説明

移植機

【課題】
既植苗列の終端位置と、これから植え付ける苗列の始端位置とを揃えるための指標を設けた移植機において、従来の移植機に大幅な改造を施すことなく、前行程の既植苗列の終端位置とこれから植え付ける苗列の始端位置とを揃えることを、比較的正確、且つ容易にできる移植機を提供する。
【解決手段】
左右往復動する苗載せ台を支持する摺動レールの外方に、摺動レールの他物との衝突を防止する保護部材に植付開始用の指標を付した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既植苗列の終端位置と、これから植え付ける苗列の始端位置とを揃えるための指標を設けた移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
枕地旋回後、前行程の既植苗列の終端位置と、これから植え付ける苗列の始端位置とを揃えるために、植付開始用の指標を設けた移植機は既に知られている(特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−284407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1のものは、植付開始用の指標となる植始めマーカを走行機体の後部に設け、既植苗の終端列とを見比べ、植始めマーカと既植苗の終端列との交差位置が、オペレーターが記憶している高さ位置に一致した時点で植付けクラッチを入れて現行程の植付けを開始するものであるから、上記交差位置に既植苗列が達したときの実際の植付け位置がオペレータの着座姿勢の変化によって大きく異なり、オペレータは植始めマーカと既植苗の終端列とを見比べる際に、常に一定の姿勢を強いられる。
【0005】
また、前記交差位置を決定するために、準備段階として一行程の植付を終えた後、一度既植苗の終端列の真横に苗植付け装置における植付位置を位置させ、その状態で既植苗の終端列と植始めマーカとの交差位置点が植始めマーカのどの位置にあるかを記憶する必要がある。
本発明の目的は、上記従来の不具合を改善する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、摺動レールに支持されて左右往復動する苗載せ台から、植付杆によって苗を掻き取って圃場に移植する乗用型移植機において、前記摺動レールの外方に、該摺動レールの外端部の他物との衝突を防止する保護部材を設けると共に、当該保護部材に植付開始用の指標を付したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、摺動レールに支持されて左右往復動する苗載せ台から、植付杆によって苗を掻き取って圃場に移植する乗用型移植機において、前記摺動レールの外方に、該摺動レールの外端部の他物との衝突を防止する保護部材を設けると共に、当該保護部材に植付開始用の指標を付したので、植付開始用の指標として、摺動レールの保護部材が自ずと隣接する既植苗列近傍に位置し、且つ、既植苗の頂部との高低差も比較的に少ないことに着目し、該保護部材を利用することで、専用の植始めマーカ等を設けることなく、前行程の既植苗列の終端位置とこれから植え付ける苗列の始端位置とを揃えることを、比較的正確、且つ容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて説明する。
【0009】
図1、図2及び図3において、本発明の乗用型移植機の一例である乗用型田植機1は、走行機体2の後部に移植作業機3を油圧リンク機構4を介して昇降可能に連結しており、走行機体2の下部には左右一対の前輪5a,5a、と後輪5b,5bを備えている。
走行機体2の前部には図示しないエンジン、油圧式無段変速装置、及びトランスミッションケースを設けており、エンジンから取り出された動力は、油圧式無段変速装置を介してトランスミッションケース内の動力伝達装置によって走行動力と、植付動力に分配されて前記前輪5a,5a、後輪5b,5b、及び移植作業機3に伝達される。
また、走行機体2の中央部には操縦席6を設けており、その前方にはステアリングハンドル7、側方には移植作業機3の昇降、植付クラッチの入・切、及び左右の線引マーカ8L,8Rの内、作用姿勢にするマーカを選択する作業機操作レバー9を備えている。
【0010】
一方、前記移植作業機3は、油圧リンク機構4の後端部にローリング軸を介して取り付けられており、2本のプランターケース10の後部両側に苗の植付け用の植付爪11aを有する植付杆11が設けられており、4条植えの苗植付装置を構成している。
また、各条の植付杆11の植付爪11aは所定の植付条間幅L1(本実施形態では30cm)を隔てて設けられている。
【0011】
また、苗載せ台12は仕切り壁12aによって仕切られた苗載置面12bを左右方向に4つ並設しており、その上部をプランターケース10の左右内方から立設した苗載台支持フレーム13を介して、また下部を前記2本のプランターケース10の上面に亘って横設した摺動レール14を介して左右摺動自在に支持されている。
尚、前記苗載置面12bの横幅は植付条間幅L1から前記仕切り壁12aの幅を除いた幅に構成されている(本実施形態では28cm)。
【0012】
さらに、プランターケース10の下部には支持アーム15を介して複数のフロート16が支持されており、該フロート16の支持高さを変更することにより植付杆11と圃場面との距離を変更して苗の植付深さを調節するように構成されている。
【0013】
一方、プランターケース10の側面には支持部材17を介して前記摺動レール14の左右外端部が他物と直接衝突して破損することを防止する保護部材18が取り付けられている。
該保護部材18は平面視略コ字状に曲げ加工されたパイプ部材からなり、支持部材17への取付部から外側方に延びて摺動レール14の前部を保護する前保護部18a、前保護部18aの先端部から後方へ延びて摺動レール14の側部を保護する側保護部18b、該側保護部18bの後端部から機体内側方に延びて摺動レール14の後部を保護する後保護部18cを有している。
そして、前記前保護部18a、側保護部18b、後保護部18cにより、平面視で摺動レール14の外端部を囲むように設けられている。
また、保護部材18は側面視で前記摺動レール14の下方に位置し、移植作業機3を上昇位置から下降させた場合に畦等の障害物との下方からの衝突から摺動レール14を保護するように構成されている。
【0014】
本乗用型田植機1は、前記作業機操作レバー9を操作して、フロート16が圃場面に接地するように移植作業機3を下降させ、さらに、植付クラッチを入り操作すると、走行機体2を走行させながら、走行機体2から伝達された動力によって苗載せ台12を摺動レール14に沿って左右往復動させると共に植付杆11を駆動させて植付杆11の植付爪11aが左右往復動する苗載台12の苗載せ面12bの下端部から苗を掻きとって圃場に植え付ける構造となっている。
この時、苗載せ台12の左右移動量は、植付爪11aが苗載せ面12bの幅方向の苗を全て掻き取ることができる量、即ち、苗載置面12bの幅から植付爪11aの幅を除いた長さであるから、苗載せ台12を支持する摺動レール14は植付条間幅L1と同等か若干短い長さ分だけ最外側の植付爪11aよりも外側方へ張り出して構成すればよく、その際、前記保護部材18は、摺動レール14の端部を保護するためにその近傍に位置しているため、保護部材18の側保護部18bは自ずと隣接既植苗列Nの上方近傍に位置することとなる。
【0015】
また、保護部材18の前記側保護部18bに、保護部材18の全体の塗装色とは異なる色の塗装を施した着色部18dを設けており、該着色部18dを既植苗列の終端位置と、これから植え付ける苗列の始端位置とを見比べる植付開始用の指標としている。
詳述すると、前記植付開始用の指標18dは 図4に示すように、側面視で植付杆11の植付爪11aが描く植付軌跡Pの下端部直上方よりも若干前方に付されており、該植付開始用の指標18dを隣接既植苗列Nの終端位置NEの苗の直上方に位置させ、その位置で植付走行を開始することにより、乗用型田植機1の前進に伴って植付杆11の植付爪11aが下降して苗を圃場に植え付け、隣接既植苗列の終端位置NEと、これから植え付ける苗列の始端位置NSとが揃うように構成されている。
尚、本実施の形態では、保護部材18に着色することで指標となしたが、テープを保護部材18に貼付する、又は別途指標体を保護部材18に装着するものであっても良い。
【0016】
一方、走行機体2の前部に設けられた線引きマーカ8L,8Rは図1、及び図3に示すように走行機体2の側方に倒伏して圃場面に次行程の植付走行の指標となる線を引く作用姿勢と、図2に示すように上方に起立回動させた非作用姿勢とにその姿勢を切換え可能にしており、移植作業機3の下降と共に作業機操作レバー9によって選択した側の線引きマーカ8L、8Rが作用姿勢に倒伏し、上昇と共に非作用姿勢に起立するように構成されている。
そして、走行機体2の前端部、且つ左右方向中央部には、センターマスコット19が前後回動可能に設けられており、前記線引きマーカ8L、8Rで圃場に引いた線を指標としてセンターマスコット19をこの線に合致させながら植付走行することによって、隣接既植苗列と現行程で植え付ける苗の隣接既植列側の最外側の植付苗列との間隔を一定間隔(L1)に保ちながら現行程の植付走行を行うことができる。
【0017】
また、前記線引きマーカ8L,8Rには、補助マーカ21を取り付ける取付部8aが夫々設けられており、図5に示すように、補助マーカ21を畦側の線引きマーカの取付部8aに取り付けた状態では、補助マーカ21の先端と、該補助マーカ21を取り付けた側の最外側の植付位置との距離が植付条間幅L1の5倍の長さよりも若干長くなるように構成されており、左右の線引きマーカ8L,8Rを作業姿勢にし、補助マーカ21の先端を畦Zに沿わせた状態で走行すると、図6中のAに示すように、圃場中心側の植付マーカ8Lによって、2行程分の全条植付走行分の枕地幅L2を残して往復植付走行を開始できるように、往復植付走行時の指標M1が圃場面に形成される。
そして、この補助マーカ21はその先端で圃場面に指標を形成することも可能であり、圃場中心側の植付マーカ8Lに補助マーカ21を取り付け、図6中のBに示すように、圃場中心側の植付マーカ8Lを作業姿勢にして、畦側の植付マーカ8Rを非作用姿勢に切換えた状態で乗用型田植機1を畦Zに沿わせて走行すると圃場面に往復植付走行時の植付開始位置、又は植付終了位置を示す指標M2,M3が形成される。
【0018】
一方、センターマスコット19の先端部には移植作業時のエンジン回転数が所定回転数であるか否かを表示する表示灯20が備えられており、赤色の表示灯20aと青色の表示灯20bが並設されている。
該表示灯20は、植付作業時の過負荷によりエンジンドロップが生じた際に、赤色の表示灯20aが点灯することで作業者にその旨を報知することで油圧式無段変速装置の減速操作を促し、エンジンストップ等を未然に防止するものである。
詳述すると、エンジンにはエンジン回転センサが取り付けられており、該エンジン回転センサで検出されたエンジンの実回転数と予め設定された回転数をマイコンユニットによって比較して、エンジンの実回転数が予め設定した回転数以上、即ち適正回転数である場合には、青色の表示灯20bが点灯する。
また、エンジンの実回転数が予め設定した回転数を下回る場合には、赤色の表示灯20aが点灯し、オペレータに油圧式無段変速装置の減速操作を促す。
尚、前記表示灯20は、オペレータが植付走行時に常に目視するセンターマスコット19に設けられているため、表示灯20による報知を見落とすことが少ない。
【0019】
また、図7において、符号22は移植作業機3の苗載せ台12上の苗が少なくなった際に、補充するための予備苗を載置する予備苗台である。
図7(a)に示すように、予備苗台22は下部に機体フレームへの取付部23aを有したコ字状の支柱23を設け、該コ字状の支柱23の縦部材23bを繋ぐ平面視ループ状の支持枠24を機体外側方に延設することで構成されており、図7(b)に示すように、苗箱25の苗収容部25aを支持枠24内に挿入し、鍔部25bを支持枠24に支持させることによって、予備苗を苗箱ごと載置することができるように構成されている。
【0020】
以上のように構成された乗用型田植機1において、圃場にて移植作業を行う際には、図8に示すように、圃場の枕地を残してその内側を往復植付走行した後、残った枕地を周回植付走行するため、乗用型田植機1が周回植付走行をするための所定の枕地幅を残して往復植付走行を開始する必要がある。
そのため、本発明の乗用型田植機1においては、先ず、準備段階として、図6中のAに示すように畦側の線引きマーカ8Lに補助マーカ21を取り付け、左右両方の線引きマーカ8L,8Rを作業姿勢にし、上記補助マーカ21を畦Zに沿わせながら走行して、圃場中心側の線引きマーカ8Lによって圃場面に指標M1を形成する。
この指標M1にセンターマスコット19が合致するようにして往復植付走行を開始することによって機体側方に周回植付走行2周分の幅L2の枕地を残して往復植付を行うことができる。
また、図7中のBに示すように圃場中心側の線引きマーカ8Lに補助マーカ21を付け替えて作業姿勢とし、畦側の線引きマーカ8Rを非作業姿勢として乗用型田植機1を畦Zに沿わせて走行すると、往復植付走行の植付開始位置、又は植付終了位置となる指標M2,M3を形成し、指標M2,M3と畦Zの間に周回植付走行2周分の幅L2の枕地を残すことができる。
【0021】
次に、前述のように形成した各指標M1,M2,M3を用いて往復植付走行を開始する場合、先ず、前記指標M1に、センターマスコット19を合致させる。
ついで、指標M2と前記摺動レール14の保護部材18に設けた植付開始用指標18dとが合致した時点で植付クラッチを入操作することで乗用型田植機1の側方、及び後方に周回植付走行2周分の幅L2の枕地を残して植付走行を開始することができる。
そして、指標M3に前記植付開始用指標18dが合致した時点で植付クラッチを切ることで周回植付走行2周分の幅L2の枕地を残して往復植付走行の現行程の植付を終了することができる。
その後、移植作業機3と共に線引きマーカ8を非作用姿勢に上昇させ、走行機体を180度旋回させて、前線引きマーカ8が圃場面に引いた線にセンターマスコット19を合致させ、前記植付開始用指標18dが隣接既植苗列Nの終端NEに位置する苗の頂部と合致した時点、即ち図3、図4で示す位置、及び図8中のC位置で植付クラッチを入にすることで現行程の植付苗列の始端位置と前行程の植付苗列の終端位置とを合致させることができる。
【0022】
この際、植付開始用指標18dは摺動レール14を保護する保護部材18に設けてあるため、移植作業機3の外側に設けてあり、移植杆11の位置を直接確認するもののように苗載せ台12等に遮られることなく容易に視認することができる。
【0023】
また、前記植付開始用指標18dは平面視において、上記保護部材18が自ずと隣接する既植苗列近傍に位置し、且つ、摺動レール14に対する下方からの障害物への衝突を防止するように、側面視で摺動レール14の下方に位置するように構成されており、保護部材18と既植苗の頂部との高低差も比較的に少ないため、専用の植始めマーカ等を設けることなく、前行程の既植苗列の終端位置とこれから植え付ける苗列の始端位置とを揃えることを、比較的正確、且つ容易にできる移植機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の乗用型移植機の一例である乗用型田植機の線引きマーカ下降(作用姿勢)時の側面図である。
【図2】同上線引きマーカ上昇(非作用姿勢)時の側面図である。
【図3】往復植付走行時の平面図である。
【図4】要部の拡大側面図である。
【図5】補助マーカ使用にの平面図である。
【図6】植付走行の準備段階として、圃場面に指標を形成する最の行程を示す平面図である。
【図7】予備苗台の斜視図であり、(a)は予備苗を載置しない状態を示し、(b)は予備苗を載置した状態を示す。
【図8】本発明の乗用型移植機による植付走行行程を示す平面図である。
【符号の説明】
【0025】
2 走行機体
3 移植作業機
12 苗載せ台
14 摺動レール
18 保護部材
18d 植付開始用の指標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動レールに支持されて左右往復動する苗載せ台から、植付杆によって苗を掻き取って圃場に移植する乗用型移植機において、前記摺動レールの外方に、該摺動レールの外端部の他物との衝突を防止する保護部材を設けると共に、当該保護部材に植付開始用の指標を付したことを特徴とする乗用型移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−204174(P2006−204174A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19997(P2005−19997)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】