説明

空間光変調器、光学装置、及び露光装置

【課題】エレクトロウェッティングを用いて、高い解像度が得られるとともに、各画素を通過する光の位相を制御可能な空間光変調器を提供する。
【解決手段】配列面に入射する照明光ILを変調する空間光変調器28は、配列面を横切るZ方向に沿った隔壁部33aを有するセル部34と、セル部34内にZ方向に沿って配置された下部電極60A,60B及び上部電極64A,64Bと、セル部34内の電極60A,60B及び64A,64B間に保持された液体Lqと、を備え、電極60A,60B及び64A,64Bに与えられる電圧によって、セル部34内の液体LqのZ方向の位置を制御して、セル部34内で反射される照明光ILの位相を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射する光を変調する空間光変調器、この空間光変調器を備える光学装置及び露光装置、並びにその露光装置を用いるデバイス製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体素子又は液晶表示素子等のデバイス(電子デバイス又はマイクロデバイス)を製造するためのリソグラフィ工程中で、所定のパターンを投影光学系を介してウエハ又はガラスプレート等の基板に形成するために一括露光型又は走査露光型の露光装置等が使用されている。これらの露光装置としては、複数種類のデバイス毎に、さらに基板の複数のレイヤ毎にそれぞれマスクを用意することによる製造コストの増大を抑制し、各デバイスを効率的に製造するために、マスクの代わりに、それぞれヒンジ機構によって傾斜角又は高さが可変の多数の微小ミラーのアレイを有する空間光変調器(spatial light modulators)を用いて、投影光学系の物体面に反射型の可変の明暗パターン又は位相パターンを生成するいわゆるマスクレス方式の露光装置が知られている。このようにヒンジ機構を用いて微小ミラーの傾斜角を調整する方式では、微小ミラーの駆動機構が複雑であり、さらに透過型の変調器の実現が困難である。
【0003】
そこで、マスクレス露光用に使用可能な空間光変調器として、いわゆるエレクトロウェッティング(Electrowetting:電気毛管現象)を利用して、各画素(光学要素)の光路上に透明な液体又は不透明な液体を移動することによって、各画素を明状態又は暗状態に設定可能な変調器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。エレクトロウェッティングとは表面の濡れ性を電気的に制御する技術で、微小液滴の搬送や、着色した油を用いたディスプレイへの応用などが研究されている(例えば、非特許文献1参照)。エレクトロウェッティングの原理はマクスウェル応力(静電力)に基づくと考えられている。すなわち、ある誘電媒質(誘電率ε)に電場(E)をかけると、誘電媒質には電場と平行かつ誘電媒質を縮める方向にεE/2の応力が働くというものである。表面の濡れ性が変わるメカニズムを、空気中に置かれた水滴の接触角変化の例で考える。水滴とその下に絶縁膜を挟んで置いた電極間に電位を加えると、水滴の周りの空気には電場が形成され、誘電媒質である空気を縮める向きにマクスウェル応力(静電力)が働く。それによって水滴の表面には水滴の垂直外向きに応力が働き、空気側に引っ張られる。この応力は水滴の場所によって異なり、絶縁膜に近いほど電場が強いため、より強く引っ張られる。したがって、水滴の中でも絶縁膜に近いほど、水滴表面の移動量が大きくなり、見た目上は水滴の接触角が減少するように見える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−515802号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Frieder Mugele and Jean-Christophe Baret, “Electrowetting: from basics to applications,” Journal of Physics: Condensed Matter, 17(2005)R705-R774(英国)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエレクトロウェッティングを利用した空間光変調器は、各画素が電極のみで区分されているため、例えば一列の複数の画素を交互に明状態及び暗状態に正確に設定するのが困難であり、解像度を高めるのが困難であった。さらに、従来のエレクトロウェッティングを利用した空間光変調器は、各画素を通過する光の位相を制御することが困難であった。
【0007】
本発明の態様は、このような事情に鑑み、エレクトロウェッティングを用いて、高い解像度が得られるとともに、各画素(光学要素)を通過する光の位相を制御可能な空間光変調器及びこの空間光変調器を使用する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、配列面に入射する光を変調する空間光変調器が供給される。この空間光変調器は、その配列面を横切る第1方向に沿った隔壁部を有するセル部と、そのセル部内にその第1方向に沿って配置された第1電極及び第2電極と、そのセル部内のその第1電極とその第2電極との間に保持された液体と、を備え、その第1及び第2電極に与えられる電圧によって、そのセル部内のその液体のその第1方向の位置を制御して、そのセル部内で反射される光の位相を制御するものである。
【0009】
また、第2の態様によれば、本発明の空間光変調器と、その空間光変調器のそのセル部に照明光を照射する第1光学系と、そのセル部からの光を対象物に導く第2光学系と、を備える光学装置が提供される。
また、第3の態様によれば、露光光で基板を露光する第1の露光装置が提供される。この露光装置は、本発明の空間光変調器と、その空間光変調器の複数のセル部のアレイにその露光光を照射する照明光学系と、その複数のセル部からの反射光をその基板に導いてその基板にパターンを投影する投影光学系と、その基板に露光されるパターンを制御するために、その空間光変調器の複数のセル部からの反射光の位相パターンを制御する露光制御装置と、を備えるものである。
【0010】
また、第4の態様によれば、露光光でマスクを介して基板を露光する第2の露光装置が提供される。この露光装置は、本発明の空間光変調器を有し、その露光光でその空間光変調器を介してそのマスクを照明する照明光学系と、そのマスクを照明するその露光光の入射角の分布を制御するために、その空間光変調器の複数のセル部からの反射光の位相パターンを制御する照明制御装置と、を備えるものである。
【0011】
また、第5の態様によれば、本発明の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、そのパターンが形成されたその基板を処理することと、を含むデバイス製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様の空間光変調器によれば、その第1及び第2電極に与えられる電圧によって、エレクトロウェッティングの作用によって、そのセル部内の液体の第1方向の位置が制御され、そのセル部内で反射される光(セル部を含む画素(光学要素)を通過する光)の位相が制御される。また、画素は隔壁部で仕切られているため、画素間の静電力の影響及び画素間の液体の流れが抑制されて、高い解像度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は第1の実施形態に係る空間光変調器の概略構成を示す図、(B)はその空間光変調器の本体部の一部を示す拡大斜視図である。
【図2】図1(A)の空間光変調器の一つの画素及び制御系を示す図である。
【図3】(A)は図1(A)の空間光変調器の2つの画素をX方向に見た拡大断面図、(B)は2つの画素をY方向に見た拡大断面図である。
【図4】(A)は製造中の空間光変調器の本体部を示す拡大断面図、(B)はその本体部のセル部に液体を注入した状態を示す拡大断面図である。
【図5】第1変形例の空間光変調器の一つの画素を示す拡大斜視図である。
【図6】(A)は第1変形例の第1の状態の画素を示す拡大断面図、(B)は第1変形例の第2の状態の画素を示す拡大断面図である。
【図7】(A)は第2変形例の空間光変調器の一つの画素を示す拡大斜視図、(B)は第3変形例の空間光変調器の一つの画素を示す拡大斜視図である。
【図8】第2の実施形態に係る露光装置の概略構成を示す図である。
【図9】第2の実施形態の変形例の概略構成を示す図である。
【図10】電子デバイスの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態につき図1(A)〜図4(B)を参照して説明する。図1(A)は、本実施形態に係る空間光変調器(spatial light modulator: SLM )28の概略構成を示し、図1(B)は空間光変調器28の本体部30の一部を拡大して示す。本実施形態の空間光変調器28は、2次元のアレイ状に配列された複数の光学要素としての画素32を有する本体部30と、その複数の画素32に入射して反射される照明光ILの位相を個別に制御する変調制御部48と、を有し、エレクトロウェッティング(Electrowetting:電気毛管現象)を用いて各画素32に入射する光を変調する。照明光ILは、例えば波長193nmのArFエキシマレーザ光、波長248nmのKrFエキシマレーザ光、又は固体レーザ(半導体レーザ等)から出力されるレーザ光の高調波等である。照明光ILは、一例として数kHz又は1〜2MHz程度の周波数でパルス発光される光である。以下では、複数の画素32の直交する第1及び第2の配列方向に沿ってX軸及びY軸を取り、X軸及びY軸に直交する方向にZ軸を取って説明する。
【0015】
図1(A)において、空間光変調器28の本体部30は、上面が開いた矩形の箱状の絶縁体からなるベース部材31と、X方向及びY方向に2次元の格子状に配列されるように複数の正方形の開口が形成された絶縁体よりなる隔壁部材33と、ベース部材31内に隔壁部材33を支持する複数の連結部33Sと、ベース部材31の上面を覆うとともに照明光ILが通過する(入射及び射出する)平板状のカバーガラス35(図1(B)参照)と、を有する。本実施形態では、カバーガラス35のXY面に平行な底面(以下、配列面DPと呼ぶ。)に沿って複数の画素32が配列されている。
【0016】
隔壁部材33は、X方向、Y方向に密着して等しいピッチ(周期)px,py(px=py)で配列された正方形の筒状の隔壁部33aの集合である。隔壁部33aは、配列面DPに垂直なZ方向に沿った内面、すなわちXZ面に平行な2つの面及びYZ面に平行な2つの面で囲まれた断面形状が正方形の内面を有する。隔壁部33aからセル部34が構成され、セル部34及びセル部34内に保持されて照明光ILを透過する液体Lq(図1(B)参照)を含んで画素32が構成されている。従って、複数の画素32のX方向、Y方向の配列ピッチはセル部34の配列ピッチpxと等しい。
【0017】
画素32の配列ピッチpxは、例えば10〜1μm程度であり、一例として、画素32のX方向の配列数は数1000〜数万、Y方向の配列数はX方向の配列数の1/10程度である。図1(A)では、各画素32は、拡大して表されている。なお、画素32のX方向、Y方向の配列数は任意であり、隔壁部33aの断面形状(画素32の形状)は長方形でもよく、画素32のX方向、Y方向の配列ピッチpx,pyは互いに異なっていてもよい。
【0018】
ベース部材31は、例えばフルオロポリマー(フッ素重合体)よりなる絶縁体、シリコン基板の表面に酸化ケイ素(SiO2)若しくは窒化ケイ素(例えばSi34)等の絶縁層を形成した材料、又はセラミックス等から形成可能である。隔壁部材33は、例えば酸化ケイ素若しくは窒化ケイ素、又はセラミックス等から形成可能である。カバーガラス35は、例えば石英又は蛍石(CaF2)のような照明光ILを透過する材料から形成されている。
【0019】
本実施形態では、各画素32は入射する照明光ILを液体Lqを介して反射するXY面に平行な反射面を有する反射部材37を備えている。そして、エレクトロウェッティングを用いることによって、各画素32は、図1(B)に示す位置A1の画素32のように、垂直に(Z方向に)入射する照明光IL1の位相を第1の所定の位相δだけ変化させて反射する第1の状態と、位置A2の画素32のように、入射する照明光IL2の位相をその位相δと180°(π(rad))だけ異なる位相だけ変化させて反射する第2の状態とを含む複数の状態に設定可能である。その第1の状態の画素32を画素32(0)とも呼び、その第2の状態の画素32を画素32(π)とも呼ぶ。
【0020】
次に、図2は、図1(A)の空間光変調器28の本体部30中の一つの画素32を代表的に拡大して示す。図2には、空間光変調器28の変調制御部48のブロック図も示されている。図2において、画素32は、2点鎖線で示されるセル部34(隔壁部33a)と、セル部34のカバーガラス35と反対側(本実施形態では+Z方向側)の±Y方向の内面に設けられた1対の金属膜よりなる下部電極60A,60Bと、下部電極60A,60Bの表面に設けられた絶縁体の薄膜(以下、絶縁膜という。)62A,62Bと、絶縁膜62A,62B間にX方向に等間隔に配置された複数の細い円柱状又は角柱状のワイヤー38aよりなる第1のワイヤー電極38と、を有する。さらに、画素32は、セル部34のカバーガラス35側(−Z方向側)の端部の±Y方向の内面に設けられた1対の金属膜よりなる上部電極64A,64Bと、上部電極64A,64Bの表面に設けられた絶縁膜62C,62Dと、絶縁膜62C,62D間にX方向に等間隔に配置された複数の例えばワイヤー38aとほぼ同じ形状のワイヤー39aよりなる第2のワイヤー電極39と、を有する。
【0021】
また、画素32は、セル部34内の第1及び第2のワイヤー電極38,39間に配置されたX方向の幅がセル部34の内面のX方向の幅よりも狭いY方向に細長い金属の平板よりなる電極を兼用する反射部材37と、セル部34内のワイヤー電極38,39間の反射部材37を含む空間内に、ワイヤー電極38,39の撥液性(液体Lqの表面張力)によって漏れ出ないように保持された液体Lqと、を有する。特に照明光ILが通過する領域に配置された上方(ここでは−Z方向)のワイヤー39aの直径(ワイヤーが角柱状であるときには断面の最大長さ)は、照明光ILの利用効率を高めるために、撥液性又は表面張力によって液体Lqが漏れ出ない範囲でできるだけ細いことが好ましい。一方、照明光ILが通過しない領域にある下方のワイヤー38aの直径はワイヤー39aの直径より大きくしてもよい。電極60A,60B及び64A,64Bはそれぞれ配線によって接続されている。反射部材37の表面は照明光ILに対する反射面として作用する。
【0022】
絶縁膜62A〜62Dの材料としては、例えばフッ素添加の酸化ケイ素(SiOF)、炭素添加の酸化ケイ素(SiOC)、又はセラミックス等の誘電体の材料が使用可能である。電極60A,60B,64A,64B及び反射部材37の材料としては、金属の他にポリシリコン等も使用できる。反射部材37がポリシリコンである場合、その表面には誘電体多層膜等の反射膜を形成してもよい。ワイヤー電極38,39の材料としては、例えばカーボンナノチューブのように、微細加工が容易で、導電性が高く、かつ高い撥液性を持つ材料を使用することが好ましい。また、ワイヤー電極38,39は、金属線を絶縁膜でコーティングして形成してもよい。本実施形態において、セル部34内面のX方向及びY方向の幅を等しくa1とすると、電極60A〜64B及び絶縁膜62A〜62DのX方向の長さはほぼa1に等しく、反射部材37のY方向の長さはa1に等しい。
【0023】
一例として、幅a1を1μm(1000nm)とすると、ワイヤー電極38,39のY方向の長さa2はほぼ900nm、ワイヤー38a,39aの直径はほぼ20nmである。ただし、下方のワイヤー38aの直径はそれより大きくしてもよい。このとき、電極60A〜64B及び絶縁膜62A〜62Dの厚さ(Y方向の高さ)及びZ方向の幅はそれぞれほぼ25nm及び100nmである。また、反射部材37のX方向の幅a3はほぼ400nm、反射部材37の厚さはほぼ50nmであり、ワイヤー電極38の上端とワイヤー電極39の下端とのZ方向の間隔a5はほぼ410nmである。また、セル部34内での液体Lqの深さ(Z方向の高さ)をa4として、図2に示すように、液体Lqがワイヤー電極38の上端に保持されている状態で、液体Lqの上面とワイヤー電極39の下端とのZ方向の間隔をdとすると、以下のように、深さa4と間隔dとの和は間隔a5になる。
【0024】
a5=a4+d …(1)
また、間隔dは照明光ILの波長に応じて設定され(詳細後述)、深さa4は式(1)及び間隔dに基づいて設定される。一例として、深さa4は300nm程度に設定される。さらに、間隔dは深さa4より小さいとともに、反射部材37の反射面とワイヤー電極38の上端との間隔は、深さa4よりも小さく設定される。従って、セル部34内のワイヤー電極38,39間で液体Lqが移動しても、反射部材37は常に液体Lq中に配置されている。
【0025】
本実施形態では、空間光変調器28の通常の使用時には、一例として反射部材37は接地される。ここでは、接地された電位(接地レベル)を0Vとする。また、下方のワイヤー電極38は、反射部材37の電位と下部電極60A,60Bの電位との間で、下部電極60A,60Bの電位に近い電位となり、上方のワイヤー電極39は、反射部材37の電位と上部電極64A,64Bの電位との間で、上部電極64A,64Bの電位に近い電位となる。本実施形態では、画素32を上記の第1の状態に設定するときには、上部電極64A,64Bの電位を0V(接地レベル)に設定し、下部電極60A,60Bに正の電圧(+V1)を印加する。液体Lqが純水の場合で、電圧V1は例えば150V程度である。このとき、上方のワイヤー電極39の電位は0V、下方のワイヤー電極38の電位は0Vから150Vの間の電位になる。液体Lqは反射部材37に常に接触しているため、電位はほぼ0Vである。そのため、液体Lqの上部では電場がほぼ0であるが、下部では電場が0にはならない。これによって、液体Lqの下部にはマクスウェル応力が働き、液体Lqが下方のワイヤー電極38の方向に動くことになる。液滴が動いていき、下方のワイヤー電極38に接触すると、液体Lqに接触したワイヤーは液体Lqと同じ電位になるため、ワイヤーと液体Lq間には力が働かなくなる。最終的にすべてのワイヤーに接触すると液体Lqは静止する。
【0026】
一方、画素32を上記の第2の状態に設定するときには、上部電極64A,64Bに正の電圧(+V1)を印加し、下部電極60A,60Bの電位を0Vに設定する。動作原理は上述の逆である。
このように、下部電極60A,60Bと上部電極64A,64Bの電位を、それぞれ+V1と0Vにした場合と、逆に0Vと+V1にした場合を入れ替えることによって、セル部34内で液体LqのZ方向の位置が間隔dだけ変化する。
【0027】
このように液体Lqはワイヤー電極38,39との間の静電力でZ方向に駆動されるため、液体Lqは照明光ILを透過するとともに、誘電率(比誘電率)が高いことが好ましい。つまり、誘電率が高いほど、反射部材37の電位が液体Lq全体に伝わりやすく、周辺空間の電場が強くなり、マクスウェル応力が大きくなるためである。照明光ILがArFエキシマレーザ光(波長193nm)であるとき、液体Lqとしては例えば純水(屈折率=1.44、比誘電率(例えば100Hz以上で)=80)、又はデカリン(decalin)(屈折率=1.60、比誘電率=約10)が使用できる。比誘電率が高く、電圧V1を小さくできる点では、液体Lqとして純水が好ましい。また、後述のように液体Lqの屈折率nが大きいほど間隔dを小さくできるため、セル部34の高さを小さくできる(画素32を小型化できる)点では、液体Lqとしてデカリンが好ましい。ただし、液体Lqとしては、屈折率及び比誘電率が純水より小さいが、フロリナート(登録商標)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、又はパーフロロポリエーテル(PFPE)のようなフッ素系オイルも使用可能である。
【0028】
本実施形態の複数の画素32(液体Lqが充填されていない状態)及び反射部材37(接地された電極)、電極60A〜64B用の配線等が形成された隔壁部材33は、例えばMEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械システム)技術を用いて製造可能である。また、隔壁部材33以外の部分は、例えば通常の半導体デバイスの製造工程で製造可能である。
次に、図2において、変調制御部48は、図1(A)の複数の画素32の状態(第1の状態又は第2の状態)の分布を制御するコンピュータの一部である制御部52と、複数の画素32の状態の分布に対応するデジタルデータが格納されたメモリーであるSRAM54と、SRAM54の出力を増幅する画素32と同じ個数の増幅器55A,55B,55C,…と、各画素32の反射部材37を接地する信号ラインと、を有する。増幅器55A,55B等の出力はそれぞれ信号ライン及び隔壁部材33に設けた配線を介して対応する画素32(セル部34)の下部電極60A,60Bに供給されている。本実施形態では、下部電極60A,60Bには、電圧+V1(第1の状態)又は0V(第2の状態)が印加される。なお、SRAM54の代わりに、シフトレジスターを使用することも可能である。
【0029】
また、変調制御部48は、各画素32に対応して設けられて、対応する増幅器55A,55B,…の出力を変換する切り替え部56を有する。切り替え部56の出力は、信号ライン及び隔壁部材33に設けた配線を介して対応する画素32(セル部34)の上部電極64A,64Bに供給されている。切り替え部56は、増幅器55A,55B,…の出力(すなわち、下部電極60A,60Bの電位)が0Vであるときに上部電極64A,64Bに電圧+V1を供給し、増幅器55A,55B,…の出力が+V1であるときに上部電極64A,64Bに0Vを供給する。
【0030】
次に、図3(A)は、図1(B)の空間光変調器28の本体部30中の位置A1及びA2の2つの画素32をX方向に見た拡大断面図、図3(B)は、その2つの画素32をY方向に見た拡大断面図である。なお、説明の便宜上、図3(A)及び(B)中の位置A1,A2の関係は図1(B)中の位置関係とは異なっている。図3(A)において、後述のように本体部30の製造を容易にするために、セル部34内の下方のワイヤー電極38の下端からセル部34の底面までの間隔は、セル部34内に保持される液体Lqの高さ(図2の高さa4)と同じに設定されている。また、ベース部材31内の隔壁部材33の底面に、絶縁体よりなる上部が開いた浅い箱状の貯蔵部66が載置され、貯蔵部66の内面に金属膜よりなる電極67が設けられ、電極67を覆うように絶縁膜68が設けられている。ベース部材31内の底面には、本体部30の製造時に、貯蔵部66の高さを調整するための複数の高さ調整部69が設けられている。高さ調整部69は、例えば貯蔵部31の下方に配置されるピエゾ素子等を含む駆動機構(不図示)によってZ方向に移動する。本体部30の製造時に、貯蔵部66の内面には液体Lqと同じ液体が所定量供給され、電極67は所定の電位に設定される(詳細後述)。
【0031】
また、図3(A)において、カバーガラス35を透過して各画素32に入射する照明光は、上方のワイヤー電極39の隙間及び液体Lqを通過して反射部材37に入射し、反射部材37で反射された照明光は、液体Lq及びワイヤー電極39の隙間を通過し、カバーガラス35を介して射出される。従って、各画素32の上方のワイヤー電極39の下端と反射部材37の反射面との間の空間が、その空間を往復する照明光の光路長、ひいては位相が調整される光路長可変部34aである。位置A1の第1の状態の画素32では、液体Lqがワイヤー電極38の上端に保持されており、液体Lqの上面とワイヤー電極39の下端との間隔dは光路長可変部34aの高さよりも狭く設定されている。
【0032】
そして、位置A1の画素32で示すように、画素32を上記の第1の状態に設定するときには、上部電極64A,64Bの電位を0V(接地レベル)に設定し、下部電極60A,60Bに正の電圧(+V1)を印加する。このとき、上方のワイヤー電極39はほぼ0Vになり、下方のワイヤー電極38の電位は電圧(+V1)に近い値になるため、液体Lqとワイヤー電極38との間に静電力の吸引力が作用する。さらに、ワイヤー電極38の各ワイヤーに液体Lqが接触すると、液体Lqと接触したワイヤーの電位は同じになり、ワイヤーと液体Lq間には力が働かなくなる。そして、最終的にすべてのワイヤーに接触すると液体Lqは静止する。液体Lqはワイヤー電極38の外側には漏れ出ないため、液体Lqはワイヤー電極38の上端に安定に保持される。
【0033】
一方、位置A2の画素で示すように、画素32を上記の第2の状態に設定するときには、上部電極64A,64Bに正の電圧(+V1)を印加し、下部電極60A,60Bの電位を0Vに設定する。このとき、下方のワイヤー電極38の電位はほぼ0Vになり、ワイヤー電極39の電位は電圧(+V1)に近い電位になるため、液体Lqとワイヤー電極39との間に静電力の吸引力が作用する。そして、図3(B)に示すように、液体Lqは、エレクトロウェッティングによって反射部材37の側面を通過してワイヤー電極39の下端に移動する。さらに、ワイヤー電極39全体に液体Lqが接触すると、液体Lqは静止し、液体Lqはワイヤー電極39の下端に安定に保持される。このように、上記の第1の状態と第2の状態との間で、セル部34内では液体LqのZ方向の位置が間隔dだけ変化する。各画素32は、下部電極60A,60B及び上部電極64A,64Bの電圧を(+V1,0)又は(0,+V1)に切り替えるのみで、高速にその第1の状態又は第2の状態に切り替えることができる。
【0034】
本実施形態では、第1の状態の画素32(0)で反射される照明光IL1の位相の変化量に対して、第2の状態の画素32(π)で反射される照明光IL2の位相の変化量は180°(π)異なっている。照明光IL1,IL2の波長をλ、液体Lqの屈折率をnとすると、第1の状態及び第2の状態の画素32を設定するための条件は、次のように間隔dの液体Lq中を往復する照明光の位相の変化量と、間隔dの空気中を往復する照明光の位相の変化量との差が、光路長換算でλ/2となることである。
【0035】
2d(n−1)=λ/2 …(2)
式(2)から間隔dは次のようになる。
d=λ/{4(n−1)} …(3)
式(3)より間隔dは屈折率nが大きいほど小さくできることが分かる。一例として、波長λを193nm(ArFエキシマレーザ光)、液体Lqを純水(屈折率n=1.44)とすると、式(3)から間隔dは110nmとなる。
【0036】
本実施形態では、空間光変調器28の使用時には、図2の変調制御部48のSRAM54には予め全部の画素32の状態に対応するデジタルデータの時系列的に変化するパターンが記憶されており、制御部52は、所定の駆動周波数(例えば1〜2MHz等)でSRAM54の該当する一連の番地のデータを増幅器55A等に出力させる。これに応じて、例えば図1(A)に示すように、二次元のアレイ状に配列された複数の画素32が、第1の状態の画素32(0)又は斜線が施された第2の状態の画素32(π)のいずれかに設定される。従って、所定の時間間隔で複数の画素32の第1の状態又は第2の状態の配列を、一つの画素32を単位として任意の配列に設定可能である。
【0037】
次に、本実施形態の空間光変調器28の本体部30の製造方法の一例につき、図3(A)及び(B)に対応する図4(A)及び(B)の拡大断面図を参照して説明する。まず、MEMS技術等を用いて空間光変調器28の本体部30のうちの、図4(A)に示すようにカバーガラス35及び液体Lqを除いた部分を製造する。この段階では、貯蔵部66はベース部材31内の底面に降下している。次に、全部のセル部34において、下部電極60A,60B、反射部材37、及び上部電極64A,64Bの電位を接地レベル(0V)に設定し、貯蔵部66側の電極67に例えば+V1と同等の高い電圧を印加する。その後、例えば注入量を計測可能な注入器(不図示)を介して貯蔵部66内に液体Lqを所定量だけ注入する。図2の各画素32のセル部34内の液体Lqの量をb、本体部30の画素32の個数をN1、貯蔵部66内の隔壁部材33の外側の面積(セル部34内の面積を単位とする面積)をN2とすると、その所定量はほぼb(N1+N2)である。
【0038】
次に、図4(A)に示すように、複数の高さ調整部69を介してベース部材31内で、貯蔵部66の絶縁膜68が各セル部34の底面に接触するまで、貯蔵部66を上昇させる。このとき、各セル部34内で、貯蔵部66の絶縁膜68と下方のワイヤー電極38との間にそれぞれ液体Lqが保持される。この状態で、貯蔵部66の電極67の電位を接地レベルに切り替え、図3(A)の上部電極64A,64B及び反射部材37の電位を例えば+V1よりも高い電圧に切り替える。このとき、図4(B)に示すように、各セル部34内でエレクトロウェッティングによってワイヤー電極38の下方の液体Lqがワイヤー電極38の上方に移動する。その後、高さ調整部69を介して貯蔵部66をベース部材31内の底面に降下させて、貯蔵部66を固定し、貯蔵部66内の液体を吸引する。そして、ベース部材31の上面にカバーガラス35を接着等で固定することで、空間光変調器28の本体部30を製造できる。
【0039】
本実施形態の空間光変調器28の本体部30の製造方法によれば、昇降可能な貯蔵部66を用いることによって、本体部30の各画素32のセル部34内のワイヤー電極38,39間の空間に目標とする量の液体Lqを封入できる。なお、本体部30の製造方法は任意であり、例えば各セル部34内に上方から液体Lqを供給してもよい。
【0040】
本実施形態の効果等は以下の通りである。
(1)本実施形態の配列面DPに入射する照明光ILを変調する空間光変調器28は、配列面DPを横切るZ方向に沿った隔壁部33aを有するセル部34と、セル部34内にZ方向に沿って配置された下部電極60A,60B及び上部電極64A,64Bと、下部電極60A,60B及び上部電極64A,64Bの間に配置された反射部材37と、を備えている。さらに、空間光変調器28は、セル部34内の下部電極60A,60Bと上部電極64A,64Bとの間に保持された液体Lqと、下部電極60A,60B及び上部電極64A,64Bに与えられる電圧によって、セル部34内の液体LqのZ方向の位置を制御する変調制御部48と、を備え、液体LqのZ方向の位置によってセル部34内の反射部材37で反射される照明光ILの位相を制御している。
【0041】
この空間光変調器28によれば、下部電極60A,60B及び上部電極64A,64Bに与えられる電圧(電極60A,60Bと電極64A,64Bとの間の電位)によって、エレクトロウェッティングの作用に基づく静電力によって、セル部34内の液体LqのZ方向の位置が制御され、セル部34内の反射部材37で反射される照明光IL(セル部34を含む画素32を通過する照明光IL)の位相が制御される。また、画素32はセル部34(隔壁部33a)で仕切られているため、画素32間の静電力の影響及び画素32間の液体Lqの流れが抑制されて、高い解像度が得られる。
【0042】
(2)また、本実施形態では、セル部34内において、下部電極60A,60Bには絶縁膜62A,62Bを介して、Z方向に垂直なXY面内でX方向に等間隔で配置された複数のワイヤー38aよりなる第1のワイヤー電極38が接続され、上部電極64A,64Bには絶縁膜62C,62Dを介して、XY面内でX方向に等間隔で配置された複数のワイヤー39aよりなる第2のワイヤー電極39が接続されている。そして、液体Lqは、セル部34内でワイヤー電極38とワイヤー電極39との間に、ワイヤー電極38,39の撥液性(液体Lqの表面張力)によって漏れ出ないように保持されている。この場合、ワイヤー電極38,39は液体LqがZ方向に移動するときに必要な空気の流通を可能にするとともに、ワイヤー電極39は照明光ILの透過率を大きくできる。従って、ワイヤー電極38,39間で液体LqのZ位置を高速に制御して、反射部材37からの照明光ILの反射光の位相を制御できるとともに、照明光ILの利用効率を高くできる。
【0043】
なお、ワイヤー電極38,39の少なくとも一方は、メッシュ状の2次元の格子状の電極としてもよい。さらに、特に下側のワイヤー電極38は照明光ILを遮光してもよいため、ワイヤー電極38としては、開口率の小さい2次元の格子状の電極を使用可能である。
【0044】
(3)また、空間光変調器28の画素32は2次元のアレイであるため、例えば露光装置に適用した場合に大面積のパターンを露光又は照明できる。なお、空間光変調器28において、画素32はX方向又はY方向に一列に(一次元)に配列されていてもよい。
なお、上記の実施形態では、以下のような変形が可能である。
まず、上記の実施形態では、各画素32のセル部34内で第1及び第2のワイヤー電極38,39間に液体Lqを保持している。この他の構成として、図5の第1変形例の空間光変調器28Aの本体部30A内の一つの画素32Aで示すように、セル部34内のワイヤー電極38,39の間で、反射部材37の下方でワイヤー38aとほぼ同じ形状のワイヤー70aをX方向に等間隔で配置した液体保持用の第1のワイヤー部材70と、反射部材37の上方でワイヤー39aとほぼ同じ形状のワイヤー72aをX方向に等間隔で配置した液体保持用の第2のワイヤー部材72と、を設け、第1及び第2のワイヤー部材70,72間に液体Lqを保持してもよい。ワイヤー部材70,72の材料としては、ワイヤー電極38,39と同様に、例えばカーボンナノチューブのように、高い撥液性を持つ材料を使用することが好ましい。
【0045】
図6(A)及び(B)は図5の画素32AをY方向に見た断面図である。なお、図5及び図6(A)、(B)において、図2及び図3(B)に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。図5において、この変形例では、第1のワイヤー電極38は下部電極60A,60Bに直接接続され、第2のワイヤー電極39は上部電極64A,64Bに直接接続され、反射部材37は接地(接地レベルを0とする)されている。また、第1及び第2のワイヤー部材70,72は、絶縁体であるセル部34に固定されている。言い換えると、ワイヤー部材70,72は電気的に絶縁された状態(浮いた状態)で支持されている。この変形例の変調制御部としては、図2の変調制御部48と同様の制御部を使用できる。
【0046】
また、図6(A)において、第1のワイヤー部材70の上端と第2のワイヤー部材72の下端とのZ方向の間隔は、図2のワイヤー電極38,39間の間隔a5と同じである。この変形例では、ワイヤー部材70,72が撥液性を持つため、セル部34内でワイヤー部材70,72間に液体Lqが保持される。液体Lqが第1のワイヤー部材70の上端に保持されている状態では、液体Lqの上面と第2のワイヤー部材72の下端との間隔dは上記の式(3)で定まる値である。セル部34内のX方向、Y方向の幅(a1)がほぼ1000nmである場合、ワイヤー電極38及びワイヤー部材70の間隔、並びにワイヤー電極39及びワイヤー部材72の間隔は例えばそれぞれほぼ50nmである。
【0047】
この変形例の画素32Aを、図6(A)に示すように、上記の実施形態と同様の第1の状態(画素32A(0))に設定するときには、図5の上部電極64A,64Bを介してワイヤー電極39の電位を0V(接地レベル)に設定し、図5の下部電極60A,60Bを介してワイヤー電極38に正の電圧(+V2)を印加する。反射部材37は常時接地されている。液体Lqが純水の場合、電圧V2は例えば50Vと、上記の実施形態の電圧V1の1/3程度でよい。このとき、液体Lqはワイヤー電極38の方向に静電力で吸引される。しかしながら、ワイヤー部材70の撥液性(液体Lqの表面張力)によって液体Lqはワイヤー部材70の外側には漏れ出ないため、液体Lqはワイヤー部材70の上端に安定に保持される。ワイヤー電極39及びワイヤー部材72の隙間、並びに液体Lqを介して入射した照明光IL1は、反射部材37で反射され、液体Lq並びにワイヤー部材72及びワイヤー電極39の隙間を通過して射出される。
【0048】
一方、図6(B)に示すように、画素32Aを第2の状態(画素32A(π))に設定するときには、図5の上部電極64A,64Bを介してワイヤー電極39に正の電圧(+V2)を印加し、図5の下部電極60A,60Bを介してワイヤー電極38の電位を0Vに設定する。そして、液体Lqはワイヤー電極39の方向に静電力で吸引される。しかしながら、ワイヤー部材72の撥液性(液体Lqの表面張力)によって液体Lqはワイヤー部材72の外側には漏れ出ないため、液体Lqはワイヤー部材72の下端に安定に保持される。ワイヤー電極39及びワイヤー部材72の隙間並びに液体Lqを介して入射した照明光IL2は、反射部材37で反射され、液体Lq並びにワイヤー部材72及びワイヤー電極39の隙間を通過して射出される。この際に、照明光IL2の光路長は照明光IL1の光路長と2d(n−1)だけ異なっており(nは液体Lqの屈折率)、間隔dが上記の式(3)を満たしているため、反射される照明光IL2の位相は、図6(A)の照明光IL1に対して180°異なっている。
【0049】
この変形例において、各画素32Aは、第1のワイヤー電極38(下部電極60A,60B)及び第2のワイヤー電極39(上部電極64A,64B)の電圧を(+V2,0)又は(0,+V2)に切り替えるのみで、高速にその第1の状態又は第2の状態に切り替えることができる。また、ワイヤー電極38,39の間に、撥液性で液体Lqを保持するための電気的に絶縁されたワイヤー部材70,72を設けているため、ワイヤー電極38,39(電極60A〜64B)に印加する電圧を小さくすることができ、変調制御部の構成が容易になる。
【0050】
なお、この変形例において、ワイヤー部材70,72の少なくとも一方は、メッシュ状の2次元の格子状の部材としてもよい。さらに、特に下側のワイヤー部材70は照明光ILを遮光してもよいため、ワイヤー部材70としては、開口率の小さい2次元の格子状の部材を使用可能である。
次に、上記の実施形態及びその変形例では照明光ILを反射するために各画素32,32A内に反射部材37を配置している。しかしながら、図7(A)の第2変形例及び図7(B)の第3変形例で示すように、反射部材37を省略することが可能である。なお、図7(A)及び図7(B)において図2及び図5に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0051】
まず、図7(A)は、第2変形例の空間光変調器28Bの本体部30B内の一つの画素32Bを示す。この変形例の画素32Bは、図2の画素32において、反射部材37を省略し、かつ液体Lqの代わりに常温に近い温度で液体になる金属である金属液体Lqmを保持したものである。その他の構成は図2の空間光変調器28と同様である。
すなわち、図7(A)において、画素32Bのセル部34内のワイヤー電極38,39間に金属液体Lqmが保持されている。金属液体Lqmとしては、例えば水銀(Hg、融点:−38.8℃)又はガリウム(Ga、融点:29.8℃)等が使用できる。常温で液体になる点では金属液体Lqmとして水銀が好ましい。セル部34の温度を30℃以上に設定できる場合には、金属液体Lqmとしてガリウムを使用することもできる。
【0052】
この変形例では、金属液体Lqmの表面が入射する照明光ILを反射する反射面74となるため、図2の反射部材37を省略できる。また、第1の状態では、画素32Bの上部電極64A,64B(ワイヤー電極39)よりも下部電極60A,60B(ワイヤー電極38)の電位を高くすることで、金属液体Lqmは第1のワイヤー電極38側に静電力で吸引される。この際に、ワイヤー電極38の撥液性(金属液体Lqmの表面張力)があるため、金属液体Lqmはワイヤー電極38の上端に保持される。この第1の状態で、金属液体Lqmの表面(反射面74)とワイヤー電極39の下端とのZ方向の間隔をdとする。
【0053】
そして、第2の状態では、画素32Bの上部電極64A,64B(ワイヤー電極39)の電位を下部電極60A,60B(ワイヤー電極38)の電位より高くすることで、金属液体Lqmは第2のワイヤー電極39側に静電力で吸引される。この際に、ワイヤー電極39の撥液性(金属液体Lqmの表面張力)があるため、金属液体Lqmはワイヤー電極39の下端に保持される。その第1の状態と第2の状態とで画素32Bに入射して反射される照明光IL(波長λ)の光路長は2dだけ変化する。従って、その第1の状態と第2の状態とで反射される照明光ILの位相が180°(π)異なるための間隔dの条件は次のようになる。
【0054】
2d=λ/2、すなわち d=λ/4 …(4)
この第2変形例によれば、反射部材37を省略でき画素32Bの構成を簡素化できるとともに、反射面74の面積を反射部材37より広くでき、照明光ILの利用効率を高めることができる。さらに、金属液体LqmをZ方向にエレクトロウェッティングによって移動するために必要なワイヤー電極38,39間の電位差を小さくできる。また、式(4)の間隔dを図2の実施形態よりも小さくできる。
【0055】
次に、図7(B)は、第3変形例の空間光変調器28Cの本体部30C内の一つの画素32Cを示す。この変形例の画素32Cは、図5の変形例の画素32Aにおいて、反射部材37を省略し、かつワイヤー部材70,72間に液体Lqの代わりに図7(A)の変形例で使用された金属液体Lqmを保持したものである。その他の構成は図5の空間光変調器28Aと同様である。すなわち、図7(B)において、画素32Cのセル部34内のワイヤー部材70,72間に金属液体Lqmが保持され、金属液体Lqmの表面が照明光ILに対する反射面74となっている。
【0056】
この変形例において、第1の状態ではワイヤー電極39に対してワイヤー電極38の電位を高くし、第2の状態ではワイヤー電極38に対してワイヤー電極39の電位を高くすることによって、画素32Cをその第1の状態又は第2の状態に設定できる。この際に、図5の画素32Aに比べて構成を簡素化できるとともに、反射面74の面積を広くでき、照明光ILの利用効率を高めることができる。さらに、反射部材37がないため、液体がZ方向に移動する際の圧力損失が少なく、そのため金属液体LqmをZ方向に移動するために必要なワイヤー電極38,39間の電位差を小さくできる。
【0057】
[第2の実施形態]
以下、第2の実施形態につき図8を参照して説明する。図8において、図1(A)〜図2に対応する部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。図8は、本実施形態に係るマスクレス方式の露光装置EXの概略構成を示す。図8において、露光装置EXは、パルス発光を行う露光用の光源2と、光源2からの露光用の照明光(露光光)ILで被照射面を照明する照明光学系ILSと、ほぼその被照射面又はその近傍の面上に二次元のアレイ状に配列された複数の画素32を有する本体部30及び変調制御部48を有するマスクパターン生成用の空間光変調器28と、を備えている。さらに、露光装置EXは、空間光変調器28の複数の画素32によって生成された可変の位相分布を持つ照明光ILを受光して、その位相分布に対応して形成される空間像(デバイスパターン)をウエハW(基板)の表面に投影する投影光学系PLと、ウエハWの位置決め及び移動を行うウエハステージWSTと、装置全体の動作を統括制御するコンピュータよりなる主制御系40と、各種制御系等とを備えている。
【0058】
以下、図8において、投影光学系PLの光軸AXに平行にZ軸を設定し、Z軸に垂直な平面(本実施形態ではほぼ水平面である)内において図8の紙面に平行な方向にY軸を、図8の紙面に垂直な方向にX軸を設定して説明する。また、X軸、Y軸、Z軸の回りの角度をそれぞれθx方向、θy方向、θz方向の角度とも呼ぶ。座標系(X,Y,Z)と空間光変調器28の本体部30との関係は図2の例と同じである。本実施形態では、露光時にウエハWはY方向(走査方向)に走査される。
【0059】
光源2としてはArFエキシマレーザ光源(波長193nm)が使用されている。光源2としては、KrFエキシマレーザ光源、又はYAGレーザ若しくは固体レーザ(半導体レーザ等)から出力されるレーザ光の高調波を生成する固体パルスレーザ光源等も使用できる。固体パルスレーザ光源は、例えば波長193nm(これ以外の種々の波長が可能)でパルス幅1ns程度のレーザ光を1〜2MHz程度の周波数でパルス発光可能である。
【0060】
本実施形態においては、光源2には電源部42が連結されている。主制御系40が、パルス発光のタイミング及び光量(パルスエネルギー)を指示する発光トリガパルスTPを電源部42に供給する。その発光トリガパルスTPに同期して電源部42は、指示されたタイミング及び光量で光源2にパルス発光を行わせる。
光源2から射出された断面形状が矩形でほぼ平行光束のパルスレーザ光よりなる照明光ILは、1対のレンズよりなるビームエキスパンダ4、照明光ILの偏光状態を制御する偏光制御光学系6及びミラー8Aを介して、照明系用の空間光変調器9のベース部材11を有する本体部10の複数の微小な画素12(図2の画素32に対応する光学要素)のアレイに入射する。偏光制御光学系6は、例えば照明光ILの偏光方向を回転する1/2波長板、照明光ILを円偏光に変換するための1/4波長板、及び照明光ILをランダム偏光(非偏光)に変換するための楔型の複屈折性プリズム等を交換可能に設置可能な光学系である。
【0061】
空間光変調器9は、空間光変調器28とほぼ同じ構成であり、空間光変調器9の本体部10は本体部30に対応し、変調制御部49は変調制御部48に対応している。空間光変調器9の画素12(セル部)は、XY平面に対してθx方向に傾斜した平面(配列面)に沿って二次元のアレイ状に配列され、それぞれ入力する照明光ILの位相を制御して反射する。このように反射される照明光ILの位相分布を制御することによって、例えば種々の特性の回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE) を切り替えて使用する場合のように、照明光学系ILSの瞳面における照明光ILの光量分布を、通常照明用の円形、輪帯照明用の輪帯状、複数極照明用の2極又は4極状の形状等の任意の分布に制御できる。
【0062】
例えば1ロットのウエハの露光開始前に、主制御系40の制御のもとで照明系制御部41が空間光変調器9の変調制御部49に、各照明条件に対応して複数の画素12のアレイによって設定される照明光ILの位相分布の情報を供給する。これに応じて変調制御部49が空間光変調器9の各画素12を第1の状態(位相0)又は第2の状態(位相π)に制御する。なお、各画素12は、反射光の位相を第1又は第2の状態以外の位相で変化させる状態に設定してもよい。
【0063】
空間光変調器9で反射された照明光ILは、レンズ14a,14bよりなるリレー光学系14及びミラー8Bを介してY軸(光軸AXI)に沿ってマイクロレンズアレイ16の入射面に導かれる。マイクロレンズアレイ16に入射した照明光ILは、マイクロレンズアレイ16を構成する多数の微小なレンズエレメントによって二次元的に分割(波面分割)され、各レンズエレメントの後側焦点面である照明光学系ILSの瞳面(以下、照明瞳面IPPという)には二次光源(面光源)が形成される。なお、マイクロレンズアレイ16の代わりにフライアイレンズ等も使用可能である。
【0064】
照明瞳面IPPに形成された二次光源からの照明光ILは、第1リレーレンズ18A、視野絞り20、第2リレーレンズ18B、及びコンデンサ光学系22を介してハーフミラー24に入射し、ハーフミラー24で+Z方向に反射された照明光ILが、XY平面に平行な被照射面(設計上の転写用のパターンが配置される面)に入射する。その被照射面又はその近傍の面に沿って、空間光変調器28の2次元のアレイ状に配列された多数の画素32(図2のセル部34を有する光学要素)の反射面が配置される。ビームエキスパンダ4からコンデンサ光学系22までの光学部材を含んで照明光学系ILSが構成されている。なお、ハーフミラー24を偏光ビームスプリッターとして、これに入力する照明光ILの偏光状態をS偏光として、偏光ビームスプリッターと空間光変調器28との間に1/4波長板を配置してもよい。これによって、空間光変調器28で反射される照明光ILはほぼ全部が偏光ビームスプリッターを透過して投影光学系PLに向かうため、照明光ILの利用効率を高めることができる。
【0065】
一例として、照明光学系ILSからの照明光ILは、空間光変調器28の多数の画素32のアレイ上のX方向に細長い長方形状の照明領域26Aをほぼ均一な照度分布で照明する。照明光学系ILS、ハーフミラー24、及び空間光変調器28の本体部30は、不図示のフレームに支持されている。一例として、所定パルス数の照明光ILの発光毎に、主制御系40の制御下の露光パターン制御部43が空間光変調器28の変調制御部48に、画素32のアレイによって設定される照明光ILの位相分布の情報を供給する。これに応じて変調制御部48が空間光変調器28の各画素32を第1の状態(位相0)又は第2の状態(位相π)に制御する。なお、空間光変調器9,28の代わりに、上記の変形例の空間光変調器28A〜28Cと同様の空間光変調器を使用してもよい。
【0066】
空間光変調器28の照明領域26A内の多数の画素32のアレイで反射された照明光ILは、ハーフミラー24を介して投影光学系PLに入射する。不図示のコラムに支持された光軸AXを持つ投影光学系PLは、両側テレセントリックの縮小投影光学系である。投影光学系PLは、空間光変調器28によって設定される照明光ILの位相分布に応じた空間像の縮小像を、ウエハWの1つのショット領域内の露光領域26B(照明領域26Aと光学的に共役な領域)に形成する。投影光学系PLの投影倍率βは例えば1/10〜1/100程度であり、その解像度(ハーフピッチ又は線幅)は、例えば空間光変調器28の画素32の像の幅程度である。例えば、画素32の幅が数μm程度、投影光学系PLの投影倍率βが1/100程度であれば、投影光学系PLの解像度は数10nm程度である。
【0067】
ウエハW(基板)は、例えばシリコン又はSOI(silicon on insulator)等の円形の平板状の基材の表面に、フォトレジスト(感光材料)を数10nm〜200nm程度の厚さで塗布したものを含む。また、露光装置EXが液浸型である場合には、例えば米国特許出願公開第2007/242247号明細書に開示されているように、投影光学系PLの先端の光学部材とウエハWとの間に照明光ILを透過する液体(例えば純水)を供給して回収する局所液浸装置が設けられる。液浸型の場合には解像度をさらに高めることができる。
【0068】
図8において、ウエハWはウエハホルダ(不図示)を介してウエハステージWSTの上面に吸着保持され、ウエハステージWSTは、不図示のガイド面上でX方向、Y方向にステップ移動を行うとともに、Y方向に一定速度で移動する。ウエハステージWSTのX方向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角等はレーザ干渉計45によって形成され、この計測情報がステージ制御系44に供給されている。ステージ制御系44は、主制御系40からの制御情報及びレーザ干渉計45からの計測情報に基づいて、リニアモータ等の駆動系46を介してウエハステージWSTの位置及び速度を制御する。なお、ウエハWのアライメントを行うために、ウエハWのアライメントマークの位置を検出するアライメント系(不図示)等も備えられている。
【0069】
ウエハWの露光時には、ウエハWのアライメントを行った後、空間光変調器9を用いて照明光学系ILSの照明条件を設定する。そして、ウエハWの表面でY方向に一列に配列されたショット領域に露光を行うために、ウエハWを走査開始位置に位置決めする。その後、ウエハWの+Y方向への一定速度での走査を開始する。
次に、主制御系40は、ウエハWの露光領域26Bのショット領域に対する相対位置に応じて、露光パターン制御部43を介して変調制御部48に露光領域26Bに形成される空間像に対応する空間光変調器28の反射面における照明光ILの位相分布の情報を供給するとともに、電源部42に発光トリガパルスTPを供給する。これによって、露光領域26Bには、Y方向の位置に応じて目標とする空間像が逐次露光される。この動作をショット領域が露光領域26Bを横切るまで繰り返すことで、ショット領域に全体の空間像(回路パターン)が露光される。
【0070】
その後、ウエハWのそのショット領域に隣接するショット領域に露光するために、ウエハWを同じ方向に走査したまま、主制御系40は露光パターン制御部43を介して変調制御部48に照明光ILの位相分布の情報を供給するとともに、電源部42に発光トリガパルスTPを供給する。このようにして、第1のショット領域から次のショット領域にかけて連続的に露光を行うことができる。そして、ウエハWのX方向に隣接するショット領域を含む列の露光に移行する場合には、ウエハステージWSTを駆動してウエハWをX方向(走査方向に直交する非走査方向)にステップ移動する。そして、露光領域26Bに対するウエハWの走査方向を逆の−Y方向に設定し、主制御系40から露光パターン制御部43を介して変調制御部48に逆の順序で照明光ILの位相分布の情報を供給し、電源部42に発光トリガパルスTPを供給することで、隣接する列の一連のショット領域に対して連続的に露光を行うことができる。この露光に際して、複数のショット領域に互いに異なる空間像を露光することも可能である。なお、各ショット領域を複数回の走査で露光してもよい。その後、ウエハWのフォトレジストの現像を行うことで、ウエハWの各ショット領域にレジストパターンが形成される。
【0071】
本実施形態の効果等は以下の通りである。
(1)本実施形態のウエハWを照明光ILで露光する露光装置EXは、第1の観点では、空間光変調器28と、空間光変調器28の複数のセル部34(画素32)のアレイに照明光ILを照射する照明光学系ILSと、複数のセル部34からの照明光をウエハWに導いてウエハWにパターンを投影する投影光学系PLと、ウエハWに露光されるパターンを制御するために、空間光変調器28の複数のセル部34で反射される照明光の位相を制御する露光パターン制御部43と、を備えている。
【0072】
この第1の観点の露光装置EXによれば、空間光変調器28を備えているため、マスクレス方式でウエハWに任意のパターンを露光できる。このようにマスクレス方式で露光を行う場合には、照明光学系ILS中の空間光変調器9の代わりに、例えば米国特許第6,900,915号明細書、米国特許第7,095,546号明細書、又は米国特許公開第2005/0095749号明細書等に開示されているように、それぞれ直交する2軸の回りの傾斜角が可変の多数の微小ミラーを有する空間光変調器を用いることもできる。さらに、空間光変調器9の代わりに、複数の回折光学素子(DOE)を切り替えて使用してもよい。
【0073】
(2)また、空間光変調器28のセル部34(画素32)X方向を長手方向とする長方形の領域に設けられ、ウエハWを投影光学系PLの像面でX方向と直交するY方向に対応する走査方向に移動するウエハステージWST(基板ステージ)を備え、露光パターン制御部43は、ウエハステージWSTによるウエハWの移動に応じて、複数の画素32によって形成されるパターン(位相分布)をY方向に移動する。これによって、マスクレス方式でウエハWの全面を効率的に露光できる。
【0074】
(3)また、本実施形態のマスクパターンを介してウエハWを照明光ILで露光する露光装置EXは、第2の観点では、空間光変調器9を有し、照明光ILで空間光変調器9を介してそのマスクパターンを照明する照明光学系ILSと、そのマスクパターンを照明する照明光ILの入射角の分布(照明瞳面IPPにおける光量分布)を制御するために、記空間光変調器9の複数のセル部(画素12)で反射される照明光ILの位相を制御する照明系制御部41と、を備えている。
【0075】
この第2の観点の露光装置EXによれば、照明光学系ILSで空間光変調器9を用いているため、空間光変調器9によって照明光ILの位相分布を制御するのみで、そのマスクパターンを照明する照明光ILの入射角の分布(照明瞳面IPPにおける光量分布)を任意の分布に制御できる。なお、この第2の観点の露光装置EXにおいては、マスクパターン(位相パターン)を設定する空間光変調器28の代わりに、少なくともY方向に往復移動可能なレチクルステージと、レチクルステージに載置されて転写用のパターンが形成されたレチクルとを使用してもよい。
【0076】
次に、本実施形態では、次のような変形が可能である。まず、本実施形態では、ウエハWを連続的に移動してウエハWを走査露光している。その他に、ウエハWの各ショット領域をY方向に複数の部分領域に分割し、投影光学系PLの露光領域26Bにある部分領域が達したときに、照明光ILを所定パルス数だけ発光させて、空間光変調器28の画素32のアレイからの反射光で部分領域を露光してもよい。この後、ウエハWをY方向にステップ移動させて、次の部分領域が露光領域26Bに達してから、同様に部分領域に露光が行われる。この方式は実質的にステップ・アンド・リピート方式であるが、隣接する部分領域には互いに異なるパターンが露光される。
【0077】
また、上記の実施形態では、物体側及び像面側にテレセントリックの投影光学系PLを用いている。それ以外に、図9の変形例の露光装置EXAで示すように、物体側に非テレセントリックの投影光学系PLAを用いることも可能である。図9において、露光装置EXAの照明光学系ILSAは、図8の光源2から第1リレーレンズ18Aまでの光学部材を含む本体部ILSBと、本体部ILSBからの照明光ILが順次照射される視野絞り20、ミラー8C、第2リレーレンズ18B、コンデンサ光学系22、及びミラー8Dを備えている。照明光学系ILSAは、投影光学系PLAの物体面に配置された空間光変調器28の画素32(セル部34)のアレイを、θx方向に入射角βで照明光ILを照射する。投影光学系PLAは、画素32のアレイから斜めに反射される照明光ILによりウエハWの表面に所定の空間像を形成する。入射角βは例えば数deg(°)から数10degである。この入射角βに応じて、第1の状態の画素32で反射される照明光と第2の状態の画素32で反射される照明光との位相差が180°になるように、式(3)又は式(4)のセル部34内の間隔dの値を調整してもよい。この他の構成及び動作は、上記の実施形態と同様である。
【0078】
また、図8の波面分割型のインテグレータであるマイクロレンズアレイ16に代えて、内面反射型のオプティカル・インテグレータとしてのロッド型インテグレータを用いることもできる。この場合、図8において、リレー光学系14よりも空間光変調器9側に集光光学系を追加して空間光変調器9の反射面の共役面を形成し、この共役面近傍に入射端が位置決めされるようにロッド型インテグレータを配置してもよい。
【0079】
また、このロッド型インテグレータの射出端面又は射出端面近傍に配置される照明視野絞りの像を空間光変調器9の反射面上に形成するためのリレー光学系を配置する。この構成の場合、二次光源はリレー光学系14及び集光光学系の瞳面に形成される(二次光源の虚像はロッド型インテグレータの入射端近傍に形成される)。
また、電子デバイス(又はマイクロデバイス)を製造する場合、電子デバイスは、図10に示すように、電子デバイスの機能・性能設計を行うステップ221、この設計ステップに基づいたマスクのパターンデータを実施形態の露光装置EX,EXAの主制御系に記憶するステップ222、デバイスの基材である基板(ウエハ)を製造してレジストを塗布するステップ223、前述した露光装置EX,EXA(又は露光方法)により空間光変調器28(又はマスクパターン)で生成される位相分布の空間像を基板(感応基板)に露光する工程、露光した基板を現像する工程、現像した基板の加熱(キュア)及びエッチング工程などを含む基板処理ステップ224、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程などの加工プロセスを含む)225、並びに検査ステップ226等を経て製造される。
【0080】
このデバイスの製造方法は、上記の実施形態の露光装置を用いてウエハWを露光する工程と、露光されたウエハWを処理する工程(ステップ224)とを含んでいる。従って、電子デバイスを効率的に高精度に製造できる。
また、本発明は、半導体デバイスの製造プロセスへの適用に限定されることなく、例えば、液晶表示素子、プラズマディスプレイ等の製造プロセスや、撮像素子(CMOS型、CCD等)、マイクロマシーン、MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械システム)、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイス(電子デバイス)の製造プロセスにも広く適用できる。
【0081】
また、上記の実施形態及びその変形例の空間光変調器28,28A〜28Cは、露光装置以外のプロジェクタ等の光学装置にも使用できる。この光学装置は、その空間光変調器28(又は28A〜28C)と、空間光変調器28の複数のセル部34(画素32)に照明光を照射する照明系(第1光学系)と、それらのセル部34(画素32)で変調された光を像面(対象物の表面)に導く結像光学系(第2光学系)と、を備えている。この光学装置によれば、例えば高い解像度が得られる。
【0082】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得る。
【符号の説明】
【0083】
EX,EXA…露光装置、ILS,ILSA…照明光学系、PL,PLA…投影光学系、W…ウエハ、Lq…液体、Lqm…液体金属、28…空間光変調器、30…本体部、32…画素、34…セル部、37…反射部材、38…ワイヤー電極、39…ワイヤー電極、48…変調制御部、54…SRAM、60A,60B…下部電極、64A,64B…上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列面に入射する光を変調する空間光変調器であって、
前記配列面を横切る第1方向に沿った隔壁部を有するセル部と、
前記セル部内に前記第1方向に沿って配置された第1電極及び第2電極と、
前記セル部内の前記第1電極と前記第2電極との間に保持された液体と、を備え、
前記第1及び第2電極に与えられる電圧によって、前記セル部内の前記液体の前記第1方向の位置を制御して、前記セル部内で反射される光の位相を制御することを特徴とする空間光変調器。
【請求項2】
前記セル部内の前記第1及び第2電極の間に、かつ前記隔壁部との間に前記液体が通過する隙間を確保するように固定された反射部を備え、
前記第1及び第2電極に印加される電圧によって、前記セル部内の前記反射部と前記第1電極との間の前記液体の厚さを制御して、前記反射部内で反射される光の位相を制御することを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
前記反射部は、前記第1及び第2電極に与えられる2つの電圧の間の電圧が与えられる電極を兼用することを特徴とする請求項2に記載の空間光変調器。
【請求項4】
前記第1及び第2電極の少なくとも一方は、前記第1方向に垂直な面内に配置された1次元又は2次元の格子状の電極を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項5】
前記セル部の前記第1及び第2電極に近接して配置された第3及び第4電極と、
前記第3及び第4電極と前記第1及び第2電極との間にそれぞれ設けられた第1及び第2絶縁膜と、を備え、
前記第3及び第4電極に印加する電圧によって、前記第1及び第2電極の電圧を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項6】
前記セル部内の前記第1電極から前記第2電極側に離れた位置、及び前記第2電極から前記第1電極側に離れた位置の少なくとも一方で、前記第1方向に垂直な面内に配置された1次元又は2次元の格子状の導電部材を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項7】
前記液体は、入射する光を反射する液体金属であることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項8】
前記第1及び第2電極には、前記セル部内で反射される光の位相を第1の位相だけ変化させる第1組の電圧、又は前記セル部内で反射される光の位相を前記第1の位相と180°異なる第2の位相だけ変化させる第2組の電圧を含む複数組の電圧のいずれかが与えられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項9】
前記隔壁部は枠状に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項10】
2次元又は1次元のアレイ状に前記配列面に沿って配列された複数の前記セル部と、
前記複数のセル部にそれぞれ対応して設けられた前記第1電極、前記第2電極、及び前記液体と、
前記複数のセル部について、互いに独立に対応する前記第1及び第2電極の電圧を制御して、前記セル部で反射される光の位相を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の空間光変調器と、
前記空間光変調器の前記セル部に照明光を照射する第1光学系と、
前記セル部からの光を対象物に導く第2光学系と、を備えることを特徴とする光学装置。
【請求項12】
露光光で基板を露光する露光装置において、
請求項10に記載の空間光変調器と、
前記空間光変調器の前記複数のセル部のアレイに前記露光光を照射する照明光学系と、
前記複数のセル部からの反射光を前記基板上に導いて前記基板上にパターンを投影する投影光学系と、
前記基板に露光されるパターンを制御するために、前記空間光変調器の前記複数のセル部からの反射光の位相パターンを制御する露光制御装置と、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項13】
露光光でマスクを介して基板を露光する露光装置において、
請求項10に記載の空間光変調器を有し、前記露光光で前記空間光変調器を介して前記マスクを照明する照明光学系と、
前記マスクを照明する前記露光光の入射角の分布を制御するために、前記空間光変調器の前記複数のセル部からの反射光の位相パターンを制御する照明制御装置と、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、
前記パターンが形成された前記基板を処理することと、
を含むデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−73976(P2013−73976A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209962(P2011−209962)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】