説明

空気清浄化用触媒およびその製造方法

【課題】一酸化炭素やホルムアルデヒドなどの空気中に存在する有害物質を50℃以下の低温で効率よく除去することができ、安価な原料、簡便な製造設備や製造方法で製造可能な空気清浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】本発明は、触媒A成分としてマンガン−セリウム均密混合酸化物および触媒B成分として周期律表8〜11族に属する元素の中から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含有する空気清浄化用触媒であって、前記触媒A成分が二酸化セリウムの蛍石型構造に対応するX線回折ピークを主ピークとするものであり、かつマンガンを二酸化マンガン換算で10〜60質量%含有しているマンガンーセリウム均密混合酸化物であることを特徴とする空気清浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一酸化炭素、オゾンや揮発性有機化合物などの空気中に存在する有害物質を50℃以下の低温で除去できる空気清浄化用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関や工場からの大気中に排出された窒素酸化物や揮発性有機化合物、炭化水素などが太陽光中の紫外線と反応して、オゾンなどの過酸化物、二酸化窒素、ホルムアルデヒドなどの生成が光化学スモッグの原因となる。そこで工場や自動車などの排ガス出口に排ガス処理触媒を設置することにより大気汚染は大幅に改善されている。ただし排ガス温度を300℃以上にしないと排ガス処理触媒は機能しないため、工場の排ガス温度が低い場合は燃料費が必要となり維持費が高くなること、自動車の始動時やアイドリング時などのガス温が低い際は有害物質を十分処理されないままで排出されるという問題があった。
【0003】
またオフィスや住居の気密性の向上により、複写機からオゾンや窒素酸化物、暖房機器からの未燃炭化水素や一酸化炭素の排出やタバコの煙に含まれるアセトアルデヒドなどの有害物質による健康被害が心配されている。更には壁材、床材、カーテン、カーペットなどの内装材からシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等の有害物質が発生することが知られている。
【0004】
常温での有害物質の除去に関しては、活性炭、ゼオライト、モレキュラシープ、多孔質粘土、活性アルミナおよびシリカゲルなどの吸着剤が用いる方法が知られている。しかし、吸着剤は寿命があり、定期的に、例えば数ヶ月毎に吸着剤を交換する必要があり、その性能を維持するのに過大な労力や費用を要する。
【0005】
また有害物質を触媒で除去する方法として光触媒を用いることが提案されている。光触媒として酸化チタンが一般的に使用されているが、酸化チタンは紫外線によって励起して生成するラジカルなどにより有害物質を常温で酸化分解することができる。しかし太陽光や室内照明に紫外線は僅かしか含まれていないため、処理速度が遅く実用的な効果が得られるには至っていない。
【0006】
そこで、特許文献1ではマンガン、鉄およびセリウムの複合酸化物よりなる脱臭触媒が開示されている。複合酸化物はMnCeFeのみで構成されていると記載されており、X線回折による結晶構造が二酸化セリウムの蛍石型構造であるかの記載はない。また反応温度は150℃でアセトアルデヒド、トリメチルアミンなど臭気物質を処理する例が示されており50℃以下の低温での処理効果には言及されていない。
【0007】
また、酸化セリウムにパラジウムまたは白金を担持した一酸化炭素酸化触媒が特許文献2に開示されており、成形体の表面から深さ0.8mmまでの表層にパラジウムまたは白金を担持することで一酸化炭素を15〜40℃の常温処理ができると記載されている。
さらに、還元処理によってセリウム酸化物などに酸素欠陥が導入された酸化物に貴金属を担持した常温浄化触媒が特許文献3で開示されており、一酸化炭素、ホルムアルデヒドなどの環境負荷物質を常温で効率よく除去できると記載されている。ただし実施例に示される試験結果ではいずれのガスに対しても処理速度が経時により急速に低下する傾向が見られる。これは、完全酸化されずに副生物が生成することで反応により酸素欠陥が構造が維持されずに性能低下を招いている可能性が考えられる。また水素を5%含む窒素中にて500℃で1時間還元する方法が例示されており、触媒の製造方法が複雑となっている。
一方、特許文献4では比表面積が150m/g以上のマンガン化合物を自動車のラジエータなど表面に塗布して、走行することによって道路などの環境中のオゾン、一酸化炭素、不飽和炭化水素、含酸素炭化水素などの汚染物質を浄化する方法が開示されている。オゾン以外に一酸化炭素や炭化水素を処理する場合は白金やパラジウムと組み合わせて使用することも記載されている。マンガン化合物としてαMnOが好ましいとされており、より好ましい酸化マンガンの結晶構造としてX線回折で測定されるクリプトメレン(KMn16・xHO)構造が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特許3546766号公報
【特許文献2】特開2008−264737号公報
【特許文献3】特開2001−187343号公報
【特許文献4】特許4065026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたものであり、空気中の一酸化炭素やホルムアルデヒドなどの低濃度の有害物質を50℃以下の低温で効率良く処理する空気清浄化用触媒を提供することである。また本触媒の製造方法は簡単であり、複雑な製造設備を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の空気清浄化用触媒は、触媒A成分としてマンガン−セリウムの均密混合酸化物と触媒B成分として周期律表8〜11族に属する元素の中から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含有しており、前記マンガン−セリウム均密混合酸化物はマンガンを二酸化マンガン換算で10〜60質量%含有しており、かつ粉末X線回折測定にて二酸化セリウムの蛍石型構造を有していると同定されることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の空気清浄化用触媒は触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物を30〜99.95質量%含有し、触媒B成分としてパラジウム、白金、銀および金から選ばれる少なくとも1種の金属元素を0.05〜20質量%含有していることが好ましい。
また空気清浄化用触媒は触媒A成分と触媒B成分に加えて、さらに触媒C成分として酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ゼオライトおよびチタン系複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の耐火性無機酸化物を含有することができる。
また本発明の空気清浄化用触媒の製造方法において、触媒A成分として酸化セリウムまたは酸化セリウムの前駆体と、マンガン化合物溶液を混合して乾燥後に空気中300〜900℃で焼成してマンガン−セリウム均密混合酸化物を調製する工程を有していることを特徴とする。この際、マンガン化合物1モルに対して0.1〜2モルの有機酸をマンガン化合物溶液に添加することが好ましい。
【0012】
本発明の空気清浄化用触媒は50℃以下の低温で空気中の有害物質を効率的に除去することができる。上記有害物質としてはオゾン、一酸化炭素、揮発性有機化合物(VOC)、炭化水素、硫黄系化合物や窒素系化合物等が上げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空気清浄化用触媒に用いる触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物は安価な原料、簡便な製造設備や製造方法で製造可能であり、触媒B成分と組み合わせることにより一酸化炭素、ホルムアルデヒドなどの有害物質を50℃以下の低温で完全酸化して室内空気を清浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の空気清浄化用触媒は触媒A成分としてマンガン−セリウム均密混合酸化物と触媒B成分として周期律表8〜11族に属する元素の中から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含有するものであって、前記マンガン−セリウム均密混合酸化物はマンガンを二酸化マンガン換算で10〜60質量%含有しており、かつ粉末X線回折測定にて二酸化セリウムの蛍石型構造を有していることを特徴とする。
【0015】
本発明の触媒A成分のマンガン−セリウム均密混合酸化物とは、粉末X線回折にて測定した際に、酸化マンガンに由来する回折ピークは見られず、蛍石型の二酸化セリウムの結晶ピークを主ピークとして得られるものを表している。粉末試料の結晶構造は格子面間隔(d値)を測定することにより確認することが可能である。X線回折の測定条件は、CuKα線源、電圧45KV、電流40mA、走査範囲10〜90°、走査速度0.198°/minで実施した。本願発明により得られたマンガン−セリウム均密混合酸化物のX線回折の測定結果において主ピークのd値は3.07〜3.15の範囲にあり、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standarts)カードに記載された二酸化セリウムの蛍石型構造のd値である3.12とほぼ一致する。またカードに記載されている二酸化セリウムのd値は相対強度が高い順に、3.12、1.91、1.63、2.71等であり、主ピーク以外もほぼ一致した位置(d値±0.05)に結晶ピークが検出され、マンガン−セリウム均密混合酸化物の結晶構造は二酸化セリウム蛍石型構造にほぼ類似していると考えられる。
【0016】
触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物はマンガンを二酸化マンガン換算で10〜60質量%、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%の範囲で含有する。このように高い含有率でマンガンを含有するにも係らず、酸化マンガンに由来する回折ピークが見られないことから酸化マンガンはアモルファスな状態で酸化セリウム上に高分散されていると推定される。
【0017】
マンガン−セリウム均密混合酸化物における二酸化マンガン換算の含有率が10質量%未満である場合は、有害物質の酸化速度が不十分となり効率的な触媒処理ができなくなり、60質量%を超える場合は酸化マンガンが結晶化しやすくなり耐熱性や耐被毒性の低下を招くので好ましくない。
【0018】
一般に酸化マンガンの結晶構造としてはMnO、MnO、Mn、Mnなどの形態があり、特にMnOは活性二酸化マンガンと呼ばれ強い酸化力を有していることが知られている。しかしながらMnOは熱処理により相変化しやすいため触媒燃焼法に使用することは困難であった。本願の製造方法により得られるマンガン−セリウム均密混合酸化物は900℃の高温で熱処理してもX線回折測定において、ほとんど二酸化セリウムの蛍石型の結晶ピークが検出されるのみであり熱的安定性に関しても大幅な改善効果が得られることが判っている。また酸化マンガンは反応性が高く処理ガス中に硫黄化合物が存在すると硫化マンガンや硫酸マンガンに変質して性能低下を招きやすいことが判っているが、本発明のマンガン−セリウム均密混合酸化物は酸化マンガンが安定化されており耐硫黄被毒性に対しても改善効果が得られる。
【0019】
マンガン−セリウム均密混合酸化物は固相混合法、固液混合法、液相共沈法、アルコキシドを用いたゾルゲル法等により製造することができる。特に安価な原料を用いて簡便な製造装置用いて高活性な均密混合酸化物を製造することができる固液混合法が好ましい製造方法として挙げられる。固液混合法とはマンガンまたはセリウムとどちらかを使用する溶媒に不溶な固体原料として用いて、もう一方に金属塩を水などの溶媒に溶解した溶液として混合して調製するものである。好ましくはセリウム源を固体原料としてマンガン源を溶液で使用することが好ましい。具体的にはアモルファスな酸化セリウムまたは炭酸セリウム、水酸化セリウム等の酸化セリウムの前駆体に硝酸マンガン等のマンガン化合物溶液を含浸して、乾燥、焼成することが挙げられる。空気中で300〜900℃で焼成することで、20〜100m/gの比表面積を有したマンガン−セリウム均密混合酸化物を調製することができる。
【0020】
触媒B成分の周期律表8〜11族に属する金属元素としては、8族の鉄、ルテニウム、オスミウム、9族のコバルト、ロジウム、イリジウム、10族のニッケル、パラジウム、白金および11族の銅、銀、金などが使用可能である。好ましい触媒B成分としてパラジウム、白金、銀および金から選ばれる少なくとも1種の元素を用いることが好ましい。
本発明の空気清浄化用触媒は前記触媒A成分としてマンガン−セリウム均密混合酸化物を30〜99.5質量%、触媒B成分として周期律表8〜11族の金属元素を0.05〜20質量%含有していることが好ましい。触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物が30質量%未満である場合は有害物質の酸化速度が遅くなり高い処理効率が得られ難く、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。また触媒B成分である周期律表8〜11族の金属元素が0.05質量%より少ない場合は低温での酸化性能が不十分となり、20質量%を超えても性能向上効果はほとんど得られず分散性が低下して粒子成長する可能性があるので好ましくない。尚、触媒B成分は各元素の金属または金属の酸化物として含有されることが好ましい。
【0021】
また触媒B成分としてはパラジウム、白金、銀および金から選ばれる少なくとも1種の元素を使用することが好ましく、これら元素使用することにより一酸化炭素やVOCの除去性能の向上が得られる。特に好ましくは触媒B成分としてパラジウムと銀を組み合わせて使用することにより低温での酸化性能が著しく向上し、Pd/Agの原子比を50/50〜1/99の範囲とすることが好ましい。
【0022】
本発明の空気清浄化用触媒は前述の触媒A成分および触媒B成分に加えて、さらに触媒C成分として酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ゼオライトおよびチタン系複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の耐火性無機酸化物を含有することができる。耐火性無機酸化物は0〜69.95質量%含有することが好ましい。耐火性無機酸化物を添加することにより空気中に低濃度で存在する有害物質に対する吸着特性や触媒の機械的強度の向上が得られる。耐火性無機酸化物が69.95質量%を超える場合は触媒A成分および触媒B成分の含有量が少なくなり、十分な触媒活性が得られなくなるので好ましくない。
【0023】
前記耐火性無機酸化物はチタン系複合酸化物を使用することが好ましい。チタン系複合酸化物が優れている理由は明らかではないが、顕著な固体酸性を有していることで低温での有害物質の酸化が促進する効果が得られていると考えられる。チタン系複合酸化物としてはTi−Si複合酸化物、Ti−Zr複合酸化物およびTi−Si−Zr複合酸化物から選ばれる1種を使用することが好ましい。特にTi−Si複合酸化物は高比表面積を有しており化学的および熱的に安定であり、触媒A成分および触媒B成分と組み合わせ使用することにより吸着性に優れた空気清浄化用触媒を構成することができる。特に低温での酸化処理で問題となる硫黄系化合物を含有するガスを処理するのに好適である。室内の低濃度の有害ガスを処理するに際してチタン系複合酸化物の比表面積は100m/g以上、好ましくは150m/g以上であることが好ましい。またチタン系複合酸化物はpKa≦+3.3の酸強度を有する固体酸量が0.3mmol/g以上であることが好ましい。
次に空気清浄化用触媒の製造方法について記載する。前述のように触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物は液相共沈法やゾルゲル法によっても製造することができるが、以下に示す簡便な固液混合法で製造することが好ましい。
【0024】
本発明の空気清浄化用触媒の具体的な製造方法は酸化セリウム、または酸化セリウムの前駆体と、マンガン化合物溶液を十分に混合し乾燥後に空気中300〜900℃で焼成して触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物を調製する工程を有していることを特徴とする。セリウム源としてはアモルファスな酸化セリウムまたは炭酸セリウム、水酸化セリウム等の酸化セリウムの前駆体が使用可能であり特に多孔質で高比表面積な均密混合酸化物を得ることができる炭酸セリウムをセリウム源として用いることが好ましい。またマンガン源としては硝酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン等の水などの溶媒に溶解可能なマンガン化合物の溶液を使用することができ、特に硝酸マンガン水溶液を使用することが好ましい。水などの溶媒の添加量は固液の均質な混合が可能な範囲とし、混合装置や乾燥装置の仕様に合わせて適宜変更できる。乾燥は水などの溶媒を除去するものであり80〜200℃の範囲で1〜24時間実施し、その後空気中で300〜900℃、好ましくは500〜700℃で焼成することでマンガン−セリウム均密混合酸化物を調製することができる。
【0025】
また上記マンガン化合物溶液に酢酸、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸を添加することにより、さらに高活性で微細構造を有したマンガン−セリウム均密混合酸化物を得ることができる。有機酸の添加量としてはマンガン化合物1モルに対して0.1〜2モル、好ましくは0.3〜1.5モル、より好ましくは0.5〜1モル添加することが好ましい。有機酸の添加量が0.1モルより少ない場合は添加効果が得られず、2モルを超える場合は焼成時に還元雰囲気となり均密混合酸化物の性状に悪影響を与える可能性があるため好ましくない。
【0026】
本発明の空気清浄化用触媒の製造方法において触媒B成分の添加方法は特に限定されるものではなく例えば(1)〜(3)の方法が例示される。(1)触媒A成分の粉体に、触媒B成分の金属元素の硝酸塩、硫酸塩などの水溶液を噴霧や浸漬して乾燥焼成して担持してから、これら触媒組成物を成形して乾燥焼成して製造する。(2)触媒A成分の粉末と触媒B成分の金属化合物塩溶液と混練して成形してから乾燥焼成して製造する。(3)触媒A成分を含有する触媒組成物を、成形して乾燥焼成後に触媒B成分の金属化合物塩溶液に含浸担持し乾燥焼成する。特に(3)の製造方法で触媒B成分を成形体の表層部に担持することが好ましく、これにより触媒B成分の含有率を少なくすることができる。前記触媒の焼成温度としては300〜900℃、好ましくは400〜600℃にて空気中で焼成することができる。空気清浄化用触媒は顆粒状、ペレット状、ハニカム状等の形状とすることができる。必要により成形助剤として澱粉等の有機バインダー、シリカゾルやアルミナゾル等の無機バインダーやガラス繊維等のセラミック繊維を添加することができる。成形助剤は触媒組成物の15%以下、好ましくは10%以下で添加することが好ましい。なお触媒C成分である酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ゼオライトまたはチタン系複合酸化物などの耐火性無機酸化物は前記(1)〜(3)の製造方法のいずれの工程において添加しても良い。
【0027】
本発明の空気清浄化方法は50℃以下の低温で有害物質を含有する空気と前記空気清浄化用触媒を接触させるだけで有害物質を効率的に除去することができる。また触媒の空間速度は1,000〜1,000,000hr−1で処理可能であり、好ましくは10,000〜200,000hr−1の範囲で処理することが好ましい。本発明の空気清浄化用触媒により室内空気中に存在する低濃度のオゾン、一酸化炭素、VOC、硫黄系化合物や窒素系化合物等の有害物質や臭気物質を処理することができる。なお温度が高くなるほど空気清浄化用触媒による有害成分の除去速度は速まるため、50℃を超える温度で使用することもできる。
【0028】
また空気清浄化用触媒の形状は成形品に限定されるものではない。例えば自動車のラジエータなどの放熱フィンの表面に、触媒A成分および触媒B成分を含有する本発明の空気清浄化用触媒を被覆せしめることによって空気中に含まれる有害物質を効果的に除去することができる。この際、前記触媒組成物を湿式粉砕して水性スラリーとして、放熱フィンに塗布したり吹き付けて、表面に接着せしめる。自動車のラジエータの放熱フィンは表面温度が70℃近くまで上昇するため、余剰熱を利用して空気中の有害物質を高効率で除去することができる。余剰熱を利用できるものはラジエータ以外に、例えばカーエアコン、家庭用や業務用エアコンの室外機、パソコンなどの放熱フィンに適用することが可能であり、自動車の走行や空冷ファンにより強制的に空気と接触する部分に空気清浄化用触媒を被覆せしめることで室内外の空気を効率的に処理することができる。水性スラリーの平均粒子径は10μm以下が好ましく、平均粒子径が10μmより大きい場合は接着性が不十分となるため好ましくない。放熱フィンの材質はアルミニウムまたはアルミニウム合金が使用されているが、接着性を高めるために金属表面処理を実施しても良い。また必要により無機または有機のバインダーを水性スラリーに添加することでより接着性を高めることができる。無機バインダーとしてはシリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、セメント、水ガラスなどが挙げられ、有機バインダーとしては塗料やコーティング剤として一般的に使用されている各種ポリマーが使用可能である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1〜4)
固液混合法により触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物を以下の方法で調製した。粉末状の炭酸セリウムおよび硝酸マンガンの水溶液を計量して、マンガン−セリウム均密混合酸化物中の酸化マンガンの含有率がMnO換算で30質量%となるように十分に混合して、混合物を150℃で一晩乾燥して500℃で5時間焼成して、ハンマ−ミルで粉砕してマンガン−セリウム均密混合酸化物MC−1粉体を得た。得られたマンガン−セリウム均密混合酸化物をCuKα線源、電圧45KV、電流40mA、走査範囲10〜90°、走査速度0.198°/minでX線回折の測定した結果、二酸化セリウムの蛍石型結晶構造を示す位置に主ピークが検出されマンガン由来の結晶ピークは観察されなかった。またBET法で測定した比表面積は45m/gであった。
【0031】
上記で得られたMC−1粉体94.5質量部、ガラス繊維5.0質量部と澱粉3.0質量部に適当量の水を添加してニーダーで混合し押出成形機にて5mmΦ長さ7mmの円柱状ペレットに成形し、乾燥後に500℃で5時間空気中にて焼成してペレット成形体を得た。このようにして得られたペレット成形体に触媒B成分として表1に示す金属元素の硝酸塩水溶液を噴霧してロータリーエバポレータで100℃に加熱しながら攪拌し、十分に乾燥してから空気中で500℃2時間焼成して表1に示す組成の実施例1〜4の完成触媒を得た。
【0032】
(実施例5〜7)
実施例1〜4のマンガン−セリウム均密混合酸化物の調製において硝酸マンガンの添加量を変更し、かつマンガン1モルに対してクエン酸を1.0モル添加した以外は実施例1〜4と同様にして酸化マンガンの含有率が50質量%のマンガン−セリウム均密混合酸化物MC−2を得た。得られたMC−2粉体はX線回折測定において二酸化セリウムの蛍石型結晶構造を示す位置に主ピークが検出されマンガン由来の結晶ピークは観察されなかった。またBET法で測定したMC−2粉体の比表面積は55m/gであった。以下、実施例1〜4と同様にして表1に示す組成の実施例5〜7の完成触媒を得た。
【0033】
(実施例8〜9)
まず触媒C成分となるTi−Si複合酸化物(Ti/Siモル比=85/15)を以下の方法で調製した。10重量%アンモニア水700リットルにスノーテックス−20(日産化学(株)製シリカゾル、約20重量%のSiO含有)21.3kgを加え、攪拌、混合した後、硫酸チタニルの硫酸溶液(TiOとして125g/リットル、硫酸濃度550g/リットル)340リットルを攪拌しながら徐々に滴下した。得られたゲルを3時間放置した後、ろ過、水洗し、続いて150℃で10時間乾燥した。これを500℃で焼成し、更にハンマーミルを用いて粉砕してTi−Si複合酸化物粉体TS−1を得た。
TS−1粉体の比表面積が162m/gであり、X線回折測定ではTiOやSiOの明らかな固有ピークは認められず、ブロードな回折ピークによって非晶質な微細構造を有するTi−Si複合酸化物が形成されていることが確認された。またp−ジメチルアミノアゾベンゼンを指示薬として用いてn−ブチルアミン滴定法によりTS−1の固体酸量を測定した結果、pKa≦+3.3の酸強度の固体酸量は0.48mmol/gであった。
【0034】
次に実施例5〜7にて得られた触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物MC−2粉体に触媒B成分として硝酸銀と硝酸パラジウムの混合水溶液を含浸して乾燥し空気中500℃で2時間焼成して表1に示す比率で触媒A成分に触媒B成分を担持した粉体を得た。以下、表1に示す組成で触媒A成分、触媒B成分、触媒C成分およびガラス繊維よりなる触媒組成物をニーダーで混練して押出成形機にてペレット形状に成形し、乾燥して、500℃にて5時間空気中で焼成して実施例8〜9の完成触媒を得た。
【0035】
(比較例1)
市販の球状アルミナペレット(比表面積90m/g、直径5mm)にジニトロジアミン白金硝酸水溶液を噴霧し、ロータリーエバポレータで回転させながら100℃で加熱して乾燥させて取り出し、空気中にて400℃で2時間焼成して白金が0.1質量%担持された白金触媒を得た。
【0036】
(比較例2)
市販の酸化セリウム(比表面積168m/g)94.5質量部、ガラス繊維5.0質量部と澱粉3.0質量部に適当量の水を添加してニーダーで混合し、押出成形機にて5mmΦ長さ7mmの円柱状ペレットに成形し、乾燥後に500℃で5時間空気中にて焼成してペレット成形体を得た。このようにして得られたペレット成形体に硝酸パラジウム水溶液を噴霧してロータリーエバポレータで100℃に加熱しながら攪拌し、十分に乾燥してから空気中で500℃2時間焼成して表1に示す組成の比較例2の比較触媒を得た。
【0037】
【表1】

(一酸化炭素除去試験)
実施例1〜9および比較例1〜2で得られた各触媒を用いて、以下の手順で一酸化炭素の酸化分解試験を実施した。
ペレット触媒75ccを内径25mmのガラス管の充填し、一酸化炭素が1,000ppm、水分2.5%を含有する空気を空間速度10,000hr−1で通ガスし出口の二酸化炭素濃度を測定して二酸化炭素転化率により一酸化炭素酸化性能をもとめた。反応温度20および50℃の各温度で測定した性能試験結果を表1に示した。
【0038】
(各種有害物質除去試験)
実施例5〜8および比較例1〜2で得られた各触媒を用いて、以下の手順で一酸化炭素、オゾンおよびホルムアルデヒドの除去性能試験を実施した。反応温度50℃で空間速度10,000hr−1にて入口ガス濃度が一酸化炭素20ppm、オゾン10ppm、ホルムアルデヒド20ppm及び水分2.5%の条件で通ガスして、各成分に対する処理効率を求めて性能試験結果を表2に示した。
【0039】
【表2】

以上の結果より本発明の空気清浄化用触媒は、比較触媒と比較して低温で各種有害物質を処理することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、空気清浄化用触媒は空気中に存在する一酸化炭素やホルムアルデヒド等の有害物質を50℃以下の低温で処理できるものであり、室内外の空気清浄化に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒A成分としてマンガン−セリウム均密混合酸化物および触媒B成分として周期律表8〜11族に属する元素の中から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含有する空気清浄化用触媒であって、前記マンガン−セリウム均密混合酸化物はマンガンを二酸化マンガン換算で10〜60質量%含有しており、かつ粉末X線回折測定にて二酸化セリウムの蛍石型構造を有していると同定されることを特徴とする空気清浄化用触媒。
【請求項2】
触媒A成分であるマンガン−セリウム均密混合酸化物を30〜99.95質量%含有し、触媒B成分としてパラジウム、白金、銀および金から選ばれる少なくとも1種の金属元素を0.05〜20質量%含有する請求項1記載の空気清浄化用触媒。
【請求項3】
更に触媒C成分として酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ゼオライトおよびチタン系複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の耐火性無機酸化物を含有するものである請求項1〜2に記載の空気清浄化用触媒。
【請求項4】
酸化セリウムまたは酸化セリウムの前駆体と、マンガン化合物溶液を混合して乾燥後に空気中300〜900℃で焼成してマンガン−セリウム均密混合酸化物を得る工程を有することを特徴とする請求項1〜3に記載の空気清浄化用触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項4の製造方法においてマンガン化合物1モルに対して0.1〜2モルの有機酸をマンガン化合物溶液に添加する請求項4記載の空気清浄化用触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3に記載の空気清浄化用触媒を用いて空気中の有害物質を除去する空気清浄化方法。
【請求項7】
空気清浄化用触媒を放熱フィンの表面に被覆せしめる空気中の有害物質を除去する請求項6記載の空気清浄化方法。

【公開番号】特開2010−131531(P2010−131531A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310391(P2008−310391)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】