説明

空気電池用正極及び空気電池

【課題】放電容量を大きくすることが可能な空気電池用正極を提供する。
【解決手段】空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備え、細孔径50nm以上の細孔の全容積が、当該多孔質焼結体の体積の50%以下であり、細孔径1〜20nmの細孔の全容積が、上記多孔質焼結体の体積の5〜90%であり、好ましくは、細孔径0.1〜10μmの貫通孔を有し、好ましくは、空気電池用触媒が、マンガン酸化物である空気電池用正極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池用正極及び空気電池に関し、更に詳しくは、放電容量を大きくすることが可能な空気電池用正極、及び当該空気電池用正極を用いた空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、負極活物質として金属を用い、正極活物質として酸素を用いるため、「正極活物質の単位質量」当たりの放電容量が極めて大きいものである。近年、電気自動車や携帯機器等において、電池の高容量化や高出力化が求められており、空気電池の高性能化が期待されている。
【0003】
例えば、金属リチウムを負極活物質とし、酸素を正極活物質とし、正極活物質である酸素の酸化還元反応を促進するための触媒としてマンガン酸化物を用い、当該マンガン酸化物の細孔径及び細孔容量を最適化することにより放電容量を大きくしようとする空気電池が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−80937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の空気電池においては、例えば、触媒であるマンガン酸化物にカーボン及びバインダを混合して得られた混合物を薄膜状に成形し、得られた成形物をステンレス製のメッシュに圧着し、真空乾燥したものが正極として用いられている。このような正極は、各成分(マンガン酸化物、カーボン)の粒子間の隙間が大きく、更にバインダを含有することにより、正極全体の体積に対する触媒の体積の比率が小さくなり、正極全体の体積が必要以上に大きくなることになる。また、上記正極においては、各成分の粒子間の隙間の一部及びバインダが存在する部分には、リチウムと酸素との反応生成物が析出し得ないため、その分だけ空気電池の放電容量が少なくなっていた。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、放電容量を大きくすることが可能な空気電池用正極及び当該空気電池用正極を用いた空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備え、細孔径50nm以上の細孔の全容積が、前記多孔質焼結体の体積の50%以下であり、細孔径1〜20nmの細孔の全容積が、前記多孔質焼結体の体積の5〜90%である空気電池用正極。
【0008】
[2] 細孔径0.1〜10μmの貫通孔を有する[1]に記載の空気電池用正極。
【0009】
[3] 前記空気電池用触媒が、マンガン酸化物である[1]又は[2]に記載の空気電池用正極。
【0010】
[4] 前記多孔質焼結体に、更に触媒が担持された[1]〜[3]のいずれかに記載の空気電池用正極。
【0011】
[5] 正極と、金属を負極活物質とする負極と、前記正極と前記負極との間に介在する非水電解液とを備え、前記正極が、[1]〜[4]のいずれかに記載の空気電池用正極である空気電池。
【0012】
[6] 前記負極活物質である金属が、金属リチウムである[5]に記載の空気電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空気電池用正極によれば、空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備え、細孔径50nm以上の細孔の全容積が、多孔質焼結体の体積の50%以下であり、細孔径1nm〜20nmの細孔の全容積が、多孔質焼結体の体積の5〜90%であるため、大きな細孔径の細孔が少なく、細孔の表面積が大きい。それにより、正極側に析出する「金属と酸素との反応生成物」の量を多くすることができ、本発明の空気電池用正極を正極として用いた空気電池の放電容量を、大きくすることができる。また、本発明の空気電池用正極によれば、空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備えることにより、空気電池用触媒やその他の配合物を結合させるためのバインダを含有する必要がない。そのため、バインダを含有しない分だけ、「金属と酸素との反応生成物」の量を多くすることができ、本発明の空気電池用正極を正極として用いた空気電池の放電容量を、より大きくすることができる。
【0014】
本発明の空気電池は、上記本発明の空気電池用正極を正極として用いるため、放電容量の大きな空気電池である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の空気電池の一実施形態の断面を示す模式図である。
【図2】本発明の空気電池の他の実施形態の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
(1)空気電池用正極:
本発明の空気電池用正極の一実施形態は、空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備えるものである。そして、本実施形態の空気電池用正極は、細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)が、多孔質焼結体の体積の50%以下(細孔径50nm以上の細孔を対象とした気孔率が50%以下)であり、細孔径1〜20nmの細孔の全容積が、多孔質焼結体の体積の5〜90%である。多孔質焼結体の細孔の容積は、50nm以上の細孔については水銀ポロシメーターにより測定を行い、50nmより小さい細孔については窒素吸着量測定装置により測定を行った。多孔質焼結体の気孔率は、水銀ポロシメーターによって測定した50nm以上の細孔の容量と、窒素吸着量測定装置により測定した50nmより小さい細孔の容量と、触媒として用いている物質の真密度とから算出した値とした。多孔質焼結体の細孔径は、50nm以上の細孔については水銀ポロシメーターにより測定を行い、50nmより小さい細孔については窒素吸着測定装置より求めた吸着等温線をBJH法と呼ばれる解析法により細孔径を求めた。
【0018】
このように、本実施形態の空気電池用正極は、空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備え、「細孔径50nm以上の細孔」の全容積(全細孔容積)が、多孔質焼結体の体積の50%以下であり、細孔径1nm〜20nmの細孔の全容積が、多孔質焼結体の体積の5〜90%であるため、大きな細孔径の細孔が少なく、更に細孔全体の表面積(多孔質焼結体の単位体積当たりの細孔の表面積)が大きい。これにより、正極側に析出する「金属と酸素との反応生成物」の量を多くすることができ、本実施形態の空気電池用正極を正極として用いた空気電池の放電容量を、大きくすることができる。また、本実施形態の空気電池用正極によれば、空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備えることにより、空気電池用触媒やその他の配合物を結合させるためのバインダを含有する必要がない。そのため、バインダを含有しない分だけ、「金属と酸素との反応生成物」(以下、単に「反応生成物」ということがある。)の量を多くすることができ、本発明の空気電池用正極を正極として用いた空気電池の放電容量を、より大きくすることができる。
【0019】
本実施形態の空気電池用正極は、空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備えるものである。多孔質焼結体は、空気電池用触媒を単に押し固めるのではなく、空気電池用触媒が焼結されて、より緻密化された構造(大きな細孔径の細孔が少なくなった構造)であるため、「多孔質焼結体の単位体積」当たりの細孔の表面積を大きくすることができ、それにより、空気電池用正極全体の体積を小さくすることができる。空気電池用触媒を焼結して形成された多孔質焼結体は、全体が一体化されたものである。ここで、「一体化」とは、空気電池用触媒の微粒子同士が焼結により結合することにより、各微粒子が全体として繋がった状態になることを意味し、例えば、多孔質焼結体の一部に切れ目が入っていたとしても、空気電池用触媒の微粒子同士の結合が全体として繋がっていれば一体化されているということになる。また、「焼結」とは、微粒子(例えば、空気電池用触媒の微粒子)の集合体(粉末)を加熱することにより、微粒子同士を直接結合させて、固める(焼結体を得る)ことを意味する。このとき、微粒子間の隙間は、微粒子同士が結合することにより、得られた焼結体内の「細孔」となる。このとき、形成される「細孔」の体積は、微粒子間の隙間より小さくなる。尚、上記「焼結」において、「粒子同士を直接結合させて全体を固める」際には、粒子同士が直接結合することにより、全体の嵩密度が焼結前より高くなる。
【0020】
空気電池用触媒を単に押し固めるだけでは、空気電池用触媒の粒子間の隙間が大きくなるため、「多孔質焼結体の単位体積」当たりの細孔の表面積が小さくなり、また、空気電池用触媒の粒子間の隙間全体を埋めるだけの反応生成物(金属と酸素との反応により生成する反応生成物)を生じさせることが難しくなり、空気電池の放電容量を大きくすることが難しくなる。つまり、触媒表面が当該反応生成物によって覆われると、それ以上反応が進行し難くなり放電し難くなるが、空気電池用触媒を単に押し固めただけの場合には、触媒表面が当該反応生成物によって覆われた状態における当該反応生成物の堆積量(体積)に対して、空気電池用触媒の粒子間の隙間が大き過ぎるため、空気電池用触媒の粒子間の隙間を埋めるだけの反応生成物を生じさせることができず、空気電池用正極の体積(又は質量)に対して放電容量が小さなものになってしまう。
【0021】
これに対し、空気電池用触媒を焼結すると、空気電池用触媒の粒子間の隙間が小さくなり、「多孔質焼結体の単位体積」当たりの細孔の表面積が大きくなる。更に、空気電池用触媒を焼結することにより、空気電池用触媒の粒子間の隙間を、「金属と酸素との反応により生成する反応生成物」が収容されるのに適した大きさの「細孔」とすることができる。これらにより、空気電池用触媒を焼結することにより、当該焼結された空気電池用触媒を空気電池の正極に使用した場合に、当該焼結された空気電池用触媒の細孔内で多量の反応生成物(金属と酸素との反応により生成する反応生成物)を生成させることができるため、当該空気電池の放電容量を大きくすることが可能となる。
【0022】
また、空気電池用触媒を単に押し固めて空気電池用正極を作製する場合には、空気電池用触媒を結合させるために、空気電池用正極にバインダを含有させることが必要である。これに対し、本実施形態の空気電池用正極は、焼結により空気電池用触媒が互いに結合されているため、バインダを含有する必要がない。そのため、本実施形態の空気電池用正極は、バインダを含有しないものである。
【0023】
本実施形態の空気電池用正極は、「細孔径50nm以上の細孔」の全容積(全細孔容積)が、多孔質焼結体の体積の50%以下であり、5〜50%が好ましく、10〜50%が更に好ましい。これにより、「金属と酸素の反応により生成する反応生成物」が析出し得ない大きな細孔の体積が減少することとなり、当該空気電池用正極を空気電池の正極に使用した場合に、当該空気電池の放電容量を大きくすることが可能となる。「細孔径50nm以上の細孔」の全容積(全細孔容積)が、多孔質焼結体の体積の50%より大きいと、「細孔径50nm以上の細孔」の比率が高過ぎるため、細孔を埋めるだけの反応生成物を生じさせることができず、空気電池用正極の体積(又は質量)に対して空気電池の放電容量が小さなものになることがある。尚、本実施形態の空気電池用正極の細孔は、多孔質焼結体の細孔に由来するものである。本実施形態の空気電池用正極が多孔質焼結体からなる場合には、多孔質焼結体の細孔が、本実施形態の空気電池用正極の細孔となる。また、例えば、本実施形態の空気電池用正極が、多孔質焼結体に更に触媒が担持されたものである場合には、触媒が担持された状態の多孔質焼結体の細孔が、本実施形態の空気電池用正極の細孔となる。
【0024】
本実施形態の空気電池用正極は、細孔径1〜20nmの細孔の全容積(全細孔容積)が、多孔質焼結体の体積の5〜90%(細孔径1〜20nmの細孔を対象とした気孔率が5〜90%)であり、20〜85%が好ましく、35〜75%が更に好ましい。これにより、細孔が、「金属と酸素との反応により生成する反応生成物」が収容されるのに適した大きさの細孔の体積が増加し、当該空気電池用正極を空気電池の正極に使用した場合に、当該空気電池の放電容量を更に大きくすることが可能となる。細孔径1nm未満の細孔は、「金属と酸素との反応により生成する反応生成物」をほとんど収容することができず、また、細孔径20nm超の細孔は、「金属と酸素との反応により生成する反応生成物」が細孔表面に析出(堆積)しても、当該細孔の空間の表面の一部しか占有されないことになるため、当該空気電池用正極を空気電池の正極に使用した場合に、空気電池の放電容量が小さくなることがある。細孔径1〜20nmの細孔の全容積(全細孔容積)が、多孔質焼結体の体積の90%より大きいと、空気電池用正極の強度が低下するため好ましくない。5%より小さいと、「金属と酸素との反応により生成する反応生成物」を収容することができる細孔の体積が小さく、放電容量が低下するため好ましくない。
【0025】
空気電池用正極の細孔径1〜20nmの細孔は、焼結前の空気電池用触媒粒子に形成されていた細孔に由来するものであってもよいし、空気電池用触媒の焼結によって、焼結前の空気電池用触媒粒子間の隙間が変形して形成された細孔であってもよいが、これらの両方であることが好ましい。尚、空気電池用触媒粒子は、粉末状の空気電池用触媒を構成する空気電池用触媒の微粒子のことである。
【0026】
本実施形態の空気電池用正極は、細孔径0.1〜10μmの貫通孔を有することが好ましい。これにより、当該空気電池用正極を正極とし、正極と負極との間に非水電解液を介在した空気電池を作製したときに、当該非水電解液や空気が、正極内(多孔質焼結体内)に浸入し易くなり、更に正極内(多孔質焼結体内)で非水電解液や空気が拡散し易くなる。このとき、空気電池用正極は、細孔径0.1μm未満の貫通孔を合わせて有してもよい。しかし、空気電池用正極が、細孔径0.1μm未満の貫通孔のみを有するか、又は貫通孔を有さない場合には、本実施形態の空気電池用正極を正極として空気電池を作製した際に、電解液や空気(酸素)の正極(多孔質焼結体)への浸入、拡散が促進されないため、空気電池を、高出力で円滑に充放電することが困難になることがある。また、空気電池用正極が、細孔径10μm超の貫通孔を有すると、貫通孔の細孔径が大きいため、「金属と酸素との反応により生成する反応生成物」によって占有されない空間(貫通孔内の空間)が大きくなり過ぎ、本実施形態の空気電池用正極を正極として空気電池を作製した際に、空気電池の放電容量が小さくなることがある。
【0027】
本実施形態の空気電池用正極において、「細孔径0.1〜10μmの貫通孔」とは、細孔径が0.1〜10μmの範囲内であり、空気電池用正極の一の面から空気電池用正極の他の面まで貫通する孔である。ここで、空気電池用正極の「一の面」と「他の面」は、本実施形態の空気電池用正極を用いて空気電極を作製した場合に、正極における「非水電解液に接する面」と、正極における「外部から空気を導入する面」になる。尚、多孔質焼結体の「一の面」及び「他の面」は、平面状、曲面状等であることが好ましく、また、凹凸を有する形状であっても良い。
【0028】
本実施形態の空気電池用正極において、空気電池用触媒(多孔質焼結体)としては、マンガンを含有する物、Au、Co、NiO、Fe、Pt、Pd、RuO、CuO、V、MoO、Y3、カーボン等を用いることができる。これらのなかでも、特に、マンガンを含有するものが好ましく、マンガン酸化物が更に好ましい。マンガン酸化物としては、二酸化マンガン(α−MnO、β−MnO等)等を挙げることができる。
【0029】
本実施形態の空気電池用正極においては、多孔質焼結体に、更に触媒が担持されていてもよい。担持される触媒としては、前述した触媒(空気電池用触媒)と同種類の触媒を挙げることができ、具体的には、マンガンを含有する物、Au、Co、NiO、Fe、Pt、Pd、RuO、CuO、V、MoO、Y、カーボン等を挙げることができる。多孔質焼結体に触媒が更に担持される場合には、より酸素の反応が促進されるという利点がある。
【0030】
本実施形態の空気電池用正極の形状は、特に限定されるものではなく、本実施形態の空気電池用正極が利用される空気電池の形状に合わせて適宜決定することができる。本実施形態の空気電池用正極の形状としては、例えば、コイン状、フィルム状、シート状、板状、柱状、その他不定形等を挙げることができる。また、本実施形態の空気電池用正極の形状が、フィルム状、シート状、板状等の場合には、その外周形状としては、円形、楕円形、多角形、その他不定形等を挙げることができる。また、本実施形態の空気電池用正極の形状が、柱状の場合、その具体的な形状としては、角柱、円柱、中心軸に直交する断面が楕円形の柱状等を挙げることができる。
【0031】
本実施形態の空気電池用正極は、導電材料を含んでもよい。導電材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されず、例えばカーボン類、金属繊維、金属粉末、有機導電性材料等を挙げることができる。
【0032】
(2)空気電池用正極の製造方法:
本実施形態の空気電池用正極の製造方法は、まず、空気電池用触媒の粉末を含有する成形原料を粉末成形金型に充填し、プレス成形することにより触媒成形体を作製することが好ましい。尚、成形原料は、空気電池用触媒の粉末のみからなるものであってもよいし、他の原料が含有されたものであってもよい。そして、得られた触媒成形体を加熱処理することにより、空気電池用触媒を焼結させて、多孔質焼結体を得ることが好ましい。そして、得られた多孔質焼結体を空気電池用正極とすることが好ましい。また、得られた多孔質焼結体に、更に触媒を担持したり、導電材料を含めたものを空気電池用正極とすることも、好ましい態様である。
【0033】
成形原料を粉末成形金型に充填し、プレス成形する際には、10〜200kg/cmにて5〜30秒間プレスすることが好ましい。また、触媒成形体を加熱処理する際には、大気雰囲気下、250〜500℃で、5〜50時間加熱することが好ましい。
【0034】
多孔質焼結体をそのまま空気電池用正極として用いる場合には、多孔質焼結体の細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)が、多孔質焼結体の体積の50%以下になるようにする。多孔質焼結体の細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)が、多孔質焼結体の体積の50%以下になるようにするために、加熱処理温度と加熱時間とを調整することが好ましい。尚、多孔質焼結体に、更に触媒を担持したものを空気電池用正極とする場合には、空気電池用正極の細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)が、空気電池用正極の体積の50%以下になるように、触媒の担持量に合わせて、多孔質焼結体の細孔径、気孔率を調整することが好ましい。
【0035】
また、細孔径0.1〜10μmの貫通孔を多孔質焼結体に形成することが好ましい。細孔径0.1〜10μmの貫通孔を多孔質焼結体(空気電池用正極)に形成するために、触媒の粒子間隙を残すように加熱処理を実施したり、加熱処理時に分解するような造孔剤を加えて形成したりすることが好ましい。
【0036】
更に、空気電池用多孔質焼結体を作製するために使用される触媒粉末を構成する空気電池用触媒粒子は、細孔径1〜20nmの細孔の細孔容積(細孔容積/空気電池用触媒粒子の質量)が、0.01〜2cm/gであることが好ましく、0.05〜1.1cm/gであることが更に好ましく、0.1〜0.6cm/gであることが特に好ましい。0.01cm/gより小さいと、本実施形態の空気電池用正極を正極として用いた空気電池の放電容量を大きくする効果が、小さくなることがある。2cm/gより大きいと、空気電池用触媒粒子の強度が低くなることがある。
【0037】
空気電池用多孔質焼結体を作製するために使用される触媒粉末に、細孔径1〜20nmの細孔を形成する方法としては、例えば、空気電池用触媒を含有する溶液や空気電池用触媒の前駆体を含有する溶液に、鋳型となるような界面活性剤やブロックポリマーを加え、界面活性剤やブロックポリマーを熱処理して除去する方法を挙げることができる。また、酸化ケイ素等の「1〜20nmの細孔」を有する無機酸化物を鋳型として、空気電池用触媒を含有する溶液や空気電池用触媒の前駆体を含有する溶液を鋳型に析出させた後、鋳型を除去する方法が挙げられる。
【0038】
また、空気電池用多孔質焼結体を作製するために使用される触媒粉末を構成する空気電池用触媒粒子は、気孔率が5〜90%であることが好ましく、20〜85%であることが更に好ましく、35〜75%であることが特に好ましい。5%より小さいと、本実施形態の空気電池用正極を正極として用いた空気電池の放電容量を大きくする効果が、小さくなることがある。90%より大きいと、空気電池用触媒粒子の強度が低くなり、得られる空気電池用正極の強度が低くなることがある。空気電池用触媒粒子の気孔率は、正極として用いている物質の真密度と水銀ポロシメーター及び窒素吸着量測定装置により測定した細孔容量から算出した。
【0039】
空気電池用触媒粉末の平均粒子径は、0.01〜100μmであることが好ましく、0.05〜50μmであることが更に好ましく、0.1〜10μmであることが特に好ましい。0.01μmより小さいと、得られる空気電池用正極(多孔質焼結体)の細孔径が小さくなりすぎることがある。100μmより大きいと、得られる空気電池用正極の細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)を、多孔質焼結体の体積の50%以下にすることが難しくなることがある。
【0040】
成形原料には、空気電池用触媒粉末以外に、導電材料等を含有させてもよい。導電材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されず、例えばカーボン類、金属繊維、金属粉末、有機導電性材料等を挙げることができる。
【0041】
多孔質焼結体に担持させる触媒としては、マンガンを含有するもの、Au、Co、NiO、Fe、Pt、Pd、RuO、CuO、V、MoO、Y、カーボン等を挙げることができる。多孔質焼結体に触媒が更に担持される場合には、より酸素の反応が促進されるという利点がある。
【0042】
また、導電材料を含む空気電池用正極を作製する方法としては、導電材料を含む溶液を多孔質焼結体に塗布する方法、多孔質焼結体に導電材料をメッキする方法、スパッタリングにより導電材料を多孔質焼結体に付着させる方法等により、多孔質焼結体に導電材料を付着させる方法を挙げることができる。導電材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されず、例えばカーボン類、金属繊維、金属粉末、有機導電性材料等を挙げることができる。
【0043】
(3)空気電池:
次に、本発明の空気電池の一の実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態の空気電池100は、正極1と、金属を負極活物質とする負極2と、正極1と負極2との間に介在する非水電解液3とを備えるものである。そして、正極1は、上述した本発明の空気電池用正極の一の実施形態である。
【0044】
このように、本実施形態の空気電池は、正極に上述した本発明の空気電池用正極を用いたため、放電容量の大きな空気電池である。
【0045】
図1に示すように、本実施形態の空気電池100において、正極1は、一の面(電解液導入面1b)が非水電解液に接し、他の面(空気導入面1a)が空気に接するように配設されていることが好ましい。正極1の「一の面」と「他の面」は、例えば、正極1がシート状、フィルム状等の場合、当該シート、フィルム等の「表面」と「裏面」であることが好ましい。また、図1に示すように、本実施形態の空気電池100において、正極1には、貫通孔4が形成されていることが好ましい。正極1に貫通孔4が形成されることにより、非水電解液や空気の、正極1内(多孔質焼結体内)への浸入が促進され、更に正極1内(多孔質焼結体内)における非水電解液や空気の拡散が促進される。
【0046】
本実施形態の空気電池100において、非水電解液3は、支持電解質(支持塩)が非プロトン性有機溶媒に溶解されたものであることが好ましい。支持電解質としては、特に限定されるものではなく、公知の支持電解質を用いることができる。例えば、負極が金属Liの場合は、LiPF、LiClO、LiBF等、もしくはこれらの組み合わせを挙げることができる。非プロトン性有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、公知の非プロトン性有機溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネートやジエチレンカーボネートなどの環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等を挙げることができる。
【0047】
本実施形態の空気電池100は、正極と負極との間にセパレータを備えてもよい(図示せず)。セパレータとしては、空気電池の使用に耐えうる材質であれば特に限定されない。
【0048】
図2に示される本発明の空気電池の他の実施形態(空気電池200)は、上述した本発明の空気電池の一の実施形態(空気電池100、図1を参照)が、空気電池用容器(ケーシング)5内に配設されたものである。空気電池用容器5は、ステンレス鋼等により形成されていることが好ましい。空気電池用容器5の形状は、所望の形状にすることができるが、正極1の空気導入面1aに、外気(空気)が供給されるような形状であることが好ましい。例えば、図2に示すように、正極1の空気導入面1aが、外側に露出するような形状であることが好ましい。また、外気中のCOやHOの混入により非水電解液3が劣化する可能性があるため、空気導入面1aに、「COやHOは通過せず、Oのみを通過する」膜が配設されていることが好ましい。また、空気電池用容器5の厚さは、空気電池の大きさ等に合わせて適宜決定することができる。また、本実施形態の空気電池200は、正極1及び負極2のそれぞれに、集電体6が配設されていることが好ましい。図2は、本発明の空気電池の他の実施形態(空気電池200)の断面を示す模式図である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の空気電池用正極を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
水50cmに塩化マンガン10gを溶解することにより得られた塩化マンガン水溶液に、1.0モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を撹拌しながら滴下し、更に、セチルトリメチルアンモニウムブロミド水溶液を加えて、80℃に保った状態で1時間撹拌した。上記セチルトリメチルアンモニウムブロミド水溶液は、60gのセチルトリメチルアンモニウムブロミドを150cmの水に溶解することにより得た。その後、80℃に保った状態で2日間放置し、沈殿を得た。得られた沈殿を吸引濾過し、乾燥することにより乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉末状にし、500℃で5時間熱処理することにより、熱処理物を得た。上記乾燥物を粉末状にする際には、乳鉢を用いた。その後、熱処理物を10モル/リットルの硫酸中に分散させ、室温で2時間撹拌した後、硫酸中の固形分を濾過水洗し、乾燥させることにより、粉末状の空気電池用触媒(二酸化マンガン)を得た。
【0051】
得られた空気電池用触媒を金型に入れて、200kg/cmにてプレスした後、500℃で24時間熱処理を行うことにより空気電池用触媒を焼結し、多孔質焼結体からなる空気電池用正極(実施例1)を得た。
【0052】
得られた空気電池用正極(多孔質焼結体)について、N吸着法により50nm以下の細孔容積を測定したところ、0.4cm/gであった。また、得られた空気電池用正極(多孔質焼結体)について、水銀圧入法により50nm以上の細孔容積を測定したところ、0.5cm/gであった。得られた空気電池用正極(多孔質焼結体)について、空気電池用触媒である二酸化マンガンの真密度を5.0g/cmとして、50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)を測定した。50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)は、空気電池用正極(多孔質焼結体)の体積の45%であった。
【0053】
(比較例1)
実施例1において作製した空気電池用触媒とバインダとを混合し、金型に入れて200kg/cmにてプレスすることにより、空気電池用正極を得た。空気電池用触媒とバインダとの混合比率は、空気電池用触媒95質量%、バインダ5質量%とした。得られた空気電池用正極について、N吸着法により50nm以下の細孔容積を測定したところ、0.4cm/gであった。また、得られた空気電池用正極について、水銀圧入法により50nm以上の細孔容積を測定したところ、0.8cm/gであった。得られた空気電池用正極(多孔質焼結体)について、空気電池用触媒である二酸化マンガンの真密度を5.0g/cmとし、使用したバインダの真密度を1.8g/cmとして、細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)を測定した。細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)は、空気電池用正極の体積の56%であった。
【0054】
実施例1及び比較例1より、多孔質焼結体からなる空気電池用正極の細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)は、空気電池用正極の体積の50%以下であり、バインダで固めた空気電池用正極の細孔径50nm以上の細孔の全容積(全細孔容積)は、空気電池用正極の体積の50%以上であることがわかる。これにより、多孔質焼結体からなる空気電池用正極のほうが、正極の単位体積あたりの50nm以上の細孔の全容積が小さく、正極の単位体積あたりの触媒の体積が大きいことから、バインダで固めた空気電池用正極よりも、放電容量が増加する蓋然性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の空気電池用正極は、空気電池の正極として好適に利用することができる。また、本発明の空気電池は、電気自動車産業等の、電池が用いられる産業において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:正極、1a:空気導入面、1b:電解液導入面、2:負極、3:非水電解液、4:貫通孔、5:空気電池用容器、6:集電体、100,200:空気電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気電池用触媒が焼結されてなる多孔質焼結体を備え、
細孔径50nm以上の細孔の全容積が、前記多孔質焼結体の体積の50%以下であり、
細孔径1〜20nmの細孔の全容積が、前記多孔質焼結体の体積の5〜90%である空気電池用正極。
【請求項2】
細孔径0.1〜10μmの貫通孔を有する請求項1に記載の空気電池用正極。
【請求項3】
前記空気電池用触媒が、マンガン酸化物である請求項1又は2に記載の空気電池用正極。
【請求項4】
前記多孔質焼結体に、更に触媒が担持された請求項1〜3のいずれかに記載の空気電池用正極。
【請求項5】
正極と、
金属を負極活物質とする負極と、
前記正極と前記負極との間に介在する非水電解液とを備え、
前記正極が、請求項1〜4のいずれかに記載の空気電池用正極である空気電池。
【請求項6】
前記負極活物質である金属が、金属リチウムである請求項5に記載の空気電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−243657(P2012−243657A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114350(P2011−114350)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】