説明

空気電池用電解液

【課題】空気電池の出力を向上することができる電解液を提供する。
【解決手段】空気電池用の電解液であって、カチオン部としてN,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウム(N1223)を含み、アニオン部として式(2):


で表されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TFSA)を含むイオン液体であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(N1223TFSA)を含む、電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池に用いられる電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話等の機器の普及、進歩に伴い、その電源である電池の高容量化が望まれている。このような中で、金属空気電池は、正極(空気極)において、大気中の酸素を正極活物質として利用して、当該酸素の酸化還元反応が行われ、一方、負極において、負極を構成する金属の酸化還元反応が行われることで、充電又は放電が可能であるため、エネルギー密度が高く、現在汎用されているリチウムイオン電池に優る高容量電池として注目されている(非特許文献1)。
【0003】
従来、空気電池の非水電解質として有機溶媒が用いられていたが、有機溶媒は揮発性があるとともに、水との混和性もあるために、空気電池の長期作動においては安定性に課題があった。長期の電池作動時には、正極側から電解液が揮発することによって電池抵抗が増大し、あるいは、水分が電池内部に浸入することによって負極であるリチウム等の金属が腐食される懸念があった。これらの現象は、空気電池の長時間放電という特徴を損ねる要因となり得る。
【0004】
電解液の揮発による減少及び水分の電池内部への混入が抑制され、電池の長期の安定作動が可能なリチウム空気電池を提供することを目的として、非水電解質として、有機溶媒に代えて、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(PP13TFSA)等のイオン液体を用いた空気電池が提案されている(特許文献1)。イオン液体とは、カチオンとアニオンとを組み合わせたイオン分子のみから成る物質であり、且つ、常温(15℃〜25℃)において液体である物質のことを指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−14478号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)、「新しい構造の高性能リチウム空気電池を開発」、[online]、2009年2月24日報道発表、[平成23年8月19日検索]、インターネット<http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090224/pr20090224.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
イオン液体であるN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(PP13TFSA)等を空気電池の電解液として用いることによって、電解液の揮発による減少や水分の電池内部への混入の抑制に一定の効果が得られるものの、PP13TFSA等の従来のイオン液体を電解液として用いた空気電池は、依然として、電池としての出力が十分であるとはいえない。したがって、空気電池の出力をより向上することができる電解液が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、従来の電解液に対して空気電池の出力を向上することができる電解液について鋭意研究を行い、電解液の酸素供給能という指標に着目して、酸素供給能の高い電解液を空気電池の電解液として用いることによって、空気電池の出力を向上することができることを見出した。
【0009】
本発明は、空気電池用に用いられる電解液であって、N,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(N1223TFSA)を含む電解液である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた酸素供給能を有する電解液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】F型電気化学セルの断面模式図である。
【図2】本発明に係る電解液と比較例の電解液の酸素供給能を比較したグラフである。
【図3】本発明に係る電解液を用いた空気電池と比較例の電解液を用いた空気電池のI−V特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、空気電池に用いられる電解液であって、イオン液体であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、N1223TFSAという)を含む電解液である。
【0013】
発明者等は、従来の電解液に対して空気電池の出力を向上することができる電解液について鋭意研究を行い、電解液の酸素供給能という指標に着目して、イオン液体であるN1223TFSAを見出した。N1223TFSAは、従来のイオン液体よりも優れた酸素供給能を有することを突き止め、N1223TFSAを空気電池の電解液として用いることによって、空気電池の放電時における電流密度をより向上することができ、I−V特性の向上を図れることが分かった。I−V特性の向上は、電池としての出力の向上を意味する。
【0014】
特に、従来用いられているイオン液体であるN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、PP13TFSAという)を電解液として用いた場合よりも、N1223TFSAを電解液として用いた場合に、優れたI−V特性を有する空気電池を得ることができることが分かった。I−V特性が向上すると電池としての出力の向上につながる。
【0015】
PP13TFSAを空気電池の電解液として用いた場合よりも、N1223TFSAを空気電池の電解液として用いた場合に優れたI−V特性が得られるのは、N1223TFSAの酸素供給能がPP13TFSAよりも高いためと考えられる。
【0016】
酸素供給能とは、電解液による酸素の供給能力を示す指標であり、数値が大きいほど酸素を多く供給でき、空気電池としての出力を大きくすることができると考えられる。酸素供給能は、電解液中の酸素の溶解濃度(C[mol・cm-3]と電解液中の酸素の拡散係数(D[cm2・s-1]とをかけ合わせた数値であり、下記の式:
【数1】

で表される。
【0017】
理論に束縛されるものではないが、空気電池は、正極層(空気極層)、電解質層、及び負極層が積層された構造を有し、酸素は、正極層を通り、電解質層と正極層との界面(反応場)で負極金属イオンと反応する。電解液の酸素供給能が高いことで、正極層における酸素の拡散及び溶解、並びに反応場での酸素の拡散及び溶解が進みやすいため、放電時の電流密度が高くなると考えられる。
【0018】
N1223TFSAイオン液体は、カチオン部として式(1)に示すN,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウム(以下、N1223という)を含み、アニオン部として式(2)に示すビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、TFSAという)を含む。
【0019】
【化1】

【化2】

【0020】
PP13TFSAイオン液体は、カチオン部として式(3)に示すN−メチル−N−プロピルピペリジニウムを含み、アニオン部として式(2)に示すビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを含む。
【化3】

【0021】
N1223TFSAを含む電解液は、正極層および負極層との間で金属イオンを交換することができる。
【0022】
電解質として、N1223TFSAのイオン液体そのものを用いてもよいし、N1223TFSAのイオン液体に、PP13TFSA等の他のイオン液体、及び/またはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、グライム類等の有機溶媒を加えて用いてもよい。
【0023】
また、電解質として、N1223TFSAを含むポリマー電解質又はゲル電解質等を用いてもよい。
【0024】
N1223TFSAには支持塩を溶解させてもよい。支持塩としては、リチウムイオンと、次に挙げるアニオン:
Cl-、Br-、I-などのハロゲン化物アニオン;BF4-、B(CN)4-、B(C242-等のホウ素化物アニオン;(CN)2-、[N(CF32-、[N(SO2CF32-等のアミドアニオン又はイミドアニオン;RSO3-(以下、Rは脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を指す)、RSO4-、RfSO3-(以下、Rfは含フッ素ハロゲン化炭化水素基を指す)、RfSO4-等のスルフェートアニオン又はスルフォネートアニオン;Rf2P(O)O-、PF6-、Rf3PF3-等のリン酸アニオン;SbF6等のアンチモンアニオン;またはラクテート、硝酸イオン、トリフルオロアセテート等のアニオン
とからなる塩を用いることができ、
例えばLiPF6、LiBF4、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiN(CF3SO22、以下、LiTFSAという)、LiCF3SO3、LiC49SO3、LiC(CF3SO23及びLiClO4等が挙げられ、LiTFSAが好ましく用いられる。このような支持塩を2種以上組み合わせて用いてもよい。また、イオン液体に対する支持塩の添加量は特に限定されないが、0.1〜1mol/kg程度とすることが好ましい。
【0025】
N1223TFSAと共に用いることのできるポリマー電解質は、リチウム塩及びポリマーを含有するものであることが好ましい。リチウム塩としては、従来、リチウム空気電池等で一般的に用いられるリチウム塩であれば特に限定されるものではなく、例えば、上述した支持塩として用いられるリチウム塩等を挙げることができる。ポリマーとしては、リチウム塩と錯体を形成するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0026】
N1223TFSAと共に用いることのできるゲル電解質は、リチウム塩とポリマーと非水溶媒とを含有するものであることが好ましい。リチウム塩としては、上述したリチウム塩を用いることができる。非水溶媒としては、上記リチウム塩を溶解できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば上述した有機溶媒を用いることができる。これらの非水溶媒は、一種のみ用いてもよく、二種以上を混合して用いても良い。ポリマーとしては、ゲル化が可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロプレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリウレタン、ポリアクリレート、セルロース等が挙げられる。
【0027】
正極層は導電材を含むことができる。導電材としては、例えばカーボンが挙げられ、カーボンとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、メソポーラスカーボン等のカーボンブラック、活性炭、カーボン炭素繊維等が挙げられ、比表面積の大きいカーボン材料が好ましく用いられる。
【0028】
正極層はバインダーを含むことができる。バインダーとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
【0029】
正極層は酸化還元触媒を含んでもよく、酸化還元触媒としては、二酸化マンガン、酸化コバルト、酸化セリウム等の金属酸化物、Pt、Pd等の貴金属、Co等の遷移金属、コバルトフタロシアニン等の金属フタロシアニン等が挙げられる。
【0030】
正極層、負極層、及び正極層と負極層との間に電解質層を有する空気電池において、電解質層は、正極層及び負極層の間で金属イオンの伝導を行うものであり、N1223TFSAを含む液体電解質、ゲル状電解質、ポリマー電解質、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0031】
空気電池において、正極層と負極層との間にはセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布等の高分子不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂等の微多孔フィルム、またはこれらの組み合わせを使用することができる。N1223TFSAイオン液体を含む電解液を、セパレータに含浸させて電解質層を形成してもよい。
【0032】
空気電池に含まれる負極層は、負極活物質を含有する層である。負極活物質としては、例えば、金属、合金材料、または炭素材料等を用いることができ、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム等の第13族元素、亜鉛、鉄等の遷移金属、またはこれらの金属を含有する合金材料または炭素材料等が挙げられる。
【0033】
また、負極活物質として、リチウム元素を含む合金、酸化物、窒化物、または硫化物を用いることができる。リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。リチウム元素を有する金属酸化物としては、例えばリチウムチタン酸化物等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。
【0034】
負極層は、導電性材料及び/またはバインダーをさらに含有してもよい。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極層とすることができ、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質及びバインダーを有する負極層とすることができる。なお、導電性材料及びバインダーについては、上述の正極層に用いられ得る材料と同様のものを用いることができる。
【0035】
空気電池に用いられ得る外装材としては、金属缶、樹脂、ラミネートパック等、空気電池の外装材として通常用いられる材料を使用することができる。
【0036】
外装材には、酸素を供給するための孔が、任意の位置に設けられ得る。例えば、正極層の空気との接触面に向かって設けることができる。
【0037】
正極層上であって電解質層と反対側の空気との接触部側に、酸素透過膜を配置することができる。酸素透過膜としては、空気中の酸素を透過させ、かつ水分の進入を防止できる撥水性の多孔質膜等を用いることができ、例えば、ポリエステルやポリフェニレンサルファイド等からなる多孔質膜を用いることができる。撥水膜を別途配置してもよい。
【0038】
正極層に隣接して正極集電体を配置することができる。正極集電体は、通常、正極層上であって、電解質層と反対側の空気との接触部側に配置され得るが、正極層と電解質層との間にも配置してもよい。正極集電体としては、カーボンペーパー、金属メッシュ等の多孔質構造、網目状構造、繊維、不織布等、従来から集電体として用いられる材料であれば特に限定されず用いることができ、例えば、SUS、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン等から形成した金属メッシュを用いることができる。正極集電体として、酸素供給孔を有する金属箔を用いることもできる。
【0039】
負極層に隣接して負極集電体を配置することができる。負極集電体としては、多孔質構造の導電性基板、無孔の金属箔等、従来から負極集電体として用いられる材料であれば特に限定されず用いることができ、例えば、銅、SUS、ニッケル等から形成した金属箔を用いることができる。
【0040】
N1223TFSAを含む電解液を用いて得られうる空気電池の形状は、酸素取り込み孔を有する形状であれば特に限定されず、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、または扁平型等、所望の形状をとることができる。
【0041】
また、N1223TFSAを含む電解液を用いて得られうる空気電池は、二次電池として使用することができるものであるが、一次電池として使用してもよい。
【0042】
空気電池に含まれる正極層、電解質層、及び負極層の形成は、従来行われている任意の方法で行うことができる。例えば、カーボン粒子及びバインダーを含む正極層を形成する場合、所定量のカーボン粒子及びバインダーに適量のエタノール等の溶媒を加えて混合し、得られた混合物をロールプレスで所定の厚みに圧延して、乾燥及び切断し、所望によりメッシュ状の集電体で挟んで圧着し、次いで加熱真空乾燥して、集電体に接合された正極層を得ることができる。別法として、所定量のカーボン粒子及びバインダーに適量のエタノール等の溶媒を加えて混合してスラリーを得て、スラリーを基材上に塗工及び乾燥を行って正極層を得ることもできる。所望により得られた正極層をプレス成形してもよい。正極層の基材上への塗工プロセスとしては、ドクターブレード法、グラビヤ転写法等が挙げられる。用いられる基材は、特に制限されるものではなく、集電体として用いる集電板、フィルム状の柔軟性を有する基材、硬質基材等を用いることができ、例えばSUS箔、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、テフロン(登録商標)等の基材を用いることができる。
【実施例】
【0043】
(I−V特性評価用セルの作製)
(実施例1)
90質量%のカーボンブラック(ECP600JD、KetjenBlack International製)、10質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー(ダイキン製)、及び溶媒として適量のエタノールを混合して、混合物を得た。次いで、得られた混合物をロールプレスにて圧延し、乾燥及び切断した。SUS304製100メッシュ(ニラコ社製)を集電体として用いて、切断した混合物と集電体とを圧着し、次いで加熱真空乾燥を行い、メッシュ状の集電体を圧着した直径18mm、厚み150μmの正極層を形成した。
【0044】
N,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(N1223TFSA、関東化学製)を溶媒として、リチウム塩であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA、キシダ化学製)を0.35mol/kgの濃度になるように、25℃にて12時間、Ar雰囲気下で混合して溶解させて、電解液を調製した。
【0045】
負極層として、直径18mm、厚み250μmの金属リチウム箔(本城金属製)を用意し、直径18mm、厚み2cmのSUS304(ニラコ社製)の集電体に貼り付けた。
【0046】
密閉容器として、図1に示す北斗電工社製のF型セル10を用いた。F型セル10に、負極集電体7及び負極層3を組み付け、調製した電解液を負極層3上に注入して直径18mm、厚み2mmの電解質層2を形成し、次いで正極(空気極)層1及び正極集電体6を組み付けて、評価用セルを作製した。
【0047】
次いで、F型セル10をガス置換コック付のガラスデシケーター(500ml仕様)に入れて、ガラスデシケーター中の雰囲気を、純酸素(大陽日酸、99.9%)を用いて酸素雰囲気に置換した。
【0048】
(比較例1)
N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(PP13TFSA、関東化学製)を溶媒として、これにリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA、キシダ化学製)を0.35mol/kgの濃度になるように、25℃にて12時間、Ar雰囲気下で混合して溶解させて、電解液を調製し、これを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で評価用セルを作製した。
【0049】
(酸素供給能の測定)
実施例1で用いたN1223TFSA及び比較例1で用いたPP13TFSAのイオン液体について、次の条件による電気化学測定により酸素供給能を測定した。
【0050】
作用電極としてグラッシーカーボン(径3mm)、参照電極としてAg/Ag+、及び対極としてNiを備えた気密性を有する三電極式の測定セル、及び測定装置としてポテンショスタット/ガルバノスタット(Solartron)を用意した。イオン液体を入れた測定セルを、25℃、1気圧の恒温槽にて3時間静置し、測定セル内の雰囲気をアルゴン雰囲気で置換した後、純酸素で30分間、イオン液体をバブリングしながら酸素雰囲気に置換した。次いで、25℃、酸素雰囲気、及び1気圧の条件下で、スイープ電圧10mV/sで−1.7〜1.3V v.s. Ag/Ag+の範囲で、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。次いで、サイクリックボルタンメトリー(CV)から拡散律速状態と推定された電位を使用して、ポテンシャルステップクロノアンペロメトリー測定を行い、コットレル(Cottrell)の式:
【数2】

(式中、i[A/cm-2]は限界電流密度、nは反応電子数であり1、F[C・mol-1]はファラデー定数であり96500C/mol、C[mol・cm-3]は酸素濃度、D[cm2・s-1]は拡散係数を示す)を用いて、時間tの平方根の逆数に対して測定した限界電流密度iから、
【数3】

を求めた。
【0051】
図2に、N1223TFSA及びPP13TFSAについて測定した酸素供給能を比較したグラフを示す。N1223TFSAの酸素供給能は9.9[10-9 mol・cm-2・s-0.5]であり、PP13TFSAの酸素供給能は8.0[10-9 mol・cm-2・s-0.5]であり、N1223TFSAは、優れた酸素供給能を有することが確認された。
【0052】
(I−V特性の測定)
実施例1及び比較例1で作成した空気電池について、電流電圧(I−V)特性を、次の条件にて評価した。ガラスデシケーターに入れた空気電池を、試験開始前に25℃の恒温槽にて3時間静置した。次いで、マルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタットVMP3(Bio−Logic社製)充放電I−V測定装置を用いて、25℃、1気圧、酸素雰囲気下で、電流印加時間/レスト時間を30分/0.1秒として、I−V特性を測定した。
【0053】
図3に、正極の単位面積当たりの電流密度に対する電圧値を測定したI−V特性を示す。PP13TFSAを用いて比較例1で作製した空気電池に比べて、N1223TFSAを用いて実施例1で作製した空気電池の方が、電圧が高くI−V特性が優れており、高出力を得ることができることが分かった。
【符号の説明】
【0054】
1 正極層
2 電解質層
3 負極層
6 正極集電体
7 負極集電体
8 ガス溜め部
9 密閉容器
10 F型電気化学セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気電池用の電解液であって、
カチオン部として式(1):
【化1】

で表されるN,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウム(N1223)を含み、
アニオン部として式(2):
【化2】

で表されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TFSA)を含むイオン液体であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(N1223TFSA)を含む、電解液。
【請求項2】
リチウム含有金属塩をさらに含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記リチウム含有金属塩がリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA)を含む、請求項2に記載の電解液。
【請求項4】
正極層、負極層、及び前記正極層と前記負極層との間に配置される電解質層を有する空気電池であって、
前記電解質層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解液を含む、空気電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−84432(P2013−84432A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223275(P2011−223275)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】