説明

空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置

【課題】 多方向に対して作用する空気ばねをサスペンションに用いて、大変位時の運動が再現可能な磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置を提供する。
【解決手段】 空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置において、磁気浮上式鉄道車両の車体の下部に配置される空気ばね2と台車1との間に動きを一方向に拘束する機械要素3としてのリニアスライドガイド3A〜3Dを配置し、前記台車1に対する複数の方向各々の相互作用力を前記リニアスライドガイド3A〜3Dに対応させた複数のロードセル4A〜4Cにより別々に測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気浮上式鉄道の車両運動解明や車体運動抑制手法などの研究開発のために、浮上式鉄道車両の模擬実験装置(下記特許文献1参照)を用いて試験を行ってきた。
現在、模擬実験を用いて台車・車体の運動を再現するものとして、以下に示されるものがある。
(A)一方向の運動を再現する模擬実験装置であり、相互作用力を用いて台車の動きを再現するもの(下記非特許文献1,2参照)。
(B)多方向の運動を再現する模擬実験装置であり、一方向ごとにばね・ダンパ等のサスペンションからの力を個々に台車に伝え、相互作用力を用いて台車の運動を再現するもの〔下記特許文献2(未公開)〕。
【0003】
図3は従来のサスペンション相互作用力を用いた台車運動再現方法に係る模擬実験装置の模式図である。
この図において、101は台車、102は上下(Z)方向コイルばね、103は車体、104は機械要素〔左右(Y)方向作用力受け〕、105は台車101に対する鉛直(Z)方向からのサスペンション作用力、106はロードセル〔上下(Z)方向作用力測定用〕、107は左右(Y)方向コイルばね、108は台車101に対する左右(Y)方向からのサスペンション作用力、109はロードセル〔左右(Y)方向作用力測定用〕である。なお、ここでは前後(X)方向は省略している。
【0004】
図4は従来のサスペンション相互作用力を用いた台車運動再現方法に係る模擬実験装置の要部を示す模式図である。
これらの図において、201はベース、202は一次ばね系、203は台車、204は台車203に対する鉛直(Z)方向からのサスペンション作用力、205はこの鉛直(Z)方向からの作用力204を受ける第1のロードセル、206は台車203に対する左右(Y)の水平方向からのサスペンション作用力、207はこの左右(Y)の水平方向からの作用力206を受ける第2のロードセル、208は台車203に対する前後(X)の水平方向からのサスペンション作用力、209はこの前後(X)の水平方向からの作用力208を受ける第3のロードセルである。
【0005】
浮上式車両の場合、一次ばね系202に作用する力は各方向〔前後(X)、左右(Y)、上下(Z)、ロール、ピッチ、ヨーの6方向〕が連成しているため、従来の模擬実験装置では各方向からの力を個々に受けるばねを用いて各方向の動きが連成している場合の台車203の変位量を求め、台車203の運動を再現するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4647527号公報
【特許文献2】特願2010−257011
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鈴木江里光, 渡邉健, 星野宏則:浮上式車両模型実験装置による車両運動の基礎特性試験, 鉄道総研報告, Vol.22, No.11, pp. 5−10, 2008
【非特許文献2】Suzuki,E.,Watanabe,K.,Hoshino,H.,Yonezu,T.and Nagai,M.,“A Study of Maglev Vehicle Dynamics Using a Reduced−Scale Vehicle Model Experiment Apparatus”,Journal of Mechanical Systems for Transportation and Logistics,Vol.3,No.1,pp.196−205,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、実際の磁気浮上式鉄道車両においては、車体・台車間のサスペンションに用いるばねは空気ばねであり、単一のばねで多方向(上下・左右・前後方向)の運動に対して作用する。従来の浮上式車両の模擬実験装置におけるサスペンション相互作用力を用いた台車運動再現方法(上記特許文献2)では、多方向の動きを再現する際、単一方向のみに作用するばね(コイルばね等)を用いて、個々の方向のばねから受ける力を測定する必要があり、大変位時のような多方向の動きが連成する動きを再現するのが困難であった。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、多方向に対して作用する空気ばねをサスペンションに用いて、大変位時の運動が再現可能な磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置において、磁気浮上式鉄道車両の車体の下部に配置される空気ばねと台車との間に動きを一方向に拘束する機械要素を配置し、前記台車に対する複数の方向各々の相互作用力を前記機械要素に対応させた複数のロードセルにより別々に測定するようにしたことを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置において、前記複数の方向各々の相互作用力は、前記台車に対する鉛直方向からのサスペンション作用力と、前記台車に対する左右の水平方向からのサスペンション作用力と、前記台車に対する前後の水平方向からのサスペンション作用力とを含むことを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置において、前記機械要素はリニアスライドガイドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実際の車両に近い空気ばねを用いたサスペンションを用いることにより、運動の再現性の向上を図ることができる。
また、多方向の運動が連成しているような大変位時の運動に関しても再現が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例を示す空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置の縦方向断面を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置の横方向断面を示す模式図である。
【図3】従来のサスペンション相互作用力を用いた台車運動再現方法に係る模擬実験装置の要部を示す模式図である。
【図4】図3の模擬実験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置は、磁気浮上式鉄道車両の車体の下部に配置される空気ばねと台車との間に動きを一方向に拘束する機械要素を配置し、前記台車に対する複数の方向各々の相互作用力を前記機械要素に対応させた複数のロードセルにより別々に測定するようにした。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置の縦方向断面を示す模式図、図2は本発明の実施例を示す空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置の横方向断面を示す模式図である。
これらの図において、1は磁気浮上式鉄道車両の台車、2は車体(図示せず)の下部に配置される空気ばね、3は空気ばね2と台車1との間に設けられる動きを一方向に拘束する機械要素であり、例えば、台車1に対する鉛直(Z)方向からのサスペンション作用力を受けるリニアスライドガイド3Aおよび3Dと、台車1に対する左右(Y)の水平方向からのサスペンション作用力を受けるリニアスライドガイド3Bと、台車1に対する前後(X)の水平方向からのサスペンション作用力を受けるリニアスライドガイド3Cとが配置される。リニアスライドガイド3Aおよび3Dと台車1との間には第1のロードセル4Aが、リニアスライドガイド3Bと台車1との間には第2のロードセル4Bが、リニアスライドガイド3Cと台車1との間には第3のロードセル4Cがそれぞれ配置される。
【0016】
ここで、リニアスライドガイド3Aは、前後の水平方向の動きを拘束し、左右の水平方向には自由に動けるものとする。リニアスライドガイド3Dは、左右の水平方向の動きを拘束し、前後の水平方向には自由に動けるものとする。リニアスライドガイド3Bは、前後の水平方向の動きを拘束し、鉛直方向には自由に動けるものとする。リニアスライドガイド3Cは、左右の水平方向の動きを拘束し、鉛直方向には自由に動けるものとする。
【0017】
そこで、空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置において、車体の下部に配置される空気ばね2と台車1との間に、動きを一方向に拘束する機械要素3を配置し、台車1に対する複数の方向各々の相互作用力を機械要素3(リニアスライドガイド3A,3B,3C,3D)に対応させた複数のロードセル(4A,4B,4C)により別々に測定するようにした。
【0018】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置は、多方向に対して作用する空気ばねをサスペンションに用いて、大変位時の運動が再現可能な磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 磁気浮上式鉄道車両の台車
2 空気ばね
3 機械要素
3A,3B,3C,3D リニアスライドガイド
4A 第1のロードセル
4B 第2のロードセル
4C 第3のロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気浮上式鉄道車両の車体の下部に配置される空気ばねと台車との間に動きを一方向に拘束する機械要素を配置し、前記台車に対する複数の方向各々の相互作用力を前記機械要素に対応させた複数のロードセルにより別々に測定するようにしたことを特徴とする空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置。
【請求項2】
請求項1記載の空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置において、前記複数の方向各々の相互作用力は、前記台車に対する鉛直方向からのサスペンション作用力と、前記台車に対する左右の水平方向からのサスペンション作用力と、前記台車に対する前後の水平方向からのサスペンション作用力とを含むことを特徴とする空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置において、前記機械要素はリニアスライドガイドであることを特徴とする空気ばねを用いた磁気浮上式鉄道車両の振動模擬実験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−233839(P2012−233839A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104056(P2011−104056)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)