエリアに存在するときには位置計測動作は停止されるので、検出対象区間以外での無駄な電力消費は防止される。このため、携帯端末の連続使用時間を延長することができ、これにより通話やメールの送受信、Web情報のダウンロードといった携帯端末本来の使用に極力支障が生じないようにすることができる。
【0016】
また、この発明の一観点は以下のような態様を備えることを特徴とする。
第1の態様は、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信された時点で前記位置計測手段に位置計測動作を開始させ、以後当該無線信号を受信できなくなりかつ予め設定された遅延時間が経過した後に、前記位置計測手段による位置計測動作を終了させるように制御するものである。
このようにすると、無線基地局からの無線信号が無線環境の影響により一時的に遮断されても、位置計測動作を継続することができる。
【0017】
第2の態様は、無線信号を受信できなくなってから遅延時間が経過するまでの期間内に、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が再度受信された場合には、前記遅延時間が経過した後も前記位置計測手段に位置計測動作を継続させるように制御するものである。
このようにすると、例えば乗り換えのために駅構内を移動中に、携帯端末が、識別情報が登録されている無線基地局の無線エリアから一旦外に出て、その後同様に識別情報が登録されている別の無線基地局の無線エリアに入った場合には、位置計測動作を途切れさせることなく継続することができる。
【0018】
第3の態様は、無線信号を受信できなくなった場合に、当該無線信号に含まれていた第1の識別情報に応じて前記遅延時間長を可変設定するように制御するものである。
例えば、乗り換え等がなく出口が1カ所しかないような小さな駅であれば遅延時間を短く設定する。このようにすると、降車後の無駄な位置計測動作期間をできるだけ短くして電力消費を節約することができる。これに対し乗り換えがあったり出口が複数カ所存在するターミナル駅であれば遅延時間を長く設定する。このようにすると、乗り換え移動中に位置計測動作が途絶えないようにすることができ、また利用者がどの出口を多く利用するかを把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
すなわちこの発明によれば、プローブとなる携帯端末を所持する利用者の個人情報を保護すると共に利便性を高く保持することができ、かつ端末の消費電力を節約して端末本来の使用に支障が生じないようにした移動経路検出システム及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態に係る移動経路検出システムの構成を示す機能ブロック図。
【図2】図1に示した移動経路検出システムで使用される携帯端末及びサーバ装置の処理手順と処理内容を示すフローチャート。
【図3】図1に示した移動経路検出システムの動作説明に使用するための図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照してこの発明に係る実施形態を説明する。
この発明の一実施形態は、一般利用者が所持する携帯端末を携帯電話網及びインターネットを介してサーバ装置に接続可能とし、携帯端末MSが無線LAN(Local Area Network)のアクセスポイントから受信した識別符号を上記サーバ装置へ転送し、サーバ装置がこの識別符号をもとに携帯端末が位置計測対象区間に存在するか否かを判定して、その判定結果を携帯端末に通知することにより携帯端末の位置計測動作を制御するようにしたものである。
【0022】
図1は、この発明の一実施形態に係わる移動経路検出システムの構成を示す機能ブロック図であり、MSは携帯端末、SVはサーバ装置をそれぞれ示している。なお、携帯端末MSは複数台存在するが、図1では図示を省略している。
【0023】
携帯端末MSは、例えば一般利用者が使用する携帯電話機、スマートホン、PDA(Personal Digital Assistant)、携帯型パーソナル・コンピュータ等からなる。そして、この発明を実施するために必要な機能として、携帯通信インタフェース部11と、無線LAN通信インタフェース部12と、GPS(Global Positioning System)受信機15と、位置データ計測制御部16と、SSID転送制御部13と、GPS制御部14を備えている。
【0024】
携帯通信インタフェース部11は、携帯電話網MNWとの間で無線通信を行うために使用される。無線LAN通信インタフェース部12は、無線LANとの間で無線通信を行うために使用される。GPS(Global Positioning System)受信機15は、複数のGPS衛星から送信されるGPS信号をそれぞれ受信する。
【0025】
位置データ計測制御部16は、上記GPS受信機15により受信された複数のGPS信号に基づいて、緯度、経度及び時刻からなる自端末の位置データを計算し、この計算された位置データを図示しない位置データ記憶部に記憶させる。またそれと共に、サーバ装置SVから送信された位置データ収集要求が携帯通信インタフェース部11で受信された場合に、上記位置データ記憶部から位置データ集合を読み出して、この位置データ集合を携帯通信インタフェース部11から要求元のサーバ装置SVへ送信させる処理を行う。
【0026】
SSID転送制御部13は以下の処理機能を有する。
(1) 無線LANのアクセスポインタAP1〜APnから送信される無線信号が無線LAN通信インタフェース部12により受信された場合に、この受信された無線信号から識別符号(SSID;Service Set IDentifier)を抽出する。そして、この抽出されたSSIDを含む判定要求信号を携帯通信インタフェース部11からサーバ装置SVへ送信する処理。ここで、SSIDは子機にアクセスポイントの存在を知らせたり、複数のアクセスポイントをグループ化するためのもので、アクセスポイントごと或いはアクセスポイントのグループごとにユニークに設定されている。
(2) アクセスポインタAP1〜APnから送信される無線信号を受信できなくなった場合に、電波非検出通知信号を生成して携帯通信インタフェース部11からサーバ装置SVへ送信する処理。
【0027】
GPS制御部14は以下の処理機能を備える。
(1) 上記SSID転送制御部13による判定要求信号の送信に応答してサーバ装置SVから位置計測開始信号が返送され、この位置計測開始信号が携帯通信インタフェース部11により受信された場合に、GPS受信機15及び位置データ計測制御部16を動作状態に遷移させて位置データ計測制御部16に位置計測動作を開始させる処理。
(2) 位置計測動作が行われている状態で、上記電波非検出通知信号の送信に応答してサーバ装置SVから位置計測終了信号が返送され、この位置計測終了信号が携帯通信インタフェース部11により受信された場合に、予め設定した一定の遅延期間が経過した後にGPS受信機15及び位置データ計測制御部16を非動作状態に遷移させて位置データ計測制御部16による位置計測動作を終了させる処理。
【0028】
一方、サーバ装置SVは、例えばサービス事業者又は通信事業者が運用するWebサーバからなり、通信インタフェースユニット21と、制御ユニット22と、記憶ユニット23を備えている。このうち通信インタフェースユニット21は、インターネットINWとの間でデータ通信を行うために使用される。
【0029】
記憶ユニット23は、この発明を実施するために必要な記憶機能として、IDデータベース231と、位置データベース232を有している。IDデータベース231には、公共交通機関の運行経路のうち、交通量の調査対象となる区間をサービスエリアとする無線LANのアクセスポイントAP1〜APnに割り当てられたSSIDの集合が予め記憶される。位置データベース232は、各携帯端末MSからそれぞれ収集したその移動経路を表す位置データ集合を蓄積するために使用される。
【0030】
制御ユニット22は、中央処理ユニット(CPU;Central Processing Unit)を有し、この発明を実施するために必要な制御機能として、ID比較判定部221と、位置データ収集制御部222を備えている。なお、これらのID比較判定部221及び位置データ収集制御部222は、アプリケーションプログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
【0031】
ID比較判定部221は、以下の処理機能を有する。
(1) 携帯端末MSから送信された判定要求信号が通信インタフェースユニット21で受信された場合に、この受信された判定要求信号からSSIDを取り出し、この受信されたSSIDをIDデータベース231に記憶された調査対象区間のSSID集合と照合する。そして、受信されたSSIDが調査対象区間のSSID集合のいずれかと一致した場合に、位置計測開始信号を生成して通信インタフェース21から要求元の携帯端末MSへ送信させる処理。
(2) 携帯端末MSから送信された電波非検出通知信号が通信インタフェースユニット21で受信された場合に、位置計測終了信号を生成して通信インタフェース21から通知元の携帯端末MSへ送信させる処理。
【0032】
位置データ収集制御部222は、各携帯端末MSに対しそれぞれ通信インタフェースユニット21から任意のタイミングで位置データ収集要求を送信し、この要求に応答して各携帯端末MSから送信された位置データ集合を通信インタフェースユニット21を介して受信し、位置データベース222に記憶させる処理を行う。なお、この位置データベース232に記憶された位置データ集合は交通量の統計処理に用いられるが、この統計処理はサーバ装置SVで実行してもよく、また他のコンピュータ装置に転送して実行させるようにしてもよい。
【0033】
次に、以上のように構成されたシステムによる移動経路検出動作を説明する。図2は、同システムの携帯端末MS及びサーバ装置SVによる処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
ここでは、例えば図3に示すように、携帯端末MSを所持した一般利用者が自宅HMを出て最寄り駅ST1で電車に乗り、ターミナル駅ST2,ST3で別の電車に乗り換えたのち駅ST4で降り、この降車駅ST4から非検出ィスCOがあるビルまで徒歩で向かう場合を例にとって説明する。
【0034】
携帯端末MSは、待機状態においてステップS11によりSSID転送制御部13がSSIDの受信を監視している。この状態で、携帯端末MSが駅ST1に到着し無線LANのサービスエリアE1に入ると、アクセスポイントが送信している無線信号が無線LAN通信インタフェース部12により受信される。携帯端末MSでは、SSID転送制御部13により、上記受信された無線信号からSSIDが抽出されてこのSSIDを含む判定要求信号が生成され、この生成された判定要求信号が携帯通信インタフェース部11からサーバ装置SVへ送信される(ステップS12)。
【0035】
一方サーバ装置SVでは、ステップS13により判定要求信号の受信監視が行われている。この状態で判定要求信号が受信されると、ステップS14によりID比較判定部221が起動され、上記受信された判定要求信号に含まれるSSIDを、IDデータベース231に予め記憶されている調査対象区間に対応するSSID集合と照合する処理が行われる。この照合の結果、上記受信されたSSIDが調査対象区間のSSID集合のいずれかと一致すると(ステップS15)、ステップS16により位置計測開始信号が生成されて通信インタフェース21から判定要求元の携帯端末MSへ送信される。なお、上記受信されたSSIDが調査対象区間のSSID集合のいずれかとも一致しなかった場合には、ID比較判定部221はそのまま処理を終了し待機状態に戻る。
【0036】
携帯端末MSでは、上記SSIDを含む判定要求信号を送信すると、ステップS17及びステップS18によりGPS制御部14が、上記判定要求信号の送信後一定時間以内に位置計測開始信号が受信されるか否かを監視する。この状態で、上記一定時間以内に位置計測開始信号が受信されると、GPS制御部14は調査対象区間に入ったと判断してステップS19によりGPS受信機15及び位置計測制御部16を動作状態に遷移させる。この結果、位置計測制御部16ではGPS受信機15により受信されたGPS信号をもとに位置データの計測が開始され、この計測された位置データは位置データ記憶部に記憶される。以後位置計測制御部16では、一定の時間(例えば1秒)間隔で位置データの計測及びその結果の記憶処理が行われる。すなわち、利用者が乗車駅ST1の構内に入ると、携帯端末MSでは自動的に位置計測動作が開始される。
【0037】
また、上記位置計測動作の実行期間中に携帯端末MSでは、SSID転送制御部13により無線LANのアクセスポイントからの無線信号の受信監視が行われる(ステップS20)。そして、当該無線LANからの無線信号が受信されている限り、上記位置計測動作は継続される。
【0038】
一般に、図3に示すように公共交通機関の駅ST1,ST2,ST3,ST4の構内及び車両DV1,DV2内には無線LANのアクセスポイントが設置されており、これらのアクセスポイントにより駅構内及び車両内にはサービスエリアE1,E2,E3,EDV1,EDV2が形成されている。このため、利用者が公共交通機関を利用して移動している最中には無線LANの無線信号が継続して受信され、携帯端末MSでは位置計測動作が継続して行われる。したがって、調査対象区間である公共交通機関の移動経路においては、途切れることなく利用者の位置データが得られる。
【0039】
さて、利用者が駅ST4で降車して駅構外に出ると、携帯端末MSは無線LANのサービスエリアE3の圏外に出る。そうすると、携帯端末MSでは無線LANの無線信号を受信できなくなる。SSID転送制御部13は、上記無線信号が受信されない状態が一定時間以上続いたことをステップS21で検出すると、ステップS22により電波非検出通知信号を生成してこの信号を携帯通信インタフェース部11からサーバ装置SVへ向け送信する。なお、上記無線信号が受信されない状態が一定時間以上続いたことを検出する理由は、無線環境の影響による無線信号の一時的な断を即時電波非検出と判定しないようにするためである。
【0040】
これに対しサーバ装置SVでは、先に述べた位置計測開始信号の送信後に、ID比較判定部221により電波非検出通知信号の受信監視が行われている(ステップS23)。この状態で、携帯端末MSから電波非検出通知信号が受信されると、ID比較判定部221により位置計測終了信号が生成され、この位置計測終了信号が通信インタフェースユニット21から通知元の携帯端末MSへ送信される(ステップS24)。
【0041】
上記電波非検出通知信号の送信後に、携帯端末MSではステップS25により位置計測終了信号の受信監視が行われる。この状態で、位置計測終了信号が受信されると、GPS制御部14により、一定時間の遅延処理が行われた後(ステップS26)、GPS受信機15及び位置データ計測制御部16を非動作状態に遷移させる処理が行われる(ステップS27)。この結果、利用者が降車駅ST4の構外に出ると、携帯端末MSでは位置データの計測動作が終了される。すなわち、利用者が降車駅ST4の構外に出ると、自動的に位置計測動作は終了される。
【0042】
なお、上記遅延処理期間中に無線LANからの無線信号が再度受信された場合には、GPS受信機15及び位置データ計測制御部16を動作状態に保持させて位置計測動作を継続させる。
【0043】
また、利用者が、公共交通機関の降車後非検出ィスCOに着くまでの途上で、例えば図3に示すように無線LANのサービスエリアE4を通過したとする。そうすると、携帯端末MSでは上記サービスエリアE4に入ったところで無線LANの無線信号が受信され、この無線信号に含まれるSSIDがサーバ装置SVへ送られる(ステップS12)。
【0044】
これに対しサーバ装置SVでは、上記携帯端末MSから送られたSSIDがIDデータベース231に記憶されている調査対象区間に対応するSSID集合と照合される。このとき、上記サーバスエリアE4は調査対象区間から外れている。このため、上記照合の結果、上記受信されたSSIDはIDデータベース231に記憶されているSSID集合のいずれとも一致しない。このため、サーバ装置SVから携帯端末MSへは位置計測開始信号は送信されない。
【0045】
携帯端末MSでは、SSIDの判定要求信号の送信後一定時間以内に位置計測開始信号が受信されないと、そのまま待ち受け状態に戻る。このため、利用者が調査対象区間以外の場所を通過しても、携帯端末MSでは位置計測動作は行われない。したがって、調査対象区間以外の位置データが利用される心配はまったくなく、これにより利用者の自宅位置や勤務先の位置が第三者により推測される心配もない。また、携帯端末MSでは調査対象区間を通過している時間帯以外には位置計測動作が行われない。このため、調査対象区間以外で位置計測動作のために電力が消費されることはなく、これにより無駄な電力消費が抑制されてバッテリ寿命を延ばし、連続使用時間を延長することが可能となる。
【0046】
以上詳述したようにこの実施形態では、一般利用者が所持する携帯端末MSが、無線LANのアクセスポイントAP1〜APnから無線信号を受信した場合にこの無線信号に含まれるSSIDをサーバ装置SVへ転送し、サーバ装置SVがこの受信したSSIDをIDデータベース231に予め記憶されている調査対象区間に対応するSSID集合と照合する。この照合の結果、受信されたSSIDが記憶されたSSID集合のいずれかと一致すると、サーバ装置SVから携帯端末MSへ位置計測開始信号を送信し、この位置計測開始信号を受けて携帯端末MSがGPS受信機15及び位置データ計測制御部16を動作状態に設定して位置計測動作を開始させる。また、上記位置計測動作中に携帯端末MSが無線LANからの無線信号を受信できなくなると、その旨をサーバ装置SVに通知し、これに対しサーバ装置SVから位置計測終了信号が送られると、携帯端末MSがGPS受信機15及び位置データ計測制御部16を非動作状態に設定して位置計測動作を終了するようにしている。
【0047】
したがって、携帯端末MSでは、利用者が交通量の調査対象区間に含まれる乗車駅ST1の構内に入ると自動的に位置計測動作が開始され、また利用者が調査対象区間の降車駅ST4で降りて構外に出ると自動的に位置計測動作は終了される。このため、利用者は位置計測動作の開始操作及び終了操作を一切行う必要がなく、これにより利用者の利便性は良好に維持される。
【0048】
また、利用者が調査対象区間を通過している期間にのみ位置データが計測されることになり、その他の場所では位置データの計測動作は行われない。このため、位置データをもとに利用者の自宅や勤務先等のプライベートな場所が推測される不具合を未然に防止することができ、これにより個人情報を保護することができる。
【0049】
さらに、調査対象区間以外の場所では位置計測動作が行われないので、携帯端末MSでは位置計測動作のために電力が消費されることがなく、これにより無駄な電力消費が抑制されてバッテリ寿命を延ばし、連続使用時間を延長することが可能となる。この効果は、携帯端末MS本来の使用にできる限り支障が生じないようにすることができ、きわめて重要である。
【0050】
さらに、無線LANからの無線信号を受信できなくなりかつ予め設定された遅延時間が経過した後に位置計測動作を終了させるようにしているので、無線LANからの無線信号が無線環境の影響により一時的に遮断されても、位置計測動作を継続することができる。
なお、地下鉄の構内等においてはGPS信号を受信できず実質的に位置データを得ることができない場所が存在する。しかし、上記したように遅延時間を設けて位置計測動作を継続することで、例えばユーザが地下鉄構内から地上に出た時点で、GPS信号の受信が再開されこれにより位置データを得ることができ、これによりユーザの足取りをより確実に把握することが可能となる。
また、鉄道会社によっては車両に無線LANのアクセスポイントを設置していない会社もある。この場合、ユーザが車両に乗車中には位置データが計測できない。しかし、本実施形態によれば、ユーザが車両を降りて駅構内に入ると、この降車駅の構内に設置された無線LANアクセスポイントから無線信号を受信できるので、位置計測動作が開始される。したがって、ユーザの位置データは少なくとも駅ごとに取得することができ、これらの位置データをもとに補間処理することで、ユーザの移動経路を推測することは可能である。
【0051】
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、携帯端末MSにおいて、無線LANからの無線信号を受信できなくなってから遅延時間が経過するまでの期間内に、サーバ装置SVから位置計測開始信号が到来した場合には、上記遅延時間が経過した後も位置計測動作を継続させるように制御してもよい。このようにすると、例えば利用者がターミナル駅の構内を乗り換えのために移動中に、携帯端末MSが無線LANのサービスエリアから一旦外に出て、その後無線LANの別のサービスエリアに入った場合にも、位置計測動作を途切れさせることなく継続することができる。
【0052】
また、携帯端末MSにおいて無線LANからの無線信号を受信できなくなった場合に、当該無線信号に含まれていたSSIDに応じて遅延時間長を可変設定するようにしてもよい。これは、携帯端末MSに調査対象区間に存在する各駅に設置されているアクセスポイントのSSIDに関連付けて遅延時間長を表す情報を記憶したメモリテーブルを用意し、このテーブルを参照して遅延時間を設定することで実現できる。
例えば、乗り換え等がなく出口が1カ所しかないような小さな駅であれば遅延時間を短く設定する。このようにすると、降車後の無駄な位置計測動作期間をできるだけ短くして電力消費を節約することができる。これに対し、乗り換え連絡口や出口が複数カ所存在するターミナル駅であれば遅延時間を長く設定する。このようにすると、乗り換え移動中に位置計測動作が途絶えないようにすることができ、また利用者がどの出口を多く利用するか、どの階段を利用するか、出口を出た後の歩行方向の計測が可能である。これにより、利用者の乗車目的や、他の公共交通機関に乗り換える際の連絡経路に関する情報の取得が可能なる。
【0053】
さらに、前記実施形態では、携帯端末MSからサーバ装置SVへのSSIDの伝送、サーバ装置SVから携帯端末MSへの位置計測開始信号及び位置計測終了信号の伝送を、携帯電話網MNW及びインターネットINWを介して行うようにしたが、無線LANを介して行うようにしてもよい。
【0054】
さらに、前記実施形態では、ID比較判定部221及びIDデータベース231をサーバ装置SVに設けた場合を例にとって説明したが、ID比較判定部221及びIDデータベース231を携帯端末MS内に設けてもよい。このようにすると、携帯端末MSの負荷は増加するものの、この発明を実施するための一連の処理をすべて携帯端末MS内で行うことができる。
【0055】
さらに、前記実施形態では、無線LANのアクセスポイントAP1〜APnが送信する無線信号に含まれるSSIDを用いて、携帯端末MSにおける位置計測動作を制御するようにした。しかし、それに限定されるものではなく、公共交通機関で利用される課金システムの電子情報や課金時に発する音声情報などを用いて位置計測動作を行う期間を制御するようにしてもよい。例えば、自動改札機のようにSUICA(登録商標)等のFeliCa(登録商標)を使用したシステムで使用される識別情報を用いて、位置計測動作を制御する。その他、RFID信号に含まれる識別情報を用いて位置計測動作を制御するようにしてもよい。
【0056】
また、小電力データ通信システムとしては、無線LANに限らずBlueTooth(登録商標)等のその他のシステムを利用可能である。要するに、空中線電力が10ミリW以下の小ゾーン又はマイクロセルと呼ばれる無線通信エリアを形成するシステムであれば、如何なるシステムでも適用可能である。
【0057】
さらに、ID比較判定部221がGPS制御部14に位置計測開始及び終了信号を、公共交通機関の管理下にある情報管理データベースに送付することも可能である。このようにすると、公共交通機関の運用事業者は、交通量調査サービスに協力する一般利用者に対して、運賃の割引制度やその他の特典を付与することが可能となる。これにより、一般利用者は交通量調査サービスに協力することに対する経済的メリットを享受することが可能になる。
【0058】
さらに、前記実施形態では、公共交通機関に調査対象区間を設定してこの調査対象区間の交通量を調査することを目的としたが、テーマパークやコンサート会場、見本市会場等のイベント会場に調査対象区間を設定して当該区間における人の流れを調査するようにしてもよい。その他、アウトレットモールや商店街等に適用して人の流れを調査するようにしてもよい。
【0059】
その他、システムの構成、携帯端末の種類、サーバ装置の種類とその構成、移動経路検出処理の手順と処理内容等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
要するにこの発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0060】
MS…携帯端末、SV…サーバ装置、INW…インターネット、MNW…携帯電話網、LNW…無線LAN、AP1〜APn…アクセスポイント、11…携帯通信インタフェース部、12…無線LAN通信インタフェース部、13…SSID転送制御部、14…GPS制御部、15…GPS受信機、16…位置データ計測制御部、21…通信インタフェースユニット、22…制御ユニット、23…記憶ユニット、221…ID比較判定部、222…位置データ収集制御部、231…IDデータベース、232…位置データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自端末の位置を計測する位置計測手段を備えた携帯端末と、この携帯端末からその位置計測手段により計測された位置情報を通信ネットワークを介して収集するサーバ装置とを具備し、前記計測された位置情報をもとに前記携帯端末を所持する利用者の移動経路を検出する移動経路検出システムであって、
前記携帯端末は、
小電力データ通信システムの無線基地局から送信される無線信号を受信したとき、この受信された無線信号から当該送信元の無線基地局を表す第1の識別情報を抽出する識別情報抽出手段を備え、
前記携帯端末及びサーバ装置のいずれか一方は、
前記小電力データ通信システムの無線基地局のうち、検出対象となる移動経路区間を無線エリア内に含むように配置された無線基地局を表す第2の識別情報を予め記憶した識別情報記憶手段と、
前記抽出された第1の識別情報を前記記憶された第2の識別情報と照合し、両識別情報が一致するか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信されている期間にのみ、前記携帯端末の位置計測手段に位置計測動作を行わせる制御手段と
を備えることを特徴とする移動経路検出システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信された時点で前記位置計測手段に位置計測動作を開始させ、以後当該無線信号を受信できなくなった時点で前記位置計測手段による位置計測動作を終了させることを特徴とする請求項1記載の移動経路検出システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信された時点で前記位置計測手段に位置計測動作を開始させ、以後当該無線信号を受信できなくなりかつ予め設定された遅延時間が経過した後に、前記位置計測手段による位置計測動作を終了させることを特徴とする請求項1記載の移動経路検出システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記遅延時間が経過するまでの期間内に、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が再度受信された場合には、前記遅延時間が経過した後も前記位置計測手段に位置計測動作を継続させることを特徴とする請求項3記載の移動経路検出システム。
【請求項5】
前記制御手段は、無線信号を受信できなくなった場合に、当該無線信号に含まれていた第1の識別情報に応じて前記遅延時間長を可変設定することを特徴とする請求項3記載の移動経路検出システム。
【請求項6】
自端末の位置を計測する位置計測手段を備えた携帯端末と、この携帯端末からその位置計測手段により計測された位置情報を通信ネットワークを介して収集するサーバ装置とを利用し、前記計測された位置情報をもとに前記携帯端末を所持する利用者の移動経路を検出する移動経路検出方法において、
小電力データ通信システムの無線基地局のうち、検出対象となる移動経路区間を無線エリア内に含むように配置された無線基地局を表す第2の識別情報を、前記携帯端末及びサーバ装置のいずれか一方に予め記憶させる過程と、
前記携帯端末により、前記小電力データ通信システムの無線基地局から送信される無線信号を受信したとき、この受信された無線信号から当該送信元の無線基地局を表す第1の識別情報を抽出する過程と、
前記携帯端末及びサーバ装置のいずれか一方により、前記抽出された第1の識別情報を前記記憶された第2の識別情報と照合し、両識別情報が一致するか否かを判定する過程と、
前記携帯端末及びサーバ装置のいずれか一方により、前記判定の結果に基づいて、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信されている期間にのみ、前記携帯端末の位置計測手段に位置計測動作を行わせる制御過程と
を備えることを特徴とする移動経路検出方法。
【請求項7】
前記制御過程は、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信された時点で前記位置計測手段に位置計測動作を開始させ、以後当該無線信号を受信できなくなった時点で前記位置計測手段による位置計測動作を終了させることを特徴とする請求項6記載の移動経路検出方法。
【請求項8】
前記制御過程は、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が受信された時点で前記位置計測手段に位置計測動作を開始させ、以後当該無線信号を受信できなくなりかつ予め設定された遅延時間が経過した後に、前記位置計測手段による位置計測動作を終了させることを特徴とする請求項6記載の移動経路検出方法。
【請求項9】
前記制御過程は、前記遅延時間が経過するまでの期間内に、前記第2の識別情報と一致する第1の識別情報を含む無線信号が再度受信された場合には、前記遅延時間が経過した後も前記位置計測手段に位置計測動作を継続させることを特徴とする請求項8記載の移動経路検出方法。
【請求項10】
前記制御過程は、前記無線信号を受信できなくなった場合に、当該無線信号に含まれていた第1の識別情報に応じて前記遅延時間長を可変設定することを特徴とする請求項8記載の移動経路検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−89030(P2012−89030A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236840(P2010−236840)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】