説明

積層フィルムの裁断方法及び積層フィルム

【課題】簡単な手法でバリの発生や層剥がれを抑制できる積層フィルムの裁断方法及び積層フィルムを提供する。
【解決手段】この積層フィルムF1の裁断方法では、下刃8に摺接する刃先7aの刃先角θ1が80°〜90°となる上刃7と、上刃7に摺接する刃先8aの刃先角θ2が80°〜90°となる下刃8とを用い、下刃8に対する上刃7の進入深さDが0.7mm〜1.0mmとなるように上刃7と下刃8とを摺接させる。これにより、積層フィルムF1の裁断面を裁断方向に見たときに、第2の樹脂フィルム23において破断層31からせん断層32に移行する界面38が形成され、バリの発生を抑制できる。また、最外層となる第1の保護フィルム21が厚いせん断層32となるので、上刃7が進入することで生じるフィルムの折れ曲がりが抑制され、層剥がれを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムの裁断方法及び積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状のフィルムの取り扱いにあたっては、原材料から形成された幅広のシート状のフィルムを適当な幅に裁断してロール状に巻き取ることが一般的である。フィルムの裁断には、例えばゲーベル刃式スリッタ及びギャング式スリッタといった裁断装置が広く用いられている。
【0003】
ゲーベル式スリッタは、互いの刃先の側面端部同士を摺接させて回転する上刃及び下刃を備え、上刃と下刃との間にフィルムを通して裁断するスリッタである。この方式のスリッタとして、例えば特許文献1には、金属箔が接する受けローラの側面の環状溝に沿って形成された受け刃と、外周縁部に先鋭の刃付け部を有する円盤状のスリット刃とを備え、スリット刃の刃付け部の先端を受けローラの環状溝に入り込ませた状態で両刃を回転させるスリッタが開示されている。
【0004】
また、ギャング式スリッタは、所定間隔で配置された一対の上刃及び一対の下刃を備え、上刃の各外側面に下刃をそれぞれ噛み合わせてフィルムを裁断するスリッタである。この方式のスリッタとして、例えば特許文献2には、一方の回転軸に所定間隔で固定された複数の環状の上刃と、他方の回転軸に軸方向に移動自在に配置された複数の環状の下刃とを備え、下刃によって上刃の両側面を挟持した状態で両刃を回転させるスリッタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−117886号公報
【特許文献2】実開平7−15291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の層が積層されてなる積層フィルムをゲーベル式スリッタでスリットする場合、下刃として、上刃に摺接する刃先の刃先角が小さすぎるものを用いると、切断面にバリが発生し、製品や設備を汚染して歩留まりの低下を招くおそれがあった。一方、下刃として、上刃に摺接する刃先の刃先角が大きすぎるものを用いると、積層フィルムにおける層の層剥がれが生じて歩留まりの低下を招くおそれがあった。
【0007】
スリッタにおける従来の切断性の改良点として、上刃及び下刃の外径の調整、回転速度の調整、上刃に対する下刃の傾斜角度の調整といったことが行われてきたが、このような調整は大規模な設備の改造や部材の変更を伴うことが多く、管理工程の負担増やコスト増が懸念となっていた。
【0008】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、簡単な手法でバリの発生や層剥がれを抑制できる積層フィルムの裁断方法及び積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決のため、本発明に係る積層フィルムの裁断方法は、互いの刃先の側面端部同士が摺接した状態で回転する下刃及び上刃の間に積層フィルムを通して裁断する積層フィルムの裁断方法であって、下刃に摺接する刃先の刃先角が80°〜90°となる上刃と、上刃に摺接する刃先の刃先角が80°〜90°となる下刃とを用い、下刃に対する上刃の進入深さが0.7mm〜1.0mmとなるように上刃と下刃とを摺接させることを特徴とする。
【0010】
この積層フィルムの裁断方法では、積層フィルムの裁断面を裁断方向(上刃から下刃に向かう方向)に見たときに、破断層からせん断層に移行する界面が形成される。これにより、積層フィルムにおけるバリの発生を抑制できる。また、最外層となるフィルムの裁断面は厚いせん断層となるので、上刃が進入することで生じるフィルムの折れ曲がりが抑制され、層剥がれを抑制できる。
【0011】
また、下刃に摺接する刃先の刃先角が80°〜85°となる上刃を用いることが好ましい。この場合、バリの発生と層剥がれとをより効果的に抑制できる。
【0012】
また、上刃に摺接する刃先の刃先角が85°〜90°となる下刃を用いることが好ましい。この場合、バリの発生と層剥がれとをより効果的に抑制できる。
【0013】
また、下刃に対する上刃の寄せ量を0.1mm〜0.3mmとすることが好ましい。こうすると、バリの発生と層剥がれとを一層効果的に抑制できる。
【0014】
また、積層フィルムは、引張強度が200MPa〜600MPaであるフィルムを含むことが好ましい。この範囲の引張強度のフィルムでは、上記裁断条件において好適な強度を有することとなり、バリの発生と層剥がれとを一層効果的に抑制できる。
【0015】
また、積層フィルムは、樹脂フィルムを含むことが好ましい。この場合でも、上記裁断条件により、樹脂フィルムを含む積層フィルムを裁断する際のバリの発生と層剥がれとを効果的に抑制できる。
【0016】
また、積層フィルムは、樹脂フィルムを保護する保護フィルムを最外層として含むことが好ましい。この場合でも、上記裁断条件により、最外層となる保護フィルムの裁断面を厚いせん断層とすることができるので、層剥がれを効果的に抑制できる。
【0017】
また、本発明に係る積層フィルムは、上記積層フィルムの裁断方法を用いて裁断されたことを特徴としている。
【0018】
この積層フィルムでは、積層フィルムの裁断面を裁断方向(上刃から下刃に向かう方向)に見たときに、破断層からせん断層に移行する界面が形成される。これにより、積層フィルムにおけるバリの発生を抑制できる。また、最外層となるフィルムの裁断面は厚いせん断層となるので、上刃が進入することで生じるフィルムの折れ曲がりが抑制され、層剥がれを抑制できる。
【0019】
また、本発明に係る積層フィルムは、樹脂フィルムと、樹脂フィルムを保護する最外層の保護フィルムとの積層体を裁断装置で裁断してなる積層フィルムであって、裁断面を裁断方向に見たときに、樹脂フィルムにおいて、破断層からせん断層に移行する界面が形成されていることを特徴としている。
【0020】
この積層フィルムでは、樹脂フィルムにおけるバリの発生を効果的に抑制できる。
【0021】
また、本発明に係る積層フィルムは、樹脂フィルムと、樹脂フィルムを保護する最外層の保護フィルムとの積層体を裁断装置で裁断してなる積層フィルムであって、裁断面を裁断方向に見たときに、樹脂フィルムにおいて、長さ300μm未満のバリを断続的に含むことを特徴としている。
【0022】
この積層フィルムでは、樹脂フィルムにおけるバリが抑えられることで、歩留まりを向上できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、簡単な手法でバリの発生や層剥がれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る積層フィルムの裁断方法に用いられる裁断装置の一例を示す斜視図である。
【図2】上刃及び下刃の側面図である。
【図3】上刃及び下刃の断面図である。
【図4】積層フィルムの層構成の一例を示す断面図である。
【図5】積層フィルムの裁断の工程を示す図である。
【図6】図5の後続の工程を示す図である。
【図7】図6の後続の工程を示す図である。
【図8】比較例に係る積層フィルムの裁断方法における積層フィルムの裁断面の様子を示す図である。
【図9】実施例に係る積層フィルムの裁断方法における積層フィルムの裁断面の様子を示す図である。
【図10】本発明に係る積層フィルムの裁断方法の効果確認試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る積層フィルムの裁断方法及び積層フィルムの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る積層フィルムの裁断方法に用いられる裁断装置の一例を示す斜視図である。同図に示すように、裁断装置1は、積層フィルムF1を繰り出す繰出部2と、繰出部2から繰出される積層フィルムF1を複数本に裁断する裁断部5と、裁断部5によって裁断された積層フィルムF1を巻き取る複数の巻取部6とを備えて構成されている。
【0027】
繰出部2は、積層フィルムF1が巻き取られてなる原反ロールF2をセット可能な回転軸3を有している。繰出部2の下流側には、繰出部2から繰り出された積層フィルムF1に所定の張力を付与するテンションローラ4が配置されている。
【0028】
裁断部5は、繰出部2から搬送されてくる積層フィルムF1の上側に配置された上刃7と、下側に配置された下刃8とを有している。上刃7及び下刃8は、いずれも円盤状をなしており、積層フィルムF1を挟んで上下に略平行に配置された回転軸9,10にそれぞれ固定されている。また、上刃7及び下刃8は、上下で対となるように、所定の間隔をもって複数個所(本実施形態では3箇所)に配置されている。
【0029】
裁断部5の下流側には、裁断部5によって複数本に裁断された積層フィルムF1を振り分ける振分ローラ11が配置されている。原反ロールF2は、テンションローラ4と振分ローラ11との間で、裁断部5が頂部となるような山形に屈曲するようになっており、シャーカットと呼ばれる裁断方法によって裁断される。
【0030】
巻取部6は、振分ローラ11で振り分けられた積層フィルムF1を巻き取る回転軸12を有している。回転軸12には、裁断された積層フィルムF1を巻き取ることにより、分割ロール13が形成されることとなる。
【0031】
次に、上述した裁断部5の上刃7及び下刃8について更に詳細に説明する。
【0032】
図2は、上刃7及び下刃8の側面図である。また、図3は、上刃7及び下刃8の断面図である。図2及び図3に示すように、上刃7及び下刃8は、互いの刃先7a,8aの側面端部同士が摺接した状態となっており、いわゆるゲーベル式スリッタを構成している。上刃7及び下刃8は、例えば高速度工具鋼(SKH)や、合金工具鋼(例えばSKD)などによって形成され、裁断対象である積層フィルムF1の厚さや裁断条件に基づいて適宜設定される。上刃7の厚さt1及び下刃8の厚さt2も、積層フィルムF1の厚さ等に基づいて適宜設定される。
【0033】
上刃7の刃先7aは、下刃8に摺接する摺接面7bが回転軸9に略直交するのに対し、その反対面7cが回転軸9に対して傾斜しており、刃先角θ1は80°〜90°、後述する層剥がれの抑制の観点から、好ましくは80°〜85°となっている。また、下刃8の刃先8aは、上刃7に摺接する摺接面8bが回転軸10に対して傾斜しているのに対し、その反対面8cが回転軸10に対して略直交しており、刃先角θ2は80°〜90°、裁断の安定性の観点から、好ましくは85°〜90°となっている。
【0034】
図3に示すように、下刃8に対する上刃7の重なり量、すなわち、進入深さDは、0.7mm〜1.0mmとなるように設定されている。また、下刃8に対する上刃7の寄せ量は、0.1mm〜0.3mmとなっている。裁断装置1には、一般に、上刃7を回転軸9の軸方向に押し込むためのネジ(不図示)が取り付けられており、このネジのゲージに基づいて寄せ量を調整することができる。上刃7の刃先7aと下刃8の刃先8aとが押圧を受けずに接している状態が寄せ量0.0mmであり、寄せ量が正の値を取る場合には、この状態から上刃7の刃先7aが下刃8の刃先8aに押し付けられ、ごく僅かに反ることとなる。
【0035】
図4は、裁断対象である積層フィルムF1の層構成の一例を示す断面図である。同図に示す例では、積層フィルムF1は、一方の最外層となる第1の保護フィルム21と、接着の機能を有する第1の樹脂フィルム22と、絶縁及び保形の機能を有する第2の樹脂フィルム23と、第1の樹脂フィルム22とは異なる接着の機能を有する第3の樹脂フィルム24と、他方の最外層となる第2の保護フィルム25とがこの順に積層されて構成されている。
【0036】
この積層フィルムF1では、各フィルムの平均厚みが150μm〜180μmであることが好ましく、155μm〜175μmとなっていることが更に好ましい。また、積層フィルムF1の幅は、裁断後において、4mm以上であることが好ましく、7.5mm以上であることが更に好ましい。
【0037】
第1の保護フィルム21は、例えばポリエチレンテレフタラートによって形成されている。第1の保護フィルム21の引張強度は、例えば48MPa〜73MPaであることが好ましく、50MPa〜60MPaであることがより好ましい。
【0038】
第1の樹脂フィルム22は、例えばポリイミドフィルムによって形成されている。第1の樹脂フィルム22の引張強度は、例えば200MPa〜600MPaであることが好ましく、400MPa〜600MPaであることがより好ましい。また、第1の樹脂フィルム22と第1の保護フィルム21との間の剥離強度は、0.01N/cm〜0.1N/cmであることが好ましく、0.05N/cm〜0.1N/cmであることがより好ましい。このようなフィルムとしては、例えば特開平7−242820号公報に記載された樹脂組成物からなる接着性のフィルムが挙げられる。
【0039】
第2の樹脂フィルム23は、例えばポリイミドフィルムによって形成されている。第2の樹脂フィルム23の引張強度は、例えば200MPa〜600MPaであることが好ましく、400MPa〜600MPaであることがより好ましい。このようなフィルムとしては、例えば宇部興産製ポリイミドフィルムのユーピレックス等が挙げられる。
【0040】
また、第3の樹脂フィルム24も、例えばポリイミドフィルムによって形成されている。第2の樹脂フィルム23の引張強度は、例えば200MPa〜600MPaであることが好ましく、400MPa〜600MPaであることがより好ましい。このようなフィルムとしては、第1の樹脂フィルム22と同様に、例えば特開平7−242820号公報に記載された樹脂組成物からなる接着性のフィルムが挙げられる。
【0041】
第2の保護フィルム25は、第1の保護フィルム21と同様に、例えばポリエチレンテレフタラートによって形成されている。第2の保護フィルム25の引張強度は、例えば48MPa〜73MPaであることが好ましく、50MPa〜60MPaであることがより好ましい。また、第2の保護フィルム25と第3の樹脂フィルム24との間の剥離強度は、0.01N/cm〜0.1N/cmであることが好ましく、0.05N/cm〜0.1N/cmであることがより好ましい。
【0042】
このような積層フィルムF1を裁断装置1で裁断する場合、まず始めは、図5に示すように、上刃7及び下刃8に挿入された積層フィルムF1が、上刃7の刃先7aの先端と下刃の刃先7bの先端とで挟まれて支持された状態となる。次に、図6に示すように、上刃7が下刃8に向けて進入し、第2の保護フィルム25側から第1の保護フィルム21側に向かって積層フィルムF1の裁断が開始され、最終的には、図7に示すように、下刃8に対する上刃7の進入深さDが0.7mm〜1.0mmとなるように上刃7と下刃8とが摺接し、積層フィルムF1が裁断される。
【0043】
ここで、図8は、従来のように、刃先が鋭利(80°未満)な上刃及び下刃を用いた場合の積層フィルムF1の裁断面の様子を示す図である。同図に示すように、従来の裁断方法で積層フィルムF1の裁断を行った場合、積層フィルムF1を裁断方向(上刃から下刃に向かう方向)に見たときに、上層から下層側に向かって、破断層31とせん断層32とが交互に形成される。また、始めの破断層31の裁断面にダレ33が生じ、最後の破断層31の裁断面に返り34が生じる。
【0044】
この従来の裁断方法では、上刃が積層フィルムF1に進入する際の切断性が過剰となるため、始めのせん断層32が第2の樹脂フィルム23にまで到達する。このため、第2の樹脂フィルム23において、せん断層32から破断層31に移行する界面35が生じ、積層フィルムF1の幅方向に沿って連続的なバリ36が発生することとなる。
【0045】
また、従来の裁断方法では、上刃7が進入することで、最外層となる第1の保護フィルム21が破断層31となる。このため、第1の保護フィルム21に折れ曲がりが生じ、第1の保護フィルム21と第1の樹脂フィルム22との剥離強度が接着強度に勝り、第1の保護フィルム21と第1の樹脂フィルム22との界面において、層剥がれ37が発生するおそれがある。
【0046】
これに対し、本実施形態の裁断方法では、上刃7の刃先7aの刃先角θ1が80°〜90°、好ましくは80°〜85°となっており、下刃8の刃先8aの刃先角θ2が80°〜90°、好ましくは85°〜90°となっている。また、下刃8に対する上刃7の進入深さDが0.7mm〜1.0mmとなっている。
【0047】
この裁断方法では、積層フィルムF1を裁断方向に見たときに、上層から下層側に向かって、破断層31とせん断層32とが交互に形成され、また、始めの破断層31の裁断面にダレ33が生じ、最後の破断層31の裁断面に返り34が生じる点では従来の裁断方法と同様である。しかしながら、この裁断方法では、図9に示すように、上刃7が積層フィルムF1に進入する際の切断性が抑制され、始めの破断層31とせん断層32との厚みが小さくなる。このため、第2の樹脂フィルム23において、破断層31からせん断層32に移行する界面38が生じ、長さ300μm未満のバリ39のみが断続的に含まれることとなる。
【0048】
また、せん断層32の厚さが従来に比べて厚くなり、最外層となる第1の保護フィルム21の裁断面が厚いせん断層32となる。これにより、上刃7が進入することで生じる第1の保護フィルム21の折れ曲がりが抑制され、第1の樹脂フィルム22からの第1の保護フィルム21の層剥がれを抑制できる。
【0049】
また、本実施形態に係る裁断方法では、下刃8に対する上刃7の寄せ量を0.1mm〜0.3mmとしている。これにより、上述した裁断条件によるバリ36の発生と層剥がれ37とを一層効果的に抑制できる。
【0050】
以下、本発明に係る積層フィルムの裁断方法の評価試験について説明する。
【0051】
この評価試験では、積層フィルムの原反を原材料から形成し、これを巻き取ることにより、幅480mm、長さ300mの原反ロールを製造した。そして、この原反ロールを裁断装置によって裁断し、150g/11mmの張力を付与しながら直径3インチの芯材に巻き取ることにより、幅11mm、長さ60mの分割ロールを製造した。上刃及び下刃の材質は、SKH2とし、下刃に対する上刃の寄せ量は0.15mmとした。
【0052】
分割ロールの裁断面の観察にあたっては、分割ロールから所定の長さのフィルムを切り出すと共に、裁断面を側面側から観察できるように所定の治具で固定を行い、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX−200)を用いて300倍の視野で撮像して、樹脂フィルムにおけるバリ(長さ300μmを超えるバリ)、及び最外層となる保護フィルムの層剥がれの有無を確認した。
【0053】
なお、分割ロールの裁断方向は、フィルムの上下端部のダレと返りを観察することで判別が可能である。また、破断層とせん断層とは、破断層には光沢がなく、裁断時の衝撃によりフィルムがちぎられたような形状をなすのに対し、せん断層には光沢があり、せん断が顕著な部分に裁断方向に沿って縦筋が入っていることで、判別が可能である。
【0054】
図10は、評価試験の結果を示す図である。同図に示すように、上刃の刃先の刃先角が80°〜90°、下刃の刃先の刃先角が85°〜90°、及び下刃に対する上刃の進入深さを0.7mm〜1.0mmとした実施例1〜9では、樹脂フィルムにおけるバリ及び最外層となる保護フィルムの層剥がれは、いずれも観察されなかった。一方、上刃の刃先の刃先角が実施例よりも鋭角である比較例1〜3では、いずれも樹脂フィルムでのバリが観察された。
【0055】
また、進入深さを0.3mmとした比較例4では、フィルムの裁断が完全になされず、進入深さを0.6mmとした比較例5では、樹脂フィルムでのバリが観察された。さらに、進入深さを1.1mmとした比較例6では、最外層となる保護フィルムの層剥がれが観察された。以上の結果から、本発明の裁断条件が、バリの発生及び層剥がれの双方を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0056】
1…裁断装置、7…上刃、7a…刃先、8…下刃、8a…刃先、21…第1の保護フィルム、22…第1の樹脂フィルム、23…第2の樹脂フィルム、24…第3の樹脂フィルム、25…第2の保護フィルム、31…破断層、32…せん断層、38…界面、39…バリ、D…進入深さ、F…積層フィルム、θ1…上刃の刃先角、θ2…下刃の刃先角、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの刃先の側面端部同士が摺接した状態で回転する下刃及び上刃の間に積層フィルムを通して裁断する積層フィルムの裁断方法であって、
下刃に摺接する刃先の刃先角が80°〜90°となる上刃と、前記上刃に摺接する刃先の刃先角が80°〜90°となる下刃とを用い、
前記下刃に対する前記上刃の進入深さが0.7mm〜1.0mmとなるように前記上刃と前記下刃とを摺接させることを特徴とする積層フィルムの裁断方法。
【請求項2】
前記下刃に摺接する刃先の刃先角が80°〜85°となる上刃を用いることを特徴とする請求項1記載の積層フィルムの裁断方法。
【請求項3】
前記上刃に摺接する刃先の刃先角が85°〜90°となる下刃を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の積層フィルムの裁断方法。
【請求項4】
前記下刃に対する前記上刃の寄せ量を0.1mm〜0.3mmとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の積層フィルムの裁断方法。
【請求項5】
前記積層フィルムは、引張強度が200MPa〜600MPaのフィルムを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の積層フィルムの裁断方法。
【請求項6】
前記積層フィルムは、樹脂フィルムを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の積層フィルムの裁断方法。
【請求項7】
前記積層フィルムは、前記樹脂フィルムを保護する保護フィルムを最外層として含むことを特徴とする請求項6のいずれか一項記載の積層フィルムの裁断方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層フィルムの裁断方法を用いて裁断されたことを特徴とする積層フィルム。
【請求項9】
樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムを保護する最外層の保護フィルムとの積層体を裁断装置で裁断してなる積層フィルムであって、
裁断面を裁断方向に見たときに、前記樹脂フィルムにおいて、破断層からせん断に移行する界面が形成されていることを特徴とする積層フィルム。
【請求項10】
樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムを保護する最外層の保護フィルムとの積層体を裁断装置で裁断してなる積層フィルムであって、
裁断面を裁断方向に見たときに、前記樹脂フィルムにおいて、長さ300μm未満のバリを断続的に含むことを特徴とする積層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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