空間確保デバイス
【課題】心嚢内視鏡手技において、内視鏡や処置具に特別な空間確保手段を設けることなく、かつ、心膜腔を不必要に拡張することなく、内視鏡や処置具の操作に必要な空間を確保して、例えば、心タンポナーデのような合併症を抑えつつ、操作性を向上する。
【解決手段】心膜腔C内に挿入されるガイドチューブ8内に収容可能な収縮状態と、ガイドチューブ8外に放出されて拡張する拡張状態との間で変形可能であり、かつ、心膜Bおよび心臓Aから受ける圧力に抗して拡張可能な弾発力を発生する弾性材料からなり、拡張した状態で、心臓A表面に開口し、外部から進入可能な空間7を内側に形成する形状を有する空間確保デバイス1を提供する。
【解決手段】心膜腔C内に挿入されるガイドチューブ8内に収容可能な収縮状態と、ガイドチューブ8外に放出されて拡張する拡張状態との間で変形可能であり、かつ、心膜Bおよび心臓Aから受ける圧力に抗して拡張可能な弾発力を発生する弾性材料からなり、拡張した状態で、心臓A表面に開口し、外部から進入可能な空間7を内側に形成する形状を有する空間確保デバイス1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間確保デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、剣状突起の直下から心膜腔に内視鏡および処置具を挿入し、開胸手術を行うことなく、疾患部位(例えば、心筋梗塞部位と正常部位の境界領域)に幹細胞等を注入する心嚢内視鏡手技が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開2004/0064138A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の心嚢内視鏡手技においては、心膜腔に挿入された内視鏡には、常に、心膜から心臓側に押し付ける力が作用するという不都合がある。すなわち、心膜腔内に挿入された内視鏡によって心臓を観察・処置するためには、心臓の外壁面に対して内視鏡との間に空間を形成する必要があるが、特許文献1の心嚢内視鏡手技においては、内視鏡に作用する心膜からの力によって内視鏡の操作に自由が利かず、操作性が悪いという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、心嚢内視鏡手技において、内視鏡や処置具に特別な空間確保手段を設けることなく、かつ、心膜腔を不必要に拡張することなく、内視鏡や処置具の操作に必要な空間を確保して、例えば、心タンポナーデのような合併症を抑えつつ、操作性を向上することができる空間確保デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、心膜腔内に挿入されるガイドチューブ内に収容可能な収縮状態と、ガイドチューブ外に放出されて拡張する拡張状態との間で変形可能であり、かつ、心膜および心臓から受ける圧力に抗して拡張可能な弾発力を発生する弾性材料からなり、拡張した状態で、心臓表面に開口し、外部から進入可能な空間を内側に形成する形状を有する空間確保デバイスを提供する。
【0007】
本発明によれば、心膜腔内にガイドチューブ(シースあるいは内視鏡等)を挿入し、ガイドチューブ内に収縮状態で収容された空間確保デバイスをガイドチューブ外に押し出すと、ガイドチューブから解放された空間確保デバイスが、心膜腔内においてその弾発力によって拡張状態に復元しようとして拡張し、心臓と心膜との間の隙間を押し広げて内側に空間を形成する。これにより、心膜腔を予め設定された寸法に押し広げ、不必要に拡張することが防止される。空間は、心臓表面に開口しているとともに、外部から進入できる。したがって、形成された空間内に外部から内視鏡の先端部や処置具を進入させることで、内視鏡や処置具の動作が心膜や心臓によって阻害されることを防止して、操作性を向上することができる。
【0008】
上記発明においては、前記心膜を心膜腔側から押圧する心膜押圧部と、前記心臓表面を心膜腔側から押圧する心臓押圧部と、これらを心膜押圧部および心臓押圧部を連結する連結部とを備え、該連結部が弾発力を発生してもよい。
このようにすることで、ガイドチューブ内に収容されている状態からガイドチューブ外に押し出されると、連結部の弾発力によって心膜押圧部と心臓押圧部とが相互に離間する方向に押されて拡張され、心臓表面に対して心膜が引き離されるように移動させられて、心膜押圧部と心臓押圧部との間に空間が形成される。これにより、空間内に外部から内視鏡や処置具等を進入させて心膜や心臓によって阻害されることなく内視鏡や処置具を操作することが可能となる。
【0009】
また、上記発明においては、前記心膜押圧部が板状に形成され、該心膜押圧部の前記心膜に接触する側とは反対側の表面に、照明光を反射する反射面が設けられていてもよい。
このようにすることで、空間確保デバイスを心臓と心膜との間で拡張させた状態で、空間内に進入させた内視鏡の先端部等からの照明光を心膜押圧部に向けて射出すると、心膜押圧部に設けられている反射面によって照明光が反射されて、反射面に対向している心臓表面に照射される。これにより、照明光の射出端から心臓表面までの距離を確保することができ、過大な拡散光を使用しなくても心臓表面の広い範囲を照明することが可能となる。
【0010】
また、上記発明においては、前記心膜押圧部に、前記空間を前記心膜側に開口させる心膜側開口部が設けられ、前記心臓押圧部に、前記空間を前記心臓側に開口させる心臓側開口部が設けられ、前記連結部が、前記心膜押圧部から前記心臓押圧部に向かって漸次広がる環状に形成されていてもよい。
【0011】
このようにすることで、心膜腔内に空間確保デバイスを押し出すと、心膜押圧部を心膜に接触させ、心臓押圧部を心臓に接触させて、心膜と心臓との距離を広げるように拡張し、内部に空間を形成する。この空間は、心膜側開口部によって心膜側に開口され、心臓側開口部によって心臓側に開口される。心膜押圧部から心臓押圧部に向かって漸次広がる環状に形成された連結部により、心膜腔内に挿入した内視鏡等を連結部の外表面に沿って容易に乗り上げさせ、内視鏡等の先端部を心膜押圧部と心膜との間から心膜側開口部を介して空間内に容易に進入させることができる。これにより、心臓表面から離れた位置に内視鏡等の先端部を配置して心臓表面を観察することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記連結部が、少なくとも前記心膜押圧部の近傍において、外側に凸の曲面からなる外表面を有していてもよい。
このようにすることで、連結部の外表面に沿って心膜押圧部の心膜側開口部に進入する内視鏡等を進入し易くすることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記連結部が、少なくとも前記心臓押圧部の近傍において、外側に凹の曲面からなる外表面を有していてもよい。
このようにすることで、心臓表面から連結部の外表面にわたって、傾斜角度を徐々に増大させることができ、心膜腔内において心臓の表面に沿って導入された内視鏡等の連結部の外表面への乗り上げ易さを向上することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記外表面に、前記心臓押圧部の外縁から前記心膜側開口部の内縁まで延びる1以上の溝を備えていてもよい。
このようにすることで、連結部の外表面に乗り上げた内視鏡等を溝に沿って心膜側開口部まで容易に導くことができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記心臓押圧部が、前記空間の一部を取り囲む略U字状に形成され、前記連結部に、前記空間内外を連絡する開口部が設けられていてもよい。
このようにすることで、略U字状の心臓押圧部によって心臓表面の処置範囲を取り囲むように空間確保デバイスを配置することができ、連結部に設けられた開口部を介して内視鏡等を空間内に進入させることで、心臓や心膜等に阻害されることなく内視鏡等を操作することが可能となる。
【0016】
また、上記発明においては、前記連結部、前記空間内外を連絡する開口部が設けられ、前記心臓押圧部の少なくとも一部に、前記開口部の外側から内側に向かって高くなる傾斜面を備えていてもよい。
このようにすることで、内視鏡等を空間に進入させる際に傾斜面によって、心臓表面から先端部を浮かせることができ、心臓表面から離れた位置において観察や処置を行うことが可能となる。
【0017】
また、上記発明においては、複数の小片に分割するための複数の分割線を備えていてもよい。
このようにすることで、観察あるいは処置終了後に、拡張した空間確保デバイスを回収する際に、分割線によって容易に複数の小片に分割することができ、回収を容易にすることができる。
また、上記発明においては、生体親和性を有する樹脂材料または金属材料により構成されていてもよい。
【0018】
また、上記発明においては、前記心臓押圧部を、前記心臓の表面に吸着させる吸着手段を備えていてもよい。
このようにすることで、吸着手段によって空間確保デバイスを心臓表面に吸着させて安定して固定することができ、内視鏡等の操作時に内視鏡が空間確保デバイスに衝突しても、空間確保デバイスが所望の位置から移動してしまう不都合の発生を防止することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記吸着手段が、負圧により心臓押圧部を前記心臓の表面に吸着させてもよい。
また、上記発明においては、前記吸着手段が、心臓内または前記心臓押圧部のいずれか一方に設けられる磁石と、他方に設けられる磁石または磁性材料とを備えていてもよい。
このようにすることで、空間確保デバイスを心臓表面に簡易かつ安定的に吸着させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、心嚢内視鏡手技において、内視鏡や処置具に特別な空間確保手段を設けることなく、かつ、心膜腔を不必要に拡張することなく、内視鏡や処置具の操作に必要な空間を確保して、例えば、心タンポナーデのような合併症を抑えつつ、操作性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図2】図1の空間確保デバイスの収縮状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の空間確保デバイスの拡張状態を示す縦断面図である。
【図4】図1の空間確保デバイスを示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る空間確保デバイスを示す斜視図である。
【図6】図5の空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図7】図5の空間確保デバイスの変形例を示す縦断面図である。
【図8】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図9】図8の空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図10】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図11】図10の空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図12】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図13】図12と同様の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図14】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図15】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図16】図15の空間確保デバイスの変形例を示す斜視図である。
【図17】図16の空間確保デバイスの変形例を示す斜視図である。
【図18】図15の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図19】図18の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図20】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図21】図20の空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図22】図14の空間確保デバイスの変形例を示す平面図である。
【図23】図22の空間確保デバイスの回収作業を説明する平面図である。
【図24】図5の空間確保デバイスの他の変形例であって拡張状態を示す斜視図である。
【図25】図24の空間確保デバイスの収縮状態を示す斜視図である。
【図26】図24の空間確保デバイスの変形例であって拡張状態を示す斜視図である。
【図27】図26の空間確保デバイスの収縮状態を示す平面図である。
【図28】図24の空間確保デバイスの変形例であって収縮状態を示す斜視図である。
【図29】図28の空間確保デバイスの拡張状態を示す斜視図である。
【図30】図8の空間確保デバイスの変形例を示す底面図である。
【図31】図6の空間確保デバイスの変形例の心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第1の実施形態に係る空間確保デバイス1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る空間確保デバイス1は、図1に示されるように、心臓Aと心膜Bとの間に配置される心膜腔C内に配置されて、心臓Aと心膜Bとの間隔を広げるデバイスである。
【0023】
本実施形態に係る空間確保デバイス1は、シリコーン樹脂等の拡張・収縮可能な弾性材料により構成され、心臓A表面に接触する心臓押圧部2と、心膜B内面に接触する心膜押圧部3と、これらを連結する連結部4とを備えた一体的な部材である。
心臓押圧部2は、図4に示されるように、略U字状の平板部分であって、内視鏡5により観察し、処置具6により処置しようとする範囲(例えば、疾患部位D)の周囲を部分的に取り囲む位置に配置されるようになっている。
【0024】
心膜押圧部3は、図4に示されるように、例えば矩形状の平板部分であって、図1に示されるように、外側面によって心膜Bを押圧するようになっている。また、図1に示されるように、心膜押圧部3の外側面とは反対側の面には反射膜3aがコーティングされていて、光Lを反射することができるようになっている。
【0025】
また、連結部4は、心臓押圧部2と心膜押圧部3とをそれぞれの一端どうしを連結する部分であり、内視鏡5を挿入可能な貫通孔4aと、処置具6を挿入可能な貫通孔4bとを備えている。
内視鏡5用の貫通孔4aは、空間確保デバイス1の外側から心臓押圧部2と心膜押圧部3との間に形成される空間7内に向かって、心臓押圧部2から離れる方向に傾斜しており、外側から挿入された内視鏡5の先端面5aを容易に斜め上向きに配することができるようになっている。また、処置具6用の貫通孔4bは、空間確保デバイス1の外側から空間7内に向かって、心膜押圧部3から離れる方向に傾斜していてもよい。
【0026】
本実施形態に係る空間確保デバイス1は、図2に示されるように、例えば、剣状突起下部から心膜腔C内に挿入されたシース(ガイドチューブ)8内に収容可能な収縮状態と、図3に示されるように、シース8内に基端側から挿入される押し出し棒9によって、シース8内から押し出されることにより解放された拡張状態との間で伸縮可能である。拡張状態では、予め設定された弾発力によって拡張するので、心膜Bと心臓Aとの間隔を不必要に拡張することなく、十分な空間7を形成するようになっている。
【0027】
このように構成された本実施形態に係る空間確保デバイス1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る空間確保デバイス1を用いて心臓Aの疾患部位D(例えば、心筋梗塞部位と正常部位との境界領域)を観察しつつ、幹細胞等を注入する処置を行うには、先端部分近傍に空間確保デバイス1を収縮させた状態で収容したシース8の先端部を、剣状突起下部等から、図2に示されるように心膜腔C内に挿入する。この状態では、心膜Bと心臓Aとが離間させられているのはシース8の先端部近傍に限定されている。
【0028】
この状態で、シース8の基端側から導入した押し出し棒9によって、シース8内に収容されている空間確保デバイス1を、図3に示されるように、シース8外に押し出す。このとき、心臓押圧部2が、図4に示されるように疾患部位Dを取り囲む位置に配置する。空間確保デバイス1は、弾性材料により構成されているので、その弾発力によって拡張し、心膜押圧部3によって心膜Bが押圧され、心臓押圧部2によって心臓Aが押圧され、疾患部位Dの近傍において心膜Bと心臓Aとの間隔を拡大することができる。
【0029】
このとき、空間確保デバイス1は、拡張状態では、予め設定された弾発力によって拡張するので、心膜Bと心臓Aとの間隔を不必要に拡張することなく、十分な空間7を形成することができる。
この後に、シース8内を介して内視鏡5および処置具6を心膜腔C内に導き、連結部4に設けられた心臓A側の貫通孔4aから内視鏡5を、心膜B側の貫通孔4bから処置具6を、それぞれ心臓押圧部2と心膜押圧部3との間に形成された空間7内に挿入する。
【0030】
内視鏡5用の貫通孔4aは空間7内に向かって心臓押圧部2から離れる方向に傾斜しているので、貫通孔4aに挿入された内視鏡5はその先端面5aが斜め上方に向かうように容易に導かれる。そして、図1に示されるように、先端面5aから照明光を照射すると、照明光は、心膜押圧部3に設けられた反射面3aによって心臓A表面側に反射され、心臓A表面を照明する。また、心臓A表面から戻る蛍光や反射光のような戻り光は、反射面3aを介して内視鏡5の先端面5aに設けられた図示しない対物レンズによって集光される。
【0031】
この場合において、内視鏡5の先端面5aから心臓A表面までの光路は反射面3aによって折り返されるので、心膜Bと心臓Aとの間隔を必要以上に広げなくても、内視鏡5の先端面5aから心臓A表面までの距離を確保することができる。したがって、照明光を過度に拡散させなくても疾患部位Dを十分に照明し、観察することができる。その結果、例えば、心タンポナーデのような合併症を抑えることができる。
【0032】
そして、この状態で、図1に示されるように、連結部4の心膜B側の貫通孔4bを介して空間7内に進入させた処置具6を内視鏡5によって観察しながら、処置具6の先端の注射針6aを疾患部位Dと正常部位との境界領域に確実に穿刺して、幹細胞等を注入することができる。
観察および処置を終えた後には、シース8内を介して導入した鉗子(図示略)によって空間確保デバイス1を把持し、変形させながらシース8内に引き込むことにより、容易に回収することができる。
【0033】
なお、本実施形態において、処置具6を挿入する貫通孔4aとして、空間確保デバイス1の外側から空間7内に向かって、心膜押圧部3から離れる方向に傾斜させることにより、処置具6の先端の注射針6aを疾患部位Dに向かわせ易くすることができるという利点がある。
また、本実施形態においては、反射面3aによって疾患部位Dを含む領域からの戻り光を反射させているため、取得される画像としては反転した画像となる。そこで、内視鏡5の基端側に接続された画像処理部(図示略)によって画像反転処理を行うことが好ましい。
【0034】
また、本発明においては、全体がシリコーン樹脂により構成されている場合を例示したが、これに代えて、他の弾性材料、例えば、ポリウレタン樹脂等により構成してもよい。また、心臓Aおよび心膜Bとのコンプライアンスを調整することにより、本実施形態に係る空間確保デバイス1を心臓Aの拍動や呼吸の影響により加わる力を抑制する部材として機能させることもできる。すなわち、心臓Aに接する心臓押圧部2は柔らかくて復元しやすいシリコーン樹脂やポリウレタン樹脂等により構成し、心膜Bに接する心膜押圧部3は硬く変形しにくい材料、例えば、PTFEやポリエチレン等により構成してもよい。また、その逆の構成としてもよい。
【0035】
また、シース8内に収容した収縮状態の空間確保デバイス1をシース8から押し出すことにより心膜腔C内で拡張させることとしたが、これに代えて、内視鏡5に備えられた鉗子チャネル(図示略)に収容した収縮状態の空間確保デバイス1を鉗子チャネルから押し出すこととしてもよい。
【0036】
また、空間確保デバイス1を構成するシリコーン樹脂等の中に、X線不透過な材料が混合されていることが好ましい。このようにすることで、X線透視画像によって心膜腔C内における位置を容易に確認することができる。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態に係る空間確保デバイス10−1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る空間確保デバイス10−1の説明において、上述した第1の実施形態に係る空間確保デバイス1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
本実施形態に係る空間確保デバイス10−1は、図5および図6に示されるように、椀型の部材である。空間確保デバイス10−1は、シリコーン樹脂等の弾性材料によって構成された広口の心臓側開口部11aを有する心臓押圧部11と、狭口の心膜側開口部12aを有する心膜押圧部12と、これらを連結する円環状の連結部13とを備えている。
【0039】
心膜側開口部12aは、内視鏡5の先端部を外部から内部に進入させるのに十分な口径を有している。心臓側開口部11aは、観察および処置すべき疾患部位Dを取り囲むのに十分な口径を有している。
連結部13は、外側に凸の球面状の曲面からなる外表面を有している。
本実施形態に係る空間確保デバイス10−1も、シース8内に収容可能な収縮状態と、シース8内から解放されて拡張し、心臓A表面と心膜Bとの間の間隔を広げる拡張状態との間で変形可能である。
【0040】
このように構成された本実施形態に係る空間確保デバイス10−1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る空間確保デバイス10−1を用いて心臓Aの疾患部位Dの観察および処置を行うには、第1の実施形態と同様に、空間確保デバイス10−1を収縮状態で収容したシース8を心膜腔C内に挿入し、シース8内から空間確保デバイス10−1を押し出すことにより、心臓側開口部11aが疾患部位Dを取り囲む位置において拡張させる。これにより、心臓押圧部11が心臓A表面に密着して心臓側開口部11aが心臓A表面によって塞がれる一方、心膜押圧部12が心膜B内面に密着して心膜側開口部12aが心膜B内面によって塞がれる。
【0041】
その後に、シース8を介して心膜腔C内に導いた内視鏡5を空間確保デバイス10−1の外表面に乗り上げさせて前進させることにより、図6に示されるように、心膜側開口部12aを閉塞していた心膜Bと心膜押圧部12との間に内視鏡5を滑り込ませて、その先端部を心膜側開口部12aから空間7内に容易に進入させることができる。
【0042】
これにより、内視鏡5の先端部は、心臓A表面から十分に離間した位置に配置され、その湾曲部の湾曲動作を空間7内において自由に行うことができる。したがって、内視鏡5の操作性が阻害されることなく、疾患部位Dの観察および、内視鏡5とは別個に、または内視鏡5の鉗子チャネルを介して導いた処置具6による処置を容易に行うことができるという利点がある。
【0043】
また、本実施形態に係る空間確保デバイス10−1によれば、その外表面が外側に凸の曲面により構成されているので、内視鏡5を外表面に倣って湾曲させ易く、心膜側開口部12aに進入する際の内視鏡5の操作を容易にすることができる。
【0044】
なお、外側に凸の曲面形状に代えて、図7に示されるように、外側に凹の曲面形状を有することにしてもよい。
このようにすることで、心臓A表面から立ち上がる位置において連結部13の外表面の傾斜角度を抑えることができ、内視鏡5を空間確保デバイス10−2の外表面に乗り上げさせ易くすることができるという利点がある。
【0045】
また、図6および図7に示される空間確保デバイス10−1,10−2は、薄肉の筒状に形成しているが、これに代えて、図8および図9に示されるように、横断面3角形の円環状の空間確保デバイス10−3を採用してもよい。この場合も、外表面として外周側から内周側に向かって肉厚になるように、傾斜面14を備えていてもよい。
【0046】
また、図10に示されるように、単に円形あるいは略楕円形の横断面形状を有する円環状の空間確保デバイス10−4を採用してもよい。これらによっても、図11に示されるように、内視鏡5の操作用のある程度の空間7を心膜Bと心臓A表面との間に容易に確保することができる。また、回収時に把持し易いように、外周側に突出する耳部(図示略)を設けることにしてもよい。
【0047】
また、図12および図13に示されるように、連結部13の外表面に、外周側と内周側とを結ぶように延びる1以上の溝15を有する空間確保デバイス10−5を採用してもよい。このようにすることで、内視鏡5を心膜側開口部12から内部の空間7に容易に導くことができるという利点がある。
【0048】
また、図14および図15に示されるように、心臓押圧部11が、円環状に閉じずに、略U字状の形態を有する空間確保デバイス10−6,10−7を採用してもよい。
この場合には、連結部13が部分的に開放されて開口部16が形成されるので、図中に矢印Eで示されるように、内視鏡5や処置具6をその開口部16を経由して空間確保デバイス10により囲まれた空間7に進入させることができる。
【0049】
また、図16および図17に示されるように、空間確保デバイス10−7においては、空間7内に進入させられる内視鏡5の先端部を心臓A表面から浮かせるような傾斜面(誘い台)17を心臓押圧部11に設けることにしてもよい。図17に示される例では、その傾斜面17に溝18が設けられている。内視鏡5や処置具6を溝18に保持させることで、操作の際に安定させることができる。
【0050】
また、略U字状の心臓押圧部11を、円形のみならず、図18および図19のように矩形にした空間確保デバイス10−8を採用してもよい。図19は、空間7内に進入させられる内視鏡5の先端部を心臓A表面から浮かせるような傾斜面17を心臓押圧部11に設けた例であり、図17と同様の溝18を有していてもよい。
【0051】
また、図20および図21に示されるように、連結部13を複数の支柱によって構成し、籠状の空間確保デバイス10−9を構成してもよい。図20および図21に示される例では、支柱からなる連結部13の間に設けられた各開口部16には心臓押圧部11に傾斜面17がそれぞれ設けられている。これにより、内部の空間7に進入させる際の内視鏡5等を心臓A表面から浮かせることができる。
【0052】
また、図22および図23に示されるように、空間確保デバイス(ここでは、空間確保デバイス10−6を例に挙げて説明する。)には、該空間確保デバイス10−6を複数の小片10aに分割するための分割線19を有するものを採用してもよい。この分割線19位置においては、その横断面積を十分に小さくしており、鉗子F等によって簡易に切断することができるようになっている。そして、切断した空間確保デバイス10−6の小片10aは、図24に示されるように、内視鏡5によって観察しながら、シース8内に容易に引き込むことができ、回収作業を容易にすることができるという利点がある。分割線19は他の空間確保デバイス1,10−1〜10−9に適用してもよい。
【0053】
また、上記各実施形態においては、シリコーン樹脂等の弾性材料によって構成された空間確保デバイス1,10−1〜10−9を例示に挙げて説明したが、これに代えて、図24〜図29に示されるように、金属材料あるいは樹脂材料からなるワイヤによって構成された空間確保デバイス30−1〜30−3を採用してもよい。
例えば、図24および図25に示される空間確保デバイス30−1は、4本のリング状のワイヤ20をチューブ21等で相対移動可能に接続したもので、図25に示される収縮状態と図24に示される拡張状態との間で変形することができるようになっている。
【0054】
すなわち、図25に示される収縮状態として心膜腔C内にシース8等により容易に導入することができ、シース8から解放された後には、図24に示されるように拡張状態となって、心膜Bと心臓Aとの間の空間7を広げるように構成されている。
また、ワイヤ20を形状記憶材料によって構成することにより、例えば、シース8内においては冷却して、図25に示される収縮状態に維持し、心膜腔C内に投入された後には、体温によって図24に示される拡張状態にすることにしてもよい。冷却方法としてはペルチェ素子による方法や液体窒素のような低温媒体を吹き付けることにより行うことができる。また、回収時にも冷却するだけで図25の収縮状態となるので、容易に回収することができる。
【0055】
また、図26に示されるように、弾性材料からなる環状のワイヤ20を1箇所の接合部22で束ねるとともに、両端を糸23で繋いだ構造の空間確保デバイス30−2を採用してもよい。図26は、空間確保デバイス30−2の拡張状態を示している。糸23で繋いだ部分を心臓押圧部11、接合部22部分を心膜押圧部12とすると、心膜腔C内において安定して空間7を形成することができる。このような空間確保デバイス30−2は、折り曲げることで小さく折り畳むことができ、シース8内に容易に収容することができる。また、シース8内に回収する際には、例えば、図26において破線Gで囲まれた位置を鉗子F等によって切断することにより、図27に示されるように、細長い形態にすることができ、シース8内に容易に回収することができる。
【0056】
また、図28および図29に示されるように、弾性材料からなる2本の環状のワイヤ20を2箇所の接合部22で束ねるとともに、一方のワイヤ20の両端を糸23で繋いだ構造の空間確保デバイス30−3を採用してもよい。糸23で繋がれていない一方の環状のワイヤ20を心臓押圧部11、糸23で繋いだ部分を心膜押圧部12とすることにより、心膜腔C内において安定して空間7を形成することができる。このような空間確保デバイス10は、図28に示されるように、折り曲げることで小さく折り畳むことができ、シース8内に容易に収容することができる。また、シース8内に回収する際には、例えば、図29において破線Gで囲まれた位置を鉗子F等によって切断することにより、2つの環状のワイヤ20を重ねただけの細長い形態にすることができ、シース8内に容易に回収することができる。
【0057】
また、図30および図31に示されるように、心臓押圧部11を心臓A表面に吸着させる吸着手段を備えた空間確保デバイス(ここでは空間確保デバイス10−3,10−1を例示して説明する。)を採用してもよい。
図30に示す例は、吸着手段として、心臓押圧部11の心臓A表面への密着面に開口する吸着孔24を有する空間確保デバイス10−3を示している。吸着孔24には負圧を供給する連通孔25およびチューブ26が接続され、該連通孔25およびチューブ26を介して負圧を供給することにより、吸着孔24によって心臓押圧部11を心臓A表面に吸着固定することができる。疾患部位Dを取り囲む所望の位置において吸着固定させることにより、観察および処置を安定して行うことができる。
【0058】
また、図31に示す例は、先端に磁石27を配置したプローブ28を心臓A内に配置し、空間確保デバイス10−1の心臓押圧部11に磁性材料29を配置したものである。これにより、磁石27と磁性材料29との間に発生する磁気吸引力によって、心臓押圧部11を心臓A表面に吸着固定することができる。心臓押圧部11に配置した磁性材料29に代えて磁石を配置してもよい。この場合には、プローブ28の先端には磁石または磁性材料のいずれかを配置すればよい。
【0059】
また、心臓押圧部11を心臓A表面に固定するために、生体接着剤を使用してもよい。また、空間確保デバイスを心臓A表面に固定することに代えて、心膜Bに固定することとしてもよい。固定方法としては、心臓A内に配置した磁石27との間に磁気反発力を発生させる磁石(図示略)を心臓押圧部11に配置してもよいし、接着剤、負圧吸引、把持あるいは穿刺等の他の任意の固定方法を採用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
A 心臓
B 心膜
C 心膜腔
1,10−1〜10−9,30−1〜30−3 空間確保デバイス
3a 反射面
7 空間
8 シース(ガイドチューブ)
10a 小片
11 心臓押圧部
11a 心臓側開口部
12 心膜押圧部
12a 心膜側開口部
13 連結部
15 溝
16 開口部
17 傾斜面
19 分割線
24 吸着孔(吸着手段)
25 連通孔(吸着手段)
26 チューブ(吸着手段)
27 磁石(吸着手段)
29 磁性材料(吸着手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間確保デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、剣状突起の直下から心膜腔に内視鏡および処置具を挿入し、開胸手術を行うことなく、疾患部位(例えば、心筋梗塞部位と正常部位の境界領域)に幹細胞等を注入する心嚢内視鏡手技が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開2004/0064138A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の心嚢内視鏡手技においては、心膜腔に挿入された内視鏡には、常に、心膜から心臓側に押し付ける力が作用するという不都合がある。すなわち、心膜腔内に挿入された内視鏡によって心臓を観察・処置するためには、心臓の外壁面に対して内視鏡との間に空間を形成する必要があるが、特許文献1の心嚢内視鏡手技においては、内視鏡に作用する心膜からの力によって内視鏡の操作に自由が利かず、操作性が悪いという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、心嚢内視鏡手技において、内視鏡や処置具に特別な空間確保手段を設けることなく、かつ、心膜腔を不必要に拡張することなく、内視鏡や処置具の操作に必要な空間を確保して、例えば、心タンポナーデのような合併症を抑えつつ、操作性を向上することができる空間確保デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、心膜腔内に挿入されるガイドチューブ内に収容可能な収縮状態と、ガイドチューブ外に放出されて拡張する拡張状態との間で変形可能であり、かつ、心膜および心臓から受ける圧力に抗して拡張可能な弾発力を発生する弾性材料からなり、拡張した状態で、心臓表面に開口し、外部から進入可能な空間を内側に形成する形状を有する空間確保デバイスを提供する。
【0007】
本発明によれば、心膜腔内にガイドチューブ(シースあるいは内視鏡等)を挿入し、ガイドチューブ内に収縮状態で収容された空間確保デバイスをガイドチューブ外に押し出すと、ガイドチューブから解放された空間確保デバイスが、心膜腔内においてその弾発力によって拡張状態に復元しようとして拡張し、心臓と心膜との間の隙間を押し広げて内側に空間を形成する。これにより、心膜腔を予め設定された寸法に押し広げ、不必要に拡張することが防止される。空間は、心臓表面に開口しているとともに、外部から進入できる。したがって、形成された空間内に外部から内視鏡の先端部や処置具を進入させることで、内視鏡や処置具の動作が心膜や心臓によって阻害されることを防止して、操作性を向上することができる。
【0008】
上記発明においては、前記心膜を心膜腔側から押圧する心膜押圧部と、前記心臓表面を心膜腔側から押圧する心臓押圧部と、これらを心膜押圧部および心臓押圧部を連結する連結部とを備え、該連結部が弾発力を発生してもよい。
このようにすることで、ガイドチューブ内に収容されている状態からガイドチューブ外に押し出されると、連結部の弾発力によって心膜押圧部と心臓押圧部とが相互に離間する方向に押されて拡張され、心臓表面に対して心膜が引き離されるように移動させられて、心膜押圧部と心臓押圧部との間に空間が形成される。これにより、空間内に外部から内視鏡や処置具等を進入させて心膜や心臓によって阻害されることなく内視鏡や処置具を操作することが可能となる。
【0009】
また、上記発明においては、前記心膜押圧部が板状に形成され、該心膜押圧部の前記心膜に接触する側とは反対側の表面に、照明光を反射する反射面が設けられていてもよい。
このようにすることで、空間確保デバイスを心臓と心膜との間で拡張させた状態で、空間内に進入させた内視鏡の先端部等からの照明光を心膜押圧部に向けて射出すると、心膜押圧部に設けられている反射面によって照明光が反射されて、反射面に対向している心臓表面に照射される。これにより、照明光の射出端から心臓表面までの距離を確保することができ、過大な拡散光を使用しなくても心臓表面の広い範囲を照明することが可能となる。
【0010】
また、上記発明においては、前記心膜押圧部に、前記空間を前記心膜側に開口させる心膜側開口部が設けられ、前記心臓押圧部に、前記空間を前記心臓側に開口させる心臓側開口部が設けられ、前記連結部が、前記心膜押圧部から前記心臓押圧部に向かって漸次広がる環状に形成されていてもよい。
【0011】
このようにすることで、心膜腔内に空間確保デバイスを押し出すと、心膜押圧部を心膜に接触させ、心臓押圧部を心臓に接触させて、心膜と心臓との距離を広げるように拡張し、内部に空間を形成する。この空間は、心膜側開口部によって心膜側に開口され、心臓側開口部によって心臓側に開口される。心膜押圧部から心臓押圧部に向かって漸次広がる環状に形成された連結部により、心膜腔内に挿入した内視鏡等を連結部の外表面に沿って容易に乗り上げさせ、内視鏡等の先端部を心膜押圧部と心膜との間から心膜側開口部を介して空間内に容易に進入させることができる。これにより、心臓表面から離れた位置に内視鏡等の先端部を配置して心臓表面を観察することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記連結部が、少なくとも前記心膜押圧部の近傍において、外側に凸の曲面からなる外表面を有していてもよい。
このようにすることで、連結部の外表面に沿って心膜押圧部の心膜側開口部に進入する内視鏡等を進入し易くすることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記連結部が、少なくとも前記心臓押圧部の近傍において、外側に凹の曲面からなる外表面を有していてもよい。
このようにすることで、心臓表面から連結部の外表面にわたって、傾斜角度を徐々に増大させることができ、心膜腔内において心臓の表面に沿って導入された内視鏡等の連結部の外表面への乗り上げ易さを向上することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記外表面に、前記心臓押圧部の外縁から前記心膜側開口部の内縁まで延びる1以上の溝を備えていてもよい。
このようにすることで、連結部の外表面に乗り上げた内視鏡等を溝に沿って心膜側開口部まで容易に導くことができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記心臓押圧部が、前記空間の一部を取り囲む略U字状に形成され、前記連結部に、前記空間内外を連絡する開口部が設けられていてもよい。
このようにすることで、略U字状の心臓押圧部によって心臓表面の処置範囲を取り囲むように空間確保デバイスを配置することができ、連結部に設けられた開口部を介して内視鏡等を空間内に進入させることで、心臓や心膜等に阻害されることなく内視鏡等を操作することが可能となる。
【0016】
また、上記発明においては、前記連結部、前記空間内外を連絡する開口部が設けられ、前記心臓押圧部の少なくとも一部に、前記開口部の外側から内側に向かって高くなる傾斜面を備えていてもよい。
このようにすることで、内視鏡等を空間に進入させる際に傾斜面によって、心臓表面から先端部を浮かせることができ、心臓表面から離れた位置において観察や処置を行うことが可能となる。
【0017】
また、上記発明においては、複数の小片に分割するための複数の分割線を備えていてもよい。
このようにすることで、観察あるいは処置終了後に、拡張した空間確保デバイスを回収する際に、分割線によって容易に複数の小片に分割することができ、回収を容易にすることができる。
また、上記発明においては、生体親和性を有する樹脂材料または金属材料により構成されていてもよい。
【0018】
また、上記発明においては、前記心臓押圧部を、前記心臓の表面に吸着させる吸着手段を備えていてもよい。
このようにすることで、吸着手段によって空間確保デバイスを心臓表面に吸着させて安定して固定することができ、内視鏡等の操作時に内視鏡が空間確保デバイスに衝突しても、空間確保デバイスが所望の位置から移動してしまう不都合の発生を防止することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記吸着手段が、負圧により心臓押圧部を前記心臓の表面に吸着させてもよい。
また、上記発明においては、前記吸着手段が、心臓内または前記心臓押圧部のいずれか一方に設けられる磁石と、他方に設けられる磁石または磁性材料とを備えていてもよい。
このようにすることで、空間確保デバイスを心臓表面に簡易かつ安定的に吸着させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、心嚢内視鏡手技において、内視鏡や処置具に特別な空間確保手段を設けることなく、かつ、心膜腔を不必要に拡張することなく、内視鏡や処置具の操作に必要な空間を確保して、例えば、心タンポナーデのような合併症を抑えつつ、操作性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図2】図1の空間確保デバイスの収縮状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の空間確保デバイスの拡張状態を示す縦断面図である。
【図4】図1の空間確保デバイスを示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る空間確保デバイスを示す斜視図である。
【図6】図5の空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図7】図5の空間確保デバイスの変形例を示す縦断面図である。
【図8】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図9】図8の空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図10】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図11】図10の空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図12】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図13】図12と同様の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図14】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図15】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図16】図15の空間確保デバイスの変形例を示す斜視図である。
【図17】図16の空間確保デバイスの変形例を示す斜視図である。
【図18】図15の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図19】図18の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図20】図5の空間確保デバイスの他の変形例を示す斜視図である。
【図21】図20の空間確保デバイスの心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【図22】図14の空間確保デバイスの変形例を示す平面図である。
【図23】図22の空間確保デバイスの回収作業を説明する平面図である。
【図24】図5の空間確保デバイスの他の変形例であって拡張状態を示す斜視図である。
【図25】図24の空間確保デバイスの収縮状態を示す斜視図である。
【図26】図24の空間確保デバイスの変形例であって拡張状態を示す斜視図である。
【図27】図26の空間確保デバイスの収縮状態を示す平面図である。
【図28】図24の空間確保デバイスの変形例であって収縮状態を示す斜視図である。
【図29】図28の空間確保デバイスの拡張状態を示す斜視図である。
【図30】図8の空間確保デバイスの変形例を示す底面図である。
【図31】図6の空間確保デバイスの変形例の心膜腔内における使用状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第1の実施形態に係る空間確保デバイス1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る空間確保デバイス1は、図1に示されるように、心臓Aと心膜Bとの間に配置される心膜腔C内に配置されて、心臓Aと心膜Bとの間隔を広げるデバイスである。
【0023】
本実施形態に係る空間確保デバイス1は、シリコーン樹脂等の拡張・収縮可能な弾性材料により構成され、心臓A表面に接触する心臓押圧部2と、心膜B内面に接触する心膜押圧部3と、これらを連結する連結部4とを備えた一体的な部材である。
心臓押圧部2は、図4に示されるように、略U字状の平板部分であって、内視鏡5により観察し、処置具6により処置しようとする範囲(例えば、疾患部位D)の周囲を部分的に取り囲む位置に配置されるようになっている。
【0024】
心膜押圧部3は、図4に示されるように、例えば矩形状の平板部分であって、図1に示されるように、外側面によって心膜Bを押圧するようになっている。また、図1に示されるように、心膜押圧部3の外側面とは反対側の面には反射膜3aがコーティングされていて、光Lを反射することができるようになっている。
【0025】
また、連結部4は、心臓押圧部2と心膜押圧部3とをそれぞれの一端どうしを連結する部分であり、内視鏡5を挿入可能な貫通孔4aと、処置具6を挿入可能な貫通孔4bとを備えている。
内視鏡5用の貫通孔4aは、空間確保デバイス1の外側から心臓押圧部2と心膜押圧部3との間に形成される空間7内に向かって、心臓押圧部2から離れる方向に傾斜しており、外側から挿入された内視鏡5の先端面5aを容易に斜め上向きに配することができるようになっている。また、処置具6用の貫通孔4bは、空間確保デバイス1の外側から空間7内に向かって、心膜押圧部3から離れる方向に傾斜していてもよい。
【0026】
本実施形態に係る空間確保デバイス1は、図2に示されるように、例えば、剣状突起下部から心膜腔C内に挿入されたシース(ガイドチューブ)8内に収容可能な収縮状態と、図3に示されるように、シース8内に基端側から挿入される押し出し棒9によって、シース8内から押し出されることにより解放された拡張状態との間で伸縮可能である。拡張状態では、予め設定された弾発力によって拡張するので、心膜Bと心臓Aとの間隔を不必要に拡張することなく、十分な空間7を形成するようになっている。
【0027】
このように構成された本実施形態に係る空間確保デバイス1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る空間確保デバイス1を用いて心臓Aの疾患部位D(例えば、心筋梗塞部位と正常部位との境界領域)を観察しつつ、幹細胞等を注入する処置を行うには、先端部分近傍に空間確保デバイス1を収縮させた状態で収容したシース8の先端部を、剣状突起下部等から、図2に示されるように心膜腔C内に挿入する。この状態では、心膜Bと心臓Aとが離間させられているのはシース8の先端部近傍に限定されている。
【0028】
この状態で、シース8の基端側から導入した押し出し棒9によって、シース8内に収容されている空間確保デバイス1を、図3に示されるように、シース8外に押し出す。このとき、心臓押圧部2が、図4に示されるように疾患部位Dを取り囲む位置に配置する。空間確保デバイス1は、弾性材料により構成されているので、その弾発力によって拡張し、心膜押圧部3によって心膜Bが押圧され、心臓押圧部2によって心臓Aが押圧され、疾患部位Dの近傍において心膜Bと心臓Aとの間隔を拡大することができる。
【0029】
このとき、空間確保デバイス1は、拡張状態では、予め設定された弾発力によって拡張するので、心膜Bと心臓Aとの間隔を不必要に拡張することなく、十分な空間7を形成することができる。
この後に、シース8内を介して内視鏡5および処置具6を心膜腔C内に導き、連結部4に設けられた心臓A側の貫通孔4aから内視鏡5を、心膜B側の貫通孔4bから処置具6を、それぞれ心臓押圧部2と心膜押圧部3との間に形成された空間7内に挿入する。
【0030】
内視鏡5用の貫通孔4aは空間7内に向かって心臓押圧部2から離れる方向に傾斜しているので、貫通孔4aに挿入された内視鏡5はその先端面5aが斜め上方に向かうように容易に導かれる。そして、図1に示されるように、先端面5aから照明光を照射すると、照明光は、心膜押圧部3に設けられた反射面3aによって心臓A表面側に反射され、心臓A表面を照明する。また、心臓A表面から戻る蛍光や反射光のような戻り光は、反射面3aを介して内視鏡5の先端面5aに設けられた図示しない対物レンズによって集光される。
【0031】
この場合において、内視鏡5の先端面5aから心臓A表面までの光路は反射面3aによって折り返されるので、心膜Bと心臓Aとの間隔を必要以上に広げなくても、内視鏡5の先端面5aから心臓A表面までの距離を確保することができる。したがって、照明光を過度に拡散させなくても疾患部位Dを十分に照明し、観察することができる。その結果、例えば、心タンポナーデのような合併症を抑えることができる。
【0032】
そして、この状態で、図1に示されるように、連結部4の心膜B側の貫通孔4bを介して空間7内に進入させた処置具6を内視鏡5によって観察しながら、処置具6の先端の注射針6aを疾患部位Dと正常部位との境界領域に確実に穿刺して、幹細胞等を注入することができる。
観察および処置を終えた後には、シース8内を介して導入した鉗子(図示略)によって空間確保デバイス1を把持し、変形させながらシース8内に引き込むことにより、容易に回収することができる。
【0033】
なお、本実施形態において、処置具6を挿入する貫通孔4aとして、空間確保デバイス1の外側から空間7内に向かって、心膜押圧部3から離れる方向に傾斜させることにより、処置具6の先端の注射針6aを疾患部位Dに向かわせ易くすることができるという利点がある。
また、本実施形態においては、反射面3aによって疾患部位Dを含む領域からの戻り光を反射させているため、取得される画像としては反転した画像となる。そこで、内視鏡5の基端側に接続された画像処理部(図示略)によって画像反転処理を行うことが好ましい。
【0034】
また、本発明においては、全体がシリコーン樹脂により構成されている場合を例示したが、これに代えて、他の弾性材料、例えば、ポリウレタン樹脂等により構成してもよい。また、心臓Aおよび心膜Bとのコンプライアンスを調整することにより、本実施形態に係る空間確保デバイス1を心臓Aの拍動や呼吸の影響により加わる力を抑制する部材として機能させることもできる。すなわち、心臓Aに接する心臓押圧部2は柔らかくて復元しやすいシリコーン樹脂やポリウレタン樹脂等により構成し、心膜Bに接する心膜押圧部3は硬く変形しにくい材料、例えば、PTFEやポリエチレン等により構成してもよい。また、その逆の構成としてもよい。
【0035】
また、シース8内に収容した収縮状態の空間確保デバイス1をシース8から押し出すことにより心膜腔C内で拡張させることとしたが、これに代えて、内視鏡5に備えられた鉗子チャネル(図示略)に収容した収縮状態の空間確保デバイス1を鉗子チャネルから押し出すこととしてもよい。
【0036】
また、空間確保デバイス1を構成するシリコーン樹脂等の中に、X線不透過な材料が混合されていることが好ましい。このようにすることで、X線透視画像によって心膜腔C内における位置を容易に確認することができる。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態に係る空間確保デバイス10−1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る空間確保デバイス10−1の説明において、上述した第1の実施形態に係る空間確保デバイス1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
本実施形態に係る空間確保デバイス10−1は、図5および図6に示されるように、椀型の部材である。空間確保デバイス10−1は、シリコーン樹脂等の弾性材料によって構成された広口の心臓側開口部11aを有する心臓押圧部11と、狭口の心膜側開口部12aを有する心膜押圧部12と、これらを連結する円環状の連結部13とを備えている。
【0039】
心膜側開口部12aは、内視鏡5の先端部を外部から内部に進入させるのに十分な口径を有している。心臓側開口部11aは、観察および処置すべき疾患部位Dを取り囲むのに十分な口径を有している。
連結部13は、外側に凸の球面状の曲面からなる外表面を有している。
本実施形態に係る空間確保デバイス10−1も、シース8内に収容可能な収縮状態と、シース8内から解放されて拡張し、心臓A表面と心膜Bとの間の間隔を広げる拡張状態との間で変形可能である。
【0040】
このように構成された本実施形態に係る空間確保デバイス10−1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る空間確保デバイス10−1を用いて心臓Aの疾患部位Dの観察および処置を行うには、第1の実施形態と同様に、空間確保デバイス10−1を収縮状態で収容したシース8を心膜腔C内に挿入し、シース8内から空間確保デバイス10−1を押し出すことにより、心臓側開口部11aが疾患部位Dを取り囲む位置において拡張させる。これにより、心臓押圧部11が心臓A表面に密着して心臓側開口部11aが心臓A表面によって塞がれる一方、心膜押圧部12が心膜B内面に密着して心膜側開口部12aが心膜B内面によって塞がれる。
【0041】
その後に、シース8を介して心膜腔C内に導いた内視鏡5を空間確保デバイス10−1の外表面に乗り上げさせて前進させることにより、図6に示されるように、心膜側開口部12aを閉塞していた心膜Bと心膜押圧部12との間に内視鏡5を滑り込ませて、その先端部を心膜側開口部12aから空間7内に容易に進入させることができる。
【0042】
これにより、内視鏡5の先端部は、心臓A表面から十分に離間した位置に配置され、その湾曲部の湾曲動作を空間7内において自由に行うことができる。したがって、内視鏡5の操作性が阻害されることなく、疾患部位Dの観察および、内視鏡5とは別個に、または内視鏡5の鉗子チャネルを介して導いた処置具6による処置を容易に行うことができるという利点がある。
【0043】
また、本実施形態に係る空間確保デバイス10−1によれば、その外表面が外側に凸の曲面により構成されているので、内視鏡5を外表面に倣って湾曲させ易く、心膜側開口部12aに進入する際の内視鏡5の操作を容易にすることができる。
【0044】
なお、外側に凸の曲面形状に代えて、図7に示されるように、外側に凹の曲面形状を有することにしてもよい。
このようにすることで、心臓A表面から立ち上がる位置において連結部13の外表面の傾斜角度を抑えることができ、内視鏡5を空間確保デバイス10−2の外表面に乗り上げさせ易くすることができるという利点がある。
【0045】
また、図6および図7に示される空間確保デバイス10−1,10−2は、薄肉の筒状に形成しているが、これに代えて、図8および図9に示されるように、横断面3角形の円環状の空間確保デバイス10−3を採用してもよい。この場合も、外表面として外周側から内周側に向かって肉厚になるように、傾斜面14を備えていてもよい。
【0046】
また、図10に示されるように、単に円形あるいは略楕円形の横断面形状を有する円環状の空間確保デバイス10−4を採用してもよい。これらによっても、図11に示されるように、内視鏡5の操作用のある程度の空間7を心膜Bと心臓A表面との間に容易に確保することができる。また、回収時に把持し易いように、外周側に突出する耳部(図示略)を設けることにしてもよい。
【0047】
また、図12および図13に示されるように、連結部13の外表面に、外周側と内周側とを結ぶように延びる1以上の溝15を有する空間確保デバイス10−5を採用してもよい。このようにすることで、内視鏡5を心膜側開口部12から内部の空間7に容易に導くことができるという利点がある。
【0048】
また、図14および図15に示されるように、心臓押圧部11が、円環状に閉じずに、略U字状の形態を有する空間確保デバイス10−6,10−7を採用してもよい。
この場合には、連結部13が部分的に開放されて開口部16が形成されるので、図中に矢印Eで示されるように、内視鏡5や処置具6をその開口部16を経由して空間確保デバイス10により囲まれた空間7に進入させることができる。
【0049】
また、図16および図17に示されるように、空間確保デバイス10−7においては、空間7内に進入させられる内視鏡5の先端部を心臓A表面から浮かせるような傾斜面(誘い台)17を心臓押圧部11に設けることにしてもよい。図17に示される例では、その傾斜面17に溝18が設けられている。内視鏡5や処置具6を溝18に保持させることで、操作の際に安定させることができる。
【0050】
また、略U字状の心臓押圧部11を、円形のみならず、図18および図19のように矩形にした空間確保デバイス10−8を採用してもよい。図19は、空間7内に進入させられる内視鏡5の先端部を心臓A表面から浮かせるような傾斜面17を心臓押圧部11に設けた例であり、図17と同様の溝18を有していてもよい。
【0051】
また、図20および図21に示されるように、連結部13を複数の支柱によって構成し、籠状の空間確保デバイス10−9を構成してもよい。図20および図21に示される例では、支柱からなる連結部13の間に設けられた各開口部16には心臓押圧部11に傾斜面17がそれぞれ設けられている。これにより、内部の空間7に進入させる際の内視鏡5等を心臓A表面から浮かせることができる。
【0052】
また、図22および図23に示されるように、空間確保デバイス(ここでは、空間確保デバイス10−6を例に挙げて説明する。)には、該空間確保デバイス10−6を複数の小片10aに分割するための分割線19を有するものを採用してもよい。この分割線19位置においては、その横断面積を十分に小さくしており、鉗子F等によって簡易に切断することができるようになっている。そして、切断した空間確保デバイス10−6の小片10aは、図24に示されるように、内視鏡5によって観察しながら、シース8内に容易に引き込むことができ、回収作業を容易にすることができるという利点がある。分割線19は他の空間確保デバイス1,10−1〜10−9に適用してもよい。
【0053】
また、上記各実施形態においては、シリコーン樹脂等の弾性材料によって構成された空間確保デバイス1,10−1〜10−9を例示に挙げて説明したが、これに代えて、図24〜図29に示されるように、金属材料あるいは樹脂材料からなるワイヤによって構成された空間確保デバイス30−1〜30−3を採用してもよい。
例えば、図24および図25に示される空間確保デバイス30−1は、4本のリング状のワイヤ20をチューブ21等で相対移動可能に接続したもので、図25に示される収縮状態と図24に示される拡張状態との間で変形することができるようになっている。
【0054】
すなわち、図25に示される収縮状態として心膜腔C内にシース8等により容易に導入することができ、シース8から解放された後には、図24に示されるように拡張状態となって、心膜Bと心臓Aとの間の空間7を広げるように構成されている。
また、ワイヤ20を形状記憶材料によって構成することにより、例えば、シース8内においては冷却して、図25に示される収縮状態に維持し、心膜腔C内に投入された後には、体温によって図24に示される拡張状態にすることにしてもよい。冷却方法としてはペルチェ素子による方法や液体窒素のような低温媒体を吹き付けることにより行うことができる。また、回収時にも冷却するだけで図25の収縮状態となるので、容易に回収することができる。
【0055】
また、図26に示されるように、弾性材料からなる環状のワイヤ20を1箇所の接合部22で束ねるとともに、両端を糸23で繋いだ構造の空間確保デバイス30−2を採用してもよい。図26は、空間確保デバイス30−2の拡張状態を示している。糸23で繋いだ部分を心臓押圧部11、接合部22部分を心膜押圧部12とすると、心膜腔C内において安定して空間7を形成することができる。このような空間確保デバイス30−2は、折り曲げることで小さく折り畳むことができ、シース8内に容易に収容することができる。また、シース8内に回収する際には、例えば、図26において破線Gで囲まれた位置を鉗子F等によって切断することにより、図27に示されるように、細長い形態にすることができ、シース8内に容易に回収することができる。
【0056】
また、図28および図29に示されるように、弾性材料からなる2本の環状のワイヤ20を2箇所の接合部22で束ねるとともに、一方のワイヤ20の両端を糸23で繋いだ構造の空間確保デバイス30−3を採用してもよい。糸23で繋がれていない一方の環状のワイヤ20を心臓押圧部11、糸23で繋いだ部分を心膜押圧部12とすることにより、心膜腔C内において安定して空間7を形成することができる。このような空間確保デバイス10は、図28に示されるように、折り曲げることで小さく折り畳むことができ、シース8内に容易に収容することができる。また、シース8内に回収する際には、例えば、図29において破線Gで囲まれた位置を鉗子F等によって切断することにより、2つの環状のワイヤ20を重ねただけの細長い形態にすることができ、シース8内に容易に回収することができる。
【0057】
また、図30および図31に示されるように、心臓押圧部11を心臓A表面に吸着させる吸着手段を備えた空間確保デバイス(ここでは空間確保デバイス10−3,10−1を例示して説明する。)を採用してもよい。
図30に示す例は、吸着手段として、心臓押圧部11の心臓A表面への密着面に開口する吸着孔24を有する空間確保デバイス10−3を示している。吸着孔24には負圧を供給する連通孔25およびチューブ26が接続され、該連通孔25およびチューブ26を介して負圧を供給することにより、吸着孔24によって心臓押圧部11を心臓A表面に吸着固定することができる。疾患部位Dを取り囲む所望の位置において吸着固定させることにより、観察および処置を安定して行うことができる。
【0058】
また、図31に示す例は、先端に磁石27を配置したプローブ28を心臓A内に配置し、空間確保デバイス10−1の心臓押圧部11に磁性材料29を配置したものである。これにより、磁石27と磁性材料29との間に発生する磁気吸引力によって、心臓押圧部11を心臓A表面に吸着固定することができる。心臓押圧部11に配置した磁性材料29に代えて磁石を配置してもよい。この場合には、プローブ28の先端には磁石または磁性材料のいずれかを配置すればよい。
【0059】
また、心臓押圧部11を心臓A表面に固定するために、生体接着剤を使用してもよい。また、空間確保デバイスを心臓A表面に固定することに代えて、心膜Bに固定することとしてもよい。固定方法としては、心臓A内に配置した磁石27との間に磁気反発力を発生させる磁石(図示略)を心臓押圧部11に配置してもよいし、接着剤、負圧吸引、把持あるいは穿刺等の他の任意の固定方法を採用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
A 心臓
B 心膜
C 心膜腔
1,10−1〜10−9,30−1〜30−3 空間確保デバイス
3a 反射面
7 空間
8 シース(ガイドチューブ)
10a 小片
11 心臓押圧部
11a 心臓側開口部
12 心膜押圧部
12a 心膜側開口部
13 連結部
15 溝
16 開口部
17 傾斜面
19 分割線
24 吸着孔(吸着手段)
25 連通孔(吸着手段)
26 チューブ(吸着手段)
27 磁石(吸着手段)
29 磁性材料(吸着手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心膜腔内に挿入されるガイドチューブ内に収容可能な収縮状態と、ガイドチューブ外に放出されて拡張する拡張状態との間で変形可能であり、かつ、心膜および心臓から受ける圧力に抗して拡張可能な弾発力を発生する弾性材料からなり、
拡張した状態で、心臓表面に開口し、外部から進入可能な空間を内側に形成する形状を有する空間確保デバイス。
【請求項2】
前記心膜を心膜腔側から押圧する心膜押圧部と、
前記心臓表面を心膜腔側から押圧する心臓押圧部と、
これらを心膜押圧部および心臓押圧部を連結する連結部とを備え、
該連結部が弾発力を発生する請求項1に記載の空間確保デバイス。
【請求項3】
前記心膜押圧部が板状に形成され、
該心膜押圧部の前記心膜に接触する側とは反対側の表面に、照明光を反射する反射面が設けられている請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項4】
前記心膜押圧部に、前記空間を前記心膜側に開口させる心膜側開口部が設けられ、
前記心臓押圧部に、前記空間を前記心臓側に開口させる心臓側開口部が設けられ、
前記連結部が、前記心膜押圧部から前記心臓押圧部に向かって漸次広がる環状に形成されている請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項5】
前記連結部が、少なくとも前記心膜押圧部の近傍において、外側に凸の曲面からなる外表面を有する請求項4に記載の空間確保デバイス。
【請求項6】
前記連結部が、少なくとも前記心臓押圧部の近傍において、外側に凹の曲面からなる外表面を有する請求項4に記載の空間確保デバイス。
【請求項7】
前記外表面に、前記心臓押圧部の外縁から前記心膜側開口部の内縁まで延びる1以上の溝を備える請求項5または請求項6に記載の空間確保デバイス。
【請求項8】
前記心臓押圧部が、前記空間の一部を取り囲む略U字状に形成され、
前記連結部に、前記空間内外を連絡する開口部が設けられている請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項9】
前記連結部に、前記空間内外を連絡する開口部が設けられ、
前記心臓押圧部の少なくとも一部に、前記開口部の外側から内側に向かって高くなる傾斜面を備える請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項10】
複数の小片に分割するための複数の分割線を備える請求項1から請求項9のいずれかに記載の空間確保デバイス。
【請求項11】
生体親和性を有する樹脂材料または金属材料により構成されている請求項1から請求項10のいずれかに記載の空間確保デバイス。
【請求項12】
前記心臓押圧部を、前記心臓の表面に吸着させる吸着手段を備える請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項13】
前記吸着手段が、負圧により心臓押圧部を前記心臓の表面に吸着させる請求項12に記載の空間確保デバイス。
【請求項14】
前記吸着手段が、心臓内または前記心臓押圧部のいずれか一方に設けられる磁石と、他方に設けられる磁石または磁性材料とを備える請求項12に記載の空間確保デバイス。
【請求項1】
心膜腔内に挿入されるガイドチューブ内に収容可能な収縮状態と、ガイドチューブ外に放出されて拡張する拡張状態との間で変形可能であり、かつ、心膜および心臓から受ける圧力に抗して拡張可能な弾発力を発生する弾性材料からなり、
拡張した状態で、心臓表面に開口し、外部から進入可能な空間を内側に形成する形状を有する空間確保デバイス。
【請求項2】
前記心膜を心膜腔側から押圧する心膜押圧部と、
前記心臓表面を心膜腔側から押圧する心臓押圧部と、
これらを心膜押圧部および心臓押圧部を連結する連結部とを備え、
該連結部が弾発力を発生する請求項1に記載の空間確保デバイス。
【請求項3】
前記心膜押圧部が板状に形成され、
該心膜押圧部の前記心膜に接触する側とは反対側の表面に、照明光を反射する反射面が設けられている請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項4】
前記心膜押圧部に、前記空間を前記心膜側に開口させる心膜側開口部が設けられ、
前記心臓押圧部に、前記空間を前記心臓側に開口させる心臓側開口部が設けられ、
前記連結部が、前記心膜押圧部から前記心臓押圧部に向かって漸次広がる環状に形成されている請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項5】
前記連結部が、少なくとも前記心膜押圧部の近傍において、外側に凸の曲面からなる外表面を有する請求項4に記載の空間確保デバイス。
【請求項6】
前記連結部が、少なくとも前記心臓押圧部の近傍において、外側に凹の曲面からなる外表面を有する請求項4に記載の空間確保デバイス。
【請求項7】
前記外表面に、前記心臓押圧部の外縁から前記心膜側開口部の内縁まで延びる1以上の溝を備える請求項5または請求項6に記載の空間確保デバイス。
【請求項8】
前記心臓押圧部が、前記空間の一部を取り囲む略U字状に形成され、
前記連結部に、前記空間内外を連絡する開口部が設けられている請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項9】
前記連結部に、前記空間内外を連絡する開口部が設けられ、
前記心臓押圧部の少なくとも一部に、前記開口部の外側から内側に向かって高くなる傾斜面を備える請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項10】
複数の小片に分割するための複数の分割線を備える請求項1から請求項9のいずれかに記載の空間確保デバイス。
【請求項11】
生体親和性を有する樹脂材料または金属材料により構成されている請求項1から請求項10のいずれかに記載の空間確保デバイス。
【請求項12】
前記心臓押圧部を、前記心臓の表面に吸着させる吸着手段を備える請求項2に記載の空間確保デバイス。
【請求項13】
前記吸着手段が、負圧により心臓押圧部を前記心臓の表面に吸着させる請求項12に記載の空間確保デバイス。
【請求項14】
前記吸着手段が、心臓内または前記心臓押圧部のいずれか一方に設けられる磁石と、他方に設けられる磁石または磁性材料とを備える請求項12に記載の空間確保デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2011−67600(P2011−67600A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119749(P2010−119749)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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