説明

突合わせ溶接機の後加熱装置及び誘導加熱コイル装置

【目的】 ストリップ溶接部の熱処理品質を向上させる。
【構成】 ストリップ2の各切断端面の突き合わせ溶接後にこの溶接部3を指向して後加熱(焼鈍)を行うコア部1b及びコイル部1aを備えた誘導加熱コイル装置において、コア部1bと溶接部3近傍のストリップ2との間隙に耐熱絶縁性スペーサ1cを配し、熱応力により生じるストリップ2の変形をこの耐熱絶縁性スペーサ1cで抑えるようにした。
【効果】 上記間隙が常にほぼ一定に保たれるので、溶接部3の温度ムラを防止することができ、焼鈍が適切に行われる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、薄板鋼板(ストリップ)の突合わせ溶接機に係り、特に、溶接部の後加熱(焼鈍)を行うための後加熱装置及び誘導加熱コイル装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、対をなす被溶接部材の各切断端面を突き合わせ、レーザービーム溶接等によりこれら部材の板継ぎを行う場合は、溶接部のマルテンサイト変態による後工程での板割れを防止するため、溶接機に別途誘導加熱コイル装置を設け、溶接完了後にその溶接部の焼鈍を行っている。
【0003】図5は従来の突合わせ溶接機の主要部構成図であり、10は誘導加熱コイル装置、10aはコイル部、10bはコア部、11,12は被溶接部材たる第一,第二ストリップ、13はこれらストリップ11,12の突合わせ部分(溶接部)、14a及び14bは第一ストリップ11を上下からクランプする上クランプ及び下クランプ、15a及び15bは第二ストリップ12を上下からクランプする上クランプ及び下クランプ、16は第一ストリップ11の裏当てを行う第一の裏当て部、17は第二ストリップを裏当てする第二の裏当て部を表す。
【0004】この溶接機で板継ぎを行うときは、各ストリップ11、12を一対の上下クランプ14a,14b、15a,15bでクランプするとともに、その切断端面を突き合わせ、この突き合わせ部分(溶接部)13に図示を省略したビーム加工トーチからレーザービームを照射して溶接を行う。その後、図5に示すように、溶接部13を誘導加熱コイル装置10で加熱し、焼鈍を行う。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、焼鈍のような熱処理を行う場合は熱応力によるストリップ11,12の変形が問題となる。
【0006】即ち、図6(a)に示すように、第一の裏当て部16と第二の裏当て部17との間隔が誘導加熱コイル装置10の幅Wの影響でセンター位置から離れると、板継ぎされたストリップの一部が熱応力により図6の破線で示す形状に変形し、誘導加熱コイル装置10との間隙が狭くなる。この間隙が狭くなった部分では誘導電流による発熱量が多くなるため、溶接部13の温度分布が不均一となり、ストリップ幅方向の側面図である図6R>6(b)に示すように、波状のしわが発生する。その結果、上クランプ14a,15aと各裏当て部16,17あるいは下クランプ14b,15bとの間でストリップが局部的に押し付けられながら接触するようになり(図中○で示した部分)、この接触部分を介してストリップからクランプ14a等に熱が伝導して波の振幅をますます大きくしていく。
【0007】この問題は、第一及び第二ストリップ11,12が薄くなるにつれて顕著になり、また、クランプ14a,14b,15a,15bや各裏当て部16,17がレーザーウェルダの板押え用としても用いられている場合は、伝導した熱による変形を生じるので、重大である。
【0008】本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、焼鈍時のストリップ変形を防止し、溶接部の熱処理品質を向上させることのできる突合わせ溶接機の後加熱装置及び誘導加熱コイル装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明では、対をなす被溶接部材の各切断端面の突き合わせ溶接後にこの溶接部を指向して後加熱を行う誘導加熱コイル装置と、前記被溶接部材の一方をクランプする第一の上下クランプと、前記被溶接部材の他方をクランプする第二の上下クランプとを少なくとも備えて突合わせ溶接機の後加熱装置を構成し、誘導加熱コイル装置で溶接部の後加熱を行うときは、前記被溶接部材から第一の上下クランプと第二の上下クランプとを交互且つ周期的に開放するようにした。
【0010】本発明では、また、対をなす被溶接部材の各切断端面の突き合わせ溶接後にこの溶接部を指向して後加熱を行う加熱部を備えた誘導加熱コイル装置において、前記加熱部と溶接部近傍の被溶接部材との間隙に耐熱絶縁性スペーサを配し、熱応力により生じる前記被溶接部材の変形をこの耐熱絶縁性スペーサで抑えるようにした。
【0011】なお、前記耐熱絶縁性スペーサの前記被溶接部材と対向する面部には、複数の溝を形成している。
【0012】
【作用】突合わせ溶接機の後加熱装置で第一及び第二の上下クランプを共にクランプした状態では、これら上下クランプにより熱が遮られるため、被溶接部材に島状の温度上昇点が生じる。ここで一方の上下クランプを開放すると、この島状の温度上昇点の一方がつながり始め、次に他方の上下クランプを開放すると温度上昇点の他方もつながり始める。したがって、上下クランプを交互且つ周期的に開放とクランプとを繰り返すことで部分的に生じる低温部は伝熱により徐々に昇温し、被溶接部材が均熱される。
【0013】また、誘導加熱コイル装置の加熱部と溶接部近傍の被溶接部材との間隙に配された耐熱絶縁性スペーサが、加熱時に生じる被溶接部材の応力を抑えるので、被溶接部材の変形が抑制される。なお、このスペーサの面部に形成された複数の溝を介して被溶接部材に熱が伝わるとともに、被溶接部材からスペーサへの熱伝導が軽減されるので、スペーサによる被溶接部材の温度低下が防止される。
【0014】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0015】(第一実施例)本発明の第一実施例は、図5R>5に示した従来の突合わせ溶接機における誘導加熱コイル装置10の構造を改良したものである。
【0016】図1は本実施例の誘導加熱コイル装置を含む突合わせ溶接機の主要部構成図であり、1は誘導加熱コイル装置、1aはコイル部、1bはコア部、1cはスペーサ、2は板継ぎされたストリップ、3はその溶接部を示す。
【0017】また、14a及び15aは一対の上クランプ、16,17は第一及び第二の裏当て部であり、これらは従来と同一のものである。
【0018】スペーサ1cはストリップ3の板幅方向に延びるセラミック等の耐熱絶縁性部材からなる棒体で、その一方の側端部をコイル部1aと接触しながらコア部1bと一体にモールドし、他方の側端部の表面部をストリップ2と対向させるとともに、その表面部と第一及び第二の裏当て部16,17の裏当て面とが同一平面に含まれるように構成する。また、この表面部に溶接部3に沿って保護溝1dを形成し、溶接部3との接触を防止している。更に、ストリップ3の板厚が薄い場合は、この表面部に複数の溝1eを形成し、ストリップ3との接触可能面積を小さくしている。
【0019】この誘導加熱コイル装置1で溶接部3の焼鈍を行う場合は、スペーサ1cの表面部がストリップ2に軽く触れる程度の押さえ付け状態とし、コイル部1aでコア部1bを発熱させる。これによりストリップ2及び溶接部3が加熱され、熱応力により変形しようとするが、スペーサ1cによりその変形が抑えられるので、誘導加熱コイル装置1とストリップ2との間隙がほぼ一定の状態を保つようになる。したがって、ストリップ幅方向の温度分布も均一となり、図6(b)に示したような波状のしわの発生が大幅に抑制されるとともに、その振幅の増大が防止される。これにより、溶接部3の熱処理品質が従来に比べて格段に向上する。
【0020】なお、スペーサ1c自体がコイル部1aにより加熱されるとともに、その表面部に形成された複数の溝1eにより加熱時のストリップ2との接触面積が小さくなるので、スペーサ1cによるストリップ2の温度低下が軽減され、熱効率が良くなる。
【0021】(第二実施例)本発明の第二実施例は、第一実施例の誘導加熱コイル装置1の構成を一部代えたものである。以下、異なる構成部分についてのみ説明する。
【0022】図2は本実施例の誘導加熱コイル装置を含む突合わせ溶接機の主要部構成図であり、4は誘導加熱コイル装置、4aはコイル部、4bはコア部、4c,4dはスペーサを表す。
【0023】本実施例では、コア部4bとストリップ2との間隙に板状の一対の耐熱絶縁性スペーサ4c,4dを配し、これらの一方の端部を各々コイル部4aと接触しながらコア部4bと一体にモールドし、各他方の端部の表面部をストリップ2を介して各々一対の上クランプ14a,15aと対向させるとともに、その表面部と第一及び第二の裏当て部16,17の裏当て面とが同一平面に含まれるように構成している。そして、加熱時にはこれらスペーサ4c,4dの表面部と各上クランプ14a,15aとでストリップ2を強固に押さえ付けるようにした。
【0024】このような構成の誘導加熱コイル装置4は、加熱時の熱応力の大きな厚板のストリップ2の後加熱により適し、第一実施例と同様、加熱時におけるストリップ2の変形がスペーサ4c,4dにより抑えられ、上記間隙がほぼ一定に保たれるとともに、スペーサ4c,4dとストリップ2との接触面積が小さいので、低温部が速やかに伝熱により昇温され、ストリップ2の均熱が図られる。これにより、溶接部3の熱処理品質を向上させることができる。
【0025】(第三実施例)図3は本発明の第三実施例に係る突合わせ溶接機の後加熱装置の主要部説明図であり、対をなすストリップ5a,5bの板継ぎ後に溶接部5cを指向して後加熱を行う誘導加熱コイル装置6と、ストリップの一方5aをクランプする第一の上下クランプ7a,7bと、ストリップの他方5bをクランプする第二の上下クランプ8a,8bとを少なくとも備えて構成している。
【0026】この後加熱装置で溶接部5cの後加熱を行うときは、図示を省略した制御装置で、第一の上下クランプ7a,7bと第二の上下クランプ8a,8bとを交互且つ周期的に各ストリップ5a,5bから開放する。
【0027】例えば、図3に矢示したように、当初、第二の上下クランプ8a,8bを開放し、第一の上下クランプ7a,7bのみでストリップの一方5aを10秒間クランプした後、第一の上下クランプ7a,7bを開放するとともに第二の上下クランプ8a,8bでストリップの他方5bを10秒間クランプする。これを繰り返すと、開放された側のストリップの温度が上昇し易くなり、溶接部5cを含むストリップの温度が速やかに均熱される。
【0028】図4(a)〜(d)は本実施例による板継ぎ後のストリップの温度状態推移図で、7asは第一の上クランプ7aの先端位置、7bsは第一の下クランプ7bの先端位置、5csは溶接部5c位置、8asは第二の上クランプ8aの先端位置、8bsは第二の下クランプ8bの先端位置を表す。
【0029】図4(a)に示すように、第一及び第二の上下クランプ7a,7b,8a,8bをいずれもクランプした状態で加熱を始めたときは溶接部5cを中心に島状の高温部が形成されるが、ここで例えば第二の上下クランプ8a,8bを開放すると、(b)に示すように、この高温部の一方がつながり始める。更に、第一の上下クランプ7a,7bを開放すると、(c)に示すように、高温部の他方もつながる。但し、この時点ではまだ低温部が点在するが、各上下クランプ7a,7b,8a,8bの開放とクランプとを交互に繰り返すことで矢示方向に熱伝導が行われ、低温部が徐々に昇温する。これにより、(d)に示すように、溶接部5c近傍の温度が徐々に均一化される。
【0030】したがって、図6(b)に示したような波状のしわの発生が大幅に抑制されるとともに、その振幅の増大が防止される。
【0031】
【発明の効果】以上、説明したように、本発明の突合わせ溶接機の後加熱装置では、溶接部の後加熱(焼鈍)を行うときは、対をなす被溶接部材の各々をクランプする第一の上下クランプと第二の上下クランプとを交互且つ周期的に開放するようにしたので、被溶接部材から各上下クランプへの熱伝導が抑制されるので熱効率が上昇するとともに、溶接部を含む被溶接部材の温度分布が速やかに均一化され、溶接部の熱処理品質が従来のものに比べて格段に向上する効果がある。これにより、搬送中あるいは後工程における板割れを防止することができる。
【0032】また、本発明の誘導加熱コイル装置では、加熱部と溶接部近傍の被溶接部材との間隙に耐熱絶縁性スペーサを配し、後加熱時に被溶接部材に生じる応力をこの耐熱絶縁性スペーサで抑えるようにしたので、上記間隙がほぼ一定の状態を保つようになり、被溶接部材に発生する波状のしわが大幅に抑制されるとともに、その振幅の増大が防止され、溶接部の熱処理品質が従来のものに比べて格段に向上する効果がある。これにより、搬送中あるいは後工程における板割れを防止することができる。
【0033】なお、上記誘電加熱コイル装置の耐熱絶縁性スペーサの被溶接部材と対向する面部に複数の溝を形成したので、加熱時の被溶接部材との接触面積が小さくなり、熱効率の上昇が図れる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施例の誘導加熱コイル装置を含む突合わせ溶接機の主要部構成図である。
【図2】本発明の第二実施例の誘導加熱コイル装置を含む突合わせ溶接機の主要部構成図である。
【図3】本発明の第三実施例に係る突合わせ溶接機の後加熱装置の主要部説明図である。
【図4】本発明の第三実施例による板継ぎ後のストリップの温度状態推移図である。
【図5】従来の突合わせ溶接機の主要部構成図である。
【図6】従来の突合わせ溶接機による問題点説明図であり、(a)は主要部正面図、(b)はその側面部拡大図である。
【符号の説明】
1,4,6,10…誘導加熱コイル装置、1c,4c…耐熱絶縁性スペーサ、2,11,12,5a,5b…ストリップ(被溶接部材)、3,13,5c…溶接部、7a,7b,8a,8b…上下クランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 対をなす被溶接部材の各切断端面の突き合わせ溶接後にこの溶接部を指向して後加熱を行うための誘導加熱コイル装置と、前記被溶接部材の一方をクランプする第一の上下クランプと、前記被溶接部材の他方をクランプする第二の上下クランプとを少なくとも備え、誘導加熱コイル装置で溶接部の後加熱を行うときは、第一の上下クランプと第二の上下クランプとを交互且つ周期的に開放するようにしたことを特徴とする突合わせ溶接機の後加熱装置。
【請求項2】 対をなす被溶接部材の各切断端面の突き合わせ溶接後にこの溶接部を指向して後加熱を行う加熱部を備えた誘導加熱コイル装置において、前記加熱部と溶接部近傍の被溶接部材との間隙に耐熱絶縁性スペーサを配し、熱応力により生じる前記被溶接部材の変形をこの耐熱絶縁性スペーサで抑えるようにしたことを特徴とする誘導加熱コイル装置。
【請求項3】 前記耐熱絶縁性スペーサの前記被溶接部材と対向する面部に複数の溝を形成したことを特徴とする請求項2記載の誘導加熱コイル装置。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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