説明

空気入りタイヤ

【課題】導電性ゴムを減らしながらも通電性能を確保できるとともに、タイヤの剛性低下を抑制して操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮できる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】カーカスプライ7の外側トッピングゴム18は、外側界面31から巻き上げ部72に至る部分が非導電性ゴムで形成され、外側界面31からトレッド環状体20との接触箇所に至る部分が硬度の高い導電性ゴムで形成されている。また、内側トッピングゴム19は、内側界面32からタイヤ径方向外側に延びる部分が非導電性ゴムで形成され、内側界面32からリムストリップゴム4との隣接箇所に至る部分が硬度の高い導電性ゴムで形成されている。外側界面31は内側界面32よりもタイヤ径方向内側に位置し、外側トッピングゴム18の導電性ゴムが内側トッピングゴム19の導電性ゴムに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体やタイヤで発生した静電気を路面に放出することができる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の低燃費化と関係が深い転がり抵抗の低減や、濡れた路面での制動性能(ウェット制動性能)の向上を目的として、トレッドゴムをシリカ高配合とした空気入りタイヤが提案されている。ところが、かかるトレッドゴムは、カーボンブラック高配合としたものに比べて電気抵抗が高く、車体やタイヤで発生した静電気の路面への放出を阻害するため、ラジオノイズなどの不具合を生じ易いという問題があった。
【0003】
そこで、シリカ等を配合した非導電性ゴムからなるトレッドゴムに、カーボンブラック等を配合した導電性ゴムからなる導電部を設け、その導電部を介した導電経路によって通電性能を発揮できるようにした空気入りタイヤが開発されている。また、転がり抵抗の低減効果を高めるべく、トレッドゴムだけでなく、サイドウォールゴムやベルトのトッピングゴムにも非導電性ゴムが用いられる場合がある。
【0004】
特許文献1には、トレッドゴムやサイドウォールゴムを非導電性ゴムにより形成し、そのトレッドゴムに埋設した導電部とカーカスプライのトッピングゴムを介して導電経路を構成した空気入りタイヤが記載されている。しかし、通電性能に影響を与えることなく低減できる導電性ゴムが未だ存在しており、そのような導電性ゴムを低減することによって更に性能を改良できる見込みがあることが判明した。
【0005】
また、近年では、タイヤの軽量化が推し進められる傾向にあるが、軽量化に伴ってタイヤの剛性が下がり過ぎると、操縦安定性能の低下や、ダンピング性(減衰性)に起因した乗心地性能の悪化を引き起こすことになる。したがって、操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮するうえで、タイヤの剛性低下をなるべく抑制しうる構造が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−6975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電性ゴムを減らしながらも通電性能を確保できるとともに、タイヤの剛性低下を抑制して操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至る本体部に、前記ビード部に埋設されたビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部を一連に設けたカーカスプライと、接地面を構成するトレッドゴムと、前記トレッドゴムのタイヤ径方向内側に配されたベルトとを含んで、前記カーカスプライにタイヤ径方向外側から接触するトレッド環状体と、前記ビード部に配されてリムと接触可能なリムストリップゴムとを備える空気入りタイヤにおいて、前記カーカスプライは、引き揃えられたカーカスコードと、前記カーカスコードをタイヤ外面側から被覆する外側トッピングゴムと、前記カーカスコードをタイヤ内面側から被覆し、前記巻き上げ部で前記リムストリップゴムと接触する内側トッピングゴムとを有し、前記外側トッピングゴムは、前記サイドウォール部又は前記ビード部における前記本体部に、異なるゴムが接する外側界面を有し、前記外側界面から前記巻き上げ部に至る部分が非導電性ゴムで形成され、前記外側界面から前記トレッド環状体との接触箇所に至る部分が非導電性ゴムよりも硬度が高い導電性ゴムで形成され、前記内側トッピングゴムは、前記サイドウォール部又は前記ビード部における前記本体部に、異なるゴムが接する内側界面を有し、前記内側界面からタイヤ径方向外側に延びる部分が非導電性ゴムで形成され、前記内側界面から前記リムストリップゴムとの隣接箇所に至る部分が非導電性ゴムよりも硬度が高い導電性ゴムで形成され、前記外側界面が前記内側界面よりもタイヤ径方向内側に位置して、前記外側トッピングゴムの導電性ゴムが前記内側トッピングゴムの導電性ゴムに接続され、前記トレッド環状体には、接地面から前記外側トッピングゴムの導電性ゴムに至る導電経路が構成され、前記リムストリップゴムには、前記内側トッピングゴムの導電性ゴムからリムとの接触箇所に至る導電経路が構成されているものである。
【0009】
本発明の空気入りタイヤによれば、外側トッピングゴムの導電性ゴムと内側トッピングゴムの導電性ゴムとを介した導電経路を通じて、車体やタイヤで発生した静電気を路面に放出できる。しかも、外側トッピングゴムの外側界面から巻き上げ部に至る部分と、内側トッピングゴムの内側界面からタイヤ径方向外側に延びる部分とが、それぞれ非導電性ゴムで形成されているため、カーカスプライが含む導電性ゴムを減らしながらも通電性能を確保することができる。
【0010】
また、外側トッピングゴムの外側界面からトレッド環状体との接触箇所に至る部分、及び、それに接続される内側トッピングゴムの内側界面からリムストリップゴムとの隣接箇所に至る部分が、それぞれ相対的に硬度が高いゴムで形成されているため、タイヤの剛性(特に縦剛性)を有効に確保できる。加えて、ビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられる部分も、その硬度の高いゴムで形成されているため、タイヤの剛性(特に横剛性)を有効に確保できる。それ故、タイヤの剛性低下を抑制して、操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮できる。
【0011】
本発明では、前記外側トッピングゴムは、前記トレッド環状体のタイヤ径方向内側に、異なるゴムが接するトレッド側界面を有し、前記トレッド側界面から前記外側界面に至る部分が導電性ゴムで形成され、前記トレッド側界面からタイヤ幅方向内側に延びる部分が非導電性ゴムで形成され、前記内側トッピングゴムは、前記内側界面からタイヤ径方向外側に位置する部分が非導電性ゴムで形成されているものが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、トレッド部に配されるカーカスプライのトッピングゴムが主に非導電性ゴムで形成されるため、カーカスプライが含む導電性ゴムを一段と減らすことができる。それでいて、相対的に硬度の高い導電性ゴムを上記の如く配して、タイヤの剛性低下をなるべく抑制しうるようにしているため、操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮することができる。
【0013】
本発明では、前記外側トッピングゴムは、前記外側界面から前記巻き上げ部の先端に至る部分が非導電性ゴムで形成され、前記内側トッピングゴムは、前記巻き上げ部に、異なるゴムが接するリム側界面を有し、前記リム側界面から前記内側界面に至る部分が導電性ゴムで形成され、前記リム側界面から前記巻き上げ部の先端に至る部分が非導電性ゴムで形成されているものが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、巻き上げ部におけるカーカスプライのトッピングゴムが主に非導電性ゴムで形成されるため、カーカスプライが含む導電性ゴムを一段と減らすことができる。巻き上げ部の先端近傍ではカーカスコードに作用する張力が小さく、タイヤの剛性に対する影響が少ないことから、この部位で導電性ゴムを減らしても、操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮することができる。
【0015】
本発明では、タイヤの剛性を高める観点から、前記カーカスプライが含む導電性ゴムのJISA硬度が56°以上であり、非導電性ゴムのJISA硬度が56°未満であるものが好ましい。また、前記外側界面及び前記内側界面が、それぞれタイヤ最大幅位置を中央としてタイヤ断面高さの60%となる高さの範囲内に位置することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線半断面図
【図2】カーカスプライのトッピングゴムを概念的に示す図
【図3】図2のカーカスプライの矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1に示した空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備えている。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aが埋設され、硬質ゴムからなるビードフィラー1bがビードコア1aのタイヤ径方向外側に配置されている。
【0018】
また、このタイヤTは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至る本体部71に、ビードコア1aの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部72を一連に設けたカーカスプライ7を備える。カーカスプライ7は、全体としてトロイド状に成形されており、本体部71と巻き上げ部72との間にビードコア1a及びビードフィラー1bを挟み込んでいる。カーカスプライ7の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム5が設けられている。
【0019】
トレッド部3には、接地面を構成するトレッドゴム10と、そのトレッドゴム10のタイヤ径方向内側に配されたベルト6とを含んで、カーカスプライ7にタイヤ径方向外側から接触するトレッド環状体20が設けられている。本実施形態のトレッド環状体20は、トレッドゴム10とベルト6に加えて、更にベルト補強材8とゴムパッド11とウイングゴム12とを含んでいる。また、トレッドゴム10には導電部13が設けられており、図1では、図面上での区別を容易にするために導電部13を黒く着色している。
【0020】
ベルト6は、複数枚(本実施形態では2枚)のベルトプライ6a,6bにより構成されている。ベルトプライ6a,6bは、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に引き揃えたベルトコードをトッピングゴムで被覆して形成され、該ベルトコードがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。ベルト補強材8は、実質的にタイヤ周方向に延びる補強コードをトッピングゴムで被覆して形成されている。
【0021】
ゴムパッド11は、ベルト6のタイヤ径方向内側に配置され、ベルト端よりもタイヤ幅方向外側にはみ出してトレッドゴム10に接触している。ベルト端は、ベルトプライ6a,6bのうち幅広となるベルトプライ6aの側端である。ウイングゴム12は、トレッドゴム10の側方に接合されている。トレッドゴム10に埋設された導電部13の一端は接地面に露出し、他端はゴムパッド11に接続されている。ベルト補強材8やゴムパッド11、ウイングゴム12は省略しても構わない。
【0022】
ビード部1には、リム(不図示)と接触可能なリムストリップゴム4が配されている。リムストリップゴム4は、巻き上げ部72のタイヤ幅方向外側に位置し、リム装着時にはリムと巻き上げ部72との間に介在する。サイドウォール部2では、カーカスプライ7のタイヤ幅方向外側にサイドウォールゴム9が設けられている。このタイヤTでは、サイドウォールゴム9の端部にトレッドゴム10の端部を載せてなるトレッドオンサイド構造を採用しているが、これに限定されない。
【0023】
本実施形態では、トレッドゴム10、ベルト6のトッピングゴム、ベルト補強材8のトッピングゴム、ウイングゴム12及びサイドウォールゴム9が、それぞれ非導電性ゴムで形成されている。また、トレッドゴム10に設けられた導電部13、ゴムパッド11及びリムストリップゴム4が、それぞれ導電性ゴムで形成されている。カーカスプライ7のトッピングゴムは、後述するように、部位に応じて非導電性ゴムと導電性ゴムとを使い分けている。
【0024】
図2は、図1のカーカスプライ7を概念的に示した図であり、説明の便宜上、厚みを増して描いている。図3の(A)〜(E)は、それぞれ図2のA−A、B−B、C−C、D−D及びE−Eの矢視断面を示している。図2,3では、図面上での区別を容易にするため、カーカスプライ7が含む導電性ゴムを黒く着色している。
【0025】
カーカスプライ7は、引き揃えられたカーカスコード17と、カーカスコード17をタイヤ外面側から被覆する外側トッピングゴム18と、カーカスコード17をタイヤ内面側から被覆する内側トッピングゴム19とを有する。カーカスコード17は、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列され、有機繊維コード又はスチールコードが好適に使用される。内側トッピングゴム19は、カーカスプライ7の主体をなす本体部71においてカーカスコード17をタイヤ内面側から被覆し、巻き上げ部72ではリムストリップゴム4と接触する。
【0026】
外側トッピングゴム18は、サイドウォール部2における本体部71に、異なるゴムが接する外側界面31を有する。それでいて、外側界面31から巻き上げ部72に至る部分が非導電性ゴムで形成されているとともに、外側界面31からトレッド環状体20との接触箇所20Aに至る部分が、その非導電性ゴムよりも硬度が高い導電性ゴムで形成されている。トレッド環状体20との接触箇所20Aでは、図1のように外側トッピングゴム18の導電性ゴムがゴムパッド11に接触する。
【0027】
内側トッピングゴム19は、サイドウォール部2における本体部71に、異なるゴムが接する内側界面32を有する。それでいて、内側界面32からタイヤ径方向外側に延びる部分が非導電性ゴムで形成されているとともに、内側界面32からリムストリップゴム4との隣接箇所4Aに至る部分が、その非導電性ゴムよりも硬度が高い導電性ゴムで形成されている。リムストリップゴム4との隣接箇所4Aでは、図1のように内側トッピングゴム19の導電性ゴムがリムストリップゴム4に接触する。
【0028】
外側界面31は内側界面32よりもタイヤ径方向内側に位置しており、外側トッピングゴム18の導電性ゴムが内側トッピングゴム19の導電性ゴムに接続されている。したがって、カーカスプライ7に含まれる導電性ゴムは、トレッド環状体20との接触箇所20Aからリムストリップゴム4との隣接箇所4Aまで連続して延び、ゴムパッド11とリムストリップゴム4とを電気的に導通させる。
【0029】
トレッド環状体20には、接地面から外側トッピングゴム18の導電性ゴムに至る導電経路が構成されている。本実施形態では、トレッドゴム10が非導電性ゴムで形成されているが、導電部13とゴムパッド11によって導電経路が構成されている。また、リムストリップゴム4には、内側トッピングゴム19の導電性ゴムからリムとの接触箇所4Bに至る導電経路が構成されている。本実施形態では、リムストリップゴム4が導電性ゴムで形成されており、該リムストリップゴム4を介した通電が可能である。
【0030】
車体等で発生した静電気は、リムから、リムストリップゴム4に構成された導電経路、内側トッピングゴム19における導電性ゴム、外側トッピングゴム18における導電性ゴム、トレッド環状体20に構成された導電経路を通じて路面に放出される。本実施形態において、リムストリップゴム4に構成された導電経路はリムストリップゴム4それ自体であり、トレッド環状体20に構成された導電経路はゴムパッド11と導電部13である。このようなリムから接地面に至る導電経路は、タイヤ幅方向の少なくとも片側に設けてあればよい。
【0031】
導電性ゴムは、体積抵抗率が10Ω・cm未満のゴムであり、原料ゴムに補強剤としてカーボンブラックを高比率で配合したものが例示される。該カーボンブラックは、例えばゴム成分100重量部に対して30〜100重要部で配合される。導電性ゴムは、カーボンブラック以外にも、カーボンファイバーや、グラファイト等のカーボン系、及び金属粉、金属酸化物、金属フレーク、金属繊維等の金属系の公知の導電性付与材を配合することでも得られる。
【0032】
非導電性ゴムは、体積抵抗率が10Ω・cm以上のゴムであり、原料ゴムに補強剤としてシリカを高比率で配合したものが例示される。該シリカは、例えばゴム成分100重量部に対して30〜100重要部で配合される。シリカとしては、湿式シリカを好ましく用いうるが、補強材として汎用されているものは制限なく使用できる。非導電性ゴムは、沈降シリカや無水ケイ酸などのシリカ類以外にも、焼成クレーやハードクレー、炭酸カルシウムなどを配合して作製してもよい。
【0033】
上記の原料ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用される。かかる原料ゴムには、加硫剤や加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤等も適宜に配合される。
【0034】
カーカスプライ7のトッピングゴムにおいて、導電性ゴムは非導電性ゴムよりも硬度が高い。このため、相対的に硬いゴムがビード部1からバットレス部に亘って配され、タイヤTの縦剛性が有効に確保される。バットレス部は、平坦路での通常走行時には接地しないサイドウォール部2のタイヤ径方向外側部分であり、縦剛性に対する寄与が大きい。また、ビードコア1aの周辺で、特にビードフィラー1bのタイヤ幅方向外側に硬いゴムが配されるため、タイヤTの横剛性が有効に確保される。その結果、タイヤの剛性低下を抑止して、操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮できる。
【0035】
カーカスプライ7のトッピングゴムでは、タイヤTの剛性を高める観点から、導電性ゴムのJISA硬度(JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて25℃で測定した値)が56°以上であり、非導電性ゴムのJISA硬度が56°未満であることが好ましい。また、導電性ゴムのJISA硬度が60°以上であれば更に好ましい。カーカスプライ7が含む導電性ゴムと非導電性ゴムとの硬度差は、JISA硬度において例えば4°以上である。
【0036】
外側界面31及び内側界面32は、それぞれタイヤ最大幅位置を中央としてタイヤ断面高さの60%となる高さの範囲内(図1に示した領域Xの範囲内)に位置することが好ましい。また、外側界面31又は内側界面32を、ビード部1における本体部71に設定しても構わない。カーカスプライ7における導電性ゴムを減らしつつ、外側トッピングゴム18の導電性ゴムと内側トッピングゴム19の導電性ゴムとの接続を確実ならしめるうえで、それらの重なり代Wは、例えば1〜40mmに設定される。剛性低下を抑制するうえでは、重なり代Wを1〜15mmに設定することが更に好ましい。
【0037】
本実施形態では、外側トッピングゴム18が、トレッド環状体20のタイヤ径方向内側に、異なるゴムが接するトレッド側界面33を有する。それでいて、トレッド側界面33から外側界面31に至る部分が導電性ゴムで形成されているとともに、トレッド側界面33からタイヤ幅方向内側に延びる部分が非導電性ゴムで形成されている。内側トッピングゴム19は、内側界面32からタイヤ径方向外側に位置する部分が非導電性ゴムで形成されている。
【0038】
かかる構成によれば、トレッド部3に配されるカーカスプライ7のトッピングゴムが主に非導電性ゴムで形成されるため、カーカスプライ7が含む導電性ゴムを一段と減らすことができる。それでいて、相対的に硬度の高い導電性ゴムを上記の如く配して、タイヤTの剛性低下をなるべく抑制しうるようにしているため、操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮することができる。
【0039】
外側トッピングゴム18における導電性ゴムは、トレッド環状体20との接触領域が確保されるように、ベルト端よりもタイヤ幅方向内側にまで延びていることが好ましい。更に、外側トッピングゴム18がトレッド側界面33を有する場合には、導電性ゴムを減らす観点から、ベルト端からタイヤ幅方向内側にベルト幅の20%以内となる範囲にトレッド側界面33を形成することが好ましい。ベルト幅は、ベルト端間のタイヤ幅方向距離として測定される。
【0040】
本実施形態では、内側トッピングゴム19が、巻き上げ部72に、異なるゴムが接するリム側界面34を有する。それでいて、リム側界面34から内側界面32に至る部分が導電性ゴムで形成されているとともに、リム側界面34から巻き上げ部72の先端に至る部分が非導電性ゴムで形成されている。外側トッピングゴム18は、外側界面31から巻き上げ部72の先端に至る部分が非導電性ゴムで形成されている。サイドウォールゴム9との隣接箇所では、巻き上げ部72のトッピングゴムが非導電性ゴムで形成されている。
【0041】
かかる構成によれば、巻き上げ部72におけるカーカスプライ7のトッピングゴムが主に非導電性ゴムで形成されるため、カーカスプライ7が含む導電性ゴムを一段と減らすことができる。巻き上げ部72の先端近傍、特にリムストリップゴム4よりタイヤ径方向外側ではカーカスコード17に作用する張力が小さく、タイヤの剛性に対する影響が少ないことから、この部位で導電性ゴムを減らしても、操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮することができる。
【0042】
本実施形態では、導電部13が、接地面からタイヤ径方向内側に延びるとともに、タイヤ幅方向(図1の右側)に延びてゴムパッド11に接続される例を示したが、ゴムパッド11を省略して、外側トッピングゴム18の導電性ゴムに導電部13を直接的に接続しても構わない。かかる構成は、サイドウォールゴムの端部をトレッドゴムの端部に載せてなるサイドオントレッド構造を採用した場合において特に有用である。サイドオントレッド構造であれば、ウイングゴム12も簡便に省略できる。
【0043】
導電部13の一端が露出する接地面は、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地するトレッド部3の表面を指す。正規リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば"Design Rim"、ETRTOであれば"Measuring Rim"となる。
【0044】
正規内圧は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES"に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" であるが、タイヤが乗用車用である場合には180KPaとする。また、正規荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば上記の表に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" であるが、タイヤが乗用車用である場合には内圧180KPaの対応荷重の85%とする。
【0045】
トレッド環状体20に所要の導電経路が構成されてあれば、導電部の形状は特に制限されない。例えば、一端が接地面に露出し、他端がトレッドゴム10の底面においてベルト補強材8に接続される導電部でもよい。この場合、ベルト補強材8及びベルト6の各々のトッピングゴムを導電性ゴムで形成するとともに、該ベルト6をゴムパッド11或いは外側トッピングゴム18の導電性ゴムに接触させることで、接地面から外側トッピングゴム18の導電性ゴムに至る導電経路を構成できる。
【0046】
本実施形態では、リムストリップゴム4が導電性ゴムで形成された例を示したが、これを非導電性ゴムで形成することも可能である。その場合、例えば、導電性ゴムで形成した導電部をリムストリップゴム4に埋設し、該導電部の一端を内側トッピングゴム19の導電性ゴムに接続するとともに、他端をリムとの接触箇所4Bに露出させることにより、内側トッピングゴム19の導電性ゴムからリムとの接触箇所4Bに至る導電経路を構成できる。
【0047】
外側トッピングゴム18と内側トッピングゴム19との厚みの比率は、種々に変更が可能である。但し、通電性能を確保しながら、カーカスプライ7における導電性ゴムを減らす観点から、プライ全体の厚みに対する導電性ゴムの厚みの割合を2〜50%にすることが好ましい。
【0048】
本実施形態では、1枚のカーカスプライ7が設けられている例を示すが、複数枚(例えば2枚)を設けても構わない。その場合、例えば、外側トッピングゴム18の導電性ゴムと内側トッピングゴム19の導電性ゴムとの重なり代Wをカーカスプライの厚み方向に隣接させることによって、カーカスプライにおける導電経路を構成できる。
【0049】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0051】
(1)縦剛性
車両指定の空気圧としたうえで、実車の荷重に相当する荷重を負荷した状態において、タイヤに上下方向の圧縮力を更に負荷したときの撓みを測定し、その逆数を算出した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど縦剛性が大きいことを示す。
【0052】
(2)横剛性
車両指定の空気圧としたうえで、実車の荷重に相当する荷重を負荷した状態において、タイヤに幅方向の横力を更に負荷したときの変位を測定し、その逆数を算出した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど縦剛性が大きいことを示す。
【0053】
(3)操縦安定性能
実車にタイヤを装着して車両指定の空気圧とし、直進走行やコーナリング走行を実施してドライバーの官能試験により評価した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど操縦安定性能に優れていることを示す。
【0054】
(4)乗心地性能(減衰感)
実車にタイヤを装着して車両指定の空気圧とし、路面に設けた突起を乗り越える走行を実施してドライバーの官能試験により評価した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど操縦安定性能に優れていることを示す。
【0055】
(5)電気抵抗(通電性能)
リムに装着したタイヤに所定の荷重を負荷し、リムを支持する軸からタイヤが接地する金属板に印加電圧(500V)をかけて電気抵抗値を測定した。
【0056】
(6)転がり抵抗
転がり抵抗試験機を用いたドラム走行試験によって、タイヤの転がり抵抗を測定した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が小さいほど転がり抵抗に優れていることを示す。
【0057】
評価に供したタイヤのサイズは195/65R15であり、カーカスプライの構成を除いて、各例におけるタイヤ構造やゴム配合は共通している。カーカスプライの構成と評価結果は、表1に示す通りである。比較例1〜3は、カーカスプライのトッピングゴムを1種のゴムで形成したものであり、比較例4は、図2とは逆に非導電性ゴムと導電性ゴムを配置したものである。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、比較例1,3は、通電性能を有しているものの、転がり抵抗が相対的に高くなっている。また、比較例2,4は、通電性能を有していない。これらに対し、実施例1〜3では、導電性ゴムを減らしたことにより転がり抵抗が低く、しかも通電性能を確保しながら操縦安定性能や乗心地性能を良好に発揮できている。
【符号の説明】
【0060】
1 ビード部
1a ビードコア
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 リムストリップゴム
6 ベルト
7 カーカスプライ
10 トレッドゴム
11 ゴムパッド
13 導電部
17 カーカスコード
18 外側トッピングゴム
19 内側トッピングゴム
20 トレッド環状体
31 外側界面
32 内側界面
33 トレッド側界面
34 リム側界面
71 本体部
72 巻き上げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至る本体部に、前記ビード部に埋設されたビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部を一連に設けたカーカスプライと、
接地面を構成するトレッドゴムと、前記トレッドゴムのタイヤ径方向内側に配されたベルトとを含んで、前記カーカスプライにタイヤ径方向外側から接触するトレッド環状体と、
前記ビード部に配されてリムと接触可能なリムストリップゴムとを備える空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスプライは、引き揃えられたカーカスコードと、前記カーカスコードをタイヤ外面側から被覆する外側トッピングゴムと、前記カーカスコードをタイヤ内面側から被覆し、前記巻き上げ部で前記リムストリップゴムと接触する内側トッピングゴムとを有し、
前記外側トッピングゴムは、前記サイドウォール部又は前記ビード部における前記本体部に、異なるゴムが接する外側界面を有し、前記外側界面から前記巻き上げ部に至る部分が非導電性ゴムで形成され、前記外側界面から前記トレッド環状体との接触箇所に至る部分が非導電性ゴムよりも硬度が高い導電性ゴムで形成され、
前記内側トッピングゴムは、前記サイドウォール部又は前記ビード部における前記本体部に、異なるゴムが接する内側界面を有し、前記内側界面からタイヤ径方向外側に延びる部分が非導電性ゴムで形成され、前記内側界面から前記リムストリップゴムとの隣接箇所に至る部分が非導電性ゴムよりも硬度が高い導電性ゴムで形成され、
前記外側界面が前記内側界面よりもタイヤ径方向内側に位置して、前記外側トッピングゴムの導電性ゴムが前記内側トッピングゴムの導電性ゴムに接続され、前記トレッド環状体には、接地面から前記外側トッピングゴムの導電性ゴムに至る導電経路が構成され、前記リムストリップゴムには、前記内側トッピングゴムの導電性ゴムからリムとの接触箇所に至る導電経路が構成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記外側トッピングゴムは、前記トレッド環状体のタイヤ径方向内側に、異なるゴムが接するトレッド側界面を有し、前記トレッド側界面から前記外側界面に至る部分が導電性ゴムで形成され、前記トレッド側界面からタイヤ幅方向内側に延びる部分が非導電性ゴムで形成され、
前記内側トッピングゴムは、前記内側界面からタイヤ径方向外側に位置する部分が非導電性ゴムで形成されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記外側トッピングゴムは、前記外側界面から前記巻き上げ部の先端に至る部分が非導電性ゴムで形成され、
前記内側トッピングゴムは、前記巻き上げ部に、異なるゴムが接するリム側界面を有し、前記リム側界面から前記内側界面に至る部分が導電性ゴムで形成され、前記リム側界面から前記巻き上げ部の先端に至る部分が非導電性ゴムで形成されている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカスプライが含む導電性ゴムのJISA硬度が56°以上であり、非導電性ゴムのJISA硬度が56°未満である請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記外側界面及び前記内側界面が、それぞれタイヤ最大幅位置を中央としてタイヤ断面高さの60%となる高さの範囲内に位置する請求項1〜4いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−49382(P2013−49382A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189130(P2011−189130)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)