説明

空気入りタイヤ用インナーライナー

【課題】 空気入りタイヤのインナーライナー層として加硫工程を必要としない、空気バリア性、柔軟性、靱性とカーカスへの接着性のバランスに優れたインナーライナーを提供する。
【解決手段】 芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)およびイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体(A)を含む層と芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体、またはその水素添加物(B)を含む層とを積層したことを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫工程を必要とせず、空気バリア性、柔軟性、靱性とカーカスへの接着性に優れた空気入りタイヤ用インナーライナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐気体透過性材料としてブチルゴムは種々の分野で利用されている。例えば、薬栓やタイヤインナーライナー用材料として使用されている。しかし、タイヤインナーライナー用材料として使用する場合には、加硫操作を必要とするため操作性に劣るという問題点があった。
【0003】
特許文献1には芳香族ビニル化合物とイソブチレンとのブロック共重合体とカーボンブラックとを含有するタイヤインナーライナー用ゴム組成物が開示されている。これは加硫工程を必要とせず、ガスバリアには優れているものの未だカーカス層を構成するゴムとの接着は不十分であった。
【特許文献1】特開平06−107896
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、空気入りタイヤのインナーライナー層として加硫操作を必要とせず、空気バリア性、柔軟性、靱性とカーカスへの接着性のバランスに優れたインナーライナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)およびイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体(A)を含む層と、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体、またはその水素添加物(B)を含む層とを積層したことを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナーに関する。
【0006】
好ましい実施態様としては、ブロック共重合体(A)の重量平均分子量が30,000〜150,000であり、かつ芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)を10〜40重量%含むことを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナーに関する。
【0007】
好ましい実施態様としては、ブロック共重合体(A)の芳香族ビニル系化合物がスチレンであり、かつブロック共重合体(A)の重量平均分子量/数平均分子量が1.3以下であることを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナーに関する。
【0008】
好ましい実施態様としては、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体、またはその水素添加物(B)が、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレンーブタジエンースチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナーに関する。
【0009】
好ましい実施態様としては、ブロック共重合体(A)を含む層がブロック共重合体(A)100重量部に対してさらにエチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を1〜500重量部を含有することを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナーに関する。
【0010】
さらに本発明は、多層押出によって成形されたことを特徴とする上記記載の空気入りタイヤ用インナーライナーに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは加硫工程を必要とせず、空気バリア性、柔軟性、靱性とカーカスへの接着性のバランスに優れたインナーライナーに優れており、タイヤの組み立て容易化、あるいはガス圧の保持力の向上に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)およびイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体(A)を含む層と芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体、またはその水素添加物(B)を含む層とを積層したものである。
【0013】
本発明のブロック共重合体(A)とは芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)およびイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体である。
【0014】
芳香族ビニル系化合物としては、スチレン、o−、m−又はp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−、m−又はp−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−、m−又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−又はp−メトキシスチレン、o−、m−又はp−クロロメチルスチレン、o−、m−又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中でも、工業的な入手性やガラス転移温度の点から、スチレン、α−メチルスチレン、および、これらの混合物が好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0015】
イソブチレンを主成分とする重合体ブロック(b)は、イソブチレンに由来するユニットが60重量%以上、好ましくは80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0016】
いずれの重合体ブロックも、共重合成分として、相互の単量体を使用することができるほか、その他のカチオン重合可能な単量体成分を使用することができる。このような単量体成分としては、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、シラン類、ビニルカルバゾール、β−ピネン、アセナフチレン等の単量体が例示できる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
脂肪族オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、オクテン、ノルボルネン等が挙げられる。
【0018】
ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0019】
ビニルエーテル系単量体としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、(n−、イソ)プロピルビニルエーテル、(n−、sec−、tert−、イソ)ブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0020】
シラン化合物としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
本発明の(A)成分は、芳香族ビニル系ブロックとイソブチレン系ブロックから構成されている限り、その構造には特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有するブロック共重合体、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体等のいずれも選択可能である。好ましい構造としては、物性バランス及び成形加工性の点から、芳香族ビニル系重合体ブロック−イソブチレン系重合体ブロック−芳香族ビニル系重合体ブロックで構成されるトリブロック共重合体が挙げられる。これらは所望の物性・成形加工性を得る為に、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
芳香族ビニル系重合体ブロックとイソブチレン系重合体ブロックの割合に関しては、特に制限はないが、柔軟性およびゴム弾性の点から、(A)成分における芳香族ビニル系重合体ブロックの含有量が10〜40重量%であることが好ましく、10〜35重量%であることがさらに好ましい。
【0023】
また(A)成分の分子量にも特に制限はないが、流動性、成形加工性、ゴム弾性等の面から、GPC測定による重量平均分子量で30,000〜300,000であることが好ましく、30,000〜150,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が30,000よりも低い場合には機械的な物性が十分に発現されない傾向があり、一方300,000を超える場合には流動性、加工性が悪化する傾向がある。
【0024】
本発明の(A)成分としては、ブロック共重合体(A)の重量平均分子量が30,000〜150,000であり、かつ芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)を10〜40重量%含むことがこのましい。さらには、ブロック共重合体(A)の芳香族ビニル系化合物がスチレンであり、かつブロック共重合体(A)の重量平均分子量/数平均分子量が1.3以下であることが好ましい。
【0025】
(A)成分の製造方法については特に制限はないが、例えば、下記一般式(I)で表される化合物の存在下に、単量体成分を重合させることにより得られる。
(CR12X)nR3 (I)
[式中Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基またはアシロキシ基から選ばれる置換基、R1、R2はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基でR1、R2は同一であっても異なっていても良く、R3は一価若しくは多価芳香族炭化水素基または一価若しくは多価脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
【0026】
上記一般式(I)で表わされる化合物は開始剤となるものでルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(I)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
【0027】
(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C65C(CH32Cl]、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,4−Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3−Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3,5−(ClC(CH32363]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン[1,3−(C(CH32Cl)2-5−(C(CH33)C63
【0028】
これらの中でも特に好ましいのはビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C64(C(CH32Cl)2]、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[(ClC(CH32363]である。[なおビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、ビス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはジクミルクロライドとも呼ばれ、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、トリス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、トリス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはトリクミルクロライドとも呼ばれる]。
【0029】
(A)成分を製造する際には、さらにルイス酸触媒を共存させることもできる。このようなルイス酸としてはカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3・OEt2、SnCl4、SbCl5、SbF5、WCl6、TaCl5、VCl5、FeCl3、ZnBr2、AlCl3、AlBr3等の金属ハロゲン化物;Et2AlCl、EtAlCl2等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。中でも触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl4、BCl3、SnCl4が好ましい。ルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。通常は一般式(I)で表される化合物に対して0.1〜100モル当量使用することができ、好ましくは1〜50モル当量の範囲である。
【0030】
(A)成分の製造に際しては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって、分子量分布の狭い、構造が制御された重合体を生成することができる。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0031】
(A)成分の重合は必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒としてはカチオン重合を本質的に阻害しなければ、特に制約なく使用することができる。具体的には、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等のアルキルベンゼン類;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素類;2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類;石油留分を水添精製したパラフィン油等を挙げることができる。
【0032】
これらの溶媒は、(A)成分を構成する単量体の重合特性及び生成する重合体の溶解性等のバランスを考慮して、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
上記溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が1〜50wt%、好ましくは5〜35wt%となるように決定される。
【0034】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−30℃〜−80℃である。
【0035】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体またはその水素添加物(B)としては、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(c)と、共役ジエン重合体ブロック(d)とからなるブロック共重合体である。例えば、(c)−(d)、(c)−(d)−(c)、(d)−(c)−(d)−(c)、(c)−(d)−(c)−(d)−(c)等の構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエンブロック共重合体又はその水添ブロック共重合体を挙げることができる。これらは混合して使用しても良い。上記(水添)ブロック共重合体(以下、(水添)ブロック共重合体とは、ブロック共重合体、及び/又は、水添ブロック共重合体を意味する。)は、芳香族ビニル化合物を5〜60重量%、好ましくは、20〜50重量%含む。芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(c)は好ましくは、芳香族ビニル化合物のみから成るか、または芳香族ビニル化合物50重量%以上、好ましくは70重量%以上と任意成分、例えば(水素添加された)共役ジエン(以下、(水素添加された)共役ジエンとは、共役ジエン、及び/又は、水素添加された共役ジエンを意味する)との共重合体ブロックである。(水素添加された)共役ジエンを主体とする重合体ブロック(d)は好ましくは、(水素添加された)共役ジエンのみから成るか、または(水素添加された)共役ジエン50重量%以上、好ましくは70重量%以上と任意成分、例えば芳香族ビニル化合物との共重合体ブロックである。
【0036】
上記(水添)ブロック共重合体の溶液粘度(5%トルエン溶液、77°F、ASTM D−2196)の範囲は、5〜500cps、好ましくは20〜300cpsである。
【0037】
上記(水添)ブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは5,000〜1,500,000、より好ましくは、10,000〜550,000、更に好ましくは90,000〜400,000の範囲であり、分子量分布は10以下である。ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。
【0038】
また、これらの芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(c)、共役ジエンを主体とする重合体ブロック(d)において、分子鎖中の共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物由来の単位の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組合せでなっていてもよい。芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(c)又は共役ジエンを主体とする重合体ブロック(d)がそれぞれ2個以上ある場合には、各重合体ブロックはそれぞれが同一構造であっても異なる構造であってもよい。
【0039】
(水添)ブロック共重合体を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、なかでもスチレンが好ましい。また共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、なかでもブタジエン、イソプレン及びこれらの組合せが好ましい。
【0040】
水添ブロック共重合体における共役ジエンを主体とする重合体ブロック(d)において、そのミクロ構造は、任意であり、例えば、ブロックBがブタジエン単独で構成される場合、ポリブタジエンブロックにおいては、1,2−ミクロ構造が好ましくは20〜50重量%、特に好ましくは25〜45重量%である。その水添率は任意であるが好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上である。また、1,2−結合を選択的に水素添加したものであっても良い。ブロックBがイソプレンとブタジエンの混合物で構成される場合、1,2−ミクロ構造が好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満、より更に好ましくは15%未満である。ブロック(d)がイソプレン単独で構成される場合。ポリイソプレンブロックにおいてはイソプレンの好ましくは70〜100重量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の好ましくは少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0041】
用途により、水素添加したブロック共重合体を使用する場合には、好ましくは上記水添物を用途に合わせて適宜使用することができる。
【0042】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体またはその水素添加物(B)の具体例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(部分水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、SBBS)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体等を挙げることができる。そのなかでも成分(A)との親和性の理由により、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレンーブタジエンースチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0043】
本発明の(B)成分は複数種選択して配合しても良い。
【0044】
本発明のインナーライナーにはガスバリア性の向上の観点からさらに成分(A)に対してエチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含有しても良い。エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)は、エチレン含有量は20〜70モル%であることが好ましい。エチレン含有量が20モル%を下回ると柔軟性に劣り耐屈曲性に劣る恐れがある上熱成形性に劣る恐れがある。また、70モル%を上回るとガスバリア性が不足する恐れがある。成分(C)の配合量は成分(A)100重量部に対して好ましくは1〜400重量部、さらに好ましくは10〜400重量部含有することが好ましい。成分(C)の配合量が400重量部を超えると柔軟性が失われ長期での屈曲疲労特性に劣る可能性がある。
【0045】
本発明のインナーライナー用組成物にはカーカスゴムへの密着性の点から、さらに粘着付与剤を含有していても良い。粘着付与剤には天然のロジン、テルペン、合成のクマロンインデン樹脂、石油樹脂、アルキルフェノール樹脂などが挙げられる。粘着付与剤の配合量は成分(A)と(B)との合計100重量部に対して好ましくは1〜80重量部である。
【0046】
本発明のインナーライナーを構成する層にはさらに目的に応じて充填剤、老化防止剤、軟化剤、加工助剤を添加しても良い。例えば充填剤には、カーボンブラック、湿式シリカ、乾式シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー等が挙げられ、老化防止剤には酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤が挙げられ、軟化剤にはパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アロマ系オイル、ナタネ油、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペートなどが挙げられ、加工助剤には高級脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、パラフィンワックス、脂肪アルコール、フッ素・シリコーン系樹脂、高分子量ポリエチレンが挙げられる。
【0047】
本発明のライナー層を構成する樹脂組成物を得るには公知の混合方法を用いることができ、混合には公知の溶融混練の方法が適用できる。例えば配合される成分を加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練することで製造することができる。溶融混練の温度は、100〜240℃が好ましい。100℃よりも低い温度では(A)〜(C)成分の溶融が不十分となり、混練が不均一となる傾向がある。240℃よりも高い温度では、(A)〜(C)成分の熱分解、熱架橋が起こる傾向がある。得られた組成物を次に押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化すれば良い。特に共押出設備を用いて二層フィルムを得るのが層間の接着性、生産性の面で好ましい。
【0048】
本発明のインナーライナーの厚みは合計20μm〜1500μmの範囲に有ることが好ましい。厚みが20μmを下回るとインナーライナーの耐屈曲性が低下しタイヤ転動時の屈曲変形による破断や亀裂が生じる恐れがある。一方厚みが1500μmを超えるとタイヤ重量低減のメリットが少なくなる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。
【0050】
尚、実施例に先立ち各種測定法、評価法、実施例について説明する。
【0051】
(引張弾性率)
JIS K 6251に準拠し、試験片としてシートをダンベルで7号型に打抜いたものを用意し、これを測定に使用した。引張速度は100mm/分とした。弾性率は歪みが0.5%〜5%の応力を基に算出した。
【0052】
(引張強度)
JIS K 6251に準拠し、試験片としてシートをダンベルで7号型に打抜いたものを用意し、これを測定に使用した。引張速度は100mm/分とした。
【0053】
(引張伸び)
JIS K 6251に準拠し、試験片としてシートをダンベルで7号型に打抜いたものを用意し、これを測定に使用した。引張速度は100mm/分とした。
【0054】
(ガスバリア性)
ガスバリア性は気体透過性を評価し、酸素の透過度を評価した。酸素の透過度は、得られたシートから100mm×100mmの試験片を切り出し、JISK7126に準拠して、23℃、0%RH、1atmの差圧法にて測定した。
【0055】
(接着性)
イソプレンゴムとの接着性を評価した。イソプレンゴムの2mm厚未加硫シートと貼り合わせ、150℃、50MPaで40分加熱加圧加硫を行った後、幅2cm×6cmに切り出した後、180°剥離試験を行い応力を測定した。試験速度は200mm/minで行い、剥離開始後3cm〜5cmの応力の平均値を採用した。
【0056】
(実施例等記載成分の内容)
成分(A):スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(株式会社カネカ社製 商品名「SIBSTAR102T」)重量平均分子量112,000 スチレン含量12wt%。
成分(B)−1:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(クレイトンポリマージャパン社製 商品名「クレイトンD1161JP」)
成分(B)−2:スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(クレイトンポリマージャパン社製 商品名「クレイトンDKX405CP」)
成分(C):エチレン含量44mol%エチレン−ビニルアルコール系共重合体(株式会社クラレ社製 商品名「EVAL E105A」)
粘着付与樹脂:脂環族飽和炭化水素樹脂(荒川化学社製「アルコンP−70」)。
【0057】
(製造例1)イソプレンゴムシートの作製
イソプレンゴム(株式会社JSR社製 商品名「IR2200」)を400g、カーボンブラック(旭カーボン旭♯50)200gを40℃に設定した1Lニーダー(株式会社モリヤマ社製)に投入し50rpmで5分間混練した後、硫黄6g、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド8g、酸化亜鉛8g、ステアリン酸8gを投入し2分間混練した後排出し、80℃で加熱プレス(神藤金属社製)にて2mm厚のシート状に成形した。
【0058】
(実施例1)
成分(A)、成分(B)−1をそれぞれTダイ(ダイリップ径2000μm、幅200mm)が取り付けられた多層単軸押出機(東洋精機社製、多層押出機、スクリュー径15mmφ、フィードブロック方式)の異なるホッパーに投入しダイヘッド温度200℃で成分(A)を回転数40rpm、成分(B)を10rpmで共押出を行い500μm厚の多層フィルムを得た。得たフィルムの引張試験、ガスバリア性、接着性の測定を行い表1のような結果を得た。
【0059】
(実施例2)
成分(B)−1を成分(B)−2に変更した以外は実施例1と同様に多層フィルムを得て、得たフィルムの引張試験、ガスバリア性、接着性の測定を行った。
【0060】
(実施例3)
成分(A)と成分(C)を表1の割合で配合し、2軸押出機を用いて170℃で混練しペレットを得た。得られたペレットと成分(B)−1をそれぞれTダイ(ダイリップ径2000μm、幅200mm)が取り付けられた多層単軸押出機(東洋精機社製、多層押出機、スクリュー径15mmφ、フィードブロック方式)の異なるホッパーに投入しダイヘッド温度200℃で成分(A)を含む樹脂を回転数40rpm、成分(B)−1を10rpmで共押出を行い500μm厚の多層フィルムを得た。得たフィルムの引張試験、ガスバリア性、接着性の測定を行い表1のような結果を得た。
【0061】
(実施例4)
成分(A)、成分(C)と粘着付与樹脂を表1の割合で配合し、2軸押出機を用いて170℃で混練しペレットを得た以外は実施例7と同様にフィルムを得て、得たフィルムの引張試験、ガスバリア性、接着性の測定を行った。
【0062】
(実施例5)
成分(A)と成分(C)を表1の割合で配合し、2軸押出機を用いて170℃で混練しペレットを得た。また、成分(B)−1と粘着付与樹脂を表1の割合で配合し、2軸押出機を用いて170℃で混練しペレットを得た。これらのペレットはそれぞれTダイ(ダイリップ径2000μm、幅200mm)を取り付けた多層単軸押出機(東洋精機社製、多層押出機、スクリュー径15mmφ、フィードブロック方式)の異なるホッパーに投入されダイヘッド温度200℃で成分(A)を含む樹脂を回転数40rpm、成分(B)を含む樹脂を10rpmで共押出を行い500μm厚の多層フィルムを得た。得たフィルムの引張試験、ガスバリア性、接着性の測定を行い表1のような結果を得た。
【0063】
(比較例1)
成分(A)をTダイ(ダイリップ径2000μm、幅200mm)を取り付けた単軸押出機(東洋精機社製、スクリュー径15mmφ)のホッパーに投入しダイヘッド温度200℃で400μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムの引張試験、ガスバリア性、接着性の測定を行い表1の結果を得た。
【0064】
(比較例2)
成分(A)と成分(C)を表1の割合で配合し、2軸押出機を用いて170℃で混練しペレットを得た。得られたペレットから比較例1と同様にフィルムを得て、得られたフィルムの引張試験、ガスバリア性、接着性の測定を行い表1の結果を得た。
【0065】
(比較例3)
成分(A)、成分(C)と粘着付与樹脂を表1の割合で配合し、2軸押出機を用いて170℃で混練しペレットを得た以外は比較例2と同様にフィルムを得て、得たフィルムの引張試験、ガスバリア性、接着性の測定を行った。
【0066】
(比較例4)
ブチルゴム(株式会社JSR社製 商品名「ブチル268」)を400g、カーボンブラック(旭カーボン旭♯50)120gを40℃に設定した1Lニーダー(株式会社モリヤマ社製)に投入し50rpmで5分間混練した後、硫黄8g、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド8g、酸化亜鉛12g、ステアリン酸8g、プロセスオイル(株式会社出光興産社製 商品名「PW380」)80gを投入し2分間混練した後排出し、80℃で加熱プレス(神藤金属にて1000μm厚のシート状に成形した。一部はシートを150℃20分間加熱プレスした後、引張試験、ガスバリア性の測定を行った。残りのシートを用いて比較例1と同様にして接着性の評価を行った。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
成分(B)からなる層を備える本発明の実施例1〜5は、成分(B)からなる層を備えない比較例1〜3よりも高い接着強度を示した。また、実施例1〜5は従来のインナーライナーに用いられてきた加硫工程を必須とするブチルゴム配合である比較例4に比べて高い接着強度を示した。実施例1〜5は、従来のゴム専用の加工機を必要とせず、容易に通常の熱可塑性樹脂を扱える押出機で実施することが可能である。
【0070】
これらの事から本発明のインナーライナーはカーカスゴムへの接着とインナーライナーの生産性に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)およびイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体(A)を含む層と、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体、またはその水素添加物(B)を含む層とを積層したことを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項2】
ブロック共重合体(A)の重量平均分子量が30,000〜150,000であり、かつ芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)を10〜40重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項3】
ブロック共重合体(A)の芳香族ビニル系化合物がスチレンであり、かつブロック共重合体(A)の重量平均分子量/数平均分子量が1.3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項4】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエンを主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体、またはその水素添加物(B)が、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレンーブタジエンースチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項5】
ブロック共重合体(A)を含む層がブロック共重合体(A)100重量部に対してさらにエチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を1〜500重量部を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項6】
多層押出によって成形されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。

【公開番号】特開2010−100082(P2010−100082A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270828(P2008−270828)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】