説明

空調システム、空調方法、吹出口部材

【課題】座席の近傍の床面に空調の吹出口を設ける空調方式において、居住域高さにおける温度差を低減するとともに、着座した観客が不快に感じることがないようにする。
【解決手段】各座席45の下方の床面に空調空気の吹出口2を設け、吹出口2の上方に位置する座席45の背面板47の下端近傍に向かって空調空気を吹出す。吹出口2から吹出された空調空気は、コアンダ効果により、背面板47の裏面に沿った領域50を上昇することとなり、観客の下肢に直接空調空気があたらず、また、居住域高さ上方まで空調空気が到達することとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ホールや集会場などの複数の座席が設置される空間における、床面の段差の有無にかかわらず、さらに、段差がある場合には、その段差の高さにかかわらず利用可能な空調システム、空調方法、及びこの空調方法において床面に設けられた空調の吹出口に取り付けられる吹出口部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホールや集会場などの床に段差がある複数の座席が設置される空間における空調方式として、各座席の近傍の床面などに空調空気の吹出口を設ける方法が用いられている(例えば、特許文献1段落[0039]等参照)。一方、床に段差がない複数の座席が設置される空間の空調方式では、例えば、特許文献2に記載されているようなオフィスなどで用いられている吹出口を各座席の床面などに設置している。
【特許文献1】特開2004―232972号公報
【特許文献2】登録実用新案第2542257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような複数の座席が設置される空間における空調方法において、床面に吹出口を設けることで、座席に着座した観客の下肢に空調空気が当たり、観客が不快に感じることがあった。
また、座席スペースが狭く、前後の座席間に吹出口を設ける余裕がない場合に、座席の下方に吹出口を設けると、居住域の上方まで空調空気が到達せず、居住域の上下の温度差が大きくなるという問題があった。
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、座席の床面に段差がある場合にもない場合にも利用できて、居住域高さにおける温度差を低減するとともに、着座した観客が不快に感じることがないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の空間の空調システムは、背もたれを有する座席が設置された空間の空調システムであって、前記座席の下方の床面に吹出口が設けられ、当該吹出口は、前記座席の後方側の部分から、略鉛直上方又は後方へ斜め上方に向かって空調空気を吹き出すとともに、 前記座席の前方側の部分から、後方へ斜め上方に向かって、前記座席の横方向に広がるように空調空気を吹出すように形成されていることを特徴とする。
【0006】
上記の空調システムにおいて、前記吹出口は、前記座席の後方側の部分の少なくとも一部から、略鉛直上方又は後方へ斜め上方に向かって、前記座席の横方向に広がるように空調空気を吹出すように形成されていてもよい。
【0007】
また、本発明の空調方法は、背もたれを有する座席が設置された空間の空調方法であって、前記座席の下方の床面に吹出口を設け、当該吹出口の前記座席の後方側の部分から、略鉛直上方又は後方へ斜め上方に向かって空調空気を吹き出すとともに、当該吹出口の前記座席の前方側の部分から、後方へ斜め上方に向かって、前記座席の横方向に広がるように空調空気を吹出すことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の吹出口部材は、背もたれを有する座席の下方の床面に設けられた空調空気の吹出口に取り付けられる吹出口部材であって、筒状に形成された枠体と、前記枠体内に前記座席の後方に向かって傾斜するように設けられた複数のルーバと、を備え、前記複数のルーバの間を通過する前記空調空気が前記背もたれの下部近傍に向かって吹き出すように形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記の吹出口部材において、前記吹出口は、前記背もたれの略下方の床面に設けられ、前記枠体内は、前記座席の前方側の部分に形成された開口からなる前方吹出口と、前記座席の後方側の部分に形成された後方吹出口とに分割され、前記複数のルーバは、前記前方吹出口内に後方に向かって斜め上方に傾斜するように設置された前方ルーバと、前記後方吹出口内に略鉛直方向又は後方に向かって斜め上方に傾斜するように設置された後方ルーバと、からなるものであってもよい。
【0010】
また、前記前方の吹出口は、前記座席の横方向の略中心軸上に設けられた枠材により一対の吹出口に分割されており、前記前方のルーバは、前記一対の吹出口内に、後方に向かって斜め上方に傾斜するとともに、前記中心軸より離間する方向に傾斜するように夫々設けられていてもよい。
また、前記後方のルーバの間に、前記座席の横方向の略中心軸上から離間する方向に向かって斜め上方に傾斜するガイドベーンを備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、座席の下方の床面に設けられた吹出口から座席の背もたれの背面の下端近傍に向けて空調空気が吹出されるため、吹出された空調空気はコアンダ効果により座席の背もたれの背面に沿って上方に向かって上昇することとなる。これにより、座席に着座した観客の下肢付近では気流を生じないため、観客に不快感を与えることがなく、また、空調空気が背もたれの背面に沿って上昇するため、座席スペースが狭い場合であっても居住空間内の温度差を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態の座席空調用床吹出口が段差のある床面に設けられた場合の空間を示す平面図、図2は、図1におけるA−A線断面図である。すなわち、本実施の形態の座席空調用床吹出口1は、ホールや集会場等の大空間の空調に適用可能なものであって、ホールや集会場等の大空間の床面上に複数配置される複数の座席45の各座席45付近から空調空気(約20〜60m/hの空調空気)を吹き出す空調方式(以下、「座席空調」という。)に有効なものである。
【0013】
本実施の形態においては、ホールや集会場等の大空間の前方に配置されるステージを基準として、階段状の床面40上に、前後方向(図1における左右方向)に複数列に座席45が配置され、かつ各列に横方向(図1における上下方向)に複数座席45が配置される場合を対象としている。
【0014】
図1及び図2に示すように、各座席45は、床面40に固定される脚部46と、脚部46によって略鉛直に支持される背面板47と、背面板47の前方の下端部に回動可能に設けられる座面48とを備え、使用時には座席を水平状態に回動させ、非使用時には座面48を背面板47に沿う鉛直状態に回動させている。また、各座席45は、その背面部と床面40の蹴上との間に隙間が形成されるように配置されている。
【0015】
本実施の形態の座席空調用床吹出口1は、各座席45の座面48(背面板47)の横方向(図1における上下方向)の中心線上の床面40の所定の位置に吹出孔41を設け、この吹出孔41に吹出口体2を取り付けることにより、構成されている。
なお、本実施の形態においては、後方席床40の蹴上位置Aから前方席の方向へ所定の寸法a離れた位置に吹出孔41を設けている。
【0016】
ここで、所定の寸法aは、吹出孔41の直径(吹出口体2の外径)に応じた値に設定され、例えば、吹出孔41の直径(吹出口体2の外径)が10cmの場合には約2.5cm〜7.0cm程度、吹出孔41の直径(吹出口体2の外径)が8cmの場合には約1.5cm〜6.0cm程度、吹出孔41の直径(吹出口体2の外径)が16cmの場合には約3.5cm〜8.5cm程度に設定される。
【0017】
図3は、吹出口体2を示す図であり、(A)は平面図、(B)はB−B断面図、(C)はC−C断面図、(D)はD−D断面図である。なお、図中左右方向が座席の前後方向にあたり、図中上下方向が座席の横方向にあたる。また、左方向が座席の前方、右方向が座席の後方にあたる。同図に示すように、吹出口体2は、中心線aを中心として座席横方向に対称に構成され、円筒状の本体3a、及び本体3aの一端に一体に設けられる環状のフランジ3bとからなる外枠3と、外枠3の本体3aの内側に垂直方向に交差するように設けられ、4つの扇形状の空間(第1空間5、第2空間6、第3空間7、及び第4空間8)に仕切る一対の内枠4と、各空間(第1空間5、第2空間6、第3空間7、及び第4空間8)内にそれぞれ設けられる複数のルーバ10〜14、20〜24とを備え、複数のルーバ10〜14、20〜24により、第1空間5、第2空間6、第3空間7、及び第4空間8内にそれぞれ吹出開口15〜19、25〜30が形成されている。
【0018】
なお、本実施の形態においては、第1空間5、第2空間6、第3空間7、及び第4空間8内に形成される吹出開口15〜19、25〜30の開口面積をそれぞれ、例えば25%に設定している。
【0019】
内枠4は、外枠3の本体3aの中心線a上に設けられる板状の縦枠4aと、縦枠4aと直交する外枠3の本体3aの中心線b上に設けられる板状の横枠4bとから構成される略十字状をなすものであって、縦枠4aと横枠4bと外枠3の本体3aとによって囲まれる部分にそれぞれ扇形状の第1空間5、第2空間6、第3空間7、及び第4空間8が形成されている。
【0020】
吹出口体2は、各座席45の座面48の下方の各吹出孔41内に外枠3の本体3aを挿入し、内枠4の縦枠4aが各座席45の前後方向(図1における左右方向)を向き、横枠4bが各座席45の横方向(図1における上下方向方向)を向くように、各吹出孔41内での外枠3の本体3aの向きを調整し、各吹出孔41に取り付けられる。
【0021】
各吹出孔41内に上記のような向きに吹出口体2を取り付けることにより、各座席45の前後方向の後方側(後方席側)に第1空間5及び第2空間6が配置され、前方側(前方席側)に第3空間7及び第4空間8が配置される。
【0022】
吹出口体2の第1空間5及び第2空間6内には、内枠4の横枠4bと平行をなすように(内枠4の縦枠4aと直交するように)、複数の板状のルーバ10〜14が所定の間隔ごとに互いに平行をなすように一体に設けられ、これらの複数のルーバ10〜14によって第1空間5及び第2空間6内が鉛直方向を向く複数の吹出開口15〜18に仕切られている。
【0023】
本実施の形態においては、第1空間5及び第2空間6内に第1ルーバ10、第2ルーバ11、第3ルーバ12、第4ルーバ13、及び、第5ルーバ14の5つの板状のルーバを設け、第1ルーバ10と外枠3の本体3aとの間に第1吹出開口15を形成し、第1ルーバ10と第2ルーバ11との間に第2吹出開口16を形成し、第2ルーバ11と第3ルーバ12との間に第3吹出開口17を形成し、第3ルーバ12と第4ルーバ13との間に第4吹出開口18を形成し、第4ルーバ13と第5ルーバ14との間に第5吹出開口19を形成している。なお、第5ルーバ14は内枠4の横枠4bと兼用している。
【0024】
第1ルーバ10、第2ルーバ11、及び第3ルーバ12は、断面長方形状の板状をなすものであって、座席45の前後方向の両面(前面及び後面)が鉛直方向に平行となるように、第1空間5及び第2空間6内にそれぞれ設けられている。また、第4ルーバ13は、断面台形状の板状をなすものであって、座席45の前方側の面が鉛直方向に対して所定の角度(約10〜20度)をなし、後方側の面が鉛直方向に対して平行をなすように、第1空間5及び第2空間6内にそれぞれ設けられている。さらに、第5ルーバ14は、断面台形状の板状をなすものであって、座席45の前方側の面が鉛直に、また、後方側の面が鉛直方向に対して所定の角度(約10〜20度)をなすように、第1空間5及び第2空間6内にそれぞれ設けられている。
【0025】
このような形状の第1ルーバ10、第2ルーバ11、第3ルーバ12、第4ルーバ13、及び第5ルーバ14を第1空間5及び第2空間6内に設けることにより、第1吹出開口15、第2吹出開口16、第3吹出開口17、及び第4吹出開口18は、座席45の前後方向の両面が鉛直方向に平行な断面形状の吹出開口に形成され、第5吹出開口19は、座席45の前方側の面が鉛直方向に対して所定の角度(約10〜20度)をなす。
【0026】
第2ルーバ11と第3ルーバ12との間の第3吹出開口17、第3ルーバ12と第4ルーバ13との間の第4吹出開口18内には、座席45の横方向に所定の間隔ごとに板状の2つのガイドベーン(第1ガイドベーン31及び第2ガイドベーン32)が設けられ、この第1ガイドベーン31及び第2ガイドベーン32によって、第3吹出開口17及び第4吹出開口18内が座席45の横方向に3つの小吹出開口17a〜17c、18a〜18cに仕切られている。
【0027】
第1ガイドベーン31及び第2ガイドベーン32は、座席45の横方向の両面が鉛直方向に対して約30〜60度をなすように、第3吹出開口17及び第4吹出開口18にそれぞれ設けられている。これにより、第3吹出開口17及び第4吹出開口18内の外枠3の本体3aと第1ガイドベーン31との間に、座席45の横方向の一方の面が鉛直方向に対して平行をなし、他方の面が鉛直方向に対して約30〜60度をなす断面台形状の小吹出開口17a、18aが形成される。また、第1ガイドベーン31と第2ガイドベーン32との間に、座席45の横方向の両面が鉛直方向に対して約30〜60度をなす断面形状の小吹出開口17b、18bが形成される。さらに、第2ガイドベーン32と内枠4の縦枠4aとの間に、座席45の横方向の一方の面が鉛直方向に対して約30〜60度をなし、他方の面が鉛直方向に平行な小吹出開口17c、18cが形成される。
【0028】
かかる構成により、座席45の後部の直下近傍に位置する第1空間5及び第2空間6の第1〜第4吹出開口15〜18を通過した空調空気は上方に向かって吹出され、座席45の下方に位置する第5吹出開口19を通過した空調空気は背面板47の下端に向かうように吹出され、これらが合わさり、座席45の背面板47の下端近傍に向かって流れることとなる。また、第3及び第4吹出開口17、18から吹出される空調空気は、座席横方向に広がるように吹出されるため、第1空間5及び第2空間6から吹出された空調空気の、座席横方向の流速のばらつきが抑えられる。
【0029】
なお、本実施の形態においては、第2ルーバ11と第3ルーバ12との間の第3吹出開口17、及び第3ルーバ12と第4ルーバ13との間の第4吹出開口18内に、第1ガイドベーン31及び第2ガイドベーン32の2つのガイドベーンを設けているが、第3吹出開口17及び第4吹出開口18内に1つ又は3つ以上のガイドベーンを設けてよい。
また、第5吹出開口19内にもガイドベーンを設けても良いが、第5ルーバ14の座席後方側の面が鉛直方向に対して傾斜しており、第5吹出開口19内の座席45の前後方向の鉛直断面形状が複雑なため、本実施形態では設けていない。
【0030】
また、第3空間7及び第4空間8内には、内枠4の縦枠4a(横枠4b)に対して平面視で約45度をなすように、複数の板状のルーバ20〜24が所定の間隔ごとに互いに平行をなすように一体に設けられ、これらのルーバ20〜24によって第3空間7及び第4空間8内が鉛直方向を向く複数の開口25〜30に仕切られている。
【0031】
本実施の形態においては、第3空間7及び第4空間8内に第1ルーバ20〜第5ルーバ24の5つの板状のルーバを設け、内枠4の横枠4bと第1ルーバ20の間に第1開口25を形成し、第1ルーバ20と第2ルーバ21との間に第2開口26を形成し、第2ルーバ21と第3ルーバ22との間に第3開口27を形成し、第3ルーバ22と第4ルーバ23との間に第4開口28を形成し、第4ルーバ23と第5ルーバ24との間に第5開口29を形成し、第5ルーバ24と外枠3の本体3aとの間に第6開口30を形成している。
【0032】
第1ルーバ20〜第5ルーバ24は、断面長方形状の板状に形成され、座席45の前後方向の両面(前面及び後面)が鉛直方向に対して約50〜70度をなすように、第3空間7及び第4空間8内にそれぞれ設けられている。
これにより、内枠4の横枠4bと第1ルーバ20との間、第1ルーバ20と第2ルーバ21との間、第2ルーバ21と第3ルーバ22との間、第3ルーバ22と第4ルーバ23との間、及び第4ルーバ23と第5ルーバ24との間に、座席45の前後方向の両面が鉛直方向に対して約50〜70度をなす第1開口25、第2開口26、第3開口27、第4開口28、及び第5開口29が形成され、第5ルーバ24と外枠3の本体3aとの間に、座席45の前方側の面が鉛直方向に対して平行をなし、後方側の面が鉛直方向に対して約50〜70度をなす第6開口30が形成される。
【0033】
かかる構成により、第3空間7及び第4空間8を通過した空調空気は、座席の背面板47の後方に斜め上方に向かって吹出され、さらに、第1空間5及び第2空間6から吹出される空調空気に比べて、座席の横方向に、より広範囲に広がるように吹出されることとなる。
【0034】
図4は、座席45の近傍の吹出口1から吹出された空調空気の流れを示す図である。上記のように、吹出口体2の前方に位置する第3空間7及び第4空間8を通過した空調空気は、座席45の後方に向かって、座席45の横方向に広範囲に広がるように吹出され、また、吹出口体2の後方に位置する第1空間5及び第2空間6を通過した空調空気は、座席45の背面板47に向かって略鉛直上方に向かって吹出される。そして、図4に示すように、これら第1〜第4空間5〜8から吹出された空気は合わさって、座席45の背面板47を利用したコアンダ効果により、背面板47の後方の約10cm程度の空間に横方向に広がる空気域(図中灰色にて示す領域、以下、「椅子背面上昇空気域」と略す。)50を、背面板47に沿って流れることとなる。椅子背面上昇空気域50に沿って上昇する気流により、空調空気は居住域高さ内の上方まで到達する。これにより、座席45に着座した観客の下肢の近傍には気流が生じず、また、背面板47に沿って空調空気が上方へ吹き上げられるため居住域高さでの温度差のばらつきが減少する。
【0035】
ここで、本願発明者らは、本実施形態によれば、上記のように背面板47に沿って椅子背面上昇空気域50に上方に向かう空気域が形成され、また、椅子背面上昇空気域以外の部分では強い気流が生じないことを実験により確認したので以下説明する。
【0036】
図5は、実験の様子を示す図である。本実験では、以下に詳述するように吹出口体2の形状、吹出口体2の位置(後方席床蹴上位置Aからの距離a)、及び床面40の形状(段差あり、段差なし)を変化させて、座席45の背面板47からの距離b(1cm、2cm、4cm、7cm、10cm、13cm、16cm、20cm、30cm)かつ、高さc(95cm、66cm、50cm、36cm、16cm)の異なる測定点、及び座席45の前方の着座した観客の下肢背面にあたる位置の測定点における気流の流速を測定するものとした。
【0037】
<条件1>段差がない床面に吹出口を設け、吹出口体として、従来用いられていた吹出口体(φ200mm)を用いた場合
図6は、段差がない床面に従来用いられていた吹出口体を用いた場合の各測定点における流速を示す表である。同図に示すように、座席45の背面から10cm以上離れた(b≧10cm)測定点では、流速が人が不快に感じる0.25m/sを超えていないものの、下肢背面にあたる位置の測定点では、流速が0.36m/sと、0.25m/sを超えており、座席に着座した観客が不快に感じる虞があることがわかる。
【0038】
<条件2−1>段差がない床面において、背面板47からの距離a=3.25cmに本実施形態の吹出口を設け、吹出口体として、φ100mm、第5吹出開口19の吹出角度を鉛直方向から後方へ12.5°傾けたものを用いた場合
なお、第3空間7及び第4空間8内に設けられたルーバ20〜24は、水平方向に座席後方方向から45°、鉛直方向から座席後方方向へ30°傾斜させている。
【0039】
図7は、本条件における各測定点における流速を示す表である。同図に示すように、本条件では、背面板47からの距離bが10cmの高さcが66cm、95cmの測定点における流速が夫々0.29m/s、0.28m/sと、0.25m/sを超えているが、背面板47からの距離bが13cm以上のそれ以外の測定点では流速が0.25m/s以下となっており、また、下肢背面にあたる位置の測定点では、0.05m/sと、0.25m/sを大きく下回っており、座席に着座した観客が不快に感じる可能性が低いことがわかる。また、背面板47からの距離bが7cm未満の測定点では、流速が非常に高く、コアンダ効果により、背面板47に沿って気流が生じていることがわかる。
【0040】
<条件2−2>段差がない床面において、背面板47からの距離a=4.5cmに本実施形態の吹出口を設け、吹出口体として、φ100mm、第5吹出開口19の吹出角度を鉛直方向から後方へ12.5°傾けたものを用いた場合
なお、第3空間7及び第4空間8内に設けられたルーバ20〜24は、水平方向に座席後方方向から45°、鉛直方向から座席後方方向へ30°傾斜させている。
【0041】
図8は、本条件における各測定点における流速を示す表である。同図に示すように、本条件では、背面板47からの距離bが10cmの高さcが95cmの測定点における流速が0.28m/sと、0.25m/sを超えているが、それ以外の背面板47からの距離bが10cm以上のそれ以外の測定点では流速が0.25m/s以下となっており、また、下肢背面にあたる位置の測定点では、0.18m/sと、0.25m/sを下回っており、座席に着座した観客が不快に感じる可能性が低いことがわかる。また、条件2−1と同様に、背面板47からの距離bが7cm未満の測定点では、流速が非常に高く、コアンダ効果により、背面板47に沿って気流が生じていることがわかる。
【0042】
<条件3−1>段差がない床面において、背面板47からの距離a=3.25cmの位置に本実施形態の吹出口を設け、吹出口体として、φ100mm、第5吹出開口19の吹出角度を鉛直方向から後方へ15°傾けたものを用いた場合
なお、第3空間7及び第4空間8内に設けられたルーバ20〜24は、水平方向に座席後方方向から45°、鉛直方向から座席後方方向へ30°傾斜させている。
【0043】
図9は、本条件における各測定点における流速を示す表である。同図に示すように、本条件では、背面板47からの距離bが10cmの高さcが66cmの測定点における流速が0.27m/sと、0.25m/sを超えているが、それ以外の背面板47からの距離bが10cm以上のそれ以外の測定点では流速が0.25m/s以下となっており、また、下肢背面にあたる位置の測定点では、0.06m/sと、0.25m/sを大きく下回っており、座席に着座した観客が不快に感じる可能性が低いことがわかる。また、背面板47からの距離bが7cm未満の測定点では、流速が非常に高く、コアンダ効果により、背面板47に沿って気流が生じていることがわかる。
【0044】
<条件3−2>段差がない床面において、背面板47からの距離a=4.0cmの位置に本実施形態の吹出口を設け、吹出口体として、φ100mm、第5吹出開口19の吹出角度を鉛直方向から後方へ15°傾けたものを用いた場合
なお、第3空間7及び第4空間8内に設けられたルーバ20〜24は、水平方向に座席後方方向から45°、鉛直方向から座席後方方向へ30°傾斜させている。
【0045】
図10は、本条件における各測定点における流速を示す表である。同図に示すように、本条件では、背面板47からの距離bが10cm以上のそれ以外の測定点では流速が0.25m/s以下となっており、また、下肢背面にあたる位置の測定点では、0.13m/sと、0.25m/sを大きく下回っており、座席に着座した観客が不快に感じる可能性が低いことがわかる。また、背面板47からの距離bが7cm未満の測定点では、流速が非常に高く、コアンダ効果により、背面板47に沿って気流が生じていることがわかる。
【0046】
<条件4−1>段差(32cm)がある床面において、背面板47からの距離a=4.0cmの位置に本実施形態の吹出口を設け、吹出口体として、φ100mm、第5吹出開口19の吹出角度を鉛直方向から後方へ12.5°傾けたものを用いた場合
本条件では、さらに、座席背面から後方床蹴上Aまでの距離を1cm、2cm、3cmとした場合について、夫々、下肢背面にあたる位置の測定点における気流速度を測定した。
【0047】
図11は、座席背面から後方床蹴上Aまでの距離を1cm、2cm、3cmとした各場合における下肢背面にあたる位置の測定点における流速を示す表である。
同図に示すように、座席背面から後方床蹴上Aまでの距離が1cmの場合には、下肢背面にあたる位置の測定点における流速が0.22m/sと、0.25m/sに非常に近い値となっている。これに対して、2cm、3cmの場合には、0.11m/s、0.04m/sと0.25m/sを大きく下回っており、座席背面から後方床蹴上Aまでの距離を2cm以上とするのが好ましいことがわかる。
【0048】
<条件4−2>段差(32cm)がある床面において、座席背面から後方床蹴上Aまでの距離を2cmとし、後方床蹴上Aからの距離a=5.0cmの位置に、本実施形態の吹出口を設け、吹出口体としてφ100mm、第5吹出開口19の吹出角度を鉛直方向から後方へ12.5°傾けたものを用いた場合
なお、第3空間7及び第4空間8内に設けられたルーバ20〜24は、水平方向に座席後方方向から45°、鉛直方向から座席後方方向へ30°傾斜させている。
【0049】
図12は、本条件における各測定点における流速を示す表である。同図に示すように、本条件では、背面板47からの距離bが10cm以上の測定点では流速が0.25m/s以下となっており、また、下肢背面にあたる位置の測定点では、0.09m/sと、0.25m/sを大きく下回っており、座席に着座した観客が不快に感じる可能性が低いことがわかる。また、背面板47からの距離bが7cm未満の測定点では、条件2−1〜2,3−1〜2に比べて若干低くなっているものの、流速が速く、背面板47に沿って気流が生じていることがわかる。
【0050】
<条件4−3>段差(32cm)がある床面において、座席背面から後方床蹴上Aまでの距離を3cmとし、後方床蹴上Aからの距離a=5.0cmの位置に、本実施形態の吹出口を設け、吹出口体としてφ100mm、第5吹出開口19の吹出角度を鉛直方向から後方へ12.5°傾けたものを用いた場合
なお、第3空間7及び第4空間8内に設けられたルーバ20〜24は、水平方向に座席後方方向から45°、鉛直方向から座席後方方向へ30°傾斜させている。
【0051】
図13は、本条件における各測定点における流速を示す表である。同図に示すように、背面板47からの距離bが10cmにおける高さcが95cmの測定点における流速が0.27m/sと、0.25m/sを超えているが、それ以外の背面板47からの距離bが10cm以上のそれ以外の測定点では流速が0.25m/s以下となっており、また、下肢背面にあたる位置の測定点では、0.04m/sと、0.25m/sを大きく下回っており、座席に着座した観客が不快に感じる可能性が低いことがわかる。また、背面板47からの距離bが7cm未満の測定点では、条件2−1〜2,3−1〜2に比べて若干低くなっているものの、流速が速く、背面板47に沿って気流が生じていることがわかる。
【0052】
本実験により、従来の吹出口体では、座席に着座した観客の下肢近傍において、流速が0.25m/sを超える気流が生じるが、本実施形態の吹出口体を用いることで、観客の下肢近傍における気流を0.25m/s以下に抑えることができ、また、コアンダ効果により座席の背面板47に沿うような気流が生じることが確認された。さらに、床面が平面状であっても、床面に段差があっても、上記の効果が得られることが確認された。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、座席45の下方の床面に吹出口1を設け、この吹出口1から背面板47に向かって空調空気を吹出すこととしため、吹出された空調空気は、コアンダ効果により椅子背面上昇空気域50を背面板47に沿って上昇することとなる。これにより、座席45に着座した観客の下肢の近傍に気流が生じず、観客に不快感を与えることを防止できる。
【0054】
また、コアンダ効果により上方に向かう気流が生じ、この気流により空調空気が上昇するため、居住域高さ内の温度差を低減することができる。
また、このようにコアンダ効果により上方に向かう気流を生じさせるには、座席45の下方の床面に設けられた吹出口から背面板47の下端に向けて空調空気を吹出せばよいので、床上の吹出口の配置の自由度が高まり、設計・施工における制約が小さくなる。
【0055】
また、座席空調用床吹出口1の前方から吹出す空気を座席45の横方向に広範囲に広がるように吹出すこととしたため、椅子背面上昇空気域50の横方向の気流の速度のばらつきを抑えることができる。
また、本実施形態のように、吹出口の形状に制約がなく、円形にすることができるので、設計・施工コストを削減することができる。
【0056】
なお、本実施形態では、円形状の吹出孔に吹出口体を設けた場合について説明したが、これに限らず、矩形状など円形以外の形状の吹出孔にも本発明を適用することができ、このような場合には、吹出口体を吹出孔の形状に合わせて形成すればよい。
さらに、本実施形態では、第1空間5及び第2空間6内に設けられた第1ルーバ10〜第5ルーバ14の断面台形状及び取付角度を調整することにより、第1空間5及び第2空間6から鉛直方向又は座席の後方に向かって空調空気を吹き出すように構成し、また、第3空間7及び第4空間8内に設けられた第1ルーバ20〜第5ルーバ24の取付角度を調整することにより、第3空間7及び第4空間8から座席の後方に向かって、座席の横方向に広がるように空調空気を吹き出すように構成したが、これに限らず、ルーバ先端近傍の開口断面を異型にするなど、その形状を調整することにより、上記のように空調空気を吹き出すように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態の座席空調用床吹出口が設けられた空間を示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】吹出口体を示す図であり、(A)は平面図、(B)はB−B断面図、(C)はC−C断面図、(D)はD−D断面図である。
【図4】吹出口から吹出された空調空気の流れを示す図である。
【図5】実験の様子を示す図である。
【図6】条件1における各測定点の流速を示す表である。
【図7】条件2−1における各測定点の流速を示す表である。
【図8】条件2−2における各測定点の流速を示す表である。
【図9】条件3−1における各測定点の流速を示す表である。
【図10】条件3−2における各測定点の流速を示す表である。
【図11】条件4−1における下肢背面にあたる位置の測定点の流速を示す表である。
【図12】条件4−2における各測定点の流速を示す表である。
【図13】条件4−3における各測定点の流速を示す表である。
【符号の説明】
【0058】
1 座席空調用吹出口 2 吹出口体
3 外枠 3a 本体
3b フランジ 4 内枠
4a 縦枠 4b 横枠
5 第1空間 6 第2空間
7 第3空間 8 第4空間
10 第1ルーバ 11 第2ルーバ
12 第3ルーバ 13 第4ルーバ
14 第5ルーバ 15 第1吹出開口
16 第2吹出開口 17 第3吹出開口
17a、17b、17c 小吹出開口 18 第4吹出開口
19 第5吹出開口 20 第1ルーバ
21 第2ルーバ 22 第3ルーバ
23 第4ルーバ 24 第5ルーバ
25 第1開口 26 第2開口
27 第3開口 28 第4開口
29 第5開口 30 第6開口
31 第1のガイドベーン 32 第2のガイドベーン
40 床面 41 吹出孔
45 座席 46 脚部
47 背面板 48 座面
50 椅子背面上昇空気域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背もたれを有する座席が設置された空間の空調システムであって、
前記座席の下方の床面に吹出口が設けられ、
当該吹出口は、
前記座席の後方側の部分から、略鉛直上方又は後方へ斜め上方に向かって空調空気を吹き出すとともに、
前記座席の前方側の部分から、後方へ斜め上方に向かって、前記座席の横方向に広がるように空調空気を吹出すように形成されていることを特徴とする空調システム。
【請求項2】
請求項1記載の空調システムであって、
前記吹出口は、
前記座席の後方側の部分の少なくとも一部から、略鉛直上方又は後方へ斜め上方に向かって、前記座席の横方向に広がるように空調空気を吹出すように形成されていることを特徴とする空調システム。
【請求項3】
背もたれを有する座席が設置された空間の空調方法であって、
前記座席の下方の床面に吹出口を設け、
当該吹出口の前記座席の後方側の部分から、略鉛直上方又は後方へ斜め上方に向かって空調空気を吹き出すとともに、
当該吹出口の前記座席の前方側の部分から、後方へ斜め上方に向かって、前記座席の横方向に広がるように空調空気を吹出すことを特徴とする空調方法。
【請求項4】
背もたれを有する座席の下方の床面に設けられた空調空気の吹出口に取り付けられる吹出口部材であって、
筒状に形成された枠体と、
前記枠体内に前記座席の後方に向かって傾斜するように設けられた複数のルーバと、を備え、
前記複数のルーバの間を通過する前記空調空気が前記背もたれの下部近傍に向かって吹き出すように形成されていることを特徴とする吹出口部材。
【請求項5】
請求項4記載の吹出口部材であって、
前記吹出口は、前記背もたれの略下方の床面に設けられ、
前記枠体内は、前記座席の前方側の部分に形成された開口からなる前方吹出口と、前記座席の後方側の部分に形成された後方吹出口とに分割され、
前記複数のルーバは、
前記前方吹出口内に後方に向かって斜め上方に傾斜するように設置された前方ルーバと、
前記後方吹出口内に略鉛直方向又は後方に向かって斜め上方に傾斜するように設置された後方ルーバと、からなることを特徴とする吹出口部材。
【請求項6】
請求項5記載の吹出口部材であって、
前記前方の吹出口は、前記座席の横方向の略中心軸上に設けられた枠材により一対の吹出口に分割されており、
前記前方のルーバは、前記一対の吹出口内に、後方に向かって斜め上方に傾斜するとともに、前記中心軸より離間する方向に傾斜するように夫々設けられていることを特徴とする吹出口部材。
【請求項7】
請求項5又は6記載の吹出口部材であって、
前記後方のルーバの間に、前記座席の横方向の略中心軸上から離間する方向に向かって斜め上方に傾斜するガイドベーンを備えることを特徴とする吹出口部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−19526(P2010−19526A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182955(P2008−182955)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】