説明

移植細胞の生存を強化する因子の局所的送達

【課題】細胞の生存、増殖、および再生可能で、容易に製造される分化した形態、細胞を用いた移植に適しかつ高度に制御可能な形態での細胞の維持を強化する因子の送達のための系を有することは有利であり、これを提供することが本発明の解決すべき課題である
【解決手段】上記課題は、移植細胞の生存、増殖、または分化を促進するための組成物であって、生物活性因子を含有し、ここで生物活性因子が、生分解性ポリマー性マトリックスからの放出によって細胞に投与されるのに適しており、生分解性ポリマー性マトリックス上またはその中に細胞が接着または懸濁される、組成物を提供すること、あるいは、必要な患者に移植するための組成物であって、生物活性因子を組み合わせて移植される細胞を含有し、ここで細胞がマトリックス上に提供されるか、またはマトリックス中に懸濁される、組成物を提供することによって、上記課題が解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に、本発明は、細胞培養および移植の分野におけるものであり、そして具体的には、細胞の生存を強化するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
米国政府は、RobertS. LangerのNational Science Foundation BCS9202311による補助金に基づき、本発明における権利を有する。
【0003】
肝臓移植は、非特許文献1に記載のように、末期の肝臓疾患のための確立された治療であるが、この治療は、提供臓器の不足により大いに制限される。米国では、毎年約30,000人がなおも肝臓疾患により死亡し(American Liver Foundation, Vital Statistics ofthe United States, 1988;第2巻(A))、そして1991年には、移植のために名簿に載せられた者の23%が、臓器を待っている間に死亡した(Annualreport of the U.S. scientific registry for organ transplantation and the organprocurement and transplant network, 1990. Richmond, VA, UNOS, and Bethesda, MD,the Divisionof organ transplantation, Health Resources and ServicesAdministration, PE59, 19)。肝実質細胞、肝細胞の移植が、肝臓疾患のための全臓器移植の代わりに提案されている(Asonumaら、J.Ped. Surg., 27:298-301(1992))。単一の代謝の欠損は、肝臓量の12%を置き換えることで治療され得(Asonumaら)、そしてそれゆえ、1つの肝臓が複数の患者に利用され得、または生存している提供者の肝臓の部分的切除は、別の人を処置するために必要な肝臓量を提供し得る。あるいは、患者自身の細胞が、単一の遺伝子欠損を処置するために、回収され、遺伝的に修飾され、そしてその患者にもどし送達され得る(Wilsonら、J.M.,Grossman, M., Raper, S.E., Baker., J.R., Newton, R.S., Thoene, J.G. Ex vivogene therapy of familial hypercholesteremia. Human Gene Therapy, 1992;3:179-222)。肝細胞は、予め、懸濁物中に移植され、カプセル化され、ミクロスフェアに付着、あるいは分解性または非生分解性のポリマー繊維に付着させられた(Hansenら、Hepatocytestransplantation using artificial biodegradable polymers. Hoffman, M.A.編、Currentcontroversies in biliary atresia. Austin, TX: R.G. Landes, 1993; 96-106)。
【0004】
肝細胞の移植を用いる肝臓機能の置換することに対して、細胞送達の手段に拘わらず、移植細胞の生存性および増殖を確保することは重要である。肝細胞の移植における先行する先行研究は、肝細胞移植と共に門脈下大静脈吻合が(PCS)を行うことが、肝細胞移植を向上させることを示した(Uyamaら、Transplantation55:932-935(1993))。しかし、肝臓疾患の患者は既に危険に曝された状態にあり、そしてPCSの負担はこれらの人に対して適し得ない。
【0005】
肝臓は、部分的な肝切除後、繰り返し再生し得、そして肝細胞の増殖を誘導する多様な因子が同定されている。これらは、上皮増殖因子(EGF)、α線維芽細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、および形質転換増殖因子αを包含する(Fausto Prog. Growth FactorRes., 3:219-234(1991))。これらのマイトジェンの効果は、例えばインスリン、グルカゴン、およびエストロゲンのようなコマイトジェンで媒介される。肝細胞の再生において重要なこれらの因子の多くは、門脈循環中に存在するようであり(Jaffeら、Int.J. Exp. Path., 72:289-299(1991))、そしてこれらの因子の起源は明らかではないが、膵島細胞由来の栄養性因子は、移植された肝細胞の生存を向上させる(Ricordiら、Surgery,105:218-223(1989))。しかし、これらの効果を特異的な因子の存在に帰することは困難で、そしてこれらのアプローチは利用可能な膵島組織の不足により制限される。所定量の特異的因子を再生産的に送達するための技術が開発されれば、単独および組み合わせにおける種々の因子の、肝細胞の生存および増殖における効果を、体系的に調べることが可能となり、そしてそれは肝細胞移植を、臨床的に適切な治療に近づけ得る。
【0006】
タンパク質のような高分子を送達するための系は、Langer、Science, 249:1527-1533(1990)に総説されるように、持続的な期間にわたり、過去20年以上も活発に開発されてきた。特に、生物分解性ポリマーにより作製された送達ビヒクルは、その薬物送達がポリマー骨格を通しての拡散、および/またはポリマーの侵食により制御され得るため、興味をそそるものである。インスリン(Brownら、Diabetes,35:684-691(1986))およびEGF(Murrayら、In Vitro, 1983; 10:743-748)のような、肝細胞に関する因子を送達する系が以前に開発された。しかし、少量の生物学的に活性な因子は、これらの系を用いて、長期間にわたり放出され得るが、装置の形態(固体のポリマー板)は、細胞といっしょに共移植するには適切ではない。
【非特許文献1】Starzlら、N. Eng. J. Med. 321:1014-1022(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、細胞の生存、増殖、および再生可能で、容易に製造される分化した形態、細胞を用いた移植に適しかつ高度に制御可能な形態での細胞の維持を強化する因子の送達のための系を有することは有利であり、これを提供することが本発明の解決すべき課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は以下を提供する。
(項目1) 移植細胞の生存、増殖、または分化を促進するための方法であって、増殖因子、増殖因子以外の血管由来因子、繊維組織の内部成長を阻害する因子、および細胞移植部位における腫瘍増殖を阻害する因子からなる群から選択される、生物活性因子を細胞に投与する工程を包含し、ここで該生物活性因子が、生分解性ポリマー性マトリックスからの放出によって投与され、その上、またはその中に、細胞が接着、または懸濁される方法。
(項目2) 前記因子が、ヘパリン結合増殖因子、形質転換増殖因子αまたはβ、α線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、インスリン、グルカゴン、およびエストロゲンからなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記細胞が肝細胞でありそして前記因子が上皮増殖因子である、項目2に記載の方法。
(項目4) 前記細胞の移植時または移植前に、門脈大静脈吻合を行う工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目5) 前記細胞が、実質および構造細胞からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目6) 前記細胞が、マトリックス上に移植される、項目1に記載の方法。
(項目7) 前記細胞が、ヒドロゲル中に移植懸濁される、項目6に記載の方法。
(項目8) 前記細胞が、100ミクロンと300ミクロンとの間の隙間の間隔を有する繊維状の生体適合性のポリマー性マトリックス上に付着される、項目6に記載の方法。
(項目9) 前記生物活性因子が、経時的に該生物活性因子の制御された放出を提供するミクロスフェア中の細胞に投与される、項目1に記載の方法。
(項目10) 前記生物活性因子が、1ヶ月と数年との間の期間にわたり放出される、項目9に記載の方法。
(項目11) 前記細胞が、マトリックス上に移植され、前記生物活性因子が、経時的に生物活性な因子の制御された放出を提供するミクロスフェア中の細胞に投与され、そして該ミクロスフェアが該マトリックス中に付着または組み込まれる、項目1に記載の方法。
(項目12) それを必要な患者に移植するための組成物であって、増殖因子、血管由来因子、増殖因子以外、繊維組織の内部生長を阻害する因子、および細胞移植部位における腫瘍増殖を阻害する因子からなる群から選択される、生物活性因子を組み合わせて移植される細胞を含有し、ここで該細胞がマトリックス上に提供されるか、またはマトリックス中に懸濁される、組成物。
(項目13) 前記因子が、へパリン結合増殖因子、形質転換増殖因子αまたはβ、α線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、血管内皮細胞増殖細胞因子、インスリン、グルカゴン、およびエストロゲンからなる群から選択される、項目12に記載の組成物。
(項目14) 前記細胞が肝細胞であり、そして前記因子が上皮増殖因子である、項目13に記載の組成物。
(項目15) 前記細胞が、実質細胞および構造細胞からなる群から選択される、項目12に記載の組成物。
(項目16) 前記細胞が、ヒドロゲルに移植懸濁される、項目12に記載の組成物。
(項目17) 前記細胞が、100ミクロンと300ミクロンとの間の内部空間を有する繊維状、生体適合性ポリマー性マトリックスに接着される、項目12に記載の組成物。
(項目18) 前記生物活性因子が、経時的に生物活性因子の制御された放出を提供するミクロスフェア中の細胞に投与される、項目12に記載の組成物。
(項目19) 前記生物活性因子が、1ヶ月と数年との間の期間にわたり放出される、項目18に記載の組成物。
(項目20) 前記生物活性因子が、経時的に該生物活性因子の制御された放出を提供するミクロスフェア中の細胞に投与され、そして該ミクロスフェアが該マトリックスに接着または組み込まれる、項目12に記載の組成物。
【0009】
(本発明の要旨)
EGFのような因子が、ポリマーミクロスフェアを用いて、他給栄養的な部位に移植された肝細胞のような細胞に、移植細胞の微小環境を調節して移植を向上させるために送達される。このアプローチは、種々の因子の、肝刺激(hepatostimulation)における、単独および組み合わせでの役割の概観をつかむ研究、ならびに細胞機能の置換または補充を必要とする患者の処置に有用である。
【0010】
本実施例に記載のように、上皮増殖因子(EGF)が、二重乳化技術を用いて乳酸およびグリコール酸のコポリマーから作製されるミクロスフェア(19±12μm)中に組み入れられた(0.11%)。組み込まれたEGFは、インビトロで1カ月にわたり規則正しく放出され、そしてそれはDNA合成、分裂、および培養肝細胞の長期間の生存を刺激する能力により測定されるように、生物学的活性を残していた。EGF含有ミクロスフェアは、肝細胞懸濁物と混合され、多孔性のスポンジ上に接種され、インビボでの効果を示すために2グループのLewisラットの腸間膜に移植された。第1のグループは、門脈大静脈吻合(PCS)を受け、第2のグループは受けなかった。移植2週間後にPCS動物では、EGF含有ミクロスフェアを含む装置は、ブランクのミクロスフェアを受けた移植と比較して、移植肝細胞の数が2倍の増大を示した。PCSなしの動物へ移植された装置を有する移植肝細胞は、PCSを有する動物への移植装置よりも少なかった。無PCS動物においては、EGF含有ミクロスフェアのブランクを用いた移植との間には、移植肝細胞の数における差異は見られなかった。これらの結果は、それらの移植を向上させるために他給栄養部位に移植された肝細胞の微小環境を変化させ得る系を設計し得ることを示す。また、それらは門脈循環由来の因子とEGF因子との組み合わせが肝細胞の生存性の向上に重要であることを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(本発明の詳細な説明)
(送達系)
生物活性因子は、ミクロ粒子送達系を用いて、制御された様式で提供され得る。好ましい実施態様において、ミクロスフェアは、移植細胞に対する、細胞生存、増殖、または分化を強化する因子の制御された放出を提供するために利用される。この因子を含むポリマーミクロスフェアは、この因子がミクロスフェアからの拡散および/またはミクロスフェアの分解によって放出されるように、ヒトまたは動物に対して投与される。このミクロスフェアは、生分解性ポリマー、最も好ましくは合成ポリマーまたはタンパク質および多糖類のような天然のポリマーにより形成される。本明細書中に用いられるポリマーは合成ポリマーおよびタンパク質の両方をいう。また本明細書中で用いる用語「ミクロスフェア」は、他に示さない限り、ポリマーから形成される球形粒子を示し、ポリマー核を含み、マイクロカプセルおよび微小粒子を含む。輸送系としての使用のためには、マイクロカプセルは、選択的透過性を有する外側のコーティングが必要である。同様に、生物活性因子は、そのミクロ粒子が送達系として使用されるためには、ミクロ粒子中に均一に分散されねばならない。
【0012】
(合成ポリマーマトリックスの選択)
本明細書で用いられる用語「生侵食性(bioerodible)」、または「生分解性」は、インビボで、より単純な化学種に、酵素的または化学的に分解される物質をいう。
【0013】
上記のように、天然または合成ポリマーのいずれかが、送達マトリックスとして用いられ得るが、合成ポリマーは再生および制御された放出カイネティックについて好ましい。ミクロスフェアを形成するために用いられ得る合成ポリマーとして、ポリ(ラクチド)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(ラクチド-co-グリコライド)(PLGA)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカルボネート、ポリアミド、ポリアンヒドライド、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレートおよび分解性ポリウレタン、ならびにポリアィリレートのような非侵食性ポリマー、エチレン-ビニルアセテートポリマーおよび他のアシル置換セルロースアセテートおよび誘導体、非侵食性ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルフォネートポリオリフィン、およびポリエチレンオキシドのような生侵食性ポリマーが挙げられる。
【0014】
天然ポリマーの例として、アルブミン、コラーゲン、合成ポリアミノ酸、およびプロラミンのようなタンパク質、アルギネート、ヘパリン、および他の天然に存在する糖が単位の生分解性ポリマーのような多糖類が挙げられる。
【0015】
PLA、PGAおよびPLA/PGAコポリマーは、ミクロスフェアを形成するために特に有用である。PLAポリマーは、通常乳酸の環状エステルから調製される。L(+)およびD(−)型の乳酸両方が、PLAポリマーを調製するために用いられ得、ならびに光学不活性なD(−)およびL(+)乳酸の混合物であるDL-乳酸混合物も用いられ得る。ポリラクチドの調製方法は特許文献によく記載されている。以下の米国特許(その教示は本明細書中の参考として援用されている)は、適切なポリラクチド、それらの特性、およびそれらの調製を詳細に記載する:Doroughの第1,995,970号;Schneiderの第2,730,316号;Salzbergの第2,758,987号;Zeileの第2,951,828号;Higginsの第2,676,945号;Trehuの第2,683,136号;第3,531,561号。
【0016】
PGAはグリコール酸(ヒドロキシ酢酸)のホモポリマーである。グリコール酸のポリ(グリコール酸)への転換において、グリコール酸は最初にそれ自身と反応し環状エステルグリコライドを形成し、そしてこれは熱および触媒の存在下で、高分子量の線状鎖ポリマーに転換される。PGAポリマーおよびそれらの特性は、「CyanamidResearch Develops World's First Synthetic Absorbable Suture」、Chemistry andIndustry、905(1970)にさらに詳細に記載されている。
【0017】
組み込まれた化合物の放出およびそのマトリックスの生侵食両方が、PLA、PGAまたはPLA/PGAの分子量と相関している。より高分子量、平均分子量90,000またはそれより大きい場合、より長期間その構造的な完全さを保持するポリマーマトリックスを生じる;一方、より低分子量、平均分子量が30,000またはそれ未満の場合、より速い放出およびより短いマトリックス寿命の両方を生じる。
【0018】
これらのポリマー系からの因子の放出は2つの異なる機構により起こり得る。薬物は、本来のマイクロカプセル化の間に、ポリマー溶媒の除去により創造される空間により、または薬物の溶解により投与形態において生成される水が満たされたチャンネルをとおして散布される。第2の機構はポリマーの分解に帰する強化された放出である。時間とともに、ポリマーは侵食し始めそして装置内のミクロ構造を生成する。このことは薬物放出のさらなる経路を創造する。
【0019】
ポリマーの分解は、骨格上のエステル結合の自発的な加水分解により起こる。このようにその速度は水の取り込みに影響するポリマー特性を変化させることにより制御され得る。これらはモノマー比(ラクチド〜グリコライド)、D/Lラクチドに対抗するようなL-ラクチドの使用、およびポリマー分子量を含む。これらの因子は、最終的に水の浸透を支配する親水性および結晶性を決定する。塩、炭水化物、および界面活性剤のような親水性の賦形剤が、装置への水の浸透を増加させるために組み込まれ得、そしてそれによりポリマーの侵食を加速する。
【0020】
ポリマーの特性および投与形態を変化させることにより、これらの各放出機構の貢献を制御し得、そして因子の放出速度を変化し得る。低グリコライド組成物とともにポリL-ラクチドまたは高分子量ポリ(ラクチド-co-グリコライド)のような緩慢に侵食するポリマーは、制御された拡散になるような放出を生じる。グリコライド組成物の増大および分子量の減少は、水の取り込みおよびポリマーの加水分解の両方を強化し、そして放出カイネティックスに対する侵食成分を添加する。
【0021】
放出速度はまたミクロスフェア内の因子の積み込み(loading)を変化させることにより制御され得る。積み込みの増大は薬物の溶解において形成された相互連結しているチャンネルのネットワークを増強し、そしてミクロスフェアからの薬物の放出を強化する。
【0022】
(放出速度、分解速度、因子の安定性を変化させる添加物)
ポリマー加水分解は酸性または塩基性のpHにより加速され、そのため酸性または塩基性の賦形剤の含有がポリマーの侵食速度を調節するために使用され得る。賦形剤は粒子として添加され得、組み込まれた因子と混合され得るか、またはポリマー内に溶解され得る。
【0023】
分解エンハンサーはポリマー重量に対する重量に基づく。これらはタンパク質節に添加され得、分離相(すなわち、粒子として)として添加され得るか、または化合物に依存的にポリマー相内に同時溶解され得る。全ての場合、その量は、0.1%と30%との間(w/w、ポリマー)であるべきである。分解エンハンサーの型として、硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムのような無機酸、クエン酸、安息香酸、ヘパリン、およびアスコルビン酸のような有機酸、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、および水酸化亜鉛のような無機塩基、硫酸プロタミン、スペルミン、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンのような有機塩基、Tween(登録商標)およびPluronic(登録商標)のような界面活性剤が挙げられる。
【0024】
孔形成薬剤をマトリックスに対するミクロスフェアに添加する(すなわち、無機塩および糖のような水溶性化合物)。これらは粒子として添加される。その範囲は1%と30%(w/w、ポリマー)との間であるべきである。賦形剤がまた、放出の持続に依存してその有効性を維持するために因子に添加され得る。安定化剤として、炭水化物、アミノ酸、脂肪酸、および界面活性剤が挙げられ、これらは当業者に周知である。さらに、塩、複合剤(アルブミン、プロタミン)のような因子の溶解性を改変する賦形剤は、ミクロスフェアからのタンパク質の放出速度を制御するために使用され得る。
【0025】
因子に対する安定化剤は、重量を基礎にタンパク質の割合に基づく。例として、スクロース、ラクトース、マンニトール、デキストラン、およびヘパリンのような炭水化物、、アルブミンおよびプロタミンのようなタンパク質、アルギニン、グリシン、およびスレオニンのようなアミノ酸、Tween(登録商標)およびPluronic(登録商標)のような界面活性剤、塩化カルシウムおよびリン酸塩のような塩、脂肪酸、リン脂質、および胆汁酸塩のような脂質が挙げられる。
【0026】
炭水化物対タンパク質、アミノ酸対タンパク質、タンパク質安定化剤対タンパク質、および塩対タンパク質の比率は一般に、1:10〜4:1であり、界面活性剤対タンパク質の比率は1:1000〜1:20であり;そして脂質対タンパク質の比率は1:20〜4:1である。
【0027】
(ミクロスフェアへの因子の組み込み)
ミクロスフェアは、生体適合性のポリマーミクロスフェアへの因子の組み込みにより作成される。ここで、因子を含むミクロスフェアは、好ましくは少なくとも24時間の期間から1〜2年間の期間にわたって、因子の制御された放出を維持することにより特徴付けられる。一般的に、送達系は設計され、ここで生物活性因子は1カ月から数ヶ月の間の期間にわたって放出される。好ましい実施態様において、ポリマーは生分解性であり、ミクロスフェアは直径180ミクロン未満であり、最も好ましくは70ミクロン未満であり、皮下または筋肉内注射による投与が適切であり(23ゲージ針を通す適切な注射サイズは直径180μm未満である)、そしてそのミクロスフェアは0.01重量%から約30重量%までの因子を含有する。
【0028】
本明細書中で使用する用語「ミクロ」は、ナノメーター〜マイクロメーターの直径を有する粒子をいう。ミクロスフェアは、固体球状粒子であり、ミクロ粒子は不規則または非球形の形態の粒子である。ミクロスフェアは、元来ミクロスフェアを形成するのに用いられる物質とは異なる組成物の外側のコーティングを有し得る。他に記載しない限り、用語ミクロスフェアはマイクロカプセルを取り囲むために使用され得、および用語ミクロ粒子はミクロ粒子、ミクロスフェア、およびマイクロカプセルを取り囲むために使用され得る。ミクロ粒子は、特に、不規則な形態のポリマーまたはポリマー-薬物粒子を記載するときにいう。マイクロカプセルは、非ポリマー核または外側の殻とは異なるポリマーの核を有する、球状形態のポリマー装置である。「複合ミクロスフェア」は、少なくとも2つの異なる物質で形成されたミクロスフェアである(タンパク質およびポリマー、あるいは2つのタンパク質のいずれか)。「複合物」は本明細書に記載のように作成されたミクロスフェアの集合であり、この目的のために当業者に公知のような物質により結合される。
【0029】
本明細書中で使用される「持続的な」または「長い」因子の放出は、連続的または非連続的であり、線状または非線状であり得る。これは1つ以上の型のポリマー組成物、薬物ローディング、賦形剤または分解エンハンサーの選択を用いて達成され得、あるいは他の改変では、所望の効果を産生するために、単独で、組み合わせで、または連続的に投与される。
【0030】
因子は、(1)ミクロスフェアを形成するポリマーマトリックス、(2)ミクロスフェアを形成するポリマーにより取り囲まれたミクロ粒子(単数または複数)、(3)タンパク質ミクロスフェア内のポリマーコア、(4)ポリマーミクロスフェアを取り囲むポリマーコーティング、(5)より大きな形態に集合した、ミクロスフェアとの混合、あるいはそれらの組み合わせに、組み込まれ得る。
【0031】
因子は粒子として組み込まれ得るか、または因子とポリマーと同時溶解により組み込まれ得る。安定化剤は、ミクロスフェアの形成前に因子溶液への安定化剤の添加により組み込まれ得る。
【0032】
(ミクロスフェアの作成方法.)
活性剤が合成ポリマーのミクロスフェアに組み込まれ得る種々の技術が公知である。
【0033】
(噴霧乾燥工程)
噴霧乾燥工程において、ポリマーおよび因子は、ポリマー用の溶媒中でともに混合され、次いでその溶媒はその溶液を噴霧することにより蒸発させ、活性因子を含むポリマー小滴を残存させる。噴霧乾燥工程は、K.Mastersの「Spray Drying Handbook」(John Wiley&Sons,New York 1984);およびPatrickB.Deasyの「Microencapsulation and Related Drug Processes」(Marcel Dekker,Inc.,NewYork 1984)(本明細書中に援用される教示)に詳細に総説される。噴霧乾燥工程は、過程において熱を生じることによる活性のいくらかの損失、ならびにチャンバーの側面の広い表面域へのポリマーの吸着による多量のその物質の損失を生じ得、そのため少量においてのみ入手可能な不安定な材料には好ましくない。
【0034】
(溶媒蒸発)
溶媒蒸発技術はミクロスフェア形成のために使用され得る。これらの技術は、溶解した、または分散した活性因子のどちらかを含む有機溶媒におけるポリマーの溶解を含む。次いで、ポリマー/活性剤溶液は、通常水相である撹拌された連続相に添加される。乳化剤が、オイル−イン−ウオーターエマルジョンを安定化するために、水相に含有させられる。次いで、この有機溶媒は、数時間またはそれ以上の期間にわたって蒸発させられ、それによりコア物質のまわりにポリマーを沈殿させる。溶媒は、米国特許第3,737,337号、および米国特許第3,523,906号、または米国特許第3,691,090号(減圧下)に記載のように、単一の工程において、あるいは、米国特許第3,891,570号に示されるような熱の適用により、ミクロスフェアから取り除かれ得る。2工程技術が、米国特許第4,389,330号に記載される。また凍結乾燥が、Satoらにより「PorousBiodegradable Microspheres for Controlled Drug Delivery.I.Assessment ofProcessing Conditions and Solvent Removal Techniques,」Pharmaceutical Research5,21-30(1988)に報告されたように、ミクロスフェアから溶媒を除去するために使用され得る。これらの方法の教示は、本明細書中に援用される。
【0035】
溶媒蒸発は十分合理的に働くが、組み込まれた物質の量は、Benitaらにより「Characterization of Drug LoadedPoly(d,l-lactide)Microspheres,」J.Pharm.Sci. 73,1721-1724(1984)に報告されたように、水相への薬物の損失のため普通理論的な値より低いので好ましくない。
【0036】
(相分離)
相分離技術がまたミクロスフェアを形成するために使用され得る。これらの技術はウオーター-イン-オイルエマルジョンまたはオイル-イン-ウオーターエマルジョンの形成を含む。このポリマーは、温度、pH、イオン強度の変化、または沈澱剤の添加により、連続相から活性剤上へ沈殿される。例えば、米国特許第4,675,800号などは、活性タンパク質を含むポリ(乳酸-co-グリコール酸)ミクロスフェアの形成を記載する。タンパク質は、最初に、ウオーター-イン-オイルエマルジョンの水相に溶解されるか、またはポリマー相に固形として分散される。次いで、ポリマーは、シリコーン油のようなポリマーに対する非溶媒の添加により、水滴または薬物粒子のまわりに沈殿される。最終産物は、最良の相分離技術を用いて、マイクロカプセルの形態となる。マイクロカプセルはポリマー膜カプセルに囲まれたコア物質を含有する。しかし、これらの装置からの活性剤の放出カイネティックスは制御が困難であり得るので、マイクロカプセルは因子の送達のための好ましい実施態様ではない。
【0037】
これらの相分離技術は活性剤を含有するミクロスフェアの形成を生じるけれども、活性因子は溶媒抽出過程中でしばしば失われる。さらにスプレードライについては、生物学的活性なタンパク質はこの過程中で変性され得る。
【0038】
(急速凍結、溶媒抽出)
送達のための因子を含有しかつ所望の特徴を持つミクロスフェアの作成方法は、Gombotzらの米国特許第5,019,400号(本明細書中に援用される教示)に記載される。 ミクロスフェア作成のための系の2つの主要な実施態様がある:組み合わせ液化ガス-凍結非溶媒系および凍結非溶媒系。
【0039】
溶液中でカプセル化させるべきポリマーおよび薬剤は、超音波装置を用いて、液化ガスへ霧状にされる。この霧状の粒子は、それらが凍結液化ガス(液体窒素)に接触すると凍結し、凍結スフェアを形成する。これらは凍結非溶媒(エタノール)の表面へと没する。この液体ガスは蒸発させられ、そしてそのスフェアは非溶媒解氷(thaw)として非溶媒中に没し始める。スフェア中の溶媒はカプセル化されるべき薬剤を含むミクロスフェアの形成のため、非溶媒中に抽出される。ヘキサンのような他の非溶媒が、あるポリマーからの溶媒抽出率を増大するために、非溶媒(エタノール)に添加される。これは、適切には、例えば、スフェアがポリ乳酸-co-グリコライドポリマーを形成する場合である。
【0040】
あるいは、ポリマー用の、冷却非溶媒は、非溶媒の温度がポリマー/活性剤の凍結温度以下という条件で、液化ガス-凍結非溶媒の組み合わせと置換され得る。重要なことは、その非溶媒が最初に融解するように、そのポリマー用の非溶媒よりも高い融点を有する、ポリマー用の溶媒を選択することであり、そしてそのことは、その凍結ミクロスフェアが、より遅く解ける液体へ没することを可能にする。ポリマーミクロスフェアを作成するための冷却液体非溶媒系が用いられる場合、そのミクロスフェアはただちに非溶媒中に没する。ミクロスフェア内の溶媒が解けるとともに、それは非溶媒中に抽出される。ポリマー用の溶媒およびポリマー用の非溶媒は、ミクロスフェアからの溶媒の抽出を可能にするために混和可能でなければならない。
【0041】
(送達される生物活性因子)
種々の生物活性分子は、本明細書中に記載のミクロスフェアを用いて送達され得る。これらは、一般に、本明細書中で「因子」または「生物活性因子」という。
【0042】
好適な実施態様において、生物活性因子は、増殖因子、血管由来因子、線維芽細胞組織の内成長を選択的に阻害する化合物(例えば、抗炎症薬)、および形質転換(ガン性)細胞の増殖および成長を選択的に阻害する化合物である。
【0043】
増殖因子の例は、ヘパリン結合性増殖因子(hbgf)、形質転換増殖因子αまたはβ(TGFβ)、α線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を含み、これらのいくつかはまた、血管由来因子である。他の因子は、ホルモン(例えば、インスリン、グルカゴン、およびエストロゲン)を含む。
【0044】
ステロイド性の抗炎症薬は、移植されたマトリックスに対する炎症を軽減するために使用され得、それにより、マトリックス内での線維芽組織増殖の量を減少させる。
【0045】
正常な細胞の増殖を阻害しない選択的な化学療法剤(例えば、抗体標的化化学療法剤)が利用可能である場合、これらはミクロスフェアに取り込まれ得、そして細胞移植前の乳房切除またはガン組織の他の外科的な除去後に残存する任意の残余のガン細胞を阻害するために使用され得る。
【0046】
これらの因子は、当業者に公知であり、そして市販されているか、または文献に記載されている。インビボ投薬量は、細胞培養物中でのインビトロ放出研究に基づいて算定される;有効投薬量は、コントロールと比較した細胞増殖または生存が増加した投薬量であり、以下の実施例でより詳細に記載される。好ましくは、生物活性因子は、1〜30重量%の間で取り込まれるが、この因子は、0.01〜95重量パーセントの間の重量パーセントで取り込まれ得る。
【0047】
(細胞マトリックス)
送達系は、分離細胞の移植のために細胞マトリックスで投与され得るか、または細胞置換のために移植される細胞懸濁液中で分散され得る。好適な系において、この細胞は、マトリックス内で懸濁されるかまたはマトリックスに接着され、次いで移植される。ミクロスフェアは、マトリックスに付着されるかまたはマトリックス内に移植される。
【0048】
(細胞)
種々の分離細胞は、細胞が最初に分離される相違を伴い、組織または器官(例えば、肝臓)の単離および移植のための標準的な技術(一般的に、以下に記載のコラゲナーセ溶液を用いる処理により)を用いて移植され得る。自己細胞が好ましいが、非自己細胞が細胞型の適切な適合および免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン)の使用を伴って使用され得る。代表的な実施態様において、この細胞は、ヒトに移植されるヒト細胞である。細胞は、代表的には実質組織細胞(すなわち、一次構造機能よりも機能的に作用する器官細胞)である。器官の例は、肝臓、膵臓、腸、尿路内皮(urothelial)細胞(生殖構造または尿路上皮 (urothelial)構造を含む)、乳房組織および他の柔組織、ならびに内分泌組織を形成する細胞を包含する。細胞はまた、一次構造機能を有する組織(例えば、軟骨(軟骨細胞、線維芽細胞)、腱(腱細胞)、および骨(骨細胞))に由来し得る。細胞は、通常に、または一般的に操作され、付加的機能または正常な機能を提供し得る。
【0049】
(マトリックス)
新しい組織または増大する組織を作製するためのマトリックスの2つの主な型は、文献中に記載されている。
【0050】
(ヒドロゲルポリマー溶液)
本明細書中に記載の1つの実施態様において、アルギン酸カルシウムまたは柔軟なイオン化ヒドロゲルを形成し得る特定の他のポリマーは、細胞をカプセル化するために使用され得る。このヒドロゲルは、海藻より単離された炭水化物ポリマー(カルシウムカチオンを有する)をアルギン酸のアニオン塩に架橋させることにより生産する。その強度は、カルシウムイオンまたはアルギネートのいずれかの濃度の増加に伴って増加する。アルギネート溶液は、移植されるべき細胞と混合され、アルギネート懸濁液を形成する。次いで、この懸濁液を、懸濁液の凝固の前に、患者に直接注入した。次いで、この懸濁液は、インビボでのカルシウムイオンの生理的濃度の存在により、短い時間で凝固する。
【0051】
体内に移植するために細胞と混合されるポリマー物質は、ヒドロゲルを形成するべきである。ヒドロゲルは、有機ポリマー(天然または合成)が、共有結合、イオン結合、または水素結合により架橋され、ゲルを形成するために水分子を捕捉する三次元格子構造を作製する場合、形成される物質であると定義する。ヒドロゲルを形成するために使用され得る物質の例は、イオン的に架橋される多糖類(例えば、アルギネート、ポリホスファジン、およびポリアクリレート)、またはブロックコポリマー(例えば、Pluronics(登録商標)またはTetronics(登録商標))、温度またはpHにより、それぞれ架橋されるポリエチレンオキシド-ポリプロピレングリコールブロックコポリマーを包含する。他の物質は、タンパク質(例えば、フィブリン)、ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、およびコラーゲン)を包含する。
【0052】
一般に、これらのポリマーは、水溶液(例えば、水)、緩衝化塩溶液、または荷電した側基性アルコール水溶液、またはその1価のイオン化した塩に少なくとも部分的に可溶性である。カチオンと反応し得る酸性側基を有するポリマーの例は、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマー、ポリ(酢酸ビニル)、およびスルホン化ポリマー(例えば、スルホン化ポリスチレン)である。アクリル酸またはメタクリル酸の反応およびビニルエーテルのモノマーまたはポリマーのいずれかの反応により形成される酸性側基を有するコポリマーはまた、使用され得る。酸性基の例は、カルボン酸基、スルホン酸基、ハロゲン化(好ましくは、フッ素化)アルコール基、フェノール性OH基、および酸性OH基である。
【0053】
アニオンと反応し得る塩基性側基を有するポリマーの例は、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルイミダゾール)、およびいくつかのイミノで置換されたポリホスファゼンである。このポリマーのアンモニウム塩または第4級塩はまた、骨格の窒素または付属のイミノ基から形成され得る。塩基性の側基の例は、アミノ基またはイミノ基である。
【0054】
アルギネートは、室温、水中にて、2価のカチオンにイオン架橋し得、ヒドロゲルマトリックスを形成する。これらの温和な条件により、アルギネートは、ハイブリドーマ細胞のカプセル化のためのポリマーとして最も一般的に用いられてきた(例えば、Limの米国特許第4,352,883号に記載されている)。Limのプロセスによると、カプセル化生物学的物質を含有する水溶液を、水溶性ポリマーの溶液に懸濁し、そしてこの懸濁液は、多価カチオンと接触させることにより、個別のマイクロカプセル内に形成される水滴内に形成され、次いでマイクロカプセルの表面は、ポリアミノ酸と架橋され、カプセル化包膜された物質の周囲に半透膜が形成される。
【0055】
ポリホスファゼンは、単結合および二重結合を変化させることにより切り離される窒素およびリンからなる骨格を有するポリマーである。各々のリン原子は、二つの側鎖(「R])に共有結合する。ポリホスファゼンにおける繰り返し単位は、以下の一般的構造を有し:
【0056】
【化1】

ここでnは整数である。
【0057】
架橋に適切なポリホスファゼンは、酸性の多数の側鎖基を有し、そして2価のカチオンまたは3価のカチオンと塩橋を形成し得る。好適な酸性側基の例は、カルボン酸基およびスルホン酸基である。加水分解的に安定なポリホスファゼンは、2価または3価のカチオン(例えば、Ca2+またはAl3+)により架橋されるカルボン酸側基を有するモノマーを形成する。イミダゾール、アミノ酸エステル、またはグリセロール側基を有するモノマーが結合することにより、加水分解により分解されるポリマーが合成され得る。例えば、ポリアニオンの(polyaionic)ポリ[ビス(カルボキシラトフェノキシ)]ホスファゼン(PCPP)が合成され得、これは、室温以下で、水性媒体において、溶解された多価カチオンと架橋してヒドロゲルマトリックスを形成する。
【0058】
生浸食性(Bioerodible)ポリホスファジンは、少なくとも2つの異なる型の側鎖を有し、それらは、多価カチオンと塩橋を形成し得る酸性側基、およびインビボの条件下で加水分解する側基(例えば、イミダゾール基、アミノ酸エステル、グリセロール、およびグルコシル)である。本明細書中で使用される、用語「生浸食性」または「生分解性」は、一旦約25℃と38℃との間の温度を有するpH6〜8の生理学的溶液に曝露されると、所望の適用(通常、インビボ治療)に受容可能である期間内(約5年未満、および最も好ましくは、約1年未満)に溶解または分解するポリマーを意味する。側鎖の加水分解は、ポリマーの浸食の結果である。側鎖の加水分解の例は、基がアミノ結合によりリン原子に結合されている非置換および置換イミダゾールおよびアミノ酸エステルである(両方のR基がこの様式で結合するポリホスファゼンポリマーは、ポリアミノホスファゼンとして公知である)。ポリイミダゾールホスファゼンについて、ポリホスファゼン骨格上のいくつかの「R]基は、環の窒素原子を介して骨格中でリンと結合したイミダゾール環である。他の「R]基は、加水分解に関与しない有機残基(例えば、メチルフェノキシ基またはAllcockら、Macromolecule10:824-830 (1977)の科学論文において示された他の基)であり得る。
【0059】
種々の型のポリホスファゼンの合成および分析のための方法は、Allcock,H.R.ら、Inorg.Chem. 11,2584(1972);Allcockら、Macromolecules16,715 (1983); Allcockら、Macromolecules 19,1508 (1986); Allcockら、Biomaterials19,500 (1988);Allcockら、Macromolecules 21,1980 (1988);Allcockら、Inorg.Chem.21(2),515-521 (1982);Allcockら、Macromolecules 22,75 (1989); Allcockらの米国特許第4,440,921号、同第4,495,174号、および同第4,880,622号;Magillらの米国特許第4,946,938号;およびGrollemanら、J.ControlledRelease 3、143 (1986)に記載されでおり、これらの教示は、本明細書中で参考として特に援用される。
【0060】
上記の他のポリマーの合成のための方法は、当業者に公知である。例えば、Concise Encyclopedia of Polymer ScienceおよびPolymeric Amines andAmmonium Salts、E.Goethals編、(Pergamen Press、Elmsford、NY 1980)を参照のこと。多くのポリマー(例えば、ポリ(アクリル酸))は、市販されている。
【0061】
荷電した側基を有する水溶性ポリマーは、正の電荷の多価イオン(ポリマーが酸性側基を有する場合の多価カチオン、またはポリマーが塩基性側基を有する場合の多価アニオンのいずれか)を含む水溶液とポリマーが反応することにより架橋される。ヒドロゲルを形成するための酸性側基を有するポリマーの架橋のために好適なカチオンは、2価または3価のカチオン(例えば、銅、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、およびスズ)であるが、アルキルアンモニウム塩(R3N+-\/\/\/-+NR3)のような2価、3価、または4価の官能基がある有機カチオンがまた使用され得る。これらのカチオンの塩の水溶液を、このポリマーに添加され、柔軟で、高度に膨張したヒドロゲルおよびメンブランが形成される。カチオンの濃度が高くなるほど、または原子価が高くなるほど、ポリマーの架橋の程度がより高くなる。0.005M程度の濃度は、ポリマーを架橋することが示されている。高濃度は、塩の溶解度に制限される。
【0062】
ヒドロゲルを形成させるための、ポリマーの架橋に好適なアニオンは、低分子量のジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、硫酸イオン、および炭酸イオン)のような2価および3価のアニオンである。カチオンに関して記載したように、これらのアニオンの塩の水溶液をポリマーに添加して、柔軟で非常に膨張したヒドロゲルおよびメンブランが形成される。
【0063】
多様なポリカチオンが、複合体に使用され得、それにより、半透性の表面メンブラン内にポリマーヒドロゲルを安定化させ得る。使用され得る物質の例としては、3,000と100,000の間の好適な分子量を有するアミン基またはイミン基のような塩基性反応基を有するポリマーを含む(例えば、ポリエチレンイミンおよびポリリジン)。これらは、市販されている。1つのポリカチオンは、ポリ(L-リジン)である;合成ポリアミンの例は:ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルアミン)、およびポリ(アリルアミン)である。多糖類、キトサンのような天然のポリカチオンもまた存在する。
【0064】
ポリマーヒドロゲル上の塩基性の表面基との反応により、半透膜を形成するために使用され得るポリアニオンは、アクリル酸およびメタクリル酸のポリマーおよびコポリマー、およびアクリル酸の他の誘導体、付属のSO3H基を有するポリマー(例えば、スルホン化ポリスチレン、およびカルボン酸基を有するポリスチレン)を包含する。
【0065】
(細胞懸濁液)
好ましくは、ポリマーを、生理学的なpHで、水溶液に(好ましくは、0.1Mリン酸カリウム水溶液)に、ポリマーのヒドロゲルを形成する濃度(例えば、アルギネートについては、0.5〜2の間の重量%で、好ましくは、1%アルギネート)まで溶解させる。単離された細胞は、1,000,000細胞/mlと50,000,000細胞/mlとの間の濃度、最も好ましくは、10,000,000細胞/mlと20,000,000細胞/mlとの間の濃度まで、ポリマー溶液で懸濁させる。
【0066】
(ポリマーマトリックス)
移植のためのマトリックスはまた、生物活性因子の送達のために使用されるミクロスフェアの形成に使用されるのと同じポリマーから形成され得る。このポリマーは、マトリックス表面に付着した細胞に栄養および空気の遊離拡散を可能にする十分に間質性の間隔を有する線維構造として好適に提供される。この間隔は、代表的には、100から300ミクロンの範囲であるが、マトリックスが移植される場合、より近い間隔が用いられ得、血管がマトリックスを浸透することが可能になり、次いで細胞がマトリックス内に接種される。
【0067】
構築され、首尾良く移植され、そして機能する器官について、マトリックスは、移植後、細胞増殖および細胞分化が血管の内成長の前に生じ得るように、十分な表面領域を有し、そして養分に曝さなければならない。首尾良い移植およびマトリックス内での細胞の増殖のために必要な時間は、マトリックスが移植される領域が予め血管新生される(prevascularize)場合、非常に減少する。移植後、この立体配置は、養分の拡散および老廃物の拡散を可能にしなければならず、ならびに細胞増殖が生じるように血管の内成長の継続を可能にしなければならない。
【0068】
細胞は、マトリックス上に接種された後に移植され得るかまたは、所望の部位に既に移植されたマトリックス内に注入され得るかのいずれかである。後者は、マトリックスがこの部位で予め血管新生するのに用いいられ得る利点を有する。この場合、足場物質の設計および構築は、第一に重要である。このマトリックスは、柔軟で、非毒性であり、血管の内成長のために多孔性のテンプレートに注入可能でなければならない。この孔は、血管の内成長が可能であり、および細胞または患者への損傷を伴わずに、肝臓細胞のような細胞の注入が可能でなければならない。一般に、約100ミクロンと300ミクロンとの間の範囲で相互に連結する孔が存在する。このマトリックスは、表面領域を最大化し、養分および増殖因子の十分な細胞への拡散を可能にし、そして新しい血管および結合組織の内成長を可能にするべきである。現在のところ、耐圧性を有する多孔性構造組織は、接種前の移植および予めの血管新生(prevascularization)に好適である。
【0069】
好適な実施態様において、このマトリックスは、生吸収可能であり、または生分解可能である合成ポリマー(例えば、ポリアンヒドライド、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびこれらのコポリマーあるいはブレンド)で形成される。非分解性物質はまた、マトリックスを形成するために使用され得る。適切な物質の例は、エチレン、酢酸ビニル、ポリビニルアルコールの誘導体、テフロン(登録商標)、およびナイロンを包含する。好適な非分解性物質は、ポリビニルアルコールスポンジ、またはそのアルキル化物、およびエステルを含むこれらの誘導体のアクリル化を包含する。非吸収性ポリビニルアルコールスポンジは、Unipoint IndustriesからIvalon(登録商標)として市販されている。この物質を作製する方法は、Wilsonの米国特許第2,609,347号;Hammonの同第2,653,917号、Hammonの同第2,659,935号、Wilsonの同第2,664,366号、Wilsonの同第2,664,367号、およびWilsonの同第2,846,407号に記載されており、この教示は、本明細書中で参考として援用される。コラーゲンは、使用され得るが、制御可能ではなく、かつ好適ではない。これらの物質は、全て市販されている。非生分解性ポリマー物質が使用され得、増殖する細胞の最終的な性質に依存し、ポリメタクリレートおよびシリコンポリマーを包含する。
【0070】
いくつかの実施態様において、ポリマーへの細胞の付着は、化合物(例えば、基底膜組成物、寒天、アガロース、ゼラチン、アラビアゴム、I型、II型、III型、IV型、およびV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、これらの混合物、および細胞培養の当業者に公知の他の物質)でポリマーをコートすることにより促進される。
【0071】
マトリックス中で使用する全てのポリマーは、その後の成長および増殖を伴う細胞に十分な支持体を提供するために必要な機械的または生化学的パラメーターを満たさなくてはならない。このポリマーは、機械的特性(インストロン試験機を用いる引張強度、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリマーの分子量、示差走査熱測定法(DSC)によるガラス転移点、および赤外(IR)分光法による結合構造)を考慮して、エイムス試験およびインビトロでの奇形生成性アッセイを包含する第一のスクリーニング試験による毒物学、および免疫原性、炎症、放出ならびに分解研究についての動物における移植研究考慮して特徴づけされ得る。
【0072】
本発明は、以下の限定されない実施例を参照してさらに理解されるべきである。インビトロまたはインビボで移植された肝臓細胞の刺激に関して記載されるが、その方法論および組成物は、他の細胞型の移植に適用され得る。
【0073】
系は、肝細胞移植部位で、肝臓栄養(hepatotrophic)因子を放出するために開発されてきた。ポリマーミクロスフェアに取り込まれ、そしてそこから放出されたEGFは、インビトロでその生物学的な活性を維持し、そして異種部位に移植された肝細胞の植え付けを潜在的に達成し得た。特に、生分解性ポリマーの足場物質上に移植されたこれらの細胞の植え付けは、EGFおよび門脈循環由来の因子の両方の存在に依存し、そしてEGFのみの送達は、ほとんどまたは全く効果を有しなかった。これらの結果は、合成足場物質上に移植された細胞の生存、局所的な環境を調節することにより制御され得、そしてこの系はまたインビボにおける肝細胞生物学を研究するための有効な道具であり得ることを示している。
【0074】
ミクロスフェアからの持続された放出を介する肝臓栄養因子の送達は、移植された細胞の局所的環境を制御するための柔軟な技術である。因子の公知の用量は、このアプローチで送達され得、そして生物学的効果に必要な用量は、作用の所望の部位での送達が局在化するために、非常に少量であり得る(この研究において約10μg/動物)。薬物がポリマーマトリックスから放出される経時時間は、負荷される薬物、利用されるポリマーの型、および上述の正確なプロセス条件により、代表的に調節され得る。本研究で利用されるような乳酸およびグリコール酸のコポリマーからのタンパク質の放出は、一般に、タンパク質/ポリマーの比が低い場合、このポリマーの浸食により制御される(Cohenら、Pharm.Res.、8:713-720(1991))。しかし、放出されるタンパク質はまた、このアプローチで有用であるその生物学的活性を保持する。本研究において、ミクロスフェアに取り込まれ、そしてそこから放出される、EGFの生物学的活性は、有害でないようである。
【0075】
まとめると、細胞の生存および成長の調節における特定の因子の役割を研究するための系が開発され、そしてこの系は、移植された細胞の植え付けを促進する能力に非常に影響し得る。さらに、細胞移植のための合成細胞外物質の設計(Barreraら、J.Am.Chem.Soc.、115:11010-11011 (1993))とこのアプローチとの組合わせは、それらが溶解性の増殖因子(Mooneyら、(1992))に応答するいくつかのレベルで移植された細胞の遺伝子発現を調節し得る。
【実施例】
【0076】
(実施例1:ミクロスフェアの調製.)
(材料と方法)
(ミクロスフェアの調製および特性。)
前述の二重エマルジョン技術の改変により、EGFを含むミクロスフェアを調製した(Cohenら、(1991))。簡単に述べると、ポリ-(D,L-乳酸-co-グリコール酸)(ResomerRG 75R,intrinsic viscosity 0.2;Henley Chem.Inc.,Montvale,NJ)の75:25コポリマーを、酢酸エチル(FisherScientific)中で溶解して5%溶液(w:v)を得た。マウスEGF(Collaborative Research;Bedford,MA)を水に溶解して2mg/ml溶液を得、そして50μlのEGF溶液を1mlのポリマー溶液に加えた。ポリマー/EGF溶液を10ワット(Vibracell;Sonicsand Materials,Danbury,CT)で、15秒間連続的に超音波処理して単一のエマルジョンを得た。1%ポリビニルアルコール(分子量25,000、88%加水分解;PolysciencesInc.,Warrington,PA)および7%酢酸エチルを含む等容量の水溶液を単一のエマルジョンに加え、そして得られた溶液を高設定で、15秒間ボルテックス(VortexMixer;VWR)して、二重エマルジョンを得た。0.3%ポリビニルアルコール/7%酢酸エチル水溶液を150ml含む、250mlの迅速撹拌ビーカーに、この二重エマルジョンを移した。酢酸エチルをその後の3時間にわたって蒸発させ、捕捉されたEGFを有するポリマーミクロスフェアを得た。次いで、ミクロスフェアを濾過し、水で洗浄し、そして32μmと0.4μmとの間の大きさを有するビーズを回収した。ミクロスフェアを凍結乾燥し(LabconcoFreeze Dryer,Kansas City,MO)、そして使用するまで-20℃で保存した。コントロールビーズを同じ手順で調製したが、第1の、単一のエマルジョンを形成するために用いた水溶液(有機物中の水)は、EGFを含まなかった。
【0077】
EGF組み込みの有効性、およびミクロスフェアからのEGF放出の動力学を決定するために、125I標識マウスEGF(260mCi/mg;BiomedicalTech.Inc.,Stoughton,MA)をトレーサーとして利用した。単一のエマルジョンの形成の前に、約1μCiの標識EGFをEGF水溶液に加え、そしてビーズを上記のように調製した。ビーズ作製の後、既知量のビーズを、LKBCliniGamma 1272(Wallac,Gaithersburg,MD)においてカウントし、そして取り込まれたcpmを最初のEGF水溶液のcpmと比較して、ビーズ中に組み込まれた総EGFのパーセントを算定した。ミクロスフェアからのEGFの放出を決定するために、標識EGFを用いて調製された既知量のビーズ(約10mg)を、0.1%Tween20(Sigma Chem.Co.)を含む既知容量(2ml)のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中におき、そして37℃に維持されたインキュベーター中に置いた。指定の時間で、溶液を遠心分離してバイアルの底部にビーズを集め、そしてPBS/Tween20溶液のサンプル(0.1ml)を取り出した。サンプル容量を新しいPBS/Tween20溶液で置き換えた。取り出したサンプルをガンマカウンターでカウントすることにより、ミクロスフェアから放出された125I-EGFの量を各時点で測定し、そしてミクロスフェアに負荷した125I-EGFと比較した。放出媒体における最大EGF濃度(約5μg/ml)は、EGFの最大溶解度を十分下まわっており、従ってこの放出研究のためのシンク状態を確立した。
【0078】
顕微鏡写真をポラロイド55フィルムを用いて撮影した。ミクロスフェアの粒子サイズ分布を、Coulter Multisizer II(CoulterElectronics,Luton,UK)を使用して決定した。ミクロスフェアを作製するために使用したプロセスを図1に図で示す。
【0079】
(結果)
EGF水溶液を酢酸エチル中の5%ポリマーを含む溶液に加え、そして超音波処理して有機相中にEGF水溶液の単一のエマルジョンを生成した。このエマルジョンを界面活性剤を含むより大容量の水溶液に加え、そしてボルテックスして、二重エマルジョンを形成させた。酢酸エチルを蒸発させてミクロスフェアの合着を防ぎながら、ビーズを迅速に混合した。続いて、ミクロスフェアをふるいにかけ、0.4μmと30μmとの間のサイズを有するものを回収し、凍結乾燥し、そして使用するまで保存した。
【0080】
ミクロスフェアの大きさを、最初のポリマー溶液の濃度を変化させることにより約20μmに制御した。これは、懸濁肝細胞に近い大きさである。ポリマー濃度が高くなるほど、ミクロスフェアは大きくなる。5%(w:v)のポリマー溶液によりビーズの分類が生じ、ここで大部分は10〜30μmの望ましい大きさの範囲であった。ミクロスフェアサイズの定量により、平均ミクロスフェアサイズは、19±12μmであることが示された。このプロセスを用いたミクロスフェアの収率は、92±5%であった。
【0081】
ミクロスフェア中へのEGFの取り込みの効率およびミクロスフェアからの放出プロフィールを決定するために、125I標識EGFをトレーサーとして利用した。最初のEGFの約1/2(53±11%)がミクロスフェアに取り込まれた。EGF含有ミクロスフェアを水性媒体においた場合、図2に示すようにEGF放出の最初の破裂が示された。この時間の後、図2にまた示すように、残りの30日の時間経過にわたって、EGFは安定な様式で放出された。
【0082】
(実施例2:放出されたEGFの効力のインビトロ分析)
(材料および方法)
培養肝細胞を、ミクロスフェアに取り込まれたEGFおよびミクロスフェアから放出されたEGFが、その生物学的機能を保持したかどうか決定するために利用した。肝細胞を、2段階コラゲナーゼ灌流を使用して、ルイスラットから単離し、そしてMooneyら、(1992)によって前述(この教示は本明細書中に援用される)されたようにパーコール勾配を使用して精製した。炭酸緩衝液コート技術を用いて、1μg/cm2のI型コラーゲン(CollagenCorp.,Palo Alto,CA)でコートした24ウェル組織培養ディッシュ上に、肝細胞を、10,000細胞/cm2の密度でプレートした。インスリン(20mU/ml;Sigma)、デキサメタゾン(5nM;Sigma)、ピルビン酸ナトリウム(20mM;Gibco)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(100U/ml;IrvineScientific,Santa Ana,CA)の混合物、およびアスコルビン酸(50μg/ml、毎日新しくする;Gibco)を含む無血清WilliamのE培地(Gibco,GrandIsland,NY)を、全ての実験について使用した。可溶性EGF(Collaborative Research,Bedford,MA)の変化量を、特定の実験において媒体に加えた。ミクロスフェアから放出されたEGFを利用する条件についてはEGFを含まない媒体を、EGF含有ミクロスフェアとともに24〜96時間インキュベートして既知量のEGFを放出させ、その溶液を遠心分離し、そして放出されたEGFを含む媒体を取り出し、続く実験に使用した。細胞周期のS期に入った細胞を分析するために、トリチウム化したチミジンオートラジオグラフィーを利用した。培養肝細胞を1μCi/ml3H-チミジン(NEN;Boston,MA)を含む培地を用いてプレートした48時間後、再補給(refed)した。72時間で、細胞をPBSで2回洗浄し、全ての取り込まれなかった3H-チミジンを洗浄により除去し、グルタルアルデヒドを用いて固定し、そして100%メタノールを用いて脱水した。培養ウェルを、NTB-2エマルジョン(Kodak;Rochester,NY)で重層し、そしてディッシュを完全な暗所で7日間曝露させた。ディッシュをD-19現像液(Kodak)を用いて現像し、そして細胞の顕微鏡写真を、Hoffman光学を使用してNikonDiaphot顕微鏡上で、TMAX-100フィルム(Kodak)を用いて撮影した。その時間にわたる、培養肝細胞の生存および分裂を測定するための別の実験において、1、4、6、8および11の培養後のウェル中に存在する肝細胞の数を、0.05%トリプシン/0.53mMEDTA(Gibco)溶液を用いて細胞を取り出すことにより定量化し、Coulterカウンターでカウントした。
【0083】
(結果)
ミクロスフェアから放出されたEGFの機能を培養肝細胞を用いて評価した。指定の期間の間、EGF含有ミクロスフェアを、EGFを含まない媒体とともにインキュベートし、媒体中への既知量のEGF(放出動力学を用いて算定した)の放出を可能にした。細胞周期のS期に入る肝細胞の数、およびその後に分裂する肝細胞の数、ならびにこの時間にわたって生存する肝細胞の数を定量する実験において、この媒体を利用した。ミクロスフェアに取り込まれなかったEGFは、用量依存性の様式で、S期に入る肝細胞を刺激し、そして同じ、飽和用量のこのEGFまたはミクロスフェアから放出されたEGFは、図4で示すように類似の刺激を示した。図3で示すように、放出されたEGFはまた、コントロールEGFと類似の様式で細胞分裂を刺激した(放出されたEGFまたはコントロールEGFのいずれかを利用した場合、培養肝細胞の数が類似の様式で1日〜4日で増加した)。
【0084】
著しく、肝細胞は、EGFを含まない培地または低い濃度の可溶性EGF(1ng/ml)を含む培地において増殖しないだけでなく、これらの条件下で1日〜4日にわたって、細胞の数が実際に減少した(図4)。これは増殖因子要求性の培養肝細胞と一致する。これらの条件下での培養において、さらに延長された時間にわたって、非常に多くの細胞が死滅したが、ミクロスフェアから放出されたEGFは、図5に示すようにこの細胞損失を著しく妨げ得る。
【0085】
(実施例3:肝細胞を用いたEGFミクロスフェア同時移植のインビボ分析)
(材料および方法)
単離して精製した肝細胞と、EGF含有ミクロスフェアまたはコントロールミクロスフェア(0.4ml×50×106肝細胞/ml+10mgのミクロスフェア)と混合し、ポリ-(L,乳)酸(Medisorb;Cincinnati,OH)から作製した95%多孔性円筒スポンジ(直径=2.15cm、厚さ=1mm)の上にまき、そして前述の技術(17)のように、ポリビニルアルコールでコートした。細胞ポリマーデバイスを、前述の(18)ように、研究室ラットの腸間膜に移植し、そしてその動物の1/2は、全身性の刺激因子を産生するように、細胞移植(18)の1週間前に末端から側(endto side)門脈大動脈シャントを受けた。移植片を14日後に取り出し、ホルマリンで固定し、そして切片作製のために処理した。移植片の切片を、ヘマトキシリンおよびエオシンを用いて染色し、そして植え付けられた肝細胞を、その大きなサイズ、大きくかつ球状の核、および明瞭な細胞質染色により同定した。コンピューターによる画像解析(ImageTechnologies Corp.)を、肝細胞からなる各切片の領域を定量するために利用した。デバイスあたりの肝細胞の数を、平均の肝細胞領域を測定して、切片あたりの肝細胞の数を測定し、そして各切片の容量で割った移植片の総容量を掛けることにより算定した。全ての動物は、Children'sHospitalのAnimal Rsearch Facilityで飼育され、ならびに実験室動物の世話および使用についてのNIHガイドライン(NIHPublication #85-23 Rev.1985)に従った(ovserved)。
【0086】
(結果)
EGF含有ミクロスフェア(40mg)を、0.4mlのPBSに懸濁し、細胞を移植するために用いられる、ポリ-(L-乳)酸から作製された多孔性の生分解性スポンジ上にまき、そしてルイスラットの腸間膜中に1週間移植し、ミクロスフェアがデバイスによって一様に分配したことを確認した。1週間後に取り出したデバイスの横断切片を調べることにより、この時間にわたってデバイスに侵入した線維脈管組織を介する比較的同等のミクロスフェアの分配が明らかになった。
【0087】
ミクロスフェアから放出されたEGFが、肝細胞部位に移植された肝細胞の植え付けに明らかに影響をおよぼし得るかどうかを決定するために、肝細胞(0.4ml×5×107細胞/ml)およびミクロスフェア(10mg)を共に混合し、そしてポリ-(L-乳)酸から作製された多孔性の生分解性スポンジ上にまいた。細胞/ミクロスフェアをまいたデバイスを、実験室ラット(その1/2は以前にPCSを受けた)の腸間膜中に移植した。2週間後の移植片の回収、その後の組織学的な調製および観察により、PCSを有しかつEGF含有ミクロスフェアを受けた動物は、非常に多数の植え付けられた肝細胞を有するようであることが示された。PCSを有しかつコントロールミクロスフェアを受けた動物は、植え付けられた肝細胞をほとんど有さず、そしてPCSを有さない動物は、少しも有しなかった。ミクロスフェアを用いてまかれ、そしてインビボで移植された多孔性のスポンジの薄切片は、線維脈管組織が今回のポリマーデバイスにより存在し、そして、ミクロスフェア(丸い粒子、非染色、1〜30μm)が実質的にスポンジの全ての領域で見られたことを示した。
【0088】
これらの結果の定量により、図6に示すように、PCSかつEGFミクロスフェアを有する動物は、PCSおよびコントロールビーズを有する動物より2倍多い細胞を含むことが確認された。PCSを有さず、EGFまたはコントロールミクロスフェアのいずれかを有する動物は、PCSかつEGFミクロスフェアを有する動物の約1/3の数の植え付けられた肝細胞を有し、そしてこれらのグループ間で、コントロールとEGFミクロスフェアとの間に実質的に有意な差異がないことが見出された。
【0089】
植え付けられた肝細胞は、宿主腸間膜組織、ミクロスフェア(丸い粒子、非染色、1〜30μm)、およびポリマースポンジ部分に加えて、全ての状態において見られた。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、実施例1で用いられる、ミクロスフェアを作製するための工程の概略である
【図2】図2は、45日にわたり連続的に放出されるEGFの%総量のグラフである。値は、4連の計測より計算した、平均値および標準偏差を示す。
【図3】図3は、標識された核を用いて、すなわち細胞周期のS期にある細胞の数を3H-チミジンオートラジオグラフィー後に、計測したグラフである。細胞は、ミクロスフェアに組み込まれていない(可溶性のEGF)種々の濃度のEGFを含有する培地、またはミクロスフェア(Microsphere)から放出された10ng/mlのEGFを含有する培地中で培養された。
【図4】図4は、ミクロスフェアに組み込まれなかった(可溶性EGF)種々の濃度のEGF(ng/ml)を含有する培地、またはミクロスフェア(Microsphere)から放出された10ng/mlのEGFを含有する培地中で、1日目から4日目の培養皿中に存在する細胞の数における変化のグラフである。値は、全てを4連で行った3回の実験の結果にから計算した、平均および標準偏差を示す。
【図5】図5は、EGFを含まない培地(EGFなし)、またはミクロスフェア(microsphere)から放出された10ng/mlのEGFを含有する培地中で、1日から11日の培養皿中に存在する細胞数の変化のグラフである(1日目の数に対するパーセントで示した)。値は、4連の測定より計算した平均および標準偏差を示す。
【図6】図6は、PCSを伴うコントロールミクロスフェア(Con/PCS)、PCSを伴わないEGFミクロスフェア(EGF)、PCSを伴わないコントロールミクロスフェア(Con)、およびPCSを伴うEGF含有ミクロスフェア(EGF/PCS)に対する移植後、14日目に除去されたスポンジ中移植肝細胞の数を定量したグラフである。合計24個の移植スポンジが分析され(6個/条件)、そして値は、平均および標準偏差を示す。EGF/PCSと他の条件全てとの間の差異は、統計的に有意である(p<0.05);任意の他の条件との間には統計的に有意な相違は存在しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植細胞の生存、増殖、または分化を促進するための組成物であって、増殖因子、増殖因子以外の血管由来因子、繊維組織の内部成長を阻害する因子、および細胞移植部位における腫瘍増殖を阻害する因子からなる群から選択される、生物活性因子を含有し、ここで該生物活性因子が、生分解性ポリマー性マトリックスからの放出によって該細胞に投与されるのに適しており、該生分解性ポリマー性マトリックス上、または該生分解性ポリマー性マトリックス中に、細胞が接着、または懸濁される、組成物。
【請求項2】
前記因子が、ヘパリン結合増殖因子、形質転換増殖因子αまたはβ、α線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、インスリン、グルカゴン、およびエストロゲンからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記細胞が肝細胞でありそして前記因子が上皮増殖因子である、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
門脈大静脈吻合と組み合せて使用するのに適している、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記細胞が、実質および構造細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記細胞が、マトリックス上に移植されるのに適している、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記細胞が、ヒドロゲル中に移植もしくは懸濁されるのに適している、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記細胞が、100ミクロンと300ミクロンとの間の隙間の間隔を有する繊維状の生体適合性ポリマー性マトリックス上に付着される、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記生物活性因子が、経時的に該生物活性因子の制御された放出を提供するミクロスフェア中の細胞に投与されるのに適している、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記生物活性因子が、1ヶ月と数年との間の期間にわたり放出される、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
前記細胞が、マトリックス上に移植され、前記生物活性因子が、経時的に生物活性な因子の制御された放出を提供するミクロスフェア中の細胞に投与され、そして該ミクロスフェアが該マトリックス中に付着または組み込まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
必要な患者に移植するための組成物であって、増殖因子、増殖因子以外の血管由来因子、繊維組織の内部生長を阻害する因子、および細胞移植部位における腫瘍増殖を阻害する因子からなる群から選択される、生物活性因子を組み合わせて移植される細胞を含有し、ここで該細胞がマトリックス上に提供されるか、またはマトリックス中に懸濁される、組成物。
【請求項13】
前記因子が、へパリン結合増殖因子、形質転換増殖因子αまたはβ、α線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、血管内皮細胞増殖細胞因子、インスリン、グルカゴン、およびエストロゲンからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記細胞が肝細胞であり、そして前記因子が上皮増殖因子である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記細胞が、実質細胞および構造細胞からなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
前記細胞が、ヒドロゲルに移植もしくは懸濁される、請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
前記細胞が、100ミクロンと300ミクロンとの間の内部空間を有する繊維状、生体適合性ポリマー性マトリックスに接着される、請求項12に記載の組成物。
【請求項18】
前記生物活性因子が、経時的に生物活性因子の制御された放出を提供するミクロスフェア中の細胞に投与される、請求項12に記載の組成物。
【請求項19】
前記生物活性因子が、1ヶ月と数年との間の期間にわたり放出される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記生物活性因子が、経時的に該生物活性因子の制御された放出を提供するミクロスフェア中の細胞に投与され、そして該ミクロスフェアが該マトリックスに接着または組み込まれる、請求項12に記載の組成物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−11863(P2008−11863A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220401(P2007−220401)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【分割の表示】特願平8−519275の分割
【原出願日】平成7年12月14日(1995.12.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポラロイド
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【出願人】(591044027)チルドレンズ メディカル センター コーポレイション (12)
【氏名又は名称原語表記】CHILDREN’S MEDICAL CENTER CORPORATION
【Fターム(参考)】