説明

空気清浄装置及び空気清浄方法

【課題】分解速度が速いこと、低濃度汚染物質の分解が可能なこと、有害物質を用いないこと、分解生成物や中間物質の有害性がないこと、性能が劣化しないこと、の要求を満たし、さらに、空気温度の上昇が少ない空気清浄装置を提供する。
【解決手段】空気中の汚染物質を化学分解する空気清浄装置1であって、前記化学反応を促進する、電磁波を発生する電磁波発生手段2と、前記電磁波によって発熱する触媒物質4を有する空気清浄装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒物質により空気中の汚染物質を化学分解する空気清浄装置及び空気清浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青果品や果物の保管や長距離輸送において、青果品や果物からエチレンが発生することが知られている。このエチレンは、青果品や果物の成熟を促進させる食物ホルモンとしての作用があり、成熟の促進がすすむと、腐敗にいたる。このため、発生したエチレンを迅速に除去することは、青果品や果物の長時間の保存に有効である。特に、遠方からのコンテナ船輸送、航空機輸送、トラック輸送においては、鮮度を維持するために、エチレンの迅速な除去および分解が重要である。
上記のエチレンをはじめとする種々の汚染物質で汚染された空気を、迅速に清浄化する技術は、様々な分野で要望されている。
【0003】
このような技術のひとつとして、光触媒を利用するもの(特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、光触媒では分解速度が遅いことや、汚染物質の分解が完全でなく、有害な中間分解物が生成されること、分解生成物が光触媒の性能を劣化させることなどの問題があった。
【0004】
別の技術として、オゾンによって分解する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、オゾンはそれ自体が有害であることや、分解後の物質の人体への影響が懸念されていることなどの問題がある。さらに、オゾンは漂白作用を有するため、例えば上記のような青果物や果実から発生するエチレンを分解させようとした場合、青果物や果物の色合いが変化し、商品価値が下がるという問題もあった。
【0005】
さらにもうひとつの技術として、触媒による分解があるが、触媒が機能するためには高温にすることが必要である。例えば、青果品や果物の保管、輸送は冷凍や冷蔵状態で行われることが多いため、空気清浄に伴う空気温度の上昇は、冷凍・冷蔵に必要なエネルギーコスト増大につながってしまう。このような環境での空気清浄化としては、より低い温度で行える方法が望まれる。
【0006】
特許文献3では、マイクロ波を利用した空気清浄器が提案されているが、この技術では触媒以外の不要部分も加熱してしまうため、空気温度の上昇を抑制するという点では課題がある。また、マイクロ波照射は加熱ムラが生じやすく、特許文献3に記載の空気清浄器では、このムラを抑えるために発熱体をモータで回転させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−158313号公報
【特許文献2】特開2005−261428号公報
【特許文献3】特開2006−158947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、空気清浄を行ううえでは、まず、分解速度が速いこと、低濃度汚染物質の分解が可能なこと、有害物質を用いないこと、分解生成物や中間物質の有害性がないこと、性能が劣化しないことが要求される。
本発明はこれらの要求を満たし、さらに、空気温度の上昇が少ない空気清浄装置及び空気清浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の発明により達成された。
(1)空気中の汚染物質を化学分解する空気清浄装置であって、前記化学反応を促進する、電磁波を発生する電磁波発生手段と、前記電磁波によって発熱する触媒物質を有することを特徴とする空気清浄装置。
(2)前記触媒物質が、パラジウム、白金、ニッケル、銅、バナジウム、ルテニウム、チタン、タングステン、金、銀、及びそれらの酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載の空気清浄装置。
(3)前記触媒物質が粒径1μm以下の微粒子であることを特徴とする(1)または(2)に記載の空気清浄装置。
(4)前記触媒物質が、気体を透過する支持体の上に担持されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の空気清浄装置。
(5)前記触媒物質が、前記支持体の表層部のみに薄膜を形成して担持されていることを特徴とする(4)に記載の空気清浄装置。
(6)前記支持体が中空の円筒状支持体であり、前記触媒物質の薄膜がその外側表面または内側表面に形成されていることを特徴とする(5)に記載の空気清浄装置。
(7)前記円筒状支持体の内側から汚染空気が供給され、前記触媒物質の薄膜と接触して汚染物質が分解された清浄空気が前記支持体の外側へ透過することを特徴とする(6)に記載の空気清浄装置。
(8)前記円筒状支持体の外側から汚染空気が供給され、前記触媒物質の薄膜と接触して汚染物質が分解された清浄空気が前記支持体の内側へ透過することを特徴とする(6)に記載の空気清浄装置。
(9)前記電磁波照射手段が、電磁波を前記触媒物質表面に集中して照射できることを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の空気清浄装置。
(10)前記電磁波照射手段が、シングルモードによる定在波を形成することができる電磁波照射空間を有しており、電界もしくは磁界が集中する部分に前記触媒物質が配置されていることを特徴とする(9)に記載の空気清浄装置。
(11)前記電磁波照射空間として中空の円筒型の構造をもち、内部にTMmn0モード定在波(mは0以上の整数、nは1以上の整数)を形成させることができ、電界もしくは磁界が集中する部分に、前記触媒物質の薄膜がその外側表面または内側表面に形成されている中空の円筒状支持体を配置した構造を有することを特徴とする(10)に記載の空気清浄装置。
(12)前記汚染物質がCx1y1、Cx2y2z2、Cx3y3z3M及びCx4y4M(x1、y1、x2、y2、z2、x3、y3、z3、x4、y4はそれぞれ1以上の整数を表わし、Mは、N、S、Cl及びFからなる群から選ばれる少なくとも一種を表わす)から選ばれる少なくとも一種の有機化合物である(1)〜(11)に記載の空気清浄装置。
(13)空気中の汚染物質を化学分解する空気清浄方法であって、前記化学反応を促進する、電磁波照射により発熱した触媒物質を用いることを特徴とする空気清浄方法。
(14)前記触媒物質が粒径1μm以下の微粒子であることを特徴とする(13)に記載の空気清浄方法。
(15)前記汚染物質がCx1y1、Cx2y2z2、Cx3y3z3M及びCx4y4M(x1、y1、x2、y2、z2、x3、y3、z3、x4、y4はそれぞれ1以上の整数を表わし、Mは、N、S、Cl及びFからなる群から選ばれる少なくとも一種を表わす)から選ばれる少なくとも一種の有機化合物である(13)または(14)に記載の空気清浄方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明では触媒によって空気汚染物質の酸化分解を行うため、分解速度が速く、有害な生成物質の発生がない。さらに、電磁波照射によって触媒部分を選択的に発熱させるため、空気の温度上昇を低減して、清浄化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】発明の装置の一実施形態を模式的に断面図で示した説明図である。
【図2】実施例及び比較例として、マイクロ波とヒーターとで加熱した場合の、温度に対するエチレン(5ppm,総流量 50ml/min)の転化率を示すグラフである。
【図3】エチレン5ppmを総流量50〜1000ml/minにしたとき、各総流量に対して転化率50%となる温度を示すグラフである。
【図4】各濃度のパラジウム溶液で調製した触媒でエチレンを分解し、転化率が50%となる温度を示すグラフである。
【図5】円筒型の空胴共振器内の電界強度分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の空気清浄装置は、電磁波照射手段と、電磁波によって発熱する触媒物質を有する。
【0013】
電磁波以外による加熱方法として、外部からの熱源によるもの、抵抗発熱体を用いるもの、赤外線ヒータによるものなどがあるが、本発明で行う電磁波照射による加熱には、以下に示す利点がある。
まず、触媒物質そのものが電磁波を吸収して発熱するため、発熱にかかる時間が短時間であり、空気清浄装置の起動時間を短縮することができる。また、支持体や支持体を保持する部材、配管部材の発熱が抑えられるため、エネルギー効率が良い。さらには、触媒物質以外の発熱が少ないため、空気の温度上昇が抑制できる。もうひとつの利点として、高温部を少なくできるため、空気清浄装置の耐熱設計が容易になる。
【0014】
また、電磁波照射による利点として、反応温度の低温化がある。電磁波照射により、反応温度の低温化が可能になる化学反応が多く報告されており、本発明の空気清浄装置においても、この効果を得ることができる。反応温度の低温化は、空気の温度上昇を抑えられるだけでなく、必要な電磁波エネルギーが少なくなるため、省エネルギー効果がある。さらには、空気清浄装置の耐熱設計が容易になるなどの効果がある。
【0015】
電磁波照射のさらなる利点として、化学物質の吸着の促進作用がある。小林 悟,金 潤甲,検見崎千浩,櫛山 暁,水野 光一著、「Control of adsorption by Microwave Irradiation」. Chemistry Letters 1996, 第8巻 8号 769〜770頁では、電磁波の照射により、気相中の物質の、固体物質の表面への吸着や脱離の促進や抑制の効果が報告されている。この文献には、ゼオライトへの電磁波の照射により、表面に吸着している水分の脱離が進み、これに代わり、空気中に存在していた有機物質の吸着が促進されることが記載されている。触媒反応では、対象物質が触媒表面上に吸着し、分解生成物がすみやかに触媒から脱離することが、化学反応の進行の重要なプロセスである。空気中の有機物質の分解では、電磁波照射により、有機物質の触媒への吸着が促進され、触媒上で分解した分解生成物の主成分である、水分(HO)や二酸化炭素(CO)の脱離が促進できることは、速やかな汚染物質の分解に有利に働く。
以上のように、電磁波による触媒物質の加熱は、他の加熱技術と比較して有利な点が多い。
【0016】
本発明の空気清浄装置における電磁波照射手段は、触媒物質を発熱させることができるもので、触媒物質以外の部材の発熱が小さいものであればよい。
この電磁波照射手段は、電磁波を触媒物質表面に集中して照射できるものが好ましい。
例えば、電界を集中できる構造の電磁波照射空間の一つとして、空胴共振器とよばれる空間を利用した、特定の定在波を安定に形成できる容器を用いる方法がある。図5は円筒型の空胴共振器内の電界強度分布の一例を示したものである。図中、11は空洞共振器、12はマイクロ波照射口であり、下のグラフは空洞共振器11の半径方向に対する電界強度を示す(横軸が空洞共振器11の半径と対応している)。空洞共振器11の、グラフで電界の強くなっている位置に対応する部分に、触媒物質を担持した支持体を配置することにより、触媒物質の選択的な加熱が可能になる。図5では電界で説明したが、電磁波は磁界による加熱作用もあるため、磁界が強くなる部分を利用しても同様な効果を得ることができる。
【0017】
もうひとつの電界集中方法として、電磁波を反射させるミラーを用いる方法もある。特開2006−173069号及び同2006−286588号の各公報に記載されているような、楕円型の電磁波反射空間を用いた方法を用いることができる。楕円の一つの焦点から電磁波を供給させれば、もうひとつの焦点に電磁波を集中させることができる。この焦点の部分に触媒物質を担持した支持体を配置することで同様の効果を得ることができる。
【0018】
本発明において電磁波照射手段は、シングルモードによる定在波を形成することができる電磁波照射空間を有するものが好ましい。この電磁波照射空間が中空の円筒型であることがより好ましく、後述するように、触媒物質を担持した中空の円筒状の支持体をこの空間内に同軸的に配置することで、電界もしくは磁界を触媒物質に集中させることができる。本発明における電磁波照射手段は、上記円筒型電磁波照射空間内部に、Mmn0モード(mは0以上の整数、nは1以上の整数で、好ましくはm=0、n=1である)定在波を形成させることができるものが特に好ましい。
電磁波の照射量は、触媒物質の温度に合わせて自動的に調整されることが好ましい。触媒物質の温度は、触媒の種類や分解する汚染物質により異なるが、例えばエチレンを分解する場合、50〜300℃が好ましい。波長0.8〜28GHzが好ましい。
本発明の装置においては、触媒物質の温度検知を行い、これをもとに電磁波照射手段の出力を調整して、加熱制御することが好ましい。
【0019】
本発明の空気清浄装置が有する触媒物質は、上記の電磁波照射手段による電磁波の照射によって発熱し、空気中の汚染物質の分解に活性を示すものである。例えば、パラジウム、白金、ニッケル、バナジウム、銅、ルテニウム、タングステン、チタン、金、銀、それらの酸化物、それらの複合物などをあげることができるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、パラジウム、白金、ニッケル、バナジウム、銅、金、銀、並びにそれらの酸化物及び酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる。
【0020】
触媒物質は電磁波を吸収できるものが好ましい。触媒物質を微粒子として用いることは、この目的に最適な方法の一つである。微粒子の粒径は触媒物質の種類により異なるが、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは5〜200nmである。このような微粒子とすることにより、触媒物質自体が電磁波を吸収し発熱するため、発熱体などを別途設けなくとも触媒物質を必要な温度にすることができる。なお、触媒物質の電磁波の吸収が十分でない場合は、電磁波の吸収の大きな物質と混合した触媒層を形成してもよいし、電磁波を吸収しやすい薄膜の表面もしくは、内部に触媒物質を担持させてもよい。
触媒物質を本発明の装置の部材として用いる具体的な構造としては、シート状としたり、以下に述べる支持体に担持させたりしたものがあげられる。
【0021】
支持体を用いる場合、気体(空気)を透過する多孔質の材料であることが好ましい。また、電磁波の吸収が少ないものであることが好ましい。
具体的には例えば、多孔質のガラス、アルミナ、シリカ、ゼオライト、石英、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、テフロン(登録商標)もしくはその複合物などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
触媒物質は支持体の表層部のみに、薄膜を形成して担持させることが好ましい。薄膜の厚み方向と、空気が支持体を透過する方向が同じ向きになるようにする。このようにすることで、汚染空気が発熱した触媒物質層と接触する時間を短くすることができ、空気の温度上昇を抑えることができる。触媒物質の薄膜は、触媒物質のみで形成してもよいし、上記のように電磁波を吸収しやすい物質の薄膜の表面もしくは内部に触媒物質を担持させることなどによっても作製することができる。電磁波を吸収しやすい物質としては、酸化物粒子、1μm以下の粒子径を有する金属粒子、SiCなどがあげられる。薄膜の厚みは10nm〜1mmが好ましく、10nm〜50μmがさらに好ましい。
【0023】
本発明においては、支持体が中空の円筒状の形状を有し、その外表面あるいは内表面に触媒物質の薄膜を有することがさらに好ましい。
この円筒状の支持体の内部に汚染空気を供給し、触媒物質の薄膜と接触させて汚染物質を分解させ、清浄化された空気が支持体の外側に透過してくるように構成されていることが好ましい。あるいは逆に、円筒状支持体の外部に汚染空気を供給し、触媒物質と接触させて汚染物質を分解させ、清浄空気を支持体内部へ透過させて集めるという構成をとることもできる。
電磁波によって加熱される触媒物質は、その熱や、電磁波の作用により空気中の汚染物質の分解反応を活性化する。空気中の汚染物質が、薄膜状の触媒物質層を通過する間に触媒に接触することにより、分解され、無害な物質に変換され、空気は清浄化される。
先に述べたように、触媒物質を担持した円筒状の支持体は、円筒状の電磁波照射空間を有する電磁波照射手段とともに用い、電磁波照射空間に同軸的に配置して電界もしくは磁界を集中させ、触媒物質を発熱させることが好ましい。
本発明の装置においては、被加熱部材を回転させなくとも触媒物質が均一に加熱され、汚染物質の分解が十分に行える。
【0024】
本発明において分解処理することのできる汚染物質としては、Cx1y1、Cx2y2z2、Cx3y3z3M及びCx4y4M(x1、y1、x2、y2、z2、x3、y3、z3、x4、y4はそれぞれ1以上の整数を表わす。Mは、N、S、Cl及びFからなる群から選ばれる少なくとも一種を表わし、複数種を含む化合物であってもよい。)があげられ、エチレン及びホルムアルデヒドが好ましく、エチレンが特に好ましい。
【0025】
次に図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
図1は本発明の装置の一実施形態を模式的に断面図で示した説明図である。空気清浄装置1は、電磁波照射手段としてマイクロ波キャビティー2を有し、装置1の上部よりマイクロ波を照射することができる。マイクロ波キャビティー2の内部中央に、触媒物質薄膜4が形成された中空円筒状支持体3が配置されている。この装置1は電解集中型になっており、石英管5の中に入れた支持体3が担持する触媒物質薄膜4を選択的に加熱することができる。
汚染空気はマイクロ波キャビティー2の外部から円筒状の支持体3の内部に導入され、支持体3を透過する際に触媒物質薄膜4と接触して、汚染物質が分解される。これによって汚染空気と清浄化空気とが分離され、清浄化された空気のみを装置の外部に取り出すことができる。
【実施例】
【0026】
以下実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
なお、以下の記載において「%」は特に断らない限り「モル%」を意味する。
【0027】
図1に示した空気清浄装置を用いて汚染空気中のエチレンを分解させた。
電磁波照射手段として、円筒型空胴共振器を用い、TM010の定在波を形成できるよう、空洞共振器のサイズを調整した。このとき、円筒の中心軸が最も電界が強い。
この中心軸に沿うように、この部分に外径10mm内径6mmの円筒状の多孔質支持体3を設置した。多孔質支持体3の材質はαアルミナであり、電磁波の吸収は小さいものである。この多孔質支持体の外表面に、厚さ5μmになるよう多孔質γアルミナを塗布し、そのγアルミナ層内部に粒径約0.01μmのパラジウム微粒子を担持させて触媒物質薄膜4を形成した。パラジウムの担持には、酢酸パラジウム溶液に、支持体を浸した後、乾燥させ、空気雰囲気で550℃で加熱焼成したのち、水素気流下で還元処理した。このときパラジウムの粒子径はTEM観察により10nm程度であった。
このマイクロ波加熱装置は電解集中型になっており、石英管の中に入れたパラジウム触媒を選択的に加熱することができる。エチレンを触媒薄膜の内側から流し、外側に透過させる。透過する時、エチレンが加熱されたパラジウムによって分解される。
【0028】
パラジウム触媒はパラジウムを薄膜にして、支持体である多孔質αアルミナチューブに担持させている。パラジウムを担持させるため、パラジウム溶液(Pd(CH3COO)2溶質, CCl4溶媒)に多孔質アルミナチューブを浸した後、水素雰囲気において550℃で1時間還元処理を行った。
【0029】
汚染空気として、エチレン標準ガスを用いた。エチレン濃度が5ppmおよび50ppmとなるように、かつ酸素濃度が20%になるように窒素ガスで希釈した模擬汚染ガスを、上記支持体の内側から供給し、外側に排出されたガスを、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)およびガスクロマトグラフィによって分析を行った。
【0030】
空胴共振器に2.45GHzの電磁波を供給すると、パラジウム触媒層のみが加熱される。このときの触媒表面温度を、放射温度計で測定した。また、触媒層を通過したガスの温度は熱電対で計測している。電磁波の強度を調整することで、触媒層表面の温度を制御している。
【0031】
比較のため、電磁波照射のかわりに、外側にリボンヒータを巻きつけ、外部からの熱供給ンによる熱伝導で加熱した場合の実験も行った。
【0032】
マイクロ波によるエチレン分解の促進が認められるか検討を行った。マイクロ波及びヒーターで加熱した場合の、温度に対するエチレン(5ppm,総流量 50ml/min)の転化率を示すグラフを図2に示す。図2よりヒーター加熱よりマイクロ波加熱のほうが、転化率が上昇することがわかった。これは、マイクロ波による化学反応の促進が行われたと思われる。また、5ppm(総流量50ml/min)のエチレンなら230℃で完全に分解できることがわかった。エチレンを分解して生成されるのは全て二酸化炭素のみであった。これにより、マイクロ波を用いたエチレン分解の生成物が無害であることが分かった。
【0033】
空気清浄装置としては、大流量でもエチレン分解が可能であることが望まれる。そこで、エチレン5ppmを総流量50〜1000ml/minにして転化率の変化を調べた。各総流量に対して転化率50%となる温度を図3に示す。ヒーター加熱では総流量が多くなるにつれて転化率50%となる温度が上昇している。それに対して、マイクロ波加熱では総流量が変化しても転化率が50%となる温度は150〜170℃までしか変化しなかった。
【0034】
エチレンをより多く分解するためには、支持体に担持させる触媒量を増やすことが求められる。そこで、表1のようにパラジウム溶液濃度を0.1%,0.2%,1.0%にして調製したパラジウム触媒でエチレン分解を行った。
図4は各濃度のパラジウム溶液で調製した触媒でエチレンを分解し、転化率が50%となる温度を示している。図4より、パラジウム溶液濃度を高くすることにより、転化率が50%となる温度を低くすることができることがわかる。
【0035】
【表1】

【符号の説明】
【0036】
1 空気清浄装置
2 マイクロ波キャビティー
3 円筒状支持体
4 触媒物質薄膜
5 石英管
11 空胴共振器
12 マイクロ波照射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中の汚染物質を化学分解する空気清浄装置であって、前記化学反応を促進する、電磁波を発生する電磁波発生手段と、前記電磁波によって発熱する触媒物質を有することを特徴とする空気清浄装置。
【請求項2】
前記触媒物質が、パラジウム、白金、ニッケル、銅、バナジウム、ルテニウム、チタン、タングステン、金、銀、及びそれらの酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の空気清浄装置。
【請求項3】
前記触媒物質が粒径1μm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気清浄装置。
【請求項4】
前記触媒物質が、気体を透過する支持体の上に担持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気清浄装置。
【請求項5】
前記触媒物質が、前記支持体の表層部のみに薄膜を形成して担持されていることを特徴とする請求項4に記載の空気清浄装置。
【請求項6】
前記支持体が中空の円筒状支持体であり、前記触媒物質の薄膜がその外側表面または内側表面に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の空気清浄装置。
【請求項7】
前記円筒状支持体の内側から汚染空気が供給され、前記触媒物質の薄膜と接触して汚染物質が分解された清浄空気が前記支持体の外側へ透過することを特徴とする請求項6に記載の空気清浄装置。
【請求項8】
前記円筒状支持体の外側から汚染空気が供給され、前記触媒物質の薄膜と接触して汚染物質が分解された清浄空気が前記支持体の内側へ透過することを特徴とする請求項6に記載の空気清浄装置。
【請求項9】
前記電磁波照射手段が、電磁波を前記触媒物質表面に集中して照射できることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の空気清浄装置。
【請求項10】
前記電磁波照射手段が、シングルモードによる定在波を形成することができる電磁波照射空間を有しており、電界もしくは磁界が集中する部分に前記触媒物質が配置されていることを特徴とする請求項9に記載の空気清浄装置。
【請求項11】
前記電磁波照射空間として中空の円筒型の構造をもち、内部にTMmn0モード定在波(mは0以上、nは1以上の整数)を形成させることができ、電界もしくは磁界が集中する部分に、前記触媒物質の薄膜がその外側表面または内側表面に形成されている中空の円筒状支持体を配置した構造を有することを特徴とする請求項10に記載の空気清浄装置。
【請求項12】
前記汚染物質がCx1y1、Cx2y2z2、Cx3y3z3M及びCx4y4M(x1、y1、x2、y2、z2、x3、y3、z3、x4、y4はそれぞれ1以上の整数を表わし、Mは、N、S、Cl及びFからなる群から選ばれる少なくとも一種を表わす)から選ばれる少なくとも一種の有機化合物である請求項1〜11に記載の空気清浄装置。
【請求項13】
空気中の汚染物質を化学分解する空気清浄方法であって、前記化学反応を促進する、電磁波照射により発熱した触媒物質を用いることを特徴とする空気清浄方法。
【請求項14】
前記触媒物質が粒径1μm以下の微粒子であることを特徴とする請求項13に記載の空気清浄方法。
【請求項15】
前記汚染物質がCx1y1、Cx2y2z2、Cx3y3z3M及びCx4y4M(x1、y1、x2、y2、z2、x3、y3、z3、x4、y4はそれぞれ1以上の整数を表わし、Mは、N、S、Cl及びFからなる群から選ばれる少なくとも一種を表わす)から選ばれる少なくとも一種の有機化合物である請求項13または14に記載の空気清浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−104062(P2011−104062A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261312(P2009−261312)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度、経済産業省、中小企業産業技術研究開発「マイクロ波利用流通型反応評価装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】