説明

積層型固体電解コンデンサ

【課題】積層された単板コンデンサ素子の陰極部間の導電性をより向上させるとともに、静電容量を下げることなく、ESRの更なる低下を可能とする積層型固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】一方側に陽極部、他方側に陰極部が形成された単板コンデンサ素子を複数枚積層してなる積層体を備えた積層型固体電解コンデンサであって、コンデンサ素子の陰極部側の側面に形成された積層方向に貫通する凹部と、凹部の大きさを連続して積層される2枚以上の単板コンデンサ素子で互いに異ならしめることにより、積層体の側面の一部に形成された段差部Sと、段差部Sおよび陰極部間に形成された導電性被覆層9、9’と、を含むこと特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単板コンデンサ素子を複数枚積層した積層体を備えた積層型固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属板またはその焼結体を陽極部とし、陽極部の表面に形成した酸化皮膜層を誘電体とし、さらに酸化皮膜層の表面に固体電解質層、カーボン層、銀層を順次形成してなる陰極部を構成している。この固体電解質層としては、一般的に二酸化マンガン、TCNQ錯体、導電性高分子などが知られている。
【0003】
近年、コンピュータ等に使用されるCPUの低電圧化と高速化に伴い、固体電解コンデンサからCPUに電荷を供給する際、固体電解コンデンサは高速な充放電を求められるようになり、低ESR、ESLであることが必須条件となっている。
【0004】
この低ESR、ESL化を実現するための一つの方法として、図1に示すような単板コンデンサ素子Cを複数枚積層した積層型固体電解コンデンサが広く使われている。この積層型固体電解コンデンサは、陽極部Pと、陰極部Nと、カーボン層Kと、陰極部N・陽極部P間を絶縁するためのマスキング層Mとを有する単板コンデンサ素子Cが複数枚積層され、各陽極部Pは互いに接合されて点線で示す陽極端子PLに接続され、各陰極部Nは導電性ペーストRを介して相互に接合され、その最下面が陰極端子NLに接合され、これら積層体全体を外装樹脂でモールドして完成品となる。
【0005】
尚、機能的には弁作用金属板(または弁作用金属粉末からなる焼結板)全体が陽極であるが、本明細書では説明の便宜上、一方側の弁作用金属板の露出部を陽極部Pと表示し、他方側の弁作用金属板表面に形成された固体電解質層・カーボン層・銀層の部分を陰極部Nと表示した。
【0006】
この積層型固体電解コンデンサでは、図1に示すように陰極部Nには固体電解質層・カーボン層・銀層が形成されているため、陽極部Pより若干厚みが大きくなる。このため陽極部Pを抵抗溶接などで圧接接合した場合、陰極部Nの層間が若干広がり陰極部N相互間の導電性が劣化する。これを解決するために、通常この種の積層型固体電解コンデンサでは、積層体の陰極部Nの端面全体を銀などの導電性ペーストで追加的に導電性被覆層を形成し、各陰極部N間の接続抵抗を低減することが行なわれている(例えば、特許文献1参照)。この導電性ペーストによる追加の導電性被覆層を形成するために、図1のような積層体では、各単板コンデンサ素子Cを積層した後、その陽極部P・陰極部Nをそれぞれ陽極端子PL・陰極端子NLに接合する前に、積層体の陽極部Pを上に向けて吊持して陰極部Nだけを銀などを溶解した導電性ペーストの浴槽内へ浸漬し、陰極部Nの周面全体に導電性ペーストを塗布する方法が採用されている。
【0007】
この方法により、陰極部Nには導電性ペーストによる追加の導電性被覆層が形成され、同時に各陰極部N間へも導電性ペーストが浸透するので、全体として陰極部N相互間の導電性が大幅に改善されESRが低下する。この場合、勿論陽極部Pは陰極部Nと完全に絶縁する必要があるので、陽極部Pは導電性ペースト浴に浸漬させないことで、導電性ペーストが付着しないようにする。
【0008】
また、この種の積層型固体電解コンデンサにおいて、より低ESR、ESL化を図るため各単板コンデンサ素子を積層する際、陽極部の突出方向が陰極部を中心として交互に反対になるように積層し、陽極電位を左右両側から取り出すようにした多端子構造の積層型固体電解コンデンサが開発され実用化されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
この多端子構造の積層型固体電解コンデンサでは、上記のように陽極電位を左右両側から取り出し、陰極電位を中央から取り出す3端子構造のものの他、単板コンデンサ素子の陽極部を、陰極部を中心に90度ずつずらして積層した(陽極が前後左右四方に分岐する)5端子構造のものも知られている。このように多端子構造にすることにより、大容量化に対応して積層枚数が増加しても、磁界の打ち消し効果によりESR・ESL値の更なる改善が達成される。
【0010】
しかしながら、この多端子構造の積層型固体電解コンデンサは、陽極部が左右両側にあるので、積層体周面の導電性被覆層を、上記のように導電性ペースト槽内へ陰極部だけを浸漬して陰極部周面だけに形成するのは困難である。従って、通常はこのような場合の導電性被覆層は、各陰極部の側面にエアーディスペンサを接続したシリンジで導電性ペーストを吹き付けて塗布するという方法が採用されている。
【0011】
図2および図3は、3端子構造の積層型固体電解コンデンサの積層体を示したもので、図2は斜視図、図3は図2のY−Y'線における拡大断面図である。図2の各単板コンデンサ素子C1〜C4において、P1〜P4は陽極部を、N1〜N4は陰極部を、Kはカーボン層を、Mは陰極部・陽極部間を絶縁するためのマスキング層を示す。また図3において、1は弁作用金属板を、2は酸化皮膜層を、3は固体電解質層を、4はカーボン層を、5は陰極電位取り出し用の銀層を示す。そして、6は各陰極部間を接合すると同時に電気的導通を確保するための導電性ペーストで、これらは各単板コンデンサ素子を製造する過程で各単板コンデンサ素子C1〜C4上に形成される。7は、各単板コンデンサ素子C1〜C4を積層した後、この積層体の側面に形成した導電性被覆層であって、導電性ペーストを吹き付けて形成される。
【0012】
しかしながら本発明者の実験によれば、導電性被覆層7を形成するために、積層体の各陰極部N1〜N4側の側面に導電性ペーストを吹き付けた際、各陰極部N1〜N4間に導電性ペーストが浸透する前に積層体の側面から流れて落ちてしまうため、各陰極部N1〜N4間に導電性ペーストが入り込む量が不充分となり、各陰極部N1〜N4間の導電性の改善が充分達成できず、有効なESRの低減が期待できないことが判明した。即ち図3でも判るように、導電性ペーストは各陰極部N1〜N4間の隙間gにできるだけ多く入り込む方が望ましいが、7’のようにごく一部しか入り込んでいないことが多い。そのために工数をかけて導電性被覆層7を追加形成しても、上記のように期待した効果が得られないわけである。
【0013】
本発明者はさらに実験を進めた結果、図4および図5に示すように、各単板コンデンサ素子C1〜C4の陰極部N1〜N4の横幅x1〜x4を、上に積層される素子ほど狭くなるように構成し、積層体の側面を階段状に形成し、導電性ペーストを、8’のように各陰極部N1〜N4間の隙間gに多く入り込ませることでESRの低減を実現することが出来た(例えば、特許文献3参照)。しかし、この方法では単板コンデンサ素子の陰極部の面積が減少してしまうためコンデンサの静電容量が減少してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−281515号公報
【特許文献2】特開2007−116064号公報
【特許文献3】特願2008−017731
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記の事情をもとに考え出されたものであって、積層型固体電解コンデンサにおいて、積層された単板コンデンサ素子の陰極部間の導電性をより向上させるとともに、静電容量を大幅に下げることなく、ESRの更なる低減を可能とする新規な構造の積層型固体電解コンデンサを提供することをその主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために本発明では次の技術的手段を採用している。
【0017】
本発明に係る積層型固体電解コンデンサは、一方側に陽極部、他方側に陰極部が形成された単板コンデンサ素子を複数枚積層してなる積層体を備えた積層型固体電解コンデンサであって、前記単板コンデンサ素子の前記陰極部側の側面に形成された積層方向に貫通する凹部と、前記凹部の大きさを連続して積層される2枚以上の前記単板コンデンサ素子で互いに異ならしめることにより、前記積層体の側面の一部に形成された段差部と、前記段差部および前記陰極部間に形成された導電性被覆層と、を含むこと特徴とする。
【0018】
この構成によれば、本発明に係る積層型固体電解コンデンサは、凹部の大きさを互いに異ならしめることにより積層体の側面の一部に段差部を形成しているため、陰極部の面積の減少を抑えるとともに、導電性被覆層を形成するための導電性ペーストの無駄な流れ落ちを阻止し、積層された単板コンデンサ素子の陰極部間へ導電性ペーストを入り込みやすくする。このため、陰極部間の接続抵抗が低減し、静電容量を下げることなく、低ESR化が可能になる。
【0019】
さらに本発明は、上記構成において、前記単板コンデンサ素子は、前記陽極部の突出方向が交互に反対になるように複数枚積層されており、前記凹部は、前記陰極部側の側面のうち前記陽極部の突出方向と平行な側面に形成されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、導電性被覆層を形成するのが困難な3端子構造の積層型固体電解コンデンサであっても、容易に追加の導電性被覆層を形成することができる。このため、陰極部間の接続抵抗が低減し、静電容量を下げることなく、低ESR化が可能になる。
【0021】
また本発明に係る積層型固体電解コンデンサは、両端に陽極部、前記両端の陽極部の間に陰極部が形成された単板コンデンサ素子を複数枚積層してなる積層体を備えた積層型固体電解コンデンサであって、前記積層体の両端から突出した前記陽極部に電気的に各々接続された一方側陽極端子と他方側陽極端子と、前記一方側陽極端子と前記他方側陽極端子とを電気的に接続する連結部と、前記複数のコンデンサ素子の陰極部からなる陰極体に電気的に接続され、前記連結部と離間して配置された陰極端子と、前記連結部と前記陰極端子との隙間を覆うように、前記連結部および前記陰極端子の前記積層体側の面上に跨って配置された絶縁体とを含み、さらに前記単板コンデンサ素子の前記陰極部側の側面に形成された積層方向に貫通する凹部と、前記凹部の大きさを、連続して積層される2枚以上の前記単板コンデンサ素子で互いに異ならしめることにより、前記積層体の側面の一部に形成された段差部と、前記段差部および前記陰極部間に形成された導電性被覆層と、を含むことを特徴とする。
【0022】
さらに本発明は、上記構成において、前記凹部は、前記単板コンデンサ素子を積層した際に、積層方向に延びる同一直線上に位置するように形成されており、下層の前記単板コンデンサ素子から上層の前記単板コンデンサ素子に向かって段階的に大きくなっていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、導電性ペーストの吹き付け方向等を大きく変える必要がなく、容易に導電性被覆層を形成することが可能になる。
【0024】
さらに本発明は、上記構成において、前記凹部は、前記単板コンデンサ素子の前記陰極部側の側面の互いに対向する位置に少なくとも一組形成されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、単板コンデンサ素子の陰極部間へ導電性ペーストが入り込みやすくなり、単板コンデンサ素子の陰極部間の導電性をより向上させることが可能になる。
【0026】
さらに本発明は、上記構成を平面視した場合において、前記凹部の面積の割合は、前記単板コンデンサ素子の面積に対し、0.6〜11.0%の範囲内となるように形成されていることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、単板コンデンサ素子の面積に対する凹部の面積の割合の下限が0.6%であるため、凹部内に導電性ペーストを吐出・塗布しやすくなり、陰極部間もしくは陰極部・陰極端子間に導電性ペーストが入り込みやすくなるため、低ESR化が可能になる。一方、この割合の上限が11.0%であるため陰極部の面積の減少にともなう静電容量の減少をより確実に抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の積層型固体電解コンデンサによれば、積層された単板コンデンサ素子の陰極部間へ導電性ペーストが入り込みやすくなるため、陰極部間の接続抵抗が低減し、静電容量を下げることなく、低ESR化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の積層型固体電解コンデンサを示す斜視図である。
【図2】従来(比較例)の3端子構造の積層型固体電解コンデンサの積層体を示す斜視図である。
【図3】図2のY−Y'線における拡大断面図である。
【図4】従来(従来例)の3端子構造の積層型固体電解コンデンサの積層体を示す斜視図である。
【図5】図4のY−Y'線における拡大断面図である。
【図6】本発明の実施例に係る単板コンデンサ素子を示す平面図である。
【図7】本発明の実施例に係る積層体を示す斜視図である。
【図8】図7のY−Y’線における拡大断面図である。
【図9】本発明の実施例に係る積層型固体電解コンデンサを示す斜視図である。
【図10】本発明の変形例1に係る積層型固体電解コンデンサを示す斜視図である。
【図11】本発明の変形例2に係る積層型固体電解コンデンサを示す斜視図である。
【図12】本発明の変形例3に係る積層型固体電解コンデンサを示す斜視図である。
【図13】本発明の変形例4に係る積層型固体電解コンデンサを示す拡大断面図である。
【図14】本発明の変形例5に係る積層型固体電解コンデンサの端子形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0031】
[実施例]
図6〜図9は、本発明に係る3端子構造の4枚積層型固体電解コンデンサの構造説明図で、図6は単板コンデンサ素子を示す平面図、図7は積層体だけの部分を示す斜視図、図8は図7のY−Y’線における断面図で陰極部構造の詳細を説明するため拡大表示してある。図9はこの積層体の各電極をそれぞれの端子板(リードフレーム)に接合し外装樹脂で外装した積層型固体電解コンデンサを示す斜視図である。図6〜図9において、各単板コンデンサ素子の被膜層の性質は従来例の積層型固体電解コンデンサと変わらないので、各層は同一の符号で説明する。
【0032】
図6に示すように、本発明に係る単板コンデンサ素子Cは、エッチング処理を施した弁作用金属(本実施例ではアルミニウム箔)の一方側に設けられた陽極部Pと、他方側に設けられた陰極部Nと、カーボン層Kと、陰極部N・陽極部P間を絶縁するためのマスキング層Mと、陰極部N側の側面のうち陽極部Pの突出方向と平行な側面に互いに対向するように設けられた凹部10とを有している。なお、凹部10は、積層方向に対して貫通して形成されており、各単板コンデンサ素子C1〜C4によって大きさが異なる。
【0033】
そして、図7に示すように、上記単板コンデンサ素子C1〜C4を、陽極部P1〜P4の突出方向が交互に反対になるように積層し、かつ各単板コンデンサ素子C1〜C4に形成された凹部10が積層方向に延びる同一直線上に位置するように積層して積層体を作製する。また本実施例では、凹部10の大きさが段階的に変化するように単板コンデンサ素子C1〜C4を積層している。具体的には、最下層に凹部10の大きさが一番小さい単板コンデンサ素子C1を、その上に少し大きいサイズの凹部10が形成された単板コンデンサ素子C2を、次いで更に大きいサイズの凹部10が形成された単板コンデンサ素子C3を、最後に最も大きいサイズの凹部10が形成された単板コンデンサ素子C4を重ねて積層している。
【0034】
これを図8に示す拡大断面図に基いて説明すると、各単板コンデンサ素子C1〜C4は、アルミニウム箔1と、アルミニウム箔1の表面に形成された酸化皮膜層2と、酸化皮膜層2の表面に形成された固体電解質層3、カーボン層4、銀層5からなる陰極部Nとで構成され、各陰極部N1〜N4間は導電性ペースト6を介して接合されている。また、各単板コンデンサ素子C1〜C4の各陰極部N1〜N4側の側面に形成された凹部10の大きさは、上記のように最下層の単板コンデンサ素子C1から最上層の単板コンデンサ素子C4に向かって段階的に大きくなっているため、凹部10が形成されている部分の各単板コンデンサ素子C1〜C4の幅w1〜w4は最下層の単板コンデンサ素子C1から最上層の単板コンデンサ素子C4に向かって段階的に狭くなっている。
【0035】
本実施例では、各単板コンデンサ素子C1〜C4は、長さl=4.5mm、幅x=4.5mm、厚さd=0.2mmとし、凹部10の形状をそれぞれ正方形とした。この凹部10の一辺の長さDは、最下層の単板コンデンサ素子C1から順にD1=0.25mm、D2=0.50mm、D3=0.75mm、D4=1.00mmとなっている。また、凹部10が形成されている部分の各単板コンデンサ素子C1〜C4の幅wは、w1=4.0mm、w2=3.5mm、w3=3.0mm、w4=2.5mmとなっている。
【0036】
このため、単板コンデンサ素子C1〜C4を中心ラインAに対して対称に積層することにより、各単板コンデンサ素子C1〜C4の陰極部N1〜N4側の側面に対応する積層体の側面の一部分には階段状の段差部Sが生じる。
【0037】
各単板コンデンサ素子C1〜C4の凹部10内および段差部S上には追加の導電性被覆層9が形成されている。導電性被覆層9は、エアーディスペンサを接続したシリンジで矢印方向から銀の導電性ペーストを吐出・塗布し硬化させることによりに形成される。
【0038】
この場合、積層体の側面に段差部Sが設けられていると、吐出された銀の導電性ペーストはこの段差部Sで一時的に滞留し、その間に9’に示すように各陰極部N1〜N4間の隙間部に深く入り込むことになる。従って、この隙間部の導電性が大幅に改善される。また、積層体側面自体へのペーストの付着性も、従来の面一の側面の場合のように流れ落ちてしまう恐れがなくなるのでより向上する。
【0039】
また、通常この種の多端子構造の積層体では、陰極部の後端面(陽極部と反対側の端面)には上下の陽極部が突出しているので、この後端面に直接導電性被覆層を形成するのは困難であるが、本発明に係る積層型固体電解コンデンサでは、陰極部N1〜N4間の隙間に導電性ペーストが充分深く浸透するので、これが結果的に陰極部N1〜N4の後端面まで回り込むことになり、この部分にも従来の方式より多くの導電性被覆層9が形成される。以上の相乗効果によって、本発明に係る積層型固体電解コンデンサではESRの大幅な低減が達成できるのである。
【0040】
図9に示すように、本発明に係る積層型固体電解コンデンサは、積層体の両側の陽極部P1、P3およびP2、P4に、それぞれ左右の陽極端子(陽極電位取り出し用端子板)PL、PL’を抵抗溶接等によって電気的に接続し、最下層の陰極部N1に導電性ペーストを介して陰極端子(陰極電位取り出し用端子板)NLを接続した後、積層体全体を外装樹脂(エポキシ樹脂)11で外装してなる。また、本発明に係る積層型固体電解コンデンサは、定格電圧2.5V、定格容量220μFである。
【0041】
[従来例]
従来例は図4、図5に示した3端子構造の4枚積層型固体電解コンデンサであって、各単板コンデンサ素子C1〜C4は、本実施例と同様に厚さd=0.2mm、長さl=4.5mmとした。単板コンデンサ素子C1〜C4の幅xは、最下層の単板コンデンサ素子C1から順に、x1=4.5mm、x2=4.0mm、x3=3.5mm、x4=3.0mmとした。そして、各単板コンデンサ素子C1〜C4の積層体の側面に本実施例と同様に導電性の銀ペーストを吐出・塗布して導電性被覆層8を形成し、各陽極部P1〜P4、および各陰極部N1〜N4をそれぞれの端子に接続した後、全体を本実施例と同一の外装樹脂11で外装した完成品である。
【0042】
[比較例]
比較例は図2、図3に示した3端子構造の4枚積層型固体電解コンデンサであって、各単板コンデンサ素子C1〜C4は、本実施例と同様に厚さd=0.2mm、長さl=4.5mmとし、幅xは全てx=4.5mmとした。積層体側面には追加の導電性被覆層を形成することなく、各陽極部P1〜P4、および各陰極部N1〜N4をそれぞれの端子に接続した後、全体を実施例と同一の外装樹脂11で外装した完成品である。
【0043】
下記の表1は、上記実施例・従来例・比較例の積層型固体電解コンデンサをそれぞれ100個作製し、これらについてそのESR・静電容量の性能を実測し、各データの平均値を比較して示したものである。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から判るように、従来例の積層型固体電解コンデンサは、同一定格の比較例の積層型固体電解コンデンサと比べるとESRを大幅に改善できるが静電容量が大きく減少してしまう。しかし、実施例の積層型固体電解コンデンサは、静電容量をほとんど減少させることなくESRを大幅に改善することができる。このESRの低減は、積層体の両側面の一部分に階段状の段差部Sを形成したことにより、導電性被覆層9を形成する際に、導電性ペーストの無駄な流れ落ちが阻止され、積層体の側面に導電性被覆層9が効果的に形成できるとともに、各陰極部N1〜N4間へ導電性ペーストが入り込みやすくなるため、陰極部N1〜N4相互間の接続抵抗が低減した効果によるものである。
【0046】
また、静電容量の減少を抑えられたのは積層体の側面全てを階段状にするのではなく、導電性被覆層9を形成する一部分のみに段差部Sを形成したことにより、単板コンデンサ素子C1〜C4の陰極部N1〜N4の面積の減少を抑制できたことによるものである。
【0047】
下記の表2は、上記実施例および従来例の単板コンデンサ素子C1〜C4の平面視における面積の比較と、上記実施例の単板コンデンサ素子C1〜C4の平面視における面積に対する凹部10の平面視における面積の割合を示したものである。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から判るように、従来例の積層型固体電解コンデンサは、実施例の積層型固体電解コンデンサと比べると、単板コンデンサ素子の面積が下層(C1)から上層(C4)に向かって大きく減少しているが、実施例の積層型固体電解コンデンサは、単板コンデンサ素子の面積がほとんど減少していない。これにより、実施例の積層型固体電解コンデンサは、静電容量の減少を抑えることが可能となる。また、実施例の積層型固体電解コンデンサを平面視した場合において、単板コンデンサ素子の面積に対する凹部の面積の割合は、最下層の単板コンデンサ素子C1で最も低く0.6%となり、最上層の単板コンデンサ素子C4で最も高く11.0%となる。この割合が低いと凹部10内に導電性ペーストを吐出・塗布して導電性被覆層8を形成するのが困難になり、陰極部N1〜N4間もしくは陰極部N1・陰極端子NL間に導電性ペーストが入り込みにくくなるため、ESRが高くなる。一方、この割合が高いと静電容量が減少してしまう。しかし、本実施例では0.6〜11.0%の間で凹部10を形成しているため、より確実に低ESR化と静電容量の確保との両立を図ることが可能となる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施例について説明してきたが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0051】
[変形例1]
例えば、上記実施例では凹部10の形状は正方形であるが、これに限るものではなく、半円・三角など他の形状でも良く、積層した際に段差部Sを形成することができる形状であれば、同様の効果が得られる。図10に、各単板コンデンサ素子C1〜C4に半円形状の凹部12が形成されている積層型固体電解コンデンサの斜視図を示す。半円形状の凹部12が形成されている点以外は、本実施例に係る積層型固体電解コンデンサと同じである。半円形状の凹部12の大きさは実施例と同様に、最下層の単板コンデンサ素子C1から最上層の単板コンデンサ素子C4に向かって段階的に大きくなっており、これにより段差部が形成されている。
【0052】
[変形例2]
上記実施例では凹部10が単板コンデンサ素子の両側面に存在するが片側でもよく、凹部の位置や個数なども実施例に限るものではなく、任意に設定することができる。図11に、各単板コンデンサ素子C1〜C4の両側面に互いに対向する凹部13が複数形成されている積層型固体電解コンデンサの斜視図を示す。この各単板コンデンサ素子C1〜C4にはそれぞれ計6個の凹部13が形成されおり、一つ一つの凹部13の大きさは、実施例の凹部10より小さくなっている。また、凹部13の大きさは、いずれも最下層の単板コンデンサ素子C1から最上層の単板コンデンサ素子C4に向かって段階的に大きくなっており、これにより段差部が形成されている。
【0053】
[変形例3]
上記実施例では3端子構造の積層型固体電解コンデンサを作製したが、2端子構造の積層型固体電解コンデンサでも同様の効果が得られる。図12に、各単板コンデンサ素子の両側面に互いに対向する凹部14が形成されている2端子構造の積層型固体電解コンデンサの斜視図を示す。凹部14の大きさは、いずれも最下層の単板コンデンサ素子から最上層の単板コンデンサ素子に向かって段階的に大きくなっており、これにより段差部が形成されている。また、2端子構造の積層型固体電解コンデンサ場合は、陽極部Pと対向する側の端面に凹部を形成してもよいし、単板コンデンサの陰極部N側の隅部に凹部を形成してもよい。
【0054】
[変形例4]
上記実施例では凹部10の大きさは、最下層の単板コンデンサ素子C1から最上層の単板コンデンサ素子C4に向かって段階的に大きくしたが、これに限るものではなく、例えば凹部の大きさを大小2種類として交互に積層してもよい。図13に、凹部の大きさが大小交互になるように積層されている積層型固体電解コンデンサの断面図を示す。各単板コンデンサ素子C1〜C4の各陰極部N1〜N4側の側面に形成された各凹部の大きさは、単板コンデンサ素子C1、C3では小さく、単板コンデンサ素子C2、C4では大きくなっている。このため、単板コンデンサ素子C1〜C4を積層することにより、積層体の側面の一部分には階段上の段差部Sが生じる。階段状に形成された段差部Sには、エアーディスペンサを接続したシリンジで銀の導電性ペーストを吐出・塗布し硬化させることにより追加の導電性被覆層9が形成されている。この場合も、実施例と同様に、吐出された銀の導電性ペーストはこの段差部Sで一時的に滞留し、その間に9’に示すように各陰極部N1〜N4間の隙間部に深く入り込むことになる。従って、この隙間部の導電性が大幅に改善され、積層体側面自体へのペーストの付着性も向上する。
【0055】
[変形例5]
上記実施例では、一方側に陽極部P、他方側に陰極部Nを有する単板コンデンサ素子を用い、さらに積層体の両側に陽極端子PL、PL’を、中央部に陰極端子NLを各々設けたが、両端に陽極部、両端の陽極部の間に陰極部が形成された単板コンデンサ素子を用い、さらに、端子の形状は例えば図14に示すように、2枚の陰極端子NL、NL’を設け、その両側にそれぞれ陽極端子PL,PL’が配置され、該陽極端子PL、PL’同士を、この端子と同じ材質の導電性部材からなる連結部15で橋渡ししたものを用いてもよい。なお、導電性ペーストが連結部15の側面および底面へ付着するのを防ぐために、連結部15と陰極端子NL、NL’との隙間を覆うように、絶縁体16が連結部15および陰極端子NL、NL’の積層体側の面上に跨って配置されている。
【0056】
また、上記実施例および上記変形例では、弁作用金属板1にアルミニウム(Al)を用いたが、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)等をシート状に形成した素子や、これらの金属粉をシート状に圧縮成形し焼結した素子を用いた場合も同様の効果が得られる。また、導電性被覆層9は、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、カーボン等からなる導電性フィラーと、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂等からなるバインダ樹脂とを組み合わせたものなどが利用できる。また、陰極部Nとなる固体電解質層3には、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子を用いてもよく、二酸化マンガン層でも同様の効果を得ることができる。
【0057】
また、上記実施例では、一方側に陽極部P、他方側に陰極部Nを有する単板コンデンサ素子Cを用いたが、両端に陽極部、両端の陽極部の間に陰極部が形成された単板コンデンサ素子を用いても上記実施例と同等の効果を得ることができた。
【符号の説明】
【0058】
1 弁作用金属板
2 酸化皮膜層
3 固体電解質層
4 カーボン層
5 銀層
6 導電性ペースト
7、8、9 導電性被覆層
10、12、13、14 凹部
11 外装樹脂
15 連結部
16 絶縁体
C、C1〜C4 単板コンデンサ素子
P、P1〜P4 陽極部
N、N1〜N4 陰極部
K カーボン層
M マスキング層
g 陰極部間の隙間
S 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側に陽極部、他方側に陰極部が形成された単板コンデンサ素子を複数枚積層してなる積層体を備えた積層型固体電解コンデンサであって、
前記単板コンデンサ素子の前記陰極部側の側面に形成された積層方向に貫通する凹部と、
前記凹部の大きさを、連続して積層される2枚以上の前記単板コンデンサ素子で互いに異ならしめることにより、前記積層体の側面の一部に形成された段差部と、
前記段差部および前記陰極部間に形成された導電性被覆層と、
を含むことを特徴とする積層型固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記単板コンデンサ素子は、前記陽極部の突出方向が交互に反対になるように複数枚積層されており、
前記凹部は、前記陰極部側の側面のうち前記陽極部の突出方向と平行な側面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層型固体電解コンデンサ。
【請求項3】
両端に陽極部、前記両端の陽極部の間に陰極部が形成された単板コンデンサ素子を複数枚積層してなる積層体を備えた積層型固体電解コンデンサであって、
前記積層体の両側から突出した前記陽極部に電気的に各々接続された一方側陽極端子と、
他方側陽極端子と、
前記一方側陽極端子と前記他方側陽極端子とを電気的に接続する連結部と、
前記複数のコンデンサ素子の陰極部からなる陰極体に電気的に接続され、前記連結部と離間して配置された陰極端子と、
前記連結部と前記陰極端子との隙間を覆うように、前記連結部および前記陰極端子の前記積層体側の面上に跨って配置された絶縁体とを含み、さらに
前記単板コンデンサ素子の前記陰極部側の側面に形成された積層方向に貫通する凹部と、
前記凹部の大きさを、連続して積層される2枚以上の前記単板コンデンサ素子で互いに異ならしめることにより、前記積層体の側面の一部に形成された段差部と、
前記段差部および前記陰極部間に形成された導電性被覆層と、
を含むことを特徴とする積層型固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記凹部は、前記単板コンデンサ素子を積層した際に、積層方向に延びる同一直線上に位置するように形成されており、下層の前記単板コンデンサ素子から上層の前記単板コンデンサ素子に向かって段階的に大きくなっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の積層型固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記凹部は、前記単板コンデンサ素子の前記陰極部側の側面の互いに対向する位置に少なくとも一組形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記凹部は、前記単板コンデンサ素子の平面視における面積に対する前記凹部の平面視における面積の割合が0.6〜11.0%の範囲内となるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の積層型固体電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−35057(P2011−35057A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177861(P2009−177861)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)