説明

空気調和システムのダンパ故障診断装置

【課題】診断対象となるダンパの実開度を検出してその検出信号を制御部に送ることができない機構になっている場合でも、空気調和機に供給される外気の温度と、空気調和機から空調対象となる室内に給気される給気の温度と、室内から空気調和機に還気される還気の温度とに基づいてダンパの故障を診断することができる空気調和システムのダンパ故障診断装置を提供する。
【解決手段】空気調和システムのダンパ故障診断装置1は、正常な状態でそれぞれの温度センサ12,13,14により検出された外気5の温度、給気7の温度、還気4の温度に基づいて決定された正常時特性式を記憶する正常時特性式A・B決定・記憶部33を備えるとともに、故障診断時に計測された外気5の温度、給気7の温度、還気4の温度の値と、前記正常時特性式に基づく温度の値との間に一定以上の差がある場合は、ダンパが故障していると判定する比較・判定部34を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ビルディングなどの空気調和システムにおいて、空調対象となる室内に冷暖房気を給気する空気調和機に大気中から供給される外気量が、室内空気中の二酸化炭素濃度や、室内空気温度と外気温度との差などに応じて調整制御される。この外気量調整制御が行われると、室内空気温度と外気温度との差に応じて省エネルギーを図ることができ、この外気量調整のために、例えば比例式モーターダンパなどが用いられる。
本発明は、比例式モーターダンパなどのダンパの故障診断をする空気調和システムのダンパ故障診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和システムにおいて、空調対象となる室内と空気調和機の間を循環する冷暖房気と、大気中からの外気との混合割合を調整するために、上記のようなダンパが用いられている。例えば、室温設定温度が26℃、外気温度が35℃である夏の冷房運転時に、大気中から空気調和機に供給される外気量を減らすことにより、冷房負荷を低減することができるため、省エネルギーとなる。従って、空気調和システムに使用されているダンパの故障診断をすることは、省エネルギー運用のために極めて重要である。
ダンパの故障診断をする空気調和システムのダンパ故障診断装置に関連する発明として、例えば特開2008−169985号公報に開示されている「アクチュエータ」がある。このアクチュエータは、例えば外気を流体として、その流量を規制する流量規制機構の弁体の実際の開度を検出する開度センサが設けられており、この実開度センサにより検出された弁体の実際の開度を弁体制御部からの開度指令値に一致させることが出来るか否かにより、流量規制機構が適正に作動しているか否かを診断するものである。
【0003】
しかしながら、上記アクチュエータは、流体の流量を規制する流量規制機構の弁体の実際の開度を検出する開度センサが取り付けられていない場合、あるいは、弁体の実際の開度に対応した信号を制御部に送ることができない機構になっている場合は、その弁体の実際の開度を検出して制御部にその実開度検出信号を送ることができるような実開度センサを新たに設けるなどの改造の必要がある。あるいは流量規制機構の弁体の実開度に対応した信号を制御部に出力できない場合も改造する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−169985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、診断対象となるダンパの実開度を検出してその検出信号を制御部に送ることができない機構になっている場合でも、診断対象となるダンパが正常な状態で大気中から空気調和機に供給される外気の温度、空気調和機から室内へ給気される給気の温度、室内から空気調和機に戻る還気の温度に基づいて、正常時特性式を決定して記憶する特性決定記憶手段と、前記正常時特性式に基づく温度の値と前記ダンパの故障診断時に計測された前記外気の温度、給気の温度、還気の温度の値との間に一定以上の差がある場合は、当該ダンパが故障していると診断する空気調和システムのダンパ故障診断装置を提供することを、解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、特許請求の範囲の欄に記載した空気調和システムのダンパ故障診断装置により解決することができる。
後述の特許請求の範囲の請求項1に記載の空気調和システムのダンパ故障診断装置は、大気中から空気調和機に供給される外気の温度を検出する外気温度センサと、前記空気調和機から空調対象となる室内へ給気される給気の温度を検出する給気温度センサと、前記室内から前記空気調和機に戻る還気の温度を検出する還気温度センサと、故障診断対象となるダンパが正常状態のときに空気調和機に供給される外気の温度、空気調和機から室内へ給気される給気の温度、室内から空気調和機に戻る還気の温度から正常時特性式を決定して記憶する特性決定記憶手段と、前記正常時特性式に基づく温度の値と前記ダンパを故障診断するときに計測された前記外気の温度、給気の温度、還気の温度の値との間に一定以上の差がある場合は、当該ダンパが故障していると判断する判定部とを備えることである。
これにより、診断対象となるダンパが、その実開度を検出してその検出信号を制御部に送ることができないような機構になっている場合でも、それを改造することなく、ダンパの故障を診断することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、診断対象となるダンパが正常状態のときに決定された正常時特性式に基づく温度の関係と、故障診断時に検出された外気の温度と給気の温度と還気の温度との計測値との間に一定以上の差がある場合は、当該ダンパが故障していると判定することができるため、診断対象となるダンパの実開度を検出してその検出信号を制御部に送ることができない機構になっている場合でも、ダンパ機構を改造することなく、適切な故障診断をすることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】空気調和システムのダンパ故障診断装置の全体的な構成を示した系統図である。
【図2】ダンパが正常な状態で決定された正常時特正式による温度の関係とダンパの故障診断時の温度に関係する計測値から故障判定を行う場合の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、空気調和システムのダンパ故障診断装置1の全体的な構成を示した系統図である。
図1に示すように、空気調和機3から空調対象となる室内(図示していない)へ空調用の冷気あるいは暖気の冷暖房気が給気されるとともに、室内から空気調和機3へ冷暖房気が還気されるという循環経路が構成されている。また、室内空気中の二酸化炭素濃度や、室内空気温度と外気温度との差などに応じて大気中から空気調和機に供給する外気量を調整する外気量調整制御が行われる。例えば、今、室温設定温度が26℃、外気温度が35℃である夏の冷房運転時に、この外気量調整制御が行われ、空気調和機に供給される外気量を減らした場合には、冷房負荷を低減することができるため、省エネルギーを図ることができる。
外気5を空気調和機3に供給する外気量調整のために、駆動部10とダンパ部6から成るダンパ6aが設けられている。また、空気調和機3から室内への給気7を流量調整して送る変風量ユニット8と、室内から空気調和機3に還流される還気4の流量を調整する駆動部11とダンパ部9から成るダンパ9aが設けられている。尚、ダンパ6a、ダンパ9aとしては、例えば比例式モーターダンパなどが用いられる。また、図示はしていないが、二酸化炭素濃度を検出するセンサが設けられている。
【0010】
図1に示した空気調和機3は、一般的な構造を有するもので冷暖房時に外部から冷温水が流されたときに熱交換される冷温水コイル21や、湿度調整用の加湿器22や、インバータ(INV)23で駆動される送風機24などで構成されている。また、空気調和機3へ供給される外気5の温度を計測する外気温度センサ12と、室内から空気調和機3に還流される還気4の温度を計測する還気温度センサ13と、空気調和機3から室内へ給気される給気7の温度を計測する給気温度センサ14とが設けられている。尚、前記冷温水コイル21に流れる冷温水の流量を調整あるいは停止させる流量調整弁25が設けられている。
【0011】
図1に示した故障診断装置2に設けられた試験運転制御部31は、前記駆動部10とダンパ部6から成るダンパ6aと、駆動部11とダンパ部9から成るダンパ9aの故障診断をするときに使用される。尚、試験運転制御部31は、前記流量調整弁25、加湿器22、送風機(インバータを含む)24、変風量ユニット8なども制御する。
【0012】
また、故障診断装置2に設けられた計測データ入力・記憶部32は、前記外気5の温度センサ12、前記還気4の温度センサ13、前記給気7の温度センサ14による検出温度信号を入力して記憶するものである。
【0013】
また、正常時特性式A・B決定・記憶部33は、前記ダンパ6aとダンパ9aとが正常状態のときに、例えば図2に示すような二つのパターンA,Bの特性式を決定して記憶しておく。
パターンAの正常時特性式は、例えばダンパ6aの駆動部10への開度指令値が最大設定開度、ダンパ9aの駆動部11への開度指令値が最小設定開度となる条件を与えて運転したときの正常時特性式である。
また、パターンBの特性式は、ダンパ6a(駆動部10)への開度指令値が、例えば最小設定開度、ダンパ9a(駆動部11)への開度指令値が最大設定開度となる条件を与えて運転したときの正常時特性式である。この正常時特性式は、送風機24(モータを含む)から発生する熱による発熱を加味して決定したものである。
尚、二つのパターンA,Bの条件設定は、試験運転制御部31からダンパ6a(駆動部10),9a(駆動部11)に直接制御信号を送って開度制御したり、ダンパ6a,9aの制御対象である状態の設定値、例えば二酸化炭素濃度設定値や外気冷房モードと室内温度設定値の信号を送って開度指令値を変更して設定するものである。
【0014】
また、比較・判定部34は、パターンA,Bのそれぞれの条件の故障診断に対して、計測データ入力・記憶部32で計測された前記外気5の温度、前記還気4の温度、前記給気7の温度に基づく温度データを、正常時特性式A・Bパターン決定・記憶部33からの該当するパターンの正常時特性式に代入し、左辺と右辺の値を比較する。この比較により、一定値以上の差があれば、少なくとも上記どちらかのダンパが故障していると判定するものである。
【0015】
診断結果表示部35は、比較・判定部34で判定された診断結果を表示するものである。例えばダンパ部6が故障している場合は、「外気ダンパ故障」というような表示をさせる。
【0016】
次に、前記ダンパ6a,9aの故障診断をする場合の正常時特性式を決定する行程について説明する。
予め、ダンパ6a,9aが正常な状態のときに、試験運転制御部31によって試験条件を次のように設定する。
(1)前記流量調整弁25を全閉制御する。
(2)前記加湿器22を停止制御する。
(3)ダンパ6a及びダンパ9aが予め設定した開度になるような開度指令信号を出力する。
(4)送風機24に起動指令を与えるとともに、インバータINVに最高周波数指令信号を出力して送風機24を最高速回転状態にする。
(5)前記変風量ユニット8に最大開度指令信号を出力して給気7の流量が最大になるように制御する。
【0017】
以上のような試験運転制御部31による設定で試験運転をした状態で、次のように正常時特性式を決定する。

(Tsa―Tra)=x・(Toa−Tra)+ΔTfm 式(1)

ここに、
Tsaは給気温度(℃)、 Toaは外気温度(℃)
Traは還気温度(℃)、 xは外気量比(−)
ΔTfmは送風機24を駆動するモータの発熱による上昇温度(℃)

上記式(1)において、線形回帰によって未知数x、ΔTfmを求める。
尚、ここで求めたパターンA,Bそれぞれの条件時の外気量比xと送風機24を駆動するモータの発熱による温度上昇ΔTfmは正常時特性式の決定パラメータであり、これを前記した正常時特性式A・B決定・記憶部33に記憶する。
【0018】
次に、ダンパ6a,9aの故障診断の行程について説明する。
(1)試験運転制御部31によって、前述の正常時特性式の決定と同じパターンA,Bそれぞれの試験条件を設定する。
(2)パターンA,Bそれぞれについて試験運転をする。
(3)パターンAまたはパターンBの少なくとも一方について、正常時特性式に診断試験時の計測された温度データを代入した左辺の値と右辺の値との間に一定以上の差がある場合は、ダンパ故障と判定して診断結果表示部35にそれを表示する。
【0019】
以上説明したように、診断対象となるダンパの実開度を検出してその検出信号を制御部に送ることができないような機構になっている場合でも、それを改造することなく、ダンパの故障を診断することができるものである。
【符号の説明】
【0020】
1 空気調和システムのダンパ故障診断装置
2 故障診断装置
3 空気調和機
4 還気
5 外気
6a 外気ダンパ
7 給気
8 変風量ユニット
9a 還気ダンパ
10 外気ダンパの駆動部
11 還気ダンパの駆動部
12 温度センサ
13 温度センサ
14 温度センサ
31 試験運転制御部
32 計測データ入力・記憶部
33 正常時特性式A・B決定・記憶部
34 比較・判定部
35 診断結果表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中から空気調和機に供給される外気の温度を検出する外気温度センサと、前記空気調和機から空調対象となる室内へ供給される給気の温度を検出する給気温度センサと、前記室内から前記空気調和機に戻る還気の温度を検出する還気温度センサと、故障診断対象となるダンパが正常状態のときに空気調和機に供給される外気の温度、空気調和機から室内へ給気される給気の温度、室内から空気調和機に戻る還気の温度から正常時特性式を決定して記憶する特性決定記憶手段と、前記正常時特性式に基づく温度の値と故障診断対象となるダンパを故障診断するときに計測された前記外気の温度、給気の温度、還気の温度との間に一定以上の差がある場合は、ダンパが故障していると判断する判定部とを備えたことを特徴とする空気調和システムのダンパ故障診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空気調和システムのダンパ故障診断装置であって、前記正常時特性式は、前記診断対象となるダンパが正常状態のときに、前記還気と前記外気の混合割合と、空気調和機に備えられた送風機の発熱による温度上昇を加味して決定された式であるとともに、その正常時特性式に基づいて少なくとも二つのパターンで与えられたそれぞれの条件について前記ダンパの故障診断をすることを特徴とする空気調和システムのダンパ故障診断装置。

【図1】
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【図2】
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