説明

稀少金属の分離回収方法

【課題】抽出クロマトグラフにより複数の希少金属が含まれた金属含有溶液から複数の希少金属の夫々を別個に安定して回収する。
【解決手段】抽出剤を含浸した樹脂の吸着部2が充填されたカラム1に、複数の稀少金属が含まれた金属含有溶液4を通液する抽出クロマトグラフにより吸着部2に吸着される金属のグループIと、金属含有溶液の二次廃液と共にカラム1から導出される金属のグループIIとに分離するに際し、予め金属含有溶液4に含有される各金属の分配比を求めておき、二次廃液と共に導出されるグループIIの金属は分配比が小さい順で導出されることに基づいて分配比が小さい金属から順次回収し、その後、カラム1に溶離液6を通液し、溶離液6と共に導出されるグループIの金属は分配比が大きい順で導出されることに基づいて分配比が大きい金属から順次回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の希少金属が含まれた金属含有溶液から抽出クロマトグラフにより複数の希少金属の夫々を別個に安定して回収するようにした稀少金属の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、希少金属等の回収方法としては抽出分離方法が一般的に行われている。抽出分離方法は、アルカリや酸を用いて金属を溶解した後、その溶解溶液から抽出・逆抽出を繰り返すことによって金属毎に分離する方法である。しかし、抽出分離方法では、複数種類の金属が含有された合金材料、或いは石油系残渣の処理物等から目的とする複数種の金属を別個に回収する場合、多種類の抽出剤および逆抽出剤が必要であり、更に、分離回収に多くの時間が掛かり、費用が多大になるといった問題がある。また、溶解性等の性質が似ている金属の相互分離は困難であった。
【0003】
このため、使用済み核燃料のアクチノイド元素の相互分離についてはクロマトグラフを用いる技術が開発されている(特許文献1参照)。この方法の有効利用を図るためには、予めアクチニド元素群を他の各種元素群(白金族元素群、核分裂生成物元素や希土類元素を含む群、及び燃料成分元素群)から分離しておく必要があるが、その分離を効率よく実施できる技術は未だ開発されていない。
【特許文献1】特開2005−233656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、使用済み核燃料のアクチノイド元素を相互分離するための方法としては提案されているものもあるが、複数種類の金属を含有する合金材料或いは石油系残渣の処理物等から目的とする複数種の金属を別個に効果的に回収できるようにした技術について開示したものは存在していない。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、複数の希少金属が含まれた金属含有溶液から抽出クロマトグラフにより複数の希少金属の夫々を別個に安定して回収するようにした稀少金属の分離回収方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、抽出剤を含浸した樹脂の吸着部が充填されたカラムに、複数の稀少金属が含まれた金属含有溶液を通液する抽出クロマトグラフにより吸着部に吸着される金属のグループIと、金属含有溶液の二次廃液と共にカラムから導出される金属のグループIIとに分離するに際し、予め金属含有溶液に含有される各金属の分配比を求めておき、前記二次廃液と共に導出されるグループIIの金属は分配比が小さい順で導出されることに基づいて分配比が小さい金属から順次回収し、その後、カラムに溶離液を通液し、溶離液と共に導出されるグループIの金属は分配比が大きい順で導出されることに基づいて分配比が大きい金属から順次回収することを特徴とする稀少金属の分離回収方法、に係るものである。
【0007】
上記稀少金属の分離回収方法において、カラムの出口に設けた検出器により金属の導出を検出し、検出した各金属を対応する容器に回収することは好ましい。
【0008】
又、上記稀少金属の分離回収方法において、カラムから導出される時間に基づいて分離した金属を特定することは好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の稀少金属の分離回収方法によれば、抽出クロマトグラフにより吸着部に吸着される金属のグループIと、金属含有溶液の二次廃液と共にカラムから導出される金属のグループIIとに分離するに際し、予め金属含有溶液に含有される各金属の分配比を求めておき、前記二次廃液と共に導出されるグループIIの金属は分配比が小さい順で導出されることに基づいて分配比が小さい金属から順次回収し、その後、カラムに溶離液を通液し、溶離液と共に導出されるグループIの金属は分配比が大きい順で導出されることに基づいて分配比が大きい金属から順次回収するようにしたので、複数の希少金属が含まれた金属含有溶液から複数の希少金属の夫々を別個に安定して回収できるという優れた効果を奏し得る。
【0010】
又、カラムから導出される時間に基づいて分離した金属を特定できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明を実施する抽出クロマトグラフによる分離装置の一例を示すもので、1はカラムであり該カラム1には有機抽出剤が含浸された樹脂製の吸着部2が充填されている。3は金属含有溶液4が収容された試料タンク、5は酸等の溶離液6が収容された溶離液タンクであり、前記試料タンク3の金属含有溶液4はポンプ等の溶液供給部7により切換器8を介して前記カラム1の一端に供給されるようになっており、更に、溶離液タンク5に収容された酢酸エチル等の酸等からなる溶離液6はポンプ等の溶液供給部9により前記切換器8を介してカラム1の一端に供給されるようになっている。
【0013】
10はカラム1の他端に設けて金属の導出を検出するようにした検出部であり、検出部10の下流における出口管11は、金属を別個に回収するようにした回収装置12に臨んで開口している。図1の回収装置12は、下向きに開口する出口管11の下部にコンベヤ等の移動装置13を設けており、該移動装置13上に複数の回収容器14を配置することによって、出口管11から時間差を有して流出する金属を別々の回収容器14に回収するようになっている。
【0014】
図1の分離装置を用いて、金属含有溶液4に含まれる金属を回収する試験を実施した。カラム1の吸着部2には、酸性リン酸エステル系抽出剤であるジイソデシルリン酸(DIDPA)10mlを含浸した樹脂を用いた。金属含有溶液4としては、鉄(Fe)と、バナジウム(V)と、タングステン(W)と、コバルト(Co)と、ニッケル(Ni)が夫々約200ppm入った0.1M硝酸溶液100ml(水溶液)を用いた。溶離液6には濃度を調節した酢酸エチルを用いた。
【0015】
[第1の操作]
溶液供給部7を作動し、試料タンク3内の作製した金属含有溶液4を図2のようにカラム1に通液して、吸着部2に吸着する成分としない成分とに分ける操作を行った。金属含有溶液4中の金属は吸着部2の吸着剤との親和性や分子の大きさが異なることによって、吸着部2に吸着される金属のグループI(Fe、V、W)と、金属含有溶液4の二次廃液と共にカラム1から導出される金属のグループII(Co、Ni)とに分離された。この時、二次廃液と共にカラム1から導出される金属は、最初にニッケル(Ni)が導出された後にコバルト(Co)が導出された。
【0016】
[第2の操作]
【0017】
続いて、切換器8を切り換えて溶液供給部9を作動し、溶離液タンク5の溶離液6を図3のように前記カラム1に通液し、吸着部2に吸着されたグループIの金属(Fe、V、W)を洗い流す操作を行った。この時、溶離液6と共にカラム1から導出される金属は、最初に鉄(Fe)が導出された後に、バナジウム(V)が導出され、最後にタングステン(W)が導出された。
【0018】
上記で分離した各金属の抽出率Eを下記式(1)により求め、更に分配比Dを下記式(2)により求め、その結果を表1に示した。
【数1】

【数2】

Cb:抽出前濃度
Ca:抽出後濃度
V1:水層の体積
V2:有機層の体積
【表1】

【0019】
本発明においては、各金属の分配比に着目し、第1の操作では吸着部2に吸着されないグループIIの金属が分配比の小さい順に二次廃液と共にカラム1から導出され、又、第2の操作では溶離液で洗われることにより吸着部2に吸着されていたグループIの金属が分配比が大きい順に導出されることが判明した。
【0020】
従って、分離回収しようとする金属の分配比を予め求めておくことによって、各金属を容易に分離することが容易になる。即ち、図1のカラム1の出口に備えた検出部10によって金属の導出が検出されると、出口管11の下部に位置する回収容器14によってその金属は回収され、続いて移動装置13を移動して別の回収容器14を出口管11の下部に移動させておくことにより、次に検出されて出口管11から導出される金属は上記別の回収容器14で回収されるので、複数の金属が容易に別々に回収されるようになる。
更に、金属含有溶液4の濃度、溶離液6の濃度、カラム1における吸着部2の吸着剤等の条件、カラム1の長さ等を一定にすると、カラム1から導出される各金属の時間は夫々一定であるため、カラム1から導出される時間を計測することによって導出される金属を特定することができる。
【0021】
なお、本発明は上記形態にのみ限定されるものではなく、種々の金属の分離回収に適用できること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を実施する抽出クロマトグラフによる分離装置の一例を示す全体概要構成図である。
【図2】吸着部に吸着する金属と吸着しない金属とに分ける第1の操作を示すフローチャートである。
【図3】吸着部に吸着した金属を溶離液で洗い流す第2の操作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0023】
1 カラム
2 吸着部
4 金属含有溶液
6 溶離液
10 検出部
14 回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出剤を含浸した樹脂の吸着部が充填されたカラムに、複数の稀少金属が含まれた金属含有溶液を通液する抽出クロマトグラフにより吸着部に吸着される金属のグループIと、金属含有溶液の二次廃液と共にカラムから導出される金属のグループIIとに分離するに際し、予め金属含有溶液に含有される各金属の分配比を求めておき、前記二次廃液と共に導出されるグループIIの金属は分配比が小さい順で導出されることに基づいて分配比が小さい金属から順次回収し、その後、カラムに溶離液を通液し、溶離液と共に導出されるグループIの金属は分配比が大きい順で導出されることに基づいて分配比が大きい金属から順次回収することを特徴とする稀少金属の分離回収方法。
【請求項2】
カラムの出口に設けた検出器により金属の導出を検出し、検出した各金属を対応する容器に回収する請求項1に記載の稀少金属の分離回収方法。
【請求項3】
カラムから導出される時間に基づいて分離した金属を特定する請求項1又は2に記載の稀少金属の分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−300135(P2009−300135A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152463(P2008−152463)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】