説明

空気清浄システム

【課題】オゾン水よりも状態が安定しており且つ後処理が容易な除菌水を用いて、室内の空気を効率良く除菌できる空気清浄システムを提供する。
【解決手段】空気中の菌を捕捉する集菌動作を行う電気集菌部(20)と、電気集菌部(20)で捕捉した菌に過酸化水素水を供給する除菌動作を行う供給ユニット(60)とを備えた空気清浄装置(10)が複数設けられる。制御装置(35)は、一方の空気清浄装置(10)で除菌動作を行う際に、他方の空気清浄装置(10)で集菌動作を行うように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気を除菌する空気清浄装置が広く知られている。例えば、特許文献1には、オゾン水を処理施設内に噴霧して洗浄脱臭することが開示されている。ところで、オゾンは、空気中で分解され易い特性を有する。そのため、常にオゾン水を生成し続ける必要があるとともに、オゾン水の分解が促進されて、十分な除菌性能を得ることができないという問題がある。そこで、特許文献2には、オゾンの分解速度を遅延させるようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−46573号公報
【特許文献2】特開2001−252664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の洗浄脱臭システムでは、室内の広範囲にオゾン水を散布して除菌、脱臭、及び有害物質の除去を行っているため、オゾン水が大量に必要となり、コストがかかってしまうという問題がある。
【0005】
また、オゾン水を用いる場合には、オゾンガスを水中に溶解させる溶解効率が低いために大量のオゾンガスの発生が必要である上、余剰のオゾンガスの処理も必要になるという問題がある。また、オゾンガスは状態が不安定なためすぐに消失してしまうという問題がある。
【0006】
さらに、廃オゾン処理に費用がかかるという問題がある。具体的に、オゾンガスの気泡は浮力によって上昇し、すぐに水面に至ってしまう。これにより、水中で反応しなかった余剰オゾンが大気中に放出されるため、密閉された室内で長時間使用した場合、室内のオゾン濃度が環境基準を越えるおそれがある。そこで、水中に拡散したオゾンガスのうち水に溶け込まなかったオゾンガスを捕集容器で捕集し、捕集したオゾンガスをオゾン分解触媒で分解した後で大気中に放出する等の対策を施す必要があり、コストがかかってしまう。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、オゾン水よりも状態が安定しており且つ後処理が容易な除菌水を用いて、室内の空気を効率良く除菌できる空気清浄システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の空気清浄装置(10)と、該空気清浄装置(10)の運転動作を制御する制御部(35)とを備えた空気清浄システムを対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0009】
すなわち、第1の発明は、前記空気清浄装置(10)は、空気中の菌を捕捉する集菌動作を行う集菌部(20)と、該集菌部(20)で捕捉した菌に過酸化水素水を供給する除菌動作を行う供給部(60)とを備え、
前記制御部(35)は、前記複数の空気清浄装置(10)の何れかにおいて前記除菌動作を行う際に、他の該空気清浄装置(10)の少なくとも1つにおいて前記集菌動作を行うように制御することを特徴とするものである。
【0010】
第1の発明では、空気清浄装置(10)は、集菌動作を行う集菌部(20)と、除菌動作を行う供給部(60)とを備える。集菌部(20)では、空気中の菌が捕捉される。供給部(60)では、集菌部(20)で捕捉した菌に過酸化水素水が供給される。そして、複数の空気清浄装置(10)は、制御部(35)によりその運転動作が制御される。具体的には、複数の空気清浄装置(10)の何れかにおいて除菌動作が行われる際に、他の空気清浄装置(10)の少なくとも1つにおいて集菌動作が行われる。
【0011】
このような構成とすれば、集菌部(20)で空気中の菌を捕捉した後、この菌に対して除菌・脱臭能力に優れた過酸化水素水を供給するため、室内の広範囲に過酸化水素水を散布する場合に比べてその使用量が少量で済むとともに確実に除菌することができる。
【0012】
ここで、除菌水としてオゾンガスを溶解させたオゾン水を用いる場合には、オゾンガスを水中に溶解させる溶解効率が低いために大量のオゾンガスの発生が必要である上、余剰のオゾンガスの処理も必要になるという問題がある。また、オゾンガスは状態が不安定なためすぐに消失してしまうという問題がある。
【0013】
これに対し、本発明では、除菌水として過酸化水素水を用いている。過酸化水素水は、オゾン水よりも状態が安定しているので残存性が高い。そのため、集菌部(20)の内部に過酸化水素水が浸透するまでの間、除菌効果を持続させることができ、雑菌の除菌を効率的に行うことができる。また、過酸化水素は、分解しても酸素になるだけなので、オゾンガスのように後処理が必要となることがなく、取り扱いが容易である。
【0014】
また、複数の空気清浄装置(10)の何れかにおいて除菌動作を行う際に、他の空気清浄装置(10)の少なくとも1つにおいて集菌動作を行うことで、室内の空気中に浮遊する菌の濃度が一時的に高濃度になってしまうのを抑えることができる。
【0015】
具体的に、除菌動作は、空気を送風するための送風ファンの送風動作を停止した後で行う必要がある。これは、送風動作中に集菌部(20)に対して過酸化水素水を供給すると、過酸化水素水が空気とともに室内に放出されてしまうからである。しかしながら、除菌動作のために送風ファンを停止させると、集菌部(20)に空気が送風されなくなって集菌動作も同時に停止してしまう。そのため、除菌動作が完了するまでの間、集菌動作を行うことができず、室内の空気中に浮遊する菌の濃度が一時的に高濃度になってしまうおそれがある。
【0016】
これに対し、本発明では、制御装置(35)により、複数の空気清浄装置(10)のうち少なくとも1つにおいて集菌動作が行われるように制御している。これにより、室内において常に集菌動作が行われることとなり、室内の空気清浄を安定して行うことができる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、
前記供給部(60)は、水を貯留する貯留タンク(61)と、該貯留タンク(61)の水中でストリーマ放電を生起する電極対(64,65)と、該電極対(64,65)に直流電圧を印加する直流電源(70)とを有し、該ストリーマ放電によって該貯留タンク(61)の水中に過酸化水素を生成するように構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
第2の発明では、供給部(60)において、直流電源(70)から電極対(64,65)に直流電圧が印加される。これにより、貯留タンク(61)の水中では、ストリーマ放電が生起され、このストリーマ放電に伴って貯留タンク(61)の水中では、過酸化水素が生成される。
【0019】
このような構成とすれば、ストリーマ放電によって貯留タンク(61)内に過酸化水素が生成されるため、この過酸化水素を含む除菌水を集菌部(20)で捕捉した菌に供給して除菌することができる。また、水中では、ストリーマ放電の発生に伴い、水酸ラジカル等の活性種も生成される。このため、水中に含まれる有害物質(例えば硫黄系化合物)を、活性種によって酸化分解して除去することができる。
【0020】
また、直流電源(70)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、集菌部(20)で空気中の菌を捕捉した後、この菌に対して除菌・脱臭能力に優れた過酸化水素水を供給するため、室内の広範囲に過酸化水素水を散布する場合に比べてその使用量が少量で済むとともに確実に除菌することができる。ここで、過酸化水素水は、オゾン水よりも状態が安定しているので残存性が高い。そのため、集菌部(20)の内部に過酸化水素水が浸透するまでの間、除菌効果を持続させることができ、雑菌の除菌を効率的に行うことができる。また、過酸化水素は、分解しても酸素になるだけなので、オゾンガスのように後処理が必要となることがなく、取り扱いが容易である。
【0022】
また、複数の空気清浄装置(10)の何れかにおいて除菌動作を行う際に、他の空気清浄装置(10)の少なくとも1つにおいて集菌動作を行うことで、室内の空気中に浮遊する菌の濃度が一時的に高濃度になってしまうのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施形態1に係る空気清浄装置の内部構成を示す側面断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る空気清浄装置を複数備えた空気清浄システムの全体構成図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る放電ユニットの全体構成図であり、放電動作を開始する前の状態を示すものである。
【図4】図4は、実施形態1に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図5】図5は、実施形態1に係る放電ユニットの全体構成図であり、放電動作を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図6】図6は、実施形態1に係る空気清浄装置の集菌動作と除菌動作とを切り換えるタイミングを示すタイミングチャート図である。
【図7】図7は、実施形態1の変形例に係る放電ユニットの全体構成図である。
【図8】図8は、実施形態1の変形例に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図9】図9は、実施形態2に係る放電ユニットの全体構成図であり、放電動作を開始する前の状態を示すものである。
【図10】図10は、実施形態2に係る放電ユニットの全体構成図であり、放電動作を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図11】図11は、実施形態2の変形例に係る絶縁ケーシングの蓋部の平面図である。
【図12】図12は、その他の実施形態に係る空気清浄装置を複数備えた空気清浄システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0025】
《実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る空気清浄装置の内部構成を示す側面断面図である。図1に示すように、この空気清浄装置(10)は、空気中に含まれる菌を除去して空気を浄化するものであり、クリーンルーム等で使用される。
【0026】
空気清浄装置(10)は、縦長のケーシング(11)を備えている。ケーシング(11)は、中空の矩形状に形成されている。ケーシング(11)の下部の側面には、吸込口(12)が開口している。また、ケーシング(11)の上部には、吹出口(13)が開口している。吹出口(13)には、空気を送風するための送風ファン(14)が設けられている。
【0027】
ケーシング(11)には、吸込口(12)から吹出口(13)に亘って空気が流れる空気通路(15)が形成されている。すなわち、ケーシング(11)では、空気が上方に向かって流れるように空気通路(15)が形成されている。また、ケーシング(11)には、その底部に排水槽(16)が形成されている。排水槽(16)には、後述する噴霧ノズル(50)から噴霧された水が回収されて貯留される。
【0028】
空気通路(15)には、電気集菌部(20)が設けられている。この電気集菌部(20)は、荷電電極部(21)と、電気集塵部としての集菌電極部(25)とを備えている。
【0029】
荷電電極部(21)は、線状電極(22)と、この線状電極(22)に対向する板状電極(23)とを備えている。荷電電極部(21)は、両電極に電源(図示省略)から電圧を印加してコロナ放電を生起させ、空気中の菌を所定の電荷(正又は負の電荷)に帯電させるように構成されている。
【0030】
集菌電極部(25)は、複数の電極板(26)を備えている。空気通路(15)では、複数の電極板(26)が鉛直方向に立設するように保持されながら所定の間隔を介して平行に配列されている。荷電電極部(21)で帯電した菌は、集菌電極部(25)に電気的に誘引されて捕捉される。
【0031】
電気集菌部(20)よりも上方には、供給ユニット(60)が設けられている。供給ユニット(60)は、貯留タンク(61)と、噴霧ノズル(50)とを備えている。貯留タンク(61)内には、放電ユニット(62)が配置されている(図3参照)。放電ユニット(62)は、貯留タンク(61)の水中でストリーマ放電を行うことで過酸化水素を生成するものであり、詳しくは後述する。
【0032】
噴霧ノズル(50)は、貯留タンク(61)内で生成された過酸化水素水を電気集菌部(20)の集菌電極部(25)で捕捉された菌に向かって噴霧するものである。なお、噴霧ノズル(50)は、超音波によって気化させた過酸化水素水を集菌電極部(25)に供給するようにした構成であってもよい。
【0033】
貯留タンク(61)には、流入管(51)及び流出管(52)が接続されている。流入管(51)は、排水槽(16)と繋がっている。つまり、流入管(51)は、排水槽(16)に溜まった水を貯留タンク(61)へ送るための流路を構成している。また、流入管(51)には、ポンプ(53)が設けられている。ポンプ(53)は、排水槽(16)に溜まった水を貯留タンク(61)まで汲み上げるものである。流出管(52)は、噴霧ノズル(50)に接続されている。噴霧ノズル(50)は、電気集菌部(20)で捕捉した菌に過酸化水素水を噴霧するものであり、その噴霧口が下方を向いている。
【0034】
〈空気清浄システムの全体構成図〉
図2は、実施形態1に係る空気清浄装置を複数備えた空気清浄システムの全体構成図である。図2に示すように、2台の空気清浄装置(10)が室内(30)の左右両端部にそれぞれ配置されている。左側の空気清浄装置(10)は、吸込口(12)が右側に開口するように配置され、室内(30)の左半分の空間の空気清浄を主に行っている。右側の空気清浄装置(10)は、吸込口(12)が左側に開口するように配置され、室内(30)の右半分の空間の空気清浄を主に行っている。
【0035】
2台の空気清浄装置(10)は、制御装置(35)に接続されている。制御装置(35)は、空気清浄装置(10)の運転動作を制御するものである。具体的に、制御装置(35)は、送風ファン(14)を作動させて電気集菌部(20)において空気中の菌を捕捉する集菌動作と、送風ファン(14)を停止させるとともに電気集菌部(20)で捕捉した菌に過酸化水素水を供給する除菌動作とを行うように制御する。本実施形態1では、一方の空気清浄装置(10)において除菌動作を行う際に、他方の空気清浄装置(10)において集菌動作を行うように制御している。この制御について詳しくは後述する。
【0036】
〈放電ユニットの詳細構造〉
図3に示すように、放電ユニット(62)は、放電電極(64)及び対向電極(65)からなる電極対(64,65)と、この電極対(64,65)に電圧を印加する電源部(70)と、放電電極(64)を内部に収容する絶縁ケーシング(71)とを備えている。
【0037】
電極対(64,65)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものである。放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に配置されている。放電電極(64)は、上下に扁平な板状に形成されている。放電電極(64)は、電源部(70)の正極側に接続されている。放電電極(64)は、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。
【0038】
対向電極(65)は、絶縁ケーシング(71)の外部に配置されている。対向電極(65)は、放電電極(64)の上方に設けられている。対向電極(65)は、上下に扁平な板状であって、且つ上下に複数の貫通孔(66)を有するメッシュ形状ないしパンチングメタル形状に構成されている。対向電極(65)は、放電電極(64)と略平行に配設されている。対向電極(65)は、電源部(70)の負極側に接続されている。対向電極(65)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。
【0039】
電源部(70)は、電極対(64,65)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。すなわち、電源部(70)は、電極対(64,65)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(64,65)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する。電源部(70)のうち、対向電極(65)が接続される負極側は、アースと接続されている。また、電源部(70)には、電極対(64,65)の放電電力を一定に制御する定電力制御部が設けられている(図示省略)。
【0040】
絶縁ケーシング(71)は、貯留タンク(61)の底部に設置されている。絶縁ケーシング(71)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(71)は、一面(上面)が開放された容器状のケース本体(72)と、該ケース本体(72)の上方の開放部を閉塞する板状の蓋部(73)とを有している。
【0041】
ケース本体(72)は、角型筒状の側壁部(72a)と、該側壁部(72a)の底面を閉塞する底部(72b)とを有している。放電電極(64)は、底部(72b)の上側に敷設されている。絶縁ケーシング(71)では、蓋部(73)と底部(72b)との間の上下方向の距離が、放電電極(64)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(64)と蓋部(73)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(71)の内部では、放電電極(64)とケース本体(72)と蓋部(73)との間に空間(S)が形成される。
【0042】
図3及び図4に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)には、該蓋部(73)を厚さ方向に貫通する1つの開口(74)が形成されている。この開口(74)により、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電界の形成が許容されている。蓋部(73)の開口(74)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。以上のような開口(74)は、電極対(64,65)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を構成する。
【0043】
以上のように、絶縁ケーシング(71)は、電極対(64,65)のうちの一方の電極(放電電極(64))のみを内部に収容し、且つ電流密度集中部としての開口(74)を有する絶縁部材を構成している。
【0044】
加えて、絶縁ケーシング(71)の開口(74)内では、電流経路の電流密度が上昇することで、水がジュール熱によって気化して気泡(B)が形成される。つまり、絶縁ケーシング(71)の開口(74)は、該開口(74)に気相部としての気泡(B)を形成する気相形成部として機能する。
【0045】
−空気清浄装置の運転動作−
次に、本実施形態1に係る空気清浄装置(10)の運転動作について説明する。図1及び図2に示すように、空気清浄装置(10)の運転時には、制御装置(35)から出力される起動要求に応じて、送風ファン(14)及びポンプ(53)が運転状態となる。また、電源から荷電電極部(21)の線状電極(22)及び板状電極(23)へ電圧が印加される。また、集菌電極部(25)の複数の電極板(26)へも電圧が印加される。
【0046】
送風ファン(14)の起動に伴い、室内(30)の空気が吸込口(12)よりケーシング(11)内へ吸い込まれる。ケーシング(11)内の空気通路(15)を流れる空気は、上方へ流れて荷電電極部(21)を通過する。
【0047】
荷電電極部(21)では、空気が線状電極(22)と板状電極(23)との間を通過する。ここで、両電極間では、コロナ放電が行われている。このコロナ放電により、空気中の菌等がマイナスの電荷に帯電する。その後、空気は集菌電極部(25)の複数の電極板(26)間を通過する。その結果、マイナスの電荷に帯電した菌等は、正極側となる集菌電極部(25)の電極板(26)表面に付着する。具体的に、集菌電極部(25)では、電極板(26)の表面に菌等が電気的に誘引されて捕捉される。これにより、空気中の菌等を捕捉して除去する集菌動作が行われる。
【0048】
ところで、上述した集菌動作を行うと、空気中に含まれる菌が集菌電極部(25)の表面に次々と付着していく。そこで、本実施形態1では、噴霧ノズル(50)から噴霧される過酸化水素水を利用して集菌電極部(25)を除菌する除菌動作を行うようにしている。
【0049】
噴霧ノズル(50)から噴霧された過酸化水素水は、その自重により下方へ滴下する。その結果、集菌電極部(25)に付着した菌等が過酸化水素水によって除菌されるとともに洗い流される。下方へ滴下した水は、排水槽(16)に回収される。排水槽(16)に貯留された水は、ポンプ(53)によって流入管(51)へ吸い込まれ、貯留タンク(61)に回収される。電気集菌部(20)を流出した空気は、吹出口(13)から再び室内(30)へ放出される。
【0050】
ここで、除菌動作は、送風ファン(14)の送風動作を停止した後で行う必要がある。これは、送風動作中に集菌電極部(25)に向けて過酸化水素水を噴霧すると、過酸化水素水が空気とともに室内(30)に放出されてしまうからである。
【0051】
しかしながら、除菌動作のために送風ファン(14)を停止させると、電気集菌部(20)に空気が送風されなくなって集菌動作も同時に停止してしまう。そのため、除菌動作が完了するまでの間、集菌動作を行うことができず、室内(30)の空気中に浮遊する菌の濃度が一時的に高濃度になってしまうおそれがある。そこで、本実施形態1では、制御装置(35)によって2台の空気清浄装置(10)の運転動作を適宜切り換えるようにしている。
【0052】
図6は、実施形態1に係る空気清浄装置の集菌動作と除菌動作とを切り換えるタイミングを示すタイミングチャート図である。図6に示すように、室内(30)の左側に配置された空気清浄装置(10)において集菌動作が行われている間に、右側の空気清浄装置(10)において除菌動作が行われていることが分かる。また、右側の空気清浄装置(10)において集菌動作が行われている間に、左側の空気清浄装置(10)において除菌動作が行われていることが分かる。すなわち、2台の空気清浄装置(10)の除菌動作が同一の時間帯に行われないように制御している。
【0053】
このように、一方の空気清浄装置(10)で除菌動作を行う際に、他方の空気清浄装置(10)で集菌動作を行うことで、室内(30)において常に集菌動作が行われることとなり、室内(30)の空気清浄を安定して行うことができる。これにより、空気中に浮遊する菌の濃度が一時的に高濃度になってしまうのを抑えることができる。
【0054】
−放電ユニットの運転動作−
本実施形態1に係る空気清浄装置(10)では、放電ユニット(62)が運転されることで、貯留タンク(61)内に過酸化水素が生成される。このような放電ユニット(62)の運転動作について詳細に説明する。
【0055】
図3に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、電極対(64,65)の間に電界が形成される。放電電極(64)の周囲は、絶縁ケーシング(71)で覆われている。このため、電極対(64,65)の間での漏れ電流が抑制されるとともに、開口(74)内の電流経路の電流密度が上昇した状態となる。
【0056】
開口(74)内の電流密度が上昇すると、開口(74)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(71)では、開口(74)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図5に示すように、開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(65)に導通する負極側の水と、正極側の放電電極(64)との間に気泡(B)が介在する。従って、この状態では、気泡(B)が、放電電極(64)と対向電極(65)との間での水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(64,65)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0057】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、貯留タンク(61)内の水中では、水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素等が生成される。水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって貯留タンク(61)内を対流する。これにより、水中での活性種や過酸化水素の拡散が促される。また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、貯留タンク(61)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上できる。
【0058】
以上のようにして、水中に拡散した水酸ラジカル等の活性種は、水中に含まれる被処理成分(例えばアンモニア等)を酸化分解して水の浄化に利用される。また、水中に拡散した過酸化水素は、水の殺菌に利用される。
【0059】
−実施形態1の効果−
本実施形態1では、電気集菌部(20)で空気中の菌を捕捉した後、この菌に対して除菌・脱臭能力に優れた過酸化水素水を噴霧するため、室内(30)の広範囲に過酸化水素水を散布する場合に比べてその使用量が少量で済むとともに確実に除菌することができる。ここで、過酸化水素水は、オゾン水よりも状態が安定しているので残存性が高い。そのため、電気集菌部(20)の内部に過酸化水素水が浸透するまでの間、除菌効果を持続させることができ、雑菌の除菌を効率的に行うことができる。また、過酸化水素は、分解しても酸素になるだけなので、オゾンガスのように後処理が必要となることがなく、取り扱いが容易である。
【0060】
また、一方の空気清浄装置(10)で除菌動作を行う際に、他方の空気清浄装置(10)で集菌動作を行うことで、室内(30)の空気中に浮遊する菌の濃度が一時的に高濃度になってしまうのを抑えることができる。
【0061】
〈実施形態1の変形例〉
前記実施形態1では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に1つの開口(74)が形成されている。しかしながら、例えば図7及び図8に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。この変形例では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)が、略正方形板状に形成され、この蓋部(73)に複数の開口(74)が等間隔を置きながら碁盤目状に配列されている。一方、放電電極(64)及び対向電極(65)は、全ての開口(74)に跨るような正方形板状に形成されている。
【0062】
この変形例においても、各開口(74)が、電流密度集中部、及び気相形成部として機能する。これにより、電源部(70)から電極対(64,65)に直流電圧が印加されると、各開口(74)の電流密度が上昇し、各開口(74)で気泡(B)が形成される。その結果、各気泡(B)でそれぞれストリーマ放電が生起され、水酸ラジカル等の活性種や、過酸化水素が生成される。
【0063】
《実施形態2》
実施形態2に係る空気清浄装置(10)は、上述した実施形態1と放電ユニット(62)の構成が異なるものである。以下には、前記実施形態1と異なる点を主として説明する。
【0064】
図9に示すように、実施形態2の放電ユニット(62)は、貯留タンク(61)の外側から内部に向かって挿入されて固定される、いわゆるフランジユニット式に構成されている。また、実施形態2の放電ユニット(62)は、放電電極(64)と対向電極(65)と絶縁ケーシング(71)とが一体的に組立てられている。
【0065】
実施形態2の絶縁ケーシング(71)は、大略の外形が円筒状に形成されている。絶縁ケーシング(71)は、ケース本体(72)と蓋部(73)とを有している。
【0066】
実施形態2のケース本体(72)は、ガラス質又は樹脂製の絶縁材料で構成されている。ケース本体(72)は、円筒状の基部(76)と、該基部(76)から貯留タンク(61)側に向かって突出する筒状壁部(77)と、該筒状壁部(77)の外縁部から更に貯留タンク(61)側に向かって突出する環状凸部(78)とを有している。また、ケース本体(72)には、環状凸部(78)の先端側に先端筒部(79)が一体に形成されている。基部(76)の軸心部には、円柱状の挿入口(76a)が軸方向に延びて貫通形成されている。筒状壁部(77)の内側には、挿入口(76a)と同軸となり、且つ挿入口(76a)よりも大径となる円柱状の空間(S)が形成されている。
【0067】
実施形態2の蓋部(73)は、略円板状に形成されて環状凸部(78)の内側に嵌合している。蓋部(73)は、セラミックス材料で構成されている。蓋部(73)の軸心には、実施形態1と同様、蓋部(73)を上下に貫通する円形状の1つの開口(74)が形成されている。
【0068】
放電電極(64)は、軸直角断面が円形状となる縦長の棒状の電極で構成されている。放電電極(64)は、基部(76)の挿入口(76a)に嵌合している。これにより、放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に収容されている。実施形態2では、放電電極(64)のうち貯留タンク(61)とは反対側の端部が、貯留タンク(61)の外部に露出される状態となる。このため、貯留タンク(61)の外部に配置される電源部(70)と、放電電極(64)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0069】
放電電極(64)のうち貯留タンク(61)側の端部(64a)は、絶縁ケーシング(71)の内部の空間(S)に臨んでいる。なお、図9に示す例では、放電電極(64)の端部(64a)が、挿入口(76a)の開口面よりも上側(貯留タンク(61)側)に突出しているが、この端部(64a)の先端面を挿入口(76a)の開口面と略面一としてもよいし、端部(64a)を挿入口(76a)の開口面よりも下側に陥没させてもよい。また、放電電極(64)は、実施形態1と同様、開口(74)を有する蓋部(73)との間に所定の間隔が確保されている。
【0070】
対向電極(65)は、円筒状の電極本体(65a)と、該電極本体(65a)から径方向外方へ突出する鍔部(65b)とを有している。電極本体(65a)は、絶縁ケーシング(71)のケース本体(72)に外嵌している。鍔部(65b)は、貯留タンク(61)の壁部に固定されて放電ユニット(62)を保持する固定部を構成している。放電ユニット(62)が貯留タンク(61)に固定された状態では、対向電極(65)の電極本体(65a)の一部が浸水された状態となる。
【0071】
対向電極(65)は、電極本体(65a)よりも小径の内側筒部(65c)と、内側筒部(65c)と電極本体(65a)との間に亘って形成される連接部(65d)とを有している。内側筒部(65c)及び連接部(65d)は、貯留タンク(61)内の水中に浸漬している。内側筒部(65c)は、その内部に円柱空間(67)を形成している。内側筒部(65c)の軸方向の一端は、蓋部(73)と当接して蓋部(73)を保持する保持部を構成している。また、電極本体(65a)と内側筒部(65c)と連接部(65d)の間には、ケース本体(72)の先端筒部(79)が内嵌している。内側筒部(65c)の軸方向の他端側には、円柱空間(67)を覆うようにメッシュ状の漏電防止材(68)が設けられている。この漏電防止材(68)は、対向電極(65)と接触することで、実質的にアースされている。これにより、漏電防止材(68)は、貯留タンク(61)の内部の空間(水中)のうち、円柱空間(67)の内側から外側への漏電を防止している。
【0072】
対向電極(65)は、電極本体(65a)の一部が貯留タンク(61)の外部に露出される状態となる。このため、電源部(70)と対向電極(65)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0073】
−放電ユニットの運転動作−
図9に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、開口(74)の内部の電流密度が上昇していく。
【0074】
図9に示す状態から、電極対(64,65)へ更に直流電圧が継続して印加されると、開口(74)内の水が気化されて気泡(B)が形成される(図10を参照)。この状態では、気泡(B)が開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、円柱空間(67)内の負極側の水と、放電電極(64)との間に気泡(B)による抵抗が付与される。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電位差が保たれ、気泡(B)でストリーマ放電が発生する。その結果、水中では、水酸ラジカルや過酸化水素を生成される。
【0075】
〈実施形態2の変形例〉
前記実施形態2では、円板状の蓋部(73)の軸心に1つの開口(74)を形成しているが、この蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。図11に示す例では、蓋部(73)の軸心を中心とする仮想ピッチ円上に、5つの開口(74)が等間隔置きに配列されている。このように蓋部(73)に複数の開口(74)を形成することで、各開口(74)の近傍でそれぞれストリーマ放電を生起させることができる。
【0076】
《その他の実施形態》
前記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0077】
上述した各実施形態の電源部(70)には、ストリーマ放電の放電電力を一定に制御する定電力制御部を用いている。しかしながら、定電力制御部に代えて、ストリーマ放電時の放電電流を一定に制御する定電流制御部を設けることもできる。この定電流制御を行うと、水の導電率によらず放電が安定するため、スパークの発生も未然に回避できる。
【0078】
また、上述した各実施形態では、電源部(70)の正極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の負極に対向電極(65)を接続している。しかしながら、電源部(70)の負極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の正極に対向電極(65)を接続することで、電極対(64,65)の間で、いわゆるマイナス放電を行うようにしてもよい。
【0079】
また、前記実施形態では、電気集菌部(20)が、荷電電極部(21)と集菌電極部(25)とを備えている構成について説明したが、例えば、集菌電極部(25)の代わりに空気清浄フィルタを配置して、荷電電極部(21)で帯電させた菌を、空気清浄フィルタに電気的に誘引して捕捉するようにしてもよい。また、荷電電極部(21)を設けることなく、空気清浄フィルタのみで菌を捕捉するようにしてもよい。
【0080】
また、前記実施形態では、室内(30)に2台の空気清浄装置(10)を配置した構成について説明したが、空気清浄装置(10)の台数はこれに限定するものではない。例えば、室内(30)の空間が広い場合には、3台以上を配置した構成であってもよい。
【0081】
また、空気清浄装置(10)は、室内(30)の床面側に配置しているが、図12に示すように、空気清浄装置(10)を室内(30)の天井側に配置した構成であってもよい。図12に示す例では、室内(30)の天井側に間隔をあけて5つの空気清浄装置(10)が配置されている。この空気清浄装置(10)は、吸込口(12)及び吹出口(13)が下方に開口している。そして、室内(30)の空気が吸込口(12)から吸い込まれ、空気清浄装置(10)内で空気中の菌等が捕捉された後、吹出口(13)から再び室内(30)の下方に向かって放出される。なお、吸込口(12)及び吹出口(13)の開口位置は、この形態に限定するものではない。
【0082】
また、前記実施形態では、各空気清浄装置(10)に貯留タンク(61)及び放電ユニット(62)をそれぞれ設けるようにしているが、例えば、貯留タンク(61)及び放電ユニット(62)を別体で1つだけ設け、この貯留タンク(61)で生成された過酸化水素水を各空気清浄装置(10)に給水するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本発明は、オゾン水よりも状態が安定しており且つ後処理が容易な除菌水を用いて、室内の空気を効率良く除菌できるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0084】
10 空気清浄装置
20 電気集菌部(集菌部)
35 制御装置(制御部)
60 供給ユニット(供給部)
61 貯留タンク
64 放電電極(電極対)
65 対向電極(電極対)
70 電源部(直流電源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空気清浄装置(10)と、該空気清浄装置(10)の運転動作を制御する制御部(35)とを備えた空気清浄システムであって、
前記空気清浄装置(10)は、空気中の菌を捕捉する集菌動作を行う集菌部(20)と、該集菌部(20)で捕捉した菌に過酸化水素水を供給する除菌動作を行う供給部(60)とを備え、
前記制御部(35)は、前記複数の空気清浄装置(10)の何れかにおいて前記除菌動作を行う際に、他の該空気清浄装置(10)の少なくとも1つにおいて前記集菌動作を行うように制御することを特徴とする空気清浄システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記供給部(60)は、水を貯留する貯留タンク(61)と、該貯留タンク(61)の水中でストリーマ放電を生起する電極対(64,65)と、該電極対(64,65)に直流電圧を印加する直流電源(70)とを有し、該ストリーマ放電によって該貯留タンク(61)の水中に過酸化水素を生成するように構成されていることを特徴とする空気清浄システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−75486(P2012−75486A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220760(P2010−220760)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】