説明

移植片対宿主病の検査方法、検査用試薬ならびに予防薬および/または治療薬のスクリーニング方法

【課題】
移植後のGVHDについて、組織生検によらず効果的な検査方法および試薬を提供することを課題とする。さらには、免疫抑制剤ではなく、副作用が軽減化された予防薬および/または治療薬のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
GVHD発症レシピエントの患者組織中にケモカインの一種であるフラクタルカイン(Fractalkine/CX3CL1)が強発現しており、CD14陽性単球ではフラクタルカインの受容体CX3CR1の発現が低下していることを見出した。フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとすることで、移植後GVHDを検査することができる。さらに、フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1の発現強度の変動を検出することにより、GVHDに対する予防および/または治療のための薬剤をスクリーニングすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植後の移植片対宿主病(graft versus host disease:以下「GVHD」という。)の検査方法、検査用試薬ならびに予防薬および/または治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同種造血幹細胞移植は、悪性造血器腫瘍やその他の難治性血液疾患、また一部の非血液難治性疾患に対して治癒を望める治療法であり、現在世界中で広く行われている。同種移植に伴う重篤な合併症にはさまざまなものがあるが、その中で特に、慢性GVHDはコントロールが難しく、病変が多臓器に及び、移植後のquality of life(QOL)を著しく悪化させる主因である。移植後100日前後以降に発症し、自己免疫疾患に類似した病態を示し、また感染症の合併などによる死亡も多い。軽度のものを含めると、報告によって40〜80%の同種移植レシピエントに発症するといわれている。免疫抑制剤の投与で病勢のコントロールを試みるものの、効果が低いことが少なくない。近年では、肺の慢性GVHDにて呼吸不全に陥り、肺移植術が施される例も散見される。
【0003】
造血器移植は、ヒトの主要組織適合抗原であるHLAの一致した同胞がドナーとして通常選定されるが、移植造血細胞中にTリンパ球やその前駆細胞が含まれているため、HLA以外のいわゆるnon HLA抗原を標的としてリンパ球が認識すると、種々の移植免疫反応が生じる場合がある。これによって惹起される特異な症候が臨床的にGVHDと呼ばれる。
【0004】
同種造血幹細胞移植におけるGVHDの予防薬または治療薬として、ステロイド剤、サイクロスポリン(CsA)、タクロリムス(FK506)などの免疫抑制剤が長期投与される。同種造血幹細胞移植においては、生着までに好中球減少状態だけでなく、GVHDに対する強力な免疫抑制療法が細胞性免疫能の回復を遅延させ、日和見感染などの問題が生じている。近年では、強い免疫抑制状態に置かれる症例が増えているため、従来の抗真菌剤の予防的投与下で発熱などの症状が改善せず、新たな抗真菌剤の導入が望まれる例が報告されている(非特許文献1)。
【0005】
GVHDの予防または治療のために、免疫抑制剤ではなく、他の薬剤を使用することができれば感染などの副作用が軽減され、新たな治療効果が期待できるが、慢性GVHDについては、すぐれたマウスモデルが存在せず、その発症メカニズムは殆ど不明であるため、新たな薬剤については殆ど開発されていないのが現状である。
【0006】
また、GVHDの診断は、皮膚生検、肝生検、口唇生検など、各組織において病理学的に行われる。各病変組織における初期の炎症性変化としては、上皮組織や外分泌、内分泌腺へのリンパ球浸潤が主体であるが、進行すると繊維化や狭窄化、閉塞、萎縮が認められる。しかし、生検によらないGVHDの診断方法については、殆ど報告されていない。生検によらず、症状が進行する前にGVHDの診断ができれば患者の負担は軽減され、治療計画もたてやすい。
【0007】
ケモカインの一種であるフラクタルカイン(Fractalkine/CX3CL1)の受容体であるCX3CR1は、リンパ球や単球全般に発現している。フラクタルカインまたはフラクタルカイン受容体であるCX3CR1のノックアウトマウスにて、単球の局所浸潤がその主な病因と考えられている動脈の粥状硬化症が起こりにくいことが示され、単球の関与する病態においてフラクタルカインが、単球を局所に呼び寄せる重要な因子であることが報告されている(非特許文献2〜4)。しかしながら、フラクタルカインと移植後GVHDの関係については、報告されていない。
【0008】
【非特許文献1】Jpn. J. Med. Mycol. 2003; 44: 187-191
【非特許文献2】J. Exp Med. 2003; 197: 1701-1707
【非特許文献3】Mol. Cell Biol. 2001; 21: 3159-3165
【非特許文献4】J. Clin. Invest. 2003; 111: 333-340
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、組織生検によらず効果的なGVHDの診断方法を提供することを課題とする。さらには、GVHDに関し、副作用が軽減化された効果的な予防薬および/または治療薬のスクリーニング方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、細胞障害性免疫細胞のうち、特にCD14陽性単球・マクロファージと、それらを特に効果的に局所に呼び寄せるケモカインに注目し、鋭意研究を重ねた結果、慢性GVHD発症レシピエントの末梢血単球(CD14陽性単球)においてフラクタルカイン受容体(CX3CR1)の発現率が低下していること、また、組織中にフラクタルカインの強発現とCD14陽性細胞の高度な浸潤を明らかにし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は以下よりなる。
1.フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとして検出することを特徴とする、移植片対宿主病の検査方法。
2.移植レシピエントの組織上のフラクタルカインの発現強度を検出することを特徴とする前項1に記載の移植片対宿主病の検査方法。
3.移植レシピエントの末梢血単球(CD14陽性細胞)上のCX3CR1の発現強度を検出することを特徴とする前項1または2に記載の移植片対宿主病の検査方法。
4.前項1〜3のいずれか1に記載の移植片対宿主病の検査方法に使用する検査用試薬。
5.フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとし、前記マーカーの発現強度の変動を指標とすることを特徴とする移植片対宿主病に対する予防および/または治療のための薬剤のスクリーニング方法。
6.フラクタルカインの発現強度の変動を指標とすることを特徴とする前項5に記載のスクリーニング方法。
7.末梢血単球(CD14陽性細胞)上のCX3CR1の発現強度の変動を指標とすることを特徴とする前項5または6に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移植レシピエントについて、患者組織に大きな侵襲なく採取可能な病変、例えば皮膚においてフラクタルカインの発現、または末梢血単球(CD14陽性細胞)上において、フラクタルカインのレセプターであるCX3CR1の発現の低下を検出することで、移植レシピエントがGVHDを発症しているか、または将来的に発症しうるかについて診断することができる。
さらに、GVHDに対し、リンパ球の作用抑制目的で使用されている免疫抑制剤に比べ、副作用が少なく、効果的な予防薬および/または治療薬のスクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明が適用される移植は、特に限定されず、あらゆる移植が考えられる。具体的には組織(皮膚、角膜および骨などの組織)または臓器(肝臓、心臓、腎臓、肺、膵臓など)や、血液関係(造血幹細胞、リンパ球輸中)の移植などが挙げられ、特にGVHDの発症が問題となりうる移植に適用され、より好適には血液関係の移植において適用される。
【0014】
本発明の検査方法、検査試薬、本発明のスクリーニング方法により得られる予防および/または治療用薬剤は急性GVHDまたは慢性GVHDのいずれにも適用され得るが、より好適には慢性GVHDの場合が好ましい。
【0015】
例えば、フラクタルカインは正常肺組織では強く発現しているが、正常皮膚では、弱く発現しているのみである。慢性GVHD発症レシピエントの肺組織でのフラクタルカインの発現量は正常肺組織に比べて殆ど変わらないものの、慢性GVHD発症レシピエントの皮膚では強く発現することが観察された(図3−1、図4−1参照)。急性GVHD発症レシピエントの皮膚にもフラクタルカインの発現を認めたが、急性GVHDの特徴を示す部位の一部で認めたのみである。これに比べて慢性GVHDの場合には、より広範囲でフラクタルカインの発現を認めた。
【0016】
また、健常人の場合はフラクタルカインの受容体であるCX3CR1の発現は、末梢血単球(CD14陽性細胞)上に認められるが、慢性GVHD発症レシピエントのCX3CR1は、かなり低い発現量であった。一方、移植レシピエントのうち、慢性GVHDでない者のCX3CR1の発現量は、健常人のそれとほぼ同等である(図1参照)。一方、リンパ球では、慢性GVHD発症レシピエントと健常人もしくは慢性GVHDを発症していないレシピエントとの間でCX3CR1の発現に関し、相関関係は認められていない(図2参照)。このことから、末梢血単球(CD14陽性細胞)上のCX3CR1の発現強度の変動が、慢性GVHDの発症のマーカーとなりうる。
【0017】
上記により、本発明はより好適には慢性GVHDの場合に適用される。ここで、慢性GVHDの重症度の目安となるスコアリングシステムを次に示す。
【0018】
慢性移植片対宿主病(重症度分類)
(一般全身状態)
0:症状なし(ECOGによる分類では0。ECOG:Eeastern Cooperative Oncology group)
1:症状あり(ECOGによる分類では1)
2:症状あり(ECOGによる分類では2)
3:症状あり(ECOGによる分類では3)
【0019】
(皮膚)
0:慢性移植片対宿主病による皮膚症状なし。
1:体表面積の18%未満の皮疹または皮膚硬化。
2:体表面積の18〜50%の皮疹または皮膚硬化。
3:体表面積の50%を越える皮疹または皮膚硬化。
【0020】
(口)
0:症状、理学所見なし。
1:口腔の症状(乾燥、味覚異常、口腔内の痛み)または所見(発赤、過角化、苔癬化または潰瘍形成)。
2:経口摂取を部分的に妨げる口腔の症状または所見。
3:経口摂取を大部分妨げる口腔の症状または所見。
【0021】
(眼)
0:症状、角膜炎なし
1:症状のない角膜炎、または軽度の乾燥症状(保湿のための点眼の使用は1日3回まで)。
2:角結膜炎による症状はあるが視覚障害はない、または保湿のため1日に4回以上の点眼が必要である。
3:偽膜形成を伴う角膜潰瘍による視力障害、または鼻涙管の結紮を行っても痛みや不快感の軽減のための特殊な眼鏡を必要とする、または眼の症状のみが原因で就労不能である。
【0022】
(消化器)
0:消化器症状なし
1:消化器症状はあるが、経静脈的な補液、栄養を必要としない。
2:消化器症状があり、部分的に経静脈的な補液、栄養による補助を必要とする。
3:消化器症状があり、経静脈栄養に全面的に依存している、または15%を超える体重減少、または食道の拡張を認める。
【0023】
(肝)
0:総ビリルビンとアルカリフォスファターゼ ≦1×基準値。
1:総ビリルビンもしくはアルカリフォスファターゼ >1×基準値かつ≦2×基準値
2:総ビリルビンもしくはアルカリフォスファターゼ >2×基準値かつ≦4×基準値
3:総ビリルビンもしくはアルカリフォスファターゼ >4×基準値、AST、ALT >3×基準値
【0024】
(肺)
0:症状なし
1:FEV1.0が正常の51〜57%、FEV1.0/FVCが正常の<65%、または1年間に12%以上のDLCOの低下、または中等度運動時の呼吸困難。
2:FEV1.0が正常の25〜50%、または軽度運動時の呼吸困難、または運動時の酸素飽和度の低下。
3:FEV1.0が正常の<25%、または安静時呼吸困難、または運動時や安静時に酸素吸入を必要とする。
【0025】
(関節と筋膜)
0:可動域制限なし
1:腕もしくは足に限局する運動制限。
2:ADL(日常生活における活動性)に影響しない拘縮、または上下肢の両方に及ぶ運動制限。
3:ADL(日常生活における活動性)を低下させる拘縮。
【0026】
(生殖器)
0:症状なし
1:ADL(日常生活における活動性)もしくは性交に影響を及ぼさない症候(萎縮、発赤、苔癬化、浮腫)
2:ADL(日常生活における活動性)には影響しないが、性交困難の原因となる症候。
3:ADL(日常生活における活動性)には影響する症候。
【0027】
本発明は、フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとして検出することによる、GVHDの検査方法を提供する。
例えば、本発明における移植後の患者組織、特に好ましくは皮膚組織のフラクタルカインの発現量を調べることにより、GVHDの発症を検査することができる。フラクタルカインの発現量は、自体公知の方法によることができ、組織細胞を取得したものを染色などにより検出することができる。その他、今後開発されるフラクタルカインの発現量を調べるあらゆる手段を採用することができる。例えば、フラクタルカイン特異的な遺伝子の発現を調べることにより検査することも可能である。
【0028】
他の検査方法として、移植レシピエントから末梢血を採取し、末梢血中のCD14陽性単球に発現するCX3CR1を検出することで、GVHDを検査することができる。末梢血中のCD14陽性単球を定期的に採取し、CX3CR1の変動を観察することで、生検によらずともGVHDの発症を予測することができ、早期に治療計画をたてることも可能である。CX3CR1の変動の観察は、自体公知の方法によることができ、例えばフローサイトメトリーによる手法、あるいは今後開発されるあらゆる手法を採用することができる。例えば、CX3CR1特異的な遺伝子の発現を調べることにより検査することも可能である。
【0029】
本発明は、上記検査方法に使用しうる試薬にもおよぶ。例えば、フラクタルカインおよび/またはCX3CR1の抗原、抗体あるいはこれらのタンパク質に関連する遺伝子を検出しうるプローブ、プライマーなどを試薬として提供することができる。
【0030】
本発明は、またフラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとし、前記マーカーの発現強度の変動を指標とすることを特徴とするGVHDに対する予防および/または治療のための薬剤のスクリーニング方法にもおよぶ。本発明において、初めて移植後GVHDと、フラクタルカイン、その受容体CX3CR1との関係が見出された。これにより、フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1の発現強度に変動を及ぼすメカニズムが、移植後GVHDの発症に関係していることが示唆される。そこで、フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとし、前記マーカーの発現強度の変動を起こしうる物質を、候補化合物、候補物質から選定することで、移植後GVHDの発症を予防または治療しうる物質の選定を行うことができる。
【0031】
従来は、移植後GVHD、特に慢性GVHDに対しては、効果的な治療方法はなく、リンパ球の作用抑制目的で使用されている免疫抑制剤投与を行うことが主流であった。しかし、本発明において、リンパ球上のCX3CR1発現量と慢性GVHDとの相関関係が認められなかったことから、リンパ球の作用抑制目的で使用されている免疫抑制剤の投与では慢性GVHDの予防および/または治療について十分に効果を発揮し得ないことが示唆された。移植後GVHD、特に慢性GVHDに特異的な発症メカニズムに応じた薬剤を用いることにより、副作用が軽減され、効果的な予防、治療効果を得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは明らかである。
【0033】
(実施例1)フローサイトメトリーによる分析
1)血液試料
同種造血幹細胞移植後のレシピエント17名から末梢血を採取し、フローサイトメトリーを用いてCD14陽性単球表面およびリンパ球に発現しているCX3CR1(フラクタルカイン受容体)の発現強度を調べた。
各レシピエントは、男性が8名、女性が9名、年齢は20〜64歳、中央値は45歳、移植後の日数は、97〜2786日、中央値は681日であった。
【0034】
2)臨床評価
慢性GVHDの臨床症状(重症度)の評価は、"GVHD Morbidity Assessment"を変更して行った。各レシピエントの症状は、上述のスコアリングシステムに従って評価し、各スコアの合計を慢性GVHD(cGVHD)スコアとして使用した。
【0035】
3)フローサイトメトリー
血液試料を、PE結合抗ヒトCD14抗体(CALTAG社)で、FITC結合抗ヒトCX3CR1抗体(MBL社)またはFITC結合のアイソタイプの一致した対照(MBL社)とともに染色し、続いて、溶解溶液(BD Pharmingen社)で赤血球の溶解を行った。分析を、CellQuestソフトウエア(Becton Dickinson社)を備えたFACSCaliburフローサイトメーターで行った。
【0036】
4)結果
CD14陽性単球についてのフローサイトメトリーの結果を図1−1に示した。左側にアイソタイプコントロールのピークを認め、右側にCX3CR1のピークを認めた。慢性GVHDの症状のないレシピエントのCD14陽性単球に比べ、慢性GVHDの症状が強いレシピエントではCD14陽性単球におけるCX3CR1の発現強度が弱かった。
慢性GVHDスコアと、CD14陽性単球のCX3CR1蛍光強度を数値化(geometric mean)してコントロールの値を差し引いた値との相関を図1−2に示した。スピアマン順位相関係数を用いて、相関を求めた。P<0.05を統計学的有意とした。その結果、統計学的有意差をもって、慢性GVHDの症状が強いレシピエントほど、末梢血CD14陽性単球上のCX3CR1発現強度は低かった。
リンパ球についてのフローサイトメトリーの結果を図2−1に示した。また、慢性GVHDスコアと、リンパ球のCX3CR1蛍光強度を数値化してコントロールの値を差し引いた値との相関を図2−2に示した。その結果、慢性GVHDの症状の程度と、リンパ球におけるCX3CR1の発現量との間に相関関係は認められなかった。
【0037】
(実施例2)組織の免疫分析
1)組織試料
同種造血幹細胞移植後のレシピエントのうち、慢性GVHDによる皮膚発疹を発症した4名から皮膚生検検体を採取した。また、上記4名とは異なるレシピエントで、同種造血幹細胞移植後の閉塞性細気管支炎(BO)による重症の呼吸不全のため、肺の移植を受けていた4名の摘出肺より肺組織を採取した。正常な皮膚と肺組織はBiochain Institiuteから購入した。
プロトコールは、岡山大学のInternal Review Boardにより認可されており、患者からインフォームドコンセントを得ている。
これらの組織上に発現したフラクラルカインおよびCD14陽性細胞について調べた。
【0038】
2)組織免疫分析
ホルマリン固定し、パラフィン包埋した各検体を、5μmの厚さにスライスし、脱パラフィンをして、クエン酸緩衝液中でマイクロウェーブにより抗原回復を行った。
試料を3% H2O2に浸して内因性のペルオキシダーゼを消去し、次いでリン酸緩衝液(PBS)+5%ウマ血清でブロックし、ポリクローナルヤギ抗ヒトフラクタルカイン抗体(R&D systems社)または対照ヤギIgG(Sigma社)でインキュベートし、続いてビオチン化したウマ抗ヤギIgG(Vector Laboratories)でインキュベートした。アビジン-ビオチンペルオキシダーゼ複合体(ABC)キット(Vector Laboratories)を使用して、染色シグナルを増強させた。抗原を、VIP (Vector Laboratories)で可視化した。CD14染色については、試料をPBS+5%ヒツジ血清でブロックし、ビオチン化ヒツジ抗ヒトCD14抗体(R&D systems社)またはビオチン化対照ヒツジIgG(Sigma社)でインキュベートした。ABCキット(Vector Laboratories)とVIP(Vector Laboratories)を用いて、染色を可視化した。メチルグリーン(Vector Laboratories)を対比染色のために用いた。非特異的抗体での対照染色を、全ての染色実験で行ったが、重大な非特異的な染色は見られなかった。
【0039】
3)結果
正常および慢性GVHD発症レシピエントの肺組織を図3−1,2に示した。その結果、フラクタルカインについては正常および慢性GVHDの肺組織では細気管支上皮に染色が認められ、いずれの組織においても強く発現していることが観察された(図3−1、A,B)。一方、CD14抗原については、正常肺組織では殆ど染色されず、CD14抗原は散在性であることが観察されたのに対し(図3−2、C)、慢性GVHD発症レシピエントの肺組織では広い範囲に強く染色され、CD14抗原が観察された(図3−2、D)。このことから、慢性GVHD発症レシピエントでは可溶性フラクタルカインが肺組織の細気管支上皮細胞から放出され、CD14陽性単球が肺組織付近に呼び込まれたものと考えられる。
【0040】
正常および慢性GVHD発症レシピエントの皮膚組織を図4−1,2に示した。その結果、フラクタルカインは、正常皮膚では薄く染色され、弱い発現しか観察されなかったのに対し(図4−1、E)、慢性GVHD発症レシピエントでは、広範な部分で染色を認め、上皮の肥厚とともに強く発現していることが観察された(図4−1、F)。慢性GVHD発症レシピエントではケラチノサイトの増殖も観察された。CD14抗原については、正常皮膚では殆ど染色されず、殆ど観察されなかったのに対し(図4−2、G)、慢性GVHD発症レシピエントの皮膚では真皮で強い染色が認められ、また一部では表皮でもCD14抗原が観察された(図4−2、H)。このことから、慢性GVHD発症レシピエントの表皮から供給されるフラクタルカインにより、CX3CR1を高発現した単球が循環して真皮まで引き寄せられたものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとして検出することにより、GVHDの検査方法を提供することができる。さらに、フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとし、前記マーカーの発現強度の変動を指標とすることを特徴とするGVHDに対する予防および/または治療のための薬剤のスクリーニング方法を提供することができる。
これにより、移植レシピエントがGVHDを発症しているか、または将来的に発症しうるかについて診断することができる。従来の生検による診断法に比べ、患者への負担は軽減化され、効果的に診断することができ、効果的な治療計画を早期に立てることができる。
また、本発明のスクリーニング方法により選定された薬剤により、GVHDに対し、リンパ球の作用抑制目的で使用されている免疫抑制剤に比べ、副作用が少なく、効果的な予防薬および/または治療薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1−1】CD14陽性単球におけるCX3CR1発現量をフローサイトメトリーにより調べた結果を示す図である。(実施例1)
【図1−2】慢性GVHDスコアと、CD14陽性単球のCX3CR1蛍光強度の相関関係の結果を示す図である。(実施例1)
【図2−1】リンパ球におけるCX3CR1発現量をフローサイトメトリーにより調べた結果を示す図である。(実施例1)
【図2−2】慢性GVHDスコアと、リンパ球のCX3CR1蛍光強度の相関関係の結果を示す図である。(実施例1)
【図3−1】正常および慢性GVHD(cGVHD)発症レシピエントの肺組織におけるフラクタルカインの発現を染色により調べた図である。(実施例2)
【図3−2】正常および慢性GVHD(cGVHD)発症レシピエントの肺組織におけるCD14抗原を染色により調べた図である。(実施例2)
【図4−1】正常および慢性GVHD(cGVHD)発症レシピエントの皮膚組織におけるフラクタルカインの発現を染色により調べた図である。(実施例2)
【図4−2】正常および慢性GVHD(cGVHD)発症レシピエントの皮膚組織におけるCD14抗原を染色により調べた図である。(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとして検出することを特徴とする、移植片対宿主病の検査方法。
【請求項2】
移植レシピエントの組織上のフラクタルカインの発現強度を検出することを特徴とする請求項1に記載の移植片対宿主病の検査方法。
【請求項3】
移植レシピエントの末梢血単球(CD14陽性細胞)上のCX3CR1の発現強度を検出することを特徴とする請求項1または2に記載の移植片対宿主病の検査方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の移植片対宿主病の検査方法に使用する検査用試薬。
【請求項5】
フラクタルカインおよび/またはその受容体CX3CR1をマーカーとし、前記マーカーの発現強度の変動を指標とすることを特徴とする移植片対宿主病に対する予防および/または治療のための薬剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
フラクタルカインの発現強度の変動を指標とすることを特徴とする請求項5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
末梢血単球(CD14陽性細胞)上のCX3CR1の発現強度の変動を指標とすることを特徴とする請求項5または6に記載のスクリーニング方法。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate


【公開番号】特開2007−51980(P2007−51980A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238987(P2005−238987)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】