説明

移植機

【課題】植付作業機の前方に圃場を整地する整地ロータを備える乗用型の移植機において、後輪と植付作業機との間のスペースを広げることなく整地ロータを配設できるようにする。
【解決手段】植付作業機15前方の機体幅方向に連設する複数の整地ロータ38L,38M,38Rの駆動軸39L,39M,39Rを、後輪17部分で分割すると共に整地ロータ38L,38M,38Rを側面視で後輪1に重合させて配置し、更に植付作業機15を支持する植付フレーム27の前端よりも後方に横設した植付伝動軸を兼ねる伝動分配軸32を介して、当該整地ロータ38L,38M,38Rの駆動軸9L,39M,39Rに動力を伝達するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付作業機の前方に設けられ、回転駆動することによって圃場を整地する整地ロータ等の整地装置を備える移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機体の後部に設けた昇降リンク機構を介して植付作業機を昇降可能に連結すると共に、この植付作業機の前方に整地ロータを設け、該整地ロータを圃場面に接地する作用位置で機体の進行方向に回転駆動させることによって、苗植え付け位置前方の荒れた圃場面を整地する整地作業と植付作業とを同時に行うことができるように構成した乗用型田植機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−65111号公報(第4−6頁、図3−図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述した従来の乗用型田植機では、その後輪と植付作業機との間に整地ロータを設けるためのスペースを確保しなければならず、必然的に機体が大型化して前後バランスが悪化すると共に、油圧感知フロートによる油圧感知機構を限られたスペース内でよりコンパクトに構成しなければならないといった不具合を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決することを目的とした請求項1の発明は、前輪と後輪を有する機体の後部に植付作業機を昇降自在に連結すると共に、該植付作業機前方の機体幅方向に複数の整地ロータを連設し、該整地ロータによって植付作業機前方の圃場面を整地する移植機において、前記整地ロータの駆動軸を後輪部分で分割し、且つ当該整地ロータを側面視で後輪に重合させて配置すると共に、植付作業機を支持する植付フレームの前端よりも後方に横設した伝動分配軸を介して、前記整地ロータの駆動軸に動力を伝達するように構成したことを第1の特徴としている。
【0005】
そして、請求項2の発明は、伝動分配軸が植付装置を駆動させる植付伝動軸を兼ねることを第2の特徴としている。
【0006】
更に、請求項3の発明は、植付フレームの下方に伝動分配軸を配置したことを第3の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、植付作業機前方の機体幅方向に連設した複数の整地ロータの駆動軸を後輪部分で分割し、且つこの整地ロータを側面視で後輪に重合させて配置すると共に、植付作業機を支持する植付フレームの前端よりも後方に横設した伝動分配軸を介して、当該整地ロータの駆動軸に動力を伝達するように構成したことによって、乗用型田植機の後輪と植付作業機との間のスペースを広げることなく当該整地ロータを配設できるので、機体が大型化することなく前後バランスが安定すると共に、油圧感知フロートによる油圧感知機構とサイドフロートの設計自由度も向上する。
【0008】
そして、請求項2の発明によれば、伝動分配軸が植付装置を駆動させる植付伝動軸を兼ねるので、整地ロータの伝動機構をコンパクトに構成することができる。
【0009】
更に、請求項3の発明によれば、植付フレームの下方に伝動分配軸を配置したので、整地ロータの伝動機構を当該伝動分配軸の前方に容易に延設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、移植機の一例である乗用型田植機11の側面図であって、この乗用型田植機11の機体フレーム12の後端部には、油圧シリンダ13を備える昇降リンク機構14が設けてあり、この昇降リンク機構14を介して植付作業機15を昇降可能に連結すると共に、機体フレーム12の下部には、左右一対の前輪16と後輪17とを備えている。
【0011】
そして、機体フレーム12の前部には、エンジン18を被包するボンネット19を備えており、このエンジン18から出力される動力を、図示しない油圧式無段変速装置(HST)とトランスミッションケース内の動力伝達装置を介して走行動力と植付動力とに分配し、上述した左右一対の前輪16と後輪17、及び植付作業機15に伝達できるように構成している。
【0012】
また、機体フレーム12の後部上方には、運転席21を備え、この運転席21の前方に各種モニタを表示する操作パネル22を装備すると共に、該操作パネル22の上部に運転ハンドル23、該運転ハンドル23の下方には操縦部24の床面を形成するステップ25を設けている。
【0013】
更に詳しくは、昇降リンク機構14の後端には、リンクホルダ26が取付けてあり、このリンクホルダ26の図示しないローリング軸を介して、植付作業機15をローリング可能に支持する角パイプ状の植付フレーム27を横設している。そして、この植付フレーム27に立設した左右一対の苗載台支持ステー28によって、前高後低状の傾斜姿勢で左右往復動可能に苗載台29を支持している。
【0014】
そして、植付フレーム27の後側下部には、複数の植付伝動ケース30が所定の間隔を存して取り付けてあり、この植付伝動ケース30に内装した図2に示すチェン伝動機構31及び植付駆動軸32等を介して、当該植付伝動ケース30の後端部に組付けられた植付装置(ロータリケース)33の両端部に備える左右一対の移植杆34が回転駆動するようになっている。即ち、植付装置33には、自らの回転に伴って移植杆34を所定の軌跡に沿って回転運動させることができる遊星歯車機構35を内装している。
【0015】
また、植付伝動ケース30の下方には、植付作業機15を所望の高さに制御する油圧感知フロートとして作用すると共に、圃場面を整地する整地フロートを兼ねるセンターフロート36と、左右の前輪16と後輪17の車輪跡を消して圃場面を整地する整地フロートであるサイドフロート37,37を支持している。センターフロート36及びサイドフロート37,37は、機体の左右方向に所定の間隔を存して配設してあり、乗用型田植機11は、これらフロート36,37,37の下面が圃場面に接地して滑走する状態まで植付作業機15を下降させた後、機体を走行させながらの移植作業が行なえるようになっている。
【0016】
そして、上述した植付作業機15の前方、即ちセンターフロート36及びサイドフロート37、37の前方には、植付作業機15の略全幅に亘り機体の幅方向に複数の整地ロータ38L,38M,38Rを連設してあり、これらの整地ロータ38L,38M,38Rを圃場面に接地させた状態で回転駆動することによって、移植杆34による苗植え付け位置前方の荒れた圃場面を整地できるようになっている。
【0017】
更に詳しくは、各整地ロータ38L,38M,38Rに対応する駆動軸39L,39M,39Rを、図2に示す伝動系統図のように後輪17,17部分で分割すると共に、当該整地ロータ38L,38M,38Rを側面視で後輪17と重合するように配置している。そして、植付作業機15を支持する角パイプ状の植付フレーム27の前端よりも後方に横設した伝動分配軸、即ち植付装置33を駆動させる植付伝動軸32を介して、各整地ロータ38L,38M,38Rの駆動軸39L,39M,39Rに動力を伝達するように構成している。
【0018】
即ち、乗用型田植機11の後輪17,17と植付作業機15との間のスペースを広げることなく整地ロータ38L,38M,38Rを配設できるので、機体が大型化することなく前後バランスが安定すると共に、油圧感知フロート36による油圧感知機構とサイドフロート37、37の設計自由度も向上する。そして、伝動分配軸が植付装置33を駆動させる植付伝動軸32を兼ねるので、整地ロータ38L,38M,38Rの伝動機構をコンパクトに構成することができる。
【0019】
また、角パイプ状の植付フレーム27から立設させた左右一対の苗載台支持フレーム28の上部には、操作軸40(図3参照)が横設してあって、この操作軸40に固設した回動アーム41L,41M,41Rの先端にそれぞれ吊アーム42を連結して垂下させると共に、該吊アーム42の下端に整地ロータ38L,38M,38Rの伝動機構であるチェン伝動ケース43L,43M,43Rを釣支している。そして、前記操作軸40の一側端部には、整地ロータ38L,38M,38Rが圃場面に接地する作用位置と、整地38L,38M,38Rが圃場面から離間する収納位置とに変更することができる昇降操作レバー44を取り付けている。
【0020】
更に、昇降操作レバー44が設けられている側の苗載台支持フレーム28には、昇降操作レバー44に対応するレバーガイドGが設けてあり、このレバーガイドGに備える複数段の係止溝の所望位置に当該昇降操作レバー44を係止することによって、整地ロータ38L,38M,38Rが圃場面から離間する収納位置と、整地ロータ38L,38M,38Rが圃場面に接地する複数段の作用位置とに多段調節できるようになっている。
【0021】
尚、整地ロータ38L,38M,38Rは、側面視で略六角形に形成してあって、その周面には、整地ロータ38L,38M,38Rの回転により荒れた圃場面を掻き均して均平にする6枚の板状整地部材45を配置している。即ち、板状整地部材45と、該板状整地部材45側面視で六角形の稜角に配置せしめる連結部材46とを、ポリアミド(ナイロン)等の熱可塑性樹脂による射出成形により一体的に形成すると共に、当該整地ロータ38L,38M,38Rを全体としては篭型構造に形成している。
【0022】
次に、整地ロータ38L,38M,38Rの伝動系について説明する。機体フレーム12の後部下方に配設されているリヤアクスルケース51の前部には、図示しない油圧式無段変速装置とトランスミッションケース内の動力伝達装置を介して伝達されるエンジン18の動力を、後輪17の駆動力と植付装置33及び整地ロータ38L,38M,38Rの駆動力に分配する伝動機構と、その駆動力の伝動を断接するクラッチ機構とを備えた分配ケース52を設けている。
【0023】
そして、この分配ケース52内の伝動機構により分岐した一方の動力は、伝動軸53及び分岐伝動部54に備えるベベルギヤB1,B2を介して、植付駆動軸32を兼ねる伝動分配軸に伝達される。更に中央の整地ロータ38Mは、その左右一側端部に植付駆動軸32から駆動力が伝達されるチェン伝動機構55Mを設けると共に、植付駆動軸32の左右の軸端32a,32bを植付伝動ケース30から露出配置(突出)させて、左右両側の整地ロータ38L,38Rを回転駆動させるチェン伝動機構55L,55Rを設けているが、当該植付駆動軸32を植付フレーム27の下方に配置することによって、各整地ロータ38L,38M,38Rを回転駆動させるチェン伝動機構55L,55M,55Rを、植付フレーム27を迂回させることなく植付伝動軸32の前方に容易に延設(構成)することができるようにしている。
【0024】
尚、上述した実施例(図1参照)のように、植付作業機15を支持する角パイプ状の植付フレーム27の前端よりも後方に植付伝動軸32を横設したものでは、ユニバーサルジョイント56を介して連結される伝動軸53の屈折角度を緩やかに構成できる利点もあるが、図3に示す如く、植付伝動軸32を植付フレーム27の略直下に横設した構成のものでは、前者に比べて、当該植付伝動軸32を回動支点とする昇降操作レバー44による整地ロータ38L,38M,38Rの高さ調節範囲を広く設定できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】整地ロータを備える乗用型田植機の側面図(第1実施例)。
【図2】植付作業機の伝動系統図。
【図3】植付作業機の側面図(第2実施例)。
【符号の説明】
【0026】
15 植付作業機
16 前輪
17 後輪
27 植付フレーム
32 伝動分配軸(植付伝動軸)
32a 植付伝動軸の軸端(左側)
32b 植付伝動軸の軸端(右側)
33 植付装置
38L 整地ロータ(左側)
38M 整地ロータ(中央)
38R 整地ロータ(右側)
39L 駆動軸(左側)
39M 駆動軸(中央)
39R 駆動軸(右側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(16)と後輪(17)を有する機体の後部に植付作業機(15)を昇降自在に連結すると共に、該植付作業機(15)前方の機体幅方向に複数の整地ロータ(38L,38M,38R)を連設し、該整地ロータ(38L,38M,38R)によって植付作業機(15)前方の圃場面を整地する移植機において、前記整地ロータ(38L,38M,38R)の駆動軸(39L,39M,39R)を後輪(17)部分で分割し、且つ当該整地ロータ(38L,38M,38R)を側面視で後輪(17)に重合させて配置すると共に、植付作業機(15)を支持する植付フレーム(27)の前端よりも後方に横設した伝動分配軸(32)を介して、前記整地ロータ(38L,38M,38R)の駆動軸(9L,39M,39R)に動力を伝達するように構成したことを特徴とする移植機。
【請求項2】
伝動分配軸(32)が植付装置(33)を駆動させる植付伝動軸を兼ねる請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
植付フレーム(27)の下方に伝動分配軸(32)を配置した請求項1または請求項2に記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−151520(P2007−151520A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355508(P2005−355508)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】