説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】軽量性に優れるとともに、良好な高速時操縦安定性およびユニフォミティを兼ね備えた空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】ビード部11と、サイドウォール部12と、クラウン部13とを備え、カーカス層1とベルト層2とにより補強されてなる空気入りラジアルタイヤである。カーカス層1の補強コードが、脂肪族ポリケトンを原料とするフィラメント束を撚り合わせてなるPK繊維コードであって、下記式(I)および(II)、
σ≧−0.01E+1.2 (I)
σ≧0.02 (II)
(Eは25℃における49N荷重時の弾性率、σは177℃における熱収縮応力)で表される関係を満足し、かつ、カーカス層の補強コードの撚り方向が、1本ごとに異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、軽量化を図るとともに高速時操縦安定性能を向上させた乗用車用の空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのカーカスプライに用いられる補強コードには、ポリエステル系繊維であるポリエチレンテレフタレート(PET)や、セルロース系繊維であるレーヨンなどが主に使用されてきた。また、ケース強力を維持しつつプライ枚数を減らす手段として、高強力である芳香族パラポリアミド(パラ系アラミド樹脂)をカーカスプライに適用することも行われているが、補強コードの撚り構造としては、全てS撚りかZ撚りのどちらか1種のみというのが一般的であった。
【0003】
コードの撚り構造に関しては、例えば、特許文献1に、均一性を改善すべく、サイズが同一かつ撚り方向を反対としたスチールコードを交互にかつ平行に並べて配列したプライを有するタイヤが開示されている。また、特許文献2には、カーカス層を形成する繊維コードが所定の繰り返し構造を有するポリケトン繊維を含むコードからなり、繊維コードの強度、伸び率および破断伸びが所定の値を有する空気入りラジアルタイヤが開示されており、特許文献3には、所定の繰り返し単位からなるポリオレフィンケトンで実質的に形成され、そのEdモジュラスが所定の値を有する有機繊維コードからなるプライを備える空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【特許文献1】特開平2−41904号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平11−334313号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2000−190705号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の芳香族パラポリアミドをカーカスの補強コードに適用したタイヤでは、タイヤ製造時における加熱の際にタイヤ内で弛みが発生してしまい、芳香族パラポリアミドの高強力高剛性の特徴を生かしきれず、結果として高速時操縦安定性やユニフォミティが悪化するという問題が発生する場合があった。したがって、コードの高強力化によりプライ枚数を減らすことで軽量化に寄与できるとともに、上記のような問題を生ずることなく高速時操縦安定性を向上できる技術が求められていた。
【0005】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、軽量性に優れるとともに、良好な高速時操縦安定性およびユニフォミティを兼ね備えた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、カーカスプライの補強コードとして、従来の芳香族パラポリアミドに代えてポリケトン(PK)繊維を適用することで、タイヤ製造時における加熱の際にも収縮を生ずることがなく、したがってタイヤ内で弛みが発生することがないため、剛性利用率を高めて高速時操縦安定性を向上することができることを見出し、また、補強コードの撚り方向を交互に変化させることで、タイヤユニフォミティが向上し、さらには接地圧が均一化されて、高速時操縦安定性をより向上できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、左右一対のリング状のビード部と、該ビード部に連なる左右一対のサイドウォール部と、該サイドウォール部間に跨るクラウン部とを備え、前記ビード部間にトロイド状に延在する少なくとも1層のカーカス層と、該カーカス層のクラウン部外周に配置された2層以上のベルト層とにより補強されてなる空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記カーカス層の補強コードが、脂肪族ポリケトンを原料とするフィラメント束を撚り合わせてなるポリケトン繊維コードであって、下記式(I)および(II)、
σ≧−0.01E+1.2 (I)
σ≧0.02 (II)
(上記式中、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)であり、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)である)で表される関係を満足し、かつ、該カーカス層の補強コードの撚り方向が、1本ごとに異なることを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、前記補強コードの、下記式、
Nt=0.001×N×√(0.125×D/ρ)
(式中、N:撚り数(回/10cm),ρ:コードの比重,D:総デシテックス数(dtex)である)で示される撚り係数Ntが、0.45〜0.99の範囲内であることが好ましく、前記補強コードの打ち込み数が、35本〜60本/50mmであることも好ましい。また、前記補強コードは、好適には、繊度500〜2000dtexの前記フィラメント束を2本または3本撚り合わせてなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記構成としたことにより、軽量性に優れるとともに、良好な高速時操縦安定性およびユニフォミティを兼ね備えた空気入りラジアルタイヤを実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1に、本発明の空気入りラジアルタイヤの一例の断面図を示す。図示するように、本発明のタイヤ10は、左右一対のリング状のビード部11と、ビード部11に連なる左右一対のサイドウォール部12と、サイドウォール部12間に跨るクラウン部13とを備えており、ビード部11間にトロイド状に延在する少なくとも1層(図示する例では1層)のカーカス層1と、そのクラウン部外周に配置された2層以上(図示する例では2層)の非伸長性のベルト層2とにより補強されている。なお、図中の符号3はビードコアを示す。
【0011】
本発明においては、カーカス層1の補強コードが、脂肪族ポリケトンを原料とするフィラメント束を撚り合わせてなるポリケトン繊維(以下、「PK繊維」とも称する)コードであって、下記式(I)および(II)、
σ≧−0.01E+1.2 (I)
σ≧0.02 (II)
(上記式中、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)であり、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)である)で表される関係を満足する。カーカスプライの補強コードとして、脂肪族ポリケトンを原料とするかかるPK繊維コードを用いたことで、タイヤとしての強度および耐熱性に加え、ゴムとの接着性についても良好に確保することができる。ここで、本発明において、熱収縮応力σは、一般的なディップ処理を施した加硫前の上記PK繊維コードの、25cmの長さ固定サンプルを5℃/分の昇温スピードで加熱して、177℃時にコードに発生する応力(単位:cN/dtex)であり、また、弾性率Eは、同様のPK繊維コードの25℃における49N荷重時の弾性率であって、JISのコード引張り試験によるSSカーブの49N時の接線より算出される単位cN/dtexの弾性率である。
【0012】
また、本発明のタイヤにおいては、カーカス層1の補強コードの撚り方向が1本ごとに異なることが重要である。カーカスコードの撚り方向(S撚り/Z撚り)を1本ごとに交互に変化させたことで、撚りにより発生するコード1本あたりの回転モーメントが相殺され、タイヤとしてのユニフォミティを向上させることができる。また、接地圧分布が均一化されるため、結果として、高速時操縦安定性についても向上される。
【0013】
本発明においては、上記特定のPK繊維コードをカーカス層の補強コードとして用いるとともに、その撚り方向を1本ごとに変えた点のみが重要であり、これにより本発明の所期の効果が得られるものであるが、好適には、以下のようなPK繊維コードを用いることができる。
【0014】
本発明に用いるPK繊維コードとしては、繊度500〜2000dtexのフィラメント束を2本または3本撚り合わせてなるものを用いることが好ましい。フィラメント束の繊度が500dtex未満では、必要な剛性および強力が得られずタイヤ強度が不足となる。一方、2000dtexを超えると、コード径が必要以上に太くなるために被覆するゴム量が増えることに起因して、タイヤ重量の増加や接地性、耐久レベルの悪化を招く。
【0015】
また、本発明に用いるPK繊維コードは、上記式(I)および(II)で表される関係を満足することに加えて、下記式、
1.5≧σ
で表される関係を満足することが好ましい。熱収縮応力σが1.5より大きくなると加硫時の収縮力が大きくなりすぎ、結果的にタイヤ内部のコード乱れやゴムの配置乱れを引き起こし、耐久性悪化やユニフォミティー悪化を招くおそれがある。
【0016】
なお、本発明において好適には、上記熱収縮応力σは0.20〜0.70cN/dtex程度であり、上記弾性率Eは90〜200cN/dtexの範囲内程度である。熱収縮応力σが0.70cN/dtexを超えると、タイヤ製造加硫時のコード収縮によるタイヤ変形の発生があり、また、弾性率Eが90cN/dtex未満であると剛性が不十分となる。
【0017】
また、上記PK繊維コードの打ち込み数は、好適には35本〜60本/50mmの範囲内である。この打ち込み数が35本/50mm未満であるとタイヤ強度が不足する一方、60本/50mmを超えるとコード/コード間隔が密になり過ぎて、セパレーションなどの故障の核となりやすく、タイヤ耐久性が低下する。
【0018】
また、本発明においては、上記PK繊維コードの、下記式、
Nt=0.001×N×√(0.125×D/ρ)
(式中、N:撚り数(回/10cm),ρ:コードの比重,D:総デシテックス数(dt
ex)である)で示される撚り係数Ntが、0.45〜0.99の範囲内であることが好ましい。撚り係数が0.45未満であると耐疲労性が不十分となり、タイヤ耐久性が著しく低下する。一方、0.99を超えるとコード強力が低下して、タイヤ強度が不足となる。
【0019】
さらに、上記PK繊維コードは、高温下で収縮し、室温に戻すと伸長する可逆性を有することが好ましい。これにより、高温下、即ち、高速走行時においてはカーカス層内のPK繊維コードが収縮して、十分なタガ効果を発揮することによりトレッドの迫り出しを十分に抑制することができる一方、低温下、即ち、低速走行時においてはカーカス層内のPK繊維コードが伸長して、タイヤの接地面積を十分に確保することができる。
【0020】
上記PK繊維コードの原料であるPK繊維として、引っ張り強度は、好ましくは10cN/dtex以上、より好ましくは15cN/dtex以上である。この引っ張り強度が10cN/dtex未満の場合、タイヤとしての強度が不十分となる。また、PK繊維として、弾性率は、好ましくは200cN/dtex以上、より好ましくは250cN/dtex以上である。この弾性率が200cN/dtex未満の場合、タイヤとして形状保持性が不十分となる。さらに、PK繊維として、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が、好ましくは1%〜5%の範囲、より好ましくは2%〜4%の範囲である。この値が1%未満の場合には、タイヤ製造時の加熱による引き揃え効率が著しく低下し、タイヤ補強部材としての強度や剛性が不十分となる。一方、5%を超える場合には、タイヤ製造時の加熱によりコードが著しく収縮するため、出来上がりのタイヤ形状が悪化する懸念がある。なお、本発明におけるPK繊維の乾熱収縮率は、オーブン中で150℃、30分の乾熱処理を行い、熱処理前後の繊維長を、1/30(cN/dtex)の荷重をかけて計測して下記式により求められる値である。
乾熱収縮率(%)=(Lb−La)/Lb×100
但し、Lbは熱処理前の繊維長、Laは熱処理後の繊維長である。また、PK繊維における引張強度および引張弾性率は、JIS−L−1013に準じて、例えば、オートグラフを用いて室温(25±2℃)で引っ張り試験を行うことにより得られる値であり、引張弾性率は伸度0.1%における加重と伸度0.2%における荷重から算出した初期弾性率の値である。
【0021】
上記PK繊維の原料の脂肪族ポリケトンとしては、下記一般式(III)、

(式中、Aは不飽和結合によって重合された不飽和化合物由来の部分であり、各繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい)で表される繰り返し単位から実質的になるものが好適であり、その中でも、繰り返し単位の97モル%以上が1−オキソトリメチレン[−CH2−CH2−CO−]であるポリケトンが好ましく、99モル%以上が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが更に好ましく、100モル%が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが最も好ましい。
【0022】
かかるポリケトンは、部分的にケトン基同士、不飽和化合物由来の部分同士が結合していてもよいが、不飽和化合物由来の部分とケトン基とが交互に配列している部分の割合が90質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0023】
また、上記式(III)において、Aを形成する不飽和化合物としては、エチレンが最も好ましいが、プロピレン、ブテン、ペンテン、シクロペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、スチレン、アセチレン、アレン等のエチレン以外の不飽和炭化水素や、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、ウンデセン酸、ウンデセノール、6−クロロヘキセン、N−ビニルピロリドン、スルニルホスホン酸のジエチルエステル、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルピロリドンおよび塩化ビニル等の不飽和結合を含む化合物等であってもよい。
【0024】
さらに、上記ポリケトンの重合度としては、下記式(IV)、

(上記式中、tおよびTは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノールおよび該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間であり、Cは、上記希釈溶液100mL中の溶質の質量(g)である)で定義される極限粘度[η]が、1〜20dL/gの範囲内にあることが好ましく、3〜8dL/gの範囲内にあることがより一層好ましい。極限粘度が1dL/g未満では、分子量が小さ過ぎて、高強度のポリケトン繊維コードを得ることが難しくなる上、紡糸時、乾燥時および延伸時に毛羽や糸切れ等の工程上のトラブルが多発することがあり、一方、極限粘度が20dL/gを超えると、ポリマーの合成に時間およびコストがかかる上、ポリマーを均一に溶解させることが難しくなり、紡糸性および物性に悪影響が出ることがある。
【0025】
さらにまた、PK繊維は、結晶化度が50〜90%、結晶配向度が95%以上の結晶構造を有することが好ましい。結晶化度が50%未満の場合、繊維の構造形成が不十分であって十分な強度が得られないばかりか加熱時の収縮特性や寸法安定性も不安定となるおそれがある。このため、結晶化度としては50〜90%が好ましく、より好ましくは60〜85%である。
【0026】
上記ポリケトンの繊維化方法としては、(1)未延伸糸の紡糸を行った後、多段熱延伸を行い、該多段熱延伸の最終延伸工程で特定の温度および倍率で延伸する方法や、(2)未延伸糸の紡糸を行った後、熱延伸を行い、該熱延伸終了後の繊維に高い張力をかけたまま急冷却する方法が好ましい。上記(1)または(2)の方法でポリケトンの繊維化を行うことで、上記ポリケトン繊維コードの作製に好適な所望のフィラメントを得ることができる。
【0027】
ここで、上記ポリケトンの未延伸糸の紡糸方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、特開平2−112413号、特開平4−228613号、特表平4−505344号に記載されているようなヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等の有機溶剤を用いる湿式紡糸法、国際公開第99/18143号、国際公開第00/09611号、特開2001−164422号、特開2004−218189号、特開2004−285221号に記載されているような亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液を用いる湿式紡糸法が挙げられ、これらの中でも、上記塩の水溶液を用いる湿式紡糸法が好ましい。
【0028】
例えば、有機溶剤を用いる湿式紡糸法では、ポリケトンポリマーをヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等に0.25〜20質量%の濃度で溶解させ、紡糸ノズルより押し出して繊維化し、次いでトルエン、エタノール、イソプロパノール、n−ヘキサン、イソオクタン、アセトン、メチルエチルケトン等の非溶剤浴中で溶剤を除去、洗浄してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。
【0029】
一方、水溶液を用いる湿式紡糸法では、例えば、亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液に、ポリケトンポリマーを2〜30質量%の濃度で溶解させ、50〜130℃で紡糸ノズルから凝固浴に押し出してゲル紡糸を行い、さらに脱塩、乾燥等してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。ここで、ポリケトンポリマーを溶解させる水溶液には、ハロゲン化亜鉛と、ハロゲン化アルカリ金属塩またはハロゲン化アルカリ土類金属塩とを混合して用いることが好ましく、凝固浴には、水、金属塩の水溶液、アセトン、メタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
【0030】
また、得られた未延伸糸の延伸法としては、未延伸糸を該未延伸糸のガラス転移温度よりも高い温度に加熱して引き伸ばす熱延伸法が好ましく、さらに、かかる未延伸糸の延伸は、上記(2)の方法では一段で行ってもよいが、多段で行うことが好ましい。熱延伸の方法としては、特に制限はなく、例えば、加熱ロール上や加熱プレート上に糸を走行させる方法等を採用することができる。ここで、熱延伸温度は、110℃〜(ポリケトンの融点)の範囲内が好ましく、総延伸倍率は、好適には10倍以上とする。
【0031】
上記(1)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、上記多段熱延伸の最終延伸工程における温度は、110℃〜(最終延伸工程の一段前の延伸工程の延伸温度−3℃)の範囲が好ましく、また、多段熱延伸の最終延伸工程における延伸倍率は、1.01〜1.5倍の範囲が好ましい。一方、上記(2)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、熱延伸終了後の繊維にかける張力は、0.5〜4cN/dtexの範囲が好ましく、また、急冷却における冷却速度は、30℃/秒以上であることが好ましく、更に、急冷却における冷却終了温度は、50℃以下であることが好ましい。熱延伸されたポリケトン繊維の急冷却方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、ロールを用いた冷却方法が好ましい。なお、こうして得られるポリケトン繊維は、弾性歪みの残留は大きいため、通常、緩和熱処理を施し、熱延伸後の繊維長よりも繊維長を短くすることが好ましい。ここで、緩和熱処理の温度は、50〜100℃の範囲が好ましく、また、緩和倍率は、0.980〜0.999倍の範囲が好ましい。
【0032】
上記PK繊維コードは、上記ポリケトンのフィラメントを複数本撚り合わせてなるマルチフィラメント撚りのPK繊維からなり、例えば、上記ポリケトンからなるフィラメント束に下撚りをかけ、次いでこれを2本または3本合わせて、逆方向に上撚りをかけることで、撚糸コードとして得ることができる。
【0033】
上記のようにして得られたPK繊維コードをゴム引きすることで、カーカスプライに用いるコード/ゴム複合体を得ることができる。ここで、PK繊維コードのコーティングゴムとしては、特に制限はなく、従来カーカスプライに用いられているコーティングゴムを用いることができる。なお、PK繊維コードのゴム引きに先立って、PK繊維コードに接着剤処理を施し、コーティングゴムとの接着性を向上させてもよい。
【0034】
このようにして得られたPK繊維コードの熱収縮応力は、従来の繊維素材、例えば、ナイロン66に比べて約4倍、ポリエチレンテレフタレート(PET)に比べて10倍近い熱収縮応力となり、使用する繊維の量を大幅に減らして軽量化を図ることが可能となる。また、PK繊維の高い熱収縮特性を最も効果的に活用するには、加工時の処理温度や使用時の成型品の温度が、最大熱収縮応力を示す温度(最大熱収縮温度)と近い温度であることが望ましい。具体的には、RFL処理温度や加硫温度等の加工温度が100〜250℃であること、また、繰り返し使用や高速回転によってタイヤ材料が発熱した際の温度は100〜200℃にもなることなどから、最大熱収縮温度は、好ましくは100〜250℃の範囲内、より好ましくは150〜240℃の範囲内である。
【0035】
本発明においては、カーカス層1を上述のように形成するものであれば、それ以外のタイヤ構造や材質については特に制限されるものではなく、常法に従い適宜構成することができる。例えば、ベルト層2は、補強コードをタイヤ赤道面に対し斜めの方向に並列させたゴム引き布の少なくとも2層からなり、これら補強コードの方向は、好適にはタイヤ赤道面に対し20°〜45°程度とする。ベルト層2は、図示する例では2枚であるが、3枚以上であってもよく、タイヤ設計に応じて適宜配置で設けることができる。また、図示はしないが、タイヤの最内層には通常インナーライナーが配置され、トレッド表面には、適宜トレッドパターンが形成される。なお、本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または、窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
タイヤサイズ245/50R18にて、図1に示す断面構造を有する空気入りラジアルタイヤを作製した。図示するように、カーカス層1は1層、ベルト層2は2層とし、カーカス層1の補強コードとしては、下記の表1に示す材質の有機繊維コードをそれぞれ用いた。なお、このうちPK繊維コードについては、下記調製例により得られたものを用いた。また、ベルト層2には、補強コード(材質:スチール)をタイヤ赤道面に対し±26°の方向に並列させたゴム引き布を用いた。さらに、各カーカスプライコードの撚り方向は、下記表1中にそれぞれ示すように設定した。
【0037】
(PK繊維の調製例)
常法により調製したエチレンと一酸化炭素が完全交互共重合した極限粘度5.3のポリケトンポリマーを、塩化亜鉛65重量%/塩化ナトリウム10重量%を含有する水溶液に添加し、80℃で2時間攪拌溶解し、ポリマー濃度8重量%のドープを得た。
【0038】
このドープを80℃に加温し、20μm焼結フィルターでろ過した後に、80℃に保温した紡口径0.10mmφ、50ホールの紡口より10mmのエアーギャップを通した後に5重量%の塩化亜鉛を含有する18℃の水中に吐出量2.5cc/分の速度で押出し、速度3.2m/分で引きながら凝固糸条とした。
【0039】
引き続き凝固糸条を濃度2重量%、温度25℃の硫酸水溶液で洗浄し、さらに30℃の水で洗浄した後に、速度3.2m/分で凝固糸を巻取った。
この凝固糸にIRGANOX1098(Ciba Specialty Chemicals社製)、IRGANOX1076(Ciba Specialty Chemicals社製)をそれぞれ0.05重量%ずつ(対ポリケトンポリマー)含浸せしめた後に、該凝固糸を240℃にて乾燥後、仕上剤を付与して未延伸糸を得た。
【0040】
仕上剤は以下の組成のものを用いた。
オレイン酸ラウリルエステル/ビスオキシエチルビスフェノールA/ポリエーテル(プロピレンオキシド/エチレンオキシド=35/65:分子量20000)/ポリエチレンオキシド10モル付加オレイルエーテル/ポリエチレンオキシド10モル付加ひまし油エーテル/ステアリルスルホン酸ナトリウム/ジオクチルリン酸ナトリウム=30/30/10/5/23/1/1(重量%比)。
【0041】
得られた未延伸糸を1段目を240℃で、引き続き258℃で2段目、268℃で3段目、272℃で4段目の延伸を行った後に、引き続き5段目に200℃で1.08倍(延伸張力1.8cN/dtex)の5段延伸を行い、巻取機にて巻取った。未延伸糸から5段延伸糸までの全延伸倍率は17.1倍であった。この繊維原糸は強度15.6cN/dtex、伸度4.2%、弾性率347cN/dtexと高物性を有していた。また、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率は4.3%であった。このようにして得られたPK繊維を下記表1に示す条件下でコードとして使用した。
【0042】
(各物性値の測定)
引っ張り弾性率Eは、25℃における49N荷重時の弾性率を採用した。また、177℃熱収縮応力σは、各補強コードに一般的なディップ処理を施し、25cmの長さ固定サンプルを5℃/分の昇温スピードで加熱して、177℃時にコードに発生する応力として測定した。
【0043】
(タイヤ強度(水圧試験))
各供試タイヤをリムに組み込んだ後、タイヤ内部に水を注入して、タイヤが破壊したときの水圧値(タイヤ強度)およびその破壊の態様を比較した。水圧値は、比較例1の空気入りタイヤが破壊したときの値を100として指数表示した。数値が大きいほど、耐久性が良好である。
【0044】
(ユニフォミティ性)
自動車規格JASO C 607「自動車用タイヤユニフォミティー試験方法」に準拠して測定した。結果は、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほどユニフォミティが良好である。
【0045】
(操縦安定性評価)
各供試タイヤを乗用車に装着し、60〜200km/時の速度で実車フィーリング試験を実施して、(i)直進安定性,(ii)旋回安定性,(iii)剛性感,(iv)ハンドリング等の項目について1〜10点の評点をつけ、各項目を平均して操縦安定性の評価点とした。評価は専門のドライバー2名で行い、2名の評点の平均を求め、比較例1を100として指数で示した。数値が大きいほど操縦安定性が良好である。
これらの評価結果を、下記の表1中に併せて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記表1に示すように、カーカスプライの補強コードとして所定のPK繊維コードを用いるとともに、その撚り方向を交互に変えた各実施例の空気入りラジアルタイヤにおいては、補強コードとしてアラミド繊維コードを用い、撚り方向をすべて同一とした比較例と同等のタイヤ強度を有するとともに、ユニフォミティや高速時操縦安定性においてより良好な性能が得られていることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りラジアルタイヤを示す幅方向断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 カーカス層
2(2a,2b) ベルト層
3 ビードコア
10 空気入りラジアルタイヤ
11 ビード部
12 サイドウォール部
13 トレッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のリング状のビード部と、該ビード部に連なる左右一対のサイドウォール部と、該サイドウォール部間に跨るクラウン部とを備え、前記ビード部間にトロイド状に延在する少なくとも1層のカーカス層と、該カーカス層のクラウン部外周に配置された2層以上のベルト層とにより補強されてなる空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記カーカス層の補強コードが、脂肪族ポリケトンを原料とするフィラメント束を撚り合わせてなるポリケトン繊維コードであって、下記式(I)および(II)、
σ≧−0.01E+1.2 (I)
σ≧0.02 (II)
(上記式中、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)であり、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)である)で表される関係を満足し、かつ、該カーカス層の補強コードの撚り方向が、1本ごとに異なることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記補強コードの、下記式、
Nt=0.001×N×√(0.125×D/ρ)
(式中、N:撚り数(回/10cm),ρ:コードの比重,D:総デシテックス数(dtex)である)で示される撚り係数Ntが、0.45〜0.99の範囲内である請求項1記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記補強コードの打ち込み数が、35本〜60本/50mmである請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記補強コードが、繊度500〜2000dtexの前記フィラメント束を2本または3本撚り合わせてなる請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−44396(P2008−44396A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218651(P2006−218651)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】