説明

空気入りタイヤ用ホイールとその作製方法

【課題】効果的にリムずれを防止することができる技術を提供する。
【解決手段】ハンプ部と、ビードシート部と、ビードシート部のホイール幅方向外側に形成されたリムフランジ部とを備えた空気入りタイヤ用ホイールであって、ハンプ部よりもホイール幅方向外側のビードシート部の最小径部分から、リム幅基準点を超えてリム幅方向外側のリムフランジ部まで、表面粗さRaが50〜100μmの表面処理が、ショットブラストにより施されている空気入りタイヤ用ホイール。ハンプ部よりもホイール幅方向外側のビードシート部の最小径部分から、リム幅基準点を超えてリム幅方向外側のリムフランジ部まで、表面粗さRaが50〜100μmの表面処理をショットブラストにより施す工程を有しており、研磨剤としてガーネットを用いてショットブラストを行う空気入りタイヤ用ホイールの作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤがホイールリムに対して空転するいわゆるリムずれを防ぐことができる空気入りタイヤ用ホイールとその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に装着されたタイヤは、一般に、制動(ブレーキング)と駆動の繰り返しに伴いタイヤとリムとの間にリムずれが生じる。このようなリムずれの発生は、操縦安定性の低下を招くと共に、タイヤのビード面を磨耗させてエア漏れが発生するなど耐久性の低下を招く恐れがある。
【0003】
そこで、リムずれの発生を防止する技術として、ビードシート部にシリカ等の粒子を混合した塗料を塗布したり、ローレット加工を施したりする技術や、ボルトによりタイヤビードを固定する技術などが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−139106号公報
【特許文献2】特開平6−135202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ビードシート部にシリカ等の粒子を混合した塗料を塗布する技術に関しては、繰り返しの使用により塗膜が摩耗して、リムずれ防止効果が徐々に低下するという問題がある。
【0006】
ビードシート部にローレット加工を施す技術に関しては、リムずれ防止効果を充分に引き出すためにはある程度の粗さにする必要があるが、エア漏れの発生を考慮すると、図2に示すように、加工を施す範囲がビード幅よりも細い幅の狭い範囲に限定され、充分なリムずれ防止効果が得られないという問題がある。
【0007】
また、ボルトによりタイヤビードを固定する技術に関しては、リムずれ防止効果は高いが、ボルトを使用することによるエア漏れ、バランスの悪化、重量増加などが懸念され、タイヤおよびホイールに特別な設計が必要になるという問題がある。
【0008】
以上のように、従来の技術にはそれぞれ問題があり、リムずれの発生を防止する技術として未だ充分とは言えず、近年の自動車の高速化、高性能化とも相俟って、より効果的にリムずれを防止することができる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、
ハンプ部と、ビードシート部と、前記ビードシート部のホイール幅方向外側に形成されたリムフランジ部とを備えた空気入りタイヤ用ホイールであって、
前記ハンプ部よりもホイール幅方向外側の前記ビードシート部の最小径部分から、リム幅基準点を超えてリム幅方向外側の前記リムフランジ部まで、
表面粗さRaが50〜100μmの表面処理が、ショットブラストにより施されている
ことを特徴とする空気入りタイヤ用ホイールである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
ハンプ部と、ビードシート部と、前記ビードシート部のホイール幅方向外側に形成されたリムフランジ部とを備えた空気入りタイヤ用ホイールの作製方法であって、
前記ハンプ部よりもホイール幅方向外側の前記ビードシート部の最小径部分から、リム幅基準点を超えてリム幅方向外側の前記リムフランジ部まで、表面粗さRaが50〜100μmの表面処理をショットブラストにより施す工程を有しており、
研磨剤としてガーネットを用いて前記ショットブラストを行う
ことを特徴とする空気入りタイヤ用ホイールの作製方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤやホイールに特別な設計を必要とせず、効果的にリムずれを防止することができる。その結果、操縦安定性の低下やタイヤのビード面の磨耗に伴うエア漏れの発生による耐久性の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態の空気入りタイヤ用ホイールの一部を示す(a)断面図および(b)斜視図である。
【図2】ローレット加工が施された従来の空気入りタイヤ用ホイールの一部斜視図である。
【図3】リムずれの評価方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態の空気入りタイヤ用ホイールの一部を示す(a)断面図および(b)斜視図である。
【0015】
図1(a)に示すように、空気入りタイヤ用ホイール1は、ハンプ部12と、ビードシート部11と、ビードシート部11のホイール幅方向外側に形成されたリムフランジ部13とを備えており、ビードシート部11は、ホイール径方向外側に傾斜するように、ハンプ部12からホイール幅方向外側に向けて延びている。
【0016】
そして、ビードシート部11の最小径(Rmin)の部位14から、リム幅基準点15を超えて、リムフランジ部13を含む範囲16には、ショットブラストによる表面処理が施されて、図1(b)に示すようなブラスト面21が形成されている。
【0017】
なお、ハンプ部への表面処理は、リムずれ防止に効果を示さないことに加えて、リム組みを行う際の嵌合圧が高くなるというデメリットがあるため施されていない。
【0018】
上記のように、表面処理の手段としてショットブラストが採用されているため、ローレット加工と異なり、エア漏れを懸念なく、ビードシート部11のみならずリムフランジ部13まで、従来に比べて2倍以上の面積の広い範囲に表面処理を施すことができ、タイヤ/ホイール間の摩擦が増加し、リムずれを防止することができる。
【0019】
また、ショットブラストによる表面処理は、従来のシリカ等の粒子を混合した塗料を塗布する場合と異なり、繰り返しの使用によりリムずれ防止効果が徐々に低下するということがない。そして、ボルトによりタイヤビードを固定する場合のように、エア漏れ、バランスの悪化、重量増加などを懸念する必要がないため、タイヤおよびホイールに特別な設計を行う必要もない。
【0020】
そして、本実施の形態の空気入りタイヤ用ホイールにおいては、リムフランジ部13にも表面処理が施されているため、リムずれを防止することができる。
【0021】
即ち、旋回中においては、旋回中のタイヤの変形により横力が発生して、旋回外側輪の車両側リムフランジ部および旋回内側輪の外側リムフランジ部のそれぞれにタイヤが押し付けられて摩擦が増加する。
【0022】
また、リムずれは、制動時、駆動時にも発生し易いが、いずれの状況でもタイヤには横力が作用して、いずれかのリムフランジ部にタイヤが押し付けられるため、リムずれを防ぐことができる。即ち、制動時にはネガキャンバーが増すことにより横力が増し、駆動時には旋回中にスロットルを開けていくためタイヤに横力が作用する。
【0023】
本実施の形態において、ショットブラストにより形成されるブラスト面21の表面粗さRaとしては、50〜100μmが好ましい。
【0024】
50μm未満の場合にはタイヤ/ホイール間に充分に大きな摩擦を得ることができず、リムずれを充分に防止できない。一方、100μmを超える場合には、エア漏れが発生する可能性が高くなる。
【0025】
ショットブラストの種類としては、特に限定されないが、ブラスト、サンドブラスト、ショットピーニング、砂吹きなどが好ましい。
【0026】
そして、ショットブラストに用いられる研磨剤としては、粒子のホイールへの残存を防ぐこと、および上記した適度な表面粗さを実現することなどの観点から、ガーネットが好ましい。ガーネット以外の研磨剤としては、カーボランダム、アランダム等のセラミック系の研磨剤が好ましい。ガラス系の研磨剤は切削力が低く破砕性が高すぎ、また、金属系、樹脂系、植物系の研磨剤は切削力が低いため好ましくない。
【実施例】
【0027】
次に、実施例により、本発明をより具体的に説明する。
【0028】
1.試験体の作製
(実施例1〜3および比較例1〜6)
試験体として、表1に示す表面処理の方法、範囲、表面粗さRaの条件の下で表面処理が施されたホイールサイズ13×18のホイールと、タイヤサイズ330/40R18のタイヤを用いてリム組みを行い、各試験体を作製した。
【0029】
なお、表面粗さRaは、表面処理が施された面をレーザー変位計により測定し、粗さ曲線を得ることにより求めた。具体的には、得られた粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、さらに平均することによりRaを求めた。即ち、下式によりRaを求めた。
Ra=1/L∫|f(x)|dx
【0030】
そして、各実施例および比較例1〜4におけるショットブラストには、研磨剤としてガーネットを使用した。また、比較例5、6は、予め表面処理済のホイールを用いた。
【0031】
2.リムずれ評価試験
(1)試験方法
各試験体を、排気量4.0リットルの競技専用後輪駆動車に装着し、1周4.0kmのサーキットを走行したときのリムずれを測定した。
【0032】
リムずれは、走行前に図3(a)に示すように、タイヤTとホイール1のそれぞれに、タイヤの半径方向にマーカーペンで基準線31(タイヤ側の基準線を31a、ホイール側の基準線を31bとする)を一直線に引いておき、所定距離走行後、基準線31のずれ(基準線31aとホイール側の基準線31bとの間のずれ)を確認し、ずれがある場合には、図3(b)に示すようにタイヤ側の基準線31aとホイール側の基準線31bが成す角度θを計測した。そして、計測された角度θの大きさに基づいてリムずれを評価した。
【0033】
計測は、「リム組み→走行(10周)→リムずれ計測→リム外し」を一つのサイクルとして1サイクル毎に行い、10サイクル実施して、その間のリムずれの最小値、平均値を求め、実施例2を100とした指数で比較した(数値が大きいほど、リムずれが大きいことを示す)。
【0034】
(2)試験結果
試験結果を表1に併せて示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示す通り、ビードシート部のみにショットブラストが施されている場合(比較例3)や、リムフランジ部のみにショットブラストが施されている場合(比較例4)には、ローレット加工(比較例6)よりも悪い結果を示している。しかし、実施例1〜3のように、ビードシート部とリムフランジ部の双方にショットブラストが施されている場合、リムずれ防止効果が大きく上昇しており、比較例の内で最もリムずれの少ない比較例6よりもリムずれ防止効果が大きいことが分かる。
【0037】
また、実施例1〜3、および比較例1、2の結果より、ビードシート部とリムフランジ部の双方にショットブラストが施されている場合であっても、表面粗さRaが適切な範囲(50〜100μm)でない場合には、リムずれ防止効果が充分発揮されないことが分かる。
【0038】
なお、比較例5において、比較例4と比べて、リムずれ最小値は小さいものの、リムずれ平均値が大きくなっているのは、サイクルの繰り返しにより表面処理が劣化したためである。
【0039】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ホイール
11 ビードシート部
12 ハンプ部
13 リムフランジ部
14 最小径(Rmin)の部位
15 リム幅基準点
16 表面処理の範囲
21 ブラスト面
31、31a、31b 基準線
T タイヤ
W リム幅
θ 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンプ部と、ビードシート部と、前記ビードシート部のホイール幅方向外側に形成されたリムフランジ部とを備えた空気入りタイヤ用ホイールであって、
前記ハンプ部よりもホイール幅方向外側の前記ビードシート部の最小径部分から、リム幅基準点を超えてリム幅方向外側の前記リムフランジ部まで、
表面粗さRaが50〜100μmの表面処理が、ショットブラストにより施されている
ことを特徴とする空気入りタイヤ用ホイール。
【請求項2】
ハンプ部と、ビードシート部と、前記ビードシート部のホイール幅方向外側に形成されたリムフランジ部とを備えた空気入りタイヤ用ホイールの作製方法であって、
前記ハンプ部よりもホイール幅方向外側の前記ビードシート部の最小径部分から、リム幅基準点を超えてリム幅方向外側の前記リムフランジ部まで、表面粗さRaが50〜100μmの表面処理をショットブラストにより施す工程を有しており、
研磨剤としてガーネットを用いて前記ショットブラストを行う
ことを特徴とする空気入りタイヤ用ホイールの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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