説明

空間電荷バランス制御システム

【課題】構成の簡略化を図り、低コストにて正負のイオン濃度をバランスさせることができる空間電荷バランス制御システムを提供する。
【解決手段】イオナイザにより発生させた正負のイオンを作業領域において捕捉し、正負イオン濃度を検出するアンテナ21及びイオンセンサ22と、これらのセンサ部により検出した正負イオン濃度をバランスさせるように、過剰なイオンの極性とは逆の極性の制御電圧を生成するコントロールユニット23と、前記制御電圧が印加されて前記作業領域における過剰なイオンを吸収し正負イオン濃度をバランスさせるための吸収電極24とを備え、アンテナ21及び吸収電極24を、作業領域30を包囲するように同心円状に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオナイザにより発生させた正負のイオンにより対象物を除電する除電システムにおいて、正負のイオン濃度をバランスさせて作業領域の電位を低電位に保持するための空間電荷バランス制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造工程で使用されるクリーンルームにおいて、電子部品等の耐電を防止するためにイオナイザが使用されている。
図10はこの種のイオナイザの従来技術を示すブロック図であり、後述の特許文献1に記載されているものである。
【0003】
図10において、101はコントローラ、102はパワーアンプ、103はエミッタ(放電針)、104は絶対湿度センサ、105はコンピュータである。
このイオナイザは、被制御空間の絶対湿度が高いほど正イオンが過剰になり易く、絶対湿度が低いほど負イオンが過剰になり易いことに着目したものであり、絶対湿度センサ104により検出した被制御空間の絶対湿度が高い場合には正イオンに対する負イオンの相対的発生量を増加させ、逆に被制御空間の絶対湿度が低い場合には負イオンに対する正イオンの相対的発生量を増加させるようにコントローラ101によりパワーアンプ102を制御し、エミッタ103から発生する正負イオン濃度を制御してイオンバランスを保っている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−94896号公報(段落[0007]〜[0012],図1〜図5等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記イオナイザにおける絶対湿度センサ104は相対湿度センサと温度センサとを組み合わせたものや、露点センサであるが、何れにしても正負イオン濃度を測定する機能を備えていない。
このため、特許文献1の段落[0011],[0017]等に記載されているように、予め室内に1個または複数個のイオンセンサを配置してイオンバランスがとれるようにイオナイザをセットしておき、次いで絶対湿度センサをセットすると共に、絶対湿度とイオンバランスのずれとの関係に応じてフィードバック条件を設定し、以後は絶対湿度の検出値に応じたフィードバック制御によりイオンバランスを保つものであり、定常時には前記イオンセンサを取り外すか設置したままとするものである。
【0006】
このため、上記従来技術では、イオンセンサ及び絶対湿度センサという二つのセンサが必要不可欠であり、装置構成の複雑化やコストの増加を招くという問題があった。
そこで、本発明の解決課題は、センサを単一化して構成の簡略化を図り、低コストにて正負のイオン濃度をバランスさせることができる空間電荷バランス制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、イオナイザにより発生させた正負のイオンを作業領域において捕捉し、正負イオン濃度を検出するセンサ部と、このセンサ部により検出した正負イオン濃度をバランスさせるように、過剰なイオンの極性とは逆の極性の制御電圧を生成するコントロールユニットと、前記制御電圧が印加されて前記作業領域における過剰なイオンを吸収し正負イオン濃度をバランスさせるための吸収電極と、を備えたものである。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に係る空間電荷バランス制御システムにおいて、前記センサ部は、前記作業領域に配置されたアンテナと、このアンテナに接続されて正負イオン濃度に応じた電圧を前記コントロールユニットに出力するイオンセンサと、からなるものである。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項2に係る空間電荷バランス制御システムにおいて、前記アンテナ及び前記吸収電極を、前記作業領域を取り囲むように配置したものである。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項3に係る空間電荷バランス制御システムにおいて、前記アンテナと前記吸収電極との間に、接地電極を配置したものである。
【0011】
請求項5に記載した発明は、請求項3に係る空間電荷バランス制御システムにおいて、前記アンテナ及び前記吸収電極を同心円状に配置したものである。
【0012】
請求項6に記載した発明は、請求項4に記載した空間電荷バランス制御システムにおいて、前記アンテナ、前記吸収電極及び前記接地電極を同心円状に配置したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作業領域において正負イオン濃度がアンバランスになると、アンテナ及びイオンセンサからなるセンサ部により正負イオン濃度のアンバランスに応じた電圧が出力される。コントロールユニットでは、この電圧に応じて過剰なイオンの極性とは逆極性の制御電圧を生成して吸収電極に印加することにより、過剰なイオンが吸収電極により吸収され、作業領域における正負イオン濃度をバランスさせることができる。
このため、除電対象物を低電位に抑え、一方の極性に帯電するのを防止することができる。
また、回路構成上、従来技術のように複数のセンサを用いる必要がないので、構成の簡略化及びコストの低減が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1は、本実施形態に係る空間電荷バランス制御システムの概略的な構成図である。
【0015】
図1において、10は交流式または直流式のイオナイザであり、高電圧ユニット11とエミッタ(放電針)12とを備えている。また、30はイオナイザ10によって除電を行うための作業領域であり、ここでは、LSIやIC等の除電対象物31を除電する場合を想定している。
【0016】
20は、本実施形態の空間電荷バランス制御システムである。
この制御システム20は、作業領域30に配置されてエミッタ12の周囲から除電対象物31方向に送られる正イオン、負イオンを捕捉する導電性のアンテナ21と、捕捉した正負イオン濃度に応じてアンテナ21から出力される過剰イオン電流iISを電圧VICに変換するイオンセンサ22と、その電圧VICに応じた制御電圧VOCを出力するコントロールユニット23と、作業領域30に配置されて前記制御電圧VOCが印加される吸収電極24とから構成されている。
上記構成において、アンテナ21及びイオンセンサ22は、請求項に記載したセンサ部を構成している。
【0017】
この実施形態の動作を説明すると、作業領域30の正負イオン濃度がバランスしている場合、アンテナ21から出力される過剰イオン電流iISはゼロであり、イオンセンサ22を介してコントロールユニット23から出力される制御電圧VOCもゼロであるため、吸収電極24に電圧が印加されることはない。
【0018】
しかし、正負イオン濃度のバランスが崩れ、例えば正イオン濃度が負イオン濃度より高くなったとすると、アンテナ21からは過剰な正極性のイオン濃度に応じた過剰イオン電流iISが流出し、この電流iISはイオンセンサ22により正の電圧VICに変換されてコントロールユニット23に入力される。コントロールユニット23では、上記電圧VICに応じた大きさの負の制御電圧VOCを生成し、この制御電圧VOCを吸収電極24に印加する。
これにより、過剰な正イオンは逆極性の電圧が印加された吸収電極24によって吸収されるため、作業領域30は全体として正負イオン濃度がバランスするようになり、その電位は低電位に保たれることになる。
作業領域30の負イオン濃度が正イオン濃度より高い場合の動作は、上述した動作において極性を逆転させれば良く、容易に推測可能であるため詳述を省略する。
【0019】
次に、図2は上記実施形態の第1実施例を示す構成図である。
この第1実施例は、作業領域30を取り囲むように円環状のアンテナ21及び吸収電極24を同心円状に配置した例である。なお、作業領域30のほぼ中心には、ソケット32が配置されており、このソケット32にLSI等の除電対象物を装着して除電性能の試験を行うように構成されている。
この実施例によれば、作業領域30のイオンバランスを均等かつ高精度に検出し、過剰な極性のイオンを均等に吸収することが可能である。
【0020】
また、図3は実施形態の第2実施例を示す構成図である。
この第2実施例は、アンテナ21と吸収電極24との間の空間に円環状の接地電極25を同心円状に配置した例である。
この実施例によれば、吸収電極24に制御電圧VOCを印加した場合に電界が吸収電極24と接地電極25との間だけに作用するようになり、上記電界によるアンテナ21への悪影響を防止することができる。
【0021】
なお、図2及び図3において、アンテナ21と吸収電極24との位置関係は逆であっても良い。また、アンテナ21及び吸収電極24は、作業領域30を包囲可能であれば円環状に限らず方形(四角形)の枠状であっても良い。
【0022】
図4は、前記第1実施例の回路構成の一例を示す図である。
図4において、アンテナ21に接続されたイオンセンサ22は、MOSFET221,222、抵抗223及びコンデンサ224により構成されている。また、コントロールユニット23は、直流電源231と、ブリッジ回路を構成する抵抗232a〜232dと、反転増幅器を構成するオペアンプ234,237及び帰還抵抗235,238、並びに抵抗233,236とによって構成されている。なお、239は吸収電極24に接続される出力端子である。
【0023】
上記回路では、アンテナ21及びイオンセンサ22により正負イオン濃度のアンバランスを検出すると、MOSFET221,222の出力側に接続されたコントロールユニット23内のブリッジ回路の端子間に電圧VICが生じる。この電圧VICを後段のオペアンプ234,237等からなる反転増幅器により増幅して制御電圧VOCに変換し、この制御電圧VOCを吸収電極24に印加するようになっている。
【0024】
例えば、アンテナ21からイオンセンサ22への入力電流(過剰イオン電流)iISが正の場合、つまり作業領域30に正イオンが過剰である場合には、負の制御電圧VOCを生成して吸収電極24に印加し、入力電流iISが負の場合には、正の制御電圧VOCを生成して吸収電極24に印加するように動作する。
また、帰還抵抗238を可変として増幅率を変化させることにより制御電圧VOCを調整すれば、吸収電極24に吸収されるイオンの量を調整することが可能である。
ここで、イオンセンサ22及びコントロールユニット23の回路構成は、図4の例に何ら限定されるものではない。
【0025】
次に、図5は本実施形態の特性を評価するための試験装置の構成図であり、その基本的な構成は図2と同様である。図5において、26は前記イオンセンサ22及びコントロールユニット23を一体化したユニット、40はチャージプレートモニタ(CPM)、41はそのプローブであり、このプローブ41を除電対象物に見立ててある。また、エミッタ12からプローブまでの距離DEPと、アンテナ21及び吸収電極24の内外径はそれぞれ図示する通りである。
【0026】
上記試験装置を用いて、イオナイザ10の除電特性を以下のように測定した。
まず、プローブ41を±1100〔V〕に充電し、その後、イオナイザ10によってプローブ41が除電される様子をCPM40により測定した。
図6は、プローブ電位V〔V〕と除電時間t〔s〕との関係を示す図である。この試験装置では、プローブ41の静電容量Cが45〔pF〕程度であるため、図6ではプローブ電位Vがほぼ0〔V〕になるまでの除電時間t〔s〕が約50〔s〕となっているが、例えばLSIを除電する場合にはその静電容量が約1〔pF〕であるため、プローブ電位Vがほぼ0〔V〕になるまでの除電時間t〔s〕は1〔s〕程度と考えられる。
【0027】
このようなイオナイザ10を用いて、センサ部(アンテナ21及びイオンセンサ22)の検出特性、吸収電極24のイオン吸収特性、システムの応答特性を評価した結果を図7〜図9に示す。
【0028】
まず、図7はセンサ部の検出特性を示すものであり、イオナイザ10が発生する正負イオンのバランスを変化させて作業領域30の空間電荷濃度を変化させた時の、プローブ電位V〔V〕とユニット26から出力される制御電圧VOC〔V〕との関係を示している。
この図7において、プローブ電位Vが−10〔V〕〜+10〔V〕の範囲では制御電圧VOCがほぼ直線状に変化しており、正負イオンのアンバランスに起因するプローブ電位Vに応じたセンサ部の検出出力により、所定の制御電圧VOCが吸収電極24に印加されていることが判る。なお、プローブ電位Vの絶対値が10〔V〕以上になると、センサ部の特性の飽和によって制御電圧VOCは一定値となる。
【0029】
図8は、吸収電極24のイオン吸収特性を示すものであり、吸収電極24に印加される制御電圧VOCを−10〔V〕〜+10〔V〕の範囲で変化させた時のプローブ電位V〔V〕を示している。
この図8によれば、制御電圧VOCを変化させて吸収電極24による正イオンまたは負イオンの吸収量を制御し、正負のイオンバランスを制御することができ、結果としてプローブ電位Vを制御できることが判る。
【0030】
図9は、システムの応答特性を示すものであり、プローブ電位Vが−10〔V〕または+10〔V〕となるようにイオナイザ10が発生する正負イオン濃度をアンバランス状態として本システムを動作させ、プローブ電位V〔V〕と経過時間t〔s〕との関係を測定した。
図9によれば、プローブ電位Vが±5〔V〕以内になるまでの時間(応答時間)はほぼ10〜20〔s〕程度であり、一般にイオナイザが生成する正負イオンのバランスが短時間で急激に変化することはないので、上記の応答時間は実用上、十分な値であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る空間電荷バランス制御システムの概略的な構成図である。
【図2】実施形態の第1実施例を示す構成図である。
【図3】実施形態の第2実施例を示す構成図である。
【図4】第1実施例の回路構成の一例を示す図である。
【図5】実施形態の特性を評価するための試験装置の構成図である。
【図6】図5の試験装置によるプローブ電位と除電時間との関係を示す図である。
【図7】図5の試験装置におけるセンサ部の検出特性を示す図である。
【図8】図5の試験装置における吸収電極のイオン吸収特性を示す図である。
【図9】図5の試験装置によるプローブ電位と経過時間との関係を示す図である。
【図10】従来技術の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0032】
10:イオナイザ
11:高電圧ユニット
12:エミッタ
20:空間電荷バランス制御システム
21:アンテナ
22:イオンセンサ
23:コントロールユニット
24:吸収電極
25:接地電極
26:ユニット
30:作業領域
31:除電対象物
32:ソケット
40:チャージプレートモニタ
41:プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオナイザにより発生させた正負のイオンを作業領域において捕捉し、正負イオン濃度を検出するセンサ部と、
このセンサ部により検出した正負イオン濃度をバランスさせるように、過剰なイオンの極性とは逆の極性の制御電圧を生成するコントロールユニットと、
前記制御電圧が印加されて前記作業領域における過剰なイオンを吸収し正負イオン濃度をバランスさせるための吸収電極と、
を備えたことを特徴とする空間電荷バランス制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載した空間電荷バランス制御システムにおいて、
前記センサ部は、前記作業領域に配置されたアンテナと、このアンテナに接続されて正負イオン濃度に応じた電圧を前記コントロールユニットに出力するイオンセンサと、からなることを特徴とする空間電荷バランス制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載した空間電荷バランス制御システムにおいて、
前記アンテナ及び前記吸収電極を、前記作業領域を取り囲むように配置したことを特徴とする空間電荷バランス制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載した空間電荷バランス制御システムにおいて、
前記アンテナと前記吸収電極との間に、接地電極を配置したことを特徴とする空間電荷バランス制御システム。
【請求項5】
請求項3に記載した空間電荷バランス制御システムにおいて、
前記アンテナ及び前記吸収電極を同心円状に配置したことを特徴とする空間電荷バランス制御システム。
【請求項6】
請求項4に記載した空間電荷バランス制御システムにおいて、
前記アンテナ、前記吸収電極及び前記接地電極を同心円状に配置したことを特徴とする空間電荷バランス制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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