説明

積層体

【課題】 樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇を抑制することができると共に、積層体製造時の作業性を向上させ、かつ基体に対する積層材の接着強度を向上させることができる積層体を提供する。
【解決手段】 積層体10は、樹脂発泡体よりなる基体11上に水と反応して硬化する接着基材による接着層12を介して積層材13が積層接着されて構成されている。樹脂発泡体の原料には加熱により水を放出する吸水剤14が含まれ、樹脂発泡体の製造時には吸水剤に含まれる水の一部が放出されて樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇が抑制されるように構成されている。更に、得られた基体11上に接着基材を塗布した後、樹脂発泡体の製造時における加熱温度より高い温度で加熱し、吸水剤14中に残存する水を放出させて接着基材と反応硬化させて接着層12を形成し、その接着層12を介して積層材13を基体11に接着するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のボンネットの内側のフードサイレンサー又は自動車の室内の天井材として使用される積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用のフードサイレンサーや天井材として用いられる積層体は、ポリウレタン樹脂発泡体よりなる基体上に水分硬化型の接着剤によって積層材としての表皮材を接着することで製造されている。その積層体の製造工程について述べると、まず基体表面に接着剤としてのポリイソシアネートをスプレーにて塗布する。次いで、その上に水又は硬化剤を含む水をスプレーにて塗布し、その上に表皮材を載せる。続いて、加熱プレス成形機で一定時間加熱、加圧した後、脱型することにより目的とする積層体が得られる(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2002−144976号公報(第1頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ポリイソシアネートは水との反応性が高いことから、基体表面に塗布されたポリイソシアネートの上に水が塗布されると、ポリイソシアネートはその水と常温でも反応する。そのため、従来の積層体の製造工程においては、ポリイソシアネートと水との硬化反応が進行する前に次の作業である表皮材を重ね合せる作業、それを加熱プレス成形機にセットする作業等を行う必要がある。すなわち、水分硬化型の接着剤のポットライフが短いため、作業性が悪いという問題があった。更には、接着剤としてのポリイソシアネートを基体表面に塗布した後加熱プレス成形機で加熱、加圧するまでの時間によって、基体に対する表皮材の接着強度が低下する場合があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇を抑制することができると共に、積層体製造時の作業性を向上させ、かつ基体に対する積層材の接着強度を向上させることができる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の積層体は、樹脂発泡体からなる基体上に水と反応して硬化する接着基材による接着層を介して積層材が積層接着されて構成されている積層体であって、前記樹脂発泡体の原料には加熱により水を放出する吸水剤が含まれ、樹脂発泡体の製造時には吸水剤に含まれる水の一部が放出されて樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇が抑制されると共に、得られた基体上に前記接着基材を塗布した後、樹脂発泡体の製造時における加熱温度より高い温度で加熱し、吸水剤中に残存する水を放出させて接着基材と反応硬化させて接着層を形成し、その接着層を介して積層材を基体に積層接着して構成されていることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2に記載の発明の積層体は、請求項1に係る発明において、接着基材はポリイソシアネートであることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明の積層体は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記吸水剤は、水が吸水保持されて加熱により蒸発して放出される吸水体と、加熱分解によって水が生成されて放出される無機化合物の水和物との少なくとも一方を含むものであることを特徴とするものである。
【0007】
請求項4に記載の発明の積層体は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明において、前記吸水剤が吸水量の異なる複数のもので構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項5に記載の発明の積層体は、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明において、前記樹脂発泡体が連続気泡型の樹脂発泡体であることを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明の積層体は、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明において、自動車のボンネットの内側に設けられるフードサイレンサー又は自動車の室内の天井材として用いられることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の積層体は、樹脂発泡体よりなる基体上に水と反応して硬化する接着基材による接着層を介して積層材が積層接着されて構成されている。前記樹脂発泡体の原料には加熱により水を放出する吸水剤が含まれ、樹脂発泡体の製造時には吸水剤に含まれる水の一部が放出されて樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇が抑制される。得られた基体上には接着基材が塗布され、樹脂発泡体の製造時における加熱温度より高い温度で加熱され、吸水剤中に残存する水を放出させ接着基材と反応硬化させて接着層を形成し、その接着層を介して積層材が基体に積層接着される。従って、樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇を抑制することができると共に、積層体製造時の作業性を向上させ、かつ基体に対する積層材の接着強度を向上させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明の積層体においては、接着基材はポリイソシアネートであることから、請求項1に係る発明の効果に加え、水分に対する反応が速やかで接着速度及び接着強度を向上させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明の積層体においては、吸水剤は水が吸水保持されて加熱により蒸発して放出される吸水体と、加熱分解によって水が生成されて放出される無機化合物の水和物との少なくとも一方を含むものであることから、吸水剤に含まれる水の一部が樹脂発泡体の製造時に放出され、残存する水が積層体の製造時に放出される。従って、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を向上させることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明の積層体においては、吸水剤が吸水量の異なる複数のもので構成されている。このため、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、樹脂発泡体の製造時に放出される水の量と積層体製造時に放出される水の量とを勘案し、吸水剤に含まれるべき水の量を容易に調節することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明の積層体においては、樹脂発泡体が連続気泡型の樹脂発泡体である。このため、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加え、積層体は良好な吸音性、柔軟性及び弾力性を発揮することができる。
【0014】
請求項6に記載の発明の積層体においては、自動車のボンネットの内側に設けられるフードサイレンサー又は自動車の室内の天井材について、請求項1から請求項5のいずれか一項に係る発明の効果を有効に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の積層体10は、樹脂発泡体よりなる基体11上に水と反応して硬化する接着基材による接着層12を介して積層材13が積層接着されて構成されている。樹脂発泡体の原料には加熱により水を放出する吸水剤が含まれ、樹脂発泡体の製造時には吸水剤に含まれる水の一部が放出されて樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇が抑制されるようになっている。しかも、得られた基体11上に前記接着基材を塗布した後、樹脂発泡体の製造時における加熱温度より高い温度で加熱し、吸水剤中に残存する水を放出させ接着基材と反応硬化させて接着層12を形成し、その接着層12を介して積層材を基体11に接着するようになっている。従って、基体11を構成する樹脂発泡体中には吸水剤14が含まれている。
【0016】
前記接着基材は、加熱によって吸水剤14から放出された水と反応して硬化するように構成され、湿気硬化型接着剤とも称される。接着基材は、水(水分)と反応して硬化する化合物で、例えばポリイソシアネート、ポリイソシアネートとポリオールを付加重合させて得られるイソシアネート末端プレポリマー、変性シリコーン(1液型又は2液型)等が挙げられる。これらのうち、水との反応性が高く、接着性に優れている点からポリイソシアネートが好ましい。ポリイソシアネートとしては、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらの変性物等が用いられる。
【0017】
この接着基材の使用量(塗布量)は、接着基材の種類、基体11及び積層材13の種類等によって変わるが、例えば30〜70g/m2の範囲に設定される。接着基材の使用量が30g/m2未満の場合には、接着基材の使用量が少なくなり過ぎて基体11に対する積層材の接着強度が不足するおそれがある。逆に、70g/m2を越える場合には、全ての接着基材を硬化させるために十分な水を必要とする一方、水が不足するときには接着基材の硬化が不十分となる。
【0018】
次に、前記吸水剤14は、水を含み加熱によってその水が放出される化合物である。この場合の水は結晶水、遊離水等のいずれであってもよい。吸水剤14としては、水が吸水保持され加熱により蒸発して放出される吸水体と、加熱分解によって水が生成されて放出される無機化合物の水和物とに分けられる。これらは、それぞれ単独で、或いは両者を組合せて用いることができる。更には、それぞれを複数組合せて用いることができる。吸水剤14を吸水量の異なる複数のもので構成することにより、樹脂発泡体の製造時に放出される水の量と積層体10の製造時に放出される水の量とを勘案し、吸水剤14に含まれるべき水の量を容易に調節することができる。加えて、吸水剤14を放出温度の異なる複数種のもので構成することにより、樹脂発泡体の製造時における発熱温度の抑制と、基体11に対する積層材13の接着強度の向上とを容易に行うことができる。
【0019】
吸水体としては、水を含む(メタ)アクリル系吸水性樹脂、水を含む多孔質体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、デンプン等が用いられる。水を含む(メタ)アクリル系吸水性樹脂は、(メタ)アクリル酸単位又は(メタ)アクリル酸塩単位を主構成単位とする水不溶性の(メタ)アクリル系吸水性樹脂である。尚、(メタ)アクリルは、アクリルとメタクリルの双方を意味する略号である。また、(メタ)アクリル酸単位は(メタ)アクリル酸を重合した後の残基を意味し、(メタ)アクリル酸塩単位は(メタ)アクリル酸塩を重合した後の残基を意味する。水を含む(メタ)アクリル系吸水性樹脂としては、ポリアクリル酸ナトリウム等も挙げられる。
【0020】
上記の(メタ)アクリル酸塩を形成する塩としてはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。この(メタ)アクリル系吸水性樹脂は、例えばアクリル酸を水媒体中で架橋剤の存在下に重合し、得られたゲル状重合体をアルカリ金属の水酸化物で中和することにより製造される。架橋剤としては、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物、エチレン性不飽和基と反応性官能基とを有する化合物、反応性官能基を2個以上有する化合物等が用いられる。この架橋剤として具体的には、N,N−メチレンビス(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル系吸水性樹脂の例としては、ポリアクリル酸ナトリウムの架橋物〔三洋化成工業(株)製、アクアパール〕が挙げられる。このポリアクリル酸ナトリウムの架橋物は、吸水される水の量に応じて膨潤する。
【0021】
水を含む多孔質体としては、ゼオライト(結晶アルミノシリケートの含水アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩)、シリカゲル(SiO2・nH2O)、珪藻土、活性炭等が挙げられる。ゼオライトは自重の20質量%まで吸水が可能で、100℃以上に加熱されると、そのうちの10質量%の水が放出され、150℃で全ての水が放出される。シリカゲルは、自重の80質量%まで吸水が可能で、100℃以上に加熱されると水が放出される。
【0022】
一方、無機化合物の水和物としては、石膏の水和物、硫酸鉄の1水和物から5水和物(FeSO4・H2OからFeSO4・5H2O、分解温度100〜130℃)等が用いられる。無機化合物の水和物に含まれる水和水は、固体結晶として常温で安定に存在するものであり、結晶水である。石膏の水和物としては、例えば半水石膏(硫酸カルシウム・0.5水和物、CaSO4・0.5H2O、分解温度163℃)、二水石膏(硫酸カルシウム・2水和物、CaSO4・2H2O、分解温度128〜163℃)等が挙げられる。
【0023】
吸水剤14に吸水される水の量は、ポリオール100質量部に対して5〜40質量部であることが好ましい。この水は、予め吸水剤14に接触、保持され、発泡体成形時に一定温度以上で蒸発し、その蒸発潜熱で冷却効果をもたらすものである。水の量が5質量部未満の場合にはポリウレタン樹脂発泡体原料の発泡及び反応時における発熱を抑制する効果が不十分であり、40質量部を越える場合にはポリウレタン樹脂発泡体原料の発泡及び反応時に水が吸水剤14の表面に染み出して発泡剤として機能するおそれがある。
【0024】
そして、吸水剤14に含まれる水は、ポリウレタン樹脂発泡体の製造後に、ポリオール100質量部を基準にして1〜20質量部残存していることが望ましい。この水の量が1質量部未満の場合には、接着基材の硬化に必要な水が不足する傾向になる。一方、20質量部を越える場合には、接着基材の硬化に使用されない水が多くなり、その水を蒸発させるためのエネルギーが必要になる等の無駄が生じて好ましくない。
【0025】
次に、積層体10は、基体11上に前述の接着層12を介して積層材13が積層接着されて構成されている。基体11としては、ポリウレタン樹脂発泡体、ポリオレフィン発泡体等の樹脂発泡体が用いられる。これらのうち、例えば自動車のボンネットの内側に設けられるフードサイレンサー、自動車の室内の天井材等として用いるために、ポリウレタン樹脂発泡体が好ましい。
【0026】
このポリウレタン樹脂発泡体(以下、単に発泡体ともいう)は以下のようにして製造される。すなわち、ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン原料を反応させて発泡及び硬化させることにより製造される。この発泡体は、常温大気圧下に発泡、硬化させて得られるスラブ発泡体及び成形型内にポリウレタン樹脂発泡体の原料(反応混合液)を注入、型締めして型内で発泡、硬化させて得られるモールド発泡体のいずれの方法により製造されるものであってもよい。
【0027】
ここで、前記ポリウレタン樹脂発泡体の原料について説明する。
ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。これらのうち、ポリイソシアネートとの反応性に優れているという点と、ポリエステルポリオールのように加水分解をしないという点から、ポリエーテルポリオールが好ましい。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、それらの変性体等が用いられる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0028】
ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、更にエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、更にエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオール中のポリエチレンオキシド単位は10〜30モル%程度である。ポリエチレンオキシド単位の含有量が多い場合には、その含有量が少ない場合に比べて親水性が高くなり、極性の高い分子、ポリイソシアネート化合物等との混合性が良くなる。その結果、反応性が高くなる。このポリオールは、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0029】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが用いられる。
【0030】
前記ポリオールと反応させるポリイソシアネートはイソシアネート基を複数個有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらの変性物等が用いられる。ポリイソシアネートのイソシアネートインデックスは100以下又は100を越えてもよいが、通常90〜130程度の範囲である。ここで、イソシアネートインデックスは、ポリオールの水酸基及び発泡剤としての水に対するポリイソシアネートのイソシアネート基の比を百分率で表したものである。
【0031】
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させてポリウレタン樹脂発泡体とするためのもので、例えば水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤が水の場合には、ポリウレタン樹脂発泡体の密度を20〜40kg/m3にするため、その配合量をポリオール100質量部に対して3〜5質量部とすることが好ましい。水の配合量が3質量部未満の場合には発泡が十分ではなく、5質量部を越える場合には発熱温度が高くなり過ぎるおそれがある。
【0032】
触媒はポリオールとポリイソシアネートとのウレタン化反応を促進するためのものであり、具体的にはトリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の3級アミン、オクチル酸スズ(スズオクトエート)等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。ポリウレタン原料にはその他必要に応じて、整泡剤、架橋剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤、可塑剤等が配合される。整泡剤としては、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。
【0033】
本実施形態の積層体10を特に自動車のボンネットの内側に設けられるフードサイレンサー、自動車の室内の天井材等の用途に用いる場合、吸音性、柔軟性、弾力性等の機能を向上させるために連続気泡型の樹脂発泡体であることが好ましい。更に、連続気泡型の樹脂発泡体として、半硬質で連続気泡型のポリウレタン樹脂発泡体であることが好ましい。このようなポリウレタン樹脂発泡体を得るためには、例えばポリオールとして分子量の小さいもの(水酸基価の大きいもの)と分子量の大きいもの(水酸基価の小さいもの)とを組合せ、整泡剤としてシリコーン化合物を用いる。これにより、発泡硬化時に破泡させて連続気泡型発泡体とすることができる。更に、ポリオールとして架橋剤となる多官能ポリオール等を用い、常温、大気圧下でスラブ発泡体を製造し、それをシート状に切り出すことにより半硬質で連続気泡型のポリウレタン樹脂発泡体が製造される。
【0034】
前記のように、ポリウレタン原料を反応させて発泡及び硬化させることによりポリウレタン樹脂発泡体を製造するが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオールとポリイソシアネートとの付加重合反応(ウレタン化反応)、ポリイソシアネートと発泡剤としての水との泡化(発泡)反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネートとの架橋(硬化)反応である。ポリウレタン樹脂発泡体を製造する場合には、ポリオールとポリイソシアネートとを直接反応させるワンショット法或はポリオールとポリイソシアネートとを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオールを反応させるプレポリマー法のいずれも採用される。
【0035】
ポリウレタン樹脂発泡体の製造時における加熱温度は70〜170℃であることが好ましい。加熱温度が70℃未満の場合にはポリウレタン原料の発泡及び硬化が十分に進行せず、170℃を越える場合には発泡体の酸化劣化(スコーチ)が起きて発泡体が着色するおそれがある。
【0036】
このようにして得られるポリウレタン樹脂発泡体は、JIS K6400に準じて測定した密度が20〜40kg/m3の範囲であることが好ましい。この密度が20kg/m3未満の場合にはポリウレタン樹脂発泡体の剛性が低下し、40kg/m3を越える場合にはポリウレタン樹脂発泡体の吸音性等の物性が低下する。また、ポリウレタン樹脂発泡体は、JIS K6767に準じて測定した圧縮硬度が15〜25(N/cm2)であることが好ましい。圧縮硬度が15(N/cm2)未満の場合には圧縮硬度が小さくなり過ぎる一方、25(N/cm2)を越える場合には圧縮硬度が高くなり過ぎ、いずれも場合にもフードサイレンサー、天井材等の用途には不向きになる。
【0037】
次に、前記基体11上に接着されて積層体10を形成するための積層材13(表皮材)は、目的(用途)に応じて適宜選択されるが、例えば不織布、編み物、樹脂フィルム、塩化ビニル樹脂製のレザー等が用いられる。
【0038】
積層体10を製造する場合には、まず前記基体11上に接着基材を塗布し、その上に積層材13を重ね合せる。それを例えば加熱プレス成形機にセットし、加熱、加圧を行うことにより吸水剤14中に残存する水が放出される。そして、接着基材がその水と反応して接着層12を形成し、その接着層12を介して積層材13が基体11に接着積層され、目的とする積層体10が得られる。加熱温度は、吸水剤14から水を効果的に放出させ、接着基材を反応、硬化させるために、150〜200℃であることが望ましい。この場合の加熱温度は、前記樹脂発泡体の製造時における加熱温度より高い温度に設定する必要がある。加熱温度が150℃未満の場合には吸水剤14から接着に必要とされる十分な水を放出させることができず、200℃を越える場合には樹脂発泡体が劣化するおそれがある。
【0039】
さて、基体11としてのポリウレタン樹脂発泡体を製造する場合には、例えば分子量(水酸基価)の異なる複数のポリエーテルポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤としての水、アミン触媒及び整泡剤としてシリコーン化合物、更には水を吸水させたゼオライトとポリアクリル酸塩とを混合してポリウレタン樹脂発泡体原料を調製する。そして、ポリウレタン樹脂発泡体原料中のポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとを反応させると共に、ポリイソシアネートと水とを反応させて発泡させ、更に硬化させることにより半硬質連続気泡型のポリウレタン樹脂発泡体が製造される。
【0040】
次に、ポリウレタン樹脂発泡体の厚みが例えば10mmとなるように切断し、その表面に対し、接着基材としてのポリイソシアネートを例えば50g/m2の塗布量にて塗布する。更に、その上に積層材13として不織布をその目付け量が例えば100g/m2となるものを重ね合せる。そして、加熱プレス成形機で厚みが例えば5mmとなるように、180℃で90秒間プレス成形を行うことにより、基体11上に接着層12を介して積層材13が積層接着された積層体10が得られる。
【0041】
この場合、接着層12を形成するために、基体11上に接着基材を塗布すればよく、従来のように接着剤を塗布した後に水を塗布する二重の操作を必要としない。また、吸水剤14中に含まれる水は常温では放出されず、ポリウレタン樹脂発泡体の製造時にはその一部のみが放出され、発泡、硬化に伴う温度上昇が抑えられる。更には、加熱プレス成形機で180℃に加熱されたとき、吸水剤14中の残りの水が放出され、接着基材としてのポリイソシアネートがその水と速やかに反応して硬化し、接着層12が形成される。その接着層12に基づいて、積層材13が基体に対して十分な接着力をもって接着される。
【0042】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の積層体10は、連続気泡型の発泡体であるポリウレタン樹脂発泡体よりなる基体11上に水と反応して硬化する接着基材による接着層12を介して積層材13が積層接着されて構成されている。ポリウレタン樹脂発泡体の原料には加熱により水を放出する吸水剤14が含まれ、ポリウレタン樹脂発泡体の製造時には吸水剤14に含まれる水の一部が放出されてポリウレタン樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇が抑制される。得られた基体11上には接着基材が塗布され、ポリウレタン樹脂発泡体の製造時における加熱温度より高い温度で加熱され、吸水剤14中に残存する水を放出させて接着基材と反応硬化させて接着層12を形成し、その接着層12を介して積層材13が基体11に接着される。
【0043】
従って、ポリウレタン樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇を抑制することができると共に、積層体10製造時の作業性を向上させ、かつ基体11に対する積層材13の接着強度を向上させることができる。しかも、ポリウレタン樹脂発泡体は連続気泡型の樹脂発泡体であるため、積層体10は良好な吸音性、柔軟性及び弾力性を発揮することができる。
【0044】
・ また、前記接着基材がポリイソシアネートであることから、水分に対する反応が速やかで接着速度及び接着強度を向上させることができる。
・ 更に、吸水剤14は水が吸水保持されて加熱により蒸発して放出される吸水体と、加熱分解によって水が生成されて放出される無機化合物の水和物との少なくとも一方を含むものであることから、吸水剤14に含まれる水の一部が樹脂発泡体の製造時に放出され、残存する水が積層体10の製造時に放出される。従って、上記の効果を向上させることができる。
【0045】
・ 前記吸水剤14は吸水量の異なる複数のもので構成されることにより、連続気泡発泡体の製造時に放出される水の量と積層体10の製造時に放出される水の量とに基づいて、吸水剤14に含まれるべき水の量を容易に調節することができる。
【0046】
・ 加えて、前記積層体10を、自動車のボンネットの内側に設けられるフードサイレンサー又は自動車の室内の天井材に用いることにより、これらの用途に前記の効果を有効に発揮させることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
まず、各実施例及び比較例で用いた原材料について以下に示す。
<基体11としての発泡体の製造>
次の組成を有するポリウレタン樹脂発泡体の原料を調製した。すなわち、ポリウレタン樹脂発泡体の原料は、ポリエーテルポリオール〔G700、旭電化(株)製、3官能、水酸基価240(mgKOH/g)〕40質量部、ポリエーテルポリオール〔FA703、三洋化成工業(株)製、3官能、水酸基価34(mgKOH/g)〕50質量部、ポリエーテルポリオール〔EDP300、旭電化(株)製、4官能、水酸基価760(mgKOH/g)〕10質量部、水4質量部、アミン触媒〔カオライザーNo25、花王(株)製〕0.2質量部、シリコーン界面活性剤〔Y6827、日本ユニカー(株)製〕1質量部、ポリイソシアネート〔MR200、MDIプレポリマー、イソシアネート基31質量%、日本ポリウレタン工業(株)製〕116.4質量部(イソシアネートインデックス110)、更にゼオライト〔モレキュラーシーブ3A、ユニオン昭和(株)製〕、ポリアクリル酸塩〔アクアパールA3、三洋化成工業(株)製〕及び水を表1に示す量(質量部)だけ配合したものである。但し、ゼオライト、ポリアクリル酸塩及び水は予め混合したものを用いた。
【0048】
そして、ポリウレタン樹脂発泡体の原料を縦、横及び深さが各400mmの発泡容器内に注入し、常温、大気圧下で発泡させた後、加熱炉を通過させて加熱反応(硬化)させることによりスラブ発泡体を得た。実施例1〜3のスラブ発泡体は、いずれも100%連続気泡型の発泡体であった。また、発泡したスラブ発泡体の中心に熱電対を差し込んで発熱温度(℃)を測定した。
【0049】
得られたスラブ発泡体を切り出すことによってシート状のポリウレタン樹脂発泡体を製造した。外観は、スラブ発泡体を切り出したときの外観を目視により判断した。この発泡体について、JIS K6400に準拠して得られる密度(kg/m3)、JIS K6767に準拠して得られた圧縮硬度(N/cm2)及び下記に示す吸水残存量を測定した。上記の密度、圧縮硬度、発熱温度、吸水残存量及び外観の結果を表1に示した。
(吸水残存量の測定)
縦、横400mm、厚み400mmのポリウレタン樹脂発泡体を150℃の恒温槽に1時間放置し、その前後に変化した質量を、ポリオール100質量部に対する数値に換算した値を示す。この吸水残存量は水であり、積層体10の製造時における接着基材の反応硬化に使用される。
<積層体10の製造>
基体11としてポリウレタン樹脂発泡体の一辺が300mmで厚みが10mmのものを用い、積層材13として不織布の目付け量が100g/m2のものを用いた。そして、発泡体上に接着基材として前記ポリイソシアネート〔MR200、日本ポリウレタン工業(株)製〕を50g/m2塗布した。その後、加熱プレス成形機で厚み5mmのスペーサを用いて180℃で90秒間プレス成形を行い、積層体10を得た。但し、比較例1では、水を含む吸水剤14を使用せず、比較例2では吸水剤14としてゼオライトのみを10質量部用い、比較例3では吸水剤14としてゼオライト及びポリアクリル酸塩を用いたが、水の量を4質量部とした。
【0050】
得られた積層体10について成形性及び剥離強度試験を下記に示す方法で測定した。それらの結果を表1に示した。
(積層体10の成形性)
積層体10の厚みが5.0mm±0.5mmの範囲に入り、かつ外観の不具合のないものを良好とした。
(剥離強度試験)
積層体10を幅25mm、長さ150mmに切断し、発泡体と不織布とをそれぞれ剥離強度試験機のチャックに取付け、180度反対方向に200mm/minの剥離速度で引っ張って180度剥離強度試験を実施した。そして、発泡体の材料破壊を○、界面剥離を×として評価した。
【0051】
【表1】

表1に示したように、実施例1〜3においては、基体11としてポリウレタン樹脂発泡体の製造時における発熱温度が98〜128℃という低い温度を示し、積層体10の成形性及び外観も良好であった。更に、積層体10の剥離強度試験の結果がいずれも材料破壊を示した。これに対して、水を含む吸水剤14を使用しなかった場合(比較例1)には、ポリウレタン樹脂発泡体の製造時における発熱温度が182℃という高温に達し、しかも積層体10の剥離強度試験の結果が界面剥離であった。吸水剤14としてゼオライトのみを10質量部用いた場合(比較例2)にも、ポリウレタン樹脂発泡体の製造時における発熱温度が179℃まで上昇し、かつ積層体10の剥離強度試験の結果が界面剥離であった。吸水剤14としてゼオライト及びポリアクリル酸塩を用い、水の量を4質量部とした場合(比較例3)には、ポリウレタン樹脂発泡体の製造時における発熱温度が148℃まで低下したが、積層体10の剥離強度試験の結果は界面剥離であった。
【0052】
尚、本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。
・ 吸水剤14としての無機化合物の水和物には、例えば酸化アルミニウムの1水和物から3水和物(Al23・H2OからAl23・3H2O、分解温度150〜360℃)、硫酸銅の5水和物(CuSO4・5H2O)、炭酸ナトリウム1水和物(Na2CO3・H2O、分解温度100℃)、リン酸二水素カルシウム1水和物(Ca(H2PO42・H2O、分解温度109℃)等を用いることもできる。
【0053】
・ 吸水剤14の一部を積層体10の製造時において、接着基材と共に配合することも可能である。
・ 積層体10は、自動車のドアの内張り材等の自動車内装材、その他家具、寝具等として使用することができる。また、振動を抑制する制振材等として用いることも可能である。
【0054】
更に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記水を放出する吸水剤は、放出温度の異なる複数種のもので構成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の積層体。このように構成した場合、樹脂発泡体の製造時における発熱温度の抑制と、基体に対する積層材の接着強度の向上を容易に達成することができる。
【0055】
・ 前記樹脂発泡体はポリウレタンの半硬質連続気泡型の構造を有するものである請求項5に記載の積層体。このように構成した場合、基体の吸音性、剛性等の特性を向上させることができる。
【0056】
・ 樹脂発泡体からなる基体上に水と反応して硬化する接着基材による接着層を介して積層材が積層接着されて構成されている積層体の製造方法であって、前記樹脂発泡体の原料には加熱により水を放出する吸水剤が含まれ、樹脂発泡体の製造時には吸水剤に含まれる水の一部が放出されて樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇が抑制されると共に、得られた基体上に前記接着基材を塗布した後、樹脂発泡体の製造時における加熱温度より高い温度で加熱し、吸水剤中に残存する水を放出させて接着基材と反応硬化させて接着層を形成し、その接着層を介して積層材を基体に接着することを特徴とする積層体の製造方法。この製造方法によれば、基体に対する積層材の接着強度を低下させることなく、積層体の製造過程において接着基材のポットライフを長くして作業性を向上させ、積層体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施形態における積層体を示す断面図。
【符号の説明】
【0058】
10…積層体、11…基体、12…接着層、13…積層材、14…吸水剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂発泡体からなる基体上に水と反応して硬化する接着基材による接着層を介して積層材が積層接着されて構成されている積層体であって、前記樹脂発泡体の原料には加熱により水を放出する吸水剤が含まれ、樹脂発泡体の製造時には吸水剤に含まれる水の一部が放出されて樹脂発泡体の製造時における発熱温度の上昇が抑制されると共に、得られた基体上に前記接着基材を塗布した後、樹脂発泡体の製造時における加熱温度より高い温度で加熱し、吸水剤中に残存する水を放出させて接着基材と反応硬化させて接着層を形成し、その接着層を介して積層材を基体に積層接着して構成されていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記接着基材はポリイソシアネートであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記吸水剤は、水が吸水保持されて加熱により蒸発して放出される吸水体と、加熱分解によって水が生成されて放出される無機化合物の水和物との少なくとも一方を含むものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記吸水剤が吸水量の異なる複数のもので構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂発泡体が連続気泡型の樹脂発泡体であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
自動車のボンネットの内側に設けられるフードサイレンサー又は自動車の室内の天井材として用いられることを特徴とする請求項5に記載の積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−82351(P2006−82351A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268738(P2004−268738)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】