移流方程式を数値的に解く方法、並びに、ブラソフ方程式及びマクスウェル方程式を数値的に解く方法、並びに、プログラム。
【課題】数値拡散が少ない高精度の移流方程式の数値解法を提供すること。
【解決手段】離散化された空間上で定義された物理量と速度場とから、この物理量の移流を求める移流方程式を数値計算によって解く。記憶手段には、物理量f(x、t0)及びその0からmmax次までのモーメント積分量Mm(x、t0)を記憶する。空間プロファイル算出ステップでは、f(x、tn)及びMm(x、tn)の束縛条件を課して、f(x、tn)及びMm(x、tn)の空間プロファイルF(x、tn)及びGm(x、tn)を決定する。移流項計算ステップでは、f(x、t*)=F(x−u×dt、tn)及びMm(x、t*)=Gm(x−u×dt、tn)により中間時間ステップでの物理量f及びMmを求める(ここでuは移流速度ベクトル)。非移流項加算ステップでは、非移流項をf(x、t*)及びMm(x、t*)から算出し、これを用いて次の時間ステップでの物理量f(x、tn+1)及びモーメント積分量Mm(x、tn+1)を求める。
【解決手段】離散化された空間上で定義された物理量と速度場とから、この物理量の移流を求める移流方程式を数値計算によって解く。記憶手段には、物理量f(x、t0)及びその0からmmax次までのモーメント積分量Mm(x、t0)を記憶する。空間プロファイル算出ステップでは、f(x、tn)及びMm(x、tn)の束縛条件を課して、f(x、tn)及びMm(x、tn)の空間プロファイルF(x、tn)及びGm(x、tn)を決定する。移流項計算ステップでは、f(x、t*)=F(x−u×dt、tn)及びMm(x、t*)=Gm(x−u×dt、tn)により中間時間ステップでの物理量f及びMmを求める(ここでuは移流速度ベクトル)。非移流項加算ステップでは、非移流項をf(x、t*)及びMm(x、t*)から算出し、これを用いて次の時間ステップでの物理量f(x、tn+1)及びモーメント積分量Mm(x、tn+1)を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理現象を表現する基本的な方程式である移流方程式を数値的に解く方法に関する。更には、移流方程式を数値的に解くためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移流方程式とは、ある物理量がある速度場によって移動(伝播)する現象を記述した方程式である。この移流現象は流体運動を初め、多くの物理現象に関わるため、現象を記述する基本的かつ重要な方程式であるといえる。移流方程式には解析解が存在する一方、空間上に離散化されたグリッド上で移流方程式を数値的に解く場合は、一転して多くの困難を伴うことが古くから知られている。その重要性かつ困難性から、移流方程式を数値的に解く手法を開発することは、学術面のみならず、産業上においても重要な課題として残されている。
【0003】
移流方程式を数値的に解く場合、移流させる物理量をコンピュータのメモリー空間上に離散化されたグリッド上に記憶するため、グリッド間の情報は失われる。そこで、記憶してある量を用いてグリッド間のプロファイルを再構築する必要がある。古典的な1次風上差分法は、注目するグリッド上での移流速度から、風上方向にあるグリッド間の情報を線形補間することによって、物理量のプロファイルを再構築する手法である。この手法は数値的に安定であり、古典的手法の代表的なものである。図10に1次風上差分法の計算例を示す。横軸が実空間、縦軸が物理量を表し、「+」が計算結果で、破線が解析解である。図でわかるように、本計算手法は数値粘性が大きいため、時間と共にプロファイルが減衰してしまい、長時間計算には適さないことが知られている。一方、近年開発された手法として、CIP(Constrained Interpolation Profile)法が挙げられる(非特許文献1)。図11に1次風上差分法及びCIP法の概念を示す。横軸が実空間、黒丸がグリッドを表す。グリッド上に離散化された物理量を数値的に移流させる際(図11a)、1次風上差分法では物理量のみを移流させようとするため(図11b)、プロファイルが減衰してしまう(図11c)。CIP法は物理量のみならず、物理量の空間プロファイルの勾配(微分値)の時間発展をも同時に解き進める手法である。図11dで示されているように、風上方向にあるグリッド間のプロファイルを再構築する際に、物理量と勾配の情報も使うため、高精度かつ安定に解く手法として近年注目を浴びてきている。CIP法の派生である保存保証型CIP法(CIP−CSL2法、非特許文献2)は、物理量とそのグリッド間の積分量を記憶する。グリッド上の物理量とグリッド間の積分量の情報を使い、グリッド間のプロファイルを高精度で再構築する移流方程式解法である。この解法は、CIP法と同程度の精度を達成し、またCIP法に対して質量保存が保証されるメリットがある。しかし、不連続面において若干の数値振動が生じる点は、極めて高精度な移流方程式の解を要求される分野、例えば、プラズマ物理学の分野では依然大きな問題点として残されている。
【0004】
前記プラズマ物理学の分野では、上に挙げた保存性、無振動性を特徴とする手法が近年提案されている。非特許文献3では、プラズマ物理現象を記述するブラソフ方程式を解くことを目的として、PFC(Positive and Flux Conservative)法が開発されている。本手法は移流方程式を保存形で解くことにより、保存則を満たし、不連続面近傍では流束に制限をかけることにより、数値振動を少なくする手法である。さらに近年では、流束制限手法を工夫することにより、無振動性を保証する手法も開発された(非特許文献4)。以上の手法は、極めて高い精度が要求されるプラズマ物理分野における移流方程式である、ブラソフ方程式の解法として知られている。しかしながら、数値拡散の抑制については未だ不十分であり、数値拡散のない(極めて少ない)移流方程式解法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】タカシ・ヤベ(Takashi Yabe)、フェン・ショウ(Feng Xiao)、及びタカユキ・ウツミ(Takayuki Utsumi)、"ザ コンストレインド インターポレーション プロファイル メソッド フォー マルチフェーズ アナリシス(The Constrained Interpolation Profile Method for Multiphase Analysis)"、ジャーナル オブ コンピュテーショナル フィジクス(Journal of Computational Physics)、オランダ王国、アムステルダム、2001年5月、第160巻、p.556−593
【非特許文献2】タカシ・ヤベ(Takashi Yabe)、リョウタロウ・タナカ(Ryotaro Tanaka)、タカシ・ナカムラ(Takashi Nakamura)、及びフェン・ショウ(Feng Xiao)、マンスリー ウェザー レビュー(Monthly Weather Review)、アメリカ合衆国、ボストン、2001年2月、第129巻、p.332−344
【非特許文献3】フランシス・フィルべ(Francis Filbet)、エリック・ソネンドラッカー(Eric Sonnendrucker)、及びピエール・ベルランド(Pierre Bertrand)、"コンザバティブ ニューメリカル スキームズ フォー ザ ブラソフ エクエーション(Conservative Numerical Schemes for the Vlasov Equation)"、ジャーナル オブ コンピュテーショナル フィジクス(Journal of Computational Physics)、オランダ王国、アムステルダム、2001年9月、第172巻、p.166−187
【非特許文献4】タカユキ・ウメダ(Takayuki Umeda)、ケンタロウ・トガノ(Kentaro Togano)、及びタツキ・オギノ(Tatsuki Ogino)、"トゥーディメンショナル フルエレクトロマグネティック ブラソフ コード ウィズ コンサバティブ スキーム アンド イッツ アプリケーション トゥ マグネティック リコネクション(Two-dimensional full-electromagnetic Vlasov code with conservative scheme and its application to magnetic reconnection)", コンピューター フィジクスコミュニケーションズ(Computer Physics Communications)、オランダ王国、アムステルダム、2009年3月、第180巻、p.365−374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の解法では、そのいずれも、高い精度を要求される分野、例えば、プラズマ物理学への適用という点では、プロファイル再構築精度は不十分である。例えば図6左列及び図7左列では、CIP−CSL2法を用いた1次元移流方程式及び2次元移流方程式の数値計算結果を示している。プロファイルがなまってしまい、解析解から大きく外れてしまっている。このように、数値振動や数値拡散が無視できなくなるといった欠点があった。これは、多次元問題(図7左列)で特に顕著である。このように、既存の解法を遥かに上回る高精度の移流方程式解法が必要とされている。このような数値解法及び当該解法を実現するためのプログラムを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
数値精度の低さが原因で発生する数値振動や数値拡散は、言いかえれば物理量の情報エントロピーが増大してしまっていることに相当する。独立変数xに対して物理量f(x)を定義すると、一般的に情報エントロピーは∫f(x)×b(f(x))dxと、情報量の関数bを用いて表現される。そこでbをxについてテイラー展開すると、情報エントロピーはf(x)のm次モーメント積分量Mm(x)=∫xmf(x)dx/m!(ここで、mは0からmmaxまでの整数を表す。)の線形結合ΣMm(x)(m=0、・・・、mmax)で表現されることがわかる。よって、数値分散や数値拡散を抑制するためには、情報エントロピーの保存、つまり、各モーメント積分量が保存するように移流方程式を解くことが本質的である。例えば、熱平衡状態を表現するガウス(正規)分布の情報エントロピーは2次のモーメント積分量M2(x)=∫x2f(x)dx/2で表現される。前記mmaxの選択は任意であるが、ガウス分布は最も基本的な物理量のプロファイルであることから、少なくとも2次までのモーメント積分量を保存させることが本質である。1次元移流方程式解法においては、mmax=0は前記CIP−CSL2法に一致する。本発明に対応する実施例では、前記情報エントロピーの考察に基づき、mmax=2としている。
【0008】
以上の考察に基づき、本発明は、物理量とそのmmax次までのモーメント積分量を独立に記憶し、更新することを特徴とする移流方程式解法であり、以下に説明する解法をマルチモーメント移流法(Multi−Moment Advection法、以下MMA法)と呼ぶ。
【0009】
本解法は、初期時刻t0での空間上の各グリッドにおける物理量f(x、t0)(ここで、ベクトルxは空間上での位置ベクトル)と、その物理量fのmmax次までのモーメント積分量Mm(x、t0)と、最大時間ステップ数nmaxと、を記憶手段に記憶する初期値記憶ステップ(図1に示すS101)と、空間のグリッド上で定義された移流速度ベクトルuから、上流点及び上流方向のグリッドを決める上流点算出ステップ(S102)と、前記物理量f(x、tn)及び前記各モーメント積分量Mm(x、tn)の束縛条件を課して、物理量f(x、tn)の空間プロファイルF(x、tn)(ここで、tnは第n時間ステップでの時刻を表し、nは0以上の整数である。)及び各モーメント積分量Mm(x、tn)の空間プロファイルGm(x、tn)と、を求める空間プロファイル算出ステップ(S103)と、前記空間プロファイルに基づく次式f(x、t*)=F(x−u×dt、tn)及びMm(x、t*)=Gm(x−u×dt、tn)に従って(ここで、dt=tn+1−tnは時間刻み幅、t*は移流後の中間時間ステップである。)、中間時間ステップでの物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)を算出する移流項計算ステップ(S104)と、前記物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)に基づき、物理量fの非移流項S(x、t*)及び各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)を算出し、これら物理量fの非移流項S(x、t*)及び各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)を前記物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)に加算して、次の時間ステップに対応する物理量f(x、tn+1)及び各モーメント積分量Mm(x、tn+1)を算出する非移流項加算ステップ(S105)と、計算結果を出力する出力ステップ(S106)と、から構成されている。本発明により、数値拡散と数値振動が極めて少ない移流方程式の解を得ることが出来る。
【0010】
プラズマ物理分野での移流方程式であるブラソフ方程式及びマクスウェル方程式の解法は、初期時刻t0での位相空間上におけるプラズマ分布関数f(x、v、t0)(ここでベクトルxは実空間、ベクトルvは速度空間での位置ベクトルを表す。)と、その各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t0)と、実空間上で定義された電場ベクトルE(x、t0)と、磁場ベクトルB(x、t0)と、最大時間ステップ数nmaxと、を記憶手段に記憶する初期値記憶ステップ(図2に示すS201)と、プラズマ分布関数f(x、v、tn)と、速度空間モーメント積分量Mm(x、v、tn)と、から実空間上における移流更新を行い、第一中間時間ステップでのプラズマ分布関数f(x、v、t*)と、速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)と、を算出する実空間時間更新ステップ(S202)と、0次の速度空間モーメント積分量M0(x、v、t*)と、1次の速度空間モーメント積分量M1(x、v、t*)と、から、電荷密度と、電流密度と、を求める電荷・電流密度算出ステップ(S203)と、マクスウェル方程式を解くことにより、前記電荷・電流密度と、電場ベクトルE(x、tn)と、磁場ベクトルB(x、tn)と、から次の時間ステップに対応する電場ベクトルE(x、tn+1)と、磁場ベクトルB(x、tn+1)と、を算出する電磁場更新ステップ(S204)と、前記時間更新後の電場ベクトルE(x、tn+1)と、磁場ベクトルB(x、tn+1)と、から速度空間上における移流速度ベクトルである加速度場ベクトルA(x、v、tn+1)を算出する加速度場算出ステップ(S205)と、速度空間のグリッド上で定義された加速度ベクトルA(x、v、tn+1)から、速度空間上の上流点及び上流方向のグリッドを決める速度空間上流点算出ステップ(S206)と、速度空間上でプラズマ分布関数f(x、v、t*)及び前記各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)の束縛条件を課して、プラズマ分布関数f(x、v、t*)の速度空間プロファイルF(x、v、t*)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)の速度空間プロファイルGm(x、v、t*)を求める速度空間プロファイル算出ステップ(S207)と、前記空間プロファイルに基づく次式f(x、v、t**)=F(x、v−A×dt、t*)及びMm(x、v、t**)=Gm(x、v−A×dt、t*)に従って、第二中間時間ステップでのプラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)を算出する速度空間移流項計算ステップ(S208)と、前記プラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)に基づき、プラズマ分布関数fの非移流項S(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)を算出し、これらプラズマ分布関数fの非移流項S(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)を前記プラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)に加算して、次の時間ステップに対応するプラズマ分布関数f(x、v、tn+1)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、tn+1)を算出する速度空間非移流項加算ステップ(S209)と、計算結果を出力する出力ステップ(S210)と、から構成されている。本発明により、従来の手法に比べて極めて高い信頼性を持つブラソフ方程式及びマクスウェル方程式の解を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態における移流方程式解法装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図2】本実施の形態におけるブラソフ方程式及びマクスウェル方程式解法装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本実施の形態における移流方程式及びブラソフ・マクスウェル方程式解法装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図4】1次元MMA法を説明する模式図である。
【図5】2次元MMA法を説明する模式図である。
【図6】1次元移流方程式の数値計算結果を示すグラフである。
【図7】2次元移流方程式(剛体回転)の数値計算結果を示すグラフである。
【図8】MMA法のブラソフ方程式及びマクスウェル方程式への適用例を示すグラフである。
【図9】MMA法のブラソフ方程式及びマクスウェル方程式への適用例を示すグラフである。
【図10】1次風上差分法の計算例を示すグラフである。
【図11】1次風上差分法及びCIP法の概念を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付図を参照しながら、以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
まず、図3を用いて、移流方程式解法装置1のハードウェア構成について説明する。移流方程式解析装置1は、CPU(図3装置301)と、RAM(302)と、HDD(ハードディスクドライブ、303)と、マウス(304)と、キーボード(305)と、ディスプレイ(306)と、を備えている。また、各構成部はバス(300)によってそれぞれ接続されている。
【0013】
ここで、CPU(301)は移流方程式解析装置1の全体の制御を司る。RAM(302)はCPU(301)のワークエリアとして使用される。初期値記憶ステップ(図1に示すS101と図2に示すS201)における初期値の保持や値の時間更新(図1に示すS102からS105と図2に示すS202からS209)はRAM(302)を介して行われる。HDD(303)はCPU(301)の制御にしたがって、データの読み込み・書き込みに使用される。出力ステップ(図1に示すS106と図2に示すS210)において、計算結果の保存はHDD(303)を介して行われる。マウス(304)はカーソルの移動や範囲選択、ウィンドウのサイズ変更などに使用される。キーボード(305)は、文字・数字などの入力のためのキーを備え、移流方程式解法プログラムはキーボードを介したコマンド入力によってCPU(301)により実行される。ディスプレイ(306)は、液晶ディスプレイなどが相当し、出力結果の表示に使用される。
【0014】
続いて、図1を用いて、CPU(301)が移流方程式解法プログラムを実行することにより実現される移流方程式を数値的に解く処理手順について説明する。処理手順は、初期値記憶ステップ(S101)と、上流点算出ステップ(S102)と、空間プロファイル算出ステップ(S103)と、移流項計算ステップ(S104)と、非移流項加算ステップ(S105)と、出力ステップ(S106)と、から構成されている。
【0015】
初期値記憶ステップ(S101)では、空間グリッド上で定義された物理量f(x、t0)のデータ群と、各グリッド間の0次からmmax次までのモーメント積分量Mm(x、t0)(m=0、1、2、・・・、mmax−1、mmax)のデータ群と、最大時間ステップ数nmaxと、をマウス(304)及びキーボード(305)によりユーザーが入力し、RAM(302)に記憶する。
【0016】
n=1時間ステップでは、
上流点算出ステップ(S102)では、空間上で定義された速度場uから、上流点及び上流方向のグリッドを算出する。
【0017】
空間プロファイル算出ステップ(S103)では、まず、注目するグリッドと、前記上流点算出ステップ(S102)で算出した上流方向のグリッドの間の、物理量f(x、t0)と、各モーメント積分量Mm(x,t0)と、の空間プロファイルを、多項式で表現する。多項式を決定する各項の未知係数は、注目するグリッドと、その上流方向のグリッドと、で記憶されている物理量f(x、t0)と、注目するグリッドとその上流方向のグリッドの間で記憶されている各モーメント積分量Mm(x、t0)と、の束縛条件から決定される。これにより、t=0におけるf(x、t0)と、Mm(x、t0)と、の空間プロファイルF(x、t0)と、Gm(x、t0)と、を算出する。
【0018】
移流項計算ステップ(S104)では、時間ステップの中間値であるf(x、t*)と、Mm(x、t*)と、をf(x、t*)= F(x−u×dt、t0)と、Mm(x、t*)= Gm(x−u×dt、t0)と、により時間更新する(dt=t1−t0は数値計算の時間刻みを表す)。
【0019】
非移流項加算ステップ(S105)では、物理量fの非移流項S(x、t*)と、各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)とを、f(x、t*)と、Mm(x、t*)と、から算出する。S(x、t*)と、Sm(x、t*)と、をf(x、t*)と、Mm(x、t*)と、に加算し、f(x、t1)と、Mm(x、t1)と、を算出する。
【0020】
時間ステップ数を更新し、n=2とする。
時間ステップn=2以降では、1ステップ前の値(n=2の場合、n=1での値)を基にして、前記上流点算出ステップ(S102)から非移流項加算ステップ(S106)までを、n=nmaxになるまで繰り返す。
【0021】
出力ステップ(S107)は、計算結果f(x、v、tnmax)をHDD(303)に出力する。
続いて、図2を用いてCPU(301)がプラズマ物理現象を記述する方程式であるブラソフ方程式及びマクスウェル方程式解法プログラムを実行することにより実現される、ブラソフ方程式及びマクスウェル方程式を数値的に解く処理手順について説明する。ブラソフ方程式は、
【0022】
【数1】
【0023】
で表される、粒子種sの分布関数fsの位相空間上での移流を記述する線形移流方程式である。ここで、ベクトルxは実空間での位置ベクトル、ベクトルvは速度空間での位置ベクトル(速度場ベクトル)、qsは粒子種sの電荷、msは粒子種sの質量、ベクトルE、ベクトルBはそれぞれ電場ベクトル、磁場ベクトルを表す。上式は、次のように、実空間と速度空間での移流方程式に分けてそれぞれ計算を行う。
【0024】
【数2】
【0025】
但しベクトルAは速度空間上における移流速度ベクトルである加速度場ベクトルであり、次式で計算される。
【0026】
【数3】
【0027】
実空間における移流は例えばCIP−CSL2法などの汎用的な手法を用いて時間更新する。電場ベクトル、磁場ベクトルが与えられれば、前記MMA法により速度空間上における移流方程式を解くことができる。電場ベクトル、磁場ベクトルの時間発展は別途、マクスウェル方程式
【0028】
【数4】
【0029】
によって記述される。ここで、ρe、ベクトルjはそれぞれ電荷密度、電流密度ベクトルを表し、それぞれ、
【0030】
【数5】
【0031】
で定義される。右辺に現れる量は、MMA法では独立に記憶・更新される0次及び1次のモーメント積分量である。この様にして得られた電荷密度と電流密度ベクトルを使ってマクスウェル方程式を解くことにより、電磁場の時間発展を追うことができる。
【0032】
図2を用いて、本実施の形態にかかるブラソフ方程式及びマクスウェル方程式解法装置の処理手順について説明する。処理手順は、初期値記憶ステップ(S201)と、実空間時間更新ステップ(S202)と、電荷・電流密度算出ステップ(S203)と、電磁場更新ステップ(S204)と、加速度場算出ステップ(S205)と、速度空間上流点算出ステップ(S206)と、速度空間プロファイル算出ステップ(S208)と、速度空間移流項計算ステップ(S208)と、速度空間非移流項加算ステップ(S209)と、出力ステップ(S210)と、から構成されている。これらは、CPU(301)によって実行される。
【0033】
初期値記憶ステップ(S201)では、位相空間グリッド上で定義された分布関数f(x、v、t0)と、速度空間のグリッド間の0次からmmax次までのモーメント積分量Mm(x、v、t0)(m=0,1,2、・・・、mmax−1、mmax)と、実空間グリッド上に定義された速度場ベクトルvと、実空間グリッド上に定義された電場ベクトルE(x、t0)と、磁場ベクトルB(x、t0)と、速度空間上における移流速度である加速度場ベクトルA(x、v、t0)と、最大時間ステップ数nmaxと、をマウス(304)及びキーボード(305)によりユーザーが入力し、RAM(302)に記憶する。
【0034】
n=1時間ステップでは、
実空間時間更新ステップ(S202)では、速度ベクトルvから、f(x、v、t0)と、Mm(x、v、t0)と、の実空間上における移流を、例えば、CIP−CSL2法などの汎用的な手法を用いて時間更新し、第一中間時間ステップでの値f(x、v、t*)と、Mm(x、v、t*)と、を得る。
【0035】
電荷・電流密度算出ステップ(S203)では、更新した0次モーメントM0(x、v、t*)と、1次モーメントM1(x、v、t*)と、から電荷密度ρe(x、t*)と、電流密度ベクトルj(x、t*)と、を算出する。
【0036】
電磁場更新ステップ(S204)では、算出した電荷密度ρe(x、t*)と、電流密度ベクトルj(x、t*)と、からマクスウェル方程式を解き、電場ベクトルE(x、t0)と、磁場ベクトルB(x、t0)と、から、時間更新後の電場ベクトルE(x、t1)と、磁場ベクトルB(x、t1)と、を算出する。
【0037】
加速度場算出ステップ(S205)では、前記時間更新後の電場ベクトルE(x、t1)と、磁場ベクトルB(x、t1)と、から前記加速度場ベクトルA(x、v、t1)を算出する。
【0038】
速度空間上流点算出ステップ(S206)では、前記加速度場ベクトル算出ステップ(S205)で算出した加速度場ベクトルA(x、v、t1)から、速度空間における上流点及び上流方向のグリッドを算出する。
【0039】
速度空間プロファイル算出ステップ(S207)では、まず、注目するグリッドと、前記上流点算出ステップ(S206)で算出した上流方向のグリッドの間の、物理量f(x、v、t*)と、各モーメント積分量Mm(x、v、t*)と、の速度空間プロファイルを、多項式で表現する。多項式を決定する各項の未知係数は、注目するグリッドと、その上流方向のグリッドと、で記憶されている物理量f(x、v、t*)と、注目するグリッドとその上流方向のグリッドの間で記憶されている各モーメント積分量Mm(x、v、t*)と、の束縛条件から決定される。これにより、t=0におけるf(x、v、t*)と、Mm(x、v、t*)と、の速度空間プロファイルF(x、v、t*)と、Gm(x、v、t*)と、を算出する。
【0040】
速度空間移流項計算ステップ(S208)では、前記加速度場算出ステップ(S205)で得られた加速度場ベクトルA(x、v、t1)より、第二中間時間ステップの値であるf(x、v、t**)と、Mm(x、v、t**)と、をf(x、v、t**)= F(x、v−A×dt、t*)と、Mm(x、v、t**)= Gm(x、v−A×dt、t*)と、により時間更新する。
【0041】
速度空間非移流項加算ステップ(S209)では、物理量fの非移流項S(x、v、t**)と、各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)とを、f(x、v、t**)と、Mm(x、v、t**)と、から算出する。S(x、v、t**)と、Sm(x、v、t**)と、をf(x,v,t**)と、Mm(x,v,t**)と、に加算することにより、f(x、v、t1)と、Mm(x、v、t1)と、を算出する。
【0042】
時間ステップ数を更新し、n=2とする。
時間ステップn=2以降では、1ステップ前の値(n=2の場合、n=1での値)を基にして、前記実空間時間更新ステップ(S202)から、前記速度空間非移流項加算ステップ(S209)まで、をn=nmaxになるまで繰り返す。
【0043】
出力ステップ(S210)は、計算結果であるf(x、v、tnmax)と、電場ベクトルE(x、tnmax)と、磁場ベクトルB(x、tnmax)と、をHDD(303)に出力する。
【0044】
この発明により、ブラソフ方程式とマクスウェル方程式を数値的に解くことが出来る。
以下では、移流方程式解法の定式化・実装について説明する。
<1次元MMA法>
1次元MMA法は、物理量とその0次、1次、2次モーメント積分量を用いて、1次元移流方程式を数値的に解く解法である。扱う基礎方程式は保存型の移流方程式で、次の通りである。
【0045】
【数6】
【0046】
ここで、時刻t、空間座標xに対してfが物理量、uが速度場、
【0047】
【数7】
【0048】
はfのm次モーメントの空間積分量(モーメント積分量)である。式(1.2)−(1.3)は式(1.1)から厳密に導かれる。
コンピュータは、図4で示すように、グリッド上の物理量fi及びグリッド間のモーメント積分量
【0049】
【数8】
【0050】
の、計4つの変数をRAM(302)に記憶する(初期値記憶ステップS101)。また、コンピュータは、グリッド上で速度場ui及びその空間微分量(∂u/∂x)iを別途求め、RAM(302)に記憶する。
【0051】
物理量fとモーメント積分量Mmのグリッド間の空間プロファイルを、下記の区分化された多項式で近似する。
【0052】
【数9】
【0053】
ここで、
【0054】
【数10】
【0055】
記憶量であるグリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量を束縛条件として用いて、前記多項式の係数Ckiを決定する。束縛条件は、
【0056】
【数11】
【0057】
で与えられる。ここで、
【0058】
【数12】
【0059】
は、i番目のグリッドから見た上流方向のグリッド及びセルの番号であり、
【0060】
【数13】
【0061】
は、i番目の座標xiから見た上流点までの距離であり、Δtは数値計算の時間刻みであり、xi+ξiが上流点の位置である(上流点算出ステップS102)。以上より、係数Ckiが次の様に求まる。
【0062】
【数14】
【0063】
ここで、Δx = xiup−xiである。
このようにして、上記係数を要素とする物理量及びモーメント積分量のグリッド間の関数を空間プロファイル(1.4)、(1.5)として決定する(空間プロファイル算出ステップS103)。続いて、決定された空間プロファイルを用いて、グリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量を、以下に述べる方法を用いて時間更新する。基礎方程式(1.1)−(1.3)は、移流項(左辺第2項)と非移流項(右辺)と、を含む。まず移流項計算は、セミラグランジュ法と呼ばれる、上流点の値を速度場に沿って移流する方法を用いる(移流項計算ステップS104)。
【0064】
【数15】
【0065】
ここで、左上添え字は時間ステップを表わし、アスタリスクは、該当する量が移流項計算後の中間値であることを示す。式(1.13)、(1.14)は、0次、1次、2次モーメント積分量の保存を保証する。次にグリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量の非移流項を、移流項計算後のグリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量を用いて、以下に述べる方法で算出する。
【0066】
【数16】
【0067】
このようにして決定された非移流項を用いて、グリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量に非移流項を加算する(非移流項加算ステップS105)。
【0068】
【数17】
【0069】
以上のステップを経て、n時間ステップのグリッド上の物理量 nfi及びグリッド間のモーメント積分量 nMmi+1/2から、(n+1)時間ステップのグリッド上の物理量(1.15)及びグリッド間のモーメント積分量(1.13)、(1.16)が得られる。
<2次元MMA法>
2次元MMA法は、物理量とその0次モーメント積分量、各次元方向の1次、2次モーメント積分量を用いて、2次元移流方程式を数値的に解く解法である。扱う基礎方程式は保存型の移流方程式で、次の通りである。
【0070】
【数18】
【0071】
ここで、時刻t、空間座標x、yに対してfが物理量、u、vがx、y方向の速度場である。
【0072】
【数19】
【0073】
はそれぞれ、fの0次モーメントの空間積分量、x方向のm次モーメントの空間積分量、y方向のm次モーメントの空間積分量(モーメント積分量)である。今後、都合上、Mx0=My0=M0として表記することがある。式(2.2)−(2.4)は式(2.1)から厳密に導かれる。
【0074】
コンピュータは、図5で示すように、グリッド上の物理量fij及びグリッド間のモーメント積分量
【0075】
【数20】
【0076】
の、計6つの変数をRAM(302)に記憶する(初期値記憶ステップS101)。また、コンピュータは、グリッド上でx、y方向の速度場uij、 vij及びその空間微分量(∂u/∂x)ij、(∂v/∂y)ijを別途求め、RAM(302)に記憶する。
【0077】
物理量fとモーメント積分量Mxm、Mymのグリッド間のプロファイルを、下記の区分化された多項式で近似する。
【0078】
【数21】
【0079】
今後Gx0=Gy0=G0として表記することがある。
記憶量であるグリッド上の物理量とグリッド間のモーメント積分量を束縛条件として用いて、前記多項式の係数Clkijを決定する。束縛条件は、
【0080】
【数22】
【0081】
で与えられる。ここで、
【0082】
【数23】
【0083】
は、(i,j)番目のグリッドから見た上流x方向のグリッド及びセルの番号と上流y方向のグリッド及びセルの番号であり、
【0084】
【数24】
【0085】
は、(i,j)番目の座標(xi,yj)から見た上流点までのx方向及びy方向の距離であり、(xi+ξij,yj+ηij)が上流点の位置である(上流点算出ステップS102)。以上より、係数Clkijが次の様に求まる。
【0086】
【数25】
【0087】
ここで、Δx = xiup−xi、Δy = yjup−yjである。
このようにして、上記係数を要素とする物理量及びモーメント積分量のグリッド間の関数を空間プロファイル(2.8)−(2.10)として決定する(空間プロファイル算出ステップS103)。続いて、決定された空間プロファイルを用いて、グリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量を、以下に述べる方法を用いて時間更新する。基礎方程式(2.1)−(2.4)は、移流項(左辺第2項、3項)と非移流項(右辺)と、を含む。まずグリッド上の物理量の時間更新は、セミラグランジュ法による移流項計算(移流項計算ステップS104)と、非移流項計算(非移流項加算ステップS105)と、をルンゲ・クッタ法を用いて行う。
【0088】
【数26】
【0089】
ここで、kmaxはルンゲ・クッタ法の次数を表す。式(2.22)、(2.23)は特性曲線方程式であり、この式から、(i,j)番目の座標(xi,yj)から見た上流点のルンゲ・クッタ法のサブステップ毎の座標(xi+ kξij,yj+ kηij)が決定される。
【0090】
kSijはルンゲ・クッタ法のサブステップ毎のfの非移流項であり、 kαはルンゲ・クッタ法の重み係数である。式(2.24)がfの時間更新式であり、右辺第1項がセミラグランジュ法による移流項計算(移流項計算ステップS104)、右辺第2項が非移流項の加算(非移流項加算ステップS105)である。この式から、ルンゲ・クッタ法のサブステップ毎のグリッド上の物理量 kfijが求まり、k=kmaxのとき、kmaxfij=n+1fijであり、(n+1)時間ステップのグリッド上の物理量n+1fijが得られる。
【0091】
次にグリッド間のモーメント積分量の時間更新方法について述べる。多次元移流問題では、グリッド間のモーメント積分量のセミラグランジュ法による移流計算は非常に煩雑になるため、有限体積法による移流項計算(移流項計算ステップS104)と、非移流項加算(非移流項加算ステップS105)と、を以下で行う。式(2.2)−(2.4)を次の保存形式で表現する。
【0092】
【数27】
【0093】
ここで式(2.25)−(2.27)の右辺第1項から第4項が移流項であり、物理量の線積分量で表現されている。そこで先に決定された物理量の空間プロファイル(2.8)を用いて、線積分量を構築する。
【0094】
【数28】
【0095】
これらを用いて式(2.25)−(2.27)の移流項の計算を行う(移流項計算ステップS104)。式(2.25)−(2.27)は保存型で書かれているため、0次、1次、2次モーメント積分量の保存が保証されている。続いて、x、y方向の1次及び2次モーメント積分量の非移流項である式(2.26)、(2.27)の右辺第5項を
【0096】
【数29】
【0097】
により算出し、式(2.26)、(2.27)に加算する(非移流項加算ステップS105)。以上より、式(2.25)−(2.27)を有限体積法で計算することができ、結果、(n+1)時間ステップのグリッド間のモーメント積分量 n+1Mxm、 n+1Mymが得られる。但し計算を安定に行うために、式(2.25)−(2.27)は、ルンゲ・クッタ法を用いて時間更新する必要がある。
<計算例>
前記MMA法による移流方程式の解法例を以下に示す。
【0098】
図6上段はガウス分布形状の1次元線形移流計算結果であり、左よりCIP−CSL2法、MMA法の結果を表す。図中で、横軸が1次元空間で、「+」は計算結果を、破線は解析解を表す。下段は解析解からの誤差を表す。CIP−CSL2法では、移流と共にプロファイルがなまってしまい、数値拡散の影響が大きく出ている。また、裾野のあたりでは数値振動が出ていることがわかる。一方、MMA法はプロファイルを正確に再現しており、誤差の大きさもCIP−CSL2法に比べて3桁以上小さい。
【0099】
図7は、ガウス分布形状の2次元剛体回転問題の数値計算結果である。軸が2次元空間、背景及び等高線が物理量を表す。プロファイルを最上段のグラフで示されている矢印の方向に回転し続けた。左の列がCIP−CSL2法の、右の列がMMA法の計算結果である。それぞれの使用メモリー量を合わせるために、グリッド数を変えている。上から順に、初期状態、30回転後、300回転後の結果を表す。2次元剛体回転問題では、数値拡散の影響が顕著に現れる。CIP−CSL2法による剛体回転問題結果では、30回転後においてすでにプロファイルの数値拡散が見られ、300回転後では原形をとどめていない。一方、MMA法は、300回転後においても初期の形状を保ったまま、剛体回転運動を数値的に記述することができている。
【0100】
図8は、MMA法のブラソフ方程式への適用例である。初期に互いに異なる向きの電子ビームを与えた。(a)から(d)の順に、その位相空間分布の時間発展を示す。横軸が1次元実空間、縦軸が1次元速度空間、背景及び等高線が位相空間分布を表す。プラズマ物理分野でよく知られる2流体不安定が励起されており、その特徴的な構造である、位相空間上における電子ホールの形成が再現できている。
【0101】
図9は、MMA法のブラソフ方程式への適用例である。イオン、電子が存在する中での、磁場に垂直方向に伝播するプラズマ波動である、バーンシュタイン波の分散関係である。横軸が波数、縦軸が周波数、背景が電場強度を表す。本計算は、プラズマの旋回運動(剛体回転)を長時間計算する必要があるため、従来のブラソフシミュレーション手法では再現することができなかった。左側がMMA法で求めたブラソフシミュレーション結果で、右側が粒子法の一種である電磁粒子(PIC)コードで計算した結果である。両者共に同じ結果が得られ、MMA法による計算が正しいことがわかる。また、ブラソフシミュレーションは電磁粒子計算に比べて数値ノイズが極めて少ないことが特徴である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
移流方程式は物質の移動を記述する基本的な方程式であるため、その数値的解法は、数値流体力学(CFD)や、宇宙・核融合分野におけるプラズマ現象への適用のみならず、大気流体現象、燃焼流体現象、コンピュータ画像処理など、幅広い分野に応用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1…移流方程式解法装置、300…バス、301…CPU、302…RAM、303…HDD、304…マウス、305…キーボード、306…ディスプレイ
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理現象を表現する基本的な方程式である移流方程式を数値的に解く方法に関する。更には、移流方程式を数値的に解くためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移流方程式とは、ある物理量がある速度場によって移動(伝播)する現象を記述した方程式である。この移流現象は流体運動を初め、多くの物理現象に関わるため、現象を記述する基本的かつ重要な方程式であるといえる。移流方程式には解析解が存在する一方、空間上に離散化されたグリッド上で移流方程式を数値的に解く場合は、一転して多くの困難を伴うことが古くから知られている。その重要性かつ困難性から、移流方程式を数値的に解く手法を開発することは、学術面のみならず、産業上においても重要な課題として残されている。
【0003】
移流方程式を数値的に解く場合、移流させる物理量をコンピュータのメモリー空間上に離散化されたグリッド上に記憶するため、グリッド間の情報は失われる。そこで、記憶してある量を用いてグリッド間のプロファイルを再構築する必要がある。古典的な1次風上差分法は、注目するグリッド上での移流速度から、風上方向にあるグリッド間の情報を線形補間することによって、物理量のプロファイルを再構築する手法である。この手法は数値的に安定であり、古典的手法の代表的なものである。図10に1次風上差分法の計算例を示す。横軸が実空間、縦軸が物理量を表し、「+」が計算結果で、破線が解析解である。図でわかるように、本計算手法は数値粘性が大きいため、時間と共にプロファイルが減衰してしまい、長時間計算には適さないことが知られている。一方、近年開発された手法として、CIP(Constrained Interpolation Profile)法が挙げられる(非特許文献1)。図11に1次風上差分法及びCIP法の概念を示す。横軸が実空間、黒丸がグリッドを表す。グリッド上に離散化された物理量を数値的に移流させる際(図11a)、1次風上差分法では物理量のみを移流させようとするため(図11b)、プロファイルが減衰してしまう(図11c)。CIP法は物理量のみならず、物理量の空間プロファイルの勾配(微分値)の時間発展をも同時に解き進める手法である。図11dで示されているように、風上方向にあるグリッド間のプロファイルを再構築する際に、物理量と勾配の情報も使うため、高精度かつ安定に解く手法として近年注目を浴びてきている。CIP法の派生である保存保証型CIP法(CIP−CSL2法、非特許文献2)は、物理量とそのグリッド間の積分量を記憶する。グリッド上の物理量とグリッド間の積分量の情報を使い、グリッド間のプロファイルを高精度で再構築する移流方程式解法である。この解法は、CIP法と同程度の精度を達成し、またCIP法に対して質量保存が保証されるメリットがある。しかし、不連続面において若干の数値振動が生じる点は、極めて高精度な移流方程式の解を要求される分野、例えば、プラズマ物理学の分野では依然大きな問題点として残されている。
【0004】
前記プラズマ物理学の分野では、上に挙げた保存性、無振動性を特徴とする手法が近年提案されている。非特許文献3では、プラズマ物理現象を記述するブラソフ方程式を解くことを目的として、PFC(Positive and Flux Conservative)法が開発されている。本手法は移流方程式を保存形で解くことにより、保存則を満たし、不連続面近傍では流束に制限をかけることにより、数値振動を少なくする手法である。さらに近年では、流束制限手法を工夫することにより、無振動性を保証する手法も開発された(非特許文献4)。以上の手法は、極めて高い精度が要求されるプラズマ物理分野における移流方程式である、ブラソフ方程式の解法として知られている。しかしながら、数値拡散の抑制については未だ不十分であり、数値拡散のない(極めて少ない)移流方程式解法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】タカシ・ヤベ(Takashi Yabe)、フェン・ショウ(Feng Xiao)、及びタカユキ・ウツミ(Takayuki Utsumi)、"ザ コンストレインド インターポレーション プロファイル メソッド フォー マルチフェーズ アナリシス(The Constrained Interpolation Profile Method for Multiphase Analysis)"、ジャーナル オブ コンピュテーショナル フィジクス(Journal of Computational Physics)、オランダ王国、アムステルダム、2001年5月、第160巻、p.556−593
【非特許文献2】タカシ・ヤベ(Takashi Yabe)、リョウタロウ・タナカ(Ryotaro Tanaka)、タカシ・ナカムラ(Takashi Nakamura)、及びフェン・ショウ(Feng Xiao)、マンスリー ウェザー レビュー(Monthly Weather Review)、アメリカ合衆国、ボストン、2001年2月、第129巻、p.332−344
【非特許文献3】フランシス・フィルべ(Francis Filbet)、エリック・ソネンドラッカー(Eric Sonnendrucker)、及びピエール・ベルランド(Pierre Bertrand)、"コンザバティブ ニューメリカル スキームズ フォー ザ ブラソフ エクエーション(Conservative Numerical Schemes for the Vlasov Equation)"、ジャーナル オブ コンピュテーショナル フィジクス(Journal of Computational Physics)、オランダ王国、アムステルダム、2001年9月、第172巻、p.166−187
【非特許文献4】タカユキ・ウメダ(Takayuki Umeda)、ケンタロウ・トガノ(Kentaro Togano)、及びタツキ・オギノ(Tatsuki Ogino)、"トゥーディメンショナル フルエレクトロマグネティック ブラソフ コード ウィズ コンサバティブ スキーム アンド イッツ アプリケーション トゥ マグネティック リコネクション(Two-dimensional full-electromagnetic Vlasov code with conservative scheme and its application to magnetic reconnection)", コンピューター フィジクスコミュニケーションズ(Computer Physics Communications)、オランダ王国、アムステルダム、2009年3月、第180巻、p.365−374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の解法では、そのいずれも、高い精度を要求される分野、例えば、プラズマ物理学への適用という点では、プロファイル再構築精度は不十分である。例えば図6左列及び図7左列では、CIP−CSL2法を用いた1次元移流方程式及び2次元移流方程式の数値計算結果を示している。プロファイルがなまってしまい、解析解から大きく外れてしまっている。このように、数値振動や数値拡散が無視できなくなるといった欠点があった。これは、多次元問題(図7左列)で特に顕著である。このように、既存の解法を遥かに上回る高精度の移流方程式解法が必要とされている。このような数値解法及び当該解法を実現するためのプログラムを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
数値精度の低さが原因で発生する数値振動や数値拡散は、言いかえれば物理量の情報エントロピーが増大してしまっていることに相当する。独立変数xに対して物理量f(x)を定義すると、一般的に情報エントロピーは∫f(x)×b(f(x))dxと、情報量の関数bを用いて表現される。そこでbをxについてテイラー展開すると、情報エントロピーはf(x)のm次モーメント積分量Mm(x)=∫xmf(x)dx/m!(ここで、mは0からmmaxまでの整数を表す。)の線形結合ΣMm(x)(m=0、・・・、mmax)で表現されることがわかる。よって、数値分散や数値拡散を抑制するためには、情報エントロピーの保存、つまり、各モーメント積分量が保存するように移流方程式を解くことが本質的である。例えば、熱平衡状態を表現するガウス(正規)分布の情報エントロピーは2次のモーメント積分量M2(x)=∫x2f(x)dx/2で表現される。前記mmaxの選択は任意であるが、ガウス分布は最も基本的な物理量のプロファイルであることから、少なくとも2次までのモーメント積分量を保存させることが本質である。1次元移流方程式解法においては、mmax=0は前記CIP−CSL2法に一致する。本発明に対応する実施例では、前記情報エントロピーの考察に基づき、mmax=2としている。
【0008】
以上の考察に基づき、本発明は、物理量とそのmmax次までのモーメント積分量を独立に記憶し、更新することを特徴とする移流方程式解法であり、以下に説明する解法をマルチモーメント移流法(Multi−Moment Advection法、以下MMA法)と呼ぶ。
【0009】
本解法は、初期時刻t0での空間上の各グリッドにおける物理量f(x、t0)(ここで、ベクトルxは空間上での位置ベクトル)と、その物理量fのmmax次までのモーメント積分量Mm(x、t0)と、最大時間ステップ数nmaxと、を記憶手段に記憶する初期値記憶ステップ(図1に示すS101)と、空間のグリッド上で定義された移流速度ベクトルuから、上流点及び上流方向のグリッドを決める上流点算出ステップ(S102)と、前記物理量f(x、tn)及び前記各モーメント積分量Mm(x、tn)の束縛条件を課して、物理量f(x、tn)の空間プロファイルF(x、tn)(ここで、tnは第n時間ステップでの時刻を表し、nは0以上の整数である。)及び各モーメント積分量Mm(x、tn)の空間プロファイルGm(x、tn)と、を求める空間プロファイル算出ステップ(S103)と、前記空間プロファイルに基づく次式f(x、t*)=F(x−u×dt、tn)及びMm(x、t*)=Gm(x−u×dt、tn)に従って(ここで、dt=tn+1−tnは時間刻み幅、t*は移流後の中間時間ステップである。)、中間時間ステップでの物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)を算出する移流項計算ステップ(S104)と、前記物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)に基づき、物理量fの非移流項S(x、t*)及び各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)を算出し、これら物理量fの非移流項S(x、t*)及び各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)を前記物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)に加算して、次の時間ステップに対応する物理量f(x、tn+1)及び各モーメント積分量Mm(x、tn+1)を算出する非移流項加算ステップ(S105)と、計算結果を出力する出力ステップ(S106)と、から構成されている。本発明により、数値拡散と数値振動が極めて少ない移流方程式の解を得ることが出来る。
【0010】
プラズマ物理分野での移流方程式であるブラソフ方程式及びマクスウェル方程式の解法は、初期時刻t0での位相空間上におけるプラズマ分布関数f(x、v、t0)(ここでベクトルxは実空間、ベクトルvは速度空間での位置ベクトルを表す。)と、その各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t0)と、実空間上で定義された電場ベクトルE(x、t0)と、磁場ベクトルB(x、t0)と、最大時間ステップ数nmaxと、を記憶手段に記憶する初期値記憶ステップ(図2に示すS201)と、プラズマ分布関数f(x、v、tn)と、速度空間モーメント積分量Mm(x、v、tn)と、から実空間上における移流更新を行い、第一中間時間ステップでのプラズマ分布関数f(x、v、t*)と、速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)と、を算出する実空間時間更新ステップ(S202)と、0次の速度空間モーメント積分量M0(x、v、t*)と、1次の速度空間モーメント積分量M1(x、v、t*)と、から、電荷密度と、電流密度と、を求める電荷・電流密度算出ステップ(S203)と、マクスウェル方程式を解くことにより、前記電荷・電流密度と、電場ベクトルE(x、tn)と、磁場ベクトルB(x、tn)と、から次の時間ステップに対応する電場ベクトルE(x、tn+1)と、磁場ベクトルB(x、tn+1)と、を算出する電磁場更新ステップ(S204)と、前記時間更新後の電場ベクトルE(x、tn+1)と、磁場ベクトルB(x、tn+1)と、から速度空間上における移流速度ベクトルである加速度場ベクトルA(x、v、tn+1)を算出する加速度場算出ステップ(S205)と、速度空間のグリッド上で定義された加速度ベクトルA(x、v、tn+1)から、速度空間上の上流点及び上流方向のグリッドを決める速度空間上流点算出ステップ(S206)と、速度空間上でプラズマ分布関数f(x、v、t*)及び前記各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)の束縛条件を課して、プラズマ分布関数f(x、v、t*)の速度空間プロファイルF(x、v、t*)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)の速度空間プロファイルGm(x、v、t*)を求める速度空間プロファイル算出ステップ(S207)と、前記空間プロファイルに基づく次式f(x、v、t**)=F(x、v−A×dt、t*)及びMm(x、v、t**)=Gm(x、v−A×dt、t*)に従って、第二中間時間ステップでのプラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)を算出する速度空間移流項計算ステップ(S208)と、前記プラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)に基づき、プラズマ分布関数fの非移流項S(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)を算出し、これらプラズマ分布関数fの非移流項S(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)を前記プラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)に加算して、次の時間ステップに対応するプラズマ分布関数f(x、v、tn+1)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、tn+1)を算出する速度空間非移流項加算ステップ(S209)と、計算結果を出力する出力ステップ(S210)と、から構成されている。本発明により、従来の手法に比べて極めて高い信頼性を持つブラソフ方程式及びマクスウェル方程式の解を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態における移流方程式解法装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図2】本実施の形態におけるブラソフ方程式及びマクスウェル方程式解法装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本実施の形態における移流方程式及びブラソフ・マクスウェル方程式解法装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図4】1次元MMA法を説明する模式図である。
【図5】2次元MMA法を説明する模式図である。
【図6】1次元移流方程式の数値計算結果を示すグラフである。
【図7】2次元移流方程式(剛体回転)の数値計算結果を示すグラフである。
【図8】MMA法のブラソフ方程式及びマクスウェル方程式への適用例を示すグラフである。
【図9】MMA法のブラソフ方程式及びマクスウェル方程式への適用例を示すグラフである。
【図10】1次風上差分法の計算例を示すグラフである。
【図11】1次風上差分法及びCIP法の概念を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付図を参照しながら、以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
まず、図3を用いて、移流方程式解法装置1のハードウェア構成について説明する。移流方程式解析装置1は、CPU(図3装置301)と、RAM(302)と、HDD(ハードディスクドライブ、303)と、マウス(304)と、キーボード(305)と、ディスプレイ(306)と、を備えている。また、各構成部はバス(300)によってそれぞれ接続されている。
【0013】
ここで、CPU(301)は移流方程式解析装置1の全体の制御を司る。RAM(302)はCPU(301)のワークエリアとして使用される。初期値記憶ステップ(図1に示すS101と図2に示すS201)における初期値の保持や値の時間更新(図1に示すS102からS105と図2に示すS202からS209)はRAM(302)を介して行われる。HDD(303)はCPU(301)の制御にしたがって、データの読み込み・書き込みに使用される。出力ステップ(図1に示すS106と図2に示すS210)において、計算結果の保存はHDD(303)を介して行われる。マウス(304)はカーソルの移動や範囲選択、ウィンドウのサイズ変更などに使用される。キーボード(305)は、文字・数字などの入力のためのキーを備え、移流方程式解法プログラムはキーボードを介したコマンド入力によってCPU(301)により実行される。ディスプレイ(306)は、液晶ディスプレイなどが相当し、出力結果の表示に使用される。
【0014】
続いて、図1を用いて、CPU(301)が移流方程式解法プログラムを実行することにより実現される移流方程式を数値的に解く処理手順について説明する。処理手順は、初期値記憶ステップ(S101)と、上流点算出ステップ(S102)と、空間プロファイル算出ステップ(S103)と、移流項計算ステップ(S104)と、非移流項加算ステップ(S105)と、出力ステップ(S106)と、から構成されている。
【0015】
初期値記憶ステップ(S101)では、空間グリッド上で定義された物理量f(x、t0)のデータ群と、各グリッド間の0次からmmax次までのモーメント積分量Mm(x、t0)(m=0、1、2、・・・、mmax−1、mmax)のデータ群と、最大時間ステップ数nmaxと、をマウス(304)及びキーボード(305)によりユーザーが入力し、RAM(302)に記憶する。
【0016】
n=1時間ステップでは、
上流点算出ステップ(S102)では、空間上で定義された速度場uから、上流点及び上流方向のグリッドを算出する。
【0017】
空間プロファイル算出ステップ(S103)では、まず、注目するグリッドと、前記上流点算出ステップ(S102)で算出した上流方向のグリッドの間の、物理量f(x、t0)と、各モーメント積分量Mm(x,t0)と、の空間プロファイルを、多項式で表現する。多項式を決定する各項の未知係数は、注目するグリッドと、その上流方向のグリッドと、で記憶されている物理量f(x、t0)と、注目するグリッドとその上流方向のグリッドの間で記憶されている各モーメント積分量Mm(x、t0)と、の束縛条件から決定される。これにより、t=0におけるf(x、t0)と、Mm(x、t0)と、の空間プロファイルF(x、t0)と、Gm(x、t0)と、を算出する。
【0018】
移流項計算ステップ(S104)では、時間ステップの中間値であるf(x、t*)と、Mm(x、t*)と、をf(x、t*)= F(x−u×dt、t0)と、Mm(x、t*)= Gm(x−u×dt、t0)と、により時間更新する(dt=t1−t0は数値計算の時間刻みを表す)。
【0019】
非移流項加算ステップ(S105)では、物理量fの非移流項S(x、t*)と、各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)とを、f(x、t*)と、Mm(x、t*)と、から算出する。S(x、t*)と、Sm(x、t*)と、をf(x、t*)と、Mm(x、t*)と、に加算し、f(x、t1)と、Mm(x、t1)と、を算出する。
【0020】
時間ステップ数を更新し、n=2とする。
時間ステップn=2以降では、1ステップ前の値(n=2の場合、n=1での値)を基にして、前記上流点算出ステップ(S102)から非移流項加算ステップ(S106)までを、n=nmaxになるまで繰り返す。
【0021】
出力ステップ(S107)は、計算結果f(x、v、tnmax)をHDD(303)に出力する。
続いて、図2を用いてCPU(301)がプラズマ物理現象を記述する方程式であるブラソフ方程式及びマクスウェル方程式解法プログラムを実行することにより実現される、ブラソフ方程式及びマクスウェル方程式を数値的に解く処理手順について説明する。ブラソフ方程式は、
【0022】
【数1】
【0023】
で表される、粒子種sの分布関数fsの位相空間上での移流を記述する線形移流方程式である。ここで、ベクトルxは実空間での位置ベクトル、ベクトルvは速度空間での位置ベクトル(速度場ベクトル)、qsは粒子種sの電荷、msは粒子種sの質量、ベクトルE、ベクトルBはそれぞれ電場ベクトル、磁場ベクトルを表す。上式は、次のように、実空間と速度空間での移流方程式に分けてそれぞれ計算を行う。
【0024】
【数2】
【0025】
但しベクトルAは速度空間上における移流速度ベクトルである加速度場ベクトルであり、次式で計算される。
【0026】
【数3】
【0027】
実空間における移流は例えばCIP−CSL2法などの汎用的な手法を用いて時間更新する。電場ベクトル、磁場ベクトルが与えられれば、前記MMA法により速度空間上における移流方程式を解くことができる。電場ベクトル、磁場ベクトルの時間発展は別途、マクスウェル方程式
【0028】
【数4】
【0029】
によって記述される。ここで、ρe、ベクトルjはそれぞれ電荷密度、電流密度ベクトルを表し、それぞれ、
【0030】
【数5】
【0031】
で定義される。右辺に現れる量は、MMA法では独立に記憶・更新される0次及び1次のモーメント積分量である。この様にして得られた電荷密度と電流密度ベクトルを使ってマクスウェル方程式を解くことにより、電磁場の時間発展を追うことができる。
【0032】
図2を用いて、本実施の形態にかかるブラソフ方程式及びマクスウェル方程式解法装置の処理手順について説明する。処理手順は、初期値記憶ステップ(S201)と、実空間時間更新ステップ(S202)と、電荷・電流密度算出ステップ(S203)と、電磁場更新ステップ(S204)と、加速度場算出ステップ(S205)と、速度空間上流点算出ステップ(S206)と、速度空間プロファイル算出ステップ(S208)と、速度空間移流項計算ステップ(S208)と、速度空間非移流項加算ステップ(S209)と、出力ステップ(S210)と、から構成されている。これらは、CPU(301)によって実行される。
【0033】
初期値記憶ステップ(S201)では、位相空間グリッド上で定義された分布関数f(x、v、t0)と、速度空間のグリッド間の0次からmmax次までのモーメント積分量Mm(x、v、t0)(m=0,1,2、・・・、mmax−1、mmax)と、実空間グリッド上に定義された速度場ベクトルvと、実空間グリッド上に定義された電場ベクトルE(x、t0)と、磁場ベクトルB(x、t0)と、速度空間上における移流速度である加速度場ベクトルA(x、v、t0)と、最大時間ステップ数nmaxと、をマウス(304)及びキーボード(305)によりユーザーが入力し、RAM(302)に記憶する。
【0034】
n=1時間ステップでは、
実空間時間更新ステップ(S202)では、速度ベクトルvから、f(x、v、t0)と、Mm(x、v、t0)と、の実空間上における移流を、例えば、CIP−CSL2法などの汎用的な手法を用いて時間更新し、第一中間時間ステップでの値f(x、v、t*)と、Mm(x、v、t*)と、を得る。
【0035】
電荷・電流密度算出ステップ(S203)では、更新した0次モーメントM0(x、v、t*)と、1次モーメントM1(x、v、t*)と、から電荷密度ρe(x、t*)と、電流密度ベクトルj(x、t*)と、を算出する。
【0036】
電磁場更新ステップ(S204)では、算出した電荷密度ρe(x、t*)と、電流密度ベクトルj(x、t*)と、からマクスウェル方程式を解き、電場ベクトルE(x、t0)と、磁場ベクトルB(x、t0)と、から、時間更新後の電場ベクトルE(x、t1)と、磁場ベクトルB(x、t1)と、を算出する。
【0037】
加速度場算出ステップ(S205)では、前記時間更新後の電場ベクトルE(x、t1)と、磁場ベクトルB(x、t1)と、から前記加速度場ベクトルA(x、v、t1)を算出する。
【0038】
速度空間上流点算出ステップ(S206)では、前記加速度場ベクトル算出ステップ(S205)で算出した加速度場ベクトルA(x、v、t1)から、速度空間における上流点及び上流方向のグリッドを算出する。
【0039】
速度空間プロファイル算出ステップ(S207)では、まず、注目するグリッドと、前記上流点算出ステップ(S206)で算出した上流方向のグリッドの間の、物理量f(x、v、t*)と、各モーメント積分量Mm(x、v、t*)と、の速度空間プロファイルを、多項式で表現する。多項式を決定する各項の未知係数は、注目するグリッドと、その上流方向のグリッドと、で記憶されている物理量f(x、v、t*)と、注目するグリッドとその上流方向のグリッドの間で記憶されている各モーメント積分量Mm(x、v、t*)と、の束縛条件から決定される。これにより、t=0におけるf(x、v、t*)と、Mm(x、v、t*)と、の速度空間プロファイルF(x、v、t*)と、Gm(x、v、t*)と、を算出する。
【0040】
速度空間移流項計算ステップ(S208)では、前記加速度場算出ステップ(S205)で得られた加速度場ベクトルA(x、v、t1)より、第二中間時間ステップの値であるf(x、v、t**)と、Mm(x、v、t**)と、をf(x、v、t**)= F(x、v−A×dt、t*)と、Mm(x、v、t**)= Gm(x、v−A×dt、t*)と、により時間更新する。
【0041】
速度空間非移流項加算ステップ(S209)では、物理量fの非移流項S(x、v、t**)と、各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)とを、f(x、v、t**)と、Mm(x、v、t**)と、から算出する。S(x、v、t**)と、Sm(x、v、t**)と、をf(x,v,t**)と、Mm(x,v,t**)と、に加算することにより、f(x、v、t1)と、Mm(x、v、t1)と、を算出する。
【0042】
時間ステップ数を更新し、n=2とする。
時間ステップn=2以降では、1ステップ前の値(n=2の場合、n=1での値)を基にして、前記実空間時間更新ステップ(S202)から、前記速度空間非移流項加算ステップ(S209)まで、をn=nmaxになるまで繰り返す。
【0043】
出力ステップ(S210)は、計算結果であるf(x、v、tnmax)と、電場ベクトルE(x、tnmax)と、磁場ベクトルB(x、tnmax)と、をHDD(303)に出力する。
【0044】
この発明により、ブラソフ方程式とマクスウェル方程式を数値的に解くことが出来る。
以下では、移流方程式解法の定式化・実装について説明する。
<1次元MMA法>
1次元MMA法は、物理量とその0次、1次、2次モーメント積分量を用いて、1次元移流方程式を数値的に解く解法である。扱う基礎方程式は保存型の移流方程式で、次の通りである。
【0045】
【数6】
【0046】
ここで、時刻t、空間座標xに対してfが物理量、uが速度場、
【0047】
【数7】
【0048】
はfのm次モーメントの空間積分量(モーメント積分量)である。式(1.2)−(1.3)は式(1.1)から厳密に導かれる。
コンピュータは、図4で示すように、グリッド上の物理量fi及びグリッド間のモーメント積分量
【0049】
【数8】
【0050】
の、計4つの変数をRAM(302)に記憶する(初期値記憶ステップS101)。また、コンピュータは、グリッド上で速度場ui及びその空間微分量(∂u/∂x)iを別途求め、RAM(302)に記憶する。
【0051】
物理量fとモーメント積分量Mmのグリッド間の空間プロファイルを、下記の区分化された多項式で近似する。
【0052】
【数9】
【0053】
ここで、
【0054】
【数10】
【0055】
記憶量であるグリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量を束縛条件として用いて、前記多項式の係数Ckiを決定する。束縛条件は、
【0056】
【数11】
【0057】
で与えられる。ここで、
【0058】
【数12】
【0059】
は、i番目のグリッドから見た上流方向のグリッド及びセルの番号であり、
【0060】
【数13】
【0061】
は、i番目の座標xiから見た上流点までの距離であり、Δtは数値計算の時間刻みであり、xi+ξiが上流点の位置である(上流点算出ステップS102)。以上より、係数Ckiが次の様に求まる。
【0062】
【数14】
【0063】
ここで、Δx = xiup−xiである。
このようにして、上記係数を要素とする物理量及びモーメント積分量のグリッド間の関数を空間プロファイル(1.4)、(1.5)として決定する(空間プロファイル算出ステップS103)。続いて、決定された空間プロファイルを用いて、グリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量を、以下に述べる方法を用いて時間更新する。基礎方程式(1.1)−(1.3)は、移流項(左辺第2項)と非移流項(右辺)と、を含む。まず移流項計算は、セミラグランジュ法と呼ばれる、上流点の値を速度場に沿って移流する方法を用いる(移流項計算ステップS104)。
【0064】
【数15】
【0065】
ここで、左上添え字は時間ステップを表わし、アスタリスクは、該当する量が移流項計算後の中間値であることを示す。式(1.13)、(1.14)は、0次、1次、2次モーメント積分量の保存を保証する。次にグリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量の非移流項を、移流項計算後のグリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量を用いて、以下に述べる方法で算出する。
【0066】
【数16】
【0067】
このようにして決定された非移流項を用いて、グリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量に非移流項を加算する(非移流項加算ステップS105)。
【0068】
【数17】
【0069】
以上のステップを経て、n時間ステップのグリッド上の物理量 nfi及びグリッド間のモーメント積分量 nMmi+1/2から、(n+1)時間ステップのグリッド上の物理量(1.15)及びグリッド間のモーメント積分量(1.13)、(1.16)が得られる。
<2次元MMA法>
2次元MMA法は、物理量とその0次モーメント積分量、各次元方向の1次、2次モーメント積分量を用いて、2次元移流方程式を数値的に解く解法である。扱う基礎方程式は保存型の移流方程式で、次の通りである。
【0070】
【数18】
【0071】
ここで、時刻t、空間座標x、yに対してfが物理量、u、vがx、y方向の速度場である。
【0072】
【数19】
【0073】
はそれぞれ、fの0次モーメントの空間積分量、x方向のm次モーメントの空間積分量、y方向のm次モーメントの空間積分量(モーメント積分量)である。今後、都合上、Mx0=My0=M0として表記することがある。式(2.2)−(2.4)は式(2.1)から厳密に導かれる。
【0074】
コンピュータは、図5で示すように、グリッド上の物理量fij及びグリッド間のモーメント積分量
【0075】
【数20】
【0076】
の、計6つの変数をRAM(302)に記憶する(初期値記憶ステップS101)。また、コンピュータは、グリッド上でx、y方向の速度場uij、 vij及びその空間微分量(∂u/∂x)ij、(∂v/∂y)ijを別途求め、RAM(302)に記憶する。
【0077】
物理量fとモーメント積分量Mxm、Mymのグリッド間のプロファイルを、下記の区分化された多項式で近似する。
【0078】
【数21】
【0079】
今後Gx0=Gy0=G0として表記することがある。
記憶量であるグリッド上の物理量とグリッド間のモーメント積分量を束縛条件として用いて、前記多項式の係数Clkijを決定する。束縛条件は、
【0080】
【数22】
【0081】
で与えられる。ここで、
【0082】
【数23】
【0083】
は、(i,j)番目のグリッドから見た上流x方向のグリッド及びセルの番号と上流y方向のグリッド及びセルの番号であり、
【0084】
【数24】
【0085】
は、(i,j)番目の座標(xi,yj)から見た上流点までのx方向及びy方向の距離であり、(xi+ξij,yj+ηij)が上流点の位置である(上流点算出ステップS102)。以上より、係数Clkijが次の様に求まる。
【0086】
【数25】
【0087】
ここで、Δx = xiup−xi、Δy = yjup−yjである。
このようにして、上記係数を要素とする物理量及びモーメント積分量のグリッド間の関数を空間プロファイル(2.8)−(2.10)として決定する(空間プロファイル算出ステップS103)。続いて、決定された空間プロファイルを用いて、グリッド上の物理量及びグリッド間のモーメント積分量を、以下に述べる方法を用いて時間更新する。基礎方程式(2.1)−(2.4)は、移流項(左辺第2項、3項)と非移流項(右辺)と、を含む。まずグリッド上の物理量の時間更新は、セミラグランジュ法による移流項計算(移流項計算ステップS104)と、非移流項計算(非移流項加算ステップS105)と、をルンゲ・クッタ法を用いて行う。
【0088】
【数26】
【0089】
ここで、kmaxはルンゲ・クッタ法の次数を表す。式(2.22)、(2.23)は特性曲線方程式であり、この式から、(i,j)番目の座標(xi,yj)から見た上流点のルンゲ・クッタ法のサブステップ毎の座標(xi+ kξij,yj+ kηij)が決定される。
【0090】
kSijはルンゲ・クッタ法のサブステップ毎のfの非移流項であり、 kαはルンゲ・クッタ法の重み係数である。式(2.24)がfの時間更新式であり、右辺第1項がセミラグランジュ法による移流項計算(移流項計算ステップS104)、右辺第2項が非移流項の加算(非移流項加算ステップS105)である。この式から、ルンゲ・クッタ法のサブステップ毎のグリッド上の物理量 kfijが求まり、k=kmaxのとき、kmaxfij=n+1fijであり、(n+1)時間ステップのグリッド上の物理量n+1fijが得られる。
【0091】
次にグリッド間のモーメント積分量の時間更新方法について述べる。多次元移流問題では、グリッド間のモーメント積分量のセミラグランジュ法による移流計算は非常に煩雑になるため、有限体積法による移流項計算(移流項計算ステップS104)と、非移流項加算(非移流項加算ステップS105)と、を以下で行う。式(2.2)−(2.4)を次の保存形式で表現する。
【0092】
【数27】
【0093】
ここで式(2.25)−(2.27)の右辺第1項から第4項が移流項であり、物理量の線積分量で表現されている。そこで先に決定された物理量の空間プロファイル(2.8)を用いて、線積分量を構築する。
【0094】
【数28】
【0095】
これらを用いて式(2.25)−(2.27)の移流項の計算を行う(移流項計算ステップS104)。式(2.25)−(2.27)は保存型で書かれているため、0次、1次、2次モーメント積分量の保存が保証されている。続いて、x、y方向の1次及び2次モーメント積分量の非移流項である式(2.26)、(2.27)の右辺第5項を
【0096】
【数29】
【0097】
により算出し、式(2.26)、(2.27)に加算する(非移流項加算ステップS105)。以上より、式(2.25)−(2.27)を有限体積法で計算することができ、結果、(n+1)時間ステップのグリッド間のモーメント積分量 n+1Mxm、 n+1Mymが得られる。但し計算を安定に行うために、式(2.25)−(2.27)は、ルンゲ・クッタ法を用いて時間更新する必要がある。
<計算例>
前記MMA法による移流方程式の解法例を以下に示す。
【0098】
図6上段はガウス分布形状の1次元線形移流計算結果であり、左よりCIP−CSL2法、MMA法の結果を表す。図中で、横軸が1次元空間で、「+」は計算結果を、破線は解析解を表す。下段は解析解からの誤差を表す。CIP−CSL2法では、移流と共にプロファイルがなまってしまい、数値拡散の影響が大きく出ている。また、裾野のあたりでは数値振動が出ていることがわかる。一方、MMA法はプロファイルを正確に再現しており、誤差の大きさもCIP−CSL2法に比べて3桁以上小さい。
【0099】
図7は、ガウス分布形状の2次元剛体回転問題の数値計算結果である。軸が2次元空間、背景及び等高線が物理量を表す。プロファイルを最上段のグラフで示されている矢印の方向に回転し続けた。左の列がCIP−CSL2法の、右の列がMMA法の計算結果である。それぞれの使用メモリー量を合わせるために、グリッド数を変えている。上から順に、初期状態、30回転後、300回転後の結果を表す。2次元剛体回転問題では、数値拡散の影響が顕著に現れる。CIP−CSL2法による剛体回転問題結果では、30回転後においてすでにプロファイルの数値拡散が見られ、300回転後では原形をとどめていない。一方、MMA法は、300回転後においても初期の形状を保ったまま、剛体回転運動を数値的に記述することができている。
【0100】
図8は、MMA法のブラソフ方程式への適用例である。初期に互いに異なる向きの電子ビームを与えた。(a)から(d)の順に、その位相空間分布の時間発展を示す。横軸が1次元実空間、縦軸が1次元速度空間、背景及び等高線が位相空間分布を表す。プラズマ物理分野でよく知られる2流体不安定が励起されており、その特徴的な構造である、位相空間上における電子ホールの形成が再現できている。
【0101】
図9は、MMA法のブラソフ方程式への適用例である。イオン、電子が存在する中での、磁場に垂直方向に伝播するプラズマ波動である、バーンシュタイン波の分散関係である。横軸が波数、縦軸が周波数、背景が電場強度を表す。本計算は、プラズマの旋回運動(剛体回転)を長時間計算する必要があるため、従来のブラソフシミュレーション手法では再現することができなかった。左側がMMA法で求めたブラソフシミュレーション結果で、右側が粒子法の一種である電磁粒子(PIC)コードで計算した結果である。両者共に同じ結果が得られ、MMA法による計算が正しいことがわかる。また、ブラソフシミュレーションは電磁粒子計算に比べて数値ノイズが極めて少ないことが特徴である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
移流方程式は物質の移動を記述する基本的な方程式であるため、その数値的解法は、数値流体力学(CFD)や、宇宙・核融合分野におけるプラズマ現象への適用のみならず、大気流体現象、燃焼流体現象、コンピュータ画像処理など、幅広い分野に応用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1…移流方程式解法装置、300…バス、301…CPU、302…RAM、303…HDD、304…マウス、305…キーボード、306…ディスプレイ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実空間と、その空間上で定義された物理量と、前記空間上で定義された移流速度場と、から前記物理量の移流を求める移流方程式を数値計算によって解く方法であって、
初期時刻t0での空間上の各グリッドにおける物理量f(x、t0)(ここで、xは空間上での位置ベクトル)と、その物理量fの複数のモーメント積分量Mm(x、t0)(ここで、mは0からmmaxまでの整数で、モーメントの次数を表す。)と、最大時間ステップ数nmaxと、を記憶手段に記憶する初期値記憶ステップと、
空間のグリッド上で定義された移流速度ベクトルuから、上流点及び上流方向のグリッドを決める上流点算出ステップと、
前記物理量f(x、tn)及び前記各モーメント積分量Mm(x、tn)の束縛条件を課して、物理量f(x、tn)の空間プロファイルF(x、tn)(ここで、tnは第n時間ステップでの時刻を表し、nは0以上の整数である。)及び各モーメント量Mm(x、tn)の空間プロファイルGm(x、tn)を求める空間プロファイル算出ステップと、
前記空間プロファイルに基づく次式
f(x、t*)=F(x−u×dt、tn)及び
Mm(x、t*)=Gm(x−u×dt、tn)
に従って(ここで、dt=tn+1−tnは時間刻み幅、t*は移流後の中間時間ステップである。)、中間時間ステップでの物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)を算出する移流項計算ステップと、
前記物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)に基づき、物理量fの非移流項S(x、t*)及び各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)を算出し、これら物理量fの非移流項S(x、t*)及び各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)を前記物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)に加算して、次の時間ステップに対応する物理量f(x、tn+1)及び各モーメント積分量Mm(x、tn+1)を算出する非移流項加算ステップと、
計算結果を出力する出力ステップと、
を含むことを特徴とする移流方程式を数値的に解く方法。
【請求項2】
位相空間と、その空間上で定義された物理量であるプラズマ分布関数f(x、v、t)(ここでベクトルxは実空間での位置ベクトル、ベクトルvは速度空間での位置ベクトル(速度場ベクトル))と、その実空間上で定義された物理量である電場ベクトルE(x、t)と、磁場ベクトルB(x、t)と、前記速度場ベクトルvと、前記電場ベクトルE(x、t)と、磁場ベクトルB(x、t)と、から算出される、速度空間上での移流速度である加速度場ベクトルA(x、v、t)と、から前記プラズマ分布関数の移流を求める移流方程式であるブラソフ方程式と、マクスウェル方程式と、を数値計算によって解く方法において、
初期時刻t0におけるプラズマ分布関数f(x、v、t0)と、その速度空間における複数のモーメント積分量Mm(x、v、t0)(ここで、mは0からmmaxまでの整数で、モーメントの次数を表す。)と、電場ベクトルE(x、t0)と、磁場ベクトルB(x、t0)と、最大時間ステップ数nmaxと、を記憶手段に記憶する初期値記憶ステップと、
プラズマ分布関数fと、速度空間モーメント積分量Mmと、の実空間上における時間更新を行い、第一中間時間ステップにおけるプラズマ分布関数f(x、v、t*)と、速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)と、を算出する実空間時間更新ステップと、
0次の速度空間モーメント積分量M0(x、v、t*)と、1次の速度空間モーメント積分量M1(x、v、t*)と、から、電荷密度と、電流密度と、を求める電荷・電流密度算出ステップと、
前記電荷・電流密度算出ステップで算出した、電荷密度と、電流密度と、からマクスウェル方程式を解き、前記電場ベクトルE(x、tn)と、磁場ベクトルB(x、tn)と、から次の時間ステップに対応する電場ベクトルE(x、tn+1)と、磁場ベクトルB(x、tn+1)と、を算出する電磁場更新ステップと、
前記時間更新後の電場ベクトルE(x、tn+1)と、磁場ベクトルB(x、tn+1)と、から前記加速度場ベクトルA(x、v、tn+1)を算出する加速度場算出ステップと、
速度空間上における移流速度である前記加速度ベクトルA(x、v、tn+1)から、速度空間における上流点及び上流方向のグリッドを算出する速度空間上流点算出ステップと、
前記プラズマ分布関数f(x、v、t*)及び前記各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)の束縛条件を課して、プラズマ分布関数f(x、v、t*)の速度空間プロファイルF(x、v、t*)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)の速度空間プロファイルGm(x、v、t*)を求める速度空間プロファイル算出ステップと、
前記空間プロファイルに基づく次式
f(x、v、t**)=F(x、v−A×dt、t*)及び
Mm(x、v、t**)=Gm(x、v−A×dt、t*)
に従って、第二中間時間ステップでのプラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)を算出する速度空間移流項計算ステップと、
前記プラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)に基づき、プラズマ分布関数fの非移流項S(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)を算出し、これらプラズマ分布関数fの非移流項S(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)を前記プラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)に加算して、次の時間ステップに対応するプラズマ分布関数f(x、v、tn+1)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、tn+1)を算出する速度空間非移流項加算ステップと、
計算結果を出力する出力ステップと、
を含むことを特徴とする移流方程式を解く方法。
【請求項3】
前記電磁場更新ステップでは、実空間上での時間更新後の前記0次の速度空間モーメント積分量M0(x、v、t*)と、1次の速度空間モーメント積分量M1(x、v、t*)と、から、電荷密度と、電流密度と、を求めることを特徴とする請求項2記載の移流方程式及びマクスウェル方程式を数値的に解く方法。
【請求項4】
コンピュータに、請求項1に記載の移流方程式を数値的に解く方法に含まれる各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項5】
コンピュータに、請求項2又は請求項3に記載の移流方程式及びマクスウェル方程式を数値的に解く方法に含まれる各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項1】
実空間と、その空間上で定義された物理量と、前記空間上で定義された移流速度場と、から前記物理量の移流を求める移流方程式を数値計算によって解く方法であって、
初期時刻t0での空間上の各グリッドにおける物理量f(x、t0)(ここで、xは空間上での位置ベクトル)と、その物理量fの複数のモーメント積分量Mm(x、t0)(ここで、mは0からmmaxまでの整数で、モーメントの次数を表す。)と、最大時間ステップ数nmaxと、を記憶手段に記憶する初期値記憶ステップと、
空間のグリッド上で定義された移流速度ベクトルuから、上流点及び上流方向のグリッドを決める上流点算出ステップと、
前記物理量f(x、tn)及び前記各モーメント積分量Mm(x、tn)の束縛条件を課して、物理量f(x、tn)の空間プロファイルF(x、tn)(ここで、tnは第n時間ステップでの時刻を表し、nは0以上の整数である。)及び各モーメント量Mm(x、tn)の空間プロファイルGm(x、tn)を求める空間プロファイル算出ステップと、
前記空間プロファイルに基づく次式
f(x、t*)=F(x−u×dt、tn)及び
Mm(x、t*)=Gm(x−u×dt、tn)
に従って(ここで、dt=tn+1−tnは時間刻み幅、t*は移流後の中間時間ステップである。)、中間時間ステップでの物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)を算出する移流項計算ステップと、
前記物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)に基づき、物理量fの非移流項S(x、t*)及び各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)を算出し、これら物理量fの非移流項S(x、t*)及び各モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、t*)を前記物理量f(x、t*)及び各モーメント積分量Mm(x、t*)に加算して、次の時間ステップに対応する物理量f(x、tn+1)及び各モーメント積分量Mm(x、tn+1)を算出する非移流項加算ステップと、
計算結果を出力する出力ステップと、
を含むことを特徴とする移流方程式を数値的に解く方法。
【請求項2】
位相空間と、その空間上で定義された物理量であるプラズマ分布関数f(x、v、t)(ここでベクトルxは実空間での位置ベクトル、ベクトルvは速度空間での位置ベクトル(速度場ベクトル))と、その実空間上で定義された物理量である電場ベクトルE(x、t)と、磁場ベクトルB(x、t)と、前記速度場ベクトルvと、前記電場ベクトルE(x、t)と、磁場ベクトルB(x、t)と、から算出される、速度空間上での移流速度である加速度場ベクトルA(x、v、t)と、から前記プラズマ分布関数の移流を求める移流方程式であるブラソフ方程式と、マクスウェル方程式と、を数値計算によって解く方法において、
初期時刻t0におけるプラズマ分布関数f(x、v、t0)と、その速度空間における複数のモーメント積分量Mm(x、v、t0)(ここで、mは0からmmaxまでの整数で、モーメントの次数を表す。)と、電場ベクトルE(x、t0)と、磁場ベクトルB(x、t0)と、最大時間ステップ数nmaxと、を記憶手段に記憶する初期値記憶ステップと、
プラズマ分布関数fと、速度空間モーメント積分量Mmと、の実空間上における時間更新を行い、第一中間時間ステップにおけるプラズマ分布関数f(x、v、t*)と、速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)と、を算出する実空間時間更新ステップと、
0次の速度空間モーメント積分量M0(x、v、t*)と、1次の速度空間モーメント積分量M1(x、v、t*)と、から、電荷密度と、電流密度と、を求める電荷・電流密度算出ステップと、
前記電荷・電流密度算出ステップで算出した、電荷密度と、電流密度と、からマクスウェル方程式を解き、前記電場ベクトルE(x、tn)と、磁場ベクトルB(x、tn)と、から次の時間ステップに対応する電場ベクトルE(x、tn+1)と、磁場ベクトルB(x、tn+1)と、を算出する電磁場更新ステップと、
前記時間更新後の電場ベクトルE(x、tn+1)と、磁場ベクトルB(x、tn+1)と、から前記加速度場ベクトルA(x、v、tn+1)を算出する加速度場算出ステップと、
速度空間上における移流速度である前記加速度ベクトルA(x、v、tn+1)から、速度空間における上流点及び上流方向のグリッドを算出する速度空間上流点算出ステップと、
前記プラズマ分布関数f(x、v、t*)及び前記各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)の束縛条件を課して、プラズマ分布関数f(x、v、t*)の速度空間プロファイルF(x、v、t*)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t*)の速度空間プロファイルGm(x、v、t*)を求める速度空間プロファイル算出ステップと、
前記空間プロファイルに基づく次式
f(x、v、t**)=F(x、v−A×dt、t*)及び
Mm(x、v、t**)=Gm(x、v−A×dt、t*)
に従って、第二中間時間ステップでのプラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)を算出する速度空間移流項計算ステップと、
前記プラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)に基づき、プラズマ分布関数fの非移流項S(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)を算出し、これらプラズマ分布関数fの非移流項S(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mmの非移流項Sm(x、v、t**)を前記プラズマ分布関数f(x、v、t**)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、t**)に加算して、次の時間ステップに対応するプラズマ分布関数f(x、v、tn+1)及び各速度空間モーメント積分量Mm(x、v、tn+1)を算出する速度空間非移流項加算ステップと、
計算結果を出力する出力ステップと、
を含むことを特徴とする移流方程式を解く方法。
【請求項3】
前記電磁場更新ステップでは、実空間上での時間更新後の前記0次の速度空間モーメント積分量M0(x、v、t*)と、1次の速度空間モーメント積分量M1(x、v、t*)と、から、電荷密度と、電流密度と、を求めることを特徴とする請求項2記載の移流方程式及びマクスウェル方程式を数値的に解く方法。
【請求項4】
コンピュータに、請求項1に記載の移流方程式を数値的に解く方法に含まれる各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項5】
コンピュータに、請求項2又は請求項3に記載の移流方程式及びマクスウェル方程式を数値的に解く方法に含まれる各ステップを実行させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−159032(P2011−159032A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19020(P2010−19020)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
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