説明

空気清浄器

【課題】 放電性能の低下が抑えられかつ低コストな空気清浄器を提供すること。
【解決手段】 本発明の空気清浄器は、電子放出部を有する放電電極4と、放電電極4と間隔を隔てて配置された対向電極5と、放電電極4と対向電極5の間に放電を生じさせるための電圧を印加する電源装置6と、放電電極4と対向電極5との間に浄化される空気を流通させる通風手段2と、をもち、放電電極4と対向電極5との間で放電して空気中の浄化されるべき被浄化成分を分解浄化する空気清浄器において、電子放出部は、対向電極5方向に突出したカーボンナノチューブであることを特徴とする。本発明の空気清浄器は、放電性能の低下が抑えられかつ低コストな空気清浄器となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄器に関し、詳しくは、放電電極と対向電極との間に放電して空気中の被浄化成分を分解浄化する空気清浄器に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中には、微細な粉塵等の汚染物質が含まれている。近年の環境の清浄化における要求においては、この汚染物質を除去することが求められている。大気中の汚染物質の除去は空気清浄器により行われる。汚染物質の除去を行う空気清浄器は、たとえば、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、空気中で放電を行って原子状の酸素などの各種活性種を発生し、これらの各種活性種により大気中の汚染物質を除去するプラズマ反応器およびこのプラズマ反応器を用いた空気浄化装置が開示されている。特許文献1に記載された空気清浄器は、針状の第1電極と、第1電極に略直交する状態で対向して配置された面状の第2電極と、両電極に放電電圧を印加するように接続された電源手段とを備え、第1電極と第2電極とが被処理流体の流通空間に配置され、両電極間でストリーマ放電を発生させることで被処理流体を処理している。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の空気清浄器は、kVオーダー(実施例においては20kV)の高電圧を一対の電極間に印加して放電を生じさせねばならないため、長時間の使用により放電電極(第1電極)の電子放出部の先端部が摩滅して放電性能が低下し、摩滅の進行が進むと電子放出部の先端部の曲率半径が大きくなりついには放電しなくなるという問題を有していた。
【0005】
このような電子放出部の摩滅による放電性能の低下を抑えるために、空気清浄器の製造に当たっては特別な絶縁処理が必要となっていた。すなわち、空気清浄器の製造コストが上昇していた。また、特許文献1の空気清浄器は、針状の電子放出部を有することから、この電子放出部に触れたときの安全性を確保する必要があった。
【0006】
さらに、特許文献1に記載の空気清浄器は、コロナ放電により人体に有害なオゾン(O3)が発生するという問題があった。具体的には、コロナ放電を生じさせると酸素分子(O2)が解離して原子状の酸素が生成する(化1)。そして、生成した原子状の酸素は、酸素分子と結合してオゾンを発生する(化2)。オゾンは人体に有害であることから、空気清浄器には、発生したオゾンを除去することが要求され、このオゾン除去装置により空気清浄器の装置の体格の粗大化やコストの上昇が引き起こされていた。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【特許文献1】特開2003−38932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、放電性能の低下が抑えられかつ低コストな空気清浄器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らは検討を重ねた結果、放電電極の電子放出部をカーボンナノチューブとした電極をもつ空気清浄器が上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の空気清浄器は、電子放出部を有する放電電極と、放電電極と間隔を隔てて配置された対向電極と、放電電極と対向電極の間に放電を生じさせるための電圧を印加する電源装置と、放電電極と対向電極との間に浄化される空気を流通させる通風手段と、をもち、放電電極と対向電極との間で放電して空気中の浄化されるべき被浄化成分を分解浄化する空気清浄器において、電子放出部は、対向電極方向に突出したカーボンナノチューブであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の空気清浄器は、放電電極の電子放出部にカーボンナノチューブを用いている。カーボンナノチューブは、その径が短いため曲率半径の小さな先端部をもつ。すなわち、カーボンナノチューブに印加された電圧がその先端部により集中するため、高い放電性能を発揮することができる。このため、印加電圧を低下させることができ、放電時の電力量を減らすことができる。このことは、空気清浄器の稼働時のコストを低減できると共に安全性が向上することを示す。また、カーボンナノチューブは、放電により摩滅が発生しても新たな先端部が形成されるため、先端部の曲率半径が大きくならない。このため、放電電極の放電性能が低下しない。また、このことは、空気清浄器の浄化性能の低下が抑えられ、長寿命化の効果が得られることを示す。
【0013】
上記したように、本発明の空気清浄器は、放電性能の低下が抑えられかつ低コストな空気清浄器となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の空気清浄器は、電子放出部を有する放電電極と、放電電極と間隔を隔てて配置された対向電極と、放電電極と対向電極の間に放電を生じさせるための電圧を印加する電源装置と、放電電極と対向電極との間に浄化される空気を流通させる通風手段と、をもち、放電電極と対向電極との間で放電して空気中の浄化されるべき被浄化成分を分解浄化する空気清浄器である。
【0015】
そして、電子放出部は、対向電極方向に突出したカーボンナノチューブである。なお、本発明において、カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブであっても単層カーボンナノチューブであってもいずれでもよい。カーボンナノチューブは、直径が数〜数十nmの筒状を有している。放電電極にカーボンナノチューブを用いたときには、その先端部から放電が生じる。カーボンナノチューブは、直径が数〜数十nmの筒状を有していることから、従来の空気清浄器において放電電極として用いられている針状の電極と比較してその径が大幅に細くなっている。すなわち、放電電力が集中するようになっている。カーボンナノチューブに放電電力が集中することで、本発明の放電電極は低電圧で放電を行うことが可能となり、より放電電極の腐蝕による摩滅の発生を抑えることができる。カーボンナノチューブの先端部の曲率半径が小さいことからも放電電圧を低減できる効果を得られる。カーボンナノチューブの放電を行う先端部は、閉じていても開いていてもどちらでもよい。
【0016】
具体的には、放電電極が平板状の対向電極に対してコロナ放電を開始する電界強度は、放電分野の実験データおよび理論から、放電を行う部材の先端部の曲率半径から推定できる。たとえば、放電電極の放電を行う電極が10nm(カーボンナノチューブの先端部の曲率半径)のときには10910V/m以上が、1mm(従来の針状の先端部の曲率半径)のときには1.2×107V/m以上が必要となることが知られている。そして、先端部付近における電界強度は数1式で与えられている。
【0017】
【数1】

【0018】
ここで、V0:印加電圧、r:曲率半径である。
この数1式から、本発明に用いられる放電電極ではV0=10〜100Vとなり、従来の放電電極ではV0=1200Vが必要となることがわかる。すなわち、本発明の空気清浄器の放電電極は、より低い電圧で放電を行うことが可能となっている。
【0019】
放電電極は、複数のカーボンナノチューブを有することが好ましい。複数のカーボンナノチューブを有することは、放電電圧を印加したときに一つのカーボンナノチューブに加わる電力量を低減でき、カーボンナノチューブの損傷(電気回路とカーボンナノチューブとの接続部等の損傷)を抑えることができる。さらに、放電を行う部分の数の増加をするとともに、より広い面積で放電を行うことが可能となる。この結果、空気清浄器の浄化性能が向上する。放電電極にもうけられるカーボンナノチューブの数は、印加電圧、電極間の距離等の条件により異なるため一概に決定できるものではないが、数が多ければ多いほど好ましい。
【0020】
複数のカーボンナノチューブは、互いに絡み合ったことが好ましい。複数のカーボンナノチューブが絡み合うことで複数のカーボンナノチューブ同士が補強するようになり、剛性が増す。
【0021】
カーボンナノチューブは、触媒および/または吸着材をもつことが好ましい。カーボンナノチューブが触媒をもつことで、発生した原子状の酸素がこの触媒上で被浄化成分を分解除去する。また、カーボンナノチューブが吸着材をもつことで被浄化成分をこの吸着材が吸着し、その後、原子状の酸素が被浄化成分を分解浄除去するようになる。
【0022】
触媒および/または吸着材は、カーボンナノチューブ上で上記特性を発揮できる状態であれば、カーボンナノチューブの保持の方法については限定されるものではない。たとえば、カーボンナノチューブの表面上に担持させる方法や、カーボンナノチューブの軸心部に内包させる方法をあげることができる。
【0023】
カーボンナノチューブの表面上に担持される触媒としては、Pt,Mn,Co,Cu,Fe,Ti,Ni,Zn,Ag等の金属、これらの金属の酸化物、これらの金属を主成分とする化合物の一種以上を用いることができる。吸着材としては、ゼオライト、シリカゲル、αアルミナ、活性炭等の多孔質体の一種以上を用いることができる。
【0024】
対向電極は、放電電極方向に突出した複数のカーボンナノチューブを有することが好ましい。対向電極の表面にもカーボンナノチューブをもうけることで、一対の電極間での放電が生じやすくなる。
【0025】
放電電極と対向電極との間に誘電体を配設したことが好ましい。放電電極と対向電極との間に誘電体を配設することで、放電電極と対向電極とが直接対向しなくなり、両者の間隔が近接しても短絡してアークが発生する危険がなくなる。放電電極と対向電極との間に配設される誘電体の材質は限定されるものではない。たとえば、樹脂、セラミックスをあげることができる。
【0026】
また、放電電極と対向電極との間に誘電体を配設すると、誘電体内における電位勾配が小さくなるので一対の両電極と誘電体とのすき間の電界強度が大きくなり、この結果、低い放電電圧で放電を生じやすくなる。
【0027】
本発明の空気清浄器において、放電電極および対向電極に印加される印加電圧は、特に限定されるものではなく、100Vを超える電圧であっても100V以下であってもどちらでもよい。本発明の空気清浄器は、放電電極にカーボンナノチューブを用いることで低い印加電圧で放電を生じさせることができる。
【0028】
印加電圧は100Vを超える電圧であることが好ましい。100Vを超える電圧が電極間に印加されると両電極間にコロナ放電が生じる。コロナ放電が生じると上記化1、化2式に示した反応により原子状の酸素(O)およびオゾン(O3)が生成する。また、同時に原子状の酸素が大気中の水分子と反応して水酸化物(OH)を生成する。そして、各生成物は、以下に示した反応により被浄化成分を分解浄化する。
【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
印加電圧は100V以下であることが好ましい。上記したように、本発明の空気清浄器は低い印加電圧で放電を生じさせることができる。100V以下の印加電圧で放電を生じさせると、有害なオゾンを発生させることなく被浄化成分の分解浄化を行うことができる。すなわち、オゾンの除去装置を必要としなくなり、空気清浄器の体格を小型化できる。また、100V以下の低電圧で放電を生じさせるため、安全性が増す。100V以下の低電圧で放電を行うと、スーパーオキシドが生成し(化6)、生成したスーパーオキシドが被浄化成分を分解浄化する。
【0033】
【化6】

【0034】
【化7】

【0035】
スーパーオキシドは、電子エネルギーが酸素の解離エネルギーの5.1eVより小さい場合に生成される。すなわち、コロナ放電を生じさせる電圧よりも低い暗電流を印加するとスーパーオキシドが生成する。このように、本発明の空気清浄器は、100V以下の低い印加電圧においても空気中の被浄化成分の分解浄化を行うことができる。
【0036】
本発明の空気清浄器においては、カーボンナノチューブを複数有することでこのスーパーオキシドの生成の効果を特に得られる。具体的には、従来の針状の放電電極では電子放出部の数を多くしてもその数は数十個程度であり、暗電流が生じる程度の電圧では電流値を大きくすることが困難であった。すなわち、スーパーオキシドを生成できず、被浄化成文を分解浄化する酸化分解の反応速度を大きくすることが困難となっていた。これに対して、複数のカーボンナノチューブが電子放出部を形成すると、ナノオーダーの先端部を多数形成でき、暗電流であっても電流値を格段に大きくすることができる。この結果、スーパーオキシドによる酸化分解の反応速度を実用上問題がない程度にまで大きくすることができる。
【0037】
本発明の空気清浄器において、印加電圧の波形は特に限定されるものではない。たとえば、サイン波(図10(a))、矩形波(図10(b))、三角波(図10(c))、山形波(図10(d))、直流と矩形波の合成波(図10(e))、直流と三角波の合成波(図10(f))、直流と山形波の合成波(図10(g))等の波形をあげることができる。
【0038】
また、印加電圧の周波数についても特に限定されるものではないが、30〜50Hzであることが好ましい。
【0039】
放電電極は、導電性を有する基材と、基材と一体に形成され基材の表面上に突出したカーボンナノチューブと、を有することが好ましい。導電性の基材の表面に電子放出部が形成されたことで、基材に電圧を印加することでいずれのカーボンナノチューブからも同時に放電できる。基材は、導電性を有する材質であればその材質が限定されるものではない。たとえば、金属、導電性樹脂、半導体やこれらの部材に金属や導電性樹脂の被膜を形成した部材を用いることができる。
【0040】
カーボンナノチューブは、公知の方法で作製することができる。例えば、シリコン基板の少なくとも片面上にFe膜をフォトリソグラフィーでパターン化し、この面にアセチレン(C22)ガスを用いて一般的な化学蒸着法(CVD法)を施すことにより作製することができる。この方法では、直径12〜38nmのカーボンナノチューブが多層構造で基板上に垂直に突出して形成できる。
【0041】
本発明の空気清浄器において、放電電極(のカーボンナノチューブの先端)と対向電極(の表面)との距離は、特に限定されるものではないが、短いほど好ましい。放電電極と対向電極との距離が短いほど放電が生じやすくなるためである。このことは、低い印加電圧で放電を生じさせることができることを示す。
【0042】
本発明の空気清浄器において、通風手段は放電電極と対向電極との間に被浄化成分を含む空気を流通させることができる手段であれば特に限定されるものではない。たとえば、様々な形態のファンをあげることができる。
【0043】
本発明の空気清浄器において、放電電極と対向電極の間に放電を生じさせるための電圧を印加する電源装置は、両電極に所定の印加電圧を印可できる装置であれば特に限定されるものではない。
【0044】
本発明の空気清浄器は、放電電極と対向電極の形態は特に限定されるものではない。すなわち、放電電極と対向電極との間に被浄化成分を含む空気を流通させることができる形態であればよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0046】
本発明の実施例として、空気清浄器を作製した。
【0047】
(実施例1)
実施例の空気清浄器の構成を図1に示した。図1にその構成を示したように、本実施例において作製された空気清浄器は、浄化される空気および浄化された空気が流れる空気流路を区画する略筒状の通風管1と、通風管1の一方の開口部10にもうけられ通風管1の外部の空気を通風管1内に導入し導入された空気を通風管1内に流すファン2と、通風管1内であってファン2の下流側に配設された集塵フィルタ3と、通風管1内であって集塵フィルタ3の下流側の位置に互いに間隔を隔てた状態で配設された放電電極4および対向電極5と、放電電極4と対向電極5の間に放電を生じさせるための電圧を印加する電源装置6と、放電電極4と対向電極5との間であって両電極4,5と互いに間隔を隔てた状態で配設された板状の誘電体7と、をもつ。また、図2に、本実施例の空気清浄器の一対の電極4,5および誘電体7の配置された状態を示した。
【0048】
放電電極4は、方形の板状の導電性をもつ基材40と、基材40の表面に対して垂直方向に突出した複数の多層カーボンナノチューブ41と、をもつ。複数の多層カーボンナノチューブ41は、それぞれが絡み合った状態でもうけられている。多層カーボンナノチューブ41は、導電性の基材40にアセチレン(C22)ガスを用いる一般的な化学蒸着法(CVD法)を施すことにより作製された。
【0049】
対向電極5は、放電電極4と同様の構成を有している。すなわち、放電電極4と同じ大きさの方形の板状の導電性をもつ基材50と、基材50の表面に対して垂直方向に突出した複数の絡み合った多層カーボンナノチューブ51と、をもつ。対向電極5の多層カーボンナノチューブ51は、放電電極4の多層カーボンナノチューブ41と同様の方法を用いて製造された。
【0050】
誘電体7は、放電電極4と対向電極5との間に、両電極と互いに間隔を隔てた状態で配設されている。
【0051】
本実施例の空気清浄器においては、放電電極4、誘電体7、対向電極5が複数層積層した構成を有している。具体的には、通風管1の壁面に当接して配される放電電極4および対向電極5は通風管1の内方にむかってカーボンナノチューブ41,51が突出し、通風管1の空気流路中に配される電極4,5は板状の基材40,50の両面にカーボンナノチューブ41,51が突出するように形成されている。板状の基材40,50両面にカーボンナノチューブ41,51が突出した電極4,5は、板状の基材40,50の両面にカーボンナノチューブ41,51を形成しても、一方の表面にカーボンナノチューブ41,51を形成した基材40,50のふたつを他方の表面を当接させて形成してもよい。
【0052】
本実施例の空気清浄器において放電電極4、誘電体7および対向電極5は、それぞれの表面が空気流路を流れる空気の流れ方向と平行な状態で配設されている。放電電極4、誘電体7および対向電極5は、それぞれの間に電気絶縁性をもつ材質よりなるスペーサ8を配することで小間隔を保持している。なお、このスペーサ8は、空気流路を流れる空気の流れを妨げないようにもうけられている。
【0053】
集塵フィルタ3は、不織布よりなる。集塵フィルタ3は、ファン2により通風管1中に導入された空気に含まれる大きなほこりを除去する。本実施例において集塵フィルタ3は、不織布を用いているが、空気中の大きなほこりを除去できるものであれば特に限定されない。たとえば、所定の開口を有するメッシュをあげることができる。
【0054】
電源装置6は、放電電極4および対向電極5に印加電圧を付与する。電源装置6は、一対の電極4,5に付与する印加電圧の波形、周波数、電流値を設定できる。電源装置6が一対の電極4,5に付与する印加電圧は特に限定されるものではない。
【0055】
本実施例の空気清浄器の動作を以下に説明する。
【0056】
まず、ファン2を稼働させて通風管1内に空気を導入する。通風管1内に導入された空気は、空気流路を進み、集塵フィルタ3を透過する。空気中の大きなほこりは、集塵フィルタ3の不織布の繊維のすき間を透過することができない。このため、集塵フィルタ3を透過した空気は大きなほこりが除去される。集塵フィルタ3を透過した空気は、大きなほこりは除去されたが臭気成分等の小さな分子の被浄化成分は除去されない。そして、空気流路に沿って流れ、一対の電極4,5が設置された部分に到達する。そして、一対の電極4,5間をそれぞれの表面に沿って流れる。
【0057】
放電電極4と対向電極5とには、電源装置6から放電電圧が印加されている。本実施例の空気清浄器においては、放電電圧は限定されるものではないが、100V以下であることが好ましい。
【0058】
一対の電極4,5間に放電電圧が印加されると、放電電極4のカーボンナノチューブ41の先端部から対向電極5に向かって電子が放出される。放出された電子はスーパーオキシドを生成し(上記化6式)、このスーパーオキシドが被浄化成分を分解浄化する(化7式)。なお、印加電圧が100Vを超える電圧であるときには、原子状の酸素が生成し化1〜2式で示した反応により被浄化成分を分解浄化する。これらの被浄化成分を分解浄化する反応は、放電電極と誘電体、誘電体と対向電極との間において生じる。
【0059】
そして、被浄化成分が分解浄化された空気は、通風管1の他方の開口部11から外部に排出される。
【0060】
上記したように、本実施例の空気清浄器は、一対の電極4,5間に誘電体7が配設されたことで低い印加電圧で放電を行うことができ、放電電極4のカーボンナノチューブ41の摩滅が抑えられている。また、カーボンナノチューブ41の先端部が摩滅を生じたとしても、カーボンナノチューブ41の径がかなり小さいことからカーボンナノチューブ41の先端部の小さな曲率半径が維持される。このため、放電により摩滅が生じても放電性能の低下が生じなくなっている。また、放電電極4においては多数のカーボンナノチューブ41が形成されたことで、広い面積で放電を行うことができ、空気の浄化性能が向上している。また、一対の電極4,5間に誘電体7が配設されたことで、一対の電極4,5が短絡してアークが発生する危険がなくなっている。すなわち、安全性が向上している。
【0061】
(実施例2)
本実施例は、放電を行う部分がスペーサを配設しない以外は実施例1と同様な構成の空気清浄器である。図3に本実施例の空気清浄器の一対の電極4,5および誘電体7の構成を示した。なお、本実施例において用いられる各部材は、実施例1において用いられた部材と同じ部材を用いた。
【0062】
本実施例は、スペーサを配設しない以外は実施例1と同様の構成であり、実施例1と同様な効果を発揮する。
【0063】
(実施例3)
本実施例は、放電を行う部分の形態が異なる以外は実施例1と同様な構成の空気清浄器である。図4に本実施例の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した。本実施例の空気清浄器の放電を行う部分は、実施例1で用いたものと同様な放電電極4と、実施例1で対向電極5の基材50として用いた導電体50’とその表面を被覆する誘電体7’とからなる対向電極5’と、を有している。すなわち、本実施例は、対向電極5’が誘電体7’で覆われている。
【0064】
本実施例は、対向電極5’が誘電体7’が被覆した構成となっている以外は実施例1と同様の構成であり、実施例1と同様な効果を発揮する。
【0065】
(実施例4)
本実施例は、放電を行う部分が誘電体を配設しない以外は実施例1と同様な構成の空気清浄器である。図5に本実施例の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した。なお、本実施例において用いられる部材は、実施例1において用いられた部材と同じ部材を用いた。
【0066】
本実施例は、誘電体を配設しない以外は実施例1と同様の構成であり、被浄化成分の浄化性能等の効果は実施例1と同様な効果を発揮する。
【0067】
(実施例5)
本実施例は、放電を行う部分がスペーサを配設しない以外は実施例4と同様な構成の空気清浄器である。図6に本実施例の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した。なお、本実施例において用いられる部材は、実施例1において用いられた部材と同じ部材を用いた。
【0068】
本実施例は、スペーサを配設しない以外は実施例4と同様の構成であり、被浄化成分の浄化性能等の効果は実施例4と同様な効果を発揮する。
【0069】
(実施例6)
本実施例は、対向電極が平板状を有する以外は実施例1と同様な構成の空気清浄器である。図7に本実施例の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した。なお、本実施例において用いられる部材は、実施例1において用いられた部材と同じ部材を用いた。
【0070】
本実施例は、誘電体を配設しない以外は実施例1と同様の構成であり、被浄化成分の浄化性能等の効果は実施例1と同様な効果を発揮する。
【0071】
(実施例7)
本実施例は、放電を行う部分の一対の電極および誘電体の形状が異なる以外は、実施例1と同様な構成の空気清浄器である。図8に本実施例の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した。なお、本実施例において用いられる部材は、実施例1において用いられた部材と同じ部材を用いた。
【0072】
本実施例の放電電極4は、実施例1の放電電極4を筒状に丸めた形態をしている。具体的には、放電電極4は、導電性をもつ筒状の基材40と、基材40の外周面に径方向外方に向かって突出して形成されたカーボンナノチューブ41と、からなる。
【0073】
対向電極5は、筒状の放電電極4の外周部に、放電電極4と同軸に配された導電性をもつ筒状の部材よりなる。
【0074】
また、放電電極4の外周と対向電極5の内周との間には、両電極4,5と同軸に配された筒状の誘電体7が配設されている。
【0075】
本実施例において筒状の電極4,5および誘電体7は、図示されないスペーサにより同軸状態で配設されている。このスペーサは、実施例1のスペーサと同様な材質よりなり、空気清浄器中で通風管1中を流れる空気の流れを妨げないように配設されている。
【0076】
本実施例においては、筒状の電極4,5および誘電体7は、軸ののびる方向が空気流路内の空気の流れ方向に沿った状態で配設される。この状態で配設されることで、両電極4,5間に被浄化成分を含む空気が流れることとなる。
【0077】
本実施例は、電極の形状が異なる以外は実施例1と同様の構成であり、被浄化成分の浄化性能等の効果は実施例1と同様な効果を発揮する。
【0078】
(実施例8)
本実施例は、誘電体を配設していない以外は実施例7と同様な構成の空気清浄器である。図9に本実施例の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した。なお、本実施例において用いられる部材は、実施例7において用いられた部材と同じ部材を用いた。
【0079】
本実施例は、誘電体を配設しない以外は実施例7と同様の構成であり、被浄化成分の浄化性能等の効果は実施例7と同様な効果を発揮する。
【0080】
(変形形態)
実施例7および8の空気清浄器の放電電極、対向電極および誘電体は筒状に形成されているたが、対向電極および誘電体に穴をあけてパンチングパイプ状に形成してもよい。このような形態のときには、各電極を空気の流れに対して傾斜した状態で配設してもよい。
【0081】
(その他の変形形態)
上記各実施例においては、少なくとも放電電極の電子を放出する部分がカーボンナノチューブより形成されているが、このカーボンナノチューブは、触媒金属および/または吸着材を担持していてもよい。触媒を担持すると、触媒上で被浄化成分を分解除去する。また、吸着材を担持すると被浄化成分をこの吸着材が吸着し、その後、原子状の酸素が被浄化成分を分解浄除去するようになる。すなわち、放電が行われる部分を透過する被浄化成分量が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1の空気清浄器の構成を示した図である。
【図2】実施例1の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した図である。
【図3】実施例2の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した図である。
【図4】実施例3の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した図である。
【図5】実施例4の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した図である。
【図6】実施例5の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した図である。
【図7】実施例6の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した図である。
【図8】実施例7の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した図である。
【図9】実施例8の空気清浄器の放電を行う部分の構成を示した図である。
【図10】印加電圧の波形を示した図である。
【符号の説明】
【0083】
1…通風管 10,11…開口部
2…ファン
3…集塵フィルタ
4…放電電極 40…基材
41…多層カーボンナノチューブ
5,5’…対向電極 50,50’…基材
51…多層カーボンナノチューブ
6…電源装置
7、7’…誘電体
8…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出部を有する放電電極と、該放電電極と間隔を隔てて配置された対向電極と、該放電電極と該対向電極の間に放電を生じさせるための電圧を印加する電源装置と、該放電電極と該対向電極との間に浄化される空気を流通させる通風手段と、をもち、該放電電極と該対向電極との間で放電して該空気中の浄化されるべき被浄化成分を分解浄化する空気清浄器において、
該電子放出部は、該該対向電極方向に突出したカーボンナノチューブであることを特徴とする空気清浄器。
【請求項2】
前記放電電極は、複数の前記カーボンナノチューブを有する請求項1記載の空気清浄器。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、触媒および/または吸着材をもつ請求項1記載の空気清浄器。
【請求項4】
前記対向電極は、前記放電電極方向に突出した複数のカーボンナノチューブを有する請求項1記載の空気清浄器。
【請求項5】
前記放電電極と前記対向電極との間に誘電体を配設した請求項1記載の空気清浄器。
【請求項6】
前記放電電極および前記対向電極に印加される印加電圧は、100V以下である請求項1記載の空気清浄器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−55512(P2006−55512A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242586(P2004−242586)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】