説明

空調システム制御装置

【課題】液だまり処理の有無を切り換えて、エンジンの吹けあがりを防止する空調システム制御装置を提供する。
【解決手段】空調システムのコンプレッサーにおける推定トルクが2[Nm]以上の履歴がない場合(ステップS11でNOの場合)にのみ、コンプレッサー内の冷媒の液化に対する液だまり処理を行う(ステップS13)。これにより、空調システム作動時、液だまりが発生している可能性がある場合には液だまり処理を行い、コンプレッサーが既に通常の処理を行っており、液だまり処理の必要がない場合には、初期作動処理を行う(ステップS14)ので、液だまり発生時のエンジンの吹けあがりを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムが有する加圧器内の冷媒が液化している場合に行う液だまり処理の切り換え制御を行う空調システム制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、市販されている一般的な車両には、空調システム(以下、エアコンともいう)が搭載されている。この空調システムは、暖房機能、冷房機能、除湿機能等を有しており、車室内の空気の温度や湿度等の調節を行っている。
【0003】
空調システムは、環状の冷媒循環路上に、貯蔵器(以下、レシーバータンクともいう)と、蒸発器(以下、エバポレーターともいう)と、加圧器(以下、コンプレッサーともいう)と、凝縮器(以下、コンデンサーともいう)と、を備え、冷媒の気化熱を利用して、車室内の冷房を行う。
【0004】
冷媒は、レシーバータンクに蓄えられ、このレシーバータンクに蓄えられた冷媒は、エバポレーターを構成する冷媒が通るパイプに導入されるようになっている。そして、エバポレーターのパイプの外部を通過する空気は、冷媒との間で熱交換が行われる。エバポレーターにより熱交換された空気は、冷やされ、冷風となって車室内へ取り込まれる。一方、熱交換によりエバポレーターを通過する空気から熱を奪った冷媒は、気化される。エバポレーターで気化された冷媒は、コンプレッサーにおいて液化されやすいように圧縮される。コンプレッサーで圧縮された冷媒は、コンデンサーにおいて外気によって冷却され、液体に戻されて、レシーバータンクに蓄えられる。空調システムは、上記のような循環を繰り返すことにより、車室内の冷房を行う。
また、上記冷媒の圧縮を行うコンプレッサーは、動力機関(例えば、エンジン)の出力を利用して作動される。
【0005】
ところが、このような空調システムを備えた車両においては、動力機関を停止させた状態で車両を長期間常温(例えば、25[℃])の屋外に放置(以下、ソークという)した場合、コンプレッサー内において気体であるはずの冷媒が冷却され、液化して貯留されてしまう、所謂、「液だまり」を起こす場合がある。
【0006】
このような「液だまり」が発生すると、空調システムのコンプレッサーに負荷がかからなくなる。そして、このコンプレッサーは動力機関の出力を利用して作動されるため、コンプレッサーを作動させるはずであったトルクが、動力機関への出力として使用され、動力機関、例えば、エンジンの吹けあがりを起こしてしまう。
これに対して、「液だまり」を事前に解消するようにした車両用エアコン制御装置(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0007】
上記特許文献1に記載された車両用エアコン制御装置は、車両の未使用時にコンプレッサー内で冷媒が液化していることを推定すると、コンプレッサーを作動させて、冷媒の液化を解消するようにしている。また、車両の未使用時における冷媒の液化推定には、ソーク時間、外気温、車室温、エンジン冷却水温等を用いている。
【特許文献1】特開2005−238951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものにおいては、車両の未使用時に「液だまり」の発生をソーク時間や外気温等により常時監視し、「液だまり」が推定される度に、コンプレッサーを作動させるため、無用なコンプレッサーの作動を行うとともに、大きなバッテリ容量が必要となる等の虞がある。すなわち、エンジンを停止した駐車中の車両において、タイマや温度センサ等を作動させ、「液だまり」の発生を監視し、「液だまり」が推定された場合には、コンプレッサーを作動させて、「液だまり」を解消させる。そして、その後も「液だまり」の発生の監視を継続し、「液だまり」が推定される度にコンプレッサーを作動させることとなる。これにより、エンジン停止時に何度もコンプレッサーを作動させることとなり、大きなバッテリ容量が必要となる。また、駐車中の車両において、コンプレッサーを自動的に作動させることも、望ましくない。
【0009】
一方、このような「液だまり」推定を行わないと、ECUは「液だまり」がないものとして空調システムのコンプレッサー用のトルクを与えてしまうが、「液だまり」が発生している場合、コンプレッサーに負荷がかからなくなり、コンプレッサーを作動させるはずであったトルクが、エンジンへの出力として使用され、エンジンの吹けあがりを起こしてしまうという問題があった。
【0010】
また、「液だまり」に対する処理(以下、液だまり処理という)として、エアコン始動時に、エンジンからコンプレッサーへの回転動力の伝達を遮断するものや、冷媒を電熱ヒーターで気化させるもの等がある。この回転動力の伝達を遮断するものは、コンプレッサーの惰性回転で液冷媒を排出し、エンジンはコンプレッサーから切り離されたエンジンのみの制御量で制御され、所定のトルクを保つことができる。冷媒を電熱ヒーターで気化させるものは、エアコン始動時の所定時間電熱ヒーターを稼働させ、液冷媒を気化させるものである。
【0011】
しかしながら、上記何れの場合も「液だまり」の有無にかかわらず液だまり処理を行ってしまうため、「液だまり」が発生していない場合に、空調システムの起動に時間がかかってしまう等の不都合が発生してしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、車両使用中に「液だまり」の発生を推測し、「液だまり」発生の推測に基づいて液だまり処理の有無を切り換えて、エンジンの吹けあがりを防止する空調システム制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る空調システム制御装置は、上記課題を解決するため、(1)動力機関を搭載した車両の空調システムを制御する空調システム制御装置において、前記空調システムの作動時に、前記動力機関の出力を利用して作動する加圧器に、予め設定された値以上の負荷がかかった履歴があるか否かを判定する負荷履歴判定手段と、前記負荷履歴判定手段により、前記加圧器に予め設定された値以上の負荷がかかった履歴があると判定された場合には、前記空調システムの初期作動処理を行う空調システム初期作動手段と、前記負荷履歴判定手段により、前記加圧器に予め設定された値以上の負荷がかかった履歴がないと判定された場合にのみ、前記加圧器内の冷媒の液化に対する液だまり処理を行う液だまり処理手段と、を備えたことを特徴とした構成を有している。
【0014】
この構成により、空調システムの加圧器に予め設定された値以上の負荷がかかった履歴がない場合にのみ、加圧器内の冷媒の液化に対する液だまり処理を行うので、空調システム作動時、加圧器が冷媒の圧縮をまだ行っておらず、液だまりが発生している可能性がある場合にのみ液だまり処理を行い、通常の冷媒の圧縮処理済みである場合には、加圧器が初期作動処理を行うことができ、動力機関の吹けあがりを防止することができる。
【0015】
また、本発明に係る空調システム制御装置は、上記(1)に記載の空調システム制御装置において、(2)前記加圧器にかかる負荷を推定し、前記推定した加圧器にかかる負荷が予め設定された値以上の負荷であるか否かを判定する推定負荷判定手段と、前記推定負荷判定手段により前記加圧器にかかる負荷が予め設定された値以上の負荷であると推定された場合に、前記推定された負荷を前記負荷履歴判定手段が判定に用いる履歴として記憶する負荷履歴記憶手段と、前記動力機関の始動要求発生時に、前記負荷履歴記憶手段に記憶された前記履歴を初期化する負荷履歴初期化手段と、を備えたことを特徴とした構成を有している。
【0016】
この構成により、動力機関の始動要求発生時に、加圧器にかかる負荷の推定値が記憶された履歴を初期化し、加圧器にかかる負荷が予め設定された値以上の負荷であると推定されたら、推定された負荷を履歴として記憶するので、液だまり処理を行う期間を、動力機関の始動から加圧器に最初に負荷がかかるまでの期間とし、液だまり処理を行う期間を適切に限定することができ、動力機関の吹けあがりを適切に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加圧器が冷媒の圧縮をまだ行っておらず、液だまりが発生している可能性がある場合にのみ液だまり処理を行い、動力機関の吹けあがりを防止する空調システム制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
まず、構成について説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る空調システム制御装置および空調システムを搭載した車両の概略ブロック構成図である。図2は、本発明の実施の形態に係る空調システムの主要な構成部品を示した車両の前部付近の斜視図である。
【0020】
図1に示すように、車両10は、原動機であるエンジン(動力機関)20と、エンジン20により作動される空調システム30と、車両10全体を制御するための車両用電子制御ユニット(以下、ECUという)100と、を備えている。
【0021】
エンジン20は、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置により構成されている。また、エンジン20は、後述する空調システム30のコンプレッサーに動力を伝達するためのクランクプーリ20aを有している。
【0022】
また、エンジン20には、エンジン20の運転状態を検出する回転角センサ23、水温センサ24および図示しない各種のセンサが設けられている。エンジン20に設けられた上記各センサが検出した検出信号は、ECU100に入力されるようになっている。エンジン20は、これらの信号により、ECU100によって燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御等の運転制御が行われるようになっている。
【0023】
空調システム30は、環状の冷媒循環路40上に、冷媒を貯留するレシーバータンク31と、冷媒を霧状に噴出させるエキスパンションバルブ32と、冷媒を気化させるエバポレーター(蒸発器)33と、気化された冷媒を圧縮するコンプレッサー(加圧器)34と、高温高圧の冷媒を冷却し液化させるコンデンサー35と、を備えている。また、空調システム30は、エバポレーター33に対向して設けられたブロアファン37と、コンデンサー35に対向して設けられた冷却電動ファン38と、を備えている。
【0024】
さらに、空調システム30は、圧縮された冷媒の圧力を検出する圧力センサ41と、冷媒の流量を検出する流量センサ42と、温度を測定する温度センサ43と、を備えている。なお、空調システム30は、冷媒として、例えば、オゾン層破壊係数ゼロのフロンHFC407Cを用いる。
【0025】
レシーバータンク31は、コンデンサー35で液化された冷媒を一時的に溜めておく容器である。後述するように、コンプレッサー34はエンジン20で作動させるため、コンプレッサー34の回転速度が変動するし、車室温度は外気温度の影響を大きく受け、変動する。したがって、冷媒循環路40内を循環する冷媒量が大きく変動するので、この冷媒量をレシーバータンク31によって調節するようになっている。
【0026】
また、レシーバータンク31は、完全に液化しなかった冷媒と、液化した冷媒と、を分離したり、乾燥剤を通すことによって冷媒中の水分を除去したり、フィルターによって異物の除去等も行うようになっている。さらに、レシーバータンク31は、サイトグラスと呼ばれる透明なのぞき窓を有し、外部から冷媒の残量を目視できるようになっている(エンジン20を作動させ、空調システム30を作動させた場合に、目視可能)。
【0027】
エキスパンションバルブ32は、高圧状態の液化した冷媒を小さな孔から噴出させるようになっている。これにより、高圧の冷媒を急激に断熱膨張させ、低温低圧の霧状の冷媒にし、気化(蒸発)しやすいようにしている。また、エキスパンションバルブ32は、噴出量を調節することにより、冷房能力を調節するようになっている。
【0028】
エバポレーター33は、ラジエーターのような構造を有しており、低温低圧の霧状冷媒が内部を通過するパイプが巡らされている。エバポレーター33は、上記パイプの表面に接する高温の空気と、パイプ内を通過する低温低圧の霧状冷媒と、によって熱交換を行わせるようになっている。この熱交換により、エバポレーター33のパイプ内の冷媒は、外部の空気の熱を奪って気化する。一方、エバポレーター33のパイプの外部を通過する空気は、冷媒に熱を奪われて冷やされるようになっている。
【0029】
コンプレッサー34は、気化された冷媒を圧縮するようになっている。気化された冷媒は、このコンプレッサー34により、高温高圧の気体へと圧縮され、液化されやすくなる。
【0030】
また、コンプレッサー34は、エンジン20から動力を入力するためのマグネットクラッチ34aを有している。マグネットクラッチ34aは、駆動ベルト22を介してエンジン20のクランクプーリ20aと接続されており、エンジン20から出力された動力が伝達されるようになっている。また、マグネットクラッチ34aは、ECU100に制御され、エンジン20から出力された動力を、コンプレッサー34に伝達するか否かを切り換えるようになっている。
【0031】
ここで、本実施の形態のコンプレッサー34は、斜板式コンプレッサーとする。斜板式コンプレッサーとは、簡略に説明すると、円筒状のハウジング内に複数のシリンダーが回転軸の周囲に配列され、各シリンダー内にピストンがそれぞれ収容されるとともに、上記回転軸に支持され回転する仕切り板が、回転軸に対して所定の角度で取り付けられたもの(以下、この仕切り板を斜板という)である。そして、斜板が回転させられることにより、各ピストンが回転軸方向に往復移動させられ、各シリンダー内の気体に対して、圧縮・吸入がなされるように構成されているものである。
【0032】
したがって、コンプレッサー34は、マグネットクラッチ34aを介して伝達されるエンジン20の回転数に加え、斜板の傾きによっても、仕事量が変化するようになっている。このコンプレッサー34の斜板の傾きは、容量切り換えバルブ34bによって制御されるようになっている。容量切り換えバルブ34bは、ECU100によって制御され、ECU100から入力する斜板制御電流値によって斜板と回転軸との角度を変更するようになっている。
【0033】
コンデンサー35は、ラジエーターのような構造を有しており、外部との表面積が大きく取られた冷却通路が内部に設けられ、冷媒が通過するようになっている。コンデンサー35では、入力された高温高圧の気体状の冷媒を、冷却通路を通過中に外気によって冷却させ、液化させるようになっている。
【0034】
ブロアファン37は、エバポレーター33に対向して配置され、車室内等の高温の空気をエバポレーター33に送り、エバポレーター33における冷媒の気化を促進させ、エバポレーター33によって熱を奪われ冷たくなった空気を車室内に送り出すようになっている。また、ブロアファン37は、ECU100によって制御され、作動の有無や送風量を切り換えるようになっている。
【0035】
冷却電動ファン38は、コンデンサー35に対向して配置され、車外の空気を導き、コンデンサー35に送り出すようになっている。この冷却電動ファン38によって、車外から導入される空気が積極的に取り入れられ、コンデンサー35内を通過する冷媒を冷却させるようになっている。また、冷却電動ファン38は、ECU100によって制御され、作動の有無や送風量を切り換えるようになっている。
【0036】
圧力センサ41は、レシーバータンク31とエキスパンションバルブ32との間で、エキスパンションバルブ32の直前に設けられ、エキスパンションバルブ32よりも上流の圧力を検出し、冷媒循環路40内のコンプレッサー34に圧縮された冷媒の圧力を算出するようになっている。また、圧力センサ41は、ECU100に接続され、検出した冷媒の圧力検出信号を出力するようになっている。
【0037】
流量センサ42は、コンプレッサー34に一体となって設けられ、コンプレッサー34に圧縮された冷媒の流量を検出するようになっている。また、流量センサ42は、ECU100に接続され、コンプレッサー34に圧縮された冷媒の流量検出信号を出力するようになっている。
【0038】
温度センサ43は、エバポレーター33をはさんでブロアファン37の反対側に設けられている。したがって、温度センサ43は、車室内に設けられる。温度センサ43は、エバポレーター33に冷却された空気の温度(以下、エバ後温度という)を検出するようになっている。また、温度センサ43は、ECU100に接続され、検出されたエバ後温検出信号を出力するようになっている。
【0039】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)100a、ROM(Read Only Memory)100b、RAM(Random Access Memory)100cおよび図示しない入出力インターフェースを有している。
【0040】
また、ECU100は、図示しないイグニッションスイッチ、空調スイッチ等と接続されている。イグニッションスイッチは、エンジン20の作動開始を指示するエンジン始動信号およびエンジン20の作動停止を指示するエンジン停止信号の出力を切り換えるようになっている。以下では、エンジン始動信号およびエンジン停止信号の双方を含めて、イグニッション(IG)信号とする。
【0041】
空調スイッチは、空調システム30の作動開始を指示する空調開始信号および空調システム30の作動停止を指示する空調停止信号の出力を切り換えるようになっている。また、空調スイッチには、送風の強度を選択する送風強度信号の出力も切り換えるようになっている。以下では、空調開始信号、空調停止信号および送風強度信号を含めて、空調作動信号とする。
【0042】
ECU100は、上記スイッチから、イグニッション(IG)信号および空調作動信号がそれぞれ入力されるようになっている。
また、ECU100は、前述したように、空調システムの圧力センサ41および流量センサ42と接続され、コンプレッサー34による冷媒圧縮後の冷媒圧力検出信号および冷媒流量検出信号が入力されるようになっている。
【0043】
また、ECU100は、空調システムのコンプレッサー34と接続され、電流値によってコンプレッサー34の斜板の傾きを制御する斜板制御電流を出力するようになっている。
さらに、ECU100は、温度センサ43と接続され、エバポレーター33に冷却された空気の温度を示すエバ後温検出信号が入力されるようになっている。
【0044】
ECU100は、上記入力された信号により、車両10のエンジン20の作動開始、空調システム30の作動開始、空調システム30のエバポレーター33によって冷却された空気の温度、空調システム30のコンプレッサー34に圧縮された冷媒の圧力等を検出するようになっている。
【0045】
また、ECU100のROM100bには、圧縮された冷媒の圧力と、エバ後温度と、によって空調システム30のコンプレッサー34にかかる負荷上昇を判定する高負荷判定マップが記憶されている。また、ECU100のROM100bには、車両10の諸元値、車速およびスロットル開度に基づいて変速線図を表すマップ、変速制御を実行するためのプログラム、空調システム制御処理のプログラム等が記憶されている。
【0046】
さらに、ECU100は、空調システム30が作動時には、コンプレッサー34にかかるトルクを推定し、ECU100のRAM100cに、所定時間ごとに履歴(トルクログ)を記憶させるようになっている。
【0047】
また、前述のように、エンジン20のクランクプーリ20aは、駆動ベルト22を介して、コンプレッサー34のマグネットクラッチ34aと接続されている。よって、ECU100は、エンジン20が必要とするトルクに、コンプレッサー34で使用されるトルクも含めて、エンジン20の運転制御を行うようになっている。
【0048】
以下、本発明の実施の形態に係る空調システム制御装置を搭載した車両10の特徴的な構成について説明する。
【0049】
ECU100は、空調システム30の作動時に、エンジン20の出力を利用して作動するコンプレッサー34に、予め設定された値以上の負荷がかかった履歴があるか否かを判定するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における負荷履歴判定手段を構成している。
【0050】
また、ECU100は、コンプレッサー34に予め設定された値以上の負荷がかかった履歴があると判定した場合には、空調システム30の初期作動処理を行うようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における空調システム初期作動手段を構成している。また、初期作動処理については、詳述しないが、従来の空調システムにおいて行われる初期動作の作動を行うものである。
【0051】
また、ECU100は、コンプレッサー34に予め設定された値以上の負荷がかかった履歴がないと判定した場合にのみ、コンプレッサー34内の冷媒の液化に対する液だまり処理を行うようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における液だまり処理手段を構成している。
【0052】
また、ECU100は、コンプレッサー34にかかる負荷を推定し、推定したコンプレッサー34にかかる負荷が予め設定された値以上の負荷であるか否かを判定するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における推定負荷判定手段を構成している。
【0053】
また、ECU100は、コンプレッサー34にかかる負荷が予め設定された値以上の負荷であると推定された場合に、推定された負荷を判定に用いる履歴として記憶するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における負荷履歴記憶手段を構成している。
【0054】
また、ECU100は、エンジン20の始動要求発生時に、記憶された履歴を初期化するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における負荷履歴初期化手段を構成している。なお、上記履歴の初期化タイミングは、エンジン20の始動要求発生時の他に、運転者による指示時等、他の任意のタイミングで初期化するようにしてもよい。
【0055】
なお、本実施の形態において、エンジン20は、本発明における動力機関を構成している。また、本実施の形態において、コンプレッサー34は、本発明における加圧器を構成している。
【0056】
次に、動作について説明する。
図3は、本発明の実施の形態に係る空調システム制御処理を示すフローチャートである。
【0057】
なお、図3に示すフローチャートは、ECU100のCPU100aによって実行される空調システム制御処理のプログラムであり、この空調システム制御処理のプログラムはROM100bに記憶されている。また、この空調システム制御処理は、ECU100のCPU100aによって、空調スイッチから空調作動信号の入力を検出する、すなわち、空調システム30の作動開始を検出することにより、実行されるようになっている。
【0058】
図3に示すように、まず、ECU100のCPU100aは、推定トルクが2[Nm]以上の履歴があるか否かを判定する(ステップS11)。具体的には、ECU100のRAM100cに記憶されているコンプレッサー34にかかった推定トルクの履歴(トルクログ)を検索し、2[Nm]以上の履歴があるか否かを判定する。
【0059】
ここでは、空調システム30が作動され、コンプレッサー34にトルクが2[Nm]以上かかっていれば、前回までの空調システム30の作動でコンプレッサー34における「液だまり」が解消されているものとみなす。そして、エンジン20の始動後に、コンプレッサー34にかかった推定トルクの履歴を調べることにより、コンプレッサー34における「液だまり」が発生している可能性の有無を判定するようにしている。
【0060】
コンプレッサー34にかかったトルクの推定方法は、ECU100に入力される冷媒圧力検出信号、冷媒流量検出信号、エバ後温度検出信号、および、コンプレッサー34に出力した斜板制御電流値により、推定するようにしている。例えば、上記信号により求められる冷媒圧力値、冷媒流量値、エバ後温度、圧縮率によりトルクを推定するマップを用意しておき、このマップによりトルクを推定するようにする。
【0061】
推定トルクが2[Nm]以上の履歴がある場合(ステップS11でYES)には、コンプレッサー34における「液だまり」はないものと判断し、通常のON過渡制御処理を行って(ステップS14)、空調システム制御処理を終了する。
ここで、通常のON過渡制御処理とは、空調システム30における従来と同様の初期作動処理であり、例えば、冷媒が徐々に圧縮されるように、コンプレッサー34のトルクが上がるように、エンジン20の制御を行う。
【0062】
一方、推定トルクが2[Nm]以上の履歴がない場合(ステップS11でNO)には、コンプレッサー34において「液だまり」が発生しているものと判断し、液だまり時のON過渡制御処理を行って(ステップS13)、空調システム制御処理を終了する。ここで、ECU100は、液だまり時のON過渡制御処理として、例えば、コンプレッサー34が使用するトルクが一定となるように制御し、コンプレッサー34に対して液化している冷媒の出力動作を行わせる。
【0063】
ところで、「液だまり」が発生しているにもかかわらず、「液だまり」がないものとした場合、ECU100は、コンプレッサー34が冷媒を圧縮するためのトルクを、エンジン20が必要とするトルクに含めてエンジン20の運転制御を行う。しかしながら、「液だまり」が発生していると、コンプレッサー34にトルクがかからなくなり、コンプレッサー34で使用されるはずだったトルクが、エンジン20のトルクとして使用され、エンジン20が吹けあがってしまう。
【0064】
一方、本空調システム制御処理では、「液だまり」発生の可能性を確実に判断している。そして、「液だまり」発生時には、液だまり処理を行う。液だまり処理では、「液だまり」が発生していることを認識しているため、ECU100は、コンプレッサー34に与えるトルクを正確に制御することができ、エンジン20に無用なトルク変動を与えてしまうことがない。したがって、「液だまり」発生時には、確実に液だまり処理を行うことができ、エンジントルクの増加による吹けあがりを防止することができる。
【0065】
次に、コンプレッサー34にかかった推定トルクの履歴(トルクログ)の書き込みおよび初期化を行う空調制御準備処理について説明する。
図4は、本発明の実施の形態に係る空調制御準備処理を示すフローチャートである。
【0066】
なお、図4に示すフローチャートは、ECU100のCPU100aによって実行される空調制御準備処理のプログラムであり、この空調制御準備処理のプログラムはROM100bに記憶されている。また、この空調制御準備処理は、ECU100のCPU100aによって、所定の時間間隔で実行されるようになっている。
なお、この空調制御準備処理は、イグニッション信号の入力前、ACC(アクセサリー電源)が入力された段階から、所定の時間間隔で実行されるようになっている。
【0067】
図4に示すように、まず、ECU100のCPU100aは、イグニッション信号が前回の処理で"オフ"であり、今回の処理では"オン"となったか否かを判定する(ステップS21)。具体的には、イグニッションスイッチからエンジン始動信号が入力されたタイミングであるか否か、すなわち、エンジンの始動要求発生時であるか否かを判定する。
【0068】
ECU100のCPU100aは、イグニッション信号が前回の処理で"オフ"であり、今回の処理では"オン"ではない場合(ステップS21でNO)には、コンプレッサー34の推定トルクが2[Nm]以上であるか否か判定し(ステップS22)、コンプレッサー34の推定トルクが2[Nm]以上でない場合には、本空調制御準備処理を終了する。
ここで、コンプレッサー34にかかったトルクの推定方法は、ECU100に入力される冷媒圧力検出信号、冷媒流量検出信号、エバ後温度検出信号、および、コンプレッサー34に出力した斜板制御電流値により、推定するようにしている。
【0069】
コンプレッサー34の推定トルクが2[Nm]以上である場合(ステップS22でYES)には、2[Nm]以上であるコンプレッサー34の推定トルクを、履歴に記憶して(ステップS23)、本空調制御準備処理を終了する。具体的には、推定したコンプレッサー34のトルクを、ECU100のRAM100cに推定トルクの履歴(トルクログ)として記憶する。
【0070】
一方、ECU100のCPU100aは、イグニッション信号が前回の処理で"オフ"であり、今回の処理では"オン"であった場合(ステップS21でYES)には、推定トルクの履歴(トルクログ)を初期化して(ステップS24)、本空調制御準備処理を終了する。具体的には、ECU100のRAM100cに記憶しているコンプレッサー34の推定トルクの履歴(トルクログ)を、全て削除する。
【0071】
図5に、空調システム始動時のエンジン回転数の変動を表すグラフを示す。
なお、図5において、Psは、検証のためコンプレッサー34に入力される冷媒の圧力を測定した圧力値を示すものであり、Pdは、コンプレッサー34から出力される冷媒の圧力値を示すものである。また、Psの下の冷媒圧は、コンデンサー35における冷媒の圧力値を示すものである。
図5に示すように、空調システム30の起動(図中0.9秒にエアコンSWがオン)の直後に、推定トルクの履歴から、「液だまり」の判定を行う(図中1.1秒で液だまり判定)。
【0072】
以上のように、本実施の形態に係る空調システム制御装置は、空調システム30のコンプレッサー34における推定トルクが2[Nm]以上の履歴がない場合(ステップS11でNOの場合)にのみ、コンプレッサー34内の冷媒の液化に対する液だまり処理を行う(ステップS13)。これにより、空調システム作動時、「液だまり」が発生している可能性がある場合にのみ液だまり処理を行い、コンプレッサー34が既に通常の処理を行っており、液だまり処理の必要がない場合には、初期作動処理を行う(ステップS14)ので、エンジン20の吹けあがりを防止することができる。一方、液だまり処理を行わない場合には、空調システムの起動を迅速に行うことができる。
【0073】
また、本実施の形態に係る空調システム制御装置は、イグニッションスイッチが"オフ"から"オン"になったとき(エンジン20の始動要求発生時;ステップS21でYESの場合)に、コンプレッサー34にかかる推定トルクの履歴(トルクログ)を初期化し(ステップS24)、コンプレッサー34にかかる推定トルクが2[Nm]以上である場合(ステップS22でYES)、推定トルクを履歴として記憶する(ステップS23)ので、液だまり処理を行う期間を、エンジン20の始動からコンプレッサー34に最初に所定のトルクがかかるまでの期間とし、液だまり処理を行う期間を適切に限定することができ、エンジン20の吹けあがりを適切に防止することができる。
【0074】
以上説明したように、本発明に係る空調システム制御装置は、加圧器が冷媒の圧縮をまだ行っておらず、液だまりが発生している可能性がある場合にのみ液だまり処理を行い、動力機関の吹けあがりを防止することができるという効果を有し、空調システムが有する加圧器内の冷媒が液化している場合に行う液だまり処理の切り換え制御を行う空調システム制御装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態に係る空調システム制御装置および空調システムを搭載した車両の概略ブロック構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る空調システムの主要な構成部品を示した車両の前部付近の斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る空調システム制御処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係る空調制御準備処理を示すフローチャートである。
【図5】空調システム始動時のエンジン回転数の変動を表すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
10 車両
20 エンジン(動力機関)
20a クランクプーリ
22 駆動ベルト
23 回転角センサ
24 水温センサ
30 空調システム
31 レシーバータンク
32 エキスパンションバルブ
33 エバポレーター(蒸発器)
34 コンプレッサー(加圧器)
34a マグネットクラッチ
34b 容量切り換えバルブ
35 コンデンサー
37 ブロアファン
38 冷却電動ファン
40 冷媒循環路
41 圧力センサ
42 流量センサ
43 温度センサ
100 ECU(負荷履歴判定手段、空調システム初期作動手段、液だまり処理手段、推定負荷判定手段、負荷履歴記憶手段、負荷履歴初期化手段)
100a CPU
100b ROM
100c RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力機関を搭載した車両の空調システムを制御する空調システム制御装置において、
前記空調システムの作動時に、前記動力機関の出力を利用して作動する加圧器に、予め設定された値以上の負荷がかかった履歴があるか否かを判定する負荷履歴判定手段と、
前記負荷履歴判定手段により、前記加圧器に予め設定された値以上の負荷がかかった履歴があると判定された場合には、前記空調システムの初期作動処理を行う空調システム初期作動手段と、
前記負荷履歴判定手段により、前記加圧器に予め設定された値以上の負荷がかかった履歴がないと判定された場合にのみ、前記加圧器内の冷媒の液化に対する液だまり処理を行う液だまり処理手段と、を備えたことを特徴とする空調システム制御装置。
【請求項2】
前記加圧器にかかる負荷を推定し、前記推定した加圧器にかかる負荷が予め設定された値以上の負荷であるか否かを判定する推定負荷判定手段と、
前記推定負荷判定手段により前記加圧器にかかる負荷が予め設定された値以上の負荷であると推定された場合に、前記推定された負荷を前記負荷履歴判定手段が判定に用いる履歴として記憶する負荷履歴記憶手段と、
前記動力機関の始動要求発生時に、前記負荷履歴記憶手段に記憶された前記履歴を初期化する負荷履歴初期化手段と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の空調システム制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−292178(P2009−292178A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144807(P2008−144807)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】