説明

空気調和装置

【課題】冷房負荷が小さい場合でも、十分な風量を供給しながら除湿を可能にする空気調和装置を得る。
【解決手段】空気調和装置は、圧縮機1、室外熱交換器3、電気式膨張弁4〜6及び室内熱交換器8を順次冷媒配管20によって接続して冷凍サイクルを形成している。室内熱交換器8は、複数の熱交換器8a,8bにより構成され、これら熱交換器は冷媒配管が並列に分岐された分配流路21,22に接続され、各分配流路には電気式膨張弁5,6が設けられている。また、室内熱交換器に流入する空気の温度を検出する吸込空気温度センサ14、圧縮機の吐出圧力を検出する吐出圧力センサ11、吸込圧力を検出する吸込圧力センサ10を備える。更に、前記吸込空気温度センサにより検出された温度と設定温度の差が所定値より小さく且つ低負荷運転の時に除湿運転を行う場合、前記複数の熱交換器の何れかに対応する電気式膨張弁を閉止させる制御手段13を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気調和装置に関し、特に広い領域を空調するために低負荷時でも大風量が要求される設備用の空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の設備用の空気調和装置としては、例えば特開平7−332736号公報(特許文献1)に記載のものがある。この特許文献1のものには、コンピュータに必要な湿度以上で且つ十分な量の冷風を供給しながら除湿できる空気調和装置が記載されている。更に詳しくは、検出した湿度が所定値より高い時に、分割した室内熱交換器に対応し、配設された電気式膨脹弁の一部を閉止し、閉止しない電気式膨張弁の弁開度を冷媒流量の合計に相当する開度値分増加させるようにした空気調和装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−332736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、必要とする湿度以上で且つ十分な量の冷風を供給しながら除湿可能な空気調和装置が開示されている。しかし、特許文献1のものでは検出した湿度が所定値より高い時に、分割された室内熱交換器に対応した膨張弁の一部を閉止することにより除湿を行うため、検出した湿度が所定値より低い場合では、除湿を行うことはできない。
【0005】
即ち、コンピュータ冷却用の空気調和装置では、コンピュータが低湿度の空気で冷却されると、静電気などの障害を受けるため、室内空気を冷却しても除湿しないのが望ましいためである。このため、特許文献1のものでは特に高湿度になった場合にのみ除湿するようにしているものである。
【0006】
しかし、この特許文献1のものでは、室内温度が高く、高湿度であるような高負荷時にのみ除湿運転が可能な構成としているので、低負荷時に除湿することについては何らの配慮もなく、除湿することはできない。むしろ、特許文献1のものでは、低負荷時には、静電気の障害を防止するため、除湿はしないように構成されている。
【0007】
本発明の目的は、冷房負荷が小さい場合でも、十分な風量を供給しながら除湿を可能にする空気調和装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、圧縮機、室外熱交換器、電気式膨張弁及び室内熱交換器を順次冷媒配管によって接続して冷凍サイクルを形成するように構成された空気調和装置において、前記室内熱交換器は分割された複数の熱交換器により構成され、これら複数の熱交換器は前記冷媒配管が並列に分岐された分配流路に接続されると共に、それぞれの分配流路には電気式膨張弁が設けられ、更に前記室内熱交換器に流入する空気の温度を検出する吸込空気温度センサと、前記圧縮機の吐出圧力を検出する吐出圧力センサと、前記圧縮機の吸込圧力を検出する吸込圧力センサと、前記吸込空気温度センサにより検出された温度と設定温度の差が所定値より小さく且つ低負荷運転の時に除湿運転を行う場合、前記複数の熱交換器のうちの何れかに接続された分配流路に設けられている前記電気式膨張弁を閉止させるように制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷房負荷が小さい場合でも、十分な風量を供給しながら除湿を可能にする空気調和装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の空気調和装置の実施例1を示す冷凍サイクル系統図。
【図2】図1に示す空気調和装置における膨張弁開度制御と各部の状態を説明する線図。
【図3】図1に示す空気調和装置における膨張弁開度と冷媒流量の関係を示す特性図。
【図4】本発明の空気調和装置の実施例2を示す冷凍サイクル系統図。
【図5】図4に示す空気調和装置における膨張弁開度制御と各部の状態を説明する線図。
【図6】図4に示す空気調和装置における膨張弁開度と冷媒流量の関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の具体的実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明の空気調和装置の実施例1を図1〜図3により説明する。
図1は空気調和装置の冷凍サイクル系統図、図2は膨張弁開度制御と冷凍サイクルの圧力状態などを説明する線図、図3は膨張弁開度と冷媒流量との関係を示す特性図である。
【0013】
図1に示すように、本実施例の空気調和装置は、回転数制御可能な圧縮機1、四方弁2、冷房時には凝縮器となる室外熱交換器3、電気式膨張弁(以下、単に膨張弁ということもある)4,5,6、冷房時には蒸発器となる室内熱交換器8、アキュムレータ9などの主要部品が順次冷媒配管20で接続され、冷凍サイクルを形成している。また、前記圧縮機1の吸込側圧力を検出する吸込圧力センサ10、吐出側圧力を検出する吐出圧力センサ11、吐出側冷媒温度を検出する吐出温度サーミスタ12などが設けられている。更に、前記電気式膨張弁4,5,6に膨張弁開度を出力したり、前記圧力センサ10,11からの圧力検出信号、前記吐出温度サーミスタ12からの冷媒吐出ガス温度信号、前記圧縮機1の回転数検出手段からの圧縮機回転数信号などを受け、空気調和装置を制御するマイクロコンピュータなどにより構成された制御器(制御手段)13も備えられている。
なお、冷房運転専用の空気調和装置とする場合には、前記四方弁2は設けなくて良い。
【0014】
冷房運転時、圧縮機1から吐出された高温高圧のガス冷媒は、室外熱交換器3で凝縮して高温高圧の液冷媒となり、電気式膨張弁5,6で減圧され、室内熱交換器8で蒸発して低温低圧のガス冷媒となり、アキュムレータ9を経て圧縮機1に戻る冷凍サイクルを形成する。前記室内熱交換器8には、所定風量の空気が吸入され、該室内熱交換器8内を流れる冷媒が蒸発する際に、その冷媒と熱交換して冷却され、この冷却された空気は冷房用として室内に吹き出される。
【0015】
また、本実施例では、前記室内熱交換器8は異容量に2分割されており、小容量の熱交換器8aと大容量の熱交換器8bとで構成され、小容量の前記熱交換器8aに接続される冷媒配管には前記電気式膨張弁5が、大容量の前記熱交換器8bに接続される冷媒配管には前記電気式膨張弁6が設けられている。
【0016】
更に、前記室内熱交換器8への吸込み空気温度を検知する吸込空気温度センサ14と、前記室内熱交換器8からの吹き出し空気温度を検出する吹出空気温度センサ15とが設けられており、前記制御器13には、これらの空気温度センサ14,15が接続されている。
【0017】
このような空気調和装置においては、前記吸込空気温度センサ14及び吹出空気温度センサ15からのデータが前記制御器13に取り込まれることにより、冷房負荷を検出するようにしている。また通常、前記制御器13は、前記冷房負荷により決定した運転周波数により圧縮機1を駆動し、前記吐出温度サーミスタ12により検出された吐出冷媒温度Tdと、前記吐出圧力センサ11で検出された冷媒吐出圧力Pdから算出した凝縮温度Tcとの差である冷媒吐出側過熱度TdSHが、適切な冷凍サイクルを形成するために予め設定された所定値となるように、前記電気式膨張弁5,6の開度を調整して、冷房運転などを行うように構成されている。
【0018】
以上のように、前記冷媒吐出側過熱度TdSHが所定値となるように制御されている通常の冷房運転状態において、図2に示すように、吸込空気温度センサ14により検出された吸込み空気温度T1が低下して、設定温度T2との差が、制御器13に予め設定されている所定値より小さくなり、且つ前記吸込圧力センサ10及び吐出圧力センサ11より検出された吸込圧力Psと吐出圧力Pdとの差、若しくは前記回転数検出手段からの圧縮機回転数Wが、制御器13に予め設定されている所定値より低くなった場合、従来の設備用の空気調和装置などでは除湿が困難となる。
【0019】
即ち、設備用の空気調和装置などでは、広い空調対象領域に空調空気を行き渡らせるため、前記室内熱交換器8から常に大風量、或いは常に所定風量以上の空気を吹き出すことが要求されるが、低負荷運転となって冷媒循環量が少なくなると、室内熱交換器8において除湿するのに必要な十分低い温度まで空気を冷却することが困難になるためである。
【0020】
本実施例では、このような低負荷運転時においても除湿を可能にする除湿促進運転の機能(除湿を促進するように冷凍サイクルを運転する機能)を備えており、前記制御器13により、低負荷時に除湿運転が要求される場合には、前記除湿促進運転に切り替えることができるように構成されている。
【0021】
即ち、本実施例の空気調和装置は、前記室内熱交換器8が、小容量の熱交換器8aと大容量の熱交換器8bとに異容量に2分割されている。また、これら複数の熱交換器8a,8bは、前記冷媒配管20が並列に分岐された分配流路21,22に接続されると共に、それぞれの前記分配流路21,22には減圧装置としての前記電気式膨張弁5,6が備えられている。
【0022】
前記除湿促進運転を行う場合には、例えば、分割された室内熱交換器8の小容量側熱交換器8aに対応した電気式膨張弁5に制御器13から膨張弁開度Vaを全閉状態にするように出力し、膨張弁5に対応する熱交換器8aを閉塞する。この操作により、室内熱交換器8での熱交換能力が低下し、前記吸込圧力Psが低下するので、冷媒が流通している熱交換器8bでの結露は促進され、熱交換器8bを通過する空気からの除湿を促進できる。
【0023】
なお、小容量側熱交換器8aに対応した電気式膨張弁5を閉じるのではなく、大容量側熱交換器8bに対応した電気式膨張弁6を閉じるようにしても良く、膨張弁6に対応した熱交換器8bを閉じるようにすれば、室内熱交換器8での熱交換能力を更に低下させて冷媒の吸込圧力Psを更に低下できるので、負荷が非常に小さくなって冷媒循環量が更に低下したような場合においても、冷媒が流通している熱交換器8aでの結露を促進できる。従って、本実施例によれば、非常に負荷が小さくなった場合でも小容量側の熱交換器8aで除湿を促進することが可能となる。
【0024】
このように本実施例によれば、室内熱交換器8を異容量の複数の熱交換器8a,8bで構成して、負荷の状態に応じて前記電気式膨張弁5,6を制御することにより、通常運転時はもちろんのこと、負荷が僅かに低下した状態から大幅に低下した状態、即ち圧縮機回転数が大幅に低下する状態まで、広い範囲に渡って、十分な風量を供給しながら除湿を可能にする空気調和装置を得ることができる。
【0025】
低負荷時に上述した除湿促進運転に切り替える制御は、例えば次のように行うと良い。
即ち、除湿運転が要求されている状態において、前記吸込空気温度センサ14により検出された温度T1と設定温度T2の差が予め設定された所定値より小さく、且つ低負荷状態である場合には、前記制御器13から前記電気式膨張弁5,6に指令を出し、複数の前記熱交換器8a,8bの何れかを閉止するように制御する。
【0026】
ここで、前述した低負荷状態か否かの判断は以下のようにすると良い。即ち、前記圧縮機1の運転周波数Wが予め決めた所定値より低いという条件を満たすかどうか、或いは前記圧縮機1の吐出圧力を検出する吐出圧力センサ11で検出された吐出圧力Pdと、吸込圧力を検出する吸込圧力センサ10で検出された吸込圧力Psとの差が予め決めた所定値より小さいという条件を満たすかどうかを、前記制御器13で判断する。そして、この低負荷条件を満たす場合に、前記制御器13から前記電気式膨張弁5,6に指令を出し、複数の前記熱交換器8a,8bの何れかを閉止するように制御すれば良い。
【0027】
なお、上記除湿促進運転への過渡時には、一方の電気式膨張弁5または6を閉じるため、冷凍サイクルを循環する冷媒量が減少し、冷媒蒸発圧力が低下する。このため冷媒が過度に過熱され、冷媒吐出側過熱度TdSHが上昇してしまう。そこで、制御器13には、図3に示すような電気式膨張弁の開度と冷媒流量との関係を求めるプログラムを予め組み込んでおく。電気式膨張弁5の開度がVa,電気式膨張弁6の開度がVb1の状態では合計の冷媒流量は「Ma+Mb1=Mb2」となっている。この状態から、電気式膨張弁5を全閉にすると冷媒流量はMb1となってしまうので、本実施例では、電気式膨張弁5の開度がVaの状態における前記合計の冷媒流量Mb2となるように、電気式膨張弁6の開度をVb1からVb2に増加させる。
【0028】
小容量側の室内熱交換器8aに対応した電気式膨張弁5の開度Vaによる冷媒流量Maは、電気式膨張弁6による冷媒流量よりも少ないため、電気式膨張弁6の制御範囲を超えることなく容易に対応でき、また電気式膨張弁6の制御範囲が広がることにより、除湿促進運転への過渡時に冷媒流量が大きく変化するのを抑制することができる。
電気式膨張弁6は、その後、冷媒吐出側過熱度TdSHが所定値となるように制御される。なお、電気式膨張弁6を閉じる場合でも、同様に電気式膨張弁5を制御することができる。
【0029】
また、上記除湿促進運転の実施中に、前記圧力センサ10,11より検出された高圧圧力Pdと低圧圧力Psとの差、若しくは圧縮機回転数Wが予め制御器13に設定された所定値より大きくなった場合には、図2に示すように、前記制御器13は除湿促進運転を中止し、通常の冷房運転に変更する。
【0030】
この除湿促進運転を中止し、通常の冷房運転に変更する際に、全閉にしていた電気式膨張弁5の開度を、そのまま以前の開度に復帰させると電気式膨張弁5を開いた分だけ全体の冷媒流量が増加して、冷媒蒸発圧力が上昇し、圧縮機1が液圧縮を起こす場合がある。そこで、制御器13は、前記電気式膨張弁5の開度に応じて冷媒流量が増加する分だけ、閉止していない電気式膨張弁6の開度を閉めるように制御する。
【0031】
即ち、制御器13には、前記図3に示すような、電気式膨張弁の開度と冷媒流量との関係を求めるプログラムが予め組み込まれているので、閉止していない電気式膨張弁6の開度がVb2で、冷媒流量がMb2の状態から、閉じていた電気式膨張弁5の開度をVaに復帰させ、それにより電気式膨張弁5を流れる流量が0からMaに増加させる場合、前記電気式膨張弁6を流れる流量を、増加させる前記流量Ma分だけ減少させるように前記制御器13により制御する。
【0032】
このためには、図3から明らかなように、前記膨張弁6の開度をVb2からVb1まで小さくすれば良く、これにより、電気式膨張弁6を流れる流量はMb2の状態からMa分だけ減少されたMb1になる。このように制御することにより、通常の冷房運転への復帰時に室内熱交換器8を流れる冷媒流量の変化を抑制することができる。
なお、電気式膨張弁6を閉じていて、これを開く場合でも、同様に電気式膨張弁5を制御することができる。
【0033】
以上述べた本実施例によれば、除湿促進運転機能を備えているので、冷房負荷が小さく、圧縮機の回転が低下して冷媒循環量が低下したような場合であっても、十分な風量を供給しながら除湿することが可能になる。
【0034】
また、前記除湿促進運転時には、小容量側の電気式膨張弁5を閉じ、大容量側の電気式膨張弁6を開いて除湿促進運転するようにすれば、閉じた膨張弁5側の流量減少分は大容量側の膨張弁6の開度を大きくすることで容易に補うことができ、室内熱交換器8全体での冷媒流量変動を小さくできる。
【0035】
また、大容量側の電気式膨張弁6を閉じ、小容量側の電気式膨張弁5を開いて除湿促進運転する場合には、負荷が非常に小さくなった状態でも、所定の大風量を維持しながら、除湿運転が可能になる。この負荷が非常に小さい状態であれば、冷媒循環量も非常に少なくなるので、小容量側の電気式膨張弁5だけでも必要な冷媒流量を確保することも可能である。
【0036】
なお、図1に示す空気調和装置では、四方弁2を備えていることにより、暖房運転も可能である。この暖房運転も行う空気調和装置においては、図1に示す構成とすることにより、上述した除湿促進運転だけでなく、暖房運転の始動時において冷風感を防止した運転も可能になる。以下、本実施例における暖房運転始動時における制御例を説明する。
【0037】
図1に示す空気調和装置において、暖房運転時には、圧縮機1から吐出された高温高圧のガス冷媒は、点線の矢印で示すように、まず室内熱交換器8に流れて凝縮し、高温高圧の液冷媒となり、電気式膨張弁4で減圧された後室外熱交換器3で蒸発し、低温低圧のガス冷媒となる。その後、アキュムレータ9を経て前記圧縮機1に戻る冷凍サイクルを形成する。また、前記室内熱交換器8には所定流量の空気が吸入され、室内熱交換器8内を流れる冷媒と熱交換して暖められ、この温められた空気は暖房用として室内に吹き出される。
【0038】
このような空気調和装置において、一般に制御器13は、始動制御により決定した運転周波数により前記圧縮機1を駆動し、また適切な冷凍サイクルを形成できるように、前記電気式膨張弁4の開度を、予め定められた開度になるように調整する暖房始動運転を行う。
また、室内熱交換器8は、小容量の熱交換器8aと大容量の熱交換器8bに2分割され、それぞれの熱交換器8a,8bに対応して電気式膨張弁5,6が並列に設けられている。
【0039】
暖房運転始動時には、異容量に分割された室内熱交換器8の小容量側熱交換器8aに対応した電気式膨張弁5に、制御器13から膨張弁開度Vaを全閉状態にするように出力し、電気式膨張弁5に接続されている熱交換器8aを閉塞する。このように制御することにより、冷媒循環量が減少し、冷媒蒸発圧力が低下するため、冷媒が過熱されて圧縮機1の吐出側圧力Pdが上昇する。従って、室内熱交換器8におけるガス冷媒の温度が上昇するため、室内熱交換器8で冷媒が凝縮する際に、その冷媒と熱交換して暖められる所定流量の空気の温度をより上昇させることができ、冷風感を防止できる。
【0040】
また、上述した暖房始動制御運転から、例えば所定時間経過して通常の暖房運転に移る場合には、前記制御器13により、暖房運転始動時の制御を解除するように制御し、全閉にしていた前記電気式膨張弁5を開くことで、通常の暖房運転に移行する。
【0041】
ここで、通常の暖房運転に移行させるため、全閉にしていた電気式膨張弁5を開くと、冷媒流量が増加して、圧縮機1の吐出圧力Pdが低下する。本実施例においては、制御器13に、図3の膨張弁開度と流量との関係を求めるプログラムが予め組み込まれているので、以下のように制御する。即ち、閉止していない電気式膨張弁6の開度と、全閉にしていた電気式膨張弁5の開度を、熱交換器8aと8bの容量に対応させて、各熱交換器8a,8bに流れる冷媒流量が適正に配分されるように、電気式膨張弁5,6の開度Va,Vb1を算出し、制御器13により制御する。これにより、通常の暖房運転に移行する際の冷媒流量の変化を抑制できる。
【0042】
このように、本実施例によれば、暖房運転開始時の冷風感防止も可能となる。一般には、暖房運転開始時の冷風感防止策としては、室内熱交換器8に吸入される室内空気の風量を下げるように制御している。しかし、設備用の空気調和装置では、所定量以上の十分な風量を常に供給しなければならず、室内側風量を下げることによる冷風感防止策を採用することはできないが、本実施例によれば、このような設備用の空気調和装置においても、暖房運転の始動時において冷風感を防止した運転も可能になる。
【実施例2】
【0043】
次に、図4〜図6により、本発明の実施例2を説明する。図4はこの実施例2における空気調和装置の冷凍サイクル系統図、図5は図4に示す空気調和装置における膨張弁開度制御と各部の状態を説明する線図、図6は図4に示す空気調和装置における膨張弁開度と冷媒流量の関係を示す特性図である。
【0044】
この実施例2は、室内熱交換器8を異容量に3分割して除湿促進を行うようにした例である。図4において、図1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示しており、同一部分については説明を省略する。
【0045】
図4に示す実施例においては、室内熱交換器8が、小容量熱交換器8a、大容量熱交換器8b及び中容量の熱交換器8cに3分割され、冷媒配管20から3本並列に分岐された分配流路21,22,23にそれぞれ接続されている。また、前記熱交換器8a〜8cにそれぞれ接続された分配流路21,22,23にはそれぞれ電気式膨張弁5,6,7が設けられている。なお、実施例1の場合と同様、冷房運転専用の空気調和装置とする場合には、四方弁2を設けなくて良い。
【0046】
冷房運転時、圧縮機1から吐出された高温高圧のガス冷媒は、室外熱交換3で凝縮して高温高圧の液冷媒となり、電気式膨張弁5,6,7で減圧されて室内熱交換器8(8a〜8c)で蒸発し、低温低圧のガス冷媒となってアキュムレータ9を経て圧縮機1に戻る冷凍サイクルを形成する。前記室内熱交換器8には、所定流量以上の空気が吸入され、該室内熱交換器8内を流れる冷媒が蒸発する際に、その冷媒と熱交換して冷却され、この冷却された空気は冷房用として室内に吹き出される。
【0047】
通常、制御器13は、吸込空気温度センサ14及び吹出空気温度センサ15からのデータにより冷房負荷を検出し、この冷房負荷により決定した運転周波数により圧縮機1を駆動する。また、前記吐出温度サーミスタ12により検出された吐出冷媒温度Tdと、前記吐出圧力センサで検出された冷媒吐出圧力Pdから算出した凝縮温度Tcとの差である冷媒吐出側過熱度TdSHが、適切な冷凍サイクルを形成するために予め設定された所定値となるように、前記制御器13は前記電気式膨張弁5〜7の開度を調整し、冷房運転などを行うように構成されている。
【0048】
更に、本実施例2においても、上記実施例1と同様に、低負荷運転時でも除湿を可能にする除湿促進運転の機能が備えられている。即ち、前記冷媒吐出側過熱度TdSHが所定値となるように制御されている通常の冷房運転状態において、図5に示すように、吸込空気温度センサ14により検出された吸込み空気温度T1が低くなり、設定温度T2との差が、予め制御器13に設定された所定値より小さくなって、且つ前記吸込圧力センサ10及び吐出圧力センサ11により検出された吐出圧力Pdと吸込圧力Psとの差、若しくは圧縮機回転数Wが、制御器13に予め設定されている所定値より小さくなった場合、前記除湿促進運転が行われる。
【0049】
設備用の空気調和装置などでは常に所定値以上の大風量が要求されるので、従来の空気調和装置では低負荷運転時の除湿運転は困難となる。しかし、本実施例においては、前記除湿促進運転の機能が備えられているので、低負荷運転時に除湿運転が要求される場合、前記制御器13により除湿促進運転に切り替えられる。以下、本実施例の除湿運転機能について説明する。
【0050】
本実施例の空気調和装置では、減圧装置として並列に3個の前記電気式膨張弁5〜7を備え、各膨張弁5〜7に対応して前記室内熱交換器8が異容量に3分割されている。除湿促進運転を行う場合には、例えば、図5に示すように、分割された室内熱交換器8の最小容量の熱交換器8aに対応した電気式膨張弁5に、制御器13からその膨張弁開度Vaを全閉状態にするように出力し、電気式膨張弁5に対応する熱交換器8aを閉塞する。この操作により、室内熱交換器8での熱交換能力が低下し、前記吸込圧力Psが低下するので、冷媒が流通している熱交換器8b,8cでの結露は促進され、熱交換器8b,8cを通過する空気からの除湿を促進できる。
【0051】
また、電気式膨張弁5を閉止しても、吸込空気温度センサ14により検出された吸込み空気の温度T1と設定温度T2との差が、予め制御器13に設定された所定値より小さく、且つ前記吸込圧力センサ10及び吐出圧力センサ11により検出された吐出圧力Pdと吸込圧力Psとの差、若しくは圧縮機回転数Wが、制御器13に予め設定されている所定値より小さくなった場合には、次に小容量に分割された熱交換器8cに対応した電気式膨張弁7に、制御器13からその膨張弁開度Vc1を全閉状態にするように出力し、電気式膨張弁7に対応した熱交換器8cも閉塞する。この操作により、室内熱交換器8での熱交換能力が更に低下するので、冷媒が流通している熱交換器8bでの結露は促進され、熱交換器8bを通過する空気からの除湿を促進できる。
【0052】
なお、小容量側熱交換器8aに対応した電気式膨張弁5から閉じていくのではなく、大容量側熱交換器8bに対応した電気式膨張弁6から、或いは中容量の熱交換器8cに対応した電気式膨張弁7から閉じるようにしても良い。このように大容量の熱交換器8b或いは中容量の熱交換器8cから閉塞させていくようにすれば、室内熱交換器8での熱交換能力を更に迅速に低下させて冷媒の吸込圧力Psを更に低下できるので、特に低負荷となって冷媒循環量が更に低下したような場合においても、冷媒が流通している熱交換器8aなどでの結露を促進でき、小容量側の熱交換器8aでの除湿を促進できる。
【0053】
本実施例では、室内熱交換器8を異容量の3個の熱交換器8a,8b,8cで構成しているので、負荷の状態に応じて前記電気式膨張弁5〜7を制御することで、通常運転時はもちろんのこと、負荷が僅かに低下した状態から大幅に低下した状態、即ち圧縮機回転数が大幅に低下する状態まで、より広い範囲に渡って十分な風量を供給しながら、除湿が可能となる。
【0054】
なお、上記除湿促進運転への過渡時には、実施例1と同様に、冷凍サイクルを循環する冷媒量が減少し、冷媒蒸発圧力が低下する。このため冷媒が過度に過熱され、冷媒吐出側過熱度TdSHが上昇してしまう。そこで、制御器13には、図6に示すような電気式膨張弁の開度と冷媒流量との関係を求めるプログラムが予め組み込まれている。電気式膨張弁5の開度がVa、電気式膨張弁6の開度がVb1、電気式膨張弁7の開度がVc1の状態では合計の冷媒流量は「Ma+Mc1+Mb1=Mb3」となっている。この状態から、電気式膨張弁5を全閉にすると冷媒流量は「Mc1+Mb1」となってしまうので、本実施例では、電気式膨張弁5の開度がVaの状態における前記合計の冷媒流量Mb3となるように、電気式膨張弁6の開度をVb1からVb2に、電気式膨張弁7の開度をVc1からVc2に増加させるように、前記制御器13により制御する。
【0055】
また、前記電気式膨張弁5が全閉、電気式膨張弁6,7の開度がVb1、Vc1の状態では、合計の冷媒流量は「Mb1+Mc1=Mb3」となっている。この状態から、電気式膨張弁7を全閉にすると冷媒流量はMb1のみとなってしまうので、電気式膨張弁7の開度がVc1の状態における冷媒流量Mc1を加えた合計冷媒流量Mb3となるように、電気式膨張弁6の開度をVb1からVb3に増加させる。これにより、除湿促進運転への過渡時における冷媒流量の変化を抑制することができる。
【0056】
本実施例においては、室内熱交換器8を、異容量の熱交換器に3分割しているので、順次閉止していく電気式膨張弁に対応して減少する冷媒流量に対し、開度を大きくしていく電気式膨張弁の開度調整量を段階的に少しづつ増加していくことができる。従って、電気式膨張弁の制御に余裕ができる。
【0057】
なお、上記除湿促進運転を実施中に、吸込圧力センサ10及び吐出圧力センサ11により検出された吸込圧力Psと吐出圧力Pdとの差、若しくは圧縮機回転数Wが、前記制御器13に予め設定されている所定値よりも高くなった場合には、制御器13は除湿促進運転を中止し、通常の冷房運転に復帰させる。
【0058】
ここで、通常の冷房運転に復帰させるため、全閉にしていた電気式膨張弁5などを開いていくと、冷媒流量が増加して冷媒蒸発圧力が上昇するため、圧縮機1において液圧縮が発生する場合がある。本実施例では、前記制御器13に、図6に示すような膨張弁開度と流量との関係を求めるプログラムが組み込まれているので、例えば、全閉にしていた電気式膨張弁5と閉止していない電気式膨張弁6,7を流れる冷媒流量を、熱交換器8a〜8cのそれぞれの容量に対応させて配分するように、前記それぞれの電気式膨張弁5,6,7の開度Va,Vb1,Vc1を算出し、制御器13より開度制御している。これにより通常の冷房運転への復帰時の冷媒流量変化も適正に制御できる。
【0059】
また、本実施例2においても、空気調和装置は図4に示すように、四方弁4を備え暖房運転が可能な構成となっているから、実施例1と同様に、上述した除湿促進運転だけでなく、暖房運転の始動時において冷風感を防止した運転も同様に可能になるものである。
【0060】
なお、本実施例においては、室内熱交換器8を3分割とし、分割されたそれぞれの熱交換器に対応させて電気式膨張弁を設けるようにしているが、前記室内熱交換器8を4分割以上にすることも同様に可能である。
【0061】
室内熱交換器8を4分割以上にする場合には、吸込空気温度センサ14により検出された吸込空気の温度T1と設定温度T2との差が、制御器13に予め設定された所定値より大きくなるか、または前記吸込圧力センサ10及び吐出圧力センサ11により検出された吸込圧力Psと吐出圧力Pdとの差、若しくは圧縮機回転数Wが予め制御器13に設定された所定値より高くなるまで、分割された熱交換器8a,8b,8c,…を、小容量側の熱交換器に対応した電気式膨張弁からを順次閉止していくようにすれば良い。また、閉止されない電気式膨張弁は、その後、冷媒吐出側過熱度TdSHが所定値となるように制御される。
【0062】
前記室内熱交換器8を、特に3分割以上とする場合には、必ずしも異容量にする必要はなく、閉塞させる熱交換器の数を制御することで、負荷の状況に応じた除湿促進運転は可能になる。
以上述べた実施例2においても、前記実施例1と同様の効果を得ることができる。また、この実施例2によれば、負荷が大幅に変化しても、負荷の変化にきめ細かく対応させて、より広い範囲に渡って、十分な風量を供給しながら除湿が可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1:圧縮機、
2:四方弁、
3:室外熱交換器、
4,5,6,7:電気式膨張弁、
8:室内熱交換器、
8a:小容量の熱交換器、8b:大容量の熱交換器、8c:中容量の熱交換器、
9:アキュムレータ、
10:吸入圧力センサ、11:吐出圧力センサ、
12:吐出温度サーミスタ、
13:制御器(制御手段)、
14:吸込空気温度センサ、15:吹出空気温度センサ、
20:冷媒配管、21,22,23:分配流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、室外熱交換器、電気式膨張弁及び室内熱交換器を順次冷媒配管によって接続して冷凍サイクルを形成するように構成された空気調和装置において、
前記室内熱交換器は分割された複数の熱交換器により構成され、これら複数の熱交換器は前記冷媒配管が並列に分岐された分配流路に接続されると共に、それぞれの分配流路には電気式膨張弁が設けられ、更に
前記室内熱交換器に流入する空気の温度を検出する吸込空気温度センサと、
前記圧縮機の吐出圧力を検出する吐出圧力センサと、
前記圧縮機の吸込圧力を検出する吸込圧力センサと、
前記吸込空気温度センサにより検出された温度と設定温度の差が所定値より小さく且つ低負荷運転の時に除湿運転を行う場合、前記複数の熱交換器のうちの何れかに接続された分配流路に設けられている前記電気式膨張弁を閉止させるように制御する制御手段と
を備えることを特徴とする空気調和装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空気調和装置において、前記空気調和装置は、常に所定風量以上の吹出し風量が要求される設備用の空気調和装置であって、前記圧縮機は回転数制御可能に構成され、更に前記制御手段は、前記吸込空気温度センサにより検出された温度と設定温度の差が所定値より小さく、且つ前記圧縮機の運転周波数が所定値より低い時、若しくは前記吐出圧力センサで検出された吐出圧力と前記吸込圧力センサで検出された吸込圧力との差が所定値より小さい時に除湿運転を行う場合、前記何れかの電気式膨張弁を閉止させるように制御することを特徴とする空気調和装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の空気調和装置において、前記制御手段は、前記電気式膨張弁の何れかを閉止する場合、閉止しない電気式膨張弁の開度を大きくするように制御することを特徴とする空気調和装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の空気調和装置において、前記制御手段は、前記電気式膨張弁の何れかを閉止する場合、閉止する前記電気式膨張弁の流量に相当する流量分だけ、閉止しない電気式膨張弁の流量が増加するようにその開度を制御することを特徴とする空気調和装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の空気調和装置において、前記室内熱交換器は異容量の複数の熱交換器により構成されていることを特徴とする空気調和装置。
【請求項6】
請求項5に記載の空気調和装置において、前記制御手段は、前記電気式膨張弁の何れかを閉止する場合、小容量側の熱交換器に対応した前記電気式膨張弁から閉止するように構成されていることを特徴とする空気調和装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の空気調和装置において、前記室内熱交換器は、3分割以上の熱交換器により構成されていることを特徴とする空気調和装置。
【請求項8】
請求項2に記載の空気調和装置において、前記制御手段は、前記電気式膨張弁の何れかを閉止した場合に、前記吸込空気温度センサにより検出された温度と設定温度の差が所定値より大きくなり、且つ前記圧縮機の運転周波数が所定値より高くなった時、若しくは前記吐出圧力センサで検出された吐出圧力と前記吸込圧力センサで検出された吸込圧力との差が所定値より大きくなった場合、前記閉止させていた電気式膨張弁の弁開度を増加させると共に、弁開度を大きくしていた前記電気式膨張弁の弁開度を低下させるように制御することを特徴とする空気調和装置。
【請求項9】
請求項8に記載の空気調和装置において、前記閉止させていた電気式膨張弁の弁開度を増加させると共に弁開度を大きくしていた前記電気式膨張弁の弁開度を低下させる場合に、解除前と解除後の室内熱交換器を流れる冷媒流量を一致させるように制御することを特徴とする空気調和装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の空気調和装置において、更に四方弁を設けて暖房運転可能に構成し、前記制御手段は、暖房運転の始動時には、前記室内熱交換器を構成する複数の熱交換器の一部に対応する前記電気式膨張弁を閉止するように制御する始動制御を実施し、その後、前記始動制御を解除する時には閉止していた前記電気式膨張弁を開くように制御することを特徴とする空気調和装置。
【請求項11】
請求項10に記載の空気調和装置において、前記の制御手段は、前記始動制御の解除時に、閉止させていた前記電気式膨張弁を開く際、閉止していない電気式膨張弁の弁開度を低下させ、前記始動制御の解除前後の室内熱交換器を流れる冷媒流量を一致させるように制御することを特徴とする空気調和装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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