説明

空気紡績ノズル

【課題】空気紡績装置において、細番手紡績時における紡績速度の高速化に適合する空気紡績ノズルを提供すること。
【解決手段】ドラフトローラの下流側に、第1のノズルN1と第2のノズルN2とを配置してなる空気紡績ノズル5において、
前記第2のノズルにおける繊維導入路部分の内径Dとこれに続くエア噴出部分の内径Dとの横断面積比を、
〔(D/2)π〕/〔(D/2)π〕≧3
即ち、内径Dと内径Dの比を、
/D≧1.73
但し、0.7≦D、および、D≦2.1(単位:mm)
の関係に設定したことを特徴とする空気紡績ノズル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気紡績装置において、細番手紡績時における紡績速度の高速化に適合する空気紡績ノズルの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の空気紡績装置としては、図4に示すように、ドラフト装置におけるフロントローラ対の下流側に、繊維束が内部を通過する際に、その内部において旋回気流の発生を可能とする第1のノズルと、その下流側に連続していて、前記第1のノズルにおける旋回気流と反対向きの旋回気流の発生を可能とする第2のノズルとを備えた空気紡績装置がある。
【0003】
周知のように、一例になるドラフト装置21は、図4にその概略を示すとおり、上流側から、それぞれトップローラ並びにボトムローラの対により構成されるバックローラ対22、22、エプロンベルトe、eを装架したミドルローラ対23、23、フロントローラ対24、24を含むものからなっている。
【0004】
このドラフト装置21の下流側には、空気紡績ノズル25が配置されている。この空気紡績ノズル25は、その内部において第1の旋回気流の発生を可能とする第1のノズルN1と、その下流側に連続していて、前記第1のノズルN1における旋回気流と反対向きの第2の旋回気流の発生を可能とする第2のノズルN2とを備え、第1のノズルN1および第2のノズルN2から噴出される逆向きの旋回気流によって、内部を通過する繊維束28に撚を加えるように構成したものからなっている。
【0005】
このようなドラフト装置21と空気紡績ノズル25とを含む空気紡績装置ASにおいて、ドラフト装置21でドラフトされた繊維26は、当該ドラフト装置21におけるフロントローラ対24、24から互いに平行なある幅をもった繊維塊27となって繰り出され、この繰り出された繊維26は、前記空気紡績ノズル25における第1のノズルN1により吸引され、繊維束28として第2のノズルN2で加撚される。
【0006】
上記するように、この空気紡績ノズル25は、第1のノズルN1におけるノズル気流と、第2のノズルN2におけるノズル気流とを、それぞれ反対方向に旋回させることで、結束糸を紡績するものである。
【0007】
この場合、従来、紡績糸の番手(糸の太さ、単位Ne)によって、ノズル内径が異なる二種類のタイプ〔タイプAおよびタイプB〕の空気紡績ノズルが用いられてきている。タイプAの空気紡績ノズルは、番手がNe10〜Ne20程度の太番手用ノズルであり、タイプBの空気紡績ノズルは、番手がNe20以上の標準用ノズルであった。
【0008】
この従来のタイプA並びにタイプBの空気紡績ノズルは、番手範囲により選択的に使い分けられていたが、いずれも番手が細くなるほど紡績速度が低下するものであった。近年、生産コストの低減のため、紡績速度のアップは、客先より特に要望されている項目であり、とりわけ、糸の種類が細番手に移行する現状において、細番手紡績時の紡績速度のアップが強く要求されている。
【0009】
【特許文献1】特開平5−86510号公報(要約、図1)
【特許文献2】特開平5−86511号公報(要約、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明は、空気紡績装置において、細番手紡績時における紡績速度の高速化に適合する空気紡績ノズルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記する目的を達成するにあたって、具体的には、ドラフトローラの下流側に、第1のノズルと第2のノズルとを配置してなる空気紡績装置において、
前記第2のノズルにおける繊維導入路部分の内径Dとこれに続くエア噴出部分の内径Dとの横断面積比を、
〔(D/2)π〕/〔(D/2)π〕≧3
即ち、内径Dと内径Dの比を、
/D≧1.73
但し、0.7≦D、および、D≦2.1(単位:mm)
の関係に設定したことを特徴とする空気紡績ノズルを構成するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる空気紡績ノズルによれば、高速紡績に必要な仮撚り発生数を高めるために、第2のノズルN2におけるエア噴出部分13のノズル内径Dをできるだけ小さく設計した。このノズル内径Dを小さくすることによるノズル先端部の吸引負圧の低下を防ぎ、これを現状と同等とするため、第2のノズルN2における繊維導入路15のノズル内径Dを小さくした。これにより、ノズル内径Dの直径を小さくしたとしても内径D部の横断面積と内径D部の横断面積との比が大きくなり(DとDとの差が大きくなり)圧縮空気がスムースに後方に流れ、高い旋回気流が生まれた。さらに、内径D部の横断面積を小さくしたことで、圧縮空気の消費流量も低減でき(10%少ない消費圧縮空気量で、10%撚効率がアップ)、且つ、15乃至24%程度の紡績速度がアップした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明になる空気紡績ノズルについて、図面に示す具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明になる空気紡績ノズルの一例を示すものであって、これをドラフト装置の下流側に配置した状態を示す概略的な側断面図。図2は、この発明になる空気紡績ノズルにおける第2のノズルN2の部分を拡大して示すものであり、図2Aは、その概略的な側断面図、図2Bは、図2Aにおける2B−2B線に沿って断面にして示す概略的な2B−2B線断面図である。
【0014】
図1において、空気紡績装置ASは、ドラフト装置1と、その下流側に配置した空気紡績ノズル5とにより構成されている。前記ドラフト装置1は、バックローラ対2、2、エプロンベルトe、eを装架したミドルローラ対3、3、フロントローラ対4、4からなる3線式ドラフト装置である。一方、前記空気紡績ノズル5は、互いに反対方向の旋回気流を発生する第1のノズルN1および第2のノズルN2とを小間隔6を隔てて直列に繋いだ構成のものであり、前記ドラフト装置1におけるフロントローラ対4、4から供給される繊維束7に撚をかける紡績が行われ、デリベリローラ8により矢印Y方向に送り出される。
【0015】
前記空気紡績ノズル5における第1のノズルN1の繊維通過路9には、該繊維通過路9の仮想中心線Axに向け斜めに、且つ、該繊維通過路9の接線方向に、例えば、8個の圧空噴出孔10が設けられ、この圧空噴出孔10から前記繊維通過路9に圧空を噴出することにより、前記繊維通過路9内に旋回吸引気流を生じさせ、繊維導入路11の先端開口から繊維通過路9に繊維束7の吸い込みを行っている。
【0016】
これに対して、前記空気紡績ノズル5における第2のノズルN2については、その繊維通過路12にエア噴出部分13を形成する。このエア噴出部分13には、当該繊維通過路12の接線方向に、図2Bに示すように8個の圧空噴出孔14が設けられていて、繊維通過路12内に旋回気流を生じさせている。前記第1のノズルN1における圧空噴出孔10と、前記第2のノズルN2における圧空噴出孔13とは、その旋回気流の方向が逆であり、この旋回気流により第1のノズルN1および第2のノズルN2内で繊維束7に発生するバルーニングの向きを逆方向とする。この圧空噴出孔14から前記繊維通過路12に圧空を噴出することにより、前記繊維通過路12内に旋回撚気流を生じさせ、繊維導入路15から導入された繊維束7を加撚する。
【0017】
この発明では、上記する構成になる空気紡績ノズル5において、前記第2のノズルN2における繊維導入路部分15の内径Dとこれに続くエア噴出部分13の内径Dとの横断面積比を、
〔(D/2)π〕/〔(D/2)π〕≧3
即ち、内径Dと内径Dの比を、
/D≧1.73
但し、0.7≦D、および、D≦2.1(単位:mm)
の関係に設定してある。
【0018】
この設定の根拠は、まず、高速紡績に必要な仮撚り発生数を高めるために、第2のノズルN2におけるエア噴出部分13の内径Dをできるだけ小さくした。このノズル内径Dを小さくすることで、ノズル先端部の吸引負圧が低下するのを防ぐべく、現状と同等とするため、第2のノズルN2における繊維導入路15のノズル内径Dを小さくした。これにより、ノズル内径Dの直径を小さくしたとしても内径D部の横断面積と内径D部の横断面積との比が大きくなり(DとDとの差が大きくなり)圧縮空気がスムースに後方に流れ、高い旋回気流が生まれた。さらに、内径D部の横断面積を小さくしたことで、圧縮空気の消費流量も低減でき(10%少ない消費圧縮空気量で、10%撚効率がアップ)、且つ、15乃至24%程度の紡績速度をアップすることができる。
【0019】
ここに、上記する従来のタイプA並びにタイプBでなる空気紡績ノズルと、この発明に係る空気紡績ノズル〔タイプSAおよびタイプSB〕について、下記する表1において、繊維導入路部分15の内径Dと、エア噴出部分13の内径Dとの関係を対比する。
【0020】
【表1】

【0021】
この表からも明らかなように、この発明になる空気紡績ノズル〔タイプSA並びにタイプSB〕によれば、繊維導入路部分15の内径Dを、
0.7≦D≦1.3の範囲に設計し、
エア噴出部分13の内径Dを、
1.7≦D≦2.1の範囲に設計することにより、
〔内径D部の横断面積/内径D部の横断面積〕の値を、4.0〜5.1とすることができ、これは、従来の空気紡績ノズル〔タイプA並びにタイプB〕に比べて約倍以上とするものであり、圧縮空気がスムースに後方に流れ、高い旋回気流が生じて、特に、細番手紡績時における紡績速度の高速化に貢献する。
【0022】
一方、図3は、従来の空気紡績ノズル〔タイプA並びにタイプB〕と、この発明になる空気紡績ノズル〔タイプSA並びにタイプSB〕とについて、番手〔Ne〕と、紡績速度〔m/min〕との関係をグラフにしたものである。この図3からも明らかなように、番手Ne40のような細番手のものの場合、従来の空気紡績ノズル〔タイプB〕では、その紡績速度が精々250〜260m/minであるのに対し、この発明になる空気紡績ノズル〔タイプSA並びにタイプSB〕では、その紡績速度が300〜310m/minであって、約15乃至24%アップの高速紡績が可能となった。
【0023】
この発明において、高速紡績の実現にあたって、更に好ましい実施例によれば、前記第2のノズルN2における内径Dでなる繊維導入路15の軸方向の長さ寸法Lは、約10〜20mm程度であり、最適には、15mmである。また、前記第2のノズルN2における内径Dでなる繊維通過路12の軸方向の長さ寸法Lは、約3〜8mm程度であり、最適には、4mmである。さらに、内径Dでなる繊維通過路12から先太りに傾斜する通路部分16のテーパー角度αは、0〜3°であり、最適には、1.7°である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、この発明になる空気紡績ノズルの一例を示すものであって、これをドラフト装置の下流側に配置した状態を示す概略的な側断面図である。
【図2】図2は、この発明になる空気紡績ノズルにおける第2のノズルN2の部分を拡大して示すものであり、図2Aは、その概略的な側断面図、図2Bは、図2Aにおける2B−2B線に沿って断面にして示す概略的な断面図である。
【図3】図3は、各ノズルタイプ別の番手〔Ne〕と紡績速度〔m/min〕との関係を示すグラフである。
【図4】図4Aは、ドラフト装置と空気紡績ノズルとによる空気紡績装置の基本的な構成例を示す概略的な斜視図であり、図4Bは、空気紡績装置による繊維束の状態を示す概略的な斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
AS 空気紡績装置
1 ドラフト装置
2、2 バックローラ対
3、3 ミドルローラ対
4、4 フロントローラ対
5 空気紡績ノズル
6 小間隔
7 繊維束
8 デリベリローラ
N1 第1のノズル
N2 第2のノズル
9 第1のノズルの繊維通過路
Ax 繊維通過路の仮想中心線
10 圧空噴出孔
11 第1のノズルの繊維導入路
12 第2のノズルの繊維通過路
13 エア噴出部分
14 圧空噴出孔
15 第2のノズルの繊維導入路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフトローラの下流側に、第1のノズルと第2のノズルとを配置してなる空気紡績装置において、
前記第2のノズルにおける繊維導入路部分の内径Dとこれに続くエア噴出部分の内径Dとの横断面積比を、
〔(D/2)π〕/〔(D/2)π〕≧3
即ち、内径Dと内径Dの比を、
/D≧1.73
但し、0.7≦D、および、D≦2.1(単位:mm)
の関係に設定したことを特徴とする空気紡績ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−161171(P2006−161171A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349288(P2004−349288)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】