説明

移植用膵臓組織及び膵島細胞保存のための器具及び方法

本発明は、生存性を維持するために臓器を溶液中に保持し、且つ、全貯蔵期間を通して臓器又は細胞を冷蔵装置内で冷却し、その際の器具内の平均温度の設定温度からの変化が摂氏2度以内である臓器の貯蔵による、移植用臓器(例えば膵島細胞)の調製、保存及び貯蔵のための構成及び方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膵島移植分野全般に関し、特に、移植前の膵臓組織及び膵島細胞の保存を改善するための新規器具及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵島細胞移植に関して本発明の背景を述べるが、そのことが本発明の範囲を限定することはない。
【0003】
膵島保存の改善方法の1つが、Mullen, et al.に対して発行された米国特許第5,679,565号に教示されている。Mullenは、膵島の調製及び貯蔵のための方法、溶液及び容器を教示している。この方法は、膵臓と温かいコラゲナーゼ溶液とを接触させ、ること、温かいコラゲナーゼ溶液中の膵臓を消化して温かい消化物を形成すること、冷たい保存溶液を温かい消化物に添加すること、温かい消化物/冷たい保存溶液を約0〜15℃の温度で攪拌し、そのことによって、温かい消化物中に含まれる部分的に消化された膵臓をさらに消化し、冷たい消化物を形成すること、及び、冷たい消化物から液体を回収して単離された膵島を形成することを含む。この冷たい保存溶液及び本発明の膵島保存溶液は、D−マンニトール、K−ラクトビオネート(K-lactobionate)及び緩衝液を含む。
【0004】
Toledo, et al.により出願された、ドナー臓器貯蔵のための方法及び溶液に関する米国特許出願第20070009880号に、また別の方法が教示されている。簡潔に述べると、Toledo et al.は、哺乳動物ドナー臓器の保存、貯蔵及び移植方法を教示している。この方法は、ポリビニルピロリドン、カルシウムチャンネル遮断薬、ヌクレオシド、塩化カリウム、ポリエチレングリコール、少なくとも1つのアミノ酸及びステロイドを少なくとも含有する冷蔵保存(refrigeration preservation)溶液、ローディングプリフリーザ保存(loading pre-freezer preservation)溶液、凍結保存(cryopreservation)溶液及び洗浄溶液を2〜4℃及び/又は0〜2℃の温度にまで冷却すること、ドナー臓器を摘出すること、臓器を1又は2以上の溶液で灌流すること、臓器を1又は2以上の溶液に浸漬すること、並びに、0℃を上回る温度で或いは0℃、−20℃、−80℃又は−196℃を下回る温度で臓器を貯蔵することを含む。凍結保存溶液は凍結保存料をも含有する。保存された臓器は、洗浄冷蔵保存溶液を2〜4℃まで冷却すること、臓器を洗浄液、さらに保存溶液で灌流すること、並びに、臓器を移植することにより、冷蔵貯蔵又はフリーザ貯蔵から直接移植されてもよい。
【0005】
Genにより出願された、動物細胞、組織又は臓器の保存料及び保存方法に関する米国特許出願第20020164795号に、さらにまた別の方法及び構成が教示されている。簡潔に述べるとこの出願は、動物細胞又は臓器の保存剤及び保存方法に関する。通常の細胞保存方法では、−196℃の極低温での凍結による保存方法が用いられ、解凍及び融解後の細胞生存率は低く、約10〜30%である。その有効期間は非常に短く、12〜72時間である。この出願の保存剤はタンパク質をタンパク質型保存剤に固定し、臓器移植手術の際にポリフェノールの添加により引き起こされる臓器損傷を予防、治療及び改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,679,565号
【特許文献2】米国特許出願第20070009880号
【特許文献3】米国特許出願第20020164795号
【発明の概要】
【0007】
移植用臓器の保存を改善するために使用されるこうした構成及び薬剤が存在するとはいえ、摘出、処理及び輸送の後の臓器の貯蔵期間の長さ及び品質を改善する必要性が依然として残っている。移植用臓器の入手可能性が臓器の需要に追いついていないので、入手可能なドナー臓器の限られたプールを最大化するために、改善された方法が必要である。
【0008】
本発明は、生存可能な臓器(viable organs)の貯蔵可能期間を延ばすのみならず、移植用臓器の品質を向上させる。貯蔵期間、生存性(viability)及び臓器の品質を向上させることは、臓器の試験、輸送時間及び移植成功率の考慮において不可欠である。
【0009】
実施形態の1つにおいて、本発明は、臓器又は組織の貯蔵のための器具及び方法を含み、ここで臓器又は組織は、生存性を維持するために溶液中に保持され、臓器、組織又は細胞は全貯蔵期間を通して冷蔵装置内で冷却され、その際に器具内の平均温度の設定温度からの変化は2度以内である。態様の1つにおいて、器具は臓器又は組織を18分以内に体温から約4℃にまで冷却する。また別の態様において、器具はさらにCO、N及びOから選択される保存ガスのための1又は2以上の導入口を備える。また別の態様において、器具は臓器又は細胞の温度を測定する1又は2以上のプローブを備える。また別の態様において、器具内の設定温度からの温度変化は1度以内である。また別の態様において、器具は0、1、2、3、4、5又は6℃よりも高い設定温度を有する。態様の1つにおいて、臓器又は組織は肝臓、肺、角膜、筋肉、心臓、膵臓、膵島、腎臓、乳房、眼、耳、骨又は骨髄の少なくとも一部を含む。また別の態様において、臓器又は組織は貯蔵中に、臓器移植を改善する1又は2以上の活性因子で処理される。また別の態様において、臓器又は組織は貯蔵中に抗体、酵素、ステロイド、抗生物質、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ベクター、核酸、タンパク質、ペプチド、脂質、炭水化物、塩、ミネラル、ビタミン、緩衝剤、ガス、電気刺激、力学的応力(伸展及び/又は加圧)、放射線並びに毒素から選択される1又は2以上の活性因子で処理される。さらにまた別の態様において、貯蔵された臓器又は組織の生存性は少なくとも80%である。ある態様において、貯蔵された臓器又は組織の生存性は100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%及び30%である。
【0010】
また別の実施形態において、本発明は、臓器又は組織の保存方法を含み、この方法は、移植用の臓器又は組織を入手すること、臓器又は組織を保存溶液中に配置すること、臓器又は組織を事前に選択された温度にまで冷却すること、及び、事前に選択された温度の臓器又は組織を、事前に選択された温度からの変化が摂氏2度以内の温度で貯蔵期間中維持することによる。態様の1つにおいて、器具は臓器又は組織を18分以内に体温から約4℃にまで冷却する。また別の態様において、器具はさらにCO、N及びOから選択される保存ガスのための1又は2以上の導入口を備える。また別の態様において、器具は臓器、組織又は細胞の温度を測定する1又は2以上のプローブを備える。また別の態様において、器具内の設定温度からの温度変化は1度以内である。また別の態様において、器具は0、1、2、3、4、5又は6℃より高い設定温度を有する。態様の1つにおいて、臓器又は組織は肝臓、肺、角膜、筋肉、心臓、膵臓、膵島、腎臓、乳房、眼、耳、骨又は骨髄の少なくとも一部を含む。また別の態様において、臓器又は組織は貯蔵中に、臓器移植を改善する1又は2以上の活性因子で処理される。また別の態様において、臓器は貯蔵中に抗体、酵素、ステロイド、抗生物質、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ベクター、核酸、タンパク質、ペプチド、脂質、炭水化物、塩、ミネラル、ビタミン、緩衝剤、ガス、電気刺激、力学的応力(伸展及び/又は加圧)、放射線並びに毒素から選択される1又は2以上の活性因子で処理される。さらにまた別の態様において、貯蔵された臓器又は組織の生存性は少なくとも80%である。ある態様において、貯蔵された臓器又は組織の生存性は100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%及び30%である。
【0011】
特に本発明はまた、例えば以下のような移植可能な膵島調製物を調製する改善された組成物及び方法と共に使用されうる:膵臓又は膵臓組織をドナーから摘出すること;1又は2以上の膵管にET-Kyoto溶液又はその等価物を注入すること;β膵島細胞を単離すること;及び、患者を膵島移植時にヒトインターロイキン−1アンタゴニストで処置すること。実施形態の1つにおいて、β膵島細胞は適切なコラゲナーゼ、例えばヒトコラゲナーゼで処理される。具体的な実施例の1つにおいて、膵島は膵臓からの摘出後にET-Kyoto溶液中で処理される。態様の1つにおいて、ヒトインターロイキン−1アンタゴニストは以下のものから選択される:インターロイキン−1ベータ(IL−1β)遺伝子転写の1又は2以上の修飾因子;IL−1β遺伝子翻訳の1又は2以上の修飾因子;IL−1βの発現を標的とする1又は2以上のsiRNA;1又は2以上のIL−1β受容体遮断薬;1又は2以上のインターロイキン−1受容体アンタゴニストタンパク質;1又は2以上のインターロイキン−1受容体アンタゴニストペプチド;IL−1βの放出を改変する1又は2以上の活性因子;IL−1βを中和する1又は2以上の抗体;IL−1β受容体を遮断する1又は2以上の抗体;1又は2以上の組換え及び天然のIL−1β受容体アンタゴニスト;IL−1βの放出を阻害する1又は2以上のアニオン輸送阻害剤、リポキシン及びアルファ−トコフェロール;不活性IL−1β前駆体をその成熟した活性型へと変換するタンパク質分解酵素を阻害する1又は2以上のオピオイド;IL−1βの生物学的機能を中和する1又は2以上の抗体、これらの混合物並びにこれらの組合せ。具体的な実施例の1つにおいて、IL−1βアンタゴニストはアナキンラである。この方法はさらに、遺伝子転写阻害剤、不活化腫瘍壊死因子、腫瘍壊死因子受容体遮断薬及び可溶性腫瘍壊死因子受容体から選択される腫瘍壊死因子アンタゴニストを患者に同時に提供することを含んでいてもよい。
【0012】
態様の1つにおいて、単離されたβ膵島細胞は少なくとも35%の回収率を有する。また別の態様において、単離されたβ膵島細胞の回収率は100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%、35%、30%、25%及び20%である。さらにまた別の態様において、単離されたβ膵島細胞は少なくとも70%の純度を有する。態様の1つにおいて、単離されたβ膵島細胞の純度は100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%、35%、30%である。具体的な態様の1つにおいて、単離されたβ膵島細胞は少なくとも80%の生存性を有する。いくつかの態様において、単離されたβ膵島細胞の生存性は100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%及び30%である。
【0013】
本発明のまた別の態様は、移植可能な膵島調製物の調製方法であり、この方法は以下のステップを含む:膵臓又は膵臓組織をドナーから摘出すること;1又は2以上の膵管にET-Kyoto溶液又はその等価物を注入すること;トリプシン阻害剤の存在下で摘出された膵臓又は膵臓組織からβ膵島細胞を単離すること;及び、患者を膵島移植時にヒトインターロイキン−1アンタゴニストで処置すること。トリプシン阻害剤の例には、血清α−1アンチトリプシン、ライマメトリプシン阻害剤(lima bean trypsin inhibitor)、Kunitz阻害剤、オボムコイド阻害剤又はダイズ阻害剤が含まれる。
【0014】
本発明のさらにまた別の実施形態は、膵臓又は膵臓組織をドナーから摘出すること;トリプシン阻害剤の存在下で摘出された膵臓又は膵臓組織からβ膵島細胞を単離すること;及び、患者を膵島移植時にヒトインターロイキン−1アンタゴニスト及び腫瘍壊死因子で処置することによる、移植可能な膵島調製物の調製方法である。態様の1つにおいて、移植可能な膵島調製物は少なくとも80%の生存性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の特徴及び利点のより完全な理解のため、ここで本発明の詳細な説明について、添付の図面と共に言及する。
【0016】
【図1】図1は、先行技術の37℃で48時間保存したブタ膵臓、従来の冷蔵法を用いて4℃で48時間貯蔵したブタ膵臓、及び本発明の保存器具を用いてやはり4℃で48時間貯蔵したブタ膵臓を比較している。
【図2】図2は、先行技術である37℃及び4℃で保存溶液を用いて貯蔵した膵臓並びに本発明を用いて貯蔵した膵臓を比較した、顕微鏡視野当たりの膵島数を示すグラフである(顕微鏡視野当たりの膵島細胞数(40×))。
【図3】図3は、37℃、22℃、4℃及び本発明の器具及び方法を用いて4℃で48時間及び72時間経過したヒト膵島細胞の形態を比較している。
【図4】図4は、37℃、22℃、4℃又は本発明の器具及び方法を用いて4℃で48時間経過したヒト膵島細胞の生存性を、2つの異なる色素で染色して比較している。
【図5】図5は、測定中の温度変化を示す。測定中全温度について、誤差は0.5℃以内である。温度は22.0℃、37.0℃及び4.0℃の設定点に5分以内に到達し、安定性を維持した。KFCの温度はすぐに6.0℃まで下がり、0.3℃/時間の速さで徐々に初期設定の1.0℃まで下がった。全ての温度が80PK-1 K-type Bead熱電対を備える54 II温度計により測定された。
【図6】図6は、24時間後、48時間後及び72時間後の保存されたブタ膵島の形態を示す。群1(37.0℃保存)及び群2(22.0℃保存)では大きな膵島が48時間後には消失する傾向にあった。低温設定の間では、群3(4.0℃保存)の膵島が群4の膵島(キープアンドフレッシュ(Keep and Fresh)冷却システム)よりも境界が不明瞭であるようだった(矢印)。原倍率は200×である。
【図7A−B】図7Aは、ジチゾン染色により計算されたブタ膵島の回収率を示す図である。計算式は次の通りである:保存後膵島数/単離直後の膵島数(0時間)(%)。低温設定(4.0℃保存及びキープアンドフレッシュ冷却システム)では高回収率を維持できた。48時間後の膵島回収率は、群1(37.0℃保存)で48.7±28.6%、群2(22.0℃保存)で46.6±15.5%、群3(4.0℃保存)で61.5±20.0%、群4(キープアンドフレッシュ冷却システム)で73.9±17.3%だった(KFCのP値はそれぞれ、37.0℃及び22.0℃に対して<0.01、4.0℃に対して<0.05だった)。72時間後の膵島回収率は、群1で35.8±18.5%、群2で31.1±16.6%、群3で43.5±14.3%、群4で61.0±22.0%だった(KFCのP値はそれぞれ、37.0℃に対して<0.01、22.0℃に対して<0.001、4.0℃に対して0.05だった。Newman-Keuls検定)。図7Bは、膵島当量を計数した際のブタ膵島純度の評価を示すグラフである。24時間後に純度は、群1で85.0±10.0%、群2で83.3±7.6%、群3で82.5±5.0%、群4で85.0±9.4%まで下がった。48時間後に純度は、群1で75.8±20.6%、群2で78.3±2.9%、群3で76.7±5.8%、群4で84.5±9.9%であり、72時間後に純度は、群1で68.6±23.8%、群2で73.3±14.7%、群3で77.5±8.7%、群4で84.0±9.6%だった。48時間後及び72時間後の群4と群1との間で膵島純度に有意差があった(P値は48時間後で<0.01、72時間後で<0.05だった。Newman-Keuls検定)。
【図7C】図7Cは、トリパンブルー染色で測定された精製前(pre-purification、Pre)、保存24時間後、48時間後及び72時間後のブタ膵島細胞生存性を示す。24時間後に膵島生存性は、37.0℃、22.0℃、4.0℃及びKFCでそれぞれ、82.1±6.2%、85.0±5.7%、86.0±3.3%及び91.1±3.3%にまで下がった。48時間後に膵島生存性は、37.0℃、22.0℃、4.0℃及びKFCでそれぞれ、80.7±0.2%、85.2±6.4%、83.7±6.6%及び90.5±5.4%にまで下がった(KFCのP値は37.0℃に対して<0.05だった。Dunnett's検定。図7C)。72時間後に膵島生存性は、37.0℃、22.0℃、4.0℃及びKFCでそれぞれ、78.0±9.1%、80.0±4.6%、82.0±1.8%及び89.1±2.6%にまで下がった(KFCのP値は37.0℃に対して<0.05だった。Dunnett's検定。図7C)。
【図8】図8は、KFCで72時間保存したブタ膵島のインビトロ機能の尺度としての刺激指数を示す図である。刺激指数(stimulation index、SI)を計算し、同じ期間37℃で(従来の保存設定で)保存した膵島のSIと比較した。37℃で72時間保存した膵島の平均SIは1.4±0.4、KFCで保存したものの平均SIは3.0±2.1であり、KFCで保存したものの方が有意に高かった(P<0.03、独立t−検定、3つの独立調査)。
【0017】
[本発明の詳細な説明]
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の様々な実施形態の製造及び使用を下で詳細に論じるが、多様な具体的文脈において実現されうる多くの応用可能な発明的概念が本発明により提供されることが認められるべきである。本明細書において論じられる具体的な実施形態は、本発明を製造及び使用する具体的な方法をただ例示するのみであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0019】
本発明の理解を容易にするため、下でいくつかの用語を定義する。本明細書において定義される用語は、本発明の関連分野の当業者により一般に理解される意味を有する。本明細書中の単数の表記は、単一の対象のみを指すことを意図しておらず、例示のために用いられ得る具体例を包含する集合全体を含む。本明細書における用語法は、本発明の具体的な実施形態を述べるために用いられるが、本請求項において限定される場合を除いて、その用法により本発明が限定されることはない。
【0020】
糖尿病(diabetes mellitus、DM)1型は、重大な社会的及び経済的影響のある疾患である。米国におけるこの疾患の罹患者数は、19歳以下で約120000人、全年代で300,000〜500,000人であり、全世界では1億5千万人である。米国では毎年30,000の症例が新たに診断されている。DMは米国において、子どもの慢性疾患で最も頻度の高いものの1つである(LaPorte RE, Matsushima M, Chang YF: Prevalence and Incidence of Insulin-Dependent Diabetes. In: "Diabetes In America," 2nd edition. National Diabetes Data Group, National Institutes of Health, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases, NIH Publication No. 95-1468, 1995, 37-47)。米国におけるこの疾患の治療及びその合併症のコストは、1年当たり900億ドルである。
【0021】
膵島細胞移植(islet cell transplantation、ICTx)は、1型糖尿病(type 1 diabetes mellitus、T1DM)の有望な治療法であるが、いくつかの重大な問題ゆえにその広範な使用には限界がある(Ikemoto T, Noguchi H, Shimoda M, et al. Islet Cell Transplantation for the Treatment of Type 1 Diabetes in USA. J Hepato-biliary-Pancreatic Surg. 2009; 16: 118-123)。これらの問題のうちの1つは、ICTxがインスリン非依存性を達成するには、大量の膵島を必要とするというものである(Ryan EA, Paty BW, Senior PA, et al. Five-year follow-up after clinical islet transplanta-tion. Diabetes. 2005;54:2060-2069)。有効なICTxをもたらすためのこうした大量の膵島の必要性ゆえに、1人のレシピエントに複数のドナーから移植することが必要となる。
【0022】
また別の問題は、日本等のいくつかの国々における深刻なICTxドナー不足である(Matsumoto S, Okitsu T, Iwanaga Y, et al. Insulin independence after living-donor distal pancreatectomy and islet allotransplantation. Lancet. 2005;365(9471):1642-1644)。これらの国々では、医療用ICTx及び基礎研究のための死体ドナーを見つけることが困難な場合がある。本発明者らは以前に、医療用ヒト膵島の国内輸送について報告していた(Ichii H, Sakumaa Y, Pileggia A et al. Shipment of Human Islets for transplantation. Am J Transplant. 2007; 7: 1010-1020.)が、医療用ヒト膵島の国際輸送にはFDAの規制及び長期的貯蔵を含め、多くの問題がある。加えて、膵島移植が標準的治療法となると、1型糖尿病患者が多数いるため、ドナー不足が主要な問題として残るだろう。現在では1型糖尿病患者が100万人超おり、米国での臓器提供数は年間8000件未満である。
【0023】
ブタ膵島を使用する膵島移植は、この問題を解決する魅力的な代替案である。実際に、医療的ICTxにブタ膵島を使用する可能性を示した報告がいくつかある(O'Neil JJ, Stegemann JP, Nicholson DT, et al. The isolation and function of porcine islets from market weight pigs. Cell Transplant. 2001;10:235-46; Calafiore R. Perspectives in pancreatic and islet cell transplantation for the therapy of IDDM.Diabetes Care. 1997;20:889-96)。ブタ膵島もまたいくつかの困難を抱えている。第1に、ブタ膵島は脆弱である(Krickhahn M, Meyer T, Buhler C, et al. Highly efficient isolation of porcine islets of Langerhans for xenotransplantation: numbers, purity, yield and in vitro function. Ann Transplant. 2001;6:48-54; Bottino R, Balamurugan AN, Smetanka C, et al. Isolation outcome and functional characteristics of young and adult pig pancreatic islets for transplantation studies. Xenotransplantation.2007;14:74)。こうした脆弱性は、ブタ膵島細胞がヒト膵島と比較して強固な被膜を有さないという事実による(Rood PP, Buhler LH, Bottino R, et al. Pig-to-nonhuman primate islet xenotransplantation: a review of current problems. Cell Transplant. 2006;15:89-104)。したがって、単離されたブタ膵島細胞は、トリプシン及びコラゲナーゼ等の酵素により容易に脆弱化又は破壊される。これらの酵素はブタ膵島を、遠心分離器の剪断応力、細胞培養及び低酸素条件等の多様なストレスに対して脆弱化する。脆弱なブタ膵島のICTxにおける医療利用のためには、その有効な保存方法が必要である。
【0024】
これまで、低温臓器保存のための有効且つ革新的な方法について多くの報告があった(Matsumoto S, Kandaswamy R,Sutherland DE et al. Clinical application of the two-layer (University of Wisconsin solution/perfluorochemical plus O2) method of pancreas preservation before transplantation. Transplantation. 2000;70:771-774; Jacob SW. Studies in organ preservation by actual freezing and reduction of the freezing point. Cryobiology. 1964;1:176-80.)。膵臓については、Obermaier et al.が、膵臓虚血/再潅流損傷を予防するための膵臓保存が4℃及びその他の温度で有効であることを最近報告した(Obermaier R, Drognitz O, Benz S, et al. Pancreatic ischemia/reperfusion injury: impact of different preservation temperatures. Pancreas. 2008;37:328-32)。しかしながら、刊行物における報告の大多数は臓器全体及び限られたタイプの細胞に関するものであり、ブタ膵島保存には低温が最も有効であるようだったとはいえ、細胞懸濁液に関する報告は比較的少ない(Frankel BJ, Gylfe E, Hellman B, et al. Maintenance of insulin release from pancreatic islets stored in the cold for up to 5 weeks. J Clin Invest. 1976;57:47-52; Korbutt GS, Pipeleers DG. Cold-preservation of pancreatic beta cells. Cell Transplant. 1994;3:291-7; Matsumoto S, Lawrence O, Rigley T, et al. University of Wisconsin solution with trypsin inhibitor Pefabloc improves survival of viable human and primate impure islets during storage. Cell and Tissue Banking. 2001;2:15-21)。さらに、膵島保存に適した温度設定については、依然として議論のあるところである(Kin T, Senior P, Gorman DO, et al. Risk factors for islet loss during culture prior to transplantation. Transplant International. 2008;21:1029-1035.)。したがって、膵島にとって最適な温度設定はどれか、並びに、膵島、特にブタ膵島の最も安定した保存方法はどのようなものかについては、はっきりしていない。Fujiya Co.社(日本、徳島)は、新鮮な収穫植物及び果物を180日間を超えて新鮮に保つことができる新規冷却システムを開発した。保存された植物及び果物は「冬眠状態(hibernation status)」となるよう形成された。この冷却システムは、「キープアンドフレッシュ冷却システム(KEEP AND FRESH cooling system)」(KFC)と呼ばれる。この冷却システムは、物質の内部温度及び表面温度並びに冷蔵庫の内部温度を高頻度で感知するコンピュータを用いて、誤差最小限の段階的冷却により、−20.0℃〜室温の範囲で物質の温度を制御することができる。本発明は、有効なブタ膵島保存のためのKFCシステムの応用を示す。
【0025】
膵島単離:膵臓は、米国テキサス州で2008年6月〜2008年9月に研究用にOwen Co., Ltd.社でブタから調達された。血管、脂肪、結合組織及び結合葉(connecting lobe)の一部の除去後、これらの膵臓は2層法(酸素化ペルフルオロカーボン及びウィスコンシン大学溶液)でベイラー免疫学研究所(Baylor Institute for Immunology Research、BIIR)にすぐに輸送され、Matsumoto S, Noguchi H, Naziruddin B, et al., Improvement of pancreatic islet cell isolation for transplantation., Proc (Bayl Univ Med Cent) 2007;20(4):357-362において以前に本発明者らにより記述されたRicordi法及びCOBE 2991細胞処理器により単離及び精製された。
【0026】
培地:膵島を膵島用培地中で培養した。簡潔に述べると、この培地はCMRL培地(Sigma-Aldrich社、米国)を、ヒト血清アルブミン、1M水酸化ナトリウム及び重曹と共に含有する。これらの培地は濾過(孔径2.4μm、米国製)で滅菌され、4℃で通常の冷蔵庫内に貯蔵された。膵島は12ウェル組織培養プレート(Falcon社、米国)中にこれらの培地と共に(2,000〜3,000IEQ膵島/ウェルを入れる)、膵島の回収、純度及び生存性の評価のため保存された。膵島はまた、静置培養のため培養フラスコ中に保存された。培養中に培地交換は行われなかった。
【0027】
膵島保存及び冷却システムの温度設定:膵島の保存設定を4つの群に分けた。群1では、膵島を37℃、5%CO培養器条件で培養した。群2では、膵島を22℃、5%CO培養器条件で培養した。群3では、膵島を通常の冷蔵庫内に4℃で保存した。群4では、膵島を「急速冷却条件」設定で保存した。これは室温(room temperature、RT)から4℃まで急速冷却し、0.5℃/時間の冷却速度での段階冷却で1.5℃まで下げる。
【0028】
温度測定:温度をそれぞれ、80PK-1 K-type Bead熱電対を備える温度計(54II、Fluke社、米国)により測定する。長期的温度を、Fluke View Formsソフトウェアで分析する。
【0029】
形態:すべての膵島について、ジアセテートの蛍光染色及びヘマトキシリン−エオシン染色で顕微鏡下で組織学的検査を行った。
【0030】
膵島細胞計数及び生存性:膵島数及び生存性を、関係箇所が参照により本明細書に組み込まれるMatsumoto S, Noguchi H, Yonekawa Y, Okitsu T, Iwanaga Y, Liu X, et al., Pancreatic islet transplantation for treating diabetes. Expert Opin Biol Ther 2006;6(1):23-37に記載の通り計数した。簡潔に述べると、少なくとも2つの試料について、膵島を培地で洗浄して5mLの試料から100μLの試料を採取したのち、膵島数を顕微鏡下でジチゾン色素による蛍光染色で計数した。膵島数を前述の膵島当量(islet equivalent、IE)へと換算した。膜選択透過性色素FDA/PIを用いて蛍光顕微鏡下で染色し、細胞生存性を評価した。1%トリパンブルー(Sigma Chemical Co.社)を用い、生存性に関して膵島の少なくとも2つの試料を評価した。
【0031】
静置培養(インビトロ機能):KFCによる保存後のインビトロでの膵島細胞機能を評価するため、前述の通り静置培養を実施した(Ricordi C, Gray DW, Hering BJ, et al. Islet isolation assessment in man and large animals. Acta Diabetol Lat. 1990;27:185)。簡潔に述べると、膵島の一定量(50〜100IEQ)を2.8又は20mMグルコースと共に2時間、37℃で培養した。上清のインスリン濃度をELISA(Alpco社、ニューハンプシャー州セーレム)で評価した。膵島ペレットのDNA含有量を、インスリン濃度の正規化のために蛍光定量法で測定した。グルコース刺激性インスリン放出を刺激指数(stimulation index、SI)として表現した。基礎条件下で放出されるインスリンに対する、高グルコースへの曝露後に放出されるインスリンの比率としてSIを計算した。
【0032】
統計:平均±S.E.、量的変数の幅と中央値及び質的変数の数値(パーセント)として記述統計を示した。一元配置分散分析(analysis of variation、ANOVA)、Kruskal-Wallis検定、Welch検定、Newman-Keuls検定、Dunnett's検定及び独立t−検定を適切に用いて、単変量解析を実施した。<0.05のp値を統計的に有意とみなし、報告された全てのp値が両側p値である。全ての解析をWindows用State Mate IIIで実施した。
【0033】
図1は、先行技術の37℃で48時間保存したブタ膵臓、従来の冷蔵装置を用いて4℃で48時間貯蔵したブタ膵臓、及び、本発明の保存器具を用いてやはり4℃で48時間貯蔵したブタ膵臓を比較している。簡潔に述べると、8グラムの膵臓細胞群を3片に切り分け、上に挙げた温度でUW溶液中に貯蔵した。本発明を用いて保存された膵臓が、単離されたばかりの新鮮なブタ膵臓に最も類似していた。
【0034】
図2は、先行技術の37℃及び4℃で保存溶液を用いて貯蔵した膵臓、並びに本発明を用いて貯蔵した膵臓を比較している、顕微鏡視野当たりの生存膵島数を示すグラフである(顕微鏡視野当たりの膵臓細胞数(40×))。37℃又は標準的な4℃冷蔵と比較して、本発明(KFCと表記)を用いて保存した群で膵島数が有意に多いことが見出された。
【0035】
図3は、37℃、22℃、4℃又は本発明の器具及び方法を用いて4℃で48時間及び72時間経過したヒト膵島細胞の形態を比較している。本発明の器具及び方法は、他の貯蔵方法及び装置と比較して、ヒト膵島を最も高いレベルで保存できることが見出された。簡潔に述べると、ヒト膵島細胞は上に挙げた温度で、本発明を使用した場合又は使用しなかった場合で、48時間後又は72時間後に培地中に存在した。
【0036】
図4は、37℃、22℃、4℃又は本発明の器具及び方法を用いて4℃で48時間経過したヒト膵島細胞の生存性を、2つの異なる色素で染色して比較している。上に挙げた温度で上に挙げた時間培地中に貯蔵したヒト膵島細胞を単離した。やはり、本発明の器具及び方法が現在の保存方法及び貯蔵方法よりも高い生存性を示す。
【0037】
膵島単離データを表1に示す。膵島単離のために7つのブタ膵臓を使用した。結合葉の除去後の平均膵島重量は、153.3±44.5gだった。平均温虚血時間(ブタを屠殺した時間と膵臓を冷蔵溶液に保存した時間との間隔として定義される)は45.6±7.9分だった。平均冷虚血時間(膵臓を冷蔵溶液に保存した時間と単離のため保存溶液から膵臓を取り出した時間との間隔として定義される)は121.3±2.2分だった。電気ポンプによるコラゲナーゼ灌流の平均時間は10.7±1.5分だった。フェーズIの時間(溶液の循環開始時間と組織回収開始時間との間隔として定義される(Allen RD, Nankivell BJ, Hawthorne WJ, O'Connell PJ, Chapman JR : Pancreas and islet transplantation: an unfinished journey. Transplant Proc 2001;33(7-8):3485-8))は10.4±2.6分であり、フェーズIIの時間(フェーズIの終了時と膵島回収の終了時との間隔として定義される(Allen RD, Nankivell BJ, Hawthorne WJ, O'Connell PJ, Chapman JR : Pancreas and islet transplantation: an unfinished journey. Transplant Proc 2001;33(7-8):3485-8))は40.7±5.7分だった。精製後の平均膵島当量(IE、高純度画分のみ)は603,805.2±291,752.0IEだった。平均純度及び平均生存性はそれぞれ93.4±5.2%及び98.0±3.0%だった。
【0038】
【表1】

【0039】
測定中の温度は常に開始温度の0.5℃以内だった(図5)。温度は5分以内に22.0℃、37.0℃及び4.0℃の設定点に達し、安定的に維持された。KFCの温度は初期設定の通り、すぐに6.0℃まで下がって0.3℃/時間の速さで徐々に1.0℃まで下がった。
【0040】
24時間後に各群の膵島に明確な形態学的変化はなかった。しかしながら、群1(37℃)及び群2(22℃)では48時間後には徐々に大きな膵島が消えた。低温設定の間では、群3(4℃)の膵島は群4のものよりも不明瞭な境界を有するようだった(図6、矢印)。
【0041】
24時間後の膵島回収率は、群1で51.8±23.0%、群2で82.5±26.0%だった(図7A)。他方で、4℃及びKFCの使用等の低温培養では回収率がはるかに高かった。膵島回収率は95.4±5.75%(4℃)及び97.5±14.2%(KFC)だった。低温では高回収率を維持することができた。こうした傾向は48時間後により顕著だった。48時間後の膵島回収率は、群1で48.7±28.6%、群2で46.6±15.5%、群3で61.5±20.0%、群4で73.9±17.3%だった。72時間後の膵島回収率は、群1で35.8±18.5%、群2で31.1±16.6%、群3で43.5±14.3%、群4で61.0±22.0%だった(KFCのP値はそれぞれ、37.0℃に対して<0.01、22.0℃に対して<0.001、4.0℃に対して<0.05だった。Newman-Keuls検定、図7A)。
【0042】
膵島純度は膵島当量が計数された際に評価された。24時間後に純度は、群1で85.0±10.0%、群2で83.3±7.6%、群3で82.5±5.0%、群4で85.0±9.4%にまで落ちた。48時間後に純度は、群1で75.8±20.6%、群2で78.3±2.9%、群3で76.7±5.8%、群4で84.5±9.9%であり、72時間後に純度は、群1で68.6±23.8%、群2で73.3±14.7%、群3で77.5±8.7%、群4で84.0±9.6%だった。48時間後及び72時間後の群4と群1との間で、膵島純度に有意差があった(P値は48時間後に<0.01、72時間後に<0.05だった。Newman-Keuls検定、図7B)。
【0043】
精製前(pre-purification、Pre)、保存24時間後、48時間後及び72時間後の細胞生存性を測定した。精製前の平均生存性は95.2±6.2%だった。37.0℃、22.0℃、4.0℃及びKFCの24時間後の膵島生存性はそれぞれ、82.1±6.2%、85.0±5.7%、86.0±3.3%及び91.1±3.3%にまで低下した。48時間後の生存性は、80.7±0.2%(37℃)、85.2±6.4%(22℃)、83.7±6.6%(4℃)及び90.5±5.4%(KFC)にまで低下した(37.0℃に対するKFCのP値は<0.05だった。Dunnett's検定、図7C)。72時間後の生存性は、78.0±9.1%(37℃)、80.0±4.6%(22℃)、82.0±1.8%(4℃)及び89.1±2.6%(KFC)にまで低下した(37.0℃に対するKFCのP値は<0.05だった。Dunnett's検定、図7C)。
【0044】
本発明者らは、KFCにより72時間保存したブタ膵島のインビトロ機能を調査した。刺激指数(stimulation index、SI)を前述の通り計算し、37℃(従来の保存設定)で同じ期間保存した膵島のSIと比較した。37℃で72時間保存した膵島の平均SIが1.4±0.4であるのに対して、KFCで72時間保存した膵島の平均SIは3.0±2.1であり、有意に高かった(P<0.03、独立t−検定、図8)。
【0045】
本発明は、以下のような形で新規保存溶液と共に用いられうる:(a)膵島細胞移植のレシピエントにおけるインターロイキン1遮断薬の使用、(b)保存溶液ET-Kyotoによる臓器調達時のドナー膵臓の膵管保存、及び/又は(c)ドナー膵臓温浸中のトリプシン阻害剤の使用。ET-Kyoto溶液及びその修正物は、様々なストレス条件下で細胞膜を安定させる非還元二糖としてトレハロースを含む。ET-Kyoto溶液の2つのバリエーションは、異なる電解質含有量を有する。例えば、Na 100mmol/L、K 44mmol/L(いわゆる「細胞外(extracellular)」溶液)及び「細胞内型(intracellular type)」IT-Kyoto溶液であり、後者は例えば、Na 20mmol/L、K 130mmol/Lにトレハロース35gr/lを加えたものである。本発明で使用され得る溶液のリストを表2にまとめるが、これに限られるものではない。
【0046】
【表2】

【0047】
トリプシン抑制剤の例には、血清α−1アンチトリプシン、ライマメトリプシン阻害剤、Kunitz阻害剤、オボムコイド阻害剤又はダイズ阻害剤が含まれるが、これに限られるものではない。これまでのところ、DMに罹患した患者の血清グルコース濃度に応じて注射されるインスリン投与量を有効に調節できる機械装置は存在しない。それゆえ糖管理は完璧ではなく、低血糖症を発症して危険な状態となり得る。
【0048】
膵臓移植−利点:膵臓移植は1型DMの治療法として十分確立している。それは腎臓移植と同時に実施される[膵腎同時移植(simultaneous pancreas and kidney transplantation、SPK)]か、腎臓移植後に実施される[「腎臓後膵臓」(pancreas after kidney、PAK)]か、或いは膵臓移植のみ(pancreas transplant alone、PTA)で実施される。膵腎同時移植は1999年の米国における膵臓移植の75%を占め、腎不全を患う50歳未満のその他の点では健康な1型糖尿病患者の管理のために最適の処置であり続けている(Allen RD, Nankivell BJ, Hawthorne WJ, O'Connell PJ, Chapman JR : Pancreas and islet transplantation: an unfinished journey. Transplant Proc 2001;33(7-8):3485-8)。膵臓移植の総数の10%未満であるPTAを実施するための指標は、あまり客観的でないが、継続的な介護者の存在が必要な生命を脅かす無自覚性低血糖症及び悪性の糖尿病性神経障害を含む。無自覚性低血糖症からの解放が、生涯にわたる免疫抑制のリスクを受け入れる最も説得力ある理由である。PTAのために選択されるこの患者群がまさに、単離膵島細胞移植の適切な候補とみなされる患者群でもある。
【0049】
膵臓移植の主要な効果は、インスリン非依存性及びDM関連合併症の一部の回避、停止又は軽減である。膵臓移植の成功から得られる生活様式上の利益は明白であり、長期的な正常血糖が達成されうる(Gruessner RWG, Sutherland DER, Drangstveit MB, Bland BJ, Gruessner AC: Pancreas transplants from living donors: short- and long-term outcome. Transplantation Proc 2001, 33 (1-2): 819-820; Sutherland DE, Gruessner RW, Dunn DL, Matas, AJ, Humar A, Kandaswamy R, Mauer SM, Kennedy WR, Goetz FC, Robertson RP, Gruessner AC, Najarian JS: Lessons learned from more than 1,000 pancreas transplants at a single institution. Ann Surg 2001, 233(4): 463-501; Robertson RP, Sutherland DE, Lanz KJ: Normoglycemia and preserved insulin secretory reserve in diabetic patients 10-18 years after pancreas transplantation. Diabetes 1999, 48(9): 1737-1740)。おそらく、糖尿病二次性合併症との関連での最大の利益は、自律神経障害及び末梢神経障害の改善であり、心機能の改善により患者生存率の向上がもたらされる(Fiorina P, La Rocca E, Astorri E, Lucignani G, Rossetti C, Fazio F, Giudici D, di Carlo V, Cristallo M, Pozza G, Secchi A: Reversal of left ventricular diastolic dysfunction after kidney-pancreas transplantation in type 1 diabetic uremic patients. Diabetes Care 2000, 23(12): 1804-1810)。神経伝導速度が改善して神経鞘内のニューロン修復が示唆されるだけでなく、伝導振幅が改善して軸索再生が示唆される(Allen RD, Al-Harbi IS, Morris JG, Clouston PD, O'Connell PJ, Chapman JR, Nankivell BJ: Diabetic neuropathy after pancreas transplantation: determinants of recovery. Transplantation 1997, 63(6): 830-838)。しかしながら患者が利益を得るには、移植は深刻な感覚運動神経障害の発症前に行われなければならない。通常は、糖尿病性網膜症は移植後も改善せず、SPK患者の90%が移植時にすでに永久損傷を負っている(Chow VCC, Pai RP, Chapman JR, O'Connell PJ, Allen RDM, Mitchell P, Nankivell BJ: Diabetic retinopathy after combined kidney-pancreas transplantation. Clinical Transplantation 1999, 13(4): 356-362)。
【0050】
膵臓移植−罹患率及び死亡率:膵臓移植は外科処置として十分確立されている。それは、罹患率及び死亡率と関連する主要な外科処置であるとみなされている。他の罹患率及び死亡率は、自己免疫抑制療法と関連する。この外科処置で使用される技術は、膵臓臓器全部を外分泌部及び内分泌部の両方と共に、十二指腸ループと一緒にまとめて移植することを必要する。
【0051】
特にこの外科処置と関連する合併症は、血管合併症及び吻合部合併症である(Sollinger HW, Odorico JS, Knechtle SJ, D'Alessandro AM, Kalayoglu M, Pirsch JD: Experience with 500 simultaneous pancreas-kidney transplants. Ann Surg 1998, 228(3):284-96)。最近のデータが示唆するところによれば、技術的理由による失敗率は概ねSPKで8%、PAKで13%、PTAで11%である。人工血管血栓(典型的には静脈性)は、早期移植片喪失に至る症例の2〜14%で生じる(Reddy KS, Stratta RJ, Shokouh-Amiri MH, Alloway R, Egidi MF, Gaber AO: Surgical complications after pancreas transplantation with portal-enteric drainage. J Am Coll Surg 1999;189(3): 305-313)。
【0052】
特定の合併症が、あるタイプの同種移植片消化管内排出(intestinal drainage)、すなわち腸管又は膀胱排出と関連する。膀胱排出に関した合併症には、手術直後の血尿、尿漏、尿逆流膵炎(urinary reflux pancreatitis)、外分泌膵臓による液体及び重炭酸塩の膀胱への分泌による代謝性アシドーシス及び脱水症、並びに外分泌膵酵素が膀胱及び尿道上皮に与える影響による生殖不能性膀胱炎(sterile cystitis)が含まれる。8%〜23%の症例において、これらの合併症は腸管排出への外科的転換を必要とする(Gruessner AC, Sutherland DE : Pancreas transplant outcomes for United States (US) cases reported to the United Network for Organ Sharing (UNOS) and non-US cases reported to the International Pancreas Transplant Registry (IPTR) as of October, 2000. Clinical Transplants 2000, (1): 45-72)。腸管排出に関して主要な合併症は、腹内膿瘍形成を伴う吻合部消化管漏出(anastomotic intestinal leak)であり、敗血症、複数臓器不全及び死亡へと至る可能性がある。上述の多数の合併症が、移植された膵臓の外分泌部又は移植された十二指腸ループと関連する。通常用いられる強力な免疫抑制にもかかわらず、膵臓移植後の拒絶反応率は約30%であり、10%で移植片喪失を伴う。UNOSにより記録された米国内の移植片生着率は、3ヶ月後で88.5%、1年後で80%、3年後で52.9%、5年後で40.7%である。腎臓−膵臓移植の結果は比較的良い(それぞれ87.7%、83.8%、77.2%及び67.5%)。10年間(1991年〜2000年)で年間死亡率の範囲は、膵臓移植では患者1000人あたり36.3人〜82.3人、腎臓−膵臓移植では患者1000人当たり31.1人〜63.2人である(2001 Annual Report of the U.S. Organ Procurement and Transplantation Network and the Scientific Registry for Transplant Recipients: Transplant Data 1991-2000. Department of Health and Human Services, Health Resources and Services Administration, Office of Special Programs, Division of Transplantation, Rockville, MD; United Network for Organ Sharing, Richmond, VA; University Renal Research and Education Association, Ann Arbor, MI)。
【0053】
膵島細胞移植−膵臓臓器全部移植の代替案:膵臓臓器全部移植の代替案として現れつつあるのが、膵島細胞移植(islet cell transplantation、ICT)である。この処置は、死体ドナーから摘出された臓器からのランゲルハンス膵島の酵素単離に基づいている(Linetsky E, Bottino R, Lehmann R, Alejandro R, Inverardi L, Ricordi C: Improved human islet isolation using a new enzyme blend, liberase. Diabetes 1997,46(7):1120-1123; Lakey JRT, Warnock GL, Shapiro AMJ, Korbutt GS, Ao Z, Kneteman NM, Rajotte RV: Intraductal collagenase delivery into the human pancreas using syringe loading or controlled perfusion. Cell Transplant 1999, 8(3):285-292; Ricordi C, Lacy PE, Scharp DW: Automated islet isolation from human pancreas. Diabetes 1989, 38 (Suppl. 1): 140-142)。得られた膵島は、門脈系への経皮的カテーテル法を介してレシピエントの肝臓に注入される(Shapiro AMJ, Lakey JRT, Ryan EA, Korbutt GS, Toth EL, Warnock GL, Kneteman NN, Rajotte RV: Islet transplantation in seven patients with Type 1 diabetes mellitus using a glucocorticoid-free immunosuppressive regimen. N Engl J Med 343:230-238, 2000)。この処置は、観血手術を回避すると同時に、十二指腸及び外分泌膵臓の移植並びにそれに関連する罹患を回避しつつ、インスリン産生細胞集団の選択的移植を可能にする。
【0054】
現在膵島細胞移植には、直接注入アプローチと遅延注入アプローチという2つのトレンドがある。直接移植は、可能な限り最短の膵島単離と膵島注入との間の時間の使用に焦点を当てる。もう一方の方法が意味するのは、単離後及び移植前の膵島の短期培養である。このことにより、膵島単離物の純度の増加が保証される一方で、それは膵島の生存性及び機能に影響せず、処置の実施がそれほど急を要しない場合に良い結果を生むようである(Rutzky LP, Bilinski S, Kloc M, Phan T, Zhang H, Katz SM, Stepkowski SM: Microgravity culture condition reduces immunogenicity and improves function of pancreatic islets. Transplantation 2002 Jul 15, 74(1): 13-21; Gaber AO, Fraga DW, Callicutt CS, Gerling IC, Sabek OM, Kotb MY: Improved in vivo pancreatic islet function after prolonged in vitro islet culture. Transplantation 2001, 72(11): 1730-1736)。
【0055】
様々な解剖学的部位について、膵島細胞の生着が試みられている(Matarazzo M, Giardina MG, Guardasole V, Davalli AM, Horton ES, Weir GC, Sacca L, Napoli R: Islet transplantation under the kidney capsule corrects the defects in glycogen metabolism in both liver and muscle of streptozocin-diabetic rats. Cell Transplant 2002, 11(2): 103-112; Hirshberg B, Montgomery S, Wysoki MG, Xu H, Tadaki D, Lee J, Hines K, Gaglia J, Patterson N, Leconte J, Hale D, Chang R, Kirk AD, Harlan DM: Pancreatic islet transplantation using the nonhuman primate (rhesus) model predicts that the portal vein is superior to the celiac artery as the islet infusion site. Diabetes 2002, 51(7): 2135-2140; Levy MM, Ketchum RJ, Tomaszewski JE, Naji A, Barker CF, Brayman KL: Intrathymic islet transplantation in the canine: I. Histological and functional evidence of autologous intrathymic islet engraftment and survival in pancreatectomized recipients. Transplantation 2002, 73(6): 842-852)。現在のところ、アクセスが比較的容易であること及び肝臓の二重循環系(動脈及び門脈)での静脈流の高流量を鑑みると、門脈が注入部位として好ましい。肝臓は高い再生能力を有し、主要なインスリン作用部位の1つである。肝臓部位はまた、膵島に何らかの免疫学的恩恵を与えてもいるようである。膵臓臓器全部移植と比較したとき、ICTは手術危険度を低め、より迅速でコストが低く、外来処置として実施され、したがって患者に歓迎されてきた。
【0056】
ICTの初期の試みはあまり大きな結果を生まなかった。その免疫抑制療法は、固形臓器移植に用いられるものと類似しており、高用量のステロイド及びカルシニューリン阻害剤―どちらの薬剤も糖尿病誘発効果を有する―に基づいていた(Drachenberg CB, Klassen DK, Weir MR, Wiland A, Fink JC, Bartlett ST, Cangro CB, Blahut S, Papadimitriou JC: Islet cell damage associated with tacrolimus and cyclosporine: morphological features in pancreas allograft biopsies and clinical correlation. Transplantation 1999, 68(3): 396-402)。膵島処置の変化(Linetsky E, Bottino R, Lehmann R, Alejandro R, Inverardi L, Ricordi C: Improved human islet isolation using a new enzyme blend, liberase. Diabetes 1997,46(7):1120-1123; Ricordi C, Lacy PE, Scharp DW: Automated islet isolation from human pancreas. Diabetes 1989, 38 (Suppl. 1): 140-142)。この結果は、カナダ、エドモントンのアルバータ大学の研究者グループが始めた、高用量のステロイドを回避し、シロリムス、タクロリムス及びダクリズマブを使用するという免疫抑制の変化によって、顕著に改善した。彼らのプロトコールは一般に、インスリン非依存性を達成するのに必要な決定的細胞量を達成するため、2回の膵島細胞注入を必要とする。こうした治療法の変化は、「エドモントンプロトコール(Edmonton Protocol)」として採用され、世界中の複数の移植センターで使用されている(Shapiro AMJ, Lakey JRT, Ryan EA, Korbutt GS, Toth EL, Warnock GL, Kneteman NN, Rajotte RV: Islet transplantation in seven patients with Type 1 diabetes mellitus using a glucocorticoid-free immunosuppressive regimen. N Engl J Med 343:230-238, 2000; Ricordi C, Strom, TB: Clinical islet transplantation: Advances and immunological challenges. Nat Rev Immunol. 2004 Apr;4(4):259-68)。エドモントングループからの近年の報告では、このセンターで65人の患者が膵島移植を受け、44人の患者がインスリン非依存性になったことが示された(Ryan EA, Paty BW, Senior PA, et al. Five-year follow-up after clinical islet transplanta-tion. Diabetes. 2005;54:2060-2069)。5年後の追跡調査では、〜80%が移植された膵島が機能していることを示すC−ペプチドの存在を示したが、インスリン非依存性であり続けたのは〜10%にすぎなかった。同様の結果が、米国内の他のセンターから報告されている(Froud T, Ricordi C, Baidal DA, Hafiz MH, Ponte G, Cure P, Pileggi A, Poggioli R, Ichii H, Khan A, Ferreiraa JV, Pugliese A, Esquenazi VV, Kenyon NS, Alejandro R. Islet transplantation in type 1 diabetes mellitus using cultured islets and steriod-free immunosuppression: Miami experience. Am J Transplantation 2005 5(8):2037-2046)。この分野におけるまた別の進展として、ミネソタのグループが、単一のドナーの膵臓から単離された最低限の用量の膵島細胞で、1型糖尿病重症患者においてインスリン非依存性を達成するのに十分であることを示した(Hering BJ, Kandaswamy R, Ansite JD, Eckman PM, Nakano M, Sawada T, Matsumoto I, Ihm S-H, Zhang H-J, Parkey J, Hunter DW, Sutherland DER. Single-donor, marginal-dose islet transplantation in patients with type 1 diabetes JAMA 2005 293(7):830-835)。
【0057】
この処置に関連する罹患には、肝臓穿刺、門脈カニューレ挿入及び肝機能検査(liver function tests、LFT)値の上昇に関連する合併症が含まれる。肝臓穿刺に関連する合併症は、被膜下又は実質内出血、腹腔内出血(累積度数:4%が輸血を必要とする)、胆嚢穿刺(2%)、胆汁漏出(1%)である。気胸及び/又は血胸は非常に稀である。肝臓における脂肪斑(fatty patches)の形成(脂肪症)が報告されている(Markmann JF, Rosen M, Sigelman ES, Soulen MC, Deng S, Barker CF, Naji A. Magnetic resonance-defined periportal steatosis following intraportal islet transplantation: a functional footprint of islet graft survival? Diabetes 2003 52(7):1591-1594)。これらの合併症の発生率は、より小さなカテーテルの使用並びに門脈に到達するための超音波ガイド(Allen RD, Al-Harbi IS, Morris JG, Clouston PD, O'Connell PJ, Chapman JR, Nankivell BJ: Diabetic neuropathy after pancreas transplantation: determinants of recovery. Transplantation 1997, 63(6): 830-838)及び肝臓の穿刺の穴を閉じるためのフィブリン接着剤の使用により低くなる可能性が高い。門脈カニューレ挿入及び注入の合併症には、門脈分枝血栓(2%)及び軽症の門脈部分血栓(2%)が含まれる。一連の報告の中に、外科手術又は他の侵襲的治療を必要とするものはなかった。
【0058】
LFT値の一過性の上昇はよく見られ(症例の93%)、患者の46%までが顕著な上昇を示す(ベースラインの2倍以上のAST)が、一般にレベルは移植後2週間以内に正常に戻る(Ryan EA, Lakey JR, Rajotte, RV, Korbutt GS, Kin T, Imes S, Rabinovitch A, Elliott JF, Bigam D: Kneteman NM, Warnock GL, Larsen I, Shapiro AM: Clinical outcomes and insulin secretion after islet transplantation with the Edmontonprotocol. Diabetes 2001, 50(4): 710-719)。主に肋間へのアクセス及び門脈圧の上昇により、処置中に痛みを伴う。処置後の痛みは稀である(Owen, RJT, Ryan, EA, O’Kelly, K, Lakey, JRT, McCarthy, MC, Paty, BW, Bigam, DL, Kneteman, NM, Korbutt, GS, Rajotte, RV, Shapiro, AMJ: Percutaneous transhepatic pancreatic islet cell transplantation in type 1 diabets mellitus: Radiologic aspects. Radiology 2003, 229: 165-170)。
【0059】
ドナー因子には、年齢、既存の膵島外傷、未確認のDM,アミロイド、脂肪浸潤、長期のICU在室、血行動態の安定性及び変力薬投与といった条件が含まれる。温虚血及び膵被膜損傷の回避を含めた、臓器調達の質が重要である。
【0060】
冷虚血時間(ドナーのクロスクランピング(donor cross-clamping)と単離の開始との間)は、通常の輸送培地では8時間を超えてはならない。これには、ウィスコンシン大学(University of Wisconsin、UW)溶液に浸してのドナー膵臓の輸送及び貯蔵が含まれる。臓器保存の新規アプローチは2層保存技術を用いる(Matsumoto S, Qualley SA, Goel S, Hagman DK, Sweet IR, Poitout V, Strong DM, Robertson RP, Reems JA: Effect of the two-layer (University of Wisconsin solution-perfluorochemical plus O2) method of pancreas preservation on human islet isolation, as assessed by the Edmonton Isolation Protocol. Transplantation 2002, 74(10): 1414-1419)。これは、2つの溶液―ウィスコンシン大学溶液及びペルフルオロデカリン―の使用を伴う。ペルフルオロデカリンは、酸素を貯めて徐々にそれを貯蔵されている臓器へと送達する能力を有するペルフルオロカーボンであり、このことによって、細胞生存性にとって臓器貯蔵の文脈において重要な、細胞ATP含量が保存される。2層技術はより長い冷虚血時間を可能にし、UW溶液中での6〜8時間の貯蔵を2層法による24時間までの貯蔵と比較したとき、同等の結果がもたらされる(Matsumoto S, Qualley SA, Goel S, Hagman DK, Sweet IR, Poitout V, Strong DM, Robertson RP, Reems JA: Effect of the two-layer (University of Wisconsinsolution-perfluorochemical plus O2) method of pancreas preservation on human islet isolation, as assessed by the Edmonton Isolation Protocol. Transplantation 2002, 74(10): 1414-1419)。医療グレード膵島の単離に影響を与える要因には、以下のものが含まれる:最適酵素バッチ(Ricordi C, Lacy PE, Scharp DW: Automated islet isolation from human pancreas. Diabetes 1989, 38 (Suppl. 1): 140-142)、処理中の温度制御、試薬の質、及び膵島の培養。以前に本発明者らは、ウリナスタチンを含有するM-Kyoto溶液で保存された膵管(Matsumoto S, Okitsu T, Iwanaga Y, Noguchi H, Nagata H, Yonekawa Y, Yamada Y, Fukuda K, Shibata T, Kasai Y, Maekawa T, Wada H, Nakamura T, Tanaka K. Successful islet transplantation from nonheartbeating donor pancreata using modified Ricordi islet isolation method. Transplantation 2006 82(4):460-5)が、コラゲナーゼ送達にとって重要な膵管の保全性を向上させることを示した。この技術により、医療グレード膵島を心臓の動いていないドナーから単離することに成功した(Matsumoto S, Okitsu T, Iwanaga Y, Noguchi H, Nagata H, Yonekawa Y, Yamada Y, Fukuda K, Shibata T, Kasai Y, Maekawa T, Wada H, Nakamura T, Tanaka K. Successful islet transplantation from nonheartbeating donor pancreata using modified Ricordi islet isolation method. Transplantation 2006 82(4):460-5)のであり、したがって、移植可能な膵島を心臓の動いているドナーから得ることができる。
【0061】
医療グレード膵島回収は、使用された膵臓の18〜35%で達成される。膵島細胞注入により、正常細胞集団の40〜85%が送達されるが、生着は25〜50%であると推定される(Owen, RJT, Ryan, EA, O’Kelly, K, Lakey, JRT, McCarthy, MC, Paty, BW, Bigam, DL, Kneteman, NM, Korbutt, GS, Rajotte, RV, Shapiro, AMJ: Percutaneous transhepatic pancreatic islet cell transplantation in type 1 diabets mellitus: Radiologic aspects. Radiology 2003, 229: 165-170)。したがってほとんどの場合、インスリン非依存性を達成するために2回目の膵島細胞注入が必要である。移植された膵島の総数が、インスリン非依存性の達成に影響を与える。
【0062】
現在の単離及び保存技術では、総数で9,000超の膵島当量/kgの注入が、良好な移植結果と関連させられる(Reddy KS, Stratta RJ, Shokouh-Amiri MH, Alloway R, Egidi MF, Gaber AO: Surgical complications after pancreas transplantation with portal-enteric drainage. J Am Coll Surg 1999;189(3): 305-313)。これは典型的には、2つのドナー膵臓の使用により達成される。レシピエント因子には、抗凝固及びサイトカイン活性化の回避、並びに膵島細胞毒性又はインスリン抵抗性を回避する免疫抑制が含まれる。
【0063】
移植のための膵島単離のプロセスは、ほとんどのセンターで、清潔な環境の特別に設計された施設において、確立されたプロトコールを用いてFDAの厳格な監督の下で実施されている。新しい施設の設立には、かなりの投資と、その後の適切な認定プロセスが必要であり、熟練した人的資源を必要する(Rastellini C, Braun M, Cicalese L, Benedetti E: Construction of an optimal facility for clinical pancreatic islet isolation. Transplant Proc 2001, 33(7-8): 3524)。
【0064】
膵島細胞移植(Islet Cell Transplants、ICT)研究の焦点は、外科的膵臓移植と最終的に置き換わる、安全且つ有効な処置の開発に絞られており、この処置は、拒絶反応に対する安全且つ有効な予防を提供する理想的な免疫抑制療法を伴い、一方で、移植レシピエントの生活の質に悪影響を与える副作用を最少化する。
【0065】
免疫抑制剤としてのコルチコステロイド及び高用量のカルシニューリン阻害剤は、移植された膵島の不全及びインスリン療法への回帰と関連付けられてきた。初期及び後期の拒絶反応発症を予防するための適切な免疫抑制を提供し、ステロイド及び高用量のカルシニューリン阻害剤の免疫抑制剤としての使用を最少化する療法を用いることが、きわめて望ましい。
【0066】
本研究は、ICT用のエドモントンプロトコールを修正したものとして本発明者らの機関で実施されている。以下の点を除き、エドモントンプロトコールに従っている:a)炎症による膵島の喪失を最少化し、そのことにより膵島生着の向上をもたらすため、移植の初期段階でエタネルセプト及びアナキンラを投与してもよい;b)誘導のためにダクリズマブの代わりにサイモグロブリンを投与してもよい;c)膵島移植片機能を亢進するため、シタグリプチン(ジャヌビア)を用いてもよい。こうした形でのエタネルセプト及びアナキンラの使用は、先行文献に記載されておらず、本発明者らが知る限り、現在のところ米国のどの膵島細胞プロトコールにおいても適用されていない。しかしながら、予測される副作用毒性は低く、このアプローチによりかなりの免疫学的利益が得られる可能性がある。すなわち、ラパマイシン又はタクロリムスによる毒性がある場合に、これら2つの薬剤の用量を減らすことができる。こうしたエタネルセプト及びアナキンラの使用は、エドモントンからの本プロトコールの主要な修正点のうちの1つである。
【0067】
加えて本発明者らは、新規膵島単離プロトコールを開発した。これは最初は、心臓が動いていないドナーの膵臓のために日本で開発された。特に、膵臓調達時の膵管保存、膵臓温浸中のトリプシン阻害及び膵臓親和性精製溶液が、膵島の質及び量を向上させる。
【0068】
手順−臓器調達及び輸送:膵島単離のための膵臓調達は、全米臓器配分ネットワーク(the United Network for Organ Sharing、UNOS)のガイドラインに従い全国のしかるべき場所で、標準的な臓器調達の一部として死体ドナーから実施される。臓器調達は、資格を有する移植手術グループが地域の臓器調達組織(Organ Procurement Organization)と協力して実施する。これらの医師及びOPOは、膵島細胞単離のための膵臓摘出及び輸送に精通していなければならない。加えて彼らは、比較的長い冷虚血時間のための適切な設備及び輸送材を持っていなければならない。
【0069】
ドナー膵臓は標準的ドナー膵臓についてのUNOSの規定に従って処理施設へと輸送される。それは輸送中はウィスコンシン大学(University of Wisconsin、UW)溶液のみか、或いはそれに酸素化ペルフルオロカーボン(perfluorocarbon、PFC)溶液を加えてか、或いは適切な輸送培地中に貯蔵される。膵管もまた、ウリナスタチンを含有するM-Kyoto溶液(Ricordi C, Lacy PE, Scharp DW: Automated islet isolation from human pancreas. Diabetes 1989, 38 (Suppl. 1): 140-142)又は適切な保存溶液と共に保存される。
【0070】
いかなる場合でも、研究室チーム及び医長(the Medical Director)により膵島細胞の準備ができたとみなされ次第、それらを移植するためにあらゆる努力がなされうる。研究被験者が本研究のステップのそれぞれ(調達、単離、レシピエント準備、膵島注入)について、異なるタイムラインが割り当てられることはないだろう。しかしながら、ドナー手術又は研究室での膵島分離作業又は放射線診断室のスケジューリング又はレシピエントの準備において、計画実行上の遅れが生じる可能性はある。細胞の損失を避けるため、ウィスコンシン大学溶液にペルフルオロカーボンを付加することで単離前の貯蔵期間を延長させうるのであり、培養器中での膵島培養により単離後移植前の貯蔵期間を延長させうる。これらのタイムラインは患者によっていくらか変化しうるので、患者間での時系列の違いを記録し、血糖管理を確立するためにこれを成功又は失敗と相関させうる。同様にして、ペルフルオロカーボン溶液の使用及び/又は膵島培養の使用を患者間で相関させうる。
【0071】
膵島単離:ドナー膵臓からの膵島単離は、ベイラー研究所(the Baylor Research Institute)膵島細胞処理実験室(Islet Cell Processing Laboratory、ICPL)で、Ricordi, et al.に記載の「自動化法(automated method)」を修正したものを用いて実施される(Ricordi C, Lacy PE, Scharp DW: Automated islet isolation from human pancreas. Diabetes 1989, 38 (Suppl. 1): 140-142)。ICPLは、膵島を処理するためのクラス10,000の無菌室、産物リリース試験を実施するためのQA/QC実験室、並びに、試料及び試薬を保存するための冷凍室を備える。ICPLはこれまで、妥当性検証のために29回の膵島単離を実施した。さらにこの実験室は、FDA認可プロトコール11731Aの下、遠隔地単離膵島産物の安全性及び有効性を試験するため、5つの移植用膵島産物を処理した。遠隔地妥当性検証プロトコールは、フロリダ州マイアミの糖尿病研究所と協力して同時に実施された。近年ICPLは、医療グレード膵臓の膵島単離を8回実施し、5つの単離膵島を4人の1型糖尿病患者へと移植することに成功した。さらに最近では、本発明者らはSERVA社から入手したコラゲナーゼ酵素を用いて、妥当性検証のための3回の追加膵島単離を実施した。3つの単離物全ての膵島収量及び品質が、このプロトコールに従って移植用として認定されるものだった。
【0072】
ヒト死体ドナー膵臓をICPLへと受け入れてもよく、実験室で以前に妥当性検証が行われた方法に従って単離されてもよい。臓器、膵島及び膵島細胞産物の操作は全て、クラス10000無菌室内に備えられたクラス100BioSafetyキャビネットで実施される。
【0073】
これらの方法は以下の通りである:臓器調達組織(organ procurement organization、OPO)を通して膵臓を得て、輸送培地に入れて輸送する。好ましくは、膵管もまたウリナスタチンを含有するM-Kyoto溶液又は適切な保存溶液で保存される。培地はどのOPOが臓器を調達するかによって異なる。この培地/輸送の変化は注意深く調査され得る。
【0074】
妥当性検証方法−膵島注入前のリリース試験:それぞれの膵島調製物最終産物の試験項目には、膵島細胞数、純度、生存性、無菌性、エンドトキシン及び効力が含まれる。膵島細胞数、純度、生存性及びエンドトキシンの結果は注入前に得られ、アッセイロットリリース基準を満たしていなければならない。無菌性及び効力試験の最終結果は注入後にならないと得られない。もしこれらの結果がリリース基準を満たしていないならば、結果がわかり次第すぐに修正措置が取られる。加えて膵島単離産物は、最終処分(final disposition)決定前に試験される。もし暫定試験がリリース基準を満たしていなければ、細胞は移植されない。
【0075】
膵島細胞注入:位置。膵島細胞注入は、ベイラー大学医療センター(Baylor University Medical Center)インターベンショナルラジオロジー室(Interventional Radiology Suite)又はベイラーオールセインツ医療センター(Baylor All Saints Medical Center)で、インターベンショナルラジオロジストにより実施される。この処置は無菌操作を用いる侵襲的治療のために設計された部屋で行われ、必要ならば全身麻酔を用いることもできる。
【0076】
準備及び麻酔:患者を入院させ処置の準備をする。処置のインフォームドコンセントを得る。
【0077】
右下胸部側面、右上腹部及び心窩部をヨード調製物で無菌状態にする。通常はIV鎮静法での局部麻酔で十分である。局部麻酔はインターベンショナルラジオロジストにより決定される最適の麻酔薬を用いて、この部位の肋間神経ブロックで実施される。
【0078】
門脈のカニューレ挿入:3.5MHzプローブを用いたリアルタイム超音波検査法で、門脈カニューレ挿入のためのガイドが得られる。
【0079】
穿刺部位:処置は肝臓の経皮直接穿刺により実施される。カニューレ挿入のために門脈の右枝又は左枝を選択でき、穿刺部位はそれに従ってインターベンショナルラジオロジストにより選択される。
【0080】
技術:門脈へのアクセスに22G Chiba針を用い、しかるのちにSeldinger法を用いてガイドワイヤに沿った門脈へのカテーテル挿入が行われる。4-5Frカテーテルを門脈に導入する。針及びカテーテルの大きさは、処置を実施するインターベンショナルラジオロジストの裁量で変化してもよい。
【0081】
門脈造影像:解剖学的構造及び流量を評価するため、カテーテルを通して低浸透厚ヨード造影剤を手動注入し、門脈造影像を得る。最小限の造影剤を使用することが推奨される。
【0082】
膵島細胞注入−バッグシステム:膵島細胞注入バッグシステムは、200mLの量の膵島懸濁液を含む600mL注入バッグからなる。膵島細胞の注入は、1又は2のバッグシステムを用いる。注入膵島量が5mLを超える場合には、2以上のバッグが必要である。膵島を含むそれぞれのバッグは、付加された35IU/kgのヘパリンを含む。注入物中のヘパリンの最大量は、70IU/kgである。もし注入が早く停止された場合には、総量が35IU/kgに達するようヘパリンの残量を計算して門脈内に注入し、しかるのちに生理食塩水洗浄を行わなければならない。
【0083】
バッグの内容物は重力のみを用いてレシピエントの門脈系内に注入される。その後バッグを50mLの移植媒体で洗浄し、洗浄物をバッグから門脈系へと注入する。その後、この処置を他のバッグ又は膵島を含むバッグについて繰り返す。
【0084】
注入の完了:注入の完了後、注入カテーテル及びバッグを追加移植媒体ですすぎ、膵島がバッグの口又は3方活栓に引っかかっていないことを確実にする。膵島毒性を回避するため、注入後に門脈造影は繰り返さない。
【0085】
門脈圧評価:3方コネクタを介してつないだ直接測定により門脈圧を得る。測定値は、適切にシステムのゼロを設定した後、心臓血管モニター上で読み取る。
【0086】
門脈測定のタイミング:門脈(portal vein、PV)圧は、処置前、それぞれの膵島細胞バッグ注入の途中、及び、洗滌液によるバッグの毎回の洗浄終了時に得られる。最終門脈圧についても記録される。
【0087】
門脈圧変化の管理:門脈圧は膵島細胞注入中に上昇することが予測される。以下の状況は処置の調節を必要とする:処置前の20mmHgを上回る門脈圧は、膵島細胞注入にとって禁忌である。
【0088】
注入中のいつでもPV圧がベースライン値の2倍を超えるが18mmHg未満である場合には、注入を10分間中断し、PV圧をもう一度測定してもよい。門脈圧がベースラインの2倍を下回り、18mmHg未満である場合には、注入を再開してもよい。もしそうでない場合には、10分後にもう一度測定する。
【0089】
PV圧がベースラインの2倍を超えるが18mmHgを下回る場合には、処置を継続してもよい。いつでもPV圧が22mmHgを超える場合には、PV圧が18mmHgを下回るまで注入を中断する。10分を超えてPV圧が22mmHgを上回るか、或いは20分を超えて18mmHgを上回る場合には、処置を中止する。
【0090】
門脈カテーテルの除去:門脈カテーテルを除去し、その後に導入器の鞘を先端が実質内にあるところまで引き抜く。放射線科医の選んだ止血剤をヨードで満たされたシリンジの先端内に配置し、鞘の外端へと注入する。止血剤をさらに、放射線科医の選んだスティフナ(stiffener)/トロカール/ワイヤを用いて鞘の内端へと進める。その後、鞘をプラグ上から引きぬく。プラグはこの時点で肝臓実質内で容易に視認できなければならない。可能であれば、第2のプラグを配置する。
【0091】
回復:処置後、患者を介入的放射線処置回復エリアで、医師により決定される必要な期間観察し、その後移植サービス(Transplant Service)へと移して一晩を過ごさせる。処置の翌日に、肝機能検査及び肝臓のドップラー超音波検査を行う。
【0092】
入院:回復後、1〜2日の観察のため患者は移植サービスに入院する。入院の長さは、患者がどの程度0日目のサイモグロブリンの初回投与に耐性を示すかにより決定されうる。患者は、移植後2、4及び6日目にサイモグロブリンの継続投与を受けるため病院に戻る。退院の基準には以下のものが含まれる:以下のものを含むがそれに限られない、出血を示さないという実験室での検査結果;ヘモグロビン濃度及びヘマトクリット濃度。LFTが受容限度内であること(正常値上限の2倍未満)、並びに、膵島細胞注入翌日に実施されたドップラー超音波検査により著しい出血又は貯留のないことが示された主門脈、左門脈及び右門脈。
【0093】
本発明は、ブタ膵島の新規貯蔵方法を確立するための有効な新規設計冷却システムを記述している。本発明者らは、元来はFUJIYA Co.社により収穫されたラン、果物及びエビ等の植物及び食料の保存のために開発された、KFC冷却システムを使用した。この冷却システムは、最初は商業的農業分野において長期冷却保存のための「冬眠状態」を達成するために設計された。この冷却システムの温度設定を、外部の感知コンピュータにより容易に変更し、厳密に制御することができる。本発明者らは既に、このシステムによる段階的冷却が、従来のUW溶液中での4℃保存と比較して、ラット肝臓全部の保存にとっていくつかの利点を有することを報告している(Fiorina P, La Rocca E, Astorri E, Lucignani G, Rossetti C, Fazio F, Giudici D, di Carlo V, Cristallo M, Pozza G, Secchi A: Reversal of left ventricular diastolic dysfunction after kidney-pancreas transplantation in type 1 diabetic uremic patients. Diabetes Care 2000, 23(12): 1804-1810)。本開示において本発明者らは、KFCによりブタ膵島を有効に保存して、少なくとも72時間まで生存性を維持できることを初めて示した。
【0094】
KFCにより徐々に段階的に冷却することにより、冬眠と類似した状況を提供できる。実際に、リスやハムスター等のいくつかの冬眠をする哺乳動物は、ATP合成速度とATP利用速度とを等しくすることで自らの代謝を保護する(Allen RD, Al-Harbi IS, Morris JG, Clouston PD, O'Connell PJ, Chapman JR, Nankivell BJ: Diabetic neuropathy after pancreas transplantation: determinants of recovery. Transplantation 1997, 63(6): 830-838; Chow VCC, Pai RP, Chapman JR, O'Connell PJ, Allen RDM, Mitchell P, Nankivell BJ: Diabetic retinopathy after combined kidney-pancreas transplantation. Clinical Transplantation 1999, 13(4): 356-362)。この冬眠プロセスは安定したイオン勾配をもたらし、代謝低下を制御しうる(Sollinger HW, Odorico JS, Knechtle SJ, D'Alessandro AM, Kalayoglu M, Pirsch JD: Experience with 500 simultaneous pancreas-kidney transplants. Ann Surg 1998, 228(3):284-96)。さらに、ヒト心筋細胞は「冬眠状態」を得ることができると示されている(Reddy KS, Stratta RJ, Shokouh-Amiri MH, Alloway R, Egidi MF, Gaber AO: Surgical complications after pancreas transplantation with portal-enteric drainage. J Am Coll Surg 1999;189(3): 305-313)。したがって、膵島細胞はかかる冬眠状態を得ることができる。また、温度を低下させることにより、トリプシンのような細胞破壊性酵素による自己融解が減少する。
【0095】
本発明者らは、新規KFC段階的冷却システムが利点を有し、72時間までのブタ膵島貯蔵を可能にすることを示した。やはり、このKFCシステムは脆弱なブタ膵島細胞を貯蔵するための有望なシステムである。
【0096】
本明細書において論じられたあらゆる実施形態を、本発明のあらゆる方法、キット、試薬、又は構成に関して実行可能であり、逆もまた真であるということが意図されている。さらに本発明の構成を、本発明の方法を達成するために用いることができる。
【0097】
本明細書に記載の特定の実施形態は例示のために示されており、本発明を限定するものではないことが理解されるだろう。本発明の主要な特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な実施形態において利用されうる。常法を超える実験を使用せずに本明細書に記載の具体的な方法と等価な無数の方法を当業者は認識するか、或いは確認することができるだろう。かかる等価な方法は本発明の範囲内にあるとみなされ、本請求項に包含される。
【0098】
本明細書において言及された刊行物及び特許出願は全て、本発明の関連分野の当業者のレベルを示すものである。全ての刊行物及び特許出願は、さも個々の出版物又は特許出願が参照により組み込まれると具体的且つ個別に指示されたかのごとく、本明細書に参照により組み込まれる。
【0099】
単数の用語の使用は、本請求項及び/又は本明細書中で「含む(comprising)」なる用語と共に用いられた際には、「1」を意味していてもよいが、「1又は2以上(one or more)」、「少なくとも1つ(at least one)」及び「1又は1より大きい(one or more than one)」なる意味を有することとも矛盾しない。本請求項中での「又は(or)」なる用語の使用は、各代替案のみを指す、或いは各代替案が相互に排他的であると明確に断りのない限り、「及び/又は(and/or)」を意味するものとして使用されるが、本開示は各代替案のみ及び「及び/又は」を指す定義を支持する。本願全体を通して、「約(about)」なる用語は、ある値が、その値を決定するために使用される装置、方法に内在的な誤差の変化量、又は、研究被験者間に存在する変化量を含むことを示すものとして使用される。
【0100】
本明細書及び本請求項において用いられるものとして、「含む(comprising)」(並びに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」等のそのあらゆる変化形)、「有する(having)」(並びに「有する(have)」及び「有する(has)」等のそのあらゆる変化形)、「含む(including)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(include)」等のそのあらゆる変化形)又は「含有する(containing)」(並びに「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」等のそのあらゆる変化形)なる用語は、包括的又は無制限であり、列挙されていない追加の要素又は方法ステップを排除しない。
【0101】
「又はこれらの組合せ」なる用語は、本明細書において用いられるものとして、かかる用語の前に列挙された項目のあらゆる順列及び組合せを指す。例えば、「A、B、C、又はこれらの組合せ」は、以下のうち少なくとも1つを含むことを意図している:A、B、C、AB、AC、BC又はABC、且つ特定の文脈においてもし順序が重要であるなら、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC又はCAB。この例を続けると、明白に含まれるのは、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABB等、1又は2以上の項目又は用語の反復を含む組合せである。そうでないことが文脈から明らかでない限り、典型的にはいかなる組合せにおいても項目又は用語の数に制限はないことを当業者は理解するだろう。
【0102】
本明細書において開示され請求された構成及び/又は方法の全てが、本開示に照らして過度の実験なしに作製され実行されうる。本発明の構成及び方法は、好ましい実施形態の観点から記述された一方で、本発明の概念、趣旨及び範囲を逸脱することなく、本明細書に記載の構成及び/又は方法に対して、並びに、方法のステップ又は一連のステップにおいて、バリエーションが適用されうることは当業者にとって明らかであろう。当業者にとって明らかなかかる類似の代替案及び修正の全てが、添付の本請求項により定義される本発明の趣旨、範囲及び概念の内にあるとみなされる。
【0103】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
生存性を維持するために臓器、組織、又は細胞が溶液中に保持され、且つ、全貯蔵期間を通して前記臓器、組織、又は細胞が冷蔵装置内で冷却され、その際の器具内の平均温度の設定温度からの変化が摂氏2度以内である、臓器、組織、又は細胞を貯蔵するための器具。
【請求項2】
器具が臓器又は組織を18分以内に体温から約4℃にまで冷却する、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
器具がさらにCO、N及びOから選択される保存ガスのための1又は2以上の導入口を備える、請求項1に記載の器具。
【請求項4】
器具が臓器又は細胞の温度を測定する1又は2以上のプローブを備える、請求項1に記載の器具。
【請求項5】
器具内の設定温度からの温度変化が摂氏1度以内である、請求項1に記載の器具。
【請求項6】
器具内の設定温度からの温度変化が摂氏0.5度以内である、請求項1に記載の器具。
【請求項7】
器具が0、1、2、3、4、5又は6℃よりも高い設定温度を有する、請求項1に記載の器具。
【請求項8】
臓器又は組織が肝臓、肺、角膜、筋肉、心臓、膵臓、膵島、腎臓、乳房、眼、耳、骨又は骨髄の少なくとも一部を含む、請求項1に記載の器具。
【請求項9】
貯蔵される臓器又は組織の生存性が少なくとも80%である、請求項1に記載の器具。
【請求項10】
貯蔵される臓器又は組織の生存性が100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%及び30%である、請求項1に記載の器具。
【請求項11】
臓器又は組織が貯蔵中に、抗体、酵素、ステロイド、抗生物質、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ベクター、核酸、タンパク質、ペプチド、脂質、炭水化物、塩、ミネラル、ビタミン、緩衝剤、ガス、電気刺激、力学的応力(伸展及び/又は加圧)、放射線並びに毒素から選択される1又は2以上の活性因子で処理される、請求項1に記載の器具。
【請求項12】
臓器又は組織の保存方法であって、
移植用の臓器又は組織を得ること;
保存溶液内に前記臓器又は組織を配置すること;
前記臓器又は組織を事前に選択された温度にまで冷却すること;及び
事前に選択された温度の前記臓器又は組織を、事前に選択された温度からの変化が摂氏2度以内の温度に貯蔵期間中維持すること
を含む方法。
【請求項13】
器具が18分以内に体温から約4℃にまで臓器又は組織を冷却する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
器具がさらに、CO、N及びOから選択される1又は2以上の保存ガスのための導入口を備える、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
器具が臓器又は細胞の温度を測定する1又は2以上のプローブを備える、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
器具内の設定温度からの温度変化が1度以内である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
器具内の設定温度からの温度変化が摂氏0.5度以内である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
器具が0、1、2、3、4、5又は6℃よりも高い設定温度を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
臓器又は組織が肝臓、肺、角膜、筋肉、心臓、膵臓、膵島、腎臓、乳房、眼、耳、骨又は骨髄の少なくとも一部を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
保存された臓器又は組織が少なくとも80%の生存性を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
保存された臓器又は組織の生存性が100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%及び30%である、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
臓器又は組織が貯蔵中に、臓器移植を改善する1又は2以上の活性因子で処理される、請求項12に記載の方法。また別の態様において、臓器は貯蔵中に、抗体、酵素、ステロイド、抗生物質、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ベクター、核酸、タンパク質、ペプチド、脂質、炭水化物、塩、ミネラル、ビタミン、緩衝剤、ガス、電気刺激、力学的応力(展伸及び/又は加圧)、放射線及び毒素から選択される1又は2以上の活性作因で処理される。
【請求項23】
移植可能な膵島調製物の調製方法であって、
膵臓又は膵臓組織をドナーから摘出すること;
1又は2以上の膵管にET-Kyoto溶液又はその等価物を注入すること;
β膵島細胞を単離すること;
前記膵臓又は膵臓組織を事前に選択された温度にまで冷却すること;及び
器具内の事前に選択された温度の前記膵臓又は膵臓組織を、事前に選択された温度からの変化が摂氏2度以内の温度に貯蔵期間中維持すること
含む方法。
【請求項24】
器具内の設定温度からの温度変化が摂氏1度以内である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
器具内の設定温度からの温度変化が摂氏0.5度以内である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
器具が0、1、2、3、4、5又は6℃よりも高い設定温度を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
β膵島細胞を単離するステップがコラゲナーゼを用いて実施される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
単離されたβ膵島細胞が少なくとも35%の回収率を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
単離されたβ膵島細胞の回収率が100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%、35%、30%、25%及び20%である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
単離されたβ膵島細胞が少なくとも70%の純度を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
単離されたβ膵島細胞の純度が100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%、35%、30%である、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
単離されたβ膵島細胞が少なくとも80%の生存性を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
単離されたβ膵島細胞の生存性が100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%及び30%である、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
ヒトインターロイキン−1アンタゴニストが、インターロイキン−1ベータ(IL−1β)遺伝子転写の1又は2以上の修飾因子;IL−1β遺伝子翻訳の1又は2以上の修飾因子;IL−1βの発現を標的とする1又は2以上のsiRNA;1又は2以上のIL−1β受容体遮断薬;1又は2以上のインターロイキン−1受容体アンタゴニストタンパク質;1又は2以上のインターロイキン−1受容体アンタゴニストペプチド;IL−1βの放出を改変する1又は2以上の活性因子;IL−1βを中和する1又は2以上の抗体;IL−1β受容体を遮断する1又は2以上の抗体;1又は2以上の組換え及び天然のIL−1β受容体アンタゴニスト;IL−1βの放出を阻害する1又は2以上のアニオン輸送阻害剤、リポキシン及びアルファ−トコフェロール;不活性IL−1β前駆体をその成熟した活性型へと変換するタンパク質分解酵素を阻害する1又は2以上のオピオイド;IL−1βの生物学的機能を中和する1又は2以上の抗体、これらの混合物並びにこれらの組合せから選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
遺伝子転写阻害剤、不活化腫瘍壊死因子、腫瘍壊死因子受容体遮断薬及び可溶性腫瘍壊死因子受容体から選択される腫瘍壊死因子アンタゴニストを患者に提供することをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項36】
移植可能な臓器又は組織の貯蔵方法であって、
移植可能な臓器又は組織を摘出すること;
前記臓器又は組織を保存溶液内に配置すること;
前記臓器又は組織を事前に選択された温度にまで冷却すること;及び
事前に選択された温度の前記臓器又は組織を、事前に選択された温度からの変化が摂氏1度以内の温度に保存期間中維持すること
を含む方法。
【請求項37】
移植可能な臓器又は組織が少なくとも80%の生存性を有する、請求項36に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A−B】
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【図7C】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−514002(P2012−514002A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543676(P2011−543676)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/069401
【国際公開番号】WO2010/075509
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(509004712)ベイラー リサーチ インスティテュート (38)
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR RESEARCH INSTITUTE
【Fターム(参考)】