説明

積層体およびその製造方法

【課題】ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、異物や残留溶剤等が滲出することがなく、また、不織布および多孔質膜の本来の性能を低下させることなく、不織布と多孔質膜とが強固に接着した積層体を提供する。
【解決手段】前記ポリオレフィン不織布および前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜の少なくとも一部で、前記ポリオレフィン不織布中の原子と、前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の原子との間に結合が形成されており、前記ポリオレフィン不織布および前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが接着剤を介さずに接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、さらに詳細には、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とを、接着剤を介さずに接着した積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の種々の高分子材料を繊維化したものウェッブ状に形成した不織布が広く使用されている。これら不織布は、使用する高分子材料の特性や繊維の特性に応じてさまざまな機能を発現し、その機能が発揮できるような用途に使用される。
【0003】
また、各種不織布はそのまま単独で使用されることもあるが、異なる高分子材料からなる不織布どうしを重ね合わせて不織布の積層体としたり、不織布とフィルムとを貼り合わせて、より高機能を発現できるような形態に加工することも行われている。このような積層体を形成する場合、接着剤(ラミネート樹脂)を用いて、二種の不織布を重ね合わせたり、不織布とフィルムとを重ね合わせて接着することが行われている。また、不織布やフィルムの材料によっては、ヒートシール加工、すなわち、熱を加えて、一方または両方の繊維ないしフィルムを軟化、溶融させて、互いの材料を接着することが行われている。
【0004】
しかしながら、異種材料からなる不織布ないしフィルムをラミネート樹脂を介して接着して積層体とした場合、ラミネート樹脂が不織布の開口部分を塞いでしまい、不織布本来の性能が低下してしまうことがあった。また、ラミネート樹脂成分が徐々に積層体から外部に溶出または揮発する場合があり、特に、安全性やクリーン性が重視される医療用分野においては、使用するラミネート樹脂によっては、不織布積層体に包装された内容物等を汚染してしまうことがあった。さらに、不織布積層体の使用分野によっては、長期使用によりラミネート樹脂自体が劣化することもあり、特に屋外等で使用される外装用途においては、ラミネート加工した積層体の耐候性が問題となることもあった。一方、不織布どうし、または不織布とフィルムとを貼り合わせてヒートシールして積層体を形成する場合には、ラミネート樹脂を使用しないため、上記のような問題は生じないものの、使用する材料によってはヒートシールできなかったり、接着強度が弱く実用に耐えないといった場合があった。
【0005】
ところで、放射線や電子線を用いて材料の表面改質を行うことが従来から行われている。例えば、特開2003−119293号公報(特許文献1)には、フッ素系樹脂に放射線を照射することにより架橋複合フッ素系樹脂が得られることが提案されている。また、Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127(非特許文献1)には、ポリテトラフルオロエチレンフィルムとポリイミドフィルムとを積層させて高温下で電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、互いを接着することが提案されている。また、Material Transactions Vol.50, No.7 (2009), pp1859-1863(非特許文献2)には、ポリカーボネート樹脂の表面をナイロンフィルムで覆い、その上から電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、ポリカーボネート樹脂表面にナイロンフィルムを接着する技術が提案されている。さらに、日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531(非特許文献3)には、シリコーンゴム上に置いたナイロンフィルムの上からEBを照射することにより、互いを接着できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−119293号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127
【非特許文献2】Material Transactions Vol.50, No. 7(2009), pp1859-1863
【非特許文献3】日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、今般、異種材料どうしを接着する場合であっても、貼り合わせる材料の表面に電子線を照射することにより、ラミネート樹脂等を用いることなく、互いを強固に接着できることを見いだした。そして、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜との積層体のように、従来、接着剤ないしヒートシール加工により互いを接着していた積層体であっても、電子線照射によれば、接着剤を使用しなくても、ポリオレフィン不織布側の原子とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜側の原子との間に共有結合または水素結合が形成されて、互いが強固に接着できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、異物や残留溶剤等が滲出することがなく、また、不織布および多孔質膜の本来の性能を低下させることなく、不織布と多孔質膜とが強固に接着した積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による積層体は、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが積層した積層体であって、
前記ポリオレフィン不織布および前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜の少なくとも一部で、前記ポリオレフィン不織布中の原子と、前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の原子との間に結合が形成されており、前記ポリオレフィン不織布および前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが接着剤を介さずに接着されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の態様として、前記ポリオレフィン不織布およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の原子に酸素原子または水酸基が結合しており、前記ポリオレフィン不織布中の酸素原子および/または水酸基と、前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の酸素原子または水酸基との間で結合が形成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の態様として、前記ポリオレフィン不織布が、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリメチルペンテンからなる繊維、または、これら樹脂を鞘とする複合繊維からなることが好ましい。
【0013】
また、本発明の別の態様としての製造方法は、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが積層した積層体を製造する方法であって、
前記ポリオレフィン不織布および/または前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜の少なくとも一方の面に電子線を照射し、
前記電子線が照射された前記ポリオレフィン不織布面および/またはポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜面を重ね合わせて接着する、ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0014】
また、前記ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とを重ね合わせる前および/または重ね合わせた後に電子線照射を行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明の別の態様として、前記接着を加圧して行うことが好ましく、また、前記接着を加熱して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが積層した積層体において、ポリオレフィン不織布中の原子と、ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の原子とが、直接または酸素原子を介して、結合が形成されているため、接着剤を介して接着していなくても、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが強固に接着した積層体が得られる。その結果、異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、不織布および多孔質膜の本来の性能を低下させることなく、不織布と多孔質膜とが強固に接着した積層体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の積層体の一実施形態を示した概略断面図である。
【図2】積層体の界面(接着面)を拡大した模式断面図である。
【図3】本発明による積層体の製造方法の一実施形態を示した概略模式図である。
【図4】製造工程の一部を拡大した概略模式図である。
【図5】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図6】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図7】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による積層体を、図面を参照しながら説明する。本発明による積層体は、図1に示すように、ポリオレフィン不織布1がポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2の少なくとも一方の表面に、接着剤を介さずに積層した構造を有する。
【0019】
本発明による積層体は、ポリオレフィン不織布1およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2の接着面の少なくとも一部で、ポリオレフィン不織布中の炭素原子と、ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の原子との間に結合が形成されることにより、ポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とが強固に接着されている。通常、ポリオレフィン不織布の表面にポリエステル不織布を積層しても、両者の間に水素結合や共有結合が形成されないため接着剤を使用するか、ヒートシールしなければ両者を接着することはできない。本発明においては、後記するように、ポリオレフィン不織布1および/またはポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2の表面に電子線を照射してラジカルを発生させて、図2に示すように、ポリオレフィン不織布1表面の原子とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2表面の原子との間に結合を形成する、ないしはポリオレフィン不織布1表面の炭素原子と、ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2表面の原子との間に、酸素原子を介して結合を形成することにより、接着剤を介することなくポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とを強固に接着したものである。また、電子線照射により発生したラジカルと空気中の酸素とが結合して、ポリオレフィン不織布1および/またはポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2の表面にはOH基が存在することがあり、その場合、ポリオレフィン不織布1側のOH基と、ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2側のOH基またはスルホニル基やエーテル部の酸素原子とが結合を形成する場合もある。なお、電子線照射によりラジカルの発生は、電子スピン共鳴装置(以下、ESRともいう。)を用いて、電子線照射後の不織布および多孔質膜に存在するフリーラジカル種を同定することにより、その発生を確認することができる。
【0020】
ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜との間に、原子間で結合が形成されていることは、X線光電子分析装置(以下、XPSともいう。)やフーリエ変換赤外分光装置(以下、FTIRともいう。)により確認することができる。例えば、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とを接着する前に、それぞれの不織布(繊維)および多孔質膜の表面状態をXPSにより測定することにより、接着前に、両表面にどのような原子が存在するか確認しておき、両者を電子線照射により接着して積層体とした後に積層体を強制的に剥離してポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とに分離し、再度、両者の表面状態をXPSにより測定してどのような原子が存在するか確認する。その結果、不織布の表面に多孔質膜由来の原子が存在するか、あるいは多孔質膜表面に不織布由来の原子が存在することを確認することで、両者間に結合が形成されているかどうかの確認ができる。また、FTIRを用いて、剥離した後の基材の表面に、もう一方の基材由来の結合が存在するかどうかを確認してもよい。
【0021】
また、電子線照射によりポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とを接着した積層体は、図2に示すように、上記した共有結合や水素結合等の結合が形成されているため、接着剤を全く使用しなくても、剥離を生じない積層体とすることができる。水素結合の存在の確認は、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積して剥離の有無を確認することにより行うことができる。水素結合のみによってポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが接着している場合、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積すると、両者の間に形成されていた水素結合が破壊されて水またはアルコールの水素原子または酸素原子と水素結合が再形成されるため、接着力がなくなり剥離する。よって、接着が、共有結合および水素結合によるものなのか、水素結合のみによるものなのかを、確認することができる。
【0022】
以下、本発明による積層体を構成するポリオレフィン不織布およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜について、説明する。
【0023】
<ポリオレフィン不織布>
本発明の積層体を構成するポリオレフィン不織布は、ポリオレフィン樹脂からなる繊維を不織布とすることにより得られる。ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等の単体、または、ポリプロピレンと低密度ポリエチレンとの混合物や、ポリプロピレンと高密度ポリエチレンとの混合物からなる樹脂を用いることができる。
【0024】
また、本発明において用いられるポリオレフィン不織布としては、芯鞘構造を有する複合繊維からなる不織布であってもよく、例えば、芯がポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等からなり、鞘が上記したポリオレフィン樹脂からなる複合繊維なども好適に使用することができる。
【0025】
上記したポリオレフィン樹脂には、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤等、従来公知の各種添加剤を適宜添加することができる。光安定剤、紫外線吸収剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、フェノール系、リン系、ヒンダードアミン系の光吸収剤や、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系の紫外線吸収剤が使用できる。
【0026】
上記した樹脂からなる繊維を不織布とするには、通常用いられているローラーカード、フラットカード等のカード機を用いて、定法によりウェッブを作製する。ウェッブからの不織布の製造は、目的とする不織布の用途等に応じて熱融着法、スパンボンド法、メルトブロー法、溶剤系によるフラッシュ紡糸法などの従来公知の方法を適宜選択して行えばよい。また、交絡させた繊維どうしを熱融着させて不織布としてもよい。ポリオレフィン不織布として、市販のものを使用してもよく、例えば、エルタスシリーズ(旭化成せんい株式会社製)やエルベス(ユニチカ株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0027】
本発明においては、積層されるポリオレフィン不織布の厚みは、概ね20〜800μm程度である。
【0028】
<ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜>
本発明の積層体を構成するポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜は、ポリエーテルスルホン樹脂を公知の方法により多孔質膜としたものであり、例えば特開昭60−41503号公報等に記載されているように、ポリエーテルスルホンを溶媒に溶解した製膜溶液から相分離法により作製することができる。
【0029】
製膜溶液としては、ジメチルアセテートやN,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジンなどの極性溶剤にポリエーテルスルホン樹脂を溶解させたものである。この製膜溶液を、ポリエステルフィルム等の支持体上に塗布して乾燥させた後、塗布膜を凝固液に浸漬し、乾燥することにより多孔質膜が得られる。製膜溶液に使用される上記の溶媒には、多孔質膜形成時の凝固速度を調節して、孔径や孔径分布を調節するためにメタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールやポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などを添加してもよい。
【0030】
凝固液としては一般的に水が用いられるが、ポリエーテルスルホンを溶解しない有機溶媒を用いても良い。これら有機溶媒としては、凝固速度や多孔質膜の孔径及びその分布を調節するために水と混和するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤等が挙げられる。これらの中では孔径の多孔質膜中の均一さの点からエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類やN−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤が好ましい。
【0031】
また、本発明においては、上記したポリオレフィン不織布との接着面が、ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜であればよく、したがって、ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜と他の機能性膜や基材フィルム等とを積層した積層フィルムを用いてもよい。
【0032】
ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜の厚さは、使用する用途にもよるが、概ね1μm〜5mm程度、特に、10〜300μm程度が好ましい。
【0033】
上記したようなポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とを重ね合わせて接着した積層体は、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがない。したがって、食品分野はいうまでもなく、医療分野で使用されている包装体、例えばシリンジ包装袋や粉末あるいは顆粒状の医薬品を充填包装するための包装体や各種フィルター等に好適に使用することができる。また、ラミネート樹脂加工やヒートシール加工を行わないため、接着により不織布および多孔質膜の開口部が塞がれることがないため、不織布および多孔質膜の本来の性能を低下させることもない。
【0034】
<積層体の製造方法>
次に、上記したような積層体を製造する方法を、図面を参照しながら説明する。先ず、上記したポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とを準備し(図3(1))、両不織布のいずれか一方または両方の、接着しようとする部分に電子線を照射する(図3(2))。その結果、図3(3)に示すように、電子線が照射された部分のみ、ポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とが接着される。
【0035】
本発明においては、不織布に電子線を照射した直後に、図4に示すようにローラー6等を用いて、重ね合わせた不織布1および多孔質膜2を押圧することが好ましい。不織布1の表面(すなわち、繊維の表面)および多孔質膜2の表面は、図4に示すようにミクロレベルで凹凸があるため、互いの表面を重ね合わせても完全に密着しておらず、両者の接触界面での接触面積が小さい。本発明においては、電子線を照射した直後にローラー6等で不織布1および多孔質膜2を押圧することにより、両者の接着面での接触面積が増加するため、密着性が向上する。
【0036】
ポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とを重ね合わせた後、両者1,2を押圧する際には、加熱しながら不織布1および多孔質膜2を押圧することが好ましい。加熱しながら押圧することにより、ポリオレフィン不織布1およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2の柔軟性が向上し、ポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2との界面(接着面)での接触面積をより増加させることができるため、密着性がより向上する。加熱する温度は、使用する不織布および多孔質膜の種類にもよるが、不織布および多孔質膜が熱変形できる温度であればよく、例えば、不織布を構成するポリオレフィン樹脂のガラス転移温度以上に加熱することができる。例えば、ポリオレフィン不織布としてポリプロピレン不織布を用いる場合には、加熱温度は80〜180℃、好ましくは100〜160℃である。加熱温度を高くしすぎると、発生したラジカルが失活してしまい、強固な結合を実現できなくなる。なお、押圧の力(接圧)を高くしてもよく、接圧を高くすることにより、加熱温度を低くすることができる。
【0037】
ポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とを重ね合わせて押圧するには、上記したようにヒートローラ6等を好適に使用できる。また、図4に示すように、重ね合わせた不織布および多孔質膜がヒートローラ6と支持ローラー7との間で圧接可能となるように、ヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置してもよい。このようにヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置することにより、積層体(不織布1と多孔質膜2の積層物)とヒートローラ6との接触を線接触に近づけて、ヒートローラ6からの熱により積層体に発生する変形を最小限に抑えることができる。
【0038】
図5は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。ポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とを重ね合わせて接着する工程において、両者1,2をそれぞれガイドローラにより電子線照射位置3まで導き、電子線4を両者1,2に照射した後にヒートローラ6により両者1,2を押圧する工程を連続的に行うものである。不織布1および多孔質膜2は、ロール状形態として供給されてもよい。
【0039】
電子線照射装置3から不織布1および多孔質膜2に電子線4を照射する場合、厚みがより小さい方側から電子線4を照射することが好ましい。電子線は加速電圧が増加するほどその透過力も増大する性質を有しているため、不織布または多孔質膜のいずれかの側から電子線を照射した場合に、不織布および多孔質膜の厚さによっては、他方の不織布(または多孔質膜)まで電子線が届かないことがある。その場合には、電子線の加速電圧を増加させることにより、他方の不織布(多孔質膜)の深部まで電子線を到達させることができるが、電子線エネルギーが高くなるにしたがって、不織布(多孔質膜)自体に不必要な照射が行われ劣化させてしまう。そのため、厚肉の多孔質膜と薄肉の不織布とを重ね合わせて接着する際には、電子線エネルギーをそれほど増大させることなく、薄肉の不織布側から電子線を照射するのが好ましい。例えば、ポリオレフィン不織布の厚みが25μm以下であり、ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜の厚みが50μm以上である場合は、ポリオレフィン不織布側から電子線を照射する。このような電子線照射方法を採用することにより、不織布および多孔質膜の劣化を最小限に留めることができる。
【0040】
重ね合わせる不織布1および多孔質膜2が両方とも厚肉である場合には、図5に示すように両側から電子線が照射できるように、電子線照射装置3と対向する位置に、別の電子線照射装置3’を設けてもよい。この態様によれば、不織布および多孔質膜の厚みに応じて電子線の照射エネルギーを調整することができるため、不織布および多孔質膜を劣化させることなく不織布と多孔質膜とを接着することができる。
【0041】
図6は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施態様においては、電子線の照射が、ポリオレフィン不織布1とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2とを重ね合わせる前に行われる。先ず、供給されてきポリオレフィン不織布1およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2は、両者1,2が重ね合わされる前に、電子線照射装置3(3’)により、不織布1(多孔質膜2)へ電子線4(4’)が照射される。図5に示した実施形態では、不織布1(多孔質膜2)の電子線照射側と反対側の面どうしが対向するように両者1,2を重ね合わせたのに対し、図6に示す実施態様では、不織布1および多孔質膜2の電子線照射側の面どうしが対向するように両者1,2を重ね合わせる点が相違している。このように、不織布1へ電子線を照射した側の面に他方の多孔質膜2を重ね合わせることにより、不織布および多孔質膜の厚みによらず、電子線の照射エネルギーをより小さくすることができ、その結果、不織布および多孔質膜の電子線照射による劣化をより低減することができる。
【0042】
また、図6に示した実施態様においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図5に示した実施態様と同様に、ポリオレフィン不織布1およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2のそれぞれへ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、より不織布および多孔質膜の劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0043】
図7は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施形態においては、ポリオレフィン不織布1およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2を重ね合わせてヒートローラ6により押圧した後に電子線照射を行うものである。先ず、供給されてきたポリオレフィン不織布1およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2は、ガイドローラに導かれて重ね合わされる。続いて、ヒートローラ6と支持ローラー7とにより不織布1および多孔質膜2が押圧されるとともに、ヒートローラ6により加熱が行われる。その後、電子線照射装置3によりポリオレフィン不織布1およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜2の表面に電子線4が照射されて両者1,2の接着が連続的に行われる。また、図7に示した実施形態においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図5及び6に示した実施態様と同様に両者1,2へそれぞれ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、より不織布および多孔質膜の劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0044】
電子線の照射エネルギーは、上記したように不織布および多孔質膜の厚み等に応じて適宜調整する必要がある。本発明においては、20〜750kV、好ましくは25〜400kV、より好ましくは30〜300kV程度の照射エネルギー範囲で電子線を照射するが、より低い照射エネルギーとすることが好ましく、40〜200kVとすることができる。このように低い照射エネルギーとすることにより、不織布および多孔質膜の劣化を抑制できるだけでなく、不織布および多孔質膜の表面のラジカル発生がより効率的におこるため、より強固な結合を実現することができる。また、電子線の吸収線量は、10〜800kGy、好ましくは25〜600kGyの範囲で行う。
【0045】
このような電子線照射装置としては、従来公知のものを使用でき、例えばカーテン型電子照射装置(LB1023、株式会社アイ・エレクトロンビーム社製)やライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB−ENGINE、浜松ホトニクス株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0046】
電子線を照射する際には、酸素濃度を100ppm以下とすることが好ましい。酸素存在下で電子線を照射するとオゾンが発生するため環境に悪影響を及ぼす場合があるからである。酸素濃度を100ppm以下とするには、真空下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、不織布に電子線を照射すればよく、例えば、電子線照射装置内を窒素充填することにより、酸素濃度100ppm以下を達成することができる。
【0047】
上記した接着方法によって得られた、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜と積層した積層体は、従来のラミネート樹脂を用いて接着した場合と同等またはそれ以上の接着強度を実現できる。また、ラミネート樹脂等を全く用いていないため、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、光遮光性やガス非透過性にも優れるものとなる。
【実施例】
【0048】
<ポリオレフィン不織布およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜の準備>
ポリオレフィン不織布として、厚さ160μmのポリオレフィン不織布(エルベス T0303WDO、ユニチカ株式会社製)を準備し、また、特開昭60−41503号公報に記載の方法にしたがって、厚み100μmのポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜を準備した。
【0049】
実施例1
<積層体の作製>
上記したポリオレフィン不織布およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜を、それぞれ150mm×75mmの大きさに切り出した試料を準備し、電子線照射装置(ライン照射型低エネルギー電子線照射装置EES−L−DP01、浜松ホトニクス株式会社製)のサンプル台に並置した。この際、電子線が試料に照射されない部分を設けるために、両試料の一方の端部5〜10mm程度にマスキングしておいた。
【0050】
次いで、電子照射線装置のチャンバー内の酸素濃度が100ppm以下となるように窒素ガスでパージした後、下記の電子線照射条件により、試料の表面に電子線を照射した。
電圧:40kV
吸収線量:200kGy
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0051】
電子線を照射した後、試料を装置内から取り出し、すぐに両者の電子線照射面側が対向するようにして重ね合わせ、熱ラミネート法により、両者を接着して積層体を得た。
【0052】
比較例1
電子照射を行わなかった以外は実施例1と同様にして積層体を得た。しかしながら、得られた積層体はポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とは接着していなかった。
【0053】
<積層体の接着強度の評価>
得られた積層体を幅15mmの短冊状になるように切り出し、引張試験機(テンシロン万能材料試験機RTC−1310A、ORIENTEC社製)を用いて、50mm/分の速度で、90度剥離試験を行った。なお、上記したように比較例1の積層体は、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが接着しておらず、積層体の接着強度を測定することができなかった。評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0054】
また、実施例1の積層体の接着が共有結合によるものかどうかと間接的に調べるために、得られた積層体を水中で保管し、その後、上記と同様にして積層体の接着強度を測定した。評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の評価結果からも明らかなように、実施例1の積層体は、水中保管後も、空気中で測定した接着強度と同様の接着強度を有している。この結果から、実施例1の積層体は、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが水素結合や分子間力のみによって接着しているものではないことがわかる。したがって、間接的にではあるが、ポリオレフィン不織布の原子とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の原子との間で共有結合が形成されていると推認できた。
【符号の説明】
【0057】
1 ポリオレフィン不織布
2 ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜
3、3’ 電子線照射装置
4、4’ 電子線
5 不織布基材接触界面
6 ヒートローラ
7 支持ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが積層した積層体であって、
前記ポリオレフィン不織布および前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜の少なくとも一部で、前記ポリオレフィン不織布中の原子と、前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の原子との間に結合が形成されており、前記ポリオレフィン不織布および前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが接着剤を介さずに接着されていることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記ポリオレフィン不織布およびポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の原子に酸素原子または水酸基が結合しており、前記ポリオレフィン不織布中の酸素原子および/または水酸基と、前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜中の酸素原子または水酸基との間で結合が形成されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ポリオレフィン不織布が、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリメチルペンテンからなる繊維、または、これら樹脂を鞘とする複合繊維からなる、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の、ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とが積層した積層体を製造する方法であって、
前記ポリオレフィン不織布および/または前記ポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜の少なくとも一方の面に電子線を照射し、
前記電子線が照射された前記ポリオレフィン不織布面および/またはポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜面を重ね合わせて接着する、ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン不織布とポリエーテルスルホン樹脂多孔質膜とを重ね合わせる前および/または重ね合わせた後に電子線照射を行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記接着を加圧して行う、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記接着を加熱して行う、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158049(P2012−158049A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18608(P2011−18608)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】