説明

積層シート

【課題】記録画像の耐水性、耐湿ブロッキング性に優れるとともに、高温での溶融押出しラミネートが可能で加工性が良好な積層シートを提供する。
【解決手段】 支持体の片面あるいは両面に熱可塑性樹脂層を形成した積層シートであって、少なくとも一方の面の熱可塑性樹脂層は、溶融ラミネートできる親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とからなる熱可塑性樹脂層である積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は熱可塑性樹脂層を設けた積層シートに関し、特にインクジェット記録可能な積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、フルカラー化が容易なことや印字騒音が少ないことなどから近年急速に普及してきた。この方式はノズルから記録用シートに向けてインク液滴を高速で吐き出させるものであり、インク中に多量の溶媒を含む。従って、記録用シートとしては速やかにインクを吸収しなければならない。又、最近のコンピュータやデジタルカメラの普及により、銀塩写真に近い画像が求められるようになってきている。そこでインクジェット記録用シートには、高い発色性、解像度及び色再現性が必要となっている。さらに用途の拡大に伴い、高光沢度や印字画像の耐水性や耐光性などの、より高度な特性も求められてきている。
このようなインクジェット記録用シートの1つとして、支持体上に熱可塑性樹脂を積層したシートを用いることが知られている。但し、従来からポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル系樹脂等)を積層した積層シートが存在しているが、インクジェットインキには水溶性染料あるいは顔料系のインキが使用されており、上記の熱可塑性樹脂は親水性が無くこれらを吸収しないため、インクジェット記録適性が悪化する問題を生じる。そこで、例えば特許文献1には、インク記録層を有するインクジェット記録体において、インク記録層が熱可塑性を有する親水性樹脂を含有する樹脂組成物からなり、インク記録層が溶融押出し塗工法により形成されることが開示されている。
【0003】
特許文献2では、吸水性樹脂とカチオン性成分及び架橋剤等を必須成分とする組成物からなる水性インク受容層を少なくとも一方の外層とする水性インク記録用シートが開示されている。
特許文献3では、ポリビニルアルコールを主成分とし、かつカチオン性高分子化合物を含有するインクジェット記録用樹脂組成物が開示されている。
特許文献4では、親水性の熱可塑性樹脂及びカチオン性ポリマーAを含むインク受容層上に、最外層としてポリビニルアルコール及びカチオン性ポリマーBを含む表面層を有するインクジェット用記録材が開示されている。
又、特許文献5には、水又は水とアルコール類との混合溶媒を塗布乾燥させて、吸水性バインダーポリマーの媒体中に、粒計0.3μm以下の疎水性ポリマー微粒子が積層多孔質化した構造のインク受容層を形成したOHPシートが記載されている。特許文献6には、油性インクジェット用インクを用いたインク印刷用シートに関し、インク吸収性樹脂とインク非吸収性樹脂とからなるインク印刷用シートが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平09−216456号公報
【特許文献2】特開平10−278419号公報
【特許文献3】特開2001−19820号公報
【特許文献4】特開2001−287446号公報
【特許文献5】特開平08−318671号公報
【特許文献6】特開2004−082690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット記録用の積層シートにおいては、特許文献1〜3のように、インクジェット記録層として親水性熱可塑性樹脂層を設けることが知られている。しかし、通常使用されるポリビニルアルコールなどの親水性樹脂からなる場合、インクジェット記録画像の耐水性に劣り、かつ熱可塑性樹脂層表面が吸湿しやすく、シートを重ねた場合に下側シートの表面が上側シートの裏面に貼り付くブロッキングが発生する問題がある。
又、通常使用されるポリビニルアルコールなどの親水性樹脂は、高温、例えば250℃以上では樹脂自体が分解しやすく、必要な流動性を示さず溶融押出しラミネートが困難となる。そのため、低温で押出しラミネートする必要があるが、速度が遅くなり膜の両端が蛇行したり膜切れが起こるなど、加工性が十分とはいえない。又、低温で押出しラミネートすると、樹脂自体の粘度が高いため、支持体(例えば紙)に接着しにくく十分な密着性が得られず、又、他の熱可塑性樹脂と共押出しラミネートした場合、樹脂層の界面で剥離する問題が生じやすい。
さらに、一般にインクジェット記録用シートでは、顔料と水系バインダーとを含有するインク受理層(塗工層)を設けた塗工タイプのものが知られているが、インク吸収性をさらに高めるため親水性熱可塑性樹脂層上にインク受理層を形成すると、親水性熱可塑性樹脂が塗料の水分を吸収して膨潤し、インク受理層がひび割れる問題が発生することがある。これは、インク受理層としての塗工層は通常、インク吸収性を持たせるために空隙が必要(多孔性)で強度が弱くなっているため、下層の膨張に耐えられないと発生すると考えられる。
そこで、本発明は、インクジェット記録画像の耐水性、耐湿ブロッキング性に優れるとともに、高温での溶融押出しラミネートが可能で加工性が良好な積層シートを提供すること、又、インク受理層を設けた場合のひび割れの問題を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究の結果、インクジェット記録層として溶融ラミネートできる親水性熱可塑性樹脂に疎水性熱可塑性樹脂を混合することにより、上記課題を解決できることを見出した。具体的な主な構成は以下のとおりである。
【0007】
1. 支持体の片面あるいは両面に熱可塑性樹脂層を形成した積層シートであって、少なくとも一方の面の熱可塑性樹脂層は、溶融ラミネートできる親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とからなる熱可塑性樹脂層であることを特徴とする積層シート。
2. 前記疎水性熱可塑性樹脂の密度が850〜950Kg/m3であり、かつMFRの値が1〜30g/10分であることを特徴とする1.記載の積層シート。
3. 前記疎水性熱可塑性樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする1.又は2.記載の積層シート。
4. 前記親水性熱可塑性樹脂がポリビニルアルコールであることを特徴とする1.〜3.の何れかに記載の積層シート。
5. 前記熱可塑性樹脂層は、疎水性熱可塑性樹脂の割合が0.05〜40重量%又は60〜90重量%であることを特徴とする1.〜4.の何れかに記載の積層シート。
6. 支持体上に、前記親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とを含有する熱可塑性樹脂とともにエチレンメタアクリル酸共重合体又はエチレン−ビニルアルコール共重合体層を支持体側となるように共押出し法により形成したことを特徴とする1.〜5.の何れかに記載の積層シート。
7. 溶融ラミネートできる親水性熱可塑性樹脂と、疎水性熱可塑性樹脂とを含有する熱可塑性樹脂層の上に、顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けたことを特徴とする1.〜6.の何れかに記載の積層シート。
8. 積層シートがインクジェット記録用シートである、1.〜7.の何れかに記載の積層シート。
【発明の効果】
【0008】
1.熱可塑性樹脂層が海島構造になっており、親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂との界面が層全体に一様に分布し、その界面にインクが留まるため、記録画像の濃度が向上する。又、疎水性熱可塑性樹脂を有することから、記録画像の耐水性及び耐水ブロッキング性が向上する。
2.親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とを混合することにより、高温での溶融ラミネートができる。特に一定の密度、流動性を有する疎水性熱可塑性樹脂を用いた場合は、親水性熱可塑性樹脂との混合性に優れ、良好な溶融押出しラミネート加工性が得られる。
3.特に、疎水性熱可塑性樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、加工性、低融点、層間の密着性などの諸物性から好ましい。
4.エチレンメタアクリル酸共重合体(EMMA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)を中間層に設けることにより、熱可塑性樹脂層と支持体の接着強度を向上させることができる。そして、上質紙、再生紙、コート紙(塗工紙)、キャストコート紙等の紙基材であっても密着性が良好である。
5.親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂の割合を一方が大きくなるようにすることにより、溶融押出し時の加工性を良好にすることができる。
6.インク受理層(塗工層)を設けた場合、塗工層のひび割れを防止して平滑な表面が得られる。
7.本発明の積層シートは、インクジェット記録用シート、特に、水性インク用のインクジェット記録用シートとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<作用>
本発明では、親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とが混合された熱可塑性樹脂層を設けることにより、海島構造をなした状態で熱可塑性樹脂層が形成されていると考えられる。ここで、海島構造とは、海とその海に点々と浮かぶ島のように、疎水性熱可塑性樹脂が親水性熱可塑性樹脂に周囲を取り巻かれるようにして散点状に分布した構造のことをいう。但し、「海」に対する「島」の分布は、両者の混合割合によっては必ずしも散点状にならず、密集した状態になることもある。
そして、水性のインクジェット記録用インクの溶媒は主に水であり、親水性熱可塑性樹脂のみからなる層では吸収されたインクが拡散しやすく鮮明な記録画像が形成されにくくなるところ、本発明では熱可塑性樹脂層が海島構造になっており、親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂との界面が層全体に一様に分布し、その界面にインクが留まるため、記録画像の濃度が向上する。又、疎水性熱可塑性樹脂を有することから、記録画像の耐水性及び耐水ブロッキング性が向上する。
又、親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とを混合することにより、高温での溶融ラミネートが可能になり、特に一定の密度、流動性を有する疎水性熱可塑性樹脂を用いる場合は、親水性熱可塑性樹脂との混合性に優れ、良好な溶融押出しラミネート加工性が得られる。
さらに、親水性熱可塑性樹脂からなる層の上にインク受理層(塗工層)を設けた場合のひび割れは、塗工層を形成する際に親水性熱可塑性樹脂が塗料に含まれる水分を吸収して膨潤し、乾燥に伴って収縮し、塗工層表面にひび割れ状が発生する。この危険性に対して、本発明は、親水性熱可塑性樹脂に疎水性熱可塑性樹脂を混合した熱可塑性樹脂層とすることにより、熱可塑性樹脂が膨潤することを抑え、乾燥収縮する危険性を減少させ確実に平滑な表面を現出し得ると考えられる。なお、ひびが存在する状態であっても、インクジェット記録濃度は向上しており、ひび状を活かした印刷に対しては、趣のある表現が可能である。
【0010】
<支持体>
本願発明に使用される支持体としては、上質紙、再生紙、コート紙(塗工紙)等の紙基材、合成紙、フィルム等を挙げることができる。望ましくは、銀塩写真調の面感を与えることからコート紙、特にキャストコート紙であることが好ましい。
上質紙、あるいはコート紙の原紙の原料としては、特にパルプの種類等に制限はなくLBKP、NBKP、メカニカルパルプ等の木材繊維を主体に、必要に応じてコットンリンター、ケナフ、麻、竹等の非木材繊維、オレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の合成繊維、ガラス、ロックウール等の無機繊維が使用可能である。又、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等の無機填料や、必要に応じて内添、外添工程にて定着剤、顔料、染料、サイズ剤、紙力向上剤等を添加して、従来公知の製造方法に従い製造される。
【0011】
支持体をコート紙、キャストコート紙とすることにより、表面の平滑性と光沢性が高くなり、積層シートにデザインを記録した時の美麗性が銀塩写真に匹敵するほど高く、ポスターやグラフィックなどの用途に応じた商品とした場合の商品価値を高くするという効果を生じ好ましい。
コート紙は、一般に原紙上にバインダーと有機又は無機顔料とを主体として含有する塗工層を設けたものであり、各種方式による印刷用紙や記録用紙として広く用いられている。コート紙の製造方法も公知であり、通常使用されている種類の材料及び装置が適宜使用される。例えば、バインダーとしてはポリビニルアルコール、スチレン重合体、スチレン−ブタジエン系共重合体、スチレン−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などやその誘導体等を挙げることができる。顔料はカオリン、焼成クレー、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ等が挙げられる。これらのバインダー、顔料、その他必要に応じて各種の添加剤を水系で分散させ塗工液を調製し、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ダイコーター等を用いて、原紙の表面に塗工することにより塗工層を設ける。
【0012】
中でもキャストコート紙は、湿潤状態にある塗工層を加熱した鏡面の金属ドラムに押し当てて乾燥させ、平滑な表面を得た紙であり、次のような製法により製造された紙である。塗工液が塗工された紙は、乾燥設備を通らず、塗工面側をキャストドラムに押し当てられる。キャストドラムに押し当てられると、塗工液中の水分は紙の裏側から蒸発する。一方、キャストドラムは鏡面ドラムからなっており、キャストドラムに押し当てられた側の面(塗工面)は、高い光沢を有するようになる。このようにして製造される直接法の他に塗工面の塗液を凝固液でゲル化させた後にキャストドラムに押し当てる凝固法、一度乾燥させた塗工面を再度湿潤させた後にキャストドラムに押し当てるリウェット法があるが、いずれの製法で得られたキャストコート紙でも本願発明の支持体として使用可能である。
本願発明で用いられるこれらの支持体は、市販のものを利用することができる。
【0013】
<親水性熱可塑性樹脂>
本願発明では、溶融ラミネートできる親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とからなる熱可塑性樹脂層を支持体上に形成する。
本発明の積層シートは、上記した支持体の片面あるいは両面に少なくとも1層以上の熱可塑性樹脂層を設けたものであり、その最外層が溶融ラミネートできる親水性熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂からなる。インクジェット記録用インクを吸収できる親水性熱可塑性樹脂を1種類あるいは2種類以上を適宜選択して使用する。又、この熱可塑性樹脂層は2以上設けてもよい。
親水性熱可塑性樹脂としては、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、吸水性ポリマーなどが挙げられる。中でも変性ポリビニルアルコールは、親水性はもちろんのこと、溶融押出し適性、ラミネート加工性が良好であることから優れた樹脂である。一般に重合度が比較的低く、且つケン度が50〜90%の変性ポリビニルアルコールは、250℃以下での温度で溶融押出し成型をすることが可能である。
【0014】
又、例えば特許文献1に記載されているような、オキシアルキレン基を含有する重合体樹脂を使用することが可能である。例えば、次式で示されるオキシアルキレン基含有ビニルアルコール系重合体、すなわち、-(CHR2-CHR-O)p-H[ただし、R2、R3は水素原子又はアルキル基(とくにメチル基又はエチル基)、pは整数]で示されるオキシアルキレン基を含有するエチレン性不飽和モノマーと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物が有用である。
【0015】
オキシアルキレン基を含有するエチレン性不飽和モノマーの具体例としては、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテルなどが挙げられる。オキシアルキレン単位の付加モル数を示すpは、いずれの場合も2〜300程度であり、特にpが5〜200程度が好ましい。上記の中では、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシプロピレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンメタアリルエーテル、ポリオキシプロピレンメタアリルエーテルなどが熱可塑性とインク吸収性が良好で実用性が大きい。あるいは少なくともエチレンオキシドを含む重合体樹脂を使用することもできる。
【0016】
これらは、例えば(株)クラレより商標「エバール」(エチレンビニルアルコール共重合体樹脂)、ユニチカ化成(株)より商標「ユニチカレジンUMR」(エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物)、あるいは日本合成化学工業(株)より商標「ソアノール」(エチレンビニルアルコール共重合体樹脂)として市販されているものから選択して使用することができる。又(株)クラレ製、商標:「クラレポバールCPシリーズ」( 変性ポリビニルアルコール) 、あるいは日本合成化学工業(株)製、商標:「エコマティ」(変性ポリビニルアルコール) は、溶融押し出し塗工するのに適当な熱可塑性とインク吸収に適当な親水性能を有しており、好ましく使用することができる。又、第一工業製薬(株)製、商標:「パオゲン」(エチレンオキシド重合体)も使用できる。
なお、本発明では、特許文献6に記載されているような、スチレン系樹脂等のインク吸収性樹脂は使用できない。本発明の積層シートは、水性インク用のインクジェット記録用シートとして好適であるが、例えばポリスチレンは、水に溶けないためインクをはじき、インク吸収性が悪化する。
【0017】
<疎水性熱可塑性樹脂>
本発明では、上記の親水性熱可塑性樹脂に疎水性熱可塑性樹脂を混合して用いる。
疎水性熱可塑成樹脂の種類としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状密度ポリエチレン(LLDPE)ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレンといったポリオレフィン系樹脂をはじめとし、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂などを使用することができる。中でもポリエチレン樹脂としては高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられる。中でも加工性、低融点、層間の密着性などの諸物性からLLDPEが好ましい。
又LLDPEの種類としては、特にシングルサイト系触媒で合成されたLLDPEが好ましい。シングルサイト系触媒とは2個のシクロペンタジエン環にチタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン又はタングステンなどの遷移金属原子がサンドイッチ状に挟まれた構造を持つ。これを用いて合成されたLLDPEはシャープな分子量分布を示し高速加工性の向上、樹脂層間の接着性の向上、機械的強度などを示す。なおLLDPEの合成は気相法、高圧法、溶液法のいずれの方法でもかまわない。
【0018】
これらのLLDPEは、上記親水性熱可塑性樹脂、特に変性ポリビニルアルコールとの混合性が良く、均一な溶融押出しラミネート膜が得られ加工性に優れる。又、融点が120℃以下と低いことから、親水性熱可塑性樹脂と溶融しやすい。従って、高温をかけても親水性熱可塑性樹脂が分解しないような短い時間で溶融するため、高温高速でのラミネートが可能になる。高温で形成された溶融樹脂膜は、支持体あるいは他の熱可塑性樹脂層との密着性も強く望ましいものである。
【0019】
疎水性熱可塑性樹脂の密度としては850〜950が好ましく、より好ましくは880〜920である。密度はISO 1183に準じて測定され、単位はKg/m3で表される。密度850以下の疎水性熱可塑性樹脂は入手が困難であり、一方、密度が高すぎる場合は樹脂自体が硬く、200℃以上の温度で押出しラミネートする際の加工性が悪化するため好ましくない。
疎水性熱可塑性樹脂のMFR(「メルトマスフローレイト」を示す)としては、1〜30g/10分であることが好ましく、より好ましくは5〜25g/10分であり、さらに好ましくは10〜20g/10分である。MFRは樹脂の流動性を表す指標であり、JIS K7210(旧JIS K6760)に準じて測定し、単位はg/10分で表される。MFRが小さすぎる場合、親水性熱可塑性樹脂との混合性が悪化し、加工性に劣る。又、MFRが大きすぎる場合、親水性熱可塑性樹脂と混合した際の混合性は改善されるものの、溶融押出しラミネート時に、溶融樹脂の粘度が低下してラミネート幅が狭くなるなど問題が起こる。
なお、本発明では、特許文献5に記載されているような、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、スチレン等をモノマー成分とした疎水性ポリマー微粒子は使用できない。これらは親水性熱可塑性樹脂と混ざりにくく、溶融押出しラミネート時に膜の両端が蛇行したり膜切れが起こるなど、加工性が悪化する。
【0020】
<親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂の割合>
親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂の割合としては、最外層の熱可塑性樹脂全体に対して疎水性熱可塑性樹脂が40重量%以下又は60重量%以上、すなわち等分(親水性熱可塑性樹脂/疎水性熱可塑性樹脂が1/1)あるいはほぼ等分の配合割合を除くことが好ましく、より好ましくは親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂との割合が85/15〜70/30、又は15/85〜30/70であることが好ましい。
疎水性熱可塑性樹脂の割合が少なすぎる場合、インクジェット記録画像の耐水性が劣り好ましくない。実質的には0.5重量%以上が適当であり、1重量%以上がより望ましい。又、親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂の割合が等分あるいはほぼ等分の場合、溶融押出し時の加工性が悪化し好ましくない。さらに、疎水性熱可塑性樹脂の割合が多すぎる場合、インク吸水性が悪化し好ましくない。実質的には90重量%以下が適当である。
【0021】
<熱可塑性樹脂層への添加物>
親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とからなる熱可塑性樹脂層には、不透明性、筆記性等を持たせる目的で酸化チタン、炭酸カルシウム等の白色無機顔料を配合することもできる。無機顔料の配合量は、これが配合される最外層に対して25重量%以下、できれば15重量%以下とすることが好ましい。配合量を増やすと、積層シートの平滑性や光沢などの表面性を悪化させることがある。無機顔料の粒径としては0.1〜20μmのものが好ましい。
又、不透明性等を目的として酸化チタン等の無機填料を最外層に配合すると、ラミネーション加工性は悪化することがある。かかる場合には、この無機填料が配合された樹脂を、無機填料を含まない樹脂と共押出しラミネートすれば、樹脂層の厚さを薄くしても、いわゆる膜切れ等のトラブルの発生を押さえて、安定した積層操作を行うことができる。
【0022】
<他の熱可塑性樹脂>
本発明では、親水性熱可塑性樹脂及び疎水性熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層と支持体との間に、1以上の熱可塑性樹脂を設けることができる。これは単一の樹脂を単層で使用しても、複数の樹脂を複層で使用しても良い。特に、親水性熱可塑性樹脂及び疎水性熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層(以下、最外層と称することがある)の直下に、最外層とその下に積層される熱可塑性樹脂層あるいは支持体との密着性を高めるために、接着性を有する熱可塑性樹脂を積層すると耐剥離性が向上するため好ましい。支持体が紙やコート紙であったり最外層の下に他の熱可塑性樹脂層が存在する場合は、最外層が剥離しやすい傾向があるため、中間に挟まれる樹脂は、最外層及び最外層の下に位置する熱可塑性樹脂層あるいは紙支持体の双方への接着性が良好でなければならない。特に上記の親水性熱可塑性樹脂は、紙基材などとの密着性に劣るため、このような親水性熱可塑性樹脂に対しても強固な接着性を発揮する必要がある。
【0023】
このような接着性を有する樹脂としては、溶融押出し適性のある変性ポリオレフィン又は水酸基(OH基)を有する熱可塑性樹脂、あるいはこれらと親水性熱可塑性樹脂との混合物からなる樹脂組成物等を挙げることができる。又、同じ種類あるいは異なる種類を選び1層又は2層以上積層してもよい。具体的には、エチレンメタアクリル酸共重合体(EMMA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)などが好ましく挙げられるが、これに限定されるものではない。
上記の接着性を有する熱可塑性樹脂以外の層としては、特に限定されず、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。支持体に接する層としては、密着性が良好なことから、前記したシングルサイト系触媒で合成された直鎖状低密度ポリエチレン(SS-LLDPE)が好ましく用いられる。
又、支持体及び熱可塑性樹脂の種類や操業条件等により、支持体と熱可塑性樹脂層、あるいは熱可塑性樹脂層同士の間の接着性が不良な場合には、支持体に予め接着層を塗工又は積層することも可能である。接着性樹脂としては、最外層の下に用いられる変性ポリオレフィン系樹脂等をはじめ、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等が使用される。
【0024】
<他面の構成>
本発明では、支持体の片面に親水性熱可塑性樹脂及び疎水性熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層が積層されるものであるが、支持体の反対面は任意である。用途により、何も設けない、粘着剤を塗布する、低融点の接着性樹脂を単独あるいは複数の層としてラミネートする、塗工層を設けるなどの場合がある。支持体の両面に熱可塑性樹脂層が存在する場合、これらの熱可塑性樹脂層の種類及び積層順序等は、一方の面と他方の面とで同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
<積層方法>
支持体上への熱可塑性樹脂の積層は、押出しラミネーション法、共押出しラミネーション法を用いて、最外層が親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とからなるように、必要に応じてその他の熱可塑性樹脂層を支持体上に積層し、製造する。
親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とを混合する方法としては、それぞれの樹脂をドライブレンドしてホッパーに投入し1軸押出機や2軸押出機により押出す方法、あるいは、加工性が良好になるように、あらかじめ2軸押出機、加圧ニーダー法、バンバリーミキサー法、ロールミキサー法等を用いて混合ペレットを作製し、これを溶融押出しすることが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
例えば、1軸押出機を用いる場合、装置のホッパー部より樹脂を投入しスクリューで分散し溶融混合して吐出すが、熱可塑性樹脂の融点が高いと、熱量に対して溶融するまでの時間が長くなり混合しにくい。一方、熱可塑性樹脂の融点が低いと、スクリューから樹脂が吐出されるまでの時間が短く、かつ十分に溶融混合されやすいため、高速で良好な加工性を得ることができる。2種類の熱可塑性樹脂を混合しにくい場合は、分散・溶融混合したものを冷却し、粉砕して表面処理して、予め混合ペレットを作製することが望ましい。
【0026】
又、共押出しラミネーション法は、溶融状態で樹脂を重ね合わせるため、逐次樹脂を積層し多層化するよりも樹脂層間の密着性を強くできるとともに、生産効率にも優れる。共押出しラミネーション法は、2台以上の押出機を用い、各熱可塑性樹脂を溶融状態でTダイに導き、各Tダイから同時に押出して積層接着するもので、例えば特開平11−207882号公報等に開示されているように、多層フィルム等の製造方法としても知られている。
共押出しラミネーションにあたり、樹脂は通常、150〜300℃程度の温度で溶融加工されるが、本発明で好ましい範囲は160〜250℃、より好ましくは180〜230℃である。溶融温度が低すぎると押出機のトルク負荷が大きく押出し困難となり、高すぎると親水性熱可塑性樹脂が分解してしまうため、この範囲とすることによりラミネート適性が良好となる。
なお、本発明では、押出しラミネーション法、共押出しラミネーション法等の溶融ラミネート手法を用いており、溶剤を使用しない製造方法である。
【0027】
<層厚>
支持体上に積層される熱可塑性樹脂層の各層及び全体の厚さは、片面10〜80μm、好ましくは20〜70μmの範囲にあることが好ましい。樹脂層全体の厚さが薄すぎる場合、押出しラミネーション法による各層の積層が困難となる。又、厚すぎると製造コストが高くなり、しかも静電気が発生しやすくなるので、その必要がある場合には導電剤の使用などの対応が好ましい。
【0028】
<塗工層について>
本発明では、親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とからなる熱可塑性樹脂層上に、顔料及び水系バインダーを主成分とする塗工層を設けることができる。この塗工層はインク受理層として機能し、親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とからなる熱可塑性樹脂層、及び塗工層の2層によって、インクジェット記録用シートとして用いた場合のインク吸収性がさらに向上し、良好なインクジェット記録画像が得ることができる。
【0029】
顔料としては、シリカ、アルミナ、炭カル、酸化チタン、タルク、カオリン等の無機系顔料、アクリル系、スチレン系、ポリエチレン系、ウレタン系等の有機系顔料、及びガラスビーズ、シラスバルーン等が挙げられる。
バインダーとしては、デンプン、ポリビニルアルコール、SBR、アクリル系バインダー、アクリルシリコン共重合体系バインダー、スチレン系バインダー、スチレンアクリル共重合体系バインダー、ウレタン系バインダー等が挙げられる。
顔料とバインダーの使用量としては、顔料100重量部に対し、バインダーを5〜200重量部用いることが好ましい。
その他適宜、インク定着剤、消泡剤、耐水化剤、架橋剤、pH調整剤等を使用しても良い。
【0030】
塗工量は3〜20g/m2とすることが好ましい。塗工方法は特に制限されず、バーコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スライドダイコーター、ロールコーター、ブレードコーター、グラビアコーター等を使用することができる。
【0031】
[実施例]
次の評価試験を各実施例、比較例に対して行った。実施例及び比較例の構成を表1に示し、実施例の評価結果を表2に、比較例の評価結果を表3に示す。
【0032】
<疎水性熱可塑性樹脂の密度とMFR>
密度はISO 1183に準じて測定し、単位はKg/m3で表す。MFRはJIS K7210に準じて測定し、単位はg/10分で表す。
【0033】
<インクジェット記録適性>
・記録濃度(インク吸収性)
エプソン社製インクジェットプリンター『PM-G800染料インキ』、エプソン社製インクジェットプリンター『PX-G900顔料インキ』を表計算ソフト『エクセル』で黒(BK)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のベタ画像を作製し、プリンター添付のプリンタードライバーの設定を、印字品質については写真調、用紙については専用光沢紙をそれぞれ選択してプリントアウトした。恒温恒湿室にて一日間放置した後、マクベス濃度計(RD915、Macbeth社製)を用いて各色の印字濃度を測定し、その平均値を記録濃度とした。
【0034】
・記録画像の耐水性
エプソン社製インクジェットプリンター『PM−G800染料インキ』、エプソン社製インクジェットプリンター『PX−G900顔料インキ』で『電』の文字をブラック,シアン,マゼンダ,イエローで印字、2分間放置その後5μlほど印字した文字の上に水を落下、自然乾燥するまで放置させ文字のにじみ度合いを目視評価した。
◎:水を落下させ自然乾燥後文字が全く変化しない。
○:水を落下させ自然乾燥後文字がほとんど変化しない。
△:水を落下させ自然乾燥後文字がやや変化した。
×:水を落下させ自然乾燥後文字がにじんでしまい判別できない。
【0035】
<耐湿ブロッキング性>
得られた積層シートを10cm×10cmのサンプルとし2枚用意した。次にサンプルを表裏重ね合わせ、温度30℃、湿度80%の恒温恒湿機に24時間放置し、その後サンプル同士がブロッキング(貼り付いている)しているかを評価した。
◎:まったくブロッキングしていない。
○:多少ブロッキングしているものの問題は無い。
△:ブロッキングしており、サンプルの剥離がやや困難。
×:全面的にブロッキングしており、サンプルが剥離できない。
【0036】
<加工性>
親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とを混合し、230℃で押出しラミネート処理を行った際に、溶融樹脂膜が支持体に接触する直前の部分における、樹脂の成膜性を次の基準で判断した。
◎:溶融樹脂膜が均一であり良好にラミネートできる。
○:溶融樹脂膜に若干乱れが見られるもののラミネートできる。
△:溶融樹脂膜が左右に蛇行し、ややラミネートしにくい。
×:溶融樹脂膜が割れて成膜できず、ラミネートできない。
【0037】
<塗工層ひび割れ>
塗工層を設けた積層シートを110℃で1分間乾燥した際の、塗工層の状態を目視により次の基準で評価した。
あり:ひび割れが見られる
なし:ひび割れが見られない
【0038】
<熱可塑性樹脂層間剥離>
金属板に両面テープを貼りつける。次に、幅1.5cm、長さ7cmのサンプルをカットし、金属板に貼りつけた両面テープにサンプルの支持体の裏面(熱可塑性樹脂が積層されてない面)を貼りつける。さらにサンプルの熱可塑性樹脂の最外層表面に、ニチバン社製透明粘着テープ(商品名セロテープ(登録商標))を強固に密着させ、この透明粘着テープを強制的に剥離して、次の基準で目視にて評価した。
◎:テ−プ粘着面に熱可塑性樹脂は付着しておらず粘着性が残っており、熱可塑性樹脂層間が強固に接着している状態。
○:テ−プ粘着面に熱可塑性樹脂層が付着し紙基材上にも熱可塑性樹脂層が残り層間剥離が見られるが、剥離に際して高い抵抗があり、実用上問題ない程度に熱可塑性樹脂層間が密着している状態。
△:テープ粘着面に熱可塑性樹脂が付着し紙基材にも熱可塑性樹脂が残り層間剥離が見られ、剥離に際し若干の抵抗はあるものの、熱可塑性樹脂層間が十分接着しておらず実用上問題のある状態。
×:熱可塑性樹脂層間で容易に剥離し、十分に接着していない状態。
【0039】
<紙基材との密着性>
上記と同様の試験を行い、紙基材とその上の熱可塑性樹脂層との密着性について、次の基準で目視にて評価した。
◎:剥離せず密着性良好。
○:若干剥離しやすいが実用上問題なし。
△:剥離しやすく密着性に劣る。
×:紙基材に全く密着していない。
【実施例1】
【0040】
市販のキャストコート紙(日本製紙(株)製商品名CLCキャスト)を支持体とし、最外層を親水性熱可塑性樹脂としてオキシアルキレン基を含む変性ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)90重量部、疎水性熱可塑性樹脂としてシングルサイト触媒で合成した直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製カーネルKC650T、表1中「LLDPE」と略す)10重量部を混合したものとし、最外層の直下に位置する層(中間層という)としてエチレンメタアクリル酸共重合体(三井デュポンポリケミカル社製ニュクレル42115C、表1中「EMAA」と略す)100重量部を、2種2層の構成で230℃で共押出しを行ない積層シートを得た。樹脂厚さは最外層/中間層を20/10μmとした。
【実施例2】
【0041】
最外層の親水性熱可塑性樹脂を10重量部、疎水性熱可塑性樹脂を90重量部とした以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【実施例3】
【0042】
最外層の親水性熱可塑性樹脂を70重量部、疎水性熱可塑性樹脂を30重量部とした以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【実施例4】
【0043】
最外層の疎水性熱可塑性樹脂をシングルサイト触媒で合成した直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製カーネルKC650T)からシングルサイト触媒で合成した直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製NH725N、表1中「LLDPE2」と略す)に変更した以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【実施例5】
【0044】
最外層の疎水性熱可塑性樹脂をシングルサイト触媒で合成した直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製カーネルKC650T)から低密度ポリエチレン(宇部興産社製L-719、表1中「LDPE」と略す)に変更した以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【実施例6】
【0045】
表層の最外層の親水性熱可塑性樹脂を10重量部、疎水性熱可塑性樹脂を90重量部とした以外は、実施例5と同様にして積層シートを得た。
【実施例7】
【0046】
表層の最外層の親水性熱可塑性樹脂を70重量部、疎水性熱可塑性樹脂を30重量部とした以外は、実施例5と同様にして積層シートを得た。
【実施例8】
【0047】
最外層の疎水性熱可塑性樹脂をシングルサイト触媒で合成した直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製カーネルKC650T)から高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製HE680、表1中「HDPE」と略す)に変更し、樹脂厚さを最外層/中間層が40/10μmにした以外は、実施例3と同様にして積層シートを得た。
【実施例9】
【0048】
最外層の親水性熱可塑性樹脂をオキシアルキレン基を含む変性ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)から酢酸ビニル系のポリビニルアルコール(クラレ社製CP-7000)に変えた以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【実施例10】
【0049】
最外層の親水性熱可塑性樹脂をオキシアルキレン基を含む変性ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)から酢酸ビニルユニットとビニルアルコールユニットと側鎖に親水基を有するエチレンユニットとを有する変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製AX-2000)に変えた以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【実施例11】
【0050】
中間層のエチレンメタアクリル酸共重合体(三井デュポンポリケミカル社製ニュクレル42115C)をエチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ社製CP-109、表1中「EVOH」と略す)に変えた以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【実施例12】
【0051】
市販のキャストコート紙(日本製紙(株)商品名CLCキャスト)を支持体とし、260℃にてエチレンメタアクリル酸共重合体(三井デュポンポリケミカル社製ニュクレル42115C)100重量部を10μm厚さになるように押出しラミネートした。次に、230℃で親水性熱可塑性樹脂としてオキシアルキレン基を含む変性ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)70重量部、疎水性熱可塑性樹脂としてシングルサイト触媒で合成した直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製カーネルKC650T)30重量部を混合したものを、20μm厚さとなるように押出しラミネートして積層シートを得た。
【実施例13】
【0052】
アクリル系有機ピグメント(商品名:B-120CP、ハリマ化成)20%分散液100重量部と、ポリビニルアルコール(商品名:PVA117、クラレ)10%分散液40重量部とを混合し塗工液を調整した。次に、実施例2で得られた積層シート上に、この塗工液を塗布量8g/m2となるようにマイヤーバーを用いて塗工し、塗工層を形成した。
【実施例14】
【0053】
実施例3で得られた積層シート上に、実施例13と同様にして塗工層を形成した。
【実施例15】
【0054】
実施例1において、中間層を設けず、最外層を単独で230℃で押出しラミネートした以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。樹脂厚さは最外層20μmとした。
【実施例16】
【0055】
市販のキャストコート紙(日本製紙(株)製商品名CLCキャスト)を支持体とし、最外層を親水性熱可塑性樹脂としてオキシアルキレン基を含む変性ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)90重量部、疎水性熱可塑性樹脂としてシングルサイト触媒で合成した直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製カーネルKC650T、表1中「LLDPE」と略す)10重量部を混合したものとし、最外層の直下に位置する第1中間層としてオキシアルキレン基を含む変性ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)100重量部、さらにその下に第2中間層としてエチレンメタアクリル酸共重合体(三井デュポンポリケミカル社製ニュクレル42115C)100重量部を、3種3層の構成で230℃で共押出しを行ない積層シートを得た。樹脂厚さは最外層/第1中間層/第2中間層を5/15/10μmとした。
【0056】
[比較例1]
最外層を、親水性熱可塑性樹脂であるオキシアルキレン基を含む変成ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)100重量部とした以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【0057】
[比較例2]
最外層を、シングルサイト触媒で合成した直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)社製カーネルKC650T)100重量部とした以外は、実施例1と同様にして積層シートを得た。
【0058】
[比較例3]
比較例1で得た積層シート上に、実施例13と同様にして塗工層を形成した。
【0059】
[比較例4]
最外層を、親水性熱可塑性樹脂であるオキシアルキレン基を含む変性ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)100重量部とし、中間層を設けずに200℃で押出しラミネートを行ない、実施例1と同様にして積層シートを得た。樹脂厚さは20μmとした。
【0060】
[比較例5]
最外層を、親水性熱可塑性樹脂であるオキシアルキレン基を含む変性ポリビニルアルコール(クラレ社製CP-1000)100重量部とし、中間層を疎水性熱可塑性樹脂である低密度ポリエチレン(三井化学社製ミラソン11P)100重量部とし、200℃で共押出しラミネートを行ない、実施例1と同様にして積層シートを得た。樹脂厚さは20/8μmとした。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
この結果から、前記した効果及び作用を確認することができる。
加えて、さらに、この実施例と比較例から、次の特徴的な事項が読みとれる。
1.実施例1と2の対比から、疎水性熱可塑性樹脂が多く存在することによって、最外層の融点が下がり密着性が良くなる。すなわち、親水性熱可塑性樹脂が少ない方が、密着性がより良好となることがわかる。
2.実施例5〜7で用いられている疎水性熱可塑性樹脂はLDPE、実施例8はHDPEであり、LLDPEの実施例1他に比べて加工性が若干劣る。これは、LDPEやHDPEはLLDPEより融点が高く、親水性熱可塑性樹脂と溶融混合しにくいためと考えられる。
3.実施例15は中間層はないが、疎水性熱可塑性樹脂が含有されていることにより密着性が確保されることが、中間層を設けない親水性熱可塑性樹脂層のみである比較例4と比較するとわかる。
4.比較例1、4、5からは、熱可塑性樹脂層が親水性熱可塑性樹脂のみなため、耐水性、耐湿ブロッキング性が悪いことがわかる。加工性(膜の様子)は、疎水性熱可塑性樹脂を含有する実施例より少々劣るが、実用可能なレベルである。但し、低温(200℃)でラミネートしなければならず、速度が遅く操業性に劣る。
5.比較例2は、熱可塑性樹脂層が疎水性熱可塑性樹脂のみからなるため、インクを吸収せず(記録できない)、画像耐水性も評価できない。一方、疎水性熱可塑性樹脂のみであることから、耐湿ブロッキング性は良好である。
6.比較例3は塗工層を設けているためインク吸収性は良好だが、熱可塑性樹脂層が親水性熱可塑性樹脂のみからなるため、塗工層にひび割れが起こる。
7.比較例4は熱可塑性樹脂層が親水性熱可塑性樹脂のみからなるため、画像耐水性が悪い。又、中間層がないために支持体との密着性が悪く、実施例15と比較すると、疎水性熱可塑性樹脂を含まないことによって支持体との密着性が劣ることがわかる。
8.比較例5は熱可塑性樹脂層が親水性熱可塑性樹脂のみからなるため、画像耐水性が悪い。又、支持体に接する層として疎水性の低密度ポリエチレンを使用したが、樹脂層間剥離・支持体との密着性とも不良であった。比較例3との違いから、中間層のエチレンメタアクリル酸共重合体の接着機能が確認できる例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面あるいは両面に熱可塑性樹脂層を形成した積層シートであって、少なくとも一方の面の熱可塑性樹脂層は、溶融ラミネートできる親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とからなる熱可塑性樹脂層であることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
前記疎水性熱可塑性樹脂の密度が850〜950Kg/m3であり、かつMFRの値が1〜30g/10分であることを特徴とする請求項1記載の積層シート。
【請求項3】
前記疎水性熱可塑性樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1又は2記載の積層シート。
【請求項4】
前記親水性熱可塑性樹脂がポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の積層シート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂層は、疎水性熱可塑性樹脂の割合が0.05〜40重量%または60〜90重量%であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の積層シート。
【請求項6】
支持体上に、前記親水性熱可塑性樹脂と疎水性熱可塑性樹脂とを含有する熱可塑性樹脂とともにエチレンメタアクリル酸共重合体又はエチレン−ビニルアルコール共重合体層を支持体側となるように共押出し法により形成したことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の積層シート。
【請求項7】
溶融ラミネートできる親水性熱可塑性樹脂と、疎水性熱可塑性樹脂とを含有する熱可塑性樹脂層の上に、顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けたことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の積層シート。
【請求項8】
積層シートがインクジェット記録用シートである、請求項1〜7の何れかに記載の積層シート。

【公開番号】特開2006−205482(P2006−205482A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19136(P2005−19136)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】