説明

穀物類の酵素糖化方法

【課題】省エネルギーで、澱粉系穀物を効率よく低温で糖化する穀物類の酵素糖化方法の提供。
【解決手段】澱粉系穀物原料をエクストルーダー1で混練し圧縮押し出しで膨化する。前記澱粉系穀物原料2の投入時の水分含有量を20%とし、膨化後の水分含有量を10%にする。処理温度を190℃とし、30秒以内の時間で処理し膨化し糊化する。膨化した膨化物4は、粉砕し粉砕物5とし、粉砕された粉砕物5に約0.4%のグルコアミラーゼ酵素6のみを添加し糖化し糖化物7とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉系穀物を効率よく糖化する穀物類の酵素糖化方法に関する。更に詳しくは、特に米を混練、圧縮、押し出し後に膨化させて膨化物を作り、これを粉砕し酵素の添加で糖化する穀物類の酵素糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米を中心とする澱粉系穀物は、大変有益な食物である。この澱粉系穀物は食物以外に、エタノール化すると液体燃料としても利用できる可能性がある。このためには、澱粉系穀物を糖化する必要がある。この糖化技術は、従来からアルコール発酵で代表されるように穀物全般に亘って行われている。しかし従来の糖化処理は、例えば米を例にとると、生米を蒸煮しなければならないが、このために多くのエネルギーを消費している。又、特に酒類の糖化処理の手法は、酒税法に基づいているので、新規開発の方法を行うには制約があってその手法は限界がある。しかしながら、前述のように米といえども穀物類は酒類以外にも多様な利用が期待されている。
【0003】
従来の製法においては、例えば、酒類、味噌、醤油等の醸造食品を製造するのに用いられる麹を製造する製法では、炭水化物原料、植物性タンパク質原料、種麹を混練押出機に投入し、製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。これは炭水化物原料の糊化や蛋白質原料の一次変性を行って、原料が麹菌の作用を受けやすい形態としたあと、この原料に種麹を添加して更に混合分散してから押し出すようにして、麹菌にダメージを与えることなく、最適な形態の製麹原料が製造できるとしたものである。混練押出機、即ち、エクストルーダーの使用は、発泡したポン菓子のペレットで代表される膨化食品の製造にも使用されており、また生の米、麹菌、水等を加えて、米の澱粉を糊化処理と同時に行なうことでも公知である。
【0004】
このエクストルーダーは、混練・混合・加熱・せん断・破砕・加圧・成形・膨化・乾燥・殺菌等の加工を、1台の機械で同時に行えると言われる機械である。一般に、外周面に螺旋状の翼が形成された軸で、粉体、粒状等の食品原料を送りながら、機械的な作用により混練・混合等を行い、この機械を出るときに膨化を行うものである。又、植物加工品の製造方法として、植物又はその処理物を、高温高圧の気体、又は流体で処理し、新規な香味を有する植物加工品の製造、この製造になる加工品を原料として飲料物を製造する技術が知られている。この加工品はリグニンの分解処理によって得られるもので、この製造過程で、エクストルーダーの使用されることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
又、とうもろこし麹の製造法ではあるが、ドライミリングで得たとうもろこし粉を水分含量が15ないし40質量%になるごとく調節した後、加圧、加熱式押し出し装置で、100ないし160℃の高温、高圧状態から連続的に常温、常圧下に押し出し処理し、その断面積膨張率を2ないし20倍に膨化させる技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。この中で押し出し処理する装置として、エクストルーダーの使用で多孔質化し、これに麹菌酵素を添加する製法の技術が開示されている。
【0006】
更に、澱粉及びタンパク質を含有する材料から、高マルトースシロップと高タンパク質副生成物を同時に製造する酵素法的方法も知られている。この技術は、オートクレーブ中で澱粉を可溶性オリゴ糖に消化するために熱安定性α―アミラーゼを使用することが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本発明の一連の糖化処理を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施例1に対応したデータ図であり、種々の温度で膨化した米の酵素糖化速度を示す糖化曲線である。
【図3】図3は、実施例2に対応したデータ図であり、対基質濃度0.2%の3種混合酵素で糖化したときの粉砕生米と190℃の膨化物の糖化速度の比較を示す線図である。
【図4】図4は、実施例3に対応したデータ図であり、種々のグルコアミラーゼ濃度で糖化した膨化物の糖化速度を示す糖化曲線である。
【図5】図5は、実施例4に対応したデータ図であり、α-アミラーゼ濃度での膨化物の糖化速度を示す線図である。
【図6】図6は、実施例5に対応したデータ図であり、種々のプルラナーゼ濃度での膨化物の糖化速度を示す線図である。
【図7】図7は、実施例6に対応したデータ図であり、0.2%酵素濃度の場合と最適化した24Uグルコアミラーゼ酵素濃度との糖化比較を示す線図である。
【図8】図8は、実施例7に対応したデータ図であり、膨化物と炊飯した米を24Uグルコアミラーゼのみで糖化したときの糖化速度の比較を示す線図である。
【図9】図9は、実施例7に対応したデータ図であり、種々のグルコアミラーゼ濃度での並行複発酵曲線である。
【図10】図10は、実施例7に対応したデータ図であり、種々の初発菌数での発酵曲線線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を実験例に替えて説明する。
【実施例】
【0042】
本実施例で用いる原料米は、次の2種である。
1)うるち米(西海203号):H18年度産の精白米を築上町(福岡県)より入手した。
2)タイ米:福岡市内の米問屋より、2005年度産タイ米(精白米)を購入した。
この2種を次のエクストルーダーへ投入する前に、原料米を次の要領で粉砕した。
【0043】
粉砕は、槇野産業株式会社(東京都葛飾区)製のDD−2型衝撃式粉砕器(スクリーン2Φ)を使用し、前記精白米を粉砕し、これをエクストルーダー処理用原料米とした。この粉砕工程は必ずしも必要ではなく、本実施例で使用したエクストルーダーが小型であるため運転安定化のために行ったものである。次に、この粉砕した原料米を前述の割合の水を加えてエクストルーダーに投入し、混練、圧縮、押し出し、膨化処理等を行った。原料米中の澱粉を糊化するエクストルーダーは、株式会社幸和工業(大阪府大阪市)製で、スクリューを2軸備えたエクストルーダー KE−45型(スクリュー径45mm、L/D=20、ただし、スクリュー径をD、スクリュー長さをLとする。)を用いた。
【0044】
本実施例で用いたエクストルーダーは、スクリューを2軸備えたものを使用したが、これが単軸製であっても良い。これが単軸の場合、原料とスクリューが共回りして全く搬送されなくなる場合があり、一般的にはスクリューを2軸備えたエクストルーダーが好ましい。
本実施例で使用したエクストルーダーは、原料供給口側を第1ゾーンとして、バレル先端までが5つのゾーンに分けられ、個別に温度設定できるようになっている。その個別の温度は、次のように設定した。
第1ゾーン:ヒーターOFF
第2ゾーン:ヒーターOFF
第3ゾーン:120℃
第4ゾーン:150℃
第5ゾーン:170℃〜200℃(押し出し温度を、180〜210℃と変化させた実験を行ったため。おおむね押し出し温度―10℃位の設定である。)
ダ イ :ヒーターOFF
【0045】
本実験では、原料(米)を45kg/hで処理し、バレル内含水率が約20%程度に調整し、5φの1穴ノズルから押し出しという条件で行った。投入した原料がしっかり充填されているのは、先端の2つのゾーンくらいであり、供給口から充填領域に至る途中は原料が充填されていないスカスカの状態であった。ただし、原料の蒸気圧を受け止める意味では、シール材の役割を果たしているので、これらのゾーンは必須ではないが無駄でもない。測定した押し出し圧力と温度は、第5ゾーン後端(出口側)の圧力センサー、及び温度センサーで測定し、この温度をモニターしながら第4、第5ゾーンの設定温度を微調整した。
【0046】
この圧力及び設定温度を指示する温度指示器は、本実施例で使用したエクストルーダーに備えているものを使用した。一例を示すと、184℃で7.2MPa(71kg/cm2)、201.5℃で4.4MPa(43kg/cm2)示している。圧力が高温で低下しているが、蒸気圧は温度が高いほど大きくなるものの、それ以上に溶融物の粘性が低下するため圧力が低くなっていることを示している。また、第4,5ゾーンのヒーターの温度は上記のように設定しているが、内部摩擦熱による自己発熱のためヒーターそのものへの通電量はそれほど多くはない。ダイ温度190〜210℃、スクリュー回転数250〜270rpm、ダイ内の圧力は、約4.1〜8.2Mpa(40〜80kg/cm2)、加水量6〜8ゲージ(原料水分と合わせて18〜20%となる)で、押し出し試験を行った。
【0047】
原料供給速度は、45kg/hで、この時のバレル内の滞留時間を色素投入法によって測定した結果、色素先端17秒、色素濃度のピーク22秒、色素後端32秒であった。ダイは5φのものを使用し、その後のハンドリングを考え、膨化物をダイ先端で回転刃でカットし、碁石状の膨化物を製造した。得られた膨化物の直径は約20φで、ダイ口径(5φ)との比、即ち膨化率は4であった。また135℃乾燥法で測定した水分は9%であった。
【0048】
次は酵素糖化試験であるが、得られた膨化物を卓上型粉砕器で42mesh程度に粉砕後、添加する酵素として、α-アミラーゼとしてビオザイムA(90,000U/g、天野エンザイム株式会社製、愛知県名古屋市)、グルコアミラーゼとしてグルクザイムAF6(6,000U/g、天野エンザイム株式会社製)、プルラナーゼとしてプルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム株式会社製)を用いた糖化試験を種々の条件のもとに行った。後述するが、この実験の結果、結論として、押し出し膨化物は、室温・単一酵素で糖化可能で、しかも炊飯した米よりも糖化速度・糖化率共に高かったことが確認された。
【0049】
酵素糖化は、10%基質濃度のpH6.0緩衝液に、種々の酵素濃度となるように酵素を加え、40℃の恒温槽中で80rpmで振盪しながら行い、糖化により生成するグルコースをムタロターゼ・GOD法(グルコースCIIテスト・ワコー)で測定した。当初は、各酵素の濃度を基質に対して0.2%(基質1gあたり、グルコアミラーゼ12U、α-アミラーゼ180U、プルラナーゼ6U)となるように加えた糖化実験を行い、その後酵素濃度を変化させた糖化実験を行い、至適酵素濃度を求めた。また、生米粉砕物、及び炊飯した米(炊飯による糊化物)と押し出し膨化物との糖化速度を比較した。
【0050】
[実施例1]
図2は、種々の温度で膨化した米の酵素糖化速度を示す図であり、基質に対し0.2%の酵素濃度(3種の酵素を各々基質質量の0.2%質量で添加)で糖化したときのグルコース生成挙動を示したものである。横軸は酵素処理時間、縦軸は固形物(基質)1g当たりのグルコース生成量(糖化率)を示している。凡例は、エクストルーダーで処理時の温度(ダイ部分での原料温度)を示している。米は、タイ米以外は全てうるち米(西海203号)である。この結果から、180℃から210℃の範囲では、糖化速度にほとんど差異はなく、うるち米でもタイ米でもほぼ100%糖化できることが判明した。図2に示す結果から、180℃から210℃の処理温度範囲では、糖化速度に遜色がなかったので、以後の比較試験は190℃処理物を用いて行った。
【0051】
[実施例2]
図3は、対基質濃度0.2%の3種混合酵素で、糖化したときの粉砕生米と190℃の膨化物の糖化速度の比較を示した図である。図3に示すように、エクストルーダーで処理した190℃膨化物は、粉砕生米よりも著しく糖化速度が速く、糖化率も優れていることが判明した。要するに本例の膨化物が従来よりも短時間で糖化されることを確認した。続いて、使用する酵素の最適化を行うために、添加濃度(酵素ユニット数)を変化させた時の糖化速度の比較試験を行った。当然酵素濃度は高い方が基質との接触チャンスが増加し、糖化速度は速くなる。
【0052】
しかしながら、糖化物をアルコール発酵原料として用いる場合、発酵速度が律速段階となるため糖化速度を必要以上に速くすることは無意味であるばかりでなく、酵素コストも無駄になる。後の工程でアルコール発酵を行う場合、その速度とのマッチングを図るには24〜48時間程度で糖化できるのが最も効率が高くなる。そこで、以後の実験では糖化完了目標時間を24時間として、次に示す各3種(1)〜(3)の酵素について至適濃度の検索を行った。なお、これ以降は酵素濃度をより正確に表すためにユニット数で標記する。これまで用いた対基質0.2%の酵素濃度は、(1)α-アミラーゼ(ビオザイムA)では180U/g-基質、(2)グルコアミラーゼ(グルクザイムAF6)では12U/g-基質、(3)プルラナーゼ(プルラナーゼアマノ3)では6U/g-基質に相当する。
【0053】
[実施例3]
図4は、α-アミラーゼを180U/g-基質、プルラナーゼを6U/g-基質の濃度に固定して、種々のグルコアミラーゼ濃度で糖化した膨化物の糖化速度を示す。図4の結果から、グルコアミラーゼ濃度は24U/g-基質(0.4%)とするのが最適であると判断された。
【0054】
[実施例4]
図5は、グルコアミラーゼを24U/g-基質、プルラナーゼを6U/g-基質の条件下で、α-アミラーゼ濃度での膨化物の糖化速度を示した図である。その結果、グルコアミラーゼ24U/g-基質、プルラナーゼ6U/g-基質の存在下で、糖化速度はα-アミラーゼの濃度に関係しないことが判明し、結果的にα-アミラーゼ非存在下(無添加)でも充分な糖化速度が得られることが判明した。このときの糖化処理温度は40℃である。
【0055】
このことは、前述したように、通常高温条件で液化を行い2段階の糖化プロセスが必要であった従来の工程が、原料米をエクストルーダーで処理することにより40℃という低温で糖化処理ができ、しかもα-アミラーゼ非存在下で処理ができることになった。図5までの結果で、エクストルーダーで処理された膨化物の糖化にはα-アミラーゼが不要であることが判明したので、続いてプルラナーゼの至適濃度について検討した。
【0056】
[実施例5]
図6は、グルコアミラーゼを24U/g-基質のみの存在下で、種々のプルラナーゼ濃度での膨化物の糖化速度を示した図である。図6に示したデータによると、プルラナーゼの濃度に関係なく糖化が進行し、結果的にプルラナーゼも不要であることが示された。
【0057】
[実施例6]
図7は、膨化物に対し、3種の混合酵素(各0.2%、即ち、基質1g当たり、グルコアミラーゼ12U、α-アミラーゼ180U、プルラナーゼ6U)を作用させた場合と、グルコアミラーゼを単独で24U/g-基質(=0.4%)の濃度で作用させたときの糖化速度を比較した図である。図7で示したように、24U/g-基質グルコアミラーゼ酵素濃度の場合が、より大きな効果があることが明確である。以上の結果から、澱粉系原料を発酵原料化(糖化)する場合、エクストルーダーによる膨化処理を行う事により単一酵素(グルコアミラーゼのみ)で、40℃程度の低温状態においても充分な速度での糖化が行えることが示された。
【0058】
このように、エクストルーダーで処理された膨化物が非常に容易に糖化できるのは、エクストルーダーのバレル内での原料米の挙動が大きく関与しているものと考えられる。エクストルーダーの原料供給口から投入された原料米(水分12%)は回転するスクリューにより搬送され、その途中で本実施例の場合約8%加水し、20%の水分量とした。
【0059】
バレル先端部まで運ばれた原料米は、高圧となりスクリューによる混練が加わって高温の熱溶融状態に相変化する。澱粉は水分の蒸発を防いだ140〜150℃の密閉条件下で溶融する。この時、澱粉は分子同士が激しく相互に摩擦して、摩擦熱を発生するため低水分下でも充分な糊化が進行する。澱粉の糊化は充分な水分が存在する状態では60〜90℃で進行するが、低水分状態では140℃以上の温度が必要となる。同時に溶融した澱粉糖鎖の機械的な切断が所々で発生し、酵素による糖化性が向上するのである。
【0060】
出口(ダイ)付近で190℃前後にまで昇温した原料は、スーパーヒートされた液体の水を含んでいるが、大気圧下に出てきた瞬間に高圧の水蒸気に相変化し、澱粉を膨化させスポンジ状の組織を形成する。この時、自由水は水蒸気として大気中に散逸するために膨化物(組織化物)は低水分の脆い組織となり、以後の粉砕工程では大きなエネルギーを投入することなく粉砕が可能で、その結果、糖化酵素との接触チャンスが容易に増大できることとなる。本実施例では、吐出後の水分が9%であった。即ち11%相当量の水が吐出時に水蒸気に相変化し散逸したことになる。その時の圧力で組織を膨化する。
【0061】
今回の実験では使用できる装置の関係から、L/D=20の長バレルを有する2軸エクストルーダーを用いたが、装置の標準処理速度である45kg/hで処理した場合の原料充填領域は、バレル先端部分のみ(L/Dで、約5に相当する長さ)であったことからもっとL/Dの短い装置でも充分処理可能で、また、短軸装置でも処理可能であり、低価格の装置で処理可能である。
【0062】
[実施例7]
図8は、膨化物と炊飯器で糊化した原料米(従来の蒸煮米に相当する。)、及び粉砕米を24Uのグルコアミラーゼで糖化したときの糖化速度の比較を示した図である。図8に示されるように、膨化米は糖化速度、糖化率ともに炊飯米や生米を上回り、本発明の効果が実証された。なお、図8では澱粉の糖化をより正確に表すために、グルコース生産量は基質当たりではなく、澱粉当たりで表してある。また、この結果は、以後の並行複発酵(糖化と発酵を同時に行う発酵法)での酵母の温度耐性を考慮して35℃で糖化を行ったものである。
【0063】
上記のようにして得られた至適糖化酵素条件(18U/g-基質)のもとで並行複発酵した時の発酵曲線を図9に示す。図9中には18U/g-基質の条件のみでなく、比較のために12U、24U、30Uの発酵曲線も合わせて示した。アルコール発酵は、協会701号酵母を用い、初発菌数1×107cell/mL、35℃条件下で静置培養にて行った。基質濃度は200g/Lで、基質中の糖量と発生したCO2量のモル比で表してある。
【0064】
図9から判るように、12U/g-基質条件下では、発酵末期に若干の速度、及び変換率の低下が認められた。また、24U以上の酵素添加は18U添加の場合と大差なく、酵素コストの節約を考慮すると、200g/Lの基質濃度の場合、グルコアミラーゼ18Uの添加条件で発酵するのが最も効率がよいと判断された。この実験では、18〜24Uでは大きな違いは観測されなかった。また、このときの発酵所要時間は、アルコール変換率85%で33時間、90%で43時間と、充分な発酵速度で発酵が進行した。また、18U添加条件でのアルコール濃度は9.2%で、ほぼ理論収量のアルコールが生産された。
【0065】
なお、図9の発酵曲線から理解されるように、12U/g-基質の条件下でも発酵時間をかけれは、糖化率は18U及び30Uと変わりがないので、12Uも技術的には使用可能な範囲である。また、糖化率は30Uでほぼ飽和しているが、この範囲も効率を高める意味では使用できる範囲である。結局、基質濃度や初発菌数、使用する酵母等に応じて、12〜30U/g-基質の添加量の範囲でも使用できる。
【0066】
図10は、図9で実験したときと同一条件下で、初発菌数のみを1×107cell/mL、1×108cell/mL、1×109cell/mLと変化させたときの発酵曲線を示した。初発菌数が多いほど、初期の発酵速度は速くなるが、終盤では速度に大差なく、初発菌数は1×107cell/mLで良いと判断された。
【0067】
本発明の実施例は米について示したが、本発明の糖化方法は、澱粉系穀物として、トウモロコシや芋類、小麦、或いはそれらの澱粉など広く澱粉系原料の処理に適用可能であることはいうまでもない。また、本発明の糖化方法は、アセトンブタノール発酵による燃料化、アミノ酸発酵のような食品の製造など幅広く適用が可能である。特に国内では近年「米粉」の有効活用が叫ばれており、エクストルーダーを利用した本法は工程の効率化、新規加工製品の製造に大きく貢献すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉系穀物原料を混練、圧縮、押し出し後に膨化させるとき、前記澱粉系穀物原料時と前記膨化後の水分割合を所定量に一定化し、且つ一定の温度、圧力下で一定の処理速度で管理して、前記澱粉系穀物原料中の澱粉を糊化する糊化工程と、
前記糊化工程で得られた膨化物を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で粉砕された粉砕物に酵素を添加し、前記澱粉系穀物原料中の澱粉を糖化し糖化物とする糖化工程と
からなる穀物類の酵素糖化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記澱粉系穀物原料は、米(2)であることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項3】
請求項1に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記糊化工程の前記澱粉系穀物原料は、調整された水分(3)含有量が20±5質量%であることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項4】
請求項1に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記澱粉系穀物原料は、前記混練、圧縮、押し出しする前に粉砕されている原料であることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項5】
請求項1に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記混練、圧縮、押し出しで膨化させる工程は、エクストルーダー(1)による処理であることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項6】
請求項5に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記混練、圧縮、押し出し工程は、前記エクストルーダー(1)のダイ内の溶融した前記澱粉系穀物原料の温度で160℃〜220℃、前記ダイ内の圧力で3.5〜9.0Mpaで行うことを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項7】
請求項1に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記混練、圧縮、押し出し後に膨化させる工程の処理速度は、30秒以内の時間で処理されることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項8】
請求項1に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記膨化後の前記膨化物の水分含有量は、10±2質量%を維持するように処理されることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項9】
請求項1に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記酵素は、グルコアミラーゼ(6)のみであることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項10】
請求項9に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記酵素は、前記粉砕物に対し15〜20ユニット(U)の添加割合であることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項11】
請求項10に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記酵素の添加時の温度は、40±10℃であることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。
【請求項12】
請求項9〜11から選択される1項に記載の穀物類の酵素糖化方法において、
前記糖化工程は、アルコール発酵も同時に行う工程であることを特徴とする穀物類の酵素糖化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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