説明

空気入りタイヤ

【課題】ランフラット走行時のトレッド部のバックリングを抑制するとともに、空気圧が適正状態にある通常走行時の直進ハイドロプレーニング性能を向上することができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤ周方向に延びる主溝がタイヤトレッドに設けられた空気入りタイヤは、前記主溝のタイヤ周上の一部に、前記主溝の対向する両側の溝壁から楕円球形状の一部を成して前記主溝内に突出する一対の溝壁突出部と、前記主溝の溝底から楕円球形状の一部を成して前記主溝内に突出する溝底突出部と、前記主溝の溝幅が広がるように前記主溝の縁が部分的に湾曲形状に陸部に拡がった、前記一対の溝壁突出部にタイヤ周方向に隣接して設けられた溝幅拡大部と、を有する。前記一対の溝壁突出部同士は、タイヤ周方向において少なくとも部分的に重なる程度に位置ずれしており、前記溝底突出部の最大突出部は、位置ずれした前記一対の溝壁突出部の最大突出部のタイヤ周方向の位置の間に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ周方向に延びる主溝がタイヤトレッドに設けられた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
サイドウォール部のタイヤ空洞領域に面するタイヤ内表面の側に断面が三日月状の補強ゴム層を設けた、いわゆるサイド補強型のランフラットタイヤでは、ランフラット走行時におけるサイド剛性を確保すると同時にタイヤ変形に伴う発熱を抑えるために、上記補強ゴム層として高モジュラスかつ低発熱性のゴムが使用されている。このようなランフラットタイヤは、従来スペアタイヤとして収納していた車両のトランクススペースの拡大のために、トランクスペースのデザイン向上のために、あるいは、車両の軽量化による燃費向上のために、車両に純正タイヤとして装着されることが多くなっている。
【0003】
ランフラットタイヤでは、空気圧が適正状態にある場合、および空気圧が低下した異常状態、すなわちランフラット状態にある場合のいずれにおいても、車両走行時の安全性が求められている。例えば、オールシーズンタイヤやウィンタータイヤ等の雪道の走行を想定したランフラットタイヤでは、ランフラット状態での走行(ランフラット走行)において、路面と接触するトレッド部がタイヤラジアル方向内側(タイヤ軸方向の側)に凹むバックリングを抑制し、路面と接するトレッド部の接地面積が低下しないことが望まれている。
【0004】
このような状況下、ランフラット走行時における接地面積の減少を効果的に抑制し、これにより、雪上路面及び氷上路面での発進性能及び登坂性能を向上させる空気入り安全タイヤが知られている(特許文献1)。
上記空気入り安全タイヤは、トレッド部に設けられた周方向溝内に周方向に離れた複数のプラットフォームを設けるとともに、各プラットフォームを周方向溝の一側、他側両側壁にそれぞれ連続し、周方向溝の壁間に溝底まで延びる一定幅の間隙が形成された一側、他側突出部を有する。
この空気入り安全タイヤにおいて、内圧が低下すると、トレッド部全体が凹状に湾曲しようとするが、間隙が間に形成された断面が矩形形状の一側、他側突出部からなるプラットフォームが周方向溝に設けられているので、該プラットフォームはランフラット走行時に軸方向圧縮力を受けて上記間隙が潰れ、一側、他側突出部同士が密着する。これにより、プラットフォームが突っ張り状態となり、トレッド部の凹状湾曲が制限され、トレッド部の接地面積の低下が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−46422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記空気入り安全タイヤでは、周方向溝の溝壁面上にある矩形形状の一対の突出部は、タイヤ周方向における同じ位置にあり、突出部間の隙間は狭いので、空気圧が適正状態にある通常走行時排水性は悪く、直進ハイドロプレーニング性能は低い。
【0007】
そこで、本発明は、従来の問題点を解決するために、ランフラット走行時のトレッド部のバックリングの抑制を維持するとともに、空気圧が適正状態にある通常走行時の直進ハイドロプレーニング性能を向上することができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様は、タイヤ周方向に延びる主溝がタイヤトレッドに設けられた空気入りタイヤである。
当該空気入りタイヤは、前記主溝のタイヤ周上の一部に、
前記主溝の対向する両側の溝壁から楕円球形状の一部を成して前記主溝内に突出する一対の溝壁突出部と、
前記主溝の溝底から楕円球形状の一部を成して前記主溝内に突出する溝底突出部と、
前記主溝の溝幅が広がるように前記主溝の縁が部分的に湾曲形状に陸部に拡がった、前記一対の溝壁突出部にタイヤ周方向に隣接して設けられた溝幅拡大部と、を有する。
前記一対の溝壁突出部同士は、タイヤ周方向において少なくとも部分的に重なる程度に位置ずれしている。前記溝底突出部の最大突出部は、位置ずれした前記一対の溝壁突出部の最大突出部のタイヤ周方向の位置の間に位置する。
【0009】
なお、前記一対の溝壁突出部を、溝壁突出部Aおよび溝壁突出部Bとしたとき、前記溝壁突出部Aの最大突出部は、タイヤ周方向において、前記溝壁突出部Bの最大突出部と前記溝壁突出部Bのタイヤ周方向の一方の端部との間に位置する、ことが好ましい。
【0010】
前記一対の溝壁突出部のそれぞれの最大突出部の前記主溝の縁から測った突出長さをGとし、前記主溝の溝幅をWとし、前記溝底突出部のタイヤ幅方向の幅をJとしたとき、G/Wが0.3以上0.5以下であり、J/Wが0.2以上0.7以下である、ことが好ましい。
【0011】
前記溝底突出部がない前記主溝の部分における溝深さをDとし、前記溝底突出部の最大突出高さをHとしたとき、H/Dが0.1以上0.4以下である、ことが好ましい。
【0012】
前記タイヤトレッドに、例えば、タイヤ周方向に延びる複数のリブ溝が、それぞれ前記主溝として設けられている。この場合、前記複数のリブ溝のそれぞれに設けられる前記一対の溝壁突出部と前記溝底突出部を組として、タイヤ接地面に常に6組以上存在するように、前記一対の溝壁突出部と前記溝底突出部がタイヤ周上に分散配置されていることが好ましい。
【0013】
前記空気入りタイヤは、例えば、ランフラットタイヤである。
【発明の効果】
【0014】
上述の空気入りタイヤは、ランフラット走行時のトレッド部のバックリングの抑制を維持するとともに、空気圧が適正状態にある通常走行時の直進ハイドロプレーニング性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の空気入りタイヤの断面を示す図である。
【図2】本実施形態のタイヤのトレッド部のトレッドパターンの一部分を平面上に展開したパターン展開図である。
【図3】(a)は、図2に示す溝壁突出部の配置を説明する図であり、(b),(c)は、図2に示す溝壁突出部と溝底突出部の溝断面内における配置を説明する図である。
【図4】本実施形態のタイヤのランフラット走行時の溝壁突出部と溝底突出部との位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明する。図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以降、タイヤという)10の半断面図である。
【0017】
以降で説明するタイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心にタイヤ10を回転させたとき、トレッド面の回転する方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に対して直交して延びる放射方向をいい、タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸から離れる側をいう。タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸方向に平行な方向をいい、タイヤ幅方向外側とは、タイヤ10のタイヤセンターラインCLから離れる両側をいう。タイヤ周方向は、図1の紙面に対して垂直方向の向きである。
【0018】
タイヤ10は、骨格材として、カーカスプライ材12と、ベルト材14と、ベルト補強材15(15a,15b)と、ビードコア16とを有し、これらの骨格材の周りに、トレッドゴム部材18と、サイドゴム部材20と、ビードフィラーゴム部材22と、リムクッションゴム部材24と、補強ゴム部材25と、インナーライナゴム部材26と、を主に有する。
補強ゴム部材25は、三日月状の部材であり、トレッド部のショルダー側からサイド部を経てビード部まで、カーカスプライ材12に対してタイヤ空洞領域の側に、カーカスプライ材12とインナーライナゴム部材26との間に挟まれるように設けられる。補強ゴム部材25には、ランフラット走行時、サイド部が必要以上に撓まず、同時にタイヤの変形に伴う発熱を抑えるために、高モジュラスかつ低発熱性のゴム材料が用いられる。すなわち、タイヤ10は、サイド部が補強ゴム部材25で補強されたランフラットタイヤである。
【0019】
カーカスプライ材12は、一対の円環状のビードコア16の間を巻きまわしてトロイダル形状を成した、有機繊維をゴムで被覆した部材である。カーカスプライ材のタイヤ径方向外側に2枚のベルト材14が設けられている。ベルト材14は、タイヤ周方向に対して、所定の角度、例えば20〜30度傾斜したスチールコードにゴムを被覆した部材であり、下層のベルト材14が上層のベルト材14に比べてタイヤ幅方向の幅が広い。2層のベルト14のスチールコードの傾斜方向は互いに逆方向である。このため、ベルト材14は、交錯層となっており、充填された空気圧によるカーカスプライ材12の膨張を抑制する。さらに、ベルト材14の上記機能を補強するように、ベルト材14のタイヤ径方向外側に、有機繊維にゴムを被覆したベルトカバー材15a,15bが設けられている。
【0020】
ベルト材14及びベルトカバー材15a,15bのタイヤ径方向外側には、トレッドゴム部材18が設けられてトレッド部を形成している。さらに、トレッドゴム部材18の端部には、サイドゴム部材20が接続されてサイド部を形成している。サイドゴム部材20のタイヤ径方向内側の端には、リムクッションゴム部材24が設けられ、タイヤ10を装着するホイールと接触する。ビードコア16のタイヤ径方向外側には、ビードコア16の周りに巻きまわす前のカーカスプライ材12の部分と、ビードコア16の周りに巻きまわした後のカーカスプライ材12の部分との間に挟まれるようにビードフィラーゴム部材22が設けられている。タイヤ10とリムとで囲まれる空気を充填するタイヤ空洞領域に面するタイヤ10の内表面には、インナーライナゴム部材26が設けられている。
カーカスプライ材12は、ビード16の周りに巻き回され、巻き回されたカーカスプライ材12の先端はベルト材14と接触する位置、すなわちトレッド部の下部まで延びている。
この他に、空気入りタイヤ10は、ビード部に沿って設けられた、有機繊維をゴムで被覆したシート材29を備える。
【0021】
図2は、図1に示すタイヤ10のトレッド部のトレッドパターン30の一部分を平面上に展開したパターン展開図である。
トレッドパターン30は、点対称形状であり、周方向主溝32a,32b,34a,34bと、周方向細溝36a,36bと、ラグ溝35a,35b,38a,38b,40a,40bと、ショルダーラグ溝44a,44bと、ショルダー細溝46a,46b,51a,51bと、サイプ42a,42b,48a,48b,50a,50bと、複数の溝壁突出部60,62及び溝底突出部64、を有する。周方向主溝32a,32b,34a,34bによって、トレッドパターン30には、センター陸部52、陸部54a,54b、及びショルダー陸部56a,56bが設けられている。
周方向主溝32a,32bは、タイヤセンターラインCLからタイヤ幅方向に同じ距離離れた位置に溝中心を有する、タイヤ周方向に延びた溝である。
周方向主溝34a,34bは、周方向主溝32a,32bのそれぞれのタイヤ幅方向外側に、タイヤセンターラインCLからタイヤ幅方向に同じ距離離れた位置に溝中心を有する、タイヤ周方向に延びた溝である。
周方向主溝32a,32b,34a,34bの溝幅W(図3(b)参照)は、例えば6〜10mmであり、溝深さD(図3(c)参照)は、例えば6〜11mmである。
周方向主溝32a,32b,34a,34bのタイヤ周上の一部に、一対の溝壁突出部60,62と、溝底突出部64が設けられている。溝壁突出部60,62は、周方向主溝32a,32b,34a,34bの対向する両側の溝壁から楕円球形状の一部を成して溝内に同じ大きさを持って突出している。溝底突出部64は、周方向主溝32a,32b,34a,34bの溝底から楕円球形状の一部を成して溝内に突出している。本実施形態では、溝壁突出部60,62は同じ大きさで溝内に突出しているが、溝壁突出部60,62の大きさは異なっていてもよい。
周方向主溝32a,32b,34a,34bのタイヤ周上に設けられた溝壁突出部60,62及び溝底突出部64の組にタイヤ周方向の両側に隣接して、溝幅が広がるように溝の縁が部分的に湾曲形状(円形状あるいは楕円形状)に陸部に拡がった溝幅拡大部66,68が設けられている。溝拡大部66,68が設けられるのは、後述するようにタイヤ10が通常走行時においても溝体積を確保し、水膜を有する路面上を転動した場合であっても排水性を確保するためである。また、溝幅拡大部66,68は湾曲形状になっているので、溝幅拡大部66,68は、溝壁突出部60,62及び溝底突出部64の楕円球形状と共に水の流れを穏やかに変化させて、溝内の水を効率よく流すことができる。
【0022】
周方向主溝32aと周方向主溝32bとの間に形成されるセンター陸部52には、タイヤ周方向に一定の間隔でラグ溝35a,35bが設けられている。ラグ溝35a,35bは、周方向主溝32aと周方向主溝32bからタイヤセンターラインCLに向かってタイヤ周方向に対して傾斜角度を持って延びており、タイヤセンターラインCLに到達する前に閉塞している。ラグ溝35a,35bの溝幅は、例えば2〜4mmであり、溝深さは例えば2〜5mmである。なお、ラグ溝35a,35bが周方向主溝32aと周方向主溝32bからセンター陸部52内部に延びるラグ溝基部に溝壁突出部60,62がある場合、溝壁突出部60,62の一部分が削られて、ラグ溝36a,36bの開口部が形成されている。
【0023】
周方向主溝32aと周方向主溝34aとの間に形成される陸部54aには、陸部54aのタイヤ幅方向の中心位置よりも周方向主溝32aの側に、周方向細溝36aが設けられ、タイヤ周方向に沿って延びている。周方向細溝36aと周方向主溝32aとの間にはラグ溝は設けられていない。周方向細溝36aは、溝幅が例えば2〜5mmで、溝深さが例えば2〜6mmである。周方向細溝36aは、周方向主溝32a,32b,34a,34bと、溝深さによって区別することができ、溝深さが6mmより浅い溝が周方向細溝、溝深さが6mm以上の溝が周方向主溝と定義される。
【0024】
陸部54aのうち、周方向主溝34aと周方向細溝36aとの間の領域には、ラグ溝38a,40a及びサイプ42aがタイヤ周方向に所定の間隔で設けられている。ラグ溝38aは、周方向主溝34aからタイヤ周方向に対して傾斜して延びており、途中でラグ溝40aに接続されている。ラグ溝40aは、ラグ溝38aとの接続位置から、ラグ溝38aと同じ方向に傾斜して周方向細溝36aに延びて、周方向細溝36aに開口している。ラグ溝38aは、ラグ溝40aに比べて溝幅が広く、溝深さも深い。ラグ溝38aの溝幅は、例えば3〜5mmであり、溝深さは2〜6mmである。一方、ラグ溝40aの溝幅は、例えば2〜4mmであり、溝深さは2〜6mmである。なお、ラグ溝38aが周方向主溝34aから周方向細溝36aに向かって延びるラグ溝基部に溝壁突出部60がある場合、溝壁突出部60の一部分が削られて、ラグ溝38aの開口部が形成されている。
サイプ42aは、隣接するラグ溝38a間において、タイヤ周方向に対してラグ溝38aと同じ方向に傾斜して周方向主溝34aから延びており、途中で閉塞している。
【0025】
周方向主溝32bと周方向主溝34bとの間に形成される陸部54bは、陸部54aに対して点対称形状に設けられているが、周方向細溝36bと、ラグ溝38b,40b及びサイプ42bが同様の構成で設けられているので、これらの溝の説明は省略する。
【0026】
周方向主溝34aとトレッドパターンエンドE1との間に設けられるショルダー陸部56aには、ラグ溝44aが所定の間隔でタイヤ周方向に設けられている。ラグ溝44aの溝幅は、例えば3〜7mmであり、溝深さは3〜7mm(周方向主溝34aとの合流位置)である。ラグ溝44aは、周方向主溝34aからタイヤ幅方向に延び、溝深さが徐々に浅くなり、トレッドパターンエンドE1にて溝深さが0となって終了している。ラグ溝44aは、周方向主溝34aからタイヤ幅方向に延びた湾曲形状である。ラグ溝44aは、周方向主溝34aからタイヤ周方向の一方の向き(図2では下側の向き)に向かって延在し、途中、上記湾曲形状によってタイヤ周方向の他方の向きに延在するように向きを変えている。ラグ溝44aには、タイヤ周方向に隣接するラグ溝44aとの間を接続するショルダー細溝51aが、タイヤ周方向に対して傾斜した向きに直線状に設けられている。ショルダー細溝51aの溝幅は、例えば1〜3mmであり、溝深さは2〜4mmである。また、隣接するラグ溝44a同士の間において、トレッドパターンエンドE1からショルダー細溝51aに向かって延びるショルダー細溝46aがラグ溝44aに沿うように設けられ、ショルダー細溝51aに到達することなく終了している。ショルダー細溝46aの溝幅は、例えば2〜3mmであり、溝深さは0〜5mmである。
ショルダー細溝46aの終了点からサイプ48aが延びており、ショルダー細溝51aに到達することなく、閉塞している。隣接するラグ溝44a同士の間において、周方向主溝34aからショルダー細溝51aに向かって延びるサイプ50aが設けられている。本実施形態におけるサイプは、幅が1mm以下であり、深さが2〜6mmの溝状のものをいう。なお、ラグ溝44aが周方向主溝34aからパターンエンドE1に向かって延びるラグ溝基部に溝壁突出部62がある場合、溝壁突出部62の一部分が削られて、ラグ溝44aの開口部が形成されている。
【0027】
周方向主溝34bとトレッドパターンエンドE2との間に設けられるショルダー陸部56bには、ラグ溝44b、ショルダー細溝46b、サイプ48b,50b、ショルダー細溝51bが設けられている。ラグ溝44b、ショルダー細溝46b、サイプ48b,50b及びショルダー細溝51bは、ラグ溝44a、ショルダー細溝46a、サイプ48a,50a及びショルダー細溝51aに対して点対称形状に設けられているが、同様の構成であるため、これらの説明は省略する。
【0028】
図3(a)は、溝壁突出部60,62の配置を説明する図である。図3(b),(c)は、溝壁突出部60,62と溝底突出部64の溝断面における配置を説明する図である。
溝壁突出部60,62は、図3(a)に示すように、タイヤ周方向においてお互いに対向するようにタイヤ周方向の同じ位置に設けられておらず、タイヤ周方向に位置ずれしている。溝壁突出部60,62の位置とは、溝壁突出部60,62の楕円球形状における最大突出部の位置を意味する。溝壁突出部60,62の突出するタイヤ周方向の範囲がタイヤ周方向において少なくとも一部分が重なる程度に位置ずれしている。特に、図3(a)に示すように、一方の溝壁突出部60または溝壁突出部62の最大突出部と突出開始端との範囲R内に、他方の溝壁突出部62または溝壁突出部60の最大突出部の位置が来るように設けられることが、ランフラット走行時、トレッド部のバックリングを抑制する点で好ましい。また、溝底突出部64の位置(最大突出部の位置)は、タイヤ周方向に位置ずれしている溝壁突出部60,62の位置の間にあることが、ランフラット走行時のトレッド部のバックリングを抑制する点で好ましい。
【0029】
なお、溝壁突出部60,62と溝底突出部64は、図3(b),(c)に示されるように、溝内でお互いに接触することなく、隙間が設けられている。すなわち、JATMA YEARBOOK(2010年度版)に規定される空気圧−負荷能力対応表において、最大負荷能力に対応する空気圧をタイヤに充填し、その最大負荷能力の80%の荷重をかけたときの条件で転動する場合、すなわち、タイヤ10が通常走行する場合、周方向主溝32a,32b,34a,34bは閉塞しない。なお、溝壁突出部60,62は、各溝内において、トレッド表面から溝底に向かって溝深さDの10〜70%離れた位置において突出する。したがって、ランフラット走行時、溝壁突出部60,62と溝底突出部64がお互いに接触しても、周方向溝のトレッド表面側の一部分は閉塞しない。
図3(b),(c)に示すように、溝幅W、突出幅G、突出幅J、溝深さD及び溝底突出高さHを定めたとき、溝壁突出部60,62の溝幅Wに対する突出幅Gの比G/Wは、0.3〜0.5であることが好ましい。比G/Wが0.3未満である場合、ランフラット走行時、溝壁突出部60,62が十分に接触せず、トレッド部のバックリングを十分に抑制することができない。G/Wが0.5より大きい場合、溝壁突出部60,62の隙間が狭くなり、通常走行時の周方向主溝の排水性、ひいては直進ハイドロプレーニング性能が低下する。
【0030】
一方、溝底突出部64のタイヤ幅方向の突出幅Jの溝幅Wに対する突出幅Jの比J/Wは、0.2以上0.7以下である、ことが好ましい。比J/Wが0.2未満である場合、ランフラット走行時、溝底突出部64は溝壁突出部60,62と十分に接触せず、トレッド部のバックリングを十分に抑制することができない。比J/Wが0.7より大きい場合、溝底突出部64と壁突出部60,62との間の隙間が狭くなり、通常走行時の周方向主溝の排水性、ひいては直進ハイドロプレーニング性能が低下する。
溝底突出部64の最大突出高さHの溝深さDに対する比H/Dが0.1以上0.4以下である、ことが好ましい。比H/Dが0.1未満の場合、ランフラット走行時、溝底突出部64は溝壁突出部60,62と接触しない場合があり、比H/Dが0.4を超える場合、溝底突出部64と溝壁突出部60,62との間の隙間が狭くなり、通常走行時の周方向主溝の排水性、ひいては直進ハイドロプレーニング性能が低下する。
【0031】
タイヤ10では、JATMA YEARBOOK(2010年度版)に規定される空気圧−負荷能力対応表において、最大負荷能力に対応する空気圧をタイヤに充填し、その最大負荷能力の80%の荷重をかけたときのタイヤ接地面において、複数の周方向主溝32a,32b,34a,34bのそれぞれに設けられる一対の溝壁突出部60,62と溝底突出部64を組として、常に6組以上存在するように、一対の溝壁突出部60,62と溝底突出部64の組がタイヤ周上に分散配置されている、ことが好ましい。例えば、周方向主溝が図2に示すように4本ある場合、2組がタイヤ接地面内に常に位置することが好ましい。この場合、一対の溝壁突出部60,62と溝底突出部64の組が各周方向主溝における接地長の50%未満の間隔でタイヤ周上に設けられていることが好ましい。
【0032】
図4は、ランフラット走行時の溝壁突出部60,62と溝底突出部64との位置を説明する図である。ランフラット走行時、タイヤ10のトレッド部は、地面から受ける荷重の反力によってタイヤ径方向内側に凹むように変形(バックリング)する。この変形によって、図4に示すように、周方向主溝の溝幅を狭くするように両側の陸部はタイヤ幅方向の力を受け、周方向主溝は狭くなる。このとき、図4に示すように、溝壁突出部60,62と溝底突出部64とは、お互いに最大突出位置を含む領域が接触し、周方向主溝がつぶれないように支えるので、タイヤ10のトレッド部は、地面から受ける荷重の反力によって生じるバックリング変形を抑制する。これによって、ランフラット走行時のトレッド部のバックリングを抑制することができる。
【0033】
このような接触は、JATMA YEARBOOK(2010年度版)に規定される空気圧−負荷能力対応表において、最大負荷能力に対応する空気圧の80%をタイヤに充填し、その最大負荷能力の80%の荷重をかけた条件において少なくとも実現されることが好ましい。
また、溝壁突出部60,62と溝底突出部64のタイヤ周方向における位置は、図3(a)に示すように位置ずれしているので、溝壁突出部60,62と溝底突出部64とがお互いに接触しても、溝壁突出部60,62と溝底突出部64とによって隙間が完全になくならない。
また、タイヤ10のトレッドパターン30には、溝壁突出部60,62と溝底突出部64のタイヤ周方向の両側の近接した位置に、溝幅が広がるように湾曲形状に拡がった溝幅拡大部66,68が設けられているので、溝壁突出部60,62と溝底突出部64の体積による溝体積の減少分を確保することができる。溝幅拡大部66,68を流れて通過する水は、溝幅拡大部66,68の湾曲形状によって滑らかに流れるので、溝壁突出部60,62と溝底突出部64とによってできる隙間に、さらには、周方向主溝のトレッド側表面にある溝非閉塞領域A(図4参照)に水が滑らかに流れ込み、滑らかに水が流出される。これにより、通常走行時、直進ハイドロプレーニング性能を向上させることができる。
〔実施例〕
【0034】
本実施形態のタイヤ10の効果を調べるために、仕様の異なるタイヤを作製して車両に装着してタイヤ性能を評価した。使用したタイヤ10のサイズは、225/50RF17であり、図2に示すトレッドパターン30を基準にして、溝壁突出部60,62、溝底突出部64、溝幅拡大部66,68を種々変更したタイヤを作製した(実施例、比較例、従来例)。周方向主溝32a,32b,34a,34bにおける溝幅を12mmに、溝深さを8mmに固定した。また、溝壁突出部60,62の突出範囲のタイヤ周方向の長さL(図3(a)参照)は12mmとした。従って、図3(a)に示す範囲Rのタイヤ周方向の長さは6mm(=L/2)となる。
【0035】
タイヤ性能として、直進ハイドロプレーニング性能とランフラット走行状態における接地面積を評価した。
直進ハイドロプレーニング性能では、JATMA YEARBOOK(2010年度版)に規定される空気圧−負荷能力対応表において、最大負荷能力に対応する空気圧(230kPa)をタイヤに充填し、その最大負荷能力の80%の荷重をかけた条件を用いて、規定されているサイズのリムに組んで車両に装着した。走行路面は、水深10mmの水膜が形成されている路面であり、直進走行状態において車両が操舵不能状態になるときの最低車両速度を測定し、この値を直進ハイドロプレーニング性能の評価値とした。下記表では、従来例の評価値を基準(指数100)として各タイヤの評価値を指数化した。指数が高いほど、直進ハイドロプレーニング性能が発生し難いことを示す。
一方、接地面積は、JATMA YEARBOOK(2010年度版)に規定されているサイズのリムに組んだタイヤに上記最大負荷能力の80%の荷重をかけ、ランフラット走行(空気圧0)時を再現して、タイヤを水平面上に転動させて接地面積を測定した。測定した各タイヤの接地面積の値を、従来例の値を基準(指数100)として指数化した。指数が高いほど、接地面積が大きいことを示す。
【0036】
下記表は、実施例1〜7、比較例1〜4、及び従来例の仕様と、タイヤ性能の評価結果を示している。従来例は、周方向主溝32a,32b,34a,34bに溝壁突出部60,62、及び溝底突出部64が全く存在しない例である。
下記表からわかるように、実施例1〜7では、直進ハイドロプレーニング性能が従来例と同様である一方、ランフラット走行時の接地面積が従来例対比向上し、バックリングが抑制されていることがわかる。また、実施例1〜7における直進ハイドロプレーニング性能は、比較例1〜4対比いずれも向上している。
また、ランフラット走行時の接地面積は、実施例2〜7に示すように、溝壁突出部60,62及び溝底突出部64の形状が矩形であり、位置ずれがない比較例1に比べて大きくなっている。これより、実施例2〜7は、バックリングが抑制されていることがわかる。なお、実施例1の接地面積102と比較例1における接地面積103とは、実質的差は無く同等である。
実施例2〜7の中で、溝壁突出部60,62の位置ずれ量が図3(a)に示す形態(最大突出位置が範囲Rに含まれている形態)である実施例2,3,7では、実施例1に比べて接地面積が増大する。
さらに、比G/Wが0.3〜0.5の範囲にあり、比J/Wが0.2〜0.7の範囲にある実施例4〜6は、実施例2対比、接地面積が増大する。さらに、比H/Dが0.1〜0.4にある実施例5は実施例4対比、接地面積が増大する。さらに、実施例5,6の比較より、タイヤ接地面内に溝壁突出部60,62、及び溝底突出部64の組が6組以上ある実施例6は、実施例5対比、接地面積が増大する。
下記表より、本実施形態の効果は明白である。
【0037】
【表1】

【0038】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0039】
10 空気入りタイヤ
12 カーカスプライ材
14 ベルト材
15,15a,15b ベルト補強材
16 ビードコア
18 トレッドゴム部材
20 サイドゴム部材
22 ビードフィラーゴム部材
24 リムクッションゴム部材
25 補強ゴム部材
26 インナーライナゴム部材
29 シート材
30 トレッドパターン
32a,32b,34a,34b 周方向主溝
36a,36b 周方向細溝
35a,35b,38a,38b,40a,40b ラグ溝
44a,44b ショルダーラグ溝
46a,46b,51a,51b ショルダー細溝
42a,42b,48a,48b,50a,50b サイプ
60,62 溝壁突出部
64 溝底突出部
52 センター陸部
54a,54b 陸部
56a,56b ショルダー陸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延びる主溝がタイヤトレッドに設けられた空気入りタイヤであって、
前記主溝のタイヤ周上の一部に、
前記主溝の対向する両側の溝壁から楕円球形状の一部を成して前記主溝内に突出する一対の溝壁突出部と、
前記主溝の溝底から楕円球形状の一部を成して前記主溝内に突出する溝底突出部と、
前記主溝の溝幅が広がるように前記主溝の縁が部分的に湾曲形状に陸部に拡がった、前記一対の溝壁突出部にタイヤ周方向に隣接して設けられた溝幅拡大部と、を有し、
前記一対の溝壁突出部同士は、タイヤ周方向において少なくとも部分的に重なる程度に位置ずれしており、
前記溝底突出部の最大突出部は、位置ずれした前記一対の溝壁突出部の最大突出部のタイヤ周方向の位置の間に位置する、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記一対の溝壁突出部を、溝壁突出部Aおよび溝壁突出部Bとしたとき、
前記溝壁突出部Aの最大突出部は、タイヤ周方向において、前記溝壁突出部Bの最大突出部と前記溝壁突出部Bのタイヤ周方向の一方の端部との間に位置する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記一対の溝壁突出部のそれぞれの最大突出部の前記主溝の縁から測った突出長さをGとし、前記主溝の溝幅をWとし、前記溝底突出部のタイヤ幅方向の幅をJとしたとき、G/Wが0.3以上0.5以下であり、J/Wが0.2以上0.7以下である、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記溝底突出部がない前記主溝の部分における溝深さをDとし、前記溝底突出部の最大突出高さをHとしたとき、H/Dが0.1以上0.4以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記タイヤトレッドに、タイヤ周方向に延びる複数のリブ溝が、それぞれ前記主溝として設けられ、
前記複数のリブ溝のそれぞれに設けられる前記一対の溝壁突出部と前記溝底突出部を組として、タイヤ接地面に常に6組以上存在するように、前記一対の溝壁突出部と前記溝底突出部がタイヤ周上に分散配置されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記空気入りタイヤは、ランフラットタイヤである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23009(P2013−23009A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157938(P2011−157938)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)