説明

種子消毒剤

【課題】深部感染種子等への浸透性に優れ、従来市販されている銅殺菌剤よりも殺菌力に優れ、種子伝染性糸状菌病や細菌病および線虫(特にイネシンガレセンチュウ)病害の何れをも効果的に防除でき、低薬量で各種耐性菌をも効率よく殺菌できる農園芸用殺菌剤(新規種子消毒剤)の提供。
【解決手段】銀担持ゼオライトと、ペフラゾエート(ペンタ−4−エニル−N−フルフリル−N−イミダゾール−1−イルカルボニル−DL−ホモアラニナート)とを有効成分として含有してなることを特徴とする種子消毒剤。上記銀担持ゼオライトの銀イオンの含有量が0.1〜15.0重量%であることが望ましく、また銀担持ゼオライト100重量部に対して、上記ペフラゾエートの含有量が1〜200重量部であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
銀担持ゼオライトは、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部または全部を、アンモニウムイオンおよび/または銀イオンで置換した抗菌性ゼオライトである(特開平4−28646号公報、特許文献1)(以下「成分(A)」という)。また、銀担持ゼオライトは、農園芸分野において植物を加害する線虫、藻類、苔類、および植物病原菌に対して活性スペクトラムを有し、特にイネばか苗病、苗立枯細菌病、もみ枯細菌病に対して防除活性を示すことが、特開2002−80302号公報(特許文献2)に記載されている。しかし、この銀担持ゼオライトが含まれた薬液を用いて常に安定した高い防除効果を得るには高濃度の薬液が必要となり、このような高濃度薬液による処理を行うと、作物に薬害をもたらす危険性がある。
【0003】
一方、ペンタ−4−エニル−N−フルフリル−N−イミダゾール−1−イルカルボニル−DL−ホモアラニナート(以下「ペフラゾエート」という)は、公知の農園芸用殺菌剤であり、種子消毒剤として稲種籾のばか苗病、ごま葉枯病、いもち病などに卓効を示し、市販農薬として広く使われている[「農薬ハンドブック2001年版」(社団法人 日本植物防疫協会2001年11月1日発行)、非特許文献1]。
【0004】
しかし、これまでのところ、深部感染種子等への浸透性に優れ、従来市販されている銅殺菌剤よりも殺菌力に優れ、種子伝染性糸状菌病や細菌病および線虫(特にイネシンガレセンチュウ)病害の何れをも効果的に防除でき、低薬量で各種耐性菌をも効率よく殺菌できる農園芸用殺菌剤は知られていない。
【特許文献1】特開平4−28646号公報
【特許文献2】特開2002−80302号公報
【非特許文献1】「農薬ハンドブック2001年版」(社団法人 日本植物防疫協会2001年11月1日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
なお、これまで種子消毒剤として、ベンゾイミダゾール系殺菌剤あるいはステロール生合成阻害剤と、チウラム、銅剤、オキソリニック酸からなる混合剤が広く使用されてきた。これらは、上記「農薬ハンドブック2001年度版」(非特許文献1)で知られている公知の化合物である。しかし、近年これらの混合剤が長年続けて使用された結果、ベンゾイミダゾール系化合物耐性ばか苗病菌やオキソリニック酸耐性もみ枯細菌病菌、褐条病菌が出現し、問題となっている。
【0006】
また、ベンゾイミダゾール系化合物は浸透性が低く、深部感染種子についてはやや効果が劣り、一方、銅殺菌剤では、殺菌力はそれほど強くなく、施用量が多いと条件によっては薬害を生じるといった問題点がある。
【0007】
このように、これまでの種子消毒剤は効果などの点で必ずしも満足すべきものとは言いがたく、かかる問題点の少ない薬剤の開発が望まれている。
本発明は、こうした従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、深部感染種子等への浸透性に優れ、従来市販されている銅殺菌剤よりも殺菌力に優れ、種子伝染性糸状菌病や細菌病および線虫(特にイネシンガレセンチュウ)病害の何れをも効果的に防
除でき、低薬量で各種耐性菌をも効率よく殺菌できる農園芸用殺菌剤(新規種子消毒剤)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の化合物について、低薬量で種子伝染性糸状菌病、細菌病、さらには、線虫による病害等に対して安定した効果を発揮できる種子消毒剤を開発すべく鋭意努力した。
【0009】
その結果、銀担持ゼオライトと、ペフラゾエートとの2種を併用すれば、主要な種子伝染性の糸状菌性および細菌性病害並びに線虫病害を効果的に防除でき、特に、糸状菌に対して相乗効果が得られ、低濃度で極めて高い種子消毒効果を発揮できることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨とするところは、銀担持ゼオライトと、ペフラゾエートとを有効成分として含有してなることを特徴とする種子消毒剤にある。
また、本発明では、上記銀担持ゼオライトの銀イオンの含有量が0.1〜15.0重量%であることが望ましく、また銀担持ゼオライト100重量部に対して、上記ペフラゾエートの含有量が1〜200重量部であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、深部感染種子等への浸透性に優れ、従来市販されている銅殺菌剤よりも殺菌力に優れ、種子伝染性糸状菌病や細菌病および線虫(特にイネシンガレセンチュウ)病害の何れをも効果的に防除でき、低薬量で各種耐性菌をも効率よく殺菌できる農園芸用殺菌剤(新規種子消毒剤)が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の種子消毒剤およびこれを用いた稲病害の省力防除方法について具体的に述べる。
[種子消毒剤]
本発明に係る種子消毒剤には、必須の有効成分として、銀担持ゼオライト([成分A])と、ペフラゾエート([成分B]、すなわち、ペンタ−4−エニル−N−フルフリル−N−イミダゾール−1−イルカルボニル−DL−ホモアラニナート)とが含有されているが、配合可能な有効成分は、これらに限定されるものではない。
<銀担持ゼオライト(成分A)>
本発明に係る種子消毒剤に含まれる銀担持ゼオライトは、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部を銀イオンで置換等したものであるが(特開平4−28646号公報、特許文献1参照)、使用されるゼオライトとしては、天然ゼオライトおよび合成ゼオライトのいずれも用いることができる。
【0013】
ゼオライトは一般に三次元骨格構造を有するアルミノシリケートであり、一般式としてXM2/nO・Al23・YSiO2・ZH2Oで表わされる。ここでMはイオン交換可能な
イオンを表し、通常は1又は2価の金属イオンである。nは(金属イオン)の原子価である。XおよびYはそれぞれの金属酸化物、シリカ係数、Zは結晶水の数を示している。
【0014】
ゼオライトの具体例としては、例えばA−型ゼオライト、X−型ゼオライト、Y−型ゼオライト、T−型ゼオライト、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイム、クリノプチロライト、チヤパサイト、エリオナイト等を挙げることができる。ただしこれらに限定されるものではない。
【0015】
またゼオライトに担持させる銀イオン量としては、稲に対する薬害安全面より、銀担持
ゼオライト中の銀イオンの含有量[測定法:原子吸光法と蛍光X線法の何れかによる測定
値、好ましくは、両者による測定値]が、通常0.1〜15重量%、さらには1〜10重量%であるものが好ましい。
【0016】
さらに、製剤(すなわち各種剤型の水稲種子消毒剤)中の銀担持ゼオライトの含有量は、優れた種子消毒効果が得られる、製剤作業性が良好、高い薬害安全性が得られるなどの点を考慮すると、10〜70重量%であり、好ましくは30〜50重量%である。
(銀担持ゼオライトの調製)
上記銀担持ゼオライトは、例えば、以下の方法により製造される。
【0017】
先ず、予め調製した銀イオンを含有する水溶液(銀イオン含有液)にゼオライトを接触させて、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンと銀イオンを置換させる。接触は、通常10〜70℃、好ましくは40〜60℃の温度で、通常3〜24時間、好ましくは10〜24時間、バッチ式または連続式(例えばカラム法)によって行うことができる。
【0018】
なお、ゼオライトと接触させる際のこの銀イオン含有液のpHは通常3〜10、好ましくは5〜7に調整することが望ましい。該調整により、銀の酸化物等のゼオライト表面または細孔内への析出を防止できるので好ましい。また、水溶液の銀イオンは、通常いずれも塩として供給される。例えば、硝酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、ジアンミン銀硝酸塩、ジアンミン銀硫酸塩等を用いることができる。
【0019】
銀担持ゼオライト中の銀イオンの含有量は前記水溶液中の銀イオン(塩)濃度を調節することによって適宜制御することができる。例えば、銀担持ゼオライトの銀イオン含有量としては、前期水溶液中の銀イオン濃度を0.002M/リットル〜0.15M/リットルとすることによって、銀イオン含有量が0.1〜5%の銀担持ゼオライトを得ることができる。
【0020】
イオン交換が終了したゼオライトは、十分に水洗した後、乾燥させることが望ましい。
乾燥は、常圧下で105℃〜115℃の温度に保持するか、または減圧(1〜30to
rr)下に70〜90℃の温度に保持して行うのが好ましい。
【0021】
このようにして得られた銀担持ゼオライトは、以下に述べる成分B(ペフラゾエート)
とともに、本発明の水稲種子消毒剤の調製に好適に用いることができる。(なお、本発明では水稲種子消毒剤の調製に使用可能な銀担持ゼオライトは、上記製法によるものに限定されない。)
<ペフラゾエート(成分B)>
成分Bは、ペフラゾエートといい、成分名は、ペンタ−4−エニル−N−フルフリル−N−イミダゾール−1−イルカルボニル−DL−ホモアラニナートである。ペフラゾエートは、前記したように「農薬ハンドブック2001年度版」(非特許文献1)にも挙げられている公知の農園芸用殺菌剤であり、種子消毒剤として稲種籾のばか苗病、ごま葉枯病、いもち病などに卓効を示し、市販農薬として広く使われている。
【0022】
この種子消毒剤には、銀担持ゼオライト100重量部に対して、上記ペフラゾエートが通常、1〜200重量部の量で、好ましくは、10〜100重量部の量で含まれていることが各種病害に対する種子消毒効果の点で望ましい。
<種子消毒剤の調製(製剤化方法)>
本発明の種子消毒剤は、少なくとも上記銀担持ゼオライト(成分A)とペフラゾエート(成分B)との2種の有効成分を一緒に又は、有効成分を別々に適当な担体および補助剤、例えば界面活性剤、結合剤、安定剤などと配合し、常法に従って水和剤、乳剤、フロアブル剤、水和顆粒剤、エマルジョン剤等に製剤化することにより、一剤型種子消毒剤又は
二剤型種子消毒剤として製造することができる。
【0023】
本発明における有効成分の配合割合は重量比で、銀担持ゼオライト(成分A)100重量部に対して、ペフラゾエート(成分B)を通常、1〜200重量部、好ましくは、10〜100重量部で配合するのが好ましい。ただし、使用時の条件に応じて配合割合を適宜変更して使用することができる。
【0024】
使用できる担体としては、農薬製剤に増量剤、賦型剤などとして常用されるものであれば、固体または液体のいずれでも使用でき特定のものに限定されるものではない。
例えば固体担体としては、鉱物質粉末(カオリン、ベントナイト、クレー、タルク、けいそう土、シリカ、バーミキュライト、炭酸カルシウムなど)、天然高分子(小麦粉、デンプン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチンなど)、糖類(グルコース、マルトース、ラクトース、シュークロースなど)、硫安、尿素などが挙げられる。
【0025】
また、液体担体としては、水、エチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、キシレン、メチルナフタレン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ヘキサン、石油エーテル、ソルベントナフサ、灯油、軽油などが挙げられる。
【0026】
また、水和剤、フロアブル剤、乳剤などへの製剤化に際して、乳化、分散、可溶化、湿潤化、発泡、拡展などの目的で、界面活性剤または乳化剤が使用される。このような界面活性剤としては、非イオン型、陰イオン型、陽イオン型、両性型など、例えば、特許公開2002−80313号公報の[0011]〜[0014]に記載のものなどが使用できる。
【0027】
具体的には、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、リグニンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンひまし油エーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ラウリル硫酸ナトリウムなどが使用される。
【0028】
また、これらの他に、酸化防止剤、光分解防止剤、物理性改良剤、有効成分安定化剤、粘度調整剤、凍結防止剤などの各種補助剤を使用することができる。
また、本発明の種子消毒剤に、他の殺菌成分、殺虫成分、植物生育調節成分が含まれていてもよく、これらは上記種子消毒剤の調製の際に必要により配合される上記各成分と混合して用いることができる。
水和剤
例えば、水和剤では、上記銀担持ゼオライト100重量部に対して、ペフラゾエートを10〜100重量部の量で、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどの非イオン型界面活性剤を1〜1000重量部の量で、また、リグニンスルホン酸ナトリウムなどの陰イオン型界面活性剤を1〜1000重量部の量で、ホワイトカーボン、クレーなどの固体担体、増量剤を1〜10000(1万)重量部の量で用い、これら各成分を一度に、あるいは任意の順序で少しずつ配合し、均一になるまで混合、粉砕することにより、所望の水和剤が得られる。
【0029】
このような水和剤における上記銀イオン含量の銀担持ゼオライトの含有量は、通常10〜70重量%、好ましくは30〜50重量%程度が望ましい。また、このような水和剤では、水和性を3分以内又は2分以内、見掛け比重を0.4以上に調整することが望ましい。
フロアブル剤
例えば、フロアブル剤では、上記銀イオン含量の上記銀担持ゼオライト100重量部に
対して、ペフラゾエートを10〜100重量部の量で、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどの非イオン型界面活性剤を1〜1000重量部の量で、また、リグニンスルホン酸ナトリウムなどの陰イオン型界面活性剤を1〜1000重量部の量で、キサンタンガムなどの増粘剤を0.1〜100重量部の量で、水を100〜10000(1万)重量部の量で用い、これらを一度に、あるいは任意の順序で少しずつ配合し、均一になるまで混合、分散することにより、所望のフロアブル剤が得られる。
【0030】
このようなフロアブル剤における、銀担持ゼオライトの含有量は、通常10〜70重量%、好ましくは30〜50重量%程度が望ましい。
[稲病害の防除方法]
上記の本発明に係る種子消毒剤を用いた消毒法としては、(イ):本発明の種子消毒剤を水で10〜1000倍に希釈し、得られた希釈液量の0.7〜4倍量(容量)で液中に稲種籾を浸漬する方法、あるいは(ロ):粉末状の水和剤を希釈せずにそのまま用い、種籾の0.1〜4.0重量%相当量の粉末状水和剤で種籾に粉衣し浸種する方法、(ハ):上記種子消毒剤の5〜40倍希釈液を種籾重量の3%相当量となるように専用の吹き付け装置を用いて吹き付け処理し浸種する方法などが挙げられる。
【0031】
上記(イ)の種子消毒剤希釈液への種子浸漬法では、種籾を低濃度薬液中(例:100
倍〜1000倍希釈)に長時間浸漬(例:6〜72時間程度)するか、高濃度薬液中(例:10倍〜100倍希釈液)に短時間浸漬(10〜30分間程度)すればよい。
【0032】
また、本発明の種子消毒剤は、成分A(銀担持ゼオライト)を含む第1成分と、成分B(ペフラゾエート)を含む第2成分とからなる二剤型製剤であってもよく、また市販の、成分Aが含まれた単剤(単剤A)と、成分Bが含まれた単剤(単剤B)等を用いて、一方の単剤Aに種子を浸漬し処理した後に、さらにもう一方の薬剤(単剤B)に浸漬処理するなどの近接処理や、各単剤A,Bを所定量比で混ぜ合わせ、これに種子を浸漬し、あるいは種子に粉衣および吹き付けによる同時処理をしても同様の効果が得られる。
【0033】
水中への浸種条件としては、例えば、10〜15℃[例:15℃]水中に、6〜9日間[例:6日間]程度が均一な発芽状態を確保するなどの点で望ましい。
また、催芽処理条件としては、例えば、30〜32℃[例:32℃]で、15〜18時間[例:15時間]程度が育苗初期の生育勢を確保するなどの点で望ましい。
【0034】
上記稲病害の防除方法は、上記稲病害が前述したような糸状菌性病害、細菌性病害およびイネシンガレセンチュウ病等である場合に好適である。
以下、上記稲病害の防除方法についてさらに具体的に説明する。
【0035】
本発明では、上記薬剤(種子消毒剤)を用いて種籾に処理する方法は次のようにして行う。すなわち、粉衣方法は、回転式ドラムに稲種籾と種子消毒剤を入れ、ドラムを回転することにより種籾に薬剤を均一に粉衣する。また薬液の吹き付け方法としては、例えば(1)ホッパーから落下する種籾に適当なノズルを用い直接に薬液を吹き付ける方法、(2)ホッパーから育苗箱に振動するガイド板を取り付け、その上を跳びはねながら種籾が通過する時に適当なノズルを用い薬液を吹き付ける方法、(3)ホッパーから育苗箱上に通じるドラムを取付け、その中を通過する種籾に薬液を吹き付ける方法などが使用できる。
【0036】
なお、上述の吹き付け機には、種籾に吹き付けられなかった薬液を回収する薬液受けを取付け、ポンプにより再び薬液タンクに戻るようにする。小規模な種籾への薬液の吹き付け法としては、モルタルミキサーのような回転する機械の中に種籾を入れ、適当な散布器で所定薬量を均一に吹き付ければよい。
[発明の効果]
本発明に係る種子消毒剤は、第1に、銀担持ゼオライトとペフラゾエートの2種の有効成分の併用しているのでイネばか苗病、いもち病、ごま葉枯病に対して高い相乗効果が認められ、また、イネ苗立枯細菌病、もみ枯細菌病、褐条病などに対しても高い防除効果を示す。特にイネばか苗病に対しては、強く望まれている完全防除を低薬量でもたらす。本発明の種子消毒剤には銀担持ゼオライトが含有されているが、この銀担持ゼオライトに含まれている銀イオンが農薬製剤中に含まれていると、強い殺菌効果を有することは広く知られており、本発明では、該種子消毒剤を種子に施用すると、溶出した銀イオンが非選択的に抗菌作用を発揮しているものと考えられる。
【0037】
一方、もうひとつの必須成分であるペフラゾエートは、病原菌の細胞膜に含まれて必須成分であるエルゴステロールの生合成を阻害して、膜機能を失わせて作用しているものと考えられている[「農薬ハンドブック2001年版」(社団法人 日本植物防疫協会2001年11月1日発行) 274頁参照]。
【0038】
本発明においては、基本的には相互に異なった作用・特性を持つ2種の有効成分A,Bを併用(混合)することによって、高い相乗効果を発揮し、稲のばか苗病、いもち病、ごま葉枯病などに優れた種子消毒効果をもたらすものに至ったものと考えられる。
【0039】
第2に、本発明に係る種子消毒剤は、ベンズイミダゾール系化合物耐性ばか苗病菌に対しても、ベンズイミダゾール系化合物感受性菌に対するのと同等に高い効果を示す。
第3に、本発明の種子消毒剤は、オキソリニック酸耐性もみ枯細菌病菌、褐条病菌に対しても、オキソリニック酸感受性もみ枯細菌病菌、褐条病菌に対するのと同等に高い効果を示す。
【0040】
第4に、本発明の種子消毒剤は、イネシンガレセンチュウ病に対しても高い効果を示す。
[実施例]
次に、本発明に係る種子消毒剤およびそれを用いた省力防除方法について実施例を以ってさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例示に限定されない。
【0041】
なお、以下の実施例、試験例中で使用されている成分A(銀担持ゼオライト(a1))中の銀イオン含有量は4.45%(重量%)である。また、実施例中で部とあるものは、すべて重量部表示である。
(a1)銀担持ゼオライトの調製
種子消毒効果および薬害試験に供した銀担持ゼオライト中の銀イオン含有量は4.45%であり、以下のようにして調製したものを用いた。
【0042】
ゼオライトはA−型ゼオライト(Na2O・Al23・1.9SiO2・XH2O:平均粒径1.5μm)を使用し、銀イオンを提供するための塩としてAgNO3を使用した。
110℃で加熱乾燥したゼオライト粉末1kgに水を加えて、1.3リットルのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、さらに適量の0.5N硝酸溶液と水とを加えて、pHを6.1に調整し、全容を1.8リットルのスラリーとした。
【0043】
次に、銀イオン交換のため、0.15Mの硝酸銀溶液3リットルを加えて全容を4.8リットルとし、このスラリー液を40〜60℃に保持し、10〜24時間攪拌しつつ平衡状態に到達させた状態に保持した。
【0044】
イオン交換終了後のゼオライト相をろ過し室温の水または温水でゼオライト相中の過剰の銀イオンがなくなるまで水洗した。これを110℃で加熱乾燥し、上記銀担持ゼオライト(サンプル(a1))を得た。
<種子消毒剤の調製例および試験例>
[実施例1(水和剤)]
上記成分A(銀担持ゼオライト(a1))50部、ペフラゾエート16部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル2部、リグニンスルホン酸ナトリウム3部、ホワイトカーボン10部、クレー19部を均一に混合し、粉砕して水和剤を得た。
[実施例2(水和剤)]
上記成分A(銀担持ゼオライト(a1))50部、ペフラゾエート16部、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル3部、リグニンスルホン酸ナトリウム5部、 ホワイトカーボ
ン10部、クレー 16部を均一に混合し、粉砕して水和剤を得た。
[実施例3(水和剤)]
上記成分A(銀担持ゼオライト(a1))50部、ペフラゾエート16部、ポリオキエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー 5部、ラウリル硫酸ナトリウム 2部、
ホワイトカーボン 10部、クレー 17部を均一に混合し、粉砕して水和剤を得た。
[実施例4(フロアブル剤)]
上記成分A(銀担持ゼオライト(a1))45部、ペフラゾエート8部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル1部、リグニンスルホン酸ナトリウム 1部、キサンタン
ガム2%水溶液5部、水40部をホモミキサーで均一に混合分散させ、フロアブルを得た。
[実施例5(油状懸濁液)]
上記成分A(銀担持ゼオライト(a1))45部、ペフラゾエート8部、キシロール42部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル5部を均一に混合し、溶解して油状懸濁液を得た。
【0045】
上記の製剤例に準じて調整した製剤を用いて種子消毒処理を行った。
[試験例]
次に、本発明に係る種子消毒剤の種子消毒効果を試験例により説明する。
<試験例1>(イネばか苗病防除効果試験)
ベンズイミダゾール系化合物耐性菌あるいは感受性菌を開花期に接種した感染籾〔品種「新潟早生」〕を次の浸漬処理方法によって種子消毒した。
【0046】
所定濃度の本発明に係る種子消毒剤(薬液)270mlに種籾150gを24時間浸漬したのち、6時間陰干した。この薬剤処理した籾を、種籾容量の2倍量の水道水に15℃で5日間浸種した。
【0047】
このようにそれぞれ薬剤処理した種籾150gのうち15g量を、通常の育苗箱(縦×横×高さ=60cm×30cm×3cm)の10分の1の大きさの育苗箱(縦×横×高さ=12cm×15cm×3cm)に播種し、直ちに覆土した。そして覆土後は、32℃で2日間保持して出芽処理し、出芽後2日間は温室内の寒冷紗で遮光し、その後は寒冷紗を除去し、ガラス製温室内で育苗管理をした。
【0048】
なお、育苗培土としては、市販の「くみあい合成培土3号」(三井東圧肥料社製)を使用した。
播種30日後に育苗箱の全苗について、徒長、枯死などのイネばか苗病症状を示した発病苗数と無病徴の苗数について調査し、下記式[数1]によって発病苗率(%)を求め、防除価(%)を求めた。また、薬害については出芽程度、生育程度などについて観察し、下記の薬害程度で示した。
【0049】
【数1】

【0050】
【数2】

【0051】
薬害程度 −:無、 ±:微、 +:小、 ++:中、 +++:大
結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
<試験例2>(イネいもち病防除効果試験)
イネいもち病が多発した圃場より採取した自然感染籾(品種:コシヒカリ)を、次の方法によって種子消毒した。所定濃度の薬液270mlに種籾150gを24時間浸漬したのち、6時間陰干した。この薬剤処理した籾を、種籾容量の2倍量の水道水に15℃で5日間浸種した。
【0054】
このようにそれぞれ薬剤処理した種籾150gのうち15g量を、通常の育苗箱(縦×
横×高さ=60cm×30cm×3cm)の10分の1の大きさの育苗箱(縦×横×高さ=12cm×15cm×3cm)に播種した。その後は、無覆土条件により20℃で4日間出芽処理し、出芽後2日間は温室内の寒冷紗で遮光し、その後は寒冷紗を除去し、ガラス製温室内で育苗管理をした。
【0055】
なお、育苗培土としては市販の「くみあい合成培土3号」(三井東圧肥料社製)を使用した。
播種30日後に育苗箱の全苗について、発病苗数と無病徴の苗数について調査し、下記式[数3]によって発病苗率(%)を求め、防除価(%)を求めた。また、薬害については出芽程度、生育程度などについて観察し、下記の薬害程度で示した。
【0056】
結果を表2に示す。
【0057】
【数3】

【0058】
【数4】

【0059】
(薬害程度)
−:無、 ±:微、 +:小、 ++:中、 +++:大。
【0060】
【表2】

【0061】
<試験例3>(イネごま葉枯病防除効果試験)
イネごま葉枯病を開花期に接種した感染籾(品種:キヌヒカリ)を、次の方法(浸漬処理法)によって種子消毒した。
【0062】
所定濃度の種子消毒剤(薬液)270mlに種籾150gを24時間浸漬したのち、6時間陰干した。この薬剤処理した籾を、種籾容量の2倍量の水道水に15℃で5日間浸種した。
【0063】
このようにそれぞれ薬剤処理した種籾150gのうち15g量を、通常の育苗箱(縦×横×高さ=60cm×30cm×3cm)の10分の1の大きさの育苗箱(縦×横×高さ=12cm×15cm×3cm)に播種し、直ちに覆土した。そして覆土後は、32℃で2日間出芽処理し、出芽後2日間は温室内の寒冷紗で遮光し、その後は寒冷紗を除去し、
ガラス製温室内で育苗管理をした。
【0064】
なお、育苗培土としては、市販の「くみあい合成培土3号」(三井東圧肥料社製)を使用した。
播種30日後に育苗箱の全苗について、下記の調査基準によりイネごま葉枯病発病苗数と健全苗数を調査し、下記の式[数5]により発病度を求め、防除価(%)を求めた。また、薬害については出芽程度、生育程度などについて観察し、下記の薬害程度で示した。
【0065】
結果を表3に示す。
(発病の調査基準)
N0:発病していない苗数、
N1:鞘葉に発病している苗数、
N3:第1葉に発病している苗数、
N5:発病による著しい生育不良の苗数。
【0066】
【数5】

【0067】
【数6】

【0068】
(薬害程度)
−:無、 ±:微、 +:小、 ++:中、 +++:大。
【0069】
【表3】

【0070】
<試験例4>(イネ苗立枯細菌病防除効果試験)
イネ苗立枯細菌病菌を開花期に接種した感染籾(品種:キヌヒカリ)を、次の浸漬処理方法によって種子消毒した。
【0071】
所定濃度の薬液270mlに種籾150gを24時間浸漬したのち、6時間陰干した。この薬剤処理した籾を、種籾容量の2倍量の水道水に15℃で5日間浸種した。
このようにそれぞれ種子消毒剤(薬剤)処理した種籾150gのうち15g量を、通常の育苗箱(縦×横×高さ=60cm×30cm×3cm)の10分の1の大きさの育苗箱(縦×横×高さ=12cm×15cm×3cm)に播種し、直ちに覆土した。そして覆土後は、32℃で2日間出芽処理し、出芽後2日間は温室内の寒冷紗で遮光し、その後は寒冷紗を除去し、ガラス製温室内で育苗管理をした。
【0072】
なお、育苗培土は市販の「くみあい合成培土3号」(三井東圧肥料社製)を使用した。
播種30日後に育苗箱の全苗について、下記の調査基準によりイネ苗立枯細菌病発病苗数と健全苗数を調査し、下記の式[数7]により発病度を求め、防除価(%)を求めた。また、薬害については出芽程度、生育程度などについて観察し、下記の薬害程度で示した。
(発病の調査基準)
N0:発病していない苗数、
N1:第2葉に白化が認められる苗数、
N2:第1葉に白化が認められ、生育抑制が認められる苗数、
N3:著しい生育抑制あるいは枯死苗数。
【0073】
【数7】

【0074】
【数8】

【0075】
(薬害程度) −:無、 ±:微、 +:小、 ++:中、 +++:大。
【0076】
【表4】

【0077】
<試験例5>(イネもみ枯細菌病防除効果試験)
供試籾としては、イネ(品種:キヌヒカリ)籾にイネもみ枯細菌病菌のオキソリニック酸感受性菌および耐性菌の各細菌懸濁液(1×108CFU/ml)を減圧接種して得た
イネもみ枯細菌病感染籾を用いた。次の浸漬処理法によって種子消毒した。
【0078】
すなわち、浸漬処理法では、所定濃度の種子消毒剤270mlに種籾150gを24時間浸漬したのち、6時間陰干した。この薬剤処理した籾を、種籾容量の2倍量の水道水に15℃で5日間浸種した。
【0079】
このようにそれぞれ薬剤処理した種籾150gのうち15g量を、通常の育苗箱(縦×横×高さ=60cm×30cm×3cm)の10分の1の大きさの育苗箱(縦×横×高さ
=12cm×15cm×3cm)に播種し、直ちに覆土した。そして覆土後は、32℃で2日間出芽処理し、出芽後2日間は温室内の寒冷紗で遮光し、その後は寒冷紗を除去し、ガラス製温室内で育苗管理をした。
【0080】
なお、育苗培土は市販の「くみあい合成培土3号」(三井東圧肥料社製)を使用した。
播種30日後に育苗箱の全苗について、下記の調査基準によりイネもみ枯細菌病発病苗数と健全苗数を調査し、下記の式[数9]により発病度を求め、防除価(%)を求めた。また、薬害については出芽程度、生育程度などについて観察し、下記の薬害程度で示した。
【0081】
結果を表5に示す。
(発病の調査基準)
N0:発病していない苗数、
N1:第2葉に白化が認められる苗数、
N2:第1葉に白化が認められ、生育抑制が認められる苗数、
N3:著しい生育抑制あるいは腐敗枯死苗数。
【0082】
【数9】

【0083】
【数10】

【0084】
薬害程度 −:無、 ±:微、 +:小、 ++:中、 +++:大。
【0085】
【表5】

【0086】
<試験例6>(イネ褐条病防除効果試験)
供試籾としては、イネ(品種:キヌヒカリ)籾にイネ褐条病菌のオキソリニック酸感受性菌および耐性菌の各細菌懸濁液(1×108CFU/ml)を減圧接種して得たイネ褐
条病感染籾を用いた。次の方法(浸漬処理法)によって種子消毒した。所定濃度の薬液270mlに種籾150gを24時間浸漬したのち、6時間陰干した。この薬剤処理した籾を、種籾容量の2倍量の水道水に15℃で5日間浸種した。
【0087】
このようにそれぞれ薬剤処理した種籾150gのうち15g量を、通常の育苗箱(縦×
横×高さ=60cm×30cm×3cm)の10分の1の大きさの育苗箱(縦×横×高さ=12cm×15cm×3cm)に播種し、直ちに覆土した。そして覆土後は、32℃で2日間出芽処理し、出芽後2日間は温室内の寒冷紗で遮光し、その後は寒冷紗を除去し、ガラス製温室内で育苗管理をした。
【0088】
なお、育苗培土は市販の「くみあい合成培土3号」(三井東圧肥料社製)を使用した。
播種30日後に育苗箱の全苗について、下記の調査基準によりイネ褐条病発病苗数と健全苗数を調査し、下記の式[数11]により発病度を求め、防除価(%)を求めた。また、薬害については出芽程度、生育程度などについて観察し、下記の薬害程度で示した。
【0089】
結果を表6に示す。
(発病の調査基準)
N0:発病していない苗数、
N1:不完全葉に発病が認められる苗数、
N2:第1葉に発病が認められる苗数、
N3:枯死または第2葉に発病が認められる苗数。
【0090】
【数11】

【0091】
【数12】

【0092】
(薬害程度) −:無、 ±:微、 +:小、 ++:中、 +++:大。
【0093】
【表6】

【0094】
<試験例7>(イネシンガレセンチュウ防除効果試験)
供試籾としては、イネ(品種:コシヒカリ)籾でイネシンガレセンチュウ自然感染籾を用いた。次の方法によって種子消毒した。浸漬処理法では、所定濃度の薬液270mlに種籾150gを24時間浸漬したのち、6時間陰干した。この薬剤処理した籾を、種籾容量の2倍量の水道水に15℃で5日間浸種した。
【0095】
このようにそれぞれ薬剤処理した種籾150gのうち15g量を、通常の育苗箱(縦×
横×高さ=60cm×30cm×3cm)の10分の1の大きさの育苗箱(縦×横×高さ=12cm×15cm×3cm)に播種し、直ちに覆土した。そして覆土後は、32℃で2日間出芽処理し、出芽後2日間は温室内の寒冷紗で遮光し、その後は寒冷紗を除去し、ガラス製温室内で育苗管理をした。
【0096】
なお、育苗培土は市販の「くみあい合成培土3号」(三井東圧肥料社製)を使用した。
播種28日後の苗を水田に移植し、収穫期に慣行の方法により収穫した。
収穫後脱穀を行い、この脱穀粒5000粒について、被害粒数を調査し、下記式[数13]により被害粒率(%)を求め、防除価(%)を算出した。
【0097】
結果を表7に示す。
【0098】
【数13】

【0099】
【数14】

【0100】
(薬害程度) −:無、 ±:微、 +:小、 ++:中、 +++:大。
【0101】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀担持ゼオライトと、
ペンタ−4−エニル−N−フルフリル−N−イミダゾール−1−イルカルボニル−DL−ホモアラニナート(ペフラゾエート)と
を有効成分として含有してなることを特徴とする種子消毒剤。
【請求項2】
上記銀担持ゼオライトの銀イオンの含有量が0.1〜15.0重量%である請求項1に記載の種子消毒剤。
【請求項3】
銀担持ゼオライト100重量部に対して、上記ペフラゾエートの含有量が1〜200重量部である請求項1〜2の何れかに記載の種子消毒剤。

【公開番号】特開2007−332059(P2007−332059A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164053(P2006−164053)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【出願人】(000127879)株式会社エス・ディー・エス バイオテック (23)
【出願人】(391031764)株式会社シナネンゼオミック (20)
【Fターム(参考)】